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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory49 『暗号名<コードネーム>C』


第七ピリオド、スピードレーシング……スタービルドストライクがトップを取った。

そこで襲ってきた攻撃に対し、恭文さんのガンプラが助け船を出す。


『おぉっとこれはぁ! カテドラル、最後方からの射撃で、スタービルドストライクとバクゥタンク以外のガンプラを撃破したぁ!』


そっか、友達だものね。やっぱりちゃんと、正々堂々レースで勝ちたいから。


『うわぁ……あのおチビちゃん、やっぱエグいわぁ』


なのにミホシさんは、苦笑気味にカテドラルを見やる。


『スタービルドストライクが粒子チャージできないよう、手助けした奴らは皆殺しって』

「え……!」

『キララちゃん、というと』

『あの盾でビーム粒子を吸収して、そのエネルギーで必殺技を発動……そういう流れなのは、もう皆様御存じの通り。
つまりスタービルドストライクは”あえて”前に出て、集中砲火を浴びたかったのよ』

『なるほど……ビーム攻撃ならば盾で防いで吸収! 実弾だとしても、レイジ選手のマニューバならば回避可能! となれば』


そう、となれば……恭文さんが攻撃した相手を、どんどん撃ち抜いていったのは。


『溜(た)めたエネルギーは翼にして、独走状態へ入るってわけ。それを阻止したのよ』

「そん、な……」


イオリくん達を妨害するため……!? これじゃあスタービルドストライク、あの翼とか……砲撃も使えないのに!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そう、セイとレイジの作戦は見てもらった通り……後続からのビーム攻撃を防ぎつつ、粒子をチャージ。

それであの翼を出して、一気に独走状態へ入ろうって話よ。でもなぁ……本人達にも言ったけど、手が読みやすいって。


「……さて、今のは大体二割ってところかな。せめて一割程度に抑えられたら」

「仕方ないよ、みんな世界大会出場者なんだし……まぁそれなら、ビームじゃない方をお願いしたかったね!」

「レース中心で考えていたし、仕方ないよ」

「でも恭文、よかったの?」


機体の出力制御に回っているりんが、小首を傾(かし)げていた。

……僕が躊躇(ためら)いなく、ディスチャージを邪魔したのが疑問らしい。


「全力勝負しても」

「よかったんだけどね。でもほら、一応コーチ役だし」

「駄目なことは叱るわけか」

「そういうこと。この辺りはレイジだけじゃなくて、セイの弱点でもあるね」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「あお?」

「セイさんも温厚そうに見えますが、実のところかなりの突撃思考。男の子らしいと言えばそうなのでしょうが」


そう……セイさんとレイジさんには、バディとして大きな弱点がある。

ある意味ではほほ笑ましいのですけど……それだけに留(とど)められないのが辛(つら)くて、ついこめかみをグリグリ。


「ですがそれゆえに、レイジさんが短慮を起こしても止められない。……第二ピリオド、ルワン・ダラーラさんにやられたように」

「あお……!」

「レイジは”腕だけ世界級”とも言える奴だ。ガンダムやガンプラ、バトルの総合的な知識、経験は初心者だからなぁ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「本来であれば、セコンドのセイ君が手綱を握って、バトルの流れを制御するべきよ」

「今よりも強くってことよね」

「えぇ」

「だから第二ピリオドみたいなことも起こるし、戦略上のミスがあってもそのまま押し通すわけですね」


今回はお留守番なリイン……突き抜けるスタービルドストライクを見ながら、つい肩を竦(すく)めるです。


「もちろんそれゆえの相乗効果もあるし、爆発力という点ではプロデューサー達以上だとも思うのだけど」

「そうね……あの子達もあむと同じ。何かを動かして、突き抜けるパワーがあるわ。
千早さんが言う欠点も分かるけど、大事なのはそこじゃないかしら」

「……確かにね」


さて、ここからはどうなるですかね。恭文さんもコーチ役として”お仕置き”したから、簡単にはいかないですよ。

でも何だろう……嫌な予感もしているです。上手(うま)く言えないけど、底冷えするような予感が。




魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory49 『暗号名<コードネーム>C』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


イオリくん達は何とかトップを独走。あの翼は途中で消したけど、距離も半分以上離した。

それであの……バクゥの改造機体と、カテドラルっていう白金の機体は、競り合うように追いかけていく。

でもそこで……気になることが一つ。あのバクゥから、小さなパーツがぽろぽろと零(こぼ)れていくの。


ううん、それは恭文さんのカテドラルも。

シールドに隠れた左手から、何か……黄色いものが、ぽろぽろと零(こぼ)れていく。

何だろう、故障かな。イオリくん達が速すぎて、無理をしているとか。


それを直視したいけど、カメラは進むイオリくん達を、追いかける二体のガンプラをトレースしていて、ここからじゃよく見えない。


『スタービルドストライク、早くも一週目をクリア! 二週目の第一カーブを抜け、トンネルへ突入!』

『途中妨害して正解だったわね。これでフルチャージなんてされてたら、マジで追いつけないわよ』


そ、それはいいのかなぁ。レースなんだし、そもそも攻撃って……ううん、大丈夫。

イオリくん達なら……妨害があっても、あんなに突き放したんだから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ディスチャージは残り十パーセントでカット。これで一周全ては無理……使うとしたら、後半のラストスパート。

あの、序盤の妨害さえなければ……! いや、僕が迂闊(うかつ)だった!

準備したものだってあったのに、レイジの腕と作戦を過信しすぎたんだ!


「レイジ、慎重に……でも慌てず急いで!」

「分かってるよ! コースはお前に言われたとおり、しっかり予習したからな!」


そう、コースの中身についても、事前に通知されていた。

単なるぱっと見じゃなくて、難所と言われるポイントとか……体感距離とか。

そういう詳細なデータも込みで、それを読み込んだ上でみんな挑んでいる。


だからレイジのマニューバはいつもより繊細で、大胆。内角ギリギリを攻めつつ、常に最高速度で駆け抜けてくれる。

それに安堵(あんど)していた。してしまった……さっき、散々やられたばかりなのに。


大型トンネルのくねった内部、それを突き抜け、もうすぐ出口というところで。

スタービルドストライクの真下から、突如散弾と炎が襲いかかった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


イオリくん達がトンネルを抜けかけた瞬間……その真下から爆発が発生。

その衝撃でトンネルが崩落し、スタービルドストライクは爆炎と硝煙に包まれ、消えてしまった。


「イオリくん!」

『おぉっと! これはどういうことだぁ!? スタービルドストライクがトンネルを抜ける直前で、いきなりの爆発!』

『ちょっとごめん! 一週目……カテドラルとバクゥタンクが、トンネルを抜ける直前の映像、出せる!?』

『え……あ、はい! 映像出ます!』


それでわたしも気づいた、ぽろぽろと零(こぼ)れるものがクローズアップされる。

それは平べったい円盤型のパーツと、粒子でできた球体達で。

しかも球体達に至っては、地面と同化して消えてしまう。円盤型のパーツも、なぜか砂嵐みたいなのに包まれて消える。


映像が早送りされて、スタービルドストライクがその真上を通過。

……その瞬間爆弾からは炎が生まれ、コンクリートが散弾に変質・射出された。


『やっぱり! 爆弾よ、これ!』

「爆弾!?」


ミホシさんが答えを出したところで、硝煙からスタービルドストライクが飛び出してくる。


ホッとしてしまうけど、すぐに寒気が襲ってきた。

……奇麗に塗装された装甲、その三割ほどが焼けただれ、ひび割れていた。

左目が撃ち抜かれ、左サイドスカートは全損。シールドもぼろぼろ。


邪魔だと判断したのか、シールドはすぐ投げ捨てられた。


『スタービルドストライク、無事……とは行かないが、脱出! しかしその間に、差が幾分か縮められたぁ!』

『もっと縮むわよ、これから』


ミホシさんの言う通りだった。

スタービルドストライクが直進するたび、爆弾と散弾が襲う。

何とかそれをすり抜けていくけど、炎が、散弾がボディを掠(かす)め、新しいヒビを作っていく。


そうして速度が緩んだところで、カテドラルとバクゥタンクは加速。差を少しずつ……少しずつ縮めてくる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


爆発と散弾の猛攻は続く。レイジも何とか回避行動を取るけど……くそ、全部は避けきれない!

でも設置箇所の予測は可能! 二体が辿(たど)ったコース、そこから逆算すれば……!


「くそぉ……セイ、位置はまだ分からないのか!」

「もう少し! ……レイジ、前!」


そこで微弱なエネルギー反応。


爆炎の中、前方から突き出されてくるもの……それをレイジは左バレルロールで回避。

そう、それは鋭い杭(くい)だった。コンクリの杭(くい)が突き抜け、ビームライフルを撃ち抜きへし折ってしまう。


更に右サイドスカートを掠(かす)め、設置していたビームサーベルを弾(はじ)き落とす。


「クソ、ライフルと最後のサーベルが!」

「あの野郎ども……! やってくれるじゃねぇか!」


そして回避先――背にしていた箇所から爆発。

それにユニバースブースターを焼かれながらも、乱れる軌道。

レイジはアームレイカーを走らせ、それを立て直しながら突き進む……進み続ける。


だから僕も必死に指を動かし、コースの逆算を完了。


「よし……できた! レイジ、このラインから外れる形で進んで!」


再計算したルートを表示し、レイジのサブウィンドウに展開。


「分かった!」


途中にある池をホバリングで跳び越え、スラロームを越え、最終カーブ……!

レイジはラインを避けるけど、それでも爆発と散弾は続く。

でも、さっきみたいな直撃コースすれすれじゃない。どうやら通過判定のラインを、かなり広く取っているみたい。


これならまだいける。問題は最短コースのラインを、強引に取られていること。

このままだと間違いなく、距離を詰められること。いや、まだだ。


三週目……あの池をもう一度越えたところで、もう一度ディスチャージすれば!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


≪Course Change≫

『おっと! 爆発によって崩落したトンネルが使えなくなったので』


崩落したトンネル、その上へと抜けるルートが、半透明なガイドラインで示される。


『新しいルートが表示されました! 各選手は案内に従い、レースを進めてください!』

『そうこうしている間に、スタービルドストライクが二週目クリア! 二位・三位との距離、およそ五〇〇メートル!』


イオリくん達は……まだ爆発と散弾の雨に晒(さら)され続けていた。

他の二人は、そうして生まれた荒れ地を悠々自適と進んでいるのに……!


『しかしキララさん、あれは』

『スタービルドストライクが通過するのを見こして、迷彩機能つきの爆弾をセットしたのよ。
あの粒子の球は、恐らくカテドラルの粒子制御能力……ようはマーキングよ。ほら、そもそもの話、バトルフィールドも粒子でできているから』

『そう言えばチームとまとが出したフェイタリーは、フィールドの粒子を変質し、メイスを形作りましたね』

『カテドラルも同じ能力を備えている。だから……これはヤバいわねー』


そんな、爆弾なんて……ガンプラバトルって、正々堂々、全力をぶつけ合うもののはずなのに!

それなのに、これじゃあ……。


「イオリくん達がちゃんと戦えない! これ、卑きょうなんじゃ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「いいえ、卑きょうでも何でもありません。これはガンプラバトル――何でもありのバーリトゥードですもの」


恭文さんが楽しそうで、あおもあきれ顔。そんな中、つい呟(つぶや)いていた。


「それを言えば序盤にクリアファンネルを使ったアイラ・ユルキアイネンやら、ガーベラサーフィンで敵機を切り裂いたミスタージオウはどうなるのか」

「だがまぁ、言いたくなる気持ちは分かるぜ。……見ろよ、ヤスフミの顔を」

「あおー」


……フェリーニさんの仰(おっしゃ)りたいことも、よーく分かります。

さっきも言いましたが、楽しそうなんです。本当に……心の底から!


「あの方、どうなってますの!? 今までのバトルで一番生き生きしてますわよ!」

「知らなかったのか? ヤスフミの得意なゲームには……マリオカートが入っている」

「どういうことですのー!」

「おー?」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「更に言えばスタービルドストライクは、先行しすぎたとも言える。それもまたミスジャッジだ」


ミスタージオウはそう言いながら、笑って見続けていた。

決して嘲笑ではない。だが笑顔で……傷つきながらも進む、スタービルドストライクを。


「蒼い幽霊とレナート兄弟がデッドヒートを繰り広げているのは、お互い『隙(すき)を見せたくない』が故。
見せれば後ろからの攻撃を許すし、かと言って離れすぎれば」

「そう、彼らのようになる」


彼らの速度は大したものだが、今の状況はこうも例えられる。二組の遥(はる)か後方から追いかけている……とね。


「ならばマリオカートでバナナを置くが如(ごと)く、爆弾を設置するのも有効な手段だ」

「で、本音は?」

「全く気に食わん!」


これに限っては全力で言い切ったところ。


「……と、毎回バナナに引っかかる男が仰(おっしゃ)っているわけだが」


アランから鋭いツッコミが返ってきた。


「待てアラン! そんなことはない……私は、十回に八回程度だ!」

「じゃあ八回なら毎回っつーことだな。そりゃ負け惜しみだろ、暫定メイジン」

「ミスタージオウも誤解しないでいただきたい! アレはその……置き方が……いろいろと巧妙なんだ!」

「「あんなふうに?」」

「そう!」

「「つまり負け惜しみ」」

「違う!」


そうだ、恭文さんやリインちゃん、ヤナの置き方が……! 僕のコースを尽く先読みしておいてくるんだ!

だからあれだぞ!? 去年のスピードレーシングも怖かったんだよ! 攻撃禁止で助かったけどね!


だから……その目はやめてくれぇ! そうだよ、負け惜しみだよ! でも怖いんだよ、毎回スリップは!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


こっちも三週目へ突入――。

さすがに、地雷原を飛び続ける馬鹿はしないか。ガキにしてはよくやる。


「しっかし痛快だなぁ! まさかオレらと同じことを考えていたとはよぉ!」

『マリオカートでは普通でしょ?』

「はははは、そうだな!」


なお弟<フリオ>は、蒼い幽霊と雑談まで始めた。どうやら気に入ったらしい。


「フリオ、よそ見をするな」

「分かってるよ。んじゃあ、なれ合いはなしで……そろそろつぶし合おうか」

『負けたら一杯奢(おご)ってあげるよ』

「ミルクでいいぜ。酒は高いからなぁ」


雑談……と呼べるほどの会話ではないが、とにかく通信は終了。

さて、四〇〇メートル……距離としては相当デカいが、池に仕掛けた”アレ”が発動すれば、あっという間に覆される。


「兄貴」

「オレはスコッチにしておくさ」

「おう!」


蒼い幽霊……お遊びの奴らとはひと味違う。粒子制御能力もさることながら、その使い方も年季が入っている。

弟ほどではないが、俺も気に入ってきた。……だからこそ楽しいんだがな。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


三週目――さすがに爆弾攻撃は鳴りを顰(ひそ)めてきた。

まぁ序盤で、雨あられの如(ごと)くだったからなぁ。さすがに弾切れ?

でも弾切れじゃないのもあって……散弾については、粒子が弾薬みたいなものだから。


これがカテドラルの能力とすると、フェイタリーはそのコピーというか、リスペクト機体?

……だったらカテドラルは、あれ以上の力があるに違いない。今は小出しにしているも同然だ。


「よっしゃ……池だ!」

「そこを越えたら、すぐディスチャージ!」

「おう!」


それで差を更に付けて……二体との距離は三〇〇メートルを切った。

でも更に開ける……開いてみせる! そう思いながら湖畔の淵(ふち)に入ると、突如眼前に水柱が走る。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


スタービルドストライクが水辺に踏み込んだ……その瞬間。


「フリオ」

「起爆!」


二週目の通過時、最下部に仕込んでおいた『超大玉(おおたま)』を起爆。

それはリアルに置いても忌むべき兵器。その廃絶は進んでいるものの、未(いま)だ数多く残っている。

それはガンダム劇中においても……ターンエーなどが活躍する時代でも、危険視される存在。


全てを灰燼(かいじん)に帰し、命を細胞から蝕(むしば)む毒。……見てるか、暫定メイジン。

これは俺達の宣戦布告だ。お前の……お前達の甘っちょろいバトルは、”戦争”の前に敗北するんだよ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そこから飛び出した触手が絡みつき、抵抗する間もなく一気に水中へ引きずり込まれてしまう。


更に電撃が放たれ、装甲とフレーム各部にダメージが入った。


「機体が引っ張られている……!? おい、なんだよ”コイツ”は!」

「馬鹿な!」


それはジオングの改造機体だった。脚部から三本の巨大触手が伸びて、こちらを戒めている。

左胸に”C”のマークが付いた、オリジナル塗装の改造ガンプラ。それば僕達の行く手を阻んでいた。

各部に入る強烈なダメージ。すぐ振りほどかないと……そう思っていると、海底部からエネルギー反応が生まれる。


小さく、瞬くようなそれは、一気に膨張。


そして爆発し、僕達を……改造ジオングを飲み込んだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


さぁ一体何をするのかと思っていたら、スタービルドストライクが池に引きずり込まれた。

その上で池ごと大爆発! まぁコースが池を中心に、三分の一ほど吹き飛んでいるけど……問題ないね!


だってこの状況でアイツら、負けちゃったんだから! それがもう嬉(うれ)しくて、笑って拍手!


「おぉ、凄(すご)い凄(すご)い! ベイカーちゃん、ガンプラマフィアってやるねぇ!」

「……いえ」

「いえ?」

「あんなのは、聞いていません」

「……え」


またまた……そう思っていたら、ベイカーちゃんが顔面蒼白(そうはく)。


「手順では、Cのガンプラを用い池へ引きずり込み、そのまま破壊と」

「いや、だから爆発」

「自分もろともとは聞いていません!」

「え……!」


じゃあ、何? 自爆したの? いや、それにしちゃああの爆発、大きすぎるよ。キノコ雲も出ているし……じゃあ、アレって。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


地下に存在する<GBWC SYSTEM ROOM>

そこでアタッシュケースを開き、簡易型のバトルシステムを展開する男。

……画面の中に映るスタービルドストライクの姿と、それを戒める改造ジオング。


それを見て、全てを察し……脇から突撃する。


「なんだ、これは……何が」


動揺する男に体当たりし、バトルシステムから離れてもらう。

その上で右足でのスタンプキック。システムの中枢部を踏みつけ、粉砕。

こういうとき、若い頃よりぽっちゃりした体が有り難い。


……あっと言う間に装置が止まったからな。


「ぐ……」

「貴様、一体何をしている!」

「青い……巨星」


装置から足を外し詰め寄ろうとすると、奴は懐から黒い銃を取り出す。

咄嗟(とっさ)に動きが止まると、奴は発砲。

銃弾が右脇を掠(かす)め、装置の一部に着弾。火花を走らせながら、穴を穿(うが)つ。


さすがに驚いて固まっていると、奴はまた、冷静に銃口を向け……!


「見られたからには、死んでもらう」

「……!」


馬鹿な……奴はガンプラマフィアであれど、ここまでの過激派ではなかったはず。

このラル、一生の不覚……そう思いながら目を閉じると、銃声が響いた。

……だが、痛みは襲ってこなかった。よく言われる、熱い感触もなかった。


まさか一瞬で、痛みもなく死んだ……そう思いながら目を開くと。


「が……!」


奴は右手から血を流し、銃を落としながら呻(うめ)いていた。そうして私の九時方向を、忌ま忌ましげに見やる。


「動くなベイビー。……楽しいバトルに、命のやり取りは持ち込むなよ」

「空気が読めないと、女にモテねぇぞ」


その男達は私より二十歳ほど年上。

黒いスーツにサングラスを颯爽(さっそう)と着こなし、Cに銃を向けていた。


「お前達は」

「横浜・港署の刑事だ」


そう言って、奴らは揃(そろ)って警察バッジを見せてくる。……どう見ても刑事に見えないほど……カッコいいが!

ん!? 待て、港署……港署の刑事で、カッコいい二人組……まさか、このお二人は!


「両手を頭に上へ載せて、ゆっくりうつぶせになれ」

「じゃないと、指が滑っちゃうぞぉ。俺達もいい年だからさぁ」

「……!」


奴は忌ま忌ましげに指示に従い、頭の上に両手を載せた。

が、そこで右手が鋭く翻る。奴はまた別の拳銃を取り出すも、すぐに床下へ放り投げた。


いや、それは拳銃ではない。円筒形の爆弾……一瞬強く発光し、我々の視界を潰す。

思わず目を伏せるが、光はすぐに消失。そうして改めて周囲を見渡すと……Cの姿は消えていた。


「あのやろ……用意周到だな!」

「ユージ、頼むぞ」

「OK!」


ユージ……間違いない、大下勇次か。とするとこちらが、鷹山敏樹。

大下さんは全力疾走し、Cが逃げたと思われる方へ走る。


鷹山さんは私の脇により、銃を携えたまま、状態を確認してくれる。


「大丈夫ですか」

「え、えぇ。助かりましたぞ、鷹山さん」

「……なぜ俺の名前を」

「以前、ヤスフミ君から聞きまして。”あぶない刑事”だと」

「あぁ、そういう」


やはりヤスフミ君の知り合いであり、戦友であり、師匠の一角……あぶない刑事のお二人だったか。

そんな人物に会えたのは、本当に行幸。このラル、命拾いをしたようだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


何、あれ……スタービルドストライクがいきなり水に入ったと思ったら、湖が爆発……!

しかも……キノコ雲が、上がっていて! 湖の周辺が……というか、コースが三分の一ほど、焦土に変わっていて!


『なんだこれはぁ! スタービルドストライクが湖を通過したと思ったら、大爆発! まさか』

『いやいや! ガンプラ一体の爆発で、あんなにならないわよ!』


観客席も、実況席も騒然。あの爆発はあり得なくて……しかも、イオリくん達はそこに巻き込まれて。


≪Course Change≫


なのにレースは続く。焦土へ……爆煙の中へ飛び込む、カテドラルとバクゥタンク。

再度生まれたガイドラインを通り、最終コーナーへと飛び込んでいく。


『あ……カテドラルとバクゥタンク、スタービルドストライクの安否が確認されないまま、最終コーナーへ!
波乱に満ちた第九レースですが、一位と二位はこの二人の独占になりそうです!』

「そん、な」


何なの、これ。さっきの爆弾が可愛(かわい)く見えるレベル……一体、何を仕掛けたの。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ヒドい蹂躙(じゅうりん)を見たでござる。キノコ雲を突き抜けながら、最終コーナーを大きく曲がる。

しかしこのバクゥタンクもやるなぁ。こっちの速度についてきながら、まだ余力があると来ている。


「恭文、楽しそうなところアレだけど……」

「うん?」

「あの爆発は何! アンタじゃないんだよね!」

「さすがに違うって。やったのは」

「……レナート兄弟!」


そう……その手段についても、何となく察しは付いてる。


「池を通過する際、放り込んだのよ。……恐らくは」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「核爆弾……!」

「あお!?」

「あぁ……リアルではもちろんだが、ガンダム劇中でも禁断の兵器として扱われている。
もちろんバトルで再現する核爆弾は、『それくらい高威力な爆弾』って扱いだけどな」


さすがに核の性質まで再現したら、世界大会なんて開けませんわ。危険過ぎますもの。

でも……だからこそ、間違いないと断言できる。


「GP02のアトミックバズーカレベルですもの、あれは」

「やってくれるぜ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


やっぱり……嫌な予感はこれなのです! だから恭文さんも、バクゥタンクを直接攻撃はしなかった!


「レナート兄弟……いよいよ牙をむき出しにしてきたわね」

「あの二人のバトルは、セイ君達やリカルドさん達と違うよね」

「はいです」


ともみさんが戸惑い気味に聞いてくるので、頷(うなず)いておくです。


「相手の長所を殺し、短所を突く――実戦形式の戦術。つぶし合いという意味では、恭文さんやエレオノーラと近い思考なのです」

「恭文さんも?」

「恭文さんも実戦であれば、あれくらいはやるですよ」

「そうね……プロデューサー、基本手段を選ばない人だから」


まぁ核爆弾はさすがに……数年前のアレがトラウマで、時折うなされているですし。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


さて、レナート兄弟は……また怖いねー。さり気なく僕達にも牽制(けんせい)しているもの。


「ねぇ恭文、それだと」

「うん、バクゥタンクを撃墜したら……もう一発ドガンだよ」

「ヤバいじゃん、それ!」


核爆弾が一発だけとは限らない。もう一発内蔵していたら?

いや、場合によっては自爆でノーフィニッシュにする可能性だって……!


カテドラルの力でも、爆心地すれすれはキツいからなぁ。だからこそ怖い……怖いよ。


「でも面白いよね」

「はい!?」

「いいのかよ、それ! エレオノーラとかと同じじゃね!?」

「いいや、違う」


勘違いしているショウタロスやりんには、ハッキリそう言っておく。


「この特殊レースの条件を加味し、最大限打てる手を打ってる。ただしルール違反になるようなことはしない」

「更に言えば、ガンダムは元々戦争アニメです。これもまた”劇中再現”なのでは」

「あ……」

「戦争……勝つために、生き残るために全力を尽くす。いいじゃないの、レナート兄弟」


そういうのは大好きなので、笑いながらアームレイカーを押し込む。


「こういう奴らも面白い!」


さぁ、そうなると……ギリギリの接戦だね。

奴らにノーフィニッシュを躊躇(ためら)わせるほどの競り合いで……!


『『……まだだぁ!』』


そのためにはあと一手……そう思っていたけど、問題ないらしい。

キノコ雲のてっぺんから、青い翼が翻る。

それが一気に地表へ降りて、コースへ戻り……僕達を追撃。


両腕は吹き飛び、足も崩れ、ボディもひび割れる中、ぼろぼろの本体をパージ。

背中にセットされたブースターが機首を展開。


翻る翼を、展開するプラフスキーゲートをそのまま受け継ぎ、更に光へと近づく。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


イオリくん達は……ビルドストライクはぼろぼろだった。でも、ちゃんと無事だった。

ブースターに繋(つな)がっていたエアインテークも引き込み、白い機体は加速する。

最後まで諦めず、全力で戦う……その姿勢に、みんなが歓声を上げて……!


『ビルドストライク、大破寸前ながら……無事だったぁ! 本体からブースターを離脱させ、そのまま追撃!』

『速い……速いわ! 本体重量がなくなった分、加速が鋭くなってる!』

「イオリくん……! そうだよ……負けないで」


わたしはやっぱり、イオリくん達や会長のバトルが好きだから。


『カテドラルとバクゥタンク、最終コーナーを抜けたぁ! その後をブースターが猛追撃!』


真っ向勝負で、全力でぶつかって……だから!


「卑きょうな人達なんかに、負けないで!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


まさか、湖に核爆弾を仕掛けていたなんて……ほんと、無事なのは奇跡だよ。

あの改造ジオングが盾になってくれなかったら、ブースターもやられていた。

……そのブースターのダメージも大きいけど……現在進行形で大きくなっているけど!


「レイジ、分かっていると思うけど」

「この……最終ストレートだけだ!」

「うん!」


僕達は最終コーナーを抜け、あとはストレートを残すのみ。

残り五〇〇……風を切り、ボディの亀裂を激しくしながらも加速……加速!


本来ならパワーゲートも、プラフスキーウイングも、ビルドストライク本体との連動使用が前提。

ユニバースブースターの状態では、本体強度が足りない。重量も軽くて、バランス取りもかなり難しい。

でも真っすぐ飛ぶだけなら……! するとバクゥタンクは背部のスロットを展開。


そこから次々とミサイルを放つ。放物線を描き、こちらやカテドラルへと迫るミサイル。

カテドラルはその加速力で、着弾地点を置き去りにする。でもこっちは……!


「レイジ!」

「邪魔だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


プラフスキーの翼を翻しながら、周囲に粒子の衝撃波を放つ。

それでミサイルを押しとどめ、爆発させ……その合間を突き抜け、更に追撃。


バクゥタンクはその間に……ちんちん状態だった上半身を下ろし、両前足の無限軌道を地面に設置。

更にブースターを点火し、速度を倍増。残り三〇〇というところで、こちらとの差を開きにかかる。

カテドラルもそれに続く。いや、併走していた……バクゥタンクに並んでいた。


でも僕達の方が速い。距離は五十、二十、十と縮んでいき、ついに僕達は二体と横並び。


「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


残り百メートル……! ブースターの機首が、バクゥタンクの鼻先を、カテドラルの頭部を追い越す。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


しぶとい奴らだ……イオリ・セイとレイジ。その根性だけは認めてやる。

遊びの中でも、お前達なりの本気ってやつはあるようだな。……だが。


「兄貴!」

「大丈夫」


第一ピリオドと第二ピリオド……その試合の中で、既に底は見切っている。


「時間切れだ」


残り百メートルというところで、右指を鳴らす。

……すると奴らのブースターは翼とゲートを消し去り、失速。

それどころか通常スラスターも消え、バランスを崩しながら墜落。


ボディが地面に削られ、ひしゃげ、砕けながら爆散した。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


追い越した……残り百メートルで、勝利を確信した。

なのにそこで、ブースターの粒子残量が底を突く。

翼とゲートどころか、スラスターも停止し、ブースターは墜落。


激しくカメラが揺れながら、爆発という終わりを迎える。


「ち……」

「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


イオリくん達の、ガンプラが……ブースターが、壊れた。

ゴールすることもできず終わった。そんな悔しさをイオリくん達が叫ぶ中。


『フィニイィィィィィィィィィィッシュ!』


バクゥタンクとカテドラルは、ほぼ同着ゴール。

その様子が信じられなくて、放心する。そんな……イオリくん達が、負けた?


『第九レース、ただいま写真判定に入っております! 肉眼ではほぼ同着に見えましたが……!』

『……はい! 今大会委員会から、写真判定の結果が届きました! みなさん、メインスクリーンを御覧ください!』


そうして映し出されたのは、二体のゴールシーン。

いわゆるスローモーションで、ゴールラインが画面上に引かれていた。

それに、誰よりも速く到達していたのは……本当に、僅かな差なんだけど。


『……鼻先一つの勝利! 第九レースを制したのは』


首を全力で突き出し、本当に一ミリの誤差で勝っていたのは。


『アルゼンチン代表! レナート兄弟とバクゥタンク! セイ・レイジ組、そしてチームとまと、一歩及ばず!』

『しかもこのレースで、現段階のポイントレース結果も出ました! どうぞー!』


打ち震えながら出た結果に、更なる寒気が走ってしまう。


『この二組は予選十七位に後退! 決勝進出にイエローシグナルが点灯ぅぅぅぅぅぅぅ!』


嘘……本当に、たった一度の負けで、全てが覆ってる。

イオリくん達はその結果にまた、拳を握っていた。

いっぱい戦って、頑張って、汗だくになって……それでも、届かなかった。


分かっているのに。みんな頑張っている、楽しみ方も違う。イオリくん達だけが特別じゃない。

そう分かっているのに、またイオリくん達だけを”特別”に見てしまって……。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ははははは……負けた負けたー! あぁ、カテドラルを使って負けるって……ヤバい、二代目に顔向けできない!


「……恭文」

「りん、ありがと」

「え」

「まぁ負けはしたけど、楽しかったからいいでしょ」

「全く……もう」


りんが涙目で飛び込んできたので、汗だくだけどしっかり受け止める。


……でもよく分かったよ。

僕はまだ、ちゃんとカテドラルを使いこなしていない。もっと底があるよ、カテドラルには。

これは反省点だね。次のバトルまでに、しっかり練習しないと。


「ミルクは奢(おご)ってもらうぜ、蒼い幽霊」


そう言いながら笑って近づいてきたのは、レナート兄弟だった。

りんには一旦離れてもらい、お手上げポーズを取った。


「そちらの……マリオさんのリクエストは聞いてなかったですね」

「マリオでいい、敬語もなしだ。……一つ確認だ。どうして最後、撃ってこなかった」

「ノーフィニッシュで終わりなのに? 二発目があったでしょ」

「そうか」

「僕の方こそ聞きたいね。もっと武装があったはずなのに、どうして使わなかったの」


あのデッドヒート中、真横から攻撃されたら……そういう可能性もあった。

するとマリオは不敵に笑って、背を向けて立ち去っていく。何も答えず、楽しげに。


「今度、美味(うま)いスコッチを頼む」

「OK」

「じゃあな、ハ王さんよ」

「誰のこと!? ちょ、待って……それだけ訂正してー!」


そうは言っても止まらない二人。それを見送り、心地の良い汗を払う。

世界は広い……僕もまだまだってことか。……だから、次は負けない。


「ヤスフミ……どうするよ」

「まずは決勝トーナメントにきっちり残って、借りは返す。……まぁ対戦したら、だけどね!」

「だなぁ」

≪すみません、借りを返す前にお仕事ですよ≫

「アルト?」

≪鷹山さん達から連絡が……今のレース、介入者がいたそうです≫

「「「「「はぁ!?」」」」」


……どうやらカテドラルと特訓をする前に、まずはトラブルの時間らしい。あはははは、休ませてくれないなー。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


その日の夜……今日の結果を受け、自室でワインを美味(おい)しく飲んでいた。

というか美味(おい)しい……美味(おい)しすぎる! カテドラルの件も解決しそうだし、レイジ組ももうすぐ落ちる!

十七位とかならニアミスっぽいけど……無理無理、絶対無理!


「美味(うま)い……なんて美味(うま)いんだ、今日のワインは。……まさに勝利の美酒」

「ふん!」


するといきなり部屋のドアが蹴破られ。


「……!?」


憮然(ぶぜん)としたあの少年が……レイジ王子が、私の前に現れた。

もちろんイオリ・セイも一緒だった。これは、どういうことだ……!


「失礼するよー」


更にゾロゾロと……あ、蒼い幽霊!? それに、何ですか! この男達は!


「き、きみ……君達は!?」

「セクシー大下と」


男の一人が……いや、二人が警察バッジを見せてくる。


「ダンディー鷹山」

「セクシー!? ダンディー!?」

「そしてデンジャラス蒼凪」

≪どうも、私です≫


更にゴーストボーイも第一種忍者資格を見せてきた。

……何これ! ほんとにどういうこと!? ベイカーちゃんー! 説明プリーズー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


では状況を説明しよう……試合が終わった後、セイとレイジを引っ張り選手村のレストランへ。

するとラルさんと大下さん達が同席していて……そこに飛び込んできたチナも加えて、改めて状況確認。


「そんな……! そうなの、イオリくん、レイジくん!」

「うん。ただその直後、核爆発に巻き込まれて……結局は一瞬止められただけなんだけど」

「えっと……どういうことなんだ?」

「というわけで図解してみた」


レイジが困惑していたので、手帳にサラサラと絵を描き込んでみる。それをチナものぞき込んできた。


「レイジくんとイオリくんがバトルしているとき、その……ラルさんが見つけた、Cという人が介入していて」

「それがあのジオングを操っていたんですね。でもレナート兄弟の仕掛けた核爆弾で、僕達ごと木っ端みじん」

「それで本人もあわ食っているところに、ラルのおっさんが飛び込んだ。でも返り討ちに遭いかけたところで」


三人が納得しつつ、大下さん達を手で指す。


「俺達がいいタイミングで飛び込んだってわけ。……ロス領事館とその外交官からの要請もあって、探してたんだよ」

「足取りを追っていたら、どんぴしゃってわけだ。まさかこんなものを出すとは思わなかったが」


鷹山さんが呆(あき)れ気味に出してきたのは、既に押収された拳銃と弾薬の写真。


「ベレッタ M92ですね。実弾だったんですか」

「麻酔弾だった。でも当たり所が悪ければ」

「おかしいですね……僕が見た資料でも、殺人沙汰を起こすようなタイプじゃなかった」

「私も同意見だ。奴の積み重ねた罪状は、あくまでも妨害程度のことばかり。実銃を持ちだすような度胸は」

「どうも奴、引き込まれたらしいんだよ。……B.O.Bに」

「B.O.B!?」


大下さんの言葉が信じられず、思わず半立ち。何つう……そうか、それで!


≪なるほど、B.O.Bなら納得がいきますよ。今問題になっていますしね≫

「なんだ、そのびーおーびーってのは」

「Blood Of the Braves――勇者の血と呼ばれる、中南米(ちゅうなんべい)マフィアを祖とする犯罪組織だよ。
……ただ徹底した暴力主義で、敵対勢力を制覇し続けていてね。誘拐・暴行・強盗・傷害……殺人ですら何とも思わない」

「殺じ……!」

「アメリカを中心とした、世界中の非合法ビジネスを手中に収めようと動いているらしい」


タブレットを取り出し、忍者として知り得る情報を……まぁセイ達に見せても問題ない程度の情報を、提示しておく。

その概要だけでも凄惨なものがあって、チナは苦しげに呻(うめ)いてしまう。


「どうして……だって、こういう犯罪、一昨年の十一月から少なくなってるって。自首した人もたくさん出て」

「だからこそだよ。元々現地マフィアだったB.O.Bは、そうして弱体化した犯罪組織を次々取り込んでいってるの。
各国の警察機関や忍者も危険視して、水際での上陸阻止作戦中」

「……つまりあれか。そんな組織の一員になったから、コイツもすげー過激になったと」

「ならざるを得ない、とも言えるね。裏切り者への粛正も相当苛烈らしいし」


レイジも納得してくれたので、タブレットを仕舞(しま)う。なおチナは……ショックで言葉をなくしていた。


「問題は元々フリーエージェントだったCを、誰が雇ったかという点だ。
もしB.O.Bが主導ならば、奴らの狙いはガンプラバトルが生み出す巨大な利権」

「世界大会どころ、日本(にっぽん)の……いえ、世界の経済危機じゃないですか!」

「セイ、とにかくその件……ガンプラは視認したんだよね」

「はい」

「だったら記録データも残っているはずだから、それを元に大会の運営委員会と話そう。僕と大下さん達も付き合うから」

「お願いします!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


彼らは幸いなことに、混乱するボクへ事情説明をくれた。

ただそれは、想像を絶するほどに悪い方向で……!

B.O.Bって何!? ベイカーちゃん、ボクは何も聞いてないんだけど!


そんな物騒な組織の奴を雇って、大会介入!? 危うく死者が出かけた!?

ふざけんじゃないよ! 明らかにアウトじゃないのさ! これだと、ボク達までB.O.Bの仲間だと……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


「――というわけでして。それで創始者であるあなたにも、話が聞ければと」

「そ、それはそれは……とんでもない、ことで」

「えぇ、とんでもないことですよ。奴ら平然と」


そこで大下と名乗る刑事は、Cが使った銃を見せつける。


「こういうものを使いますから。……とにかくまた手出しする可能性もあるので、俺とタカも警備に回ります」

「そ、それは有り難い! よろしくお願いします!」

「……アンタは何にも知らないんだな」


あぁ、王子が怖い! でも本当に知らないので、必死に首振り。


「知らない知らない!」

「バトルロイヤルのとき、デカいザクが俺達を狙っていたのも」

「あれは本当にサプライズだったんだよ! 失敗だったけれど……それについては、ごめんなさい!」


機嫌を損ねても怖いので、必死に頭を下げて謝る。……嘘は言ってないしね、大丈夫だよね!


「と、とにかく……それは一大事だ! 運営側にも事実関係の調査と、警備体制の強化を指示する!
もちろん鷹山さん達警察サイドとも協力した上でだ! ……君達にも、改めて事情聴取と協力をお願いするかもだけど」

「大丈夫です。マシタ会長、よろしくお願いします」

「いや、こちらこそ……本当に申し訳ない!」


イオリ・セイに頭を下げられたので、合わせてまたお辞儀。


「……まぁ、オレは別にいいんだよ。邪魔するならぶっ飛ばせばいいだけだし」

「レイジィ?」

「分かってる! ちゃんと事情聴取ってのも協力する! だからその……母ちゃんに向けるような目はやめろ!
だがよぉ……他の、本気で遊んで、命を賭けている奴らにまで茶々入れるような真似(まね)するなら」


そこで殺気を向けられる。

王子は私の嘘など、体裁など、お見通しと言わんばかりににらみ付け……!


「誰であろうと容赦しねぇ……!」

「若いってのはいいもんだねぇ。だが荒っぽいのは、おじさん達に任せてよ」

「本気で遊んでくれていい。俺達もこの”遊び”にハマっているからな」

「それもそうだな。じゃあ頼むぜ、じいちゃん達」

「「おう……って、どっちがじいちゃん?」」

「両方でしょ」


その瞬間、ゴーストボーイは迂闊(うかつ)なせいで蹴り飛ばされる。

あぁ……どうしよう。とりあえずあれだ、ベイカーちゃんにはお仕置き……お説教!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


セイ達が早々に帰った後、会長は僕に一声かけてきた。


「あの、それで……話は変わるけど、デンジャラス……さん?」

「あぁ、カテドラルのことでしょ」

「そうそう!」


すぐ分かってくれて嬉(うれ)しいと、会長は破顔。……これが創始者か。

見る限りは極々普通の人間……別世界って感じではないなぁ。


「あれは、その」

「あれはパーツハンター事件が解決してすぐ、二代目メイジンに直接渡されたんだよ。僕のものだって言って」

「えぇ!」

「あ、これが証拠映像ね」


なので証拠映像を流そう。驚く会長は、それで更に口をあんぐり。


『――もう一つ聞こう、ソメヤ・ショウキを倒したのは誰だ』

『コイツよ。でもアンタとガンプラバトルをするつもりはないわよ?』

『これは私のではない。……今日からお前のものだ』

『……なん、ですって』

『賄賂など受け付けるタマでもあるまい。……受け取れ』


なおこれは、ソメヤ・ショウキ絡みで事情聴取する直前。

会長も納得してくれたけど、すぐに慌てて首を振る。顔に出やすい人らしい。


「なるほど……事情は分かった! ただあれは、元々PPSE社が次期メイジンに渡す手はずのもので」

「あぁ、それはごめんなさい。僕も全く知らなくて」

「いやいや、知らなかったのは仕方ないんだよ! なのでまぁ、悪いんだけど」

「僕から直接、三代目には渡すから御安心を」

「へ!?」

「まぁ見てもらった通りの経緯で、正直僕も戸惑っていたのよ。僕、そもそもメイジン候補から落ちてるし?」


予想外の返答からか、会長は目を丸くしながら頷(うなず)く。


「メイジンがあの段階から、体を悪くしていたなら……これは僕が、カテドラルを使ってやるべきことがある。そう思えてならないのよ」

「と、言うと」

「三代目メイジンと、二代目とのバトル、まだだったよね」

「まぁ、そうだね。二代目が延期しちゃったまま……まさか!」


そうして僕は笑う……そう、おのれが想像した通りだよ。


「三代目とのバトルに、カテドラルを使うつもりか! 自分がその、二代目の代わりとして!」

「安心していいよ。僕はカテドラルを使って、メイジンになるつもりはない」

「へ!? で、でも」

「言ったでしょうが、僕は落ちたって。飽くまでもバトルするだけ」


そう、僕のチャンスは一年半前……塾内トーナメントに参加させてもらったことだけ。

それ以上もらうのは棚ぼただし、メイジンの意志も確認しないのはズルいから。


「きっと盛り上がるだろうなぁ……二代目メイジン最後の傑作と、三代目の戦い」

「ぐ……!」

「僕がカテドラルをフルスペックで使って、それを三代目が制する。きっとファンが増えるだろうな……メイジンの」

「ぐぐ!?」

「視聴率もがっぽがっぽ。ガンプラバトル人気は急上昇」

「ぐぬ!?」


それで迷い始めた会長を前に、ニコニコ。よし、これで布石は問題ないので……さっと踵(きびす)を返す。


「じゃあ、第八ピリオドの準備もあるので」

「じゃあってどういうこと!? ちょ、待ってー!」


待つ必要はないので、そそくさと会長宅を出る。

すると玄関には、セイ達を送っていったはずの鷹山さん達が登場。

そのまま三人並んで歩き……数年前を思い出し、つい笑ってしまう。


「さて、鷹山さんと大下さんの印象としては」

「腰が低いのはいいことだと思うが、臭いな」

「お前も気づいていただろ。明らかにレイジへ謙(へりくだ)っていた……初対面とは思えないほどに」

「ですね。怯(おび)えていると言い切っていい」

≪その答えなら、会長の所有物にあるかもしれませんよ≫


そこでアルトがストフリノロウサ形態となり、僕の頭に乗っかってくる。


「どういうことだ、こてっちゃん」

≪レイジさん、この世界の人間じゃないそうなんですよ。アリアンという異世界の王子さんだそうで≫

「……次元世界の人間ってことか」

「タカ、大丈夫。非常識はやっちゃんの専門だから」


鷹山さん、頭を抱えないでください。あと大下さん、そのフォローについては後で問い詰める。


「僕も調べましたけど、そんな世界はありませんでした。……完全なパラレルワールドか、未来か過去の世界か。でもそれが」

≪そんなレイジさんの所有物で、一つ……不可解なものがあるんです。腕輪に埋め込まれた石ですよ≫

「あ、言ってたね。あの石だけが解析不能だって……え、まさか」

≪……マシタ会長の部屋をサーチしたら、同じものが存在していたの≫

「……おい、ヤスフミ」


ショウタロスに頷(うなず)きながら、つい口元を緩める。


「何となく図式が見えてきたね」

「アリアン、レイジという王子、それが持っている不思議な石……で、それと同じ石を持つマシタ会長」

「後はプラフスキー粒子です」

「何、プラフスキー粒子もその異世界からと?」

「恐らくは」

「それを組み合わせていくと、奇抜なジグソーパズルになりそうだな。……まぁ非常識部分は、蒼凪の専門だが」


なぜだろう、僕が非常識と言われているような……まぁいいや。


≪何にしても、これで動機が成り立ちます≫

「セイとレイジ……ううん、レイジを妨害する動機だね」


これでマシタ会長は、立派な容疑者候補。Cを雇い入れる理由も十分ある。

……やっぱりアイツらに、カテドラルは渡せないね。証拠を掴(つか)むまでは適度に誤魔化(ごまか)すか。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


やすっちとリインが負けた……しかも十七位……ヤバいヤバいヤバい!

マシタ会長とのパイプができたから、まぁまぁ初期の目的は達成してるけどよ! でもギリギリすぎぃ!


「鼻先一つで……悔しいー! あのわんこ、強すぎだし!」

「レナート兄弟は今年初出場なせいもあって」


そのため我々応援団も……まぁ応援団みたいになっている我々も、宿泊部屋にて会議をするわけで。


「ダークホース気味ですしね。ただアルゼンチンの予選大会から言えるのは、彼らの戦術が異端とも言えること」

「だな。……俺達はついついプロレス的にバトルするが、奴らのやり口は正しく『戦闘』だ」


まぁ道に爆弾をばら撒(ま)いて妨害は、まだ分かる。問題は核爆弾……やべぇよ。

アレでやすっちも撃墜を躊躇(ためら)って、スピード勝負になったからなぁ。


「もちろんガンプラや、ガンダムへの愛情も持ち合わせている。戦争アニメですからね、元々は」

「その流れを突き詰めるのもまた、遊びの範ちゅうってわけか。やすっちが気に入るわけだ」

「まぁいいじゃない。今回は女の子じゃないから、旦那様のフラグも立たないし」

「それでえっと、第八ピリオドってなんだっけ」

「はい、もう内容は発表されています」

「ちょ、無視しないでよー! お姉ちゃんも!」


やかましい。俺は自分のフラグで精一杯なんだ、やすっちの分まで構っていられるか。

とにかくアミタが見せてくれたタブレットで、内容確認っと……ふむ。


「最後は王道。タイマンバトルか」

「小僧の対戦相手はまだ……明日発表なのだな」

「今までのような特殊バトルじゃありませんし、油断さえしなければ十分勝ちの目はあります。まずは確実に勝つこと……落とさないこと」

「よし、じゃあ明日はやすっちに差し入れでもするか!」

『おうー!』


作業の邪魔にならないよう、温かくて食べやすいものを持っていこう。

何がいいかなー、おでんなんていいよなー。静岡(しずおか)おでんは美味(うま)いからなー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


恭文さんが十七位……いいえ、次の試合を落とさなければ問題ないはずです。

もちろん周囲の対戦結果にも左右されますが、きっと大丈夫。

むしろ初出場で、ベスト十七に残っていることが凄(すご)いですもの。十分誇っていいです。


なのでまずはわたくし自身のこと。そして……改めてマッケンジー卿に呼び出されて、お願いをされました。


「――本当によろしいのですね」

「あぁ」

「分かりました、では」


マッケンジー卿はそこで静かに頷(うなず)き……胸を押さえて、苦しげに倒れる。


「准将! しっかりしてください……准将ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「ま、孫を……孫を……へるぷみぃぃぃぃぃぃぃー」

「メディーック!」

「……おー」


散歩中らしきあおが、両手でお手上げポーズを取ります。

それにも関わらず、悲鳴を上げます……そう、世界の中心で何とやらって感じで!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


イギリスに戻って、早くも一年半が経過した。

人間は慣れるもので……ガンプラがない生活というのが普通になって。

夏休みということもあり、新しい趣味でも見つけようかと、雑誌をぱらぱら見ていたところ。


「――グランパが倒れた!?」

『はい!』


突如うちにきた連絡は……世界大会出場中のグランパが倒れたという知らせ。

しかも知らせてきたのはセシリア・オルコット。同じイギリス代表として親睦を深めているところで……らしい。

グランパも八十近い高齢。こういうこともあるとは、覚悟していた。でも……!


『お願いします、今すぐ日本(にほん)へ……メディーック!』

「いや、今ここでボクに言われても! ……まさか、また容体が急変したのか!」

『駄目です! 今月号のホビー&ホビーはまだ出ていません!』

「重症じゃないか! 分かった……すぐに向かう! チャーター……チャータァァァァァァァァァ!」


お金というのは過剰になくても生きられるけど、たくさんあっても困ることはない。

グランパの危機ということで、執事達が気を使い、飛行機をチャーター。

特別便で日本(にほん)へ向かう……久しぶりの日本(にほん)に。しかも静岡(しずおか)だ。


ガンプラ塾、ガンプラ、ガンプラバトル……ボクの青春と挫折の全てが詰まった、あの街に。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


日本(にほん)時刻:午前八時――。

空港からひたすらに全力疾走。会場近くの病院へ飛び込み、上層階の一室へ。


「グランパ!」


すると弱々しく息を漏らすグランパと、それに付き添うセシリア・オルコットと、ラル大尉がそこにいた。


「セシリア……ラル大尉、お久しぶりです。あの、グランパは」

「今は眠っておられます。ですが、頑張っておられました」

「君に伝えたいことがあると言ってな。一応言付かっているのだが」

「グランパ……!」


セシリアが席を譲ってくれたので、傍らに寄り添い、その右手を握る。


「何があろうと、プラモとホビー&ホビーの発売日だけは間違えない、グランパが……! パパとママ達ももうすぐ来るよ、だから」

「じゅり……あん」


そこでグランパが小さく目を開く。


「グランパ――」

「おぉ……我が孫……ジュリ……アン」

「あぁ。ボクだよ、グランパ」

「私はもう、駄目……だ」

「そんなことない! グランパ、今年の世界大会も楽しみにしていただろ!?
あのイオリ・タケシさんの息子と戦えるって……なのに!」

「分かって、いたんだ。老いからは……逃げ、られない」


その弱気な言葉が悲しくて、涙が零(こぼ)れてしまう。そんなことはない……そんなことはないと、首を振る。


「ジュリアン……頼みが、ある」

「あぁ……なんだい、グランパ」

「聞いて、くれるか。一世一代の……私の、頼みを」

「聞く! 約束する! だから、グランパ!」

「セシ、リア」


セシリアはボクに、丁寧に包装されたある箱を渡す。

更に工具ケース……あれ、これはもしや。


「それを使って……私の、代わりに」

「グランパ……まさか」

「頼む……」

「……駄目だ、ボクはもう」

「げほ! げほげげほ! げほぉ!」

「グランパ!?」


グランパが急にせき込みだした。寝返りを打ち、丸くなるグランパの背中を撫(な)でて、優しく宥(なだ)める。


「グランパ、しっかりして!」

「頼む……ジュリ、アン……お前にしか」

「でも……」

「げほ! げほげげほ! げほぉ!」

「グランパァ!」


グランパがまたせき込みだした。ぎったんばったんとベッドが揺れるほど、苦しむグランパを抱き締め宥(なだ)める。


「グランパ……グランパァ!」

「出て、くれ……ガンプラバトル、選手権にぃ……!」

「分かった……分かったよ、グランパ! だから、だからもう……!」

「本当、か?」

「あぁ!」

「……その言葉、守ってもらうぞ!」


そこでグランパが急に元気な姿を見せ、ガッツポーズ。


「よっし! ……よっし!」

「じゅ、准将!」

「いけませんぞ准将! それでは台なしです!」

「あ……」

「え……」

「……げほ! げほげげほ! げほぉ!」

「グランパァ!?」


こうしてボクは、また戦いの舞台へと引きずり出された。

そう、引きずり出された……出されたんだよね! ちょっとラル大尉、セシリア、こっちを見てくれないかな!


まぁまぁ怪しい要素もあったけど……くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


今日は試合もないが、大事な準備期間。

ある者は英気を養い、ある者は死力を尽くし、最後の予選ピリオドに備える。

かく言うボクも、ケンプファーアメイジングの調整が一段落。


午後十時――選手村のトレーニングルームで、メイジンと蒼い幽霊は揃(そろ)ってウエイトトレーニング中。

揃(そろ)ってというか、たまたま並んでしまったらしい。会話もなく黙々と動く二人を見て、苦笑しながら近づく。


「やぁヤスフミ、朝から元気だねぇ」

「そりゃあもう……昨日は負けたから、鍛え直しだよ」


……そう言いながら、超重量級でバタフライをしているんだね。しかも結構軽々と……さすがは忍者。


「いいことだ。敗北から自らを、見つめ直し……鍛えに鍛える。それでこそ勝利の道は、開ける」

「……と、マリオカート激弱なメイジンが言っているけど」

「万年びりっけつは気にしない」

「なんだとぉ! ……あが!」


あぁ、気を逸(そ)らすからバタフライに跳ねられた。なおそれでも外れないサングラスは、もはや絶対領域だった。


「先ほど、組み合わせが発表されたよ」

「そりゃよかった。今度は誰だろ……メイジン・カワグチかなぁ、バトルロイヤルでの恨みつらみもあるし」

「私が一体、何をしたと言うのだ……!」

「残念ながら違うよ。……ほら」


二人が手を止めるので、持ってきたタブレットを見せる。

既に公表されている組み合わせ表だし、ヤスフミが見ても問題はない。

それに……タツヤの対戦相手は、ヤスフミとも縁のある人間だ。


「これは……!」

「……アラン、どういうことなの」

「今朝早く、ファイターの変更届が出された。単独出場者では異例なんだが、まぁルール違反でもないということで」

≪軽いですねぇ、相変わらず。……本当に、どういうことでしょうね≫


二人が、そしてアルトアイゼンが……シオン達が目を見張るのも当然だ。


――第二十一試合:イギリス第一 ジュリアン・マッケンジー VS 日本(にほん)特別枠 三代目メイジン・カワグチ――

「ジュリアン、マッケンジーだと……マジかよ!」

「あの男、日本(にほん)に来ているのか」

「……どうしますか、タツヤさん」


メイジンではなく、タツヤと呼びかける。それでもタツヤは答えず、サングラスの奥で目を細めた。

これは因縁の対決だ。何せ……あのガンプラ塾バトルトーナメントの、決勝カードなんだからね。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


第八ピリオドの組み合わせ表は、会場近くの大型モニターで最速発表。

なので六割ほどの選手が赴き、直(じか)にチェックする。

ボクとレイジ、マオくんとセシリアさん、トウリさんもそんな一人で……すると、僕達の試合は。


――第二十六試合:イタリア リカルド・フェリーニ VS 日本(にほん)第三 イオリ・セイ&レイジ――

――第二十七試合:イギリス第二 セシリア・オルコット VS ブラジル ジオウ・R・アマサキ――

――第二十八試合:フィンランド チーム・ネメシス VS スペイン スガ・トウリ――


わぁ、三組ともずらーっと並んで仲良しだー。恭文さんとリインちゃんなんて。


――第一試合:ドイツ第一 ライナー・チョマー VS 日本第二 チームとまと――


すっごく離れているのにー。

……って、ちがぁぁぁぁぁぁぁぁぁう! なんか揃(そろ)って強敵相手だぁ!


「……モンスターズレッドが相手ですか。不足はありませんわね」

「あはははは……トウリさんって、運が悪いでしょ」

「それは心外ッス! むしろこれは幸運ッスよ、幸運! というか、運が悪いのは」

「あぁ……」


そこでイビツさんとトウリさんが、僕とレイジを見て……合掌。


「ちょ、やめてください! まだまだ! 勝負は始まってみないと分からないんですから!」

「いや、これ以外でも……ザクに追い回されるわ、野球をやらされるわ、核爆発に晒(さら)されるわ。ヒドいッスよ」

「セイ君、お祓(はら)いをしよう。俺、いい巫女(みこ)さんを知ってるから……ね?」

「それを言えばトウリさん達だって、ちくわだったでしょ!? ウェポンバトル!」

「そうだったぁ!」

「言うな! 言うなッス! あれは軽くトラウマで、今日も夢に見たッス!」


ちくわに比べたら僕達、まだいいと思うなぁ! 昨日の敗戦は確かにショックだったけど!?

でも、ちくわだもの! こっちは野球だったもの! ……じゃあ不幸自慢はこの辺りにして。


「レイジ、どうする。フェリーニさんを倒さなきゃ」

「面白ぇじゃねぇか!」


レイジは気持ちをすっかり切り替え、右手の平に左拳をぶつけ、楽しそうに笑っていた。


「ようやく本気のフェリーニ、ガチでやりあえる……!」

「でも、負けでもしたらセイはん達は」

「……他の対戦結果次第になるね。それもかなり分が悪い方向で」

「ちくわが出てくる確率よりはマシだろ」

「あ、それもそうだね」

「……トウリさん、言われてますよ」

「自分のせいッスか! いやいや、あれはイビツさんでしょ。自分はまだ」


あぁ、どうしよう。僕達のせいで不幸な押し付け合いが……困っていると、レイジが後ろへと振り向いた。

僕達も釣られてそちらを見ると……そこには、フェリーニさんの姿。

二十メートルほど離れてモニターを、そして僕達を見ていた。


こちらの視線に気づいたフェリーニさんは、不敵に笑って踵(きびす)を返した。

……そうだね、勝つしかないんだ。まずはこの一戦に全力を注(そそ)ぐ! よっし!


(Memory50へ続く)




あとがき


恭文「というわけで、Memory49は敗北のお話……負けた……特に目立つことなく負けた。カテドラルの初戦で」


(実はすっごく悔しい古き鉄)


恭文「やりたいようにやった結果、いろいろ前倒しな対決もスタート。なおちくわの下りは読者アイディアからになります」


(アイディア、ありがとうございました)


恭文「幕間第48巻も好評販売中。皆様、何卒よろしくお願いします。……お相手は蒼凪恭文と」

りん(アイマス)「朝比奈りんです。でも核って……核ってー!」

恭文「全てはホビーホビーのゴーストジェガンがいけないんだ」


(あの記事でのレナート兄弟はカッコいい)


恭文「そして僕達も予選突破圏外に出たものの、相手はライナー・チョマー……いや、油断せずに行こう!」

りん(アイマス)「そうだね、そこはフラグだもの!」


(フラグは踏まず、相手は侮らず)


恭文「そう言えばアメイジングストライクフリーダムやら、ルナゲイザーやらが出る、第八回ガンプラバトル選手権編もビルドファイターズA-Rでは始動し」

りん(アイマス)「このお話の翌年だね。アニメの最終回後」

恭文「僕も今のうちから、新機体のアイディアを考えていて……というわけで、二〇一二年十月から、鉄血のオルフェンズがスタートだ!」

りん(アイマス)「ちょっと!?」


(なお劇中の話です)


恭文「いや、最初はBFTの時代にはもうやっていて……って考えてたんだけど、ネオ・ジオングとかもある設定だしさぁ。問題ないかなって」

りん(アイマス)「また適当な!」

恭文「いいの、適当にやるって決めたの。今は適当に……うぅ」

りん(アイマス)「……何があった?」

恭文「今やっている……エクステラピックアップで、一四〇〇円ほど課金して、呼符七枚に石九〇個を費やしたら」

りん(アイマス)「……爆死したんだ」

恭文「出たもの全てが、マナプリズムになった」

りん(アイマス)「全て!? え、使えそうな礼装とかも一切なし!」

恭文「なし……なし……お願い、夢を見させて。今だけでいいから」

りん(アイマス)「……よしよし」


(ここ最近の絞られ具合がヒドすぎて、ヘコんでいる蒼い古き鉄であった。
本日のED:earthmind『kaleidoscope』)


恭文「キャス孤とジャンヌ……引いてあげたかった。やはり数なのか……四十五万しかないのか」

フェイト「それは絶対駄目だよ!? というか銀さんも去年もらったお金を全部使って、楓さんが一切引けなかったのに!」

ショウタロス「……せめて星4以上のサーヴァント一体が確定していればなぁ。一向に改善されないし」

古鉄≪要望書でも出したらどうです? こういうのは声を上げないと≫

恭文「そうする……!」

アブソル「お父さん、元気出して」(背中からぎゅー)

カルノリュータス「カルカスー」(蒼い古き鉄に抱えられながら、すりすり)

カスモシールドン「カスー」(同じく)


(おしまい)








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あきゅろす。
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