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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第1話 『鉄輝 再臨』



・・・雪が降っている。その中を、僕は一人歩いていた。





空は少しだけ薄暗く、2月の街の寒さを強めている。そして、そんな空から雪がゆっくりと降っている。





だけど、決して足を止めずに歩く。少しだけ坂道になっている道を。そうして見えたのは・・・とても大きな屋敷。





・・・あれ? な、なんであんな所に。










「・・・あ、なぎ君」





青と紫が混じったような色合いの長い髪に、黒いコートを羽織り、一人の女性が居た。もっと言うと、その屋敷の玄関に。



そう、僕はこの人に会いに来た。フェイトやリインには先にフィリスさん達の所に行ってもらった上で。どうしても・・・その前にちゃんと話をしておきたかったから。





「すずかさん・・・どうして、ここに?」

「なぎ君、そろそろ来る頃かなと思って。それでね・・・外でお話しようと思ったんだ。ほら、ちょうど雪だから・・・一緒に、散歩しようよ」

「・・・うん」





二人でそのまま雪の道を歩く。静かに・・・白い息を吐き出しながら。



向かう先は、街の方。なんでも、アリサと約束があるのだとか。





「・・・それなら、言ってもらえれば車とか出してもらったのに」

「いいんだよ。それに・・・二人っきりの方が、話し易いでしょ?」

「まぁ・・・ね」



少しだけ緊張を含んだ空気が僕達の間を漂う。どうにもそれが・・・辛い。



「あ、そう言えば・・・試験、合格したよね。おめでと」

「うん、ありがと。・・・すずかさんのおかげだよ」

「そんなことないよ。私もハラオウン家で映像見せてもらってたけど、なぎ君が頑張ったからだよ。確か、リーゼフォーム・・・だったよね」



僕はうなづく。・・・僕の、新しい力。そして、新しい自分を始めた証。



「あれになった時のなぎ君、すごくかっこよかった。それでね、思ったんだ。なぎ君・・・また強くなったんだなぁって。力じゃなくて、心が」

「・・・ほんとに、そう思ってくれてる?」

「思うよ。まぁ、アリサちゃん辺りは『試験中に音楽かけて決めポーズって・・・アイツ、正真正銘のバカじゃないのっ!?』・・・なんて言ってたけど、それでも・・・同じ事言ってたよ」

「・・・そっか」



・・・メールで話したい事があると伝えてはいた。



「ね、話は変わるけど、はやてちゃんから少し聞いたんだ。去年の事件の時・・・大変だったんだよね。だから、いっぱい悩んで、迷って・・・」

「・・・うん。すずかさんには、いつか・・・話したよね。僕が・・・人を殺した話」

「・・・うん、覚えてるよ」

「僕ね、事件の時にまた・・・殺したの。それしか方法が思いつかなくて、それしか・・・止める手が無くて」



そして、すずかさんには・・・今までだって・・・何度も言ってた。



「それで、リンディさん達にもすごく心配かけて、事件の時危ない目に遭ってたリインやフェイトの事守れなかったのが悔しくて、それで、これからどうすればいいのかとか、いっぱい考えたの」

「そうだったんだ・・・。あの、ごめん。私・・・何の力にもなれなかった」

「そんなことないよ。・・・そのせいで忘れかけてた僕の基本、原点の一つ、すずかさんがあの時力を貸してくれたから思い出せたんだよ? すごく感謝してる」

「なぎ君・・・。あの、そんなことないよ。ただ・・・あのね」



だけど、そういう問題じゃない。



「もし、ほんのちょっとでもなぎ君の力になれたなら・・・私、すごく嬉しい」

「なってくれたよ、ほんのちょっとどころかすっごく。すずかさん・・・ありがと」

「・・・うん」



だって、すずかさんはそれでも何度も・・・何度も、気持ちを伝えてくれたから。すごく、嬉しかったから。



「・・・あのね、なぎ君」

「うん・・・」

「私、なぎ君のこと・・・好きなんだ」



隣を歩くすずかさんの足が止まる。そして、僕を見る。すずかさんの方が身長は高いから、見下ろす感じ。

頬を赤くして、震えた手をギュッと握り締めながら、僕に言葉をかける。・・・訂正、かけ続ける。



「あの時・・・私のこと、全部受け入れてくれてからかな。私、あれからずっとなぎ君の事、好きだった。フェイトちゃんのことは知ってたけど、それでも・・・ずっと。
私、想うだけでいいとか、そんなことばかり言ってたけど、本当は・・・違うの。なぎ君と、お付き合い出来たらいいな・・・恋人になれたらいいな・・・って、ずっと考えてた。初めて・・・だったの。男の子を好きになったの。だから、どうしても諦められなかった」

「・・・あの、ありがと。本当に・・・本当に嬉しかった。好きだって何度も・・・本当に何度も言ってくれて。すごく」

「・・・本当に? あの、迷惑とかじゃなかったかな。私、なぎ君の気持ちかなり無視してたかも知れないし」



その言葉に、僕は首を横に振る。



「そんなこと絶対にない。本当に、本当に嬉しかったんだ。ただ・・・」

「ただ・・・?」

「・・・それでも、好きなのは・・・フェイトなんだ。というか・・・あの・・・ね」



・・・・・・言おう。絶対に・・・言わなきゃいけないことだから。



「昨日・・・フェイトに、告白されたんだ。僕の事・・・好きだって」



その言葉にすずかさんの表情が驚きに満ちる。そして、瞳が揺れる。



「それで、僕・・・オーケーした。フェイトと、付き合うことに・・・なったの」



目に、涙が溜まる。それが・・・一滴、零れ落ちる。



「そっか・・・。ね、もしかしてクリスマスの時に言おうとしてた事って、それ関連だったのかな」

「・・・うん、色々あったの。それで・・・そのちょっと前くらいから、僕の事男の子として見てくれるように・・・なった」



涙が、溢れ出す。だけど、すずかさんは僕から目を逸らさずに・・・まっすぐに見つめてくる。だから、目を逸らさずに僕も・・・すずかさんを見る。



「・・・ごめん、なぎ君」

「・・・それ、僕のセリフのような気がするんだけど」

「それでも、私のセリフなの。私・・・だめ。ホントはね、いっぱい考えてたんだ。もしそうだったらおめでとうって言おうとか、そうじゃなくて、フェイトちゃんのこと気にして付き合えないなら、まずは友達からでもいいから・・・とか。いっぱい考えてたの。
でも・・・でもね、どう転んでも、なぎ君のこと、応援する方向だったの。でも・・・ダメ。私、なぎ君とフェイトちゃんのこと・・・応援出来ない。悔しいって・・・なぎ君のこと奪いたいって・・・考えちゃうの」



・・・何も、言えなかった。何も出来なかった。大切な友達が泣いてるのに、手も伸ばせなかった。

だけど、ここで手を伸ばしても、それはすずかさんの気持ちを傷つけるだけで・・・きっと、意味がなくて・・・。



「なぎ君・・・ごめん、私・・・すごく嫌な子だね。私・・・ダメだよ」

「すずかさん・・・」

「でも、でも・・・ね」



・・・うん。



「いつか・・・おめでとうって言うから」



すずかさんは涙を右手で拭う。拭いながら、少しだけ無理のある笑顔を僕に向けてくれる。



「少しだけ時間かかるけど、なぎ君とフェイトちゃんのこと、応援・・・するから。それまで・・・あ、それからもなんだけど、今までどおりに私と友達で・・・居てくれるかな。・・・ごめん、私やっぱり私すごく嫌な子だよ。こんなの、ダメだよね」

「ダメじゃ・・・ないよ」



ダメなんかじゃない。その・・・えっと・・・。



「僕とすずかさんが交わした約束、期限も条件もつけた覚え、ないから。ずっと・・・友達だよ」

「ホント?」

「ホントだよ。・・・すずかさん」

「謝らないで」



少しだけ語気を強くしてすずかさんが僕にそう言ってきた。それに思わず身体の動きが止まる。



「・・・謝ったり、しないで。そんなの、相手の女の子の心を傷つけるだけだよ? なぎ君はちゃんと自分の気持ちを言ってくれた。応えてくれた。それだけで・・・いいから」

「・・・うん」





それだけ言うと、静かにまた歩き出す。無言で・・・空を見ながら。



少し時間が経った。もう駅前の方にまで来た。街は白に染まりつつあって、その光景が綺麗だったりする。





「・・・じゃあ、私はこっちだから。なぎ君は・・・病院だったよね?」

「うん、ちょっと身体見てもらうの」

「そっか、気をつけてね。・・・じゃあ、今度会う時は・・・友達として、会うから」





・・・うん。





「あと、アリサによろしく言っておいてくれるかな。僕、明日にはもうここ出なきゃいけないから、ちょっと会えるかどうかわかんないし」

「うん、伝えておくね。・・・それじゃあね、なぎ君」





そう言って、すずかさんは顔を近づけ・・・口付けをしてきた。ほんの少し、触れるような感じで。





「・・・え?」

「一応の、ケジメ。あ、ほっぺただから許してね?」





うん、一応・・・右のほっぺただった。





「ほっぺただけど・・・なぎ君に私のファーストキス、あげたかったんだ。唇はフェイトちゃんのものだから・・・。あ、こういうのは今回だけだから、大丈夫だよ。うん、そこは絶対」

「すずかさん・・・」





一瞬の事だったから、ちょっと反応が遅れた。



でも、なんだろう。特に嫌とか、それですずかさんを嫌いになるとかは・・・思ってなかったりする。





「それじゃあ・・・なぎ君、またね」

「うん、またね。すずかさん」

「・・・うんっ!!」





いつもと変わらぬ笑顔を浮かべて、すずかさんは走り出した。こちらに手を振りつつ、足元に気をつけつつ。



・・・僕は、見えなくなるまで見送ってから、歩き出した。目指すは海鳴総合病院。もう・・・フェイトとリインは待たせてるから、結構急ぎ足で。





”・・・けじめ、ちゃんとつけたんですね”

”一応ね”



いきなり念話で話しかけてきたのは、胸元にかけた相棒。

一応空気を読んで黙ってくれていたらしい。その心使いにちょっとだけ感謝。



”・・・あなた、絶対にフェイトさんを幸せにしないといけませんよ?”



いつもよりトーンを落とした声で、そう言ってきた。そう言う理由は・・・分かる。



”あんないい人を泣かせて、それでもフェイトさんへ行ったんです。そして、フェイトさんだけでなくて、あなたも幸せにならなくてはいけません。
あなたが決めた通りに、忘れず、下ろさず、変わらないまま変わっていって・・・です。そうでなければ、誰も納得しませんよ”

”・・・うん、そうだね。頑張っていかないといけないよね”

”えぇ、当然ですよ。・・・まぁ、私も助力しますから、頑張ってください”

”うん。アルト、ありがと”

”問題ありません”










そう話しながら、雪の街を歩く。目的地は海鳴総合病院。





やるべきことは、僕の身体を見てもらうこと。そして・・・。




















魔法少女リリカルなのはStrikreS 外伝


とある魔導師と機動六課の日常 Second Season


第1話 『鉄輝 再臨』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・あ、恭文さん」

「もう、遅いよ。ちょっと心配した」



病院のロビーで待ち人が膨れていた。僕は平謝りするような体勢で近づく。



「あー、ごめんね。フェイト、リイン」

「なにか・・・あったですか?」

「ううん、大丈夫。あ、受付済ませてくるね」



そのまま受付へ行ってくる。えっと、診察券は大丈夫だし、顔見知りがほとんどだからツーカーだし・・・。



”・・・ね、ヤスフミ”



受付で手続きしていると、念話が届いた。フェイトからだ。



”なに?”

”ホントに・・・なにもなかったの?”



・・・勘が鋭い。いや、この辺りは昔からなんだけど。でも・・・さすがに話せない。

だって・・・その・・・あの・・・色々と・・・ね。



”・・・なにも、なかった。そういうことにしておいてくれる?”

”私にも話せないこと?”

”ちょっと違う。話し辛いこと・・・かな”



言えないよ、すずかさんとの話なんてさ。なんというか、ちょっと言い辛い。



”あ、もちろんいかがわしい事とか、浮気とかそういうのじゃないの。トラブル絡みでもないし、つまり・・・その・・・”

”ううん、大丈夫だよ。・・・ちょっとさびしいけど、なにか事情込みなんだよね。だったら大丈夫。あ、その代わり”



・・・その代わり?



”帰りに・・・ちょっと甘えたいな。手を繋いで歩いて・・・コミュニケーションするの。いい?”

”・・・うん、いいよ。その、フェイトとは恋人同士・・・だもの。な、なんというか、さっそく隠し事したし、それで取り返せるなら頑張る”

”うん、頑張ってもらうね。それで、ちゃんと取り返してもらうから”










フェイト、ちょっと甘えんぼになった? こう・・・雰囲気がいつもと違うというかなんというか。

もしかして・・・これが、恋人同士の雰囲気というか、空気なのかな。だとしたら・・・嬉しいや。





とにかく、受付を済ませてしばし待つ。・・・少し待つ。そうして、呼び出された。





フェイトとリインの三人で病室に向かう。そこに居たのは、銀色の長い髪をした小柄な女性。温和な雰囲気は僕と会った頃と全く変わらない。










「・・・お久しぶりです、フィリスさん」

「うん、お久しぶり。恭文君。あと・・・フェイトちゃんとリインちゃんも」

「フィリス先生、またお世話になります」

「なるですよー」










・・・この人は、高町家と僕の主治医のフィリス矢沢先生。





とても温和で優しい人なんだけど・・・今は角を生やしてる。










”・・・予想通りですね”










アルトが念話でそう言ってきた。あ、あはは・・・そうだね、いや、ここまで予想通りとはどういうことなんだろ。





でも、一応聞いてみる。角が生えている理由を。もしかしたら、お土産とか無くて怒ってるのかも知れないから。










「え、えっと・・・なんで角をお生やしになられているんでしょうか」

「・・・理由、分かってるよね? 私、話を聞いた時本当にびっくりしたんだよ。
神速使ったって・・・一体どういうことかなっ!!」










やっぱりそっちだったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さて、私とヤスフミとアルトアイゼンとリインがなぜ海鳴に帰ってきたか、改めて説明しないといけないと思う。





きっかけは約2週間前に起きた一つの事件。まぁ、事件自体はもう解決してるんだけど・・・ただ、ここで問題が起きた。





ヤスフミはその戦いの中で神速を使用し、その領域に踏み込んだ。それが私達がここに居る直接の原因。





神速というのは、なのはの実家である高町家の面々が修得している御神流という実戦剣術の奥義と言われる歩法。

ただし、ただの歩法じゃない。これは自身の脳内のリミッターを外し、一時的に自分の時間感覚を引き伸ばすというとんでもスキルだった。

これを使用すると、使用者以外の人間にとっての1秒が使用者にとってはその何倍となり、その差は結果的に超高速での行動を可能とする。簡単に言えば、人が4秒かかって一回出来る事を、神速を使用している人は何回も出来る・・・って感じかな?





もちろん、こんな真似をして身体に負荷がかからないわけがない。普通ならまだなんとかなったのだけど、ヤスフミの場合は体型の元々の小ささと自分ではコントロール出来ずに長時間に渡って使用してしまったため、本当にボロボロになった。

そう、私達が六課を飛び出し海鳴へ来たのは、御神流の剣士ご用達のフィリス先生の診察を受けるため。そして・・・それからドイツへ飛ぶ予定。

ドイツに行って会わなければならない人が居る。現在はそこに住んでいる数少ない完成された御神流の剣士に、神速のコントロール方法を教えてもらうため。そうしないと、ヤスフミはまたいつ神速を無意識に使うか分からない状態だから・・・。










「・・・本当に長時間に渡って使用したんだね。だいぶ回復はしてるみたいだけど、身体のあっちこっちがまだ完全には直り切ってない」



私とリインの目の前でヤスフミがぱ、ぱ・・・パンツ一枚になって、フィリスさんにグニグニと身体を触られている。

こういう言い方をすると怪しいけど、ようはヤスフミの今の身体の状態のチェック中。



「まぁ、事情は分かったよ。でも、まさかそんなベタな事で神速を使えるようになるとは・・・。愛の力は偉大なんだね、不可能なんて簡単に飛び越えちゃう」



言われて、私とヤスフミは顔を赤くする。だ、だって・・・あの、嬉しかったけど、その・・・えっと・・・。

やっぱり少しだけ恥ずかしい。



「ただ、君の体格だと恭也さんや美由希さんみたいに使えないのは自覚しておいて? 今回みたいな長時間での使用はもっての他だし、一日の使用回数だってきっと制限が付く」

「・・・はい」

「・・・でも」



・・・でも?



「前にも言ったと思うけど、君の身体、とても強いから。時間はすごくかかるかも知れないけど・・・ちゃんと使いこなせるようになるんじゃないかな」

「ホントですかっ!?」

「うん。・・・でも、しばらくは制限付きだよ? 身体ももっともっと鍛えていかなきゃいけないもの。それでも私が今こう言ったのは、恭文君が今を使い潰すような真似をしないことが前提だって言うの、忘れないでね?
いい意味で先に繋げていく頑張り方を出来て初めて、神速は君のものになるんだから。そこに居るフェイトちゃんやリインちゃんのこと、泣かせたくないなら、焦らずに少しずつ頑張ること。いい?」

「・・・はい」



今を・・・使い潰す・・・か。前のヤスフミがそれなのかな。自分のこと、あんまり大事にとかしてなくて・・・。

私も頑張らないと。だって、私はもう・・・彼女なわけだもの。支えになっていかなきゃ、ダメだよね。



「あの、フィリス先生」

「あ、フェイトちゃん。そんなに心配そうな顔しなくて大丈夫だよ。・・・恭文くん、ちょっと時間かけて整体するね。どっちにしても、また無茶するんでしょ?」

「・・・ドイツ、行きますし」



ヤスフミがそう言うと、フィリス先生は静かにため息を吐いた。どうやら、やることが分かったらしい。



「まぁ、話通りなら早いうちに何とかした方がいいとは思うから、ここはいいか。今の君は、自分の力のコントロールが全く出来ない状態なんだし」

「・・・はい」

「フェイトちゃん」



フィリス先生がこちらへ視線を移す。ちょっとだけ真剣な顔で。



「リインちゃんもだけど、あとでテーピングの仕方とか教えるね。恭文君には自分で出来るように教えてはいるけど、それでも一応。時間、大丈夫かな?」

「はい、大丈夫です」

「リインも同じくですよー」










私達がそう言うと、フィリス先生が笑顔になった。それを見て、少し胸の中が暖かい感じになったのは、気のせいじゃないと思う。





そうして、それから少し時間をかけてヤスフミの整体が行われた。私達には実地でのテーピング講習。





・・・やりすぎて血流止めかけたのは、あの・・・ごめんなさい。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・恭文とフェイトさんとリイン曹長は今頃海鳴かぁ」

「そうね」

「そう言えば・・・僕、ずっと気になってたんですけど」

「どうしたの、エリオ君」



みんなでいつも通りにお昼を堪能中。そんな時、エリオが結構真剣な顔で話を切り出してきた。



「美由希さんやなのはさんのお兄さんが修得している御神流・・・ですか? どこまで出来るんでしょ」

「どこまで・・・って?」

「恭文の話だと、完成された御神の剣士は銃器を持った相手が100人居たとしても絶対に負けないし、魔導師相手でもフィールドや防御魔法は斬れるしバリアジャケット突き抜けて攻撃出来るし・・・というか、されたし」



その言葉で私達全員の表情が重くなった。・・・アイツ、どんだけ運ないのよ。てゆうか、なんでそれで生きてるの?



「こちらの攻撃は広範囲殲滅魔法でもない限りは全部回避されるし・・・。あの、明らかにチートレベルだと思うんですけど。
確かに美由希さんは僕も実際に組み手させてもらったから、その凄さは分かるんです。あと、恭文が使った神速もあると考えると・・・相当ですよね」



ま、まぁ・・・確かにね。私達もそうだけど、なのはさんとフェイトさんもさっぱりだったあの訓練を難なくクリアしちゃったし。・・・あぁ、そう言えばアイツもか。二人とも銃器相手の訓練もしてたおかげとは言ってたわよね。

つまり、才能どうこう資質どうこうじゃなくてそういう積み重ねのおかげでアイツや美由希さんは魔法無しでも質量兵器相手でも戦える。やっぱ、そういうの必要か。・・・魔法だけじゃ、足りないわよね。



「そうですよね・・・。うーん、やっぱりもっと頑張らないとだめかも」

「あ、そう言えばキャロはサリエルさんから・・・」

「はい。近接戦闘の技術、教わっています。槍と・・・柔術。目標は魔法なしでもアレらが殲滅出来るようになることなんです」



キャロが言ってるのは分かる。あの『サーイエッサー』としか返事をしない方々だ。だって、私達全員まだあの人達を制圧出来てないんだもの。



「サリエルさんが言うには、槍や薙刀みたいな長物は使いこなせば遠・中・近のどの距離でも戦えるそうなんです。あと・・・覚えたら、私でもエリオ君の練習相手が出来るから」

「え?」

「へぇ、そのためにも・・・か。キャロやるなぁ」

「あ、あの・・・ありがと。キャロ」

「ううん」



嬉しそうに微笑むキャロに、照れたように顔を赤くするエリオを見て、微笑ましい気持ちになる。だって、糖分過多にならないから。あの二人と違って。そして・・・もう一つの案件について、私の思考は冷静に動いてもいたりする。

・・・やっぱ悔しい。まじめに近接戦闘の技術を鍛えた方がいいかもしれない。この辺り、今度なのはさん達に相談してみようかな。例え六課を卒業してもアイツも近くに居るから、練習相手には不自由はしないだろうし。



「でも、私は・・・やっぱり慣れないかな」



ふとそうつぶやいたのは、スバル。表情が僅かに重い。

あぁ、そうだった。コイツはコイツで色々あるんだったわ。



「まぁ・・・アンタは仕方ないわよ。やっぱり、色々考えちゃうんでしょ?」

「うん、どうしても・・・考えちゃう。私は戦闘機人モードがあるから、それを使えば非殺傷設定もオーケーなんだけど・・・ただね、それもダメだって状況も、もしかしたらあるわけじゃない? 今継続してる訓練も、そういう時の心構えのためだから」



・・・ヒロリスさんもそう言ってた。というより、ヒロリスさんはあの模擬戦での影響からかスバルが結構お気に入りらしい。もちろん、えこ贔屓とかそういう事じゃなくて、訓練以外で妹に話しかけるみたいにしてる時がある。

アイツ曰く、聖王教会の騎士カリムにもあんな感じらしい。根が面倒見がいい姉御肌だから、そうなるんじゃないかとか言ってたっけ。



「ギン姉も同じだって。やっぱり魔法無しは色々考えちゃうって。ただ・・・父さんに訓練の事話したら、是非うちでもやって行こうって話になったらしくて」

「108でもですか?」

「うん。魔法が無くなった時、自分達はこうなるんだって言うのを身をもって知るため・・・だって」



なるほど・・・。でも、相手どうするんだろ。まさかあのサバゲー同好会の方々呼ぶわけにもいかないだろうし。

後日、マジでサバゲー同好会の人達呼んで訓練やったと聞いて、私は密かに頭を抱えたりもしたけど、そこはいいと思う。うん、流して?



「・・・で、そろそろ本題いきましょうか」



私がそう言うと、三人が力強くうなづいた。・・・実はここまでの話は全部前フリ。本題がちゃんとある。



「ティア・・・今日の午後の訓練、勝てる勝算は?」

「無いわね」



だって・・・なのはさんにヒロリスさんにヴィータ副隊長にサリエルさんの布陣よ? どうやってそれら崩せってのよ。

しかも、以前みたいにこっちが1発クリーンヒットさせたら撃墜扱いじゃない。マジで叩き潰さないとこっちの勝ちにならないんだから。



「ただ・・・だからって諦めるのなんて、出来る?」

「「「絶対嫌だっ!!」」」

「だったら、岩にかじりついてでも叩き潰すわよっ! 戦いってのは、強い方じゃなくて、ノリのいい方が勝つんだからっ!! いいわねっ!?」

「「「おー!!」」」










・・・最近、アイツに毒されていると強く思う時がある。もっと言うと、昨日まで居たあの人やスケベ亀や熊達と絡んでる時。





ただ、それも悪くないかなとか思ったりしてるのが・・・ちょっとアレなんだけどね。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・それじゃあ恭文君、気をつけてね。もし何かあるようだったら、また来てくれてかまわないから」

「・・・はい、フィリスさん。ありがとうございました。あ、しばらくの間は定期的に通わせてもらいますので」

「はい。というか・・・もし定期健診サボったりしたら、分かってるよね?」

「そ、それは重々・・・」





恭也さん達がサボってどういう目に遭ったかを間近で見ておりますので。よーく知っております、はい。



とにかく、僕達はお礼を言って病院を後にした。そして・・・雪の街を歩く。右手はフェイト、左手はリインと繋いだ上で。





「・・・でも、大丈夫そうでよかったですね」

「うん。おかげで身体の調子もいいしさ、やっぱりフィリスさんの整体マジックはすごいよ」

「そうだね、私の目から見ても動きがすごくよくなったように思う。・・・今度私もやってもらおうかな」

「あ、それいいかも。普通に肩こりとかも取れちゃうから」



でも・・・なんというか、僕は今すごい事になってるんじゃないだろうか。だって・・・ねぇ。



「それで恭文さん、次はなのはさんのお家ですか?」

「うん。それで色々話を聞いて・・・」



あと、美由希さんにも一応報告・・・必要だよね。



「それで、明日にはドイツだね。あー、でも楽しみだなぁ」

「ドイツかぁ・・・。私も行ったことないんだよね。なのはが恭也さんとやり取りしてる時に色々話を聞かせてもらって、いいところだーとは言ってたんだけど」



普通に旅行気分なのは、何故だろう。まぁ・・・仕方ないんだけど。



「少しくらいは旅行気分でもいいですよ。せっかくなんですし」

「・・・そうだね」

「それで、今日は久しぶりに一緒にお風呂に入って、遊んで、同じお布団で寝るですよ〜」



そうだね、久しぶりに一緒にお風呂に入って、遊んで、同じお布団で・・・ちょっと待ってっ!!



「リイン、それは普通にお泊りコースだよねっ!!」

「大丈夫ですよ、旅行だからお泊りですし」

「いや、そういうことじゃなくて」

「あ、あの・・・私も一緒はだめかな」



信じられない言葉は僕の右側から。そちらを見ると、顔を赤くしたフェイトが居た。



「フェイトっ!? あ、あの・・・ちょっといきなり過ぎないかなっ! 手順って大事だからっ!!」

「そんなことないよっ! お風呂は・・・その、まだダメな日だからしないよっ!? ただ、同じ布団で寝るだけだよっ!!」

「だから、いきなりそんな話をしないでー!!」










とにかく、そんな話をしながら高町家へ向かい・・・到着する。





門を潜り、インターホンを押す。すると・・・とたとたと足音。そうして出てきたのは黒色の髪を三つ編みにした女性。僕を見て、驚きや嬉しさが混じった顔をする。










「・・・恭文っ!!」

「どうも、美由希さん。少しご無沙汰です」

「うん、ご無沙汰。で、それはいいんだけど・・・あの、身体大丈夫? いや、その前に・・・フェイトちゃんとリインちゃん、なんでちょっと張り合ってるのかな。いや、見ててそういう風に感じるんだよ」

「・・・なんででしょうか」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・フェイトちゃんと付き合う事になったのっ!?」

≪えぇ、そうなんですよ。残念ながら≫

「残念ながらって言うなっ!!」

「そうだよっ! あの・・・私、すっごく勇気出したんだからっ!!」



・・・フェイトの発言のおかげでみんながニヤニヤし出したけど、気にしてはいけない。うん、気にしないの。



「それはそれは・・・。よかったな、恭文君」

「ホントね・・・。よし、今日は朝まで飲み明かしましょうか。桃子さん、頑張っちゃうわよ」

「いや、明日の朝一番でドイツ行くんでさすがにそれは・・・」



・・・まぁ、それでも高町家の皆さんは非常に暖かく出迎えてくれた。そして、今僕の目の前で全員涙ぐんでいる。ニヤニヤしながら涙ぐんでいる。ぶっちゃけちょっと気持ち悪い。

あはは・・・。でも、そこまでですか。僕、そこまで心配かけてましたか。



「なんというか・・・リンディさん達と反応同じです。全員泣き崩れましたし」

≪8年この人の不幸を見ていれば、それはそうなりますよ。無理ありませんって≫

「そ、そうだね・・・。というか、ヤスフミ」



リビングのソファーの隣に座るフェイトが僕を見る。申し訳なさそうというか、なんだか苦い顔をして。



「やっぱり私・・・相当鈍かったのかな」

「・・・多分。まぁ、僕も自業自得な部分はあったし、大丈夫だよ」

「・・・ありがと」



とりあえず、皆が更にニヤニヤし出したので話を元に戻そう。うん、頑張る。



「そう言えば・・・恭文君」

「はい」

「フィアッセにはその事は? ほら、一応婚約者なんだし、もう約束の期間よね」



桃子さんがちょこっと真剣な顔で言ってきた。フィアッセさんと言うのは7年ほど前に出会った世界的有名な歌手さん。そして、高町家の面々と非常に付き合いが深く、僕もその関係で知り合って、すごく良くしてもらってる。

・・・そう、フィアッセさんにも話さないとダメ。この辺りには諸事情込みなんだけど、僕はフェイトと付き合うようになった事を、フィアッセさんに話さないとダメなのだ。ただ、ダメなんだけど・・・話せないのだ。



「それが・・・さっき携帯の方に電話したんですけど、通じないんですよ」

「ヤスフミ、そうなの?」

「うん、フィリスさんの所に行く前にね。それで、メールでもいいかとも思ったんですけど、なんとなく嫌な感じがして・・・それで、スクールにかけてイリアさんに繋いでもらったんですよ」

≪ケジメって必要ですしね、さりげなく頑張ってたんですよ≫










イリアさんというのは、フィアッセさんの秘書みたいな人。前校長のティオレさんの代から、スクールのために頑張ってくれている人である。





ただ・・・問題が出てきた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・そうですか、それでフィアッセに連絡を』

「はい、あの・・・ちゃんと話しておきたいと思いまして。なんだかんだでお世話になっていますし」

『事情は分かりました。ですが恭文さん、申し訳ないのですが・・・その話は今はやめていただけませんか?』



少しだけ真剣な声でイリアさんがそう言ってきた。というか、ちょっとびっくりしてる。イリアさん、聞くところによると僕とフィアッセさんとの約束に頭抱えてたらしいのに。

・・・とりあえず、事情を聞こう。そうじゃないと僕はさっぱりだし。



「あの、理由はなんですか? そこを説明してもらわないと、僕だって納得出来ませんよ。・・・大事な話ではありますから」

『・・・簡単に言えば、今フィアッセの心を乱したくないんです。実は今、新曲のレコーディング中なんです』



・・・フィアッセさん、新曲出すんだ。メールではそういう話はしてなかったのに。



『その関係で、フィアッセは今とても集中していますし、現在のスケジュールも取材やPRなども含めて分刻みの状態なんです。まぁ、あなたとの約束はあくまでも子どもの時の話ですし、大丈夫とは思いますが・・・一応、念のため』

「・・・分かりました。なら、落ち着くまではメールとかでも連絡はやめておきます」

『申し訳ありません。こちらの都合であなたの決意を折るような真似をしてしまって』

「あー、それは大丈夫です。ただ・・・やっぱりちゃんと話してはおきたいんです。子どもの頃の話でも、約束は約束ですから」



もう7年だし、フィアッセさんも相手居ない感じらしいし・・・若干ヤバい臭いがするのさ。



『それは重々承知しています。なので・・・一週間後くらいならレコーディングも終わっていますし、スケジュールにも余裕が出ます。不都合がなければ、フィアッセへの話はそれくらいにお願いしたいのですが』

「・・・分かりました。じゃあ、それくらいに」

『申し訳ありませんが、よろしくお願いします』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・そっか、確かにそういう最中にこんな話したら、悪影響出しちゃうかも知れないものね」

「はい。まぁ・・・それでも一週間後くらいだったら大丈夫だそうなんで、その時にでもまた連絡してみます」

「そうだね、そうした方がいいよ。フィアッセ、恭文のこと本当に気に入ってるんだから」



・・・ワガママ仲間だし、今でもメールのやり取りすごくしてるしね。やっぱりフェイトとはまた違う意味で大好きな人。

でも、フィアッセさんの新曲かぁ・・・。どんなのだろ、楽しみだな。



「・・・うーん、フェイトちゃんと付き合うようになっても、恭文君のフィアッセ好きは変わらないか。フェイトちゃん、これは中々に大変だぞ?」

「そうね、気をつけないと本当に結婚されちゃうかも。フィアッセはかなり押しが強いから」



ちょっとだけ真剣な顔でそう言ってきたのは、士郎さんと桃子さん。・・・別に、そういうのじゃないんだけど。浮気してフェイトを泣かせるつもりもないし。



「・・・ヤスフミ、浮気は嫌だよ? ただ、フィアッセさんがヤスフミにとって本当に特別な人なのは分かるから・・・そこは認めるけど、浮気は絶対ダメ。ヤスフミにはもう、私という・・・あの、か・・・か・・・彼女が居るんだから・・・」



膨れた表情で言ってきたのは、皆様お馴染みフェイト。なんか、ヤキモチ妬いてくれてるみたい。

なんだろ、ちょっと嬉しいかも。ヤキモチ妬いてるフェイトもちょっと可愛いし。



「・・・・・・フェイトちゃん、恭文に対しての態度ちょっと変わった? なんというか、前よりも女の子っぽいというかなんというか」

「美由希さん、リインはそれで最近色々危機感抱いてるです。このままじゃリイン負けちゃうです」

「一体何に対しての危機感っ!? というか、浮気なんて絶対しないからっ! いや、まじめにだよっ!!」



だから、フィアッセさんともちゃんと話そうとしてるわけだし。・・・あれ、なんだろう。今なんかすごく嫌な予感がしたような・・・よし、気のせいだ。

とにかく、僕がそう言うとフェイトが安心した表情を浮かべて『ならいいよ』と言ってくれた。その言葉に僕も安心する。



「それで、話は変わるが・・・神速、使えるようになったそうだね」

「・・・なっちゃいました」

≪思いっきりベタな方向性でしたけどね≫



それを言うなぁぁぁぁぁぁぁぁっ! こっちは結構必死だったんだよっ!?



「ただ、前にも言ったが君の身体では負担が大き過ぎる」

「そうだね、私や恭ちゃんでも一回使っただけでそこそこ来るもの。父さんなんて、怪我の影響があるから一回使っただけでヘロヘロ」



・・・どうやら、そうらしい。もしかしたら僕、割合士郎さんと立場近いのかも。



「・・・そうね、ヘロヘロになるわよね。私がたまに腰を抜かしそうになるくらいに」



あ、桃子さんの視線がちょっとキツくなった。士郎さんが気づいて怯え始めたし。



「ま、まぁ・・・そこはともかくだ。話はなのはから聞いたが、今の君はとても危うい。また意識せずに限界を超えた形で使う可能性はおおいにある」



自分でもそう思う。だって、現に今回だってそれなわけだし。



「あの、士郎さん。リインは今ひとつ分からないんですけど・・・そうなんですか?」

「そうだよ。例えば私達の場合、相手からの攻撃のプレッシャーを利用して発動させる・・・・というのをよく使う。まぁ、一種の危機感というか防衛本能を利用しているわけだな。だが、それとて自分で意識した上でだ。
恭文君の場合、知覚の内外を問わず相手の攻撃を察知する能力に長けている。これに関しては恭也や美由希よりもだ」

「あー、分かりやすく言うと、本能的且つ瞬間的に自分への攻撃を察知して、即座に対処するってことなんだよ。恭文が相当集中していると、私のスピードで知覚外に回り込んでから攻撃したとしても簡単に防がれちゃうの。つまり・・・」

「もしかして、ヤスフミは士郎さん達よりその条件で神速を発動しやすい・・・ですか? そういうプレッシャーを人より感じやすいから」



フェイトの言葉に士郎さんと美由希さんがうなづく。・・・ま、まぁ・・・確かにそういうのは得意かも。つーか、出来なかったら僕はここに五体満足で居ないし。



「・・・初対面の時でもう恭ちゃんの飛針も避けちゃうくらいだったから、恭文のそういう能力って相当なんだよ? 恭ちゃん、実はあれかなりショックだったらしいし」

「ショック受けられても困るんですけどっ!? つーか、避けられなかったら死んでたじゃないですかアレっ!!」

「あぁ、そうだったね。だって眉間にまっすぐだったもん。・・・恭ちゃんのシスコンもなんとかしないとなぁ。なのはが結婚しようとする時とかに絶対大変だよ」



・・・そう言えばそんな設定だったような気が。しかし、その前の問題としてなのはが恋愛出来るかどうかが問題だと思うんですけど。



「・・・ね、それで恭文君達にちょっと聞きたいんだけど、なのは・・・本当にそういう相手居ないの?」



その桃子さんの言葉に僕達は顔を見合わせ・・・うなづく。



「とりあえず、僕は聞いた事ないです。もう全くといっていいほど」

≪私もあの人から・・・というのは無いですね。どっかの無謀なチャレンジャーがあの人にアタックというのは聞いた事がありますが≫

「リインもないです。フェイトさんはどうですか? この中では一番なのはさんと親しいわけですし」

「実は、私も無いの。・・・なのは自体はアルトアイゼンの言うように局でも人気があるんです。
それで告白というかアプローチを仕掛けられたりもしてるらしいんですけど、なんというか・・・なのはは若干鈍いというか、天然でスルーするというか・・・そういう部分があるらしくて」



・・・あぁ、あるね。フェイトと同じく。



「うぅ・・・ヤスフミ、意地悪禁止。あの、今はちゃんと気づいてるよ? そうじゃなかったら、付き合おうなんて思わないし・・・」

「何言ってるの。僕の事だけじゃないでしょうが。聞くところによると、アプローチを仕掛けてもそれと気づかれないで潰されたとか・・・」

「わ、私はちゃんと気づくよっ! 気づいた上でお断りしてたんだからっ!!
あと・・・それはこれからもだよ? もう、私には素敵な彼氏が居るわけだし」

「・・・あー、フェイトちゃん。そこはいいから。恭文もちゃんと分かってるから。というか、すっごい顔赤くしてるから」



・・・フェイト、ちょっと暴走しすぎかも。うし、僕がしっかりしよう。今そうすると決めたよ。



「とにかく、なのは自体の人気や想ってくれる相手どうこうは抜きにして・・・なのは自身は自分からそういうのに動こうとしないのは間違いないのよね?」

「そう・・・なります。なのは、今はヴィヴィオをちゃんと育てる事が最優先って言ってたりしますから」



その言葉に、高町家の面々は顔を見合わせる。やっぱり・・・思うところあるよね。アレ、まじめにヤバいもの。



「あなた、どうしましょうか。美由希の話だとユーノ君もさっぱりだったみたいだし、その上フェイトちゃんだけじゃなくてはやてちゃんにも先を越されて・・・でしょ?」

「そうだな・・・。私としては、恭文君にもらってもらう方向も考えていたんだが、それも無理になってしまったしな」



その言葉に、僕とフェイトは噴き出した。

ぼ、僕と・・・なのはが付き合うっ!? というか、結婚っ!!



「なんつう恐ろしいこと考えてたんですかっ! つーか、僕はフェイトが本命だって何度も言ってましたよねっ!!」

「・・・・・・ほう、それはなのはに不満があるということかね。よし、道場に行こうか。少し『お話』を」

「そういう問題じゃないですからぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! つーか、論理的に無理っ!! 僕にはフェイトって言う素敵な彼女が居るんですよっ!? 浮気なんて出来るわけないでしょっ!!」



・・・隣のフェイトが顔を赤くし出したけど、気にしない。



「でもでも、ユーノさんはどうなんでしょ。恭文さん、ユーノさんと仲良いからその辺り聞いてないんですか?」

「あ、そうだよね。私達の中でなのはの次に仲良くしてるんだし」

「・・・うん、してるよ。よくメールのやり取りとかしてるし、書庫の手伝いもしてるし、発掘作業にも何回か付き合った事あるし」

≪普通に友達感覚でもありますしね。ただ・・・あの人はダメですよ≫



うん、ちょっとダメっぽいね。

なお、そう言うのはユーノ先生の人格や私生活に問題があるとかそういう話じゃない。問題は・・・その周りなのだ。



「ユーノ先生、仕事が相当なんだって。当の本人はやる気満々なのに、休みが取れないからデートにも誘えないとか。あと、なのはってヴィヴィオの事以外でも今は六課で教導に魂燃やしてるじゃない? そういう話はするんだけど、スケジュール合わないんだって」

≪もうすごい勢いでボヤかれますよね。メールの文面に負のオーラが漂ってるんですよ、負のオーラが≫

「そ、そうだったの・・・。えっと、司書長・・・だったわよね。やっぱり色々大変なのね」

「だが、やる気はあるということだね。なら期待は・・・出来ないな。交流する時間そのものが無いというのだし。
あぁ、やはり心配だ。美由希も心配だがなのはは更に心配だ。あのままヴィヴィオちゃんと親子二人だけという状況にならなければいいが・・・」

「あ、あの・・・父さん? 私はそれなりに経験あるから。なのはの年には恋の一つくらいしてたし、男の人とお付き合いだって有ったって」



・・・へぇ、そうなんだ。それは知らなかった。

どうやら、士郎さんも同じくらしい。びっくりしたような目で美由希さんを見る。



「そうだったのか・・・。あれ、なんで私はこんなに安心しているんだ? おかしい、おかしいぞ高町士郎」

「あぁ、あの時のことね。そう言えば、そんなこともあったわね」



桃子さんがそう言うと、士郎さんの首がそちらへと一気に向く。ちょっと怖いくらいのスピードで。



「も、桃子っ!? なぜそんな思い出すような顔をしてそんなことを言うんだっ!!」

「あぁ、私は美由希から相談されてたから」

「なんだってぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! 美由希っ!! なぜ父さんには相談してくれなかったんだっ!? 全く知らなかったんだがっ!!」



いきり立ち、美由希さんの両肩を掴みブンブンと振り回す。結構力強い感じで。



「いや・・・仕方ないでしょっ!? 父さんや恭ちゃんに相談したら、とんでもないことになってたのは火を見るより明らかだものっ!!」

「そんなことはないっ! 恭也はともかく、私は全力全開で応援していたっ!!
そうすれば、お前はもう子どもの一人くらい産んでたかも知れないじゃないかっ! あぁ、こんなことなら美由希と恭文君がくっつくようにもっと応援するべきだったっ!!」

「え、私への心配ってそこまでなのっ!? 父さん、それはちょっと失礼じゃないかなっ!!」

「それ以前の問題として、どうしていちいち僕の話を出すんですかっ! おかしいでしょそれはっ!! 意味がわかんないっ! まったく意味がわかんないしっ!!」










・・・なのは、まじめに何とかした方がいいと思うよ? せめて・・・恋くらいはさぁ。





というわけで、一応のフォローはしておくことにする。










「ま、まぁ・・・アレですよ。もしかしたらなのはが恋愛関係さっぱりなのは、フェイトとかはやてとか周りの親しい同年代の人間にそういうのが出来なかったというのも、原因の一つかも知れないですよ?」

「・・・あぁ、なるほどね。幼馴染二人がまだなんだから、自分が居ないのも普通なんだと思っていたと」

「桃子さん正解です。でも、まぁ・・・あの、自分で言うのはちょっと恥ずかしいですけど、一応僕はフェイトとお付き合いな感じになりましたし、はやても同じく相手が出来ました」

≪あと、スバルさんもですね≫

「スバルちゃん・・・あぁ、なのはの教え子のあの子か。えっと、青い髪のショートカットの子だったかな」



士郎さんが思い出すように言ったので、僕とフェイトとリイン、あと美由希さんもうなづく。

・・・そう、スバルもなのだ。自分の時間の中へと帰っていった、すごく強くて優しいあの人。ちょっとしたゴタゴタのおかげで、スバルとその人はとても仲良くなった。



「なのは・・・自分より年下の子にも抜かれたの? さすがにそれは・・・」

「あー、桃子さん。スバルの場合はまだ付き合うとかそんな感じじゃないんですよ。ただ、最近ある人と知り合って、仲良くなって・・・そうなる感じがひしひしとするんですよ。
いわゆる友達以上恋人未満というか・・・淡い初恋というか・・・そんな感じですか? その人の前だと思いっきり可愛い女の子の表情してますし」

「あら、そうなの。でも・・・下や隣がそんな感じなら、いくらなのはがちょっと鈍い所がある子だとしても、もしかしたらここから危機感持って積極的になる可能性も・・・」



・・・あるかなぁ。正直微妙な気がするのはどうしてだろ。

だって、なのはは教導官の仕事好きだし、ヴィヴィオの事もあるし・・・うーん、そういうのを考えると、やっぱり新しい出会いより古くからの付き合いかなぁ。ユーノ先生ならまだなんとかなりそうだしさ。



「・・・恭文君、フェイトちゃん、リインちゃん。これは私達全員の頼みだ」



士郎さんがそう言って・・・全力で頭を下げてきた。



「頼むっ! なのはの興味が恋愛に向くように協力してくれっ!!」

「お願いっ! やっぱり親としてはすごく心配なのっ!! お礼に翠屋のシュークリーム永久にタダで食べ放題にするからっ! ねっ!?」

「・・・父さん、母さん、そこまでなの? いや、分かるけどさ。正直私も心配だけどさ」










その様子に、僕とフェイトとリインは顔を見合わせて苦笑いするしかなかった。





だ、だって・・・ねぇ? アレの興味を恋愛に向くようにするって・・・きっと大変だろうし。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・なんか、大変だったんだね」

「うん、大変だった。・・・やっぱり、娘が結婚どころか恋愛にも興味持たないって、心配なのかな」

「えぇ、心配だったわよ? あなた、色々いいお話があったのに全て断っているんですもの」



母親にそう言われて、娘は申し訳なさそうな顔をした。

・・・やっぱり、親って色々あるらしい。僕も心配かけまくってる身だし、ちょっと心苦しい。



「まぁ、お母さんに乗っかるようであれだけど、心配するに決まってるって。うちの両親だって、私がクロノ君と付き合ってるなんて挨拶に行くまで知らなかったからさ。もう見合いしろだの幼馴染のあの子と付き合えだのすごかったんだから。
ただね、カレルとリエラ産んでから、その気持ちがよくわかるようになったかな。・・・恋愛や結婚が全部とは言わないけど、幸せに繋がることであるのは間違いないからさ」

「なるほど・・・。で、リンディさん、なのははなんとか出来ないんですか? もう見合いでもなんでもさせればいいじゃないですか」

「一応、なのはさん宛てには結構そういう申し込みは来てるのよ? ただ、当のなのはさんが写真も見ずに断ってるから、私達も押し通したり出来なくて・・・」



・・・僕には提督権限で六課に出向させようとしたりしたくせに、なぜその口でそんなことを言えるのか理解出来ないんですが。



「あら、あなたはいいのよ。あなたに拒否権なんて存在しないんだから」

「なんですかその人権否定発言っ!? つーか、僕にも拒否権ってありますからっ!!」

≪いや、ないでしょ。ヘタレですし≫

「ヘタレじゃないよバカっ!!」





あのなんとも言えない悲しい家族に見送られて、僕達はハラオウン家に帰ってきた。時刻は夜の6時となった。

で、僕とフェイトとリインは夕飯を食べながらそんな話を家族のみんなにしていた。



よし、とりあえずアレだ。アレは非常に長い目で見守ろう。8年頑張ればなんとかなるでしょ。





「パパー。悩み事ー?」

「パパ、困ってるの? それなら、私とカレルが力になるよー」



そう優しく言ってきてくれたのは・・・可愛い姪っ子の双子コンビ。あぁ、やっぱりパパなんだ。修正出来ないんだ。

ふと、リンディさんにエイミィさん、アルフさんを見る。・・・目を逸らしやがった。



「うーん、大丈夫だよ。ちょっと頼まれ事しただけだから。・・・よし、カレル、リエラ。あとでリインと一緒に四人でお風呂入ろうか。頭洗ってあげるよ。明日にはもうここ出ちゃうし、一緒に遊ぼうね」

「「わーいっ! パパとお風呂ー!!」」

「・・・ね、お願いだからパパはやめない?」

「「いやっ! パパはパパだもんっ!!」」



・・・そっか、そうだよね。うん、分かってた。分かってたよ。あぁ、フェイトと付き合うようになってもここは変わらないのかぁ。



「悪い、恭文。あれからクロノも結構頑張ってくれてはいるんだけど・・・さっぱりなんだ」

「みたい・・・だね。ねぇ、アルフ。そう言えば体調はどう?」

「うん、バッチリだよ。・・・というか、フェイト。この間も話したじゃん」



アルフさんはもういつも通りなちびっこふぉーむで元気いっぱいにご飯を食べてる。そして、そんなアルフさんをフェイトが心配そうな顔を見ている。

それはそうだ。だって、この間の一件でアルフさん・・・死にかけたから。



「それはそうだけど・・・あの、ごめん。私が忘れちゃってたから」

「大丈夫だよ、ちゃーんと思い出してくれたから、アタシはもうこの通りピンピンしてるんだし」



うん、元気いっぱい。いつものアルフさんだ。僕もちょっと安心してる。



”・・・恭文”



聞こえた声は・・・アルフさん。僕に思念通話をしながら、フェイトと楽しく話している。

・・・なんでしょ?



”ありがとな、フェイトの記憶・・・取り戻してくれて。アタシのこと、助けてくれて。アンタは正真正銘、フェイトとアタシの命の恩人だ”

”・・・僕、何にもしてませんよ。フェイトが自分で思い出したんです。



記憶は時間。だから、たった一人でも覚えている人間が居れば、時間・・・記憶は、絶対に消えない。だから思い出せたんだと僕は思う。



”僕のやったことなんて、せいぜい大丈夫だって信じてたくらいですもの。というか、僕だけの力じゃないですし”



・・・良太郎さんや侑斗さん、モモタロスさん達が力を貸してくれたから、なんとか出来たんだ。僕は、大丈夫だって信じることしか・・・それくらいしか、出来なかった。

でも、フェイトは『そうやって私の今を守ってくれた。そうやって信じてくれたから、思い出せたんだよ』って、そう言ってくれて・・・それが、嬉しかった。



”そんなことはないさ。そうやって信じてくれてなかったら、きっとアタシはここにいなかった。・・・なぁ、恭文”

”ほい?”

”忘れていいことなんて、下ろしていいことなんて、なんにもないんだな。嬉しい事だけじゃなくて、辛い事、悲しい事、苦しい事、その全部が今の自分に繋がってるんだな。アタシ、フェイトが一時的にでもアタシのことも含めて全部忘れたって聞いた時・・・ようやくわかったんだ。
アンタが、あんなにも頑なに忘れないって選択を選び続けていた気持ちが。忘れるって、忘れられるって、凄く悲しくて・・・さびしいことなんだな。時には必要かも知れないけど、やっぱり・・・悲しいのは変わらないんだよ”



・・・アルフさん。



”アタシ、やっぱりバカだな。忘れられることで、死にかけて・・・そこまでしなかったら、そんな簡単で、大事な事に気づかなかったよ。アンタの話だけじゃなくて、フェイトとだってそうだ。フェイトとの時間、辛い事もあったけど、それでも大切な時間だって、気づかなかった。
実はさ、アタシ・・・というか、お母さん達もさ、お前が忘れない選択をしたの、やっぱり納得できなかったんだよ。・・・それでヒロリスさんともちょっとやりあったりしたのに、それでも・・・さ”



なんか、僕とフェイトがお泊りデートをした翌日に、二人っきりでそういう話になったらしい。それでアルフさんの言ったようにやりあったとか。

なーんかあの時アルフさんがぐったり疲れた様子だったのが気にはなってたんだけど、それが原因とは・・・。



”うん、やりあった。忘れたり下ろしたりしても絶対にお前は・・・あのフォンなんて言うやつみたいにはならない。狂ったりなんてしない。アタシ達が・・・家族が居るから大丈夫。そう言ったんだけど、ぶった斬られたよ。というか、話してくれた。
あの人、一度その選択を取ってるんだってな。そうして・・・沢山後悔したって、話してくれた。昔の自分が殺したいほどに憎くて嫌いだって、苦い顔して言ってたよ”



・・・ヒロさん・・・いや、サリさんもか。二人は、昔の自分が嫌いだって言ってた。先生の弟子になる前、人を殺すことは『局の正義のため』と言い切ってたらしい。自分達はただ害虫駆除をしているに過ぎないと、奪った重さから逃げていたと、話してくれたことがある。

形は違うけど、自分達は重さと事実を忘れようとした、下ろそうとした。そうして、その最低極まりない言い訳をした。だから、嫌いだと・・・ちょっとだけ、苦い顔で酒を飲みつつ話してくれた。



”お前が決めたお前の道、それを家族だからって横から口出しするどころか方向性まで決めてしまうのは勝手過ぎる。家族なら、仲間なら、まず忘れない選択をし続ける今のお前を認めてやれって、そう言われたよ。
それと死ぬまで付き合う覚悟も決めろとも言われた。変わる変わらないの話は、全部そこからだって、そう言われた。まったく、周りに覚悟を強いるってドンだけだよ。アタシもお母さんもエイミィも頭抱えたさ。・・・まぁ、クロノは違ったけどさ”

”そうなんですか?”

”うん。アタシ達がその話をしたら『僕はアイツが生粋のバカだと知った8年前から覚悟は決めてる。問題はない』って即答で言い切りやがった。まったく、男兄弟はこれだから・・・”



クロノさん、そんなこと言ってくれてたんだ。・・・まったく、うちのお兄さんはすごいというか達観してるというか。いや、感謝なのは間違い無いんだけどさ。

あと・・・一応、必要か。



”・・・すみません、アルフさん”



僕は、謝った。必要なことだから。僕は・・・きっと家族に負担を強いてるから。



”それでも僕は、この道を変えられそうにもありません”

”いいさ。きっと、アタシ達がワガママだったんだ。お前の気持ち、多分ちゃんと分かってあげられてなかった。・・・だからさ、アタシもお母さんもエイミィも、覚悟決めたよ”



静かな声で、外見と反比例した大人としての声で、アルフさんは思念の声で言葉を続ける。



”お前が変わらずに、変わっていく道を進むって言うなら、アタシ達も家族として付き合う覚悟を決める。
お前は・・・やっぱりあのじじいの弟子だもんな。そういう道がお似合いだよ。・・・ただな、恭文”

”はい”

”フェイト・・・幸せにしてくれよ? いや、フェイトだけじゃない。アンタも同じだ。
もし、アンタがその道を行くことでフェイトや自分自身を不幸にしたり、泣く事しか出来なくなるような真似をしたら、アタシはお前を絶対許さない。つーか、噛み殺す”

”・・・もちろんですよ。二人で一緒に強くなって、前に進んで、幸せになるって、そう決めましたから。
誰がなんと言おうと、今日までの記憶は全て必要で、幸せで・・・沢山笑える未来に繋がってるって、そう思いますから”

”・・・うん、ならいい”










そのまま、美味しくご飯をいただく。久しぶりの家族としての時間。若干一名が居ないのが少々気がかりではあるけど・・・それでも、楽しい。





そして、決意を新たにする。僕の守りたい時間、ここにもあるんだと再認識したから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・そうして、双子コンビとリインとお風呂に入って、少し遊んで・・・就寝時間がやってきた。





ただ・・・問題がある。










「・・・自分の部屋に行って」

「大丈夫だよ、母さん達には許可もらってるから」



そう、フェイトがパジャマ姿で居る。それに僕は頭を抱える。だ、だって・・・ねぇ?



「いいじゃないですか、リインは問題ないですよ?」

「僕が問題あるのっ! さすがに実家でこれは恥ずかしいんだよっ!!」

「恥ずかしがることないよ。あの・・・コミュニケーションなんだから。えっちなことはしないけど、それでも・・・ヤスフミとまた一緒に寝たいな」



・・・いや、そう言う問題じゃないから。というかフェイト、ちょっと甘えんぼ過ぎない?



「・・・甘えんぼにもなるよ。だって、さすがにこんな事・・・ミッドに戻ったら頻繁には出来ないだろうし」



そう言われて気づいた。一応今回はプライベートな時間でもあるということに。

でも、ミッドに戻ったら・・・さすがにフェイトが頻繁に家に泊まるのはまずい。だって、隊長としての仕事もあるし、立場もあるし、いちおう風紀だってあるんだから。



「お仕事場はお仕事場でしっかりするよ? そこは・・・絶対。でも、今はプライベートだもの。そういうの抜きで、ヤスフミと・・・その、恋人で居たい。ダメ、かな?」



・・・フェイトはずるい。ちょっと不安そうな表情で、そんなこと言われたら・・・嫌なんて言えるわけがないもの。



「嫌じゃ・・・ない。僕も、フェイトと恋人で居たい」

「・・・ありがと」





結局、三人で同じ布団で寝ることになった。右側にフェイト、左側にリイン。なお・・・僕、両手を広げて腕枕してます。



う、動きづらい・・・。というか、これは寝返り打てない。





「・・・なんだか、三人で寝るなんて新鮮ですね」

「そうだね。もし・・・リインが六課解散後にヤスフミの家で暮らすようになって、私が泊まりに来たり・・・もしくは同じように一緒に暮らすことになったら、これがデフォルトになるのかな」

「なるかも知れないですね〜。ふふふ・・・リインとフェイトさんで恭文さんを独り占めです」

「そうだね、独り占めだ」





・・・楽しそうだね、あなた方。でもね、僕は意外と追い詰められてるよ?

さすがにこの状況が毎晩って辛いのかなって、ちょっと思い始めてるんだ。

主に体勢的に辛いの。寝返り打てないって結構負担よ?



というか、リインが居たら・・・えっちなこと出来ないよね。





「大丈夫ですよ、リインも混ざってえっちなことすればいいです」

「ダメだよっ! リインはまだ子どもだよっ!? それに、あの・・・えっと・・・私達、まだそういうことは・・・」

「フェイトも顔赤くしないで・・・! というか大きな声を出さないっ!! リンディさん達に聞こえるよっ!? リインも同じくっ! そんなこと今のリインにしたら僕達犯罪者だからっ!!」



小声でそう言うと、フェイトがシュンと小さくなる。なお、リインは・・・平然と笑っていた。くそ、懲りてないし。



「でも、昨日フェイトさん・・・恭文さんの家にお泊りしたのに、そういうこと無かったんですか?」

「・・・うん。あの・・・ね、ダメな日が来ちゃって、それで・・・一緒にこんな風に同じ布団で寝ただけなの」

「そうだったんですか・・・。恭文さん、よく我慢出来ましたね」

「当たり前でしょうが。さすがにあの日とか言われたら遠慮するしかないじゃ」



・・・・・・・・・あれ? どうしてだろ。今すごい違和感が・・・なんだろこれ、どうして僕は心と身体が震えてるんだろ。



「・・・もしもしリインさん? つかぬ事をお伺いしますが」

「なんですか?」

「どうして、フェイトが僕の家に泊まった事を・・・ご存知?」



僕がそう言うと、フェイトも小さく息を飲んだ。どうやら、気づいてなかったらしい。



「そ、そうだよ。私は特にどこへ行くとか言ってなかったのに」

「そんなの、丸分かりに決まってるですよ。というか、フェイトさんが出て行ってから隊舎は凄い騒ぎだったですよ? ついに二人が結ばれるーって」

「「はぁっ!?」」



つ、つまり・・・六課メンバー全員フェイトが僕の家に行った事を知っていて・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ヤバイっ!! 絶対にヤバイっ!!



「・・・フェイト、どうしてかな。このまま解散まで六課隊舎に行きたくなくなったんだけど」

「私も同じだよ・・・! あぁ、だからシグナムからのメールに『テスタロッサ・・・おめでとう』なんてPSが付いてたんだっ!! というか、まだそういう意味ではおめでとうじゃないよねっ!?」

「悲しいけどその通りだよっ! やばい・・・これ絶対にやばいーーー!!」



てゆうかアイツらまた学習してねぇしっ! 状況証拠だけで物事を判断するなと何度言ったら分かるのっ!?



「もう実際にそうなったって言えば大丈夫ですよ」

「「大丈夫じゃないからぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」





・・・とにかく、六課隊舎の事は後だ。きっと帰り着く頃にはみんなそういうのは全部忘れてくれている・・・はず。



僕とフェイトは体温を急上昇させているけど、そこは気にせずに別の話をすることにした。





「でも・・・」

「うん?」

「昨日も思ったけど、好きな人と一緒に眠るって、幸せなんだね」



フェイトから発せられたくすぐるような静かな声に体温が更に急上昇する。



「ヤスフミは・・・どう? 私が同じ布団の中に居て、どんな風に感じる?」

「・・・フェイトと同じだよ? 凄く幸せで、嬉しい」

「ならよかった」



そして、泣き出しそうになるくらいに・・・嬉しい。ずっと・・・こうしたかったから。



「うーん、でもちょっと困っちゃったな」

「なにが?」

「六課が解散したらヤスフミに補佐官になってもらうでしょ? それで、船で長期間仕事するようになっても・・・毎日一緒に寝たくなっちゃうかも」



あの、ちょっとっ!? それはさすがにまずいんじゃっ! 出張でお仕事場なわけだからさっ!!



「もちろん、一応風紀とかそういうのあるよ? だけど、それでもこのぬくもりと幸せは、手放し難いな」

「リインも同じくです。毎日でもヤスフミさんと一緒のお布団で寝たいです。・・・二人っきりもいいですけど、フェイトさんと一緒に三人も悪くないです」



・・・あの、もしかして僕はすっごい幸せもの? いや、自分でもそう思うけどさ。



「私ね、今まで今ひとつ分からなかったんだ」

「・・・なにが?」

「どうして、男の人ってキスしたいとか、エッチしたいって思うのかって」



フェイトから出てきたのは、そんな・・・ある意味ではどうしようもない言葉。

いや、あの・・・それは・・・ねぇ?



「・・・私ね、結構胸とかお尻とか見られる事が多かったんだ」

「フェイトさん、スタイルいいですしね」



それは同意。でも・・・耳が痛い。だ、だって僕だって・・・あの、見てた事あるし。



「あ、ヤスフミは大丈夫だよ? 友達で、仲間で、家族だもの。それに今は恋人なんだから」

「・・・ホントに?」

「うん。・・・あんまりいやらしい目はダメだけど、普通に見られる分だったらいいよ」



フェイトがそう言いながら安心させるように優しく僕に笑いかけてくれた。それが、あの・・・嬉しかったり、ドキっとしたり。



「ただ、やっぱり・・・そういう視線って男の人は隠してるつもりかも知れないけど、気づいちゃうの。それでやっぱり嫌なんだ。
・・・こう、それで好きとかそういうアプローチを仕掛けられても、そういう気になれないの。とにかくね、私・・・そういう身体を通してのコミュニケーションの意味って、今ひとつ分からなかったの」

「好きな人とそうなりたいって思うのが理解出来ないってことですか?」

「うーん、ちょっと違うかな。心と心が繋がってれば、そういうのいらないと思ってたの。
遠距離恋愛とかで、どちらかがさびしくて浮気するって話、あるよね? 私、それは心の繋がりがちゃんとしてないせいだと思ってたの。ただね・・・ちょっと、違ってた」



フェイトが身体を寄せてくる。少しだけ、熱と伝わるやわらかさの量が多くなる。顔も同じように近づくから、ドキドキする。



「心って言う見えないものだけじゃなくて、身体も繋がることって、すごく大事なんだって・・・最近、分かってきたんだ。えっちなことは・・・まだだけど、それでも分かってきたの」



右手でそっと、僕の腕を・・・枕にしている腕を、優しく撫でてくれる。それがとても嬉しくて、心が温かくなった。



「例えば、こうやって腕枕してもらったり・・・手を繋いだり、ハグしたり、髪や頬を撫でたり、撫でられたり、何もしなくても、ただぬくもりが感じられる距離に居る。
・・・それだけで、凄く安心出来るし、繋がってる感覚が得られる。それがとても大切な事なんだって、あの・・・ヤスフミのこと男の子として見るようになって、気づいたの」

「フェイト・・・」

「逆に、そういうのが無いと・・・やっぱり不安になるんだって言うのも分かるようになったの。側に居る、触ってもらう、触るって、多分一番簡単で、だけど大切な愛情表現だと思うから」

「・・・うん、それ・・・僕も分かる。やっぱり、さびしいって思うことあったから」



フェイトがミッドで暮らすようになってからは特にそうかな。通信やメールは毎日のようにやり取りしてたけど、それでも・・・会えないのが寂しかった。フェイトが帰る場所がハラオウン家じゃなくて、ミッドになっちゃったのが・・・なんだか、無性に寂しかった。

何かの歌の歌詞にさ『これからはわざわざ逢わなくちゃ、もう会えないんだね』って言うのがあるのよ。まさしくその状況だった。だから、会える時はすごく嬉しくて、泣きたいくらいに切なくて・・・。



「ヤスフミ」

「・・・うん」



フェイト、僕の腕に頭を乗せながら・・・ちょっとだけ真剣な目をしてた。そんな目をしながら、僕に話しかける。



「私、昨日言ったよね。心だけじゃなくて、身体の結びつきも頑張りたいって。あの・・・それってこういうことなの。私、すごいヤキモチ妬きだから、いっぱい触って、いっぱい抱きしめて欲しい。
・・・わがまま、だよね。でも、それでもね・・・ただこうして隣に居るだけでも、ヤスフミの気持ちが伝わるから、そうして欲しい。お願い・・・出来る?」

「・・・うん、いいよ。あ、でも・・・僕もフェイトにいっぱい触って、抱きしめて欲しいかも。いいかな」

「もちろん、いいよ。私もいっぱい触るし、抱きしめるね」

「・・・うん」





そう言って二人で見つめ合う。フェイト、頬を暗がりでも分かるくらいに赤く染めて、ルビー色の瞳を潤ませている。



それがすごく可愛くて、綺麗で・・・僕なんかが独り占めするのが申し訳なくなるくらいで・・・。





「・・・うー、リインの事をお忘れなくですっ!!」



後ろ・・・というか、自分の左側からかかった声に二人して身体を震わせる。そちらを見ると・・・頬を膨らませたリインが居た。



「あ、あの・・・ごめん。別に私もヤスフミもリインのこと、忘れたわけじゃないよ?」

「そうだよ、というより、この体勢だと忘れようがないというかなんというか」

「言い訳は聞きませんっ!! ・・・私も、結びつきを強くします」



そうして、リインも僕の身体に乗っかるようにして抱きついてきた。フェイトも、それを見て更にくっつけようと・・・というか、腕を回して抱きついてきた。

あ、あの・・・幸せだとは思うんですけど、なんで僕こんなに気持ちが追い詰められてるんでしょ。あれ、おかしいなぁ。



「・・・独り占めに出来ないのがあれですけど、フェイトさんが相手だから仕方ないので納得するです」

「私も・・・そうかな。まぁ、昨日二人でいっぱいお話したから、いいんだけど」

「むむ・・・。エッチなのはいけないんですよ〜?」

「エッチじゃないよ、普通にお話しただけなんだから。それに・・・例ええっちなことしてても、私とヤスフミはあの・・・恋人だから、いいの」



いや、だからどうして二人で対抗していこうとするの? おかしくないかな。



「え、えっと・・・フェイト、リイン」

「なに?」

「なんですか?」



二人が身体を起こして、僕を見る。だって、僕はこの体勢だとほとんど動けないし。



「あの・・・ありがと」



その言葉に二人は目を丸くして、顔を見合わせる。それから・・・僕を見て、クスリと笑った。



「いいですよ、別に。リインは恭文さんの側に居られるだけで嬉しいですから」

「私も同じく・・・かな。まだなりかけだけど、それでも嬉しいよ。でも・・・これからもっともっと、ヤスフミといっぱい恋愛して、理解し合って、互いに好きの気持ちを更新し続けて・・・繋がっていきたいな」

「・・・うん、僕もそうしたい」



フェイトが優しく見つめてくれる。・・・なんか、昨日も思ったけど本当に夢みたい。やば、また泣きそう。



「うー、だめですよ。フェイトさんだけじゃなくて、私とも恋愛するです。もっと言うと、ラブラブするです。
『恭文さん×フェイトさん+リイン』が基本図式なんですから、恭文さんの愛情の半分は私のですっ!!」

「そんな事誰が決めたのっ!! ・・・えっと、フェイト」

「リインに限り認めるよ。・・・でも、リインはまだ子どもなんだから、えっちなこととかは」

「だからなんでそんな話っ!? 8歳の子に手を出したりなんてしないからっ! というか、お願いだからそこは認めないでー!!」










そのまま、二人に腕枕をしながら・・・寝返り打てない状態のまま眠りについた。





というか・・・あの、なんだろこれ。





なんで本当に『僕×フェイト+リイン』って図式になってるの? いや、今更なんだけどさ。




















(第2話へ続く)






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