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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
act.34 『爆発』


艦隊はようやく……本当にようやく、ミッド軌道上に到達。

浮上するゆりかごを、モニター越しだが視認する。

各員の頑張りもあって、ゆりかごの速度は激減。


僕達の方が早く到着できた。……その意味を、その重さをかみ締めながら。


「ゆりかご、エンゲージ! 距離四千!」

「地上への影響を、各艦船と最終シミュレート――影響ありません! 撃破可能です!」

「よし……砲撃準備。目標、巨大船ゆりかご」

『はい!』


既に大まかな準備は済ませていた。そうして一分も経(た)たず、砲撃準備完了。

そのトリガーを預かり、様々な因縁に向けて……力を放つ。


それは僕だけではなく、この場にいる全ての艦船も同じ。

無数の空間断裂砲撃がゆりかごを襲い、キロ単位の巨体を一かけらも残さず、引き裂いた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


なのはちゃん達共々、無事に回収され、アルトのヘリに搭乗。

てーかサリエルさん……サラッと変装して乗り込むって!

いや、助かったけどな!? 二往復やったら間違いなく間に合ってなかったし!


『――巨大船、撃破確認! やりました! 事後処理諸々(もろもろ)もありますが、状況全て終了です!』

『みんな、よくやってくれた。GPOのみなさんも……本当に、ありがとうございます』

「気にするな。結果的にそちらの若人にも助けられたからな。それより」

「シャーリー、クロノ君もちょお静かに」


はしゃぐシャーリー、感慨深げなクロノ君に、シーのポーズ。

その上でマクガーレン長官と、後ろの搭乗席を見やる。


『……細かい話は、後にしようか』

『はい』


ランサイワ捜査官がヒーリングをかけ、なのはちゃんとヴィータ、ヴィヴィオも応急処置完了。

スバル達もそれなりにダメージがあったけど、問題なしや。……隊長二人の場合、”表面上は”ってのがつくけど。

みんなはお疲れモード。お互いに寄りかかって、ぐっすり眠る。


……みんな、ありがとう。それでごめん……今回のことで、よう分かったよ。

うちは間違っていた。クロノ君と話した通りな。今はどう取り返したらいいかも分からん。


でも改めて、考え直そうと思う。自分の夢を……罪を数える道を。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ここまでのあらすじ――たーまやー!

やっと状況終了! これで家に帰れるぞー!

ついでに圧力を公的にかけられたから、慰謝料もふんだくる!


更に賞金も六億……いや、七億! これで将来は安泰な上、”あの件”の支援もできる! やっほー!


『……蒼凪、聞こえるか!』


そこでフジタさんが通信。慌てた様子なので、何事かと思っていると。


「はい、聞こえますよ。どうしました」

『アインへリアルが稼働している!』

「……は?」


慌ててモニターを開き、アインへリアルとのラインをチェック。

今までは信用問題の関係から、電源も落としていたのに……嘘、動いてる!?


「既に砲撃体勢ですか!?」

≪……アインへリアル攻略のとき、受けたハッキングですか。やってくれますね≫

「やられた……!」


なのはにたやすく潰されたそうだけど、クアットロの電子戦能力は僕以上ってことか。

……修行が足りなかったことへの反省は、当然後回し。今はこれに対処しないと。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


痛みと苦しみに呻(うめ)き、死ぬことすら許されない地獄の中、私は拘束を受けた。

搬送ヘリに乗せられ、治療を施されていると……特務部隊の隊長から、慌てて通信。

そうだ、あの衝撃で忘れていたけど……聞かれたことに対し、つい笑ってしまう。


「ふふふ……あははは、あはははははははは」

『やっぱりアンタの仕業か! 解除方法は!』

「ないわよぉ、そんなのぉ。元からこういう計画だったものぉ。……神の頂きには、ふさわしい場所がある」

『アルハザード――』

「そう……ミッド全体を虚数空間で満たし、私達だけが……私と、死んだあの子だけが」


言葉を紡ぎながら、沸き上がるのは怒り。

殺された……子を、殺された。

私の中から、ジェイルが生まれるはずだったのにぃ……!


「神の都へたどり着ける、はずだったのにぃ……これは、天罰よぉ! 神の生誕を邪魔した、あなた達悪魔への天罰!
死ぬ……みんな死ぬ! 神になれないのなら、死んだ方がマシよぉ! あはははは……あはははははははははは!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「でも狙いは」


射角、更にチャージ中の砲撃データから予測……ちょっとちょっと、これは。


≪――三機とも、狙いは各魔力発電所≫

「フジタさん、ジュエルシードの回収は!」

『まだだ!』

「マズいわ……砲撃の魔力エネルギーに反応して、それぞれのジュエルシードがリンクでもしたら!」

「予測通りミッド地上は虚数空間化かよ! おい恭文、すぐに止めろ!」

「制御系掌握……だ、駄目」


チャージ完了――発射二秒前。

最終ファイアリング、解除済み。

砲撃キャンセルは不可……不可!


「止められない!」


そして、光は放たれる――。

敗者の怨念は追いすがり、勝者を引きずり込もうと、その手を伸ばしていた。


「いいや、まだだよ……フジタさん!」

『サポートは任せろ! フィニーノ補佐官には俺から!』

「頼みます!」


でも方法ならあるので、端末を取り出しぽちぽち――。

アインへリアルの砲撃は、メインシステムからの誘導も可能なもの。

砲撃発射は止められなかったけど、何とかシステムを掌握完了。


「よし……繋(つな)がった! シャーリー!」


ただ僕だけで全対処も怖いので、管制役にシャーリーを呼びつける。

アルトとフジタさんがサポートしてくれて、すぐに空間モニターが展開。


『端末データ、届いてるよ。じゃあ砲弾の消失は』

「無理!」

『無理なの!?』

「そのために何重もセキュリティがかけてあるんだって。
それに、そこまで機敏な軌道変更もできない……どこかに落とすしか。海上は」

「駄目だよ! これだけの質量なら、爆破だけでもそれなりの被害が……って、言ってる場合じゃないかー!」


そう、言っている場合じゃない。ミッドが虚数空間へ落ちる寸前だ。

正直趣味じゃないけど、多少の被害は覚悟してもらわないと。


とにかく発電所への直撃コースを避け、三つの弾道砲撃は大きくカーブ。


「問題はどこに落とすか――。砂漠、草原地帯なら」

『今は駄目だ! アインへリアルの護衛もあって、局の魔導師達がいる!』


そうだよねー! 元々アインへリアルって、”そぅいう地帯”に作っていたものだもの!

問題は同じような場所に、問題の魔導発電所があること。つまり一番安全なコースは取れない。


「なら上空で衝突」

「駄目です! ゆりかご攻略組――はやてちゃん達がいるです! 避難が間に合わないのです!」

「ですよねー! さすがにミサイルの直撃を食らって、生きている刑事にはなれないか!」

『「そんなのアニメの中だけだよ!?」』

『……実際にいるそうだが、強要は駄目だぞ?』

「ですです。なら、構築魔力を霧散……無理でしたね」


規模がデカすぎるし、そもそも幾つものセキュリティを込みで打つ弾道砲撃だ。

……でもその軌道修正は可能。そこまで急カーブはしないけど……とりあえず、魔導発電所には当たらないコースにう回させて……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


最後の最後でボーナスステージ……なぎ君の手に、ミッド地上の命運全てがかかっていた。

ただ発電所やアインへリアルがあるような、郊外には落とせない。

空で衝突もいいアイディアだった。ゆりかご攻略組が退避完了していれば。


その場合、キロ単位での爆発が予想されるし……ああもう!


「アインへリアルから発射された弾道砲撃三発、集合しつつあります!」

「それぞれが右九十度回頭! 回頭……回頭……ちょ、なぎ君!」


大型モニターに映る三つの砲弾。それらは衝突しない距離を保ちつつ、グルグルと回って空に昇る。


「らせん状になってる! グルグル回りすぎてる!」

『仕方ないでしょ!? コイツ、コントロールが思いの外難しくて……!』

『というか、これだけの質量砲撃を操作した経験なんてありませんしね。……このまま丸ごと、大気圏突破させます?』

「それも駄目ぇ! 本局の艦隊がいるんだから! 万が一命中したら」

『あ、駄目』


え……まさか、突破しそうなの!?

それは駄目……かと思ったら、少し違った。


螺旋(らせん)を描いた砲弾は、ある地点で進行を停止。

そのまま力なく、へなへなと落ちていく。


『なんか重力に負けて、落下し始めた……!』

「こっちでも観測してる!」

「どうなっているんだぁ!」


頭を抱えるグリフィスは気にせず、今までの軌道データから観測開始。

なぎ君は砲弾のコントロールを取り戻し、空を右往左往させてくれる。


『シャーリー、早くして……やっぱ、長時間のコントロールは無理!』

『制御系が上手(うま)く働いていないな。ハッキングの影響か。
……現地の部隊に連絡し、アインへリアル本体を破壊してもらうよう調整する』

『今は駄目ですよ!?』

『分かっている。”これ”を片付けたあとだ』

「……今軽く計算したけど、半物質化しているね」


なぎ君とフジタさんにも、解析データを送る。

うぅ……アインへリアルの実砲撃テストとか、まだだったからなぁ。

データが不足していて、予測の領域を出ないのは辛(つら)い。


「これは魔力砲撃というより、魔力で構築されたミサイルって考えた方がいいかも」

『つまり物理的影響は丸々受けて、大気圏突破も無理……恭文くんー!』

『落ち着け馬鹿! 揺らさないで……コントロールが乱れるー!』

『……あれ、このコースだと』


そこでアルトアイゼンから、データが送られる。

私が送った軌道予測データに、修正を加えて。


……それを見て、寒気が走った。


『……このままぐるっと回って』

『もう一つぐるっと回って』

『クラナガン上空にて待機中の』


なぎ君とリイン曹長が声を揃(そろ)え。


『『アースラ!?』』


その結論に慌てふためく。そう、射線上にいるのは……私達だった。

そして緊急警報が鳴り響き、アインへリアルの一発が……音速域で接近してくる。


「お、おい……アインへリアルが、こっちに向かってくるぞ!」

「ルキノ、回避!」

「もうやってますぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」


船体が激しく揺れ、アースラは緊急回頭。

そして、彗星(すいせい)の如(ごと)き砲弾は船体の脇を掠(かす)め――その衝撃で、船のバランスは完全崩壊。

『いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


私達は揉(も)みくちゃにされながら、地上へと落下していった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「もしもし……シャーリー!? シャーリー!」


シャーリーと通信が切れた。ノイズが……どっかのテレビみたいに、ノイズだけが広がっていく。


≪……やっちゃいましたね、ついに≫

「恭文くん……!」


ちょ……アルトとシャマルさんが、リインまで距離を取り始めた!

というかゲンヤさんが……ギンガさんもタンカの上で這(は)いずってる!


やめて! 僕は舵(かじ)を預かっただけだよ!? 必死に頑張っていただけだよ!?


「お前……幾らなんでも、そりゃねぇだろ!」

「狙ったみたいな言い方はやめてぇ! 狙ってない狙ってない……大丈夫! 一発だけなら誤射だからぁ!」

「誤射ってレベルじゃねぇだろ!」

「誤射にレベルとかないからぁ!」

「どこの常識だぁ!」

「なぎ君、父さんも駄目ー! 今はコントロール……コントロールー!」


おぉそうだ! コントロールに集中しないと……あ、でもヤバい!
このままじゃ切れちゃう! コントロール切れちゃう!


「と、とにかくアースラに向かった一発は、爆発してないんだよね!」

「してない……だから、アースラに直撃はしていない」

「そうだよ! そうだよねー! 直撃してたら、ドガンだよ!?」

「飲み込まれて、そのまま消し炭かもしれねぇぞ」

「……シャーリー! みんな……生きていたら返事をして! 生きていなくても、生きてるってことでぇ!」

≪無茶(むちゃ)でしょ、それ≫


無茶(むちゃ)でも言いたくなるよ! やばいやばい……いや、まずはコントロールしている砲弾だ! まずはその対処を終えてから!


「と、とにかく、このコースだと、魔法動力炉には当たらない。とすると後は」

「市街地には絶対落とせないわよ!?」

≪シェルターごと吹き飛ぶでしょうね≫

「廃棄都市部も、地上部隊が展開中だから駄目。でもこの状況じゃあ避難勧告も難しい……どうすればいいですか!」


あっちこっちで局員が散開している状況だから、完全に安全なところなんてない。

空も駄目、海も駄目、陸も駄目……だったら他に何が……え、待って。


局員が散開? じゃあ完全に人がいないと……この状況でいるはずがないと、分かっている場所ならOK。


この状況で局員も、民間人もいるはずがなく、キロ単位の安全が確保されている場所……あそこだぁ!


「あった……一つ、落としていい場所が」

「マジかよ!」

「六課隊舎です!」

「何ぃ!」

「シャマルさん、六課隊舎には人、いませんよね!」

「え、えぇ。破壊時の現場検証も終わっているし、復旧作業ができる状況でもないから……あ!」


そう! 復旧のため、人がいるわけでもなし!

現段階で破棄された場所だから、やっぱり局員がいるわけでもなし!

訓練場も併設しているから、近くに民間の施設・家屋も一切なし!


何という自己犠牲……まさしく局員の鏡! まぁ現場はペンペン草も生えなくなるだろうけど、是非もないね!


「「はやてちゃん!」」

『話は聞いてるよ! 恭文、全部の責任はうちが取るから……やってもうたれ!』

「OKー!」


というわけで、それぞれの砲弾をう回――。

既に郊外上空へと飛び出していたので、それを六課方面へと向ける。


「僕達、歴史の教科書に載るかなぁ……そして念願の自伝出版!」

≪ミッドのアイドル、アルトアイゼンちゃんの誕生ですね。教祖として頑張りますよ≫

「それアイドルじゃないよ! ただの宗教だよ!」


ギンガさんが身を乗り出し、派手にツッコミ……が、そこで縁に乗せていた手が滑り。


「あ……」

ギンガさんは派手に一回転しながら転げ落ちる。

問題はそれにより、右かかとが僕の端末を直撃したこと。


結果端末は地面に叩(たた)きつけられ、バキッと……へし折れた。


その光景に誰もが凍り付き。


『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「ギンガさん……何してくれてんのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「ご、ごめん! くっつける……今すぐくっつける! 修理魔法ー!」

「おのれは使えないでしょうが! アルトー!」

≪……コントロール、切れてますね。どこへ落ちるか分かりません≫

「最悪だぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

『それなら……任せて!』


そこで空間モニターが新しく展開。

すててこを被ったシャーリーが、呻(うめ)きながらもサムズアップ。


「「「「シャーリー(さん)!」」」」

≪生きていたんですか、あなた≫

「なんまんだー! なんまんだー!」

『リイン曹長、死んでませんよ!? 生きてますから! ……アースラはもう動けないけど……フジタさん!』

『蒼凪が確保してくれた、アインへリアルとのラインは維持している』


あ、そうだ! サポートにフジタさんもいた! あんまりの衝撃ですっかり忘れていたよ!


『そのラインを繋(つな)いだから……アコース査察官』

『どうもー』


ヴェロッサさんー! よかったー! 救いの神が降臨だぁ!

同時に、その隣にはオロオロとしたフェイトとシャンテ。

意気消沈気味のシャッハさんが出てきた。あぁ、心から疲れ果てているね、アレは。


『アコース査察官、アルトアイゼン経由で、なぎ君も巻き込んでください!
そのまま二人の演算能力を駆使し、六課隊舎に着弾! 具体的には』


サブウィンドウが開き、現れるのは六課隊舎の全景。

その中でピックアップされるのは、海上戦闘シミュレーター。

海上に浮かぶ、六角形(ヘックス)の集合体だった。


『海上戦闘シミュレーター! 着弾の瞬間にドームを形成して、一発目の影響を最小規模に収めます!』

「……爆発の余波は! それだとドームの破片が!」

『大丈夫! 二発目、三発目とタイミングよく着弾させることで、周辺被害は相殺できる! 既に計算済みだよ!』

『「凄(すご)いよ、シャーリー! さすが本局の信楽(しがらき)焼!」』

≪「「一生ついていきます、シャーリー様!」」≫

「ですー♪」


ついリイン、ギンガさん、シャマルさんと拍手……よし、これでハッピーエンド突入。


『そういうことか……なら俺も賛成だ! アコース査察官!』

『はい。じゃあ早速』

『だ、駄目ー!』


そこでフェイトがヴェロッサさんに掴(つか)みかかり、取り出した端末を操作させまいと押さえてくる。ちょ……邪魔するな馬鹿!


『フェイト執務官、離して! 緊急事態なんだから!』

『何を考えているんですか! 六課は……六課は私達の家なのに!』


……フェイトがゴネ始めた。

その言葉が信じられず、全員があんぐり。

シャーリーもすててこがずり落ち、眼鏡まで覆う羽目になった。


『そうですよ、ロッサ! 確かに……我々は罪深かった! でもなぜそこまでするのですか!
帰るべき家をなくし、彼女達がどうなると! 何か……他に何か方法があるはずです! 一緒に考えさせてください!』


しかもシャッハさんもかー! ヤバい、この人が絡むと洒落(しゃれ)にならない!


「シャンテ!」

『この馬鹿シスターがぁ!』


そしてシャンテがシャッハさんを蹴り飛ばし、画面外へと吹き飛ばす。

続けてフェイトも……というところで。


『だから駄目ぇ!』


フェイトは強引に通信デバイスを取り、何やら操作……ちょ、馬鹿やめろ!


『廃棄都市部……廃棄都市部なら大丈夫だよね!』

「展開した部隊がいるんだよ!? シャーリー、一度ラインを切って!」

『……』

「あ、あれ? どうして返事、してくれないのかなー。怖いのよ、僕達も……ね?」

「シャ、シャーリー……どうしたですかー」

『アインへリアルとのライン、カットされてるよ』


え、切るまでもなく、切れてるってこと?

……フェイトが奪い取ったときか! コイツら、ほんと余計なことしかしねぇ!


『え、切れちゃったの? じゃあ繋(つな)ぎ直して』

「あほかぁ! コンセントを刺すのとは違うんだよ!」

『……落下予想位置』

「もう落下不可避!? じゃ、じゃあ避難勧告……それも同じかぁ!」

『みんな、すぐに逃げろ!』


あ、そこはできるのね! でもみんな……みんな?

その言葉に僕達が顔を見合わせると、空から轟音(ごうおん)が響く。


そうして恐る恐る振り返ると――。


「ちょ、ちょっと……ねぇ、冗談でしょ!」


シャマルさんが悲鳴を上げるのも当然だった。三発の彗星(すいせい)が、凄(すご)い速度で迫っていた。


≪ここに落ちるんですか……!≫

「そう言えばフェイトさん……コースを変えたですか!」

『だって、六課には落とせないし、他には……コース変更できないの!? シャーリー!』

『切断したのはそっちでしょ!? もう無理です!』


というわけで、全員全力疾走――。


「ちょっと、何とかしてよ……ギンガさん!」

「無理無理無理ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

「おい、退避だ……退避だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


僕は転送魔法も用い、ゲンヤさん達と退避。

でも、それで間に合う状況でもなかった。


『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!』


三発の弾道砲撃は、僕達の後方百メートルの位置に着弾。

周囲のビルを、ハイウェイを、ガジェット達の残骸を。

そして残留していた部隊や108、僕とアルトを飲み込み、爆発した。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


世界は終わる。

私が下す天罰によって、終わる。

そう思っていたのに……思って、いたのにぃ……!


『……アインへリアルは、現地の部隊が破壊。二射目はないで』

「なんで、よ」


敗北した。

世界の終わりは来なかった。

天罰など、起こらなかった。


私は神では……なかった。


その事実が余りに衝撃で、現実を受け入れられない。


「夢を叶(かな)えたかっただけなのに……アンタ達人間と同じように」

『アンタ達と一緒にするな。……どんなに憎くても、”それ”で人は殺せん』


そうして神になれない私は、”天上人”となる。

人より遥(はる)か高みで、その営みを見下ろす。

力を奪われ、自由を奪われ、死ぬことすら許されず。


罪人として、一生を終える。その屈辱が、私への罰だった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


アースラのブリッジは、もう偉いことになっていた。

破砕状況も当然だけど、みんなの格好がぼろぼろで。

なぜかグリフィスはスカートをかぶり、ルキノは陸士用ズボンを腰に巻き付けていた。


他のみんなも似たような格好で、もう滅茶苦茶(めちゃくちゃ)。


でも……一番滅茶苦茶(めちゃくちゃ)なのは、廃棄都市部で。


「……どうするんですか、フェイトさん」

『え……嘘。だって、私』

「どうするんですか……被害は甚大。数百人……いえ、千人単位での被害者ですよ」

『待って。私、ただ……何が駄目なのかな! どうしてなの! どうしてヤスフミは、こんなヒドいことをしたの!?
母さんの言うことを信じないで、否定して……私達から手柄を奪って! その上私達の隊舎を壊そうだなんて! ねぇ、どうして!』

「きっと去年、私達が”同じこと”をしたせいですよ」

『だから、どうして! 私達だって……母さんだって苦しんでいたの!
……そう信じてくれれば、母さんだって、私だって、こんなことはしなかった! 全部ヤスフミやGPOのせいだよ!』

「ようやく分かりました」

『そう……そうだよ、シャーリー。私も、母さんも悪くないの。悪いのは』

「……頭のおかしい家族なんて、いらないに決まってる!」


ぼう然とするフェイトさんには断言して、通信を叩(たた)き切る。

もう駄目……私は、認識が甘かった。

まだやり直せる、まだ分かり合える。そう思っていた、思いたかった。


でも致命的に行き違っている。はっきり言えばフェイトさん……ううん。

フェイトさんが信じている、リンディ提督が余りにおかしすぎる。


……ああもう、言っている場合じゃない!


「シャー、リー。みんな……」


グリフィスは邪魔なものを取っ払い、私達に通達。


「すぐ隊長達……いや、本局・地上本部は関係なく、緊急連絡!」

「了解!」


救助活動の手はずを整えないと! アースラはなぎ君達に言った通り、航行不可能。

でも通信デバイスだけは、何とか生きていて……ほんとよかったー! それすらなかったら、初動が遅れていたもの!


なぎ君、リイン曹長、ギンガ……みんなもお願い! 無事でいて!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


私達が手柄を奪ったから、ヤスフミは私達から奪う。

そんなの、駄目なのに。母さんが傷つく……母さんが苦しむ。

ただ母さんともう一度、家族として仲良くしてほしい。


そのためにも母さんのことを信じて、母さんの言う大人になってほしい。

そうすれば全部上手(うま)くいく。私も一緒に頑張るから……そう、伝えてきただけなのに。


去年のことだって、ヤスフミは誤解している。

母さんは傷ついている。苦しんでいる。

”私達と同じように”、あんなことをしたくなかった。


表面上に出せないだけで、本当にそう思っている。

それを信じてあげてほしい。受け入れてあげてほしい……そう願ったのに。

ただそれだけを望んだのに。シスター・シャッハだって同じだよ。


私達は家族だから、きっと元通りになれる。大丈夫だって……なのに。


――ようやく分かりました……頭のおかしい家族なんて、いらないに決まってる!――


なのに、そんなの無意味だった。

ヤスフミは何の躊躇(ためら)いもなく、私達から奪う。

私達を壊しても、貶(おとし)めてもいいって……本気で思ってる。


母さんを、母さんを信じる私達を、信じてくれない。信じるつもりがない。

どうしてなの……今のだって、わざとじゃない。

ただ一緒に考えようって、そうお願いしただけなのに。それを否定したせいなのに。


なのに……両手が震える。

もう許してくれない。もう会えない。もう、話すこともできない。


「……ふん!」


そこでシスター・シャンテが飛びかかり、私の顔面に右回し蹴り。

鼻を砕かれながら吹き飛び、木に叩(たた)きつけられる。

治療された肋(あばら)が再びへし折れ、そのまま地面にずり落ちた。


「シャンテ……あなた、何を! もうやめてください!」

「この人殺しが」


近づこうとする彼女を……怒り心頭な彼女を、シスター・シャッハが慌てて押さえ込む。


「やめてください! 私が……全て、私が悪かったんです! 彼女達を止められなかったから!」


でもそれをヘッドバッドで潰す。

近づこうとしたところに、額をたたき込んで鎮圧。

顔面を叩(たた)かれたシスター・シャッハは、悶(もだ)え苦しむ。


「奪って当然だよ。アンタ達みたいな人殺し……あたしは絶対認めない!」

「ごめん、なさい……私は……私は、また……」

「謝れ」


そうしてシスター・シャンテは私を殴る。

一発、また一発……壊すつもりで。


――殺すつもりで。何の躊躇(ためら)いもない暴力に、恐怖し続ける。


「アンタ達が間違え続けるのは、謝らないからだ……自分の間違いを認めないからだ」

「シャンテ、もういい」

「よくない! 謝れ……今すぐ謝れぇ! 殺した人達全員に謝れぇ! できないって言うなら」

「どう……して……わた……私達、は」

「死んじまえぇ! このクソ野郎が!」


恐怖に苛(さいな)まれ、また狂ったように叫ぶしかなかった。


どうして、謝らなきゃいけないの。私達、悪いことなんて……してない。

ただ家族を信じて、一緒に頑張ろうって言っただけなのに。

今だって母さんの言う通りにすれば、きっと何とかなった。そうじゃなきゃおかしい。


他のやり方なんて、教えられてない……。


母さんは、教えてくれなかったのに……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ぐっすり寝ていた高町教導官とナカジマ二士達には悪いが、たたき起こさせてもらった。

その上で事情説明――そうしてGPOと機動六課のメンバーは、全員揃(そろ)って地上へ移動。

廃棄都市部は五キロ単位で更地となり、クレーターまででき上がっていた。


地下のインフラへの影響もあるし、これは……いや、諦めるか。


「嘘、ギン姉……父さんも……どうして!」

「落ち着きなさい」


飛び出しかけたナカジマ二士を押さえ、ランスター二士が深呼吸。


「レスキューの基本は」

「……自分を守って、人を助ける。安全確保の積み重ね」

「正解。こういう場は私達の方が先輩なんだから。なのはさん達もそれで」

「分かった! みんな、まずは慎重に捜索! いいね!」

『はい!』

『ま、待ってくださいー!』


そこでドスドスと走ってくる、全身鎧。そしてデバイスを構えた魔導師十数名が、我々の前に立つ。


「えっと、あなたは」

「安心していい。鬼畜法人撃滅鉄の会――我々の捜査に協力してくれた方々だ」

「おぉ……高町なのはさんだ!」

「お前ら、喜ぶのは後だ! まずは隊長を……隊長を探し出すんだぁ! 事務長!」

『はい!』


高町教導官達も、彼女達が協力者なのは理解してくれた。こちらを見るので、大丈夫と頷(うなず)く。


「よし、ならみんなで協力して、生存者の発見・救出だよ! みんな、もうひとがんばり……いけるね!」

『はい!』

「我々も行くぞ。メルティランサー、出動!」

『了解!』


そうして我々は、幾つかの班に分かれて捜索開始。

もちろん我々だけではない。動ける人間は全員、周囲の捜索に駆り出される。

傷の治療を終え次第だが、ヒロリス、サリエル氏もこちらに駆けつける。


もちろんシスター・シャンテやアコース査察官もな。

蒼凪とアルトアイゼンが爆発に巻き込まれ、行方不明――そう聞いただけで、何人もの人員が名乗りを上げてくれた。

アイツがこれまで仕事を受けた、地上部隊や本局の人間もだ。


我々はそんな全員の先陣を切っている。だからこそと言うべきか。


「ヤスフミ……どこー! アルトアイゼンも、返事をしてー!」

「このお馬鹿! 最後の最後で爆死とか、あり得ないでしょうが! とっとと出てきなさい!」

「そうだぞ! お前ら、殺しても死なないほど図太いだろ!」


シルビィとナナ、ジュンが必死に声かけするも……破壊の跡からは、何の声も返ってこない。


「サクヤ、ランディ」

「申し訳ありません。周囲の魔力残滓(ざんし)が多すぎて……生存者の波動が今一つ」

「スーツのレーダー、通信関係も効きませんね。影響がなくなるまで、目視で少しずつ探すしか」

「アンジェラも恭文達の匂い、全然掴(つか)めない……嫌だよぉ」


アンジェラがグスグスと泣き出すので、補佐官がその頭を撫(な)でて慰める。


「アンジェラ」

「アレクに何て言えばいいの? アレクもきっと、恭文達にまた会えるの……楽しみにしてるのに」

「だったら信じてやれ。アイツらが死ぬはずないと」

「そうだぞ、ちびっ子」


そこで副会長が合流。いら立ち気味に周囲を見やり、頭をかく。


「隊長が……アルトアイゼンが、この程度で死ぬはずないだろ! そうだろ、隊長!」


そう呼びかけるものの、無反応……周囲はただ、静けさを取り戻すだけ。


「何でだよ……何なんだよ! こういうときくらい、ちゃんと返事しろよ! それが隊長達じゃねぇのかよ!」

「……副会長」

「ノリが悪いんだよ! 頼むから……頼むから……出てきてくれよ! 隊長ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……意識を取り戻すと、そこは土の中だった。

いや、ガレキの中と言うべきか。

なので術式発動――ブレイクハウトとアルトのサーチで状況を理解し、ガレキを粉砕。


空は青く、輝くのは二つの月。そのままガレキからはい出て、何とか立ち上がる。

ここは……月の位置を見るに、二キロくらい吹き飛ばされた?

あはははは、咄嗟(とっさ)にユニゾンしておいてよかったー。


それを見上げながらも、抱いていたリインと、胸元のアルトと一緒に一息。


≪「「死ぬかと思ったぁ! ……ゴホ!」」≫




『とある魔導師と機動六課の日常』 EPISODE ZERO

とある魔導師と古き鉄の戦い Ver2016

act.34 『爆発』



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


神の頂きに近づく。その計画は、悪意ある存在達により壊されてしまった。


最高評議会が全ての黒幕?

スカリエッティと戦闘機人達もその被害者?

そんな”デマ”がどうして認められるというの。


あり得ない……きっとこれは、スカリエッティとレジアス中将の陰謀よ。

まさか神を壊そうとするだなんて。なんとおぞましい……!

しかも信じられないのは、世界がそれを信じ切っていること。


結果的に事件解決から三日が経(た)って、管理局は――私の組織は糾弾され続けている。

でもまだよ。まだ止まれない……まだ、私の正義は終わらない。

機動六課が、そしてフェイト達がいる限り、新世代の神は進軍し続ける。


まずは職場復帰からね。

その上でフェイトから手柄を奪った、あの子に制裁を加えなくては。

家族から手柄を奪うなんて、何という非道を……そんなことは許されない。


返してもらうためにも、周囲に理解を求めなくては。

なので査問委員会を舞台として、私は語りかける。


人として当然の愛を。

人として極々ありふれた優しさを。

それを私に届け、支える喜びを。


……それが果たされないのなら、世界の正義に逆らうも同じだと。


「正気か、君は! 予言関連の話をすれば、君自身も社会的に抹殺されるぞ!」

「なぜでしょう。六課は世界を救った英雄――それを導いた私もまた、英雄の一人だと言うのに。
お願いします……私を信じてください。そうすれば全てが上手(うま)くいきます。でも、信じてくれないのなら」

「君は、あれだけのことをしでかして、まだそんなことが言えるのか!」

「私は世界に問います。きっと認めてくれる……六課が、私達が正しかったと。そうして新たな管理局を作り上げる」

「貴様……!」

「そうそう、定期的なカウンセリングとやら? 私とフェイトに施す予定と言うそれ。
……一切必要ありませんので。もちろんアインへリアルの誤爆についても、処罰など認めません。だってそれじゃあ」


さぁ、頑張ろう……全てはここからだ。


「私達がおかしいみたいでしょ?」


最高評議会の罪状を払う……そのためにやるべきことは、まず権利を取り返すこと。

一体誰がスカリエッティを逮捕したか。そんなのは決まっている。


「もう一度言います。スカリエッティを逮捕したのは、機動六課――フェイト・T・ハラオウン執務官。
そしてフォン・レイメイの撃退もまた、六課のシグナム副隊長が上げた戦果とする」

「そのようなことが」

「できます。あなた方が私達を信じ、これからも支えてくれるのなら。
……あの強情極まりない、不幸な子は私直々に説得しましょう」

「どういう意味かね」

「言葉通りです。アインへリアルの誤爆は、あの子の責任とする。
そうしてその罪を償うために、局員となる……すばらしい道を示すのです」


そう……全ては六課の手柄とする。

あの子を六課に取り込めば、それは可能。

もちろん支払われた、不当な賞金も没収できる。


「不幸、ですか」

「不幸でしょう? 家族を、組織を――仲間を信じられないなんて。
私はそんなことを認めません。私には信じられない理由など、どこにもない」


あの子が私達を信じてくれれば。

家族との親和を思い出してくれれば。

それだけでいい……ただそれだけを体現する、私の子(駒)。


「みなさんにも、何度でも言います。信じてください……そうすることで人は大人になれるのです。
私達を信じられないあなた達は、残念ながら不幸な子どもと同じ。それでは幸せになれない」


私が神となるための足がかり。そうなれることを、他の子達と同じように幸せとする。

誰でもない、神である私が定めた。なら、それに従うのは当然でしょ?

何度でも声をかけよう。何度でも話をしよう。


信じてくれるまで……信じないことが悪だと、叱り続けよう。


「幸せとは、家族を、仲間を信じること」


私達に全てを預けること。それだけでいいのだと、伝え続けよう。


「不幸とは表面上の理屈に縛られ、その信頼を――家族への奉仕を忘れること」


私の足がかりとなること。それこそが至上の幸せなのだと、語り続けよう。


「私達管理局は、そんな不幸の申し子を救う組織でしょう? 一人残らず……どんな世界も、余すことなく」


それはもはや神の所業。その後継者となることで、私達は神となれる。

そうして私達は、神の後継者へと進む……進み続ける。


……私は認めない。最高評議会が全ての黒幕だったなんて。

それはGPOや反管理局体制による謀略。それを払うことが、神の後継者たる私の使命。


でも今は力が足りない。

声を上げても、恐らくまた……本当に嘆かわしい。

奴らは管理局の中にまで、悪意の手を伸ばしている。


それまでは、表面上だけでも合わせよう。

水面下で動き、同志に声をかけていくのよ。

私達に必要なのは、そうして信じ合い、手を取り合うこと。


そうして本当の意味で一つの組織となれば、きっと大丈夫。

それができるのであれば、私はもはや神そのもの。

この組織を司(つかさど)る神――最高評議会と同質となるわ。


「いいだろう……リンディ提督、あなたを今このときより、特別総務統括官として任命する」

「特別総務統括官?」

「そうです。今回の事件を受け、更なる体制強化が必要だと痛感しました」

「あなたはこれから、独立部隊――ワンマンアーミーとなるのです。
通常の指揮系統から離れ、独自の動き方を可能とする」


ほら……私はやっぱり神の後継者なのよ。

認めてくれる、愛してくれる。


「一切の束縛を受けない、あなたの思い通りにできる場所だ。どうでしょう、リンディ提督」


あの子のように、取るに足らない間違いで責め立てない。

私に優しくしてくれる……そうよ、そうじゃなきゃ。


だって私が可哀想(かわいそう)でしょ? 私が幸せになれないでしょ?

これこそが正義であり、これこそが勝利。

私を信じ、崇(あが)め、愛し抜く。永遠に……その人生をかけて。


組織に認められる喜びを胸一杯にかみ締めながら、喜ばしい役職を受領(じゅりょう)。


「信じていただき、感謝します。……管理局を娘達とともに、今以上にもり立てるとお約束します」


待っていてください、神よ。

あなた達の尊厳は、後継者たるこの私が必ず取り戻します。

そしてどこの誰とも知らない、神を殺した悪魔には――死の鉄槌(てっつい)を。


だってあなた達が死んだから、後継者になる約束も危ういもの。

本当に……どうして自分の身を守ることすらできなかったのか。

あなた達が神であること、今存在することに意義があるのだから。


クライド、見ていてね。

確かに予定通りとはいかなかった。でも、私は近づいてみせるわ。


私達が目指した、神の頂きに――。

六課はそのためにも、英雄でなくてはいけない。


そうじゃなかったら、何のためにあの子達を引き込んだのか……分からなくなるもの。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――あの後、エンプティで動けずヘバっていると、駆けつけてきたはやてと師匠に発見・保護された。

はやてには思いっきりハグされて、泣かれたっけなぁ。リインも一緒だったせいだけど。


更に病院に収容後、やってきたフェイトは、右フックで鎮圧しました。

謝ることすら許さず、拳をお見舞い。もちろんシャッハさんにも同様の処置を行う。

更に本局や地上部隊の偉い人が、何人もお見舞いに来てくれた。


GPOにもやっていることだけど、指名手配の件で謝罪。

あと僕がフォン・レイメイを倒したことと、虚数空間化阻止に一役買ったこと。

その辺りのお礼と、報酬の相談も込み。


なおそのとき、スカリエッティの賞金については、出せないかもしれないと言われた。

ほら、僕は現場にいなかったしさ。なのでそこについては。


「別にいいですよ、そっちは」

「い、いいのかね! 三億だよ!?」

「状況的には、もらえればOKって感じなので。……ただし」

「分かっている。現場で頑張ってくれたヴェロッサ・アコース査察官、そのサポートに回ったシスター・シャンテには、手厚いフォローを……だね」


真の功労者達に、三億分のフォローをとお願いした。

戦闘が得意でもないのに、敵のアジトに乗り込み、突破口を開いたヴェロッサさん。

幻術でそのサポートに回り、最大限の働きをしたシャンテ。


その働きがウーノの確保に、基地全体の掌握に繋(つな)がったんだから。

もし三億がもらえるとしたら、二人以外あり得ないでしょ。


ま、取られたことは悔しいけどね。


「そして機動六課・ライトニング分隊の隊長、フェイト・T・ハラオウンには、手柄を譲るつもりもありません。
……もしアレがスカリエッティを逮捕したなんて、そんな話が出たら……容赦しませんのであしからず」

「そのつもりはないので、安心してくれ。だが……ここからは内密で頼む」

「なんでしょう」

「リンディ提督は近々職場復帰する。局上層部を予言関連の問題で脅し、特別総務統括官として」


……その言葉でつい目を細めた。さすがにあり得なくて、アルトもため息。


≪脅迫に屈するんですか。先行きが思いやられますねぇ≫

「否定はしない。だが同時に、彼女はあらゆる意味で特別扱いになる」

「特別?」

「彼女は一般の命令系統から外れた、たった一人の独立部隊――ワンマンアーミーになるのさ」


そう言って本局の……えっと、ノーマン・ラスコット提督は、白いヒゲを歪(ゆが)める。

……なるほど、そういうことで。


「ただ問題となるのが、ハラオウン一派と呼ばれる派閥――特にフェイト執務官だ。
君達とGPOの指名手配についても、彼女のシンパが助長させている」

「つまり」

「その辺りでもし……何かあるようなら、すぐ教えてほしい。君には辛(つら)い頼みかもしれないが」

「いいですよ。もう家族じゃないですし」

「……そう簡単に、割り切れるものでもなかろう」


ラスコット提督は大きくため息を吐き、僕の手にリンゴを持たせてくる。


「私からすれば、君やGPOの方がよっぽど局員に見えるよ」

「局の理念があるから、ですか」

「そういう意味でも、彼女達の愚行はこれ以上認められない。……約束するよ。
まずは私も変わっていく。君達の戦いが無駄ではなかったと、そう証明する」


提督は静かに立ち上がり、さっと帽子を被る。


「それがこれから、私達のやるべき戦いだ」

「提督、ありがとうございます」

「ではお大事に」


そのまま笑顔で去っていく、老紳士を見送り……リンゴを持ち上げ、じっくり眺める。


「戦いは続くわけか」

≪当然ですよ。戦場でなくても、人は戦い進むものです≫

「なら、僕も」


お見舞品のリンゴを、皮ごとかじる。

うーん……甘さが強めなタイプだね。生でも美味(おい)しいよー。


「のんびりはしていられないね」

≪えぇ。旅にでましょう≫


そう、旅だ……回りたいところ、たくさんあるしね。派手にいくよー。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


JS事件解決から、一週間――。

季節は十月頭。ようやくカタがつき始めている。

この事件はジェイル・スカリエッティ事件――JS事件と名付けられ、数々の波紋を呼び込んだ。


そりゃ当然だ。

全部のきっかけは最高評議会――局のトップだしね。

普通にスキャンダルだよ。局が潰れるレベルの影響だ。


世界はともかく、個人個人の処理もあり……本当に大変だった。特に私らだよ。

まぁクロノ提督とかがフォローしてくれたので、私とサリは職場復帰は果たせた。

六課も隊舎の復旧作業が予定されているようで、今月末には完全復活とか。


そんなやっさんも事件後、やっと自宅に戻れた。……すっげー嬉(うれ)しそうだったなぁ。

自分の家が好きだもんね。元引きこもりだから余計にさ。

でもさ、なんで生きてるのよ……! いや、生きていることは喜ばしいのよ。


でも軽傷で、翌日には全快って。核爆弾の件も交えると、もう人間の領域を超えているよ。

ただそれは、やっさんだけじゃない……そう、ないんだよなぁ。

元々重傷だったギンガちゃんを除き、なんと爆破被害者一四五二名全員が軽傷。


死傷者なしで、四時間も経(た)たず全員救助完了。そのまま医療施設へと搬送された。

魔力爆撃による後遺症もなく、回復に向かっている。やっさんはそんな中で、早めに抜けられた一人だ。


まぁそれで運がいいのは、ハラオウン執務官と言うべきか。

一人でも死んでいたら、間違いなく罪に問われていただろうしな。

でもクビだよね、今度こそクビだよね。当然だよねー。


ただ、やっさんは戻ってからかなりゴタゴタしたとか。

原因は当然ながら、今回やっさん相手にかましてくれた……リンディ提督だよ。

なぜ自分達の言う通りにしなかったのかと、相当ヒステリックに責め立てた。


更にスカリエッティの逮捕やら、フォン・レイメイの件を六課に譲れと言ってきた。

結果その発言が外部にリークされ、リンディ提督は批判の嵐。

六課の現場スタッフは頑張ったのに、上が台なしにするという構図になっている。


いやー、ヒドい状況だねー。

……サリの話通りなら、リンディ提督は”辞めようにも辞められない”のに。

自らその道を選び、檻も同然な役職へと飛び込んだ。だから辞められない。


あのおばさんはもっと苦しみ続ける。

このまま辞めて、局のことなんて忘れた方が……楽になれたのに。



そんな苦しみをさて置き、やっさんも早々に旅に出た。

スカリエッティの賞金は結局、もらえなかったから……傷心旅行?

ロッサとシャンテに、三億分のフォローを――その願いは果たされつつある。


ロッサは局員だから、賞金制度の対象外。ただ臨時ボーナスはたんまりもらえそう。

対してシャンテは民間人だから、協力費という形で……でもシャンテもしっかりしてるよ。

それを預かろうとした親御さんを、躊躇いなく一喝するんだから。


――うっさい! そう言ってあたしのお年玉――合計一万五千円を勝手に使ったのは誰!――

――そ、それとは違うだろ。な? シャンテ……さすがにそんな、大金を持っているのは――

――じゃあいいよ……ただし、びた一文でも手を付けたら、またグレるから――

――シャ、シャンテ!――

――言っておくけど、あたしが一度グレたの……お年玉の件が原因だから――

――え――

――原因だから――


――なので私とカリムの方で、信頼できる外部の人に管理してもらう手はず。

お父さん達も猛省しているし、勝手に使われることはないでしょ。

というか……あのときの、シャンテの目はマジだった。


びた一文でも使ったら、殺す――そういう目をしていたもの。

みんな、覚えておくといいよ。子どものお金を勝手に使ったら、一生信用されないってね。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


私は特別総務統括官として、あの子に命令した。

六課へ入り、局員となり、私達のために進む。

管理外世界の友人とも、その技術とも、忌ま忌ましい質量兵器とも縁を切る。


そうして私が望む――私が描く道を進む。

そうすれば幸せになれると、そう説いた。

家族から手柄を奪うことがどれほどに愚かしく、間違いかも告げた。


なのに……。


「ですから、その件は……一体何が間違っていると言うのですか。
フェイト執務官は囮(おとり)とされたのです。何のサポートも受けず、ただ見殺しに」

「そもそも部隊長の命令を無視し、飛び出したのは彼女でしょう。
結果”英雄”たる彼女が対処すべき、量産型オーギュストへの対処が遅れた」

「更にフェイト執務官は、スカリエッティの殺害をも企てた。
最後に彼へ攻撃したとき、デバイスは殺傷設定をオンにしていた。
……あなたの命令通りに……リンディ提督、それを阻止することの何が問題と?」


本当に愚かしい。また会議に呼ばれ、糾弾され続ける。

毎日、毎日、毎日……しかもこの愚者達には、予言の件が使えない。


この間の査問委員会は、予言を知っているメンバーばかりだから通じた。

まだ私の愛は、私の融和は、局全体に広がっていない。


「聞いてください。あの子は三億というはした金のために、家族を売ったんです。最低な、金の亡者と成り果てた。
そんな卑劣を糾弾し、正そうとした……母親として、局員の先輩として。それでなぜ」

「蒼凪くんはあなたと縁を切り、局員でもない……あなたはGPOともめ事を起こしておいて、まだ分からないんですか」

「また嘘をつきましたね、リンディ提督。……蒼凪くんは一つだけ条件を付け、賞金については判断を任せると言っています。
その条件も、アコース査察官達への正当な評価と報酬――彼が金の亡者なら、こんなことは言わない」

「それなら、フェイト執務官とて同じでしょう? 彼らが邪魔をしなければ、スカリエッティ達は排除できたんです。
そう……最高評議会こそが諸悪の根源と貶(おとし)め、のうのうと生きている彼らを!」


そう告げても、彼らは私を哀れむばかり。

頭がおかしいと……私が間違っていると。

それすら分からない、愚かな女だと蔑む。


「ではもう少し時間をください。そうすればあの子にも必ず分かってもらえます。一体何が幸せか、何が間違いか」

「嘘を本当にする猶予など、誰が与えるとでも?」

「嘘ではありません……なぜですか! なぜ私を信じてくれないのですか! 私は特別総務統括官、リンディ・ハラオウン提督!
――あの子とフェイト、クロノの母親! 英雄:機動六課の後見人ですよ!」

「信じられませんよ、あなたには嘘が多すぎる」

「全くですな。リンディ提督、特別総務統括官などと言って調子に乗っているうちは、誰もあなたを信用しませんぞ」

「無論あなたのために、人員を動かす人間もいません。上はともかく、本局はその意志を固めています」

「そんな……どうしてなの! あなた達は異常よ! 私達は”英雄”! 何も間違いなんてない」


これは、提督達にも念押ししなければ。

私の愛が、私の融和が、誰にでも届くように。

それができなければ、予言のことを……当然でしょう?


局が駄目ならば、世界に問うしかないもの。


「間違ってなんて、いないわ――!」


きっと認めてくれる。世界を救った英雄:機動六課を作り、導いた、この私を認めてくれる。

確信があるわ。だって約束してくれた。


――いいだろう……リンディ提督、あなたを今このときより、特別総務統括官として任命する――

――特別総務統括官?――

――そうです。今回の事件を受け、更なる体制強化が必要だと痛感しました――

――あなたはこれから、独立部隊――ワンマンアーミーとなるのです。
通常の指揮系統から離れ、独自の動き方を可能とする――


私は神の後継者。だからこそより”特別”な場所へ進むことができる。

そうよ……隔離なんかじゃない。通常の指揮系統から離れ、『何もできない』状態にはならない。


そんな嘘をつくはずがない。私はちゃんと、信じてもらえるよう話した。


――一切の束縛を受けない、あなたの思い通りにできる場所だ――


なのにどうして、私の思い通りにならないの……!


あぁ、やっぱり提督達ともう一度話さなくては。

そうして分かってもらうの。分かるまで、何度でも話すの。

そうでなければならないし、認めないのは異常。


そうよ……あり得るはずがない。

私が、彼らの策略にハマったなんて。


特別総務統括官――それは特別だった。

『特別に隔離された』総務統括官。それが今の私……そんなものは信じない!

私は神なのよ! 神の後継者……それに、そんな仕打ちはできない!


でも現実は無情だった。

何もできない。

誰からも愛されず、信じられず、ただ無視され続ける。


私の声はもう、誰にも届かない。

レティも、クロノも、エイミィも、はやてさん達も……誰も、私と声を交わそうとしない。

あの子と同じように……私の意志は、誰にも伝わらない。


聞いてくれるのは家族(フェイト)だけ。でもその家族の声と頑張りは、決して認められない。

私を信じているから……私の思う、正しい大人になってしまったから。


そうして実感する。

私は自ら、この”檻(おり)”に閉じ込められたのだと。

でも離れられない……まだ、チャンスがあるはず。


神の頂きへ届くチャンスが、どこかにあるはず。

そう足掻(あが)き、足掻(あが)き、足掻(あが)き――足掻(あが)き続けて、全てを失っていく。


――ここは地獄だった。頑張ったはずなのに、信頼を掴(つか)んできたはずなのに。

ただ愛されたくて、ただ認めてほしくて、声をあげてきたのに。


手に入れたのは、孤独という名の――地獄だった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


今頃フェイトやリンディさんは地獄だろう。でも……そんなのは知ったこっちゃない!

現在僕とアルトは地球へ戻り、横浜の夜景を見ながらノンビリしていた。


「それはそれは……また大変だったなぁ」

「でも最高のパーティではありました。これからもっと最高になりますけどねー」

≪何人かは地獄行きでしょうしね。楽しみですね≫

「いい趣味してるよ、お前ら」


そう言いながら鷹山さんが、僕のグラスにワインを注(そそ)いでくれる。


「あ、どうも」

「だがやっちゃん、油断してると……また爆弾でドガンだぞ。もうね、俺達が言うんだから間違いない」

「爆弾、ミサイル、また爆弾、そして核爆弾……お約束になったからなぁ、お仕置きタイム」

「えぇ、だから気をつけています。ジンクスにならないよう、慎重に……!」


そう……横浜・港署に、無事帰還と報告にきました。

その結果大下さんと鷹山さんに、テラスで夕飯をごちそうになっている。

やっぱり心配はかけていたようで、仕事はそこそこに引っ張られ、美味(おい)しいおつまみやパンをめいっぱい味わっています。


なお魔法のこととかは、もうとっくにバレています。いつものことだね、うん。


「でもミッドチルダかぁ。面白そうな場所だよな、タカ」

「ハマには負けるだろ」

「夜景は奇麗ですよ」

「ハマには負けるだろ」

「美人も多いですよ」

「……蒼凪君、ちょっとあの……次元転送? そういうの、できないかなぁ」

「そこはハマに勝つのかよ! あ、俺も興味が」


はいはい分かった……考えておくから近づくな! 鼻息荒すぎ! どんだけ結婚願望が強いの!?


「分かりました。じゃあ……紹介しますから」

「「え、マジ!?」」

「ミッドじゃないですけど……765プロって知ってます? 最近売り出し中のアイドル事務所なんですけど」

「知ってる! 三浦あずさちゃん……俺の第四天使兼女神!」


わぁ、大下さんは早速目をつけていたのか。瞳がキラキラしてるよ。


「そこの事務所さんとはちょっと関わりがあって」

「……ユージ君、また君の天使が奪われてるけど」

「貴様ぁ! フィアッセさんで満足できないってか!」

「違いますよ!」

「じゃあ紹介してみせろよ、三浦あずさちゃん……俺の第四天使兼女神を!」

「できませんから! アイドルですからね、あずささん! ……なので事務員の方を。
独身で今年二十九歳。ビジュアルはそのあずささんに負けず劣らず」


携帯を取り出し、以前撮影した画像を見せる。そう、事務員の音無小鳥さんです。


「この……ショートカットの方が、音無小鳥さんです。結婚願望もあるそうで、いい出会いを望んでいるんですけど」

「「おぉ……おぉぉぉぉぉ!」」


画面に注目した二人は、ハイテンションで両手をたたき合う。


「よし蒼凪、遠慮なくどんどん食べろ!」

「今日は奢りだこんちくしょう!」

「ありがとうございます! ……でもこの量、さすがに奢(おご)りは悪いような」


実は帰還祝いも相まって、かなりの量……食べきれるかなぁ。スターライトをぶっぱした直後ならいざ知らず。


「未成年が遠慮をするな……って、言えないよなぁ! 賞金総額七億だろ! 三億取りっぱぐれたけど!」

「その年で俺とタカより金持ちたぁ、どういう了見だ!」

「パーティを楽しんだんですよ、話したでしょ?」

≪今は一億ですね。フォン・レイメイの方が未払いですから」


スカリエッティの賞金は逃した。それはまぁ、仕方ないさ。

ただ……協力費ももらえる予定なので、やっぱり大富豪だ! おっしゃー!

そこで鷹山さん達は顔を見合わせ。


「「蒼凪課長」」

「はい?」

「「ゴチになります!」」


素早く頭を下げてきた。というか……おごるって言ったのに、前言撤回してきたぁ!?

相変わらずのクイックリー! 五十代半ばが目前に迫っても、相変わらずで安心したよ!


「いいですよ」

「え、マジ!? 蒼凪……お前、いつからそんな太っ腹に!」

「ほんとだよ! 身長は変わらずなのにさぁ! ……やっぱあれ? 例のシルビィちゃんと、アバンチュールで大人になったから」

「お前……俺は二十歳を過ぎてからだったぞ! 大人になるのが早すぎだろ!」

「フィアッセさんもちゃんと受け止めろよ! フェイトちゃん……は、いいか。凄(すご)い大ポカしたし?
だからフィアッセさんと、シルビィちゃんと、リインちゃん。みんなゆかなさんボイスでスリーコンボ! 良いじゃないの!」

「違いますよ! というか鷹山さんを止めてー!」


掴(つか)みかかってきた鷹山さんを何とか払い、大きくため息。


「……いろいろ心配もかけましたし、そのお詫(わ)びも兼ねてってことで」

「蒼凪……! よし、ドンペリ持ってこーい!」

「こっちはキャビア・フォアグラ・トリュフの三大珍味盛りだくさんじゃあ!」

「遠慮なしか、アンタら!」

「あと、音無さんとの引き合わせもよろしく!」

「頼むぞ、蒼凪!」


とことんまで乗っかるつもりか! くぅ……でもいいかー。

以前武勇伝的にお話ししたら、春香達だけじゃなくて、小鳥さんも興味があったようだし。

それに……律子さん曰(いわ)く、結婚願望が悲しくなるほど強くなっているらしいし。


軽いお食事から始めるのも、いい感じかも。

無茶苦茶(むちゃくちゃ)なのは変わらずだけど、人柄は保証できるしね。二人揃(そろ)って。


「――きーいーたーわーよー♪」


……背後から伝わる、このおぞましい声は……!

慌てて振り返るとそこには、笑顔の真山課長と課長(トオル)が!


しかも真山さん、またど派手な格好! 何、そのヴァイオレットなカツラ!

何、その青と黄色が入り交じった、ロールシャッハテストみたいな服!



「げ……真山さん!」

「あたし達もいるよー」

「「ども!」」

「水嶋! 鹿沼!」


そしてその右脇のテーブルには、水嶋さんと鹿沼さん、早苗さんまで……!


「何々、みんなもやっちゃんの武勇伝が気になってたわけ?」

「実は。でも蒼凪さん、水くさいなぁ。賞金がっぽりって」

「そうそう。俺に相談してくれれば、株式投資でどーんっと」

「水嶋くん、この間二百万ほど損したって言ってなかった?」

「まだ許容範囲だから!」


水嶋さん、そんなことが……!

よし、株式投資だけはやめよう! 僕は堅実に貯金するんだ!


「トオル、お前まで……チューリップが枯れたからって、カオルとデートかよ」


だよねー。同席だし、そうとしか見えない。

でもよりにもよって……鷹山さんの嘆きも当然で。


「終わったな、男として」

「せめて早苗ちゃんを誘えよ。まぁ両手に花で、お前の枯れ木なんていらないだろうけどさ」

「馬鹿言わないでくださいよ!」

「そうよ! こんな課長止まりの男なんて、もう用なしよ!」

「付き合ったみたいに言うなぁ!」


そしてすり寄ってくる真山さんを、何とか回避。そのまま鷹山さん達の周囲をグルグルグルグル。

更に水嶋さん達まで加わって、追いかけてくる……全然止まらない、この人!


猛きん類みたいな目で、僕を睨(にら)んでくる! てーかよだれ……よだれー!


「六億……いえ、七億!? 素敵、抱いて!」

「恭文くん、アバンチュールってどう……婦警さんとアバンチュール!」

「嫌ですよ! 明らかに金目当てじゃないですか! というか三億かさ増しされてるー!」

「何言ってるのよぉ! 初めてのラブホテル、あたしとだったじゃない!」

「いかがわしいことは何もしてないー!」

「じゃあ蒼凪さん、ここは間を取って……ハワイ行きましょ! 射撃場でばんばんと!」

「鹿沼さんは何の提案!? それ自分が撃ちたいだけだよね! 休暇でいけー!」


そうツッコんでも、金の亡者どもは止まらない。ああもう、不用意に話すんじゃなかったー!


「責任取りなさいよ……あたしも初めてだったんだからぁ!」

「「「嘘つけよ……」」」

「あ”!?」

「「「いえ、何でもありません! どうぞどうぞ!」」」


勧めるなぁ! ちょ、やば……一旦退避だぁ!

なので慌ててテラスから飛び出そうとすると、たやすく回り込んでくる。


「カオルちゃんからは逃げられないー♪ カオルちゃん、だーっしゅ!」


反転すると……追いかけてきたぁぁぁぁぁぁぁ! なんか凄(すご)い俊足で追いかけてきたぁ!


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「うわぁ……課長、それはどん引きです」

「俺も、同じく……ほら株式投資(みずしま)、行ってやれよ」

「いや、あれと同類にはなりたくない……というかほら、俺は冗談だったし」

「だよねー。というかあたしも」


そう言って早苗さん達は素早く離脱。


「というか、人の金で射撃旅行とか駄目だよな。自分の金で撃つから楽しいんだよ」

「鹿沼、いいこと言うな。……蒼凪、俺とユージも冗談だ」

「そうそう。その気持ちだけで十分だから」

「というかほら、僕達も大人のプライドがあるからね? 君はまだ未成年だし、背伸びしすぎだって」


それは有り難い。落ち着いてくれて嬉しい……でも嫌だ! 助けてくれないのは嫌だぁ!


「だったら止めてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

『無理!』

「断言するなボケがぁ!」

≪楽しそうで何よりですね。……私以外の女がそんなにお好みですか≫

「何でそこで嫉妬!? ちょ、来るな……来るな来るな! 来るなぁぁぁぁぁぁ!」


――こうして僕の、顔なじみを回るどんちゃん騒ぎな旅は始まった。

でもドンペリは認めない。世界三大珍味盛り合わせも認めない。


だって、三億は寄附するから。


みんな、待っててよ……もうすぐ届けるから。


(act.35へ続く)







あとがき


恭文「というわけで……あむ、やっぱりあったじゃないのさ。ボーナスステージ」

あむ「あんなの予測できるかぁ! でもアンタ、なんで生きてるの」

恭文・古鉄≪「僕(私)達、運がいいから」≫

あむ「それフラグじゃん!」


(ぴこーん。古き鉄コンビ、またまた爆発オチフラグが成立しました)


恭文「というわけで、JS事件は片が付き……リンディさんにはより厳しい状況が」

あむ「恭文、あれってリストラ部屋とか言うのじゃ」

恭文「常時監視状態だから、それ以上だよ。もちろん出世もできない……フェイトも含めて」

あむ「だよね……!」


(気づかず飼い殺しにされ、用がなくなったらポイ捨て。もっと言えばドキたまのアレでポイ捨てです)


あむ「アレで!?」

恭文「まぁそれはそれとして……横浜はいいねぇ」

あむ「奢らされてるのに!」

恭文「……みんな、本当に冗談だったみたい。むしろ僕が奢られた」

あむ「じゃああの」

恭文「真山さんは、春閣下と同質だから。女性を超越した何かになっているから」

あむ「どういうこと!?」


(『そうですよ! 私、あんなぶっ飛んでないー!』)


あむ「え……」


(『どうしてあむちゃんは驚愕!? うぅ、恭文(A's・Remix)ー!』
『よしよし……でも仕方ないでしょ。暴走してるでしょ、おのれ』
『それでも私は女の子なの! というか……恭文の前では、そういう部分はいっぱい見せてるつもりだよ? ボディランゲージも込みで』)


あむ「……恭文……!」

恭文「あっちは放置で……いいね」

あむ「あ、はい。でも、次でいよいよ最終回か」

恭文「もう完全にエピローグだね。そして予言絡みの件で脅迫までかまし、リンディさんは飼い殺し&失墜が決定。
フェイトもそれに追従し続けるなら……それでもフォワードの面々やはやて、なのは達は、本編よりも幾分か前向きに」

あむ「そうだね……六課は嘘だった。でもそうしたのは最高評議会のせいだけじゃなくて、自分達のせいでもある。
はやてさん達、そう自覚して、自分にも怒って、頑張ろうって思ってるし……スバルさん達だって全力で突っ走ったし……ところで」

恭文「うん?」

あむ「ノーヴェさんは」

恭文「では次回をお楽しみにー!」

あむ「スルーするなぁ! ま、まさか銃撃で……そうなの!? そうなのかな!」


(死んではいない。ただこのときは引きこもり気味だったので、出しにいだけ。
本日のED:舘ひろし with COLTS『CRY OUT〜泣いていいよ〜』)


恭文「点火、そして爆発――そこに至るまで、数々の激闘があったなぁ」

古鉄≪結局元のJS事件話だけじゃなくて、『もしもの日常』もリマスターした形になりましたね≫

恭文「そうだねぇ……おぉそうだ。レジアス中将と接触前に撃退した、殺し屋連中の賞金もあるんだ。戻ったら受け取らないと」

古鉄≪しばらくは安泰ですね。それで、どうします≫

恭文「一旦、ミッドからは離れた方がよさそうだね」

古鉄≪そうですね……結局副隊長や風見鶏の言いつけも、破る形になりましたし≫

恭文「もちろん六課だって、このままじゃ済まない。見たデータ通りなら……内偵が進む。フェイトもこれで変わられなかったら、もうおしまいだ」

古鉄≪助けないんですか≫

恭文「もう僕の限度を超えてる。巻き添えもごめんだし?」

古鉄≪それもそうですね≫

恭文「何より殺されかけた以上、まずは土下座だ……!」

古鉄≪ですね。私のライフルも火を噴きますよ≫

恭文「どこにあったの、ライフル!?」(注:まだぬいぐるみボディが出る前です)


(おしまい)






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