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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
act.33 『約束』

飛天御剣流最終奥義、天翔龍閃――そう、るろうに剣心に登場した超神速の抜刀術。

左足――刀を携えた方で踏み込み、その加速も抜刀速度に載せ、神速を超神速へと押し上げる。


しかし今みたいに防御されたとしても、超神速の刃は空気を切り裂き、真空状態を発生。

その断層が急激に戻ろうとすることで敵を引き戻し、再度の踏み込みにより、更に鋭い二撃目を放てる。


でも今回は、魔力の相互反応も関わっている。

集束魔法同士が激突したことで、周囲の魔力が更に収束。


その反応が転送魔法などの発動も阻害し、僕達は二の太刀をぶつけるしかなくなった。

奴は魔力を再度集束しようとするけど、無駄だ――。


【「はああああああ」】


その前に、刃は打ち込む!


【「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――!」】


そして、再び左足を踏み込む。

虚空を踏み締め、集束魔力を粉砕するかのように、刃が打ち込まれる。


――蒼い剣閃は魔力を、打ち込まれた魔剣を両断した。

狙ったのは、修復しつつあった僅かな綻び。


刃を数々打ち込み、エクレールも絡めた螺旋丸を打ち込み、更に天翔龍閃(一発目)を打ち込み……ようやくできた綻び。

そう、僕はずっとただ一点だけを狙っていた。出力じゃあ絶対に勝てない。

でも速度と精度なら……一週間で追いついてきたのは、確かに驚異的。


でもね、それを最大の武器として高めてきた、僕の”時間”には敵(かな)わない。


刃が断ち切られ、切っ先が奴の前で踊る。

そのまま奴は落下……そして、爆発が発生。

集束魔力が奴を、断ち切られた魔剣を襲い、飲み込み、地面へと叩(たた)きつける。


その瞬間、再度爆発……使用可能となった転送魔法で緊急退避。

一気に範囲から逃れ、息を吐き出す。

それでも警戒は緩めず、中心部で燃える、奴の姿を見る。


誰もいない道路に降り立つと、爆発は止み……クレーターの中で、奴は血みどろになって倒れていた。

折れた魔剣は地面に突き刺さり、ひび割れ、静かに砕けていく。


「……楽しかった……ですね」

「あぁ、そうだね」


でも……そう言いかけた言葉を飲み込む。

言ったところで、もう遅い。全部終わったことだから。


「一つ、聞かせてください」

「お前の代わりならいないよ」


だから一つだけ。


「いるはずがない」


代わりを探す必要はない。

同類のいない世界で、僕はまた一人になる。

でも代わりはいない……いるはずがない。


それもまた不可逆の運命(さだめ)。

それでいいんだと、笑って言い切れた。


「……ありがとう」


そう言いながら退避――。

鳳凰(ほうおう)の魔剣は半径一キロほどの爆発を呼び、周辺の建物を尽く薙(な)ぎ払った。

ゆりかごのために退避行動を済ませていなければ、間違いなく被害者が出るような範囲。

それに寒気を覚えながらも、その消失を……悪意の終わりを見送る。


≪……鳳凰(ほうおう)の魔剣、及びフォン・レイメイの反応、消失≫

「おのれは大丈夫?」

≪当たり前でしょ。まぁフルメンテは欲しいですけど≫

「幾らでもするよ。これからもずっと一緒なんだし」

≪それも、当たり前です≫

【ですですー。リイン達は、ずーっと一緒なのですよ?】


その言葉に頷(うなず)き、ユニゾンを解除。

スーツ姿に戻った上で、そっとサングラスをかけ直した。




『とある魔導師と機動六課の日常』 EPISODE ZERO

とある魔導師と古き鉄の戦い Ver2016

act.33 『約束』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


死に神を止めると、ロッサと六課の通信主任がアジトの自爆を止めた。

変身解除してから、それに喜んでハイタッチ……でも、簡単に話は進まなかった。

だって私とシャッハ、ドンブラ粉は……シャナに銃を向けられている状況で。


「もうやめなさい。アジトの崩落も止まりましたし、スカリエッティと戦闘機人達も確保されていると」

「そうだよ。確かに悔しいけど……負けたんだから。もう投降しようよ」

「あたしには関係ない」

「このゆとりが……!」

「言ったでしょ? 犯罪者に協調性を求めるなって」


スカリエッティとは別枠ゆえに、関係なし……でも余りに愚かでもあった。


「だからどきなさい……あたしは、捕まるわけにはいかないのよ」

「フォン・レイメイを殺すから?」


思い当たるフシがあって、ちょっとツツいてみる。

すると……僅かにその銃口がぶれた。


その瞬間を狙い踏み込み、右薙一閃。

二発の銃声が響き……私は、肩と右側頭部から血を流す。


「ヒロリス!」

「大丈夫」


そしてシャナの両腕下部が切り裂かれ、力なく銃が落ちた。

すかさずシャッハが飛び込み、首根っこを締め上げ拘束。


「どうして、それを……」

「アンタの目は、アイツに蹂躙(じゅうりん)されるだけの……負け犬じゃなかった。だから、何となくね」

≪そしてアンタの戦闘技能だ。……徹底的に磨き上げられた詠唱速度に、転送魔法の応用。あれは瞬間詠唱・処理能力持ち相手を想定していただろ≫


図星らしく、シャナは顔を背けた。


……体を、尊厳を汚されながらも、心は折れなかった。

ただ勝利を――ただ自由を得るために、鍛え続けてきたわけだ。


「そうよ……だから、捕まるわけにはいかなかった! 私は……私は、アイツを倒すのよ!」

『それなんだけど、もう必要ないよ』


そこでロッサが画面展開。心配そうにこっちを見てくる。


『ヒロリス、怪我(けが)は』

「左肩は直撃だけど、頭は掠(かす)めただけさ。それよりロッサ」

『フォン・レイメイは、蒼凪恭文が倒した。ロストロギア【鳳凰(ほうおう)の魔剣】も破壊したからね』

「え……」

『レジアス中将、そしてゼスト・グランガイツを殺害後、彼と一騎打ちさ。
おかげで市街地は広範囲でひどい有様だけど、避難が完了していてよかった』


それにシャナはポカーン。

同時に……恐怖もしていた。


「嘘……それじゃあ、あたし……」

「……とりあえずさ、死ぬのは待とうよ」


だからハッキリと止めておく。

……恐怖だ。だって目標が奪われたんだから。

あれほど鍛え抜いた理由がなくなったら、コイツはどうなる。


もしかしたら絶望して、死ぬかもしれない。だから……止めておく。

そんなのは無駄だ。もうこれ以上、この件で誰かが死ぬのは嫌なのよ。


「やっさんに嫌みの一つでも言ってやりな。あたしが倒したかったのにーって」

「何よ、それ……そんなんで」

「そうして美味(おい)しいものを食べて、身なりを整えて、しっかり寝て……朝起きて、また食べて、働いて、寝る。
そうやって一日過ごして、そうしたらまた一日、一生懸命生きて……そうして探してみなよ、アンタのやりたいことを」

「だから、何よ……何なのよぉ!」


そうしてシャナは泣き出す。

解放された喜び、目標を奪われた苦しみ。

両方を織り交ぜ、泣きじゃくる。


子どものように……ひたすらに、感情をまき散らした。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ロストロギア、ジュエルシード……それを用いた広域虚数空間生成。

残念だがその作戦は、既に見破っていた。だからこそ。


「これで……終わりなのだぁ!」


ミッド北方にある第八発電所――その中心部に陣取っていたナンバーズを追撃。

俺がブーメランブレード四本をへし折り、アンジェラが肉薄。


気をロッドに込め、腹に刺突――。

結果、ナンバーズVII・セッテは吹き飛び、発電所の柱に叩(たた)きつけられた。


「馬鹿……な」


そうしてセッテは、信じられない様子で床へとずり落ちる。


「なぜ……まだ、サンプルH-1と……再戦も」

「やっても無駄だ。……人間は、戦機(お前達)より強い」

「……戦う以外のことがいらないなんて、アンジェラは絶対嫌だよ。
アンジェラもバイオソルジャーだけど、リオネラママやシルビィ、メルビナ達から、いろんなことを教わったのだ。だから」

「理解、不可……能。ならば、我々は……我々、は」


そしてセッテは、意識を手放した。

ようやく鎮圧か……しかし面食らっていたな。

GPOメンバーと維新組(地上居残り組)、及び鬼畜法人撃滅鉄の会が、各発電所をマークしていたのだから。


というわけで、早速通信。回線は何の障害もなく、滞りなく繋(つな)がってくれる。


『あ、補佐官? こっちは大丈夫よ。会の連中と一緒に、ジュエルシードを発見したわ』

『フジタさん、僕も問題なしです。レイカさんとキョウマさんからも……高町教導官には感謝ですね』

『せやなぁ。あのエース・オブ・エースのおかげで、細かい設置場所まで分かったさかい。
……機動六課もやるやないか。フジタ、分署攻撃の件はチャラにしたり』

「元からそのつもりですよ。でも総大将が進言とは珍しい」

『アホ! 仕事した奴には、相応の報酬が必要やって言うとるだけや!』

「失礼」


そうだな……機動六課も相当なものだ。

そもそもジュエルシードの活用については、向こうの予測があればこそだ。

それが予想通りだったからこそ、これだけ迅速な動きが取れた。


俺達は実行隊というだけで、方針自体は六課の働きが大きい。

ハラオウン執務官は相当馬鹿だったそうだが、他の人員はそうでもない。


『とにかく……かなり綿密に設置されとるから、取り外しにはもうしばらくかかる。自分らで警戒するで』

「了解」

『割り込み失礼します。機動六課ロングアーチ、シャリオ・フィニーノ一等陸士です』

「フジタです。何か」

『各地で展開していたガジェットが、次々停止しています。クアットロの撃墜によるものかと』

『そう……ほんと大金星じゃない』


端的だが、ナナも褒めているらしい。素直じゃないからな、コイツも。


「補佐官、何だか楽しそうなのだー」

「そうだな……あぁ、嬉(うれ)しいんだ。俺は」


しかし高町なのは……改めて挨拶したいものだと、ゴーグルの奥でつい目を細める。


『……あれ』

「シャーリー、どうしたのだ?」

『いや……なのはさんとの回線が、急に途切れて』

「なんだと」


慌ててゴーグルに右手を当て、長官達に通信を送る。……だが、ノイズばかりが返ってきた。


「メルビナ長官達ともだ。フィニーノ一士、ゆりかご内部のガジェットは」

『そちらも不明……そんな!』

「もう一暴れが必要か……!」


恐らくだが……管制者がロストしたことで、自動防衛が走ったのだろう。

これでは脱出が困難な場合も予想される。


とにかくシルビィ達の安否確認だ。最深部からは離れているだろうし、通信が繋(つな)がるかもしれん。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ポータブルキャノンのチャージを終えたシルビィさんと、全速力で移動。

なおシルビィさんは飛べないので、うちが抱える形に……できませんでした。

ポータブルキャノン、重量が百五十キロ以上あるんやで!? シルビィさんと合わせたら二百キロ弱!


そんなん持って、高速飛行なんてできるかぁ! というか、それでよく飛んだり跳ねたりできるな!


驚きながらも玉座へと進んでいくと、前方に敵機反応。

更に警戒警報もビービー鳴り響き、ゆりかご内部はまた雰囲気が変わった。


どういうことかと思っていたら、通信が届く。


「ほなシャーリー、なのはちゃんと通信は」

『全く繋(つな)がりません! 管制システムへのアクセスは、アコース査察官が引き継いでくれていましたが……そちらも閉め出されて!』

『駆動路破損、管制者不在。聖王陛下、戦意喪失』

「……八神部隊長、ストップ!」


シルビィさんの指示に従い、その脇に着地。


「シャーリーちゃん、とりあえず報告……中のガジェットは元気いっぱい」

『これより自動防衛モードに入ります。全機出動――艦内の異物を全て排除してください』

「そして聞いての通り」

『やっぱり……! すみません、ニムロッド捜査官! こちらでも救出部隊を編成するので、部隊長を!』

「了解!」

「うち、介護されるの前提……やろうなぁ」


AMFのキャンセル状態も予測されるし、むしろいない方が……とはいかんよ。

魔法が使えるうちは、一発でも多くぶっ放す。

幸い後方支援に徹していたおかげで、魔力消費はそこまでやない。そういうわけで――。


「全員、スクラップに変えたる!」

「右に同じ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


これでヴィヴィオの洗脳も止まる……と思っていたら、警報がビービー鳴り響きました。

地上との通信も繋(つな)がらなくなり、ヴィヴィオは苦しみながら……涙をこぼす。


「ヴィヴィオ!」


そうしてバインドを、ケージをプログラム破壊し、なのはに踏み込み――右ストレート。

咄嗟(とっさ)にガードするも、レイジングハートごと数十メートル吹き飛び、地面を転がる。

ちゃ、着地……できなかった。やっぱ、ブラスター3はキツい……!


追撃するヴィヴィオに対し、メルビナ長官がカバー。

鋭い剣閃を浴びせ、更に右ミドルキック。

バリア発生不可な距離から蹴り飛ばし、後ずらせる。


「ヴィヴィオ……もう、大丈夫だから」


レイジングハートを支えにして起き上がっても、ヴィヴィオは首を振る。


「来ないで……もう、帰れない。ヴィヴィオは”なのはさん”達のところに、帰れないの」

「ヴィヴィオ、今助ける……から」

「駄目……」

「駄目じゃない!」

「駄目なの! 止まれない!」


そのまま近づく……メルビナ長官には下がってもらって、ヴィヴィオの前に、ちゃんと、真っすぐに立つ。

大丈夫……ヴィヴィオは、意識を取り戻してる。

ならさっきの攻撃は? 止まれない……完全に支配から、脱却できてないんだ。


”レイジング、ハート”

”アルトアイゼンが送ってきたデータによると、彼女がレリックを埋め込まれたのは確定。
それがゆりかごとのリンクを繋(つな)いでいます”

”つまりレリックを取り出さなきゃ、このまま”

”えぇ”


自動防衛モードには、ヴィヴィオ自身も含まれているってことか。

だからこその”止まれない”。戦意を喪失した聖王まで、支配するなんて……!

ゆりかごなんて名称は、今すぐ捨てるべきだ。これは人をただの道具に貶(おとし)める……超豪華な棺おけだよ。


……そこで、ユーノ君から聞いた話を思い出した。

ヴィヴィオ自身は止まれない。レリックを取り出す方法は……残念だけど、一つしかない。

ただその前に、一つ確認。どうしても……知りたいことがある。


「ヴィヴィオ、もう……知ってるんだね」


その言葉で、ヴィヴィオの体がびくりと震える。

あぁ、やっぱりだ。ユーノ君、言ってたの。

アインへリアル襲撃が分かった後……通信を終える前に、手短に。


――なのは、ヴィヴィオを助けるつもりなら、覚悟しておいて――

――分かってるよ。今回は命がけだし――

――分かってない。……もしかするとコアとして必要な知識が、本人に逆輸入される可能性もある――

――逆輸入?――

――聖王としての記憶、人格がすり込まれる、とか。そこまでいかなくても、自分が”どういう役割を持って生まれたか”、それを教えられる――


ユーノ君曰(いわ)く、先祖の記憶を子孫が継承し、引き継ぐ場合があるそうなの。

記憶継承と呼ばれる症例は、レアケースながら局の医療機関にも登録されている。

その原因は様々。先祖が……プロジェクトFの基板となった、クローン技術を使用したせい。


ようは過去の生体改造で変異した遺伝子が、子孫に引き継がれ、それを自己の記憶として誤認する。

その辺りから、そういう話をしてくれたの。コアとしての最適化で、ヴィヴィオがヴィヴィオじゃなくなる危険性を。

どうも古代ベルカ時代では、記憶って……かなり雑に、扱われていたみたい。


でも、ヴィヴィオはちゃんとここにいる。それは嬉(うれ)しい……だけど、知ってしまったんだ。


「そう、だよ……私は……もう、ずっと昔の人をコピーしたもの。
なのはさんも、フェイトさんも、ホントのママじゃない……というか、ママが二人って時点でおかしかった」

「……うん」

「この船を飛ばすための鍵で、玉座を守るための兵器」

「それは、違うよ」

「ホントのママなんて元からいない。ただ優しくしてくれて、守ってくれて、魔法のデータ収集をさせてくれる人を……探していただけ」

「違うよ……!」

「違わないよ!」


叫ぶと、ヴィヴィオは踏み込み……泣きながら拳を振るう。

それをレイジングハートで防御。


「悲しいのも、痛いのも、全部偽物の作り物! 私は……この世界にいちゃいけない子なんだ!」

「違う!」


魔力を込めた、本気の一撃。柄を折らんばかりの、拒絶の拳。

それを踏ん張り、押し込み、ヴィヴィオを受け止める。

柄を掴(つか)まれ、引き寄せながら腹を蹴られても。


そのまま左フックを食らい、壁に叩(たた)きつけられても。

変わらず踏み込み、ヴィヴィオの前に立つ。


「来ないで!」


ここまでお世話になっておいて、アレだけど……メルビナ長官達は止めておく。

加勢はいらない……これは、私が流さなきゃいけない”血”だ。

腕や足から出血し、痛みが張り裂けんばかりに走る。


でも、大丈夫……痛くない。

強がりじゃない。

ヴィヴィオの痛みに比べたら。


心に走る悲しさに比べたら……全然、痛くない。


「だから……その人達も連れて、出ていって。私はこのまま、お空に消えるから」

「嫌だ。絶対、連れて帰る」

「偽物の私は、もう消える……それでいいからぁ! だから帰って!」

「帰るときは、ヴィヴィオも一緒だよ」


一歩踏み込むと、ヴィヴィオはアクセルシューターを展開。

それをこちらのシューターで即座に撃ち抜くと、踏み込み右エルボー。

それもレイジングハートで捌(さば)き、ヴィヴィオにクリンチ。


「離して……!」


右エルボーを肩に、左拳を頭に食らい、鮮血が走る。それでももがくヴィヴィオを押さえ込み、しっかりと抱き締める。


「もう殴りたくない! これ以上やったら、殺しちゃう……殺すしかなくなっちゃう!」

「殺されないよ。それでヴィヴィオも殺さない……今泣いているのも」


ヴィヴィオは魔力を放出――。

私のクリンチを解除し、吹き飛ばした上で連続ショートバスター。

両手で魔力を構築し、右・左と打ち出そうとする。


それをラウンドシールドで受け止め、何とか着地。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……サクヤが回復魔法を詠唱し始めたので、右手で制する。


「メルビナ長官」

「今は、やめておけ」

「……はい」


我々は手出しできない。

これは対話だ。同時に”親子げんか”だ。

血を流しても、痛みを払っても、手を伸ばせるか。


その覚悟を無駄にするかもしれない。そう思うと……一歩踏み込むことすら、怖く感じる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「悲しんでいるのも、全部ヴィヴィオの気持ち。偽物なんかじゃない――生まれ方なんて関係ない!
それをホントにできるのも、嘘にするのも、ヴィヴィオだけ!」


ヴィヴィオは、私が近づくと下がっていく。それでも近づきたくて、痛みを引きずりながら歩く。

もう戦うだけの力も残ってないけど、前に進む。

「泣き虫なのも、転んですぐ甘えちゃうのも、ピーマンが嫌いなのも。
私が落ち込んだとき……頭を撫(な)でてくれるのも、全部ヴィヴィオ……私の、大事なヴィヴィオだよ」

「なのは、さん……」


安心させるように笑いかける。

ヴィヴィオを怯(おび)えさせないように、笑いかける。


「……ママもね、嘘にしかけたんだ」

「え」

「みんなと描いた夢を……ヴィヴィオのママに、なれたらいいなって夢を。……でももうやめる。
自分の夢も大切にする。でも、ヴィヴィオの……本当のママになれるよう、努力もする。だから」


だから……渦巻く悲しみのまま、ヴィヴィオに届ける。


「ここにいちゃいけないなんて、言わないで! ほんとの気持ち……ママに、教えて」

「わた、しは……」


涙をこぼし、血を流し、一歩ずつ近づく。

そうだ、私はもうとっくに……この子が好きなんだ。

……リインフォースさん天へ還(かえ)る前に言っていたこと、ようやく分かった。


身命を投げ打つほどに、守りたい人。

それほどに、大切に思える誰か。

家族だったら……家族になれたら、そう思える子に出会った。


理屈じゃない。同情は……多少、あったかもしれない。

でもこれも、本当の気持ち。この子と一緒に、また……笑い合える日々を送る。

六課が終わっても、ずっと一緒。でも嘘をついていた。


教導官である自分、局員である自分。

戦うときになったら、どこまでも突き抜ける自分。

場合によっては、命すら危うい立場の自分。


そんな私が……結婚もしていない私が、家族になっちゃいけない。

一人残すことになったらって、怖がって……!

決意すればよかったのに。そんなことにはならない、そんな道は進まない。


必ず帰ってきて、ただいまって伝えて……そんな場所を、一緒に作ろうって。


「私……は……」

「うん」

「なのはママのことが、大好き……! ママと、ずっと一緒に……いたい……でも……でも」

「うん……!」

「ママ」


でも……そう続けてヴィヴィオは。


「助けて――!」


ようやく……本当の気持ちを伝えてくれた。


「助けるよ。何時だって……どんなときだって!」


ヴィヴィオはハッとしながら踏み込む。

……やっぱり完全に、支配から脱却できていない。

振るわれる左ストレートは、右の平手で受け止め防御。


骨にピシリと走る、嫌な感触。それはしっかり飲み込み、詠唱していた術式を発動。


≪Restrict Lock≫


なのはが最初に覚えた高位魔法<レストリクトロック>――。

ヴィヴィオの詠唱能力を計算に入れ、零距離で空間固定。

その体を十数本の魔力縄で徹底的に縛り上げる。


「な……!」


すぐさま離脱し、ブラスタービットを四機展開。

ビットは全方位に配置し、魔力を集束――。

私と、ヴィヴィオと、マクガーレン長官と、ランサイワ捜査官がまき散らした魔力。


この密閉空間内に漂い……集束しやすいよう、戦闘しながらもばら撒(ま)いた魔力。

レイジングハートを構えると、その穂先に、ビットの先端部に……合計五箇所の集束砲撃がチャージされる。


生まれるは星の光。

紡がれるは全てを撃ち抜く咆哮(ほうこう)。

決意と願いを込めて、この光で悪意を撃ち抜く。


ヴィヴィオを戒める悪意<レリック>だけを――。


「集束……砲撃」

「ヴィヴィオ、ちょっとだけ痛いの……我慢、できるかな」

≪傷の治療が得意な司祭もいます。御安心を≫


レイジングハートが軽くジョークを飛ばすと、ランサイワ捜査官が静かに頷(うなず)く。


「……うん……!」

「防御を抜いて、魔力ダメージをノックダウン……いけるね、レイジングハート」

≪いけます≫


その返事に満足し、レイジングハートのカートリッジを入れ替え。


「――限界突破!」


全力全開じゃあない……これは限界を超えた一撃。

身の安全も、後のことも省みない一撃。

それでも決意は変わらない。


私は落ちない。どこへ飛んでも、必ずこの子の元へ帰る。

あの星のように輝く、不屈の心はこの胸に――。


だからヴィヴィオには大丈夫と笑って、トリガーを引く。


「スターライト――」

≪Starlight Breaker ex fb≫

「ブレイカァ――――――!」


決意の咆哮(ほうこう)を合図に、五つの”星”は輝きを放つ。

ありったけの魔力を……カートリッジも全弾フルロード。


体に走る痛み。

ヴィヴィオが上げる苦もんの声。

それに構わず、ただ奔流の中心部を見やる。


こちらの放出する魔力。それに耐えきれないかのように、赤い輝きが現れた。

ヴィヴィオの胸元から抜き出されたそれを見て。


「ブレイク――」


ひび割れるレイジングハートと一緒に、更に魔力を込める。


「シュゥゥゥゥゥット!」


そして、星は悪意を砕く。

その瞬間部屋中に走る爆発――。

衝撃と魔力、体力の徹底喪失。


更に体中の血流が加速し、心臓が破裂せんばかりに高鳴る。

体の内側から焼かれているような、そんな衝撃。


それでも私は、墜落することなく……爆煙の中床に着地。

墜(お)ちない……もう、墜(お)ちない。その約束を胸に、レイジングハートを支えに、何とか踏ん張る。

中心部には、数メートルに渡るクレーター。狙った通りの破砕はできたようだけど。


「ヴィヴィ、オ……」


クレーターにフラつきながら近づくと。


「こない、で……」


中心部には、より大きな穴。

初めて会ったときみたいな、ぼろぼろな服が揺れる。

ヴィヴィオは、元の子どもに戻っていた。


その脇には力を失い、砕けた悪意<レリック>。

ヴィヴィオはそれにも目をくれず、立ち上がろうとしていた。

生まれたての子ヤギみたいに、必死に……その姿を見て、思い出す。


――ギンガが六課にきて、初めて模擬戦して……その後、隊長陣対フォワードで模擬戦して。

その後だ。ヴィヴィオがシャーリーと、マリーさんに連れられて、私達のところへきて。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「――はい、これにて終了」

「全員、防護服<バリアジャケット>解除ー」

『ありがとうございましたー』


今回は私達が勝った……勝った……かなり危うかったけどね!

というか、ティアが悪質! 今度は樹木を飛ばしてきたんだけど!


「ふむ……まぁまぁ惜しかったな」

「あの、ティア……分かってくれたかな。私達はリンディ提督が言うように、正しい大人として頑張ってるんだ。
魔導師としても、局員としても。だから私達のことを信じて、質量兵器は封印して」

「そういうお前は、反省文を書いておけ」

「ふぇ!? ど、どうしてですか、シグナム!」

「当たり前だろ! またいの一番で落とされやがって! あれほどショットガンには気をつけろって言ったのによぉ!」

「はう!」


はい、フェイトちゃんはいの一番で落とされました。

またショットガンを腹に……非殺傷設定のスタン弾とはいえ、どうして懲りないのか。


「……もはやフェイトさんを落とせることは、自慢にもならないですね」

「動きが読みやすいですしね。私が張ったアルケミックチェーンにも引っかかって、コケるし」

「はう!」

「むしろ如何(いか)にフェイトさんを利用し、相手のコンビネーションをかき乱すか……そこにシフトするべきかしら。
実際フェイトさんが墜(お)ちた後だと、隊長達も動きやすそうだったし」

「そ、そんなことないよ。あの……ね、なのは」


その言葉には、顔を背けるしかありませんでした。というか、シグナムさん達も。


「どうして顔を背けるのー! シグナム達までー!」

「生かさず殺さず利用して、最後の最後で仕留める……よし、今後はそれでいきましょ」

「ティ、ティア! さすがにそれは言い過ぎじゃ!」

「「はい!」」

「エリオ達まで賛成!?」


わーお、これはなのは達も予想外。というかフェイトちゃん、もはや威厳がない。


「……普通は職場で働く親を見ると、家とのギャップに驚き、見直すと言うが」

「真剣に仕事をしている背中で、親を尊敬するってやつだな。だが……フェイト、自覚しとけよ。
コイツらの辛辣な態度は、お前の背中を見て判断した結果だ。”当てにならねぇ”ってな」

「ひ、ひどいよー! ふぇー!」

「ヒドくないんだよ、フェイトちゃん。さ、お日様に謝ろうか」

「なのはまでー!」

「しかも隊長達まで! ギン姉ー!」


スバルは納得できないのか、ギンガに助けを求めた。

そう……困り果てているギンガを。あ、顔を背けた。


「わ、私は客分だから。フォワードの現場指揮はティアだし、その方針には従わないと」

「日和見主義って言うんだよ、それ!」

「にゃははは……じゃあみんな、しっかりクールダウン。その後はお待ちかねのお昼だよー。
今日の日替わり定食は……みんな大好きチキン南蛮定食! そしてふんわりオムライス!」

「えぇ! 僕、チキン南蛮が大好きなんです!」

「私もよ。……なのはさん、ありがとうございます。これで今日は最後まで頑張れる」

「……ティア、その……感謝してくれるのは嬉(うれ)しいんだけど」


あんまりに笑顔が深すぎるので、ちょっとツッコんでおこう。


「なのは、そこまで感謝されたこと、今まで一度もないような……」

「え、何か問題でも」

「いえ……なんでも、ありません」


うぅ、ティアとの力関係が負けている。

このまま敗北の歴史を刻み続けるのだろうか。

悩んでいると、シグナムさんが肩を叩(たた)き……”諦めろ”と首振り。


その慰め、必要なかったなぁ……! なのはの希望はどこ!?


「――ママー」


あぁ、希望はあった!

ヴィヴィオだ……ヴィヴィオの笑顔は癒やされる!

右側から駆け出すヴィヴィオ、その後を追うシャーリー、マリーさん、ザフィーラ。


でも……あれ、ちょっと速すぎるようなー。


「ヴィヴィオ」

「あんまり急ぐと転(こ)けるよー」

「だいじょう……ぶい」


あ、転(こ)けた。

というか今、”大丈ブイ”って……転(こ)けた拍子だよね! うん!


とにかくチェック……よし、怪我(けが)はしてない。


「ヴィヴィオ!」

「大丈夫」


左手でフェイトちゃんを制し、さっとしゃがんでおく。


「地面が柔らかいし、上手(うま)く転んだ。怪我(けが)もしてないよ」

「でも……」

「ふぇ……ママ」

「ヴィヴィオ、大丈夫……立てるかな」

「ママァ」

「ん、なのはママはここだよ。おいで……あと、”ふぇ”って言っちゃいけません。ドジになるから」

「なんの注意してんだぁ!?」


ごめん、やっぱり言いたくなって……どうしても言いたくなって!

とにかく笑顔で、両手を挙げて待ってみる。

心が痛くはある。でも厳しく、甘やかさないようにって決めている。


大丈夫……立てるよ、ヴィヴィオ。さぁ、こっちへ。


「駄目だよ、なのは……ヴィヴィオ、まだ小さいのに!」

「あ……」


フェイトちゃんは地面を切り裂くように駆けだし……ちょ、身体強化の魔法を使ってる!

結果はじけ飛ぶ土と草を全身に食らい、もがく羽目となる。


「うあぁぁぁぁぁぁぁ! 目が……目がぁぁぁぁぁぁぁ!」

『なのは(さん)!?』

「もう……駄目だよ、ヴィヴィオ。ヴィヴィオに何かあったら、ママ達心配しちゃうよ」

「ごめんなさい……」

「おい馬鹿! てめ、こっち見てやれよ! お前のせいでなのはが大惨事だぞ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――そのあと、フェイトちゃんにはしっかりお仕置きをした……制服も汚してくれたしね!

でもどうして……ううん、当然だ。


あのときヴィヴィオは、自分から立ち上がろうとしなかった。

フェイトちゃんが助けに入るまで、ずっと。

ただ涙目で、私を見ているだけ。助けて、ママって……。


でも、今は。


「一人で、立てるから」


そう言って、近くの岩に寄りかかる。踏ん張って……頼りない両手足を使って。

今はあのときと違うのに。頼っていい、助けてもらっていい。そのはずなのに。


「強くなるって……約束、したから」


ヴィヴィオはちゃんと、一人で立った――。


ママになるって言っても、難しいなぁ。

助けたいって思っても、それが邪魔になるときもある。

ううん、これからだ。ヴィヴィオと二人で、いっぱいお話しして。


少しずつ、私達の進み方を決めればいい。

欲しかったのはそんな未来。それを改めて自覚しながら、駆けだした。


クレーターを下り、体の痛みなんて払いのけ、そっと……あの子を、抱き締めた。

一人で立ち上がる強さを、その決意を小さな体で燃やす。私の娘を――。


『聖王陛下、反応ロスト。システムダウン』


そこでまた、艦内の自動放送が響いた。


『艦内、全ての魔力リンクをキャンセルします』


そして場に存在する、全ての魔力が打ち消される。

更にクレーターが自動修復開始。

慌ててヴィヴィオを抱え、必死に脱出。


するとクレーターはあっという間に直り、突入時に壊した入り口も奇麗に修復。

……その障壁も含めてね! 状況があんまりで、マクガーレン長官達も大慌て。


「これは……!」

「メルビナ長官!」

「ジャスティスソード!」


そしてメルビナ長官は突撃し、壁に刺突――。

え、魔法なしでも斬撃波!? やっぱり凄(すご)いよGPO!


でも貫けない……半分近くまでは削れるけど、それは瞬く間に再修復される。


『艦内の乗員は、休眠モードに入ってください』

「マ、ママ……」

「あはははははは……」


閉じ込められちゃった? 嘘……嘘嘘嘘ぉ!

誰か助けてー! ヘルプミー! 三百円あげるからぁ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


艦隊が到着するまで、残り四十五分――状況が大きく変わっていく中、アースラから吉報が届く。


「本当か。では」

『はい……ゆりかごの速度は激減! こちらで再計算したところ、軌道上到達まで……残り五十二分です!』

「そうか……埋まったか」


艦隊到着は間に合う。ゆりかご撃墜は可能……それに安堵(あんど)し、つい艦長席にもたれかかってしまう。

だがすぐに居住まいを正し、画面内のシャーリーと向き合う。


「ガジェットが停止してから、各所の状況は」

『相手方の真龍クラスも鎮圧。ルーテシア・アルピーノも保護したそうです。
それとレジアス中将ですが、残念ながら……フォン・レイメイの襲撃を受けて』

「そうか」

『ただそのフォン・レイメイも、なぎ君が撃破を』


フォン・レイメイ相手なら、恭文でも……そう思っていたが、やり返したようだ。

そのとき、シャーリーの表情が曇っているのが気になったが。


『周辺被害も凄(すさ)まじいですが、人的なものは、邪魔しようとした暗殺者集団だけです』

「無事なんだな」

『スターライトを使ったので、体力・魔力は消耗していますけど、何とか。
リイン曹長共々108と合流し、治療を受けています。……クロノ提督』

「何も言うな」

『え』

「僕達に言う権利はない。……アイツが、そして奴が決めたことだ」

『……はい』


二人はとても近い位置にいた。同時にどうしようもないほど平行だった。

だが先はある。こんな出会いがあった……なら、そうじゃない出会いもある。

そう信じて、僕達は進むんだ。……アイツなら、進めると信じよう。


『再度蘇生(そせい)したゼスト・グランガイツと、それに付き従ったアギトも捕縛完了です』

「あとはゆりかごからの脱出か。そちらの編成は」

『進めています。といっても、動かせるメンバーは限られていますけど』

「だろうな。そちらは問題ない……本局からの増援も到着する頃だ。彼らと上手(うま)く連携して、対処に当たってくれ」

『了解しました』


地上のジュエルシード&発電所組は、まだ動かせない。ジュエルシードの撤去が済んでいないからな。

フェイトは論外だし、恭文とリイン、シグナムもオーバーSクラスと戦闘後だ。


となれば空にいる面々、又は……まだまだ若い彼女達だが、希望の星でもあった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


凄(すご)かった……真龍クラスのどつき合い。

最後はクロスカウンターでドガンよ。

両方とも伸びて、ビルを数十砕きながら寝転がったわ。


でも、そのおかげかようやく落ち着き、白天王は元の場所へ戻る。

それで着陸したヘリを集合地点に、私達は再集合。


「キャロ、フリードもお疲れ」

「あ、ありがとうございます……あははは、さすがに限界」

「くきゅー」

「キャロも休憩だね。ギンガさんは」

「後は私が。スバル」

「は、はい」


スバルに抱えられたギンガさんを、シャマルさんが優しく受け止める。


「それでみんなには、もうひと頑張りしてほしいの」

「え……でも、各地のガジェットは停止して」

「ゆりかごも進行速度が激減って聞きましたけど」

「そのゆりかごが問題だ。なのはさん達と連絡がつかねぇ」


開かれたカーゴの中から出てくるのは、ヴァイス陸曹とザフィーラだった。


「自動防衛モードとやらが発動して、収納されていたガジェット達が全機出撃。
こっちは停止したものとは別口だから、空はまた大騒ぎだ」

「「「ヴァイス陸曹! ザフィーラ!」」」

「……あ、ティアさん達は知らなかったんですね。ずっと援護してくれていたんです……ルーテシアちゃん撃墜とか」

「そ、それについては……アイスを奢(おご)るので、どうか」

「ルーテシアちゃん撃墜とか、凄(すご)かったですねー」

「足りないってか! よし、何が望みだ! 財力の許す限りは頑張ってやるぞ!」


え、嘘! 数か月は安静ってレベルの重傷だったのに……しかも右手には、スナイパーライフル型のデバイス!?

……そっか、それで援護してくれていたんだ。

私達だけの力じゃない。当然だけど……悔しいというか、こそばゆいというか。


でも感謝はしている。きっと六課が襲われたときみたいに、戦ってくれたから。


「とにかく……今頃到着した本局の部隊共々、救出部隊が編成中よ。
でもゆりかご内部は未(いま)だ戦力があり、高濃度のAMFもある。その上時間がない」

「シャーリー達が計算し直したところによると、軌道上到達まで残り五十分。
ここから向こうへの移動時間を考えると、三十分前後だ」

「それまでになのはさん達を救出しろと」

「インドアでの脱出&救出支援! 陸戦屋の仕事場だぜ!」

「「「「はい!」」」」

「くきゅー!」


シャマルさんに回復魔法をかけてもらい、早速ヘリに乗り込む。

しかもあのバイクまで仕込んでいた。……これならいけるかも。

そう計算しつつ、私達は再び空へ。なおスカリエッティのアジトは放置。


既に掌握されているし、聖王教会騎士団で救出活動をしているとか。

さぁ、あと一仕事だ。しっかり弾を補充して、クロスミラージュやコルトガバメントも整備。

ちびっ子達は脱出口確保の支援として、私とスバルは……スバルも即座に頷(うなず)いてくれる。


なのはさん、ヴィヴィオ、待ってて……今すぐ助けるから。

というか、真正面から勝つまでは、死なれちゃ困るのよ。

ついでにいじめられないのも嫌だし、いないとなんか寂しいし。


……姉さんがいたら、こんな感じなのかなとか……思わなくなるのも、辛(つら)いし。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ゆりかごが、軌道上到達まであと三十七分。

本局の艦隊が到着するまでは三十分弱。


「当然軌道上に上げられないから、その前にズドンよ。たとえなのはさん達がいようとね」

「だから私達で覆す。なのはさん達は助けて、問答無用のハッピーエンド!」

「そういうこと。エリオ、キャロは脱出口の安全確保。GPOのシャインボルグ上級捜査官の指揮下に入って」

「「はい!」」

「それで途中までの道は」


ゆりかごのマップを展開し、玉座までも道を指でなぞる。


「八神部隊長とニムロッド捜査官が開いてくれている。ガジェットの数もかなり減っているはずよ。その回収は」

『あたしがやるよ』


そこで別のモニターが展開。

パワードスーツを着た女性が、笑顔でウインク。


『GPOのジュン・カミシロ正規捜査官だ』

「機動六課、スターズ分隊のティアナ・ランスターです。……自己紹介もそこそこですみませんが、手段は」

『二人の救出用に車両を用意してるから……そっちは大丈夫なのか?』

「えぇ。先輩のバイクを借りられましたから。それも改造済み」


バイクはサイドカーを着けていた。


『それに、俺もいるからな』


更に聖王教会の制服を着た、黒髪の男性も登場。

……通信画面ごしだけどね。108管理のヘリに乗って、駆けつけてくれたのよ。

ただ……あの、顔が見えない。最初から今まで、ヘルメットを被っていたから。


ざんばら髪がヘルメットの裾から出ていて、それで黒髪と分かる程度だった。

とにかくその人もサイドカーつきのバイクを持ってきたらしい。


『あれ、この声……』

『しー。俺は聖王教会の一員だ。いいな』

『あ、はい』


あ、GPOメンバーの知り合いなのね。なら問題ないかな。


「ヴァイス陸曹、これちゃんと走るんですよね!」

『オフィシャルのユニットだ! 問題ねぇよ!』

「というわけなので」

『分かった。ただあたしは準備も整ってないし、先陣は任せちまうけど……やれるな』

「「「「はい!」」」」

『いい返事だ。じゃあ通信とGPSリンクは綿密に。なにせ時間がない上、一発勝負だからな』

「「「「よろしくお願いします!」」」」

「くきゅー!」


というわけで、さっと打ち合わせも終了。


「ところで、あの」

『安心してくれ、聖王教会から派遣された者……と言うことにしておいてくれ』

「「「「しておいてくれ!?」」」」

『大丈夫大丈夫。肋(あばら)がイっているし、腕もさっき回復魔法でくっつけたばかりだけど』

「全然安心できませんよ! あの、私とティアだけで何とかしますから、休んでください!」

『でもそのバイクで、四人から五人も乗らないだろ』

「「ですよねー!」」


そう……そこが問題なのよ! 結局頼るしかないってことかぁ!

GPOの人達知り合いっぽいし、大丈夫かな! もうそういうことにしておこう!


あっちこっちで砲火が響く中、カーゴのドアが開かれる。

そのままヴァイス陸曹のバイクへ跨(また)がり、スバルは後部座席でタンデム。


「いいか! さっきも説明したが、船の中は高濃度のAMFで充満してる!」


その陸曹も、操縦をストームレイダーに任せ、こちらへ入ってくる。

エリオ達が脇に寄ると、陸曹は床に寝転がり、ストームレイダーを構えた。


「魔法の使用は不可! その上ガジェットがうじゃうじゃだ!」

「「はい!」」

「そっちの兄さんも頼みます! 二往復はさすがに辛(つら)い!」

『任せてくれ。左腕も痛むが頑張ろう』

『主、それでは任せられません』

「……中二病ですね、分かります」


ヴァイス陸曹が理解を示した!? 不安が煽(あお)られただけなのに! というか中二病……あ。


「つーわけで、俺がヘリをギリギリまで近づける。
お前らは兄さんと一緒に、ウィングロードで一気に乗り込め!」

『「「了解!」」』


ヘリはヴァイス陸曹の言葉に合わせ、上昇していく。

でも確保されている出入り口には、ガジェット達がいるせいで近づけない。


「ストームレイダー」


ヴァイス陸曹の空気が変わった――。

エリオ達も気づき、小さく息を飲む。


≪了解≫


ストームレイダーからカートリッジが三発ロードされ、銃口の先に魔力弾が生成。

それが発射され、前面のガジェットI型を撃墜。

しかも胴体を――動力炉を迷いなく撃ち抜いてきた。


その調子で狙撃は次々と行われる。

カートリッジを実弾銃のように消費し、再装填され、また消費――。

魔力量が低めだから、文字通り”弾丸”として打ち出している。


でも相当な圧力なのに、難なく制御して多重弾殻射撃として放っている。

AMFの密集地帯だろうと、ヴァイス陸曹の弾丸は突き抜け、敵を射貫く。


……美しかった。

それだけに特化され、磨き上げられた魔法。

兄さんの弾丸に勝るとも劣らない、美しい射撃だった。



「……俺は万能無敵の超一流でもなければ、ストライカーでもねぇ」


それは私の呟(つぶや)きと同じもの。驚いている間にも、弾丸はまた放たれる。

今度は誘導タイプだった。上に回ろうとしていたII型を追尾し、その進行方向に”置かれる”

遠距離射撃の基本。相手の動き、風向きなどを予測し、弾丸を進行方向へ置くように放つ。


基本通り……でもそれが半端なく難しいのを、私は知っている。

結果II型は、自ら弾丸へ飛び込み爆散。


「ましてや、かのヘイハチ・トウゴウみたいなマスターになんて、絶対なれねぇ」


またマガジン型のカートリッジを再装填。

撃ち貫くべき標的を見据え、決して揺らぐことなく前を見つめている。


「身内相手にバカなミスしちまって、クサッて逃げたこともある。……マジで、情けねぇ男さ」


それからまた構え直して、周辺のガジェットI型を次々撃墜。

凄(すご)い……ほんの三十秒で、五十機以上撃ち落としている。


結果場には、出入り口に陣取るIII型だけとなった。


「それでもな……そんな俺でもな」


ヴァイス陸曹は躊躇(ためら)わずに弾丸を形成。そして、トリガーを引いた。

「お前らの道を切り開くくらいのことは、できらぁ!」

≪Variable Shoot≫


幾度目かの多重弾殻射撃――。

展開していたAMFを貫くことも。

動力炉をピンポイントで潰すことも。


もはや予定調和に等しかった。その爆発による、終わりさえも。


「いけ!」

「ウィングロード!」


生まれたのは真っすぐに伸びる、空への道。

アクセルを捻(ひね)って加速――空の道を走ると、別のヘリからもバイクが疾走。

黒と紫で彩られたサイドカーは、私達とほぼ同着で内部に乗り込む。


距離にして数百メートル。

その距離を一気に走り抜けて……よし、成功!。


ヴァイス陸曹に感謝しつつ、それでも後ろは振り返らずに前へ進む。

私達が目指すのは前――。

振り返るのも、陸曹へのお礼も、なのはさん達を救出してからだ。


『初めまして。しかしこれ、ヤバいなぁ』

「そうですね、魔力が全然結合しない。でも私は大丈夫」


スバルは後部座席から飛んで、床に着地。


「よっと!」


瞳が翡翠(ひすい)色から金色になると、マッハキャリバーでそのまま加速。

私達の先陣を切ってくれる。……スバルが戦闘機人モードって呼んでる状態。

この状態なら完全キャンセル状態でも、攻撃もマッハキャリバーによる走行も可能。


もうスバルに迷いはなかった。何を繋(つな)ぎたいか、何のために壊したいか。

それが見えているから。そのためなら、自分に怖がっている暇なんてない。

……なんて言うか、マジで思うわ。この子、ホントにレスキュー向きだ。


助けるために全力で走れる心根。

魔法無しだとしても直進できる力。

そこに今、未来を望む心が加わった。


やっぱりこの子の力は、守るためにあるんだ。

戦うためじゃなく、泣いている誰かを助けるためにある。

正直、ここは羨ましいかな。私じゃこうはいかない。


「あ……!」


でもスバルがそんな状況で、軽く迷って振り返る。

そうして見やるのは、隣を走る教会騎士さん。

……しまった。説明してなかった。


そう気づくと、あの人は軽く手を振ってきた。


「安心してくれ。ギンガちゃんとはそこそこ付き合いがあってな」

「「えぇ!」」

≪彼女から戦闘機人についても聞いていますので。……それよりきましたよ≫


ガジェットI型……十数機。

それにキューブ状の自動防衛システムがひしめいていた。


その下をクモっぽい機械兵器ががしゃがしゃと……うわぁ、気持ち悪い密集状態。


『だがマズいな。これだと八神二佐達、囲まれているぞ』

「あ……!」

『スバルちゃん達は速度を上げてくれ。ここは俺が……サイドバッシャー、バトルモード!』


あの人がバイクのコンソールを操作すると、突如サイドカーが分裂。

そこから更に変形を始める。


サイドカーは逆間接の二足に。

前輪と後輪、それを接続するシャーシ基部は、機械的な二本腕に。

右腕はクローアームで、左腕は砲門? 六本あるマフラーが、生き物のようにうねり、指として再起動。


それらが合体して作られたボディに、カウル部分が乗っかり……イビツなロボットとして再形成された。


「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」

『エグザップバスター!』


左腕の砲門から、次々と大量のミサイルが発射。

合計三十もの砲弾が揺らめき、白煙を描きながら、敵の壁を撃ち抜き、爆散する。


『フォトンバルカン!』


そんな爆発を突き抜け、飛び出してきた十数体に砲火が向けられる。

右腕のクローアーム、その基部から白色のエネルギー弾を連続発射。


壁ごとそのボディを撃ち抜き、スクラップへと変えていく。


ちょ、これって……よし、考えるのはやめた!


「スバル!」

「は、はい! あの、先行しますけど……大丈夫、ですか?」

『問題なし!』

「ありがとうございます!」


スバルは敬礼した上で、速度を上げる。

未(いま)だ渦巻く爆発の熱を、スクラップをすり抜け、私も続く。


そうして数百メートル進むと……あれ、ヴィータ副隊長?

アイゼンをついて、一歩ずつ進んでいた。それに付き従う魔導師の人達。


「ヴィータ副隊長、駄目です! シャインボルグ上級捜査官達が来るまでは」

「うっせぇ! これくらいの傷」

「AMF展開状態ですよ!?」

「……炭鉱夫の如(ごと)く、掘り切ってやらぁ!」

「馬鹿ですか、あなた!」


思わず叫んでツッコむと、ヴィータ副隊長が慌てて振り向いてくれる。

なのでスバルと二人敬礼し、そのまま交差! 構っている余裕はない!


「ヴィータ副隊長、炭鉱夫ごっこはまた今度で!」

「私達が救出に向かいますから、戻ってください……いいですね! 約束ですよ!? 絶対ですからね!」

「お……おう」


そのままヴィータ副隊長は置き去りに、進軍……飛ぶが如(ごと)く――飛ぶが如(ごと)く!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ヴィータ副隊長、大丈夫だよね……飛び込んでこないよね!?

炭鉱夫とかしないよね! というかハンマーだっけ!? ツルハシじゃなかったかな、炭鉱夫!


いろいろ不安になりながらも、次なる一団をエンゲージ。

というか、その中心にいるのは……量産型オーギュスト!


「スバル、オーギュストは私が!」

「分かった!」


本当はティアに、銃器なんて使ってほしくない。

それはやっぱり変わらない。でも……ティアだって選んだ。

繋(つな)ぎたいもののため、強くなるために……私と同じように。


だから迷いはない。今は信じて、背中を預けるだけ。


……両拳を引いて息吹……左右のカートリッジを一発ずつロード。

タービンが回転を始めたところで、まずは……!


「リボルバァァァ――シュゥゥゥゥゥト!」


右のリボルバーで一撃!

通路いっぱいに広がる衝撃波を放つと、オーギュストが走って唐竹一閃。

遠慮なく衝撃波を切り裂く……のは分かったので、刃が鋭い動きで、ブレたところを狙って。


「二連!」


左――ギン姉のナックルで、もう一撃!

一撃目が切り裂かれ、拡散したところで、襲う二撃目。


オーギュストは避けられず直撃を食らい、他のガジェット達と揃(そろ)ってなぎ倒される。


ティアに任せる必要、なかった……って、違う! もう一体いる!

次々と起こる爆発の中、駆け出す二体……三体目!?

今度はティアが先行して、ショットガンを取り出した。


バイクの加速はそのままに、一射、二射、三射――。

ポンプアクションを交えながら、オーギュスト達と肉薄――そして交差。

威嚇は回避して再突撃したものの、その機動を読まれて二体目が被弾。


その脇から迫った三体目も、七発目の散弾に晒(さら)され、蜂の巣となる。

流れる血、壊れる体……それに寒気を感じながらも、ぐっと飲み込んで私も置き去り。


助けられない……あれは、ガジェットと同じだ。


「……助けたいって、言っていいのよ?」

「言わないよ。だからせめて、眠らせてあげる」


気づかってくれるティアには、大丈夫って言い切れた。


「これ以上、元となった人の罪にならないよう、その意志が汚されないように」

「そうね」


……リイン曹長が教えてくれた。

オーギュストさんは歪(ゆが)んでいたけど、自分の国を、大事な人を守りたかった。

そのために人であることを捨てた。それは……悲しい決断だ。


でもそこには、確かな本気があった。守るために、なくさないために、繋(つな)ぐために選んだ道。

それは私と同じだ。……私も選んだ。なのはさんに助けられて、この道を選んで、進んだ。


まだまだ弱くて、間違えることもあって、情けなくて。

たくさんの人に助けられて、支えられて、ようやく踏み出せる一歩。


でも、変われる……きっと変わっていける。

変わりたいって叫んでいる、この気持ちさえなくさなければ――!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


通信は繋(つな)がらない。

出入り口はない……最深部への横道はあったけど。

それで何とかなるかと思ったら、今度はその道まで閉じ始めた。


急いで引き返した結果、収穫は……痴女だけ! もう一度言うね、痴女だけ!


結果なのは達は右往左往。痴女に八つ当たりもできず、頭を抱えていました。


「サクヤ、スーパーサクヤになれ」

「メルビナ長官!?」

「それしかないだろ! そうだ……怒りだ! 怒りを燃やせ!」

「スーパーサクヤ!? そんなのがあるんですか!」

「あるぞ! スーパーサクヤになるとな、髪が金色になって、オーラがバチバチと迸(ほとばし)り……更に五倍の戦闘能力だ!」

「「それだぁ!」」


ついヴィヴィオと歓声を漏らす! そうだよ、それがあった……それでいいよね、スーパーモード!


「む、無理です! あれはその、静かなる怒りに目覚めなければ発動できなくて」

「わぁ、本当にスーパーサイヤ人みたい! なら怒ればいいんですよ!
ほら、痴女がいますよ……閉じ込められたのも、全部痴女のせいにして!」

「そうだよ! 司祭様、怒ってー! ヴィヴィオでもいいからー!
だって……司祭様やメルビナさん、ヴィヴィオとママを助けるために」

「さ、さすがに傷ついた方や、ヴィヴィオのような小さな子には……それにあなたも利用されたわけで」


わぁ、なんと優しい人なんだ! ……じゃあ駄目だよねー!


「なら宗教関係のことで……こ、こうなったら」


アーカネスト寺院の悪口とか……怖いけどやっちゃるー!


「駄目だ!」


と思ったら、マクガーレン長官が全力で止めてきた。


「それは本当に洒落(しゃれ)が効かない! 我々も死ぬぞ! ……現に、飲み会でジュンが」

「え、何があったんですか」

「……周辺区域が、更地(さらぢ)になったとだけ」

「何があったんですかー!」


というか駄目だよね! 矛先がなのは達に向くなら……今言ったら、瞬殺されかねない!

というか絶対領域持ちのマクガーレン長官がこれだけ恐れるって! 聖王以上なのかな、スーパーモード!


「怒り……怒り、怒り……は!」

「何かあるのか、サクヤ!」

「そういえばわたくし、パーペチュアルを出発するとき……電気、消し忘れたかもしれません」

「怒りから離れているだろ!」

「そうですよ!」

「節制は大事だと、常日頃心がけているのに……わたくしと、したことが……」


あれ、うちにこもってる? なんか……覇気が出ているような。

ランサイワ捜査官の体から、バチバチと火花が走る。これって、もしかして……!


「あれ、もしかして発動条件が整った!?」

「でも、電気の付け忘れだよね! ママー!」

「……サクヤの出身世界は貧しいゆえ、口減らしなども横行していたと聞く。
その関係からサクヤ自身も、信者ということを抜きに節制を心がけていた」

「そうか! そんな自分への怒りで!」

「その調子だよ、司祭様ー! ……あ、電気だけじゃないかも……こう……冷房とか!」


それだぁ! あるよね冷房の付け忘れ! でも短時間にオンオフを繰り返した方が、電気代がかかるとか?

いやいや、それでも……一週間とか二週間とかだしね! きっとかかってるよー! 無駄遣いだよー!


「あ、いえ。冷房はさすがに消しています。そもそもわたくし、クーラー関係が好きではないので」

「「「冷静になったぁ!?」」」


バチバチ消えたよ! 髪が揺らめいてたのに! 青と金で色が入れ替わりつつあったのに!


「ちょ、ヴィヴィオー!」

「ご、ごめんなさいー! 司祭様、それより電気……電気だよ!」

「あぁ、そうでした……いえ、大丈夫でした。冷房と一緒に、ちゃんと切ったのを思い出したので」

「最悪だぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ごめん、なのはママー! メルビナ長官ー!」

「くそぉ! 天は我らを見放したか! こうなれば……破れかぶれで壁をぶち破って」


やけくそ気味に、壁への攻撃を再開……というところで、駆動音が響く。

ゆりかごのもの? いや、違う。この音は、とても聞き覚えのある……!


「なんだ、この音は」

「何かが走っているような」

「見放してませんよ……きた!」

「うん!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


八神部隊長とニムロッド捜査官とエンゲージ。

でも二人とも、危機的状況でもなく無事だった。

その回収は騎士さんに任せ、私達は更に先へと進む。


決意を込め、もう一度カートリッジをロード。

すると今まで色違いだった左のナックルが、右と同じ色に染まる。

私の魔力を、決意を受け取ってくれたようで、ちょっと嬉(うれ)しくなりながら。


「もういっちょぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


玉座入り口――堅く封鎖された壁目がけて、リボルバーシュート。

貫通力重視の一撃で壁を穿(うが)ち、亀裂を放つ。


でもすぐに再生が……そこを狙い、最大加速で飛び込んで。


≪相棒、全開で≫


リボルバーナックルや、マッハキャリバーに配慮しつつ……そう考えていたのに、相棒からリミッター解除のお知らせ。

何があってもついて行く。受け止める……そう言ってくれた。


それに感謝して、壁に拳をたたき込み。


「うぉりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


振動破砕――!

壁を構築する魔力、自動再生を司(つかさど)るナノマシン……その全てを粉々にして、穴を穿(うが)つ。

五メートルほどの崩壊を生み出し、土煙を払いながら、中を見やる。


すると情報通り、なのはさんとヴィヴィオ、それにGPOの長官さん達がいた。


「お待たせしました、なのはさん! それとGPOのお二人も初めまして!」

「騎兵隊の到着ですよ!」


ティアナも追いつき、私の脇で停車。

それを見てなのはさんは嬉(うれ)しそうに駆け寄り。


「一生ついて行くよ、スバル、ティアナー!」

「「一生!?」」


思いっきり……ヴィヴィオと一緒に抱き締めてくれる。

――その後、追いついてきた騎士さんと一緒に、なのはさん達をしっかり回収。

騎士さん曰く、カミシロ捜査官が部隊長達を回収。既に退避しているとのことだった。


なので私達も続いて……まぁ人数が人数なので、ヴィヴィオをお姫様抱っこして、更になのはさんをおぶったけど。


でもなのはさんは、とっても重かった。

体重じゃなくて、その命が……ううん、みんなそうだ。

戦いで死んだ命も、傷ついた命も、みんな……そうなんだ。


……あの子達に、伝えたいことができた。

みんなもその命の一つで、みんなと何も変わらない。

私達は生まれも、体の作りも違う。


でも命の一つだ。まずは伝えよう、そうして一緒に考えよう。

命を、そこから連なる夢と希望……それを守る意味。傷つける罪を。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ゲンヤさんの部隊と合流し、シャマルさんに傷の治療を受ける。

そうして僕とリイン、アルトは万全そのもの。でもしっかりメンテはします。

それはそれとして……寝込むギンガさんと対面。


「またぼろぼろだねぇ。何、左腕をいやらしい武器にされたって聞いたけど」

「……お嫁に行けそうもないから、責任取って」

「僕が改造したわけじゃないし」

「知ってるんだよ。なぎ君は大きいのが好きで……わ、私の胸も、よく見てるよね」

「え……!」

≪見てますね≫

「見てるですね」

「えぇ!?」


見てたの、僕! まさか無意識に……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


「だ、だから責任だよ。そうだよ、あの私もどきなゴーレムを改良する必要だってあるし、そのためには私の体を受け止めることが」

「まぁそんなジョークが言えるなら、問題ないか」

「ジョークじゃないよ、本気だよ!」

「まだ洗脳が続いているのか……魔力ダメージをぶつけないと」

「どうしてー! あ、痛……腕が」

「……元気そうで何よりだが、親父の前ってことを考えろよ、てめぇら」


……それよりゆりかごの方だけど。


「えぇ……えぇ! 問題ないのね! よかったー!」


シャマルさんに吉報が届いたらしい。通信を切り、小躍りで近づいてくる。


「ゆりかご突入部隊、全員脱出完了よ! なのはちゃん達も無事!」

「本当ですか。……よかったぁ」

「スカリエッティのアジトも撤退完了。今、実験素体にされていた人達を回収中。
それと……ギンガ、ナカジマ三佐も聞いてください」

「メガーヌのことか」

「ヒロリスさんによると、実験素体にされていた人達は……蘇生(そせい)可能だそうです」


それでギンガさんとゲンヤさんは顔を見合わせ、表情をほころばせる。


「メガーヌさんも適切な治療を行えば」

「父さん……!」

「ルーテシアのことは、相談できそうだな。これから大変だろうが」


それもこれからの話だ。

そう思いながら、僕達は空を見上げる。

戦いで生き残った人達、傷ついた人達、死んだ人達を思いながら――。


さほど経(た)たずに、空に極光が生まれた。

こうして世界は救われ、命を、未来を繋(つな)ぐ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


その日は、歴史に残る日だった。

市民は街を追われ、機械の咎(とが)兵達に蹂躙(じゅうりん)される。

でもそんな中、懸命に戦う人達がいた。


そのおかげで街と世界の安全は保証され、シェルターからようやく解放される。

両親も安堵(あんど)する中、私が見つめたのは……空だった。


空へ昇っていく船。それは”記憶”に残る光景だった。

”私”は止められなかった。

”私”は置いていかれた。


そうして大切なものを失った。

空に昇り、軌道上からの砲撃で消える……あの船のように。


涙が零(こぼ)れる。

”あの日”、炎の中で去っていく、聖王(かのじょ)の笑顔が悲しくて。

その後にどれだけ強くなっても、武技を鍛えても、意味などなかった。


もう彼女はどこにもいない。

もう、返ってこない……そう、思っていたのに。


「……オリヴィエ」


その日から、私の旅は始まった。

後にJS事件と呼ばれる、管理局を根底から揺るがす大事件。

それが解決したこの日が、私の始まり。


求める……空に消えたゆりかごが、証明してくれた。

聖王は生きている。守りたかったものは、この世界に存在する。

探す……見つける、そして確かめる。


それは私(かれ)の願いだから。私は覇王――覇王クラウス・G・S・イングヴァルト。


(act.34へ続く)









あとがき


恭文「というわけで、ゆりかごも鎮圧可能となり、これで終わり……というわけにはいかない! ミサイル的にボーナスステージ!」

あむ「恭文、落ち着いて! ない……今回はないから!」

恭文「いや、あるはずだ! これだとジュエルシードとアインへリアルが死んだままだ!
今こそ見せてやる……核爆弾がいつ来てもいいよう、勉強した成果を!」

あむ「ないの! 解決したの! もう解体とかいらないから!」


(核爆弾の恐怖、リターンズ)


恭文「というわけで、お相手は蒼凪恭文と」

あむ「日奈森あむです。恭文、サイドバッシャーって」

恭文「カイザのバイクだね」

あむ「そう言えばサイドバッシャーを再現してたよね、サリさん……!」

恭文「僕も同人版で乗ってたしね」

あむ「いいの、アレ!」

恭文「バレなきゃいいのよ」


(出た、常套句)


恭文「それはそうと、プリズマイリヤコラボが明日から開始」

あむ「……思ったより速かったね。来週くらいだと思ってたら」

恭文「魔法少女ということだけど、システム的には鬼ヶ島イベと似た感じかな。
ふふふ……大ボスの大半はキャスター! うちのライダー戦力は分厚いよ!」

あむ「うん、知ってる。ドレイクさんもだけど、サンタオルタや金時さん、牛若丸にモードレッドもいるしね」


(実は一番暑い層です)


恭文「それであむは参戦しないの?」

あむ「するかぁ! そもそもあたし、魔法少女じゃないし!」

恭文「読者の認識と違うよ、それ」

あむ「そっちは知ったこっちゃないし! それはそうと」


(現・魔法少女、ある一角を見る。そこには悩めるフランスの聖女)


あむ「ジャンヌさん、どうしたの?」

恭文「魔法少女ということで、神風魔法少女ジャンヌが出るのではと恐怖している」

あむ「……あの、エイプリルフールのやつか!」

ジャンヌ(Fate)「いや、出てもいい……それでマスターに引いてもらえるなら……!」

あむ「駄目、落ち着いて! あれはキャラがいろいろおかしいじゃん! 語尾が”わん”だったし!」

恭文「思い出して苦しむほどには、黒歴史なのに……ぼ、僕も何とか引ければいいんだけど」

あむ「そうだね、ほんと引いてあげて……! 無記名霊基も当てにならないし」


(というわけで、次回からエピローグ。ようやく終わりが見えてきた……!
本日のED:GRANRODEO『メモリーズ』)


あむ「それはそうと、最後にあの子が……!」

覇王「こうして私は、恭文さんと出会い……一時の安らぎを、与えられるだけでいい。私はそれだけで」

恭文「よくないからね!? おのれ、その愛人思考はそろそろ直そうよ!」

あむ「そうじゃん! というか、恭文は……あれだよ!? そこまでするなら、奥さんにするって言い切るから!」

覇王「いいんです……私は、時折立ち寄って、寵愛をいただけるだけで」

恭文「よくないよ、よくないからね……絶対よくないからね、それ! その話も何度かしているのにー!」

あむ「恭文、ヴィヴィオちゃんも何とかしよう」

恭文「そうだったー!」


(おしまい)




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