小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
act.31 『血花』
状況は混迷そのもの。でも一つずつ、各所で勝利が積み重なっていく。
その一つで全てが決することはない。だが状況を押し返す楔(くさび)になる。
なら私も……量産型オーギュストが出ても、マクガーレン長官達が止めてくれる。
だから時間稼ぎに集中……リスクもあるけど、”捜索範囲”をピンポイントに。
クアットロの言動と行動、そこから導かれる結果に従い、術式を走らせていく。
『とある魔導師と機動六課の日常』 EPISODE ZERO
とある魔導師と古き鉄の戦い Ver2016
act.31 『血花』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
一人なら死んでた……ニムロッド捜査官達には感謝するしかない。
廃棄したって聞いてたのに、平然と出てくるんだよ! 量産型オーギュスト!
まぁ殴られ、斬られ、撃たれて退場していったけどな!? 魔法が読まれなきゃ雑魚同然ってか!
……そういや、ヴァイス陸曹が言ってたらしいな。
管理局の欠点は、魔法以外のセーフティーを置かない点。
今回の事件ではツツかれているのは、やっぱりその辺りだ。
「ランディ」
「IV型(よんがた)、量産型オーギュストの反応はなし」
シャインボルグ捜査官は、スーツに仕込まれたサーチシステムで探査――。
でも問題ないので、少しずつ、慎重に進んでいく。
なおIV型ってのは、あのクモ野郎だ。ガジェットIV型――仮称ってやつだな。
「ジュン先輩、ピースメーカーとのリンクは」
「常にオンラインだろ? ……てーかずさんだよなぁ。
デバイスのサーチはかいくぐって、あたし達は問題なしって」
「それは正確じゃありませんよ。対策されているのは、機動六課関係者ですから」
≪やはり、そういうことですか≫
「察知するなら、幾らでも方法があるから。例えば足音、空気の流れ……密閉空間ならなおさらだ」
ようはアタシ達が対策されまくっている……それだけの情報が流されていたせいと。
それでつい舌打ちしちまう。あの甘党提督が……!
最高評議会の存在もあるだろうが、直接的に持ちだしたのはアイツだ。
あの野郎、今度こそ処分されるだろ。てーかされなきゃ抗議してやる。
……まぁそんなメタを張られて、何もできないアタシ達もアレなんだが。
前々から議論されていた通りだ。これで管理局は、アタシ達は、改善を迫られる。
魔法が無効化された場合の、セーフティー。
それが用意できなきゃ、GPOや維新組に頼りっぱなしだ。
だから”革命”は既に成功している。そういう話なんだよな。
それも全部、この先に繋(つな)いでから――そう気合いを入れて。
「ここか」
扉も、敷居もない門をくぐる。
そうして見えたのは……赤く、巨大な宝石。
ダイヤ型の【エネルギー炉】は、あかね色で輝いていた。
禍々(まがまが)しささえ感じる存在感……それに、寒気が走った。
「コイツは、大物だな」
「……間違いない。これはレリックだ」
「レリック!? でもヤスフミからもらったデータだと」
「正確には、レリックが詰め込まれたケース……と言うべきか。
とにかく出ているエネルギー反応は同質のものだし、個体として存在している」
「やっぱゆりかごのためか」
ようやく、到着した……これが動力炉。
それを見上げながら、アイゼンを両手で構える。
「アイゼン、リミットブレイク……やれるな?」
≪はい≫
「おっしゃ! ならあたしも」
「格闘攻撃は駄目ですよ!」
そこでがくっと崩れ落ちる、カミシロ捜査官。……いや、当たり前だから。
「なんでだ……って、そりゃそうだよなー! 至近距離だと爆発から逃げられないし!」
「なら私が」
そう言ってニムロッド捜査官が、ポータブルキャノンVer2を携える。
……生体兵器騒動時に使った、ポータブルキャノンの後継機らしい。
エネルギー効率・威力・連射精度ともに改善され、通常戦闘でも使用可能だとか。
「いや、この圧縮率だと、ポータブルキャノンでも無理だ」
「じゃあどうするんだよ! ヴィータ副隊長もハンマーでがつんだぞ!?」
「心配ねーです」
つまり……適度に離れ、逃げられる距離でドンパチすればいいわけだ。
そういう話なら、むしろアタシ向きだ……!
「アイゼン!」
≪Zerstorungs Form≫
数歩前に出て、アイゼンに呼びかける。
その声に応え、紅(あか)く輝くアイゼン――そしてヘッド部分が変化した。
六角形のボディに、金色のドリル。
そして後部には巨大なブースト。
銀色に輝くそれは、アイゼンのリミットブレイク。
ツェアシュテールングスフォルム――。
大型対象……それも建造物破砕に優れた、破壊の鉄槌(てっつい)!
「アイゼン! ぶっ飛ばして」
カートリッジロード――力を込めて、ありったけで上に飛ぶ。
そのままアイゼンを頭上に振りかぶると、ハンマーヘッドと柄が十倍以上に膨れあがる。
「行くぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
≪Zerstorungs Hammer≫
ドリルが回転――込められた魔力を一点に収束。
更にヘッド後部のロケットブースターが点火。
唐竹一閃――ロケットブースターの加速により、アイゼンは動力炉上部を捉える。
ドリル部が回転し、更に魔力を収束――。
防御と装甲を抜き、衝撃とともに対象内部に拡散。
内側から破壊する、”内部浸透系打撃”。
実は恭也さん達の徹か? あれを参考に組み立てた。
難点があるとすれば、デカすぎて対人戦に使えないこと……くらいだがなぁ!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ランディがゴーグルを通し、ヴィータ三尉の攻撃をチェック――それで驚いた顔をしていた。
「ドリルの回転で魔力を注(そそ)ぎ込み、内部で衝撃を爆発させ、破砕……対人戦は一切考慮に入れていない、対城レベルの攻撃か!」
「でっかくなってるから、距離も取れている! これなら……!」
「ジュン先輩は救出準備を!」
「おうよ!」
二人は舞い上がっているけど、どうも嫌な予感がする。
相手は機動六課に対し、いじめかと思うほどメタっているのよ? なら……!
そう思った次の瞬間、接触部が爆発。ヴィータ三尉は自然と距離を取り、私達の上に。
「……やったか?」
動力炉に生まれた爆炎……それに対して、ヴィータ三尉が呟(つぶや)く。
「あ……馬」
「しまった……!」
あ、ツッコむ前に悟ったわね。……これがフラグだと。
そう……フラグだった。だから爆煙が張れると、そこには。
「な……」
「おいおい、あたしから見ても、とんでもない魔力量が注(そそ)ぎ込まれたんだぞ。なのに」
無傷の……動力炉が存在していた。
く、やっぱり……こちらの攻撃力を読んだ上で、対策している!
「ならフラグを踏まず、もう一発」
『動力炉内部に、侵入者の存在を感知』
攻撃を打ち込もうとした途端に、辺りにアラームが鳴り響く。
赤い照明が動力炉内部で点滅し、次々と気配が生まれる。
蒼色の四角いキューブ……迎撃装置!
『警戒レベルを1ランク引き上げ。自動迎撃システム、発動。侵入者を排除せよ』
「……ランディ、ジュン!」
「ヴィータ副隊長、遠慮なくやれ! 道は」
私はポータブルキャノンを、ランディは専用ブレード【アロンダイト】を。
ジュンは拳を構え、迎撃装置に狙いを定める。
「私達で開くわ!」
「……頼みます!」
そして生まれる熱線……それを散開して回避しつつ、ポータブルキャノンを一旦仕舞(しま)う。
愛用のリボルバーを取り出し、素早く連射。
ランディとジュンは浮上し、ヴィータ三尉をカバー。
三尉への攻撃を剣閃と拳で払い、二度目の攻撃を援護する。
「二発目……いくぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
……って、このままいくの!? できれば下がってほしかったのにー!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ここまでのあらすじ――私、電王になりました。
いきなり最強フォームってのも花がないかもだけど、そんなことが気にならないくらいテンションマックス。
質量では圧倒的な鎌も砕けるほど、剣技は冴(さ)えていた。
やっぱ戦いって、ノリのいい方が勝つんだね。
「あー、そういや言い忘れてたね」
言いながら大きく上に跳ぶと、死に神は左鎌で右薙一閃。
それを右薙に払うと、先ほどと同じように刃が砕ける。
そのまま時計回りに回転しながら、奴へ飛び込み右後ろ回し蹴り。
顔面を蹴り砕き、死に神を後ろへ倒す。
その様子を見ながらも素早く着地。
……ナメんじゃないよ。私は腐っても、ヘイハチ先生の弟子だよ?
この私が斬ろうと思って斬れないものなんてないのよ。あと、この装甲とか全部やっさんのお手製だし。
仮面の中でほくそ笑みながら、デンガッシャーの刃を右肩に担ぐ。
「私ら全員揃(そろ)って、始まる前からクライマックスなんだよ!」
得物を失った死に神は、起き上がりながらも鎌の柄を捨てて、両手を握り締める。
でもその前に私らはもう動いてる。
まず私は、デンガッシャーを素早くガンモードに組み換え。
デンガッシャーはパーツの組み合わせによってソード・ロッド・アックス・ガンの四つの形態に変更できる。
……あ、あと一つあったな。とにかくパーツ組み換えでの形態変化が機能。
「シャナ、頭行くよ!」
「了解!」
私の傍らに走り込んでいたシャナは一瞬で理解してくれらしく、素早く私の背に身を隠す。
両腕を私の肩に乗せて、そこから狙いを定める。
私もガンモードに組み換えたデンガッシャーを両手で持って、腰を落とし……!
両足を開きながらも、奴に狙いを定める。
「「撃つべし撃つべし撃つべし!」」
二人揃(そろ)って弾丸乱射で狙うのは、死に神の頭。
死に神は出てきた私らに、熱光線を撃とうとしていた。
もちろんデンガッシャーはともかく、シャナの銃じゃあダメージは与えられない。
だから狙うは目――先ほどの蹴りで破砕した部位。
私らの射撃より熱線の方が速く放たれ、雨の如(ごと)く降り注いで、私の装甲や地面を叩(たた)く。
でも地面はともかく、私の装甲には穴一つ開かない。当然私の陰に隠れてるシャナにも当たらない。
そうして私らが乱射した弾丸は、熱線とぶつかって弾(はじ)けてしまう。
でも連射力ではこちらが上。結果十発が死に神の頭に向かい、着弾。
死に神の頭から火花が散りまくり、それに気を良くした私らは更に引き金を引く。
「撃つべし撃つべし撃つべし撃つべし撃つべし撃つべし撃つべし撃つべし撃つべし撃つべし撃つべしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
頭部に火花が走りまくり、雨は小ぶりになっていき……頭部の爆発という形で完全にストップした。
「「うっしゃ!」」
息ぴったりでシャナと声を合わせていると、死に神が両腕をぶんぶんと動かし、こちらに迫り始める。
「ドンブラ粉、出番だよ!」
そう叫んだ次の瞬間、死に神の足元で爆発が起こる。
その爆発に晒(さら)された右足は、火花を上げながら膝をつく。
「……ちょっとドンブラ粉!?」
声をあげると、右横に通信画面が展開。
そこにドンブラ粉の姿が映る。
「名前呼んで答えるってびっくり過ぎなんだけど!」
『爆弾を持ってきたんだ! 駄目だった!?』
「いや、最高だ!」
≪そこ褒めるのかよ!≫
それでも死に神は立ち上がろうともがき、両腕を動かして床を砕きまくる。
でも素早く上から飛び込んだ影によって、左腕が動きを止める。
ヴィンデルシャフトで関節部への刺突――もちろんそれをやったのは、武闘派シスターことシャッハだった。
「烈風」
両腕を広げつつヴィンデルシャフトを回転。死に神の肘を中から抉(えぐ)り斬る。
「一迅!」
腕は肘から両断された……でも止まらない。
うめき声をあげることもなく、シャッハのいる方に右腕を振るう。
手を開く――。
私の上半身くらいはある、鋼鉄の小指と薬指。
それが地面を削りながら、シャッハを蚊の如(ごと)く潰そうとする。
そして手は地面に――シャッハがそれまで立っていた場所に叩(たた)きつけられ、ごう音を響かせる。
同時に破砕音や破裂音が響くのは、奴の腕も一緒に潰したせい。
「ちょっと、あのシスターやられちゃったけど!」
「大丈夫」
傍らのシャナは、すぐに息を飲むことになる。
だって……いつの間にかシャッハが、アイツの肩に立っているんだから。
そう、シャッハは脳筋だ。今回はまぁ、それが悪い方向に流れちゃったけど。
しかしそれは、本領ではないせい……とも言える。ならばアイツの本領はなに?
……当然、戦いだ! 魔法がなかろうと、シャッハは強い! 私とも打ち合えるしね!
シャッハが肩の継ぎ目をもう一度狙い、ヴィンデルシャフトを振るう。
魔法はない――ただ怒りのみで攻撃を打ち込む。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
旋風の如(ごと)き刃を、左右交互に関節部へ叩(たた)きつけ、装甲と中のフレームを斬り裂く。
シャッハが素早く飛びのくと、肩で小さな爆発が発生。
それで奴の動きが完全に止まった。
さて……まずガッシャーを放り投げる。
左手でパスを取り出して開き、親指でケータロスのエンターボタンを押す。
「それじゃあとどめ、いくよ!」
それからパスを開いたまま、ベルトにセタッチ。
パスを乱暴に投げ捨てた。
≪Charge and Up≫
すると身体を走る銀色レールへ乗るように、青・紫・金の仮面が身体を移動開始。
その移動先は右足。
下から今言った順番に装着された。……ふふふふ、いわゆる必殺キック形態だよ。
「――必殺!」
少ししゃがんで……また大きく跳び、空中で一回転。
「私達の必殺技」
不格好に動きを止めた、死に神の胸元へ――右跳び蹴り!
――右足が虹色の光が包まれる。
私はその光ごと、死に神に突っ込んだ。
「クライマックスバージョン!」
蹴りは死に神の胸元に直撃。
頭から胴体までを斬り裂くように、光となって吹き飛ばす。
斬り裂かれた巨人の背後に着地してしゃがみ込むと……巨人は私の真後ろで大爆発を起こした。
その爆風が炎が訓練場を満たすけど、私は何とか平気。
だってこういう状況にも対応できるよう、徹底的にこだわり抜いたもん。
「――ふ、決まった」
「決まったじゃないわよ! このバカ!」
炎の向こうから聞こえるのは、シャナの声。何故(なぜ)か怒ってる感じがする。
「その通りです! あなた、私達のことを忘れていたでしょ!
障壁を張っていなかったら、黒焦げですよ!」
それにシャッハが続いて……確かに爆発で凄(すご)いことになってるなぁ。
あれ、そういや魔法……あ、倒した時点でAMFも解除されたのか。よかったよかった。
「無事に済んでよかったね」
「左から声。すると、床からドンブラ粉が姿を現していた」
「口から描写が駄々(だだ)漏れだよ!?」
気にしてはいけない。きっと私の心が、とても奇麗であるが故だろう。
「でもなんつうかそれ……カッコ悪いね」
「はぁ? 何言ってるのさ。すっごいカッコいいじゃないの」
「いやいや、カッコ悪いからソレ!」
≪その前に……使っちまったことに対してあれこれ言おうぜ? もう遅いけどよ≫
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
……ヒロリス、無茶苦茶(むちゃくちゃ)するなぁ。
ほら……シャンテがあ然としてるよ。口をあんぐりしてるよ。
なのでそれは優しく閉じた上で。
「フィニーノ補佐官」
『よし……自爆システムにアクセスできた! 展開されたAMFも解除! あ、フェイトさん達がいる区画は』
「そのままでお願い。それじゃあこれで」
恭文はレジアス中将の方だけど、僕達二人だけでも問題ない。
既に掌握自体はしていた。ただその上で、自爆が止められなかっただけで。
だから指を素早く動かし、最後のエンター。
「チェックメイトだ」
――結果アジト中に響いていた振動は、即座に停止していく。
破砕も最小限……実剣材料として捉えられていた、被害者の方々も無事だ。
……ここから蘇生(そせい)できるかどうかは、まだ分からないけど。
「……感謝します、アコース査察官」
そう言って頭を下げてくるのは、ナンバーズI・ウーノ。
バインドもAMFがかかったから、消えているというのに……何もせず、律儀に待っていた。
「……逃げないんだね、アンタ。抵抗とか」
「既にドクターの目的は達せられました。最低限にして、最大の目的は」
「目的? でもゆりかごは浮上中だし」
「そのゆりかごを、浮上させること――それこそがドクターの夢です」
浮上させることが最大の目的。
到達することではなく、それによって力を行使することでもなく。
その意味が一瞬理解できず、しかし確実に驚きは生まれ――。
シャンテは小さく、息を飲んだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
私の、全てが嘘……みんなに、バレる。バレて……信じてもらえなくなる。
その恐怖に苛(さいな)まれ、震え続けていると。
「ゆりかごには様々な技術があった。プロジェクトFだけではない……フェブルオーコードやカートリッジシステムもその一つ」
スカリエッティは揺れが止まった中でも、静かに天井を見上げていた。そうして私に……トーレに語りかけてくる。
「研究者としては興味深かった。それは否定しないし、好奇心のまま罪を重ねた。
だが、あるとき思ったんだよ。……こんなものがある世界は、歪(ゆが)んでいると」
「ドクター」
「私はね、ゆりかごを浮上し、世間の目に晒(さら)したかった。その上で破壊されるのならば、何の問題もない。
それでもし軌道上に到達してしまうなら……世界を支配しよう。
その悲劇を、その悪夢を生み出した根源として、処断されよう」
……その言葉が信じられなかった。でもアイツは、笑って空を見る。
ここは閉じた世界なのに、空を見ていた。地に落ちた私のことなど、振り返りもせず。
「そうすれば世界は変わる……少なくとも、私と最高評議会は忌むべき悪として否定される。
もう二度と、その悪と同じ道を進みはしない。進もうとする者を、止める者が現れる。そう覚悟していたのだが」
「待って、ください。それでは……私は……妹達はどうなるのです!」
「だから言ったじゃないか。……極力殺すなと」
「投降を薦める、おつもりだったのですね。なら、なぜ黙っていたのですか」
「……怒られるの、怖くて」
「子どもかぁ!」
何なの、それ。
それなら、どうして……私に処断、されてくれないの。
そうすれば私は、『英雄』になれた。母さんだっておかしい人扱いされずに済んだ。
全部、私達の思う通りに動いたのに……!
でも立ち上がることも、声を上げることもできない。
私には何もなかった。執務官として頑張ってきた時間も、全部嘘だった。
夢を叶(かな)えたかったのに、叶(かな)える力も、努力もしてこなかった。でも、信じられない。
信じたくない……だって、誰も教えてくれなかった! 誰も!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
一人じゃないって……素敵なことだった。
迎撃装置自体の強さはさほどでもなく、やっぱり数が問題だった。
ただその数も、ニムロッド捜査官達にかかれば楽勝。
アタシはおかげで、集中して打撃を打ち込んでいけた。
一発一発……魔力を込めて、魂を込めて。
流れ弾を食らいもしたが、かすり傷程度。
それより辛(つら)いのは、リミットブレイクの酷使。
想定以上の魔力を……それこそ、血肉を絞るように注(そそ)ぎ、打ち込む。
ただ一点を……一ミリの狂いもなく、打ち込み、跳ね返され、また打ち込み、跳ね返され――。
合計十六発……血へどを吐きながら崩れ落ち、膝を突いちまう。
「ヴィータ三尉!」
「来るな!」
迎撃装置は、もう壊滅――。
みんなのガードも必要ない。
だから後は、アタシの……アタシの仕事だ。
「ポータブルキャノンも、弾切れ」
「う……」
「スーツ組も、格闘攻撃専門でしょ」
「……恥ずかしながら」
「くそ……!」
「離脱準備だけ、お願いします」
そう言って起き上がり……ひび割れだらけなアイゼンも、もう一度担ぐ。
「……アイゼン」
≪稼働限界……十分前に到達。各駆動部、破砕寸前≫
「すまねぇ」
≪大丈夫です≫
カートリッジは残り……ピッタリ四発か。魔力ももう、限界なんて超えてる。
「アイゼン」
≪はい≫
「中途半端に余力を残して、砕けると思うか?」
アイゼンは数秒黙り、固い声で答えてくれる。
≪無理です≫
「なら」
アイゼンのカートリッジスロットを展開。
「全部ぶっちぎって」
全てのカートリッジを装填――。
……残り魔力やカートリッジを考えると、これが最後の一撃にはならない。
カートリッジ一発につき、一撃……それがリミットブレイクの”限界点”だ。
それ以上の魔力ブーストは、身体への負荷も大きいから駄目って……止められてるんだよなぁ。
というか、こんな乱発するような機能でもないから、その時点でアウトか。
……だからこれで最後にする。これがアタシ達の……正真正銘の限界突破。
「一発勝負だ」
≪後で、たっぷりとお叱りを受けますね≫
……深呼吸――そこから六メートルほど飛び上がり、魔法陣展開。
それを両足でしっかり踏み締め、アイゼンを右に振りかぶる。
「いいさ」
そうだ、別にいい……後に、未来に繋(つな)がるなら。
「血を流す……難しくなっちまったな、いつの間にか」
前は……肩書きなんて得る前は、できていたはずなのに。
それがアタシ達だった。アタシ達はゆりかごやレリックと同じ、ただの兵器でさ。
主のために戦うことが、傷つくことが、死ぬことが全てだった。
でも今は違う。やりたい仕事があって、守りたいものも増えて、面倒を見ていく部下もいる。
弟子なんてのもできて、いつの間にか……荷物がたくさんになって。
そうして守(まも)りに入っていた。血を流さないように、苦しまないように、死なないように。
それだけならまだいい。問題は……自分が流すべき血を、他の奴らに流させていたことだ。
「兵器に戻るつもりはねぇ。それは生きている奴らと、死んでいった奴への裏切りだ。だが」
振り切れ……そうして守(まも)りに入った、弱い心を。
安寧(あんねい)の中、付けていた足かせを引きちぎれ。
アタシ達なら壊せる。全部をかければ、血を流す意味さえ見失わなければ。
「そろそろ、本気で行かせてもらう――!」
……アイゼンのヘッドと柄が、またまた巨大化する。
一つ一つのシークエンスを意識し、丁寧に行え。
魔力の一滴もよどみなく、しかし躊躇(ためら)いなく注(そそ)ぎ込め。
走る痛みに逃げるな。意識を置き去りにするな。
今まで積み重ねた経験、その全てを一つ一つ、丁寧に積み重ねろ。
そうして手を伸ばすのは……結局、アタシ自身のため。
大事なものが壊れるのも嫌だ。でもそれ以上に、アタシのプライドが許せない。
鉄槌(てっつい)の騎士とか言いながら、なのはにあれだけ言いながら、結局壊せませんでした?
はははははは……恥ずかしすぎるだろ! 冗談じゃねぇ!
だから見せつけてやる! アタシ達なら、どんなものだって……砕けるんだ!
「……ぶち」
カートリッジが一発ロード。アイゼンのブースターが四倍……いや、四乗の勢いで噴火。
ドリル部分も回転だけで壊れそうな勢い。それを制御し、またあの一点にたたき込む。
そう……最初に打ち込み、接触した箇所へ。
「抜けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
赤い宝石とアイゼンが、十七度目の激突――。
接触点から火花と衝撃が弾(はじ)け、それに肌が叩(たた)かれる。
確かに硬い。確かに強い。確かに……大きい。
でも砕く。ありったけを……流れる血の一滴も、全部注(そそ)ぎ込む。
だから打ち込みながら、カートリッジをもう一発ロード。
ブースターの勢いが強まり、ドリルの回転も速まる。
増加した魔力もまた、ドリルの回転によって一点集中――内部へと注(そそ)ぎ込まれていく。
そうして一発ロード――腹から、身体のあっちこっちから血が流れていく。
身体から力が抜けていく。手が震え、視界が歪(ゆが)む。でも、まだだ……!
そして最後の一発をロード。鉄の伯爵は、更に力を増して突撃――。
アイゼンに新しい亀裂が入ろうと、傷口から血が溢(あふ)れようと、絶対に止まらない。
ただ一点に自分の全てを注(そそ)ぎ込み、たたき込む。
「うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
想(おも)いを吐き出すように叫び、アイゼンを打ち込み続ける。
ブースターから上がる炎が、この空間の温度さえ上げる。
アイゼンのドリル部分が、摩擦熱で赤熱化する。
アタシの体中に刻まれた傷口から、血と命が流れ落ちる。
それでもアタシは、止まらない。
……いらねぇ。今は、いらねぇ。温かな時間も、大事な仲間も、何もいらねぇ。
いらねぇから……! コイツを、ぶち壊せる力をくれ!
それができなきゃ……何にも、何にも守(まも)れねぇんだ!
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
全力で……血で視界すらなくなる中、アイゼンを振り抜いた。
拮抗(きっこう)は、本当に唐突に終わった。
動力炉が砕けたからじゃない。アイゼンのヘッドが、粉々に砕けた。
アタシは柄だけを持って、バランスを崩してそのまま……落ちた。
もう、何にも残ってねぇ。
魔力も、体力も……なんも。
やっぱ、『いらねぇ』なんて言うもんじゃねぇな。
自分の中が空っぽになってるのが分かる。
多分、アタシはこのまま死ぬ。
もう復活なんてできない。
アタシ達守護騎士の緊急リカバリーシステム、バカになってるしよ。
くそ、強過ぎるし。アレで傷がついてないって、どういうことだよ。
下手するとコイツ、なのはより強いかも。……でも、情けねぇなぁ。
じいちゃんだったらきっと、アッサリぶった斬るんだろうしよ。なんか、駄目だな。
アタシは……バカ弟子の師匠、失格だわ。
「そんなこと、あらへんよ」
墜落しかけたアタシを、優しく抱きとめる腕がある。
というか、アタシは白い光に包まれた。それで閉じていた目を見開く。
するとそこにいたのは……はやて?
天使じゃないのかよ。見慣れた顔すぎて、拍子抜けだった。
そんなはやてが、ある箇所を見る。
「大丈夫や」
その視線を追いかける。
痛む身体や、薄れかけている意識を必死に揺り起こして。
そうして見たのは……動力炉に打ち込まれた、楔(くさび)。
「古き鉄・蒼凪恭文の師匠」
それはアイゼンのドリル部分……切っ先が、回転を続けながら……動力炉に食い込んでいた。
「鉄槌(てっつい)の騎士であるアンタと、鉄の伯爵・グラーフアイゼンがこんだけ頑張ったんやで?」
赤熱化した切っ先は、そのままパリンと砕ける。
でもそうして残った傷口から、亀裂が広がっていく。
……レリックの集合体は、強力な圧力によって守られていた。
だからあれだけ堅かったんだ。でも、それがたとえほんの一ミリでも、穴が開いたら?
予測通りに……アレは、内部の魔力圧力によって、自己崩壊を始めていた。
「それで壊せないものなんて、どこにもあるわけない。……シルビィさん!」
「全員、撤退ー!」
そう言いながら、はやては……ニムロッド捜査官達は、アタシをカバーしながら撤退。
それでアタシは、動力炉を見続けていた。亀裂は網の目の如(ごと)く、あの集合体全てに広がる。
その瞬間、爆発を起こす。
轟音(ごうおん)と炎をまき散らし、それは外壁を突き破り、通路を舐(な)める。
……それに安堵(あんど)して……もう一度目を閉じ、全身の力を抜いた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
アジトの崩落は阻止。
中央本部防衛戦についても、召喚獣の殴り合い以外は問題なし。
レジアス中将、ゼスト・グランガイツも確保……!
そんな中、ゆりかごで大爆発が起こる。
エンジン部上方から爆煙が上がり、百数十メートルに及ぶ大穴が生まれていた。
「あれは……」
『……ロングアーチ、聞こえるか?』
そこで八神部隊長の声。
ノイズがヒドいなぁ……でもすぐに応答!
「こちらロングアーチ! 八神部隊長、今どちらに!」
『ゆりかご動力炉近辺よ。スターズ02及びニムロッド捜査官達と合流成功。
動力炉の方もたった今爆発……でも危なかったー! 危うくローストヒューマンやし!』
「じゃあ、今の爆発は……お怪我(けが)は!」
『ヴィータ以外はみんな、ピンピンしとるよ。……あ、そのヴィータもリミットブレイクの酷使でエンプティやから』
つまり爆発に巻き込まれて、怪我(けが)はしていない……それにはアースラの管制室にいる、私達ロングアーチスタッフも安堵(あんど)。
『ただ背中から……ぐさり? その傷もあるし、ヴィータ副隊長はもう動かせん。なのでうちらで玉座に向かう』
「分かりました」
『それでゆりかごは』
コンソールを叩(たた)き、現在の速度、方位を計算……暫定的にだけど、軌道上到着時刻が出てきた。
「進行スピードは多少落ちたようですが……駄目です!
到着予想時刻、一時間二十二分! ゆりかごの方が一分ほど速いです!」
『また微妙な差やなぁ! いや……むしろ六分縮んだことを喜ぼうか』
「えぇ。逆を言えば、あと一手……進行を致命的に遅らせる『何か』があれば、本局の艦隊が先を取れるかと」
動力炉は潰せた。
エンジン部も今のでダメージを受けている。
となれば……それらを制御し、立て直している管制役。
四番クアットロを、如何(いか)に鎮圧するかって感じかな。
ここはなのはさんと……途中合流したマクガーレン長官達に任せるしかないけど。
「でも八神部隊長、量産型オーギュストがいるので」
『ニムロッド捜査官についてもらうよ。そっちの補給はすぐ済みそうやから』
「分かりました」
『それで、他は』
「破棄都市部の戦闘は既に終了しています。……真龍クラスの殴り合い以外は。
アジトの崩落も阻止しましたし、なぎ君、シグナム副隊長とリイン曹長も事情聴取中です」
『……その殴り合い、どうにかできんかなぁ』
「無理です……!」
究極の一に対抗できるのは、それに等しい究極のみ――。
真龍クラスの評価で、よく言われることだね。
少なくとも現場にいるスバル達や、一般的な魔導師では止められないよ。
隊長達が万全なら……ああもう! フェイトさんが勝手しなければ、フォローできただろうに!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
自らを慰め……もうすぐ絶頂というところで、船体が激しく振動。
慌てて体を起こし、指を奇麗にした上でコンソール操作――。
すると、信じられないことが二つも起こっていた。
「アジトの自爆が止まった!? というか、動力炉まで……!」
ちょっと、嘘でしょ……。
動力炉の外壁は、真龍クラスの攻撃にも耐えられる特別製よぉ?
もちろん物質変換なんて使おうものなら、誘爆して巻き添えよ。
それを、あのチビ魔導師だけで何とかできるはずが。
それに他の屑(くず)どもも、【デスキーパー】を魔法なしで倒すなんて。
「何なの、アイツら」
腹立たしい……そのいら立ちを、爪を噛(か)んで紛らわせる。
せっかくの快感が、余韻が、全て台なしよぉ。
なぜ神に抗(あらが)うの。私達は愚図(ぐず)でのろまなあなた達を、幸せに導く存在なのに。
多少の犠牲は出るかもしれない。でもそれだけ。
あなた達は、世界は幸せになれるのよ?
私という神の母と、ジェイル・スカリエッティという神によって。
なのに……まぁ、いいわ。このゆりかごさえ無事なら、全ては上手(うま)くいく。
改めて計算してみたけど、私達の方が一分早く到着する。
「そう、まだ私達の方が早い。うふふ、無駄な頑張り御苦労様ぁ。でもこれ以上はもう無理よ?」
だって陛下を止められる人間なんて、いるわけがないもの。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
……ヴィヴィオの拳を、マクガーレン長官が防御。
絶対領域<フォースフィールド>で押し込みつつ、袈裟・逆袈裟と剣閃を放つ。
ヴィヴィオは目も眩(くら)むような鋭い刃を、にらみ付けながら踏み込んだ。
あえて左肩で刀身の中ほどを受け、肉薄しながら右ボディブロー。
でも拳は虚空を突き抜け、マクガーレン長官が右脇から刺突。
それもまた、ヴィヴィオの<聖王の鎧>によって阻まれてしまうけど。
そこを狙いショートバスター三連発。
鎧に砲撃を受け止めてもらい、ヴィヴィオには後ずさってもらう。
「レイジングハート」
相棒に呼びかけつつ、アクセルシューター展開――。
合計三十発の高速誘導弾を発射。
でもそれは、ヴィヴィオの周囲に展開された、ディバインシューターによって尽く撃墜されてしまう。
≪W・A・S、エリア2まで終了。3に突入。……もうちょっとです≫
私は現在、チートヴィヴィオと戦闘中。というか、攻撃を凌(しの)いでいる最中。
「分かった。なら」
そしてヴィヴィオが加速――。
マクガーレン長官が前に出るけど。
≪Sonic Move≫
フェイトちゃんのソニックムーブによって、その剣閃をすり抜け、私に肉薄。
そうして打ち込まれた左ストレートを、レイジングハートで防御……そのまま捌(さば)いて左脇に逃れるも、即座に右回し蹴り。
それも防御しつつ、無理せず吹き飛び……攻撃直後を狙い、ショートバスター発射。
鎧を叩(たた)き、動きを止めたところで、マクガーレン長官が突撃していく。
その様子を見ながら着地すると、サクヤさんの回復魔法が発動。
青い輝きに包まれ、ブラスターのダメージと体力・魔力消費が回復する。
まぁ、すぐにとんとんで減っていくんだけどさ! くぅ……こんな長時間の戦闘は想定外だし!
「もうちょっとだけ持たせようか」
≪はい≫
でも、マクガーレン長官が同種の能力持ちで助かった。
おかげでW・A・Sによる捜索速度を上げられたし、時間稼ぎにも余裕ができる。
……かと思ったら、ヴィヴィオが右バックブロー。
刺突を避けながら、長官の右頬を狙った一撃だった。
問題があるとすれば、右拳に生まれた魔力が炎となり、吹き出したこと。
それがヴィヴィオの回転を加速させ……待って、あれは。
「ラケーテン」
ヴィータちゃんの……ラケーテンフォルムでの打撃!
「ハンマー!」
それが長官のフィールドに直撃――。
虹色の魔力を携えたそれは、絶対領域を砕き、長官の顔面を叩(たた)く。
「メルビナ長官!」
「くぅ……!」
いや、紙一重で避けてる!
自分から吹き飛んで、すれすれで……だからすぐ体勢を立て直した。
マントを翻しながら着地し、ヴィヴィオの胴体目がけて刺突。
攻撃直後のそれを、ヴィヴィオは鎧で防御……いや、違う。
そこでヴィヴィオの左手から、虹色の”炎”が生まれた。
それは刃となって、長官のサーベルを受け止める。
「……ほう」
ヴィヴィオはマクガーレン長官の刃を払い、袈裟の斬りつけ。
「紫電一閃――!」
今度はシグナムさんの斬撃魔法!? いや、剣はないけど!
でも剣の達人である長官には、その一撃が当たることはない。
長官は斬撃を左に避け、ヴィヴィオに体当たり。
そうして肉薄し、鎧が展開しない零距離から左ミドルキック。
ヴィヴィオの脇腹を叩(たた)き、部屋の隅へとたたき落とす。
ヴィヴィオは着地しながら、炎を雷撃に変換。
そのまま踏み込み、振りかぶりながら……雷撃の大剣とする。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
慌ててその斬撃を回避――刃は一気に数十メートル展開し、天井や壁をたやすく切り裂き、床も一刀両断。
今度は、フェイトちゃんのザンバー……間違いない。
ヴィヴィオは学習しているんだ。なのは達の魔法を……その戦い方を!
……そしてまたまたヴィヴィオがこちらに肉薄。
右フックを防御するも、そのまま壁に吹き飛ばされた。
「高町一尉!」
援護に回ろうとしたメルビナさん達へ、鋼の軛(くびき)――。
でも、詠唱速度がとんでもなく速い。
長官達も受けに回るしかなくて、距離が一気に開く。
この詠唱速度、恭文君レベル……物質変換は、使わないよね?
いや、使わないかぁ。恭文君のこととか、お話もしてないし。
それには安心しつつ、壁に激突直前で急停止。
そのまま右に飛び、ヴィヴィオの右跳び蹴りを回避。
玉座の真上が派手に砕ける中、ヴィヴィオは再度肉薄。
右ストレート・左ボディブロー・右フック・右ジャブ三連発を防御しつつ下がると、壁際に追い詰められる。
アクセルフィンを羽ばたかせ、足下を跳ね上げるように宙返り。
ヴィヴィオの右手刀……ううん、そこから生まれた、炎の剣閃を回避。
壁が熱量で焼かれる中、真上からショートバスター三連発。
その直撃を受けてもヴィヴィオは止まらず、進軍してハイキック。
防御するも、天井まで吹き飛ばされ……派手に叩(たた)きつけられる。
それでもヴィヴィオの追撃――昇竜拳もどきを防御。
そのとき、術式発動――その上で身を捻(ひね)り、ヴィヴィオを払いのけて退避。
床近くまで一気に下降。
そのままメルビナ長官とスイッチしつつ、アクセルシューターで援護。
ヴィヴィオは両手で炎の刃を出し、長官の剣閃を何とか防御していく。
……機動性は今の私と同レベル。
詠唱速度は驚異的で、ほぼラグなしで発動可能。
とすると問題は、ゆりかごのバックアップ。
それによって攻撃力・防御力が尋常じゃないレベルだから、三人揃(そろ)って押し込まれている。
となれば……次に試したいのは、プログラムの処理速度。
「ブラスタービット!」
ヴィヴィオが唐竹一閃を払いのけ、踏み込もうとした直後……その左右を挟むように、金色の物体三基が飛来。
レイジングハートの穂先にも似たそれは、ブラスタービット。
ブラスターモード時のみ使用可能な、無線誘導端末。
……これのせいで恭文君に『鉄仮面だ鉄仮面だ』とからかわれて、泣きそうになったのは内緒。
というか、鉄仮面ってひどいよ! せめてハマーン様かララァ、クェスじゃないかな!?
いや、その前に……ラフレシアにはビットがないよ!
「……邪魔ぁ!」
そう言って回転斬り……でも甘い。
このためになのは、ガンプラバトルで練習したんだから。
ビットの上手(うま)い使い方……その、普通にやったらメタメタで。
そのおかげで、ビットは弾(はじ)けるように散開。
その上でヴィヴィオの周囲を回り、起動上に魔力バインドを展開。
ヴィヴィオは上昇して退避するものの、バインドはそれに追従。
さっき殴られたとき、ホーミング用の目印(術式)をつけておいたんだよねー。
その結果ヴィヴィオは逃げ切れず、体を縛り上げられる。
更にその上下にビットが展開し、魔力フィールドを展開。
「クリスタルケージ、ロック!」
赤いピラミッド型ケージに、ヴィヴィオは閉じ込められた。
相手を閉じ込める閉鎖結界の一種。
私も前に、フェイトちゃんと閉じ込められたことがあるんだ。
「こんなの、無駄」
最初にやったバインドは、アッサリ解除。
本当にアッサリ過ぎて、寒気がした。
ヴィヴィオの詠唱・処理速度は……恭文君レベルだ。
でも瞬間詠唱・処理能力とはまた違う。
恐らくは並列的に、複数の処理を同時進行で行っている。
恭文君が一つの超高性能スパコンとしよう。
ヴィヴィオの場合は性能こそ普通のパソコンだけど、それを多数用意し、同時に処理へ当たらせている。
方式は違うけど、結果的にできることは同じってわけ。
となれば、クリスタルケージの方も……ヴィヴィオはプログラムから壊そうと、手を伸ばす。
でも途中でやめて、にやりと笑う。
……両拳を握り締めて、クリスタルケージに叩(たた)きつけ始めた。
「……く」
「サクヤ!」
「はい!」
即座にサクヤさんの回復魔法がかかり、消費は何とか耐えられる。
でも……痛みが……回復しながら戦っているのに、負担がじわじわと積み重なってる。
……ケージ維持のために、こちらが魔力消費し続けると見こして、嫌がらせしているんだ。
もう向こうは気づいてる。私のブラスターシステムが、ただ無茶(むちゃ)をしているだけの物だと。
だから、結界を一瞬で解除じゃなくて……わざと攻撃して、負担をかける方向に走り始めた。
私がママを奪った敵だから。
一瞬で仕留めるんじゃなくて、苦しめる方向に走り出したんだ。
でも……これでいい。
「高町教導官、ケージを解け!」
「いえ、このままで!」
時間を稼げるかどうかが重要。
だから、さっきから回避と防御を念頭に置いてる。
……改めて思う。この”ヴィヴィオ”を倒すのは無理だ。
普通の非殺傷設定の攻撃では、間違いなく倒せない。ここはもう確定。
……方法は幾つかある。
ヴィヴィオは洗脳状態にある。まずはその洗脳を解除する。
だけどさっき言ったように、ヴィヴィオ本人をどうこうは無理。
だから……最初から札を切ってる。まさか、こういう状況になるとは思ってなかったんだけど。
その札から伸びた手は、もう胸元まで来てるはず。あと……もうちょっとで詰みだ。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ヴィヴィオの拳が、更に叩(たた)きつけられる。
魔力がガシガシ削られるけど、これでいい。
必要なのは……醜いまでの時間稼ぎ。
一筋の希望にすがるように、ヴィヴィオを戒め続ける。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「……ふふふ、陛下は頭がいいですね。そう、それでいいんですよ」
ブラスターシステムについては、ちゃーんと説明しましたよねぇ。
覚えているなんて、とーってもいい子。
確かに……後方から一発勝負でどでかい攻撃をぶっ放されれば、おっかないスキルよね。
本来はそういう使い方をしないと、体が壊れちゃうの。
だからほらぁ……また回復魔法をかけてもらって、必死になっちゃって。
しかも……それが面白くて、つい笑ってしまう。
「陛下の魔力資質は、サンプルH-1に近い。いいえ、上位互換とでも言うべきかしらぁ」
むしろフォン・レイメイよりとも言うべき?
多弾生成や魔力砲撃も可能な時点で、アレより上だものぉ。
きっとゆりかごのサポートがなくても、出力も凄(すご)いんでしょうねぇ。
「恐らくは物質変換も、瞬間転送も可能だったはず。
……ほーんと残念。サンプルがいれば、即皆殺しだったのにぃ」
どうやらあなた達の”天敵”は、そっち方面みたいねぇ。
だから殺されるしかない……ここで、むごたらしく。
英雄なんてちやほやされた、GPOと同じくよ。
「でも、もう限界よね。地力ではあなたより陛下の方が上。だから、もうおしまい」
それを暗示するように、クリスタルケージが粉々に砕けた。
それがおかしくて仕方ない。
だってぇ、これが反逆者達の未来を示しているかと思うと……そうなるのよ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ヴィヴィオがクリスタルケージを壊して、飛び込んでくる。
マクガーレン長官がカバーし、その拳を剣閃で払う。
≪Sonic Move≫
そしてまた加速――。
く、聖王の鎧があるから、一撃を食らっても問題なしか。
多分肉体の強化・自己修復も込みだろうし、なんてタチの悪い。
とにかく肉薄したヴィヴィオは、左ボディブロー。
続く乱打もレイジングハートで捌(さば)き、何とか下がっていく。
更に両手を開き、ザンバーを瞬間生成――その袈裟一閃は受けられないので、左に回避。
……そして、避けたところで左手が向けられる。
今度はショートバスター。
私も反射的にレイジングハートを構え、一メートルもない距離で砲撃が衝突。
相互反応を起こし、爆発。
その衝撃と余波に吹き飛ばされながらも、地面すれすれで停止する。
「こそこそ」
ヴィヴィオはこちらに左手を向け、巨大な砲弾を一瞬で形成。一気に私に向かって放った。
……そこでマクガーレン長官が前に回り、唐竹一閃。
砲撃を剣閃のみで切り裂き、私達の両脇に余波の魔力が……うそぉ!
や、恭文君やヘイハチさんみたいなこと、できる人がまだいたんだ! 世界って広い!
「高町一尉!」
即座にレイジングハートを構えるけど、背後に気配――。
≪Round Shield≫
「逃げるな!」
背後に回ったヴィヴィオ――放たれた紫電一閃を何とか防御。
炎の刃とラウンドシールドが、火花を上げながら衝突し合う。
「砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ……砕けろ!」
力任せに、ヴィヴィオは刃を押し込む。
でも……無駄だよ。
見ていて分かった、ヴィヴィオは完全に使いこなせていない。
だから刃を捨てて、今度はラケーテンハンマー。
それはさすがに砕かれるけど、ヴィータちゃんのものに比べたら……幾分鋭さが足りない。
すぐに伏せて避け、レイジングハートの切っ先をヴィヴィオに突き立てる。
「が……!」
「この距離ならバリアは」
カートリッジ一発を使っての、ショートバスター。
「張れないね!」
ヴィヴィオが反撃する前に吹き飛ばし、玉座に叩(たた)きつける。
……走る心の痛みは、ぐっと飲み込む。
本当は嫌だ……ヴィヴィオに力を向けたくない。
でも、戦わなきゃ助けられない。
矛盾はしている。それでも望む結果を引き込むために――。
「だったら」
ヴィヴィオはまたまた、シューターを生成。
≪Accel Shooter≫
合計三十発の魔力弾は、その途端に撃ち抜かれていく。
攻撃すら許さない迎撃に、散らされていく魔力の残滓(ざんし)に、ヴィヴィオは目を丸くする。
……詠唱速度が速くても、自分やみんなの技だもの。
出力が圧倒的なだけで、ヴィヴィオ本人の技量はそこまでじゃない。
実際聖王の鎧がなければ、直撃は……もう数十発取れている。
そうだ、押さえ込むのなら問題ない。気持ちさえ負けなければ、どうとにでもなる。
どんどん冷静になっていく。それにより、不思議だけど力が溢(あふ)れてくる。
「ヴィヴィオ、知ってる?」
ヴィヴィオが踏み込んできた。
袈裟・逆袈裟――迫るのはフェイトちゃんのザンバー。
でも遅いよ。フェイトちゃんよりもずっと……それに、ライオットはない。
ザンバーなら取り回しも悪いし、回避も比較的楽。
だから左右のスウェーで避け、続くなぎ払いも左側転で笑って回避。
「戦いは、どっちかが強いかじゃない」
技量も、想(おも)いも、何もかも足りない刃を捌(さば)きながら、私は壁際に追いつめられていく。
ヴィヴィオがそれを見て、チャンスと言わんばかりに刺突。
≪Flash Move≫
高速移動でその刺突を回避。
私はヴィヴィオの後ろに回りこみつつ、十数メートルの距離を取る。
「ノリのいい方が勝つんだから!」
≪StarDust Fall≫
周囲に魔法を発動。
床の一部が持ち上がり、宙に浮く。
というか、魔法で切り取って巨大な石にする。
私の胴体ほどはある、三個の巨石を射出。
「ファイア!」
ヴィヴィオは左手を向け、ショートバスター三連射。
いん石を全て砕く……いや、砕こうとした。
「そしてブレイク!」
でもその前に、意志は自主的に粉砕。
ヴィヴィオのバスターをすり抜け、粉じんとなりながら舞い散る。
でも、それが砕けて生まれた細かい破片が、ヴィヴィオを襲う。
「ブラスタービット、クリスタルケージ!」
そこで動きが止まった所を狙って、再びバインド&クリスタルケージのコンボ。
ヴィヴィオは……予想通りに、私を苦しめるためにケージを殴り始めた。
「レイジングハート」
≪お待たせしました。……発見しました≫
「方向は?」
≪三時方向・下四十五度≫
レイジングハートの指示通りに、その切っ先を向ける。
それで状況を察したマクガーレン長官達が、私をカバー。
ランサイワ捜査官も更なる回復魔法で、私のダメージを回復してくれる。
狙うは……この先にある悪意。この船を管制し、ジェイル・スカリエッティを裏切った女。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ゆりかご、破損部分の自動修復開始。ふふ、まだ……まだやれるわ。
しかしあの女、何をしているの? 恐怖の余り、気でも狂ったかしら」
そう思って呆(あき)れて、笑って……気づいた。
私の側(そば)に、桜色の球体があることを。
『……痴女発見……う、なのはより大きい』
「これ、まさか……広域型のエリアサーチ!? まさか、ずっと私を探して!」
そうか、迂闊(うかつ)だった。
これだけの船を、二人だけで制圧しようとはしない。
でも人員はいない。最高評議会が頑張っていたしぃ?
なら……全体構造や敵の配置、その把握も込みで、こういう手を使って当然。
「ふ、でも無駄ね。たとえ見つけられたとしても、ここは最深部。たどり着けるわけがないわ」
『ブラスター……III! リミット・リリース!』
画面の中であの女は、更なる限界突破――。
画面に、その膨大な出力が数値として出てる。
ちょっと待って、あのデバイスを向けてる先にいるの……私?
「ふん、壁抜きなんてそんなバカなマネが」
言いかけてまた気づく。
あの女は、四年前の空港火災でも同じことをしていた。
頭が……理性が否定する。そんなことをするわけないと。できるワケがないと。
それでも理性は、一つの答えを出す。
今もなお上がり続けている魔力出力なら、できると……残酷に。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
W・A・Sというのは、『ワイド・エリア・サーチ』の略。
レイジングハートのコントロールで、サーチスフィアを飛ばすの。
そうしてゆりかごみたいな巨大な建造物や、広範囲のエリアを把握する。
なのは達だけじゃなくて、後からくる突入隊のためにも、調査が必要でね。
そのために、行く先々でサーチャーをばら撒(ま)いた。……備えあれば何とやらだよ。
≪ファイアリングロック、解除≫
痛みと一緒に、高まり続ける魔力。
それがレイジングハートの先に、魔力スフィアとして形成される。
ふだんより大きく……力強い形で。
――血を流す……私は、血を流す。
「全力」
カートリッジを全弾ロード。
レイジングハートが、空マガジンをパージ。
なので右手で、新しいマガジンを装着。
それも全弾ロードされて、スフィアに蓄積されていく。
――仲間のため? 娘のため? ううん、結局は自分(エゴ)のため。
「全開!」
レイジングハートの魔力スフィアは、私の胴体よりも大きくなった。
更に大きくなり、地面を削り、三メートルほどになる。
――それでも、戦うと決めた。
『ま、待ちなさい……私を撃ったら、後悔するわよ!』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あの女に躊躇(ためら)いがない。それに恐怖し、即座に通信を送る。
「地上の各魔導発電所には、ジュエルシードとナンバーズVII・セッテが控えているわぁ!
私の生体反応が消えた途端、各発電所が出力を上げ……分かるでしょう!? ミッド全体が虚数空間に捕らわれるわ!」
『……で、それがホントだと言う証拠は?』
「え……」
『まさか、証拠がないのに信じろとか……言うはずないよねぇ』
……あの女の目は、確かな殺意があった。
「しょ、証拠ならある……これ……これぇ!」
ここまでやったなら、加減する理由がない。
止まる理由がない。私を殺す……殺そうと、引き金に指をかける。
だからデータを送る。全て……洗いざらい。
『ありがとう。じゃあ』
「えぇ、そうよ! 地上がどうなってもいいなら」
『少し、頭冷やそうか』
あの女は笑って、引き金を引き絞る。
……え。
「やだ……」
教えたのに……嘘じゃないって、教えたのに……このままじゃ、私……やだ。
神になるの。神に……ドクターを生む、神の母に。
それが、私の夢だったのに……どうしてよ……どうしてよぉ!
人間だって夢を見るでしょ!? 叶(かな)えるでしょ!?
そのために努力をして、頑張って……なのに、どうしてよぉ!
どうして……どうして、私が殺されなくちゃいけないのぉ!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「メルビナ長官」
「補佐官達には伝えた。高町教導官、そちらは任せてくれ」
「はい」
もうターゲットは捉えた。映像から、怯(おび)えている全裸が映っている。
逃がさない。たとえバリアか何かあっても、全部撃ち抜く。
――それでも、傷つくことを厭(いと)わないと決めた。
「ディバイン……!」
レイジングハートの穂先から、桜色の羽が展開した。
それが揺れて、同じ色の羽がまき散らされる。
――それでも、戦うことをやめないと決めた。
「バスタァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
ただひたすらに撃ち抜くべき敵を見据えて……トリガーを引いた。
――大事な人達と、向き合うために。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
迷っている間に生まれたのは、桜色の奔流。
それが壁を砕く。何枚……何十枚もの障壁を。
ここまでにある、何百もの装置を砕く。
そして眼前には、殺意という名の力が迫っていた。
「い……」
ただ背を向けて、逃げるしかなかった。
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
……それでは駄目だった。
後ろから砲撃に飲み込まれ、周辺の装置や設備ごと吹き飛ばされる。
吹き飛ばされて、ゆりかごの最下層に叩(たた)きつけられた。
その間にも、奔流は私を圧(お)し潰す。
身体が、心が悲鳴をあげる。
そして現実を否定する。
こんなこと、あり得るはずがないと。
私の……私のお腹(なか)にはジェイルが、夢が……そこで、腹に激痛が走る。
他のとは違う痛みの質……淫欲で濡(ぬ)れた秘部から、命が零(こぼ)れる。
壊れた……衝撃で、魔力の圧力で、腕が、足がひしゃげ……目が潰れる中、命が零(こぼ)れた。
授かった神の命が……私の夢が……!
そして、爆発が起こる。
人より強い体は、意識すら失うことも許さない。
結果十メートルほど上を舞い、再び最下層へと叩(たた)きつけられる。
破砕によって、装甲板が剥がれ……とげのようになったそこへ。
結果衝撃で腕や足、アバラがへし折れ、頭から血が流れる。
更に腹も貫かれ、命は物理的にも粉砕。
「が……!」
痛い……痛い。痛みで、ひたすらに泣いていた。
なんで、神の母足る私がこんな仕打ちを……体中が痛い。痛みで、おかしくなりそう。
しかも、命が……零(こぼ)れた。
ジェイルの……彼が。
生みたかったのに……神の、母に……なりたかったのに。
もう生めない……ジェイルはもう、私にそんなことを、してくれない。
「ころ、して」
生きている意味がない。
夢が叶(かな)えられないなら……なのに、意識はまだ定まっていた。
動けないのに、痛いのに、苦しいのに、気絶もできない。
血は流れ、素肌を濡(ぬ)らす……そうして苦しみだけを、罰のように与える。
「ころ……ひへぇ」
このまま、死ぬの?
気を失うこともできず、壊れた自分を認識したまま……死ぬの?
やだ……やだ……助けて……誰か、助けてぇ。
それもできないなら、無理だと言うなら。
「ほほ、ひ……へぇ……!」
あの女は、悪魔だ。
殺すより残酷な形で、私を潰した。
そうして笑っているに違いない。
私が死ぬ様を見つめ、笑っているに……そうよ、そうに、決まっている。
それは私が……してきた、ことだから。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
真実の形は、もはや露呈している。
でも……僕やヴェロッサさん達が語ったところで、意味はない。
レジアス中将から語ることで、初めて意味を成す。
少なくともこの、歪(ゆが)められた武人にとっては。
滑稽だろう、無意味だろう。ただそれでも――。
「――これが、私の知る全てだ。言い訳に聞こえるかもしれんが……私が知ったとき、お前の隊は」
『もういい、よく分かった。よく……分かった』
真実は語られ、ゼスト・グランガイツは……憑(つ)きものが落ちたような顔をする。
『蒼凪、恭文』
するとゼスト・グランガイツが、こちらを見てくる。
『お前は……俺達のようになるな』
「はぁ?」
『お前の守りたいものを、通したいと願うことを見失うな。人は……それさえも簡単に忘れて、失ってしまう』
そうしておっさんは、レジアス中将を悲しげな瞳で見る。
『だからこそ何を守り、通したいのかを常に己に問いかけながら進んでいけ。
そして、そうしたいと思うその根源を忘れるな。たとえ、それがどんなに辛(つら)い道だったとしても、絶対に怠ってはいけない。
お前が大切なものを守る騎士であるならば……今すぐ、その異能力を捨てろ』
「……とことん学習しないらしいね、お前は」
『そんな能力さえ捨てれば、お前は機動六課のようになれる。彼女達のように、明るい道を進める。
……断言していい……そのままでは、貴様は俺達と同じようになる。だから捨てろ……そして世界に準じろ』
≪その機動六課もまた、最高評議会に利用された。あなたと同じように≫
『奴らはもういない。ならば……頼む、捨ててくれ。それがこの世界を、ルーテシア達の未来を照らす道筋になる。
俺はもうすぐ死ぬ。俺の姿を愚かだと思うなら……これまでの行動を、少しでも恥じる気持ちがあるなら』
「お断りだ。……お前のようにならないために、僕は逃げない」
断言すると、ゼスト・グランガイツがぼう然。
『やはり、貴様は悪魔か……自分さえよければ、自分さえ……そう思い、世界を破壊していくのか!』
『旦那、もう……いい』
『離せ……離せぇ! 今すぐ貴様とレジアスは処断する!
天よ、地よ……生きとし生ける全ての存在よ! 俺に正義の加護を! 力をぉ!』
『もういい……もういいんだぁ!』
そして隣にいるアギトは、悔し涙を流す。動けもしないのに……馬鹿らしいことだ。
目的を果たせないと錯乱し、叫び、嘆き続ける馬鹿ども。
それを見てレジアス中将は、オーリス三佐は、その”罪”を受け止め、唇をかみ締めた。
……ゼスト・グランガイツはもう、このままだ。
一生元には戻らない。このまま、僕と友(レジアス)を恨んで、死んでいく。
『それで蒼凪、各所の状況は……変わりなしか』
「いや、一つありました。今さっき、メルビナさんから連絡が」
『発電所にジュエルシードを仕掛けているそうです。担当はナンバーズ・VII――セッテ』
『なんだと! では』
『予測通りですね。ならリイン達はそっちを止めて』
『――その前にお邪魔しますね』
……そこで、奴の声が響く。
その瞬間、画面に映っていたゼスト・グランガイツの頭が……黒い砲撃によって吹き飛んだ。
血肉が、脳髄がはじけ飛ぶ中、この場にも嫌な予感が走る。
慌てて二人をカバー……でもそこでレジアス中将は、オーリス三佐を掴(つか)み、突き飛ばした。
僕に向かって、パスしたとも言える。
オーリス三佐の体を受け止め、そのまま後ろへと倒れ込むと――五月雨のような魔力弾が降り注ぐ。
それは一瞬で中将の心臓を、頭を貫き粉砕。
続く弾丸は肉体を引きちぎり、ただの肉片へと変えていく。
「あ……」
『だん、な』
そうして落ちた……倒れたんじゃない。
あれは『落ちた』んだ。
人の形を保っていないから、ただ落ちた。
「……父さん!」
『旦那ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
慌てて飛び出しかけた、オーリス三佐を抱き締め、強引に止める。
そのとき左胸が、大きくて柔らかい感触に触れるけど、今は……あとで謝ろう。
「離してぇ! 父さん……父さん!」
「もう、”父さん”じゃない!」
混乱する三佐にはそう告げると、体から力が抜ける。
泣きじゃくり始めた彼女を受け止め……空に浮かぶ、”奴”を見た。
「……もう、最高評議会は潰れているよ」
「えぇ」
≪殺す必要はなかったでしょ。あなたとの契約もパーだったんですから≫
「そうですね。でも私、こう見えても潔癖症なんですよ」
そうして奴は笑う。初めて会ったときと同じように。
「やり残しは気持ちが悪くて。なので」
そうしてアイツは大剣を振るい、僕に切っ先を向ける。
「決着を付けましょう、蒼凪恭文」
「あぁ、そうだね――フォン・レイメイ」
(act.32へ続く)
あとがき
恭文「というわけで……幕間第46巻が販売開始。ご購入いただいたみなさん、本当にありがとうございます」
(ありがとうございます)
ヤスフミ「そして本日のログインボーナスで、フレポ乱数調整した上で呼符を一枚使ってみたところ」
マリー・アントワネット(術)「この水着も可愛(かわい)いわ。でも……あなたはこれが入りきらないくらい、豊満な方が好みなのよね?」
恭文「どういうこと!?」
古鉄≪はい、水着マリーさんがやってきました。ライダーでも初期に引いていたんですけど≫
(水着ガチャの戦果:ライダーなモードレッド×3
ルーラーなマルタ×1
キャスターなマリー×1)
恭文「というわけで、お相手は蒼凪恭文と」
古鉄≪どうも、私です。ヴィータさん、高町教導官の戦いは終了。まぁ高町教導官のアレは、ほぼイベントですから≫
(水戸黄門で印籠を出す流れに似ている)
恭文「そして予測通りに仕掛けていた、クアットロ……馬鹿だねぇ。それで撃たなくても、結果的にミッドは終わりなのに」
古鉄≪撃って何とかするか。撃たずに時間稼ぎをするか……後者はできる状況じゃなかったので、撃ったわけですね≫
恭文「なのは、あれかな。鉄血のオルフェンズとか見た?」
(『見てないよ! というか時系列ー!』)
恭文「そしてこちらも、いよいよメインバトル」
古鉄≪既に開始から決着までは書いているので、サクッと終わらせましょう。あと……乞食清光は使わないように。私の出番がないので≫
恭文「ま、魔力制御とかを手伝ってくれる感じに」
古鉄≪駄目です≫
(そして真・主人公、ガンダムアスタロトボディの耳辺りをくしくし……。
なおバルバトスボディは現在、模型・設定画・PV映像を元にバルバトスルプスボディに改装中です。
本日のED:T.M.Revolution『INVOKE』)
恭文「今月は散財しているのに……つい、HGCE エールストライクをぽちってしまった」
古鉄≪まぁ千円以下で安いキットですよね。ビルドストライクとの絡みもあって、出来もいいですし≫
フェイト「というわけで、作るよ……うん、作るよー。えっと、剣を持って……素早く動けて」(ガッツポーズ)
アブソル「八月ももう終わり――」
ディード「はい。今年もイカロスのスイカを食べ、海やプールで遊び、充実した夏休みでした」
フィア「あぁ! 宿題も……七月中に終わらせたので、心置きなく新学期を迎えられる! ……というか、ヤスフミが怖かった」
イカロス「マスターは奥様達の件で、苦労されたので……というわけで、スイカシャーベットです」
アブソル・ディード・フィア「「「いただきます!」」」
白ぱんにゃ「うりゅりゅ、うりゅー!」
灰色ぱんにゃ「うりゅりゅ!」
カルノリュータス「カルカルー」
カスモシールドン「カスカスカス!」
(おしまい)
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