小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
幕間そのに 『とある魔導師と彼女の出会いと危機』:1
≪みなさん、いつもマスターのトンデモ珍騒動を見捨てる事無くごらん頂いて本当にありがとうございます。
何回目かの自己紹介になりますが、私はこの物語の主人公である蒼凪恭文のパートナーデバイス、古き鉄・アルトアイゼンです≫
「えっと・・・始めましてっ! と言ったら変よね・・・?」
≪そうですね、あとがきでも出演されているわけですし≫
「そうね。なら改めて・・・。第108部隊所属の捜査官。ギンガ・ナカジマ陸曹です。
いつもなぎ君が事ある事に暴走して、みなさん、ご迷惑をおかけして本当にすみません。私が本調子なら、全て未然に止められるのですが・・・」
≪・・・ギンガさん、その辺りを話し出すと、非常に長くなりますし、何より、それの大半に共謀して乗っかっている私の心が痛いです。
なので、いつもの説明に行きたいと思います≫
「・・・アルトアイゼン、お願いだからもうちょっとなぎ君を止めて・・・・いや、止めようとしても無理なのはわかるけど。
とにかく、今回の話はまたも時間を遡って、3年前。
私となぎ君が初めて出会った時から始まり、私となぎ君がどのようにして、今の関係を結んだかを描くお話です」
≪まだ、ギンガさんが初々しかった頃の話です。
・・・マスターは、もちろん今の通り。この差は一体どこから生まれたのか、私は非常に疑問です。まぁ、ギンガさんのちょっとアレな部分も変わらずですが≫
「と、とにかくっ! 幕間そのに、お楽しみいただければと思いますっ!!」
≪お暇でブラックジョーク的な要素も笑って許せる精神状態でご覧いただけるとありがたいです。・・・それでは、どうぞっ!!≫
魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝
とある魔導師と機動六課の日常
幕間そのに 『とある魔導師と彼女の出会いと危機』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・今から3年ほど前。新暦72年の8月のこと。
スバルが訓練校に入って、ルームメイトのランスターさん・・・ティアと元気に頑張っていた時のこと。
私は私で、陸士学校を卒業。父であるゲンヤ・ナカジマが部隊長を務める、第108部隊に所属。
母さんから受け継いだシューティングアーツの修行と、日々の業務に追われ、忙しいながらも充実した日々を過ごしていた。
そんな時、私達の部隊で調査していたあるロストロギアの密輸事件で、大きな進展があった。
ただし・・・それは悪い進展。
ロストロギアを保有している連中が、中々に巨大な戦力を持っている可能性があることが判明した。
・・・悔しいけど、うちだけでは手が足りないかもしれない。
そこで、連中のアジトが判明するまでの間に、近隣の地上部隊への協力要請が急務となった。
・・・これには、日ごろの父さんの尽力のおかげか、とてもスムーズに話はまとまった。
そして・・・もう一つ。
その時、うちの部隊で研修を積んでいた八神はやてさんのツテを借りることにした。
はやてさんの友人で、フリーランサーとしてあちらこちらの現場で、その腕を振るっていたエース級の魔導師を呼ぶことにした。
そうして、私は彼と出会う。私にとって、大事な存在となる一人の男の子に・・・。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・帰りたい。てか、プリキュ○の放送日なんですけど? なんで見れないのさ僕は。
≪マスター、着いたばかりではありませんか。なにをいきなり・・・≫
「だって〜、昨日帰って来て、今日ここだよ?
休みも何にも無しで呼び出すって・・・どういう了見さあのタヌキは」
≪仕方ないではありませんか。しっかり根回しもされた上での依頼でしたし≫
「・・・まぁね」
≪それに、フェイトさんのドキドキな水着姿のスクリーンショット、受け取りましたよね? その分は働かなくてはなりませんよ≫
「・・・はい」
胸元の青い宝石・・・僕のパートナーとそんな話をしながらも、僕は・・・見上げていた。目の前にでっかくそびえる建物を。
ミッドの西部に位置する、陸士部隊『第108部隊』。ミッド地上で起こる密輸事件などを専門に扱っている部隊の一つだそうですよ。
で・・・僕の悪友で、師匠の家族である八神はやてという女の子が、この部隊で研修中だったりする。
・・・そう、僕がここに来たのは、そのはやて。チビタヌキのおかげなのだ。
昨日の夜10時に、地球の海鳴のハラオウン家に、クロノさんの依頼(管理世界の巨大生物の駆除任務)を片付けて、ようやく戻ってくると・・・はやてから通信が来た。
依頼料と特別報酬でフェイトのドキドキ水着スクリーンショットをあげるから、今日ここに来いと言われた。
ちなみに、現時刻は朝の八時である。当然、あまり寝てません。
「・・・だから、さっきから言ってるでしょうが。準備もあるからすぐには無理。
で、明日はプ○キュアの放送日なんだよ。リインにお願いされて、録画しなきゃいけないのよ」
『アンタ、うちよりプリキュ○大事って、人として間違ってるやろっ!!』
「仕方ないでしょうがっ!! 白服の子がお気に入りらしいんだから。つか、僕もお気に入り」
『意味わからんわそれっ!!』
「もっと言うと中の人が好きなんだ。つまり、ゆ○なさんだ。この間ゆか○さんのライブに初めて行ったら、すごく楽しかったのよ。
フェイト張りに綺麗でスタイルよくて素敵な人だった。不覚にもドキドキしてしちゃったじゃないのさ』
『ちょいまってっ! これ、さっきから会話になってへ』
そんな話をして通信を切った。なぜだかまたかけてきたけど。
というか、休ませろこのチビタヌキと言った。うん、当然の権利だ。
そうしたら、既に話を通していたエイミィさんやアルフさんに出発の準備をさせていて、お風呂と夕飯を頂いたらすぐに出発させられた。
いや、追い出されました。すごい笑顔で締め出されました。
で・・・管理局本局に跳ばされて、仮眠室で少し寝かせてもらったあと・・・ここに到着したのである。眠い・・・疲れた・・・。
「とりあえず・・・会ったら殴ってやる」
≪それがいいと思います。・・・私だって、響○見たかったのに≫
「あぁ、あれも・・・面白いよね?」
≪面白いですよ? 私は好きです≫
僕とアルトは、互いに意見が一致したところで・・・。
中に居るであろうタヌキに対して文句をつけるために、隊舎の中へと入っていったのだった。
「・・・なるほど、お前さんが八神の言ってた魔導師ってわけか」
「まぁ、そうなります」
「いや、ほんとにいきなりで悪かったな。こっちもいつ出動になるかわかんなくて、すぐに手が欲しかったんだよ」
・・・それなら、ちゃんとどっかの部隊に救援を要請して欲しいもんである。世界はともかく、僕の迷惑を考えて。
「もちろん、近隣の部隊には応援は要請してるがな、どんなのが出てくるかもわからねぇし、エース級の人材が欲しかったんだよ」
≪それで、はやてさんにご相談されたのですね?≫
「あぁ。あいつんとこの家族は、お前さんも知っているとは思うが、つわもの揃いだからな。でもよ、あいつの家族は全員手が空いてないって言うんだよ」
・・・はやての部隊設立関係で動きまくってるしな。リインも、今は師匠の手伝いしてるし。
「・・・つか、お前さんのデバイスだよな、それ?」
「はい」
≪古き鉄・アルトアイゼンと言います。以後、マスター共々よろしくお願いします≫
「あ、あぁ。よろしくな・・・・」
うむぅ、アルトを見て動揺してる・・・。
「あの、アルトのことは気にしないでください。ちょっと事情があって、普通のAI付きデバイスよりむちゃくちゃしゃべる子なんです」
先生の話からしだすと長くなるので、手短にそんなことを言ってフォローする。
「そうか・・・。で、なんの話だったけな?」
「はやての家族はワーカーホリックで大変だね・・・という話です」
「・・・そうだな、間違ってはいねぇよな」
ま、分かるけどね。・・・部隊設立なんて、楽じゃないし。
「それで、他に居ないかと聞いてみたら・・・お前さんの名前が出てきたんだよ。
八神に話を聞いてから、一応経歴も見させてもらったが・・・すげぇもんだな。その年でむちゃくちゃ修羅場潜ってるじぇねぇか」
「まぁ・・・潜れない=死ぬって状況ばかりだったってだけで、そんなにすごくないです」
≪まったくです。私から見てもまだまだ甘い所はありますが、一般の武装局員よりは上のレベルなのは間違いないので、ご迷惑はおかけしないと思います≫
「そ、そうか。・・・なぁ、お前さんのデバイス、いつもこうなのか?」
その人は、慰めるような・・・。哀れむような目で、僕を見る。
お願いだからその目はやめてほしい。いや、アルトのことは嫌いでもなんでもないし。
「あぁ、悪いな。つい・・・。でも、大変だな」
「もう慣れました」
「まぁ・・・・あれだ。その腕を今回も振るってもらえるとありがてぇよ。
・・・で、自己紹介が遅れたが、俺が第108部隊の部隊長を務めさせてもらっている、ゲンヤ・ナカジマだ」
「嘱託魔導師、蒼凪恭文です。よろしくお願いします。で、この子はさっきも紹介しましたけど・・・」
≪マスターのパートナーデバイスのアルトアイゼンです。よろしくお願いします、ナカジマ部隊長≫
・・・隊舎に入った僕は、いきなり部隊長室へと通された。で、そこに行くと僕とアルトを迎えてくれたのはこの男性。
年のころだと40〜50前後、白髪の短髪の頭に、鍛えぬかれているガタイのいい体。
ゲンヤ・ナカジマ部隊長。この部隊の部隊長さんだ。
「おう、よろしくな」
「あの、それでですね・・・」
「なんだ、もう金の相談か?」
「いえいえ、違いますからっ! ・・・具体的には僕は何するんですか?」
「・・・八神から聞いてねぇのか?」
いや、素晴らしいことにまったくなんにも。それでここまで来たことに、僕は自分を誉めたくなるね。
≪鉄火場が来るかもしれないから手伝って欲しい・・・とだけ言われてきました≫
「アイツ・・・。なぁ、お前さん、ひょっとして毎度毎度こんな感じで動かされてるのか?」
「・・・・・・・・・はい」
≪なんというか、マスターの人徳です≫
そんな人徳いらないからっ!!
と言いますか・・・・クロノさんもリンディさんもはやても、僕の都合とかお構いなしだもんなぁ。どうにかしてほしいよ本当に。
「まぁ・・・アレだ。うちで追ってる密輸事件の犯人グループの戦力が、予想以上に多いかも知れないんだよ」
「・・・そいつらをぶっ飛ばす要員が欲しかったってことですか?」
「そういうことだ」
ふむ、実に僕向きな分かりやすい仕事だ。それだけでも救いかな。
「調査やなんかはうちで進めてるから、お前さんは出動命令が来るまで隊舎でゆっくりしてもらってかまわねぇぞ。
まぁ、二〜三日中には出ることになるとは思うがな」
「了解しました。というか、ゆっくりさせてください。もう・・・本当に・・・」
「・・・わかった。まぁ、うちは飯も上手いから存分に羽を伸ばしてくれ。だからな、泣くなよオイ」
さすがに・・・ぶっ続けはきついって本当に。リアルでモン○ン生活だったもん。『上手に焼けました〜♪』とかやったしさ。
「そういえば、あのチビタヌキはどこに?」
「チビタヌキ? ・・・あぁ、八神のことか」
これで通じるってすごいよね。いや、本当に。
「アイツなら、さっきここへ来るように連絡しといたから、もうすぐ来るはずだ。・・・噂をすれば、だな」
ゲンヤさんがそう話していると、後ろの部隊長室のドアが開いて・・・三人の女性が入ってきた。
一人は僕の友達のはやてことチビ・タヌキ。
もう一人はショートカットで眼鏡をかけている白衣の女性・・・マリエルさんっ!?
本局のメンテスタッフで、僕とアルトの友達でもある、マリエル・アテンザさんがそこに居た。え、なんでここにっ!?
「あ、恭文くん久しぶりー!」
「というか自分、なんでうちだけタヌキ扱いなんやっ!」
「どやかましいわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
とりあえず、僕はどこからともなくとりだした猫ちゃんスリッパで、はやての頭をどついてやった。
「い、痛いっ! 自分なにするんやっ!?」
「それはこっちのセリフだっ! いきなり説明も無しで呼び出して、ここに来るまでどんだけ大変だったと思ってるのさっ!?」
≪・・・私、○鬼見たかったんですけど≫
アルト、そここだわるね。
「あー、ごめんな二人とも。うちの子達もアウトやったし、いつ出動がかかるかもわからへんかったから・・・つい・・・・」
「・・・まぁいいけど。依頼の詳細は今聞いたし。
あのマリエルさん、なんとなしに嫌な予感がするんですけど、なぜここに?」
「うん、はやてちゃんに呼ばれたんだ。二人がちゃんと戦えるように、見てあげてほしいって。あと、アルトアイゼンともお話したかったから♪」
「・・・・おい、タヌキ」
「てへっ♪」
んなぺ○ちゃんマークみたいな顔されても誤魔化されるわけないでしょうがっ!!
まったくこの女は・・・・。
「今日中には終わらせるから、いつ出動がかかっても大丈夫だよ。・・・おいで、アルトアイゼン」
≪はい。・・・それでは、ちょっと行って来ます≫
「うん、しっかりメンテしてもらってきなよ」
≪はい≫
そうして、マリエルさんはアルトを手の平に載せて、メンテナンスルームへと向かって行った。
パーツなども持ってきているので、ここの設備でも問題なく出来るそうだから・・・いつでも出れるね。
「さて、恭文。うちはナカジマ部隊長とちと話あるから、外出てや」
「・・・ナカジマ部隊長、このタヌキ捌いて鍋にしてもいいですか?」
「おうかまわねぇぞ。あーでも、腹壊しそうだな」
「そうですね。加熱処理しても無駄な感じしますし、煮ても焼いても食えないってのは、はやてのためにある言葉ですね。はははははははっ!」
「・・・・むかつくっ!!」
なんか言ってるけど無視。つーかおのれにムカつく権限など無い。・・・そういえば。
「はやて」
「なんや?」
「さっきから黙りっぱなしで、僕達の会話を唖然とした表情でじっと聞いていた、この青髪ロングヘアーの素敵なお姉さんは・・・だれ?」
「・・・なんや恭文、一目ぼれか? 自分、髪が長くて、スタイルがそこそこよければ誰でもえぇんやな」
パシィィィィィィィィィンッ!!
「・・・聞こえなかったのかな? 答えて」
「と、とりあえずうちの顔面を掴むのはやめてくれへんか? つか、そないにポンポン叩かなくてもえぇやんかっ!!」
「・・・聞こえなかったのかな?」
ぎゅー!
「握力強くするのやめてーなっ!!」
なんか不満そうだったので、離した。まったく、このタヌキは・・・。
「まぁえぇわ、この子はギンガ・ナカジマ。ここの部隊の部隊員や」
ナカジマ・・・? まぁいーや。興味ないし。
「あの、蒼凪・・・恭文さんでよろしいでしょうか?」
「はい」
「ギンガ・ナカジマ二等陸士です。よろしくお願いします」
そういって、ナカジマさんは敬礼する。・・・あぁ、別にそういうのいいですから。僕はそんな偉い立場にいるわけでもなんでもないですし。
「そう・・・ですか?」
「うん、そんなことする必要ないでギンガ。この子はむちゃくちゃアレなんやから。さっきの見てたやろ?
傍若無人ちゅうんは、こいつのためにある言葉なんやから」
げしっ!
「・・・はやて、もう一回叩いたほうがいい?」
「つーか蹴ってるやん自分っ! ・・・いや、うちが悪かったと思うからその目はやめてな。つか、暴力は何も解決しないでっ!?」
「正義を振りかざして犯罪者ぶっ飛ばしてる、管理局員の出世頭が何を抜かすか」
「「いや、その言い草もどうなんだよっ!?(どうなんやっ!?)」」
そして、大事な話があると言ったはやてと部隊長を後に残して、僕はナカジマさんの案内で、隊舎内を見て回ることになったのだった・・・。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・思えば、すごく印象深い出会い方だった。
だって、いきなりはやてさんの頭をスリッパで殴るし、蹴ったりするんだもの。・・・後から事情を聞いたら、それも納得できたけど。
でも、私の周りにそんなことをする男の人は居なかったから、最初はちょっとだけ戸惑った。
あのはやてさんに対してもタメ口だし、あとで彼のデバイスのアルトアイゼンと話をしてみると・・・更にクセがあって・・・。
うん、すっごくびっくりして、戸惑った一日だったと思う。
そうして、その日の夕方にアルトアイゼンとジガンスクードのメンテナンスは終了。結果は異常なしで、なぎ君は胸を撫で下ろしていた。
一応メンテは受けていたそうだけど、その前日に、ドラゴン相手に派手にやりあったりしてたわけだし・・・無理ないか。
でも、『上手に焼けました〜♪』は美味しかったって、どういう意味なんだろう。未だに分からないのよね。
そして、なぎ君が来て二日目の朝。・・・私となぎ君は演習場に居た。
なぜかと言うと、私が組み手を申し込んだから。・・・スバルと同じだね、これは。
実際に命を預けあう以上、ちゃんと力量は把握しておきたかった。それは、父さんやラッドさん、ほかのみんなも同じ。
そんなわけで、同い年で実力も同程度だと思われる私が相手をするのが妥当だということになった。
だけど、これはとんでもない間違いだと、私を含めた部隊のみんなは痛感した。
なぎ君の実力は、その時の私より上だった。彼の経歴を考えれば当然なんだけど。魔導師になった直後から、空戦Aランク相当の実力はあったわけだし。
ウィングロードやシューティングアーツに触れる事自体が、なぎ君にとっては初めてというアドバンテージのおかげで、追い詰めることは出来た。
けど・・・最期の最期で、私は胴に斬られて、吹き飛ばされた。それはもう見事に。
・・・でも、私はその結果にどうしても納得が出来なかった。私は・・・怒った。
訳は・・・言わないでも分かると思う。私が、子どもだったから。今より、少しだけ。
あの時の自分が目の前にいたら、思いっきり叱りつけてやりたい。
私の浅はかさが、配慮の無い言葉が、なぎ君を傷つけたかと思うと・・・腹が立つ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・なんだお、これ。
≪マスター、予測は出来た事態ではありませんか。何をいまさら・・・というか、その口調は可愛くないからやめてください≫
「うん、自分でも言って後悔したからもうやらない」
≪なら、問題ありません≫
・・・108部隊に来て二日目の朝。ここの部隊の若手のエースであるギンガ・ナカジマさんと模擬戦をしたのだけど・・・見事に怒らせてしまったのだ。
原因は、僕が戦いの最中にカートリッジや形状変換を使わなかったこと。・・・僕が勝ったからという話ではない。
全力で戦ってないとかバカにしてる言われましたよ。いや、みごとなキレっぷりだった。
それを言ったら教導隊レベルの相手の場合はどうするんだって言いたくなったけど、そういうのもブッちぎられそうな勢いだったし。
さて・・・。
「お昼にしようか、アルト」
≪そうですね≫
「今日のお昼なんだっけ?」
≪ちょっとまってくださいね・・・。本日の特製ランチは・・・・あぁ、マスターの好きなサバの味噌煮です≫
「ほんとうにっ!?」
≪はい。付け合せは・・・ほうれん草の胡麻和えと冷奴ですか。そこにお味噌汁にご飯はお代わり自由だそうです≫
むむ・・・。昨日の夕飯の時にも思ったけど、ここのご飯はレベル高いな。
しかも僕の好みにあってるときてる。なかなかやるね、108部隊。
≪そうですね。まぁ午前のことは午前のこととして、美味しくお昼としましょう≫
「そうだね」
そうして・・・僕とアルトはお昼にありつくべく、隊舎の食堂へと向かった。らんらんる〜♪
「まてまてっ! お前さん、うちの娘はこのまま放置するつもりかっ!?」
・・・やっぱりだめか。
とっとと食堂に行こうとする僕達を引きとめたのは、怒れる大魔神のお父さんであり、部隊長でもあるゲンヤ・ナカジマさんの声。
いや、すばらしいツッコミをありがとうございます。
「だって、完全に頭にきてたみたいですし、それで何を言ったって無駄ですよ。少し頭が冷えてから話すことにします」
「・・・まぁ・・・な。だがよ、俺も気になったんだが、どうしてカートリッジや形状変換を使わなかったんだ?」
簡単です。
「・・・書類とか書くのがめんどいんです」
「そんな理由かおいっ!? お前さん、結構危ない状況とかあったよな? それも全部そんな理由で耐えたのかっ!」
「カートリッジの発注書ってめんどくさいじゃないですか。それに比べたら、使わないで戦うほうがまだ楽ですよ」
「あー、お前は本当にアレだ。八神も言ってたけどほんとうに思考がちょっとアレだよ・・・」
・・・はやて、僕についてどんな話をしたのよ。いや、想像出来るけど。
≪・・・まぁ、マスターの言ったのは4割くらいの理由ですが≫
「そんなに多いのかそのフザケた理由の割合っ!」
≪本当に書く時にめんどくさい顔をしているのですから、仕方ありません。反省会もしつつですしね≫
・・・でも重要なのは、その残りの6割なんだ。
「・・・剣術を教えてくれた先生の教えなんです。
『カートリッジや形状変換、モードチェンジなどの機能は確かに強力ではある。だが・・・その力に安易に頼れば、自身を強くする伸びしろを殺す事に繋がる』」
≪ただ、安易じゃなければ問題はないので、使うべき状況かどうかを見極める目を養うべし。
それが、マスターがグランド・マスターから受け継いだ戒めです≫
「・・・なるほどな。だから、出来うる限りその手のものを使わないようにしているってわけか」
僕は、部隊長の言葉に頷く。
まぁ、発注書とか、レポートとか書くと、戒め外したっていう事実を突きつけられて、どうにも辛いっていうのも、確かにあるんだけどね。
「それで教導隊レベルの輩を相手にしても、勝てるようになるのが目標なんです。
先生は、そのなのはとフェイトのコンビに全力全開で勝負を挑まれても、楽勝ですから」
「なのはとフェイト?
・・・おい、まさか八神の友達っていう、高町なのはとフェイト・T・ハラオウンか? どっちも局で有名なオーバーSランク魔導師じゃねぇかっ!
お前さんの師匠は、その二人相手にその手のもん使わずに勝てるっていうのかよっ!!」
「・・・ナカジマ部隊長。『勝てる』じゃないです。『全力全開の二人を相手に楽勝』です」
・・・あ、表情が固まった。まぁ、先生の強さは間違いなくバランスブレイカーだしなぁ。知らない人が聞いたら驚くのは無理ないよ。
「・・・で、こう言ったらアレですけど、こういうのは、予測してましたから。
ある意味じゃあナカジマさんの言った通りですし、向こうがそう思ったんならそうなんでしょ」
「いや、だからと言ってよ・・・、頼むから放置すんのはやめてくれねぇか?
いつ出動がかかるかもわかんねぇ状況で、仲違いしている人間が居るのは、部隊長としても好ましくねぇんだよ」
「・・・分かりました。でも、僕は戒めのことを話すだけですよ? それでどう受け取るかは向こうの問題です」
「それに関して折れるつもりはねぇってことか、例えギンガのやつが納得しなくても」
・・・そういうのも織り込み済みで受け入れた戒めだもの。先生から、その話も最初のうちにされたし。
誰になにを言われても・・・僕はこれをやめるつもりはない。
もちろん、こだわり過ぎて使わなきゃいけない状況をスルーして、大怪我するつもりもないけどね。
「・・・まぁ、アイツがそれで納得するかどうかってとこだな」
「来た早々、生意気なこと言った上に面倒な事になってすみません」
「かまわねぇよ。・・・男には、誰に理解されなくても張りたい意地くらいは誰しも持っているもんだ。
お前さんにとって、師匠からの教えは、誰彼とかは関係なく、自分自身が守りたいって思う大事なものなんだろ?
だったら、俺らがとやかく言うことじゃねぇさ」
「・・・ありがとうございます」
「いいってことよ」
・・・なんというか、面白い人だ。縄張り意識が強くてガチガチな地上部隊の隊長さんの一人とは思えないよ。
そんなナカジマ部隊長に見送られて、隊舎内で問題の彼女を探し回って・・・・中庭の隅っこで負のオーラを出しまくっているナカジマさんを見つけた。
さて、どう話そうかアルト?
≪はやてさんに押し付けるというのはどうでしょうか? マスターじゃダメですよ≫
「よし、どういう意味かは聞かないでおく。つか、はやては今隊舎に居ないのにそれは無理でしょ。向こうは真剣に調査中だよ?
・・・仕方ない、普通に話すか」
方針と呼べないような方針を決定すると、僕は慎重に彼女に近づき・・・声をかけた。
「何の用ですか?」
・・・かけようとした瞬間に、向こうから棘を含んだ言葉が飛んできたけど。
「あー、うん。そのね・・・ちょっと話があって」
「・・・今取り込み中なので、後にしてもらえます?」
「悪いけどそれは無理。部隊長命令で、この状況をなんとかしろって言われてるし。・・・よっと」
僕はナカジマさんの返事も聞かずに、彼女の隣りに座る。・・・あぁ、目が怖い。すっごい勢いで睨んでるし。
「・・・強引な人なんですね」
「そりゃあ、突撃命のフロントアタッカーだもの。強引じゃなくてどうするのさ」
「なら、言い方を変えます。無神経で図々しい人ですね」
「よく言われるからもーまんたい〜♪」
「・・・そうですか」
あぁ、視線が・・・視線が痛いっ! 痛すぎるっ!!
こういうのは、痛視とか言うのかしら? まぁそれはともかく・・・。
「ナカジマさん、僕が勝負の中で、カートリッジや形状変換使わなかったの・・・そんなに不満?」
「・・・えぇ、不満です」
「一応確認。どうして、そう思うの?」
「・・・どうして? そんなこともわからないんですかっ!」
「うん、わからない。だって、ナカジマさんとは昨日会ったばかりだよ?」
僕がそう言うと、ナカジマさんが黙った。そう、僕とこのおねーさんは、昨日会ったばかりなのだ。
「そんな人間が何考えてるかなんて、分かるわけないじゃないのさ。
ナカジマさんだって、図々しくて無神経な僕の考えてることなんて分からないでしょ?」
「・・・・・えぇ」
「だったら、ちゃんと教えてよ。じゃないと僕はなんにも言えない」
僕がそこまで言うと、ナカジマさんは・・・まだ不満そうだけど、ちゃんと落ち着いて話してくれた。
「・・・私は、全力で戦ったつもりです。それが相手に対しての礼儀だと思っていますから」
「つまり・・・持ってる力、カートリッジや形状変換を使おうともしていない僕は、礼儀を通していない?」
「そうです。少なくとも私には・・・そう見えました」
・・・どうしようかアルト?
≪きちんと話すしかないでしょう≫
それしかないか。うん、きっとそれが一番いい。
≪・・・ナカジマさん、マスターがカートリッジや形状変換を使わなかったのは、別にあなたと取るに足らない存在だと軽視してたわけではありません。
と言いますか、マスターはエースなどと呼ばれるほど強くありませんから≫
「でも、八神さんの話だと・・・」
≪確かに、優秀な師匠達に鍛えられてはいます。経験も豊富です。そしてあなたも見た通り、姑息で卑怯で陰湿で汚い男です。
まともじゃない勝負なら、負ける要素がありません≫
余計なお世話だっ! つか、それほど汚い真似はしてないわぼけっ!!
・・・いや、真面目にしてないよ? ガチンコですよガチンコ。
≪ですが、マスターの魔力資質は、特性はともかく量はそれほど恵まれてはいません。身体能力なども同じです。
それで、あなたのように資質に恵まれたエース級と渡り合おうと思えば、本来ならカートリッジや形状変換などもしっかり使っていかなければならないんです≫
「なら、どうして使わなかったんですか」
「僕がその手の物を極力使わないようにして戦ってるのはね・・・」
「・・・つまり、その剣術の先生の教え・・・なんですか?」
「そう、修行の一つとしてね。
魔力の資質とか、カートリッジの能力とか抜きにして、持ってる戦闘技術だけでどんなのが相手でも渡り合うようになるのが目標なの」
≪それで、普段からあれやこれやと使っていたのでは、なんの成長にも繋がりませんから≫
「そう・・・なんですか」
あ、表情がなんだか柔らかくなった。これは・・・。
「・・・納得してくれた?」
「半分は」
半分ってなにっ!? え、もう半分はどうやって埋めればいいのさっ!!
「蒼凪さん、もう少し、その先生のこと、あなたの魔法のこと、教えてもらってもいいですか?」
「ほえ?」
「さっき使った魔法。鉄輝一閃・・・でしたっけ?
ああいう魔法を見たのも初めてですし、あなたみたいな、調子に乗ったような戦い方をする人を見るのも初めてです」
「いや、普通の魔力付与だよ?」
「違いますよね。私のバリアやフィールドを一瞬で斬り裂きました。
・・・魔力付与の仕方が違うはずです。あれは、どちらかと言えば半物質化してます」
まぁ、確かに。ただの魔力付与じゃ火力が足りないから、薄く鋭く、魔力の刀を作るつもりで付与してるけど・・・。
「それだけじゃない。あなた、手札をいろいろ隠してる。だから、興味が出てきたんです」
「いや、それって今までの話と関係が・・・」
「教えて、くれますね?」
「・・・はい」
≪マスター、弱いですね≫
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
私は・・・少しだけいい気になってたんだと思う。
世の中には強い人が沢山いて・・・、それは分かってた。ただ、自分もその中の一人だって、ちょっと思ってたのかもしれない。
別に、カートリッジや形状変換を使う事が必須なわけでも、なにかのルールなわけでもないのに・・・なぎ君に対して、棘のある態度を取ってしまった。
思い出すと、すごく腹が立つ。だって、なぎ君は私よりずっと強いもの。力じゃない。心が、ずっと。
ある意味負けて当然なのに、逆恨みして・・・大事な物を愚弄するような言い方をした自分に、凄く腹が立つ。
でも、なぎ君は別に気にしていないと言ってくれた。ある意味では本当のことなんだからと言って・・・。
あと、なぎ君の先生であるあの人と長年を共にした・・・アルトアイゼンにも謝った。あの子にとって大事なパートナーを貶めるようなことを言ったから・・・。
アルトアイゼンも・・・快く許してくれた。
ただ、どういうわけか『また本命以外でフラグを・・・』ってつぶやき続けていたのが気になったけど。
・・・うん、アレは気にしちゃいけない。そうだね。うんうん。
・・・それから少しだけ、なぎ君は私に話してくれた。
あの方のことや、自分の魔法のこと、大事なパートナーであるアルトアイゼンのこと。もちろん、出会ったばかりだったから簡単になんだけど。
後に仲良くなってから、改めてアレコレ聞いて・・・そこでまた驚いたのは、言うまでもないと思う。
なぎ君が過激なのは、ある意味先生達譲りだと思ったのは内緒にして欲しい。
そして・・・私も話した。
リボルバーナックルや、シューティングアーツのことに、母さんのこと。結構・・・色々。
なんだか、不思議だった。もちろん私も、初対面なわけだから深いところまでは話してないんだけど・・・。
それでも、さっきまで腹を立てていた子に対して、ここまで話している自分が不思議で・・・少し、驚いていた。
なんだか、陸士校の友達とは付き合いが途切れて、少し寂しかったからなのかな。同い年できさくに話せるなぎ君と居るのが、楽しかった。
あと、やっぱりなぎ君は同じ魔導師で、同い年で、同じフロントアタッカーで・・・。
意味合いは違うけど、フェイトさんに惹かれてるから、そういうので仲良くなれたのかなと、今は思う。
そんな話をしている最中に、例の一件で出動命令がかかった。
私となぎ君は現場に出て、犯人のアジトに乗り込んで、ツートップな形で大暴れをして、見事に犯人は確保。
ミッドに持ち込まれていたロストロギアも確保と、満足の行く結果を残せた。
なんというか・・・実戦のなぎ君ってちょっとぶっ飛んでるのよね。普通に建物一個倒壊しちゃったし・・・。
うん、はやてさんに怒られてたけど。『こんな建物の中でハイブレードモード振り回すなんて、何考えとるんやっ!?』という感じに・・・。
もちろん、犯人以外には被害が及ばないようにした上でだけど・・・そのおかげで、現場はそこだけ戦場になったんじゃないかというありさまになった。
そうして・・・翌日の朝。依頼を果たしたなぎ君は、隊舎を離れることになった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・というわけで、短い間でしたがお世話になりました」
「おう」
「いや、ほんまに助かったわ。おおきにな」
あー、しかし昨日は派手に・・・暴れすぎたかな?
≪間違いなく・・・。巨大生物戦のノリで室内で暴れるから倉庫一つダメにするんですよ≫
「まぁ、アレだ。それはこっちの方でなんとかしとくから、気にしなくていいぞ」
「・・・すみません」
「それじゃあ、またなにやらお願いすると思うんやけど、そんときはよろしくな」
ダメ。
「ちょっ! なんでそないなこというんやっ!?」
「当たり前でしょうがっ! ・・・もうすぐなんだよ?」
「・・・あ、そやったな」
もうすぐと言うのは・・・僕が居候しているハラオウン家の嫁、エイミィさんのお腹の中に居る赤ちゃんの出産予定日のことだ。
そういうこともあり、生まれて、子育てが一段落するまで、しばらくは魔導師としての仕事を控えて、育児の手伝いをするつもりである。
・・・子どもが生まれるけど、クロノさんは艦船業務でほとんど居ないし、リンディさんだって内勤と言っても外に出てることが多い。
フェイトもミッドで暮らしてるし・・・エイミィさんは当然初めての子育て。それで常時自宅に居るのがアルフさんだけっていうのはどうにもいただけない。
エイミィさんなら大丈夫だと思うけど、育児ノイローゼが原因の事件も起きたりしてる訳だし、付いていてあげたいのだ。
なによりも、ハラオウン家は、僕にとっては家族なわけだし・・・ね。うん、僕みたいな思いは、生まれてくる子どもにさせたくない。
「なんだなんだ。じゃあしばらくは休業ってことか?」
「あー、そうなります。もちろん、模擬戦なんかの訓練は続けるつもりですけど・・・」
「うちらも説得したんですよ。そこまでする必要はないって。でも・・・この子、アレやから全く聞く耳もたへんのです。
逆に『腕が鈍らないように、定期的に模擬戦やら訓練の相手をお願いします』ってうちらが説得されてもうて・・・」
「なるほど・・・」
・・・そんな目で見つめないで欲しいものである。まるでタヌキが二人存在しているように感じる。
「なかなかいい腕してるみたいだから、これから定期的にアレコレ頼もうかと思ってたんだが・・・しばらくは無理か」
「すみません・・・」
「いや、いいってことよ。そういう事情なら仕方がねぇさ。・・・あー、でもちょくちょく呼んでもいいか?」
「・・・仕事以外ってことですか?」
仕事に関してはさっき言った通りにするつもりなのでアウト。それはナカジマ部隊長だって分かっているはず。
そんなわけで呼ばれる用事が仕事以外なのはわかったけど・・・・どういうこと?
「あぁ。また暇な時で構わねぇから、アイツの相手して欲しいんだよ。・・・お、来た来た」
「すみません、おまたせしましたー!」
隊舎の入り口から飛び出て来たのは、青いロングヘアーに紺のリボンをつけた・・・ナカジマさんだった。
「ナカジマさん、そんなに急がなくても・・・。来るのはわかってたから待ってたのに」
「うん、それは分かってたんですけど・・・待たせたくなくて」
≪なんというか、ありがとうございます≫
「ううん、大丈夫ですから」
切れかけていた息を整えると、ナカジマさんが僕をじっと見詰めてきた。・・・あの、なんですかこれ?
「あの、蒼凪さん・・・」
「はい」
「もしよかったらなんですけど・・・また相手してもらってもいいですか?」
・・・口ケンカの相手なら別の方を探してもらえるとありがたいです。と言いますか、また妙なことやると今度こそアルトがキレるので。
「んなわけあるかいっ! 模擬戦の相手に決まっとるやろっ!!」
「・・・おまえさん、本当にアレだな」
「気にしないで下さい。・・・でも、いいの?」
「はい。・・・次は、戒めを外してもらいますから」
うわ、目が萌えてる。じゃなかった燃えてるっ! 炎が見えたよ今っ!!
・・・こりゃ、気合入れてやらないとだめかもしれない。
「まぁ、しばらくは無理っぽいけどな」
「え・・・?」
さっきの話を、ナカジマさんに、部隊長が説明。あの、なんでそんな落ち込んだ表情になるのですかあなたは?
「そう・・・なんですか・・・」
「あー、でも、腕が鈍らないように定期的に模擬戦はさせてもらうつもりだし、武術の訓練も継続するから」
≪子育ての手が空いた時という条件はつきますが・・・それでよければ、私もマスターもまた相手をさせていただきます≫
「ありがとうございますっ! 蒼凪さん。・・・アルトアイゼンもありがとう」
うむぅ、なんかいいことした気になるから、不思議だよね。うん。
≪ただし・・・・わかってますね?≫
「うん。もうあんなことは絶対に言わないから・・・安心して欲しいな。私、もっと強くなるから」
≪ならば、問題はありません≫
この二人妙に仲良くなったなぁ。・・・やっぱり、高町なのは式コミュニケーションは有効なのだろうか?
「・・・なぁ、お二人さん」
「なに?」
「昨日からちょー気になってたんやけど、なんや他人行儀やないか? 『蒼凪さん』とか、『ナカジマさん』とか」
「そうだな、もうちょい近い呼び方でいいじゃねぇか。同い年で、昨日のアレでそれなりに話したんだろ?」
う、うむぅ・・・・、別にいいと思うんだけどなぁ。そりゃあ、色々聞いたけど。
「なら・・・、私のことは『ギンガ』でいいです。蒼凪さんは・・・」
「あー、恭文はアレや。性悪皇子とかでもえぇで」
パシィィィィィィィィィィィィンッ!!
「・・・・はやて、最期に言い残すことは?」
「自分、スリッパは履くもので、殴るもんやないって知っとるか?」
「知ってるけど知らない」
「くぅ、相変わらずやな」
失礼な。それが僕のいい所だよ。
「・・・真面目な話するとや、恭文は名前で呼ぶか、あだ名で呼んだらどうやろ。ほら、すずかちゃんとかに呼ばれとるやん。『なぎ君』って」
「なぎ君・・・。うん、ならそれで・・・いいですか?」
「いいよ・・・その・・・ギンガ・・・さん」
≪マスター、なぜにそこで照れますか?≫
いや、なんか恥ずかしいのさ。よく分からないけどね。
「あと、敬語も無しでいいよ。一昨日も言ったけど、僕そんなに偉くないし」
「は・・・うん、なぎ君」
「えっと・・・ほんとにたまにってことになると思うんだけど、また来るから。それで大丈夫かな? ・・・ギンガさん」
「うん、大丈夫だよ・・・」
・・・・・・そうして、また来るというのを約束して、僕とアルトは108部隊の隊舎を全速力で離れる。
今度こそゆっくりしようとハラオウン家への帰路についたのだった・・・。
え、なんで全速力かって? ・・・・・簡単である。
部隊長とはやての二人が、僕となかじ・・・じゃなかった。ギンガさんを感慨深げでニヤニヤとした表情で見ていたのが恥ずかしかったからだよっ!
なんなんだよあの人達はっ!?
・・・そうして、数時間後。
ようやく帰り着いた僕は、お腹がパンパンなエイミィさんと、アルフさんとリンディさんに出迎えられ、三日ぶりの我が家のご飯を堪能した。
そうして堪能した後、自室に入って端末を立ち上げて、メールをチェックすると・・・あれ?
≪どうしたんですか?≫
「知らないアドレスからメールが来てるのよ」
≪あぁ、新しい現地妻ですか≫
「なんでそうなるっ!? ・・・まぁいいや、チェックチェック」
そうしてメールを開けて見ると・・・に驚いた。だって、メールの差出人が・・・ギンガさんだったのだ。
『件名:ギンガ・ナカジマです。
なぎ君、無事に帰りつきましたか? 今回はお世話になりました。108部隊のギンガ・ナカジマです。
あの・・・突然のメールごめんなさい。びっくりしたよね? えっと、これは八神さんからアドレスを教えてもらって連絡してます。
お見送りの時にも話したけど、また模擬戦の相手をしてもらえるとありがたいです。
私、もっともっと強くなりたいし、それで、なぎ君の目標に近づくのにも、少しは協力出来るかもしれないし・・・。
と、とにかくっ! これからよろしくお願いしますっ!!
・・・それだけ言いたくてメールしました。それでは・・・また会える日を楽しみにしています。
ギンガ・ナカジマ
PS:下に端末の通信アドレスを載せています。その、私だけ知っているのは・・・不公平だから。もしなにかあったら連絡ください』
・・・なんだこれ?
この破壊力大のメールは一体なにっ!? というかはやてっ! また勝手にアドレスを教えやがって・・・あぁ、そんなのはどうでもいいっ!!
なんですかあのお方、こんなに可愛らしい文章が書ける人だったのか?
僕は知らなかったぞいやほんとうにっ!と言っても、会って三日目だけどっ!!
≪マスター、これは・・・フラグ成立ですか? やはり、ケンカするとフラグが立つんですね≫
「いや、それは違うから。それを言ったらなのははどうなるのさ? 全く進展ないし」
なのはとも、ケンカじみた事をしてから仲良くなったしなぁ。
これでフラグ成立・・・というか、フラグとか言うのは本当に止めようよアルト。なんか、何かに毒されてるよアナタ。
≪当然です≫
「なんで当然っ!?」
≪あなたという猛毒が近くに居ますから≫
「・・・うん、そうか。そうだよね。ごめん、僕が悪かったような気がするわ」
まぁ・・・とにかくだよ。返信だけはしとくか。あと、はやてにもメールを送っておこう。勝手に人のアドレスを教えるなって。
連絡でもくれればいいけど、メールや通信の着信履歴を見るに、全くそういうことしてないし。
そうして、端末に向かってキーボードを叩いてメールを送ろうとした瞬間・・・・、それは起きた。
「・・・エイミィっ! しっかりしてー!!」
「大変、陣痛が来たんだわっ! アルフ、クロノにすぐに連絡して」
「うぅ・・・うぅーーー!!」
・・・え?
マジですかっ!? あぁ、やばいやばいっ!! すぐに石田先生・・・って、違うーーーー!!
担当の産婦人科医の先生に連絡して、なのは達にも連絡して・・・大変だぁぁぁぁぁっ!!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・私は、携帯端末を手にとる。
メールボックスを開くと・・・一通のメールを見る。
着信は、3年前の8月。送り主は・・・なぎ君。
『件名:蒼凪恭文です。・・・連絡遅くなってごめんなさいっ!!
えー、件名の通りです。ギンガさん、返事遅くなってごめんね。
ちょうどメールを読んでた時に、エイミィさん。・・・あ、僕が居候している家のお嫁さんね。
で、そのお嫁さんが陣痛起こして、そのまま病院に行って付き添ってたの。いや、それが大変で・・・。
旦那さんが、仕事中ですぐに帰って来れなくて、結局僕が旦那さんの代わりに出産に立ち会って・・・。
あまりの壮絶さに気絶しかけたけど、最期まで見届けて、赤ちゃん、無事に生まれたんだ。
双子の男の子と女の子。なんか、パパですよとか言われて抱いたりして・・・。
ほんとのパパさんの顔が見れなかったさ。あまりに申し訳なさ過ぎて。というか、直視できないオーラ出しながらへコんでた。
でも、なんかね・・・うん、すごいなって思っちゃった。本当に・・・。
あ、ごめんね。こんな話ばっかりで。とにかく・・・ほんとうに申し訳ない。そういうわけで、たった今帰って来たばかりなんだ。
それで、あの・・・模擬戦のことなんだけどね。
お見送りの時にも言ったんだけど、本当にタマにって感じになると思うし、どうなるかは分からないんだけど・・・また、やれればいいなって思ってます。
あと、これからよろしくね。ギンガさん。
それじゃあ僕も・・・また会える日を楽しみにしています。それと、連絡遅くなって本当にごめんっ!!
蒼凪恭文』
・・・なんか、大変だったんだね。
この興奮気味なメールを見て、何回頬がほころんだのか・・・思い出せない。
それから、色んな話を、通信だったり、メールだったりで少しずつだけど話していった。
うん、最初はちょっとしたメル友だったのかも。なぎ君も地球に居たから。
それで、1ヶ月に一回っていう感じだったけど、なぎ君は、私との模擬戦の約束を守るためにちゃんと隊舎に来てくれて・・・。
そこにちょうど緊急出動がうちの部隊にかかって、なぎ君も休業中だと言うのに一緒に出る羽目になったことが何回か・・・。
というか、毎回あったりしたのは・・・なんというか、いいのか悪いのか判断がつかない。
結局、なぎ君はそれからちゃんと魔導師の仕事を再開するまで1年ほどかかったんだけど・・・ブランクは0と言ってもよかった。
と言いますか・・・。教導隊出身の友達というあの方達との出会いと協力もあって、強くなってた。
その時の私にとってのなぎ君は・・・そうだな。なんて言えばいいんだろ?
同い年で、気楽に話せて、理解も出来て、気も使わないで、すごく自然で居られる友達。そんな感じだった。
だけど、そんな私達の日常に、一つの影が差した。
あの時のこと、思い出すと・・・怖い。だけど、その次に、それを打ち消す暖かさが、私を包んでくれる。
それはなぜかと考えると、答えは何時だって一つしか出ない。私・・・あの時、なぎ君と本当の意味で、繋がることが出来たから。
そう、私はあの時・・・なぎ君にもらったんだ。今と言う時間を。
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