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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
act.29 『変革』


残り二時間――アジトの方は自爆を止めるのにてんてこ舞い。

ただ既存のシステムには、それらしい動きが一切なかった。

あの強引な動き方から見て、外部からのハッキング……とも言い切れない。


それなら痕跡があるはずだもの。侵入したっていう痕が……どういうこと?

悩みながらも、僕は空を飛ぶ。レジアス中将のところまでもう少し……ちゃんと仕事はしていかないと。




『とある魔導師と機動六課の日常』 EPISODE ZERO

とある魔導師と古き鉄の戦い Ver2016

act.29 『変革』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


床にへたりこんでいる、黒髪ロングな女に声をかけつつ。


「おーい、何いつまで腰抜かしてんの? お願いだからそろそろ立ってよ」


アメイジアはスラッシュフォルム――通常形態の二刀流に戻す。女は震えた瞳で、私を見ながら指差し。


「あ、アンタ……マジで」

「うん、撃ったよ?」


まぁ撃ったのは上に……だけどね。


さすがに幾ら私より胸が大きいからって、女の身体にでっかい穴を開けたくないのよ。

でもハラオウン執務官とか生きてるかな? 物理干渉オンな設定で撃ったし。


「イカレてる……! ぶっちぎりでイカレてるわよ! 人質取られて、それで普通撃つ!?」

「言ったじゃん、人質に取られたら」

「あやふやだったじゃない! 妄想寸前だったじゃない!」

「そういう奴に喧嘩(けんか)を売ったのは、アンタらだ」


おかしなことを言うので鼻で笑いながら、アメイジアを改めて構える。


「私達は全員時代遅れで、錆(さ)びも浮きまくりの鉄なんだよ。そこいらの都会派連中と一緒にすんな」

≪まさか今更……んな馬鹿なこと言うとは思わなかったぜ。アンタ、肝っ玉小せぇな≫

「どうする? 私はアンタがメガーヌを撃とうとした瞬間、速攻ぶっ潰す」


笑いながらそう言うと、女が立ち上がって両手でボンテージを払う。


「そう。だったら……いいわよ」


銃を右手のみではなく、左手でも取り出し構えた。

その目は、私が初めて見たときと同じ……戦う人間の目だ。


「正直人質なんて趣味じゃなかったのよね。力尽くで捕まえてあげるから」

「いいねぇ、ここで降参されてもつまんないとは思ってたんだ。つーわけだからさ」


女と同時に踏み込み、放たれる銃弾や飛飯綱もどきを斬り払いながら、懐へ潜り込んでいく。


「あの三流ドクター潰せない恨み、アンタにぶつけさせてもらうよ!」

≪ショータイムだぜ……イヤッホォォォォォォォ!≫


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


何とか上に戻ろうと、戦闘機人を肩に担いだ上で歩いている最中。

結局、破壊することはできなかった。……そうするべきだと分かっているのに。

リンディ提督が仰(おっしゃ)ることなら、それはきっと正しいのでしょう。


そして皆のためになることだと、そう信じたはずなのに……躊躇(ためら)ってしまった。

……あぁもう、情けない。


ただフェイト執務官の補佐官――フィニーノ補佐官の方とは連絡が取れた。ただ、状況はよろしくない。


『シスター・シャッハ……お怪我(けが)は』

「落盤時、瓦れきで腕を掠(かす)めた程度です。戦闘に支障はありません。……それより申し訳ありません。
戦闘機人は確保いたしましたので、今からフェイト執務官のところへ」

『その必要はありません。シスター・シャッハはアコース査察官の指示に従って、アジト自爆を阻止してほしいんです』

「どういうことですか、必要ないとは。フェイト執務官のところにも戦闘機人が」

『……まずスカリエッティとナンバーズIII・トーレについては、嘱託魔導師・蒼凪恭文が確保。彼に投降しました』

「なんですって!」


まさか、本当に……沸き上がる怒りが抑えられず、画面に詰め寄ってしまう。


『ナンバーズI・ウーノもアコース査察官及びシスター・シャンテが確保。ただ』

「あの子は、何ということを! フェイト執務官の――家族の手柄を横取りしたというのですか! 卑劣な!」

『……フェイト隊長達は、ナンバーズW・クアットロが始動させたと思われる、自爆シークエンスに巻き込まれています。
防護障壁・完全キャンセル状態のAMFなども展開しており、現時点での脱出は不可能です』


その言葉に寒気が走る。そうか、それで……画面に映るフィニーノ補佐官の表情も芳(かんば)しくなかった。


「ならばあの子に解除させればいいでしょう! 家族から手柄を横取りにした、その罪を購わせるためにも!」

『無理です。私も調べましたけど、自爆シークエンスには特殊な行程が挟まっているようで。
最高権限であるスカリエッティのデータがあっても、普通の方法では無理です』

「そんなはずはない! あの悪魔の力ならできるはずです! あの子と通信を繋(つな)いでください!
聖王教会騎士として、シスターとして、今度こそ分かってもらいます! 家族の心を踏みにじる愚かさを!」

『……その悪魔の力を封じろと言ったのは、あなたでしょう!? なのに都合良く頼るんですか!』


まただ……私はただ、家族を思いやるべきだと……リンディ提督の御心(みこころ)を受け止めるべきだと、そう説いているだけなのに。

理屈ではなく、その心を受け止める。もし信じられないのなら、私が拳を通じ伝えてみせる。

そう何度も、何度も、何度も説いているのに……それを裏切られ続けているのは、私なのに!


「なぜ私を責めるのですか! あなたには正義が理解できないのですか! 私は悪くない……私は」

『いいや、君は悪いよ……シャッハ』


戦闘機人を背負い直し、焦る私をロッサが窘(たしな)めてくる。


『ただそんな話をしている余裕はない。……アジトの現状は今言った通り。
そして君には、ゆりかごへ向かってもらう可能性も出てきた。フィニーノ一士』

『……スカリエッティの娘達――ナンバーズのお腹(なか)には、スカリエッティのクローンが仕込まれているそうです』

「クロ……!?」


そこで背中のドンブラ粉を見やる。だが彼女はお腹(なか)など大きく……いや、待て。確かそういうものが古代ベルカにあったと。


『君も知っているだろう? 古代ベルカでもやっていた、王族を守るための保険さ。
彼が死んでからひと月で出産され、三か月で死亡直前の状態へ戻るようだ』

「何という外道な……そのような悪、死んで当然でしょう!」

『だから、殺したら駄目なんだって。……問題はゆりかご内部に、ナンバーズが二人いること』

『それとなぎ君とヒロリスさん、サリエルさん……並びにGPOのみなさんが協力してくれたおかげで、最高評議会の犯罪が立証されました』


……そこでゾッとする。

あの会議場で……あの子がなんと言っていたか。

リンディ提督や六課、並びに予言のことが利用されている。


それは三提督すら出し抜ける高官だと、妄言を放っていた。

しかもそれは変わらなかった。私が理屈ではなく、心で受け止めてほしいと言っても。

どれだけ心を尽くしても、どれだけ信頼の尊さを説いても、その妄言を捨てなかった。


まさかそれが、真実だったとでも……!


『恭文の予測通りだったよ。もちろん彼らへの圧力や指名手配についても同じ。
既に鎮圧され、そのデータベースはクロノ提督へと送られている』

「それでは、リンディ提督は」

『君やフェイト執務官も含めて、利用されたんだよ。スカリエッティ達を殺して、口封じをするための……猟犬として』

「馬鹿な……!」

『なお見返りはあるよ? 彼女自身も含めた、ハラオウン一派の出世さ』

「そんな、馬鹿なことが……ふざけないで!」


それでは、フェイト執務官はどうなる。

スカリエッティを倒すため、母上と私の後押しを乗り込んで、正義のためにやってきた。

八神部隊長の命令は違反しても、それでも……貶(おとし)められた信頼を取り戻すために。


なのに犯人は投降? 逮捕ではなく、投降……そんな話になれば、彼女とリンディ提督もどうなるか。

しかもスカリエッティの卑劣な罠(わな)によって、本人を逮捕しても意味がない状況。

素直に、ロッサのアジト掌握を待つのが正解だった。そう……定められてしまった。


なら、せめて逮捕したと……そういう話にすれば……だがそれもまた嘘。

恭文さんが、ティアナ・ランスター達が嫌う嘘。彼女はまた嘘(うそ)つきに貶(おとし)められる。


それも、今度は仲間内全てから否定されかねない。そんなことが、あっていいのだろうか。

嘘だと言って。私達は咎(とが)められるような真似(まね)は何一つしていないと……!

足から力が抜けながら、そればかりを念じていた。


何より……そうだ、何より……私は、どうなる。

あの方の言葉を、その嘆きを信じ、騎士として力になろうとした……私は。

それも全て嘘だったと言うのなら、あの子達は何のために死んだ?


私が……違う……駄目だ、こんなのは駄目だ。認められない……人が受け止められる重さではない!


『とにかくあの船は今、文字通りのゆりかごなんだ。ここで止められなかったら、スカリエッティの一人勝ちになる。
……僕はナンバーズ一番・ウーノの査察と、ここのシステム掌握を続ける。なんにしても自爆を止めてからだ。
ただ僕からでは止められない場合、君に動いてもらうからそのつもりで』

「駄目、です。ロッサ、あの子を諭すのです……こんな真実、あってはいけない。
そうです、スカリエッティを逮捕したのはフェイト執務官です。今ならば」

『そんなことは許されないよ。既に投降しているんだから』

「そんなもの、なかったことにすればいいでしょう!」


聞き分けのないロッサを叱りつける。


「そうだ、去年と同じように……もう一度話せばいい! 分からないなら、拳で伝えればいい!
家族のため、道を譲ることも必要だと……それが今なのだと!」

『シャッハ』

「これでは駄目なのです! 私達が……機動六課が、リンディ提督が間違っていた!?
正義を説いていた私達が間違いで、それを無視し、踏みつけてきたあの子達が正しい!?」

『いい加減にするんだ』

「そんなこと、あってはならない! あの子がほんの少し、我慢すればいいだけでしょう!
生き別れた友人と会えないからなんです! 局が信用できないから……それがなんなのです!」

『それは支配だ』

「一体何が問題ですか! 他の道なんてない……どこにもないというのに!」

『あったよ』


そこで出てきたのは、シャンテだった。とても悲しげに……私を見下ろしてくる。


『シャッハ、最高評議会に腹が立たないの?』

「……は?」

『あの会議のとき、リンディ提督も、シスター・シャッハも、とても情けなく映った。その理由がようやく分かったよ。
……腹が立たないの!? リンディ提督も、アンタ自身も……フェイト執務官も! みんな利用されたのに!』


シャンテの叫びで、ようやく悟る。

私の言葉がなぜ通用しないか。リンディ提督の言葉がなぜ届かないか。


『利用されている……そう突きつけられたとき、騎士カリムやクロノ提督達は怖がった! 確かに逃げようとした!
でもみんな……最後は怒ってたよ! フェイト執務官とアンタ達以外、みんな! 六課が大事な夢だから!』

「シャ……ンテ」

『そこまで言うなら聞かせてよ! アンタが腹を立てて、八つ当たりしてきたのは一体誰!』


私は、私達は……その可能性を指摘する相手に、”黙れ”と言ってきた。

でもそれは間違いだった。

私は騎士として、騎士カリムや六課を利用する……そんな悪意に、怒るべきだった。


恭文さんが、ヒロリス達が、GPOがいつそうした? ……そうして、体の震えは最高潮となる。


「そん、な。私は……私は、ただ」

『そんなの理由にならない! アンタは自分で選んだんだ! ううん、今も選び続けた!』

「ただ……皆の幸せを、願っただけ……!」

『そんな相手に尻尾を振って、尻を突き出して……どうぞ好きに躾(しつ)けてくださいって!
……もうアンタは! 私に居場所をくれたシスター・シャッハじゃない!』


シャンテは怒りを……泣き叫びながらぶつけ、通信を切る。

その拒絶が心に深々と突き刺さり、ついに……崩れ落ちた。

ドンブラ粉を背負ったまま、自らの愚かさを……恭文さん達は、関係なかった。


彼らを疫病神の如(ごと)く忌み嫌い、逃げていたんだ。……もう、手遅れだ。

私に正義など、なかった。夢を汚され、怒ることすらしない……私には……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あの人が……特務部隊の分隊長が突き抜けていくのは、ゆりかご内部の通路。

白いフリルスカートを揺らし、金色の魔導杖<デバイス>を左手に持って、かなりのスピードで飛んでくる。


「AMFの中だっていうのに、よくもまぁ」


あの小さな女の子のお母さん……らしい。


少しだけ、迷った。

あんな小さな子にひどいことをして、そこまでしていいのかと。

私達が目指している『すばらしい世界』に、そこまでの価値があるのかと。


「……いいや」


そんなのは意味がない疑問だ。

カノンを膝立ちで構え直し、深呼吸――。


「私達は戦闘機人。創造主であるドクターの夢を叶(かな)えるのが、仕事であり、存在意義……迷わない」


殺した……私は人を殺した。

でもそれが何? 私達はずっと踏みつけられていた。

それを払いのけただけだ。一体何の問題がある。


これも同じ。ただ意識せず、トリガーを引き、その結果命が失われるだけ。

たった……それだけのことだったんだから。


「……IS、ヘヴィバレット」


カノンのトリガーを引く。

そうして放たれるのは、チャージ済みのエネルギー砲撃。

オレンジ色の奔流は、白い魔導師の眼前に広がる。


そうして着弾……退避できるタイミングじゃない。あのまま、あの人は消し炭になる。


「……ブラスターI、リリース!」


なのにその結果が……当然訪れる未来が、アッサリと覆された。

放たれたのは向こうの砲撃。

それはデータ以上の力を、大きさを見せつけながら、私の砲撃をたやすく押し返す。


それが信じられず、目を見開きながら私は……自らの砲撃と、あの人の砲撃が混じり合う、力の蹂躙(じゅうりん)に挟まれ、身を焦がした。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


出てくるガジェットを蹴散らし、足を進めながら……息を整える。

さ、さすがに消耗がキツい……! だが、そこで完全キャンセルにしないのが、やっぱり引っかかってもいて。


「アイゼン、動力炉までは」

≪地図データによれば、残り一キロ≫

「屋内で言う数字じゃねぇなぁ」


なのはと別れてから、全速力で駆け抜けた。ガジェットをちぎっては投げ、ちぎっては投げ。

……訂正。殴ってはちぎり、殴ってはちぎり……それで、ようやく工程の半分程。


「カートリッジの残りも十分」

≪残り二十八発≫


左手を開き、その一部を取り出す。そうしてアイゼンに素早くリロード。

なおアイゼンの最大装弾数は四発だ。ハンマーヘッドの付け根がせり上がり、スロットが展開。


そこに一発、また一発と挿入。


「……十分だ」


そうして歩きつつも、最後の一発を挿入。スロットはアイゼンのヘッド部分が収納された。


「よしっと」


そう思った瞬間、胸に鋭い痛みが走る。

いや、最初は痛みだって気づけなかった。

小さな違和感……骨と骨の間に入り込むような、ピリッとした感覚。


「……え?」


……後ろから襲ってきた、そんな衝撃によって、ノロウサ付きの帽子がはじけ飛ぶ。

何が起こったのか……なぜ、こんな痛みが生まれたのか。

それが分からず混乱のまま、胸元を見る。


そこには血が、したたっていた。

しかもそれは半透明な何かに、べったりとこびりついていた。

そうして形が見える。鎌のような……そんな形が。


文字通り血の気がなくなりつつも、頭だけを振り返る。

そうしてソイツは、姿を現した。


黄色い二つの瞳。

銀色の細長い頭と、同じくらい細い首と胴体。

クモっぽいボディに四本の足。


その足の一つ一つが刃になっていて、右前足にアタシは貫かれていた。

しかもソイツには見覚えがあった。


……ティアナ達にも話した、なのはの墜落事故。

とある世界に立ち寄った帰り道、突如受けた襲撃。

そのとき交戦した……今なお、正体不明な機械兵器。


「う」


そいつらは、コイツと全く同じ外見だった。


「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


前に踏みだし、強引に刃を引き抜く。

そのまま……力任せに振り返り、アイゼンをたたき込む。


何度も、何度も、何度も……あのときの記憶を消し去るように。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


目の前の女と斬り合い、打ち合い、力をぶつけ合っていた。

なんか上がすっごい騒がしいけど、今は気にしてる余裕なんてない。


≪いやいや、気にしろよ! てーか、普通にヤバい感じだぜ!? てーかなんか揺れ始めてるしよ!
これ絶対アレだぜ! 自爆装置がどうたらこうたらって話だって! 何とかしようぜ!≫

「ふーん……だから!?」

≪だからじゃねぇって! このまま苦戦してたら、今日発売のジャンプが見られねぇじゃねかよ!≫


泣き言抜かす相棒を左薙に打ち込むと、右の銃で防御。

すかさず左の中で至近距離の一発。

しゃがんで避け、左の刃で足払い。


女は宙を飛び、バク転を数度行ってから二丁で乱射。

弾丸の射線を目線や銃口で先読みし、斬り払いながら数メートルの距離を詰める。

腕や頬に弾丸が掠(かす)るのは気にせず、二刀で唐竹一閃。女は銃を交差させ防御。


「あぁ、それなら安心だ!」


奴の右足が僅かに上がったので左へ跳ぶと、ミドルキックが放たれる。

空振りしたところで右のアメイジアを形状変換。


「こんな騒ぎでジャンプ出てるわけ」

≪Slug Forme≫

「ないでしょ!」


さっきから感じまくりな揺れは気にせずに、右のアメイジアをスラッグフォルムへ。

至近距離で弾丸乱射……女が向き直り、動揺に射撃戦。

ほぼ零距離で弾丸十数発が正面衝突し、火花を散らしながらはじけ飛ぶ。


「今週号は来週号と一緒に」

≪Serpent Forme≫

「発売だよ!」


次は左のアメイジアを蛇腹剣に変化させて、唐竹一閃。女は左に走って回避し。


≪それはそれで嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁ! 俺はNARUTOの続きが気になるんだよ!≫


こちらの右サイドを取りながら二丁乱射。

向き直りながら左手首をスナップさせ、刃をうねらせ渦巻かせる。

弾丸を全て弾(はじ)いてから逆風に振るうと、蛇腹剣はうねりながら女へ迫る。


≪合併号でもないのにもう一週なんて、待てるわけねぇだろ!?≫


一度伏せてから、バク転を三度繰り返し追撃も回避。

そこから跳ね返るように前進――素早く刃をすり抜け、銃を乱射してくる。


≪Slash Forme≫


右のアメイジアを片刃剣へ戻し、サーベルガードで弾丸全てを弾(はじ)きながら前進。


「私は」


そのまま跳躍し、螺旋(らせん)の刃を周囲に展開。渦巻くそれで追撃の弾丸を全て防御。


「To LOVEる!」


叫びながら左手を逆袈裟一閃。蛇腹剣は鋭く前進し、女を追い立てる。

バク転や側転で華麗に避けていくも、そのたび地面に斬撃痕が刻まれていく。

そうして大きく右へ回り込みつつ、こちらへ肉薄。お互い右薙の斬撃をぶつけ合い、一気に振り抜く。


こめかみに銃口を突きつけるも、すぐ車線上から退避。

すれすれで跳ぶ銃弾は気にせず、右のアメイジアで連撃。


射撃の隙(すき)は与えない、押し込みながらの斬撃を女は何とか捌(さば)き――七撃目で銃を交差させ防御する。


「アンタら! この状況で一体なんの話してんのよ!」

「ジャンプの話だけど……!」

≪Slash Forme≫


左のアメイジアが白い光に包まれつつ引き戻され、一瞬で片刃の剣に戻る。

刃を水平にしつつ、女の腹めがけて刺突。


≪「何か!?」≫


素早く右へ逃げた女に、右薙の追撃。

またも銃で防御されるものの、そのまま振り切り通路の壁へ叩(たた)きつける。


≪Slag Forme≫


すかさずアメイジアをスラッグフォルムにし、腕を交差させながら乱射。

女は呻(うめ)きながらも驚き、慌てて左へ側転。弾丸から退避していく。

そのまま反時計回りに回転し、女を追撃。


妨害のため撃ち込まれた弾丸も、こちらの魔力弾で尽く迎撃される。


≪「てーか、ジャンプナメんな!」≫

「逆ギレすんじゃないわよ! このバカ!」


……そこで女は足を止め、私の背後を見上げた。

慌てて二時方向へ跳び、振り下ろされた鎌の一撃を回避。

そう、それは鎌だった。しかも柄や刃渡りが、私の身長ほどもある巨大鎌。


それを持っているのは……レッドアリーマーっぽいロボット。体長は四メートルほどだろうか。

色は全身銀色で、赤い眼光を走らせている。


滑りながら着地し、女とロボットの間に挟まれた。ちぃ、ここで増援か。

まさかこんなもんまで用意していたとは。レッドアリーマーっつーかこれは……死に神だね。そもそも色が違うし。


≪姉御!≫

「大丈夫だ!」


それだけ攻撃が止まるはずもなく、目と思(おぼ)しきレンズが輝く。

嫌な予感がして、咄嗟(とっさ)に右へ跳ぶ。

次の瞬間赤いレンズから、同色の熱光線が走る。


それは床を一直線に斬り裂き、壁も溶断する。


「あははは……! よし、これで二対一! さぁ、もう観念」


女が言葉を言い終わる前に、死に神が女へ向き直り熱光線発射。咄嗟(とっさ)に私の隣へ跳び、それを回避する。


「な、何すんのよアンタ! 私は味方」


またレンズが光ったので、二人揃(そろ)って左へ跳躍。三撃目を何とか回避する。


≪なぁ≫

「言わないで。お願い……お願いだから言わないで。確かに私達はさっきまで殺し合ってたわ。
でもね、今は優しさが必要になる瞬間だと思うの。きっと優しさが世界を救うの」

「アンタ、敵として認識されてるみたいだね」

「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


そしてデカブツはこっちへ右足を踏み出し、床を浅く砕きながら……ヤバい。


≪姉御、マズいぜ。ここで、あんなデカ物と戦闘したら≫

「分かってるよ。ここは」


屈辱ではあるけど……デカブツに背を向けて、そのまま全力疾走。


≪「「逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」≫


――はぁ!? 『メガーヌはどうした?』って……このバカ!

このシチュで戦ったら、今度こそメガーヌごと巻き込んじまうよ!

相手の能力が不明なのに、そんな真似(まね)できるワケがないでしょうが! それで大丈夫!


なんかずどんずどんと足音が……絶望が深くなったしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!


「ちょっとアンタ! なんかでどーんといけないの!?」


後ろからガシャガシャと足音を立てながら、私らを追いかけるのは銀色の死に神。

それが撃ってくる熱光線をジグザグに走って回避しつつ、私らは通路を全力疾走……って、ちょっと待て!


「待て待て! なんでアンタがいる!?」

「仕方ないでしょ!? 私だって嫌だけど、逃げる方向こっちしかないんだから!
まさかアンタ、アレの脇を突っ切れとか言うつもりじゃないでしょうね!」

「よし、それで!」

「できるわけがないでしょ!? てーか、絶対嫌よ! あぁもう、どうしてこんなことにー!」

「犯罪者に与(くみ)した奴の末路としてはお似合い……って、私は犯罪者じゃないっつーの!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ゆりかご内部はもう快適そのもの〜♪

ていうか、もうすぐ勝っちゃいそうだしぃ?

アジトの方も、とーっても面白いショーが見られたわぁ。


「うふふ……陛下、怖いですねー」


右隣――玉座に座って苦しむ陛下に、偽物(ははおや)達の映像を見せてあげる。

泣き叫ぶフェイトお嬢様、希望を持って進むあの砲撃魔導師……どちらも滑稽だった。


「管理局って……本当に怖いわぁ。いいえ、ここはリンディ・ハラオウンと言うべきかしら」


フェイトお嬢様、自分の意思すら奪われて可哀想(かわいそう)。

操られているも同然じゃない。でもね……あ・り・が・と♪

もう分かっているだろうけどぉ、六課なんていつでも潰せたの。


でもそれをやっちゃうと、最高評議会の奴らにいろいろ気取られちゃうじゃない?

だから適当に、相手してあげてたのよぉ。しかもそれに気づいたのは、サンプルH-1達外部の人間だけ。

最高評議会の手回しで設立できた部隊、得た証拠や証言……それらを努力した成果と誇っていたにねぇ。


だけどぉ、あなたの戦闘技能はわりと厄介。

トーレ姉様やセッテも役立たずだったし……だからちょうどよかったのぉ。

あなたが母親の言葉や出世欲に捕らわれて、おかしくなっちゃったのはぁ。


そう、あなたは捕らわれていた。特に出世欲よねぇ、去年のことを心から悔いていたようだしぃ?

だから、本当にお・ば・か・さ・ん♪ これでもう、誰もあなたを信じなくなるわぁ。

量産型オーギュストを倒せる【英雄】でありながら、その責務を放棄し、挙げ句何もできずに閉じ込められた。


AMFで消耗もしているでしょうから、他の救援に向かうこともできない。正真正銘の道化……そして、もう一人も。


「こっちも道化ねぇ。ブラスターなんて大仰な名前をつけているから、どんなものかと思ったらぁ……」


自殺行為同然だなんて。もうデバイスも揃(そろ)って、お馬鹿さんとしか言う他ない。


「その本質は自己ブースト。元々ブースト――強化魔法は、第三者の能力を強化する魔法。
魔法の攻防力、自身の身体能力を上げるのが基本だけど、それを自分自身にかける魔法。
自己ブーストの利点は、一度かければ意識しなくても、強化された能力を維持できること」


そう言いつつ、ディエチの撃墜映像を展開。陛下が苦しんでいる様子なので、間近で見せてあげる。


「しかも重ねがけも可能だから、理論上は術者・デバイスともに天井なしの出力が発揮できちゃうんですぅ。
凄(すご)いですよねぇ、第三者からの強化魔法には、制限時間が存在しているのにぃ」


ちなみにぃ、人にかける場合はちょっと違うの。

今言ったように、制限時間があるの。消費魔力量と効果時間がイコールになっている。

自分の魔力を第三者に分け与えて、それを使用する方向を特化させたのが強化魔法。


「ただこれはデメリットでもあるけど、メリットでもあるんですよぉ。術式的に、安全弁がつけられているも同然だから」

「う……」

「欠点は三つありますぅ。一つ、元々魔力運用が上手な魔導師だと、自己ブーストは効果が薄くなる。というか、意味がない?
自己ブーストかけて強化しなくても、運用が上手(うま)ければ、素でその効果が出せますからぁ」


こちらはサンプルH-1、フォン・レイメイが該当する。

まぁサンプルH-1に関しては、魔力による身体強化をほとんど使ってないんだけど。

残念ながらその辺りについても、サンプルH-1は出力不足。そうねぇ、こう言えば分かるかしらぁ。


タイプゼロ達が百とするなら、サンプルH-1は……十か二十。フェイトお嬢様達と比べたら、もっと差が広がる。

それをフィジカルな戦闘スキルや、野生じみた超直感で補正しているわけ。資質としては完全に後衛型よぉ。

実際今回の事態だって、電子戦対策を一手に引き受け、いろいろやっているようだしぃ? まぁ無駄だけどー。


「二つ、強化した状態で魔法を発動すると、魔力消費が激しくなる。維持してるブーストと消費が乗算になりますからぁ。
そして三つ……体にとんでもない負荷がかかる。引き出される魔力量が増える、その負荷に耐えきれなくてぇ」

「あ……マ……マァ」

「そう……あなたのママは、自殺しているんですよぉ。通常の強化魔法でそんなことが起こらないのは」


苦しんでいる陛下が可愛(かわい)くて、愛らしくて……ゾクゾクしながらも、左人差し指と中指を立てる。

「効果時間に制限があるのと、”二種類”の魔力を使用しているから。でも自己ブーストだと意識的に維持しますからぁ。
その状態で他の魔法を使っちゃうと、魔導師とデバイスのキャパシティを、たやすくオーバーするんですぅ。分かりましたぁ?」

「ママ……ママァ」

「そう、いない……ママを自殺へ追い込んだのは、この女ですよぉ」


嘘は言ってないわよぉ? 本当のことだものぉ。

だから陛下は、真実を受け止める。そうして憎む、憎む――。


母親を殺した、殺そうとするあの女を。


陛下には映像を見せつつ、アジトにちょーっと通信を送る。


「フェイトお嬢様ぁ、あなたは本来執務官になんてなれなかったのよぉ?」


あらあら、驚いた顔をしているわねー。泣きじゃくりながら、こっちを見上げてきたわぁ。


「筆記試験や戦闘技能はともかく、捜査関係の実技がさっぱり。実際そうだったでしょ、あなたの執務官生活は。
やれ証拠品を下水へ流して、やれ捜査活動中に高級ワインを破壊して……そうそう、誤認逮捕もやらかしかけた」


更にデータをてんかーい♪ これまでの愚行を――根回しの証拠データを見せつける。


「でもぉ、優しいお母様や最高評議会が根回ししてくれたのよぉ。
あなたはいずれ局の後継者になるから……そう見込まれてねぇ」

『嘘……だ』

「嘘じゃないわよぉ。……彼女は闇の書事件を解決してから、ずーっと……最高評議会<黒幕>と癒着していたの。でも、大丈夫」


あぁ、ゾクゾクする……きっとまた絶望してくれる。

壊れて、醜態を見せてくれる。それが嬉(うれ)しくて、軽く絶頂してしまいながら。


「……六課や前線で戦っている、あなたの子ども達にも見せているから」

『え……』

「きっと守ってくれるわぁ。可愛(かわい)いお人形さんとして……ずーっとぉ」


最大級のプレゼントを贈る。するとどうかしら……彼女は顔面蒼白(そうはく)になり。


『嘘……嘘だ……嘘だ――あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


半狂乱のまま、床を転げる。制服が汚れても、乱れても気にせずに……まぁ嘘なんだけどねー。

六課にデータを送るのも、子ども達に見せるのも……これからだもの。


あぁ……でも何て素敵なのぉ。十年が……積み重ねた十年が崩れて、その影響が自我にまで及んでいる。

虫けらが踏みにじられるのって、本当に素敵。それだけが生きている存在価値なのね、よく分かるわぁ。

そして私って、すっごく優しいのよね〜♪ そんなお人形さんが苦しみ続ける前に、死なせてあげるんだからぁ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


私は、転(こ)けたらすぐ泣くような子だった。

母さんとも、スバルとも……父さんとも似てなくて。


――こらスバル、転んだくらいで泣いちゃ駄目だよ。お母さんの娘で、ギンガの妹なんだから――

――おかあ、さん――

――スバルだって、本当は強いんだぞ――


それで私は、やっぱり……誰かを痛くするのも、痛いのも嫌で。


――シューティングアーツの練習、スバルももっと、ちゃんとやればいいのに――

――痛いのとか怖いの、嫌い。自分が痛いのも、怖いのも、嫌いだけど……誰かがそうなるのも、もっと嫌い。
……私達の体、普通と違うんだし……壊したくないものまで壊しちゃうのは、怖いよ――

――そっか。まぁ、スバルは強くなくてもいいのかな。お父さんやお母さんもいるし……私もいるから――

――うん……――


そんな言葉に甘えた結果が……今だった。


「が……あがぁ」


キャロの援護がなかったら、全く歯が立たない。

右手一つで首を締め上げられ、動けなくなる。


「抵抗をやめて、動作を停止しなさい。ドクター・スカリエッティの元に下り、我ら戦闘機人が生きられる社会を作る。
そのために奉仕すると誓いなさい。そうすればあなたにも、すばらしい未来が待っています」

「ぎん……ねぇ」


強くなかったら……ギン姉や父さん達に頼れなかったら。

なのはさん達に甘えていなかったら。

大事な家族一人、守れない……それが、今の私だった。


それが嫌で、絶対に嫌で……必死に両手を伸ばす。

そうして首根っこを掴(つか)み、そのまま身を捻(ひね)る。

何とか手での拘束を外し投げ飛ばそうとするけど、ビクともしない。


「作業内容、変更」


力を入れても、バランスを変えても、ギン姉は岩のよう。

そして私はまた……後ろから首根っこを掴(つか)まれ、左手一本で放り投げられる。

いや、ハイウェイの路面に叩(たた)きつけられる。


衝撃でクレーターができ、そこから一度バウンド。

そうして数メートル滑ったところで、痛みに呻(うめ)きながら起き上がる。


「行動不能段階まで破壊……その後回収」

「ギン姉ぇ!」


叫んでもギン姉は飛び込んでくる……鋭い左ストレートを防御。

いや……それは左ストレートじゃなかった。

手刀だ……黒いリボルバーナックルに包まれた、手刀。


でも突如その手が……手首から新調し、更に回転。

両腕でのガードを抉(えぐ)り、貫き、私の眼前に迫る。

慌てて左に回避するけど、右肩上を貫かれ、鮮血が飛ぶ。


……脇を見てゾッとした。ギン姉の左手首からフレームが飛び出し……回転しているの。

手がドリルみたいに……改造、されたんだ。アイツに……体を弄ばれて!


「……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


混乱しながら左フック……でもその前に、ドリルの回転が停止。

そのまま襟首を掴(つか)まれ、引き寄せられながらヘッドバッド。

鼻を潰され、呼吸困難になったところで右膝蹴り。


それを腹に食らい、続けて右アッパー。

顎が撃ち抜かれ、一気に数メートル上へ吹き飛んでしまう。


……あぁ、やっぱり……駄目なんだ。私は……弱くて、情けないままで。

復讐(ふくしゅう)なんてしないって言っておきながら、ギン姉のドリルを見た瞬間、理性がはじけ飛んだ。

ギン姉も……死んだ母さんも、いっぱい辱められて。そんなことをした奴ら全員、壊したいって、考えた。


部隊長やティア、なのはさん達の言う通りだ。

私は、強くなんてない。

今まで怖がって、怖がって、怖がって――ずっと逃げていた。


戦闘機人であることは変えようがないのに、受け止めようとしなかった。

それで、どうして助けられるの。どうして……何かを繋(つな)げられるの。


私は、自分を繋(つな)げようともしなかったのに……!

強くなろうともせず、変わろうともせず……ずっと、逃げていたのに!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


なのはさん達の鞭撻(べんたつ)があればこそ、と言いますか……ガリューについては、問題なく鎮圧できた。


「よし……!」


あっちこっちズタボロになりながらも、バインドをかけて拘束完了。

ナカジマ三佐にも連絡して、回収してもらって……次はスバルさんの援護。

魔力もまだ残っているし、それでなんとか……そう思ってストラーダで飛び出すと。


「……スバルさん!」


ギンガさんはウイングロードを展開――。

ハイウェイから飛び出し、そのまま跳躍。

左手首から上を回転させつつ、スバルさんに付きだしていた。


距離、二百……駄目だ、間に合わない!


遅かったのか……反撃できず、目を閉じていたスバルさん。

それを貫かれるところを、見ているしかなかった。


……でも、そんなの間違いだった。

スバルさんだけじゃなかった。あそこで戦っているのは……もう一人。


≪ウィングロード!≫


スバルさんの足下から、ウィングロードが展開。

それが左足と噛(か)み合わさり、一気に加速。

突き出されたドリルを下から蹴り上げ、その起動を逸(そ)らした。


あれは……ギンガさんとの模擬戦時、スバルさんがやっていた反撃!

そうだよね……お前だって、終わりたくないよね。


僕達にはずっと一緒に頑張ってきた、”相棒”がいるんだから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


≪両キャリバーショット、左回転!≫


その声に……ほぼ反射で従い、身を翻す。

もう力なんて、残ってないのに。なのに自然と……右足は、空の道をかみ締める。

そのまま走り抜け、ギン姉を蹴り飛ばしていた。


更に回転し、自然と展開していく道を再度踏み締め。


≪撃って!≫


突撃――両拳を同時に突き出し、ギン姉の胴体を捉える。

そうだ……初めて、まともに当たった。

ギン姉は吹き飛び、自分の道に戻って着地。


着地……それでようやくハッとして、周囲を見やる。


「え……」

≪練習通りです≫

「マッハ、キャリバー?」

≪まだ動けます。私も、あなたも≫


足下を見ると、ぼろぼろのマッハキャリバーが……コア部分が、強く点滅していた。


≪まだ戦えます。なのに、こんなところで終わる気ですか?≫

「あ……!」

≪確かにあなたは弱い。変わることからも、強くなることからも逃げていた。でも……ここから、一歩進むことはできます≫


そうだ……そのために、なのはさんは呪(まじな)いをかけてくれた。

逃げて、逃げて、弱い私が……一歩でも進めるように、強くなるようにって。

今日だけのことじゃない。教導でもそうだった。厳しくても、真っすぐに教えてくれて、見てくれて。


≪あなたの夢を嘘にしないでください≫

「私の、夢」


風が吹き抜ける……近くに感じる仲間の気配。


”エリオ、手を出さないで”

”スバルさん?”

”お願い”

”……危ないようなら、僕は……ギンガさんを撃ちます”

”ありがと”


エリオも、キャロも、ティアも、私と違って……ずっと強い。

私のために……私が、手を汚さないように、苦しまないようにって、そんな覚悟をしてくれる。

私だけが、置いていかれていた。馬鹿だよね、ほんと……でも。


「戦うのも、誰かを傷つけるのも……やっぱり怖い。だけど……この手の力は、壊すためじゃない」


その覚悟を無駄にするのが、今私のやるべきことだ。

それは負けるってことじゃない。

もちろんスカリエッティ一味に譲るってことでもない。


自分にも、ギン姉にも勝って――。

みんなで笑い合える、そんな未来に繋(つな)げるってことだ!


「悲しい今を撃ち抜く力。どうしようもない痛みを変えるために、最短距離で……一直線に進む力」

≪はい、相棒≫


ウィングロードを踏み締め、右拳を引き……静かに構える。


――スバル、最終決戦前に、みんなのデバイスリミッターは最終段階まで解除している。それでマッハキャリバーについては、一つ切り札を用意したんだ――

――切り札、ですか?――

――うん。スバルが最短距離で、悲しい今に手を伸ばすために――誰よりも速く、高く、駆け抜けられるように。その名は――


なのはさんは私の資質なら……私なら、使いこなせると思って、託してくれた。

だから使わせてもらいます。もう時間はかけない……今ここで、全部取り戻す!


「フルドライブ!」

≪Ignition≫

「ギア……!」


リボルバーナックルのカートリッジ、最大装弾数は六発。

今回は追加サービスで、ギン姉のナックルからもフルロード!


合計十二発の魔力……それをトリガーとして、リミッター解除。

増大する魔力は嵐のよう……でも、それを二人で乗りこなし、翼を広げる。


マッハキャリバーから生まれた六枚の翼。それは青い羽根をまき散らしながら、周囲へと広がった。


「エクセリオン!」

≪A.C.S.――Standby≫


フルドライブ、ギア・エクセリオン。最終リミッターの解除と同時に追加されたモード。

なのはさんのエクシードと同じ、フルドライブ用のモード。


……ギン姉も同じように構え……私達は突撃。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


そのまま全開で拳をぶつけ……交差。

でも今までのように、押し負けてはいない。

もう小細工は通用しない。技量・魔力……全てにおいてギン姉が上。


となれば、狙うは……相棒が掴(つか)んでくれた、あの手ごたえを胸に方向転換。

お互いの拳を、ウィングロードを何度も、何度も、何度も交差させて、真正面からぶつかり合う。

そうして加速をどんどん高める……止めない、止まらない。


もう止まらない……止まりたくない!

決めたんだ、強くなるって……!

変わって、振り切りたいんだ。卑屈で弱い自分を……!


手を伸ばす……伸ばし続けるって!


でも速度を上げれば上げるほど、出力を上げれば上げるほど、乗りこなしが難しくなる。

ぎりぎりを攻める……でも限界は決して超えない。

なのはさんが教えてくれたこと、みんなが教えてくれたこと。


全部を……体に染み込んでいる全てを用いて、再度方向転換。

また拳をぶつけ、せめぎ合い……交差。

ハイウェイをすり抜け、巨大怪獣が暴れているすれすれも抜け……この空域を、私達の道で満たしていく。


そうして十分な速度域に達したところで、ギン姉がまたドリル発動。

……それを見ながら私もループ……空目がけて走り……方向転換。

ギン姉目がけて急加速。落下すれすれな状況だけど、マッハキャリバーがしっかり”道”をかみ締めてくれる。


そうして肉薄――打ち込まれるドリル、それに合わせて伸ばす右手。

左右のナックルもタービンが回転し、私の魔力を高めてくれる。

そのままバリアブレイク開始……ドリルをオートバリアで防御しながら、ギン姉のバリアに触れる。


……器用なバリアブレイクなんてできない。だから力ずくで壊す……重力落下の勢いも込みで!


指先を食い込ませる――。


「一撃……」


眼前すれすれなドリルにも恐れず、手を伸ばす。

少しずつ指先を食い込ませ、足りないなら更に進んで……そうして、バリアが粉砕。

青い魔力の破片が舞い散る中、頭を左に逸(そ)らす。


ドリルで左側頭部の皮が抉(えぐ)れるけど、飽くまでも皮。


「必倒!」


そのままバリアに指先を……根元まで食い込ませ、掴(つか)み、引きちぎる。

ギン姉のバリアも粉砕し、すかさず左腕を逆風に振るう。


ガードに回された右腕を払い、腹部に魔力スフィアセット。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


ギン姉は襟首を掴(つか)んで引きはがそうとするけど、それは急激に増大するスフィアによって、たやすく阻まれる。


「ディバイン――」


冷静な顔が驚きに歪(ゆが)む中、改めて握った右拳を。


「バスタァァァァァァァァァァ!」


スフィアに向けてたたき込んだ。

放たれたのは、あの日見て……追いかけた星の輝き。

まだまだ小さくか細い光だけど、今日のは今までの中で特大。


そのままギン姉を飲み込み、力を、その意識を全て奪い去る。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ずっと……眠っていたような、気がした。

最後の光景は……たくさんの短剣に囲まれ、それを体に受けた痛みと、衝撃と、熱。

全身がちぎれたかのような苦しみで、私はそのまま意識を断ち切られた。


でも今は……空が見える。

空と同じように輝く、翼が見える。

そんな翼を……相棒から生やし、駆け抜ける妹は。


私に泣きそうな顔で手を伸ばす。

私も手を伸ばそうとするけど、無意味だった。

痛みで体が、動かない……それと、もう一つ。


あの子は誰よりも速く駆け抜け、私を……抱き締めてくれたから。


「……スバ……ル」


あの子に抱えられ、膝に頭を載せ……大体の状況を、理解する。

眠っていたようだった。でも、覚えている。私が……何を、したか。


「うん……」

「ごめ……ん」

「いいよ、もう……よかったぁ」


そうしてスバルは泣きじゃくりながら……私を優しく、もう一度抱き締めてくれる。

そこにエリオ君も降りてきた。ぼろぼろだけど、誇らしげに笑って、背筋を伸ばして。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


もう幻影や挑発によるだまし討ちは通用しない。

的確に……しかし深追いはせず、こちらの力を少しずつ削(そ)いでいく。


”こちらスターズ01――攫(さら)われたギンガ・ナカジマ陸曹を確保!”


空き部屋の中、カートリッジを入れながら、その朗報に活力を得る。


”やっぱり洗脳されていたみたい! ブリッツキャリバーもAIがカットされてた!
でも大丈夫……二人とも、大丈夫! 怪我(けが)はしてるけど、ちゃんと取り戻せた!”

”こちらライトニング03――ガリューも確保して、108に引き渡しています!”

”よくやったわ! スバル、アンタは急いでギンガさんを三佐達のところへ!
どうせ魔力もギリギリでしょ! エリオも、キャロが大丈夫そうなら付き添って!”

”こちらライトニング04! こちらは問題ないので……二人とも、ギンガさんを!”

””……了解!””


よし……これで外の安全は大分確保できた。

戦闘機人三人が、私と一緒に結界へ閉じ込められているもの。

あとは私さえ何とかできれば……まぁ、それが賭けなんだけどさ。


”でもティア、そっちは”

”怪我(けが)もせず、ピンピンしてるわよ。……だけどこっちの幻影、全部見抜かれる”

”そんな! だってティアの幻影、私が手伝って、戦闘機人対策も整えてるのに!”

”やっぱり、情報が流れていたんですね。使用術式に至るまで……!
待っていてください! ギンガさんを送り次第、すぐ救援に向かいます!”

”ピザ屋の出前よりは早めでね”

”はい!”


よし……これで懸念事項は解除できた。

まぁ、アジトの方やら、ゆりかごの方ではゴタゴタ続きだけどさ。

そっちをどうにかする気力もないし、やっぱり……ああもう。


「……今更、怖がってるなんてね」

≪……Sir≫

「失敗すれば殺される。夢も叶(かな)えることなく……変わることもできず」


それが溜(た)まらなく怖くて、右手が震える。でも……必死に堪えて、クロスミラージュを握り締めた。


≪発見されました。五時方向から……速度は今までと変わらず≫

「そう」


ピザが届く前に決着か。さすがに今は調理中よね。

そんなことを思いながら立ち上がり、深呼吸。ついでに幻術も消しておく。


……時間稼ぎをしている間に、戦術はシミュレーション済み。

この……部屋の中でなら、極端な空戦や機動戦は不可。予測通りに攻撃も来る。

更にガジェットもいないから、AMFによる魔法完全キャンセルもなし。その危険性もない。


奴らの後ろにつけている”目”についても、全くバレていない。

もう後は実行するだけ……なのに、怖がってる。やっぱりあれね……戦うのは好きじゃないわ。


「……ホントはさ」


クロスミラージュに……ううん、自分に言っているのかも。そんな宛てもない言葉を、部屋で響かせる。


「随分前から気づいてたんだ。私はどんなに頑張っても、万能無敵の超一流にはなれない。
それが悔しくて、情けなくて……それは今も変わらないんだけど。……でもさ」


……三時方向から破砕音……クロスミラージュを変形させ、背後狙いの二刀をダガーモードで防御。

即座に術式詠唱――二刀女を蹴り飛ばし。


「おりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


ショートの右回し蹴りを、クロスミラージュで防御。


≪Break Impulse≫


衝撃の中、必死に踏ん張り術式発動――!

結果血しぶきが爆発し、硝煙も生まれる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「――あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


ディードが、ノーヴェが吹き飛び、爆発が生まれる。

そんな中を飛び出し、魔力ワイヤーで逃げるオレンジ頭。


それにライディングボードの切っ先を向け、生成していたエネルギー弾を連射。

頭や胸元、腰を撃ち抜き……消失させる。魔力によって形作られた幻影を。


……咄嗟(とっさ)で解析が間に合わなかった。まさか……そう思いつつ爆発の中心地を見る。

そこにはノーヴェの血にまみれ、それでも立ちふさがるオレンジ頭がいた。

左手のデバイスをダガーにして、魔力弾を左右に二発ずつ生成……そうして息を整え、周囲を警戒。


「あ、足……アタシの……アタシの、足ぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

「ノーヴェ!」


そうしてノーヴェを見やると……うわぁ、ヒドいことになってた。

破損していたジェットエッジは、右足部分が完全に崩壊。

更に素足も骨が一部むき出し、肉が抉(えぐ)れている。あれじゃあもう、普通に走れない。


”……振動破砕系の魔法です。接触した物質の固有振動数を読み取り、破砕する”

”タイプゼロのアレと同種……! そうだった、魔法でもできたっス!”


私は幻影に目がいってたけど、ディードは冷静に見てたっスね。

でも、ノーヴェの蹴りを受け止めつつって……そうか、そのために嫌がらせしまくって!


”でも魔法の場合は確か”

”えぇ。最低でも二秒ほどのタイムラグがあります”

”つまり……二秒以上、触れさせなきゃ……いいんだ、ろ”


ノーヴェは立ち上がり、必死に両足を踏ん張る。それだけで血肉が迸(ほとばし)るのに、全く揺らがない。


”ノーヴェ、無茶(むちゃ)は”

”やらせてくれ”

”ノーヴェ!”

”頼む……アタシの、ミスだから”


……ノーヴェは怒りで立ち上がっていなかった。

いや、怒りは怒りだけど……それは、自分への怒りだった。

自分の独断で状況を滅茶苦茶(めちゃくちゃ)にし、私らにも怪我(けが)を負わせた。


その責任を取ろうと……それなら、大丈夫。


”……ディードを視点とした連係攻撃。ノーヴェは抑えっス”

”おう……! でも、本物……だよな”

”えぇ、私の目にもそう映ります”

”私もっスよ。だから今度こそ”


何か企(たくら)んでいるのは分かる。でもそれすら乗り越え、圧倒してやる。

ドクターの命令どうこうじゃない。……私もノーヴェと同じだった。

これは私達が選んだことだ。その結果の失敗も、全て受け止めないといけない。


でも、だからといって簡単には負けない。まずはコイツに勝つ……その上で、革命ってやつを成功させるっス。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ようやく追い詰めた……幻影使い。

なので先行部隊のガジェットから何機かを引き戻し、そのまま結界内へ突入させる。

完全キャンセル状態に置けば、今の状態でもたやすく勝てる。


悪く思わないでくれ、管理局の犬。ボク達は戦機……ドクターのため、勝利する義務がある。


そう思っていたら……なぜか、そのガジェット達が次々と撃墜されていく。


「……なんだ、これは」


ボクのサーチの範囲には、それらしい機影は何もない。

疑問に思いながら、両手の指を動かし、コンソールを幾度も叩(たた)く。


……そうして導き出されたのは、三キロ以上遠方に浮かぶ存在。


それはJF704式――機動六課も使っている正式採用ヘリ。


そこから魔力弾らしきものが飛び、結果ガジェットに届き、潰されていく。

ヘリに攻撃用装備はなかったはずなので、あれは魔導師……だがなぜだ。

ガジェットとの距離は今言った通り。そんな遠方まで弾丸を届ける?


「前線メンバーのデータは全員チェック済み……リンディ・ハラオウンの情報に、間違いはなかった。なら、なぜ」


もしやGPO? いや、GPOのガンナーは、魔法能力者ではなかった。だとすると。


「あなたが知る必要はないわ」


……そこでゾクッとしたものを感じる。

背後からの声に振り向こうとすると、翡翠(ひすい)色の輝きが展開。

それが体中を締め上げた上で、青白い刃が展開する。


周囲から生まれたそれが、ボクの周りにいるガジェットを……そしてボク自身の足や体を貫き、拘束する。


「が……!」

「ナンバーズ八番、オットーね」

「貴様を大規模騒乱罪、及び先日の機動六課襲撃容疑で逮捕する」


……翡翠(ひすい)色の輝きを辿(たど)り、眼前にいる女と……オオカミを見やる。

そこには先日痛めつけたはずの、八神二佐の個人戦力達がいた。


「馬鹿、な……なぜ」

「随分上手(うま)く隠れていたけど、クラールヴィントからは逃れられないわ」

「……くぅ!」


駄目だ、今捕まるわけには……強引に刃<鋼の軛(くびき)>を、ワイヤーを引きちぎろうとすると……頭頂部に衝撃が走る。

それは……方向的に、あのヘリから飛んだものだった。


そうか……あれは、単なる射撃砲座じゃない。空を見守る、鷹(たか)の目……だったの、か。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……オットー」


二刀女が小さく呟(つぶや)いたところで、周辺に漂っていた異界感覚が消失。

結界が消えた……どうやら結界担当の奴が捕まったようね。スバルかしら、エリオかしら……後でアイスを奢(おご)ろう。


「オットー……!」

「落ちたっスね……なら」

「もう、逃がすわけにはいきません」


そうでしょうね。これで増援との合流は可能だし?

でも……ミスよ。もう恐怖はない、既に腹は決まった。

失敗しても死ぬ、時間稼ぎに走っても死ぬ。だったら……!


「お前ら……行くぞぉ!」


ショートが叫び、突撃体勢を整える。

二刀女と同時に駆け抜け、アップがボードを抱えチャージ。

周囲にエネルギー弾を多数携えたまま、砲撃を放とうとする……狙い通りに。


そして私には、部屋の全容が見えている。

ショートの足を潰したとき、仕掛けたサーチャーが第三の目になってくれているから。

状況、視界……その全てを支配し、力を振るう。


――こんな私でも、何かを繋(つな)げると信じて。


「そこぉ!」


魔力弾二発を前後に射出。

ショートが右スウェーで、二刀女が伏せて回避。


そのまま三時方向――アップへと向き直り、右のクロスミラージュで射撃。

生成した魔力弾は、いわゆる反応型。別のエネルギーと相互反応を起こし、爆発を起こすタイプ。

ワンパターンな二刀女が私の回転に合わせ、余計な移動を行う……私の背後を取るために。


その間に直射弾は、アップの砲撃スフィアに着弾。

弾丸は狙い通りに相互反応を起こし、爆発――。

その衝撃が、爆炎が、狭い室内で吹き荒れる。


結果ショートの突撃は停止。二刀女の勢いもある程度削(そ)がれる。

”切り札”二つは、距離を取っていたので健在……そのまま反転。


思念で操作をしつつ、右のクロスミラージュもダガーモードに変形。

頭上に構え、見ることなく防御態勢を整える。……襲いくるのは、二刀女の斬撃。

でも怪我(けが)や爆風により、威力は相当削(そ)がれている。なのでこんな雑な防御でも、たやすく止められた。


「え……」


そうして驚いている間に……アップやショートが体勢を立て直している間に、切り札二つが直進。

そう、先ほど射出した魔力弾二発。

誘導タイプのそれは、反転してから大きくカーブ。


「く……何が」


そんなことを呟(つぶや)くアップの後頭部に、まず一発。


「が……」


そして二刀女の後頭部にも一発。


「か……はぁ……」


二人の急所を狙った一撃は着弾し、破裂。魔力ダメージも込みで、その意識を一瞬で刈り取る。

のしかかってきた二刀女を払い、クロスミラージュ二つをガンモードに戻し……戻らない。


そこで駆動部に火花が走り、動作不良を起こす。……このタイミングで!?

いや、もしかしたらそれは、執念だったのかもしれない。

例え妄執だったとしても、アイツは本気だった。本気でこれが、家族のためになると信じていた。


その感情が……何万分の一で起こる、そんな動作不良を呼び起こした。

神様がいるとしたら、何という皮肉だろう。こんなところでショートに対し、正当な評価を下した。

正当な努力には、本気には、ふさわしい対価が必要だと――。


「……てめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


ショートは怒りに塗れながら、左足だけで加速――。


≪……Sir!≫


一瞬のラグも命取り……クロスミラージュは動作不良を解消。

変形を再開しているけど、もう間に合わない。


なのでそれらを手放し、コルトガバメントを素早く取り出す。

完全キャンセル状態に備え、意識していてよかった。

だから間に合った……残り一メートルを切ったところで、トリガーに指をかけられた。


それにショートが気づき、払おうとするけど……もう遅い。

.45ACP弾がショートの胸元を撃ち抜き、その進軍を止める。

それでも止まっただけ……まだ立っているアイツに向かい、残り六発を全てたたき込む。


マズルフラッシュが閃(ひらめ)き、スライドカバーが連続稼働する中、弾丸はショートの目を、腹を、足を、腕を潰す。

一発受けるごとに後ずさり、私達の距離は三メートルとなった。


……そうしてこちらの弾が切れたところで、ショートは傷ついた左目から血流。そう……涙のように。


「なんで……だ」


それを見ながらも、空マガジンを落とし……新しいものと入れ替え、ハンマーコックを引いておく。


「何で、アタシ達が……勝て、ね」


そうしてもう一発お見舞い――。

頭から鮮血を走らせ、ショートはあお向けに倒れる。


「知ったこっちゃないわよ」

≪……Sir、申し訳ありませんでした≫

「ううん……でも安心しちゃった」


コルトガバメントを仕舞(しま)い、両手でクロスミラージュを拾い上げ。


「アンタでも緊張して、ミスることがあるのね」

≪お恥ずかしい限りです……≫


左右の銃口をアップ、二刀女に向け、こちらにも魔力弾を数発ずつ乱射。

起き上がれないよう、しっかりと鎮圧する。……これでよしっと。


あとはキャロだけ……召喚獣は、私達の領域じゃないからなぁ。頑張ってもらうしかないけど。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


無駄な体力……使わされた。血へどを吐きながらも反省していると、動力炉方面からがしゃがしゃという、複数の足音。


≪マスター!≫


アイゼンの声……大丈夫、しっかり聞こえる。正直、普通の人間なら致命傷だよな。

自分の身体に感謝するハメになるとは、思わなかった。今までずっと、嫌いだったのによ。


「そうか……あのときなのはを堕(お)としたのは、てめぇらの同類か……!」


ようやく、理解できた。あの召喚師が……クアットロって奴が言っていたこと。

アタシはまた、守れないかもね――あのときのことも、コイツらが糸を引いてやがったのか!


……アタシの目的は、コイツら潰して過去の憂さ晴らしをすることじゃねぇ。

動力炉を潰して、ゆりかごを止める。最悪、進行速度を落とすことだ。


立ち上がりながらも、アイゼンを持ち上げ……しっかりと握り締める。


「でも、おかげで……助かった」


それでつい……アイツらが出てきた意味を悟り、笑ってしまった。


「”アタシ”にこんな攻撃を仕掛けるんだ。動力炉は間違いなくこの向こうだし、壊せればクリーンヒット間違いなし……!」

≪えぇ……ですから≫

「行くぞ……アイゼン!」


アイゼンを振りかぶり、そのまま全力で踏み込む。


(act.30へ続く)






あとがき

恭文「というわけで……同人版でのイメージ固めのため、百式を弄(いじ)っていた今日この頃。ようやく目処(めど)がついたので、元ミッション話です」

古鉄≪設定も面白いところからネタが拾えたので、いい感じになっています。具体的には≫


(『カラバ宛てに送られた、百式二号機。
本来アムロ・レイへ送られるはずだったが、彼には専用のZプラスが送られたため急きょ行き先変更。
ウイングバインダーの代わりに、試作型のキャノンスラスターを携え、鈍い銀色に輝く機体……そう、その名は』)


恭文「はいそこまで! そんなわけで、鮮烈な日常SS第四巻をお楽しみにー。……お相手は蒼凪恭文と」

古鉄≪どうも、私です。……出番がないんですけど≫

恭文「仕方ないよ。あっちで決戦、こっちで決戦だし。それでもスバルとエリオ、ティアナについては終了。
……え、ガリュー戦がダイジェスト? 散々やられてるでしょ、これまで」


(そんなわけでダイジェストでした。まぁスバルも……でもテレビ版そのままは、実は初めて)


恭文「あとはキャロ、師匠となのはをやって、ヒロさんと僕の話に移行……確かに暇だ」

古鉄≪そしてやっぱり手直しが入る戦闘シーン≫

恭文「いや、全部書き直しってわけじゃないし、まだ」


(今回はまだ楽だった)


恭文「でもどうしよう……SMAP解散話が衝撃的すぎて、作者のテンションが著しく下がっている」

古鉄≪それでも百式は何とか完成させたんですけどね。おかげで同人版のバトルも仕上がりましたし≫

恭文「やっぱり、実際にガンプラを弄(いじ)りながらだと……いろいろ変わるね」


(少なくとも今回の戦闘シーンは、作りながら書いてなかったら纏(まと)まらなかった。
本日のED:Gackt『君が待っているから』)


ティアナ「……アンタが元気ないって言うから、励ましにきたわよ。そ、その……感謝、しなさいよね?」(マイクロビキニ)

ディード「恭文さん……私も、ご奉仕を」(スリングショット)

恭文「うん……まぁ僕もここ最近の動向には穏やかじゃないけど……なんで水着ぃ!?」

ティアナ「うっさい! アンタは大きいのが好きなんでしょ!? だから……いろいろ、好きにしていいってことよ!」

ディード「フェイトお嬢様も後で来ますので……まずは、抱擁から」

ベル「旦那様、ディードちゃんのことも受け止めてねー」

恭文「は……はい」


(おしまい)







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