小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
act.27 『奇襲』
列車<カーゴ>は暴走し続ける。あはははは、やっぱり日頃の行いって大事なのかしら!
それについては後で反省するとして……七月に通り、戦ったあの場所も高速で通過。
『おいおいおいおい……てめぇ馬鹿か!』
なのでそんな最中、地上の三佐に状況確認。予定ポイントまで……あと一分!
「六課隊長陣よりマシですよ! それで三佐、今のところ量産型オーギュストは」
『出てねぇ。召喚師の反応もねぇから……恐らくこちらの対策待ちだ』
「逆を言えば、接近して交戦されたら……警告については」
『したさ。最高評議会を”こちら”で掌握し、大体の経緯は分かった。
これ以上の攻撃を控えるなら、温情ももらえる……今更だがな』
「えぇ……もう、引き金は引いている」
それにその最高評議会<スポンサー>の恩恵に与(あずか)りまくり、止められなかったのが私達だもの。
そんなことを言っても、受け入れるわけがない。ほんと……ままならないわね、無駄と分かっていても戦うって。
「ならこのまま行きます」
『行くっつったって、どうするんだ。確かに避難は完了しているが、ソイツをそのままってのは』
「大丈夫ですよ、これごと飛び込みますから」
いろいろ考えたけど、もうこれしかない。
これを安全な形で止めるのは……ちょっと無理。
だったらガジェット達にぶつければいいのよ、コイツを。
『……おい』
「廃棄都市部なら、幾ら壊れようと問題ありませんよね」
「ティアァァァァァ! やめてぇ! 一生のお願い! 本当に一生に一度のお願いだからぁ!」
『だから、さっきからスバルが半狂乱なのか……! てーかお前、俺にもそう言って限定アイスを買わせただろうがぁ!』
「だったら無視でいいですね。……キャロ!」
「三佐が地上のデータをくれたので」
キャロは既に詠唱準備……残り三十秒。
「いけます! 戦闘機人達は足を止め、スイッチ……ギンガさんは最後方!」
「エリオはキャロのサポートとガード!」
「はい!」
「ほら、スバルも腹を決めて!」
「わ、分かった……分かったよぉ! でも大丈夫だよね! 出た途端ギン姉がぺしゃんことかは!」
「大丈夫です! ……はね飛ばすかもしれないけど」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
『おいこら待て! くそ、まともじゃない方向に覚醒しやがって!』
言っている間に、残り十五秒――。
「三佐、通信を切ります!」
『分かった! だが定時連絡はくれよ!』
「はい!」
三佐の通信を切って、残り十秒……!
「各自、衝撃に備えて! ――五」
「四」
「三」
「二……!」
「「「「一……〇!」」」」
そうして車両全体が転送魔法に包まれ、地上へと飛び出す。
さぁ……この間のお返し、パート1よ! たっぷり驚きなさい!
『とある魔導師と機動六課の日常』 EPISODE ZERO
とある魔導師と古き鉄の戦い Ver2016
act.27 『奇襲』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ノーヴェは駄目っスねぇ。頭に血が上ったままで、冷静な戦いができない。
はぁ……まぁセインやドクターにも頼まれたし、何とかフォローしてみるけど。
「オットー、ノーヴェのフォロー、少しは手伝ってほしいっス」
『できる範囲でしたら。作戦行動に問題が出るのも嫌ですし』
「十分っス。なら差し当たっては」
『……待ってください。これは……転送です! 止ま』
……言われなくても止まる……もう遅いけど。
なぜか私達の前に、桃色の魔法陣から現れる列車。
古びたそれはハイウェイ上に着地しつつ、至近距離でそのまま突撃。
車輪で地面をガリゴリ削り、火花を走らせながら……真正面から、私達に突っ込んできた。
その運転席に見えるのは、あのオレンジ髪やタイプセカンド達。
しかも今、先導はノーヴェだった。サーティーンならともかく、ノーヴェには。
「……ノーヴェ!」
向こうが加減する理由なんて、一かけらもなかった。
――ノーヴェと私達に銃口が向けられ、アサルトライフルによる実弾射撃が始まる。
電車が迫る中、弾丸はそれよりも早く迫る。その様子を見て、ようやく理解する。
古き鉄だけじゃない。コイツらも、まともじゃない――!
慌てて飛びのいた私達。その間にも弾丸達は襲ってくる。
ノーヴェは肩を、足を、ブーツを撃ち抜かれるけど、はね飛ばされるのだけは回避する。
もちろん最後方のサーティーンは、余裕の回避。
でも、ガジェット達はそうもいかない。摩擦と衝撃の結果、数十メートルに及ぶ巨体がバウンド。
ヘビのようにうねりながら、回避したガジェット達に次々と衝突。
私達についていた一個大隊が……クア姉が幻術で隠し、こっそり付けてくれた量産型オーギュスト達が、次々と跳ねられ、潰される。
そうして着地……ハイウェイを崩しながら、血肉とスクラップ、爆発を幾つも生み出し、地表へと落下していく。
そうして重たい轟音(ごうおん)が響く中、私達はあ然。
私もハイウェイに再度着地して……今更、寒気がしてきた。
「……ノーヴェ!」
それを振り払いながら、四時方向を見る。エアライナーに着地したノーヴェが、顔を真っ青にしながら呟(つぶや)く。
「大丈夫、だ」
大丈夫じゃないっスよ……肩や足はかすり傷程度だけど、ブーツ……ジェットエッジがヤバい。
右足の方が撃ち抜かれて、火花を上げていた。あれじゃあまともに速度も出せない。
幸い足まで貫通はしてないようだけど……やるっスね。あの場で突撃力のあるノーヴェを潰すとは。
「アイツら……ふざけやがってぇ!」
「どっから持ちだしたっスか、あんなの。てーか公務員のやることじゃ」
……言ってる場合じゃないか。
ライディングボードを右脇に抱え、飛んできた魔力弾八発を即座に撃墜。
するとゼロセカンド、槍使いの坊やがそれに合わせ突撃……ノーヴェが突っ込もうとするけど、ジェットエッジが煙を上げて停止。
「く……!」
ヤバい……今ので量産型オーギュスト、壊滅したっスよ? 数十体はいたのに……!
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」
つまり、近づかれたらちょっと辛(つら)い……だから忘れていた。
今の私達には、近接型がもう一人いると。
……サーティーンがセカンドの前に立ち、私達をカバー。
まず打ち込まれた拳を、左フックで逸(そ)らし……右ボディブロー。
そうして吹き飛ばした上で跳躍・回転――。
時計回りに身を捻(ひね)って、加速する槍使いの顔面を蹴り飛ばす。
揃(そろ)って吹き飛んだところで、空中からガリューが強襲。こっちはルーお嬢様!
倒れた二人の腹目がけて、両爪を突き出した。でもセカンド達は後ろに転がり、その爪を何とか回避する。
そうしてガリューがセカンドに突撃。
そう、ガリューならセカンドも、ファーストも倒せる。
実際ノーヴェですら、ガリューは容易(たやす)く潰すから。
でも向こうも、そんな相性の悪さは承知の上だった。
槍使いは鼻から出た血を払い、即座に突撃。
左右の連打を槍で払い、防ぎ、至近距離で加速。
槍のスラスターが火を噴き、その勢いのままガリューへ刺突。
ガリューは何とかガードするものの、そのままハイウェイ上から離脱した。
「よくやったっスよ、二人とも! さぁ、今のうちにゼロセカンドを」
『待って。ノーヴェ、ウェンディ』
でもそこでオットーが静止。
『ディードと一緒に、幻術使いを。あれを起点に連携されると厄介だ』
「了解っスー。ほら、ノーヴェ」
「……分かったよ!」
そうしてライディングボードに載って……ノーヴェも載せた上で加速。
「オットー、クア姉からの贈り物は」
『……壊滅だ。三体だけ生存しているけど、もう半死半生……そのうち一体の死亡確認』
「家族がいてもお構いなしか! 屑(くず)だ……アイツらは間違いなく屑(くず)野郎どもだ!」
「はいはい、落ち着くっスよ」
セカンドはサーティーンに任せて、あのオレンジ頭をサクッと潰すことに……できたら、いいなぁ。
いや、三対一になるだろうし、大丈夫っスよね。それでそれで……打倒古き鉄っス!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
くそ、やっぱりガリューやギンガさんで押さえ込まれるか。しかも召喚獣まで出たとなれば。
「……ティアさん、二時方向にルーテシア・アルピーノを発見!」
「OK……ならそっちもアンタとフリードで」
……そこでキャロの背後に気配。音もなく……いいえ、音すら振り払って加速する影。
この赤い刃と、栗(くり)色の長い髪は……ザフィーラとシャマルさんを撃墜した戦闘機人!
≪Dagger Mode≫
慌ててカバーに入り、クロスミラージュをダガーモードにした上で、真上からの一撃を防御。
でも、パワーが……まともに受けるのは無理か!
何とか刃を捌(さば)き、キャロと散開。すると二刀女はこちらに狙いを定め、更に疾駆。
左右交互に逆袈裟・袈裟・右薙・刺突・右薙・唐竹(からたけ)・袈裟・左薙と振るい、それを何とか捌(さば)いていく。
キャロも援護射撃をしてくれるけど、女はそれを振り払い、こちらの背後に回る。
慌てて振り返り防御すると……唐竹一閃。しかも、両の刃で。
ダガーモードの魔力刃が両断され、その衝撃で後ずさってしまう。
直撃はしなかった。でも……慌てて魔力刃を再構築し、続く左薙双閃を防御。
衝撃で吹き飛びながら、背後にあった高層ビルに激突。外壁を突き破りながら、通路へとなだれ込む。
せき込みながらも起き上がると、アイツが飛び込んでいた……慌てて右のクロスミラージュで、魔力ワイヤー生成。
八十メートルほど先の壁にくっつけ、ワイヤー巻き戻し。そのまま加速し、再びの加速と唐竹一閃を回避。
そうして壁際へ到達し、角へと入り込みながらオプティックハイド発動――。
姿を一時的に消しつつ、二刀女の目を眩(くら)まし、何とか距離を取る。
……フリーになったキャロではなく、こちらを追ってきた? しかも室内に……マズい。
”ティアさん!”
”大丈夫……でも、これは”
そこで私が突入した、ビル全体が結界に包まれる。
魔力はない……こっちは、六課隊舎がやられたもの。あのショートヘアーの奴もいるんだ。
”ティア……結界が!”
”僕からも視認できました! 量産型オーギュストの気配はないけど……く”
”分断、された”
”落ち着きなさい! キャロ、スバルの援護はできるわね!”
”はい!”
”ならそのままギンガさんに対処! こっちは”
別の陰に隠れると、また足音が響く。こつこつ、こつこつ……これは二つ。
「どこにいやがる、オレンジ頭!」
「隠れてないで、出てくるといいっスよー」
”雑魚二人と、二刀女のお相手よ”
「誰が雑魚だ……チンク姉が、アタシ達の家族が味わった痛さと恐怖、百倍にして返してやる!」
「アンタは捕獲対象じゃないっスから、殺してもドクターに怒られないっス。悪く思わないでほしいっスねー」
念話が聞かれている? ……それならばと、ほくそ笑んでしまった。
「クロスミラージュ」
≪既にマッハキャリバー達へ、データは送っています。しかしなぜ≫
「疑える要素はたくさんあるわ」
部隊長の話だと、六課のデータも流されていたそうだし。
……リンディ・ハラオウンが、最高評議会にね。
それなら私達の念話を、この設備もろくにない場所で盗み聞くことも可能。
しかも私は結界に閉じ込められているし、それで傍受しているのかも。
こうなると幻術についても、絶対の切り札じゃない。
戦闘機人は各種サーチ機能もあって、光学・赤外線などで”視(み)る”こともできる。
私の幻術はスバルのおかげで、その辺りの対策もバッチリなんだけど……まずはそこを試しつつ、かしら。
さっきの二刀女もこっちを追っているみたいだし、上手(うま)くやらないと。
でも、逆を言えば……リターンは大きい。
地上本部に侵攻していた戦闘機人は、赤髪ショート、アップ、ギンガさん、栗色(くりいろ)ショートと二刀女。
その大半を一手に引き受け、上手(うま)くやれば始末もできるんだから。
量産型オーギュストも控えていたようだけど、こちらの突撃でガジェット共々壊滅状態。
しかもわざわざ盗聴しているってことは……よく分かったわ。
コイツら、実戦経験が少ないのよ。少なくとも私とスバル達以下。
だからこの間も妙に隙(すき)だらけで、アッサリやられてくれたわけだ。
脅威度で言えば、ルーテシア・アルピーノや量産型オーギュストより下よ。
更にクロノ提督から送られた、能力データもある。
……落ち着いて、的確に対処。油断をしなければ、怖い相手じゃない。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
さてさて、きたよゼスト・グランガイツ……でも、その前にフェイトのアホが!
さぁ止めようかと思っていたら、クロノさんから連絡がきてビックリだよ!
「あのアホどもが……!」
『すまん、こちらのミスだ! 恭文……ロッサは』
「さっきから連絡が取れません。ラインは生きていますけど」
≪それで現場のアニタさんに確認したら、姿が見えないと言われました≫
『おい、まさか……!』
「やっぱキレてますね」
あの人、アジトに突入したんだよ……! 最深部までスニーキングミッションをやるつもりらしい。
「くそ……増援を送ったから、少し待ってって言ったのに!」
『増援?』
『……あ、ごめん。突入してないから』
『「ひゃああ!?」』
あれ、いきなり復活した! というか申し訳なさげに……何やってたの、この人!
『ロッサ! 今どこ……外か! 外なのか!』
『外だよ。裏口かないかどうか探ってたんだけど、やっぱり駄目だね。
地雷王による地殻変動もあったから、最新のマッピングデータも役に立たない』
『それは突入しようと頑張っていた……だろうが!』
『もちろん突入前には一声かけたって。……一応勝算はあるよ。ただ向こうの監視システムは大方理解しているしね』
「……確かに。こっちも入り口近辺に限り、小競り合いを演じてもらっていますから」
『突入しようとする振り……だったな。量産型オーギュストなどの動きは』
「今のところは」
さて、どうする。ここで下手に突入を止めても……いや、手ならある。
「とにかくヴェロッサさん、増援は」
『まだそれらしい影は』
『どうもー! 増援登場です!』
『うぉ!?』
「つきましたよー」
そう、ヴェロッサさんの背後に突如現れたのは……シャンテです。それにはクロノさんも目を見張る。
『シャンテ! そうか、君が増援だったのか!』
『恭文、彼女は……あぁ、シスター・シャッハの』
「えぇ。それでシャンテは超一流の幻術使いです。……シャンテ、やることは分かってるね」
『アコース査察官を手伝ってのスニーキングミッション。更にアジトの大捜索だよね、任せてー。なのでアコース査察官』
『監視システムのデータだね。でも大丈夫? この場で改良って』
『GPOの人達に鍛えられたので、バッチリー! ここはシスター・シャンテにお任せ♪』
シャンテはウインクした上で、システムに合わせ術式改良……これでより、安全に侵入できるよ。
『それで恭文、フェイト隊長達はどうする? ここで揉(も)めても』
「クロノさん、ヴェロッサさん」
『あぁ』
「フェイト達、突入させましょ」
腹を決めて宣言すると、クロノさんが険しい表情になる。
「ヴェロッサさんとシャンテは、それに続いて侵入を。どうせヒロさんも入っているでしょうから、協力して最深部を目指してください」
『あら、バレてた?』
≪そりゃあもう。いつもはしないおめかしもして、笑って出ていきましたから≫
『……フェイト達を囮(おとり)にするのか』
「危険度で言えば、ヴェロッサさん達が一番だ」
直接戦闘は苦手だし、シャンテも戦闘技術はまだまだ。見つかれば本当に……それに確証もある。
そのためについ笑って、右手をスナップ。
「僕達の予測通りなら、スカリエッティは完全キャンセル状態を使わない。高濃度で消耗を激しくはしても。
同時に量産型オーギュストもギリギリまで出さない。もしフェイト達がアッサリ殺されれば?」
『アジトの突入・攻略は断念……ゆりかごの制圧に戦力が向けられる、か』
「もちろん包囲はされるでしょうけど、それじゃあゲームとしてはつまらない。……そう、つまらないんだよね」
『どうしたの、恭文』
「こっちのことです」
ずっと引っかかっていた。
量産型オーギュストは圧倒的だし、魔導師のやり口を否定するものだ。
でもあのとき……僕との戦いを楽しんでいた、スカリエッティとはどうも食い違いがある。
あれは戦いにもならない……虐殺のために作り上げたものだ。
その答えならもう示されているので、はやて達にも連絡しておこう。
『なら、一つだけ確認だ。お前の方でフェイト達の支援は……AMF濃度の操作は』
「そんな真似(まね)をすれば、ハッキングもバレますよ」
『スカリエッティ達を捕捉しない限り、表立ってのシステム支援は無理。
だから馬鹿に馬鹿をやってもらうと……いいんだな、それで』
「自分から踊らされることを選んだんだ、死んでも本望でしょ」
そう、フェイトとシャッハさん達は、自らそれを選んだ。
道化である以上、相応に踊ってもらうだけ……もちろんスカリエッティ達の逮捕もさせない。
否定されるべきなのよ、リンディ・ハラオウンのお花畑思想は。
もちろん賭けにはなる。でも……この状況だ、賭けるものもなしで勝ち抜こうだなんて、虫が良すぎる。
だからフェイト達にも、しっかりと賭けてもらう。そうして僕達に利用されて終わるのよ。
そう決意しつつ、さっと立ち上がる。
『分かった。ただしシャーリーと協力し、掌握エリアの監視は徹底する……それでいいな。ロッサも』
「えぇ」
『僕も大丈夫だよ。ただ恭文はやること多すぎるんじゃ……レジアス中将のこともあるし』
『なのでゼスト・グランガイツについては、私達に任せてもらう』
そこで空を飛ぶ、シグナムさんとリインが登場。なるほど、またまたユニゾンで……でもなー。
『シグナム、リイン』
≪「えー、部下に殴られて逆ギレされた人に? 不安だわー」≫
『……問題ない。私はもう、裏切るわけにはいかない』
≪「えー、部下に殴られて逆ギレされた」≫
『流すなぁ! そしてハモるなぁ! お前達ではなく……アイツらだ』
それでシグナムさんの目を見やるけど、そこにはもう曇りなどなかった。
いつも通りのシグナムさんに戻ったようなので、ちょっと安心。
「仕方ありませんね……リインも頼むね」
『はいです!』
「クロノさん、僕はレジアス中将達の身柄を押さえます。アジトの監視は継続するので」
『頼むぞ』
そうして僕も空に……そう、空からだよ。やっぱ派手に行かなきゃねー。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ルーテシアや戦闘機人達が暴れてくれている間に、俺とアギトは再び地上本部に突撃していた。
どうあがいても相手の思い通りにしか動けない、この身が腹立たしい。
だがそれも今日で終わる。
それで、ルーテシアは始められるだろう。
その光景をこの目で見られないのは、本当に残念だ。
それでもミッド市街地の空を突き進む。
街はゴーストタウンと言わんばかりに、人気のない場所に成り下がっていた。
「アギト、市民の避難は」
「向こうの侵攻が発覚した時点で、地上各部隊が避難誘導してる。キロ単位で暴れても問題ねぇよ」
「そうか。局の動きもなかなか迅速だな」
「旦那には負けるさ。それより旦那の体が」
「問題ない。すぐに終わらせる」
「……あぁ、そうだな。すぐに終わらせるんだ。それで」
そこで言葉は止まってしまい、アギトと一緒に急停止。
……前方二十メートルの地点に、紫ポニテの女が現れた。その隣には、あの白い融合騎。
「……またコイツらかよ!」
「本局機動六課、シグナム二尉です。前の所属は首都防衛隊――あなたの後輩になります」
「そうか」
「中央本部を壊しにでも行かれるのですか」
「古い友人に、会いに行くだけだ」
「……それは、復讐(ふくしゅう)のため」
「言葉で語れるものではない」
予備のグレイブを引き、静かに構える。
闇の書に仕込まれていた、生きたプログラム……その佇(たたず)まいから、できる騎士だと分かる。
「道を譲ってもらおう」
「レジアス中将、及び最高評議会の犯罪は、既に証明されました」
だが奴は剣を抜くことなく、淡々とそう告げる。その上で我らの前にモニターを展開。
……これは……俺が入手し、古き鉄に奪われたデータ……いや、それ以上のものが詰まっていた。
「中将のところには、既に蒼凪が向かっています」
「なんだと」
「既にあなた達が戦う理由はない。大人しく降伏するのです」
「どこまでも卑きょうな奴らめ……どけ! 旦那はただ……!?」
そこでアギトの表情が変わる。……安心しろ、俺は死なん。
レジアスのところに、古き鉄が向かっているというのなら……ちょうどいい。
揃(そろ)って処断するだけだ。その罪を……拭えない汚れを。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「中将のところには、既に蒼凪が向かっています」
「なんだと」
「既にあなた達が戦う理由はない。大人しく降伏するのです」
「どこまでも卑きょうな奴らめ……どけ! 旦那はただ」
”その人が洗脳されていても……ですか!”
「……!?」
そこでバッテンチビから念話。更にモニターウィンドウを新しく展開。
アタシにしか見えないよう、奇妙な術式の羅列を見せてくる。なんだこれ……同じような術が、たくさん。
”それはフェブルオーコード――最高評議会が作り上げた、洗脳技術です!
そしてゼスト・グランガイツが彼らから与えられたデータは、全てそれです!”
”なん、だと……んなわけ、ねぇ! 旦那は、アイツらの仕事を受けつつ、情報を集めてるって!”
”では、見たことがあるのか。お前は”
そこで紫髪の女も加わって、アタシの矛盾をツツいてくる。
……ない。
旦那が得られたデータを、見た覚えなんてない。
アタシやルーテシアを巻き込まないようにって……気づかってくれて。
”それも全部嘘です! そうして自分達の意志を表現する人形として……レジアス中将の殺害もインプットされています!
このまま中将と会えば、彼は刃を振るいます! 話を聞く前に、何の躊躇(ためら)いもなく!”
”嘘、だ”
”恭文さんを――瞬間詠唱・処理能力者を、迷いなく殺そうとしたように!”
おい、まさか……嘘だ。嘘に決まっている。
旦那は正義を、ルールーとアタシの幸せを望んだんだ。
そのために、英雄の名を汚すアイツが邪魔だと……それすら、そう思わされていた!?
なら旦那の正義はどこだ! 旦那の意志は……旦那が守ろうとしたものは!
”全て事実だ。だが本人にこれを言えば、途端に人格が壊れかねない。
……協力してほしい。直接会わない形でなら、何とかなるかもしれない”
”嘘だ……嘘だ嘘だ”
騙(だま)されて、おかしくされて……こんな、こんな……異常な量のプログラムを、至極大事にして!
それでもずっと頑張ってきて……全部、無駄だった? そんなの……。
「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
旦那とそのままユニゾン……アイツらの言葉を全て否定して、アタシはアタシの決めたことを押し通す。
【信じねぇ……旦那のしてきたことには、進む道には意味がある!】
涙を払い、炎を放ち……あの嘘(うそ)つきどもに、刃を向ける。
【アタシはそう信じてる! こんだけ苦しんだんだ……救いはある】
【ありませんよ、そんなもの】
【苦しんだ分だけの救いがきっと……そうじゃなきゃ】
【そんなもの……どこにもないのです!】
【嘘だぁ!】
それは古き鉄も、ルールーを傷つける奴もいない……平和な世界。
旦那が夢見て、理想とした世界。そうだ、それは旦那の願いだ。
誰かに歪められてもいない、騎士としての願い……騎士の本道!
それを作るためなら、アタシは悪魔にだってなれる! そうだ、信じるんだ……!
旦那はおかしくない! アタシが信じてやらなきゃ、旦那は……旦那は一体どうなるんだぁ!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
……やはりこうなったか。だが蒼凪に譲ってもらった以上は、きっちり勤めを果たす。
レヴァンティンを抜き、リインとユニゾン――髪と甲ちゅうに白色が混じり、その淡さが増す。
更に魔力も増大……蒼凪のところへ行きたいだろうが、今は我慢してもらう。
【シグナム、分かってるですね。時間稼ぎで十分なのです】
「あぁ」
ゼスト・グランガイツのデータについても、蒼凪が奴らのアジトから引き出してくれた。
先日の戦いで敗北した傷は、未(いま)だに癒えていない。ユニゾン時の相性も、融合事故すれすれだった。
それをあそこまで合わせられるのは、二人の信頼関係があればこそ。
決して油断していい相手ではない。何より……気迫が違う。
たとえ妄執に等しいとしても、命を賭けた行為には変わりない。
そこには確かな本気がある。……それゆえに、この騎士はもの悲しいが。
【烈火の剣精アギト――この手の炎で、貴様らの欺瞞(ぎまん)と驕(おご)りを焼き尽くす!】
そうして踏み込む騎士ゼスト――こちらもカートリッジをロードし、レヴァンティンに炎を纏(まと)わせる。
刺突・刺突・袈裟・逆袈裟……斬撃を払い、その力を受け流しつつ、敵の脇を取りつつ右薙一閃。
首筋を狙った一撃を伏せて避け、奴が返す刃を跳び越え、回転しながら形状変換。
シュランゲフォルムとなったレヴァンティンで刺突――。
至近距離での展開を防御し、更に続く右薙・逆袈裟・袈裟のなぎ払いも回避してくる。
斬撃をすれすれですり抜けながら、騎士ゼストは方向転換。
【アイシクルダガー!】
その行く手を遮る、リインのフリジットダガー。
【ブレネンクリューガー!】
それを迎撃する、アギトの炎。
それらが衝突し、相互反応を起こしながら連続爆発。
その中を再びレヴァンティンが突き抜け、ゼスト・グランガイツを取り囲み……縛り上げる。
即座に飛び上がって回避されるが、その先へ回り込み……レヴァンティンを元に戻して、唐竹一閃。
「――はぁぁぁぁぁぁ!」
防御されるのも構わず。
「どけ……貴様に正義の心があるのなら、分かるはずだ。古き鉄は生かしておいていい人間では」
戯言(たわごと)を強引に振り切る。
そうして百メートル以上吹き飛ばし、追撃――。
向けられたグレイブから放たれる衝撃波を。
【右・左・左……上・下!】
リインの指示で素早く回避。先日の戦いで、すっかり動きを見切ったようだ。
それも考えれば当然のこと……コイツも蒼凪とユニゾンして、我らでは届かない敵と対峙(たいじ)している。
まだ幼く見えるが、成長できない我らと違い、前に進んでいる。
その姿勢を見習おうと思いつつ、地表近くで袈裟の斬撃。
ゼスト・グランガイツも同じように一撃を加え、衝撃が爆(は)ぜる。
地表のコンクリが、周辺ビルの窓、車などが吹き飛ぶが、構わずに押し込み続ける。
「貴様もまた、目の曇った騎士か……愚かな」
やはり通じぬか……!
この異様な……古き鉄への敵意もまた、プログラムされたものらしい。
最高評議会がヘイハチ殿を、その弟子達を、GPOや維新組を嫌い、憎む感情。
それすらも遺伝しているんだ。それも姿の見えないヘイハチ殿を神格化し、破綻しないよう調整した上で。
「正義を貫け、烈火の騎士。貴様が戦うべきは俺ではない……騎士の誇りを、正義を踏みにじるあの悪鬼だ」
【知ったこっちゃないのですよ。こっちは時間稼ぎだけで十分なのです】
「蒼凪から受けた傷、更に強引な蘇生(そせい)による反動……あなたの体は、もう戦う力も残っていない」
【ふざけんなぁ! 戦え……騎士として、旦那の刃を全力で受け止めろ! そんな卑劣な真似(まね)、アタシが許さねぇ!】
【恭文さんにボロ負けしておいて、まだ理解してないのですね。……あなた達の一番強いところは、どこですか】
それは蒼凪がファーン校長から投げかけられた質問。
蒼凪も彼らに投げかけたらしい。そして彼らは、自らの失策を悟った……そして今、それからも逃げている。
「黙れ……」
【あなた達は弱い……弱すぎる】
「黙れぇ!」
騎士ゼストの蹴り……それに伴う突撃を左に交わし、その腹に刺突。
「飛竜」
オートバリアが張られるも、シュランゲフォルムを再度展開。
「一閃」
零距離での射出――それに煽(あお)られ、ゼスト・グランガイツは近くのビルに叩(たた)きつけられる。
……それでも……脇腹から血を流しながらも、彼は這(は)い出てきた。やはり、痛みや衝撃では折れないか。
「奴の強さなど、俺達は認めん。奴を処断する……俺達を辱めた罪は、その死でもって購(あがな)ってもらう」
【恭文さんは、もうあなた達と戦うつもりなんてないですよ。……弱すぎてつまらないですから】
【なんでだよ】
そして槍を構え直す中……レヴァンティンが元に戻る中、アギトが涙を漏らす。
【なんで、旦那をそこまで貶(おとし)められるんだ……旦那は、何もしちゃいない!
譲ってくれよ……頼むから……旦那の幸せを守ってくれよぉ!】
【殺すですよ。それで恭文さんも殺す】
【それの何がいけない! アイツらが死んで、旦那が幸せになるなら……お前達には、人の心がないのかぁ!】
「甘えたことを抜かすな。……貴様は”旦那”に仕える融合騎だろうが! なぜ正さない……その間違いを!」
……それは私も経験したことだった。
なのに忘れていた……忘れようとしていた。
私は変わった、変わったのだと……過去を捨て置いた。
たとえ愚かでも、暗いものでも、そこには学ぶべきものもあった。
その一つ一つが、今の私を形作っているというのに。
「なぜ諫(いさ)めない、その愚かさを! ただ盲信するだけで、正しき道が行けると思っているのか!」
そうして盲信していた……未来を。
自分自身を変わることもせず、他者を変えることばかりに目を向けて。
そうだ、自分に言っていた。私は……本当に愚かな女だ。
十年経(た)っても、何一つ成長していない。もしかしたらそれが、我らの枷(かせ)なのかもしれない。
……ならせめて、守り抜きたい。その枷(かせ)もない……先へ行く者達を。
他者を変えるのではなく、自分を変えることで進む。そんな未来を守る騎士に……あぁ、そうか。
これが夢なのか。私はようやく、人の心を理解できたのかもしれない。ならば。
「もう、やめろ。そんなことをしても、何も変わらない」
今、他者の変革ばかりを望み、逃げ続ける二人を放っておけない。
それは私が見つけた、新しき騎士道に反する。
間違えることもあるだろう、見失うこともあるだろう。
だがそれでも一つ一つ……少しずつでも積み重ねられたら!
「お前は、お前達は、何一つ変わらない……!」
「アギト、もういい。……目の曇った奴らには、天の声が届かないのだろう。だが」
そうして彼は疾駆。
「俺は違う……正義よ」
そのままカートリッジもロードし、全身全霊で刃を突き出す。
「我に力を――!」
……だが、怒りと憎しみに曇った刃など、私に触れることすらない。
刺突をくぐり抜け……腹に生まれていたた炎ごと、その身を一刀両断。
右切上の斬撃を受けた体は、驚きとともに空へと吹き飛んでいく。
「が……!?」
あぁ、届かない……あなたを惑わし続けた、”天の声”などない。
既に奴らは死に絶えた。死者の声など、もう届くはずがなかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
スカリエッティのアジトに到着した私は、シスター・シャッハと合流。
108の部隊も、聖王教会の騎士団も道を譲ってくれた。……きっと母さんのおかげだ。
そうして行く手を邪魔するガジェットを、シスター・シャッハとともになぎ払いつつ進む。
でもこの通路、なんて薄気味悪いデザインなんだろう。薄暗いから余計に印象を強める。
……やっぱり私は間違っていなかった。
アイツは救いようのない犯罪者で、だから排除しなくちゃいけない。
最大速度でひたすらに奥に進んでいると、突然にシスター・シャッハが地面に引きこまれた。
「シスター・シャッハ!?」
私が助けようとすると、上から何かが落下してくる。
慌ててそこから退避すると、落下してきたのは……ガジェットIII型が四体。
シスター・シャッハは地面に埋まり、通せんぼを受けてしまう。
”シスター・シャッハ! 応答してください! シスター・シャッハ!”
”……大丈夫です。すみません、油断しました。コードネーム:ドンブラ粉に引きこまれまして”
ドンブラ粉……あの、水色髪の戦闘機人。
……それで、心の中に正義の怒りが燃え上がる。
アイツのせいだ……ヤスフミはアイツを理由に、妄想を正当化していた。
私達が設立を見過ごされていて、母さんも悪にされた。
ソイツさえいなければ、ヤスフミは私達を信じてくれたのに……!
それに、どうして抵抗するんだろう、ただ自分の罪を認めて壊されればいいのに。
ガジェット達と同じ機械兵器なんだから、そうされるのが当然だよ。母さんがそう言ってたんだから。
そして母さんが言うってことは、組織にとっても正しいこと。去年だってそうだった。
……本当は嫌だった。ヤスフミやGPOから手柄を取り上げるなんて、したくなかった。
母さんにも抗議した。でも……信じたのに。組織の、みんなのためになると、信じたのに。
母さんがそう言ったから……それで母さんも後悔していると分かったから。
そうして貫いて、偉くなって、いつかそんな組織を変える。そう思って六課に入った。
なのに、みんなが邪魔をする。私達が手柄を上げて、偉くなって、組織を変える……その邪魔をする。
母さんがおかしくなった? 違うよ……母さんは変えたかったんだ、私達と同じように。
なのに、信じないなんて……母さんは間違っていない。そうだ、母さんが言うから正しいんだ。
あなた達は世界そのものから見捨てられた。あなた達を破壊すれば、私達は出世できる。
そうして本当に世界を、組織を変えることができる。そうしたらヤスフミも、GPOの人達も認めてくれる。
だから壊せる、だから排除できる。それが『英雄』なんだもの。
”それで戦闘機人は破壊できましたか”
”御安心を。武器もほとんどなかったので、ぐっすり眠ってもらいました。ただ、そちらへ向かうのは難しそうで”
”それでは駄目です、破壊してください。もう二度と活動しないよう”
”……はい? ですが彼女達は重要参考人では”
”そんな必要はありません。これはリンディ提督の命令ですから。躊躇(ためら)いなく、ガジェットと同じように壊してください”
シスター・シャッハがなぜか息を飲む。……それは気にせず、視線を前に向けた。
”とにかくすぐにそちらに戻ります。決して無茶(むちゃ)はされぬように”
シスター・シャッハとの念話はそこでシャットアウト。
……通路の奥から、辿々(たどたど)しい足取りで現れる女。
それはあの青髪――トーレだった。
改めて右手に持っていた、ザンバーの柄を握り締める。
「生きていたんだね。とっくに死んでたと思ってたよ」
「死にかけました……それでアリシアお嬢様」
わざとらしく私の名前を間違える。その言葉が許せなくて、一気に踏み込みながら袈裟にザンバーを振るう。
するとトーレはそれを左のフィンで受け止め……刃と刃を始点に、衝撃と金色の火花が走った。
「そう。いっそ死んでくれてた方が良かったのに」
笑顔でそう言うと、なぜか彼女は頬を引きつらせる。……意味が分からないよ。
「ここへはどのような御用向きで。御帰還ですか? それとも反逆?」
「違う」
トーレはザンバーを左に払い、一気に踏み込み左回し蹴り。
でもその速度は、以前のそれに比べると圧倒的に遅い。
後ろに少し下がり、数メートルの距離を取って着地。
ザンバーの切っ先を向けて、トーレを睨(にら)みつける。
「お前のような愚かで救いようもない犯罪者を――ガラクタを壊しに来た。ただそれだけだ」
母さんはそう言っていた。……母さん、後悔しているんだよね。そうだよね……そう言ってたものね。
だから、偉くなろうとしているんだよね。今度こそ奪ってしまったものを、ヤスフミ達へ返すために。
局に入ってほしいと言うのもそのため。そうだよね……だから私、信じたんだよ?
そうじゃないなら……私まで、頭がおかしいことになる。そんなの嫌だよ。
私も同じだから……だから戦っているの。だから今、全てをかなぐり捨て、コイツを殺そうとするの。
母さんがそうしろって言うから……全てを返すために、必要だって言うから……!
踏み込んで左薙一閃。するとトーレは……それを避けない。
顔をしかめ、両手のフィンでザンバーの斬撃を受け止めた。
でもただそれだけ……死にかけてたのは事実みたい。だから弱くなっている。
刃を強引に振り切ると、トーレは抵抗もできず大きく吹き飛ばされた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
くそ、身体が……身体が全く言うことを聞かん。
いや、これはツケだ。私はサンプルH-1を、人間の覚悟を侮っていた。
戦機は確かに強い。だが……ただの人もまた、強くなれる。魔法がなかったとしてもだ。
ドクターが見せられた、生命の可能性……その重さを今更ながら痛感している。
今できることと言えば、感情を煽(あお)り、隙(すき)を探すことだけ。
だが何としても食い止めなければ。そうだ、余計に負けられない意地ができた。
フェイトお嬢様は我々と同種の存在を、兵器と断定し壊そうとしている。
それは見過ごせ……ち、射撃か。
吹き飛ばされた私に向かって、プラズマランサー八発が撃ちだされる。
身を翻し着地し、少し停止。
ランサーが目の前に迫ったその瞬間、左に跳ぶ……訂正、跳ぼうとした。
だが身体に激しく痛みが走り、その場に倒れてしまう。
そこで容赦なく雷撃の槍が降り注ぎ、両腕でガードするが腹や右足、肩などを撃ち抜かれる。
当然だが電撃ダメージも入り……あぁ、入るんだ。
私には元々、フェイトお嬢様対策の処置が施されていた。
それは当然ながら電撃ダメージを防ぐ生体処置だ。ここはセッテも同様だった。
だが施されていた処置は、死にかけた影響で無効状態へ追い込まれた。
施行はそれなりに負担のかかる処置でもあるし、今の私にはそれができない。
つまり雷撃ダメージを食らえばそのまま……くそ、身体が痺(しび)れる。
それでも立ち上がり、爆煙から後ろに距離を取る。
だがそのとき、真横を金色の閃光(せんこう)が通り過ぎる。咄嗟(とっさ)に背後へ振り返った。
「はぁ」
そこにはなぜか、楽しげなフェイトお嬢様がいた。まるで別人のように――悪鬼のように笑っていた。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
左薙に振るわれたザンバーをフィンで受け止めるが、私の身体はその勢いに押されて浮き上がる。
アリシアお嬢様はそのまま身を一回転して、私を側面の壁に吹き飛ばし叩(たた)きつけた。
私の身体は壁の中に埋まってしまう。
≪Plasma Lancer≫
痛みに呻(うめ)く間もなく、アリシアお嬢様は私に向かってランサーを連射。
身体は次々とランサーに撃ち抜かれ続ける。
≪Plasma Smasher≫
それが止んだと思った瞬間、周囲に発生していた爆煙が貫かれ、金色の奔流が出現。
咄嗟(とっさ)にIS――ライドインパルスを発動。
青い光に包まれながら、目の前に迫っていた奔流を右に回避。
砲撃はそれまで埋まっていた壁に直撃し、雷撃を周囲にまき散らしながらも爆散。
その衝撃に押されるのと同時に、また身体に痛みが走る。
それに耐えつつ、床に激突し数メートルを滑る。
……痛みのせいで機動が安定しない。
というより、ここまでボロボロだとどうしようも……両手を上にかざした。
すると頭上から、私を殺さんと言わんばかりの打ち込みがたたき込まれる。
両手のフィンで防ぎ、また悪鬼と対面。
フェイトお嬢様は、私に対して淀(よど)んだ瞳を向ける。
「あなた達のせいでたくさんの人が泣いた」
そう言ってザンバーを振り上げ、私に向かってもう一度叩(たた)きつける。
「あなた達のせいでたくさんの人が死んだ」
続けてもう一度――いや、何度もだ。
まるで子どもがおもちゃの剣を振り回しているように、ザンバーで私を打ち抜く。
「だから許さない」
何度も襲ってくる衝撃に、必死に耐えつつフェイトお嬢様の顔をもう一度……駄目だ、見られない。
この人がどうしようもなく怖い。この人はまるで私を虫けらのように見る。
「絶対にあなた達を許さない。私を『アリシア』と呼ぶあなたを、許さない。私は……フェイトだ!」
身体に震えが走り始めた。……そうだ、それは私達の罪だ。
嘲り、踏みつけ、殺し……背負うべき罪だ。
私はここで、殺されても仕方のない女なのだろう。……それだけのことはしてきた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
念話を続け、走りながら……奴らの位置を探る。
”とにかく各自、各々の相手に集中。量産型オーギュストについても注意しつつ、各個撃破……いいえ、時間稼ぎよ”
更に地形についても、クロスミラージュのサーチで把握。
空中戦が得意な奴もいるし、下手に飛び出すのはマズい。
吹き抜けの通路とか……危ないわよね。幸いなのはAMFが展開していないこと。
さっきのでガジェット達も、隠れていたらしい量産型オーギュスト達も潰せたし、万々歳って感じかしら。
それでもう一つ、確かめるところがある。さっきみんなへ送ったデータ、それも傍受されているか。
ここからの反応次第だけど……念話での会話を装いつつ、煽(あお)ってみるか。
”逆ギレしかできない、可哀想(かわいそう)な雑魚どもを引きつけるだけで、十分中央本部は守られる”
「ざけんじゃねぇ! 家族だったんだぞ……アタシ達の大事な家族を、散々いたぶりやがって! 壊されて当然の、ゴミの分際で!」
”ところでさ、最近のゴミって技術が発達してるのねー。だって歩く上、家族がいるんだもの”
「は――!?」
――以前、たまたま聞いたラジオで、声優さんが罵りを連発していた。
それを思いだしながら、もっと煽(あお)ってみます。
”てーかテロを起こすくらいなら、とっとと就職すればいいのに。アリの方がよっぽど仕事してるわよ”
「アリ!? アリ以下っスか!」
”わぁ……赤髪ショートの膝が笑ってるー、自分を見てー。蚊もアイツの血だけは吸いたくないってー。
というか、靴の裏みたいな顔してるー。あははははははは、受けるー! アイツらの存在そのものが!”
”そうですね……本当に可哀想(かわいそう)。何か臭うと思ったら、あの人達だったんですね。
あー、空気清浄機がおかしくなってるー。あの人達の臭いが強すぎるからー。頭が弱い(ぴー)だからー”
ちょ、キャロ……! 煽(あお)りすぎ! それだと。
「てめぇらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
キャロの馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁ! なんか突っ込んでくる! 残念な(ぴー)が突っ込んでくる!
慌てて幻影を生成。設置型の魔力弾も揃(そろ)えて、何とか相手の目を引きつけておく。
”(ぴーぴーぴー)なんだから、(ぴー)って(ぴー)ればいいのに。その程度しか価値がない(ぴー)なんだから”
「うわぁ……私らが言うのもあれっスけど、どういう教育をしてるんっスか! というか自分ら、本当に管理局員っスか!」
それについては全く否定できない! だってあの子、局員っていうよりサバイバーだもの!
でもいい感じ……なのかしら。
赤髪ショートは完全にぶち切れ、幻影・実体の区別なく潰す勢い。
「一つ覚えの幻術なんざぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
既に右足がやられているって言うのに。それに合わせ、アップも無謀な突撃を繰り返す。
だから的確に、一発……一発を積み重ね、戦えないように仕上げていく。
ショートの腕を、アップの足を、誘導弾が的確に撃ち抜く。
普通なら無理よ。でも安全マージンも取らない急な進行で、足下がお留守になっている。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ノーヴェが勢い任せに突撃――。
弾丸を腹に、腕に食らおうとお構いなしで、幻影達を蹴り飛ばす。
あの頭おかしい提督が、スポンサーに流していたデータがあるので、幻影かどうかは見抜ける。
でも問題は……そんなノーヴェに合わせて飛び込むと、こちらの体勢が整わないこと。
落としきれない誘導弾に足を、腕を撃ち抜かれ、痛みに呻(うめ)きながらも追撃していく。
「ノーヴェ、落ち着くっス! カバーしきれない!」
「問題ねぇだろ! 屑(くず)一人……ハンデにもならねぇ!」
「ノーヴェ!」
くそ、念話であんなことを言いまくるから……念話?
そこでさっきまでの会話を、さっきまでの行動を振り返る。
しまった……! あんな状況は初めてで、察知するのが遅れた!
”ね、エリオ君、ティアさん”
”僕……子どもだから、よく分かんないー”
””私も子どもだから、よく分かんないー””
”……そうだね。みんな、子どもだものね”
”””一体何様!?”””
「ふざけてんのかぁ……てめぇらは!」
きゃー! 止める前に煽(あお)ってきた! ノーヴェの面倒くさい性格を利用しにきた!
オットーに念話の受信をシャットアウト……無理だったー!
サポートがなくてもできるように、事前調整しているっスから! ノーヴェが自分からオフにしない限り……!
”ノーヴェ、念話を聞いちゃ駄目っス!”
”はぁ!? てめぇ馬鹿か! アイツらの作戦も筒抜けなんだぞ!”
”煽(あお)られてる……傍受されてるの、バレているっス!”
”みんな、コイツらはキャロが言うように、頭がおかしいわ。特に赤髪ショートよ。
アイツはもう……あれね、体しか価値がないわ。捕まえたら(ぴーぴーぴー)にしましょ”
「……てめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
それで更に煽(あお)るっスかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ヤバいヤバいヤバい!
ノーヴェをいっそ見殺しにする? いや、駄目だ……相手は実弾銃持ち。
サーティーンもいるのに、遠慮なく突撃してきたクレイジー。放置したら、ノーヴェは殺される……!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ティ、ティアとキャロが下品だ……止めたいけど、無理だよねー!
念話が聞かれているのを利用した、陽動作戦だもの! ……それに、そんな余裕もない。
ギン姉は静かに拳を構える。その瞳はふだんと違い黄金色で、敵意もある。
怒りというよりは、排除するだけ……機械的なものだけど。
だから、私も構えるしかない。……ギン姉の体を傷つけるから、振動破砕は使えない。
打撃も危ない……やれるのは、純粋魔力によるノックアウト。問題はその実力差。
ガリューやゼストさんみたいに、シューティングアーツを知り尽くした人相手だと、私はやっぱり弱くなってしまう。
相対的な実力、相性……ギン姉もその一人。私よりずっと、母さんのシューティングアーツを知っている人。
……ううん、今更迷うな。そんなのは分かっていた……分かっていたことなんだから。
「ギン姉」
それでも決めた。なのはさんから呪(まじな)いもかけられた。
普通か、普通じゃないか……それだけで選んじゃ駄目なんだ。
何を繋(つな)げたいか、何を壊したいか――今更だけど気づいた答え。
それを貫くためにも。
「行くよ!」
キャロのブースト魔法をかけてもらい、出力を底上げ。
その上で相棒と一緒に加速――全力で右拳を突き出すも、ギン姉は左スウェー。
その上で私の背骨に左フック。痛みに呻(うめ)いたところで、吹き飛び……ううん、吹き飛ばない。
衝撃を体に、直接たたき込むような一撃。
その上で右膝蹴り……腹を蹴られ、ギン姉の真正面へと強引に移動させられ。
「……障害、排除」
オートバリアが展開するも、それすら打ち砕く左ストレート。
直撃を食らい、一気に数十メートル後方へと吹き飛ばされる。
「ホイールプロテクション!」
……そのはずだった。
でもキャロがプロテクションをすれすれで展開し、ギン姉の拳を脇に逸(そ)らしてくれる。
それで意識が定まり、マッハキャリバーで虚空を……生まれたウイングロードを握り締め。
「はぁ!」
その顔面に右ストレート。
咄嗟(とっさ)にガードされるも、ギン姉は後転しながら吹き飛んでいく。
でもすぐに着地し、息吹……た、助かった。
「キャロ、ありが」
でもお礼を言う前に、緑のエネルギー弾達が襲ってくる。
プロテクションを張って防御するけど、その間にキャロと……大きくなったフリードが、転送魔法で連れ去られた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
スバルさんの援護をそのまま……とはいかないみたい。
転送魔法で連れ去られた先は……あの子が、立っていた。
脇に地雷王を携え、無表情のままあの子は立つ。
「……キャロ・ル・ルシエ」
「ルーテシア・アルピーノ……お母さんを助けたい、その言葉に嘘はないんだよね」
「どうして、そんなことを聞くの」
「なら、これを見てほしいの」
それは出撃前、部隊長ら預かったデータ。……ゼスト・グランガイツについてのデータだよ。
「あなたはこう言っていたよね。十一番のレリックがあれば、お母さんは助けられる……自分にも心が生まれるって」
「……これは」
「結論から言うね。最高評議会<スポンサー>は既に掌握されている、データベースも押さえられているの。
これはその中にあった、ゼスト・グランガイツさんに関してのデータ。あなたには、どうしても見てほしかったから」
「フェブルオー……コード。嘘、こんなの」
「本当だよ。あなたは、聞いてないんだね」
よかった……驚いてはいるけど、いきなり攻撃はされない。
ルーテシアは静かに首を振る……私の話に応答してくれる。
「それで問題は、ゼスト・グランガイツさんに埋め込まれているレリックナンバー。よく……見て」
「え……」
そのナンバーも当然記録されていた。だからその項目を見て、彼女は目を見張る。
「レリックナンバー……十一」
「……一方的な情報だから、急に信じて……なんて、無理だよね。うん、それは分かってる……ごめん」
「どうして、謝るの」
「信じられないって分かっているのに、あなたを戸惑わせた。きっと、あなた達にはけじめが必要なんだ」
これは押しつけだ。そう思いながらも首を振り、モニターを消す。
その上でケリュケイオンを構え、息吹――。
”スバルさん、ごめんなさい……援護、できません”
”キャロ! 大丈夫なの!? 今どこ!”
”ルーテシア・アルピーノの前です。フェブルオーコードのことも伝えたんですけど、やっぱり”
”……分かった! その子と召喚獣の方はお願い!”
”はい”
スバルさんのブースト魔法……出力より効果時間重視でかけたから、三十分は持つ。
でもギンガさんの動き、全く加減がなかった。どこまで通用するか……ううん、信じよう。
「だから戦おう。局員として、同じ召喚師として、全力で相手をするから」
「……いいの? あなたの仲間は」
「大丈夫」
自然と……本当に自然と、そう言い切れた。だって、私達は。
「みんな、繋(つな)げたいものが何か……ちゃんと見えているから」
「……そう」
チームなんだから。
――フェイトさんにも、ちゃんと伝えよう。戦うなら、先に何かを繋(つな)げないと。
ただ家族だけを守って、引きこもる戦いなんて無意味……そう、伝えよう。
今のフェイトさんに、何を言うべきかずっと迷っていた。でも……ようやく見えた。
だから私は、ルーテシアは、お互いの確信を魔力に込め……衝撃波としてぶつけ合う。
地雷王とフリードも炎と雷撃を衝突させ……足場にしていたビルが、あっという間に崩れ去った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
笑いながら階段を駆け上がり、前から走ってきた二刀女を回避。
しかも無駄アクションで、背後に回り込んでくるから……もう余裕よ。
「これは天罰だ……アタシらを踏みつけてきた、てめぇら屑(くず)どもへの粛正だ!」
その上で振り返り、サイレンサー付きのガバメントを取り出す。
二刀女は虚空を切り裂き、驚いた顔をしていた。……やっぱり。
「作り上げるんだよ! てめぇら屑(くず)どもを根こそぎ消し去って」
そのまま怪訝(けげん)そうに歩いてくる二刀女を……その右腕を狙い、弾丸連射。
「アタシらこそが正義となる、新世界を!」
そこで気づくのはさすがだけど、それだけじゃあ回避はできない。
弾丸は奴の右腕を、肘を撃ち抜き、そのまま倒す。更に小規模の結界魔法で隔離。
”二刀女を撃墜!”
「……ディード!」
”あははははは、無様ねぇ! 正義とか言いながら、妹一人救えないんだから!”
でもあのエネルギーブレードによって、私の結界なんて容易(たやす)く破られる。
それでいい……そうして逃げる時間を稼ぎ、更に振り回していく。
「おい、ディード……しっかりしろ!」
「大丈夫、です」
”ち、まだ生きてるんだ。ゴミはゴミらしく、とっとと燃え尽きればいいのに”
「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
はい、そうして階段を駆け上がってくるので。
「アタシらはゴミじゃねぇ!」
グレネードを取り出し、投てき。
「ゴミはアタシらを踏みつ……!?」
いいタイミングで接近していた赤髪ショートの眼前に登場。
あとは簡単……目を見張ったところで、ガバメントでの射撃。
.45ACP弾がグレネードを撃ち抜き、派手な爆炎を上げる。
更にカートリッジを滑らせ、M16を乱射――。
爆炎を防いだオートバリア、それを多重弾殻射撃が貫き……いや、駄目だ。
奴は身を倒し、弾丸を回避。その上で左拳をかざし、こちらに光弾を発射する。
それも予測していたので容易(たやす)く回避しつつ、術式発動――そのまま適当な角へ入り込む。
……そして、滑らせていたカートリッジ――グレネードが爆発。
奴はこちらの弾丸防御にばかり目を向けて、足下のグレネードを見向きもしなかった。
結果直撃を食らい、爆炎が私の背後で生まれる。さて……足の一本くらいは吹き飛んだかしら。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ああもう、言わんこっちゃない! そう思いながら、倒れたノーヴェに近づく。
「ノーヴェ!」
「クソ野郎が……絶対ぶっ殺す!」
そう言いながら、ノーヴェは立ち上がる……血だらけの両足を震わせながら。
私達が装着しているスーツは、防弾・防刃性能も高い特別性。そのおかげで、原形は留(とど)めていた。
でもスーツは引き裂かれ、生足が見えた状態。直撃を食らったジェットエッジも、二機とも大破寸前。
これじゃあもうまともに走れない……! というか、ここまでやるっスか!
「落ち着くっスよ! ここは冷静に」
「ゴミと言われたんだぞ……家族が! チンク姉が! それを許せってのか!」
なので遠慮なく右フック……ノーヴェは口からも血を流し、吹き抜けの手すりに倒れ込む。
「……いい加減にするっス。こんな姿を、捕まったチンク姉が見たらどう思うか」
「なん、だと」
「きっと悲しむっスよ。チンク姉は私ら妹のこと、姉の中では一番可愛(かわい)がってくれたっス」
「だが……だがアイツらは、そのチンク姉を!」
「ノーヴェ、まだ分からないっスか!? アイツはノーヴェや私らより強い……強いんっス!」
もう認めるしかない――。
私ら戦闘機人は、ただ人より体が強いだけ。
それだけのアドなんっス。でもそれ以上の人間もいる。
GPO、古き鉄……そして、あのオレンジ頭の幻術使いも。
「何でだよ」
ノーヴェも分かってくれた……いや、分かっていたと言うべきっスか。
だって敗北したばかりっスから。でも認められなかった、その弱さを。
自分が弱いから、チンク姉を助けられなかった。守れなかった……だから目を背けていた。
そんな怒りを右拳に載せ、もたれ掛かっていた塀に叩(たた)きつける。
「何で、アタシらはこんなに弱いんだ……! アタシらは戦機! ドクターが作り上げた最高傑作……そうじゃないのかよ!」
「体の強さに甘えず、強くなる道を選んだ。アイツらはそういう連中っスよ。
とりあえず奴らの念話傍受は停止。煽(あお)られるだけっスから……ディードも」
「了解しました。ですがどうしましょう、ノーヴェ姉様がこの状態では」
「こっちも時間稼ぎっスよ。ディード、ノーヴェの代わりにフロントを」
ノーヴェに手を貸そうと思ったけど、自分から立ち上がった。……意地っ張りっスねー、全く。
「向こうの弾も、魔力も無限じゃない。加えてデータ通りであるなら、あの幻術使いは魔力量も平均レベル」
「消耗戦、ですか」
「量産型オーギュストとガジェットが潰され、魔導殺しという切り札が使えなくなった。
その時点で削り合いは必至っス。……オットー、AMFの完全キャンセル状態とかは」
『……ガジェットの数が足りない。この後には地上部隊の突破もあるので、これ以上の消耗は』
「なら、何とかするっス。じゃあいくっスよー」
ノーヴェには手を貸す必要もないので、ライディングボードを構えながら……慎重に歩き出した。
前はディードが請け負ってくれるので、ほんと安心。ノーヴェと違いツッコまないのもすばらしい。
「すまねぇ……」
そして最後尾を勤めるノーヴェは、小さく謝ってきた。
「だったらちゃんと指示を聞いてほしいっス。謝って済むミスじゃないっスよ、これ」
「すまねぇ……!」
それ以上は答えない。……私もダメージを受けているし、ディードも右腕が辛(つら)そう。
本当に、謝って済むレベルじゃない。だからこの場で許すこともできない。
それができるとしたら、あの幻術使いに勝った上で。さぁ……改めて勝負っスよ!
頭の勝負は苦手っスけど、ここからは油断なし! 同じガンナーとしても叩(たた)き伏せる!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
……不可視状態のサーチャーを、ノーヴェの後ろから尾行させる。
退避するとき、仕掛けた術式がこれよ。少なくとも幻影の維持よりは楽なので、これで情報収集させてもらう。
「さて……」
上層階の一室に陣取り、取得したマップデータを元に作戦組み立て。
もう煽(あお)る作戦は通用しない。でもね……それこそが狙いだったのよ。
”向こうはこちらの念話傍受、遮断したみたい。でも油断はせずに”
”了解……こちらライトニング03、ガリューと交戦中です”
”大丈夫なのね”
”VRトレーニングは散々やってきたので、問題ありません”
よし……エリオは宣言通り、ガリュー対策をしっかり積み重ねてきた。
なのはさんも私と同意見だったから、かなり念入りに教えている。
声も余裕っぽいし、鎮圧もそう時間がかからない。
相性の問題さえなければ、決して手ごわい相手じゃないのよ。となると――。
”スバル、キャロ”
”ギン姉、やっぱり操られているみたい……何も答えてくれないの!”
”もう少しだけ持たせてください! すぐ向かいます!”
”私もこちらが終わり次第……間に合えば、ですけど”
”お願い”
こういう状況把握も、念話傍受されていたら……難しかったしねぇ。
とにかくこれで、私を取り巻くルールが理解できたわ。
二刀女が回り込んできたから、こちらの位置は丸バレ。
時間稼ぎをしようにも、向こうが看破した通り……幻影も絡めた消耗戦、だしね。
となれば、向こうはどう出る? こちらを徹底的に消耗させ、三人で囲んで確実な攻撃。
でもそこに、付け入る隙(すき)がある。コイツらの弱点……それは、完璧だけどワンパターンな攻撃。
機械的なのよ、奴らの行動は。応用力もなく、状況を見通す力も弱い。
……となれば、打って出る。向こうが新しい手を出す前に……三人揃(そろ)って撃破よ。
そこで深呼吸――失敗すれば、間違いなく殺される。だから集中……私だって先に繋げたい。
こんなところでは終われない。まだ夢の途中なんだから。
(act.28へ続く)
あとがき
あむ「というわけで、スーパーティアナさんタイムVer2016も発動フラグが成立……なんだけど、ティアナさん」
ティアナ「……沢城みゆきさんと、斎藤千和さんって人が」
(あれはヒドかった)
あむ「それでフェイトさん達もアジト突入……って、あれはいいの!? 恭文ー!」
(……蒼い古き鉄、碇ゲンドウ的なポーズで考え込んでいた)
あむ「え、えっと……恭文」
ティアナ「アンタ、何やってるのよ」
恭文「……僕、やっぱり大きいオパーイが好きみたい」
あむ「またぁ!?」
ティアナ「今度は何! 誰のでときめいたのよ! お師さん!? フェイトさん!? ジャンヌ!?」
恭文「……スカサハ(アサシン)様」
あむ「あの人かー! ……あれ、アサシン?」
ティアナ「ねぇ、確かランサーじゃ」
キャス孤「実はちょっと違います」
(そこで良妻登場)
キャス孤「本日、八月十一日――奇しくもHGUC 百式(Revive)の発売日と同日、FGOにて水着イベントが開催されると発表されました。
イベント内容はもちろんのこと、配布サーヴァントとして【スカサハ(アサシン)】も出てきまして」
ティアナ「え、配布サーヴァントになったの!? てーかアサシン!」
恭文「それで、CMも公開されたのよ。そうしたら、そこに移るスカサハ様のカットが……すばらしすぎて!」
(蒼い古き鉄、自分の欲望に今更恐怖。
アドレス【https://youtu.be/qc82euSTM2I】)
恭文「あのたわんだ柔らかさ、大きさ……全てが、僕の心を捉えて放さない……!」
ティアナ「アンタ……いや、何も言わないわ。うん、アンタはやっぱり大きいのが好きなのよ」
あむ「まぁ、確かにこれはあたしも……って、恭文!? このイベント、ピックアップでタマモさんやアン・ボニー達も出るじゃん!」
キャス孤「はい。水着になって、私もランサー枠として登場します。ただ……アピール不足ですよねぇ。
私、シャツを着てますし。今回はあののとまみランサーに負けても仕方なしかなぁと」
あむ「あぁ、露出度だと……ねぇ。でも再臨すれば……戦闘する服装じゃないけど!」
キャス孤「そんなの、魔術的なサムシングでどうにかなるでしょ。実際そこのツンデレや同僚だって、制服ベースの服で」
ティアナ「それは、ツッコまないで……! というか、私達にツッコむなら、まずフェイトさんでしょ!」
(『し、真・ソニックはもうやめたのにー!』)
恭文「とにかく次のガチャ、本気を出す……百六十二個は溜まっているし」
ティアナ「……スカサハ様は配布でしょ」
恭文「いや、あの……タマモが」
キャス孤「御主人様、こうなったら水着でも構いません! 私を引いてくださいまし!」
ティアナ「……頑張りなさい」
恭文「うん……!」
(なお水着ピックアップは八月三十一日まで――更に”1”とついているため、更に追加されるかも。
本日のED:i☆Ris『Re:Call』)
恭文「思えば……こういうふうに新キャラが出て、引いたらどうしようって思っているときが一番楽しいかも」
あむ「ま、まぁ分からなくはない。それはそうと恭文、ドレイクさんが」
ドレイク「ついにレベル100か……いや、まだ種火が足りなかったね。でもありがとう、マスター!」
恭文「はい、聖杯転臨により、レベル100――上限一杯となりました。
ただ上がったのは上限だけで、実際のレベルは98。あとは種火を注ぐだけだけど」
あむ「でも恭文、ネットを見ると……一体をレベル100にするより、強めな☆4キャラをレベル90にする方が効率的とか」
恭文「最初から効率は求めない!」
あむ「あ、はい」
古鉄≪ドレイクさんは初めて当てた☆5サーヴァントですから、どうしてもやりたかったんですよね。
ただこれ以後は……迷いますね。スカサハ(アサシン)さんも気になりますし≫
恭文「まずはドレイクを上げて……話はそれからだ。でもレベル100が見えたドレイクは素敵だー!」
(おしまい)
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