小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
act.26 『出撃』
クロノも、騎士カリムも言うことを聞いてくれない。
母さんの言う通りにして、母さんの理想通りに事件を解決する。
これはそのために必要なのに。それで、私に量産型オーギュストを倒せ?
できるわけがない……! なのはが組んだ訓練プログラムも、まともにクリアできなかったのに?
あれでエリオも、キャロも……アルトやルキノ達ですら、私の言葉を信じてくれなくなった。
でも、頑張った……私、頑張ったの。ヤスフミと同じことができれば、きっと大丈夫だって。
でもVRトレーニングでも、実際の訓練でも、何度も『殺された』。
魔法を使うだけで殺された。
ただ速く動き、奴の先を捉えようとしただけで、殺された。
私の全力――真・ソニックでも殺された。絶対に勝てない……魔法を使う限り、勝てないの。
私は魔導師なのに。どうして……私は信じているのに。母さんの理想を叶(かな)えたいだけなのに。
そうしなかったら、母さんを救えないのに……! このままじゃ、殺される。
はやてに、友達に……信じていた仲間達に、殺される。私はみんなを信じていたのに、裏切られる。
ゼスト・グランガイツのように……人の心が分からなくなった、可哀想(かわいそう)なみんなに殺される。
そんなのは絶対に嫌だ……! 私、そんなに悪いことをしているの? ただお願いしているだけなのに。
母さんをこれ以上傷つけないで……母さんを苦しめないでって、それだけなのに。
『とある魔導師と機動六課の日常』 EPISODE ZERO
とある魔導師と古き鉄の戦い Ver2016
act.26 『出撃』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
機動六課はアースラから出動して、各所で起こっている馬鹿騒ぎの鎮圧に乗り出す。
私達は中央本部――市街地方面に向かってきている、ガジェットと戦闘機人達の相手。
ヘリで近くまで移動し、地上部隊が張っている防衛ライン前に出て、連中とドンパチよ。
なのはさん達空戦チームはゆりかごとやらの制圧に乗り出して、フェイトさんは現状待機。ただ……なぁ。
……よりにもよってスバルがいる前で、作戦会議のときに『戦闘機人達は全員破壊してもかまわない』って言ったのよ。
つまりそれ、殺せってことよ。当然スバルはショックを受けていたわ。
だって……その『達』の中にはギンガさんもいるのに。
「どういう、ことですか……どうして……ギン姉もいるのに!」
「……そのギンガが捕まったやろ、前回。フェイト隊長も古き鉄の救援がなかったら、間違いなく続いていた。
というか、アンタ達とヴィータについても、ゼスト・グランガイツやら量産型オーギュストやらに……ようは」
部隊長は”予測していた”と言わんばかりにさっと説明。
「いざってときは、自分の命を守れって話よ。今回の任務はそれぞれの持ち場で手一杯。
今までみたいに、隊長達の救援や支援は期待できんから。……ただ問題が一つ。この命令は元々、リンディ提督から出とる」
「リンディさんから!? じゃあ」
「そう……最高評議会の意図通りって考えていい」
それでようやく理解する……ので、閉じこもっていたスバルの頭にげんこつ。
「痛! な、何するの、ティア!」
「ちゃんと話を聞いてなさい。……ようは誰も殺すなってことよ」
「え……なんで!? だって、許可が出てるって……ギン姉達を壊してもいいって!
私達が普通じゃないから……普通だって認められるように、頑張ってきたのに!」
なのでもう一発……この馬鹿は! やっぱ重要なところを聞いてないし!
「痛いー!」
「馬鹿じゃないの!? それもリンディ提督……つまり、最高評議会に洗脳された人の命令!
それはそのまま、最高評議会の意図通りと考えていいの! 今部隊長もそう言ったから!」
「え……え?」
「言ったよ、スバル。……アンタはホント、人の話を聞かんなぁ」
それでスバルは正気に戻って萎縮。えぇ、ホント……ごめんなさい。
「というかアンタ、そんな調子じゃ……ギンガは絶対に助けられんで。命令がなかろうと、殺すしかない」
「そんなことありません! 私、頑張ります……必ずギン姉を」
「さっきも言うたやろ。”普通じゃない”と自分を一番怖がっているのはアンタ自身や。
……同時にそうやって、”普通じゃないもの”を一番否定しているのもアンタや。ギンガと、あの子達も含めてな」
「え――!」
「そやからGPOも、古き鉄も……よう知りもせんと安易に否定する。自分が普通であるために。
……アンタ、それで本当に助けられると思うんか。自分のことすらちゃんと認められん、弱い心で」
「ギン姉を……あの子達を、一番否定しているのは……壊したがっているのは、私?」
「そうや」
スバルは改めて突きつけられた矛盾に苦しみ、混乱し、涙をこぼす。
……まぁ”殺すな”って趣旨は理解できたし、これでいいでしょ。
「八神部隊長……すみません」
「えぇよ。アンタとスバルには、特に迷惑をかけてるしな。……とにかく、殺害許可については今言った通り。
スカリエッティのアジトを電子戦で陥落するためにも、主要メンバーは生きたまま捕縛が望ましい」
「そういう意味でも、僕達が前に出るんですね。……最高評議会を鎮圧したなら、そのネットワーク経由は」
「駄目みたいや。まぁ反乱を予定していたわけやし、そこは対策しとるやろ」
「そう、ですよね」
「でも……今回の許可とは別に、万が一”そうしなかったら、自分の身すら守れない場合”はえぇよ」
その言葉でつい騒然となるけど、私はすぐに理解した。……レスキューに配属されたとき、散々言われたことだもの。
「自分を守れて、初めて人が助けられる……ですね。手を取った相手ごと自滅するようなら無意味」
「そうや。その場合の責任は、全部うちが取る。……なのは隊長も、えぇな」
「……はい」
積極的に殺害を狙うのではなく、本当に万が一の場合は……実弾銃を使うようになってから、何度も考えたところよ。
とにかくこんな感じでミーティングは終了……なんだけど。
”八神部隊長、内密で一つ御相談が”
”なんや”
”現場への移動ルートなんですけど、変更したいんです。……あ、データは送りましたので”
”……ティア、これは”
”駄目でしょうか”
”いや……面白いな”
実はクロスミラージュと一緒に、早急に作ったプラン。
……え、それをなぜあの場で言わなかったかって? フェイトさんがいたからよ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
八神部隊長から許可をもらった上で、ミーティングルームを出る。
そうしてヘリのデッキにて、なのはさん、ヴィータ副隊長と改めて向き合う。
「八神部隊長も言った通り、今回は……今までで一番ハードになる」
「アタシも、なのは達も、お前らのフォローには入れねぇ」
そう言ってヴィータ副隊長は、肩を竦(すく)める。
「……って、今までもほとんど入ってなかったな。悪いな、相変わらず役立たずな隊長で」
「そんなことありません! 僕達、副隊長にも……なのはさん達にも、いっぱい鍛えてもらいました!」
「そうです! そこはあれです、むしろ辱められてトントンって感じに……ね、エリオ君! スバルさん、ティアさん!」
「えぇ……じゃないわよ、この馬鹿!」
「同意しろと!? 今この状況で僕達に!」
「ほんとだよ! てめ、どんどんずる賢い動物になっていくな!」
いや、なっているっていうか、本性を現しているというか……キャロ、やっぱり苛烈な経験をしてるんだなぁ。
自然保護隊での話を聞いていると、もう……食物連鎖の摂理が見えるというか。命へのとらえ方がひと味違うというか。
『降下ポイントまで、あと三分です!』
「でも、きっと大丈夫。……エリオが言った、彼らのやっていることは認められない……罪の意識すら持たないならと」
「……はい」
「キャロが言った。壊すのではなく、みんなと手を取り合い、話し合うことで変わっていきたいと」
「はい」
「ティアも、スバルも、同じ気持ちだよね」
「――はい」
それだけは、すぐに言えた。ただスバルは……部隊長から言われたことを引きずっているのか、まだふさぎ込んでいて。
「正直に言うと、今までの訓練が……この状況に足りているかどうか、なのはも自信がない。
ごめんね、頼りない教導官なのは……変わらずで」
「「なのはさん……」」
「でも、みんなが”変わりたい”と思うなら……それは、未来を望んでいるからだと思う。
他者に”変われ”と願うのが支配だけど、みんなが今持っている気持ちは……それよりずっと強い」
「精神論ですか?」
「にゃはははは……実はそうなんだよね。でもキツくてギリギリな状況で、最後にものを言うのは気持ち。
気持ちさえ折れなかったら、打開策もきっと見つかると思う。……だからスバル」
そうしてスバルは、なのはさんに肩を叩(たた)かれ……ようやく顔を起こす。
「スターズ分隊長として命令します。ギンガ・ナカジマ陸曹には、離反の疑いがあります。
これを迅速に確保……場合によっては、殺害しても構いません」
「え……!」
その上で冷静に、隊長として命令を下す。
「どうして、ですか。なのはさん……どうして」
「部隊長が仰(おっしゃ)った通りです。エリオ、キャロ、ティアナにも同じ命令を下します。いいですね」
『……了解しました』
「みんなまで、どうして……!」
「で、お前はどうする……局員なら、これが”普通”だ」
それでスバルは悟る。
そう、これが普通……さっきも言ったでしょ、自分の身を優先しろって。
そしてギンガさんが裏切った可能性は、確かに存在している。
少なくとも洗脳され、利用されているのは確か。こちらを本気で攻撃してくるに決まってる。
だったら私達も本気で……だから、あえて突きつけている。
これがスバルの守ろうとした”普通”だと。ならどうするのか――。
スバルがそれに遵守するなら、”普通”でいられる。でも、そうじゃないなら”普通じゃない”ことになる。
でも前者の場合、ギンガさんの救出は諦めることになる。少なくとも絶対に助けるとは言えない。
スバルは両拳を振るわせ……瞳を揺らし、それでも。
「……や……す」
「聞こえないよ。ちゃんと……私達全員に言って」
「嫌、です……!」
「これは命令……普通のことです。あなた達の実力では、それが精一杯」
「嫌です!」
そうしてスバルは、ようやく腹を決めた。
「助けます……ギン姉も、あの子達も止めます! 誰にも殺させません!」
「ナカジマ陸曹は、管理局離反の疑いも」
「それでも止めます! もし本当に裏切ったなら、罪も償ってもらいます!
私は、嫌です……壊して終わりなんて、どこにも続かない!
私は! 先に繋(つな)いでもらったから! だから続けます……今度は私が!」
……スバルは繋(つな)いでもらった。
空港火災のとき、なのはさんに助けてもらって、先へ進んだ。
それはバトンでもあった。だからスバルは、改めて確かめ、選んだ。
普通かどうかじゃない……そのバトンを、自分も先に繋(つな)ぐ。
壊すためではなく、止めて、先に繋(つな)ぐための戦い。スバルは苦しみの中、それをようやく思い出した。
「ん、よくできたね……偉いよ」
だからなのはさんも笑顔で、スバルを思いっきり抱き締める。
「命令は撤回しないよ。これは呪(のろ)いだから」
「なのは、さん……でも」
「私は大丈夫。スバルが、みんなが……ちゃんと戻ってきてくれるなら、それだけでいい」
そうしてスバルはなのはさんを抱き返し。
――はい……!――
声にならない声で、もう一度決意を告げる。
……その上で私達はヘリへと乗り込む。
「……きっと、スカリエッティ側の戦闘機人達も同じなんでしょうね。特にあの、赤髪ショート」
「え」
座席に座りながら、涙を払うスバルにそう告げる。
「そうしなきゃ『生きられない』と思い込んで、自分を否定して……エリオ、アンタもそれが腹立たしいんでしょ」
「……はい」
「私も同じです。だからきっと、意味なんてない……こんなことをして、壊した先なんて」
「だったら、余計に止めなきゃ……だね」
スバルはあの子が言っていたことを、あの怒りを思い出し、改めて拳を握った。
「だからティア、あの」
「銃器は使うわよ。それで場合によっては殺す」
コルトガバメントを取り出し、最終チェック……弾丸もタップリ用意した。
量産型オーギュストとタイマンする自信はないけど、凌(しの)ぐくらいはなんとか……なるかなぁ。未(いま)だに自信がない。
「アンタは突っ走る。私はその手綱を握る……正反対でちょうどいいのよ、私達は」
「……そうだね。ん……その通りだ!」
決意を新たにし、私達は空を飛ぶ。
なお運転はアルトさん……ヘリのライセンス、持っていたんですって。
そうして予定通りと言いたいところだけど、ちょっとアドリブ。
今まで散々驚かされてきたから、今度はこっちがプレゼントをしましょう。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
スバル達は出撃。
シグナムさん、リインも中央本部へ向かう。
最高評議会のデータが確保できたので、レジアス中将との癒着も確定的。
なので拘束&保護が狙い。……ゼスト・グランガイツも出てくるだろうしね。
どうしてもユニゾン戦闘になる。恭文君がいればとも思うけど、無茶(むちゃ)は言えない。
「恭文は瞬間詠唱・処理能力を使って、最高評議会のデータベース、更にスカリエッティのアジト掌握も手伝ってくれてる」
「それなら一瞬で終わりそうだけど……あ、それで生体認証か」
「最高評議会はスカリエッティ達の動きもあって、楽にできたそうやけどな。
……多分ゆりかごには、四番以前のナンバーズもいる。その確保は忘れんように」
「「了解」」
『隊長陣出撃準備――四番ハッチ、開けます!』
シャーリーの声で開くハッチ。そこから飛行魔法で飛び出し、空の中を駆ける。
私達の担当はゆりかご攻略部隊……地上の危機ということで、苦しい言い訳をしつつお手伝いです。
『フェイト・T・ハラオウン分隊長を除く、機動六課隊長・副隊長一同――能力リミッター、完全解除』
そこで騎士カリムの声が響く――。
『みなさん、どうか』
「お任せあれ!」
「おうよ!」
「迅速に解決します!」
同時に押さえつけられていた魔力が吹きだし、一気にバリアジャケットを形成。
今回は初っぱなからエクシードモード。フルで戦えるなら……何とかなる!
――悲しい出来事、理不尽な痛み、どうしようもない運命。
そんなのを嫌って、認められなくて、撃ち抜く力が欲しくて、私はこの道を選んで。
同じ思いを持った子達に、技術と力を伝えていく……そんな仕事を選んだ。
この手の魔法は、大切な者を守る力。思いを貫き通すために、必要な力。
「……待っていて、ヴィヴィオ」
待たせちゃったけど、必ず……必ず、助けるから。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
さて……それぞれの進行方向、行動は変わらずか。ナノでアルトさんにお願い。
「アルトさん、ポイントF40で下ろしてください!」
『え!? で、でも』
「いいから!」
アースラを出発してからすぐ、アドリブのために地上へ降ろしてもらう。
既に避難勧告が出された区画なので、道路に着地しても問題はなかった。
「ティア」
「普通にヘリで行っても、間違いなく邪魔されるわよ。一週間前のことを考えるなら……ここはアドリブ」
そうして八神部隊長から『こっそり』許可をもらった、秘密ルートを説明。
展開したモニター、そこに映るのはミッド地上の地図……そして、迷宮のごとし地下通路だった。
『地下から行くの!?』
「えぇ」
『無茶(むちゃ)だよ! それで間に合うわけが』
「ルートならあります」
そう、ルートならある……着陸ポイントと、ここを一直線で結ぶ最短ルートが。
地下迷宮のラインに、白の光が走る。その中央部分には、私達がよく知る場所もあった。
「調べてみたけど、列車も通常線路から通れるそうなのよ。荷物運搬用のカーゴもそのまま。
それがちょうどこの真下にあって、今なお稼働状態」
『列車……まさか、ティアナ!』
「前に通った、使われなかった地下鉄!」
「あの、幻の駅ですね!」
「八神部隊長の許可は取っているから」
『えぇ! ちょ、私は何も聞いてないんだけど!』
そりゃあ情報漏洩(ろうえい)を防ぐための処置なので、部隊長に言ってほしい。とにかく開いた搭乗口から、スバル達とさっと降りる。
「それに乗ってここから二十分……ヘリで行くより早く、奴らの進行ルート上に出られるわ。その上で奇襲をかける。キャロ」
「任せてください!」
『みんな……ああもう、気をつけてね!』
「「「「はい!」」」」
アルトさんには申し訳ないけど、すぐにダッシュ……まずは地下の線路へ行く!
荷物運搬用のカーゴを出して……忙しくなるわよー!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
目が覚めてからちょうど二時間――。
ここは聖王教会の医療施設らしい。
ただひたすらに天井を見つめながら、考えていた。
「……ザフィーラの旦那」
「なんだ」
「俺ぁ、どれくらい寝てたんですかい?」
「一週間だな」
「そりゃまた、随分ぐっすりですねぇ。旦那はどうしてここに」
「お前に付いていてほしいと、アルトに頼まれた」
納得した……アルトの野郎、いつからそこまで気遣えるようになったのか。
まぁ、それも当然か。……ズタボロだしな、俺の体。包帯・ガーゼだらけで、笑っちまうくらいだ。
なので起き上がろうとするが……痛い。だが、泣き言も言ってられない。
「六課のヘリなら、アルトがいるぞ」
「足りないでしょ。てーか、それだけじゃないです」
ベッド周りを見渡し、棚に置いてあったストームレイダーをチェック。震えながらも、確実に手を伸ばす。
「戦う、つもりか」
「えぇ」
「何のためにだ。……いろいろと聞いた」
それで動きが止まる。ただ、それでも……身体は動こうとする。
誰だよ、話したのは。シグナム姐さん……は、ないか。
なら、アルトだな。間違いなくアルトだ。あの野郎、おしゃべり過ぎるだろ。
「お前はもう、前線の人間ではない」
「んなの、関係ありませんよ」
ゆっくりと……痛む左手を伸ばして、ようやくストームレイダーを掴(つか)む。
掴(つか)んで引き寄せ、手の中で優しく握り締めた。
「俺は身内相手に、情けないミスをしたことがありましてね。
……俺ぁそんとき、逃げたんです。いえ、今も逃げ続けてます」
「……妹が人質に取られた、だったな。そしてお前は狙撃担当」
「現場についてから知って、俺だけじゃなく他の奴らも大慌て。もう変更が利かなかった。
何より……俺の手で、妹を助けたいと思っていた。それができると、驕(おご)っていたんです」
そう、驕(おご)っていた。その結果。
「片目を……撃っちまったんです」
非殺傷設定ってのは、便利だが絶対的な万能さはねぇ。
目もそれなりに強度がある部位だが、直撃を食らえば損傷もする。
スコープ越しに見ちまったんだよ。妹の目に、俺の魔法が当たる瞬間――。
走る鮮血、痛みを堪えきれず、泣き叫ぶ妹。
さすがに驚く犯人……なお犯人は、他の奴らがキッチリ仕留めてくれた。
人質を撃ち、無価値にした上で確保……と言えば聞こえは、やっぱり悪いな。
それが妹となれば……それなりにうるさかったよ。だがそんなの、関係なかった。
スコープ越しの光景に比べれば……ほんと、微々たるもんだった。
「それが原因で、ヘリパイロットに転属」
「元々ヘリも好きでしたから。……五〜六年前の話です」
「今でも眼帯を着けていたな、彼女は」
「……見舞いに来ていたんですか」
「二日前に……彼女から聞いた」
アルトじゃなかったのか。つーか……いや、俺のせいでもあるな。
前線の仕事じゃないから、普通はこんな怪我(けが)を負うはずもない。
あとは……俺が、アイツを避けているせいだ。
アイツは俺を責めることも、嘆くことも……何一つしていないってのに。
いや、だからこそ避けてしまっている。アイツの気丈さが、とても重くのしかかって。
「随分心配していたぞ。事故以来、お前が目を合わせてくれなくなったとも……離れて暮らしているそうだな」
「……アイツの眼帯を見るたび、思い出すんです」
「だがお前は、まだ相棒<ストームレイダー>を捨てていない」
「中途半端と笑ってください」
「……お前と、以前のように仲良くしたいと、悲しげな顔で話していた。
それともう一つ。再生治療の目処(めど)が立ったそうだ」
「そう、ですか」
当初から話だけは持ち上がっていた。
ただラグナが小さいせいもあって、手術に耐えられるかどうか――そこが問題でな。
再生治療は便利だが、それなりのハードルもある。資金関係はまぁ、いろいろな流れで問題なかったが。
だからもう、眼帯は必要なくなる。……だがそこから、リハビリが待っている。
新しい目と今までの目は、すぐに馴染(なじ)まないだろう。それも……俺の罪だ。
「だがお前にとっては、何も変わらないな」
「えぇ……旦那」
「なんだ」
「俺、今度もまた逃げたんです。撃つのが怖くて、怖くなって。
何とかしなきゃいけない現実から、俺ぁ逃げたんです」
その結果が、これだ。俺は、フラグブレイカーになれなかった。
まぁ、生き残った時点でブレイクしてるかもしれないけどよ。
……相棒を握りしめたまま、ベッドから降りようとする。
うまく動かない身体を、必死に動かしながら……ゆっくり。
「目が覚めてから、いろいろ考えたんっすよ。そりゃあもう、短い間にいろいろと」
「そうして考えて、お前は何を見いだした」
「そんな大層なもんじゃないですよ。ただ……ここでもう一度逃げたら、俺は前に進めなくなる……それは、嫌なんです」
「……そうか」
だからたとえ一撃でも……たとえ、一瞬でも、前に進む。
そのために戦う……六課の裏事情なんざ関係ない。
隊長達の罪も、関係ない。つまるところ俺は、どこまで行っても男だった。
「仕方あるまい。……行くぞ」
「旦那?」
「我も同じだ。……数えるべき罪が、成すべきことがある」
「……へい」
「私的には、大ありなんだけど?」
その声が響くと、俺と旦那は身を震わせる。
なので入り口を見ると……白衣を着けた、笑顔の鬼がいた。
「シャマル先生!? いや、あのこれは……!」
「全く……回復魔法を重ねがけするから、ちょっと待ってて」
「へ!?」
「ただしリハビリ期間は伸びるから、覚悟しておいてね?」
その後押しするような言葉に、つい旦那と顔を見合わせる。
「……いいんですか?」
「本当は止めるつもりだった。でも、ちょっとだけ話を聞いちゃってね」
シャマルさんはクラールヴィントに軽くキス。
すると魔法が発動し、俺達の体を輝きが包み込む。
翡翠(ひすい)色の……シャマルさんの魔力だ。それだけで体の痛み、軋(きし)みがやんわりと消えていく。
「シャマル先生、ありがとうございます」
「助かる」
「いいわよ。……それじゃあ、三人で頑張りましょうか」
「うっす」
戦端はもう開かれている。隊長達も出撃したそうだし……今からなら間に合うだろ。……派手にパーティといこうじゃねぇか。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
……フェブルオーコードの解析については、また時間をかけるしかない。
だがもし恭文の予測通りであるならば……母さんには、相応の処置が取られると思う。
去年のように、不問に処すだけならいい。単なる辞職でもいいだろう。
だがもし、それ以外の場合……いや、まずは現状に対処だ。
『第一艦隊、第二艦隊、後三時間でミッド地上に到着します。市街地防衛のフィールド生成を最優先』
これは……レオーネ相談役が士気する艦船『アゴラステア』からか。
『迎撃艦隊配置完了まで、あと三時間半』
三時間半……微妙なところだな。戦力は整え、転送で送るとしても……くそ。
分かっていたのに……それでも僕達は、まだ突き抜けられないのか。
『そっちの方は司書長や恭文君に調べてもらってたんだったよねぇ』
「えぇ。ただ司書長は謹慎にしたので、代理のものを立てました」
『謹慎?』
「……オーバーワークなので、強引に休ませたと考えていただければ」
『あぁ……あれでしょ、公開意見陳述会があったから』
「それだ」
まぁ、散々無茶(むちゃ)振りしていた僕が言うのもアレだが……時期が悪かった。
公開意見陳述会の影響で、無限書庫の仕事が増えていたんだ。ようはその前に片付けたい案件絡みでな。
それでユーノが率先して処理していた上、そこにゆりかご……恭文がいれば、まだ楽もできたんだが。
副司書長からも親告を受けたので、一日だけではあるが、完全休養を命じたんだ。さすがに過労死は望むところじゃない。
……右手で通信モニターのパネルを操作し、無限書庫に通信を繋(つな)ぐ。
するとモニター内に新しいウィンドウが展開。
そこに映ったのは、疲れ果てたユーノ……おい、待て。
「ユーノ、お前……!」
『何も、言わないで。とりあえず六課への連絡事項だけは、僕からと思っていたら……これなんだよ!
しかも市街で緊急避難勧告も出ているから、予定していたマッサージもキャンセルだよ!
あはははは……あははははははは! 僕に恭文君張りの戦闘力があるなら、今すぐ奴らを血祭りに上げたい!』
「落ち着け! ミゼット提督の前だぞ!」
『だったら修行をサボらなきゃよかったのに』
『がふ!』
恭文の鋭い指摘で、吐血する司書長。
……まぁバーサーカー状態じゃあなくなったので、よしとしよう。
ミゼット提督もあきれ果てているが、許してほしい……奴は、それだけ疲れ果てているんだ。
『と、とにかくクロノ』
「分かっている。この件が終わったら、君や司書達に休みを……だろ?
ローテーションになるが、それは確約する。ボーナスも弾もう」
『助かるよ。じゃあ……まずはこれを』
リアルタイムで送られてきた情報が、新しいモニターに映し出される。
『聖王のゆりかご……さすがにかなり少なかったけど、データ発掘完了だよ。今送る』
「マップまで……ありがとう。こちらから艦隊全てと前線に送信する」
『それで、あの船の危険度は……いかほどのものかね』
『極めて高いです。先史時代の古代ベルカ時代ですら、ロストロギア扱い。
失われた世界、アルハザードからの流失物とも言われています』
「……アルハザード」
我が家にとっては、余りいい思い出のない名前だな。
だが改めて、向き合うべき真実だ。
なのはとフェイトの出会い――その中でひも解かれなかった答えなのだから。
『それは最高評議会のデータを絡めると……ほぼ証明、なのかな。恭文君、その辺りでレポートなどは……あぁ、今届いたものかな』
『えぇ。プロジェクトFについても、元々はゆりかご内部に存在した生体技術の応用。
もっと言えば……ほら、古代ベルカ時代の王様って、近くの女性にクローンを仕込んでいたって』
「……それが本来の基盤だったのか」
『プレシア・テスタロッサはやっぱり、ゆりかごについて知っていたんだ。だからこそ確信があった。
アルハザードが……ゆりかごを生み出すだけの技術都市が、存在していたと』
「プレシア・テスタロッサが凶行に及んだ理由。僕達が十年前、解けなかった謎の答え」
『戦闘機人についても同じみたいです。聖王オリヴィエは伝承によると、魔導事故で両腕を失っていた。
それを義手で補い、更に操作魔法によって機敏に動かしていた。元の腕以上に』
「足りない臓器や部位を補うのではなく、より強化するための改造手段……なるほど」
ゆりかごは聖王専用の破壊兵器というだけじゃない。そういった技術の保管庫でもあったわけか。
なら近年の魔法文化発展についても、その影響が大きいのでは。
スカリエッティに数十年単位で解析をさせていたくらいだ、それならば――。
「ならユーノ、ゆりかごはどうすれば止まる。軌道上に到達されれば、艦隊だろうと止められない」
『次元跳躍攻撃や、次元空間での戦闘もOKだからね。いや、それ以前に地表への精密爆撃も可能になるから』
「そこは資料通りか」
『マップを見て。まだ詳細ルートは判明していないから、大まかな構造説明になっているけど』
ユーノの言う通りにマップを見ると、先端部に光点が生まれる。
『まず船の一番先にあるのが、王の間。ここに聖王を配置して、ゆりかごは動きだす』
「機動六課に送られてきた映像か」
『なので基本手段は二つ。聖王が命令するか、その動力炉を破壊するか』
「……鍵の聖王<ヴィヴィオ>は、スカリエッティと戦闘機人が操作しているかもしれない」
僕も映像を確認したが、あの痛がりようは尋常じゃない。
ゆりかごの起動による負荷……だけならまだいいが、もし精神操作に近いものがされていたら?
いいや、僕ならそうする。実際ヴィヴィオは、『どうして』と言っていたじゃないか。
付け入る隙(すき)はある――ヴィヴィオの疑問を元に、『裏切られた』と結論づけるなら。
『じゃあ、スカリエッティを逮捕するのは』
『問題はどこにいるか。アジトの方ですけど、僕とヴェロッサさんで掌握しているエリアにはいません』
『いるとしたら最深部だけど、もしかすると脱出した可能性もあると』
というか、僕がスカリエッティならどうする?
その条件を理解していないか? そんなはずはない。
それならば隠れるところは二箇所に絞られる。
「スカリエッティがいるとしたら、ゆりかご最深部かそれ以外――。
ユーノ、聖王を……玉座から引きはがすのは駄目なのか。操作を受け付けない距離まで」
『どこまで引きはがせばいいか、それが問題だね』
『どういうことだい。いいアイディアだと思うけど』
『例えばキーとなる人間を、玉座から下ろしただけでいいのか。
それともゆりかごから半径何メートルないし、何キロの範囲まで移動する必要があるのか。
若しくは一度リンクしたが最後、キーが死ぬかゆりかごが破壊されるまで動き続けるか』
「……そういう話か。現段階の資料では」
『載っていない。というか、そこを記載するとは思えない』
その辺りが不明なので、確実性に欠けるのか。まぁ、そうだよな。
自嘲――決戦兵器でもあるし、同時に弱点でもある。それを載せるとは思えない。
「なら動力炉はどうだ。マップによると、玉座とは正反対……エンジン部と直結みたいだが」
『そういう事態に備え、ゆりかご自体が周囲の魔力素を吸収。動力に変換する機能もある。
ただ進行速度は格段に落ちるだろうし、両方に対処するのが一番とは』
「動力炉の詳細は」
『記述されていない。……もしかするとだけど、レリックが使われている可能性も』
「それか……!」
そうだ、奴らのレリック収集も、ゆりかご浮上という目的に繋(つな)がるのなら……十分にあり得る状況だ。
だとするとこれまで発見された以上の数が?
……軽い寒気に震えながらも、揺らぎそうな意識を再度高める。
そうだ、ふらついている場合じゃない。それでは……!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
みんなを連れて、地下レールウェイへ。
人気のない駅を走り、関係者用通路を駆け抜け……見つけた、運搬用のカーゴ!
先頭車両へ乗り込み、手早く操作……古いタイプだけど、問題なく扱える。
なおいわゆる搬入口でもあるため、反対車線に乗れば地上にも繋(つな)がっている。この広さなら車でも十分いけるわね。
「ティア、電車なんて運転できるの?」
「そりゃあもう。近所に住んでいたお兄さんが、電車の車掌さんだったもの」
「それでできるんですか!?」
「す、凄(すご)いです……!」
「くきゅー!」
キーは刺さってないけど、こういうのはピッキングでちょいちょいと……!
「しかもピッキング!?」
「その隣に住んでいたお姉さんが、鍵屋さんだったのよ」
「でもこれ、電子キーですよね。そんなアナログな方法で」
エリオの疑問は、響く駆動音で解消される。よし……直接接触によるハッキングは上手(うま)くいった!
「嘘ぉ!」
「覚えておきなさい、エリオ。アナログはデジタルを超越できるのよ」
「ティア、凄(すご)すぎ……!」
「さぁ行くわよ!」
というわけでマスコン(マスター・コントローラー)を押し込み、加速――。
線路表も表示し、指タッチで路線を指定。
それに合わせ各部の線路が切り替えられ、予定通りのルートが開通する。
「ティアさん、本当に手慣れてますよね! まさか運転したことがあるんですか、電車!」
「そりゃあもう。地球のゲームで【電車でGO!】ってのがあってね。お兄さんの家でよくやってたから」
「さすがティア! もう怖いものな……し」
あれ、どうしたのかしら。三人とも……というかフリードまで、ガタガタ震えながら落下した。
「「「……ゲーム?」」」
「えぇ」
「え、実際に……じゃなくて」
「あるわけないでしょ、そんなの」
「で、でも車掌のお兄さんが」
「そっちは話だけだって。実際に運転なんてさせたら、大問題よ?」
スバルとエリオが馬鹿なことを言うので、手を振って訂正。するとどういうことだろう。
「「「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」
「くきゅー!」
三人と一匹は揃(そろ)って大混乱。運転席でぎったんばったんと大騒ぎし始めた。
「ちょ、やめなさいよ! 埃(ほこり)! 埃(ほこり)が立つから!」
「下ろしてぇ! 私、走る! 全力で走るからぁ!」
「馬鹿! 決戦前に魔力を無駄遣いするつもり!?」
「命の無駄遣いよりマシだよ!」
「どういう意味よ、アンタァ!」
あ、まさか……あぁあぁ、私が操縦できないとか、そう思っているわけですか。あははは、馬鹿だなー。
「笑ってる場合!? ティア、やめよう……これだけはやめよう! 一生のお願いだから!」
「アンタは何回一生があるのよ」
「今度こそ一生に一度! 本当のお願いだからぁ!」
「スバルさん、気持ちは分かりますけど、落ち着いて!」
「ティ、ティアさん……止め方は! 止め方は分かりますよね!」
「当たり前でしょ。あのね、まずこれがマスコン」
レバー式のスロットルを指し、みんなの不安を解消するように説明。
「これで出力を制御しているのよ。で、こっちの回転式レバーがブレーキ。
なのでマスコンをちょーっと下げれば」
そんなことならと、一旦速度を落としてみる。マスコンをぐいっと引っ張ったところ――。
なぜか、根元からへし折れた。
「……」
「「「……」」」
……左手に持ったマスコンを見せるように、みんなへ振り返る。するとどうしてだろう……キャロが転送魔法の詠唱に入っていた。
「逃げるなぁ!」
「逃げてませんよ! 逃げる準備をしていただけですよ!」
「そうです! ティアさん、誤解しないでください……僕達は! 準備していただけなんです!」
「同じことでしょうが! しかも私を置いて……私だけを置いて! アンタ達、それでもチーム!?」
「だって、それ……止まらないよね! もう無理だよね! ティアが馬鹿力を出すからぁ!」
「アンタにだけは言われたくないわよ! だから……ブレーキもあるって言ったでしょ!?」
なのでブレーキを掴(つか)んで、恐る恐る引いてみる。
……が、今度はブレーキレバーも基部から外れた。それも、派手に音を立てて。
「「「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「……キャロ! すぐに脱出!」
「うん!」
「だから逃げるなぁ!」
「逃げてませんよ!」
「そうです! 誤解しないでください……それよりこれ、加速してませんか!?」
……エリオの言う通りだった。
マスコンも、ブレーキも折れているのに、加速を続ける――あれ、これってやばくない?
「そ、そっか……これ、元から壊れていたのね。あはははは、私のせいじゃない……私のせいじゃないー!」
「ティアが現実逃避し始めた!? お、落ち着いて……そうだ、転送魔法! 転送魔法で逃げれば」
「でも……あの、一つ疑問が」
そこでキャロが挙手。
「これ、私達が降りた後はどうなるんでしょう」
……そこで、全員が沈黙。降りた……あと? そりゃあまぁ、暴走し続けて……!
「ティア……ティアァ!」
「ちょ、やめて……私は馬鹿力なんて出してないの! エリオ、キャロォ!」
「「先輩方にお任せするであります! では!」」
「くきゅー!」
「「逃げるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」
「逃げてませんって!」
「そうですよ! ほら……先輩や上司って、面倒事を押しつけるために存在しているって、お昼のテレビでやっていて!」
「「そんなの最低だぁ!」」
ど、どうしよ……発案者としては、何とかしなきゃ駄目よね! 何か……何か方法はぁぁぁぁぁぁぁぁ!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『制圧戦の必要が、あるねぇ』
現実への困惑は、ミゼット提督の静かな声で断ち切られた。
こういうとき、この方が僕達以上の……歴戦の勇士だと理解する。
「えぇ。さすがにこれは、恭文のハッキング能力でも止められない」
『止めるにしても、向こうのシステムに侵入しないと。いずれにせよそれができる場所までの突入が必要だ。
ねぇクロノ、アインへリアルを使うのはどうかな。それならまだ』
『やめといた方がいいですよ』
僕も同意見だったが、恭文がすかさず止めてきた。
……レジアス中将の犯罪は立証された。それならアインへリアルの運用についても、こちらで一時的に預かることは可能。
それを悪用しての攻撃も考えられるからな。そのために恭文とGPOのフジタ補佐官が主導で、システム関係から確保もしている。
だから問題ないと思っていたが。
『アインへリアルのシステムを洗ったら、ハッキングされた形跡があるんです。もしかすると、何か仕掛けられている可能性が』
「お前やフジタ補佐官でも分からないのか」
『何せ規模のデカいものですから……というか、こんなシステムは触れるのも初めてで』
『撃った途端、向こうの仕掛けたプログラムが発動……狙いが全然変わる場合もあるんだね』
『すみません』
「いや、ここは安全策で行こう。済まないがアインへリアルについては、引き続きシステム監視を。
それとこちらからシャーリーに連絡しておくから、協力してくれると助かる」
『分かりました』
こちらも改めて、フジタ補佐官に頼まないと……残念ながらシステム関係は、僕も専門外。
恭文やフジタ補佐官に頼るしかない。……もっと勉強するべきかと、軽く頭をかいてしまった。
……話を戻そう。あの超巨大戦艦に対しての制圧戦は、本当に危険だ。
戦力も足りない上、高濃度のAMFも、量産型オーギュストの出現も予想される。
だが外部からの破壊も無理だ。アインへリアルが使えず、個人戦力だけとなれば。
それなら真龍クラス……とも思うが、そちらはルーテシア・アルピーノの押さえでもある。今は回せない。
「しかしマズいな……どう見積もっても、戦力が足りない」
『機動六課のみならず、地上の戦力も分散されていますしね。ミゼットさん、本局からの増援は。
アジトの方にも人出が欲しいんですけど。システムを掌握した上でなら、突入も可能ですし』
『あと二時間はかかる。それに艦隊到着も』
そこでミゼット提督がこちらを見やる。……そうだ、そもそもの前提がある。
「……ゆりかごの軌道上到達に間に合わない』
『あの、それぞれの到着時刻は』
「……艦隊到着予想時刻は今から三時間二十七分後だ。そしてゆりかごの軌道上到達予想時刻は、三時間二十分」
『七分差――マズいね。ゆりかごからの高々度爆撃が可能になるよ』
『狙いを定めるだけでもOKだから、こちらを振り回し、防衛戦に徹すれば……奴らにとっては楽なゲームか』
結論から言おう。制圧戦を仕掛けても、一時間半程度では絶対に間に合わない。
それに制圧しても、人員が脱出するための時間も必要。
ゆりかごはどちらにしてもこのまま破壊……その巻き添えにはできない。
そもそも司書達が懸命に調べてくれた、情報の信ぴょう性にも疑いが出てしまう。
スカリエッティが何らかの方法で、ゆりかごを改造していたらどうする。
とにかく本局の艦隊、及び増援部隊をアテにした戦略は一切通用しない。
現場にいる機動六課と、地上部隊の人員だけでこの状況を乗り越える必要がある。
その駒で七分という時間を覆せなければ、ミッド地上に軌道上爆撃の雨が降る。
いや、向こうが『狙いを定めた』と言うだけで、ミッドの住人全てが人質に取られるか。
もう、僕には何もできない。あとは現場を信じ、急ぐだけ。
……馬鹿か、僕は。
できることがあるだろ。何のため、この椅子に座っている……もっとだ、もっと頭を働かせろ。
それをしてこなかったから、容易(たやす)く利用されてしまったんだ。それを戒めとするなら……!
「恭文」
『何でしょう』
「スカリエッティと直接話して……いないが、声をかけられたのは犯人一味以外だとお前だけだ。
あのとき……ホテル・アグスタで、彼と”戦った”人間と見込んで質問する。スカリエッティは、どこにいる」
ミゼット提督やユーノが息を飲む。
だが、僕は疑っているわけじゃない。あのとき、スカリエッティはこう言っていた。
――……あぁ――
恭文がホテル・アグスタで突撃した際、確かにスカリエッティは、歓喜の声を上げたんだ。
恭文は奴らの妨害をすり抜け、召喚師の首を取りに行った。
だがそれを読み切り、ギリギリのタイミングでガジェットを盾にし、それを防いだ。
――……!――
――この人に、読み勝った……ですって――
――最高の勝負だったよ……サンプルH-1!――
そして奴は、最高の勝負と言ったんだ。恭文との”対決”を楽しんでいた。
……その喜びは、恭文がよく見せるものだった。
強敵との戦い……命を賭ける状況、恭文は楽しんで、笑いながら迎え撃つ。
なら分かるはずだ。あのとき二人は、確かに勝負を楽しんでいた。
命がけの追いかけっこを――一歩間違えれば、破滅に向かう時間を。
恭文も僕の意図を読み取り、神妙な顔で視線を泳がせる。だが、すぐにそれは定まった。
『……奴はアジトにいます』
「どうしてそう言い切れる」
『有力なのはゆりかごですよね。もし”それ以外”だとしたら、奴はアジトにはもういない。
でも……ここまで念入りに計画したんです。最初から奴は、この盤面のゲームマスター。最高評議会も間抜けに踊らされていただけ』
そうだな……僕達はあの男が仕掛けたゲームの参加者。
最高評議会すらも、分かりやすい悪役としての配置だろう。
事の主導はとっくの昔に、彼らではなくスカリエッティに移っていた。
……なるほど、その視点が抜けていたな。
「スカリエッティがゲームマスターとして、どこでこの状況を見たいか……そういう話か。
これがゲームならば、彼も遊びたいはずだ。だが今まで、それはできなかった」
『でもこれでようやく、奴は一つの駒として降り立つことができる。あの宣誓は、単なる解除コード流布だけじゃない。
奴が駒として、ゲームに参加するという意味もあります。……そして奴は僕と同じく』
その上で楽しげに笑う……また出た、戦うのを楽しむ悪いクセが。
『この戦い(遊び)にハマっている』
『だから駒の一つとしてこちらを待ち受け、打破する? でも危険すぎるんじゃ』
『そうなんですよね……だから、何か一つ見えていない。僕が何人か半殺しにしたから、戦力もガタガタだろうし』
「あり得るな。地上に残れば戦闘機人達と同じく、戦力分散に役立てる。
たとえ捕まったとしても、ゆりかごさえ軌道上に到達すればいい」
そうだ……向こうの目的は時間稼ぎ。そのための戦力分散なのは、何度も言われていることだ。
だったらゆりかごに籠城はしない。現に機動六課もバラバラに動いているからな。
そういう意味でも、恭文の言うことは筋も通っていた。だとすると、その保険はなんだ。
『そこであと一つ……ジュエルシード絡みかな? それ以外となると』
……そこで嫌な寒気が走る。そうだ、ついさっき……そういう話をしたじゃないか!
もう一つあるじゃないか! スカリエッティなら用意できる保険が!
「恭文……マクガーレン長官に連絡を! すぐ捕縛した戦闘機人を調べるようにと!」
『戦闘機人……あぁ!』
「そうだ!」
『すみません、一旦外れます!』
「頼む!」
恭文は通信を切り、マクガーレン長官達に連絡……本当にすまん。
本来なら僕がやるべきことだが、ゆりかごの情報送信もあって、今は手が……!
あとはシャーリーにも連絡し、アインへリアルの監視をしてもらおう。
途中でぶっ放されたのでは、本当に……どうしようもない。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
……時を待っていた。
拘束はされた、でも神は逆転の機会を与えてくれた。
だから私はそれを振るう……密(ひそ)かに、魔法陣を展開して。
「フェイト・T・ハラオウン分隊長、能力リミッター」
「おい……何をしている!」
見張りが気づく前に、それをクリック。
「完全解除――!」
結果プログラムは発動。アースラにいるであろうフェイトも、その力を発揮できる。
そう……神の後継者として、育ててきた力を。
「おい、何をしている!」
「さぁ、行きなさい……フェイト」
男達に取り押さえられても、私は笑い続ける。もう遅い……引き金は引かれた。
「そうして殺すのよ、あの男達を……私達の理想を汚す、おぞましい兵器達を!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
現状待機……死の恐怖に怯(おび)えていると、突如私の魔力が増大する。
ううん、戻っていく……押さえつけられていたものが、戻っていく。
その解放を通じて感じる。母さんはやっぱり、正しかった。
でも今、不当な手で捕まっている。それもあの男の仕業だ。
最高評議会が、管理局そのものが悪だなんていう、恐ろしい情報操作に惑わされている。
違うのに……全部あの男のせいだ。私達は、管理局は常に正しい。
そうじゃなかったら、管理局を信じてきた母さんはどうなるの?
そんな母さんから引いたヤスフミが、他のみんなが正しいことになっちゃう。
そうしたらもっと傷つく……母さんは、本当に壊れてしまうかもしれない。
だから駄目なんだ、管理局は正しくなくちゃいけない。そうじゃなかったら、信じてきた人達が可哀想(かわいそう)だもの。
だから走る……解放された力のまま走り、非常用ハッチを開き……強い風の中、空へと飛び出した。
そのままセットアップし、スカリエッティのアジトを目指して飛行開始。
打ち合わせ通りなら、シスター・シャッハももう脱出しているはず。
正義が歪(ゆが)められるなら、私達二人がそれを成すんだ。そうすれば、成果を出せば、みんな目を覚ましてくれる。
私達は……母さんは正しいんだって。そう信じることが、受け入れることが、母さんの心を癒やしてくれる。
そうだ、私は今度こそ……家族を守らなきゃいけない。そのためにもあの男は、私が処断する。
母さんに育てられ。
母さんに導かれ。
母さんの望む、正しい大人となった私が――。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『クロノ、もしかして』
「念のためだ。……これだとアジト突入についても、より慎重にならなくては」
『そうした方がいい。でもよかったよ……向こうが徹底しているおかげで、フェイトを単独で突っ込ませることも』
そこでアラームが響く。
「六課からの緊急連絡?」
『部隊長からかい』
「いえ、グリフィスです」
通信を繋(つな)ぐと、慌てた様子のグリフィスが登場。
『アースラより、クラウディア艦長クロノ・ハラオウン提督へ――緊急事態の中、申し訳ありません!』
「大丈夫だ。現状はどうなっている」
『隊長陣はゆりかごの周辺空域に到着! 地上部隊と協力し、戦線を開いています!
フォワードも現場へ進行中! ですが……テスタロッサ・ハラオウン分隊長が出撃を!』
「……なんだと。部隊長の命令は」
『部隊長も、我々も、指示は一切していません! ハラオウン提督の意向だと切って捨てられて!』
「それは、多分母さんの方だ……!」
だが、そこでまた別の通信……今度は騎士カリムだった。
「騎士カリム、どうされましたか」
『クロノ提督……申し訳ありません! シャッハが勝手に出撃を!』
「どういう、ことですか」
『見張りの騎士達を振り払い、飛び出してしまって! しかも……手引きした者が』
「誰ですか」
『……リンディ提督の部下です』
母さん……本人は捕まえたのに、手はずを整えていたのか。
『拘束し、事情聴取を行っていますが……リンディ提督に心酔していて、全く話になりません』
「……示し合わせたようですね。実はアースラからも、フェイト隊長が出撃を」
『なんですって!』
だとすると行き先は決まっている。スカリエッティのアジト……クソが!
フェイトもリミッター解除ができないだろうに……いや、それなら何とか止められるかもしれない。
現場にいる方々へも、もちろん恭文にも連絡した上で。
『マズい……すぐにフェイト隊長を止めてください! 彼女のリミッターは既に解除されています!』
「は……!? ですが、あなたの管理者権限は!」
『私ではありません!』
そこで騎士カリムから、データが送られてくる。
僕達後見人が持っている、リミットリリース用のプログラムだ。
当然事が終わればかけ直すべきものなので、今も隊長達としっかりリンクしている。
……確かにフェイトとバルディッシュのリミッターは、解除されていた。
しかも解除者名についても記載されている。ついさっき……その名は。
「解除者名は、リンディ・ハラオウン提督」
『解除タイミングはついさっき……ミゼット提督、リンディ提督の拘束は』
『あぁ……待って。今報告がきたよ。拘束していたんだけど、リミッター解除したらしい。
気づいて係の者が取り押さえたけど、後の祭りさ』
『で、でもクロノ、リンディ提督はリミッター解除の権限を持ってないんじゃ!』
「持っていた。発行者は……最高評議会」
『え……!』
……読んでいて、血の気が引いた。
あの馬鹿が、フル出力で飛び出した? だとすると、話は大きく変わってくる。
「グリフィス、すぐアジト攻略組に通達してくれ! 馬鹿二人を全力で止めろと!」
『はい! あと彼には』
「恭文とアコース査察官には、僕から連絡する! ……二人の掌握範囲内なら、まだ止められるはずだ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
最後の一撃は何とやら――そんなキャッチフレーズを謳(うた)ったゲームがある。今ちょうどそんな気分だった。
物言わぬ脳髄達は気にせず、改めてドゥーエに向き直る。
「さて、今度は名乗らせてくれよ? 俺はサリエル・エグザ」
≪そして私はそのパートナーデバイスの金剛です。ドゥーエ女史、お見知りおきを≫
「えぇ、一応……初めましてね。本当の顔で会うのは初めてだから」
「あー、そういや以前は変装だったよな」
「変装というのとはちょっと違うわ」
ドゥーエは俺を見ながら、反時計回りにその場で一回転。
すると驚いたことに、ドゥーエの姿が白い光に包まれながら一瞬で変化。
陸士制服姿のハラオウン執務官になった。
「私のIS――ライアーズ・マスクは完璧な変身」
しかも出している声もハラオウン執務官のものだ。
もう一度ドゥーエが回転すると、次はやっさんになった。
「これを使えば、どんなセキュリティやシステムもごまかせるの」
もう一度ドゥーエは回転して、元のスーツ姿に戻った。でもそのドヤ顔はやめた方が良いと思う。
「納得した。で、俺なんかに教えてもいいわけ?」
「いいのよ。だって私のISを見破ったのは、あなたが初めてだもの。……何だか不思議ね。
アサシンとしては失格極まりないのに、今……とても嬉(うれ)しいの」
嬉(うれ)しそうな様子のドゥーエは、深く美しかった。
「そう。ならその御褒美として早速デートだ。御予定は?」
「これから中央本部へ行って、レジアス中将とゼスト・グランガイツを殺すわ」
またぶっちゃけるな。察するに……口封じか。
ただドゥーエはおどけるように、お手上げポーズ。
「でも、あんまり意味がなくなっちゃったのよね。あなた達がデータを全部送っちゃうから」
「あ、アレ嘘」
「……はぁ?」
≪正確には現在ハッキング作業中です。これがなかなか大変ですよ。おかげで主のサポートがほとんどできません≫
「坊やは?」
『データのダウンロードは時間がかかる……古事記にもそう書かれている』
あ、出てきたデータは片っ端から送ってもらってるから、まぁ……半分正解ってとこだけどな。
ゼスト・グランガイツ達のデータを送ったのは本当。絶対必要だと思ったから、そこは最優先で。
「なら、私の仕事にも意味が出てくるわね」
ドゥーエが右手を引き、半身に構え。
「いいえ、その前に優先するべきことがあるわ」
爪の先を俺に向けた。
笑みを浮かべながらも、先ほどと違う。
視線は、殺気に満ちあふれたものとなった。
「サリエル・エグザ。そして金剛。あなた達を……抹殺するわ。今のところ真相に一番近いわけだもの」
≪蒼凪氏もいますが≫
「でもここを制圧すれば……いろいろと変わるでしょ?」
『美女の言うことに間違いはない。古事記にもそう書かれている』
古事記はどんだけ万能なんだよ……! あぁ、でも変わるよな。
ハッキングじゃあやっさんには勝てないが、単純に端末を『ぶっ壊す』だけでもいい。
さすがにレベルを上げて、物理で殴る方法は想定外……古事記にもそう書かれている。
「スカリエッティは負けるぞ? ゆりかごもきっと潰される」
「でしょうね」
主であるはずの男の敗北をあっさり認めたので、口をあんぐりと開けてしまった。
「我が主は、負けるわ。……ただしあなた達との闘争に関してだけ。
もうゆりかごが浮上された時点で、主の目的は達成されているの。
たとえ途中で撃墜され、全員捕縛されても同じ」
「どういう意味だ、それは。てーか目的達成してるならやり合う必要も」
「いいえ、あるわ。例えそうだとしても、任された仕事はきちんとしないと。
そうしなかったらアフターファイブになんて行けないし、素敵な出会いに身を任せることもできないわ。
……一般的な会社で考えてみてほしいの」
そこでドゥーエは俺を警戒しながらも、また笑った。
「上司に話も通さずにお先しちゃう部下なんて、最低だと思わない?」
「――なるほど、そりゃ道理だ」
一応でもケジメは必要らしい。金剛の切っ先をドゥーエに向け、腰を落とし半身になって構えた。
「なら仕事はここで強制的に終わってもらおうかな。それで朝までお楽しみコースだ」
「また強引ね」
「強引さ。目の前のいい女を逃がすような真似(まね)、したくないんでね。
……やっさん、防衛装置での攻撃はやめろよ」
『分かってますよ。というか、僕もそろそろお仕事だ』
……どうやらやっさんも、戦うときがきたらしい。
『ドゥーエさん、ありがと。……本当にきたよ、ゼスト・グランガイツ』
「どういたしまして」
『じゃあサリさん、また後で』
「おう」
応援もなく、通信はサクッと切れる。……だが逆にプレッシャーだ。
後でまた会える――そう期待をかけてきたからな。
「空気が読めるいい弟弟子ね」
「読み過ぎて、逆に追い込むのが悪いクセだよ」
「でも後悔しないかしら。私、こう見えても仕事人間だし」
「そりゃあいけないな。余暇を楽しむことは、人生の大事な要素だぞ?」
なんて言いながら互いに飛び出すタイミングを計る。そして……なぜか二人とも笑顔だ。
どうやら互いにこの緊張感がたまらなく楽しいらしい。そして神様に感謝もしている。
二年――決して短い時間じゃない。ただそんな中で俺達は、いろいろなことを乗り越えてこの場に立った。
そうだな、なんで戦うのかももうイミフだ。ただ強いて言うなら……きっと二年前の続きなんだろう。
俺達はそうしなければ先に進めない。今を始めるためにまず、戦うことで過去を終わらせる道を選んだだけだ。
「それじゃあ」
「始めましょうか」
そして俺とドゥーエはこの場で再び――二年前の続きを演じることになった。
スカリエッティも最高評議会も、ゆりかごさえも関係ない。俺達が俺達であるために力をぶつける。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
中央本部制圧のため、ただ前へ……ただ前へ走り続ける。
ガジェット達を引き連れて、サーティーンを盾にして。
「ほら……とっとと走れよ、裏切り者!」
チンク姉をやられた恨みもあるので、走りながら軽く膝蹴り。
……すると顔面への肘打ちが飛び、派手に転げてしまう。
「が……てめぇ、何すんだぁ!」
「失礼……敵の襲撃かと思いましたので」
「んだとぉ!」
「こら!」
更に後頭部をウェンディのボードでどつかれる。
い、痛ぇ……これは、マジで痛くて、頭を抱えてしまった。
「てめぇも何すんだ!」
そう言いつつ振り返ると、アイツは浮遊したまま。
……コイツ、飛んだまま頭に突撃してきたのかよ! 死ぬだろ、アタシが!
「編隊を乱すなっス。あと、八つ当たりで無駄な時間を食うのも禁止」
「なんだと! 元はと言えばコイツがチンク姉を」
「……頭ぶち抜かれたいんっスか」
ウェンディが不愉快そうににらみ付けてくる。
『その通りですよ、ノーヴェ。これ以上問題を起こすなら、アジトに戻ってもらいます』
しかも生まれたばかりの妹にまで……!
コイツらは、腹が立たないってのかよ。
アイツらに……チンク姉を傷つけた奴らに!
だったら話しても無駄だと立ち上がり。
「ち……分かったよ!」
「そうそう、それでいいんっスよ。というわけで罰として、ノーヴェが先頭っス。サーティーンは後ろに下がっていいっスよ」
「了解」
言われた通りに、アタシが先導を勤める。本当に、腹立たしい……!
全部アイツらのせいだ。アイツらが……アタシ達の生きる世界を奪い、踏みつけてきたアイツらが!
だったら殺してやる! GPOの奴らも、機動六課の奴らも……当然古き鉄も!
アタシならやれる! もう負けない……家族のために戦うアタシには、正義がある!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ノーヴェは駄目っスねぇ。頭に血が上ったままで、冷静な戦いができない。
はぁ……まぁセインやドクターにも頼まれたし、何とかフォローしてみるけど。
「オットー、ノーヴェのフォロー、少しは手伝ってほしいっス」
『できる範囲でしたら。作戦行動に問題が出るのも嫌ですし』
「十分っス。なら差し当たっては」
『……待ってください。これは……転送です! 止ま』
……言われなくても止まる……もう遅いけど。
なぜか私達の前に、桃色の魔法陣から現れる列車。
古びたそれはハイウェイ上に着地しつつ、至近距離でそのまま突撃。
車輪で地面をガリゴリ削り、火花を走らせながら……真正面から、私達に突っ込んできた。
その運転席に見えるのは、あのオレンジ髪やタイプセカンド達。
しかも今、先導はノーヴェだった。サーティーンならともかく、ノーヴェには。
「……ノーヴェ!」
向こうが加減する理由なんて、一かけらもなかった。
――ノーヴェと私達に銃口が向けられ、アサルトライフルによる実弾射撃が始まる。
電車が迫る中、弾丸はそれよりも早く迫る。その様子を見て、ようやく理解する。
古き鉄だけじゃない。コイツらも、まともじゃない――!
(act.27へ続く)
あとがき
恭文「というわけで、ティアナ脱走ルート(同人版)ではできなかった伏線回収もしつつ、ナンバーズ達が列車と対峙(たいじ)して終わり。
ここからは決戦編と称し、みんなで頑張ります。……僕の活躍はまだ!?」
あむ「我慢しなって……!」
(蒼い古き鉄、今回は瞬間詠唱・処理能力を生かして、各所のサポートに走り回っています)
恭文「お相手は蒼凪恭文と」
あむ「日奈森あむです。……ギャンスロットやZZIIの出荷日! でもまだ届いてないー!」
恭文「おのれもAmazonだしね。この暑さで買い物に行くのも……辛い」
(リアルは地獄)
あむ「でもギャンスロット、ギャンのパーツは全て入っているとか……ネットで見た程度なんだけど」
恭文「黒く塗ろう。又は紫か白に」
あむ「Fateからは離れよう……! それはそうと、ティアナさん達が」
恭文「危ないことをするなぁ。電車で突撃なんて」
あむ「アンタが言うな!」
(電車でGO!)
あむ「でもこれ、早速捕縛云々(うんぬん)をすっ飛ばしているんじゃ」
恭文「事故ってあるから」
あむ「あっさり言い切ったし!」
恭文「それにほら、そうして各個撃破すればいいわけで……ね?」
(『そう、そうなのよ! 計画通り!』)
あむ「嘘つけぇ!」
恭文「とにかくドンパチだ……ここからはドンパチだ! 楽しいねー!」
あむ「そして楽しむなぁ!」
(蒼い古き鉄、これでも一番嫌いなことはドンパチだそうです。
本日のED:[iksi:d] 『情熱』)
やや「リマスターに合わせて、ティアナさんもどんどん”あぶない”人になってる……!」
ティアナ「気のせいよ……えぇ、気のせいだから」
りっか「やっぱりとまとFSリマスターとかやったら、恭文先輩とあぶない魔導師をやるんですか!」
ティアナ「なんで期待してるのよ、アンタは!」
りっか「無印、またまた、もっと、もっとも、リターンズ……そしてフォーエヴァー!」
ティアナ「それ、最後は(ぴー)になるでしょ!」
恭文「えー、もうかれこれ十数年前の映画ですが、ネタバレを避けるため規制音を入れております。御了承ください」
(おしまい)
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