小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説) act.9 『遭遇』 新暦七十五年七月三十日・午前十時三八分――。 前回のあらすじ――ティアナ(車)をぶっ壊しました。 アレはとある会絡みで調達したレンタルなので、新しい車を調達します。 車が届くまで、しばらくかかりそうなので……中央本部近くのカフェへ入り、モーニングセットを頂く。 中身はトーストとアイスミルク、ゆで卵というシンプルなもの。 でもトーストがね、二センチ以上もある分厚いやつなんだよ。 いわゆる【コメダ珈琲】系な、雰囲気のいいお店――カウンターに座っていると。 「なぎ君……幾ら何でもやりすぎだよ! 護送車の尾行って!」 現場に駆け込んできたギンガさんが、注文もせず隣でがやがや。 それは気にせず、アイスミルクを一口――。 目が覚めるような味わいと冷たさに、つい頬が綻ぶ。 「しかも、犯人の関係者も一刀両断って! ひき逃げって!」 「頭を狙ったんだけどねぇ、予想以上にデカくて」 ギンガさんにそう答えつつ、店内のジュークボックスへ。せっかくだから何か曲でもかけよう。 コインを入れて、スイッチを何度か押し、ミュージックスタート。 ≪The song today is ”A Man Like You(Needs A Woman Like Me)”≫ 朝らしい軽快な音楽が流れ出す中、席に戻ってゆで卵をもぐもぐ。 ……うん、塩気が利いていい感じだ。 ≪身長百七十……八十はありますからねぇ≫ 「そういうことじゃなくて……どうして非殺傷設定の魔法を使わなかったの!? それならノックアウト」 「あぁ、それは無理。すぐ逃げられただろうから」 小型の虫――ヒロさんから聞いたインセクトによる、触媒転送、だからなぁ。 最初から時間稼ぎのつもりだったんでしょ、あれ。なら今後出てくるよりはって話だ。 「それよりギンガさん」 「とにかく、無茶(むちゃ)しすぎだよ! それでくつろがないで!? ちゃんと話を聞いて!」 「ギンガさん」 「お願いだからもうちょっと、私達と歩調を合わせて」 ……仕方ないのでギンガさんを蹴り飛ばす。 すると二時半方向から、突如魔力刃が飛んできた。 それはギンガさんがいたところを通過し、僕が持っていたトーストも一刀両断。 そのままカウンター内のコーヒーポットを両断する。 その破砕音には構わず、席から立ち上がり、一回転しながらFN Five-seveNで射撃。 潜んでいた小男の頭、首、心臓を撃ち抜き、地獄へと行ってもらう。 『きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』 「全く……この店は何」 更に前転し、上から襲ってきた小男その二、その三の襲撃を回避。 奴らはククリナイフでカウンターを、そして僕が座っていた席をぐちゃぐちゃにするものの。 「誰がこんなサービス、頼んだよ」 再度の射撃で急所を撃ち抜かれ、そのまま血を流し倒れる。 「しかし三つ子か……アルト、コイツらって」 ≪――賞金首にいましたよ。通称切り裂きポークビッツ……賞金額、生死を問わず四百万。あと≫ 「な、なぎ君……何してるの! 質量兵器は」 立ち上がるギンガさんに振り向き、銃口を向ける。するとギンガさんが慌ててしゃがみ込むので、すかさず発砲――。 ギンガさんの背後から飛びかかっていた、四人目の小男。その額を撃ち抜き、絶命させる。 ≪四つ子です≫ 「一人頭百万? 安い人生を送ってたねぇ。それで、コイツらは何」 ≪殺し屋です≫ 「……殺し屋?」 ≪はい≫ なるほど……というわけでまた振り返り、背を取っていた大男に一発お見舞い。 奴は右手をかざし、砲撃魔法を形成中。ただしそのスフィアが撃ち抜かれ、爆発。 殺傷設定の魔力が暴発し、その衝撃で奴の手が、体が焼かれ、その体も窓を突き破り飛び出していく。 これはもしかしなくても、余計なことに首を突っ込んだ感じ? 覚えがありすぎて笑えないわ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ≪The song today is ”A Man Like You(Needs A Woman Like Me)”≫ 後の処理をギンガさんに押しつけ、僕は待ち合わせ場所へと急ぐ。 そしてせっかくの音楽が台なしにされたので、デジタルミュージックで購入。 携帯をプレイヤー代わりに、イヤホンで楽しんでいた。 ……その途中喉が渇いたので、自販機の前に立つ。えっと……あ、駄目だ。 ≪どうしました?≫ 「今はお茶って気分じゃないや」 やっぱ今はミルクだミルク……そう思いながらまた歩き出すと、突如殺気が生まれる。 慌てて身を翻し、FN Five-seveNを抜く……が、攻撃の必要はなかった。 襲撃者たる和服のおじいちゃんは、高速移動魔法を使用したまま、自販機に頭から衝突。 どうやら僕が急に移動したので、方向転換……を試みて、結局失敗したらしい。 その結果首の骨をへし折り、自販機もろとももつれ込みながら、進行方向上のビル外壁に衝突。 全身を自販機のスクラップに突き刺されながら、苦しげに絶命した。 「うわぁ、嫌な死に方だなぁ」 ≪フェイトさんに警告しておきましょう≫ 「だね」 まぁこれもギンガさんに任せようか。FN Five-seveNを仕舞(しま)い、また歩き出す……でもそこで足を止め、踵(かかと)を返す。 「やっぱ連絡しないと駄目だよね」 ≪駄目ですねぇ。現場保護も在りますし……って、後ろ≫ ……もう気づいた。突如として突っ込んできた車が、電柱に激突。 運転席からモヒカン兄ちゃんが飛び出し、さっきのおじいちゃんの如(ごと)く、ビル外壁とディープキス。 頭を割り、更に首をひしゃげさせながら、短そうな生涯を終えた。 ≪……この人達も、賞金首リストにいましたよ。あっちのおじいちゃんは首狩り伊能。 こっちのモヒカンはチョッパー・ライダーです≫ 「それも殺し屋?」 ≪モヒカンはただの暴走族ですよ。あなた、知り合いですか?≫ 「こんな世紀末な奴がいたら、忘れようもないよ」 ほんと、僕の周りでばたばた死んでほしくないんだけど。 何、コイツらも殺し屋だよね。明らかに僕を狙ってるよね……と言ったところで。 「あれ、財布だ」 落ちていた財布を拾うため、軽くしゃがみ込む。 ……そこで殺気が二つ――前後から迫ってくる。 なので黒い皮財布を拾いつつ、対処……の必要はなかった。 後方の奴は僕の胸元に、刀型のデバイスを突き出しながら突撃……が、しゃがんだ僕に躓(つまず)いて、そのまま吹き飛んでしまう。 結果前から迫っていた、赤髪ショート・ボンキュッボンな女と正面衝突。 ソイツが放った、殺傷設定の弾丸を顔面に食らいながらも――。 手に持った刀で女の胸と心臓を貫き、そのままもみ合いながら転がっていく。 そして二人とも絶命……また、僕の周囲で死体が増えた。 ≪……あなた、今日は運がいいですね。息をするように反撃してますよ≫ 「どいつもこいつも迂闊(うかつ)なせいじゃない?」 ≪あなたが死に神なせいでしょ≫ 「そんなオカルト認めません!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 後の処理をやっぱりギンガさんに押しつけ、僕は待ち合わせ場所へと急ぐ。 なお『どうして処理している間に、死体の数が倍増してるの!?』とか嘆いていたけど、そんなのは僕の管轄外だ。 「隊長……一体どこの世界に三百万弱の車を、砲弾としてぶっ放す馬鹿がいるんだよ」 その新しい車を届けにきたのは、鬼畜法人撃滅鉄の会の副会長。 中央本部の入り口近く――副会長は新しい車に乗ってやってきていた。 「副会長も前にやってなかった?」 「俺は車じゃなくて、トレーラーだ!」 「同じことだよね! ……で、なんでおのれがわざわざ」 「隊長、ヤバいことに首突っ込んでるでしょ」 新車のボディに右膝をかけながら、副会長はあきれ顔。 「見ての通りだけど」 「そっちじゃない。……隊長を殺そうって依頼が、あっちこっちでされてる」 ……そこで、とても気になる情報を出してきた。 「あとはサリエルの旦那と、ヒロリスの姉御も」 「あっちこっち?」 「あっちこっち」 「あぁ……だから九人ほど襲ってきたんだ」 「もう返り討ちにしたのかよ!」 「でも奴ら、情けないよ? 僕が攻撃する必要もなく、ちょーっと歩いているだけで見当違いの方へ飛んで、自分から首の骨を折るんだから」 「ただの自殺じゃね!? ……でも油断はするなよ? それと同時期、隊長達の個人データを、誰かが引き出した形跡もある」 その情報で、身が引き締まる思いだった。 だって、それなら納得できる要素があるもの。 昨日……ゼスト・グランガイツが、僕の転送範囲を読んだ上で逃げていたこと。 それも個人データの引き出しゆえと考えれば、まぁまぁ分かる。 「それと風見鶏……いるだろ、隊長のお友達。そいつが死神の鎌連中と協力して、鎮圧してるっぽいけど」 「そうなんだ」 「聞いてないのか」 「風見鶏、シャイだから。女性店員さんとも目を合わせられないのよ」 どこからか『そんなわけあるか』という声が響くものの、気にせず話を進めましょう。 「でも理由はなんだろ……やっぱり僕達が」 ≪カッコ良すぎること、ですかね≫ 「それしか考えられないよね」 ≪考えられませんね≫ 「……それ以外にあるだろ、絶対」 しかし殺しの依頼かぁ。正直思い当たるフシが多すぎて、もう嫌になるレベルだわ。 「それ、ヒロさん達には」 「伝えてる。……依頼主は不明。どうも仲介に仲介を重ねているらしい。こっちでも調べてみるので」 「お願い」 「でもしばらくの間、身を隠した方がいいぞ。あと、例の機動六課……隊長が聞いてきた件だけど」 そこで副会長が、タブレットを渡してくる。それを受け取り、新車の背にもたれながらチェック。 ふむ……一日でよく調べられたなぁ。さすがは鬼畜法人撃滅鉄の会。 「機動六課の設立、ミゼット提督達も間違いなく関わっている。非公式なのは確かみたいだけど」 「……副会長はどう読む?」 「レリック、ガジェット絡みについて、機動六課上層部はより詳しい情報を持っている。 少なくとも事件が、単なる広域次元犯罪で終わらない――そう思えるだけの確証は。 ここからは完全な推測だが、スカリエッティが関わることも予測してたんじゃ」 「はやてやクロノさん達もそれは知った上で、部隊員を引き込んだ。目的を内緒にして……SSS級の危険任務に」 「しかも相手は魔導師の天敵揃(ぞろ)い。はっきり言えばまともじゃない。 うちやGPOみたいに、いろいろアウトローな組織ならともかく……その上」 そこで副会長の眼光が、刃の如(ごと)き鋭さを見せる。 いつもは飄々(ひょうひょう)としていた顔つきは、命を奪う鎌にも似た、絶対零度を放つ。 「今日の襲撃も含めて、それらの動きは事前察知が可能。 奴らが止めなかった以上、六課は更に地雷部隊と化す」 「やっぱ、そうなるよね」 ≪奴らも奴らで、見過ごした理由がある。それが単なる嘲りではない場合……≫ 「隊長……ヤバい橋はいつものことだけど、機動六課は信用するな」 その上で僕に、なかなかキツい枷(かせ)を付けてくれる。 「部隊に入るのも、手柄を譲るのも……明確な協力体制も絶対に駄目だ。それだけは守ってくれ」 「108もヤバい感じかな」 「言う必要、あるか?」 「ならそうするわ」 タブレットの情報はコピーした上で、副会長に返しておく。 ……中身ははやてとミゼットさん達、それに後見人も交えた、極秘会談の記録。 さすがに会談内容はさっぱりだったけど……でも、馬鹿だねー。 会談に使った料亭、撃滅鉄の会が運営しているとこなのよ。おかげですぐ分かっちゃった。 「それで今日から身を隠す」 ≪ミッドからも避難した方がよさそうですね≫ 「俺達の処理が終わるまでは、そうしてくれ。……姉御達に頼まれて、パーペチュアルへの渡航手続きは進めているから」 「お願い」 でもパーペチュアル……修行しろってことかぁ。納得しつつも、今日の寝床を考えておく。 ……せっかく調達してくれた車も、すぐ返すことになりそうだなぁ。 「しかし、ミニクーパー1275Sって」 「足回りとエンジンは弄(いじ)ってるから、ティアナよりすっ飛ばせるぞ」 そう……副会長が持ってきたのは、ミニクーパーだった。 BMC時代のレプリカで、かなりカスタムされている。 しかもカラーリングがシティーハンターバージョン。 「ボディとガラス、タイヤも防弾製だね。それもかなりガチガチ」 「今度は戦闘機人如(ごと)きじゃあ揺らがないぞ。……ただ、砲弾にしないでくれよ? いや、マジで頼む」 「極力気をつけるよ」 「極力って言うなよ……!」 まぁ副会長達にも心配をかけているし、慎重にいこう。 そう決意しながら車へと乗り込み、中央本部を出た。 ≪The song today is ”A Man Like You(Needs A Woman Like Me)”≫ そう、ドライブにはふさわしい音楽が必要……そうして発進した途端。 「死ねやクソチビがぁ!」 とか言いながら、腹巻きしたおっちゃんが出てきたので、遠慮なく強度テストの実験台にしました。 『とある魔導師と機動六課の日常』 EPISODE ZERO とある魔導師と古き鉄の戦い Ver2016 act.9 『遭遇』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 六課の駐機場入り口で、日陰に入りながらネット検索――。 ハイウェイの件が気になったので、道路情報を調べたけど……問題なし。 渋滞も局所的だし、これからの行き先には引っかからない様子。 それに安堵(あんど)し、ジャケットに携帯を仕舞(しま)い込んだ。 そうして脇で整備されている、赤いスポーツバイクを見やる。 ちょっとちょっと、これって最新型よね。しかもかなり高いやつだって出てる。 ヴァイス陸曹の私物らしいけど、乗り心地良さそう……並列二気筒って試したことがないし。 「ヴァイス陸曹」 「なんだー」 陸曹は私の脇で、赤い車体をいじいじ。これを貸してもらえるなんて、ちょっと申し訳ないような。 「これ、本当に貸してもらっても……かなり高いですよね」 そう、とても気軽に言われてしまった。それがネット検索に繋(つな)がり、今おののいているわけで。 「安心しろ、保険契約はきちんとしてる。プロテクターは」 「自前のオートバリアです。FI4000」 「結構いいもん使ってるじゃねぇか。お前の給料じゃあ高いだろ」 「その分サポートはしっかりしてますから」 「こっちも似たようなもんだ」 それには自嘲しか返せない。……命を守る道具に、糸目は付けない――訓練校に入ってから教わったことよ。 「そういやよ、時々お前らの訓練を見てるが……お前はほんと変わらないよなぁ」 「そうですか?」 「シングルでも、コンビでも、チームでも、動きが全部同じ。 臨機応変さに欠けるっつーか……もうちょっと仲間や上司を信頼したらどうだ」 あぁ、そういうお小言か。少し困りながらも頭をかくけど。 「せっかく腹割って話したんだ。なのはさんの過去も聞いたろ」 「聞きましたけど」 「シグナム副隊長からも言われただろ。お前がいなきゃ、失敗を取り返せないってさ。 ……もうそれでいいじゃねぇか。仲間として、また新しくやり直せば」 「仲間じゃありませんよ、あんな人達」 タイヤの圧力を確かめていた、ヴァイス陸曹に断言。すると派手にズッコけるわけで。 教導方針も説明されたわね。シャーリーさんから涙ながらに。 ……まぁ、ガン無視したけど。あの人が過去にどう傷を負ったかなんて、正直興味がない。 そもそもあらかじめ説明もされてないし? なのに察しろなんて無理よ。 なのでそう断言したら、顔を真っ赤に泣きじゃくり……嫌われたなぁ、私。 「六課(うそつき)は徹底的に利用し、切り捨てるって決めたので」 「はっきり言いやがるし……! ねじの一本でも抜いてやろうか! こら!」 「どうぞどうぞ」 ヴァイス陸曹のバイクだし、それが派手に壊れるだけだもの。 にっこり笑顔で勧めると、陸曹は頭をかきむしった。 「ち……そんなんじゃあ嫁のもらい手ができねぇぞ」 「御安心を。隊長達みたいに、広報誌に耐えられるルックスじゃありませんから」 「だなぁ。特にフェイト隊長なんて……あの人を嫁にできる奴は、一生幸せもんだぞ」 ……うっとりとするヴァイス陸曹がイラついたので、携帯を取りだし素早くメール。なお行き先は……地上本部監査部。 「セクハラ行為があったと報告しておきますね」 「おい馬鹿やめろ!」 「上司を引き合いに、ルックスを貶(おとし)められたと」 「やめてください死んでしまいます! 俺には可愛(かわい)い妹が!」 「じゃあ死ね!」 「一刀両断か、こんちくしょう!」 ヴァイス陸曹はそう言いつつ、バイクに跨(また)がり……あぁ、足はべったりなんだ。ツアラータイプなせいかな。 それでアクセルを捻(ひね)り、計器類の調子もチェック。 「姐さん達だって、完全無欠なエースじゃない。失敗だってする、組織の都合に抗(あらが)えないときだってある」 「メールは送りましたから。音声付きで」 「え、マジ!?」 「シリアスで誤魔化(ごまか)そうとか、無理ですよ?」 「空気を読まない奴だな、てめぇ!」 そうして涙するヴァイス陸曹……だったら、セクハラはやめればいいのに。 「と、とにかくだ……現状に納得できないから、この部隊を作った。 恥を恥とも思わない人達なら、そんなことしないさ。だから俺達も乗っかった」 「関係ありませんよ、そんなの」 「じゃあ何が気に食わないんだよ、お前」 「私はいいんです。結局あの人達とは他人で、自分の都合で切り捨てることもできる。……でも」 「スバルやちび達は違う、か」 そう、違う……前を見ながら思うのは、あのお人よし。 エリオ達は仕方がない。まだ子どもで、世界の中心にはフェイトさん達がいる。 スバルも、仕方ない。命の恩人達に対して、疑いを持てる子じゃない。 あの子がGPOや古き鉄に対して批判的なのも、その恩人達に管理局が入るから。 本来なら道具扱いされ、潰されていた命――それを人間に昇華してくれた組織。 感謝しないはずがない。両親が引き受けようとしても、世界が認めなかったらどうなっていたか。 その世界を形作る組織だから。その理念だけは正しいものだから……だからあの子は、普通の力を求める。 ……そこには、歪(ゆが)んだものがあるのも間違いないけど。 「隊長達の身内もいる、後ろ盾だってしっかりしてる。それじゃあ駄目か」 「アイアンサイズへの特攻兵器を捨てた、犯罪者とその身内を信じろと? ジョークにしては面白いですね」 「……お前だって局員だろ。何か事情があったと察するくらいは」 「ヴァイス陸曹、私が一番許せないのは……スバルやギンガさんに、『また』察しろと言うことです」 「どういうことだ」 「ゼスト・グランガイツの話、聞いてますよね。……その人の部隊にいたんです、ナカジマ家のお母さんは」 ヴァイス陸曹の手が止まる。 「それだけじゃない。そんな事件関係者が、今回の件に飛び込む……それを許される環境そのものが、おかしいでしょ」 ただ二気筒のエンジン音だけが、私達の間で響いた。 それは決裂を示すものだった。どこまでいっても、私達は平行線――だから。 「……行けよ」 ヴァイス陸曹はバイクから降りて、キーを投げつけてくる。 それをキャッチしてから、入れ替わりでバイクに乗り込み。 「すみません」 「謝るくらいなら、ここにいる間だけでも姐さん達に譲れ。それが筋だろ」 「……今のも報告しておきますから」 「え、マジ?! 理由は! 今のはセクハラじゃないぞ!」 「理不尽な罵倒と従属強要――パワハラです」 「お前はどこまでも好戦的だな!」 恩知らずとは思うけど、一応一礼。その上でアクセルを捻(ひね)り、ゆっくりと走りだす。 並列二気筒のエンジン音を相棒に、ヴァイス陸曹に……差し出された手に、背を向けて。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ……強情だねぇ。割り切れる奴だからこそ、割り切れない奴らを心配している。 悪い奴じゃあないんだが拗(こじ)れちまってるな。だが……また、か。 なら現時点でアウトだな。どうしたものかと頭をかいていると。 「すまないな」 駐機場の中から、シグナム姐さんが出てくる。 「お前にも面倒をかけている」 「いいですよ。ただ……あんまり嫌わないでやってください。アイツも怖いんですよ」 「どういうことだ」 「姐さんやなのはさん達を信じたら、心を許してしまったら……そうなったとき、ちゃんと戦えるのかってね」 「……我々が、弱いからか」 「姐さん達が弱いなら、俺なんてゴミ虫レベルですよ」 ……アイツは切り捨てない、少なくともスバル達は絶対に。だが迷うこともできない。 どっかクールに、冷めた自分を演出しないと、流されそうで怖いんだ。 あぁ、姐さん達の気持ちは伝わっている――それも、痛いほどにな。 だがどうしても拭えない。それがアイツの拗(こじ)れで、面倒で……愛(いと)おしいところだ。 「で、実際問題どうなんですか。何か事情があるとは思いますが」 「済まないがお前にも話せない。ただなのはの分署襲撃、リンディ提督のHa7破棄は事実だ。 ……その処分があやふやで終わったために、アイツのみならず局上層部からの受けも悪い」 「そうっすか」 一番いいのは、『なぜそうなったか』を話すことだ。あやふやだからこそ、ティアナの疑念も強くなる。 だがそれが無理となると……やっぱ、一つ一つ取り返すしかないんだろ。 「まぁ安心してください。俺も自分の身がヤバくない限りは、ギリギリまでついていくので」 「お前はくるな」 「ちょ、シグナム姐さん!」 「妹がいるだろうが。なので三歩手前でいい」 「……うっす」 こういう人達だって……お前だって分かってんだろ、ティアナ。 怖いのはみんな一緒だ。お前一人が意地を張る必要は、やっぱねぇよ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ティア……ティアは、どうしよう。いや、一つ一つのことから、信頼を取り返すしかないけど。 シグナムさんも、ヴィータちゃんも腹を括(くく)ってる。私達は平行線だと――。 つまりなのはが駄目なわけです。うぅ、一年の教導って難しい。関係が拗(こじ)れると、修復するのが……! 悩みながらも隊舎玄関に出て、スバルをお見送り。 黒のサマージャケットにスパッツという、ラフな出(い)で立ち。 でもはやてちゃんレベルなトランジスタグラマーで、そのボディラインが薄着でくっきり。 な、なのはよりも大きいのでは。いや、身長……身長の問題でそう見えるだけ! 「じゃあ行ってきます。お土産、何がいいですか?」 「嬉(うれ)しいけど、そんなに気を使わなくても」 「……使わないとティアに叱られるんです。前の部隊で、上司や同僚にお土産を用意しなかったとき……それは、もう」 「じゃ、じゃあ焼き菓子! 軽くて日持ちするよね、あれって!」 「リーフパイ、とか」 「それそれ!」 ちょっとちょっと……ティア、どれだけ叱ったの!? すっごくダウナーになってたんだけど! あぁ、上司って面倒くさい! こういうときはさり気ない要求も必要なの!? そこも指揮官研修で教えてほしかった! 「というか、そのティアは」 「お兄さんの墓参りです。ちょっと遠いんですけど、バイクなら日帰りもできるそうなので」 「そっか」 でもバイク、持ってたんだ。運転は……あ、できるのかな。 レスキュー部隊では、特殊車両としてバイクも配備されているから。 例えば……現場へ急行したいとき、途中で渋滞が起こっている。 その場合余りよくないけど、すり抜けで先行するとか? その絡みで免許は持っていたから。 「それと、ごめんなさい。ティアにもお話……してるんです」 あぁ、不信感ぎらぎらな辺りかぁ。スバルって強引に見えて、実はかなり繊細だからなぁ。ああいうの、気にしちゃうんだ。 「なのはさん達は絶対嘘なんてついてない。私達のことも、いっぱい考えてくれている。だからって……でも」 「ううん、それはいいよ」 「よくないです! だって」 「いいの。……信じてほしかったら、言葉じゃなくて自分をぶつけないと」 「自分、を?」 「そう。それで嘘が払えるなら……ううん」 不安げなスバルには大丈夫と笑い、忘れていた気持ちを正直にぶつける。 「嘘をついたという、その罪も込みで信頼し合えるなら、とっても素敵だと思うんだ」 「なのはさん」 「だから、大丈夫。それより電車の時間」 「……あ、そろそろヤバいかも! じゃあ、行ってきます!」 スバルは慌てて駆けだし、夏の日差しと空気を切り裂き、あっという間に遠くへ消えていく。 「車には気をつけるんだよー」 「はーい!」 手を振って見送り、なのはも隊舎の中へ――そこで浮かない表情のフェイトちゃんと遭遇。 「あ、エリオ達もお出かけ?」 「二人でね。でも……キャッシュカードを渡すの、どうして駄目なんだろ」 「馬鹿じゃないの!?」 「なのはまでヒドいー!」 「ヒドくないよ!」 あぁ、フェイトちゃんはどんどん天然がヒドくなっていく! というか過保護!? 過保護なのかな、これは! その辺りをどう言い聞かせよう……考えながらも廊下を歩いていると。 「よう」 曲がり角からシグナムさんとヴィータちゃんが出てきて、手を挙げながら近づいてきた。 「シグナム」 「ヴィータちゃんー! シグナムさんも聞いて! フェイトちゃんが馬鹿なの!」 「なのは!?」 「エリオ達に、キャッシュカードを渡そうとしたみたいで! 暗証番号も込みで!」 「いちいちうっせぇなぁ……コイツの脳みそがアメーバサイズなのは、もうどうしようもねぇだろ」 「ヴィータ、それはさすがに言い過ぎだ。……コッペパン程度はある、はず」 「二人までヒドい! ふぇー!」 ヒドくないよ、フェイトちゃん? キャッシュカードって時点で、揃(そろ)って表情が変わったもの。 それもすっごく嫌そうに……副隊長なシグナムさんまでって辺りで、察してほしいです。 「てーかそっちは任せた」 「いやいや、任されても……あ、そっか。もうお出かけの時間だよね」 「予定通り108部隊に行ってくるよ」 そう、実は副隊長二人もお出かけです。 「ナカジマ三佐も交えて、合同捜査本部の打ち合わせ。 アタシは向こうへの戦技指導もあるから、結構遅くなるかも……デバイスのことは」 「そっちはシャーリーとリインがやってくれるから、大丈夫だよ」 「シグナムさんは会議の後、聖王教会ですよね」 「クロノ提督も地上へ降りられているそうだ。というか」 あれ……シグナムさんが頭を抱え始めた。どうしたんだろ。 「蒼凪がやらかしたからな。会議が荒れそうだ」 「つーかゼスト・グランガイツの件もあるしなぁ。本局からも絞られそうだ」 「どうしよう……会議は私も参加した方が。状況が状況ですし」 「気にするな、これも副官の仕事だ」 「……分かりました」 「じゃあシグナムさん、ヴィータちゃん、お願いします」 「任せろ」 やっぱりはやてちゃんの話って、その辺りかな。暴れ方次第では、捜査も進展するだろうし。 でも恭文君、また勝手に……胸が、どんどん締め付けられる。 それはティアナからも突きつけられたこと。 私達は罪人――それゆえに、大事なものも、手を伸ばしたい人も、全てが離れていく。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 突然のお休み……スバルさんは御実家へ、ティアさんも一人旅をするとかで別行動。 それで僕とキャロはレールウェイの最寄り駅にきていた。 ただ、なんだろう。二人して疲れ気味についため息。 まだ出かけて三十分も経(た)っていないのに。 「フェイトさん、クレジットカードって……!」 「やっぱり私達がしっかりしなきゃ」 「そうだね。分隊員としてもっと頑張らないと。……ティアさんとの関係改善もあるし」 「うん」 去年の事件――フェイトさん達が犯した罪。組織内でも処罰がされていない、あやふやな処置。 それがティアさんの不信を呼んでいた。表面化したのも、ホテル・アグスタの件があったから。 ……分かってる。ティアさんは僕達のためにも怒っている。でも、やっぱり仲良くなってほしくて。 「やっぱり、僕達はもっとしっかりしよう。スバルさんとティアさんが引っ張ってくれたように」 「信じてくれ……とはいえないけど、私達はチームだものね」 「うん」 人の信頼を掴(つか)む――その難しさは、僕達の経験もあってよく知ってる。 でも忘れていたのかも。フェイトさんを信じようと思ったとき、本当に怖かったこととか。 ……だから迷いはない。まずは僕達からだ……仲間として、後輩として。 決意するのはそこまでにして、携帯を取り出し予定確認。 「えっと、シャーリーさんが組んでくれた今日のプランは」 「うん」 「まずはレールウェイでサードアベニューまで出る。 市街地を二人で散歩、食事や会話等を楽しんで」 「食事はなるべく、雰囲気がよくて会話が弾みそうな場所で? な、何だか難しいね」 「うん……でもシャーリーさん」 ――成功を祈ってるよ!―― 「……って、笑顔で言ってたよね」 言ってたね。デバイス整備で忙しいのに、すっごい笑みで……ガッツポーズで。 ……そのガッツポーズで、とても嫌な予感がした。フェイトさんがほら……アレだから。 「よし、まずは一つ一つクリアしていこうよ」 「そうだね。もしかしたら分隊員としてしっかりするためのオリエンテーションかもだし」 というわけでキャロをリードして……まぁ一応、二か月お兄さんらしいので。その分僕がガードしないと。 予定通りの車両へ乗り込み、ボックス型の座席へ座る。 流れる外の景色を新鮮に思いながら、キャロと二人会話……会話。 なんだろう、無駄にドキドキする。 ただ当たり前かなとも思っているわけで。 ……僕達、任務以外は隊舎に缶詰だからなぁ。 朝から晩まで訓練して、鍛えに鍛えぬいて。だからこその開放感で、新鮮みなのかも。 「そう言えばキャロ、契約龍はもう一体いるんだよね」 「うん。ヴォルテールっていう、黒くておっきな……えっと、アニメのロボットみたいに大きな感じ。あの、ガンダムっていうのとか」 「ロボットみたいに!?」 「体はメカメカしくないんだけどね」 ロボットみたい……ガンダムについては、特別保護施設の仲間と一緒に見たことがある。 思いっきり質量兵器だったけど、こう……足だけでも大人分くらいの高さがある。 そんな大きな龍がいるなんて。世界って僕が知らないだけで、不思議なことがたくさんなんだなぁ。 「フリードは私が卵から育てた子だけど、ヴォルテールはアルザスに単体生息する希少古代種――真竜クラス。 とっても長生きでね、アルザスにとっては大地の守護竜なんだ。エリオ君、そういう信仰については」 「研修中に勉強したよ。……希少古代種のような長命で、現代科学でも生体や行動様式を把握できない未知なる生物。 そう言った生物を身近に暮らしている部族は、彼らを『信仰対象』として崇(あが)めている。アルザスの竜部族もその一つ、だよね」 「正解。私のファミリーネーム【ル・ルシエ】はその部族名でね。一応私もそこの巫女(みこ)だったんだ。 だから私がヴォルテールを呼び出すというよりも、困ったときに助けてもらっている感じかな。……本当に困ったときだけ」 「巨大メカサイズ、だものね。……じゃあ挨拶するのも難しい感じかぁ。あ、でもアルザスにはいるんだよね」 「うん。フェイトさんに保護されてからも、何度か会いに行ったよ。六課入隊が決まったときも」 信仰対象と言っても、守護竜はれっきとした生物。 ちゃんと科学的にも存在が認識されている。 そう考えるととても気楽だなぁとか、つい思ってしまった。 でもそれなら……遠い景色を見やり、まだ知らないアルザスに思いを馳(は)せる。 「会いに行きたいなぁ。一応分隊ではコンビだし、フリードみたいに挨拶できたらって考えてたんだ」 「そうだね、今度長いお休みとかが取れたら、一緒にいこうよ。 それでね、フリードもエリオ君のこと、本当の友達だと思ってるみたいだから」 「それは嬉(うれ)しいな」 「ヴォルテールともきっと仲良くできると思うな」 「それは……ドキドキするなぁ」 巨大メカサイズの竜と仲良く……一体何が起こるんだろうと胸を高鳴らせる。でもいいなぁ、休日って。 こういう時間、訓練漬けの毎日じゃあなかなかできないから。 ……いや、休憩時間とかにもっと頑張るべきなのかも。うん、そうだそうだ。きっとそうだ。 最初、ティアさん達にも言われたわけだし……ようは場所じゃなくて、気持ちだよね。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 恭文さんはアルトアイゼンと派手に暴れて……うー、パーティに乗り遅れてるのですー。 不満に思いながらも、デバイスルームでシャーリーとお仕事……みんなのリミッター解除、それにアップデートなのです。 「リイン、もう六課とか辞めたいです」 「あと八か月ほどなので、頑張ってください……! とにかく、マッハキャリバー達のリミッター解除は終了っと」 「アップデートは、まずプランを練るだけ……ですよね」 「内部構造から弄(いじ)りたいんですよ。だからセカンドモードの訓練データも交えて、後々ですね。……でも、ティアナはどうするべきか」 「まだ洗脳失敗を根に持ってるですか」 「違いますよ。いや……自分で作っておいてなんですけど」 シャーリーは画面を叩(たた)き、クロスミラージュのセカンドモードを映し出す。 銃身がグリップ上部を支点に跳ね上がり、オレンジ色の魔力刃が展開――はい、近接用のダガーモードなのです。 「AMF状態での使用も考えると、魔力刃とかナシじゃないかと」 「……バルディッシュのザンバーと、同じ業を背負ってるですね」 「そっちもレイジングハートの限定解除形態<エクシードモード>と同じく調整しますけど……うーん」 「シャーリー、答えは分かってるですよね」 「まぁ、一応」 バルディッシュもそうですけど、魔力刃はAMFとの相性が最悪なのです。 維持するだけで苦労しますし、刀身強度もやっぱり低下しがちです。 しかも完全キャンセル状態だと、そもそも刀身展開が不可能。それに近くてもかなり厳しい。 バルディッシュの場合、ハーケン・ザンバー・ライオット――全てのモードが使用不可能になるです。 前々から言われていた弱点なのですけど、その解決方法は一つ。 「実体刃を持たせるのが一番ですよ」 「ですよねぇ。ただフェイトさんの場合、【扱えるか】という問題が」 「ドジですから」 「それになのはさん達も、納得してくれるか……現状からの仕様変更は、訓練にも影響しますし」 「面倒なのです……でも、そうなのですよ」 「ですね。ここはフェイトさん達にも頑張ってもらって」 「そっちじゃないのです」 実は……最近引っかかっているところが出たです。それも、嫌な方向で。 「スカリエッティ達は、完全キャンセル化という手もあるですよ。 アグスタみたいな状況は難しいとしても、リイン達を狙うタイミングはあったはず」 「それって……隊長達を襲撃して、とかですか?」 「ですです。それに今朝出現したっていう、戦闘機人……もしかしてリイン達、いろいろ見過ごされてるんじゃ」 「理由はなんでしょう。まず、六課設立がさっぱりだった……とかはない。本拠地が分からないというのも、まずあり得ない」 「これは、恭文さんと合流の必要があるです。というわけで早速」 「はいはい、メンテしましょうねー」 く、逃げられなかったです! 気になっているのは本当なのに、アッサリ止められたですー! でも、理由はなんですか。はやてちゃん曰(いわ)く、今朝のドンパチも疑わしい点が多数だったようですし……うぅ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 朝のドンパチ、その処理を終えて休日……と思っていると、ギンガさんに呼び出された。 今日、お休みのはずだったのに……なぜか僕は、ミッド首都中心地近くのトンネルにいた。 休みだったので、ノーネクタイ白スーツでの御出勤。サングラスもかけて、気分はハマの伝説です。 「あの、ギンガさん」 「何?」 「僕がここにいるって、おかしくない?」 「おかしくないよ。あ、でも私服は辞めて、陸士制服にした方がもっと」 「ごめんだわ。局の一員だと思われて、石を投げられるでしょ」 「そんなこと起きないよ!」 はい、ギンガさんのせいです。しかもなぜか笑顔なのが腹立ったので、出会い頭にケツキックしました。 「てーか僕の休日を邪魔してくれる局なんて、潰れてしまえばいいのに。 ……買い物途中だったのよ? その後は一日かけて、仮面ライダー電王セルフ見放題をしようと」 「セルフ!? いや、朝は御活躍だったと思うんだけど……そろそろ自覚してくれないかな! あれからなぎ君を狙って、一体何人返り討ちにあったと!? 三十人だよ、三十人!」 そう……出立の準備を整えていたところでも、襲撃は起こった。 そうして本日の収入としては、一気に五千万という大金になりました。 でもさぁ、奴らも不思議なんだよ。刺殺・爆破・轢き逃げ・狙撃――いろいろ試してるのよ。 でも僕がちょーっと方向転換するだけで、揃(そろ)って自爆してさ。何、ギャグ? 命を賭けてギャグをしてるの? 「しかもなぎ君がちょっと方向転換しただけで、次々自爆して……言いたくなるからね! お願いだから、もうちょっと落ち着いて行動してよ! いい機会だから入局も真面目に考えて、うちで仕事をしてみて」 「そして明日は地球へ出向いて、ガンプラバトル。そのまま誕生日を迎え」 「話を聞いて!? そんな場合じゃないよ! とりあえず六課で一旦保護するから」 「僕の邪魔をするギンガさんなんて、石を投げられてしまえばいいのに」 「不幸を願わないでー! というか、言っておくけど、今不幸なのはなぎ君だからね!? 息するように襲われてるんだから!」 不幸を願ってほしくないなら、願われないような生き方をしてほしい。そう思う僕は悪いのだろうか。 ……そこで足下に、バナナを見つける。 「……なんでバナナ?」 そう思いながら伏せると、背後に殺気――それは僕の頭上を飛び越え、なぜかトンネル天井へと衝突。 しかもわざわざ照明に突っ込んだ結果、感電。体がビクビクと震えながら、ナイフ型デバイスを落としてしまう。 「……またなのぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」 「かわいそうに……誰のせいで、こんな」 「自分のせいとは一欠片(かけら)も思わないんだ!」 「僕が一体何をしたって言うのよ」 「何かしたと思うよ!? 狙われるだけの何かは!」 まぁこの処理も、ギンガさんに任せるとしよう。落ちたバナナを持ちながら、前を目指して歩き出す。 「ちょ、行かないで! どうするの、これ!」 「ついででいいから、弔ってあげてよ」 「もう十分弔ったよ!」 ここは距離にすれば二百メートルほど。現場はその中間みたい。 今トンネルの中を照らすのは、備えつけられているライトだけ。つまりは少々薄暗い。 もちろんそんな中、ライトの一つに突っ込んだアホがいるので、余計に暗くなるわけで。 「とにかく、一旦六課へ入ろうよ。ほら、何だかんだで本格的に暴れているし、ここからはみなさんと一緒に」 「六課になんて入ったら、地球に戻ってバトルできないでしょ。こっちじゃベースも持ち込めないし」 ≪ベース自体を持ち込めても、粒子補給ができませんしね。タツヤさんが復帰するまでに、腕も上げておかないと≫ 「タツヤ?」 「向こうの友達だよ。今は海外に留学中で、ガンプラバトルも封印してるんだけど」 「だったら、なぎ君も同じ感じでどうかな」 「嫌だよ。いずれ向こうに戻って、世界大会に出るつもりだし」 そういう意味でも、局員入りはなし……現在は留学中のようなもので。 「そう、なの?」 「うん。タツヤと、もう一人の友達……トオルって言うんだけどね。世界大会に出て、バトルするって約束してるのよ」 「あの、それも局員をやりながらじゃ、無理かな」 「え、無理。だって住所関係の問題もあるし、向こうじゃないと練習・調整もできないし」 「そういう、ものなの?」 ≪モータースポーツなどにも通ずる要素があるので、当たり前です≫ 当たり前だとお手上げポーズを取ると、なぜかギンガさんが視線を泳がせる。 「やれやれ、今日も低血圧でいら立っているのか」 「自分のせいだとは考えられないかなぁ……!」 「僕の辞書に『自分のせい』という言葉はないけど」 ≪私の辞書にもありませんね≫ 「なんて最低な辞書なの!」 「それに、六課とは距離を置きたいんだよね」 ビシッと言い返している間に、現場へ到着した。 「どうも奴ら、何か隠しているっぽいし」 「何か?」 「なので僕は僕のやり方で、楽しく暴れるだけ」 ≪というわけで、死にたい奴から出てきてください。ストレス解消してあげましょう≫ 「やめてー! これ以上死人を望まないで!」 とりあえず足を止めて周囲を見渡す。 ここはトンネル内だけど、カーブもないストレートど真ん中。 あちらこちらに食料品が散乱していた。……もったいないなぁ。 バナナはこんなことのために、木からもぎ取られたわけじゃないってのに。 あれ、バナナ……なるほど。これは落ちたものの一部と。 それでトラックが派手に転覆してる。もう一度言うけど、真っすぐな道のど真ん中でだよ。 スリップしそうな痕跡もない。例えばオイルが撒(ま)かれているとか、季節的にないけど凍結してるとか……これは何。 「運ばれてた荷物も缶詰めや野菜に肉、果物……全部普通の食料品ばかりだね」 ≪えぇ。襲撃というのも少し考え辛(づら)いですけど≫ 「それでギンガさん、見てもらいたいものは」 「い、一応私が主導なんだけど……」 「あのー、すみませんー。この辺りに変なものはありませんかー」 「見切らないで!? 返事! まだ返事してないー!」 ギンガさんは放置して、現場検証をしていた職員さんの一人に話しかける。 お兄さんは現在移動中……僕も後を追うように近づく。 「運転手はなんて言ってるんです」 「なんでも突然攻撃を受けたそうです。そのショックで錯乱していて……話にならないんです」 「可哀想(かわいそう)に」 「ちょ、私ー! 捜査の主導は私ー!」 これを……攻撃ねぇ。今のところ、犯人は相当腹を空(す)かせていたとしか。 あとは運転手が狙いで攻撃とか? 嫌がらせ程度なら、殺さなかったのも分かるけどさ。 「さすがに荷物のために襲撃は、考え辛(づら)いです。恐らくですが」 「ここにはないだけで、何か別のものを輸送していた。だから攻撃された?」 「えぇ。運転手には落ち着いてから事情聴取する予定ですが、知らない可能性もあるんですよね」 職員さんの見解は当然だった。例えば何かの荷物に偽装されて、知らず知らずとかね。 そういう運の悪い人なだけかもしれないから、あんまり犯人扱いも駄目ってことなのよ。 でも逆に知っていた可能性もあるので、それなりに厳しく取り調べされると思われる。 「というかですね、それらしいものが現場に残ってまして」 「なんでしょう」 「アレなんです」 お兄さんが十時方向を見る。そこにあったのは真ん中に大きい穴ができてる、灰色の金属の俵型おにぎり。 しかも何個もある。当然ながらそれは食べ物じゃない。 てゆうか、僕とギンガさんがよく知ってる、自律行動型の機械兵器だった。 名前はガジェットI型――。 ジェイル・スカリエッティが作っている、レリックを狙って出てくる盗人(ぬすっと)ロボ。 「……ギンガさん」 「あれだよ。でも、朝に暴れたばかりで、こんな」 そこでなんとなしに、大口を開けて食料品を貪るデフォルメ『がじぇっと君』を想像してしまった。……売れるかな。 さて、これが出てるとすると、運ばれていたのはレリックなのかな。 この間のレールウェイに紛れ込んでたし、あり得るとは思う。 問題があるとすれば、ガジェットが大破していること。これは誰の仕業? 「じゃあ撃破したのは誰。通りがかりのヒーロー?」 「それも不明……ですよね」 「えぇ。そこも含めて事情聴取中です。それと、もう一つ」 職員の人が僕達をトラックの脇に案内。 「ナカジマ陸曹に御連絡してから、見つかった品なんですが」 そこには六角形の大型ボックスが、開かれた状態で置かれていた。なお色は真っ黒。 ≪……これ、生体ポッドじゃないですか?≫ 「う、うん。私も見たことがある」 生体ポッドとはその名の通り、生物を運ぶ入れ物。ただし運ぶ生物は箱同様、普通じゃない。 これは裏でよく流通してるタイプの入れ物だね。 入れるのはフェイトのような、人工的に生み出された生命体が主。 モルモット体を外部に移送する際に、この手のアイテムを使うのよ。 普通はアニメとかによくある、液体が詰まった透明ポッドとかに入れてることが多い。 そのままの移送は手間もかかるし、事故の危険性も高い。だからこの手のアイテムを使う。 キャパも狭いし『保管』こそ一時的な形でしかできないけど、その分強度は頑丈にして移送専用にしてる。 この大きさだと、五〜六歳の女の子が入る程度の大きさかな。 ……ガジェットに生体ポッドか。それも今朝暴れて、すぐにこれ。 「ガジェットが出現したのは、探索中だったとして……アルト」 ≪キナ臭くなってきましたね。休日は潰れるかも≫ この直後、ギンガさん宛てに108から緊急連絡が来た。……辛(つら)いぜベイビー。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ デパートへ向かう途中、妙な音を聞きつけた。 ゴリっというか、ゴトっというか……雑踏の中、僅かに見つけた違和感。 足を止め周囲の確認。雑踏の中じゃない……音は、薄暗い路地の中から。 「エリオ君」 「キャロ、今変な音が聴こえなかった?」 「ううん、何も」 聞き間違え……ううん、違う。ゆっくりと路地裏に入っていくと。 「エリオ君、そっちはデパートじゃ……え」 キャロも暗い路地の中、うごめく姿を見てハッとする。 僕達のほぼ百メートル先……小さな女の子が倒れていた。 ボロボロの服、ブラウンの長い髪は薄汚れていて、左手には鎖を巻きつけていた。 その先にあるものは……! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ フェイトちゃんのアホに説教し、昨日と今朝の状況についても改めて教えておく。 とりあえず恭文とアルトアイゼンが、違法捜査をしていない点も……それはそれでムカつくけどな! 「じゃああの、ヤスフミ達は車の動きや配置から、作戦を……読み取って?」 「うん……事細かに説明されて、関係者一同論破されたわ。 でな、戦闘機人の半身は、本局のマリーさんに回して検証してもらっとる。 ……ただ現段階でやけど、人工骨格や肉体の作りは、これまでのデータとは全くの別物らしい」 「最新型の戦闘機人……あの男は、またそんなことを」 「ゼスト・グランガイツを取られたんが痛いなぁ。やっぱ私らも護衛につくべきやった」 「ねぇはやてちゃん、おかしくないかな。だって……向こうに察知されないため、あえて控えていたんだよね」 「ん……ただ恭文達みたいに、車の動きから見抜いた可能性もある。 あとはゼスト・グランガイツを転送した手段や。 恭文の見立てでは、小型の虫を侵入させ、それを目印にしたそうやし」 つまりよ、車が走っている段階で、インセクトを侵入させて内部調査。 その上で襲撃した可能性がある。まぁそれやったら、転送だけしておさらばが正解やけど。 「そっかぁ。でも恭文君、また無茶(むちゃ)を」 「それだけやないよ。……恭文を狙って、誰かが殺し屋を雇ってるらしい」 「殺し屋!?」 「最低でも三十人程度は」 「「程度!?」」 「まぁ一時間足らずの間に、尽く地獄へ送られたけど」 「「もう!?」」 驚く二人には、大きくため息を吐いて答える。 「それがもう……笑うしかないんよ。アイツが反撃したのは、最初の五人だけ。 あとはちょっと立ち止まるなり、落とし物を見つけるなり、伏せるなり……そうしたタイミングで突撃した結果、回避され自爆や。 もう、むしろアイツが疫病神<ヒトコロスイッチ>やで? 狙っただけで即死亡やから」 「うわぁ……!」 「そ、それでヤスフミは……怪我(けが)、ないの!?」 「あるわけないやろ。今言った通りの状況で」 むしろ怪我(けが)する要素が、どこにあるのかと聞きたい。でも、なんでや。 このタイミングでいきなり……まさかと思うけど、スカリエッティが。 「ねぇ、やっぱり六課に入ってもらおうよ。 ここまで関わっているなら、入隊しているのと同じことだと思うんだ。それで」 「無理よ。アイツ、うちらの仕事を受けんって名言してるやろ」 「だから、リンディさんとの件も……誤解が積み重なってるよね。それも何とかほぐすために」 「はやて、ヤスフミには私からお話しするよ。そうすれば分かってくれると思うんだ。 ……私達、家族で仲間だもの。母さんだって苦しんでるって、きっと理解して」 「無理よ、あれは……もう止まらん」 そう、止まらない……ううん、触れることを怖がっているのかも。 それでほんまに拒絶してきたら、それは……でもそこで、端末からアラームが響く。 「あれ、これ……全体通信?」 『――こちらライトニング04! 緊急事態につき、現場状況を報告します!』 「キャロ、どうしたのかな」 『サードアベニューF23の路地裏にて、レリックと思(おぼ)しきケースを発見!』 「「「はぁ!?」」」 ……サードアベニューの路地裏!? しかも……慌てて端末を立ち上げ、通信画面展開。 私服姿のエリキャロ……その脇に寝ている女の子をチェック。 GPSで住所もチェックすると……ちょ! ここやと繁華街のど真ん中やないか! 『ケースを持っていたらしい、六歳前後の女の子が一人! 女の子は意識不明です!』 「女の子ぉ!?」 『はい! 指示をお願いします!』 「……なのはちゃん!」 なのはちゃんは空間モニターを展開し、スバルとティアに指示だし。 「スバル、ティア……ごめん! お休みは中断!」 「二人もすぐ六課に戻って」 『はい! 行こう、ティア!』 『え、無理です』 するとティアナから、あっ気なく拒否の声。え、なんで……いや、聞くまでもない! なんかティアナの音声に混じって、車の音がたくさん聞こえる。クラクションも多数混じってくる。 「ティア、お願い……私やなのは達のこと、もっと信じてくれないかな。 私達はティアのこと、絶対に裏切らない。もう同じことはしないから」 『そ、そうだよティア! なのはさん達のこと、ちゃんと見なきゃ! やっぱりそういう態度、駄目だと思うんだ!』 『無理よ。嘘(うそ)つきは利用し尽くすって決めたもの』 うわぁ、うちを前にしても断言したで。それにはフェイトちゃんも、スバルも絶句。 『というか、そういう問題じゃなくてですね』 「そやそや! ティアナ、アンタは今」 『エルセア地方行きのハイウェイ八十四号線です。それで今』 端末のコンソールを叩(たた)いて、ティアナの状況を映し出す。 するとティアナの前後は……びっしり、車が詰まっていて。 『大渋滞なんです!』 「「えぇぇぇぇぇぇ!」」 『四十六号線のドンパチと、この先で起きた玉突き事故の影響で……ちょっと、にっちもさっちも』 『そんなー! ほら、バイクならすり抜けができるよね! それで』 『……最高速ですっ飛ばせないから、下道に降りるまで一時間は欲しいわ』 「えーっと、その位置やと」 慌ててGPSでチェック。結構かっ飛ばしていたのか、クラナガンから百キロ以上離れていた。……つまり。 『無事に降りて戻るとしても、二時間はかかると思います』 「アウトォォォォォォォォ!」 「うん、シャマルさんに行ってもらおうか! はやてちゃん、転送魔法の使用許可!」 「それしかないか……! ティアナ、その場でちょお待ってて! すぐ使用許可を取って、バイクごと回収するから!」 『すみません』 「えぇよ。遠慮なく利用してくれれば」 『空も飛べなくてすみません。凡人ですみません』 サラッと攻撃してきたで、おい! 図太くなって逆に愛(いと)おしいわ、この面倒臭いツンデレ! 『フェイトさんみたいに、飛んで駆けつけられなくて……ほんとすみません』 「ふぇ!? と、とにかく……はやてー!」 「……持ち場を離れいていた子は、全員戻って! 女の子も、レリックも、安全確実かつ迅速に確保するよ!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 聖王教会、騎士カリムの執務室――部隊運営絡みでも話が必要だったのだが、そこは無事に終了。 やや緊張した空気を抜くかのように、出された紅茶を静かに頂く。 「それにしても、あなたの制服姿は珍しいですね。クロノ提督」 「いえいえ……制服が似合わないというのは、友人ばかりか妻からも言われていまして」 「そんな。いつもの防護服姿と同じく、凛々(りり)しくていらっしゃいますよ」 「ありがとうございます、騎士カリム」 「……ただ」 ただ……そう続け、騎士カリムは表情を曇らせる。 「申し訳ありません」 「と言いますと……ネクタイでも歪(ゆが)んでいますか?」 「そうではなくて、六課やはやて……隊長達への評価が、芳(かんば)しくない御様子なので。カバーもできず、あなた達を矢面に立たせてしまって」 「……それならご心配なく。ミスもありましたし、厳しく叱られただけですので」 「……恭文君一人に劣る部隊……そう言われたのにですか?」 笑って誤魔化(ごまか)そうとしたが、内容は全て知っているらしい。隠しても無駄だと、ついため息を漏らしてしまう。 「……我々六課が求められるのは、現状維持ではなく【現状打破】。ホテル・アグスタの際、それを成せませんでした」 「えぇ」 「六課本来の目的からすれば、それは勘違いとも言えるのですが……実働部隊として甘かったのも事実です。 特に問題視されたのが、恭文がヴェートル事件後、僕達から距離を置いている件で」 「それでなお、家族・仲間扱いし、六課に巻き込もうとした。その姿勢が……でしたね。 特にリンディ提督への不信感が極(きわ)まっていて、縁切りも堂々と宣言しているから」 「……正直、ショックでした。同時に今更後悔しています。 アイツにとってGPOやニムロッド捜査官達は、それほどに大事だったのかと。それで一番ショックなのは」 その優先順位よりも、それゆえに貶(おとし)められる現状よりも辛(つら)いのは……。 「それを知りながら、【このままでいてほしい】と思っている……僕自身なんです」 「クロノ提督」 僕自身の汚さだった。 「ヴェートルの件がバレれば、フェイトやはやて達の評価はより悪くなる。 母さんだって……僕達が【英雄】だから、守られるものもある。 それが正しいことだと、アイツに理解してほしい……受け入れてほしいと、勝手なことを」 「……彼女達にも……そしてあなたにも、立場があります。特にあなたには、養うべき家族がいる。 それを守るため、保身に走ったとしても、誰が責められるでしょうか」 「でも、アイツは」 「きっと、恭文君も分かってくれる……私はそう思います。 私達が六課で成果を出して、嘘を本当に変えられたら」 「……ありがとう、ございます」 実のところ、恭文は関係ない。あれは利用されているとも言える。 ただ【そうしても問題ない】と思えるほど、僕達への心証が悪くなっている……その具合が余りに強烈で。 それが実際の処分にも繋(つな)がっているゆえ、頭が痛くなっている。もちろんアイツに対してもだ。 分かって、くれるだろうか。いつか……認めてくれるだろうか。 「――失礼します」 そこで入ってきたのはシグナムとシスター・シャッハ。そうか、もうそんな時間だったか。 「あぁシグナム、合同捜査本部の方は」 「そちらは滞りなく」 「こちらは六課の運営面について、話が済んだところだよ。……だが、随分手を焼かされているようだな」 「……ランスター二士の件でしたら、クロノ提督」 「安心してくれ。彼女が常識的にアウトな行動を取らない限り、僕達も極力手を出さない」 「ありがとうございます」 シグナムは彼女について、かなり肩入れしているようだな。 いや、ぶつかったからこそ、気になるというか……相変わらず脳筋思考だ。 「しかし利用するだけ利用するとは……何でしたら私が六課へ赴き、非才の身ではありますが説法を」 「駄目よ、シャッハ。空気を読みなさい」 「騎士カリム!? いや、しかし」 「これはシグナムやはやて達が、自分で解決するべき問題よ。 信頼は諭して促すものではなく、掴(つか)まなくては」 騎士カリムがこちらを見やるので、その通りと頷(うなず)く。 ……だから僕も、極力手出しはしないんだ。彼女の不信もまた、正当だろう。 それは上層部や機動課が、僕達へ辛辣な評価を下すのと同じ。何一つ、間違ってはいない。 行動で示すしかない……それしかないんだ、僕達には。 「お気遣い……心より感謝いたします。騎士カリムも」 「いいのよ、これがお仕事ですもの。……それでね、今から今後の捜査方針について話すところだったの。あなた達も同席、お願いね」 「「心得ました」」 そこで画面展開――これは機動六課の部隊章? しかもかけてきたのは。 「直接通信……はやてから?」 できれば穏やかな話で終わってほしい……そう思ったが、長年培った勘が告げていた。これは、嵐の幕開けだと。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 私のラボは、ふだんなら娘達のけん騒で満たされている。しかし現在、またまた起きた不測の事態に大慌て。 聖王の鍵とレリック、その両方が機動六課に発見されたようだ。盤面は、我らの苦境を示す……か。 「……むしろ都合がいいかもしれないね、あの子は六課の手に収まっても」 「えぇー! それでいいんですかぁ、ドクター!」 「聖王の鍵はいろいろと特殊な子だ。そう言えば分かるだろう?」 納得いかない様子のクアットロには、肩を竦(すく)めて答える。 彼女は実に聡明(そうめい)だ、それだけで全てを納得してくれた。 「だがレリックまで取られるのは辛(つら)いね。……ルーテシアにお願いしようか」 「大丈夫ですかぁ? 騎士ゼストは怯(おび)え腰ですしぃ、ガリューもこの間メタメタにやられちゃったわけでぇ」 「レリックは彼女の探しものにも絡むところだ」 「むしろ声をかけないと、今後に差し障ると……では」 ウーノは鍵盤型コンソールを展開し、まるで音を奏でるように操作。それに応じて通信モニターが展開。 『何、ウーノ』 「お疲れのところ失礼します、ルーテシアお嬢様。実はサードアベニュー近辺でレリックが発見されました」 「既に機動六課も動いていてね。娘達と一緒に確保を頼みたいんだが」 『……ゼストやトーレは、大丈夫?』 「あぁ。トーレは重傷だが、彼は二〜三日中に戻せるよ」 処置が速くて幸いだった……ルーテシアがすぐ回収・帰還させてくれなかったら、私でも助けられなかった。 ……同時に突きつけられているよ。私達のやっているゲームは、遊びでは済まないのだと。 『そう……なら、いいよ』 「大丈夫かい。今日も派手に暴れた直後だが」 『トーレ達よりはマシ。……詳しい場所を教えて』 では本日の第二ラウンドといこうか。まぁ彼は来ないだろうが……来ないよな、さすがに。 (act.10へ続く) あとがき 恭文「というわけで、楽しい休日もこれにておしまい……続いては地下での戦闘」 古鉄≪及川雫さんのSSR……まぁ私にはマスターがいますから、ガチャするときはポチってもらえば大丈夫です≫ (真・主人公。バルバトス第六形態ボディでデレステプレイ中……ぽちぽち) 恭文「話に加わってもらえます!?」 古鉄≪あ、どうも私です……PROは難しいですねぇ。親指勢じゃあ無理ですか≫ 恭文「駄目だ、やる気そのものがない!」 (なおぬいぐるみボディで、スマホの画面に反応するか……全ては調整の賜です) 恭文「うん、僕のね! 結構大変だったよー!」 古鉄≪というわけで、唐突に殺し屋集団から狙われるも一蹴≫ 恭文「嫌がらせか、アレは」 (嫌がらせに命を賭ける、モブの鏡) 恭文「この辺りの描写は崩壊ルート同人版でもやったけど、今回はもっとアニメより。描写されたシーンが中心となっています」 古鉄≪そんなことよりイベントですよ。FGOは最終日まで、ノンビリ行けそうですが≫ 恭文「……五日目、六日目がキツかったしね」 古鉄≪デレステではマッチングライブが開始。というわけで私、忙しいので……あ≫ 恭文「なに?」 古鉄≪この名前……銀さんですね≫ 恭文「あぁ、確かに」 (なお同盟Pがいる可能性も考え、ここではあえて名前を伏せておきます) 恭文「でも楓さんPを名乗りながら、卯月のSSRを掲げている」 古鉄≪あの百数十万円で、更に戦力強化されたそうですから≫ 恭文「それで楓さんだけ引けないってのが……レアもあるだろうに」 古鉄≪私だって引いてますよ。同僚申請は……しなくていいですね≫ 恭文「いいの!?」 古鉄≪既に武内さんや智絵里さん、李衣菜さんとしてますし≫ 恭文「武内さんもやってるんかい、デレステ!」 (達人級だそうです。 本日のED:あぶない刑事『A Man Like You(Needs A Woman Like Me)』) 恭文「HGCE フォースインパルスガンダムの出荷まで、一週間を切った……!」 あむ「でもこれ、量産されたら凄くなりそう。Vガンダムもそうだったじゃん」 恭文「一応外伝作品も含めたら、量産はされている形だけどね。……となれば、こんな感じかな」 (これがインパルスガンダム量産型だ! ・VPS装甲は廃止。 ・シルエットorウィザードシステムが装着可能。 ・コストは抑え気味だけど、その分パーツをばんばん換装できる。 ・もちろんブーツアタックもやりたい放題。 ・損傷しても、他の機体とのパーツ換装で即時対応可能) 恭文「うん、まんまVガンダムだね!」 あむ「そうだった……! でもウィザードって規格が違うんじゃ」 恭文「外伝だと、ストライカーパックも装備できるマルチパック(接続基部)も出てるし、何とかなるよ。それにほら、量産型だし」 あむ「そっか。規格はそこで合わせれば……やっぱVガンダムじゃん!」 恭文「ですよねー」 (おしまい) [*前へ][次へ#] [戻る] |