[通常モード] [URL送信]

小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
act.6 『不信』


前回のあらすじ――貴重な……貴重なアイテム入手の機会を、尽く奪われました。

そのため今は怒り心頭。許すまじ、管理局! 機動六課! 三億<スカリエッティ>は奪われないぞ!


「わ、分かったよ。じゃああの、私もお手伝いするから……六課に入ってみようよ」


フェイトはどうして理解しないんだろう。自分には何も分かっていないって。


「スバル達とも仲良くなれば、きっと局のよさも分かってくれると思うし」

「え、それなら死んだ方がマシだよ」

「どうして!?」

「一つ、ガンプラバトルをやる時間がなくなる。二つ、分身の術を習得できない。
三つ、分身の術をまず習得できない。四つ、分身の術をどうやっても習得できない」

『やっぱりそこ!?』

「そして五つ……フラグを踏む隊長(おのれ)と隊員(シャマルさん)達がいるでしょ!」

「「はう!?」」


フェイトとシャマルさんも思い当たるフシがあるので、たわわな胸に棘(とげ)が突き刺さる。


「まぁまぁ、そないにいきり立たんと……ほれ、バイキングの代金は全部こっちで払うから」

「え、いらない」

「いらない!? なんでよ!」

「そうしたら部外者じゃなくなるでしょ? それで命令違反とか言われるのも嫌だし」


シャマルさんが吹っかけた喧嘩(けんか)……それだと察したはやてが、こめかみをグリグリ。

そしてシャマルさんはオロオロ。いや、そんな慌てられても。


「全く……フラグ管理もできない馬鹿のせいで、大迷惑だよ。
フェイト、ホテル・アグスタが襲われたのは六課がきたせいだよ。
当然僕がオークションに参加できなかったのも、ただ働きなのも」

「はう!?」

「恭文くん、それは違うわ! 襲ってきたのはレリックがあるせいで」

「フェイトとおのれらがフラグを踏むからでしょうが!」


目を見開き、そんなどうでもいい理由じゃないと断言。するとシャマルさんは怯(おび)えながら、静かに両手を挙げた。


「きっとそうやって、どんどん人に迷惑をかけていくんだね。はやて、今のうちに機動六課は更迭しようよ。
絶対土壇場でフラグを踏むよ。そうして部隊崩壊ENDへまっしぐらだよ」

「アンタはどんだけフラグを気にしてるんよ! むしろそれ自体がフラグやからな! とにかくやめやめ!」

「いや、待てよ。そうして機動六課が機能不全に陥れば、僕が三億<スカリエッティ>一味を殲滅(せんめつ)できる……よし、今日のことも抗議しよう!」

「それで納得するなぁ! そんなことないからな! 公僕として仕事をするし! ちゃんと捕まえるし!」

≪――とかツッコんでいたはやてさんが、『マジ無理ぃ』と嘆いた日は意外と早く訪れ≫

「アンタもナレーションをつけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「わ……分かったよ」


そしてフェイトはガッツポーズ。……やめて、それはなんだかすっごく不安になる。


「フラグ、勉強するよ。そうすれば事件そのものが起きなくなるんだよね。よく分からないけど」

「「フェイトちゃんが馬鹿になった!?」」

「馬鹿ってヒドいよ! 私は真剣なのに!」

「どこがや! とにかく……アンタが瞬間転送で回収した荷物、うちらも確認したよ」

「レリックだよね」

「見る限りはな。そっちはユーノ君、ロッサが来ていたから、現在鑑定中や」


確認してるなら、艦艇は必要ないんじゃ……とは言うことなかれ。

外見や魔力的特徴は同じでも、真っ赤な偽物という可能性もある。

レリックも物騒なだけで、一応骨とう品だしね。だからプロの鑑定が必要ってわけ。


ユーノ先生は無限書庫司書長というだけでなく、優秀な考古学者でもある。だからお願いしてるんでしょ。


「ヴェロッサさんもきてたんだ」

「ユーノ君の護衛でな。ほれ、オークションって場合によってはきな臭い要素も絡むやろ?
……しかし分かりやすい作戦やったなぁ。ガジェット大隊を囮(おとり)に、本命を強奪って」

「それくらいで対処できる状況、又は相手だってナメられてるんでしょ。見立ては的確だね」

「……まぁ、なぁ。しかも結界維持が困難になったせいで、内部から飛び出すこともできんで」


そこではやての表情が重々しく曇る。あれ、何かあった? シャマルさんやフェイトまでこれだし、ちょっとおかしい。


「ジュエルシード爆発の件?」

「いや……新人の子が、ちょいな」

「あぁ可哀想(かわいそう)に。シグナムさんに八つ当たりされたんだ」

「……よく分かったな」

「え、マジ!?」

「でも鉄拳制裁を、一発も食らわず反撃……フルボッコした」

「それは褒めたたえてあげないと。今日は部隊を上げてのパレードだね。……あ、電報を送らないと」

「ヤスフミ!?」


あの人も悪い人じゃないんだけど、直情的なところは変わらずだからなぁ。だからね、いつかこうなると思ってたの。

なのでシグナムさんには電報を送ろう。これに懲りて、鉄拳制裁はやめるようにと。


「……それじゃあ事情聴取やな。上手(うま)くやれば、流通ルートが割り出せるかもしれん」

「ねぇはやて、件(くだん)の首謀者とその身内、生死問わずでぶちのめしても……罪にならないよね」

「恭文くんが容赦ない……そこまで楽しみだったの、オークション!」

「奴らとシャマルさん、脳筋騎士、駄眼鏡の首で、異術見聞録の写本を買いあさってやる……!」

「私達を入れないでー! ごめんなさい、悪かったから! そこは謝るから! だからその、抗議についても今回は」

「無駄よ、シャマル。……犯人達は不幸やな。世の中で一番敵にしちゃあかん奴、怒らせたもん」


世界はいつだって、こんなはずじゃなかったことばかり。新暦七十五年の六月後半、僕はそれを痛感した。


「待っていろよ、三億<スカリエッティ>!」

≪私達の輝かしい未来、その踏み台となることを死ぬほど喜びなさい≫

「アンタはやっぱり金かぁ! てーか抗議するのも、六課を邪魔するためか!」

「それ以外にあると!?」

「正義とかないんか!」

「悪党は退治される! 僕の懐も潤う! 世の中も平和になる! その全てが正義でしょうがぁ!」

「断言するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


まだこのときは平和で、僕達はまだ気づいていなかった。僕達が直面している綻びが、とても大きいものだということに。




『とある魔導師と機動六課の日常』 EPISODE ZERO

とある魔導師と古き鉄の戦い Ver2016

act.6 『不信』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


結局この後、凄(すさ)まじく楽しそうなシャマルさんとバイキングに行き、帰りがてらデートになりました。

フェイトは……しょうがないんだ。フェイトだってお仕事あるんだし、男はそういうのに理解を示さないと。

でも悲しい。やっぱりデートできないのも辛(つら)いなぁ。やっぱ六課……でも、何だよなぁ。


やっぱり部隊とか嫌い。てーか僕は裏から手伝う程度でいいのよ。ほら、先輩ライダーとかもそうでしょ?

主役はフェイト達なんだし、あんま出番を取ったら駄目なんだ。なので僕はシャマルさんと向かい合って、楽しくご飯を食べる。


「シャマルさん」

「えぇ」


ローストビーフをつつきながら、ニコニコ顔のシャマルさんに少し聞いてみることにした。


「フラグ管理を怠ったのが許されるとは……思わないことですね」

「それは私じゃなくてフェイトちゃんー!」

「部外者に付き合ってないで、仕事に戻ったらどうですか?」

「うぅ……!」


その様子を見ながら愉悦していると、シャマルさんがガッツポーズ。


「分かったわ……なら、全てを捧(ささ)げます! 恭文くん、今日は私と夜とぎを楽しんで! それで好きなだけ」

「あ、このポテトサラダ美味(おい)しい」

「無視しないでー! 何でもするから!」

「じゃあ諦めてくださいよ」

「それはできないわ! 医師として、恭文くんの欲望を受け止める義務があります!」


やかましいわ! それはおのれの欲望を埋めたいだけだよね! 僕には何の得がないよね! というか。


「シャマルさん……冷静に考えてください」

「私は冷静よ!」

「あんなことがあってすぐ、そういうことを言い出す女と誰が付き合いたいと思うんですか」

「……ごめんなさい、冷静じゃありませんでした!」


できることなら、もっと早くに気づいてほしい。どうして今突っ伏すのよ、遅すぎるでしょうが。


……そこでシャマルさんと添い寝やら、お風呂をしていた時期を思い出す。それもその、かなり頻繁に。

お、落ち着け……確かにそういうの普通になってたけど、それは子どものときだから!


駄目、今は駄目! もう大人になりかけだし、フェイトという本命もいるんだから!


「で、でも……お互いさらけ出せるところは全部見せてるし。お風呂とかで体に触れていたし」

「そういう話をここでしないで……!」

「フェイトちゃんが本命でいいのよ? ただ私は、時々恭文くんとそういう触れ合いができて、恋人みたいにしてもらえるなら」

「え、嫌だすよ。フラグを踏む彼女なんて……僕に死ねと?」

「がふ!」


本命がいるのにそれって浮気だよね! それでOKって愛人思考だよね! 駄目……駄目駄目駄目!

た、確かにあの感触や温(ぬく)もりを思い出すと胸がざわめくけど、冷静にならないと! そうだ、本命一直線……よし!


”さてアルト”

”いいじゃないですか、頑張れば”

”何を!?”

”だってあなた、シャマルさんが初めてなんですよね。女性の胸を触ったのも、裸を見たのも”


……その通りだった。僕、年少時代は捻(ひね)くれていたから……母親もいなかったし。

だからシャマルさんはお母さんみたいで……でも、同時にいっぱい甘えたくなるお姉さんで。

胸や体に触れ合うのも、お風呂も……素肌のまま抱き締められるのも普通で。

今でも思い出せる――。


メリハリがあり、若々しく……同時に熟した果実のような、何とも言えない魅惑を放つ体つき。

あの大きな胸に、サーモンピンクに色づく先端部。

腰のくびれ……もちもちとしたお尻、すべすべな太もも。


抱きつくと漂う甘い匂い……それで触れると感じる、すべすべな肌。

特に胸が……凄(すご)くて。シグナムさんに負けてるって言ってたけど、全然そんなことはなくて。

素肌でいっぱい……数え切れないくらい触って。だから、本当にそれが普通で。


だからシャマルさんに『そういうことをしてもいい』って言われると、いっつも揺らいでしまう。

だって、それは『普通』のことだったから。本当に自然と、また甘えてしまいそうで。

で、でも……やっぱり僕は……うぅ、大人になるって難しい。


”と、とにかくそ……そうじゃなくて”

”ダークヒーローもどきの件、ヒロさん達に相談ですか”

”……それ。六課はフラグ管理の時点でアテにできない”

”まぁあれですよ……サリさんには上手(うま)い飯屋を、ヒロさんには男を紹介しましょう”

”それでいこう”


六課でも解析作業はするだろうけど、それだけで足りるかどうか。何より……シャマルさんには言えないけど、あの会議のことがある。

実を言うとサリさんから、六課とは距離を保った方がいいってアドバイスをされて。

もっと言うと管理局の一員として動くのはやめた方がいい? あの会議の襲撃、やっぱきな臭いし。


僕が六課に入るのを渋ってるのは、そういう理由もあるのよ。そうすると、やっぱアテにするのはヒロさん達になる。

一応理由はあるよ。二人は僕より経験豊富で強くもある、更にサリさんは知識量も凄(すご)い。

六課に内緒で召喚魔法陣やら、召喚獣について調べるならうってつけの協力者。


「ねぇ恭文くん、何か隠してるわよね」

「へ?」

「主治医だから、ヒロリスさん達のことも教えてくれたわけじゃない?
結構激しい訓練もするからってことで。でも……もっと別なことも隠してる」

「何ですか、いきなり」

「さっきも言ったでしょ、さらけ出してるって。だからね、何となく分かっちゃうの」


いきなりシャマルさんが真面目な顔で、とんでもないことを言い出した。それに面食らってると、シャマルさんはまたニコニコ。


「一応言っておくと、二人は引退組よ。極力巻き込まず、できれば六課やクロノ提督達をアテに」

「今日の体たらくで、よく言えますねぇ」


迎合するつもりはないと、お手上げポーズで立ち上がる。……こりゃあ食事は楽しめそうにないわ。


「せっかくのパーティだ、僕は僕の好きに暴れさせてもらう」

「駄目よ。フェイトちゃんも心配しているし、リンディ提督だって」

「じゃあそういうことで」


サングラスをかけ直し、そのまま立ち去る。


「あの、待って! ちゃんと話を」


する必要はないので、早々に店から出ていく。さて……僕もいろいろ調べ物だ。

――全ては三億<スカリエッティ>とプラスアルファのために! あ、帰りに財テクの本も買っておこうっと!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あれからすぐ撤収準備が整い、後の調査は駆けつけた調査班に任せる。

ヤスフミはバイキングへ向かい、そこでお別れ。……でも、食事は早々に切り上げたらしい。

シャマルさんが『六課をアテにして』とお話した途端……やっぱり、信用されてないのかな。


私がフラグについて勉強してないから。でもあの、よく分かんない……死亡フラグって、何?


悩みながらも隊舎へと戻り……ティアナ達にはゆっくり休むよう通達。隊員寮前で解散――。

なのはは私の隣で歩きながら、頭を悩ませていた。ヤスフミの対応もあるけど、ティアナの件も引っかかるらしくて。


「なのは、大丈夫?」

「うん……でも、ティアナはどうしよう」

「注意はしたんだよね」

「スバルも含めてね。……ティアナね、制御できたのは五秒までだったの」

「うん」

「だからその五秒は、みんなで乗り越えようって言ったの。私も、フェイトちゃんも……シグナムさん達も含めて。でも」


それにはティアナの手も、信頼も必要で……だからなのはは悩んでいた。

あのシグナムやヴィータが一蹴されるほど、キレていたそうだし……!


「と、というか……ティアナは、怒らせちゃ駄目。つや消しアイズは怖い」

「なのは!?」


あぁ、なのはが怯(おび)えてる! 悩んでいるって言うか、怖がってた!


「……なぁ」


そこで後ろからヴィータの声。なのはは顔を青ざめ、すぐさま土下座する。


「ごめんなさい、もう許してぇ!」

「なのは!?」


土下座って……そんなに怖かったの!? というか許してって何! 何を言われたのー!


「……何やってんだ、お前」

「……あ、そこにいらっしゃるのは、近接型なのに魔法なしで投げ飛ばされたヴィータ副隊長!」

「喧嘩(けんか)売ってんのか、てめぇ!」

「その両脇には……鉄拳制裁をされ返したシグナム副隊長と、逆ギレしたっていうフィニーノ一士!」

「「ぐ……!」」


なのはー!? 駄目だ、混乱してる! ティアナへの恐怖で錯乱して、慇懃無礼(いんぎんぶれい)になってる! でもやめて! いつものなのはに戻ってー!


「ああもういい! とにかく……ティアナのことで話がある」

「ティアナの?」

「や、やめ……つや消しアイズ、怖い。キャラ、変わって……!」

「お前も落ち着けよ! 分かる! 怖いよな、アイツ! 一気にサイコパス化だもんな! でも上司だろうがぁ!」


……今日無茶(むちゃ)した件、かな。なので……とりあえず談話室に移動。

ティアナ達の部屋からは離れた上で、お話を聞いてみる。


「……今日の件でとやかく言うつもりはもうねぇ。あれはアタシ達の不手際もあるし……たださ、訓練中から時々気になってはいたんだよ」

「ヴィータ」

「強くなりたいなんてのは、若い魔導師ならみんなそうだ。無茶(むちゃ)も多少はする……が、時々度を超えてる。
アタシは馬鹿弟子を見てたから、わりと早い段階で気づけた。……アイツら、魔力資質や無茶(むちゃ)の具合までそっくりなんだよ」

「魔力資質もですか。……あぁ、そう言われるとタイプ的には似てるんですよね。
なぎ君は詠唱・処理能力が尋常じゃなく高いだけで、魔力量も平均ですし」

「ティアとどっこいって感じだね。更に言えば恭文君は、フロントアタッカーとしては攻防の絶対値が高くない。
……シグナムさんやヴィータちゃん……ううん、スバルを百とするなら、恭文君は二十から十」

「……信じられない差ですよね」

「あれは武器の扱いやら、フィジカルな技能で埋めてんだよ。……五倍から十倍もの差を」


ふだんの好き勝手からは想像できないから、シャーリーも目を丸くする。

……魔力強化一つとっても、それのみでは絶対に勝てない。それがヤスフミの先天資質だった。

ただそれが無茶(むちゃ)になるのは、ヤスフミが【一応】フロントアタッカーだから。


ティアナやキャロみたいなバックスなら、特に問題はないんだ。実際ティアナも出力が出なくても、鋭く正確な射撃があるし。


「とにかく馬鹿弟子の場合、それでもやりたくなるだけのもんを抱えていた。ならアイツは何だって話だ」

「……情けないことだが、我々は何も知らん。もしかすると今日の件で、【それ】に触れた可能性もあるのでは……そう、考えてな」

「それもティアナの逆鱗(げきりん)に。だから……副隊長達には一切謝ってませんし」

「え、謝ってないんですか!? ごめんなさい……い、一応殴った件はと言ったんですけど」

「……土下座しながらか?」

「してませんよ!」


なのは、説得力がないみたいだよ。シグナムだけじゃなくて、ヴィータも疑わしそうだもの。……さっきのアレがあるしね!


「と、とにかく……今から話すこと、ティアナのプライバシーに深く関わる話です。
だから絶対……絶対ティアナの前で、今の段階で口にしないでください。
ヴィータちゃん、シャーリーもお願い。これは私とフェイトちゃん、はやてちゃんとリインしか知らないことだから」

「本人から聞かない限りは、か。言った場合はどうなる」

「たとえシグナムさんや私達がどう言おうと、スバルとティアナは今後一切……私達を信頼しなくなる」

「……いいのか」


シグナムも察する。それがティアナの逆鱗(げきりん)――私達への信頼も絡む話だから。

だから【無理に言わなくていい】とも視線で言ってくるけど、ここは……うん、説明が必要だと思う。


「はい。……ティアナには、お兄さんがいたんです」


展開された空間モニターに、オレンジ髪の男性が映る。空士制服を纏(まと)う、誠実そうな人だった。


「それがこの人――ティーダ・ランスターさん。
ティアナは小さい頃御両親を亡くして、このお兄さんが十歳まで育ててくれた。
当時の階級は一等空尉、所属は首都航空隊……享年、二十一歳」

「結構なエリートだな。だが十歳まで? てーか享年って」

「逃走中の違法魔導師を追跡中、手傷を負わされて……犯人を取り逃がした。
犯人はその日の内にミッド地上の陸士部隊が強力して確保したけど、ティーダ一尉はそのまま」


そう、亡くなった。

両親がいなくなってから、仕事をしながらも育ててくれた……そんなお兄さんを、十歳で。


でも……不謹慎な話だけど、そこまでで終わればまだよかった。


そこまでで終われば、ティアナの傷は浅かっただろうから。


「でも問題は、その後なんだ。心ない上司がその一件に対し、ヒドいコメントをして。
……結果その人は、レジアス中将の怒りを買って手ひどく局を追われた」

「あれ、ティーダ一等空尉? 心ない上司が……あ、知ってます! 一時期騒がれていたじゃないですか!」

「……あれかぁ。そうだそうだ、はやてがめっちゃ憤慨してたやつだ。ランスターって、なんで気付かなかったのか」

「なんだ、お前達は知っているのか。一体何があった」

「お前、ミッド地上で働いていながらなんで知らないんだよ! ……簡単に言えば誹謗(ひぼう)中傷だ。
犯人を追い詰めながらも取り逃がすなんて、首都航空隊の魔導師としてあるまじき失態。
たとえ死んでも取り押さえるべきだった……もっとはっきり言えば、役立たず。そう公式にコメントしやがったんだよ」

「……まさか」


シグナムが顔を真っ青にした。……実は私達も連想した。

シグナム達が言った【信じろ、もう少し】――そこにもし、過去を重ねていたとしたら。


「だからこそレジアス中将も、厳しく処罰したわけか」

「あの人、本局組なアタシ達から見ると非常に偏屈だが……同じ地上で働く人間には頼れる頑固親父(おやじ)だからな。許せなかったんだろ」

「ヴィータちゃん、それだけじゃないの。どうもティーダ一尉のお葬式にも、中将は参列したらしくて」

「地上本部のトップが、たとえ首都航空隊と言えど一局員の葬式に……かよ。それは知らなかったぞ」

「はやてちゃん曰(いわ)く場が場だし、取材などは予(あらかじ)め厳禁としたみたい。
……実際ティアナ、その前後はかなり荒れていたらしいから。ティアナはそのとき、まだ十歳。
唯一の肉親だったお兄さんを亡くした上、しかも最後の仕事が無意味で役に立たなかったって言われて、どれだけ傷ついたか」


なのははティーダ一尉のモニターを消して、涙目になる。……そんななのはの背中を、そっと撫(な)でた。


「じゃあなのは、ティアナが陸士部隊に入ったのは……なんでだ。
問題の上司は処罰されているし、復しゅうってわけでもねぇだろ」

「……ティアナ、射撃魔法はお兄さんから教わったらしいの。つまりティアナの戦う武器は、お兄さんからの絆(きずな)であり遺産。
生活が遺族年金などで保証される中、その絆(きずな)で証明しようと考えた。お兄さんの魔法は役立たずなんかじゃない。
どんな任務でも、どんな状況でも撃ち抜ける最高の弾丸だって。あと……ティーダ一等空尉、執務官志望だったそうなの」

「兄貴の夢を引き継いだと」

「でもそれだけじゃない」

「今度は、なんだ」

「ティーダ一射は空戦魔導師。ティアナも最初は同じ空戦魔導師志望。
でも適正がなくて士官学校に入れず、陸士学校に……スバルとはそこで出会った」

「だから将来的には空戦訓練をして、空戦魔導士に転向予定だったのか。そうか、アイツは一度……夢を否定されてるのか」


そういうところもヤスフミに似てる。……ヤスフミも大事な夢、ひび割れているから。

その様子を見ているから、焦ってしまう気持ちは理解できる。そういうものだっていうのは。

目指す空と夢の先はとても遠くて、前に……前にって突き進んじゃう。


ヴィータ達も納得はしてくれたみたい。でも表情は、とても悲しげだった。

同情なんて感じじゃない、ただやり切れない。そんな表情を浮かべ続けていた。


「なのは、フェイト、ありがと。約束はきちんと守るから安心してくれ。……アイツが若干冷めてるのとかも、これが理由か」

「アイツはそもそも管理局を、上の人間を信じていない。そして今日の私達は、この上司と同じか」


シグナムは悔しげに拳を握り、それでテーブルを叩(たた)く。

自分への怒りをぶつけても、シグナムの拳はずっと……ずっと、握られたままだった。

……あ、そうだ。もう一つ大事な話があった。忘れちゃいけないと拍手を打つ。


「それとティアナは、スバル(ナカジマ家)のことも気にして、無茶(むちゃ)したのかも」

「……同感。はやてちゃんの話だと、ティアナはナカジマ家では娘同然の受け入れ具合らしいから」

「あれか。ナカジマ三佐や、姉のギンガを悲しませないためとか」

「少し、違うの。スバルのお母様――クイント・ナカジマさんも局員。
スバルやお姉さんが扱うシューティング・アーツは、そのお母さんが創始者。
でも、任務中の事故で亡くなっている。しかも、その事故が」

「原因、一切公表されていないそうなの」


それも無茶(むちゃ)と不信感の後押しになった。そう告げると、三人は揃(そろ)って軽く身を乗り出した。


一つはヴィータが言うように、【自分と同じ目には】という話。

もちろんエリオとキャロ――引いては私のことも、守ろうとしてくれた。

そう考えるといろいろ理解できるんだ。でも、もう一つは……。


「分かっているのは任務中何かが起きて、お母さんだけでなく同僚の方々……もっと言えば部隊の全員が死亡・行方不明になったこと」

「おい、ちょっと待てよ! それで原因が非公開!? 家族にもって事だよな!」

「……あり得んだろ。それでは、まるで」

「クイントさんが所属していたのは、首都防衛隊――通称ゼスト隊。
そこでみなさんはなにか、見てはいけないものを見てしまったのではないか。
少なくとも三佐はそう考えていらっしゃるようで、ずっと詳細も調べているんです」

「ティアナがその事情を知っているかどうかは、私やフェイトちゃん達にも分かりません。
さすがに聞けないし……でも、もし知っているなら、局や上司への不信感は更に強くなるのではと」


悲しいことを理由に、心を閉ざす……いろんなものから距離を取ってしまう。

その気持ちは、私には分かる。それは私達自身が犯してきた過ちだから。

でも、ティアナにはどうすればいいんだろう。私達は今、あの子が疑い、憎む【偉い人】なのに。


それに単なる不審じゃない。あの子が優しいから、友のことを思いやる子だからこそ見せる迷い。

少なくとも私達はそう思っていた。


……あの子はそれに加え、もっと冷静な目で私達を見ていたのに。

この疑いは、私達自身の弱さが招いたもの。すぐ見抜かれるような嘘に、身をやつした報いだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


解散してから、一人木陰で自主練――周囲にターゲットスフィアを複数展開し、点滅したものを狙うってゲームよ。

ただし速度を維持しつつ、正しく安定したフォームを意識。

スフィアも全方位に展開しているので、反射と目の広さが命となる。


夕方だったのが暗くなり、更に夜が更けても、体は止まらない。

今日の情けなさを努力で振り払うため、必死にクロスミラージュを構え続ける。

汗まみれになっても、息が切れても……。


そんなとき、両手を叩(たた)く音が聴こえた。


五時方向に素早く銃口を向けると、整備服を着た栗髪の男性……うちのヘリパイロットで、ヴァイス・グランセニック曹長がいた。


「もう四時間も続けてるぜ、いい加減ぶっ倒れるぞ」

「ヴァイス、陸曹……見てたんですか」

「ヘリの整備中、スコープでチラチラとな」

「セクハラですね。というかのぞき魔ですか」

「無茶(むちゃ)を横でやられてたら、さすがに気になる」


無茶(むちゃ)……か。結局昼間と変わらない。

そう言われているようで悔しくなって、更に訓練継続。


……私は、やっぱり馬鹿かもしれない。

しようと思っても、まだ体が動かない。息が、整わないの。


「ミスショットが悔しいのは分かるけどよ。精密射撃なんざ、そう上手(うま)くなるもんでもねぇ。
無理な詰め込みで、変なクセを付けるのもよくねぇ……って、なのはさんが昔な」

「……詳しいですね」

「なのはさんやシグナム姐さんとは、わりと古い付き合いでな」

「それでも」


無理やりに深呼吸して、練習再開。

バツが悪くて、ヴァイス陸曹には背を向けてしまう。


「詰め込んで練習しなきゃ、上手(うま)くならないんです……凡人なもので」

「凡人……か。俺からすれば、お前は十分に優秀なんだがなぁ。羨ましいくらいだ。
……まぁ、止めるつもりもないがお前達は体が資本だ。やりすぎには気をつけろよ」

「ありがとう、ございます。大丈夫ですから」

「あと……大丈夫じゃないなら、なのはさん達に報告するからな。でないと俺が怒られちまう」

「なら怒られてください」

「……お前も大したタマだねぇ」

「どうも」


そっけなくそう答えると、ヴァイス陸曹はすたすたと整備場がある方へと戻っていった。


……場所は、考えなきゃ駄目ってことか。

面倒だなぁと思いつつも、またみっちり訓練……そして深夜。


今日のところは切り上げ、お風呂に入ってさっぱり。

それから部屋へ静かに戻ると、スバルは机の上でリボルバーナックルを磨いていた。


「あ、ティアー。おかえりー」

「まだ、起きてたの?」

「うん。朝練の準備」


ふらふらしながらベッドへ入り込みかけると、スバルが気になることを……あー、そっか。朝練があった……頑張ろう。


「スバル、私……明日四時起きだから。朝、うるさかったらごめん」

「いいけど……大丈夫?」

「アンタも早く寝ないと、体が持たないわよ。……お休み」

「お休みー」


ベッドへ入り込み、そのまま泥のようにぐっすり……明日は、もっと頑張ろう。

それで明後日(あさって)はもっと頑張ろう。あと……銃器……資……も……。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


俺とヒロはヴェートル事件の傷も癒え、毎日仕事三昧。

そんなある日のこと、一緒に飲みへ出た。……居酒屋の個室で、人に聞かれたくない話をする。

こうなった原因はやっさんだ。今日、やっさんが運悪く遭遇した正体不明の敵。


その解析と対策を頼まれた……てーか六課が早速やらかしたそうで。

しかも会議のあれこれを考えると、今ひとつ局の人員は信用できない。

……あぁそうだ。今でもあのとき襲撃されたのは、局の暗部が原因だと思っている。


てーかヴェートルでの動き方を見て、余計にその感情は強まったよ。それは六課も同じくだ。

具体的には六課という部隊も、そもそもの立ち位置が少し……まぁここはいいか。後でも問題はない。

今大事なのは、向かい側の席に座るこのバカだ。いつもに比べ、今ひとつ反応が鈍い。


「また腕の立つ召喚師がついてるな」

「そうだね」

「しかも、まだ子どもって」

「そうだね」


ガジェットの動きが良くなったのは、やっさんの見立て通り召喚技能だな。

小型の自立行動可能な何かを呼び出して、それを入り込ませたんだろ。また器用なことをする。


「やっさんが遭遇したのも、向こう側の召喚獣で決定として」

「そうだね」


ただ相手が悪かった。やっさんもスリや盗みの技術は超一級、泥棒相手に負けるほど弱くもない。

でも徹底的だなぁ、最初から殺す気満々じゃないか。やっぱ去年のことが尾を引いてるんだろうか。

……去年やっさんはヴェートルの一見で、アイアンサイズを数度取り逃がした。もちろん意図的にじゃない。


相手の能力的にも高くて、致し方ない状況ばかりだ。ただ、そのために百人単位の人間が死んだ。

それ以後も相当数の人間が傷ついている。そういうことのせいで、やたらと警戒……あ、ないわ。

アイツ、基本的に殺しは躊躇(ためら)わない奴だし。もうあれだぞー、ドンパチ大好きだからな。


それに……自分が相手を逃がすことで、被害が拡大する。それはやっさんだけの話じゃない。

俺にも、ヒロにも覚えがあるものだ。みんな背負ってるのさ、そういうもんを。


……それで話を戻すが、あとは突如乱入してきたKY。それについていた男。

やっさんの動きを一時的にでも止め、炎熱系で攻撃か。どっちがどっちかは……データも取れている。

やっさんが奴らに肉薄した上、攻撃されたおかげでな。しかしこりゃあ。


「敵はどういう戦力なんだよ。AMFやガジェットのみならず、オーバーSなベルカ式魔導師……それで」

≪このリイン女史と同サイズな少女……ユニゾンデバイスでしょうか≫

「計測された魔力値もかなりのものだ。しかもこの、足下だ」


アルトアイゼンが捉えた映像――そこを見やると、赤髪ツインテールのユニゾンデバイスは、ベルカ式魔法陣を展開している。

それも紅蓮(ほのお)の色。しかも少々怪我(けが)しているが痛々しい。


「もしかしたら古代ベルカの真正ユニゾンデバイスじゃ」

「これ、やっさん一人ではキツいかもしれないぞ。AMFまで持ちだされると」

「そうだね」

「せめてパーペチュアルの術式を覚えていれば」


EMPから撤退したGPOは、現在パーペチュアルという現地世界に籍を置く。

港町(みなとまち)である『シープクレスト』にて、EMP時代と変わらぬ活動に勤(いそ)しんでいる。


でだ、そこには超次元的存在から力を借り受け、発動する現地魔法が存在する。

AMFなどにも邪魔されず、次元世界でも珍しいタイプの魔法だ。

ただ術式の口頭詠唱が必要で、デバイスのサポートも受けられない。それゆえ広まってはいないんだが。


「……やっさん、やっぱり手柄を奪われた件で負い目があるんだろうか」

「そうだね」

「連絡は取り合っているようだが、あの旅&冒険好きが飛び出していかない。
そんな術式なら、周囲のことなど気にせずいきそうなのに」

「そうだね」

「その辺りもまた、話をしてみるか。マクガーレン長官にも相談してみよう」

「そうだね」


てーか……アイツはドンだけ運がないんだ!? その上オークション参加まで潰されて……あぁ、俺達の危惧は正解だった。

アレとかコレとかしてなかったら、胃に穴が空(あ)くとこだったぞ。

なので……生返事しか返さないヒロにツッコんでいこうと思う。


「ヒロ」

「そうだね」

「……おいおい! お前、今の会話になってないだろ! 一体どこに心置いてきてるんだよ! ちゃんと現実世界に戻ってこい!」

「大丈夫、私は自由な旅人だから」

「やっさんみたいな理論武装をするなよ! ……まぁそうなる理由も分かる。原因はこれだろ?」


展開している空間モニターに映るのは、例の召喚獣。ヒロはコレを見た瞬間からこうなった。

そこはもう分かってるのでにらみ気味にヒロを見ると……大きくため息。それからヒロはお手上げポーズを取る。


「その汚い顔を下げてよ。私の奇麗な顔が汚れるじゃないのさ」

「よし、お前ちょっと黙れ。てーかマジで殴っていいか?」

「駄目。で、本題に入るけど……この召喚師、知ってるのよ」


拳を鳴らし始めていた俺は、その言葉で動きを止めてしまった。それで思わずヒロをガン見する。


「あと、この男も」

「待て待て、知ってるってどういうことだよ」

「教導隊にいたときに、出向で教えた女の子がいたのよ。そいつの上司」

「……この槍持ちが!? じゃあ」

「管理局員だよ」


おいおいおいおい……! いや、落ち着け。まだ早い。

判断するのは、ヒロの話を全て聞いてからでも遅くはない。ここは冷静に……!


「で、その子も同年代で面白い子でさ。友達になって、その後も付き合いは続いたの」

「……お前、女友達がいたんだな。てっきり男友達だけだと」


その瞬間左拳が俺の顔面に入った。なお、凄(すご)く痛い。


「その子のスキルとコレ、類似……てかそのままなのよ。
ベルカ式ベースの召喚魔法に、ダークパープルの魔力光」


ヒロは左拳を軽く一振りすると、真剣な目で画面内の召喚獣を見た。


「あと、従えてる召喚獣もね。あの子も虫タイプの子と契約してたから。
てーかコイツ、ガリューだよ。私とも何度か模擬戦でやり合った」

「な、なるほど」


痛む人中を押さえつつ、相づちを打つ。だがこれで納得した。だから生返事ってワケか。

てーかヒロとやり合っただと? だからやっさんも一気には仕留められなかったのか。


「つまりヒロの見解としては、その子と上司の仕業だと」


普通なら違う。ヒロと同年代って言ってただろ? だが確認された姿は……どう見ても少女だ。

ただ変身魔法やら、やっさんみたいなミニマムキャラの可能性もあるし、あえて普通に聞いてみた。

知り合いが犯罪行為に加担しているから、辛(つら)いんだろうな……だがヒロが黙った。


というか、一気に空気が悪くなる。漂う地雷を踏んづけた感に、軽く身を引く。


「……分かんないのよ」

「どういうことだよ」


そして次の一言に衝撃を受ける。……これが俺達にとっての始まりだった。


「その二人……というか部隊の人間もろとも、八年前に死んでるのよ」


やっさんとアルトアイゼンが立ち向かっている嵐は、二人や機動六課という部隊だけの問題じゃなかった。

俺達もそこに関わるべき人間だったんだ。奪われた過去を、今更でも取り返したいと思うなら絶対に。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


夜――今日のレポートを纏(まと)めていたら、午前様だよー。でもこれも必要なこと。

……何せ自伝出版の足がかりだしね! それに抗議に抗議を重ね、六課を叩(たた)くという役目もある!


≪あなた、頑張らないと駄目ですよ≫

「もちろん! 全ては三億のため!」

≪そして私が次元世界のアイドルとして、君臨するため≫


そんなわけで、テンションMAX。ふふふ……機動六課、安心するといい。

おのれらの役割は、スカリエッティのアジトを見つけるところまでだ。

もっと言えばアジトに乗り込んで、トラップとかに引っかかって、ふぇーと泣くまでだ。


きっとフェイトなら全て引っかかった上で、僕が行く道を安全にしてくれるだろう。


その上で……ぼろぼろなフェイトを蹴飛ばし! もとい休ませた上で、僕がボス戦!

あれよあれよとスカリエッティ達をぶっ飛ばし、三億ゲット! おぉ、なんてすばらしい図式だ!


完璧すぎて寒気がする! よし、待ってろよ……三億<スカリエッティ>!


――そう気合いを入れ直したところで、通信がかかった。

相手はヒロさんとサリさん。一体何だろうと通信に出たところ。


「もしもしー。……あ、解析結果が」

『悪い、それはまだなんだ。てーかやっさん』

「大丈夫です。協力費として、三億<スカリエッティ>は山分けしましょう」

『いきなりで悪いんだけど、頼みがある。召喚師と槍持ちの情報が得られたら、こっちに教えてほしいのよ』


ジョークをすっ飛ばし、いきなりな頼み。……おかしくない、この頼み。

単にこう、解析情報が足りないとかそういう話じゃないよね。


「理由はなんですか。しかも話しぶりからすると、解析どうこうじゃない」

『そうだ。だが俺達は基本ロートル、あんま派手に動きたくないんだよ。その点、お前は関係者だしな』

「で、理由は」

『……やっさん』


ヒロさんはそう言って、画面の中で頭を下げた。


『頼む、協力して』


その行動が信じられなくて、驚きの余り素っ頓狂な声を出してしまう。


「ヒロさんが、頭を下げた……!? ど、どういうことですか」

『まだ確証が持てないんだ。正直、アンタに話していいのかどうかも躊躇(ためら)っちゃう』

『ボーイ、俺からも頼む。……姉ちゃんも、すまない』


どうやらデータが欲しいのは、二人ではなくヒロさんだけの話らしい。それも……かなり必死な理由っぽい。


『今六課やらのデータを調べて、目をつけられるような危険は侵したくない。
アンタ経由から入手するのが、一番波風が立たないんだ。もちろん危ない橋なのは分かってるし』

「頭を上げてください! 僕は問題ないですから!」

『え?』


ヒロさんは顔を上げて、驚いたように僕を見る。それでまぁ、珍しく不安げなヒロさんを見て力強く頷(うなず)く。


「大丈夫ですって……バレなきゃいいんですから」

『……だよねー! いや、さすがやっさん! 分かってくれると思ってたよ!』

「ただし」

『礼はしっかりと? でしょ。大丈夫大丈夫……オークション情報はきっちり渡していく』

「お願いします。あと三億<スカリエッティ>も山分けしましょう。
お肉を奢(おご)りますよ、お肉……マクドとかどうですか」

『それ山分けじゃないだろ! てーかケチくさ!』

『なら予定を付けて……修行に出ようか。行き先はシープクレストだよ』


その言葉で、嫌な動悸(どうき)が走る。ヒロさん……そっか、気づかれていないはず、ないよね。


『メルビナも、シルビィちゃん達も、ちゃんと分かってる。アンタはみんなの夢を壊したくなかった。
アレクシス公子を危険に晒(さら)したくもなかった。管理局のためじゃないって、分かってるから。
……だから行かないんでしょ、本当はパーペチュアルの現地術式、興味がありまくりなのに』

「……はい」

『そこまでするなら、いっそバラしちゃおうか』

「でも、それは」

『バレなきゃいい。そう言ったのはアンタだよ?』


その言葉には何も返せず、とりあえず考えてみることが決定……僕はまた、アウトコースを走ることになる。

でもヒロさん、何があった? 相当困った事態になってるのは分かるんだけど……うーん。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


やっさんには、俺からも後押しした。限界なら、バラすことも選択。

そうしてため込んで苦しんでいるのは、アレクシス公子だって望むことじゃない。

あの子ならきっと、そんなやっさんを助けたいと思うはずだ。


やっさんが苦しんでいた自分のため、命がけで戦ったのと同じように……準備はしておくか。

やっぱりアイツには、旅と冒険がよく似合う。面白いこと、不思議なことに目を輝かせている方がな。


……あとは金だな! まぁまぁ金にはうるさい奴だと思っていたが、今回は極めつけだ!

次元世界中を探しても、アイツ以外にいないと思うぞ!? 純粋な金のために、スカリエッティへ喧嘩(けんか)を売る奴!


「……ヒロ、これでやっさんはOKだが……さっき言ってたことは間違いないんだな?」

「うん、ないよ」


……まさかその召喚師の友達が、ギンガちゃんのお母さん――クイントさんの一件で亡くなっている人とは。

いや、消息不明だったか。……クイントさんとパートナーだったらしい。

つまり死んだ人の召喚獣が、全く同じような術式使ってる奴に使役されてんだ。


しかも、その隊長までが生きていたわけだ。


≪メガーヌ・アルピーノ女史でしたね。そしてこちらの男はゼスト・グランガイツ≫

≪そうだ。いや、すっげーノリのいいねーちゃんでよ。
プライベートでいろいろあったのに、無茶苦茶(むちゃくちゃ)明るいんだわ≫

「あったねぇ。ハーレムとか、逆ハーレムとか、シングルマザー化とか」

「マジでいろいろすぎて怖いぞ! え、ハーレムから逆ハーレム!? どうしてそうなった!」

「私にも分かんない」


放り投げやがったよ! それくらい自由奔放ってことか!? だったらお前の友達にはふさわしいわ!

……ただ話はこれだけじゃ終わらないんだよ。問題はまさしくヒロの友達と言うべきその人が、いなくなった直後。


「とにかくその直後に、メガーヌの娘……そのとき一歳だったんだけど、その子も消息不明になってる。
名前はルーテシア・アルピーノ。そんな二人が入っていた部隊は、ミッド地上部隊の一つ――首都防衛隊」

「ミッド地上本部の中でも、今なおエリート部隊として知られる部署だな。そして壊滅したのは、通称ゼスト隊」

≪では二人とも、ゼスト・グランガイツという男とは≫

≪話に聞く程度だな。ただ三佐とブルーガールは知ってるはずだぞ。自宅に招いたとも言ってたしよ≫


――ゼスト隊は職務中の事故により、全員揃(そろ)って死亡or消息不明……部隊そのものが潰れている。

しかもその原因は遺族であるギンガちゃん、ナカジマ三佐にも伝えられていない。

もちろん機動六課に所属している、妹のスバル・ナカジマも同じくらしい。


ヒロは三佐と関わった当初、この件を含めて情報交換もしたそうだが……さっぱりだった。

こりゃゼスト隊が潰れた一件、相当キナ臭いぞ。そもそも遺族にも何にも伝えないっておかしいだろ。

そこで考えられるのは一つだけだ。伝えた場合、局にとって非常に都合が悪い……そういうことしかない。


「さすがにおかしいと思って失踪当時……てーか今でも調べてたのよ。
パパンやママンにも相談して、手伝ってもらいつつね。でもさっぱり」

「クロスフォード財団も動いて、何にも掴(つか)めなかったのか」

「そうなのよ。そこはゲンヤさんも同じ。あの人も仕事をしながら調べてたんだって。
こう……あるラインまでは分かるのよ。でもそこから先、大きな壁があるみたいに分からなくなる」


俺達も現役時代、何度も感じた違和感だ。その正体は実に簡単……誰かが隠しているんだよ。


「だから逆に確信できるんだよ。メガーヌの、クイントさんの、ゼスト隊の全滅にはヤバい裏がある」

「管理局絡みで、だな」

「うん」


壁の名は時空管理局……そもそも死亡事故の情報が隠匿されている時点で、やっぱきな臭いわけで。

しかもミッド地上、レジアス中将の管轄下で起きたことなのが余計に引っかかる。

レジアス中将はな、ミッド地上の部隊員はどこの所属だろうと、仕事が何だろうと大事にする人なんだよ。


もし何かトラブルが起きた場合、ミッド地上に所属する部隊員なら全力で守ろうとする。

戦力関係に恵まれてなかったため……とも言われているが、姿勢を示したことが大事。

もちろん殉職者の遺族補償もかなり力を入れている。ミッド地上のために頑張ってくれていたのなら……ってな。


だからこそレジアス中将は人気者だ。あの人の人望やカリスマ性は、そういう積み重ねのためだよ。

だからそんな状況でそんな事故が起きたなら、遺族には納得できるだけの説明をしていこうとするのが普通。

まぁ言い方は悪いが他人なヒロはともかく、当時局員でそこそこの地位だったゲンヤさんくらいには言うだろ。


そうだよ、当時から108の部隊長だったゲンヤさんをスルーしている時点で、この話のきな臭さがより強くなる。

きな臭いことがなかったとしても、この件にはそれくらいの機密制限が敷かれてるってことは間違いないな。


「でも、何にも掴(つか)めていないわけじゃない」

「というと?」

「ゼスト隊はね、戦闘機人についてかぎ回ってたんだよ」

「おい……それは」

「そう。スカリエッティが基礎理論を打ち立てた、サイボーグ兵器だ。
暴走する試作機の鎮圧、違法製造プラント制圧――。
そういうのを積み重ねて成果は出始めていたっぽい。全滅したときの任務も多分」


そうなってくると……口元を右手で押さえ、思案に耽(ふけ)る。


「そういやギンガちゃんと妹さんは」

「その流れの中、クイントさんが仕事中に保護した子達だ。しかもアンタも知っての通りアレだから」


クイントさんはな、『ウィングロード』と呼ばれる先天性魔法を持っていた。

二人はその遺伝子を元に生み出された。……言うならクイントさんのクローンでもある。

もちろん無許可で違法。二人はそんな戦闘機人なんだ。


だが局の保護、状態観察なども受けつつ、二人はすくすくと育った。

それで何の因果か、この事件に関わったわけで……だが、それはヤバくね?


「つ−か、掴(つか)んだどころかもうネタバレだろ」

「言わないでよ、それを。……やっさんには明日、全部話すことにするよ。
あとはカリムとクロノ提督を通じて、情報も流してもらおう」

≪いいのかよ、姉御≫

「話してて、気が変わった。だって管理局が絡んでるなら、機動六課も」

「……それがあったか」


だよなぁ……管理局上層部が関わっているなら、一つデカい疑問が生まれるんだよ。

本来ならアドになる情報だし、流したくはないが……まぁいいか。

やっさんが肉薄した時点で、バレるのは時間の問題。今更何が変わるわけでもない。


……ただ、やっさんには改めて、『機動六課へは絶対に入るな・関係者とは距離を置け』と言うことになるが。

正直言いたくない。去年の一件で、身内への不信感をたぎらせているしな。

だがうまく事が収まらなかった場合、やっさん自身の進退にも大きく関わりかねない。


それくらい、ヤバい疑問なんだよ。


≪何にしても絡んでいるわけですね。メガーヌ女史のことや、ゼスト隊のこと≫

≪メガーヌのねーちゃんそっくりの虫召喚師に、レリックやガジェット。これら全部に≫


奴が絡んでる。ドクターと呼ばれている、陰険な顔した三億が……!


「あとは、やっぱ二年前の襲撃事件か。ねぇサリ、アンタが遭遇したアサシンって、もしかしなくても」

「……あぁ」

≪てーか外部からの襲撃なら、もうちょっとやり方考えねぇか? 俺だったら爆弾の類を使うぜ≫

「……そこの辺りも探るか」


もうアレコレ考察する理由もないな。これで俺らの標的は定まった。一応の狙いは、奴だ。

奇(く)しくも六課と狙いが同じになるとは……何つうか、いろいろおかしいよな。


「サリ」

「一人で行かせないからな」

「え?」

「お前は前に出て、遠慮なく暴れて戦ってろ。どうせそれしか能がないんだ」


自分一人でやるとか考えていたのが、驚いたような表情からすぐに分かった。

うん、何年の付き合いだと? もうやんなるくらい知ってるよ。だから呆(あき)れつつも言い切ってやる。


「だから後ろのことは全部俺がやる。それが俺の戦いだ。今までだってそうしてきただろうが。何にも変わんねぇよ」


お手上げポーズでそう言うとヒロは、納得したような……困ったような顔で優しく笑い出した。


「ま、お前の永久就職先が見つかるまでは俺が付き合わないとな。
お前のパパンやママン、騎士カリムも安心できないし、手伝ってやるよ」

「サリ……ありがと」

「……おう」


さて、やっさんの情報待ちってのも時間を無駄にしてるよな。やっぱここは俺も動くか。

まずは八年前の一件を洗い直すとするかな。時間もなさそうだし、それなりの強硬手段を取らせてもらう。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……泥に埋もれた意識を呼び起こすのは、実に大変だ。自分でも分かる……疲れ果てている。

それでも、それでも努力が必要。必死に惰眠を貪りかける自分にむち打って、顔を上げる。


「ティアー、大丈夫ー?」

「ん……ごめ、ん。起こし……ちゃって」

「それは大丈夫だよ」


二段ベッドから必死に抜け出し。


「はい、トレーニング服」

「ありが……と」


折りたたまれたトレーニング服を受け取り、一旦脇に置く。

まずは寝間着をさっと脱いで、下着姿に。

そしてスバルも一緒に脱いで……ん!?


その不可思議な行動にようやく目が覚めて、体ごとスバルへ振り向く。


「……何、やってるの」

「え、私もトレーニング服に」

「なんで!?」

「ほら、一人でやるより、二人の方がいろいろなメニューでできるし」

「いいわよ、平気だから。私に付き合ってたら、まともに休めないわよ」


そしてスバルは窓に向かってシャツを脱ぎ捨て、そのおわん型で立派なバストを晒……思わず蹴飛ばし床に倒した。


「痛いー! ティア、何するの!?」

「うっさい馬鹿! 窓の真ん前で裸になる奴がどこにいるのよ! 見られたらどうするの!?」

「大丈夫だって、朝早いしー。それに私、日常行動なら四〜五日寝なくても済むし」

「女として終わってるって言ってるの! あと日常行動じゃないのよ、戦闘訓練は! アンタの訓練は特にキツいってのに!」

「いいの。……私とティアはコンビなんだから。一緒に頑張るのー」


頭を軽くかき、見上げながらあっけらかんと言われた。

……こういうとき、この子は何を言っても無駄。訓練校でもそうだったもの。

そりゃあもう、めちゃくちゃな勢いで懐(なつ)いてきて……振り払うこともできなくて。


でもそんな無茶苦茶(むちゃくちゃ)さに後押しされて、引っ張られて、私はここまできたんだっけ。それが恥ずかしくなりながらも。


「か……勝手にすれば!?」


そっぽを向いて、こんなことを言ってしまう。それでもスバルは私と一緒に……一人じゃない。

それだけで、どうしてこんなに心強いのか。兄さん、私は……今、とても恵まれていると思います。


「うん、勝手にするよー」

「でも私、銃器使用資格を取るつもりだから」

「……え」

「一人じゃ勝手も不安だったけど、スバルがいるなら安心ね。巻き添え兼囮になるわ」

「ティアー!?」


というわけで、四時起きして自主練……その目的はコンビネーションスキルの向上。そして技数を増やすこと。

幻術は切り札になり得ないし、中距離から撃っているだけじゃあいずれ息詰まる。

ただ昨日のような状況を鑑みると、私がいきなり前に出て戦う……ってのもちょっと無理がある。


敵は昨日みたいにガジェット……というか、AMFを有効活用してくるに決まっている。

なので技数の向上は二の次で、新しいコンビネーションを幾つか考え、試していくことに終始した。


あとは……銃器使用の可能性。そちらも改めて考えてみる。大丈夫、資格を取るのは楽そうだし。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ティアナの状態が気になるけど、はやて・シグナムと朝一番で本局へ。

クロノと母さん、本局機動課のスタッフ、その上役の皆さんと会議です。

ただ……会議直前、レイジングハートからメールをもらい、一応一安心。


スターズの二人、昨日のことも何のそので元気いっぱいなんだって。これなら、大丈夫だよね。

二人の元気に負けないよう、私達もかくかくしかじかで説明――そして終了。


……視線はやはり厳しい。特に問題視されているのが。


「――新たに回収したジュエルシード三個、及びレリックは既に提出済みですね」

「はい。そちらは機動課のみなさんにも立ち会っていただいた上で」

「書類も問題……なさそうですね。それでランスター二士、及び問題を起こした副隊長と医務官達にも、厳重注意処分」

「こちらも即日で行いました」

「では、次元震の影響はどうかね」

「既に沈静化しています。空間値が規定に戻るのは二〜三日中。そちらについてはレポートの三十八ページに詳しく書いています」


はい……やっぱり、ジュエルシードの件や、ホテルを危険に晒(さら)したのが……うぅ、『終わりよければすべてよし』は無理かぁ。


「全ては私とヴィータ副隊長、シャマル医務官達……現場指揮官の驕(おご)りと判断ミスです。
部隊長、両分隊長はもちろん、フォワード・ロングアーチスタッフに非はありません。……申し訳ありませんでした」

「「申し訳ありませんでした」」


もうここは平謝りするしかない。すると。


「……やはり、偽物の英雄というわけか」


上役の一人がぽつりと呟(つぶや)いた。その言葉、その意味を察し、心臓が嫌な動悸(どうき)で満たされる。


「……マルコス提督、後見人としては聞き逃せない発言ですが」

「クロノ提督と同じくです。偽物……とは、どういうことでしょう。まさか、局の公式発表を御存じないとか」

「致し方ないと思ってほしいですな。ジュエルシードについては、予測・看破も難しいので致し方ないとしましょう。
逆に考えれば、相手の手持ちを少なくできた……とも言えますし」


そこは、認めてくれるんだ。よかった……でも全然油断できない!

だって残り八個だもの! 大規模次元震を起こすくらいはできるよ!


「問題とされているのは無関係な嘱託魔導師に、レリック確保をさせた点ですか」

「左様」

「でしたら勘違いです。彼は私の保護児童であり、六課のスタッフも同じですから」

「それはおかしいでしょう。その当人から本局宛(あ)てに、しっかりと抗議が届いていますよ」

「……え」


母さんー! 赤っ恥だからやめてー! え、知らなかった……知らないよねー! 私、言ってないもの!


「休日を過ごしていただけなのに、ハラオウン分隊長に仕事へと引きずり込まれた。
明らかに間違った判断に、顔なじみというだけで巻き込もうとした。
自分が召喚師一味追撃の手はずを整えてもガン無視。それを詰問したら、逆ギレされた」

「そ、それは誤解です。一体何の証拠があって」

「会話記録も送ってきているんですよ。シグナム副隊長、それとシャリオ・フィニーノ一士……それはもう、ヒドい言いぐさでしたな」


ヤスフミ、そこまでしてたの!? ……そこで改めて感じる。

ここ数か月の間感じていた、妙な距離感……ヤスフミはやっぱり、ヴェートルの件を納得していない。

しきれるはずがないって、分かってる。私達は結局、手柄を奪っただけの偽物で。


そのせいで数千万という賞金もパーになってる。特にお金……お金のことはー!


「しかもただ働きで、予定していたオークション参加も妨害された」

「それでも経緯が突然だっただけで、我々はスタッフに正当な報酬を与え」

「そうそう……駄目押しでバイキングの料金を肩代わりし、依頼をした扱いにして……六課へ巻き込もうとした。
そうして部外者ではない状態とし、自分達の命令を聞かざるを得ない状況へ」

「……あなた達……そう、なの?」


いや、そんな、慌てて私達を見ないで!? フォローできないよ! 無理だよ!


「ほ、報酬を払おうとはしました。さすがに申し訳ないですし……ただ、そんな意図は全く!」

「部隊長の言う通りです! オークション参加も潰しちゃったし、さすがに申し訳ないからと……それだけで!」

「それは信用できませんなぁ。去年も成果を奪い取った分際で」


……それは私達の【前科】。同じことをしたと、思われているんだ。

去年と同じように、ヤスフミを六課スタッフとすることで……手柄を奪ったと。


「現にリンディ提督は、彼がどういう考えかも知らなかった御様子」

「それで保護責任者のお立場を利用し、勝手に六課のスタッフというのは……嘱託魔導師に対する扱いとしても、問題ですぞ」

「そうそう……あの事件が終わった後、あなたからしつこく勧誘を受けたとも聞いていますぞ。
なんでも……アイアンサイズは管理局の力でも対処できた。それを信じて入局してほしいと」

「それは、本件とは別の話です!」

「同じでしょう。現にあなたは本人の意志を無視し、六課スタッフと説明したではありませんか」


論破されちゃったよ! どうしよう……ヤスフミならこういうとき、ばーって反論するのに。

……駄目だー! ヤスフミがいても敵側だった! ま、まさか……勧誘の件も含めて抗議してるの!?


「しかも召喚師一味の追撃まで押しつけている。
事前に蒼凪恭文君は、君達への通報を出していたと言うのに」


やっぱり、そこだよね! ヤスフミ、本当に依頼料も何も受け取ってないから、完全に部外者扱いだし!

しかも適切な通報をしているから、私達はそれを無視したとも取れる。……だから逆ギレになるわけで。


「召喚師一味の姿が判明したのも、彼の動きがあればこそでしょう。
ヴェートルでもGPOと協力し、アイアンサイズを倒した……彼の力が」

「六課設立は早まりましたかな。彼一人を自由に動かした方が、ずっと安上がりだったかもしれん」

「それは、言い過ぎではありませんか。確かに不手際はありましたが、部隊長達は各々の仕事をやり通しました。それは評価されるべきだと」

「だから評価していますよ、我々は……機動六課は現時点で、失敗部隊だと」


……はやてが、シグナムが……悔しげに拳を握り締めていた。それは、当然だよ。

私達全員より、ヤスフミ一人の方がずっと評価されている。悔しいに決まってるよ。

でも反論できる要素もないわけで……クロノも同じくらしく、表情をどんどん険しくしていく。


「では、お聞かせください。何を持って失敗部隊と仰(おっしゃ)っているのでしょうか」

「リンディ提督、ここまでにしましょう。失態ですから」

「いいじゃない。これだけ仰(おっしゃ)るのですから、当然理由があるでしょうし」

「そもそも医務官に指揮を執らせたのが間違いではないかね。
八神部隊長が中からでも、直々に動いていれば暴走もなかった」

「お言葉を返すようですが……シャマル医務官は、指揮官研修も受けた後衛魔導師です。そうですね、八神部隊長」

「はい」

「だとしたら再研修が必要だな。そもそも防衛戦で、守(まも)り手が防衛対象から離れていくとは何だね。
最低でも使い魔であるザフィーラは、ホテルの周囲に残しておくべきだったろう」


……そこで母さんがこめかみを引くつかせる。う、うぅ……痛いところを。


「それは、ガジェットを近づけないためです。
ジュエルシード搭載機の攻撃も予想されたため、防衛エリアを広く取る必要が」

「結果できた穴を、転送魔法によってツツかれたわけですが」

「転送魔法は不意打ち同然でした。それまで彼女達の責任にするのは、少々酷では?」

「なるほど」

「御納得いただけたのなら、先ほどの発言は撤回してください。機動六課は失敗部隊などでは」

「つまりあなた方は、相手のスキル・装備・戦力が全て判明していないと、対応できない……その程度の実力しかないと」


一課の課長さんが、とんでもないことを言い出した……! さすがに母さんも慌てて立ち上がる。


「そのようなことは言っていないでしょう!」

「言ってますよ。分からないのであれば、『分からないなりの備え』をするべきだったと。
しかも部隊の召喚魔導師から、転送によるガジェットの排除が提案したのに、却下された。それは誰の仕業かね」

「……私です」

「なぜかね。ガジェットが密集していたせいで、ホテルもピンチだったというのに」

「ホテルのガジェットが離れれば、我々の帰還が遅くなり……結果、状況が悪化すると、そう考え」

「ではランスター二士が再三にわたり、戻る時間を聞いていたが……それに対し、なぜ答えなかった」


上役の皆さんが……機動課の課長さん達が、厳しい視線を送り続ける。それに対してきびきびと答えられるのは、母さんだけで。


「シグナムは答えています。もう少しだと」

「秒数を明確にはしていませんよね。レポートと通信記録によると、もう少し……副隊長達を信じて、信じろと言うばかり」

「戦闘中ですよ? 彼女達も次元震で負傷していましたし、明確な数字など難しいに」

「AI付きデバイスもいれば、飛行速度と距離から算出も可能でしょう。いや、ロングアーチスタッフでもいい。
……まさか機動六課では、そういったフォロー耐性も整えていないのですか? 常識ですよ、これは」


シグナムは屈辱に打ち震えていた。常識すら分からず、守れなかった自分……それを改めて突きつけられ、震えていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


彼らの目には、確かな嘲りがあった。


偽物――。

嘘(うそ)つき――。

役立たず――。


私を、フェイト達を馬鹿にし、罵っていた。それで罪を突きつけられる。

私はただ、自分のミスを取り返そうとした。奪ってしまったものを、返そうとした。

ただ、それだけだった。なのに今、真綿のように首を絞められ続ける。


それは心も……強がれば強がるほど、誇ろうとするほど、全てを否定されていく。

……私が、罪人だから。機動六課がここまで罵られるのは全て、私のせいだった。


(act.07へ続く)






あとがき

恭文「というわけで鮮烈な日常SecondSeason第二巻、販売開始です。こっちでは派手にドンパチしているので、みなさまよろしくお願いします」


(よろしくお願いします。
そしてご購入された皆さん、本当にありがとうございました)


恭文「というわけで、お相手は蒼凪恭文と」

あむ「日奈森あむです。……機動六課がフルボッコ……!」

恭文「……ヴェートル事件の余波が」


(分署襲撃、捜査妨害、アイアンサイズ用の特攻ウィルス【Ha7】の破棄――にもかかわらず、問題を起こした局員は処罰されず)


あむ「で、でもそれって、親和力で洗脳状態だったせい」

恭文「でも知っている人間は少ない」

あむ「それでかぁぁぁぁぁぁぁ!」


(むしろ嫌われない要素がなかったでござる。
なお詳しくはメルとまをチェック)


恭文「まぁそんなのは、はっきり言ってどうだっていい……僕の管轄外だ! それよりも財テクだって、財テク!」

あむ「三億を運用する気満々!? ていうか、計画が最低じゃん! 横取りじゃん!」

恭文「先に噛ましてきたのはアイツらでしょ」

あむ「やり返す気も満々!?」


(このときはそうでした)


恭文「そしてティアナが第八話事件を起こすため、着々と準備を……まぁこの辺りは、また【6.5】とか言って外にわけ、すっ飛ばす可能性も」

あむ「アンタの話中心だしね。……ところでさ、サリさんが」

恭文「あー、うん。アレだね」


(『松屋で今やってる、チキングリーンカレー! あれ最高だぞ!
本格タイカレーの味をきっちり再現しているが……キモはチキンより茄子だ!
大ぶりのが入っていたら大当たりだぞ! スープや素材のうま味を吸い込んで、この茄子が確変してるんだよ!』)


恭文「このように熱く語っていました」

あむ「興奮してたよね、すっごく」

恭文「でも実際美味しかったよ? 店舗によるかもだけど、今ならご飯大盛り無料だし」

あむ「アンタも食べたんかい!」


(そしてその後、イナバのチキンタイカレーを買った蒼い古き鉄であった。
本日のED:中島みゆき『うらみます』)


恭文「HGReviveギャンが、すげーカッコいい件について」

あむ「あたしも組んだけど、マッチョな感じでいいよね。足もちゃんと上がるし、腰の作りも今までと違うし」

恭文「改造するならどんなのがあるかなー。というか、僕はむしろ唯世に作ってほしい」

あむ「あ、そっか! 唯世くんにはホーリークラウンも、ロワイヤルソードもある!」

ラン「騎士としては、まさにどんぴしゃだしねー。あとはシグナムさん?」

ミキ「それに盾だよ、盾。盾がメイン武装なのが唯世にピッタリ」

恭文「ちなみに……BFT(とまとVer)の設定では、鉄血のオルフェンズに出てきたナノラミネートアーマーが猛威を振るっていて」

あむ「あー、前に言ってたのだよね。アニメに出てきたエース機体は、みんなそれで」

スゥ「ビルドバーニングもコーティングがされていたんですけど、運用を重ねるごとにどんどん剥がれ、性能がダウンしていくんですよねぇ」

恭文「そうそう」

(説明しよう! 世間では『覇王流連発w』とか言う評価が多かったので、『そうする事情はなにか』と考えた結果である!
ようするにNLA対応ガンプラには、次元覇王流で一撃必殺である! そのため世界&ビルドバーニングは、エースキラーでもあるのだ!)

恭文「ならギャン子はどうするかと考えていたんだけど、問題なかった。
ビームサーベルが通用しなくても、全く問題なかった。……盾で殴り潰す」

あむ「言うと思ったよ! ていうか、アニメ劇中でもやってたじゃん!」

恭文「そしてギャンでもできる……盾で発勁。盾でビルドナックル。盾でグレイズ粉砕」

ダイヤ「盾、万能すぎないかしら」


(おしまい)





[*前へ][次へ#]

6/25ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!