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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
876万Hit記念小説その4 『とま×2 イケてるッ!/坂田銀時の持ってけ百万円』


朝の連続とまと小説

魔王エンジェル

第31話 『ついにこのときがきた』




前回までのあらすじ――魔王エンジェルとの対決に敗れた、竜宮小町。
一時は解散も危ぶまれたが、あずさの迷子失踪事件をきっかけに四人は団結を固める。が……そんなことはどうでもいい。
さしたる問題じゃあない。実は魔王エンジェルにも、最大の試練がやってきたのだ


「何、このナレーション! というか連続テレビ小説だよね! 三十話もないよね! 竜宮小町と対決したこともないよ!」


というわけでどもー、朝比奈りんです。……クリスマスも近い中、訪れた危機……というところは本当で。現在あたし達は。


「……れ、れれれれれ……麗華ぁ。寒い……寒いよぉ」

「耐えな、さい。ともみ……もうすぐ、だから」

「そう、だよ。現地のコーディネーターもいるし、まだ……楽、だって」


現地時間、朝の四時二十八分――南ドイツ・ハーデン地方の森林地帯にいました。

現地コーディネーターのアランさん、更に伐採スタッフ数人に連れられ、夜も明けきらないうちから進軍。

しかし寒い……! 南の方だけど、北海道(ほっかいどう)より北……だからそれより寒いんだっけ? 明らかに対策が甘かった。


……きっかけは、麗華の一言だった。もうすぐクリスマスだから、海外に突撃取材ってことだったんだけど。


――りん、ともみ、クリスマスツリーの発祥って分かる?――

――ツリー? もみの木の生産地とか――

――はい、りんは不正解――

――ちょ、その一発クイズ形式はやめてよ!――

――……私も同じだったんだけど、違うんだ――

――まぁ今のは意地悪だったかもね。……そもそもクリスマスツリーという『文化』は、南ドイツ発祥らしいのよ。
ゲルマン民族は古くから、お祭りのときには、木を装飾して祝ってきた。その流れからクリスマスツリーも生まれたってわけ――


それは目から鱗(うろこ)だったよ。というかドイツとキリストの誕生日が、そういうところで融合するとは。

……まぁ日本人のあたし達が、あんまり言えたことじゃないよね。ハロウィンやらもそうだけど、異文化が入り交じっているし。


――というわけで、南ドイツに行くわよ。クリスマス特集ってことで、もみの木の伐採から取材するの――

――……って、サラッと海外取材!? 凄(すご)いじゃん!――

――ほ、本当に私達が――

――もちろんよ。ただ相当キツいらしいから、服はたっぷり持っていきましょうか――

――きつい? 日程かな。クリスマスも間近だし――

――違うわ。恭文曰(いわ)く……寒さとか、寒さとか――


本当に、キツかったです。でも何で恭文(火野)が詳しい……そりゃそうかー。ドイツはもはやホームグラウンドな男だし。

とにかくそんな助言も思い出し、何とか現場へ到着。車から下りて三分も経(た)ってないはず……なのに、たどり着けない絶望感が生まれていた。


「――!? ――!」


あれ、アランさんが目を丸くしてる。一体どうして……でも疑問は口にするより早く氷解。

なぜなら薄暗い中、『黒いIS』を装備した女性達が……めぼしい木を切っていたから。


「な……!」


麗華が悲鳴に近い声を上げたのも、無理はない。ともみに至っては言葉を失い、両手で口を覆う。

妙に殺気立った顔で、ISのアームからエネルギーブレードを取り出し、それでもみの木を一本、また一本と伐採している。

いや、違う。根元の土ごと、根を傷つけないよう確保していた。余りに手慣れた上に、的確な動き。


しかもその全員が眼帯を着けていて、ISスーツという薄着状態だから余計あり得ない。

誰もが防寒着を着込んでいる、この状況でだよ。その異様さに言葉を失っていると、リーダー格っぽい女がこちらに気づく。

それに合わせ、他の奴らも一斉に……そして奴らは、怨嗟(えんさ)の声を揃(そろ)える。


『みーた……なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

「「「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」


あたし、朝比奈りん――一応今年で二十歳。彼氏とお酒のお付き合いも、できるようになりました。

でももう、無理かもしれない。だってこれって完全に……ホラー映画の被害者じゃん! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


一方……小芝居を軽くやりつつ、銀さん達はお昼のため六本木(ろっぽんぎ)へ。
卯月も合流したのだが、そこには余りに予想外なメンバーもいて


「……というわけでやってきました! 生すかで最近大反響を呼ぶ……はずの企画!」


六本木(ろっぽんぎ)の路上で、カメラが回る中……俺達はなぜか、栄養士姿となったへごちん&お姫ちんのちんちんコンビと立たされていた。


「タカタ食堂ぅぅぅぅぅぅぅ!」


そして新番組始まったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?


「今回は346プロから島村卯月ちゃん、渋谷凛ちゃん! 万事屋から坂田銀時さん! 
最近765プロでアイドル活動も始めた、ティアナさんを加えてお送りします!」

「「よろしくお願いします!」」

「……タニタ食堂じゃねぇか! 明確なパクリじゃねぇか!」

「よ、よろしく……って、何よこれ! 持ってけ百万円は!?」

「まぁまぁ銀さん! ティアナさんも落ち着いて! そことも絡みますから!」


落ち着けねぇよ! お昼かと思ったら、まだ番組の話だよ! これでどうやって落ち着けってんだよ!

不可能じゃねぇか! 仏陀(ぶっだ)だって悟りそっちのけでツッコむわ! というか、ルナモンが!

さっきまでぐっすりだったルナモンが、ティアナに抱かれながら空気読んでぱちぱちしてるよ!


子どもに空気を読ませるなよ! 気を使わせるなよ! せめて説明を入れろ、説明をぉ!


「まずは番組企画の説明から! ……銀さん、アイドルって痩せすぎだと思いません?」

「そんなもん実体重をバラさねぇからだろ。だからアニメとかの設定も影響受けて、勘違いする奴らが量産されるんだよ。
そろそろな、ぼんきゅっぼんのくびれヒロインとかやめるべきなんだよ。現実を教えるべきなんだよ。
銀魂(ぎんたま)を見ろ。その点ぼったくりバーでバイトしている、寸胴(ずんどう)ゴリラ女が度々ヒロインみたいに出しゃばってるぞ」

「アンタ、大胆すぎでしょ! 346プロの人達もいるのに!」

「大丈夫、ティアナさん……銀さん、きた当初からずーっと言ってる」

「えぇ!」

「あ、でも嫌みとかじゃないんです。それに合わせて無理したら、不健康だからって。
……銀さん、管轄外の私達や小さい子にも、すっごく優しいんです。もちろん新八君達も」


別にそんなことはない。ただ食べ盛りがデフォな餓鬼が、体重制限やら何やらでうーうー唸(うな)って、不健康なのを美しいとか言うのはアレだろ。

実際幸子も……だがしぶりん、へごちんは何でか笑ってこっちを見てくる。それはティアナやルナモンも変わらずだった。


「えぇ……そうなんです。昨今ダイエットやら、ヘルシーやらはいろんなところで聞くワードです。
でも……あえて言わせていただきます! いっぱい食べることは悪なのか! いいえ、健康に差し障らなければ正義です!
この食堂では、ヘルシーとかはノーサンキュー! とにかく美味(おい)しくご飯をいっぱい食べて、健康的になろうという企画です!」

「それでアレですよね。野菜たっぷりとかそういう」

「卯月ちゃん、何言ってるの! そんなのもありません!」

「え、マジかよ! そっち方向かと思ってたんだが!」

「じゃあ実はデトックス効果があるとか、玄米とか」

「凛ちゃんの心配なんて、空に向かって投げ捨てちゃってください! これから向かう店は四条さんが日常的に通っている、普通飯ばかり!
大丈夫……銀さん、いいの。もうそんな言葉に惑わされなくていいの。みんなもいいの……大丈夫、いっぱい食べて、いいの」


何つう……! そんな企画に他のアイドルを呼んだのか! すげぇな生すか!

え、だがそれに参加ってことは……おっしゃ! ただ飯もいいところじゃねぇか!


「それで銀さんにとっては、敗者復活戦的な立ち位置だったんですよ」

「「敗者復活戦?」」

「一文無しになったらどうしようかって、企画会議で出まして。それで失礼ですけど、新八君と神楽ちゃんに聞き取り調査を。
……幸子ちゃんの付き添いで安定収入は得られているものの、未(いま)だ飲み屋や家賃などの滞納はアリ。
預金についてもかなり危ういところ。つまり銀さんのポケットマネーを引き出すことは無理」

「アイツら何ぺらぺら喋(しゃべ)ってんだ! てーか神楽のやろ……それじゃあ知ってたよな! 全部知ってて逃げやがったな!」

「なので銀さんに別の番組企画……つまりタカタ食堂を、ゲストとして盛り上げ手伝ってもらうんです。
その出演料を再挑戦に充てられればと……思っていたのにさぁ! なにさなにさ、六十五万八千円って!
むしろ私達が出演させているんだから、そのお礼としてお金をもらいたいよ! というわけで六十四万円返して♪」


なので拳をプレゼントー♪ 容赦なく春閣下(はるかっか)が地面に倒れたので、少しだけ溜飲(りゅういん)を下げる。

……ったく、とんでもねぇな! 預金があったら、それでもOKって構えかよ! どんだけ身を削らせるつもりだ!

最近のバラエティーは内輪ネタでヌルいのが主流だろ! 完全に逆行してるだろ、どっかの時代に!


「でもどうするのよ。知っての通り、いろいろ勝ちまくってるけど」

「私はおねむだったけど……もうお金、いっぱいなんだよね」

「あ、それは私から説明します。なので予定されていた出演料二十万円は」

『二十万円!?』


へごちんの口から出た額がとんでもなくて、つい前のめり。ちょ、そんなに出すつもりだったのかよ!


「番組スタッフを通し、銀さんのツケや滞納家賃に補填されています。これで借金はチャラですよ!」

「あとはわたくしと一緒に、食の旅へ出るだけです。さぁ、参りましょう」

「何してんだちんちんコンビ! 俺が汗水垂らして仕事した金だろうが! 勝手に使い道を決めるなよ!」

「いや、犬の芸じゃないから。でも銀さん、銀さんってデレステで楓さんを引きたくて……だよね」

「たりめぇだ! そのためにこの春馬鹿と朝から顔を付き合わせてんだよ!」

「でも借金がそれだけあったら、お金を持って帰った途端に取り立てられるよね。その心配がなくなったって考えるだけでも」


確かに……しぶりんの言うことは筋が通っていた。あのごうつくババアどもなら、金を遠慮なくむしり取りかねない。

ち、ここは後顧の憂いをなくしたとしておくか。幸い新八達も、隠し預金の存在には気づいてないしな。

そう、預金はあるんだよ……へそくりとも言うがな! それも会わせりゃ、楓さんのお出迎えは可能だ!


「それにお仕事って言っても、四条さんが食の旅って」

「確かに……しぶりん、大人になったな。アニメを半年やるとやっぱ違うぜ」

「私達はいつからの知り合い!? わりと最近だよね、顔合わせしたの!」

「じゃあ何度も何度も終わる終わる詐欺を繰り返し、何だかんだで十年近くやってるアンタは何なのよ。何で何一つ成長していないのよ」

「何言ってんだ、成長してるだろ。画質と画面サイズ、映像技術はたっぷりと。
あ、番組に関わるおっさんどもの毛根と、あっちの耐久値はがた落ちだがな」

「アンタの話をそこに含めなさいよ!」

「で、では納得して……くれましたね」


春閣下(はるかっか)は復活し、先を指差す。更にへごちんもガッツポーズを取るので、しょうがないなと笑ってしまう。


「では行きましょう! タカタ食堂スタートです!」

『おー!』


さぁ、食べるぞ……きっと楽しいことがいっぱいだ! オラ、もう腹ぺこぺこだー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


春閣下(はるかっか)とお姫ちんに引っ張られ、やってきたのは黄色がメインカラーなカレースタンド。

えっと……ららカレーだっけ? 何かライトな感じで、拍子抜けしていたら。


「お待たせしました。『いつもの』です」


やや細いおっちゃんコックが、お姫ちんの注文『いつもの』を俺達全員に運んできた。

安心しきっていたが故の不意打ちだった。それはカツカレーだった……だが、そのサイズは。


「「え……!」」

「ティ、ティアちゃんー!」

「おい……俺の顔よりでけぇぞ、どうなってんだ!」

「これ、食べたら幾らもらえるって類いのチャレンジサイズじゃない!」

「はい、そうです! こちらのカツカレー、がっつりサイズでイケちゃいます!
ほら、見てください……カツもこんなに大きく、さくさくで美味(おい)しそう! それが二枚も!」

「さすがにこの大きさで一枚カツは難しいですから。ですが枚数の多さは、そのまま満足感となります」


へごちん達が引くほどのでかさだった。そ、そうだった……お姫ちんのって辺りで覚悟するべきだった。これ、とんだ耐久レースじゃねぇか!

と、とにかく腹は減っているので、スプーンを取っていただきます――まずはルーとライスを食べてみるが、驚いてしまう。


「おい、これ美味(うま)いぞ!」

「はいー! とっても美味(おい)しいです!」

「ですね……サイズから大味かと思ったけど、とんでもない。いわゆる欧風カレーだが、その基本はちゃんとしています。
煮込まれた野菜のコク、風味がたっぷりで、スパイシーながら甘い……でも甘すぎない。これぞまさしく、日本人の大好きなカレー!」

「カツもさくさく……そうか、四条さんは量が目立ちがちだけど、らぁめん探訪で紹介するお店も美味(おい)しいところばっかりって」

「ルナモン、辛(から)さは大丈夫?」

「うん。美味(おい)しい……コレ、美味(おい)しいよー」


クールなしぶりん、ツンデレガンナーティアナ、そしてピュアなルナモンも、無言でがつがつと食べていた。


「すみません、ご飯の追加を」


そうそう、ご飯……ご飯!? 全員でお姫ちんの皿を見ると、もうご飯が八割がたなくなっていた。

そして二枚あった分厚いカツは、既にあと一枚……食べ始めて一分も経(た)ってねぇぞ!


「ちょ、貴音さん! もう食べきる寸前ですか!」

「いいえ春香、これはまだ六合目ですよ」

『六号!?』

「おい馬鹿やめろ! それだと俺達にも飯がくるだろ! おい、やめろよ……俺達はこれで十分だからな! 十分満たされているからな!」


念押ししながらも、またルーとライスを一心不乱に食べる。流れる汗も、スパイスの香りと味わいで加速する。

鈍くなりそうな食欲は逆に花開き、俺達を後押しする。くそ、悔しいがカレーは美味(うま)い……この企画も正しい。

美味(うま)いものを食って、満足して、健康にならないはずがない。あとはよく遊び、よく寝ればいい。それだけで、俺達は幸せなんだよ――!


「すみません、アレを」


おい、またライス追加か! ……かと思ったら、お姫ちんの皿はルーもさほど残っていなかった。

残り二割のご飯と同じくらいだ。あとはカツのラストが、それからやや離れた位置に置かれていた。

しかも店員が持ってきたのは、白いポット。飯が入った容器じゃないので、俺達は大混乱。


「ちょ、何よそれ!」

「お茶、ですか?」

「いいえ、これはチキンスープです。……見ていてください」


スープを残り二割にかけ、スプーンで混ぜ始めた。こ、これは……!


「そうか、カレー雑炊か!」

「そのようなものです。さぁびすの一つなのですが、締めとしては最高です」

「だからカツも避けたんですか。スープで衣がびちゃびちゃに」

「はい。ですが多少吸わせてもまたよし……みなさんも試してみてください」

『是非!』


これはあれだ、ひつまぶしでもやってる、汁物締めだろ! 確かに腹はぱんぱん寸前だが、絶対美味(うま)い!

――というか、美味(うま)かった。そう、美味(うま)かった……俺達は腹を膨らませながらも、何とか完食。

一部の疑いもなく、隙(すき)もなく、美味(うま)かった。心も、体も満たされ、満足している。そう言い切れる一時だった。


『ごちそうさまでした!』


店のおっちゃん達には重々お礼を言って、代金も支払い、外に出た。まだまだ寒い日は続くが、不思議だなぁ。

腹は満たされ、体はぽかぽか。これもスパイスの力ってやつか。てーかこれで二十万? すっげーボーナスじゃねぇか。


「いやー、すっげーボリュームだったが、味も抜群だったな! てーかルナモン、腹デカいぞ!」

「あう……恥ずかしいよぉ」

「大丈夫、銀さんだって似たようなものだし。……だけどティアナさんもよく完食できたよね。結構食べる方なのかな」

「私だって一応魔導師で、体育会系だしね。ただ今回はキツかったかもー」

「私も同じです。あんなにいっぱい食べたの、久々です」

「いや、みんな満足してくれて何よりです。これならタカタ食堂、一回目としては成功ですね」


お、春閣下(はるかっか)は締めのコメントか。先頭を歩きつつ、マイクを持ってカメラに笑顔。


「私達は別に、ダイエットやヘルシーを否定するつもりはありません。でも……それは飽くまでも、選択肢の一つなんです。
そして選ぶにしても、『健康的に』という条件がつきます。みなさん、忘れないでください。
いっぱい食べることも、ダイエットやヘルシーも悪くありません。……体に悪いやり方が悪なんです」

「いや、春閣下(はるかっか)の言う通りだ。お前らも女でいろいろ気にするだろうが、まずはちゃんと食え。
朝昼晩、しっかり食え。作ってくれる母ちゃん達にも感謝して、残さないようきちんとする。
ダイエットも医者なりに相談して、体にいいかどうかを見極めた上でやれ。いいな?」

「「「はい!」」」

「では本日のタカタ食堂は、これにて! お相手は」

「……あれ、待って!」


これで気持ちよく締めようとしたら、ルナモンがティアナの腕から抜け出し。


「貴音さん、どこ!?」

『え!?』


着地しながら、お姫ちんの消失を知らせる。全員で驚き、足を止めて周囲確認。

だが今歩いているのは、決して広くはない歩道だぞ。カレー屋から出て一分も経(た)ってないのに。

……嫌な予感がして五時方向を見やる。そこは担々麺の専門店らしく、上りも出ていた。


そこを……いや、そこに入ろうとしていたお姫ちんを指差す。


「おいてめぇ、何してやがる!」

「……はい?」

「きょとんとしないでよ! え、嘘……今さっき、あのカレーを食べたばっかりよ!?」

「いえ、ここだけは是非」

「是非じゃないから! ちょ、春香さんも止めて! もう終わりだよね、このロケ!」

「そうでした……!」


そうそう、次回に回せよ。取材許可を取り付けるだけに留(とど)めて、次回さぁ。


「このタカタ食堂には、『四条さんが食べたいと思ったら』何件でもはしごする! そういうルールがありました!」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』


すかさず春閣下(はるかっか)に跳び蹴り――ふざけんなてめぇ! コイツのはしごに付き合ってたら、俺達が死ぬだろうが!

そうか、これが二十万円の重さ……! 逆に納得したわ! というか馬鹿じゃねぇの、スタッフ! 考えたのは誰だよ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


雪原でのスリーマンセルによる戦闘は、熾烈(しれつ)を極(きわ)めた。猫男も海外暮らしでかなり鍛えていたようで。

ゴスロリ少女の強化魔術もプラスされ、油断できない強敵となる。それにジャックもこれがまた……世界は広い。

僕より強い、別次元の相手は山のようにいる。そんな喜びも感じながら、右薙一閃――ジャックと剣閃を交わし、滑りながら停止。


すぐに右へと走って、ジャックとにらみ合いながら併走。こっちも強化魔術によるサポートで、速度が尋常じゃなく上がっている。

油断すれば、一撃で首を落とされかねない。でもいいね……やっぱり、戦いはこうでなくちゃ!


「……ごめんね」


ジャックは十メートルほど先から、一気に肉薄。そうして打ち込まれた、左薙の切り抜けを防御……でも攻撃は止まらない。

縮地を連想させる、四方八方からの斬撃。……それを超直感によって、先読みしつつ何とか防御。

鋭い跳躍と走り込みにより、雪が白く舞い散る中……十六合目、九時方向からの斬撃が飛ぶ。


左腕のジガンをかざし防御。その上でバッシュし、胸元に刺突。

なおアルトは逆刃刀モードで、切っ先も魔力使用によって非殺傷状態にある。しかしそれは、上半身を後ろに逸(そ)らすことでたやすく回避。

足がバク転で蹴り飛ばされる前に、時計回りに回転。そのままジャックへ再度踏み込み、右薙一閃。


斬撃は両手のナイフで防御されるものの、彼女を捉えて雪原に叩(たた)きつけ、そのまま滑らせる。そうしてまた、白が空に舞い散っていく。


「加減はするけど、すっごく痛い。もう、条件は整った」

≪条件? ……これは≫


……いつの間にか僕達の周囲には、『霧』が漂っていた。そう、舞い上がった雪によって生まれた……なんちゃっての霧が。


「此よりは地獄。“わたしたち”は炎、雨、力」


そして数メートル先で立ち上がったジャックは、鋭い眼光をこちらに向ける。……アルトを鞘(さや)に収め、僕も息吹。


「焦がれし温(ぬく)もりへの略奪を此処(ここ)に……『解体聖母』」

≪それは……!≫

「この霧の中では、避けられない……呪(のろ)いでもあるため、防ぐこともできない……条件は、もう揃(そろ)った」

「察するに霧と、対象が女性であること……夜が発動条件ってわけ? ジャンヌ」

「そ、そうです……そうだ、それがジャック・ザ・リッパーの対人宝具です! く、また忘れていたなんて……!」

「ジャンヌは悪くない。わたしたちには、情報抹消ってスキルがあるから……忘れちゃうの。戦ったすぐ後から」


だったら回避・防御不可能な上、対策不可能ってのもあるよね。でも……残念ながら、条件は完璧じゃない。

確かに雪が舞い散ったことで、零度の霧は生まれた。だけど重要なところが一つ、整ってないよ。


「でもあいにく僕は男だ」

≪それに呪(のろ)いも通じませんよ。あなたが痛むだけでしょ≫

「だから加減……大丈夫、痛みは分かち合うもの。わたしたちのために、あなた達だけ痛い思いをさせるのは……嫌だ」

「ありがと。界王拳――四倍!」


界王拳を発動――赤く迸(ほとばし)る気を、鞘(さや)内のアルトに凝縮――界王鉄輝一閃を打ち上げる。そうして無行の位を取り、いつでもこいとアピール。

構えたナイフからおどろおどろしい殺気が生まれ、研ぎ澄まされ、赤き刃と化していく。

そんな中、あの子は鋭い瞳のまま、僕を見据える。それでいいのかと……加減はしていても、死ぬほどいたいのにと。


「本気、なの?」

「おのれと同じだよ。……それなら僕を置いてけぼりにして、ジャンヌに撃てばいいはずだ。
それにどうせ、自分から霧を出す宝具もあるよね。雪なんて使わずにさ」

「……これは、殺りくじゃない。温かい場所を、手を伸ばして掴(つか)む……だから、そんなことはできない」

「だから付き合うよ。じゃなきゃ、僕が本気だと分かってもらえない」


鋭い眼光をたぎらせ、ジャックは笑う。……左手は鯉口(こいぐち)に添え、抜刀の備え。回避も、防御も不可能。

でも条件は擬似的にでも揃(そろ)い、発動は可能……女性って大前提が抜けているのは、どういうことだろうか。

とにかくそれなら、発動前に潰すしかない。ジャックに、あの子に見せるべき技は、たった一つ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


何とか月詠幾斗を組み伏せ、ホールドアップさせる。魔術師(キャスター)の子もそれで止まってくれた。

人質に近い真似(まね)ですけど、ほんと許してください。強化魔術をかけられているとはいえ、身体能力と身のこなしでサーヴァントとやり合うなんて。

オルタの刃もやすやすとかわし、私も旗を囮(おとり)にしなければ、組み付くことすらできなかった。


マスターが敵対時、あむ達共々苦戦したのがよく分かった。キャラなりは可能性の力……彼にはあるんだ。

サーヴァントですら、たやすく捉えられないほどの何かが。……我々サーヴァントが、最強を名乗るのはやはりおこがましい。

我々は結局のところ、過去の存在。今を生き、進む者達とは違う。改めてそう感じたところで、状況が変化。


しかもそれは寒気がするものだった。マスターとジャックが相対……発動する宝具は解体聖母。

雪霧の中、加減していると言えど宝具を放つ。それに真正面から迎え撃つ。そんな人間がいるなんて、普通は思いません。

これは警告に等しかった。『条件を整えたから、あなたの負け。だから降参して』という、殺人鬼にしては甘い優しさ。


だからジャックは嬉(うれ)しそうだった。自分の思いを受け止めてくれる、マスターの力強さに。


「……おい、チビは大丈夫なのか。宝具ってのは必殺技なんだよな」

「まぁ、死ぬことはないと思いますが……死ぬほど痛いでしょうね。でも止められませんよ」

「だよなぁ。だから負けたんだよ、俺達は」

「ジャック」

「邪魔、しないでね」


魔術師……本を持ったあの子を止めて、二人は飛び込むタイミングを計る。この土壇場で、解体聖母に対して放つ抜刀術。

それは……もうアレしかない。マスターのお師匠様も得意技とする、飛天御剣流『天翔龍閃』――!

最初は漫画の技を……と思っていたけど、実は同じ理論の抜刀術が、実際に存在しているらしい。


例えば『神夢想林崎流』で使われる右身の技。例えば『信抜流』の居合い術……そこで意味を悟る。

なぜその技を持って、ジャックを迎え撃つのか。もちろん理論的ではある。解体聖母は回避・防御・対策不可能な宝具。

それより先に打ち込めたなら……でもジャックは魔術強化により、その速力はマスターを上回っている。


恐らく次の踏み込みは本気中の本気。私達サーヴァントでも、目に映るかどうか。


「……目を離すなよ、本の子よ」

「分かってる。勝負は」

「一瞬でつきます」


雪霧が揺らめきを失い、雪原の一部へと帰り始める。そんな予兆を霧の動きから察した瞬間……ジャックが消えた。

足下の雪を蹴り飛ばし、二十メートルもない距離を疾駆……でも、同じタイミングでマスターも消えた。

相手と同じ速度で踏み込み、雪霧をその動きで再び振動させ、舞い上がらせる。……そう、同じ速度だ。


踏み込みで負けるのなら、相手より速い抜刀術でそれを補う。なら勝敗を決するのは。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


先生が実際に撃ったのを見てから、実在流派にも同種の技があると知ってから、ずっと練習し続けてきた。

でもずっと撃てなかった。踏み込みは半端になり、超神速へどうしても到達できない。

選択肢はたくさん試した。正義を謳(うた)いながら、馬鹿しかしないフェイト達など振り切り、一人で突き進む。


又は管理局に全てを預け、その上で正しいことを……でもどれもこれもが、後ろ向きな答えを内包する。

でもそれは当然だった。僕には勇気がなかった。欲しいものを欲しいと言う勇気が……それは最低条件なのに。

誰よりも自分が、その夢を認めていない。誰よりも自分が、その夢を否定している。だから自信を持って口にできない。


テレビのヒーロー達みたいに、全力で手を伸ばせる自分。そんな勇気に溢(あふ)れた自分……それが夢だと言えばよかった。

誰に否定されても、誰に笑われても、それでも描いた夢は正しい。そう言えなかったのが、あの頃の僕。

そういう意味では、フェイトやリンディさんは正しかった。夢を外に出して、形にしていくことから逃げていた。


実際白リンディさんからは、『そういう話がしたかった』と言われたよ。同時に謝られたのがキツかった。

……それが変わってきたのは、良太郎さん達と出会った頃から。世界は僕が思っているよりずっと広く、深かった。

敵だっていた、殺し合うしかない奴らだっていた。スーパー大ショッカーなんて特にそうだ。


てーか……ひーろーずの方は、僕も絡めるように設定変更してよ! ISとか乗りたいよ、僕だって!

……撃てるようになったのは、そんな無茶(むちゃ)なことも言えるようになってから。やりたいことを、素直にやりたいと言えるようになってから。

巨大×キャラと戦って、最初の夢を、かっこいいと思ったキラキラを思い出してから。


夢とは諦めないこと。輝きを信じ、育てていくたまご。……この一歩は僕だけじゃ踏み出せない。

こんな僕にずっと付き合ってくれたアルト、ジガン、ヒカリ、シオン、ショウタロス……それにみんながいたから踏み出せる。

ただ速いだけじゃ意味がない。正しいだけでも意味がない……もちろん強いだけでも意味がない。


どうせなら速く、正しく、そして強い。全部が揃(そろ)ってカッコよければ更に楽しい。

そう、全部だ。全部が欲しい……この一歩はそんな未来に続いている。そう信じているし、信じたい。

――踏み込むのは左足。その勢いに載せて、赤いアルトを抜刀。魔剣Xの輝きは、その中で最高潮に高まっていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


勝敗を決するのは、技を放つ直前の踏み込み――その力強さ! お互いに一撃必殺。なればこそ必要になる。

技への信頼、勝利への邁進(まいしん)、未来への進軍。たった一歩の踏み込みが、技の速度に刹那の、明確な差を作った。


「「――――――!」」


そして、衝撃が弾(はじ)ける。それが霧を全て吹き飛ばし、勝利者の姿を映し出した。


「……う……そ」

「飛天御剣流」


……踏み込むは、後ろ向きの感情など一つもない、迷いなき左足。放たれた剣閃の色は蒼。

そう、蒼だった。マスターの界王拳は刃を打ち込む課程で、魔剣Xの輝きに染まっていた。

あれは人の心を、その波長を映し、力とする特殊素材。それゆえに私達サーヴァントとも対等に斬り合える。


マスターは心の色を身に纏(まと)いながら、夢の鉄輝で呪(のろ)いを打ち砕いていた。


「天翔龍閃もどき――!」


ジャックはナイフを振るう寸前で、胴体部を一閃。空へと吹き飛んだらしい。

そのタイミングは本当に、見えなかった。彼女はそのまま落下……雪がクッションとなったため、大したダメージはなかった。

もちろんマスターが逆刃刀を使っていたから、というのもあるのですが。その様子に、安堵(あんど)の息を吐く。


「ジャック!」

「大丈夫……でも、わたしたちより……速い、何て。それに……左足」

「……天翔龍閃は、左足の踏み込みにより抜刀を加速させるのよ。でもこれが結構危なくてねぇ。
死中に活を求めるとか、そういう後ろ向きな踏み込みだと……全く効力を発揮しない。実際足を切ることもある」

≪結構やりましたよね、浅くですけど≫


マスターは界王拳を解除。刃を逆袈裟に振るい、荒い息を整えながらも納刀。


「今は……違う、の?」

「違うよ。欲しいものを『欲しい』と言えなかった頃とは」


それはマスターなりのエールだった。ジャック達と変わらない……自分にも、自分の欲しいものを『欲しい』と言えなかった頃がある。

そのために健全な努力を積み重ね、手を伸ばす勇気もなかった頃。それはきっと……機動六課やらがあった頃。

奥様やリンディ・ハラオウン達が、局員であることを……組織に全てを預ける、そんな道を望んでいた頃。


マスターがまだ夢のたまごとも、時の電車とも……もちろん私達とも出会っていない頃。マスターはきっと怖がっていた。

声を上げていいのか、手を伸ばしていいのか……迷って、迷って、結局夢を口にすることもできず。

誰かとそれを語り合い、温めることもできない。とても小さく、臆病な頃。でも数々の出会いと旅、戦いがマスターを変えた。


「僕は欲しいものがたくさんだった。美味(おい)しいものだって食べたいし、楽しいことだってしたい。
ドキドキする冒険だってしたいし、強い奴とだっていっぱい戦いたい。だから踏み込める……だって」


マスターはジャックへ近づき、その手を掴(つか)んで優しく起こす。フラつくジャックを受け止め、優しく頭を撫(な)でてあげる。


「踏み込んだ先には、今より少しだけわがままになった先には、きっと『なりたい自分』がいるから」

≪つまりもっと欲望を解放するんですね。ならセブンイレブン計画、邁進(まいしん)しましょう≫

「違うよ!?」


……そう、マスターはとても欲深だった。そうして変わって、前に進んで……でも変わらない人間などいない。

だからわがままになる。わがままに自分の夢を、願いを追いかけ、叶(かな)えていく。そうした先で、私達はマスターに出会えた。

きっとあの子達も……でもあの子達はそんな希望に目を輝かせながらも、困り気味に笑う。


「……でもわたしたち、負けちゃった」

「あたしも……さすがに、一人は無理。魔術師はそんなに万能じゃ」

「ぐ、ぐぅ……うがー、やられたー!」


そこでサンタオルタが臭い芝居を打って、雪にバタリと倒れる。


「え……サ、サンタさん?」

「マスターの必殺技に、かっこいいところに……やーらーれーたー」

「「あたし(わたし)たちは関係なし!?」」

「ほんとだよ! ちょ、やめてよね! それだと僕、味方殺しじゃないのさ! あとかっこいいとか言うな! 言うと嘘(うそ)くさくなるから!」

「……サンタがやられてしまったなら、プレゼントは略奪されちゃいますね」


月詠幾斗のホールドを解除。彼は少し体がいたそうに、首などをごきごき慣らす。


「よかったな。チビがドジなおかげで、プレゼントはお前達のものだぞ」

「だから僕のせいって体はやめてよ!」

「ほ、本当にいいの!?」

「あたしたち、プレゼント……もらっても!」

「……まぁいいか。ちゃんと声は上げられたしね」

「「……ありがとう、サンタさん達!」」


達って……私達まで、サンタ扱いみたいです。それに苦笑しつつ、聖夜の奇跡に感謝する。

主よ……彼女達もまた、今を生きる変革する魂のようです。私はまだまだ、世の中を知らなかったのかもしれません。


「あの赤いサンタさん……じゃないんだっけ。大きなお腹(なか)のおじさんが言っていた通りだね」


そうそう、赤いサンタさん……ん? 大きなお腹(なか)……何だか、嫌な予感が。


「あとは銀髪のお姉ちゃんもだよ。あたし達がいい子にしていれば、必ず本物がきてくれるって」

「……ちょっと待って。おのれら、サンタさんっぽい奴らと会ったの? 僕達以外に」

「うん。お兄ちゃん達の前に、ばったり……でも自分達は違うって」

≪それで、何か書類を書かされたりは≫

「お絵かき? してないけど」

≪まぁ小さな子達だから、取れるようなお金もないの。というか、あったら最初からジガン達を引き込まないの。
……な、なら外見は! 外見はどうなの! それも教えてほしいの!≫

「お腹(なか)の大きな、赤い服のおじさんと……右目に眼帯を付けた、銀髪の小さなお姉さんだよ。わたしたちと同じくらいだけど、お姉さんだって」


間違いない……! サンタを騙る詐欺師コンビじゃないですか! まさか、ジャック達にも関わっていたなんて!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


現在、クリスマス前の織斑家は大慌てだった。数日前からのプレゼント配りとか、中断する勢いで混乱していた。

やべぇよやべぇよ! ラウラの奴、詐欺師に荷担って! 言い訳できないだろ! というかドイツ軍人って設定はどうした!

てーかドイツのクラリッサさん達とも、連絡が取れないしさ! あぁ……千冬姉がいら立って貧乏揺すりを!


でもやめろぉ! 揺すりすぎて、床がぎしぎし言ってる! 壊れる……オレ達の家が壊れる!


「……で、僕を呼び出したと?」


その場合オレ達では押さえられないので、火野プロデューサーにきてもらいました。

だって八神はデート中だし、蒼凪の恭文はセイバーがサンタライダーに変身したとか、わけが分からん状況だし……他にいなかったんだよ!


「まぁいいけどさぁ。春香に説教した後は、完全オフだったし」

「ほ、本当にすまん。だが力で千冬姉を止められるのは……!」

「笑いのツボでも修得すれば? 夏みかんから教わって」

「多分オレが打ち込んでも、間違いなく返り討ちだ」

「イチカと同感。というか織斑先生、身体能力だけで人間離れしてるし……というかラウラ−!」


シャル、落ち着け! 怒るな……怒れば千冬姉という火山を煽(あお)る! そんな、ペンタンデッキを握り締めなくていい!

あれか!? バトルでお仕置きとかか! それでも駄目だ、ここは冷静に……そ、素数を数えて何とかなるだろうか!


……そこで携帯に着信……ただし火野プロデューサーの携帯だ。プロデューサーは電話に出て。


「はいもしもし、火野です。あぁダーグ? うん……うん……あぁそうなんだ。分かった、ありがと。こっちも一応警戒しておくよ」


すぐに終了した。仕事の邪魔ならと思っていたら、どうも違うらしい。困り顔で俺達を見てきた。


「……東京(とうきょう)タワーにネイティブが出たの、話したよね」

「それはさっき、聞いたからな」

「あれもどうも、サンタの仕業らしい」

「「はぁ!?」」

「連中はやっぱり、根岸(ねぎし)派の数少ない生き残り。とにかくあの場から逃げたらしい一人を、ダーグが捕まえてね。
尋問したらゲロってくれたよ。赤いサンタに説教されて、気づいたら東京(とうきょう)タワーを襲っていたって」

「何やってんだアイツらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


テロリストの扇動って、マジで犯罪じゃないか! 説教って何だよ!

どうしたら更正じゃなくて、気づいたら襲うって話になるんだ! てーか洗脳!?

扇動で洗脳ってか! 笑えねぇよ! サンタって何だよ、不幸をもたらすテロリストのおっさんか!


まぁまぁ覚えはあるけどさ! バトスピサンタもいたしさ! でも基本は違うだろ!


「ち、ちなみに説教って、中身は」

「悪の組織なら、まずやることがあるだろって感じで……やれ幼稚園バスを襲えとか、やれ名所を占領して洗脳電波を流せとか」


シャルも聞いたことを後悔し、頭を抱える。ラウラだ……そういうことを言うのは、もうラウラしかいねぇ!

あとは桂(かつら)さんしか思いつかないけど、さすがに銀髪じゃないよな! 絡んでいないよな!

いやほんと、そう思わせてくれ! あの二人が絡むと、マジで収拾がつかないんだよ!


「ちなみにそれらしい奴らは、天道さんや加賀美(かがみ)さん達がたまたま遭遇・撃破したらしいよ」

「そりゃ、よかった……って、よくないよ! どうしよう、それは言い訳できないー!」

「でもラウラのアホはともかく、クラリッサや黒ウサギ部隊までってのは、ちょっとおかしくない?」

「……やっぱり、そうだろうか。シャルや白式達にも言われたんだが」

「もしかしたら極秘任務か何かで、総出……でもなー! 眼帯で銀髪、電波行動と言ったら、ラウラしか思いつかないよ!?」

「だよねぇ。しかもそんな詐欺サンタに荷担しているとなると」


よくよく考えたらアイツ、人間として特徴がありすぎるんだよ! 全てにおいて目立ちすぎるんだよ!

銀髪・眼帯・小柄体型・電波なんてコンボ、揃(そろ)っているキャラは少ないからな!

普通は確実に、どっか一つが外れるぞ! 外れない理由がどこにもないぞ! つまりあれかな!


ラウラが詐欺サンタに電波でついていって、それをクラリッサさん達が追っている!? それならまだ分かるが……ラウラァ!


「……よし、殺そう」

「千冬姉ぇ! 結論が早い! 今はそのするめをかじっていてくれよ!」


時間が潰せればと、するめを渡していたんだが……千冬姉、遠慮なく噛(か)み砕いていく。あれもいつまで持つか。


「……あれ」

「どうしたの、火野プロデューサー」


シャルが怪訝(けげん)そうに聞くが、それも致し方ない。……火野プロデューサー、明らかに顔色が悪くなってるんだよ。


「あの、顔色が何だか」

「いや、もしかしたら……でも、そんな」


何に気づいたのかと思っていると、装着している白式からアラームが響く。


≪……一夏、レーゲンから通信です≫

「何だって! い、今はどこだ! 通信は繋(つな)がるのか!」

≪はい。既にこちらの事情は説明していますので……繋(つな)がりました≫

「ラファール!」

≪既に白式と連携、逆探知も進めているよ。でも、ここは≫


よかったー! ……そして素早く走り込んでくる、悪鬼こと千冬姉。


「駄目ですよ」


しかし火野プロデューサーが組み付き、容赦なく寝技に持ち込む。す、すげぇ。千冬姉が完全に動けなくなっている。


「離せ、火野……!」

「事情を聞いてから怒りましょうよ。それに……勘違いかもしれませんよ」

「そんなわけがあるか! あそこまで特徴的な奴が他に」

「もう一人います」

「……なんだと」

≪先生、それは事実だよ。……東京(とうきょう)タワーの事件が起きたのって、一時間前だよね。今……レーゲンの反応、南ドイツなんだけど≫


火野プロデューサー、そしてラファールの言葉がかなり気になるが、今は助かったことに安堵(あんど)する。

まずは冷静に話を! それからじゃないと、通信越しにラウラが呪(のろ)い殺される!


『私だ』


そしてモニターが展開……ようやく出てきたよ、この馬鹿! 更に防寒着姿のファンビーモン達も登場する。

……あれ、ここ……雪山か? というかラウラの後ろにこう、見知った顔があるような。

あの紫ツインテールと、青いショートヘアーは……朝比奈りんさんと、三条ともみさんじゃ! 何でいるんだよ!


『すまん……特別任務でドイツに戻っていてな。先ほどみんなからのメールを確認して、状況は理解したところだ』

「ラウラァ! お前何やってるんだよ! 特別任務って何だよ!」

『もみの木の回収だ』

「もみの木ぃ!?」

『クリスマスツリーは、南ドイツ発祥でな。業者などの迷惑にならないよう確保した木を、デコレーションとしてツリーにする。
それを病院や孤児院に、クリスマスプレゼントとして寄附する計画だったんだ。一応秘密の話だったので、お前達にも黙っていた』

「じゃ、じゃあラウラ、赤い詐欺サンタと一緒じゃないんだよね! それでクラリッサさん達も一緒!」

『それは一体何のことだ。私は昨日から今まで、回収手順のシミュレートやら、作戦実行のため、ドイツから離れていないぞ』


マジかよ……! つまりラウラは、詐欺サンタに騙(だま)された馬鹿じゃない! というかそもそも関わっていない!

そうだよそうだよ、瞬間移動でもしなきゃ、東京(とうきょう)から南ドイツまで一時間でいけないだろ!

クラリッサさん達……は身内だから駄目か。それ以外での証人もいるなら、ラウラの無罪は立証される!


『あ、それはぼく達も証言するぶ〜ん。結構大変で、世界旅行なんてできる状況じゃなかったぶ〜ん』

『るごるごー』

「なら、あの……後ろに魔王エンジェルっぽい二人がいるよな。あれは」

『彼女達はクリスマスの番組企画で、取材に来ていたらしい。業者や現地ガイドと一緒にな。
一応こういうことがないよう、業者の養殖地などとはかぶらない、かなり外れの林を選んだんだが』

「アイドルって、大変だなぁ」


……って、いたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 都合よくいたよ、身内以外の証人! 現地ガイドや業者さんも一緒なら。


「ラウラ、今は何してるんだ!」

『向こうの企画と合流できるよう調整中だ。朝食の準備もしつつなので』

「なら朝比奈さん達にも協力してもらってくれ! お前、かなりヤバいことになってるんだよ!」

『……よめ!? よめよめー!』

『今確認した。つまり私の偽物が出ているのだな……許さん! そうして嫁を奪うつもりか! ISクロスの正ヒロインとなった私から!』

「それは絶対違うだろ!」


何でお前みたいなクアトロコンボキャラを、わざわざ狙って変装……した奴がいたぁぁぁぁぁぁぁぁ!

てーかホメオシスタスゥゥゥゥゥゥゥゥ! ヤバい、ラウラの推論がないとは言い切れない! マジであるかも、そのコース!


「だが、それなら銀髪眼帯は誰なんだよ」

「ラウラじゃないとするなら」


オレ達は完全にアテが外れ、絶賛メダパニ状態。だが、答えを知っている人はいる。

だからシャルと二人、自然と……火野プロデューサーを見ていた。千冬姉と組んずほぐれつ中な、魔導師を。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……ちょっと待って。おのれら、サンタさんっぽい奴らと会ったの? 僕達以外に」

「うん。お兄ちゃん達の前に、ばったり……でも自分達は違うって」

≪それで、何か書類を書かされたりは≫

「お絵かき? してないけど」

≪まぁ小さな子達だから、取れるようなお金もないの。というか、あったら最初からジガン達を引き込まないの。
……な、なら外見は! 外見はどうなの! それも教えてほしいの!≫

「お腹(なか)の大きな、赤い服のおじさんと……右目に眼帯を付けた、銀髪の小さなお姉さんだよ。わたしたちと同じくらいだけど、お姉さんだって」


間違いない……! サンタを語る詐欺師コンビじゃないですか! まさか、ジャック達にも関わっていたなんて!


「……マスター、どうやらこのまま見過ごすわけにはいかんぞ」

「そ、そうです! さすがに遭遇者……というか、被害者が多すぎですよ!
やはり私達で止めましょう! サンタが詐欺師の代名詞になる前に!」


でもマスターはそこで、頬を引きつらせていた。汗をだらだら流し、不可思議空間から出てきたショウタロス達も同じ様子。


「マスター?」

「な、なぁヤスフミ……確かラウラって、眼帯は『左目』だったよな」

「……うん」


あぁ、そうだったんですね。でもそれが何か。実際彼女が相当に電波で、困ったキャラなのは……左目!?


「だが今、ジャックは右目と」

「うん」

「というか銀髪で、ジャックさん達と同じくらいの女性……更に右目で眼帯を付けている人となると、思い当たるのは一人しか」

「だよねぇ……!」

「マ、マスター」


つまり、ラウラ・ボーデヴィッヒではない? では誰が……!


「ねぇ二人とも、この写真の、どっちかな。その……銀髪眼帯」


マスターはモニターを展開。二人によく見せるのは、銀髪眼帯コンビの写真。

そこはパーティー会場らしく、食べ物を片手に腕組みしていた。一人は左眼帯に赤い瞳の子。

アホ下が左にカールして、天使の輪にも見える。もう一人は右眼帯でゴールドアイズ。


似ているように見えて、髪質が全然違っていた。赤目(あかめ)の子――ラウラ・ボーデヴィッヒは、やや跳ね気味なクセっ毛。

そして私も写真を見て思い出した、このゴールドアイズの子はサラサラストレート。ジャック達が指差したのは。


「「こっちだよ」」


身長も、体型もほぼ同じな二人。しかし明確にある違い……それを元に判断された、疑いようのない証言。

私達がもっと早くに気づくべきだった可能性。そう、その名は。


≪……ラウラさんの方がキャラも濃いですから、すっかり忘れていましたよ≫

「チ――かよぉ」

≪ジガンもなのぉ! はわわわわ……すぐにギンガちゃん達へ連絡するのー!≫

「チンクさんかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


チンク・ナカジマ――! ラウラ・ボーデヴィッヒと声・性格・外見がよく似ている、双子のような存在!

本人達もそんな特徴からか、いろいろ気が合うって言ってました! でもごめんなさい……すっかり忘れていましたぁ!




というわけで記念小説第四幕! ついに判明した真犯人! 詐欺サンタと決着をつけるべく、恭文達は拍手世界を駆ける!

そしてすっかり勝利者な銀さん! 果たして春悪魔の誘惑に打ち勝ち、渋って渋って設けたお金を守り切れるのか!

年を越してもクリスマス! 百年経(た)ってもやよいおり!


そんな精神で今日も……あれ、あともうちょっとで終わり!? そりゃないぜベイビー!



876万Hit記念小説その4 『とま×2 イケてるッ!/坂田銀時の持ってけ百万円』




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みんなはもしかしたら、忘れているかもしれない。なので一応おさらいを……チンク・ナカジマ。

『魔法少女リリカルなのはStrikerS』に登場した、スカリエッティが生み出した戦闘機人『ナンバーズ』の一人。

その能力は金属物を触媒として、爆破させるIS『ランブルデトネイター』。でもスバルにボコられ、見せ場も特になく退場。


やっぱり十三人の新キャラ登場は、雑魚的に片すしかなかった。悲しいかなそれが尺というものだった。

とにかくあとはみんなも知っている通り、ゲンヤさんやギンガさんの家族。罪滅ぼしも兼ね、局の仕事に従事している。

拍手世界では悪モンザエモンとパートナーだったりするけど……何、やっているの。あの人は。


確かにシャンプーハットがないと頭を洗えないとか、若干子どもっぽいところもある。

あるけど……サンタが本物かどうかくらいは、見分けがつくでしょ! ……もう結論は出ていた。

『チンクさんは詐欺サンタに騙(だま)されている』と確定している。別に庇(かば)っているとかじゃない。一種の囮(おとり)捜査とも考えた。


でも相手が超一流の扇動者ならば……だから、対峙(たいじ)した赤服・ぽっちゃりな男に対し、違和感は一つもなかった。

マジで予想通りの姿だった。それでチンクさんはきょとんとしながら、僕を見ているわけで。

場所は皇居も近い有楽町(ゆうらくちょう)。ここは南なら銀座(ぎんざ)界わい、東は新宿(しんじゅく)。

西は晴海(はるみ)方面、北は東京(とうきょう)・大手町(おおてまち)・秋葉原(あきはばら)へと続く。

その中でひときわ目立つ、有楽町(ゆうらくちょう)センタービルディング――通称有楽町(ゆうらくちょう)マリオン。


その前で、馬鹿サンタは人目を引き続ける。当然こちらのブラックサンタも、小柄なれど美しい少女だから余計に注目される。

てーかペルー、フランスと海外続きだったのに…………チンクさんの気を辿(たど)り、瞬間移動をしたらこれだよ。


「恭文……それにジャンヌ、セイバー・オルタもどうした」

「いいや、私はサンタだ。……しかし」

「ようこそ、決戦の都会へ! 偽サンタは当然――私だ!」


もう僕達は、予想通りすぎて言葉もない。その名はガイウス・ユリウス・カエサル――古代ローマ最大の英雄が一人。

知略と弁舌の銘酒であり、扇動の天才。そして身長が百六十八センチとかなのに、体重は百五十四キロ……そりゃあ腹も出るわ!


「何、偽サンタ……だと! 馬鹿な、あなたはサンタではなかったのか!」

「済まなかったな、幼き少女よ……しかし人は裏切られる。貶(おとし)められる……磨き上げられ、大人になっていくのだ」

「チンクさん、やっぱり騙(だま)されていたんですね」

「しかも平然と言い訳したぞ、コイツ……もぐ」

「なぁ、やっぱ事情を聞くとか、必要なのか? 即行でぶっ飛ばそうぜ」


ショウタロスですら実力行使に訴えかけるほど、奴の言葉には力が込められている。

それこそが最大の武器……だって扇動スキルEXだし。何かあれだよ、個人に利用すると精神攻撃に近いんだって。

ぶっちゃけ戦場よりも、指導者として力を振るった方が百倍恐ろしい。そんな男、カエサルが目の前にいた。


「駄目だよ。皇居……つーか都心のど真ん中だよ? ここでサーヴァント三人に僕達がプラスで暴れたら」

「ち……おい、場所を移すぞ! ここじゃあやりにくい!」

「何だ、そのげんなり加減は。平然と町中で宿敵同士が出会い、決闘に準ずる。最高のシチュとはいかなくとも、一つの極地であろう。
特に少年、君は瞳を星のように輝かせると評判だろうに……今の君は、まるで戦場を覆う土煙のよう」

「やかましい! そんな刃牙(ばき)シリーズみたいなのはいいんだよ! てーか世界中回って、結局おのれの後塵(こうじん)をかぶってただけなのよ! もううんざりなのよ!」

「さぁ、あらゆる謎をつまびらかにしよう! 質疑応答の準備はできて」


面倒だ。転送魔法で安全区域に……と思ったら、カエサルは右手の黄金剣を空へと突き出す。

するとその輝きで、僕の魔力結合が完全に解除される。これ、AMF!? ああもう、やっぱり魔法(リリカルなのは)は添えるものかい!


「いる!」

≪……ごくごく普通に、AMFまで発揮って≫

≪サ、サーヴァントが恐ろしすぎるの!≫

「私がなぜサンタクロースになったのか。カエサルはなぜふくよかなのか。クレオパトラはなぜ美女なのか。最終日のプレゼントは何なのか。
全て……全てだ! 私の弁舌は、そなた達の疑問と怒りをたちまち氷解させることだろう!」

「黙れ、赤かまくらが! 貴様の妄言など、聞くつもりはない!」

「なら、どういうことだ!」


サンタオルタ、やっぱ無駄だよ。僕達の代わりにチンクさんが聞いてくれるってさー。あははは、涙が出てくるわ。


「私はサンタの元で善行を積めば、妹達にもすばらしいプレゼントがくると……そう聞いていたんだぞ!
……私達は罪を犯した。過去……それは拭い難い罪だ。そして悪い子には、サンタはこない。だから、だから……!」

「それでお前も質問するな! その結果、ここまで騙(だま)されたんだろうが! 少しは学習しろ!」

「チンクさん、罪が増えてますからね! カエサル相手なら仕方ないですけど、今は黙っていてください!」

「かまくら……あぁ、あの雪で作ったトーチかか。私が堅固な男であるという、その喩(たと)えは正しい」


チンクさんの質問に答えてあげてよ! 必死すぎて可哀想(かわいそう)だし! ……あれ、でもこれ……マズくない?

チンクさんの能力はランブルデトネイター。そして町中……ちくしょうが! これも計算ずくだろ、あの赤かまくら!


「だがほんの僅かの余裕もないのかな。サンタクロースの経緯だけでも知るべきでは。
いや、経緯ばかりか顛末(てんまつ)まで知るべきだろう。……あれは星降る夜、ダレイオス君城に行った折だ。
サンタクロースがやってきたと勘違いされてしまい、私は仕方なく彼らから家財を巻き上げたのだ」

「おのれは馬鹿なの!? その時点でおかしいでしょ!」

「……サンタクロースの到来を喜ぶ者達に、人違いですと……現実を突きつけろと? 私にその選択はない……なぜならカエサルだからだ」

≪なるほど……あなたのお嫁になりたいと、頑張っている人達にお断りするようなものですね≫

「おのれも納得しないで! あとそれは絶対違う!」


それとかまくら、その哀れむような顔はやめろぉ! 腹立つんだよ、殴り飛ばしたくなるんだよ! 家財一式を奪われるよりはずっとマシでしょうが!


「だがプレゼントを配ろうにも、そのプレゼントがない。なのでまずはダレイオス君から、財産を譲っていただいた。
その財産からプレゼントを配るという寸法だな。買い取り人の名義は、たまたまいたファントム君に代筆してもらったがね」

「悪魔以外の何物でもありませんよ、あなた!」

「何、だと。あれは……あの大男達は、サンタクロースのスポンサーでは、なかったのか」


チンクさん、その段階から騙(だま)されていたのかー! 扇動スキルが万能すぎる!


「しかし、私は結局かりそめのサンタクロース。彼らが真(しん)に欲するものは与えられなかった。
寂しくすすり泣く彼らを見ていられなくて、私は河岸を移した」

「だったら家財は返してやろうよ! 意味がないよね! 奪った意味がもはやないよね! ただ無意味に奪っただけだよね!」

「気がつけば、そこはフランスの特異点。大変純朴な騎士がいてね。彼……彼女……いや、彼?
ともかく、ここでも私は働いた。じき新年なので、古い家財を売り払いたい……彼女の提案を聞き、新旧問わずに家まで買い占めた。
ダレイオス君の一件で、元手があったのは幸いした。その中にはフランス王家の至宝もあってね。
それだけは返してほしいと彼女が泣いてせがむものだから、十倍の値段で買い戻させてあげた」

≪十倍!? デオンちゃん達の話よりひどいの!≫


うわぁ、相当錯乱してたんだな。自分のせいで王妃もホームレスだし、等価交換的にもアウトだもの。ちなみにチンクさんは。


「馬鹿な……! あれは試練というプレゼントではなかったのか! 真(しん)に大事なものの価値を知らしめるのも、サンタの大事な仕事だと!」


見事に騙(だま)されていました。というかチンクさんェ……!


「……あー、もういい。もういいから……とにかくそうやって七首をむしり取り、男アーチャー三匹をマグロ漁船に乗せていったと」

「若いのにせっかちだなぁ。これからが冒険譚(たん)の楽しいところだぞ」

「いいから黙りなさい! 歩く詐欺マシーン同然ですか、あなたは!」

「そんなの冒険譚(たん)って言わないからね! 単なる犯罪記録だよ! もう詐欺とか通り越して、サイコパスだよ! 怖いよ、狂気だよ!」

「そうは言うがな、私だって被害者なんだ。見る人間は尽く、私をサンタと間違える。そして私は将軍であり政治家だ。
皆の期待に応えるのが仕事……ゆえに偽物と理解しながらも、演じる他なかった。楽しかったのは事実だが。
……ところで私がサンタクロースに間違われる理由、分かるかね。私はさっぱりなんだが」


まぁ外見的に……いや、そこを気にしている場合じゃなかった。


「そうか……そうかそうか、そうか」


サンタオルタは黒い約束された勝利の剣を取り出し、右肩に担ぐ。あ、ヤバい……目が血走ってる。


「私が恥を忍んで着替えているというのに、貴様は……何もせず! 子ども達の人気者か!」

「「恥ずかしかったの!?」」


ジャンヌと声を揃(そろ)えると、オルタが赤面。あ、本当なんだ……でも、それは僕のためでもあって。それは、ちょっと嬉(うれ)しくて。


「おま、マジかよ! ノリノリだったろうが!」

「もはや斬り倒すしかない! 世のためサンタクロースのため、貴様を討つ!」

「嘘つけぇぇぇぇぇぇぇ! それ、完全に私怨だよね! 恥ずかしさゆえだよね!」

「ははははは、それでこそ真のサンタクロースだ! 正直私もサンタクロースに間違われ、結果的に逃亡を繰り返す生活には……懲り懲りしていたところだ!」

「だったら詐欺なんてやらかすな、ボケがぁ!」

「だって暇だったからね! ネロ君も、カリギュラ君も遊んでくれないし!
半分は君のせいだぞ……ネロ君、君とのクリスマス計画で忙しいってさ!」


しかもさらっと僕のせいにしてきたよ! というか、はた迷惑すぎる! マジで扇動しないと生きていけない人か!


「クレオパトラはイタリアに引きこもっているし! カップルだらけの街を扇動せずして……何がシーザーか!」

≪……こっちもただの私怨でしたか≫

「許さん……許さんぞ、貴様ぁ!」


もう一つ、恨みは生まれようとしていた。チンクさんは今まで見たことがないほど、歪(ひず)んだ怒りを浮かべる。

スティンガーを周囲に三十本……いや、百本展開。あ、ヤバい……完全に理性が飛んでる! 町中だって言うのに!


「サンタを信じる、人々の心を欺いた罪、その命を持って償え!」

≪私怨がもう一つ生まれたの!≫

「チンク、お前馬鹿か! やめろ……そんなもんを町中で使うんじゃねぇ!」

「安心しろ、非殺傷設定だ! ギャグ的にしか吹き飛ばん!」

「ほんと便利だな、その設定! だが吹き飛ぶ時点で安心できねぇんだよ!」

「ふはははははは……いいぞ、いいぞ! これこそ決戦にふさわしい!」


ショウタロスの叫び、カエサルの笑いが響く中、妙な気配が複数出現。カエサルの背後から、じりじりと寄ってきたのは……ネイティブ!?


「おいおい、恭文……!」

「……カエサルに扇動されたようですね。しかしこの数は」


一気に五十くらい出てきたんですけど。さすがに予想外で、ジャンヌと背中を預け合いながら、周囲を見やる。


「そしてゲストとして、人類征服などと言っていたネイティブ過激派のみなさんだ! やはりチャンバラには、多数の手先が必要だろう!」


うわぁ、それでカエサルに従っているんだ! まぁサーヴァントだしね、ワームでも倒せないよね! 上下関係決まってるよ!


「貴様……彼らのことまで利用したのか! 怪人であるが故に就職先もないと、嘆いていた彼らを!
それならばヒーローショーで使ってもらえるよう、悪役アピールを始めろと言っていたのも……全て嘘かぁ!」

≪……あなた、それで騙(だま)されるのはおかしいでしょ。というかローマの皇帝がテロはおかしいでしょ≫

「そなたらを倒し、プレゼントを手中に収め、真のサンタとして活躍するもまたよし!
レアサーヴァントの座は私のものだ! おとなしく譲ってもらうぞ――ブラックサンタよ!」

「待て待て……この場ではやめろ! ほら、シーン転換! シーン転換!」

「しゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

≪あ、もう遅いですね≫


そしてチンクさんがスティンガーを発射……この場が爆発と悲鳴に満ちあふれた、戦場となることが確定して、しまう……させるか!


≪ChroStock Mode――Ignition≫


アルトを二丁拳銃形態――クロストックモード――に変更。両手でそれを構え、瞬間乱射。

発射直前のスティンガー全てを撃ち抜き、チンクさんには爆発に飲まれてもらう。

……そして響いた銃声と爆発により、周囲から悲鳴が上がる。チンクさん、本当に非殺傷設定なら……大丈夫。


「お、おいヤスフミ、いいのかよ!」

「ランブルデトネイターは駄目でしょうが!」

「ふむ、噂(うわさ)通り潔い少年だ。ではこちらは」

「――イマジナリー・フルバースト!」


そこで響いた声は、三時方向から。蒼い光に包まれた、様々な刀剣と槍が拘束射出。

それがワーム達を次々貫き、その場にいた奴は全て消し去る。それも逃げている人達には決して当てないよう、遠回りさせた上で。


≪さぁ、早く逃げてください≫

≪こっちなの、こっちなのー!≫


あれ、この声と反応は……あぁそっかー。ラウラ絡みって疑ってたからなぁ、そのせいで追いかけていたのか。


「ほう……宝具の連続射出か。さすがに英雄王とは劣るが」

「……祭りの舞台は、ここかしら」


三時方向から近づいてくるのは、遠坂凛だった。更にその脇で、首をごきごきと鳴らす八神の僕に、あっちのショウタロス達。


「八神恭文! それに遠坂凛も……あぁ、エミヤアーチャー絡みですね」

「正解。……さぁ、アーチャーの仇(かたき)よ! 悪いけど本編組に出番はないわ!」

「というわけであっちを見ろ……もぐ」

「具体的にはあなたの後方ですよ」

「……他は、マジで自由にしろ。責任は取らないからな」


そして八神の僕はショウタロス共々、疲れ果てた顔でセンタービルディングの頂上を指す。

一体なんだと見上げて、ようやく気づく。……存在するのはY字のオブジェ。それから影が差し、エンブレムを大地に刻んでいた。

そう、最初はオブジェだと思った。ほんの一瞬でもそうだと思い、結果後悔する。


違う、あれは人間だ。鍛え抜かれた肉体、露出した肌、槍には見えないふさふさウェポン。

何よりも放たれる威圧感に、その絶対さに、あのカエサルですらうろたえる。

ぶっちゃけ真冬に半裸状態で、あんな場所に立っている変態だ。でも違う、あのお方はそんなレベルでは語れない。


「馬鹿な……なぜだ! なぜあのお方がこんなところに!」

「気づいたようね」

「ロムルス公――!」


男の名はロムルス。ローマを創世した、伝説の男。そして過去・現在・未来――全てのローマはロムルスへと通ずる。ゆえに奴は叫ぶ。


「ザ……ロォォォォォォォォマァァァァァァァァァァァ!」


逃げ惑う人々ですら、その圧倒的プレッシャーに膝をつく。それは僕とジャンヌ、サンタオルタも同じ。

それほどに奴は偉大。文字通り世界を背負っている男……! でも、このカオスな状況をよりカオスにしてくれやがったよ!

というか何でロムルス!? 何でロムルス!? 何でいきなりローマ!? どうしてこうなった!


(その5へ続く)







あとがき


恭文「というわけで……思ったより長丁場になった記念小説です。みんな、チンクさんのこと……忘れてないよね」


(作者は忘れていました)


あむ「こらこら! というわけで本日のお相手は日奈森あむと」

恭文「蒼凪恭文です。今日は雪が降って寒いらしいよ。温かくして寝よう」


(お粥おいしいー。おでんおいしいー)


あむ「でも恭文、あれ……タニタ食堂っていうか、ガリタ食堂だよね!」

恭文「実はね。ちなみに銀さん達も、戦ってるよ……担々麺とね!」

あむ「こっちは命に関わりそうだけど!」


(そして登場したローマ)


恭文「なぜロムルスがいるのか。なぜローマなのか……全ての謎は次回冒頭で。もっと言えばオルフェンズ第二話の冒頭みたいに」

あむ「あぁ、あんな感じでやるんだ」


(まさか細かいとこまで振り返ってやるとは、思っていなかったあの頃)


恭文「ヒントとしては遠坂凛、聖杯戦争、八神の僕が持っていたスマホ」

あむ「最後がおかしい!」


(何か群像劇みたいになってきたけど、銀さんも頑張ります。……多分。
本日のED:柴田恭兵『RUNNING SHOT(SHOTGUN MIX) 』)


あむ「あれ、ショットガンミックス?」

恭文「あぶない刑事フォーエヴァーで使われたバージョンだね。最近Amazonプライム・ビデオで、初代の映画を初めて見た。……やっぱカッコいいなぁ」

古鉄≪走るときにRUNNING SHOTをかけると、三倍の速度でいけますよ≫

あむ「そんな馬鹿な!」


(おしまい)





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