小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説) 鉄血のオルフェンズ放映記念小説その2 『目覚めるP/シンデレラ達の反撃』 前回のあらすじ――浩介さんは明日、クスクシエで三原鈴香さんと対面することに。そっちの連絡は朝一番でお兄ちゃん、及び比奈さんが行う。 一応僕達も同席……でも、どうしようかぁ。勤務先と仕事内容が余りにおかしい。 家に戻ってきたときには、深夜一時半――早苗さんと二人、僕の部屋で寄り添いながら首を傾(かし)げまくった。 「ブロンズ金融……問い合わせ結果は」 「この時間ですから。でも話通りなら十二時近くまで、社員がフル待機でしょ? まともじゃありませんよ」 「ですよねー。まぁ一応はいい感じでよかったよね、浩介くんもそのバイト以外は基本真面目っぽいし」 「そうですね。でも……『万が一』、かぁ」 「CGプロのことなら、気にするな……とはいかないか」 そう早苗さんもフォローする理由は、お兄ちゃんが僕に頼った時点で明白。浩介さんにも説明したけどさ。 でも単純に警戒してるとか、そういう話だけじゃないと思うんだよね。まぁそれはそれとして。 「……肇がアレなのも、元はといえば僕の失踪が原因ですから。お兄ちゃんのことは余り言えませんよ」 「でも立場上、肇ちゃんに対して厳しくしないとマズい。ううん、今回の件そのものに、かな。 ……肇ちゃん、やっぱり内密にマークされているっぽいしね。まぁあたし達もだけど」 「説教したくなりますよ。あんな下手な尾行をしていたら、一生出世できませんし。お兄ちゃんにも気づかれるって」 「しちゃえしちゃえー。……とはいかないかー」 うん、僕達にもさり気なく調査が入っているよ。まぁ僕が赤羽根さんや千川さんを放っておけず、肇の件に突っ込んだせいだけど。 あの件で一番フォローしなきゃいけなかったの、実は赤羽根さんだからなぁ。実は肇なんて二の次。 精神科絡みの話もあったから、知った顔じゃないと……って思ったら、あのドッタンバッタンだよ。 ……まぁ、それはいいのよ。あの場で、そして今日も肇と徹底的に袂(たもと)を分かったからさ。 その状況もさり気なくチェックされていたっぽいし、とにかく今は『火野恭文は藤原肇を見捨てた』って印象付けないと。 予想される動き、そこから導き出されるものは、実のところそこまで難しくない。……今は、勝つために必要な手を打っているにすぎない。 「早苗さん、CGプロの馬鹿ども……言ってましたよね。『プロデューサーといられないから』って」 「ん、言ってたね」 「僕、ヤミーの件を見てて思ったんですよ。理由はどうあれ、自身の欲望を制御しきれないから、ヤミーが暴走する。 実際響や雪歩、貴音はそうでした。もちろん致し方ない欲望もありますけど……でも奴らの欲望は悪だ。 どうしてプロデューサーといられないんですか? 赤羽根さんはみんなを見捨てるつもりなんてない」 「Pくんはそういう人だからね。つまりみんなは、今回の件が自分達のせいだと反省していない。 でも悪だとは自覚しているから、Pくんにも見捨てられると考えている。だから肇ちゃんに八つ当たりしていた」 「肇がCGプロを潰したわけじゃ、ないんですけどねぇ」 それもまた筋違いってわけだよ。社長がCGプロ崩壊の直接的原因を作ったけど、肇がそれに加担した? いいや、していない。確かに大きな問題だけど、直接的と言うには弱すぎる。……肇はスケープゴートなんだよ。 もちろんあの場で表立って醜態を晒(さら)した、城ヶ崎美嘉やナターリアも同じく。八つ当たりのため、叩(たた)く可哀想(かわいそう)な羊。 憂さ晴らしのためだけに存在する底辺キャラ。使えなくなったら、また別の誰かがそんな羊に成り下がる。 ヤミーの件で暴走していたとしても、そんな本質は変わらない。そこはまぁ、言った通り? 「僕も同じですよ。症候群にかかったときは、もう」 「……そうだったね。だからこそ、止まれない」 「えぇ」 早苗さんは僕へ飛び込み、強引に押し倒す。ボディコンスタイルは継続なので、早苗さんの超絶トランジスタグラマーがのしかかってきた。 そのまま強引に唇を奪われるけど、しっかりと受け止める。いつも通りの情熱的で激しいキス……やっぱり素敵。 それに体が熱くなりながら、僕も早苗さんの頬や首を両手で撫(な)でる。胸は気になるけど、その……焦りすぎはいけません。 「ん……なので、今日はお姉さんがいっぱい」 早苗さんは唇を離し、そっと僕の耳に甘がみ。そのままウィスパーボイスで囁(ささや)いてくれる。 「い・い・こ・と――してあげるからね」 それで一気にスイッチが入り、心も高ぶる。というか早苗さんの声もこう、ズルい。耳にくる……! 早苗さんは笑って上半身を起こし、僕の両手を持つ。そのまま両手を自分の胸に当てて、誘うように笑う。 それに応えて指を優しく動かすと、早苗さんの表情が乱れていく。あぁ、この質量と柔らかさのバランスが、何とも。 「ありがとうございます、早苗さん」 「よしよし。……あ」 「何でしょ」 「明日の飲み会、準備は忘れないようにしないとね」 「じゃあメモっておきます?」 「んー、一回戦を終えてからね」 今日はいっぱい、早苗さんにリードされる日らしい。ほっぺたを撫(な)でながらその優しさに甘え、両手を胸から外す。 そのまま早苗さんを手伝いつつ、ボディライン丸出しな服をゆっくり脱がし……朝まで濃厚なコミュニケーションで癒やされる。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ オーナーの家でお世話になって、既に三日……というか四日目。ただその、えっと……どうしよう。 ちょくちょく、オーナーの部屋から甘い声が……! いや、分かっている。分かっていた上で、お世話になっている。 それは大丈夫なんだけど、美奈子ちゃんやロッテさん、アリアさんは、オーナーにメンテされた後はお肌もツヤツヤ、とっても幸せそう。 それで私も一応大人なので、そういうことを考えると……無性に、いけない気分になっちゃうわけで。 でも、やっぱり駄目だよね。オーナーは私に対して、本当に手を出すつもりがないっぽいし。 事務所も大変なときで、だからこそって考えているっぽい。だけど……また、メンテしてほしいかも。今度はもっと、いっぱい。 鉄血のオルフェンズ放映記念小説その2 『目覚めるP/シンデレラ達の反撃』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ディープ・スロートという人は、時間をかけて教えてくれた。それも、信じられないような話を。 嘘(うそ)だとわめき立てかけると、慌てて口を塞がれる。……寮の中だからと、それはもう困り気味に。 でも叫びたくなる気持ちも分かってほしい。人の疑心暗鬼を煽(あお)る寄生虫に、あの人が感染していた? しかも映司さんの失踪もおじさん達に原因があって、それを知ってあの人も……現実味がない。 それでもあの人は、私を捨てた。そこだけは間違いなくて、まだ戸惑っていた。どうすれば、いいの。 ディープ・スロートはこれから、私の側(そば)にいると言う。私がまだ、真実と向きあえていないから。 でも怖い……知っても、怖い。向き合った上で、私はどうあの人と向き合えば。 そう、真実を知っても何も変わらなかった。私が変わろうとしなければ……永遠に。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 翌朝――早苗さんと一晩過ごした後は、お風呂でアリアさんも交えて、改めて御奉仕を受ける。 その後はまだまだ居候継続中な美世、ロッテさんにメズール達と楽しくご飯。……そう、美世も一緒です。 まだ、CGプロアイドルが安全だと断定できないからなぁ。どうにもカークスには不安要素しかなくて。 しょうがないので庭先に出て、最近飼い始めた子犬に朝ご飯をプレゼント。なお犬小屋もバッチリで、名前を。 「パトラッシュ、ご飯だよー」 「誰だ、それは」 ヒックルと言う。首輪もしっかりつけているのは、まぁまぁ安全のため……なお力はほとんどない。 お仕置きでコアメダルとセルメダル、それぞれ一枚ずつまで削ったから。人の言葉を喋(しゃべ)る以外はほぼ犬だよ。 それで朝ご飯の盛り合わせを目の前に置くと、仏頂面で顔を背け……る寸前で取り上げ、僕がガツガツ食べる。 「……って、貴様が食べるのか!」 「え、だってずっと食べようとしないから。もったいないでしょ。……食べる?」 「いるか馬鹿!」 「で、カークスについての情報は」 「仲間は売らん」 「やだなぁ、売れとは言ってないよ。タダで配ってよ」 「言葉の文というのを分かるか、人間……!」 ガッツリご飯を食べ終えたので、気分よく伸び。あー、美味(おい)しかったー。犬皿ってのが問題だけど、まぁいいとしよう。 「まぁいいよ。おのれが喋(しゃべ)るとは思ってなかったし」 「貴様、今度はカークスまで手にかけるつもりか」 「ある人を利用されたからね」 「何だ、女か」 「いいや、男だ。不良プロデューサーの僕なんかより、ずっと凄(すご)い人だよ。 誰かの夢を、願いを純粋に叶(かな)えるため、日夜働いてさ。それこそ身を削るほどにだ」 そう……赤羽根さんだ。結局僕は所属アイドルにも手を出しちゃった、駄目プロデューサーだよ。 でも赤羽根さんは違う。まぁまぁ迂闊(うかつ)なところはあったけど、とても真っすぐな人だよ。 「でも、それは押しつけでもあった。その人が応援していた子達は、別の夢や願いを持っていたから」 「欲望の行き違いか。よくある話だ」 「そうだね。普通のあの人なら、もしかして気づいて対応できたかもしれない。でも……歪(ゆが)められた」 その頑張る意味も、頑張った先――目指す未来も、そこに込めた思いもだ。もちろん故あればって点は変わらない。 でも奴がいなければ、卯月と赤羽根さんが行き違うこともなかった。まぁ裁判絡みで話して、ある程度和解したっぽいけど。 「ヒックル、お前は言っていたよね。仲間を大事にしない僕はクズだと」 「あぁ」 「その通りだ。僕は仲間より、自分の欲望を優先させる。結果失敗もよくするのにね」 ヒックルは自分の言葉を認めた、そんな僕が意外なのか驚いて見上げてくる。なのでまぁ、苦笑を返した。 今回のことだってそうだよ。正しいことを、真実をって言って……これだしさ。 「そうだ、貴様は同族殺しだ。仲間との縁より、真実を、正しさを追い求める。だから同族にも牙を剥ける」 「……あの人はそんな僕と違う。みんなの欲望を、より大きく、よい形で叶(かな)える。 それが一番の欲望だったから。それで改めてやり直す体力すらも、削り取られてさ」 「お前は、それが許せないわけか」 「許せないね。結果行き違っていたかもしれないけど、それは当人同士で出した結果だ。……落とし前は、絶対につける」 縁側から立ち上がり、部屋へ戻る。もう言いたいことも言ったし、あとは出かけるだけだ。 「まぁそこで空でも見ているといいよ。パトラッシュが如(ごと)くお迎えはこないけど」 「待て」 「何よ」 「なぜお前はそうまでして、真実を求める。なぜ、お前は正義を貫こうとする。 ……お前とて分かっているはずだ。自らの『巣』を破壊するなど、自殺に等しい」 「償いも、希望も、真実の先にあるからだ。覆い隠されることで誰かが泣くのは、やっぱり……悲しいもの」 自分にもそう言い聞かせ、早速お出かけ。だからお兄ちゃんにも、甘い頼みをしたのかなぁと……軽く反省した。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ クスクシエ……の前に、ちょっとだけ通り道の病院へ寄る。シャマルさんも勤務しているそこの病室――個人部屋にその人はいた。 「赤羽根さん」 窓の外から退屈そうに、揺れる木々や花達を見ていた赤羽根さん。入院着姿のまま、こちらを振り返って慌てた様子。 「火野プロデューサー! すみませ」 「そのままでいいですよ。お加減はどうですか」 「休みすぎて逆に調子が悪くなりそうですよ」 「適度に体も動かすといいですよ。お医者さんと相談して」 「そうしたら『動くな』って言われそうですけどね」 「なら頭の体操だけでもしておきましょう。明日、卯月がお見舞いにきて、修行相手になるそうですよ」 「それならデッキも再調整しておかないとなぁ。……うん、これなら気分転換もかねてできそうだ」 まぁそうだよねぇ。過労状態だったから、体もガタガタ。今は超加速状態だった体と心の時計を、標準速度に落としている状態。 言うなら高速道路から下りた直後――通常速度がやたら遅く感じるのと同じ。そりゃあ退屈もマッハだろうさ。 「……美嘉達、CGプロから出ていくと言っているそうですね」 「誰から聞いたんですか」 「肇が、病院にSOSを……先生達に止められてしまいましたが」 「あの馬鹿は……!」 あれ、待って。一体どこで番号を……やっぱり手は打っておいて正解だったっぽいね。 「俺のせいです。精神科に通っていたの、過労だけが原因じゃないんですよ。 ……昔、女の同級生にいじめられ、こっぴどく振られたことがありまして」 持ってきたお花をさっと飾り付けると、とんでもない告白が放たれた。女の同級生に……あぁ、それでトラウマと。 「それ以来、俺を好きになる子なんて……って思ってまして。でも友達に勧められて、ここに」 「……それで何でアイドルプロデューサーになっちゃったんですか」 「先生と友達にも言われましたよ。ただ本当に偶然だったんです、社長にスカウトされて……えぇ、そこは火野プロデューサーと同じで。 最初は就職難で、ちょっとした腰掛けのつもりでした。再就職の活動もしていたんですよ? でも慣れないなりに仕事をしていって、手応えみたいなものを得て、一人一人デビューしていくさまを見て……いいなぁと」 「どこがよかったんですか」 「誰かの夢を、願いを叶(かな)えていく応援……輝く手伝いができる。みんながアイドルとして活躍することが、俺の生きがいになっていった。 ……だから、俺のせいなんです。本当は、気づいていたんです。みんなが俺に対して、それだけじゃない感情を持っていたのは」 「えぇ」 「でも見ない振りをしていた。みんながアイドルだから……でもそれだけじゃない。 俺みたいな奴を好きになるはずがない。そう勝手に決めつけ、みんなの『欲望』を知ろうとしなかった。 いや、それは死んだ社長ともだ。改めて考えたら、CGプロの体制はおかしかった。急激に人数も増えていったのに、止めようともせず」 それは赤羽根さんの告白だった。そう、自らの……罪の告白。社長が死んだことももう知っているから、懺悔(ざんげ)に近い。 赤羽根さんは確かに被害者だ。上(社長)と下(アイドル達)の板挟みで、それぞれに違うことを求められた。 それが一般的な人数ならともかく、百人単位。でも……赤羽根さんにも罪はある。それは自分の気持ちを吐き出さなかったこと。 アイドル達とは付き合えない、飽くまでもプロデューサーとしてみんなを応援したい。そういう欲望を押し付けていた。 少なくともこの人は、そう自分を断じている。お互いに寄り添うことができれば、もしかしたら社長も……そう感じて、後悔していた。 「だから今、とても後悔しています。俺は信じていた……みんなを信じていた、そう押しつけていたんです」 「……僕も同じですよ。偉そうなことを言いながら、結局肇のことが気になって裁判ですし。 きっと僕も、肇やみんなに勝手な期待を押し付けていた。芸術を愛し、静かに育てていた肇を」 「そうして、肇を責めることしかできなかった」 「えぇ。……でも赤羽根さん、今奴らの欲望を受け止めようとしたら、あなたは間違いなく壊れる」 「先生にも、そう言われました。俺一人じゃみんなを受け止められない、どうやっても無理だと」 「えぇ、無理です。全員嫁にするとしたら、まずは目標年収を定めて」 「そっちぃ!?」 あれ、赤羽根さんがズッコけた。おかしいなぁ、ハーレムの先輩としてアドバイスしているだけなのに。 「あれ、おかしいなぁ! 恥を忍んで過去の傷に触れたはずなのに!」 「もちろん仲間(プロデューサー)としても、ですよ。連中はあなたという王子様に見初められるため、仲間内だろうと容赦なく潰し合う」 「ならみんなが押し込めてしまった、『欲望の一つ』を引き出さなきゃいけません。……だから」 秋ももうすぐという時期。それでも新緑は夏の日差しを受け、元気に天を目指す。その力強さにほほ笑みながら、赤羽根さんは決意の表情でこちらを見た。 「改めてみんなと、少しずつ話してみます。今度は逃げずに、ちゃんと向き合って……俺は、やっぱりプロデューサーにしかなれないけど」 「やっぱり莉嘉ちゃん達は幸運ですよ。ここまで思ってもらえるんだから。あ、ただ赤羽根さん」 「もちろん先生には相談しています。それで本当にちょっとずつ……まずは」 そこでノックの音……ん? この気配は。 「あの、プロデューサー」 「あぁ、入ってくれ」 偶然ってのはあるらしい。僕はもうおじゃまなので、立ち上がってお暇(いとま)する。……入室したのは、肇だった。 「あなた、どうして……!」 「何よ、尊敬するプロデューサーが入院しているのに、お見舞いしちゃ駄目だっての?」 「俺を、尊敬!?」 「僕は不良プロデューサーだもんで。じゃあ赤羽根さん、また」 「あ……お花、ありがとうございます」 「いえいえ」 そのまま戸惑う肇とすれ違って、クスクシエへ。さて……気持ちを入れ替えて、トラブル対処と行きますか。 赤羽根さんはやっぱり誠実だった。ボロボロな状況なのに、立ち上がって……みんなのためにと頑張っている。 確かに今更かもしれない。でも何もしないよりは……その姿に勇気をもらい、反省もし、先を急ぐ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ クスクシエには無事到着――途中合流した早苗さんも加わり、浩介さんとお兄ちゃん、比奈さんともお店で合流。 そして浩介さんは……実にテンションが高かった。感謝されること前提だな、これは。 「いやでも、ほんと大したことは」 「こらこら。不審がっているって話はしたわよね。ほら、背筋伸ばして」 「はい!」 早苗さんのビシっとした一言で、浩介さんはだらけた体勢を伸ばす。うーん、さすがは早苗さんだ。こういう人の扱いに手慣れている。 「……姉さん、元婦警さんでしたっけ」 「今は第二種忍者だよ」 「そっかぁ。何か、そっちの兄さんも何ですけど」 そう言いながら僕を見る……そう、明らかにお兄さんな、お兄ちゃんではなくて僕だよ。 「……はい、アンクちゃんー。健全な精神は健全な肉体から。しっかり食べなきゃね」 そしてなぜか、客でもないのに料理を振る舞われるアンク……隅っこでアンクは、苦々しい顔で配膳する知世子さんを見ていた。 「特に姉さんは逆らえないというか、ビシっとしなきゃいけないなぁと思ったら……そのせいかー」 「ふーん、そう言うってことは、それなりに厄介をかけたみたいねー。あたし達に」 「その節はほんともう、御迷惑をおかけしました!」 早苗さんに迷惑をかけたわけじゃ、ないだろうに……それでも浩介さんはもう一度背筋を伸ばし、しっかりお辞儀。 そんな様子をほほ笑ましく見ていると、店内に慌てた様子の女性が入ってくる。 「あ、鈴香ちゃん」 比奈さんが呼びかけると、その女性がこちらへ……なるほど、この可愛らしい人が。 それで浩介さんが慌てて立ち上がり、襟を整えて前に出る。鈴香ちゃんは比奈さんやお兄ちゃんのアイサインで察し。 「あの、初めまして! 俺」 「お願いします……もうお金とかやめてください!」 悲痛な声で、浩介さんへ詰め寄り頼み込んだ。それにぼう然とする比奈さんとお兄ちゃん、そして浩介さん。 「……へ?」 「うちのお母さん、すっかり甘えちゃって……仕事を休んで、買い物で借金まで! このままじゃ駄目になって! 本当にすみません! 今までのお金も返せませんけど……本当にもう、やめてください!」 それだけ一息で言い切ると、鈴香さんは全速力で退店。残された浩介さんはぼう然とし、崩れ落ちた。 ……そのとき響くチャリンという音。浩介さんの脇を見ると、そこにはセルメダルが一枚、落ちていた。 それをそっと拾い上げ、何となく……嫌な予感がする。取りあえず浩介さんを起き上がらせ。 「ふぇ!?」 「これ、何」 セルメダルを見せると、慌てた様子で取り上げようとする。なので回避し、早苗さんとお兄ちゃん達にも見せる。 「あ……ちょ、それ!」 「坂田さん、もしかして!」 「ちょ、あの……あ……待ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 そして走り出す浩介さん……しょうがないので僕達も揃(そろ)って店を飛び出し、全力疾走。 もちろんアンクも追撃……なので、クスクシエ近くの立体橋上で改めて首根っこを掴(つか)んで確保。 「ぐはぁ!」 「はいはい、逃げない」 「ま、待って! 今はあの、三原先生の娘さんが!」 「このメダル、セルメダルだぞ。グリードとヤミーが欲しているメダル」 そう言うと、逃げようとする浩介さんの足がストップ。『馬鹿な』という顔で小首を傾(かし)げたので、早苗さん達と全力で頷(うなず)いた。 「え……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 「確か、おのれの仕事って……ブロンズ金融っていう『違法金融業者』から、何かを預かって……それを別所(べっしょ)のボスに渡す仕事だったよね」 「い、違法金融業者ぁ!?」 「……恭文、早苗さん」 「朝一で連絡がきたよー。それはもう真っ黒。かなり派手に動いていたから、警察も目をつけていたんだって……あれれ?」 そこで早苗さんが橋の手すりによりかかり、僕達の一時半方向を指差す。そこには例の鈴香さんと、無表情な男二人。 「……すみません!」 しかもそれなりに距離があるのに、鈴香さんの悲痛な声はこちらまで届いていた。 「次は頼みますよぉ! 金を返すのは人としての基本ですからねぇ!」 「本当ですよ! アンタ達親子、基本もなってない……人として堕落したクズってことですからねぇ! 分かってますか……あぁ!?」 「すみません……!」 「あ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「浩介さん、どうしたの」 そのまま突っ走ろうとするので、首根っこを引いて抑制。そしてニッコリ笑顔で『事情を話せ』とアピールしておく。 「あ、あの二人……ブロンズ金融の社員なんだよ! 俺、見たことがあるし!」 「……金を返すのは、人としての基本。つまり三原一家は、ブロンズ金融からお金を借りていた?」 「ちょ、ちょっと待って! じゃあ坂田さんの稼いだお金で、鈴香ちゃんのお母さんは借金して……そんなのない! おかしい!」 残念ながら事実。それでこれが絶望……CGプロの件と重なり、自然と浩介さんをお兄ちゃん達へ放り投げていた。 「あーれー!?」 「……恭文くん」 「えぇ。お兄ちゃん、アンク、浩介さんをお願い」 「命令すんじゃねぇ!」 とか言うけど、ヤミーが絡むならアンクは決して無視をしない。しっかり二人で浩介さんをホールド。 ……その上で疾駆し、まだどう喝を続けている馬鹿二人へ早苗さんと飛び込む。 「「ふん!」」 そのまま馬鹿達の側頭部へ蹴り――二人は思いっきり吹き飛び、意識を半分奪われながらも地面を滑る。 「え……はぁ!? あ、あなた達何なんですか!」 「こういうものだよ」 着地してから鈴香さんに忍者資格証を見せる。そして不満げに立ち上がった二人にもしっかり提示。 「てめぇら何……忍者ぁ!?」 「何だよ、俺達はただ」 「鈴香さん、一つ質問です。こいつら――ブロンズ金融に借金しているのは、誰。あなた? それともお母さん?」 「え、あの」 「即答して! 連帯保証人などにはなってる!?」 「お、お母さんです! あと、連帯保証人にはなっていません!」 「……ありがとう。はい、またまた違法取り立てが立証されました、拍手ー」 「はぁ!?」 あ、鈴香さんは知らないんだね。笑って拍手すると、二人は状況の悪さを察して逃亡開始……でも無駄。 両手でワイヤーベルトを投てきし、一気に縛り上げて倒しちゃう。二人は特殊性なワイヤーを引きちぎろうと、無駄に足掻(あが)いていた。 「離せ! お前、何の権利があるってんだ!」 「俺達は借りたものを返せって言っただけだぞ! それの何が悪い!」 「悪いに決まってるじゃないのさ。……まずお前達は、社会通念に照らして不適当と認められる時間帯でも取り立てを行っていた。 ちなみにここは法律で、『午後九時から翌朝午前八時までの間』と定められている。鈴香さん、その間に電話がかかってきたことは」 「……あります! それも夜中、ひっきりなしに!」 「そして次。正当な理由がないのに、債務者等の勤務先及び居宅以外の場所に電話・FAXなどの連絡は禁止されている。 同じようにそれらの場所を訪問することも、もちろん債務者以外の……連帯保証人でも何でもない家族に、返済要求をすることもね」 早苗さんが笑いながら近づくと、男達の顔色が更に悪くなっていく。一応自覚はあるみたいだねぇ……これが違法だって。 「鈴香ちゃん、そういうことは」 「ありました……!」 「他にも張り紙などの方法を問わず、債務者の借り入れに関する事実を、債務者以外の者に明らかとするのも違法。 そう……こういうところで派手に叫んで、人格批判なんてもっての他だ。現にバレちゃったよ? あの方々に」 笑って右手で後ろを指すと、そこにはお兄ちゃん達……更に通りがかり、こちらを見ていたであろう市民のみなさんもいる。 「そうです、張り紙もありました……! それ、全部違法だったんですか!?」 「よくあるんですよ。お金を借りて、返せないという負い目から好き勝手に取り立てする馬鹿が。 そういうときは警察なり、弁護士さんなどに相談するべきです。……返すために知恵を付けないなら、お金に甘えるお母さんと同じですよ」 「え、母のこと……って、そうですよね! あなた達、さっきお店の中にいましたし! じゃああの」 「初めまして。火野恭文――火野映司の弟です。こちらはお嫁さんの一人で、片桐早苗さん」 「お嫁さんの一人!?」 「それについては」 ……っと、説明している暇はないか。二人の中にあった気配が、急激に形を取る。 それは一瞬でヤミーとなるけど……ふむ、これは屑(くず)ヤミーってやつだね。やみーにしちゃあ気配が弱っちい。 「ひ……!」 なのでさっと鈴香さんをカバー。その間に早苗さんは飛び込み、右フック・右回し蹴りで二体の頭部を吹き飛ばし撃退。 ヤミーはそのまま煙のように消滅する。……そして、自分達の中から怪物が出てきた男達は。 「……ぎやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 当然のように悲鳴を上げ、そのまま気絶。全く、闇金なんてやっているくせに、肝っ玉が小さい。 「い、今のは」 「ヤミーですよ」 「……メダルの怪物!?」 「さて……どうも本命っぽいけど」 「切り込むしかないでしょ」 「……あ、ちょっと!」 ……そこで目の端に捉えたのは、走り去る浩介さん……それも全速力で、とても必死に……ちぃ! 「お兄ちゃん!?」 「すまん!」 「……比奈さん! 鈴香さんをお願いします! すぐに警察が来ますから、この二人も引き渡してください! いいですねー!」 「わ……分かった!」 指示出しして、お兄ちゃん達と合流……そのまま四人でブロンズ金融へと向かった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 嫌だ、嫌だ……嘘(うそ)だろ、おい。俺が稼いだ金で借金して、その金を俺が受け取って……なんでだよぉ。 ただ恩返しがしたかっただけなんだ。そんなに立派な奴じゃないけど、それでも頑張れば暮らしていける。 そんな場所まで引き上げてくれた、先生の恩を返せればって……! 必死に走って、ブロンズ金融へ突撃。 もうヤミーだとか、グリードだとか、そういうのは吹き飛んでいた。ただ勘弁してほしい。ただ……これ以上こんなことはやめてほしいと。 「社長さん! なぁ……借りた金は必ず返すから、勘弁してほしい家があるんだよ!」 四十代くらいの強面(こわもて)社長さんは、書類にはんこを押すだけで変わらない。何も……ただ無反応に仕事をするだけ。それにいら立って、両肩を掴(つか)んで起き上がらせる。 「なぁ頼むよ! 大事な人の家なんだ! だから」 その瞬間、右ミドルキックを腹に食らう。手近な奴らの机にぶつかり、その上にあった小さな引き出し達も落下。 派手な音を立て、痛みに呻(うめ)きながら床を滑る。……だが、そこで異様さに気づく。おかしいんだよ、誰も動きが止まらない。 普通荒事があったら、ちょっとくらい目を向けていい。なのにこいつら……俺がぶつかった机の奴でさえ、何一つ反応しない。 ただ機械的に仕事をこなす。何も考えず、ただ操られているみたいに……! 「うるせぇなぁ……! こっちは仕事を……ん!?」 そして社長の胸から、他の奴らの胸からも変な包帯怪物が出てくる。それはさっき、ブロンズ金融の仲間から出てきたやつだった。 俺、馬鹿だぁ……! せっかく兄さん達が、怪物も絡んでいて危ないって教えてくれたのに! 全部すっ飛ばしたぁ! 『え……いやぁぁぁぁぁぁぁぁ! いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!』 そして包帯怪物……ヤミーは自分を出してきた社長や社員を殴り、遠慮なく傷つける。歯がへし折れ、口がちぎれても攻撃をやめない。 どうしていいか分からなくなっている間に、俺も近い奴に引きずり起こされる。そして感情も感じられないゴーグル顔で俺を見て、拳を振りかぶり。 「坂田さん!」 そこに飛び込んできた兄さんの兄さんが、俺をヤミーから引きはがす。そのままかばいながら事務所の入り口まで下がって、俺は遠慮なく外へと押し出された。 「逃げて……早く! アンク!」 「ち、屑(くず)ヤミーか。稼ぎにはならないが……まぁいい」 よく分からないけど階段を駆け下り、必死に逃げる。すると……今度は出た途端に緑色の怪物が出現する。 「び……!」 「面倒な奴らを引っ張り込んできたなぁ。最後にもう一稼ぎ」 ……そんな怪物の背後に兄さんが立っていた。兄さんはすかさず左回し蹴りで、怪物の頭を蹴り飛ばす。 怪物は頭からメダルをたくさんはじき飛ばしながら、こちらに手の中にあった一枚を投てき。それが俺の頭に軽く当たる……いたぁ。 「……貴様ぁ」 地面を転がった緑の怪物は、立ち上がりながら兄さんと姉さんを忌ま忌ましげに睨(にら)みつける。 「そろそろお前達との腐れ縁も終わりだ、グリード。ここからは本気で」 ……そこで兄さんが言葉を止め、俺を見る。それもそのはずだ。俺の頭からズルリと、ヤミーとやらがでてきたから。 「ひぃ……ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」 「浩介くん!」 ヤミーは俺から離れ、その間に姉さんが俺を引っ張りあげ救出。兄さんはヤミーを倒そうとするが、そこで突然雷撃が降り注いだ。 兄さんも、俺を抱えた姉さんも大きく後ろに飛び、それを回避。でも緑のバチバチと一緒に、怪物達はどこかへ……逃げちまった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ あの人とすれ違い、戸惑う間もなく面談開始。この状況で、みんなと一人一人……時間をかけて、今後について話す。 朝一番にきた連絡で、寮内は活気に満ちあふれていた。……でもそんな期待は、容易(たやす)く打ち砕かれる。 「すまない、肇……俺はお前の思いを受け入れられない」 話の中、唐突に言われたのはそんな、拒絶の言葉だった。そこで足が震える……どうして。 あの人にも手を払いのけられた。だったらもう、この人しかいないのに。 「そもそも俺、結婚とか……恋人を作ろうって気持ちからないんだ。昔、いろいろあってさ」 「プロ、デューサー……でも、私は!」 「なぁ肇、どうして肇はアイドルになったんだ」 ……それは昨日、話題に上ったこと。プロデューサーのためだけじゃないのに、それを忘れている。 そのはずなのにと嘆いていた……本気で泣いていた、前川さんの顔がチラついて、言葉が出ない。 「……それ、は」 「俺は恋人にはなれないけど、お前達のプロデューサーだ。……ただ今までのように、みんなの面倒を俺一人で見ることは絶対に不可能だ」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ やっぱりアタシ達のプロデューサーだった。そうだよ、アイツらの言うことは嘘(うそ)だ。プロデューサーさえいれば、CGプロはどうにかなる。 ならない理由がない……そう思っていたのに、希望が砕け散る。嘘(うそ)だよ……だって、それじゃあアタシ。 「そんな……そんなのってないよ! だって、今まではできてたじゃん! アタシのことだって、莉嘉のことだって!」 「自分でも分かるんだよ。俺は明らかにおかしかった。……多分、話に聞くヤミーとグリードのせいだろう。 それに何より、ちゃんとできていない。みんなそれぞれに輝きがあるのに、俺一人じゃどうしても手が足りない」 「……いやだよ」 首を振って、涙を零(こぼ)しながら否定する。そうだ、アイツらが……敵(アイツら)がいるから悪いんだ。 でもアタシだけなら、きっとどうにかなる。そうしてプロデューサーは、本当にアタシだけの。 「嫌だよ、そんなの! ねぇ、だったらアタシだけのプロデューサーになって! そうすれば」 「それはできない。俺は、お前達の誰とも……付き合うつもりなんてない」 そこで愛(いと)しさが砕け散る。必死に向けていた恋心が貫かれ、斬り裂かれ、無残に踏みにじられた。 そうすれば、アタシはずっとプロデューサーの側(そば)にいられる。なのに……どうして。 アイツらが邪魔なら、いなくなればいい。アタシだけでいいって言っているのに。でもプロデューサーは首を振る。 アイツらは関係ない。たとえアタシ一人だろうと、そんなつもりはないと拒絶する。嫌だ……いやだよ。 アタシだって肇と同じように敵意を向けられている。アタシのせいだって、裁判があんなことになったのはアタシのせいだって嘯(うそぶ)かれている。 アタシだって知らなかった。偉い人が見ているなんて気づかなかった、気づく要素なんてなかったのに。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ プロデューサーは、ナターリアのお話を聞いてくれない。ナターリアはプロデューサーが大好きなのに、大好きって言ってくれない。 ナターリア、何でもするのに。どうして……ドウシテ、ナノ。ナターリア、プロデューサーがいたから……! 「どうして! 一人ならいいでしょ! 一人なら」 「お前の恋人(プロデューサー)にはなれない」 でも納得できなくて、首を振る。分かってるノニ……プロデューサーは、アイドルなナターリア達を応援したい。 彼女には、できない。ケッコンもできない。今までと違う、ちゃんとお話してくれてる。 なのに首を振っちゃう。プロデューサーをまた困らせているのに……ナターリアはまた、自分のことばっかり考えてる。 「……俺は、怖いんだ。お前達の気持ちが……怖くて、仕方ないんだ」 「大丈夫ダヨ……ナターリア、頑張るから。プロデューサーのこと、いっぱい支えるカラ」 「その気持ちが、怖くてしょうがないんだ……! 俺はお前達から好意を向けられるたび」 「ヤメテ!」 「ただ、怖い……吐きそうになるくらい、怖かったんだ」 ……そこでプロデューサーは泣き出した。ナターリアよりいっぱい、ごめんなさいって……それで気づく。 ナターリアは、誰にゴメンナサイってした? あの小さい、怖いプロデューサーはこう言ってた。 騙(だま)された方が悪い……そう言ったから、ナターリア達を騙(だま)しても悪くない。ナターリア達が言ったことは、ナターリア達に返ってくる。 ナターリア達は、大きくて怖いプロデューサーにもひどいことを言った。だからみんなに見捨てられた。 ナターリア達も悪いことをした……はずなのに。またナターリア、同じことをしていた? プロデューサーが怖がっていたのに、気付かなかった。勝手に期待して、押しつけて……傷つけていたのカナ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 志郎さんは泣きながら……きっと、一人一人と話すたびに、何度も泣いたんだろう。既に私と面談したとき、目は真っ赤だった。 声も枯れ気味で、すぐに察せた。でもその涙の鮮烈さは決して薄れない。決して揺らがない。 志郎さんは自分も辛(つら)いのに、私達一人一人と本気で向き合ってくれていた。その心が胸を貫く……そうして気づく。 これが、志郎さんの愛なんだと。私達とは形も違う、行き違いになってきた感情。でも志郎さんもまた、私達を愛してくれていた。 「俺と付き合うのなんて、あり得ない……まるでゴミのように扱われた。公開処刑みたいな目に遭ったこともある」 「もう、いいです」 「だからあり得ない、俺のことが好きなんてあり得ない。そう……そう思い込んでいた。それで俺は、お前達に……ごめん、俺はまた押しつけて」 「いいんです」 それ以上見ていられなくて、そっと志郎さんを抱きしめる。……でもすぐに駄目だと気づき。 「……ごめんなさい!」 慌てて志郎さんから離れた。……志郎さんは怖いと言ってくれた。どう答えていいか分からず、理由も分からず。 本当は辛(つら)い。でも怖がらせたくない……だから、これでいい。激しく痛む気持ちは深呼吸で飲み干し、静かに笑う。今度は、私の愛を伝える番。 「志郎さん、ありがとうございます。正直に……話してくれて」 「まゆ、あの」 「それでごめんなさい。今まで気付かず、傷つけていて」 「いや、そんなことはない。ちゃんと話していくべきだったんだ。なのに俺は」 「それも大丈夫です。……確かに凄(すご)くショックで、悲しいです。でもまゆ、同じくらいとても嬉(うれ)しいんです」 「嬉(うれ)しい?」 「……志郎さんの気持ちが聞けたから」 そう、恐怖だろうと志郎さんの気持ちだった。志郎さんは私達の思いに応えてくれた。それは望んだ形ではない。 だけど……これで前に進める。ううん、進まなきゃいけない。怖くても踏み込んでくれた志郎さんのためにも。 「やっぱり、改めて考えてみます。志郎さんに甘えない……アイドルを続ける理由、お姫様になりたい理由を。でも」 「何だろうか」 「せめて、祈らせてください。アイドルとしても、あなたを愛する女の子としても……あなたが元気になれる日を」 改めて椅子に座り直し、大丈夫だと……流れる涙はさっと拭って、もう一度笑う。 「それくらいは、許してくださいね? じゃないと泣いちゃいます」 「まゆ……すまない」 「だから、気にしなくていいんです。まゆは大丈夫ですから。それに」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ Pちゃんはちゃんとお話してくれた。それで改めて気づく……みく達は、押し付けていただけなんだって。 何も変わらない……グリードやヤミーと、何にも変わらない。自分のことばかり考えて、行き違っていて。でもそれで止まれない。だって。 「それにね、悔しいんだ」 「悔しい?」 「だってみく達、馬鹿にされたんだよ! グリードにも、ヤミーにも……欲望を制御できない! 自分のことばっかり考えて、メダルを取るだけ取ったらポイ捨てして、反撃もできない! そんな弱い子達だって! みく、悔しい……! だからアイドルも絶対に諦めたくない!」 「復しゅうか、それは」 「違うよ! ……証明したいの。確かにみく達は、間違ってた。でも違う……みく達の中にあるのは、そんなものだけじゃない」 右拳を握ってガッツポーズを取ると、Pちゃんは優しく笑って。 「……実は俺も同じだ」 そっと、みくに拳を叩(たた)きつけてきた。それが何だか、仲間っぽくて二人で笑っちゃう。 「まぁ、これも押しつけなんだろうが」 「大丈夫だよ。少なくともみくだけは押しつけじゃない……だから見てて。Pちゃんはずっと、みく達のプロデューサーだから」 「みく、それは」 「あの、違うの。Pちゃんが担当とか、そういうのは関係ないから」 慌てて両手を振ってフォロー。うん、そういうことじゃないんだ。だから前かがみになって、猫耳を装着した上でにっこり笑う。 「……だってみくも、Pちゃんに見つけてもらったアイドルにゃ」 「あ……!」 「たとえ違う担当さんに入っても、キッカケをくれたのはPちゃん……だからね、見ててほしいにゃ。 みく、Pちゃんのことも大好きだけど……アイドルへの夢も本気にゃ。絶対絶対……ぜーったい! トップな猫キャラアイドルになるにゃ!」 「……すまない」 そしてPちゃんはボロボロと泣き出す。なので慌ててハンカチを取り出し、さっと目元を拭ってあげる。 「もう、どうして謝るにゃ? みく……大丈夫だから。というかPちゃんの方が心配だにゃ。だってその、この調子でみんなと」 「先生の許可はもらいつつだから、心配しなくていい。それに本当は、もっと早くに話さなきゃいけなかったんだ。そのしわ寄せさ、これは」 「……ならね、一つだけみくと約束にゃ」 Pちゃんはまだ泣きやまないけど、それでも右小指を差し出す。 「Pちゃんはヤミーやグリードも関係なしに、これだけの女の子から慕われているんだよ? だから……一度お医者さんに聞いて、それでOKなら、何だけど。時間がかかってもいいんだけど」 「あぁ」 「できれば『自分を好きになる女性なんて、いるわけがない』……なんて、言わないでほしい。 Pちゃんのことが好きどうこう以前に、とても悲しいよ。みく、そんなPちゃんは見たくない」 「……分かった」 Pちゃんも右小指を差し出し、そっと絡めてくれる。怖がらずに、約束を交わしてくれる。それが嬉(うれ)しくて、ちょっと涙がこぼれた。 「先生に確認した上で、だな」 「うん。それで『いつか』叶(かな)えるかもしれない約束……それでね、みくも約束するよ」 「さっき言った通り、猫キャラトップアイドルだな」 「そうにゃー!」 ――みく達はもう一度、それぞれの場所って感じだけど、戦いを始める。CGプロはそういう意味でも終わらなかった。 たとえどんなに歪(ゆが)んで終わったとしても、あの場所は出発点。だからこれから、証明してみせる。 赤羽根プロデューサーとCGプロアイドルのみんなは、失敗もしたけど全力でやり直して、突き抜ける。 それで証明する。グリードやヤミー達の考えが嘘(うそ)っぱちだって。もちろん、今までのみく達が間違っていたことも、証明する。 よし、やるぞー! ここからはみく達のオンステージにゃー! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ……ヤミーの気配は今のところなし。取りあえず後始末を終えた僕達は、近くの公園へ。 ヤミーに支配されていたとはいえ、違法金融業者なのは間違いなし。なのでブロンズ金融関係者は全員しょっ引かれた。 ただし、病院に……口封じも兼ねて派手にやっていたから、何人か死にかけていたよ。 しかし……やっぱり油断はできないなぁ。あの反応速度、先日の結婚式より鋭くなっていた。状況から察するに、原因はセルメダルか。 「俺……怪物が強くなる手伝いまで、しちゃってたんだなぁ」 浩介さんはブランコを揺らしながら、疲れ果てた様子で呟(つぶや)いていた。もう、夢も希望もないって顔だよ、しょうがないけど。 「あの……さっき兄さんが見せてくれた、ウヴァだっけ?」 「えぇ。あの写真で間違いないんですね」 「もうピッタリ。仕事は簡単だし、今のバイトより、もっと金を届けられるし……でもまさか、俺のせいで先生の家が駄目になっていたとか」 「それは、たまたま裏目に出ちゃったというだけで」 「……だよなぁ……たまたまだよな!」 比奈さんが考えなしのフォローをした結果、浩介さんは空元気。そんな優しさに、必死にしがみつこうとしていた。 「いや俺、今まで悪かった分……いいことしようって思ってたんだよ! 間違ってないよな!」 ブランコから立ち上がり、比奈さんに指さし。何も答えられず、それでも思いやっている比奈さんに甘え、浩介さんは更に空元気継続。 「よし! もっと頑張って……俺が借金を返しちゃうぞ!」 「……その欲望なら、かなりいいヤミーが生まれたんだろうなぁ」 「アンク! 坂田さんはただ恩返ししたかったの! それを欲望って何!」 「馬鹿!」 そして早苗さんがデコピン――浩介さんは面白いように転がって、頭を押さえもがき始める。 「片桐さん!? 何するんですか!」 そして比奈さんにもデコピン……これもヒロイン力のなさゆえか。 「まず浩介くん……それをやったら、またお母さんが甘えるでしょうが。あの子の頼み、聞いてなかったの?」 「で、でも……俺は、ただ」 「あと比奈ちゃんも……いいことをしたい、正しいことをしたいのも、立派な欲望――正義欲だよ」 「違います! アンクみたいなグリードが利用している欲望と、坂田さんの気持ちは全然違う! そうだよね、映司くん!」 「いや、同じだよ」 「映司くん!」 「もちろん今回は比奈ちゃんが言うように、たまたま悪い結果になったんだと思う。ただ」 そしてお兄ちゃんは自身の経験も含めて、少し悲しげに呟(つぶや)く。……それを合図にして、猛烈に嫌な予感が襲ってきた。 「人を助けるときは、その『たまたま』があるってことを……忘れない方がいいですかね」 立ち上がり、周囲の気配を捜索――なるほど、これは。 「おい映司!」 「お兄ちゃん、ヤミーだよ!」 お兄ちゃんが立ち上がり、僕とアンクは同じ方向へと走り出す。ヤミーの親になって、やっぱり正解だったかも……取りあえず、目は良くなった。 それに制御って概念が入ったことで、改めて考えるようになった。欲望って、一体なんだろう……ってさ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 納得できなかった。だって欲望ってもっとドロドロとしたもので、汚くて……なのに、人を助けたい気持ちも欲望? そんなのあり得ない。でも映司くんは口を挟むことができないほど、深刻そうな顔をしていて。 どうしていいか迷っていると、片桐さんが背中を叩(たた)いてくる。 「ちょっとだけ、見てみようか」 「え」 「答えを知りたいんでしょ? いいことをする、人助けをする……その感情も欲望なのかどうか。ほら、浩介くんも」 「う、うっす!」 ……そうだ、知らなくちゃいけない。きっと映司くんも、アンクも勘違いしている。 坂田さんみたいな優しい気持ちから生まれたヤミーなら、もしかしたらいいことで人を助けているかも。 そう思っていた。ううん、そう思いたかった。そうして現場へ到着すると、そのヤミーは空を飛んでいた。 そう……アゲハチョウだか、ガだかのチョウ形ヤミー。町中を二十メートルほど浮かんで、抱えたジェラルミンケースから派手に金をまき散らしていた。 浅ましく金を拾い上げる人々は、空に浮かぶ支配者を見上げようともしない。笑い、罵り、一万円札を奪い合う。 「な、何だこれ……!」 「君の欲望だよ」 片桐さんはとても冷たく、いら立ち気味に銃を取り出す。……銃!? いや、そんなことに構っている暇はない! 「違います! あれは、坂田さんの欲望を暴走させているだけで!」 「そう、暴走させているだけ。なら根っこは?」 「そ、それは……でも違う! これは違います!」 「ちゃんと目を開きなよ。これで、誰が助けられているの?」 その言葉で反論の芽をなくす。そうだ、誰も助けられていない。怪物がすぐ近くなのに、逃げようともしない。 ただ無償の金を……それで楽することだけしか、見ていない。私が、間違っていたの? ヤミーは人の欲望を暴走させるだけで、親が悪いことをしていない。それで欲望はドロドロとしたものばかり。 そう思っていたのに、全部間違いだった? それがとても怖くなり、足が竦(すく)む。 「俺の、欲望」 「そうだよ。後先も考えず、自己満足だけの正義を成した結果……でもね、君だけの話じゃないよ」 片桐さんはぼう然とする坂田さんにそう言いつつ、銃を上に向ける。 「映司くんも、恭文くんも、そういう失敗は嫌ってほどしてる」 「兄さん、達が」 「だからまた、考えればいい。恩人達のために今、何ができるか……自分の欲望と相談しつつね」 そして放たれる銃弾。それが人々の行動を、そして欲望の目をこちらに引きつけた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 今回はロストドライバーをセットし、ウィザードメモリを取り出す。お兄ちゃんと並んで歩き、お兄ちゃんはアンクからメダルを受け取った。 そのメダルをバックルに装填し、オースキャナーを取り出す。僕もメモリのスイッチを入れ。 ≪Wizard≫ 「変――身!」 ドライバーに装填・展開――お兄ちゃんはオースキャナーでメダルをスキャニング。 ≪Wizard≫ 「――変身!」 ≪タカ! ウナギ! タコ!≫ 蒼い旋風に身を包み、ウィザードへと変身。改めてメモリに刻んだ希望を、僕の欲望を思い起こす。 お兄ちゃんも赤・青・青のメダル三種と力を重ね、オーズに変身……そういえばタコ足は初めてだったなぁ。 更に響く銃声――その一瞬、全ての動きが制止する。お兄ちゃんはウナギのムチを両手で取り出し、一気に振るって展開。 ヤミーを縛り上げ、電撃で焼きつつ一気に地面へ引き落とす。更に早苗さんの叫びが響く。 「コッペパンを要求する! 繰り返す――コッペパンを要求する! 従わなければシメる!」 「……は?」 「「「「コッペパンどこぉ!?」」」」 ……でも効果的ではあった。銃を持った女……しかもどう見てもまともじゃなく、目も殺気立っている。 結果群衆は危険を察知し、全力疾走――落下したヤミーから反対方向へ必死に逃げていく。 『いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』 「……恭文、早苗さんとちょっと話した方がいいと思うぞ」 「話したけど? 昨日肉体言語で」 「言葉オンリーで頼むわ!」 そう言いつつ全力ダッシュ――そして二時方向から、忌ま忌ましげに歩いてくるウヴァをチェック。 「お兄ちゃん、ヤミーをお願い! 僕はウヴァを潰す!」 「大丈夫か!?」 「当然……今の僕は」 一気に走りこんできたウヴァ。それを迎え撃ち、まずは跳躍しながら錐揉(きりも)み前転。 左フックを回避しつつ回転し、眼前すれすれに左かかと落とし。いや、これは避けられたと言うべきか。 やっぱり以前より力がついている。軽く猫だましをかまし、脅かした上で着地。そのまま懐へ入って。 「Orga」 鬼の記憶を発動。左エルボーは通常のものより威力も大きく、ウヴァの強化された肉体を穿(うが)つ。 「ぐ……!」 吐き出されるセルメダルをかき分け、両掌底で左飛び膝蹴りをキャンセル。 すかさず突き出された右ストレートを左に裂け、内太ももへ右ローキック。衝撃で転げ、回転するウヴァの腹に返す足を叩(たた)きつける。 お兄ちゃんとヤミーから距離を離し、転がってもらう。そこで地面を蹴り砕きながら更に突撃。 奴の右ストレート・左フック・左ジャブ三連発・右ハイキックを軽々と捌(さば)き、右ハイキックは足首を掴(つか)んだ上でローリングジャンプ。 足を捻(ひね)り、一回転させながらウヴァを地面に叩(たた)き伏せる。なお僕は倒れることなく難なく着地。 さぁ足首をもらおう……と思っていたところで、奴の角が輝く。とっさに七時方向――安全区域へと下がり、周囲に放たれた雷撃を容易(たやす)く回避。 そのとき、奴の二本角に注目。電撃を発していた角の周囲は、わずかに歪(ゆが)んでいた。 「人間ごときが……調子に乗るなぁ!」 コアセイバーを取り出し、チーターメダル装填。 ≪チーター!≫ なおチーターメダルは速力強化――雷を振り切り、一気に奴へと肉薄――そして右薙の斬り抜けで胴体を斬り裂く。 ……やっぱり手応えが硬い。なので交差した瞬間にメダルを入れ替え。 ≪ワシ!≫ 「Thunder」 そのまま振り返り、奴の左バックブローを受け止める。するとコアセイバーから発生した磁力が、奴の爪と腕からメダルを吸い上げていく。 ただしその速度は、同時発生した雷の魔法により加速。数秒つばぜり合いをしただけで、奴の左爪は一瞬で消失する。 「何!」 当然でしょうが。磁力ってそもそも何? 磁石及び電流が発生させる磁場により生まれる力だ。 つまり電気そのものにも強く関係している。なので右へ振るい、百枚以上もあるメダルは全て投げ捨てる。 再構築された爪を、今度はこちらの左バックブローで払う。そうして奴には背を向いてもらい、すかさず首筋に刃を当てた。 「Thunder」 刃がウヴァの喉元へ食い込み、抵抗も許されず抉(えぐ)っていく。それに合わせて奴のメダルがまた急速に抜けていく。 「この……返せぇ! 俺のメダルだぁ!」 「違うでしょ。……みんなのメダル(欲望)だ、こそ泥が」 なおまたも角先の空間が歪(ゆが)み、電撃発生……というところで。 「Thunder」 一発サンダーを打ち込み、こちらへの遠隔攻撃はキャンセル。ウヴァは電撃が潰されたことに驚いたので。 「馬鹿な! セルメダルを集めて、俺は」 刃を引き……今度はそのふざけた瞳を抉(えぐ)り潰す。 「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「頭がなくなれば、そのふざけた思考も消えるかな?」 確かに攻防ともに強くなった。多分初見でやったら、痛い目を見ていた。でも……初見じゃないなら、ねぇ。 しかも今ので、想定を更に上書きした。次はより万全……僕が思っていたより、メダルによる能力値上昇は大きい。 セルメダルだろうと、数が集まればこれだけ強いんだもの。これがコアなら……あ、ヴンドール達のコアが入ってたっけ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 馬鹿な……! 俺が、どれだけの時間をかけ、セルメダルを集めたと思っている。なぜだ、なぜ人間ごときに勝てん。 なぜ振り払えん……! 強引に肘打ちすると、その腕が取られあっさりあお向けに倒れる。 刃が食い込む衝撃からは一瞬離れたものの、奴は俺に馬乗りとなり、すぐに刃を突き立ててくる。しかも。 「Ground」 その勢いがより増していく。まるでギロチンの如(ごと)く、頭が刃と地面に挟まれ圧迫され続けた。 ならばと乱暴に爪を振るっても、全てが脇から軽く叩(たた)かれるだけで流され、虚空を貫く。 剣を取ろうとしても、同じように脇へ流されるだけ。強引に体を揺すっても、俺と同レベルの力で押さえこまれるだけ。 足で蹴り飛ばそうとしても、そもそも届かない。電撃による威嚇はなぜか発生タイミングを読まれ、発動前に潰される。 何なんだ、コイツは……! 明らかに戦闘力が違う。そもそもこんな奴、オーズの仲間にいたのか。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ マウントポジション……いわゆる馬乗り状態だね。総合格闘技などではもっとも有利な立ち位置とされる。 伸ばされた腕の力、反撃の動き、その全てを読みきり、的確に脇へ流す。幸い僕は寝技とサブミッションは大得意。 あとは即席ギロチンで、この虫頭が両断されるのを待つ……うん、即席ギロチンだよ。 コアセイバーの柄と切っ先のちょい手前に、グラウンド製のフックを引っ掛けた。 あとは地面に戻るよう引っ張れば……というかお兄ちゃん、早くしてよー? こんなエグい真似(まね)をしているの、周囲の人達が逃げる時間を稼ぐためなんだから。 あの雷撃は脅威だし、潰しつつ拘束するのが得策かなーと。ついでにダメージを与えられるならバッチグー。あとは……よし、フラグ成立禁止。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 火野プロデューサーの話、CGプロの様子……更に赤羽根さんとも昨日のうちに御相談させていただき、一晩で企画をまとめた。 我ながらかなり大規模な企画になるが、彼女達が本当にやり直し、戦う覚悟を示せるなら……! 「……ふむ」 朝一番で部長室へ乗り込み、今西部長に書類を確認していただく。その結果厳しい表情は和らいだものの、まだ困惑の色は消えなかった。 「本気かね」 「本気です。総勢百名ものアイドルを引き受け、プロデュース……それ自体が前例のない大企画です。そこから発想を得まして」 「AKBなどからもヒントを得ているね。いわゆる地方アイドル的なユニットとして特化させ、活躍の場を分散させる」 「関東圏だけに限ってしまえば、結局CGプロ社長と同じことになります。 それに火野プロデューサーから確認したのですが、ヤミーとグリードの活動圏内は都内に限られています」 「また彼女達が狙われないよう、避難させる意味もあると。その理由は」 「不明です。火野プロデューサーは『人が多ければ多いほど、欲望が渦巻いているから』……と仰(おっしゃ)っていたのですが、それも断定ではなくて」 それは道理だった。彼らの目的は欲望を満たし、メダルを手に入れること。そして東京(とうきょう)は経済・人ともに日本(にほん)の中心都市だ。 だがもしかすると、もっと別の理由があるのかもしれない。そう仰(おっしゃ)られていたが。 「地方出身者も多いですから、それぞれの出身地方に特化した芸能活動は有効かと。 ……それに今回の件で、アイドルの御家族からも実家へ戻してほしいという声が」 「それもあったかぁ。まぁそうだよね、未成年も多いわけだし」 御家族の要望も叶(かな)え、本人達にその志があるなら……あとは発案者でもある赤羽根プロデューサーの説得がどう通じるか、だが。 「かなりの博打(ばくち)になるのは、否定しません。ですがもし大当たりすれば」 「プロジェクトの名前は全国規模で広まり、彼女達はリベンジを果たす。今度こそ、手を取り合う仲間として」 「はい。それでこの発案者は赤羽根プロデューサーです。ヤミーの支配から解放されたことで、精神状態もかなり持ち直したようで」 「……よし。まずは改めて彼女達と面談、その意思があるなら……という形にしていこうか」 「ありがとうございます」 「だがネーミングは、これでいいのかね」 「発案者の要望ですので」 これだけは譲れない……私も同じ気持ちだと断言する。結果今西部長は困り顔で頭をかくのだが。 「アイドルがお姫様とするなら、彼女達は舞踏会に呼ばれたその候補。しかしただ争い、蹴落とし合うだけでは王子様とてほほ笑まない。 目的も、考えも、流れる速度すら違っていても、それぞれのために手を取り合う。そうして舞踏会をより華やいだものへと変えていく」 「なら、彼女達が参加する企画にふさわしい名は、これしかありません」 「確かにね。……Cinderella Girls(シンデレラガールズ)プロジェクト……か」 略してCGプロ――そう、CGプロは形を変えて受け継がれる。彼女達が本当に、笑顔の似合うお姫様となるために。 もちろん決して楽な道じゃない。各地方の346プロ関係各所に協力も要請しなくてはならないし、上を納得させるのも大変だろう。 「それで企画書によると……CGプロの軸となる、関東(かんとう)支部メンバーを選出するんだね」 「はい。彼女達を中心とし、地方ユニットも続けて押し出していく寸法です。 そのメンバーの中には、既に一定の知名度もある島村さん、渋谷さん、本田さんを入れたいのですが」 「うん、この三人なら大丈夫だ。実際裁判の様子で、島村くんはかなり見直されたようでね。 カークスについても申告はしたから、もう大丈夫だろう。あとはバトスピオーディションでどこまで覆せるか」 「はい」 「あとは……ブラジルの子とかは、どうするのかね。さすがに一人ぼっちだと思うよ?」 「……企画、検討中です」 関東(かんとう)支部メンバー……三人だけを決めただけなので、困り気味に首裏をかいてしまう。 さすがに人数が人数なので、一気には無理。関東(かんとう)支部メンバーも未デビューな子が交じるだろうから、その手はずも整えなければいけない。 ここもまた、赤羽根プロデューサーや担当医と相談しつつ……いや、負担はかけたくないのだが、一旦の引き継ぎもあるので後二〜三回は話が必要で。 ちなみにみんなの性格・能力・クセを知り尽くしているあの方は、本企画のチーフプロデューサー(暫定)と考えている。 ここは単なる干渉ではなく、事件中のことから。実際赤羽根プロデューサーの管理能力がずば抜けていたのは、間違いない。 今度は私も含め、スタッフが万全の体制で支える。今までのようには……だが、だからこその準備期間だ。 「今言った通り関東(かんとう)支部メンバーを成功させ、そこから徐々に地方メンバーも展開させる予定です。 それぞれの個性や特技を生かした、新機軸の地元密着型アイドル。最終的には全都道府県に一人ずつ所属するかと」 「だがいきなりは無理だよねぇ。……同時にこれは彼女達がアイドルとして鍛え直し、346プロ上層部にやる気を見せる期間でもある。 もちろん上層部が彼女達に対し、実際の評価を下すための時間も作れる」 「そう、なってしまいます」 「もちろんそこで溢(あふ)れることは望ましくないが、それで耐え切る気概もなければ……上も納得しないだろう。 うん、これについては私も賛成だ。ちなみにこれ、君の発案じゃあないよね。火野プロデューサーかね」 「いえ……赤羽根プロデューサーです」 「……ほう」 「正直、驚きました。ですが医師立ち会いの下、冷静に務めた結果ですが」 CGプロの状態は、やはりカークスの影響が大きかったようだ。いや、それだけではないだろう。 ……あの人も腹をくくった。こうまでこじれた状況、その中でやり直すには、筋道も冷酷に立てて証明しなくてはいけないと。 「だからこその暫定チーフプロデューサーかね」 「発案者でもありますので、まず初期は……という感じでしょうか。ただそれ以上の懸念事項が。 先ほども言ったように、やはり東京(とうきょう)は危険地帯。その上カークスはもしかすると」 「うむ……アイドルという欲望の土台に、価値を見い出しているかもしれない、だね」 「結果また、CGプロアイドル達が狙われる危険もあると。そうして我々346プロも」 「……うちはアイドル部門こそ新設から間もないし、まだまだ人員も少ない。だからね、この企画はありだと思うんだよ。 世に広まった『CGプロ』への悪評さえ覆せば、アイドル部門の飛躍に繋(つな)がるだろう。だが……デメリットのないメリットはない、か」 「残念ながら」 ……そういう『筋道』を立てれば、彼女達の受け入れと企画は問題ないのでは。それが我々の結論だった。 ただ責任も伴う。改めて火野プロデューサーや警察の方と相談し、その上で慎重に進めなくては。 場合によっては私も……今のうちに、師匠のところで鍛え直してくるべきだろうか。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ リザルト・ザ・メダル! タカ×2 クワガタ×1 バッタ×1 カマキリ×2 トラ×1 ライオン×2 チーター×1 ゴリラ×1 シャチ×2 ウナギ×3 タコ×2 ワシ×1 オオカミ×2 キツネ×2 リカオン×2 フェニックス×1 ドラゴン×1 (その3へ続く) あとがき 恭文「というわけで……実は数か月かけて、シンデレラガールズとかも見つつ温めた一大計画『Cinderella Girlsプロジェクト』解禁!」 (ここまで長かったー!) フェイト「え、じゃあ今までの流れってその前フリ!?」 恭文「フェイト、なんて夢がない」 フェイト「こらー!」 (ぽかぽかぽかー) 恭文「いや、ご当地アイドルって今人気らしくて。古くはカントリー娘……あ、今はカントリー・ガールズなんだっけ。 とにかくそんなノリで、CGプロ所属アイドル達は日本制覇に乗り出します。お相手は蒼凪恭文と」 フェイト「フェイト・T・蒼凪です。……続報はまたちょくちょくダイジェストで?」 恭文「そうそう」 (だって765プロは関東ローカル) 恭文「……きっと復帰した赤羽根さんが、全国を渡り歩くさ」 フェイト「赤羽根さんは休まないと駄目だよね!」 恭文「それはそうとフェイト……そろそろ磁力の万能性にメスを」 フェイト「あ、うん。便利だしね」 (そして電撃により磁力強化) 恭文「そのうち磁力で外れたメダルを引き寄せ回収とかやりそう」 フェイト「それはいいんじゃないかな!」 恭文「そして超電磁ヨーヨー、超電磁竜巻、超電磁スピン」 フェイト「それはまた違う作品ー!」 (というわけで次回、まだまだシンデレラ達が反撃します。 本日のED:クレイジーケンバンド『タイガー&ドラゴン』) あむ「恭文、これから卯月さん達は」 恭文「見事アニメルートを突っ走るはず……でもそうすると厄介になるのが」 あむ「カークスかー!」 恭文「小物でもコソコソしている奴が、一番面倒という……よし、これから奴のことは九十九と呼んでやろう」 九十九「いぃ!?」 あむ「ややこしいからやめない?」 (おしまい) [*前へ][次へ#] [戻る] |