[携帯モード] [URL送信]

小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第41話 『Jの世界/喪失』


俺は戦えない。みんなの笑顔を守るため……そう言いながら、戦いを恐れている。

仲間を守ることすらできなかった、そんな自分の弱さを、醜さを恐れている。俺は自分すら救えない。

このまま究極なる闇をもたらす者になったらと……怯(おび)え、竦(すく)み、未(いま)だに立ち止まっていた。


約束の日――火野の恭文に言われるがまま、城南(じょうなん)大学という学校へやってきた。ここに、この世界のクウガについて詳しい人がいると。

古びた、歴史ある校舎。研究室も木造で、理科の実験的なことをするイメージもない。

そんな一室にノックした上で入ると、眼鏡をかけた栗(くり)髪の女性が笑いかけてきた。


年の頃は三○代半ばだろうか。髪は肩くらいまで伸びていて、目鼻立ちははっきりとしていた。


「失礼します。あの」

「あ、小野寺ユウスケ君ね。初めまして、沢渡桜子(さわたり さくらこ)です」

「小野寺ユウスケです、初めまして」


改めてお辞儀し、沢渡准教授に招かれるまま、木造のテーブルに着席。……研究室、何だよなぁ。

やっぱり理科の類はないらしい。あるのは様々な本や資料。これだけ見ると、本屋にも見えてしまう。


「コーヒーで大丈夫かしら」

「いえ、お構いなく」

「そうもいかないわよ。せっかくのお客様なんだし……はい」

「……すみません」


コーヒーを受け取り、まずはそのまま……苦いが、ブラックでいける。というかこの香ばしさと香りは。


「美味(おい)しい――!」

「よかった。それで、火野くんからも軽く聞いてるけど……クウガについて、よね」

「はい。というか、何でアイツは」

「……火野くんね、この世界のクウガと知り合いなの」

「は……!?」

「正体については、ダグバ……あ、第〇号ね? グロンギの王による、最後のゲームが始まってから知ったんだけど」


聞いてないぞ、おい……! どういうことだよ、火野恭文! 知り合いって何でだぁ!


「でもそれ以来、会っていないの。彼もそうだし、私も」

「会っていない? え、じゃあ沢渡准教授も」

「うん、クウガになった彼は、私の友達。というか、大学の同級生だったの」


詳しいどころか、知り合いだったのか! なら……もしかしたらヒントがあるかもしれない。

俺が恐怖しない、もう一度戦えるヒントが。慌てて前のめりに、沢渡准教授に詰め寄ってしまう。


「どんな人だったんですか! クウガは……沢渡准教授のお友達は! 今どこに!」

「そうだなぁ……のんきで元気、かな」

「のんきで、元気?」


あり得ない答えが飛び出して、つい呆(ほう)けてしまう。恭文の話しぶりでは、とんでもない超人のはずなんだが。

伝説を塗り替えたんだろ? 凄(すさ)まじき戦士になっても、人の心を失わないくらい強くて。


「そう、のんきで元気。それで誰かの笑顔を守るため、全力で頑張れる人」


沢渡准教授は懐かしむように呟(つぶや)き、ゆっくりと立ち上がる。そうして玄関の向かい側――日の差し込む窓に近づき、太陽を、空を見上げた。

まるでそこにこの世界のクウガが、沢渡准教授の友人だというその人がいるように。



世界の破壊者・ディケイド――幾つもの世界を巡り、その先に何を見る。

『とまとシリーズ』×『仮面ライダーディケイド』 クロス小説

とある魔導師と古き鉄と破壊者の旅路

第41話 『Jの世界/喪失』



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


結局、沢渡准教授からは大した話を聞けなかった。ただ……九年前、戦いの中で培った貴重なデータをくれた。

クウガやグロンギの能力、その意味……それは以前、恭文が教えてくれたものととても近くて。

結局答えは見つからなかった。だが沢渡准教授は、そんな俺に次の行き先を示してくれた。


関東(かんとう)医大病院――かなり大型の病院に、四○代間近という渋い男性医師がいた。その人の名前は椿秀一(つばき しゅういち)。

司法解剖専門のお医者さんらしい。黒髪短髪で切れ長な瞳は、年を感じさせない力強さに満ちていた。

そんなお医者さんに引っ張られ、いきなり各種身体検査――それが一通り終わり、診察室に引っ張られる。


そして椿先生は俺のレントゲン――そこに映るアークルや伸びた神経――を見ながら、難しい顔をしていた。


「あの、椿先生……これは」

「説明してなかったな。俺は未確認生命体が出始めた頃から、クウガの主治医をやってたんだよ」

「主治医!?」

「元々は……一条って奴が友人にいるんだが、たまたまクウガの正体を知ってな。
それで医者である俺に、体がどうなっているかを調べるよう頼まれた。
で、そのまま最後まで付き合ったわけだ。当時付き合ってた女に振られながらさぁ……泣けるだろ?」

「え、でも専門は」

「そっちの面からも、未確認生命体とは多く関わっていてな」


姐さんが俺の体を調べてくれたのと、ほぼ同じ経緯だったのか。そこまでそっくりとは。


「ほんと、やんなるくらい……そういう気持ちすら麻ひするほど、見せつけられた。なのに怒りだけは消えなかったよ」


司法解剖が専門。つまりこの人は、被害者も……軽い言葉からにじむ、壮絶さを感じ取って震えてしまう。


「お前さん、確か幾つものパラレルワールドを旅してたんだっけ?」

「はい……というか、信じてくれるんですか」

「あの非常識なハ王を見てたら、それくらいのことは軽い」


どういうことだよ、火野の恭文……本気で言ってるんだが、この人!

というかそれが軽いって、お前の非常識も相当だろ! ハーレムだからか!?


「とにかくその間、きちんとした医療施設で検査したりは」

「いえ、一度も……今日みたいに詳細なのは、元の世界で一度だけ」

「そうか。じゃあ、深呼吸した上でよく見ろ」


意味が分からないが、俺の状態は相当ひどいらしい。言われるがまま深呼吸し、レントゲン写真を見る。

……深呼吸しなかったら、覚悟をしていなかったら、ショックで悲鳴を上げていただろう。

以前、姐さんの勧めで検査したときより、神経触手が太く、多く伸びていた。それこそ頭と末端部以外はって感じで。


覚悟はしていた。クウガとして強くなることが、人間として逸脱することになる。分かっていた、はずなのに……また恐怖する。


「別世界ってことを加味すると、断定はできない。が……俺の見立てでは、お前さんは間違いなく戦士クウガだ。
この侵食具合で行くと、金の力が発現しかかっていた頃と同じか?」

「金の力……あ、電気ショックでビリビリ! 俺達といた恭文から聞いています!」

「そうか。で、お前さんは怖がってるわけだ。これ以上変化が進んだらと」

「……はい」

「いいじゃないか、怖いならやめちまえ」


あっさり言い切られた。恐怖を、絶望を受け入れ、認められ、後押しされ、ついポカーンとする。

椿先生はそんな俺へ振り返り、大丈夫だと念押しで頷(うなず)く。


「でも……俺は」

「アイツも怖がっていたよ、ずっと」

「アイツ……この世界のクウガ」

「あぁ」

「でも、この世界のクウガって凄(すご)い人なんですよね。伝説を塗り替えた超人で」

「いいや、お前と同じだよ。戦うことも」


先生の手が伸びて、俺の右手に重なる。自然と握っていた拳を持ち上げ、俺の目の前で強めに叩(たた)いた。


「こうやって拳を握って、誰かを傷つけることも……もちろん人じゃない『何か』に変わることも怖がっていた。
ただアイツには、『それでも』と戦う理由があった。それだけだ」

「それでも、戦う理由」

「……俺から言えるのは以上だ」


椿先生はもう一度俺の拳を叩(たた)き、すぐさまレントゲン写真とデスクに向き直る。その上でカルテらしきものをさっと書く。


「ただ一つ忠告しておくぞ。今の状態で変身したら、お前は間違いなく凄(すさ)まじい戦士になる。
……それが嫌なら、道は二つに一つだ。戦わないか、それでも戦う理由をちゃんと見つけるか」

「この世界のクウガは、どうして戦っていたんですか。あの」

「それはアイツの理由だ。お前がすがる柱にはさせられないよ」


……自分で見つけろ。考え、怯(おび)え、悩みながら見つけろ……そういうことらしい。

ペンが動く音を聴きながら、まだ握り続けていた右拳に目を向ける。叩(たた)かれた痛み――エールにも似た後押し。

その答えが見えないまま、背後の窓から空を見上げた。沢渡准教授と同じようにすれば、何かが見える……そう感じて。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「――男二人で海を眺めるか。殺風景だねぇ」


笑いながら待ち望んでいると、その瞬間は早々に訪れた。……立ち上がり、三時方向を見やる。

奴は黒子姿の何者かを伴いながら、こちらへと近づいていた。俺と同じように笑って、牙をむき出す。

そして俺達は、望んだ時間をようやく迎える。そうだ、これが五度目――今度こそ、答えを導き出そう。


どちらがより強いか。命を賭けて、楽しみながら……笑い続ける俺達を、天と海は静かに見守っていた。


「今からは四人だ。だが早かったなぁ」

「話を聞いて、待ちきれなくてね。きっときていると思ったよ。……ありがとう、大和鉄騎」

「おい……待て! やめろ、コイツは」

「はいはい、黙ってようねー」


そこで黒子が駆け寄ってくる。蹴り殺そうかとも思ったが、奴は剣崎一真を抱えてすたこらさっさと避難。


「おいこら、離せ! 君は誰だ!? というか彼を止めてくれ!」

「止めないよ」

「はぁ!?」

「止められるわけ、ないでしょうが。……二人とも、一切の邪魔はできる限り排除する。だから……思う存分やるといいよ」


なるほど、俺達の運命を跳ねのけるため、助っ人(すけっと)を連れてきてくれたか。それには感謝するしかあるまい。


「礼を言うのはこちらだ」

「いやいや、僕もだよ。……ずっと、ずっと待ち望んでいた」

「やはりそうか」

「邪魔する奴もなく」

「面倒なしがらみもなく」


牙をむき出し、殺気を解き放ち、空間すらも揺らがすほどの歓喜で震え、俺達はまた笑う。


「「お前と命を奪い合える、この瞬間を――!」」


さぁ、始めよう……殺し合いを。どちらが死んでも、悔いが残らないほどの闘争を。俺達の未来は、その先にしか形作られない。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


青チビが戻ってきた。かと思ったら話を聞いて、いきなり飛び出しやがった。慌てて問題の場所へ。

なお火野恭文や相川始達は、他にやることがあると言っていた。そして、春閣下達も普通についてきやがった。

そしてユウスケはタイミングが悪くお出かけだ。まぁ、知らせない方がいいだろうな。恐らく……止められない。


……そうして現場に到着したら、おかしい状況だった。それで春閣下達もあ然。


「……やるな、修羅」

「そっちこそ」

「この俺の造形速度についてこられるとは」


奴らはお互いに作ったサンドアートを見せ合い、楽しげに笑っていた。なお大和鉄騎は二メートル近くある城。


「そっちこそ。この短時間でそこまで作り込めるなんて……まさしく天才か」


青チビは何かこう、スライムだか触手だかよく分からん、見ているだけで寒気を催すゲテモノだった。


「蒼凪さん!」

「アイツら、何してんだ……! おい!」

「それ以上近づかない方がいいよ」


そして少し離れたところに腰掛ける、変な黒子がいた。その黒子の脇には、妖精っぽい奴らが三人。

一人は左翔太郎に似ていて、もう一人は緑髪のシスター。三人目はなぜかドーナツを楽しげに食べていた。


「お前、誰だ」

「阿木奈央――蒼凪恭文が立ち寄った世界で、たまたま知り合ってね。
スーパー大ショッカーとも故あってついてきたの」

「そして私はシオン……世界を照らす太陽そのもの。こっちはショウタロス」

「ショウタロウだ!」


おいおい、名前までそっくりかよ。ていうかこいつら、普通に喋(しゃべ)ってくるのかよ。


「ハルト……んぐもぐ」

「……おい、そこの奴はドーナツを食っているんだが。よろしくやっていこうって意思が感じられないんだが」

「あ、それと剣崎一真さんなら」

「無視かよ!」


阿木奈央が右手で脇を指差すと、縛られたままの剣崎一真が……写真で見たままだな。そこでデコが駆け寄る。


「剣崎! アンタ……ほんとなにしてるのよ!」

「伊織ちゃん、久しぶり……それより止めてくれ! アイツら、まともじゃない!」

「えぇえぇ、殺し合おうって言ってたのにサンドアートだものね! ていうか何で!」

「時間がまだだからって、急に始めてねぇ」

「じゃ、じゃあもしかして、仲良くなったんですかー? ……だったらよかったですー! あの、蒼凪さ」


近づこうとしたもじゃもじゃツインテールが走り出し、阿木奈央の隣を通過――その瞬間、もじゃもじゃの足が止まる。

それ以上踏み込めず、怯(おび)え、竦(すく)み――泣き出しながらその場でうずくまった。


「やよい、どうしたの!」

「……自業自得だ」


阿木奈央はもじゃもじゃの首根っこを掴(つか)み、引きずりパイナップルに放り投げる。

パイナップルはそれを受け止め、力を入れて揺する。が……声が出せないほど混乱していた。


「やよい、しっかりしなさい……やよい!」

「僕から先は、二人の殺気が交じり合っている『異界』だ。下手に近づいたら心を壊されるよ」

「殺気!? で、でもどう見ても遊んでるじゃない! 仲良くなったんじゃないの!?」

「いいや……これは余興だよ。そして最終確認」

「どういう、ことだ」

「お互い、遊んでいる間も隙あらば殺そうとしていた。でもそれはできなかった……だからほら、嬉(うれ)しそうに笑っている」


ぼう然とする沖縄に答え、奴は二人を指差す。確かに笑っていた……だが、異質なものもそこで感じ取れた。

あれは歓喜の笑いだが、質が違う。アイツ、あんな顔で笑えたのかよ……! まるっきり獣そのものじゃないか。


「そんな片手間じゃあ倒せないほどに強い相手。自分の全てを……それこそ命すらも賭けなきゃ勝てない相手。
そんな相手に出会えて、同じ思いを共有し合えて、心から嬉(うれ)しそうだ。……誰も立ち入ることなんて許されない」

「……どうしても、止められないの?」

「無理よ、あずさ。アイツらは馬鹿なのよ……それで私達やあっちのフェイト達じゃ、追いつけないところに突き抜けている」

「俺達は、完全におじゃま虫ってことかよ」


そして二人は笑って右バックブロー――さっきまで楽しそうに作っていたサンドアートを一瞬で粉砕し、全てを砂へと帰す。

まるで爆発でも起こったかのような破裂音に、全員が身を竦(すく)ませた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「時間だ」

「そうだね」

「一つ、頼みがある」

「何かな」

「もしお前が勝ったら、俺の亡きがらは大気圏から落としてくれ」

「OK……なら、僕が負けたら同じようにしてよ。仮面ライダーメテオも悪くない」

「あぁ」


そう、時間だ……崩れゆくサンドアートを脇目もふらず、僕達は一歩ずつ近づく。


「しかし、ついに全てを振り切ったか……修羅。今のお前はより研ぎ澄まされ、荘厳(そうごん)だ」

「少し違う。……確かにフェイトやギンガさん達は、僕の周囲は遠慮なく足を引っ張ってきた。でも一番悪いのは僕だ」


ゆっくり、でも確実に。この迫る時間を心と体の全てで楽しみつつ……そしてダブタロスとカブティックゼクターが飛来。


「僕は嘘(うそ)をついていた。自分が描く『なりたい自分』に、突き抜けた先に感じていた希望に嘘(うそ)をついた」


それらが僕達の間で激しく空中戦を描く。お互いの角を幾度もぶつけ合い、交差し、しかし押し負けることもなくそれぞれのパートナーへ。


「僕はもっと突き抜けたい。誰よりも速く、誰よりも強く――誰一人、僕に追いつくことができないほど。だって僕もまた」


飛んできたダブタロスは僕の脇を抜け、カブティックゼクターも同じように飛び去っていく。


「この数多(あまた)ある世界に一人しかいない、『選ばれし者』だもの」

「それでいい……そんなお前とやり合ってみたかった」


空気を読んでくれたダブタロス達には感謝し、僕達は砂地の地面を踏み砕きながら肉薄。

奴の左ストレートを伏せて避け、鋭く右ボディブロー。すかさず襲ってきた右エルボーに背中を打ち抜かれよろめくと、追撃の右ニーキック。

両腕でニーキックをガードし下がると、奴は鋭く踏み込み胴体部へ右ボディブロー。それを左腕でガードし、右フックで顔面を殴り飛ばす。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ついに始まった激突――変身するかと思ったら、ゼクター達は奴らの脇を抜けた。まさか装着者から外れた?

いや、違う。ゼクター達は阿木奈央の脇にきて、仲良く並んで停止する。そしてマスター達の戦いを静かに見始めた。


「変身、しないだと」

「ちょっと、どういうことよ! 何で変身しないの!?」

「当たり前でしょ」


驚くパイナップルや俺達に呆(あき)れながら、阿木奈央がお手上げポーズ。……その間に、殴り飛ばされた大和鉄騎が笑いながら反撃。

倒れるところを踏みとどまり、踏み込んできた青チビの懐へ入って左エルボー。ボディを撃ち抜き、すかさず右アッパーで顎に一撃。

身を逸(そ)らした青チビは、笑いながらヘッドバッド。振り切った拳の脇を通りすぎ、奴の鼻っ柱を叩(たた)く。


かと思えばその拳がまたハンマーのように落ち、青チビの左肩を重く打ち抜く。

その衝撃で青チビの肩から、血が迸(ほとばし)った。衝撃だけで肉を潰しやがったのか。


「ひぃ――!」

「雪歩!」


雪女が悲鳴を上げたところで、痛みと衝撃から離れる二人。だがそれでも笑いつつ、引力に引かれるがごとく肉薄する。


「既にクロックアップ、ハイパークロックアップとその速度は互角。どこで、どういう形でやろうと問題ない」

「邪魔する奴は、もじゃもじゃみたいに……か。で、冷静に解説しているお前は何者だ」

「阿木奈央だよ」


そういうことは聞いてないんだがな――! だが、振り切り、突き抜けるか。ギンガマン達がどうこうじゃない。

お前の目指す速度は、そうして到達する世界は、このレベルってことか。それがお前の答えなんだな、青チビ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


大和鉄騎の右ストレートを左に避け、右サイドを取りながら脇腹に右ボディブロー。

鋭く変える右バックブローを避けると、そのまま左回し蹴りが飛ぶ。しかも跳躍し、勢いをつけながら。

こちらも同じように蹴りを返し、また衝撃が弾(はじ)ける。……お互い、攻撃はしっかりとガードしていた。


右腕に走る痺(しび)れを嬉(うれ)しく思いながら着地し、また飛んで一回転しながら右後ろ回し蹴り。

それはすぐに下がって回避されるも、そのまま回転し今度は左回し蹴り――陸奥圓明流旋もどき。

奴は右腕で蹴りをガードし、ダメージに構わずそのまま踏み込み左手刀。……地面へ倒れ込みながら突きをすれすれで回避する。


左脇腹をかすめた刺突は、コートとインナーを容赦なく引き裂き、肉も軽く切るほど鋭い。

そこから奴の伸びきった左腕を取り、絡みつきながら右回し蹴り。側頭部――左耳を狙った一撃により、奴がよろめく。

しかし笑いながら踏ん張り、強引に僕を投げてきた。砂地の地面に叩(たた)きつけられながら転がり、起き上がると奴が既に踏み込んでいた。


放たれた右ストレートをすれすれで避けつつ、その腕を取って捻(ひね)りながら雷もどき。

……とはいかなかった。先ほど傷つけられた脇腹に、奴は左親指で刺突。

指が鋭く肉を裂き、容赦なく抉(えぐ)る。その痛みに止まりかけたところで、右腕のホールドが解除。


その腕は蛇のように僕の首へ絡みつき、締め上げてくる。窒息……いや、首をへし折るが如(ごと)き勢い。

なので本当に首が潰される前に、奴の右腕にこちらの右親指を突き入れる。そう、さっき奴がやったのと同じように。

腕の筋を抉(えぐ)り、引き裂く一撃で力が急速に緩む。そこからすぐに抜け出し反転、奴の胴体部に虎砲……しかし読まれて、右ニーキック。


とっさにガードするも吹き飛び、すかさず足が返って左ローキック。右足に打ち込まれたそれは、衝撃で肉と骨に痛みを刻む。

そのまま僕の体は回転するも、とっさに両手を地面に当てて停止。そのまま腕で『地面を噛(か)み』、跳躍。

その勢いのまま奴の顎を蹴り飛ばし、追撃キャンセル。更にそのまま飛び上がり、至近距離で前方宙返り。


右踵(かかと)落としを頭頂部に放つも、それはたやすく両腕でガード。……だからこそ渾身(こんしん)の左踵(かかと)落としを放つ。

陸奥圓明流、斧鉞(ふえつ)もどき――本命の一撃はガードを押しのけ、奴の頭蓋に命中。そこから鮮血を走らせる。

揺らめく奴の体、それを見ながら静かに落下していくと、奴は眼光をたぎらせ、笑いながら踏ん張る。


そして放たれる右ローキック……とっさに左腕でガードするものの、そのとき肩と被弾箇所に激痛が走る。

最初に食らった拳の打ち落とし、アレで肩にはヒビが入っており、この一撃で衝撃に耐えかね骨が粉砕。

もちろん被弾箇所も……再び弾(はじ)ける鮮血に笑いながら、倒れ込みながらすぐ起き上がった。


奴も筋を断ち切られ、動かなくなった腕に未練はない。笑いながら、左拳を強く握り締めた。

……奴はまた笑って踏み込むと、右ミドルキック。それを伏せて避けると、すかさず足が返ってきた。

側頭部めがけてのかかと落としを更に伏せ……いや、跳躍・錐揉(きりも)み回転しながらすれすれで回避。


そのまま顔面めがけて旋もどき……しかしガードされ、次の蹴りが飛ぶ前に振り払われる。

地面に倒れ込みながら、奴の右足に絡みつき膝固め。このまま倒して……と思ったところで、奴は逆に倒れこむ。

そのまま全体重をかけ、僕の胴体部へ膝蹴り。結果左ろっ骨の下二本が一気にへし折れる。


蹴りはがされ地面を転がり、起き上がったところで奴の左手刀と出くわす。本当に速い、見ていてドキドキするくらいに。

とっさに左へ避けると、その風圧により左目及び顔の側面から痛みが走る。ち……目をやられた。

一気に視界が半分奪われるも、それに構わず左腕の袖を取り、引き寄せながら右回し蹴り。


奴はとっさに頭を下げて、蹴りを回避。なのでこちらも足を返し、その顔面へ右かかとをたたき込む。

陸奥圓明流、飛燕……の裏十字もどき。しかし左足もかけているのに、奴は倒れない。

ならば体を回転させ、腕を捻(ひね)りながら着地――そのまま奴を担いで、再び雷もどきに移行。


左腕は使えないけど、それでも投げられるよう訓練はしている。それにもう腹を抉(えぐ)られはしない。

そのまま骨をへし折ろうとするも、奴は自分から跳躍。僕の背を伝って、宙返りする要領で前に着地した。

とっさにガード体勢を取ったところで、奴が右ミドルキック。二メートルほど吹き飛び、何とか着地する。


……倒れない、かぁ。そうだね、思えば……少なくとも今日は一度も倒れていない。

つまり奴を倒さなければ、倒さずして意識を奪わなければ、僕に勝利はないわけだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


最高だ……最高だ、修羅。お互い殺す勢いの一撃を、何度も、何度も、何度も交わす。

動かなくなった右腕、頭から走り続ける、頭蓋を割られかけた痛み……その全てが心地いい。

ハイパークロックアップも必要がない。ここは既に、俺達だけが存在する世界。異物などどこにもありはしない。


そう、クロックアップがなくとも、人は突き抜けることができる。俺はお前とこの世界へきたかった。

地獄への片道切符になるかもしれん、このギリギリな道を――!


「楽しいなぁ……修羅」

「あぁ、楽しいね。本当に……ここには余分なものが何もない」

「そう、俺達だけの世界だ」


お互い余力も余り残っていない。ペースも考えず、ただひたすらに楽しんでしまった結果だ。

しかし、だからこそこれからに残るだろう。鮮烈に……決して忘れることができない強敵(とも)として、俺達は生き続ける。

どちらか一方、勝利した存在の中で。俺達は殺し合うことで、一つになろうとしていた。


……余りにセンチメンタルな感傷はそこで終わらせる。これもまた不純物だろう。

今正しいのは、俺達が殺し合い、それを楽しんでいること。お互いに命を賭けるにふさわしい相手だと、見込んでいることだけだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


生身の殴り合いだからこそ、傷ついた箇所は鮮明に写る。奴らは五分も経(た)たないうちに満身創痍(そうい)だった。

お互い片腕は使えなくなり、息も乱れている。なのに奴らは笑っていた……まるで、痛みも含め全てが楽しいと言わんばかりに。

その圧倒的圧力を前に春閣下達は言葉を失い、泣き出す奴らまで出てくる。それでも奴らは止まらない。


「……あずさ二号じゃないが、どうしてここまでする」

「ホントだよ。もう、俺達には見ているしかないけどさ」


剣崎とやらは腹をくくったらしい。体勢を立て直しつつ、呆れ気味にあいつらを見始めた。


「何なの。男の人って、馬鹿なの。こうまでしなきゃ、強いって言えないのかな」

「確かに馬鹿な男達です。ですが……わたくしはただ、馬鹿なだけとも思えません」

「あいつも、突き抜けちゃったわけね。あのバカとは違う方向で」


デコちゃんが言っているのは、ここにはいないハ王のことだろう。そうだな、あれは俺達の知る青チビとは別ものだ。

思えばギンガマン達は、これを恐れていたんだろう。きっと奴らも分かっていた。

大和鉄騎と殺し合う――それほどに突き抜けてしまったら、もう自分達では絶対に追いつけない。


ただ待っていることしかできず、もう一緒には戦えないと。それは間違いなく、事実だった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


笑う……ただひたすらに、鬼は笑う。そして僕も釣られて笑う。戦うことで、生きている実感を得られる者同士、楽しく殺し合う。

これほどの強者(きょうしゃ)に、これほどの男に出会えた幸運を感謝する。たとえそれが、望まれない闘争の中だったとしても。

戦いなんてない方がいい。殺し合いもない方がいい。それは道理だ、でも僕達は出会ってしまった。


そうして試したいと思った。どちらがより強いか、どちらがより突き抜けているか――命を賭けて、削り合って。

だから限界寸前な右足を踏ん張り、また肉薄する。拳を、蹴りを、意地と意志をぶつけ合い、傷つけ合い、笑い合う。

心が躍る……そんな表現では物足りないほど、僕達はこの瞬間を楽しんでいた。理解なんてされなくていい。


追いつけない者達はとう汰されるのみ……それは生命の進化にも似ている。人は環境に適応するたび、不必要な機能をそぎ落とし、今の生命となった。

それが生存競争以前の戦い、進化競争。対応できない種は、様々な要因で滅びていく。恐竜もその一つだろう。

なら僕達は進化しているのだろうか。また拳を顔面に食らい、血を吐き出しながら思う……それも違うと。


今僕たちが通じ合えていること、お互いを理解できていること、これが全てでいい。

上っ面で自己満足にしかならない、『一緒に頑張ろう・一緒に考えよう』はいらない。

停滞にしか繋(つな)がらない思いやりも、恋心もいらない。嘘(うそ)つきな家族なんて特にいらない。


突き抜けろ……もっと、もっと……誰よりも速く、誰よりも強く。残すのは本質だけでいい。

いらないのは嘘(うそ)。周囲を、僕自身を停滞させる嘘(うそ)……それのみだ。

それでも笑う。殴り、殴られ、蹴り、蹴られ、殴り、殴られ、蹴り、蹴られ――一撃一撃を受け、与え、繰り返すごとに笑う。


ここにあるのは、やはり本質だけだから。……顔面を殴られ、それでも踏ん張る。

血で拳を滑らせながら、奴に右フック。そのまま再度踏み込み、胴体部へ右エルボー。

奴の心臓付近にあるろっ骨、その一本をへし折ってから、すぐ右拳を当てる。両足を踏み込み、虎砲――しかしそこで左エルボー。


いや、左ニーキックも飛ぶ。発動寸前に挟み撃ちの打撃を食らい、右腕が中ほどから粉砕。

それでも虎砲もどきの衝撃は伝達し、折れた骨が、心臓が衝撃で激しく傷つく。大和鉄騎はそのために血を大きく吐き出した。

かっ血を後ずさりながら避け、砕けた右腕がだらしなく落ちる。両腕……右足も、虎砲もどきのせいでもう使えない。


残っているのは左足だけ……物質変換による肉体修復? それは本質じゃあない、意味がなさすぎる。

そんな僕を見ながら、大和鉄騎は倒れず……全身全霊の左ストレート。避けることもせず、それを顔面に食らう。

脳が、目や呼吸器が粉砕されかねない一撃。……でも手刀ではなく、拳だったことは勝機だった


そこには確かな活路があった。血まみれの拳をまた滑らせ、衝撃を殺しながら逸(そ)らす。

そのまま……グラップラー刃牙(ばき)の一幕を思い出しながら、顎と首で奴の左腕をホールド。

接触点を肘まで滑りこませ、押し込んだ。それはほんの一瞬に行われたこと。


拳による一撃、全身全霊を込めた必殺――その力を奴に押し返し、体を反転させる。

接触点を始点に一回転する大和鉄騎。倒れない男は初めて宙を舞い、僕を飛び越え、あお向けに倒れ込んだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


腕を砕き、足は使えなくなる寸前。そうして修羅の頭を打ち砕いた……だが、奴は俺の予想を飛び越えた。

打撃に使われたエネルギーを、合気(あいき)によっていともたやすく返した。一歩でも間違えば死んでいたようなタイミングで。

顎と首のみで投げられ、そのまま背中から砂地に叩(たた)きつけられる。一瞬衝撃で呼吸が止まり、同時に歓喜する。


倒れまい、倒れまいと踏ん張っていた。起き上がっているその間に、楽しめる時間がまた一秒減る。

それは余りにもったいないと思っていた。なのに倒された、その事実が余りに嬉(うれ)しい。

だが喜んでばかりもいられない、反射的に起き上がろうとするが、そこで視界を遮るものがある。


それは修羅の右足――限界寸前な足を振り上げ、一瞬スタンしていた俺に鉄ついを下す。そう、【勝利】の鉄ついを。

喉元に叩(たた)きつけられる足――それはただ声帯を潰すだけではない。衝撃を通し、首の骨そのものを派手にへし折る。

同時に修羅の右足も中ほどからへし折れた。……走る痛みに若干の悔しさと、ここまで殺し合えた大きな喜びを感じ、また笑った。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


足がへし折れ、脱力しながら尻もちを付く。そして息吹――止まっていた呼吸を整え、術式詠唱。

全身に物質変換をかけ、損傷箇所を激痛とともに修復。いたるところに走る蒼い火花、それが収まると、更に息を吐き出した。

これは合気道の技――達人【渋川剛気】が劇中で見せたものだよ。ただしこのキャラ、塩田剛三というモデルがいる。


……その塩田剛三って人が凄(すさ)まじく強いのよ。身長一五五センチ・体重四五キロ――僕とほぼ同じ。

正真正銘の達人なのは、残っている資料映像だけでも理解できる。これくらいのことは容易(たやす)くできちゃうのよ。

ちなみに塩田剛三さんが【体さばきの基本】を金魚の動きから研究し、生かしていた。


なので僕も以前から、同じようにやって……でも成功したの、実はこれが初めてだったんだよねー。あはははー♪


≪……生きてますか、あなた≫

「死ぬところだったよ。当然ね」


……そこでひらりと飛んできたのは、ダブタロス。しっかり受け止め、いつも通りのスリスリを受け止めた。

もちろんハイパーゼクターまで登場し、同じように……そしてカブティックゼクターは、息も絶え絶えな大和鉄騎に近づく。

でも大和鉄騎が唇を小さく、『いけ』と動かすと、カブティックゼクターは頷(うなず)いて空へと消えていく。


祭りが終わった後のような寂しさ、それを感じながら、潰れていた目を開く。まだぼやけてはいるけど、大丈夫……すぐに回復する。

ゆっくり立ち上がり大和鉄騎を見下ろす。すると奴はまた、笑いながら唇を動かした。


――楽し……かった、な――

「うん、楽しかった。本当に、楽しかったよ」


それが最後に交わした言葉。大和鉄騎は満足そうに目を閉じ、その脈動を止める。

……そうして奪った命を、一生忘れられないであろう戦いを、僕は心に刻んだ。


「……変身」

≪HENSIN≫


そしてダブタロス達はライダーベルトに自分達から装着。マスクドフォームなどの過程を一瞬で経て、僕はハイパーキャストオフ。


≪HYPER CAST OFF≫


ハイパーダブトへと変身し、そっと鬼の亡きがらを抱き上げる。


≪CHANGE――HYPER DARK BEETLE!≫

「おい青チビ、どこへ行く」

「約束を守るのよ。……これから鬼は、仮面ライダーメテオとなるんだ」


ゼクターホーンを押し込み、早速移動開始。


≪HYPER CLOCK UP≫


そして宇宙空間へ跳躍――鬼の亡きがらは、大気圏へと送られ燃え尽きていく。それは銅色に輝く、まばゆい流星となった。

さよなら、友よ。僕は更に突き進む……その先で燃え尽きたら、天国でまたやり合おうか。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


一つの戦いに決着がついた頃――新生(しんせい)BOARDの奥深く、その男は密(ひそ)かに侵入を開始していた。

立ち入りが許されないエリアまで入り込み、静かに……あの、バトルロイヤルの報酬に目を向ける。笑ってそれを取り込もうとするので。


「そこまでだよ」


後ろから一声かけ、動きを停止させた。そして男は――志村純一は振り返る。背後にいた、僕や橘さんへ。

なお始さんや睦月さん、嶋さんはまた別の場所で待機。今は変身もできないしねー。


「火野さん、どうされたんですか。橘さんも」

「それはこちらのセリフだ。お前の権限では、ここに単独では立ち入れない。……何が目的だ、海東純一」

「はい? いや、僕の名前は」

「改めてお前の経歴を調べた。……お前の出身地や学校、その全てがデタラメだった」

「そろそろ種明かしをしたらどうだい、兄さん」


更にインビジブルで隠れていた、ディエンドが登場。海東純一の後頭部にディエンドライバーを突きつけた。


「ディエンドか」

「おや、初対面なのに僕を知っているんだね。やはり君はこの世界の人間じゃない……少なくともそれは事実だ」

……あぁ、知っているさ。とてもよく……な


……たった今響いた声は、僕達の予想を容易(たやす)く覆した。そしてそれは、邪悪な……いいや。

邪悪そのものが笑った。生まれる黒い風圧と絶大なプレッシャーに、僕達は揃(そろ)って吹き飛ばされる。そして……奴はこの場から消えた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


いろいろな人から話を聞いた。だが答えは見えなかった……いいや、一つだけ見えたことがある。

それは恐怖心に打ち勝つ答えは、今までの中にあるということ。俺が戦う理由……それは、やっぱり。

紹介してくれた火野の恭文にはお礼を言わなきゃいけない。そう思って事務所に連絡したところで、事態が動いたことを知る。


慌てて現場に駆けつけてみると、事は既に終わっていた。どうやら勝利者は、恭文だったらしい。


≪――HYPER CLOCK OVER≫


見慣れた歪(ゆが)みから現れた恭文は、砂浜に着地。波打つ海水が戦いの痕を洗い流す。血や衝撃……全てを。

そんな恭文に近づくと、こちらを見やった。変身していて、顔は見えないけど分かる。雰囲気が、より鋭くなっていた。


「……恭文、あの」

「ごめん、ユウスケ」


いきなり謝られた。それで恭文は変身を解除し、面倒くさそうに頭をかいた。


「いろいろ大変だったんでしょ。それなのに置いていって」

「……いいんだ。俺が悪いんだから。それにお前のことも」

「そっちは僕の責任だ。旅をしてよく分かったよ。僕はもっと先を目指したい。フェイト達の側(そば)にずっといて、守って……何て嫌だ」

「君もまた、戦うことを選んだんだな」


そこでふらふらと立ち上がったのは、剣崎さん。そうだ、写真で見た……この人も無事だったか。


「全てを捨てたいわけじゃない。ただより高みを、より突き抜けた輝きになりたいから。……俺にはできなかったことだ」

「剣崎さん」

「俺はみんなを守りたいから、ジョーカーになってさ。それでずっと運命(さだめ)と戦い続ける、そう決めた。
だから気付かなかった。いや、気付こうとしなかった。そんな俺のために、みんなが心を痛めているって。
それでも君は、行くんだな。その選択は君の大事な人をきっと、深く傷つける」

「はい。だってこの旅でいろんな人と会えた。僕より強い奴もたくさんいた……もう、自分に嘘(うそ)はつけない」

「……人はそうして誰でも戦う。自分の運命(さだめ)や限界、恐れと……戦って、勝って、進化する」


そして士はそんな剣崎さんの肩を叩(たた)き、俺達へ近づいてきた。


「お前達だけじゃない。春閣下達も、俺だってそうだ。もちろん……世界のために怪物となった、そこの馬鹿も」

「馬鹿はひどいなぁ」

「だが人はそうして夢を、願いを叶(かな)える。そのどれもが無意味なんかじゃない。……戦いは宿命だ、だからこそ乗りこなす」


そうだな、俺も……自分の恐怖と戦わなきゃいけない。恭文はそうして、『進化する』ことを選んだ。

恭文が太陽として照らすべきは、フェイトちゃん達じゃない。誰かのために……それで嘘(うそ)をついてしまう自分自身だった。


「だったら剣崎……アンタも戦いなさい! みんなから遠ざかるんじゃなくて、戻るための戦いを!」

「伊織ちゃん」

「……お願い。時間はかかるかもしれない、でも……諦めることだけは、しないから」


士と伊織ちゃんの言葉に頷(うなず)き、決意を改める。……すると士のライドブッカーから、突然カードが飛び出した。

いや、カード型の光と言うべきか。そこに映るのは、俺達が今まで見たことのないライダーのカード。

士は素早くキャッチし、中身を確認。それで剣崎さんを見やった。


「もやし、それはまさか」

「あぁ……剣崎、アンタの力だ」

「つまり、ブレイドのカードか! ……やったじゃないか、士!」


まさか予定にないカードまで現れるなんて……感激で恭文の肩を叩(たた)いて、そこで気づく。

恭文がとても、困惑した顔になっていることを。そしてその表情が一気に青くなる。


「……もやし、後ろ!」


後ろ……そこで突如、黒い風が吹き荒れる。俺達は揃(そろ)って吹き飛ばされ、士のみがその中心部に取り残された。

いや、違う。逃げることも、吹き飛ばされることも許されなかった。士の背後には一つの影。

恭文と一緒に濡(ぬ)れた砂地を転がり、素早く起き上がる。……その影は右アイアンクローで、士の肉体を容易(たやす)く貫いていた。


指先には血が塗れ、何かが握られている。士がぼう然としながら振り返ると、そこには。


「おま……え」

「……御苦労だったな、【俺】?」


そう、その影は……士だった。士が、士を攻撃した、だと。士の中から手が引きぬかれると、士がゆっくりと倒れていく。

血は粒子化して霧散し、肉体もそれに合わせ……なんだよ、これ。わけが分からないで混乱している間に、士は痕跡をほぼ残さず消え去った。

例外はディケイドライバー、それにライドブッカーとトイカメラだけ。死んだ……士が、士が。


「――士ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

『いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


俺の叫びと、春香ちゃん達の悲鳴が重なる。それを受けて【士】は楽しげに笑う。とても楽しげに……とても、おぞましく。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


もやしは倒れ、血も流すことなく消えていく。塵(ちり)のように……まるで、今までそこにいなかったように。

それを成した男の手には、一枚のカード。男は笑いながら『青いシンボルのバトスピカード』を見やる。


「――士ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

『いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

「おいおい、勘違いしないでくれよ」


そして黒皮ジャケットを羽織った男は、カードを懐へ仕舞(しま)い……すかさず転送魔法発動。

奴が持っていたカードを奪い取ろうとする。でもそのとき、突如この場にAMFが展開。転送魔法は不発に終わった。

……くそ、やっぱりか! それも完全キャンセルレベル! でも発生源は……ガジェットも、装置らしきものもない!


いや、考えるまでもなかった。カードを仕舞(しま)った男は、自分が全ての原因だと示すように、自分を両手で差した。

そうして軽く歩きつつ、落ちたトイカメラを踏みつけ、粉砕した。


「門矢士は……俺だ」

「何だよ、それ。一体」

「アイツは俺のコピー、データ収集用の道具だ。……俺達スーパー大ショッカーは、確かにディケイドシステムを作り上げた。
だがな、足りなかったんだよ。俺達が作ったシステムには、仮面ライダーの『魂』が。
因果律や運命すらも超越する、強い個体としての意志が。不思議なものだろう? システムなのに意志ときたもんだ」

「……それをシステムが学習しなきゃ、カードを使っても一発限り。もやしのカードが最初に使えなくなったのは、そのせいか」

「そうそう……お前は本当に、話が早くて嬉(うれ)しいよ。青チビ」

「黙れ。そう呼んでいいのはただ一人だけだ」


同じ門矢士でも、お前とは違う。そう断言すると、奴は――大首領は悪びれた様子もなく、足元のディケイドライバーとライドブッカーを拾い上げる。


「なので一つ、仕掛けてみた。ライダー達と絆(きずな)を育み、システムの学習を促し、カメンライドを完全な形にする。だが苦労したよ。
こそこそ動いている仮面ライダー達を出し抜くためには、俺自らが動く必要もあったからなぁ」

「……変身!」


再びダブタロスとハイパーゼクターがやってきて、瞬間的にハイパーダブトとなる。でも奴は止める様子もなく、ただ解説を続ける。


≪CHANGE――HYPER DARK BEETLE!≫

「それで一番面倒だったのは剣崎一真、お前だ。お前という特殊個体のデータは是非欲しかった。
あのできそこないと上手(うま)く接触させるため、天道総司やら海東純一の振りまでして」

「何だと……じゃあ、俺のブレイバックルを盗んだのは!」

「俺だよ」


ユウスケはそのまま駆け出し、止める間もなく。


「ユウスケ!」

「変身!」


変身し、そのまま大首領へ組み付こうとする。でもその前にディケイドライバーを装着し、カード装填。


「返せ……それは、士のものだ!」

「……変身」

≪KAMEN RIDE――DECADE!≫


ディケイドに変身。ただしその色は全体的に黒みがかっていて、頭部の各所にも凶悪な変化が見られた。

瞳は釣り上がり、顔のパネルは一部が伸び、鬼の角を思わせる。本体では白かったラインも金色に輝き、異様な雰囲気を放つ。

言うなら、ダークディケイド……正真正銘の悪魔。そんな悪魔に対し、振るわれるクウガの拳、


ディケイドはそこへ右ストレートをぶつけ、粉砕する。ユウスケが呻(うめ)いているところへ、胴体部に右ミドルキック。

たったそれだけ……それだけでユウスケの体は音より速く、砂地を滑りながら吹き飛ぶ。

何、あれ……ヤバい感じはしていたけど、もやしが変身したディケイドとは全く違う。性能からダンチだ……!


「俺が門矢士だって言ってるだろう?」

「貴様……よくも!」

「おいおい、俺だけ悪者か? お前達だってコピーを謀殺して、問題なしとしていたじゃないか。
……結局のところ俺達は似たもの同士なんだよ。何たって、仮面ライダーだからなぁ。そんなわけで」


奴はまた別のカードを取り出し、ドライバーに装填――そして効果発動。


≪FINAL FORM RIDE≫


ファイナル……フォームライド!? そんな、馬鹿な! それは。


≪KU・KU・KU・KU――KUUGA!≫

『……な、何だこれ……みんな、逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉ!』


そしてゴウラムとなったユウスケがこちらへ突撃。慌てて伏せて、その腹へオーバーヘッドキック。

軌道を何とか逸(そ)らすも、ユウスケは反転し今度は……無防備な春香達へと狙いを定める。


「な……こっちへきますぅ!」

「小野寺さん、どうしたの! 止まって!」

『逃げろ、逃げてくれぇ! くそぉ、何でだ……なんでなんだぁ!』

≪ATTACK RIDE――CLOCK UP!≫


かと思ったら、今度は別のカードを装填。しかもそれは、クロックアップだった。

ちょっと、待ってよ……クロックアップに、ファイナルフォームライドって! いや、後者はまだ分かる!

でもクロックアップって! カブトにカメンライドもしてないのに! ……これが完成形ってわけ?


でもそうだ、どうして今まで気づかなかったんだ。ファイナルフォームライドはそれぞれのライダーをディケイドの権限で『武器化』させる能力。

でも大事なのは武器化するタイミングを、ディケイドの意思でどうにもできること。

その瞬間、それぞれのライダーは無力化される。しかも今の様子を見るに、ユウスケは操られているも同然。


ディケイドは全てのライダーを倒すと同時に、全てのライダーを『使役』する王(マスター)だった。

だからこそこうやって、同士討ちもできる。思えば奴らの作戦そのものが答えだったのかもしれない。

仮面ライダーという忌ま忌ましい敵、それを真正面から打破するのではなく、上手(うま)く利用していく……それが悪魔(ディケイド)だ。


だとすると僕も……ダブトだから問題なし? それとも、使わないだけか。でも結論を出す暇はない。

クロックアップにより、奴の姿がかき消えてしまう。くそ、こうなったらイチかバチか。


「……させないよ」


そこで阿木奈央――【八神恭文】がオーラを放出。砂を激しく吹き飛ばしながら、紫の暴風を生み出した。

いや、吹き飛ばすのは、風で打ち付けるのは砂ばかりじゃない。再突撃してきたゴウラム、それにクロックアップしたディケイドも同じだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


こっちの春香達もいる以上、半端なことはできない。そしてこの場はどう考えても負け戦――数秒持たせられればいい。

直感で判断できた。コイツには、普通にやっても勝てない。なので【紫電の暴風】により足が止まったところへ、更にオーラを伸ばす。

これはHUNTER HUNTERに出てくる伸縮自在の愛(バンジーガム)を元に作った、紫電の激突(フラッシュクラッシュ)。


右人差し指から飛ばしたオーラは、奴のディケイドライバーに付着。続けて指先についたラインを、奴の五時方向へ射出する。

砂の一部――奴の後方二○メートルほどの位置に、まるでチューイングガムの如(ごと)き粘着力で、見えないオーラは付着。

奴は風でクロックアップをキャンセルされたものの、問題なしと言わんばかりに走ってくる。


なので紫電の激突、効果発動――! 付着点のオーラが活性化し、見えないラインは伸ばされ、放したゴムの如(ごと)く縮む。

不意打ち気味な、いたずらに近い吸引。しかしダークディケイドはとっさに踏ん張り、右手刀で見えないはずのラインを断ち切った。

瞬間的に生まれた、黒いエネルギーで……嘘(うそ)、初見の能力に対処した!? そして風の中、ゴウラムは回転。


ドリルの如(ごと)く突き進み、春香達をまた襲う。僕も嫌な予感がして、CCBとあるカードを取り出しながら後ろに跳躍。

ライドブッカーから放たれた数発の弾丸――それを斬り払い、何とか着地する。……そして頭と腕、右足に走る痛み。

弾丸は該当箇所を掠(かす)め、肌を抉(えぐ)り、黒子生地を斬り裂いていた。そうして走る血の熱に、生きている実感を得る。


……弾丸の軌道、僕の先読みを容赦なく超えてきやがった。とっさに斬撃の軌道を変えてなかったら、間違いなくここで死んでた。

ち……これでディケイドライバーが取れればと思っていたけど、無理か。すかさずディオクマから預かった、特殊カードを発動。


「残念だったな。お前のやっていることはサクッとお見通しだ」


そうみたいだね。全部見通して……見通す? ……そこでついさっき立ち寄ったばかりの、ダブトな僕の世界を思い出す。

そこのミッドに作られていた、最悪の代物――織斑一夏の暴走にも絡む、奴らの傲慢さを現す愚物。

まさかコイツ……! なら、この場で戦うのは無理だ。くそ、誰だよ。春香達を連れてきた馬鹿は……『門矢士』かー!


「ネクサス、巨人港(きょじんこう)発動!」


かざした青いカードから、巨大な木造船が登場。恐らく、これも止められるのは一瞬……でも今回は事前に止められなかった。

それで奴の限界も確信する。問題は奴の手に、『絶対破壊の神』が存在していることだけど。

でもその一瞬で十分でもあった。どんどん膨れ上がる巨大船、更にオーロラのように浮かぶシルエットが、奴らの足を止める。


春香達を抉(えぐ)り、潰す寸前だったゴウラムが、またライドブッカーを向けてくるダークディケイドが苦しげにもがく。

……巨人港は現在禁止されているカード。その効果は『相手と自分はそれぞれのスピリットが三体以下のとき、アタックできない』。

スピリット――魂を持つ存在の数で言うなら、今奴らは二人。僕達は十人以上だ。だからこそ奴らは動きを封じられた、その孤高さゆえに。


「……なるほど。バトスピカードの力か」


だからこそ奴は力の正体をすぐに見破る、その能力ゆえに。やっぱり、コイツは。


「だが」

≪HYPER CLOCK UP≫


言っていろ、馬鹿が。既にダブトの僕はハイパークロックアップを発動――ゴウラムの背に現れ、右拳で遠慮なく打ち抜く。

そうして意識を奪うほどのダメージにより、強引にファイナルフォームライドを解除。

そのままユウスケ、及び春香達や僕、剣崎一真さんも広範囲なテレポートに巻き込む。


奴が拳一つで巨人港のオーラを砕いたとき、もうそこに僕達の姿はなかった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……奴らはネズミの如(ごと)く、コソコソと逃げまわった。その姿に興が削(そ)がれ、変身解除。

ただ一人、砂浜で佇(たたず)みため息。全く、強すぎるというのも困り者か。まともにぶつかる奴もいやしない。


「まぁいい。これで障害はなくなっただろう」


笑いながら踵(きびす)を返し、次元跳躍のオーロラを展開。……さぁ、始めるか。俺はこの力で全てを破壊し、全てを繋(つな)ぐ。

俺や俺の家族をめちゃくちゃにした奴らが、俺にひれ伏し、俺のために働き、俺のために命を捨てる。

すばらしいじゃないか。あぁ、すばらしく楽しい……親父、感謝するよ。アンタのおかげで、俺は力を手にした。


それも世界全てを自由にできる、とんでもない力だ。俺は感謝しているんだよ、ディケイドに――悪魔になれて。


――やめろ、士……もう、やめろぉ!――


なのに、何で思い出のアンタは……泣いているんだ? うれし泣きか? いや、違うな。

なぜか悲しんでいる。俺は感謝している、ありがとうと伝えたはずなのに……俺に殺されてもなお、泣き続けていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


小鳥さんの卓上――置いてあった手鏡から、するりとどらぐぶらっかーが出現。あ、寂しかったのかな。


「きゃ!」

「くぅ?」


首だけをちょこんと出して、驚いた小鳥さんに小首を傾(かし)げる。でもすぐに。


「くぅー♪」


小鳥さんに挨拶。それで小鳥さん、なぜか乙女ポーズです。


「あぁ、でもつぶらな瞳が可愛(かわい)らしいかもー。や、恭文くん」

「優しくなら受け入れますから、大丈夫ですよ」

「ありがと。……どらちゃーん、こっちおいでー」

「くぅくぅー♪」


そしてどらぐぶらっかーは小鳥さんへ飛び込み、胸で受け止めてもらいすりすり……あ、羨ましいかも。

小鳥さんもあずささんや貴音に負けない、超ナイスバディだし。……よし、落ち着こう。今はシリアスが大事だ。


「でもアンタ、よく生きてたわね。あのとんでもない能力相手に」


わぁ、伊織がツンだー。せっかく事務所でみんな揃(そろ)って、何とか合流できたってのに。

……でも言いたくはなるか。傷の治療を終えた阿木奈央が、とんでもない話をしてくれたし。


「ディケイドに変身してなかったからね。取り逃がしちゃったけど」

「……あの段階で、倒せていれば士は……すまない」


あの海東が謝った。誰に対してでもないし、許しを得たいわけでもない。それができるであろう奴は、もう……だしね。


「そっちは何も言えないわよ。それに、例の勝利報酬が奪われなかっただけでも十分でしょ。
剣崎や嶋も、始だって無事だった。……でも、アイツは放置できないわよ。このままじゃ私達の世界は」

「ですが、どういうことなのですか。士殿が二人いるなど、わたくし達は……蒼凪殿」

「そうだぞ! 何でアイツ、ディケイドになれたんだ! 大首領なんだよな!」

「……僕達が旅していた門矢士は、スーパー大ショッカーが作り上げた偽者だ。目的はみんなが聞いた通り」

「おい、待てよ恭文……そんなわけないだろ! 士は」

「みんな、これを見て」


空間モニターが幾つも展開。それをみんなで分けつつ確認すると、とんでもないことが書かれていた。

内容は懺悔(ざんげ)に近い。どうしてディケイドが生まれたのか、行われていたことが、どれだけおぞましいか。

どうしようもない怒りに駆られ、やよいと雪歩に至っては耐えかねてトイレに駆け込んだ。


「本当に、偽者だっていうのか。士は……!」

「その核となっていたのが、絶対なる幻造神ミトラ・ゴレム――阿木奈央さんの世界にあった、絶晶神と呼ばれるバトスピカードだよ」

『バトスピカード!?』

「あれ、僕達の世界から奪われたものなんだ。その字名は『絶対破壊の神』。力の大半は失われているけど、それが『門矢士』の破壊者たる所以(ゆえん)だった」

「ちょっと待って……絶晶神!? そうか、それで」

「恭文君、知っているの? でも別世界だって」

「こっちの世界にもあります。僕も噂(うわさ)程度でしか聞いたことはありませんけど……その力はもはやチート。
合計六色、文化圏ごとの太陽神が存在する。過去、バトスピが英雄・偉人達による『魂の闘争』だった時代から受け継がれた、神のカード」

「僕の世界でも似た扱いだったよ。……真なる神のカードと呼ばれるそれは、人が作りし器に神が宿った。
手にした者は全てを得るけど、力に飲まれ暴走すれば……逆に全てを失う。傲慢に、自分の欲ばかりを見た結果ね」


耳の痛い話だ。僕も欲深だけど……もうあれだね、欲望を暴走させるのはグリードやヤミーに限らずってことだよ。


「でも納得したよ。阿木奈央さんは、そのカードを回収するために」

「まぁそんなところ。あと、僕の世界にもスーパー大ショッカーが下部組織を作っていてね。その絡みだよ」

「そっちはとっくに潰れているけど……それより問題は、大首領の能力だよ」

「うん……初見の能力、こちらの動きをまるで『見て聞いたかの如(ごと)く』対処してきた。
最初に使った暴風はダメージもないし、それで見過ごされたんだろうけど……つまり奴は」

「ま、まさかあなたがさっき言っていたみたいに……未来が見えるっていうの!? というか未来予知! そんなのあり得ないわよ!」


そう、律子さんが今言ったように、阿木奈央さんはこう結論づけた。……奴は未来予知ができる。

未来のはるか先まで……とはいかないけど、数秒先なら余裕っぽい。そうでも考えないと追いつかないような、超反応を見せまくったとか。

しかもダブトの僕まで確信してるし、これはどういうこと? 実際に見るとやっぱ違うのかな。


「律子さんは頭が固いですねぇ。そもそも仮面ライダーやら、パラレルワールドが出てきているんですから。問題ありませんって」

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「……蒼凪君、さすがにそれで全部納得は、どうなのかな。でも、こんなのひどいよ。これじゃあ士さんは」

「取りあえずユウスケはじっとしていて。あとは僕が何とかする」

「できるわけないだろ! お前一人で奴と戦うつもりか! ……俺も行く。行くなら連れていってくれ」

「馬鹿かおのれは。ついさっき、利用されまくった挙げ句春香達を殺しかけたのはどこの誰」

「う……!」


どうやらユウスケに迷いはなくなったらしい。でも……そうなんだよなぁ、能力が厄介すぎて。

ホワイトボード前に立って、さらさらと情報をまとめてみる。こういうときはちゃんと、データとして提示した方がいいのよ。


「えっと、未来予知……カメンライドなどはせずに、各ライダーの固有能力発動。
そしてファイナルフォームライドを利用した、ライダー達の武器化・利用。伊織、感想を」

「詰んでるじゃない、これ」

「だよねー」

「……俺も、ヤバいよな。彼が倒される直前、ブレイドのカードもでき上がったわけで」

「当たり前ですよ。さて、これはどうしたものか」


……ウィザードの禁呪を使う? でも未来予知だからなぁ、以前一度やり合ったタイプとはいえ、なかなかキツい。

どっちにしても、僕も決戦地へは乗り込むしかないね。ユウスケは前歴ができちゃったから、直接対決もヤバイけど。


「でも行くのよね、アンタは」

「ま、放ってはおけないしね。奴らは僕のハーレムには邪魔すぎる」

「……ちょっとはブレなさいよ、馬鹿」

「くぅくぅー♪」


それでどらぐぶらっかーも一緒かー。小鳥さんから離れて、僕へスリスリ……うん、一緒に頑張ろうね。


「ちょっと出てくる。みんな、おとなしく待ってて。海東、付き合って。剣崎さんも」

「いいだろう」

「……分かった」


海東も立ち上がり、僕と一緒にみんなの間をすり抜け歩き出す。その目にはもう、後悔や迷いなどなかった。


「え、どこに行くの!?」

「増援を呼んできます。というか、剣崎さんの『ツテ』を引っ張ってきますので」

「少年君、決戦の舞台は」

「僕達の世界だ」

「みんな、邪魔したな。嶋さんも」

「……また会おう、ブレイド」

「はい」


再会を約束し、僕達もまた旅に出る。決して長くはないけど……さぁ、やりますか。最高のショータイムで、この絶望を覆してみせよう。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あり得ない僕、海東、剣崎さんは出ていった。対して話をする余裕もないってのが、また悲しいところだ。……さて。


「僕もそろそろ行くか」

「……恭文」

「おのれは言った通り待っていてよ。またゴウラムになられても敵(かな)わない」

「いや、連れていってやれ」


……そこで突然入ってきたのは、天道だった。見知らぬニューキャラの登場に、春香達もどよめく。


「あの、あなたは」

「おばあちゃんは言っていた」


そして天道は天を指差し、自らを示す。


「天の道を往き、総てを司る――天道総司」

「……仮面ライダーカブトですよ、律子さん」

「カブト!? え、じゃあ剣崎さんの仲間だって言う!」

「仲間? お前は何を勘違いしている。……全次元世界において至高の存在足る俺は、唯一無二の存在。肩を並べられる奴など一人もいない」

『何て自信過剰な!』

「こういう奴なの……!」


テレビで見ていたから、知ってはいたけどね! でも強烈だわ! リアルだと呆(あき)れるレベルだわ!


「で、連れていってどうするの? 嫌だよ、突然ゴウラムに跳ね飛ばされるのは」

「違う……門矢士を復活させる方法がある。そういえばどうする」


……そこで天道がとんでもない提案をしてきた。それについ、顔をしかめてしまう。なお阿木奈央は。


「……どうしよう、サインが欲しいけど、求める空気じゃない」

「ヤスフミ、お前よぉ……!」

「出遅れましたね、完全に」

「あと数秒早ければなぁ……もぐ」


完全にこんなテンションでした。でも、そうだよねぇ……僕も出会った経緯が経緯じゃなかったら、頑張ってたよ!


「何だって! アンタ、どういうことだ! 士は……本当に士は生き返るのか!」

「しかし鍵が必要だ。お前達と旅をしていた門矢士、それに関する記憶が必要になる」

「それなら……あぁ、ある! 俺達には士と旅をしてきた記憶が!」

「更にもう一つ。奴は本来、この世界には存在するはずもないイレギュラー。平行世界の中心部として生まれている。
それを復活させるとなれば、もっと別なものが必要になる。奴の姿、奴の存在――旅してきた時間を記憶した物だ」

「もやしは『門矢士』の偽者だった。でも限りなく本物に近く、その境界線はあやふや。
特異点でもあるが故に、記憶からの復活も可能と。……天道、おのれは本物?」

「言ったはずだぞ、全世界に俺という存在は一人だけだと」


ついそんなことを聞くけど、一応確信はしている。……もう、そんなことで僕達を騙(だま)す必要もないでしょ。

僕の予想通りなら、ディケイドというライダーの『同族殺し』はディケイド。だからもやしもきっちり始末する必要があった。

それにカブトゼクターも出てきて、天道の脇でコクコクと頷(うなず)いてくる。


≪〜♪≫

≪〜?≫

≪〜!≫

≪〜♪≫


そうして同じように登場したダブタロスと角をツツきあい、すりすり。でも今の電子音声によるやり取りで、何を理解し合ったんだろう。


「いや、それ以前にもやしは復活させて、いいんだね」

「恭文、何言ってんだよ! せっかく手段が」

「そうだぞ! 自分、士さんが復活しなくていいのか!?」

「でももやしを復活させ、『門矢士』を倒したら……今度はもやしが唯一無二の世界樹だ。もやしを中心に世界は収束し、崩壊の危機は消えない」

「……え」

「蒼凪君、門矢さんは偽者だったんだし、その問題はないんじゃ」

「そんなわけないでしょ。もやしは大首領ほどじゃないとしても、ディケイドシステムを使いこなしていた。
システムを使いこなす条件、その難易度はみんなが見てもらった通り。だからもやしもまた、限りなく本物に近い」


千早の掲げた希望を遠慮なく打ち砕く。それはつまり、ディケイドに連なる問題点もそのままと考えていい。


≪もちろん『ディケイド』という存在が、あなた達仮面ライダーにとって脅威なのも変わらない。
あなた達にとっては、復活させない方が都合はいい。結局倒すことになるんですから……違いますか≫

「その通りだ。さすがに頭はよく働く」

「今回ばかりは、働き過ぎて自分が嫌いになりそうだよ」


こういうときでも冷静に判断して、考えて……必要だって分かってるけどさ。

感情で動けるユウスケやら、ギンガさん達が羨ましいよ。もう性分だし、どうしようもないけど。


(第42話へ続く)







あとがき


恭文「ついに決着した戦い――しかし、サラッと正体を現す大首領こと『門矢士』。なお今回登場のダークディケイドは、激情態も合わさっています」

フェイト「えっと、ダークディケイドはゲームに出てきたのだよね。それで激情態がMOVIE大戦のもので」

恭文「なので能力値は通常のディケイドよりずっと上。その厄介さは見ていただいた通りです」


(まさしく大首領。更に『アレ』も絡めると、絶対に倒せない敵となっていました)


恭文「というわけでどっかの予告でやったみたいに、海で本物に倒された士さん。
しかもディケイドシステムも奴らの手に……お相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。……ヤスフミ、どうするの!?」

恭文「まぁまぁ。これで予告の大体は回収できたじゃないのさ」

フェイト「そこじゃないよ!」


(そしてぽかぽかぽかぽかー)


恭文「それはそうと、始まりましたねー。鉄血のオルフェンズ!」

フェイト「話を変えてきたし! ……でもガンダムバルバトス、作りやすかったよね。フレーム構造も分かりやすくて」

恭文「その上グリグリ動くしね。テレビでもアクションがカッコよかったし」

フェイト「う、うん。ほんのちょっとだけど、ヒーロー登場って感じで……でも大人がー!」

恭文「世知辛いよねぇ、あの世界」


(まさかヘッドショットがくるとは)


恭文「でも雰囲気はいいよねー。来週のグレイズ発売も楽しみだし」

フェイト「うんうん……って、ディケイドはどうするのー!」

恭文「どうしようもないでしょ」

フェイト「バッサリだし!」


(そう、本編軸の蒼凪恭文にはどうしようもない。だってほぼ客演みたいな形だし。
本日のED:RIDER CHIPS『NEXT LEVEL』)


恭文「長かったディケイドクロスもついに最終決戦かぁ。でもあの能力だと、さっくりでもいいかなー」

あむ「どういうこと!? さっくりいかないじゃん、あれ! どうやっても無理じゃん!」

恭文「いや、僕が巨大ロボを出して」

あむ「このバカ!」(げし!)

恭文「バルバトス!?」


(おしまい)







[*前へ][次へ#]

16/19ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!