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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第40話 『Jの世界/決着の時』

「さぁ」

右手をスナップさせ、そのまま志村純一と一緒に飛び出す。

「ショータイムだ」


志村純一は改めてギラファアンデッドへ袈裟に斬りかかる。なので僕は残り二体……とっとと片付けるか。

前衛として飛び出してきた、スパイダーアンデッドの飛び蹴りをスライディングして避け、交差しつつ起き上がって跳躍。

錐揉み回転しながら伸びていた触手を飛び越え、その懐へ入ってスキッドアンデッドに肉薄。


着地してから右ミドルキックでスキッドアンデッドを蹴飛ばし、振り返って右掌底でスパイダーアンデッドの左ストレートを脇へ弾く。

そこから股間を左足で三回連続で蹴り上げ、怯ませてから引かれつつあった左腕を掴み一本背負い。

迫っていたスキッドアンデッドにぶつけ、二人をなぎ倒す。……そこで左側から三輪夏美が射撃しながら接近。


「この……クソガキがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


軽く前に走り光弾は回避し、迫ってきた奴へ向き直る。左薙に打ちつけられたラルクラウザーを伏せて避け、胴体部へ左ラリアット。

怯ませた上で背後へ振り返り飛び上がり、左回し蹴りでスパイダーアンデッドの頭部を蹴り飛ばす。

横に倒すとスキッドアンデッドが跳躍……そのまま回転を続け、跳びかかりに対し右後ろ回し蹴り。


胴体部を捉えてお帰り願ってから着地し、七時方向へ左エルボー。起き上がったスパイダーアンデッドを叩いてから、前へ踏み込む。

三輪夏美の射撃を左へ避け、右サイドへ回りこんで左掌底。向き直るラルクラウザーを脇へ弾いて、回転しながら顔面へ右裏拳。

殴り飛ばした上でそれを三度繰り返すと、三輪夏美の手からラルクラウザーがこぼれた。


その襟首を掴んで、伸びてきた触手の盾にする。黒を基調とした装甲が触手に貫かれ、あちらこちらから火花が走る。


「ぎゃあ……!」


ついでに馬鹿の悲鳴も……襟首を離し、そのままスキッドアンデッドに向かって全力で蹴り飛ばしぶつける。

二時方向からの右ストレート――それを伏せて避け、仕掛けてきたスパイダーアンデッドの胴体へ右エルボー。

でもコイツ、糸とか吐き出したりしないなぁ。やっぱ制御下に置かれている関係で、能力が劣化しているのか。


それは今志村純一と切り結んでいる、ギラファアンデッドもだ。あれ、強固なバリアを展開できるんだけど……そういうのもないし。

まぁそれならそれでいいやと思いながら懐で回転しながら左後ろ回し蹴り。

スパイダーアンデッドの左わき腹を蹴り、怯ませた上で至近距離の右ミドルキック。


起き上がった二人へボウリングの如く叩きつけ、右手でデッキからカードを取り出す。

ふむ、これか。左腕のブラックドラグバイザーを展開し、カードを挿入。


≪ストライクベント≫


前へ駆け出しながら、左腕に手甲を装備。それはどらぐぶらっかーの頭を模した打撃武器【ドラグクロー】。

でもあともう一つ……距離を詰め、三人が起き上がったところで。


「フィナーレだ」


左腕を突き出す。するとどこからともなく現れたどらぐぶらっかーが、僕の背後で火球乱射。

はい、こういう必殺技が使えます。蒼の炎を至近距離で食らい、三人は連続する爆発に飲み込まれた。

……炎の中から飛び出す三つの影。そのうちの一つは変身解除したらしく、ジャケットや髪を軽く燃やされながら、みっともなく転がる。


そして残り二つは爆発の中膝をつき、そのバックルを展開。すかさず橘さんから預かった、空のラウズカード二枚を取り出し投擲。

カードはバックルへと見事突き刺さり、不死者達は血と同じ輝きに包まれながら、カードに吸い込まれていく。

その色は緑……姿の見えない剣崎さんもきっと、あの血を流しているのかと胸が痛んだ。



世界の破壊者・ディケイド――幾つもの世界を巡り、その先になにを見る。

『とまとシリーズ』×『仮面ライダーディケイド』 クロス小説

とある魔導師と古き鉄と破壊者の旅路

第40話 『Jの世界/決着の時』



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


体中が痛い……熱い。なんで、よぉ。変身、できないんじゃなかったの? なのに、コイツも……いや、違う。

地面に倒れ、土にまみれながら奴を見上げる。すると奴は変身を解除し、私の頭を踏みつけた。

一瞬で頭が潰れたんじゃないかと思うほど、あまりに強烈な衝撃。顔の半分が土にめり込み、口に大量の土が流れこんでくる。


しかも……顔はどんどん埋まっていく。土内と地面の境目を左目で捉えながら、その恐怖で必死にもがく。

でもアイツは、人外の力で私を文字通り生き埋めにしようとする。呼吸もできなくなりつつあり、息苦しさでみっともない声しか出ない。


「分かった? 身の程ってやつを。なので」

「がげ……!」

「ごめんなさいは?」


そんな事、言えるわけがなかった。こんなクソガキに……男に謝るなんて、できるわけがない。

男なんていつもそうだ。女だと馬鹿にして、色のついた目で見て……助けて、純一!

そんな奴よりコイツを……どうして助けてくれないの! 純一、純一ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!


「そう、じゃあ……死ね」


……それがいけなかった。更に踏みつけられ、完全に顔が土に埋まった。もう、息なんてできない。

未体験の息苦しさ。逃げる事すらできない恐怖で、徐々に意識が消えていく。そうして理解する。

私は生き残れるチャンスを棒に振った。プライドを優先し、判断ミスをした。だから……このまま殺されるのだと。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


意識が途絶えかけたところで、三輪夏美の首根っこを掴んで引き出す。更に口から土を一度にかき出し、背中も軽く叩いた。

それだけで止まりかけていた呼吸が再動し、口から嘔吐と土が交じり合ったものを吐き出す。

さて、これでお仕置きは終了……ラルクバックルも回収した上で走りだし、そのまま横からギラファアンデッドへ飛び蹴り。


袈裟の斬撃をぶつけ合っていたところで不意打ちし、その金色の巨体を横倒しにする。


≪Mighty――Mighty Gravity≫


そして志村純一は冷静にカードスラッシュ。起き上がりかけたギラファアンデッドへ肉薄しつつ、右薙の斬り抜け。

輝く斬撃は空間そのものを斬り裂く……はずだった。しかしギラファアンデッドは角から火花を走らせ、絶対障壁展開。

それが斬撃を防ぎ、同時に志村純一へ刺突。とっさに必殺技を中断し、志村純一は後ろに跳んで回避。


ただし慌てての行動なので、かなり不格好に転がり、すぐ起き上がる。……あぁ、これがあったねー。


「……どうしましょうか、これ」

「橘さんの時は、零距離に入ったそうだけど……でもどうして」


今までアンデッド達は、特殊能力を使ったりは……いや、腐ってもカテゴリーKだからなぁ。

嶋さんがそうだったように、もしかすると上位アンデッドは洗脳や調整が完璧じゃないのかも。

それがなにを意味するか……ピンチって事だよ! くそ、橘さん達も変身しにくい状況でこれかい!


「しょうがない、サポートするからもう一度やって」

「懐へ入って、ですね。了解で」

≪――TIME≫


その時、一瞬全てが静止する。聴こえた電子音声に覚えがなかったら、さすがの僕でもそれを認識できなかった。

次の瞬間見たのは、青いせん光がギラファアンデッドを両断した様。あの強固なシールドも、時間停止の中では意味を成さなかった。

ただ『あのカード』は発動中、ダメージを与えられないという致命的な弱点がある。


ようは……時間停止して、懐へ入った上で攻撃したんだよ。あの蒼い、カブトムシライダーは。

スペードの意匠が胸元や肩アーマーにあしらわれたライダーは、ベルト横のカードホルダーからラウズカードを投てき。

それが倒れたギラファアンデッドへ突き刺さり、そのまま吸収。封印完了し、あのライダーの……ブレイドの元へ戻る。


ただしバックルはブレイバックルではなく、緑色のジョーカータイプ。あ然としながら僕達は、その名を呼ぶ。


「……仮面ライダー、ブレイド」

「剣崎……さん」

「剣崎ぃ!」


そして始さんが気づいて駆け寄ってくる直前、ブレイドはまたタイムスカラベ――スペード10のカード――をスラッシュ。

上から下へ、リーダーに沿って読み込ませた瞬間、また世界が制止する。


≪TIME≫


そしてその間に剣崎さんは逃走。この場から姿を消し、後には十数枚にも及ぶラウズカードだけが残されていた。


「くそ……!」


変身解除し、素早くそれらを回収。ホント、どういう事だろうね……これは。

驚いていると、どらぐぶらっかーと志村純一、始さんが駆け寄ってくる。


「火野さん」

「……まだ橘さん達が封印できていない、アンデッド全種だよ」

「くぅ!?」

「つまりブレイド――剣崎一真は、我々とは別行動でアンデッドを封印していた。
いえ、それを活用していたスーパー大ショッカーを止めていた、と言うべきか」

「剣崎……お前」


……つまり剣崎さんは、相手の作戦に乗ってしまった。これでアンデッドという駒の役割は終わっただろう。

あとは……くそ、どうする。ジョーカー同士の絡みがあるから、僕達とも深くは接触しないだろうし。

どうやって止める、ブレイバックルの事を言う暇すらなかったんですけど……てーかタイムはアリ!?


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


相変わらずというか……本当に強くなっていた。『恭文』も元気そうでなにより、なんだが……エグいよなぁ。

そういうところもあっちの子と被って、少し悩んでしまう。……あぁ、俺は『蒼凪恭文』を元から知っていた。

ただ別世界の子だし、色眼鏡にはならないよう一旦リセットというか、まっさらな気持ちで見ていたんだが。


だからこそ、ブレイバックルを渡す事も迷ってしまったというか。俺、ジョーカーだから変身できるのにな。

どこかで不安だったのかもしれない。いや、リセットしたからこそ、踏み込めなかったのかもしれない。

……あの子は俺に似ていたから。助けられないのも、手を伸ばせないのも嫌で、ただ飛び込んでいく。


そして突き抜ける、仲間や大事な人達を置いて……どこまでも。この体になってしばらくして、気づいた俺の罪。

俺は広瀬さんや虎太郎、橘さん達を置いていったんだ。橘さん達が俺の体を元に戻すため、研究を始めたと知ってがく然とした。

俺はあの時、運命と戦う……そう決意した。だが俺の戦いだと思っていた。橘さん達はそれぞれの日常へ戻ってくれるはずだと。


そう思い込もうとした。でも違う、巻き込んでいくんだ。みんなは四年経った今も戦い続けている。

……それについては、また考えて答えをだそう。だがこれでアンデッドは俺と始以外封印できたわけだし、ブレイドになる必要も。


「剣崎一真だな」


人気のない裏路地を進んでいると、突然目の前に鬼が出てくる。奴は不敵に笑い、同色の体を晒す。

距離にして五十メートルほど。自然と右半身を向けて身がまえ、左手でタイムスカラベのカードを取り出す。


「……そういうお前は、大和鉄騎か。スーパー大ショッカーの鬼」

「それは昨日退職した。今はZECTの鬼に戻ってな……悪いが、きてもらおうか」

「断る。スーパー大ショッカーの手伝いなんてすると思うか」

「おいおい、話を聞いていたか? 俺は、退職したんだ。だがお前という男には興味がある」


駄目だ、話にならない。他にスーパー大ショッカーの奴らがいるかもだし、ここは逃げるか。……そのままバックルでカードをスキャンし。


≪TIME≫


時間停止。変身状態を維持していてよかった……止まっていた奴の脇を駆け抜け、一気に荻窪方面へ走る。

そうしてピッタリ三分後、完全に奴らを振り切った。カードも効果解除し、裏路地で一息。


≪HYPER CLOCK OVER≫


……だがその瞬間、目の前に大和鉄騎が出現。奴は俺の胸元を拳で撃ち抜き、そのまま交差。

ジョーカーとしての肉体も意味を成さないほど、強烈な一撃。俺は胸元から血を迸らせながら、両膝をついて倒れ込む。

当然変身解除――嘘、だろ、胸に穴が空いてる。ジョーカーじゃなかったら、間違いなく死んでるぞ。


いや、それ以前にハイパークロックオーバー、だと。時を止めて、解除してから数秒も経っていない。

キロ単位で逃げおおせたわけだし、普通には追いつけない。口からも緑の血を吐き出しながら、顔を上げ、奴の腰を見る。

……左腰に輝く『それ』に、もっと速く気づくべきだった。奴は……ハイパーゼクターを装備していた。


「すまないな、こういうのは趣味じゃないんだが」

「お前……それ、は」

「あくまでも修羅と同じ速度へ至るため、利用させてもらっているにすぎない」


そして奴は振り返り、変身解除。カブティックゼクターが右手から離れる中、楽しげに笑う。

嘘を、つけよ。利用させてもらっている、だけ? ちゃんと使いこなせているじゃないか。しかもコイツ、時を……!


「なに、安心してくれていい。お前を餌に、どうしても戦い奴がいるだけだ。そう」


なにを狙っているかは分からない。だが俺には今、どうする事もできない。痛みと失血により、不死の身体は眠りを選ぶ。


――門矢士と――


死なない体を癒やすため、意識すらも断ち切りひたすらに休む。今、俺は鬼の前にいるというのに。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


新暦七十六年・三月二十二日、早朝――こっちにきて、栄次郎さんとお話した翌日。フェイトさんが食卓でフォークを持って、首を傾げていた。


「あれ……フォーク、動かない。どうして、頭がボケて……ふぇ」


しかも雰囲気がおかしい。昨日までは電波もらってハキハキしていたのに、すっごく不安定な感じだった。

そうして立ち上がり、ふらふらとしながら玄関へ……慌ててキバーラと二人、フェイトさんを止める。


「ちょ、フェイトさん! どこ行くんですか!」

「そうよぉ。さすがにフォークで無双は夢見すぎよぉ」

「みんな、助けなきゃ……! 早くしないと! エリオが、キャロが!」

「駄目ですよ! いきなりどうしたんですか! みんなはデンライナーだとか、電波もらっていましたよね!」

「そんなの分からないよ! 離して、ギンガ! ナカジマ三佐達にも協力を頼めばなんとかなるよ!」

「「はぁ!?」」


いやいや! その父さん達も行方不明なんですけど! 協力を頼もうにも頼めないんですけど!

この人なに! 今度は別の電波をもらってるし! どうしてこんな人が執務官になれたのー!


「そうだ……ヒビキさん、お願いします! 私を鬼にしてください! 私だってやっぱり鍛えているし、なれると思うんです!」

「ちょ、フェイトちゃん!? どうなってるんだよ! フォークはどうしたんだ! 一文字!」

「だから俺に聞くなよ! ……そんなもんじゃ、本当に強くなれないって事なんだろ」

「あ……なるほどね。あれは時間限定があったわけだ」


時間限定!? なにそれ、そもそもフォークで超能力覚醒ってのもおかしいし……でもおかしいのは私達も同じかー!

パラレルワールドを旅して、そうしたらスーパー大ショッカーなんて出てるものね! おかしい事だらけだよね!


「そうだ、私だって頑張ってきたんだ。その成果を誇って、なんとかするしかないんだ。
こんなところでじっとなんてしていられない。早くなんとかしないと……!」

「だから落ち着いてください! 駄目ですって! それに父さん達も行方不明なんですから!」

「え、そうなの!?」

「どうして分かってないの、大前提なのに!」

≪HYPER CLOCK OVER≫


あれ、この電子音声は……写真館のど真ん中に翡翠色の光が生まれ、そこから仮面ライダーとなぎ君、それに白黒のクマが登場。

三人はそのまま着地し、周囲を確認する。……なぎ君!? いや、でもダブトがいるって事は……どういう事なのー!


「……少年!」

「あら、恭文ちゃん……が二人? えっと、恭文ちゃんよね。あたしの事、分かるかしら」

「私の事も分かりますか! ほら、いつも通り呼んでください!」

「当たり前でしょうが、沢城みゆき。てーか夏みかんは相変わらずうざい」

「あぁ、間違いないわ! 恭文ちゃんだわー!」

「誰がうざいですか! あぁ、でも間違いありません! この言い草は恭文くんです!」


キバーラは嬉しそうになぎ君の周囲を飛ぶ。そんななぎ君の腰からダブタロスとハイパーゼクターが外れ、変身解除。

二人はキバーラともスリスリしながら、一気になぎ君の両肩へ。……やっぱり二人だしー!


「で、そっちのそっくりさんは誰ぇ?」

「も、もしかして火野さんですか! あ、依頼料を取り立てにきたとか!」

「火野? あ、もしかして……というか、嘘! 本当にヒビキさん!?」


そして黒コートななぎ君は目を輝かせながら、ヒビキさんにサイン色紙を突き出しながらお辞儀。


「サインくださいね! あ、名前は八神恭文とヒメラモン、ダガーレオモン、ヘイアグモン! 更識簪とモノドラモン宛てで!」

「多いな! ていうか……え、八神恭文? というかそっちのぬいぐるみは」

「……実はみんながいなくなってからいろいろあって、その子――八神恭文とこっちのディオクマと一緒に」

「ヤスフミ……よかった! ねぇ、一緒に戦って! エリオ達を助け出すの!
私も鬼になるから! それでみんなでスーパー大ショッカーを倒すの!」


あぁそうだ! フェイトさんがまだ馬鹿なままだった! でも詰め寄ろうとしたフェイトさんは、即座に蒼いバインドをかけられる。


「フェイト、おのれは保険なんだからなにもしないでじっとしててよ」

「できないよ! 私だって戦えるの! ちゃんと信じて、アテに……保険?」

「そう、保険だよ。万が一の場合はアレだよ、アレがアレしてアレになるから、おのれが頑張るんだよ。そのためには控えてないと駄目なんだよ」


具体例を何一つ話してないよね! そんなのでフェイトさんが納得するわけ。


「そ、そっか。じゃあじっとしてなきゃいけないんだよね。……ごめん、全然分かってなかった」

「ホントそうだよ。おのれが控えに回ってないから、無駄に苦労したし。なので反省して正座一日ね。……はい」

「え……そ、それはさすがに」

「ほら」


バインドを外すと、なぎ君が撮影室の隅を指した。だからフェイトさんは、涙目になりながら正座……なんというひどいお仕置き。

いや、それ以前にフェイトさん、納得しちゃったよ! なにこれ! 一体どういう理屈がアレの中にあったの!?


「ぷぷぷぷ、ゲームを楽しむ心、ちゃんと思い出したみたいだねー」

「……なるほど。こっちへ来るまでにまた鍛えてきたってわけか。少年、なんつうか……すまん」

「大丈夫ですよ。ヒビキさんが人間関係で役に立たないのは知ってましたし」

「がはぁ!」

「ヒビキさんー!?」


ちょ、吐血させたよ! どんだけトラウマがあるの!? すっごい苦しげなんだけど! たった一言で死にかけてるんだけど!


「それで一文字さん」

「安心しろ、お前らと別れてから一日も経ってねぇ。まだ死にかけのままだ」

「よかった。じゃあしばらく死にかけててよ、一週間くらい」

「それもひでぇな! ……なんか目処がついたのか」

「かなりね」

「それでその、士くんは! ユウスケはどうなってるんですか!」


そうだ、なぎ君がいるなら二人は……でもそこでなぎ君が急に黙った。え、なに……この反応。


「二人はまだ、ウィザードの世界だ。それでごめん、僕もまたあっちへ戻らないといけない」

「そう、ですか。でも連れてくる事はできるんですよね」

「ハイパークロックアップ、ようやくコツを掴めたからね。ただその前にやる事がある。
……夏みかん、冷静に聞いて。もやしの世界が分かった」

「本当ですか! もしかしてこの二人は士くんの世界から」

「そうじゃない。もやしの世界は、ここだったんだよ」


その言葉に夏海さんが、私が、ヒビキさん達が言葉をなくす。でもなぎ君はやや困った顔で頷いた。

こうして明かされる。疑問だった、ディケイドの業が。士さんの帰る世界なんて、本当はなかった事が。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


いつもの食卓へ座り、なぎ君からまた詳しく話を聞いた。今ウィザードの世界で起きている事件、それでなぎ君がどうして一人旅をしていたか。

その結果いろいろな世界・時間を回って、私達が別れた時より二か月近くさ迷っていたらしい。

というか、無謀すぎる……! そうしてたどり着いたのはデンライナー……あの、フェイトさんと付き合っていたなぎ君のところ。


「じゃあ父さん達は無事なの!?」

「そっちはこれから無事にしてくる。ただ機動六課の隊長陣とフォワードは無事だよ」

「よかった――!」


ていうか、フェイトさんの言う通りだったなんて。ほんとどういう事なの!? フォークってなに! しかも急に元へ戻ったし!

でも無事にしてくるってなに? 意味が分からないけど、話の腰を折りそうで聞き辛かった。

というか……前の世界とか、ウィザードの世界でのあれもあるから。つい、遠慮してしまったと言うべきか。


「ただ、そこで問題があってさ。それがさっき話したDCDレポートだよ」


でも浮かれた気持ちは一瞬で吹き飛ぶ。慌てて夏海さんを見ると、顔を真っ青にしていた。

それは、そうだよ。士さんが士さんじゃなくて、もうなにがなんだか分からない状況だもの。

それだけじゃない。管理局もそれに協力し……だから向こうのなぎ君達は、管理局ごと潰すしかないと考えている。


いや、事実を公表すればどうしてもそうなってしまう。局員じゃ、なくなる……生まれた恐怖で自分を抱き締め、軽く身震い。


「僕達の世界でもまぁ、スーパー大ショッカーが手を伸ばしてたっぽいんですよ。
星鎧というオーパーツを見つけたせいで、そんな奴らにさらわれた夫妻がいます」

「じゃあえっと、八神君はその二人を助けに?」

「じゃないとその息子が馬鹿を止めないんですよ。オカルトも混じったテロリストまがいの連中と手を組んで、時間改変をやろうとすらしてて」

「簡単に言えば神様レベルの力を手にして、スーパー大ショッカーもなにもかもなかった事にしようーって話だねー。
なので……君達が言う門矢士も消える。当然君達がしていた旅の記憶もね」

「そんなの駄目です! 士くんがなにをしたって言うんですか! 単なるとばっちりもいいところです!
というか……それならあなた達みたいに助けようとすれば問題ないんじゃ」

「うん、君の言う事はもっともだ。ただ……彼はそれで納得しないだろうね。
だってさらわれた事とか、その間受けた痛みとか、そういうのも全部なくしたがってるから」


夏海さんの疑問はあっさり砕け、やや反省気味に俯いた。


「ごめん、なさい。無神経でした」

「いやいや、いいって。とばっちりなのは事実さ。……だからそこを解決するために連れてきたんだよ。
この時間・この世界でなら助けられるタイミングがあるらしくて」


あぁ、だからなぎ君も一度あっちに戻るとか……このまますんなり全員合流は無理。

試しになぎ君をちら見すると、放っておけないみたいで『やるしかない』と頷いてきた。

……一文字さん達の世界で、ディケイドの業はなにかなって考えた。でもまさか、こんなに残酷なものだったなんて。


実験台ってだけじゃない。もしかしたら今の士さんは士さんじゃなくて……あれ、でもそれなら。


「ねぇなぎ君、移動した世界は一定のプログラムというか、そういうのがあるって話だったよね。ならこの散開状態は」

「それの結果だよ。向こうの世界で起きているアンデッド復活事件、それは剣崎さんを呼び込むための罠だ。
キバーラ、おのれは知ってたでしょ。ブレイドの世界がない事も熟知してたみたいだし」

「……一応誤解がないように言っておくと、知っていたのはどのブレイドが狙われているか、そういう意味よぉ」


あんまりな告白に驚いていると、キバーラはあっさり認めた。口をパクパクさせると、隣のなぎ君に軽くデコピンされる。


「剣崎一真というレアケースが存在する世界は、たったひとつしかなかった。それがウィザードの世界なの。
まぁだからこそとも言うべきかしら。他のブレイド世界よりは強固というか、消滅も免れていたんだけどね。
それよりも……一体どうやって外に出るのよぉ。正直こっちはお手上げよ?」

「そこは手管を用意してるから大丈夫だよー。まぁそういうわけだから、もうちょっと彼を借りるよ。それほどかからないだろうけどね」

「……夏海さん」

「私は、大丈夫です。ハイパークロックアップで行き来できるようになった、それだけでもいい事だと思いますし」

「それなら……なぎ君、私達も大丈夫だよ。というか、ごめん。私、フェイトさん共々馬鹿ばっかりで」

「別にいいよ。僕も駒の使い方ってのを忘れてた」


駒ぁ!? なんか凄い言い回しをしたので、なぎ君に近づき顔をガン見。

その時なぎ君が顔を赤くするけど、気にせず……なぎ君、すっきりした顔してる?

それにホッとしていると、なぎ君の視線が下に……も、もしかして胸を見えちゃってるかな。


でもいいの。なぎ君だから……なんだか距離感がまた変わって嬉しくなる。


「じゃあ早速行こうか」

「だね」


それで三人は立ち上がり、なぎ君は軽く私の頭を撫でてくれた。……大丈夫って安心させてくれてるのが分かる。


「あ、あの……待って」


そして正座していたフェイトさんが立ち上がろうと……したけど、そのままスッテンコロリン。足、しびれたんだね。


「なによ、控えてろって言ったでしょうが」

「駄目……やっぱり駄目だよ! 管理局を潰すなんて! ヤスフミ、それは駄目だよ!
管理局がなくなったら、治安維持だって問題が出る! 世界規模のレベルなんだよ!?」

「スーパー大ショッカーの存在は遅かれ早かれ表に出る。もう隠しておけないよ」

「だ、だからその……この事は関係者の処分だけで済ませるようにするの。ね、そうしようよ。
みんなの居場所だって壊れちゃうし、夢を描いていた人達はどうなるのかな。
あの、私もどうすればいいか一緒に考えるから、そうしようよ。それが正しい事だって」


そこでなぎ君が強めにテーブルを叩く。更に本気の怒気もぶつけられ、フェイトさんが身を竦ませた。


「そうやってヴェートルの時みたいに、嘘で塗り固めるわけか。……もう飽き飽きだわ、お前らの正義の味方ごっこは」

「ヤ、ヤスフミ……あの、落ち着いて。だってこうしないと、みんなの夢が」

「嘘になにを上乗せしても、結局嘘なんだよ。……だからもうなにもするな」

「だから、駄目だよ! 嘘なんかじゃないよ! みんなで描いた夢は本当で」

「嘘なんだよ!」


そうしてなぎ君は私達の全部を否定する。そう、全部だ……それが悲しくて、でも逃げようもなくて、ただ涙が溢れる。


「僕達はそれを、『幸せ』と思い込まされていたんだ。でもそんな世界、僕は嫌だ。
だから両方たたき潰すの。邪魔をするなら、お前も僕の敵だ。……行くよ、二人とも」

「分かった」

「愚かだねぇ。まぁ」


そこでディオクマさんが、フェイトさんを一べつ。明るく笑ってから。


「だからこそ支配され、それを維持する立場としてはふさわしいんだろうけど」


とても冷たく、とても鋭い言葉をフェイトさんに投げかける。そうしてそそくさと……そのまま写真館を出ていった。

バタンという音が響く中、フェイトさんは必死に這いずる。止めようとするフェイトさんを、夏海さんとヒビキさんがそっと止めた。


「フェイトさん」

「離して……離してぇ! あんなの、駄目だよ! どうして……どうしてかな! 分からないよ!
だって仮面ライダーは正義の味方なのに! ヤスフミは変身できるのに……どうして管理局を潰すのかな!
私達の、みんなの夢を壊して……そんなの止めなくちゃいけないの! そんな必要どこにもないの!」

「仮面ライダーだから、だよ」


そこで栄次郎さんがキッチンから登場。いつもの調子でお菓子を……それもポテトチップスを出してきた。


「仮面ライダーはねぇ、人々の自由を守るため戦うのさ。でもここには自由も、そこから生まれる夢や希望もない」

「あります! だって、私も……ギンガも! 他のみんなだって!」

「ないよ。……たくさんの人達が泣く手伝いをしていたんだ。それは自由を奪う行為じゃないのかねぇ」


フェイトさんは栄次郎さんの言葉にも首を振り、なんとか止めようともがいていく。

その様子を他人事みたいに見ていた。ポテトチップスを食べながら……泣いて、泣いて、泣き尽くす。

もう止められない、もうなにも言えない。私にできるのはただ、無事を祈って待つ事だけだった。


世界の命運が握られているとしたら、それはなぎ君の手。私達は全てを掴み損なっていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ここまでのあらすじ――ついに出てきたよ、剣崎さんが。そして剣崎さんは早速やらかしてくれた。

これは駄目だ……伊織も呼びつけ、765プロへ。始さんと睦月さんは早速。


「……嶋さん!」

「久しぶりだね、睦月……そういえば就職活動中らしいね。忙しいのにわざわざすまない」

「それはいいですから! でも……嘘みたいだ!」

「……まさか、こんな形でまた会えるとはな」

「人生とは分からないものだよ」


嶋さんと感動の再会。特に睦月さんは嬉しそうに握手していて、その様子を見てホッとする。別れた時の経緯もあるから余計にくるのよ。


「で……伊織! ていうか恭文君も! 一体どこにいたのよ!」

「企業秘密よ。それよりもやし、あとユウスケも……ちょっとまずい事になったわ」

「それよりじゃないよ、伊織ちゃん! あの、プロデューサーさん……やっぱりバックルを返してくださいー!
危ないものなのは分かったけど、本当にそうなるか分からないし、駄目かなーって!」

「やよい、ちょっと黙ってて。……ほらほら二人とも、ヘコんでないで立ち上がってよ。大和鉄騎がやらかしてくれたんだから」


二人ともその名前を聞いて、ピクリと震える。ユウスケはそれで留まったけど、もやしは困惑気味に立ち上がった。


「どういう事だ。やらかしたってのは昨日の」

「違う違う。……今朝、新宿にアンデッドが出現した。それは封印したんだけど……剣崎さんが出てきてさ」

「そうしたらその直後、大和鉄騎にさらわれたらしいのよ! あの馬鹿!」

「……なんだって」


さすがに嶋さんも聞き捨てならず、僕や睦月さんを見やる。なので揃って頷くしかないわけで。


「ご丁寧に僕の携帯へ、脅迫メールが届きましたよ」

――剣崎一真、及びスペードスートのラウズカードを預かった。明後日の夕方十七時、浦安海岸にて待つ。
交換条件はダークカブト、蒼凪恭文を連れてくる事。ギャラリーはきて構わないが、俺と修羅の闘争を邪魔するなら、殺す――

「なによ、これ……!」

「青チビとやり合うために、問題のブレイドを襲ったってのかよ。イカレてるな」

「さすがに四度も邪魔されてるからねぇ、そろそろ堪忍袋の緒が切れたって感じでしょ。
……ただ問題が一つ。剣崎さんはスペードスートのカードを全て持っていて、僕達から逃げる時にタイムスカラベを使っている」

「一定範囲の時間を停止させるカードなのよ。停止中の物体に対し、攻撃とかはできないんだけど」

『時間停止!?』


みんなが驚くのも無理はない。ザ・ワールドを始めとして、その手の能力はチートかつよく使われるもの。

それを普通に使えるカードがあると聞けば、驚くしかない。


「い、いおりん……それは、マジ?」

「ブレイド、強すぎっしょー。あぁ、だから兄ちゃんも逃がしちゃって……あれれ!?」

「真美、気づいた?」

「当たり前じゃん! そんな能力が使えて、なおかつ不死なんだよね! それを捕まえているっておかしくないかな!」

「そう、おかしい。だからね、こんな画像もついてきたのよ」


みんなにメールに添付されていた、画像二枚を見せる。一枚は胸元から緑の血を流し、倒れた剣崎さん。

もう一枚はカブトムシ型メカ。それはみんなにも見覚えがあるもので、またざわめきが起きた。


「プロデューサー、これ……蒼凪さんが使ってるの、見た覚えが」

「ハ、ハイパーゼクターって言うのですぅ! どうしてあの人がこれを持ってるんですかぁ! だって……だってぇ!」

「萩原さん、落ち着いて。そこについては……門矢さん」

「青チビのはひとつ前の世界で、コーカサスってやつから奪い取ったものだ。
そいつはスーパー大ショッカーの一員だったからな、つまりこれは」

「二個目なんですね。それを大和鉄騎という人が持っていた」

「これは脅迫だよ。自分はハイパークロックアップが使える、だからディケイドだろうと約束を守らないなら……ってね」


しかもあの剣崎さんがやられるくらいだからなぁ。まさに鬼に金棒、ケタロスにハイパーゼクターだよ。

言っておくけど、剣崎さんは決して弱くない。融合係数の問題もあるけど、アンデッドとの実戦で鍛えられた人だから。

ジョーカー化する前でも、少なくとも真は秒殺できる。それを瞬殺だよ? 正直驚異的だわ。


てーか……アイツ、もしかしてこれを手に入れるため、スーパー大ショッカーに肩入れしてたんじゃ。

時間と時空を超えるわけだし、時間の法則ってやつを破らない限りは行動範囲も抜群に広がる。

ダブトな僕だけのためとは、どうしても思えないのよ。アイツ、腹にもう一物ありそうだしさ。


「それと嶋さん、すみませんけどしばらくの間そのままでいてもらえますか?
現在目覚めているアンデッドは、嶋さんと始さん、そして剣崎さんの三人ですから。
……そしてバトルロイヤルは勝利者が確定してしまえば、その時点でレンゲルのリモートなども使えなくなる」

「私がいる事で、剣崎一真を元に戻しても問題ない状態を維持するわけだね」

「すみません」

「いや、構わないよ。だがそう言うという事は」

「やっぱりアンデッドの復活、剣崎さんを引っ張りだすための囮でした。
剣崎さんも別口でアンデッドを封印してて、残りのカードを託してくれたんです」

「そっちは橘達に届けたわ。問題は……ああもう、本当にあの馬鹿は!」


伊織、今更いら立ってもしょうがないよ。剣崎さんだもの、そういう人だってのはよく知っているでしょうが。


「恭文君、どうするのよ! あなたのせいで彼、どっか行っちゃってるのに! そもそも要求に応えられないじゃない!」

「いやぁ、アイツからバックルを取り上げた事は正解でしたよ。僕は実に正しい事をした、自分を褒めてやりたい」

「はぁ!?」

「ど、どうしてですかー! だってだって、やっぱり人のものを取っちゃいけないかなーって!」

「アンタ達は本当に馬鹿ねぇ。……このアンデッド騒ぎ、剣崎一真という特殊個体をおびき出すための囮なのよ。
アイツは融合係数が半端なかったため、最強形態でスートアンデッド全てと融合した。
システムを作った烏丸達からしても想定外で、その結果アイツはアンデッド化した。また同じ事を繰り返すわけにはいかないでしょ」

「我々は放逐されただけと。雑な囮だ」

「そうね。でも撒き餌でおびき寄せるのが、剣崎一真なら問題ないわ」


実際剣崎さん、橘さん達とは別口でアンデッドを封印していったからなぁ。……そうなると、志村純一も怪しくなるわけで。

とにかくよ、今新しいブレイドを増やすって事は、そういう選択肢に繋がるわけよ。


「なおここは、ダブトな僕が自主的に……ってコースじゃなくてもいい。バックルを持たせ、ラウズカードを強制的に使わせるのよ」

「強制的に? つまりその……人体実験ですか! 人体実験!」

「こっちの方がお手軽だしね。ここまで言えば分かるよね、春香」

「もし蒼凪さんがあのままバックルを持っていたら、スーパー大ショッカーに狙われていた……それも今まで以上に!?」

「奴らが悟る前に、バックルの行方が有耶無耶になってよかったよ。そうじゃなかったらどうなってたか」


それを未然に防げたのはマジで褒めてやりたい。こういう事になる前だと分かる前だったからなぁ。

てーか誰よ、アイツにバックルを渡した奴は。まずそこから怪しくなってくるでしょうが。……ていうか。


「もやし、バックルを渡したのは誰」

「天道総司……仮面ライダーカブトだが。前にも言っただろ」


だよねー! まさか、この世界の天道さんじゃないよね。てーか樹花ちゃん達に確認したのよ。

なにかこう、『ちょっと他の世界を救ってくる』とか言って、また旅に出たって!

いつもの事だからって笑ってたけど……いや、もうやめよう。そこについては多分、細かく触れても面倒くさい。


「信用できるの? そいつ」

「どういう事だよ」

「今言ったでしょうが。バックルが剣崎さんの手から離れ、第三者に渡る事そのものがアウトなんだよ。つまり」

「おいおい……あの天道が偽者だってのかよ。だがおかしいだろ、それならバックルを持っていた剣崎は」

「そこまでは分からないよ。でも、そうでも考えないとおかしいところがたくさんでしょ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


天堂ソウジは俺の頼みを快く引き受けてくれた。そして家族もまた……俺もひよりと樹花に会いたくなってしまった。

だがそれはもう少し後だ。今日のところは挨拶と、店を出たところで携帯に着信。余韻をさておき、歩きながら電話に出る。


「紅か」

『どうも。そちらはどうですか』

「交渉成立だ。さすがはこの世界の太陽……話が速くて助かったぞ」

『それはなによりです。それはそうと……どういう事ですか! ブレイバックルを彼に渡したって!』


ブレイバックルを彼に? ……なるほど、そういう事か。だがおばあちゃんは言っていた。

早とちりは三両の損だってな。スーパー大ショッカーの事がそうだったので、冷静に聞いてみよう。


「なんの事だ」

『いや、ブレイバックルですよ! 本郷猛達がいる世界で、剣崎さんのブレイバックルを渡したんですよね! それで強制的に引き合わせろと!』

「なぜ俺が奴のものを渡す」

『今言った通りですよ!』

「もう一度言う、なんの事だ。確かに奴らへまた贈り物をしたが、それは包丁セットだ」


アイツらはまた自分の未熟さから逃げている様子だったからな。『これでも使って、料理の腕を上げろ』という意味だった。

だがどうやら、俺の渡したものは悪意にすり変えられていたらしい。それも、奴らが気づかないうちに。


『ま、待ってください。まず、あなたはヒビキさんのフォローをするため、あの世界へ行った』

「決着は奴らに任せたがな」

『それでまたプレゼントをしたんですよね。それが、剣崎さんがいない隙に奪ったブレイバックルで』

「包丁セットだ」


見事に食い違う主張。だが紅にも分かったらしい、俺が嘘を言っていない事も。

そして自分の聞いた事実が、嘘でない事も……だから恐怖する。この食い違いを生んだ第三者に。


『どういう事なんですか……! 剣崎さんは、あなたに問い詰めたと言ってたんですけど!』

「どうやら俺という太陽を模倣し、こそこそ動いていた奴がいたようだな」

『なんのためにですか! 剣崎さんにそれくらい近づけたなら、もうそこで襲っていいでしょ!
しかもあなたの目を盗むリスクまで犯したって事は、光写真館とも近い距離にいる!』

「簡単な事だ。……アイツを『切り札』にできると考えたんだろう」


ようは俺達の計画も知っていて、それを利用したわけだ。もちろん剣崎が迷っていたのも承知している。

そうして生み出すのは……奴らの狙いは、新しいブレイド。それにより生まれる絆、及びカメンライドのカードだろう。

普通のブレイドではない。特殊個体である『剣崎一真』の力を撮ったもの。そうして、ディケイドというシステムを完成させる。


だが誰だ。いや、敵は光写真館に潜んでいると考えるべきだ。この俺の目を騙せるとなれば、一人しかいまい。


「紅、光写真館の位置は分かっているか」

『いえ、まだこちらでは……あ』

「思い当たる節があるんだな」

『急いで探してみます! もしかしたら……天道さん、あなたもすぐにミッドへ!』

「用事を済ませたらすぐに向かう」

『お願いします!』


電話を仕舞い、止めてあったカブトエクステンダーへ乗り込み走り出す。

……全く、人気者は辛いな。まぁいい、乗りかかった船だ。そう思い直し、アクセルを更に開けた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


とりあえず計画としてはこんな感じかな。剣崎さんがくるかも分からなかったから、保険的な意味かもしれない。

あー、でも駄目だな。元々ブレイバックルがどこにあったのか。そこからひも解いていかないと、突っ込みどころが多すぎる。

とにかく重要なのは、やっぱりブレイバックルは……剣崎さんに返すべきってところかな。


「で、でもプロデューサーさん!」

「なによ、やよい」

「本当にそうなるか分からないと思うんです! だから、みんなで気をつければなんとかなるかなって!」

「無理だ」


そこで口を挟んだのはユウスケだった。ユウスケはまるで自分の事みたいに、この話に動揺していた。


「俺は鳴滝……スーパー大ショッカーの幹部に、クウガのベルトを渡され、装着したんだ」

「……らしいね、以前チラっと聞いたよ。それであれでしょ? ディケイドを悪魔扱いで襲って」

「そ、それがどうしたって言うんですかー!? あの、みんなで仲良くして、一生懸命頑張れば大丈夫かなーって!」

「大丈夫じゃない。スーパー大ショッカーはね、ユウスケが第〇号と同じ存在になるよう調整してるんだよ。
クウガの危険性も、グロンギの正体も、ディケイドが何者かも知らない『適当な人間』を選んでね」

「でも、それだけじゃない。士達と会った直後、俺達の世界で究極の闇をもたらす者が目覚めたんだ……!
そいつを目覚めさせる、特別なゲゲルは止めたのに。もしかしたら、アレは」


さすがに答えを、僕の口からは言えなかった。……その闇が目覚めたのは、間違いなくユウスケを追い込むためのものだ。

そうして究極の闇と等しい存在になり、暴れてほしかったんだよ。恐らくだけど奴らには、そんな状態のクウガを制御する手がある。

そのためにもダブトな僕は邪魔だったんだよ。クウガについての詳細な知識も持っていたから。


同時にこれは、ユウスケを更に追い込む楔となる。グロンギの王が目覚めたんだ、恐らく犠牲者は……数百なんてレベルじゃない。

その全てが自分のために、自分が凄まじき戦士となるために引き起こされた。そう考えたら、冷静でいられるわけがない。


「今回のこれも同じよ。私がスーパー大ショッカーなら、新しくブレイドになったアイツを放置しない。ジョーカー化するよう誘導するわ。
ブレイドの融合係数は感情の高ぶりによって変化するから、それが高くなるようちょっかいを出せばいい」

「実際剣崎さんはキングフォームになった前後、アンデッド解放事件の黒幕からそういう干渉を受けてたしね。
もしあのまま持たせて、剣崎さんがダブトの僕と接触したらと思うと……もう怖くてしょうがないわ」

「あの、だからみんなで気をつければ大丈夫って言ってます! どうして聞いてくれないんですかー!
いいから門矢さん達に謝ってください! これは絶対絶対、プロデューサーさんと伊織ちゃんが悪いんです!」

「やよい、純粋なのはいいけど……おのれは人の業ってやつを全く分かってないね」


……あれ、なんで空気が完全に止まるの? ていうか、嶋さんが苦笑し始めたんだけど。


「みんなで仲良く? 気をつければ? ダブトな僕やもやしはともかく、他のメンバーになにができるってのよ」

「そうだ……なにも、できなかった」


そう言ったのはユウスケ。でもそれは自分に対してじゃない、恐らくは……限界の手前で立ち止まっていた、あの僕だ。


「俺は、恭文のフォローなんてできなかった」

「蒼凪君の? いや、今はあなたの話じゃ」

「だって……アイツが怖がっている事に、気づいてやれなかった」


そこで律子さんが気づく。同じ事……そう、同じ事だから言える。ユウスケはダブトの僕をフォローできなかった。

でもそれはユウスケだけの責任? 言わなかったダブトの僕が悪いの? 違う違う……全然違う。

一番の原因は、『自分のためにだけ』動いていた女二人だ。だから僕も、念のためにフォークを渡しておいた。


さすがに見ていられなかったのよ、あの状態は……万が一に備えてって感じだったけど。

本当はダブトの僕が、欲望を解放するのが一番だったけど。別に付き合えって意味じゃないよ。

本人に言った通り、いろいろ抑え込んでいるから。これはね、その原因がなにかって話だよ。


ただ、フェイトがフォークに『期限』をつけていた事はあ然としたけど。ズルはいけないって事ですか。そうですかー。


「俺はいつも、戦えないフェイトちゃんやギンガちゃん、夏海ちゃんを気づかえって言うだけで、アイツを気づかおうとしなかった。
……アイツが気づかいたいのも、助けたいのも、みんなじゃないのにだ! 今起こっている事件や、傷ついた人達へ向かいたいだけだったのに!」

「そう……なのに二人は足を引っ張る。ライダーの知識も、戦う力もない。それはまぁしょうがないよ。
でもそれを得るために、まずダブトの僕に止まれと言う。今危機にある人達より、自分達を助けろと言う」

「ユ、ユウスケさん、落ち着いてくださいー! プロデューサーさんも駄目ですー!」

「ダブトな僕が一番怖がっていたのは、なんだろうね。限界の前で足踏みしていた最大の原因は」

「アイツが怖がっていたのは俺達だ!」


ユウスケは根源に触れた。だから僕も、その通りと……そうとしか思えないと、嶋さんと二人頷く。

そう、怖がっていたのはフェイト達だ。結局振りきれないし、置いていけない。だから中途半端に進んでしまう。

問題なのは、フェイト達も良しとした事。いや、むしろ望むところと言わんばかりに手を引いた。


「怖いに決まってるわ。なにもできない自分達から逃げるため、自分達を引っ張っていけと絡みついてくるんだから。
それもなんの努力もせず、棚ぼた的に知恵や力を手に入れるため。仲間でもなければ、恋人でもないよ。アイツらは……ただの寄生虫だ」

「そうして本当にやりたい事もかき消されそうで、流されそうで……俺達は、仲間じゃなかった。
俺は、アイツの兄貴ヅラをしていた偽善者なんだ……! 俺達じゃ、アイツを止められない。アイツは」


そして兄は泣く。両手で顔を押さえ、後悔する。もっとできる事があった、そのはずだったと……自分の事をさておき、笑顔を曇らせる。


「アイツは、俺が凄まじき戦士にならないよう……夏海ちゃん達が止めても、話してくれたのに。止めて、くれたのに」

「だから落ち着いてくださいー! わ、私はよく分からないけど……その、えっと」

「……高槻さん」


千早がやよいの肩を叩き首振り。それでやよいはなにも言えなくなり、しょんぼりする。

あぁ、天使やよいがヘコむと辛い。でも心を鬼にしなくては、世の中天使な意見だけでは成り立たないんだから。


「でもプロデューサー、実際問題どうするんですか。剣崎さんという人は」

「大丈夫だよ、僕達がなにもしなくても戻ってくるから」

「どういう事ですか」

「千早、気づいてないの? この要求はそもそも無茶振りなんだよ、奴はこの場にダブトがいない事をもう知っている」

「……あ、昨日のゴタゴタ!」

「そしてスーパー大ショッカーに捕まってもいない。それなら僕達に要求なんてしないでしょ」

「そう、よね。えぇそうよ……しかも蒼凪君がこの場にいたら、間違いなく出てくるのよね! 二人は相思相愛、でしょ!?」


律子さんも察しがよくなったようでなにより。まだ半信半疑だけどねぇ、恋愛経験が薄いのだろうか。

とにかくよ、大和鉄騎が出てきたなら、もう一人の僕が喜々として飛び出すはず。決着を付けたいのは同じくだし。


「普通なら非効率的だ。でも……アイツはそれでも来ると信じている」

「信じている?」

「自分が惚れた男だよ? 命を賭けて、殺し合う事で強さをぶつけ合い、楽しめる。
それができる相手だとほれ込んだ。……だったら、信じるくらいはわけがない」


剣崎一真を人質に取れば、堂々と挑戦状を送れば、必ずくると確信しているんだよ。僕にはよく分かる、そういう気持ち……僕も化物を飼ってるから。


「そこでもユウスケが正しいと証明される。フェイトやらギンガさん、大和鉄騎との決着を止めたがってたでしょ。ていうかお前も」

「まぁ、そうだな。特に姉さんは、自分がライダーになって戦えば……ってよ」

「でもそれだって『やりたい事』なんだよ。昨日も言ったでしょ? 例え殺しあったとしても」

「どちらが強いか、はっきり決めたい……ですよね。でもプロデューサーさん、どうしてそこまでしなきゃいけないんですか」


あずささんはやっぱり納得できないらしい。うん、それが当然だ。むしろ僕達が人としてイレギュラーなだけでさ。


「ただ決着を付けたいなら、普通の試合じゃ駄目なんですか」

「駄目です」

「でもそれじゃあフェイトさん達は……心配している気持ちだけは、本物のはずなのに」

「嘘にしたのはアイツらです。それで……自分達のためだけに戦えと、閉じ込めようとしたのもアイツら。自業自得です」

「でも困っていたのはフェイトさん達も」

「どこがですか? 写真館っていう安全圏にいて、事態も大なり小なり把握している。奴らは恵まれているのであって、困ってなんていません」


断言すると、あずささんはあ然。でもそういう事でしょ、前にもどっかで言ったかもだけどさ。


「あずささん、思い出してください。最初の時からアイツらは、自分の事しか考えていなかった。
ただ元の世界へ戻りたい、みんなを助けたいと言うだけ。助ける力もないくせに……ダブトな僕が止めても全く納得していなかった」

「でもそれは、しょうがない事じゃ。侵略を受けたなんて知ったら」

「侵略を受けていたら、無関係な人間を巻き込んでいいんですか?」

「それ、は」

「もしダブトの僕がそう言っていたら、みんなはアイツを信用できていましたか?
……あずささん、嘘をついちゃいけませんよ。腹が立ってましたよね、フェイト達の言い草に」


意地悪な質問だろう。あずささんは言いよどんで、視線を泳がせ始める。……そう、よくない。


「つまりはそういう事ですよ。アイツらは甘えているんです、信頼されて、助けられて当然と」

「……転び方を知らない、ね。社長も前にちょろっと言っていたわ。特にフェイトさんは」

「中途半端な奴だから、引っ張られるんです。それは、振り切るべきなんですよ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


なぎ君が出ていってから、ポテトチップスを食べきった。それでお茶を飲んで、気持ちを入れ替える。

まだグスグス言っているフェイトさんの脇へしゃがみ込み、一緒に涙をこぼす……そうして数える、私達の罪を。


「……フェイトさん、私達……なぎ君に甘えすぎていたんです」

「ギンガ、待って……ヤスフミを止めるの! 今ならまだ間に合うから! それで私達の言う通りに」

「違います! それは……なぎ君を助ける事にも、一緒に戦う事にもならない!」


叫んで、話を聞いてと念押し。それでフェイトさんはぼう然としながら、私を見上げた。


「だって私達、ずっとなぎ君を困らせてた。自業自得で怪我をしたり、デバイスを壊したのに……戦えるようになりたい。
どうしてすればいいか、一緒に考えてって。そんな時間も、余裕もないのに。自分達の事だけ考えて」

「どうしてそれが駄目なの!? だって私は、ヤスフミの助けになりたくて……それでここへきたの!
一緒に戦えないなんておかしいの! ギンガだってそうでしょ!? なにか手があるはずだから、一緒に……そうすれば」

「なぎ君は私達じゃ無理だって、言ってたじゃないですか! ずっと……最初から! ……でも信じたくなかった。
なにかある、なにかあるはずだって……その『なにか』を自分で探そうともしないで」


それで信頼できるはずがない、一緒に戦えるはずもない。ライダーや怪人についてもよく分からない私達じゃ。


「それに、スーパー大ショッカーはきっと……AMFについても知ってる」

「……ギンガさん、すみません。そのAMFって……前にも聞いたかもしれないんですけど」

「簡単に言えば、魔法を無効化する魔法です。半年前、それを搭載した機械兵器が大量に出てきて、都市を襲って。
犯人達は逮捕されたんですけど、そういう弱点が露見した事件だったので」

「じゃあスーパー大ショッカーがそれを使ったら、魔導師さんは戦えないって事ですか?」

「今、ようやく分かりました。私達は、最初からなぎ君と一緒に戦えない。だって私達は」


震える両手で涙を払う。でも無念は止まらなくて、しずくとなって次々こぼれ落ちていく。


「魔導師以外の戦い方を知らないから――!」

「だから鬼になるって言ってるよね! どうして駄目なの……今まで頑張ってきたのに!
今まで、必死にやってきたのに! どうして私達じゃ駄目なの! 私達ならきっとなんとかできる……そのはず、なのに」


そしてフェイトさんもまた泣く。私達にはもう、これしかできないらしい。ごめん、なぎ君。

私はなぎ君の彼女なんかじゃなかった。自分の事しか考えてなかった、自分が不安にならない事しか。

守ってもらう事しか考えず、ただ依存していただけだった。もう私は彼女じゃない……ただ、エッチな事をする関係だよ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


吐き捨てるように言った、中途半端な奴……それは非難の言葉じゃなかった。

どちらかというと呆れたような、心配しているような……ほんの少し、優しさを含んだ言葉。

そうね、アンタは欲深いって本質を全開にしてるわけで。でもそれは女の子関係ってだけじゃない。


戦う人間として、胸に化物を住まわせる身として、命を賭けても惜しくないほどの闘争を望む。

それもまた本質……そういう感情も、フェイト達やらのせいで押さえ込んでいる。だから恐怖する。

そう、恐怖よ。アイツはきっと、優しい奴なのよ。だからいろいろ押さえ込んで、相手に合わせてしまう。


そうして自分の心を殺す。でも周囲はアイツの優しさに甘えている、そんな事はないと見くびってもいる。

まるでどっかの神様みたいに思っていたのかもしれない。それは、ユウスケも同じっぽいけど。

……いろいろ考えながらもすぐに事務所を出た。志村純一の事とかもあるし、はやての家へ戻る。


二日後……私達にはなにもできない。できる事があるとすれば、奴に悲しいお知らせをするだけ。なら。


「アイツは、どうして脅迫状なんて送ったのよ……ん」


帰ってくるなりこの馬鹿は、私を部屋に引っ張り込んで愛撫……両手で胸を揉みしだかれ、ビクビク震える。

昨日の朝、はやて達と一緒に……本当にここをラブホテル代わりに使ってしまいそうで、正直いろいろと怖い。


「スーパー大ショッカーにも追われていて、時間がないとか」

「いや、違うと思う。……ハイパークロックアップがあるなら、直接探しにも行けるはずだ。
わざわざ場所を指定して待つなんてリスク、犯すはずがない。つまり……見つけてほしいんだよ」

「蒼凪に?」

「またはもっと別の誰か。スーパー大ショッカーもこの動きは掴んでいるだろうから」

「……ちょっと待ってよ、それだと」

「アイツは他に戦いたい奴がいる。そいつへ近づくためにも、スーパー大ショッカーの鬼になったのかも」


どんだけバトルマニアなのよ……! てーか二人相手とかやるつもり!? イカレてるわよ!


「で、なんでアンタはそこまで言い切れるのよ」

「僕も同じだもの」

「そっか。でもさ、そろそろ物騒な話はなしにして」

「そうだね。また昨日みたいに、伊織をいっぱいいじめないと」

「……馬鹿」


昨日も……帰ってきて、寝る時はまたたっぷりだった。でもすごく……だから改めて、アイツの全部を受け入れる。

まだはやて達とコイツしか知らない、私のいやらしい、女としての部分を見せつけながら。今度は……私が骨抜きにしてやるんだから。


「ただその前に、伊織……一つ相談がある」

「相談?」

「ユウスケにね、紹介したい人がいるんだ」


紹介したい人? またなにを……そこですぐに思いつく顔があった。私達も後から知った、実は四号だったという人を。


「……アンタ、まさか」

「まぁ、偶然を装ってさ。それにあの人は一度【超越】してるし、いずれにせよ接触も必要だから」


……なんだかんだでおせっかいってわけね。まぁそうよね、ユウスケ……本気で折れてるもの。

それに士もよ。蒼凪の奴はもう戦わせたくないって思ってるかもだけど、それは無理よ。

アイツらには戦いが必要なの。スーパー大ショッカーではなく、自分と戦って……打ち勝つ事が。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


八神の僕、及びディオクマという変則パーティーは一旦解散。正確にはディオクマのみが離脱。

ディオクマは元の世界へ戻し、八神の僕と一緒に……やってきました、ウィザードの世界へ。


≪HYPER CLOCK OVER≫


みんなに事情説明する間もなく、高層ビルの屋上に着地。見慣れた町並みをみんなと一緒に見渡す。


「ここが」

≪ネット接続――情報閲覧終了。間違いありません、ウィザードの世界ですよ。ただ……私達がこの世界を出てから、四日経っています≫


モニターを僕も確認……時刻はお昼の一時。ネットニュースなどでは、怪物騒ぎの様子もない。まずは765プロへ行かないと、かな。ただ。


「出た直後には戻れないと」

「一度僕達の世界から移動すればって思ったけど、そうは問屋が卸さないか。まぁそれだけの誤差で済んで良かったとしようか」


そこで八神の僕が変装用具を取り出す。ていうか……黒子!? 黒子スーツですか、それは!


「今度はオーラじゃないんだ」

「さすがになんでもかんでもはね。……本当は戦闘活用だけじゃなくて、スピリットの事とかも勉強したいんだけど」


そう言いながら瞳をキラキラさせ始めた、八神恭文。でもそっかー、分かるなー。僕もドキドキしたもの。

バトルスピリッツに出てくるスピリットが、過去に実在してたーなんてさ。やっぱ旅はいいものだねー。

ただちょっと迷いがあるらしく、その輝きがすぐに収まる。でもそんな中、しゅごキャラの一体……ハルトが前に出てきた。


しゅごキャラ――こころのたまごから生まれた、もう一人の自分。夢であり、未来の可能性。

その輝きはいつ見てもキラキラしていて、僕もいつかはと考える。もうちょっとで成人だけど、夢は大事だよね。


「頼めばいいじゃないか。きっとあの黒子やクマも喜ぶぞ」

「……なぜ考えが読める」

≪主様、口に出てたの≫

「え、マジ!?」

「マジ。あとはまぁ、あれだな。なくしたものを取り戻したい――本気でそう声を上げられるようになれば、もっといいんだろうが」


うん、大事だ。だから旅に出てよかった……僕の夢はまだちゃんと叶っていないって自覚できたもの。

僕は足踏みをしていた。それが幸せだと思わされていた、だから壊す。まずは自分から……そんな檻を壊して突き抜ける。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


波打つ海岸――そこに腰を下し、奴を待つ。約束はしていない、だが必ず来る。不思議とそう確信できた。

横たわらせた剣崎一真は、両手両足を縛られもがくのみ。まだ傷が回復できていないせいか、苦しげではあった。


「すまんな、もう少しだけ付き合ってくれ」

「お前、彼と……それに門矢士と戦いたいって、どういう事だ」

「ZECTという組織は、人々をワームから守るために作られた。だがその理念を汚された、奴らによってな」


まだまだ時間はある。暇つぶしと言わんばかりに笑って答えた。


「門矢士は大首領なのだろう? ならば、落とし前をつけるのに打って付けだ」

「俺は、そのための材料ってわけか。随分欲張りだな」

「二兎を追う者、二兎とも取れ――以前知り合った老婆がそう言っていた。それになにより」

抑え切れない衝動、それにより生まれた武者震いを、右拳を撫でる事でなんとか鎮めていく。しかし、笑みは消えない。


「大首領は言うなら、全並行世界を統べる最強だ。なぁ、血がたぎるだろう――!」

「お前」


俺は鬼だ。戦いでしか生きている実感を得られない。だから大首領を狙う、そして戦う。

お前も同じだろう、修羅……だが大首領の前にお前だ。さすがの俺でも、大首領の前に死ぬかもしれない。

本来ならそれで悔いなどはないが、一つだけあった。それがお前の、修羅との決着だ。


俺達は出会い、殺し合った。人ではない者同士の闘争、実に心が踊った。決着を誰よりも待ち望んだ。

だがそれは尽く邪魔された。しかし逆に考えたよ、もしかしたら運命なのかもしれない……とな。

俺達は決着を望まれていない。だから運命が邪魔をする、俺達が殺し合い、楽しむ事を。ならば運命と戦おうじゃないか。


これを覆せずして、大首領に勝つなど不可能。だからこい、修羅……俺はここにいる。

お前と最高に楽しい、今までにない殺し合いを演じる男は、ここにいるぞ――!


「男二人で海を眺めるか。殺風景だねぇ」


笑いながら待ち望んでいると、その瞬間は早々に訪れた。……立ち上がり、三時方向を見やる。

奴は黒子姿の何者かを伴いながら、こちらへと近づいていた。俺と同じように笑って、牙をむき出す。

そして俺達は、望んだ時間をようやく迎える。そうだ、これが五度目――今度こそ、答えを導き出そう。


どちらがより強いか。命を賭けて、楽しみながら……笑い続ける俺達を、天と海は静かに見守っていた。


(第41話へ続く)





あとがき


恭文「というわけで久々にディケイドクロス。なおとま旅の僕がなにをしていたかは、ひーろーずIIの終盤をご覧ください」

フェイト「ヤスフミ、剣崎さんが……ていうかハイパークロックアップがー!」


(ハイパークロックアップの大セール)


フェイト「言ってる場合!?」

恭文「お相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。ヤスフミ、今週末のガンダムエキスポ広島で、新しいHG Reviveが発表されるって」


(ちなみに第四弾がガンダムMk-II(エウーゴ・ティターンズ)、第五弾キュベレイです)


恭文「なにかなー。初代二つにアナザーなSEED、それからZ二つときてるから、アナザー系とか。フェイトは出してほしいものって」

フェイト「えっと、ガンダムデスサイズ。ほら、MGではアーリーモデルとか出てるけど」


(『なに! へいともデスサイズなのかー! なら勝負だー!』)


フェイト「あれ、ライバル意識を持たれてる!?」

恭文「なおVivid編(二〇一二年)時のガンプラ事情は、できる限り現実に即しているものの、ビルドファイターズ的に出ているものもあります」

フェイト「なんの説明!?」

恭文「フェイト、レヴィとの勝負は頑張ろうね」

フェイト「う、うん。頑張るよ」


(そしてガッツポーズ。勝負は好きらしい閃光の女神)


恭文「そしていろいろとおかしい事になっているお話……てーか弄んできてやがる」

フェイト「でもアンデッドは封印されたし、あとは」

恭文「バトルロイヤルの報酬とかもあるし、まだまだごたつきそうだなぁ。でもまずは、馬鹿どもの決着だよ」

フェイト「これ、止められないのかな! だってほら、八神のヤスフミもいるし!」

恭文「無理」

フェイト「即答!?」


(次回、いよいよ伸ばしに伸ばした二人の決着――ここだけ別作品の如く、折れたり潰れたり、飛んだりするかも。
本日のED:RIDER CHIPS『Journey through the Decade(RIDER CHIPS.Ver)』)


あむ「なにが!?」

恭文「知ってるくせにー」

あむ「うっさい! そのキャラうっとおしいんだけど! でももう九月も後半かぁ……そろそろアマゾンプライムビデオとか出るかな」

恭文「あと二週間ちょいで鉄血のオルフェンズも始まるし、やっぱりこの時期はいろいろあるね。
でもあむ、信じられる? ビルドファイターズトライ放映開始からもう一年だよ」

あむ「……うん。それでビルドファイターズからは二年……時間がすぎるのって、こんなに早かったっけ」


(おしまい)






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