小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説) Battle124 『Zに至れ/一九九七年の駒達』 今、世界は混乱のまっただ中にある。恐らくは核による電磁パルスを用い、国家単位でのEMPを仕掛けたのだろう。 そのため家にあるほとんどの電子機器も死滅し、ここ冬木市も混乱の声が外から響く。 政府及び自衛隊、警察もこの状況ではまともに動けないだろう。少なくともふだんのような、組織然とした働きは期待できない。 僕にはアイリや家族達を守る責任がある。しかしそれでも……行かなければいけないところがある。 実はロード・エルメロイII世から頼まれ、密かにこの件を調べていた。時間がなかったし、信じがたくはあったんだが。 しかしそれでも鍵は掴んだ。バトスピ、星鎧、IS――それらが繋がり、ここまでの事が起こった元凶。 それはもう一つある。……疑問点は、なぜ裏十三宮が目覚める事になったかだ。もっと言えばへびつかい座の星鎧。 だからこれを書き残し、真実を確かめに行く。恐らく今やらなくてはいけない事だ。 いずれここを訪れるであろう彼に、預かっていた物と借りを返すために。それもとても大きなものだ。 そして彼が失ったものを取り戻す、その足がかりを渡すために。……こういう時がくるのではと、密かに準備していたものだ。 僕からは直接渡せない……というのもあるが、この状況は極めて劣悪だ。しっかり呼び作は整えておかなくては。 予測されるのは、秩序と統制から解放された市民の暴走行為。実際に起きたもので言えば、限られた物資の略奪行為。 暴力による統制・支配、女性を狙った性犯罪……僕が海外で見たものでは、人身売買を絡めるケースもあった。 これはそういうレベルの人災だ。今や電子機器を絡めないライフラインもないため、水道・ガス・電力も停止した状態。 特に原子力などの発電施設は危ないだろう。下手をすれば幾つかは電磁パルスによる急速停止で暴走し、爆発しているかもしれない。 もちろんこの非常時に飛行していた旅客機達も危うい。もし都市部近くを飛んでいれば、墜落して大惨事だ。 そしてこの一件にあの子が関わっているという。……電磁パルスが降り注ぐ前、遠坂時臣から聞かされた話だ。 本当に相変わらずだ。そう思いながら筆を止め、思いを馳せる……僕とアイリ、舞弥の戦いがこういう形に繋がるとは想像していなかった頃へ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ この男――衛宮切嗣の危惧は極めて正しかった。一口に空港と言っても、世界には様々なタイプが存在している。 例えばネパールにある『テンジン・ヒラリー空港』は、ヒマラヤ山脈の谷間に位置するため、標高が高く待機密度も低め。 結果転校が変わりやすい上、傾斜アリの滑走路の全長は四六〇メートルしかない。そのため高度な着陸技術を要求する。 他にもその立地条件から、人との距離が近くなる空港というのも存在する。例えばセントマーチン島の『プリンセス・ジュリアナ国際空港』。 ここは滑走路の距離が約二三五〇メートルと短め……そう、二キロ半でも短めです。大型旅客機では、離着陸できるギリギリの長さ。 そのため空港真横にあるビーチ真上を飛行機が通過。その風圧がビーチを襲うのだ。それを味わうがために、ビーチへ行く人もいる。 だがこれはまだいい。サントマーチン島と日本の時差は約十三時間。深夜に位置するサントマーチン島は、幸いな事にまだ被害が少なかった。 他の、深夜ではない国ではどうか。例えばポルトガルの『マティラ空港』。これは百八十本の柱上に、滑走路を立てた空港。 日本との時差は約八時間のため、ちょうど朝一番の便が飛ぶ時間帯であった。……そこで電磁パルスが襲う。 離陸直後の……数百人を乗せた旅客機が、離陸のタイミングで電磁パルスを食らう。結果機体制御も不可能となり、巨体は再び滑走路上へ。 予想だにしない振動、特殊な条件下で作られた滑走路――その全てが旅客機の落下という、最悪の結果を導き出す。 混乱のまま水中へと沈んでいく巨体と乗客達。この瞬間、織斑一夏は大量虐殺事件の主犯となった。 他にも都市部に比較的近い空港では、制御不能となった旅客機が墜落――ビルや車、市民をすり潰しながら炎上・爆発。 各国で訓練中だった軍用機も、電磁パルスを受け制御不能のまま墜落……しかし、惨劇はまだ続く。 起こった災害は市民を混乱へ導き、平和の元に敷かれたモラルをいともたやすく崩す。 そして自らが生き残るため、利を得るため、悦を得るためだけに行動する獣となる。 ブレイヴピオーズの取った戦術は、たやすく世界全てを崩壊させるに等しかった。しかし忘れてはいけない。 その原因は核――アメリカやイギリス、それに各国の核保有国が、IS学園の生徒達を犠牲にしてでも放とうとした業。 ブレイヴピオーズはただ、その引き金を引いたにすぎない事を。人は、自らの業を利用され、滅ぼされつつあった。 それでも今は……いや、だからこそ振り返ろう。あの戦いの始まりを。そこには確かな希望があるのだから。 バトルスピリッツ――通称バトスピ。それは世界中を熱狂させているカードホビー。 バトスピは今、新時代を迎えようとしていた。世界中のカードバトラーが目指すのは、最強の称号『覇王(ヒーロー)』。 その称号を夢見たカードバトラー達が、今日もまたバトルフィールドで激闘を繰り広げる。 聴こえてこないか? 君を呼ぶスピリット達の叫びが。見えてこないか? 君を待つ夢の輝きが。 これは世界の歪みを断ち切る、新しい伝説を記した一大叙事詩である。――今、夢のゲートを開く時! 『とまとシリーズ』×『バトルスピリッツ覇王』 クロス小説 とある魔導師と閃光の女神のえ〜すな日常/ひーろーずV Battle124 『Zに至れ/一九九七年の駒達』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 一九八九年・ドイツ――その山間部の奥深く、雪と見えない結界に守護された城が存在していた。 その名はアインツベルン城。魔術師の御三家に名を連ねる、アインツベルン家の本家。 その一室で僕は、ただ窓の外を見ていた。左横の天幕付きベッドでは、妻と生まれたばかりの娘がいるというのに。 ただ吹雪く雪ばかりを見ていた。そうして生まれる雪を、ただ静かに見つめていた。 「かわいい。小さくて、繊細で。目元なんてあなたにそっくり……ほら、キリツグ」 だが僕はなにも答えない。いや、答えられるはずがない。この子がこの先、どんな運命に巻き込まれるかを考えたら。 本当にひどい父親だと思う。我が子の誕生を素直に喜べない。そんな僕に、父親の資格はない。 「アイリ……僕は、君を死なせるハメになる」 目も逸らさず、妻――アイリにはそう告げる。それでもアイリは呆れた様子も浮かべず、いつもの穏やかな表情で僕を見守ってくれていた。 「分かっています、それがアインツベルンの悲願。そのための私。 あなたの理想を知り、同じ夢を胸に抱いたから……だから今の私があるんです。 あなたは私を導いてくれた、人形でない生き方を与えてくれた。 ……あなたは私を慎なくていい。もう私はあなたの一部なんだから。だからあなたは」 「僕に」 アイリの言葉を止め、右拳を強く握り締める。そこに刻印された、赤い十字架……いや、そう見える紋様を憎たらしく感じる。 更に強くなっていく感情で手が震え、それを押し殺すように強く握り締めた。 「その子を抱く資格は、ない」 「……キリツグ、忘れないで。誰もそんな風に泣かなくていい世界――それがあなたの、衛宮切嗣の夢見た理想でしょ? あと八年、それであなたの戦いは終わる。あなたと私は理想を遂げるの。きっと聖杯があなたを救うわ。 だからこの子を――イリヤスフィールを抱いてあげて。胸を張って、一人の……普通の父親として」 それは僕がアイリに語った、夢想に近い話。しかしそれを現実にできる手段が、そのための道筋がある。 自然と二人を見た。アイリは二つ分けにした銀髪を揺らしながら、やっぱり僕に笑いかけてくれていた。 彼女の言っている事は無茶苦茶だとも思う。なぜなら僕は、いずれこの子から母親を奪うのに。 それでも今ある幸せを確かめ、それを未来の糧にしろ。アイリが言っているところの本質は、こんなとこだろうか。 ……なにより、僕の奥さんは強情だ。諦めたように肩を竦め、小さくも脆い我が子を優しく抱き上げた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 一九九四年、イタリア・トリノ――我が遠坂家が管理する別邸にて、とある方々をお招きした。一人は白髪オールバックで神父服な男性。 彼は言峰璃正(りせい)。彼の属する聖堂教会は、私も属する魔術協会とライバル関係にある。 しかし三年後、開かれる戦いにおいて我々は協力関係にある。それほどに大きなものを呼び起こさなければならない。 そしてもう一人は彼の息子で、こちらは黒髪の長身。私よりもがっしりとした体格の男だ。 名は言峰綺礼。今日きてもらった理由は、彼の右手に宿った紋様について。私の腕にある同じものを見せた上で説明。 まぁ形状は大きく違うが、根本的には同じものだ。そこもしっかり理解してもらおう。 「令呪?」 「そう。君の右手に現れた紋様、それこそが聖杯に選ばれた証。サーヴァントを統べるべくして与えられた聖痕だ、言峰綺礼君」 「聖杯戦争……奇跡の願望機を求める戦いに、なぜ私が」 「本来聖杯がサーヴァントのマスターとして選ぶ人間は、いずれも魔術師であるはずだ。 君のように魔術と無縁の人間が、これだけ早期から聖杯に見初められるのは、極めて異例な事だろう」 「召喚された英霊――サーヴァントを、使い魔として互いに戦わせるとはまた」 「まぁ、にわかには信じ難い話だと思うが」 言峰綺礼の戸惑いには同意しつつも、これは事実だと瞳で訴えかける。 「あらゆる時代、あらゆる英雄達が現代へ蘇り、覇を競い合う殺し合い。それが聖杯戦争だ」 英霊とは簡潔に言うと、過去存在した偉人達だ。もちろん彼らは死んでいるので、その魂と言うべきか。 サーヴァントはそんな彼らを呼び出したもの。だが本来ならそんな真似、絶対にできない。 召喚術式は人の手に余るほど高度なもの。しかしそれを聖杯が行う事で、なんとか可能としている。 そしてサーヴァントは霊体であるが故に一切の物理攻撃が通用せず、その身体能力も人間のそれを大きく超える。 現在我々が使用できる魔術のほとんどを無効化できるため、サーヴァントにはサーヴァントをというのが定石。 更に各々が生前残した逸話や伝説などに基づいた。固有の特殊能力を使う事ができる。 そんなサーヴァントを戦わせ、最後の一人となったものが勝者。とてもシンプルなバトルロワイヤルとなっている。 そして勝者には、あらゆる願いを叶える願望機――聖杯を手にできる。だから誰もが望み戦う、例え命がけでもだ。 「無論対決は秘密裏に行うというのが、暗黙の掟だ。それを徹底させるため、我ら聖堂教会から監督役が派遣される」 「魔術師の闘争審判を、私達教会の人間が努めるのですか」 「魔術協会では柵に縛られ、公平な審判ができない。そういう事情で六十年前の前回に続き、君のお父上には戦いを見守っていただく」 「父上が冬木の地に? しかし監督役の肉親が、聖杯戦争参加するというのは問題では」 「時臣(ときおみ)君」 「本題に入りましょうか」 近くのテーブルに置いてあったワインを、そっとグラスに注ぐ。それだけで甘美な香りが鼻先をくすぐり始めた。……気が早いだろうか。 「綺礼、ここまでの話は全て聖杯戦争を巡る、表向きの事情にすぎん。 今日、こうしてお前と遠坂時臣氏を引きあわせた理由は他にある」 「と、言いますと」 「実を言うと冬木市に現れる聖杯が、神の御子による聖遺物とは別物」 そこで言峰綺礼は目を細め、私の言を見定めようとする。……いや、それは勘違いか。目には納得したような色も含まれていた。 そうして自然と、グラスを持ったまま彼の周りを歩く。それに璃正氏も合わせてくれた。 彼から五メートルほど離れ、ぐるぐると……その動きに彼が怪訝な顔をした。 「その確証は既に取れている」 「でしょうね。でなければ我々に回収の命が下っているでしょうから」 「だからと言って放置するには、冬木の聖杯は強大すぎる。なにせ万能の願望機だ。 好ましからざる輩の手に渡れば、どんな災厄を招く事か」 「ならば次善の策として……冬木の聖杯を望ましい者に託せる道があるのなら、それに越した事はないわけだ」 「遠坂家は魔術師の一門でありながら、古くから教会とも縁故のある家柄。 時臣君本人もその人柄は保証できるし、なにより聖杯の用途を明確にしている」 「根源への到達。我ら遠坂の悲願は、その一点において他はない。 だがかつて志を同じくしたアインツベルンと間桐は、完全にその初志を忘れてしまっている」 「更に外から招かれたマスターに関しては、言わずもがなだ。どのような浅ましい欲望のために、聖杯を狙うか知れた事ではない」 ここまで言えば分かってくれるだろう。スマートなやり方ではないが、これが必要な事も。彼の目を見ればよく分かる。 「では私は、遠坂時臣氏を勝利させる事が目的で、次の聖杯戦争へ参加すればいいのですね」 「無論表面上、私と君は互いに敵同士として聖杯を奪い合う。 だが我々は水面下で共闘し、残る五人のマスターを駆逐。より確実な勝利を収めるために。 ……そこでだ綺礼君、君は派遣という形で聖堂教会から魔術協会へ転属し、私の徒弟となってもらう」 「既に正式な辞令も出ている」 「君は日本の当家で魔術の修練に励み、三年後の聖杯戦争までに魔術師となっていなければならない。……さて」 「なにか質問はあるか、綺礼」 「一つだけ」 私達は足を止め、前後から彼の顔を見る。彼はどういうわけか、とても疲れ果てた顔でこう聞いてきた。 「父上、時臣氏……なぜあなた達は、私の周囲をぐるぐると回っているのですか」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 残念だが、彼の質問には答えられなかった。なのでもう一つの質問には答えた、それは……聖杯の意思について。 ようは『どうやってマスターを選ぶのか』という話だ。それもまた実に簡単な事。 聖杯はより真剣にそれを必要とする者から、優先的にマスターとして選んでいく。 私だけではなく、言峰綺礼や他のマスターにも叶えたい願いがある……はずだ。実はここにも例外がある。 本来なら選ばれるはずもない、イレギュラーな人物が令呪を宿す場合もあったそうだ。 どうやら彼はなぜ自分が選ばれたのか、不可解らしい。とにかく話はこれで終了。 彼は話を引き受け、別邸から出て行く。その様子を最上階のバルコニーから、静かに見下ろした。 ここは郊外という事もあり、狭苦しいビルディングなどもなく静か。風も穏やかで、実に落ち着いた気分となる。 「しかし……思いの外簡単に承諾してくれましたね、彼は」 「息子は教会の意向とあらば、火の中でも飛び込みます」 「正直なところ、拍子抜けしたほどです」 彼からしてみれば、なんの関係もない闘争に巻き込まれたも同然。その上参加したところで最終的な勝利も見込めない。 戦争がどういう流れになるかも現段階では分からないし、場合によっては命の危険だってある。 それなのに……それだけ職務に忠実という事だろうか。少々無愛想な印象もあったが、直実な性格には好感が持てる。 「いや、むしろアレにとってそれが救いだったのかもしれません。……つい先日、アレは妻をなくしましてな」 「……そうだったのですか」 「目先を変えて新たな任務へ挑む事が、今の綺礼にとっては傷を癒やす近道なのかもしれません」 なるほど、あの無愛想さもそこからだろうか。……その辺りの傷も、フォローできればいいのだが。 例え利害関係からと言えど、彼はもう私の徒弟だ。ならば師として、できる限り力になるのが努めだろう。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 一九九七年・ロンドン時計塔――信じられないだろうが、この現代社会に『魔術』と呼ばれるものは存在している。 魔術は星の生命エネルギーである『マナ』を、擬似神経である魔術回路を通し『オド』へ変換し扱う術。 魔術回路の有無や寮は先天素質に基づくものらしく、そこで血統なんてものも発生したりする。 とはいえ基本理論は現代科学と変わらない。過程や理論があり、結果を出す。ここはそんな魔術を学ぶ学校。 ただ……正直、肩身が狭い。例えばすり鉢状の教室で、金髪オールバックな先生にちらりと見られると、それはもう。 『――魔術の世界では、血筋によって概ねが決定する。なぜなら魔術の秘宝は一代で成せるものではない。 親は生涯を通じた鍛錬の成果を、子へと引き継がせるものである。代を重ねた魔導の家紋ほど、権威を持つのはそのためだ。 なぜ……このような初歩的な話から始めるかと言うと』 そこで先生がチラ見……ではなく、僕を小馬鹿にした様子で見てきた。そうして見覚えのある論文を取り出してくる。 『先日、一人の学生が私へ論文を提出してきたからだ。タイトルは『新世紀に問う魔導の道』……この論文は、今私が話した通説に一石を投じるものだ。 術式に対するより深い理解と、より手際の良い魔力運用ができるなら、生来の素養差などいかようにも埋め合わせが利く』 そうそう! 僕はこの人――ケイネス・エルメロイ・アーチボルト先生のように、名家の出身じゃない! だが素養だけで全てが決まるのはおかしすぎる! きっと方法があるはずなんだ! 魔術は科学のそれとなんら変わらない! ここで読んでくれた事が誇らしく、ざわつく他学生達に対しつい得意顔。 『つまり血の浅い者であっても、一流の魔術師になれると説いている。私はこの論文を読んで、思い知らされた……静かに』 ケイネス先生の一声で、教室全体が静かになる。そして。 『ここに書かれている事は全て妄想だ』 僕の論文を、ゴミでも扱うかのように……乱暴に壇上の机へ置いた。それが余りに衝撃で、一気に冷水をぶっかけられる。 『魔術の優劣は血統の違いで決まる。これは覆す事のできない事実である』 それが納得いかず、つい立ち上がってしまう。すると先生は俺に厳しい視線を送る。 『ウェイバー・ベルベット君……私の学生にこのような妄想を抱く者がいたとは。実に嘆かわしい』 「先生! 僕は今の旧態然とした、魔術協会への問題提起として」 『ウェイバー君。……君の家は確か、魔術師としての血統がまだ三代しか続いていなかったね。 いいかね、魔術協会の歴史から見れば、君の家はまだ生まれたばかりな赤ん坊に等しい。 親へ意見する前に、まず言葉を覚えるのが先じゃないかなぁ』 そこで笑いが起こる。僕を……僕の家を笑う。どうしようもない怒りで、つい拳を握り締めた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 教室から飛び出しても怒りは消えない。日の差し込む廊下を歩きながら、ケイネス先生への悪態をつき続けていた。 馬鹿にしやがって馬鹿にしやがって……! あれが講師のやる事かよ! アイツ、僕の論文を恐れたんだ! 僕の才能を恐れたんだ! そうに違いない! だからみんなの前であんな真似を……そう考え事をしていた時、足に重いものがぶつかりつまずいてしまう。 「あぁ、すまないね。大丈夫か?」 「い、いえ……こちらこそ」 重いものっていうか、台車の角だった。その上には幾つもの段ボール箱が置かれていた。 こちらの不注意はあるし、職員さんには素直に謝る。 「ん……君は降霊課の学生か? 授業はどうした」 「あ、えっと、アーチボルド先生に用事を頼まれちゃって。それで急いでいて」 「そうか、ちょうど良かった。これをアーチボルド先生に届けてもらえるか?」 職員さんが差し出してきたのは、辞書サイズな小包。それを丁寧に受け取り、首を傾げる。 「これ、ですか」 「頼んだよ、大事なものらしいから」 そのまま職員さんは僕の脇を抜け、台車を押して消えていく。送り元……マケドニア。 ……胸の中で黒い感情が渦巻く。それは、ちょっとしたいたずら心。でもあの人への仕返しには十分だと思う。 まずは時計塔の資料室へ。マケドニアだけじゃさすがに無理だけど、一つ噂を聞いていた。 それも確かめるため、幾つもの資料を読みあさり……そうして答えに行き着いた。 「これだ」 ケイネスの奴が近く、極東で行われる魔術の競い合いに参加する。そういう噂があったんだけど、本当だったらしい。 聖杯戦争――それは二百年前、始まりの御三家と呼ばれる『アインツベルン家・遠坂家・間桐家』がきっかけ。 三家は互いに協力し合い、あらゆる願望を実現させる聖遺物『聖杯』の召喚に成功する。 だが聖杯が叶えるのは、ただ一人だけの祈り。協力関係は血を血で洗う闘争へと変化。これが聖杯戦争の始まり。 以後六十年の周期で聖杯は冬木の地に再来。それを持つに値する、七人の魔術師を聖杯が選択。 サーヴァントと呼ばれる、英霊召喚を可能とさせる。そのクラスは合計七種。 サーヴァントは七つのクラスに振り分けられ現界。七人のいずれが聖杯の担い手として相応しいか、死闘を持って決着させる。 ……大体の事が分かったので、資料から手を離す。そうして嬉しくなりながら、椅子の背もたれに体重をかけた。 「聖杯戦争ってのは肩書きや権威も関係ない、正真正銘の実力勝負って事か。この僕に持ってこいの舞台じゃないか」 ほくそ笑んでいると、とある記述に目が引かれる。再び前のめりになり、そこを確認。 「なおサーヴァントの召喚には、触媒となる英霊の聖遺物を必要とする」 聖遺物……慌てて封じたままの届け物を開封。高そうな石箱に入っていたのは。 「……え?」 ハンカチを取り出し、中身を確認。表と裏もしっかり見てみるけど、特に変わったところはない。 ただ強いて言うなら、『絵柄』が多少曇っているところだろうか。え、なんだよこれ。カード? まさかこれが聖遺物……そんなまさか。とりあえずカードを収め、外袋なども含めて素早く元に戻す。……どうしよう、すっごく不安だ。 しかし絶対なる幻造神ミトラ・ゴレムか。なんか強そうだったな、がっしりしててさ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 絶対なる幻造神ミトラ・ゴレム(とまとオリカ) スピリット 10(0)/青/絶晶神 <1>Lv1 X0000 このスピリットカードは一切の効果を受けない。 Lv1 このスピリットは合体できず、このスピリット以外の一切の効果を受けない。 Lv1『自分のアタックステップ』 ステップ開始時、相手のデッキの上から20枚破棄する、 または相手スピリット/ネクサス1つを破壊する。 この効果で相手のデッキを破棄したとき、このスピリットの BPは、この効果で破棄したカードの数×10000になる シンボル:青青青 (名前の由来はペルシャ神話のミトラ。能力は「絶対破壊の神」) なお、すべてフレーバーテキストがないのはアマテラスと同じです。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 翌日、僕はあれからすぐ取った飛行機で日本へ向かう。幸いな事に聖遺物の事はバレず、無事に出発できた。 そう、これはマジモンの聖遺物らしい。また調べて分かったんだが、どうもあれはバトルスピリッツというゲームらしい。 通称バトスピ――超古代時代から存在していた、選ばれた偉人や権力者のみができた代理戦争。 ようは戦争経済にも繋がる、平和的交渉であり代理戦争だ。ただ一度廃れて、表舞台からは消えているようだが。 その中で選ばれた者だけが持てる、超強力カードも存在した。神のカードと呼ばれているものだ。 だからこそ聖遺物足りえる。これを使った偉人――それがケイネスの呼び出したかったサーヴァント。 恐らく相当強力な奴に違いない。……僕は聖杯戦争で、僕の正しさを示す。家柄も、血筋も関係ない。 大事なのはそれを扱うインテリジェンスだと……僕を笑った奴全員に突きつけてやる! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ こうして今のロード・エルメロイII世は、あの戦いへ参加した。これもなんという巡り合わせだろう。 問題となったミトラ・ゴレムは、元々ケイネス・エルメロイ・アーチボルトのもの。 彼が当時のウェイバー・ベルベットを吊るしあげなければ、ケチがつく事もなかったのに。 もちろん盗みはよろしくないわけだが……それにウェイバー・ベルベットもかなり無謀だった。 当時真なる神のカードについては知らなかったし、もしミトラ・ゴレムが力を失っていなければどうなっていたか。 彼がエルメロイの名を継いでいるのは、その引け目もある。ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは、参加直後八神恭文によって敗退。 確かにケイネスは優秀な魔術師だが、戦闘経験には乏しい。それこそ運の悪さゆえに喧嘩慣れしている、あの子以下。 お得意の水銀操作も振るえず、契約したサーヴァント【ランサー】とも分断され、あっさり令呪もろともランサーを引き渡した。 その後婚約者から見放され、その実家からも見放され、やけになった彼は現在……育毛剤開発者となった。 おかげで世界中にいる薄毛で悩む人々は救えたが、彼の実家であるエルメロイ家は放置状態で傾いた。 それを立て直したのが、そんなおかしい状況を作った元凶(ロード・エルメロイII世)だ。 なおどうしてそうなったかは……とりあえず、彼も悩んでいた一人だったとだけ言っておこう。 そして僕と妻のアイリも同時期、彼女と出会う事になる。あの時の衝撃は、今思い出しても薄れない。 もちろん僕だけでなく、彼もだ。あんな事にさえならなければ、一生忘れようがない出会いだっただろう。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 娘が生まれてから八年……思えばあっという間の時間だった。ようやく、待っていた時がきた。 アインツベルンの長であるアハト翁は、場内にある聖堂へ僕とアイリを招集。壇上に立つ翁へ揃って跪く。 白い儀式服に伸びっぱなしな白髪と髭……しかしそれを品よく整えている。 そんなアハト翁は、やはり僕でも背筋が伸びるなにかを持っていた。 「かねてより捜索させてあった聖遺物が、コーンウォールより見つかった。 これを用いれば剣のサーヴァントとして考えうる限り、最強の英霊が召喚できる。 切嗣よ、これはアインツベルンがそなたに対する、最大の援助と考えてほしい」 「お心遣い、痛み入ります」 「今回ばかりはただの一人も逃すな。六のサーヴァント全てを狩り尽くし、必ずや第三魔法――ヘブンズフィールを成就せよ」 「御意」 しかし、セイバーか。考えうる限り最強となると……感謝するべきなのだろうが、どうしたものか。 悩んでいた。サーヴァント――セイバーとどう付き合っていけばいいか、この期に及んで迷っていた。 それは聖遺物本体が届いてかrまお同じ。聖堂へ運ばれたそれを見て、アインツベルンの力に舌を巻いていた。 「まさか本当に、伝説の宝剣……の鞘を見つけてくるなんて」 軽く呆れ気味なのも許してほしい。鞘本体からおかしい事になっているんだ。……損傷や色あせた箇所が一つもない。 黄金色の二等辺逆三角形で、そこに青いラインが幾つも走っている。なんというヒロイックな聖遺物だろうか。 普通なら錆びていてもおかしくないんだが、これは聖遺物だからなぁ。 「これが千五百年も前の発掘品だって? 誰が信じるというんだ」 「確かに。でもこれ自体が一種の概念武装だもの。物質として当たり前に風化する事はないでしょうね。 ただ装備しているだけで、この鞘は伝説通り持ち主の傷を癒やし、老化を停滞させる。 もちろん、本来の持ち主から魔力供給があればの話だけど」 「つまり、呼び出した英霊と対で運用すれば、これ自体をマスターの宝具として活用できるわけだな。……飲み込むのが大変そうだ」 「もう、キリツグったら」 もちろん冗談なので、アイリも笑ってくれる。……概念武装だからな、その時点で普通の物質ではない。 こう、体内に吸収する形となるだろう。なお普通に持ち歩くのは無理だ。騎士剣用の鞘なので、それなりに大きく幅広だ。 「でもキリツグらしい。道具はどこまでも道具というわけ?」 「それを言うなら、サーヴァントにしてもそうだ。どんな名高い英雄であろうとサーヴァントとして召喚されれば」 鞘には背を向け、壇上から降りる。そうして近くの長椅子に腰掛けた。 「マスターにとっては道具同然。そこに妙な幻想を持ち込む奴は、この戦いには勝ち残れないよ」 「そんなあなたにこそ、この鞘は相応しい。それが大おじい様の判断なのね」 「はたしてどうだろうか」 「大おじい様の贈り物がご不満?」 「まさか。アハト翁はよくやってくれた、これほどの切り札を手にしたマスターはいないだろう。 ただ……これだけ明確な聖遺物を使うなら、召喚に応じるのは間違いなく目当ての英霊になるだろう。 伝説の騎士王――アーサー・ペンドラゴン。マスターである僕との相性は別としてね」 僕の戦闘スタイルは決して奇麗なものじゃない。どっちかというとアサシンなりキャスタータイプだ。 できればそっちが良かった……とは口が裂けても言えないが。一応僕にだって、恩義を感じる心くらいは残っている。 まぁそれを抜いてもアインツベルンは僕の雇い主だ。雇い主の厚意は有り難く受け取らなくては。 「でもエクスカリバーの担い手となれば、セイバーのクラスとしては最高のカードよ」 「そのカードをどう使うか、少し迷っていてね。アサシンやキャスターならその必要もなかったんだが」 「召喚する前から不安がっていてもしょうがないじゃない。騎士王が実際どういう人かも分からないんだから」 うじうじ悩んでいる僕に、アイリが優しくほほ笑んでくれる。……彼女はいつもこうだ。 最初とは変わったというか、なんというか。だがその言葉でいつも背中を押される。 「それにね、あなたの夢を――理想を知れば」 アイリはまるで我が子を――イリヤを慈しむかのように、鞘をさっと右手で撫でる。 「分かってくれるわ、きっと彼だって。私のように」 私のように……なるほど、その手があったか。そのまますっと立ち上がる。 「なに?」 「策が閃いたよ。最強のサーヴァントを、最強のまま使い切る方法が」 そうと決まれば早速準備。儀式陣を聖堂の床に描く……大丈夫、このための場所だから。 「英霊を召喚するのに、こんな小規模の術式でいいの?」 「拍子抜けかもしれないけど、大掛かりな降霊術は必要ないんだ。実際にサーヴァントを招き寄せるのは聖杯。 僕はマスターとして、現れた英霊をこちら側の世界へつなぎ止め、実体化できるだけの魔力を提供すればいい」 指差し確認で儀式陣を確認完了。子どもっぽいとは言わないでほしい、最後の詰めを誤りたくはない。 なにせ九年ごしだ。僕がこの家と関わったのは、イリヤが生まれる一年前の事。積み重ねたものがある分、慎重にはなる。 「アイリ、聖遺物を祭壇へ置いてくれ。それで準備は完了だ」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 日本へきて、とある外国人老夫婦をこう……軽く暗示でだまくらかした。現在僕は、その老夫婦の孫となっています。 家は二階建てのロッジ風味で、辺りは緑も豊かで実に静か。おかげで毎日よく眠れる。 犯罪だとか、魔術の悪用とは言う事なかれ。拠点は必要だったし、二人に過度な暗示もかけていない。 あくまでも留学先から帰国した孫……そう、たったそれだけだ。まぁ、多少申し訳なくはあるけど。 令呪に関してはなんとか宿った。やっぱり聖杯は……あぁそうだ、僕は願いを叶えたい。みんなに僕の存在を認めさせてやりたい。 でもここからが大事だ。その日の夜、近くから調達してきた鶏を……クイッとシメる。 そうして血で儀式陣を描き、召喚準備完了だ。しっかし……薄暗い中、聖遺物であるミトラ・ゴレムを中央に置く。 そうして儀式陣を改めてチェック。やっぱ、あり得ないよなぁ。こんな簡単な術式で英霊が呼び出せるなんてさ。 英霊ってのは本来はこう、人間がほいほい召喚・使役できるもんじゃない。普通の使い魔じゃないからな、英霊は。 でもここ冬木で行われる、聖杯戦争は違う。あくまでも僕達がやるのは召喚補助。『私がマスターですよー』という登録作業に等しい。 ……こんな説明をしたら、ケイネスにどやされるんだろうなぁ。正確じゃないとか言ってさ。 とにかく実際に英霊を召喚するのは、聖杯自身らしい。自分の主を選ぶため、ちょこっと力を貸してくれているようだ。 さぁ、あとは呼び出すだけ。そのための詠唱もしっかり覚えている。 「――素に銀と鉄、礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を」 だからこそソラでするする言える。お亡くなりになった鶏は静かに置いて、詠唱継続。 「四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。 閉じよ閉じよ閉じよ閉じよ閉じよ――繰り返す都度に五度」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 聖堂の中、右手をかざし詠唱――すると儀式陣が淡く輝き、その光をより強めていく。 「ただ満たされる刻を破却する。告げる、汝の身は我が下に。我が命運は汝の剣に。 聖杯の寄るべに従い、この意この理に従うならば応えよ。誓いを此処に。 我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」 空気が震え、肌を叩く。くる……望んでいたものをたぐり寄せる鍵が。自然と表情が険しくなっていく。 「汝三大の言霊を纏う七天――抑止の輪より来たれ、天びんの守り手よ」 そうして極光が走る。光は一瞬のうちで白煙となり、そんな中漂う存在が一人。だがそれは、僕達の予想を裏切るものだった。 金髪翠眼で、薄い装甲を纏った……小柄な女。そう、女だ。長い髪を後ろで編みこみ、ひとまとめにしている。 嘘、だろ。偉人の中には性別を偽っていた者も多いが、まさか……よりにもよって騎士王が。 「問おう」 その柔らかくも凛々しい声で確信する。間違いない、こいつは。 「あなたが私のマスターか」 騎士王アーサー・ペンドラゴン――セイバーは、年端もいかない少女だった。なんという事だ。 こんな少女に国を、民の命運を背負わせていたというのか。そうして『英雄』を……! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 一九九七年の夏休み――うちにシグナムさん、シャマルさん、ヴィータ、ザフィーラさんという同居人が増えました。 そして魔法がちょっとだけ使えるようになりました。なので両手を上げ、『やったー!』のポーズ。 みんなにお姉ちゃんを任せ、僕は僕で隣の市へ冒険にやってきた。そこは冬木市というところで……なのに、どうしてだろう。 夜遅くなってしまい、転送魔法で家に帰ろうと思った。でもたまたま通りがかった民家から悲鳴が響く。 更に恐怖に近い気配が振りまかれていた。あとはそれを楽しむ、ゲスな感情。嫌な予感が走り、ドアを蹴破り突入したところ。 「……なに、これ」 薄暗いリビングで倒れている男女、更に脇には縛られて震えている男の子。年は僕と同じくらい。 二人の血と思われるもので、魔法陣らしきものが描かれていた。……やったのは、女性の脇にいる男か。 オレンジ髪の細身で、見るからに目がやばい。つい体が震えてしまう。 「あららー、いけない子だなぁ」 ソイツはまだぴくぴくと震える女性から離れ、血まみれのナイフをこちらに見せ近づいてくる。 「正義のヒーロー気取りかな? お嬢ちゃん」 その言葉でまた体が震える。それを見て、犯人はけらけらと笑った。 「しょうがないなぁ、じゃあちょっと静かに」 伸びた左手をするりと避け、懐へ入りながら左手で男の手首を掴む。そうして強化魔法発動――一気に握り潰した。 「僕は」 「ぐ……がぁ!?」 「男だっつーの!」 そのまま右薙に振るわれる刃を伏せて避け、跳躍。一気に身を翻し、男の顔面に右足で蹴り。 鼻っ柱を砕きつつ、向かい側の壁に思いっきり叩きつける。その拍子にナイフが男の手から離れた。 着地した上で右手をスナップし、落ちてきたナイフの柄をキャッチ。ついた血に腹が立ちながら、ブレイクハウト発動。 火花が走り、血ごと物質分解――さらさらと粒子となって地面に落ちていく。 「なん、だよぉ。このガキィ」 犯人は立ち上がり、フラつきながら右手で鼻を押さえる。でもその血を拭いながら、拳を握り。 「痛いじゃないかよぉ!」 「そう、だったら」 『痛さすら感じないようにしてあげましょうか』 いきなり響いた女性の声で、僕達の動きが止まる。そこで血の魔法陣が淡く輝き始め、光が中心部で収束していく。 更に右手から痛みが走る。殴ったりはしてないのにと思いながら見て、体が震えた。 なに……この、赤いアザ。いや、アザっていうか魔法陣の一種に見える。 『うーん、久々にピンときましたよー! 私好みなイケメン魂♪ ではお邪魔虫には』 収束した光は女の人へ変化した。はだけた着物を着た、キツネ耳の女性。髪はピンク髪のボブロングで、それを後ろで二つ分けにしている。 厚底シューズみたいな草履で着地し、一本だけの尻尾をふらりと揺らす。そうして右手人差し指と中指を立て、犯人に向けた。 「消えてもらいます!」 その瞬間、犯人はあっさり氷漬け。あんまりの事で僕も、縛られている男の子もあ然。 それでも女の人はすっきりした顔で伸びをし、こちらへ振り返った。 「ふむ、状況から見るとあなたのようですね、イケメン魂。 ちょいーっと幼すぎますけど、その分私が一から十まで……きゃー☆」 キツネ耳さんは両手で頬を押さえて、もじもじし始めた。あれ、僕がおかしいのかな。なんか空気が凄くおかしい事に。 あ、でもこの人よく見るとすっごく奇麗。それにその、胸元が見えてて……大きくて柔らかそうだし。 「え、えっと」 「ご挨拶が遅れました。ではテンプレ通りに……あなたが、私のマスターですか」 「……はい?」 え、なにこれ……なんなのこれぇ! しかもこの人、人間じゃない! 久遠とかと同じ気配がしてる! 本当になんなのこれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ うちへ帰れなくなりました。だって殺人現場発見して、犯人捕まえたんだもの。でもお姉ちゃん、電話口で涙目になってたなぁ。 一応現場検証などにも付き合う必要があるし、今日は警察署の仮眠室で泊まらせてもらう事にしました。 警察の人は家に戻ってもと言ってくれたんだけど、家と距離があるから、朝早くはちょっと辛い。 とりあえず仮眠室へ入り、ベッドに倒れ込む。時刻は午後八時……やっぱり眠るには少し早い。すぐ起き上がり、ベッドに腰かけ。 「もう出てきていいよ」 声をかけると、誰もいない部屋の中で光が生まれる。それがあの時と同じように収束し、女の人となった。 「うーん、やっぱりただ者じゃありませんね。霊体化したサーヴァントの気配が掴めるなんて」 「で、どこ行ってたのかな。事情聴取を受けている間離れてたよね」 「あの子のところへ。……R18な光景を見せられて、トラウマ刻まれまくったでしょうから。 あとあと私の事も話されると困るので、頭の中をちょちょーいと」 つまり、記憶操作? さらっと恐ろしいワードを吐きながら、お姉さんは右手人差し指で側頭部をぐりぐり。 「あ、でもあなたは無理ですね。リンクして分かりましたけど、あなたはそういう操作術式は弾いちゃう体質みたいです」 「えっと、とりあえずあの子のフォローしてくれたのは分かった。でもお姉さん、一体」 「その前にこちらからまず質問を。あなたは魔術師ですか? 聖杯戦争へ参加する意思がある」 魔術師……聖杯戦争? 聞き覚えのワードなので首を傾げると、お姉さんが静かにしゃがみ込む。 ただ床に着物が触れるので、お姉さんの左手を掴む。そうして軽く引いてエスコート。 「隣、いいよ」 「ふふ、ありがとうございます」 お姉さんが笑って僕の左隣へ座る。……ちょうど胸に目線がいって、顔を逸らしてしまう。 「まず魔術師について説明を。魔術師は……そうですね、あなたのような異能を持った人達と考えてください。 魔力を用い、人為的に神秘・奇跡を再現するのが魔術。そんな魔術師は根源へ至る事がそもそもの目的……でした」 「でした?」 「最初はそうでも、時代とともに人の考えも変わる。まぁそういうお話ですよ。 そんな魔術師達の中で有名な『御三家』と呼ばれる人達が、聖杯戦争というものを始めました。 六十年に一度、あらゆる願いを叶える願望機がこの冬木市にて出現します。聖杯戦争は願望機――聖杯の争奪戦なんです」 それでお姉さんは両手を広げ、指を七本立てる。 「参加者は七人。その七人に一人ずつ、サーヴァントという使い魔が割り振られます。 クラスはセイバー・ランサー・アーチャー・キャスター・ライダー・バーサーカー・アサシンです」 「チェスの駒みたいに考えればいいのかな。クラスによって使える能力が違って」 「んー、ちょっと正確じゃありませんけど、今はそれでいいです。そのサーヴァントとともに、最後の一組が決まるまで殺し合います。 そんな最後の一組が聖杯を手にし、自分の願いを叶えられる。……とまぁこんな感じですけど、大体の事は」 「分かった。じゃあお姉さんはその、サーヴァントなんだよね」 「はい。サーヴァント・キャスターです。……でも、ご主人様って運がないんですねぇ」 あれ、なんで急に涙目? どうしていきなり涙を拭うのかな。 「私は性能的にピーキーで、直接戦闘もぜ〜んぜん駄目。ぶっちゃけ勝率低いですよ?」 「いつもの事だよ。でも、どんな願いでも……か。それで、殺し合い」 「えぇ。ただご主人様は予備知識など全くなく契約したっぽいですし、本格的に戦いが始まらないうちに辞退するのも手ですよ」 まぁ、確かにそれなら。でもそこでお姉さん――キャスターさんが寂しそうな顔をする。あぁ、そうか。 一組が手にし、自分の願いを叶えられるって言ってたものね。だったら、叶えたい願いがあるんだ。 僕が逃げれば、それは叶わない。もしかしたらとっても大事な願いかもしれないのに。 奇麗なお姉さんが悲しげなのは嫌で、つい踏み込んでいた。 「ねぇ、キャスターさん」 「呼び捨てでいいですよ、あなたは私のマスター――ご主人様なんですから」 「じゃ、じゃあキャスター、願いを叶えられるのはサーヴァントも同じなのかな」 「えっとそれは」 「正直に答えて」 「……はい」 「だったらやろう!」 立ち上がりガッツポーズ。するとキャスターが僕を慌てて止めてくる。 「ちょ、待ってください! 他のマスターとサーヴァント達も、自身の願いを叶えるため全力できます!」 「だからこそ殺し合い、なんでしょ?」 「そうです! ……そりゃあ、願いが叶えられないのは嫌ですよ? でもご主人様はあんまりに小さすぎますし」 「大丈夫だよ、見ての通り異能力が使えるもの」 「だから無理です! いや、マスターはともかくサーヴァントは絶対に! とりあえずほら、座ってください!」 キャスターに慌てて制され、ベッドに座り直す。 「まずサーヴァントはその、お察しの通り霊体です。そのため現代兵器は基本通用しませんし、魔術的な攻撃にも耐性があります。 ここはサーヴァントにより差がありますけど……あと身体能力も、通常の人間では相手にならないほど高いですし」 「……なにそれ怖い。チートじゃないのさ」 「だから言ったじゃないですかー! サーヴァントにはサーヴァントをぶつけるのが鉄則なんです! もう一つ言うと、だからご主人様は貧乏くじです! 私、ほんと直接戦闘はからっきしなんですから! なので」 「でもどうやって辞退すれば」 「そんなのは」 あれれー、キャスターが固まったぞー。てーか冷や汗流しながら、顔を背けたぞー。どういう事かなー。 「……あれ、どうすれば」 なんかとんでもない答えが返ってきたんですけど! うん、大体の事は察してたわ! このタイミングで動揺だし! 「ちょっとー!? じゃあどっちにしても勝ち残るしかないでしょうが!」 「いや、落ち着いてください! ど、どうしよう……あぁもう、こいー! 魔法少女的な電波よこいー!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 高台から冬木の街を見下ろし、その夜景に目を配らせる。いよいよ戦いが始まる。あの男と相対する機会も必ずくる。 今まで感じた事がないような高ぶりを押し殺し、背後に控えているアサシンへ命令。 「父より連絡があった。先ほど七人目のサーヴァントが現界したそうだ」 「では、いよいよ」 「そういう事だ。早速だがお前には遠坂邸へ向かってもらおう」 「と申しますと」 「お前なら遠坂邸の、要塞のような魔術結界も恐るるに足りないだろう」 その言葉でアサシンが小さな笑いを漏らす。当然だ、ようは……師の寝首をかけという話だからな。 現在遠坂邸には師の奥方、娘である遠坂凜もいない。隣接する海鳴市へ避難しているからな。 侵入さえできれば、サーヴァントと人間では地力も違う。そのままやれるわけだ。 もちろん師のサーヴァントもいるが、そこは問題ない。あぁ、アサシンなら問題ないんだ。 「よろしいのですかぁ? 遠坂時臣とは同盟関係と聞いておりましたが」 「それは考慮しなくていい。例えアーチャーと対決するハメになろうと、恐れる必要はない」 「三大騎士クラスのアーチャーを恐れる必要はないと」 「任せたぞ、速やかに遠坂時臣を抹殺しろ」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ マスターの言葉にうなずき、大きく跳躍。崖を飛び降り、着地し、風のように疾駆。一気に遠坂邸へ乗り込む。 兵を飛び越え、手持ちのダガーで各所に配置された宝石を破壊。センサー代わりのそれは、刃に貫かれ霧散する。 そうして安全に庭内へ着地。さて……問題は庭内中心にある、羅針盤によく似たオブジェだろうか。 そこに置かれた宝石を砕けば、波打つ魔力センサーは停止する。おもむろにそれへ近づき、笑ってしまう。 センサーはまるで水のように揺らめき、不規則に装置を守ろうとしている。それを踊るようにすり抜け、らせん状に移動。 なんと他愛ない。普通のサーヴァントならともかく、アサシンであるこの俺なら楽勝だ。 笑いながらオブジェへ近づき、慎重に宝石へと手を伸ばす。すると宝石に手を重ねた瞬間、鋭い痛みが走る。 光によって手が宝石ごと貫かれ、予想外の痛みで絶叫してしまう。手を見ると……どういう、事だ。 伸ばした左手はなぜか、銀色の刃――槍に貫かれていた。そうしてオブジェに固定されている。 「地を這う虫けら風情が」 十時方向を見ると、今度は感じ取れた。敵の姿を見る前に、空気を切り裂く音――それが着弾し、俺の周囲で次々と爆発。 なんだ、この威力は……いや、この槍は! これから漂う魔力は、宝具クラスじゃないか! 「誰の許しを得て、表を上げる」 射出されているのは無数の武器。剣や槍、斧……そのどれもが宝具クラスの威力。 それによって固定されていた左腕がズタズタに裂かれ、更に逃げるための足も斧の刃で断ち切られた。 そうしてあお向けに倒れながら見えたのは、金色の鎧を身にまとった誰か。顔は、よく見えない。 その背後にて幾つも展開している、黄金色の歪みが輝き、逆光となってしまっているから。 そして歪みの中から次々と武器が生まれ、それが射出されていく。馬鹿、な。これを……恐れるな、だと? マスターが一体なにを考えていたか、そこでようやく理解する。そうして迫る刃達に体を、頭を貫かれ、『俺』は死んだ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 真っ暗な書斎の窓から、なにもできず消えていくアサシンを見下ろす。しかし、無茶苦茶だ。 私が用意した聖遺物は、この世で初めて脱皮した蛇の抜け殻……その化石だ。それを用い、原初にして最強の王を呼び出した。だが。 「貴様は我(おれ)を見るに値せぬ。虫けらは虫けららしく、地だけを見ながら……死ね」 首尾は上々……と思っていると、右側に金色の粒子が生まれる。静かに立ち上がり、早速動いてくれた陛下へ礼。 「随分とつまらぬさ事に我を突き合わせてくれたな、時臣」 「恐縮であります。王の中の王――英雄王ギルガメッシュ。今宵の仕儀は英雄王の意向を知らしめるもの。 更に狩り落とす獅子がどれなのかを見定めるべく、今後に備えた露払いでございます。どうか今しばらくお待ちを」 「ふん……よかろう。まだ当面は、散策だけで無聊を慰められそうだ。この時代、なかなかどうして面白い」 「お気に召されましたか、現代の世界は」 「度し難いほどに醜悪だ」 はっきりと言ってくれる。英雄王はそれでも楽しげに笑うが。 「が、それはそれで愛でようもある。肝心なのは、ここに我の財へ加えるに値する宝があるかどうかだ。 もし我がちょう愛に値するものが何一つない世界であったなら、無益な召喚で我に無駄足を踏ませた罪は重いぞ……時臣」 「ご安心を。聖杯は必ずや、英雄王のお気に召す事でしょう」 「それは我が改めて決める事だ。……まぁいい、当面はお前の口車へ乗ってやる。この世全ての財宝は我のもの」 英雄王は左側――部屋の入り口に向かって歩き出す。神々しい金鎧が、かしゃかしゃと音を立てるので分かる。 「その聖杯がどういうものであれ、我の許しもなく雑種が奪い合うなど見過ごせる話ではないからな。時臣、委細は任せておくぞ」 そうして英雄王は金色の粒子となり、一瞬で霊体化。そこでようやく、張り詰めていた神経を多少緩められる。息を吐きながら、書斎机に座り直す。 「やれやれ……よりにもよって英雄王が、単独行動スキル持ちのアーチャークラスで現界するとは」 そのため、英雄王はかなり好き勝手に動いている。ただ私にはそれを制限できないし、手段を使うつもりもない。 今のように、王として敬意を払うだけで十分だ。そう、想定していたのだが……これも実戦というものか。 本来王の宝具には、あのような能力はない。宝具レベルの武具を射出し、強引にぶつけるなど……これが想定外二つ目。 しかしアーチャーとして現界した事で、あのような射出機能が追加されたらしい。もう一度言おう、無茶苦茶だ。 だが無茶苦茶な分、その能力は折り紙つき。あれに対応できる魔術師やサーヴァントはそういないだろう。 そういう意味でも首尾は上々。当面のところは綺礼に任せておけばいい。今のところは……予定通りだ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ こうして今へ続く駒は、冬木へ集っていった。そう、アーチャーことギルガメッシュを召喚したのは、遠坂時臣――遠坂凛、間桐桜の父親だ。 そして八神恭文もまた、その不運からキャスターを召喚していた。未だに姿を思い出せないという、魔術師を。 同時に正規の魔術師でもなく、貧乏くじに等しいサーヴァントを召喚してしまった彼は、とんでもない危機に立たされていた。 聖杯戦争の参加者は聖杯自身が決める。八神恭文は振り返ってみると、数合わせに等しかった。 しかしそれでも、サーヴァントを倒されたとしても、再度他のサーヴァントと契約する可能性もある。 令呪を賜り、戦線復帰する可能性もある。……ならば、確実に殺し脱落させるのが良策。これが不運でなくてなんなのだろう。 知識も、戦力もない。そんな戦火に飛び込み、勝つしか生き残る術がない。普通なら無理だ、即行で脱落する。 だが彼は……思えば、アレは一つの奇跡だったのかもしれない。純粋に出会えたサーヴァントの願いを叶えたい。 そして『英霊達と戦いたい』という自身の願いが、あの子を勝利者へと導いた。僕達大人は、そういうわがままに振り回されまくったわけだ。 あぁ、彼は英霊達と……もちろん僕達魔術師とも戦いたがっていたんだ。でもそれは殺したいとか、憎いとかじゃない。 試したかったんだよ、自分を。自分より遥かに格上で、凄まじい偉業を成し遂げた英雄達。 そんな英雄達と凌ぎを削り、知恵を比べ打ち勝つ。一生に一度、あるかないかの不運をチャンスと捉えたんだ。 完全にイカれている。頭がおかしいと言われたら、全く否定できない。僕もアイリから聞いて呆れたものだ。 でも……今、君はどうしているのかな。あの時と同じように、これもチャンスと捉えているのか? さすがに、難しいかもしれないが。 だが勝手な期待として、そうあってほしいとも思う。不謹慎かもしれないが、それくらい前のめりであったなら……もしかしたら。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ……デジタルワールドに訪れた私とセシリア達。セシリアとガオモンを一乗寺に任せ、更識会長ともども紋章のある場所へ。 やってきたのはいいが、待ち受けていたのは予想外なアルティメット。さぁどうしたものかと悩んだ結果。 「――ではこうしよう。私は紋章を見つける、お前は私をここで待っている。それなら問題あるまい」 『まぁそれなら……で、いつ戻ってくるんだ』 懐からH&K HK69を取り出し、速射。……HK69はドイツが誇るヘッケラー&コッホ社開発のグレネードランチャー。 銃身長三五六mm、口径四〇ミリの中折れ単発式。重量は二.六キロ、銃口初速秒速七五メートル、有効射程は五〇〜三五〇メートル。 その大型砲弾が放物線を描きながら、タイミングよくクリスタルに着弾・爆発。荒れ狂う炎と衝撃は気にせず、次弾を素早く装填する。 『答えろよ! 戻ってくるつもりがねぇのかよ、お前! というかなんで三発目を撃った! いや、痛くないけどね!? 全然痛くはないけどね! でもおかしいんじゃないかなぁ、これ!』 「馬鹿者! 物事に天丼――繰り返しは大事だと言うではないか!」 『あれ、なんで俺は叱られてんだ!? 俺なんにも悪い事をしてないよな! そうだよな、俺は間違ってないよな!』 「というかお前……そうか、ぼっちか。ならまずは友達になりたいと声をかけるところからだな」 『うるせぇよ! あー、分かった分かった! あなたと友達になりたいですー、だからデッキを受け取ってくださいー!』 「そうか。では(うったわれるーものー♪)を出せ」 するとなぜか、アイツは黙り込んだ。なのでHK69を仕舞い直し、安心させるように笑う。 「大丈夫、私も女だ。遠慮する事はない」 『俺が女って決めつけるの、やめてもらえます!? え、ていうか……は?』 「なんだ、意味が分からないのか」 『ごめん、全く分かんない!』 「気持ちはよく分かる。これは副官のクラリッサが先ほど教えてくれた、衝撃的な事実だ」 絆……絆を作るためにはどうすればいいか。無理に信じるよう強要するのも違う。しかし兄さんの希望は一緒に叶えたい。 それをクラリッサに相談したところ、とんでもない事実が判明した。まさか、嫁以外にそんな事をしなくてはいけないとは……! 「日本では友達になる時、(俺達うったわれるーものー♪)を触り合うものだ。 残念ながら私には(へへいへーい♪)はないが、それでも(らんららんらーん♪)を触るだけでもいいらしい。 それがともだち(へへいへーい♪)だ。だから出せ……貴様のち(らんららんらーん♪)を!」 『その副官、すぐクビにしろ……!』 「ちょっとなに言っているか分からんな」 『分かんないのはてめぇなんだよ! アルティメットをなんだと思ってんだ! てめぇはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』 「友達になりたいと言ったのは貴様だろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 そして私達は、無益な言い争いを続ける。く、これが試練……絆の力を掴むため、乗り越えなければならない壁という事か。 だが兄さん、待っていてくれ。私は……あくまでも義妹として、兄さんのも……これが絆だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 「ふん、まぁいいだろう……こい! アルティメット・ダークヴルム・ノヴァ!」 『いけねぇよ! てーかここまでゴネといて、素直に行くと思ってんのか!? お前は!』 「空気を読めない奴だな」 『うわぁ……! 一番言われたくねぇ奴に言われちまったよ!』 「そうか、では仕方ない」 まぁ当然の事なので、疑った自分も悪いと反省。まずは侵入を試みる……やっぱ邪魔だな。なんとかすり抜けられないか? これ。 『そんな手間は必要ないだろ! 俺に触れよ! それだけでいいだろうが!』 「そうか。では」 どこからともなく取り出したのはロックドリル。それをクリスタルに当て……エンジン始動。 そうしてガリガリとクリスタルを削り始める。おぉ、さすがはクラリッサおすすめの作業用機械、いい駆動だ。 『待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! てめぇなにしてやがる! てーかどっから出した! お前の体より大きいだろうが!』 「お前が触れと言うから」 『削れとは言ってねぇだろ……ん!?』 そこでクリスタルが輝きを放つ。慌ててさく岩機ごと引くと、奴はクリスタルごと凝縮。 紫のデッキケースとなり、こちらへ飛来してくる。とっさに左手でキャッチしてしまったが……ふむ、スッキリしたのはいいが少し困ったな。 「お前、なにをしている。私は触ってなどいないぞ」 『さく岩機を使ったせいだろうが! てーかお前はどんだけ俺を疑ってるんだよ! 罠じゃないんだよ、ブレイヴピオーズとも繋がってねぇよ!』 「犯罪者は皆そう言う。……まぁいい、もしそうなら遠慮なく削るだけだ」 『カードにさく岩機をかけようとするなよ――!』 「ところでお前、ち(しゃららー♪)はどこだ」 『お前いい加減ぶっ飛ばすぞ!?』 小首を傾げながらも、さく岩機を担いで問題の場所へ。決して長くはない階段を下りると、そこはパネルが敷き詰められた小部屋だった。 行き止まりで、これ以上進めないか。問題があるとすれば……全てのパネルに、紫の紋章らしきものが埋め込まれている事だ。 「ここは」 『俺を呼び寄せた紋章の保管場所だ』 「……おい、どれが紋章なんだ」 『分かんね』 なのでデッキケースから奴のカードだけを取り出し、床へ置く。その上でさく岩機を持ち上げ。 「呼び寄せたのなら、分かるはずだろうが。答えないなら射殺する」 『嘘じゃねぇよ! あと射殺じゃねぇし! ……お前だって分かってんだろうが。タグもこの全てが本物だと反応してる』 「まぁな」 アルティメット・ダークヴルム・ノヴァを拾い上げ、デッキケースに戻す。……なおカードはコイツだけではなかった。 見た事もないカードもあり、かなり貴重なもの達だと分かる。まぁ、油断はできないが。 とにかくタグは『ここ』だと反応している。だが……その示す光は、部屋全体を指していた。 おかげで今、首元にライトをかけているような状態だ。おぉ眩しい眩しい。 「一つ一つはめるしかないか」 『……つまり、お前は自分の『心』すらすぐに理解できないわけか』 ……そこで十二時方向・十メートルほどの位置に、紫の歪みが生まれる。それは渦を巻きながら凝縮し。 「お前は……!」 「随分と情けないなぁ、私?」 こちらをあざ笑う『私』となった。ふ、そういう事か。さすがは試練、一筋縄ではいかないと汗がにじむ。 「最近の鏡は高性能なんだな。つまりここは……は、マジックルームか!」 『んなわけあるかぁ!』 「あぁよく分かったな。お前に紋章の在りかが見抜けるかな? この無限地獄からは誰一人脱出できない!」 『趣旨が変わってんだろうが! おい、ツッコミ……誰かツッコミはいねぇのかぁ! 鏡なんてどこにもないんだぞ!』 「まぁ冗談はここまでとしよう。ようこそ、私……迷いの間へ」 『いや、冗談じゃなかっただろ。限りなく本気だったろ、お前』 「ここでのルールを説明しよう。紋章を取れるのは一度だけ……もし偽物を取ってしまったら、その時点でこの部屋は崩壊する」 「なるほど、では」 さく岩機は仕舞い、こういう事もあろうかと用意していたC4を次々取り出す。支柱などはないし、まずは壁に配置するか。 『……おい、なにしてんだ』 「決まっている。C4で部屋を破壊し、その上でじっくり紋章を探す」 『お前なに言ってんだぁ!? ていうかおま……どんだけ荷物を持ってきてんだよ! 質量保存の法則すらガン無視か!』 「乙女のたしなみというやつだ」 『怖いな、現代の乙女!』 「ふ、そうくると思って崩壊手段にも手を加えていた。いわゆる亜空間的なサムシングへ飛ばされるので、AICだろうと止められんぞ」 なん、だと……! そんな馬鹿なと思うが、私は私を見て、当然だと笑っていた。 『なんでてめぇも予測してんだよ! おかしいだろうが! 予測できないだろうが、こんなぶっ飛んだやり方!』 「く……さすがは私、私の事は知り尽くしているわけか」 「当然だ」 『……なんだ、この不毛な打ち合い』 「では致し方あるまい」 しょうがないのでC4も仕舞い、ライフカウンターを取り出し奴に向ける。この状況……手掛かりとなるのはやはり奴。 どうなるかと少し不安だったが、奴も笑ってライフカウンターを出してきた。 「どれが私の紋章か、お前は知っているのだな」 「当然だ。私はお前より『私』を知っている……例えば、体についての不安か?」 「……そのようだ。では」 痛いところを突かれながらも、戦う気持ちを定め。 「「ゲートオープン、界放!」」 バトルスタート――光に包まれ、紫白のアーマーを装備しながらエクストリーム・ゾーンへ。 白と黒のら旋となり、私達はぶつかり合いながらもバトルフィールドに降り立つ。 だがフィールドは、各所にモザイクらしきものがかかり、景観は独特。ふだんのものとは大きく違っていた。 「……デジタルワールドでも、ゲート展開できるとはな」 「エクストリーム・ゾーン、及び現代のバトルフィールド、それについてのデータも流れこんできた影響だ。 少々イビツではあるが……私に勝てば、どれが私の紋章かを教えてやる」 「いらない世話だ」 『「は?」』 「私の心と言ったな、貴様は。ならば……私が自力で見抜けるという事だ。しかし今の私には決定的に欠けているものがある」 ボードを踏み締め、まずは手札形成。ふむ、今回は新しいデッキか……まぁ、なんとかなるだろう。 「このバトルで見極めさせてもらうぞ、私よ」 「ふふ……さすがは私と言ったところか。いいだろう、まずは自らの闇を知り、絶望するといい」 「望むところだ」 ……私の読みが正しければ、コイツの突きつける闇や絶望を超える事で、本当の紋章が分かるだろう。 そしてそれについては、察しもついている。さっき、丁寧にもヒントを出してくれたからな。 紋章は私に問うているんだ。本当にこの状況で、私に戦う理由があるのかと。いや、デジタルワールドそのものかもしれない。 私にはある。どれだけ御託を並べようと、一夏の作る新世界を受け入れる理由が。今まで逃げ続けていた『絶望』が。 あとは私が、その迷いを振りきれるかどうか。きっと……それだけなのだろう。 (第125話へ続く) あとがき 恭文「というわけで……今回は趣旨を変えて回想。第四次聖杯戦争の始まりだけど、同人版のFate/Zero編でやったとこだね」 フェイト「ま、まぁ導入部だし、あんまり変えられなかったけど」 (せいぜいバトスピ絡みの話くらいで……でもセイバーの事もあるし、どうしても必要) 恭文「というわけで次回からは第三クール……OPも変わってラストへ直進。お相手は蒼凪恭文と」 フェイト「フェイト・T・蒼凪です。でもヤスフミ、飛行機が……というかそんなにひどい状況なの!?」 恭文「モラルや人道的ってのが、平穏の中で守られているものだというお話だよ」 (もちろん許される事ではありませんが) 恭文「あ、それで補足を八神の僕やら遠坂時臣はちょっと勘違いしていますけど、ギルガメッシュの宝具射出能力」 フェイト「うん」 恭文「あれはアーチャークラスでの召喚とか、関係なしっぽいです」 フェイト「え!? で、でも……ほら、劇中で!」 恭文「あれね、エルキドゥとやり合った時、編み出した技法らしいのよ。 ただほら、劇中ではギルガメッシュ本人が喋ったりしない限り分からないから」 フェイト「あぁ、それで」 (とまとではちょくちょくある、情報が出ないゆえの細かな誤解です) 恭文「そして最後は現代へ戻り、ラウラ……対じするはもう一人の自分。そしてすっかりツッコミ役なアルティメット・ダークヴルム・ノヴァ」 (イメージ:CVは阪口大助さんです) フェイト「……なんでそっちにいっちゃうの」 恭文「ツッコミと言えばやっぱ新八だしねー。とまとのツッコミキャラは数あれど、新八は未だにナンバーワンを譲らないレベルだし」 (そりゃあ譲らない。でも津田タカトシが淡々と追い上げています。あとは土方さんとか) フェイト「……というかヤスフミももっとツッコもうよ。最近ボケる事が多すぎるような」 恭文「え、どこが?」 フェイト「そういうところだよ! うぅ……お仕置きだよ!? お仕置きだからー!」 (ぽかぽかぽかー。 本日のED:仮面ライダーGirls『UNLIMITED DRIVE』) 恭文「ちなみにラウラは、拍手世界準拠なら桂さんと組み合わせたら最凶です」 あむ「それ、同人版で二回くらいやって作者さんが『駄目だ、処理しきれない!』って痛感したやつじゃん!」 恭文「ボケ倒すしかないからね、あの二人が絡むと。ツッコミが間違いなく追いつかないし」 銀さん「……だが妙に仲いいんだよな。余計に手に負えねぇぞ。 ところでやっさん、どこ行くんですかゲームで楓さんと……てめぇはぁぁぁぁぁぁぁ!」 恭文「今更そこですか!? あと楓さんにはなにもしてませんって! そもそも拍手世界だと、火野の僕とお付き合いしてるし!」 あむ「前にも言ってたよね、それ。でも……ば、馬鹿じゃん!? なんでいきなり別府とか行っちゃったのか分からないし!」 恭文「僕も未だに分からないよ!」 (おしまい) [*前へ] [戻る] |