小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説) Battle121 『Zに至れ/世界を我が手に』 ただ一人、京都の山道を降りていく男がいる。当代風の衣装を身にまとうそれは、ただ歩いているだけなのに王の風格をまき散らす。 誰もいないというのに、その風格は周囲に敬服を強いていた。今踏み締めている土――構築されている砂粒の一つ一つに。 歩き切る風のひと凪に、それで揺れる枝葉の一本一本に、差し込む日の光に……そう、世界そのものがあの男に畏敬の念を送る。 だが男は足を止め、忌々しげにこちらへ振り返った。 「征服王、貴様……いつからのぞき見が趣味となった」 「そう言わんでくれ。タイミングをすっかり逃してしまってなぁ」 頭をかきながら木陰から出ると、奴は鼻を鳴らしながら余を値踏み。いやいや、嘘じゃないぞ。 この状況で登場するのだから、劇的な感じで……なぁ? そのタイミングを逃しただけなのだ。 「しかし、お前さんも随分優しくなったものだなぁ。一かけらも本気を出してないだろ、例えば紫のカード……とかな」 「当然だ。我はただ巫女どもの価値を見定めただけ……なぜ本気になる必要がある。それは巫女が一番分かっているはずだ」 相変わらずの在り方だな、英雄王。否定もせず、ただその驕りが当然だと笑う。しかし、なればこそ英雄王は英霊足りえるのだろう。 ……英雄王のデストロイアデッキ、あの動き方は基本だが本領ではない。あのデッキは紫のカードを絡めさせる事でより高みへ至る。 ほれ、自身の破壊を条件に効果発動するカードも多いだろ。デストロイア(完全体)みたいにな。 しかし英雄王はそれを出さなかったわけだ。本当にあの巫女の真価を見定め、裁定を下すためのバトルだったわけだ。 「もちろん」 「恭文も、だな」 「あの雑種……もう少し有象無象に染まっているかと思えば、全く成長がない。おろかしい破壊者のままだ」 「あぁ。それに忘れていても、余との約束は守ってくれたようだしな。三人もしゅごキャラを生んでいたとは、行幸だった」 「……なら、なぜ顔を出さなかった」 おいおい、殺気を向けるな。これでも余はいろいろと考えて……いたんだがなぁ。結局二の足を踏んでしまった。 恭文の前に出た時、恐らく余は黙っていられなくなる。それはキャスター達の望むところではあるまい。 顔を見るまでは大丈夫と、思っていたんだがなぁ。この征服王イスカンダル、少々『おじさん』になってしまったようだ。 「改めて見て確信した。余が恭文の前に出る時……それは恐らく、恭文に再び問いを投げかける時だろう。 ……今は変わらず、突き抜ける姿が見られただけでよい。変わろうとあがく姿が見られただけで、それだけでな」 「まぁ、好きにするがよい。我も好きにさせてもらう」 「もちろんだ、英雄王。この世界はその果てまで余すところなく、貴公の庭。 しかし忘れるな、いずれ全ては余によって征服されるものだと……決着は」 「魂の闘争で……待っているぞ、征服王」 英雄王はまた、世界の敬意を受けながら歩き出す。それを見送り、ここからでは見えないというのに、恭文と若人達がいる方を見やる。 恭文、お前は自分の夢をちゃんと見つけ、育てているようだな。それは安心した……が、まだ貴様は王となっていない。 そのままでは九年前に否定した、セイバーのようになるぞ。だがまぁ、それについては大丈夫と確信している。 お前が待ち受ける『絶望』と向き合い、それでもと立ち上がれるなら……いいや、立ち上がってくれ。 夢を、希望を見つけたのならば、次に見つけるべきは同志だ。心を一つにし、立ち向かえる真の同志……でなければ、やり切れんのだよ。 立ち上がれないなら、お前が駆け抜けた戦いの日々も、キャスターとの出会いも、全てが無に帰するのだから。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 京都の雨……まるで戦いの熱を冷ますように、その前兆は空に暗雲として広がり始めていた。 その下でされた、四十番絡みの話は余りに衝撃。まだわたくしは知らなかった、なぜ恭文さんがあそこまで動揺していたのかを。 『元々そのスイッチは、僕達が暮らしている世界の仮面ライダーが使っていたものだ。ただとても大きな戦いがあってね。 スイッチの大半がエナジー切れを起こしちゃったのよ。だからエナジー補充も兼ねて、こっちへ運び込んだんだけど』 雨が降る前、四十番のスイッチを使いこなせないという衝撃の事実がなぜか、それをオフィウクス・ゾディアーツは語り始めた。 【ここまで三十番以降のスイッチがエナジー切れだったのは、そのせいってわけかい?】 『後半のスイッチは特に消耗が激しかったから。でも今見た限りなら大丈夫。 あと一日もここにいれば、コズミックエナジーも十分補充できる。数日もしないうちに全部のスイッチは復活するよ。 でもひとつ警告。おのれが四十番の本質を理解できず、ちゃんと発動させられない場合……スイッチは爆発する』 「……爆発ぅ!?」 「なんですって!」 『安心していいよ。爆発と言っても安全装置みたいなもので、変身者が怪我を負う事もない。 スイッチ本体も少しの間使えなくなるけど……とりあえず、練習は部屋の中とかじゃない方がいいね。小規模ではあるけど、やっぱ危ない』 それで恭文さんは明らかに安どの表情。しかしそれは危機感に染まっていた。……やっていましたの!? それにも驚きだけど、爆発って。それだけで四十番のスイッチが、それまでのものと異質なのは分かる。 エレキスイッチの時も違う。そうでなければ改めて、『爆発する』と言う事はない。 でもどうして……恭文さんはエクストリームの影響で、異能を受け入れるキャパが途方もないはず。それならば。 「……なるほどね。そこも込みだから、またややこしい言い方をしてると」 「というかまどろっこしいぶ〜ん! ちゃんとはっきりすっきり言うぶ〜ん!」 「簡単だよ。僕がみんなを信じられないと、四十番のスイッチは絶対使えない」 『正解。同時にみんなもおのれや他の部員達を信じられないなら……やっぱりアウトだ』 「は……!」 『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』 それは余りに予想外だった。でも先ほど、オフィウクス・ゾディアーツが言っていた事を思い出す。 力は受け入れられる、でも人はどうかと……でも分からない。人を、わたくし達を信じる事がなぜ、スイッチ発動のキーに? だからこそ続く話に衝撃を受けた。わたくし達が一体なにを試され、なにを失ったのか……それは、わたくし達の罪でもあった。 バトルスピリッツ――通称バトスピ。それは世界中を熱狂させているカードホビー。 バトスピは今、新時代を迎えようとしていた。世界中のカードバトラーが目指すのは、最強の称号『覇王(ヒーロー)』。 その称号を夢見たカードバトラー達が、今日もまたバトルフィールドで激闘を繰り広げる。 聴こえてこないか? 君を呼ぶスピリット達の叫びが。見えてこないか? 君を待つ夢の輝きが。 これは世界の歪みを断ち切る、新しい伝説を記した一大叙事詩である。――今、夢のゲートを開く時! 『とまとシリーズ』×『バトルスピリッツ覇王』 クロス小説 とある魔導師と閃光の女神のえ〜すな日常/ひーろーずV Battle121 『Zに至れ/世界を我が手に』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「というかまどろっこしいぶ〜ん! ちゃんとはっきりすっきり言うぶ〜ん!」 「簡単だよ。僕がみんなを信じられないと、四十番のスイッチは絶対使えない」 『正解。同時にみんなもおのれや他の部員達を信じられないなら……やっぱりアウトだ』 「は……!」 『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』 それは余りに予想外だった。でも先ほど、オフィウクス・ゾディアーツが言っていた事を思い出す。 力は受け入れられる、でも人はどうかと……でも分からない。人を、わたくし達を信じる事がなぜ、スイッチ発動のキーに? だからこそ続く話に衝撃を受けた。わたくし達が一体なにを試され、なにを失ったのか……それは、わたくし達の罪でもあった。 「る、るごるご!? るごー!」 『そう、三十番まではそれでよかった。でもね、宇宙……その力であるコズミックエナジーは余りに広い。 たった一人の強者だけで背負えるものじゃないのよ。それをおのれらはドイツで教わったはずでしょうが』 「あ……!」 そこでようやく、なぜグリーンカードの話をしたのか、なぜ今の段階では駄目なのかを悟る。 オフィウクス・ゾディアーツがあの時なにを狙って、なんのために攻撃を仕掛けたのかも。 ……あれは、ストレスだったんだ。わたくし達が閉鎖環境化で揉めたのも、予め決められた事だと聞いている。 作業を邪魔するよう指示出しされていたメンバーがいて、それで疑心暗鬼や強いストレスを生む。 それでもなお目的のため動けるか、不信感を全員の力で拭えるか……そういう力を試すものだった。つまりわたくし達はあの時。 「教官が四十番のスイッチを使いこなすなら、全員の信頼が……絆が必要なる? どんな状況でも、信じ抜いて突き抜ける強さがなかったら」 「では貴様は恭文……いや」 ラウラさんは首を振り、いら立ち気味に頭をかく。それでも逃げずに、真っすぐオフィウクス・ゾディアーツと、罪を突きつける者と向き合った。 「我々がスイッチを使いこなせるかどうか、確かめたかったわけだ。それもあの段階で……十番だけの話ではなく」 『そのためには不意のストレスをかける必要があった。もしかしたら絶晶神への切り札になるかもしれないし、ここは必要。 それでどうするかと考えた結果がアレだよ。グリーンカードみたいにね』 「グリーンカード……閉鎖環境試験における指示カード。わざと作業を邪魔して、そのプレッシャーによる反応を見るっていうアレね。 ……ははーん、大体察しがついたわ。そのドライバーってのは試金石。八神くん達がこの面倒に立ち向かえるだけの力があるか、試す意味もあったと」 『駄目そうなら危ないし、僕なり仲間うちでなんとかするつもりだった。 さすがにローストヒューマンになって、人生を台なしにされても困るし……おのれらの事も、守る必要があったしね』 「わたし達を? え、それどういう事かな。イチカの事は知らなかったようだし、それ以外に理由が……ヤスフミが特異点って言うのだから」 『まぁそんなところ。時間が壊れた場合、特異点が再生の鍵となる。人の記憶こそが時間だから。 ……で、そんな特異点がこの状況に複数絡んでいる。それが時間の完全消滅を防いでるんだよ』 「……ダブトの僕だね。いや、お前もかな」 恭文さんが軽く挑発すると、オフィウクス・ゾディアーツは肩をすくめて応えた。 『ただ一つ言える事は……フォーゼは単なる変身アイテムでもなければ、元から仮面ライダーってわけでもない。 そんな広い宇宙を――可能性という名の力を掴む、星の道へのチケットなんだよ』 「星の道への」 『でも今のおのれらじゃ駄目だ。さっきのバトルでもよく分かった……バラバラで、絆なんて欠片もない』 それはテストに失格した事を意味する。しかもさっきのバトル……あぁ、そういう事ですか。 自覚のないギラモンを見やる。ギラモンはまだ虚勢を――信頼を失うばかりの愚行を続けていた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ はい、大正解です。でもね、それだけじゃないよ。この一年後、おのれらは再び世界の危機に立ち向かう。 そんなおのれらになにかあっても大問題。歴史が丸々変わっちゃうもの。だからね、僕達の仕事はもう一つ、大事な事が付け加えられていたのよ。 八神恭文が部長を務める、非公式IS学園バトスピ部のメンバーを守る。フォーゼドライバーは現状を確かめるためにも、もっとも適したアイテムだった。 それで駄目そうなら、こっちの手管でなんとか動くつもりだった。実際はそこまで末期的じゃなかったけど。 なによりフォーゼドライバーってところは、もっと別な理由もあるんだけど……しかし駅長もまた、内緒事が多いものだよ。 実を言うとあの襲撃によるグリーンカード、駅長の指示なのよ。うん、実は僕だけの勝手じゃなかった。 歴史を『正しい形』で進めるためには、必要な事だって言われてさ。さすがに無茶なアイディアだと思ったら、駅長からOKが出てびっくりだよ。 しかもダーグにも、飛燕さんにも……ターミナルにいる真達にも内緒だって言うんだから、更にびっくりだよ。 相談もしていないうちだから、よりびっくりして……おかげでごまかすのがどんだけ大変だったと? しかも僕達が介入し続ける事は確定っぽかった。この件で足を止める事も絶対にできない。 だから『悪手打ったー!』ってヘコんでいたダーグを、悪魔の証明まで持ちだしてでも引っ張ったわけで。 ……あのままじゃダーグは遠慮して、止まるところだったしね。止まらないとしても、中途半端に右往左往していたかも。 それじゃあこの戦いは勝ち残れない。それは今まで脱落していった奴らを見れば、よく分かるじゃないのさ。 現にギラモンもそうなりかけている。でも……前にも言った通り、僕や真達を巻き込んだ事、相当気に病んでたから。 同じ事をしたんじゃないかって、それはもうさ。ダーグは豪放そうに見えて、実はとても繊細。 無茶苦茶なところがあるのも、相手の心情や状況に気づかえるからこそだよ。ノリも大事と分かっている、いい大人だ。 でもおかげで僕、ド外道の火野だよ。ホント嫌になっちゃうというか、なんというか。 ……なおその時はどうしてOKなのか、教えてもらえなかった。相当聞いたんだけどねぇ。 まぁフォーゼドライバーの力を引き出してほしかったし、僕的にも無茶そうなら飛び込ませたくはなかった。 特にこの世界の箒だ。分岐点の鍵……その一つである事はかなり最初から分かってたし、絶対に守らなくちゃいけない。 そう、守らなくちゃいけない……だから最初に敵として出て、第三者的な動き方をここまで続けてきた。 そこで箒のためにばっか動いてたら、相手方に感付かれる可能性もあったしねぇ。分岐点ってところは抜いてもだよ。 相手はスーパー大ショッカーについて知ってたし、実際の流れもアレだから意味なかったかもだけど。 とにかくその時は、そういう事情も込みでOKしたんだけど……今なら分かるよ、駅長がそう言った理由。 やっぱり元の歴史絡みを知っていたから。僕とダーグの存在もまた、この時間では必然だったわけだ。 少なくともスーパー大ショッカーが一斉蜂起する時点までは把握していたし、疑問に思う事はない。 あとはもちろん……そうだよ、イビツの秘密調査だよ! あれで織斑って名前も出ていたからだよね! ちなみに僕とダーグが関わった時、織斑一夏という存在は……正直よく分からなかった。 そこについては詳しく聞いてなかったし、調べられる状況でもなかった。もちろん深くツッコめる感じでもなかった。 だから……駅長が秘密調査について黙っていたのも、ある意味当然だった。人が犯罪者になる未来が示されているわけだよ。 しかもそれが必然で、別世界でも僕の友達と同一個体となれば……でも経過が分からない。 ターミナル側で把握していたのは、織斑一夏が犯罪者になるという結果だけ。星鎧については分からなかった。 そうじゃなかったら、さすがに伝えるでしょ。現状の追い込まれ方はヤバいの一言だし。 もし経過も分からない状態で結果だけを変えようとしても、アトラクタフィールドの収束が発生。 この時間はめちゃくちゃになる。ただでさえ線路が消失している状態だ、修正なんて不可能だと思った方がいい。 というか……経過が分かった今だからこそ言える、『ライアー・サマンワ』の誕生は不可避だ。 ブレイヴサジタリアスの内包というフラグを取り除かない限りは……スーパー大ショッカーを根っこから消し去らない限りは。 方法があるとすれば、織斑夫妻がブレイヴサジタリアスを見つけないよう介入とか? そこで思い出すのは、梨花ちゃんの事。 梨花ちゃんは一連の事件解決後、ちょっと事故に遭って……ひと月ほど寝ていた時がある。 その時見ていたという『夢』……三四さんが集めていた、お子様ランチの旗が全て揃った世界。 罪も、痛みも、惨劇や喜劇もない世界。それは恐らく、ライアー・サマンワが目指す世界にとても近い。 だから自然と関連付けていた。そんな世界は確かに、どこかであるのかもしれない。だけどこの世界はそうならない。 罪と痛み、惨劇と喜劇が入り混じった混沌……それを背負った上で、世界は前に進む。 それを根っこから変えるのは大量虐殺であり破壊、とんでもない危険が伴う。そもそもブレイヴピオーズはどうするのかって話もある。 ISそのものの存在にも関わるし、それで歴史がどう変革するかも読み切れない。ただそうして考え、一つ思い当たる。 というか、どうして気付かなかったんだろうって話だ。駄目だねぇ、部活メンバー失格だわ。……これはあくまでも、僕の個人的な考えになる。 伝えるべきかどうかは迷うけど……これも希望と信じて、賭けてみよう。僕もそこの黒子さんと同じだ。 経緯や流れはどうあれ、とっくにみんなへ賭けてるんだよ。それも、全財産を失う勢いでだ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ……とか考えているのだろう。僕だけでなく、セシリア達も守るとなれば……後々なにかあるんだよ。 もう一度このメンバーが集まって、戦うような事態が。そこでこの、別世界の僕も関わっていく。そう、目の前にいる奴がだ。 スーパー大ショッカーが潰れた時間はちょうど一年後だし、その時とかかな。でね、それなら介入理由も察しがつくのよ。 オフィウクス・ゾディアーツ……堕天龍も、『未来』の存在。そして消えてしまった時間に関わってしまった。 恐らくは人助けかなにかだ。だからこそ、時の運行を守るのは人助けとは違う……事になる。 最近めっきり見ない消滅現象も、自分達が介入した『未来』が消えてしまったから。 でも介入したという『過去』……事実は残っているわけで、そこから先に続く自分達の『未来』も危なくなっているのよ。 そして、そんな未来に織斑一夏はいない。少なくとも僕達と一緒に、堂々と大暴れって流れではない。 IS学園にも在籍していないし……そう考えるなら、ドイツでの出来事はまた違う意味を持つ。 歴史を歪めないため……つまり、『犯罪者織斑一夏』の誕生に必要な事だった。そうしなければ歴史が正しい形に進まない。 まぁ思うところがないわけじゃない。実際ショウタロス達も気づいて、かなり嫌そうな顔をしてる。 でもね、それを僕が責める権利なんてないわ。いろいろ事情込みとはいえ、僕だって『スーパー大ショッカー誕生』をよしとした。 根っこから破壊するという手は取らなかった。結局同じ事なんだよ……こういうのは、人助けだけで語れる問題じゃない。 『まぁ織斑一夏が向こうへついたのはしょうがないよ。星鎧の事を考えれば、どんな手を使ってでも引きこまれていただろうし』 「おいヤスフミ……!」 「いいのですか、このまま黙っていて。かなり勝手な言い草ですが」 「その通りでしょうが。僕か、アイツかの違いだけだ」 「そうだぞ、先輩達。やるならスーパー大ショッカーそのものを消滅させるしかない。……又は」 そう、ハルトの言う通り、そこには『又は』というのがつく。もしかしたら希望になるかもしれない一手だ。 『とにかく大事なのは、『みんなで解決を試みたか』どうか』 「……試みてなど、いない。私は恭文にも言われたのに……一夏にぶつかる事から逃げた」 「箒ちゃん……なに言うとるんや! コイツらの勝手な理屈を聞いたらアカン! 勝手に試されて、箒ちゃん達かてめっちゃ戸惑っていたやないか!」 「いいんだ、ギラモン……ありがとう。お前はいつも、私を守ろうとしてくれているな。だが、もういい」 それでもギラモンは落ち着かない。自分が戦犯だという自覚もなく、箒が頭を撫でて諌めても全く……それで反感を買っているというのに。 「落ち着いてくれ……今のお前は、去年の私と同じだ! 自分勝手な怒りで周囲を顧みず、妄想ばかりを追い求める! それでは駄目なんだ! お前は弱い……私も、お前も弱い! 一夏だって弱い! そこから始めなくてはいけないんだ!」 「嘘や! 箒ちゃんは強い! 強くなった……ワイかてあんな奴には負けん! そうやろ、みんな!」 「そうだね……わたしも、手を取り合わなかった」 「シャルロットちゃん!」 そう、人は弱い。だからこそ鍛え、強くなる……でも弱さは当然としても、時としてそれは罪になる。 だからシャルロットは自分の罪を、悲劇のヒロインだった『シャルル・デュノア』を振り返り、後悔の表情を浮かべる。 「ヤスフミね、わたしと箒に言ってくれたの。ちゃんと気持ちを伝えもせず、勝手に傷つくのは卑きょうだって。 ラウラみたいに真正面からぶつかりもせず、応えてくれるのを待つなんて……駄目だって。 なのに最後の最後まで逃げた。もしちょっとでも踏み込んでいたら、なにか変わっていたかもしれないのに」 「あたし達も当人同士がって言って、結局一夏に対してもアクションをあんまり起こしてない」 「えぇ……分かって、いましたのに。というかグリーンカードを受けた後でこれなんて、あり得ません」 「それは兄さんが我々を信頼し切れるかどうか……その一部分に大きく作用する」 『それだけじゃないよ。みんなが仲間として、チームとして、お互いを本当に信頼できるか。そこも試される』 「みんなまでなに言うとるんや! めちゃくちゃ仲よくなったし、信頼かてしとるやろ! なに反省ムード出しとるんや!」 「……それ、ギラモンが言うと激しく腹が立つぶ〜ん」 そして先般は吊しあげられる。同じデジモン達が……仲間が、自分に対して怒りを向けている事実。それをギラモンはようやく悟る。 「るごるご!」 「なんやお前らまで!」 「ギラモン、それは当然ですよ。……あなたは先ほど、シャルロットさんの勝利を信じていませんでした」 「はぁ!? ガオモン、なに抜かしとんのや! アレは……アレ、は」 「あれは、なんですか。……答えなさい、ギラモン!」 ガオモンの叱責で、ギラモンがようやく悟る。そして顔面から血の気を完全に引き、ガタガタと震えだした。 僕がバトル中言った事、自分がバトル中……いいや、金ぴかが出てきてからどう動いていたか。その全てを突きつけられる。 自分が……勝利を、仲間を信じようとしなかった自分がいるから、オフィウクス・ゾディアーツの言葉が真実になると。 「自らの怯えから逃げ、虚勢を張るためだけに、彼女にむしろ負けてほしいという態度を取っていた。 そしてあれだけ『リアルファイト厳禁』と言ったにも関わらず、恭文さん達に逆ギレ……そんなあなたを見て、誰があなたを信頼すると?」 「その通りだぶ〜ん! 恭文は……思い出したばっかりで自分も混乱してたのに、すっごく丁寧に説明してくれたぶ〜ん! それを信じないで、自分勝手な事ばっかりして……みんなの命も危険に晒し続けたぶ〜ん!」 「るごるご! るごー!」 「そ、それは……そやかて、アイツが一夏を殺す言うから! お前ら、プライドがないんか! 恭文以外は役立たずって言われたんやで! そんな事ない……できる事はあるって、踏ん張るのがパートナーやないんか!」 「待ってくれ、それは……それは私が悪いんだ! 私がギラモンをちゃんと止められなかったから!」 「もういい。お前が恭文を、オレ達の事を一かけらとして信頼していない事はよく分かった。 そしてそんなお前を、俺達は一切信じられなくなっている……つまりはそういう話だ」 ヒメラモンがまたキツい事を……そしてギラモンは両膝を突き、最近経験しまくりな絶望で打ち震える。 「や、恭文くん……その」 「残念ながらみんなの言う通りですよ。まぁ僕がギラモンを信じる云々は抜くとしても……おのれの行動が不興を買ったのは事実だ。 だからもう一度言う、そんなに言うなら一人で戦って、一人で死ね。僕達を金輪際巻き込むな」 「あ」 ギラモンは笑う。理解できず、理解したくないと現実を否定し、しかしガオモン達の冷たい視線に耐え切れず、混乱しながら叫びだす。 「……あぁぁぁぁぁぁぁぁ! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「ギラモン! 落ち着け……落ち着け、ギラモン!」 箒が抱いて、半狂乱なギラモンを諌めようとする。……さて、馬鹿にはいい感じにお仕置きできたので、話に戻るか。 「……ギラモン、あれはおれも、駄目だと思う。現にかんざしとか、いらってしてたし」 「し、してたかなぁ」 「してたぞ! 眼鏡の奥がギラーって!」 「滑稽よねー。仲良くしてるって言い張ってる本人が、一番輪を乱してるんだものー。アンタ達ももっと笑ってあげたら?」 「笑えるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ていうかなに、その教官と同じノリ!」 「失礼しちゃうわね! 私を八神くんと一緒にしないでよ! 死にたくなるじゃない!」 「どういう意味だよ、おのれ!」 話に戻ろうとしたけど、あかいあくまが誹謗中傷を……おかしい、そう思われるような生き方は一切してないのに。 「まぁ使いこなせないのはしょうがないか。元々仲間って言うには我の強い奴ばっかだもの。僕も含めて……なので一つ堕天龍とおのれにリクエスト」 『リクエスト? まぁ事情込みではあるけど、いろいろ迷惑はかけたし……カイなんちゃらかんちゃら以外ならある程度は聞くけど』 「……ぼかしてでも言いたくないのですか? その名前を。でも、恭文さん」 「しょうがないでしょ。僕達はともかく、箒の制止すらガン無視だもの。どうしようもないわ」 「恭文ぃ! やめてくれ……ギラモンだけが悪いんじゃない! だから」 「そう、ギラモンだけが悪いんじゃない。……ガオモン達もそこんとこ自覚しとかないと、駄目だよ?」 ついさっきそれで失敗したーって話をしたので、一応ガオモン達に念押し。すると怒り心頭だったみんなは、神妙な顔になって深く頷く。 「とにかくリクエスト。今すぐじゃなくていいけど、どうしても欲しいものができた。詫びと礼はそれでなんとかしてよ」 ≪……あなた、もしかして≫ 「さすがはアルト、よく分かったねー。うん、今すぐじゃなくていいんだ。でも一つだけ……無茶を言わせて」 正直許可してくれるかどうかは微妙だった。みんなが僕のお願いに絶句する中、オフィウクス・ゾディアーツは納得。 堕天龍にも直接お願いするけど、それでもこの場はお開き。……空模様も怪しくなってきたしね。 『異界の獣達よ……今しばらくの別れだ。だがすぐに並び立つと約束しよう。 お前達の価値、未来を信じる心は、我ら裏十三宮にも通じるものだ』 「お前達にも……いや、当然か。お前達は星を守るために生み出された命だ。 例え作られたものだとしても、未来を信じる心がなければ戦えない」 『その通りだ。だからこそ奴らは、裏十三宮として決して認めん。奴らはただ自らと定めた摂理のみを信じている。 狭い世界でうごめく、哀れな亡者どもだ。あと……安心しろ。奴のような小さき者に、仕返しなどする気は失せた』 「え」 ギラモンを諌めていた箒が、レオブレイヴの優しい声で顔を上げる。作り物の獅子は、子を見守る父のように箒とギラモンを見ていた。 『だが貴様らが織斑一夏という男の心根を信じるのであれば、まず罪と向き合わせろ。 私は人ではないが、人は間違えても罪を償い、やり直すものだと教わった。違うか』 「いいや……違わ、ない。だが、私にはその力が……!」 『力の問題ではない、覚悟の問題だ。……お前達だけが弱いのではない。人は元々弱く、そして神もまた弱い。 私も含めた全てのものは元々弱者なのだ。だからこそ道を間違えるし、だからこそ自らと戦う……お前が言った通りな』 「レオ、ブレイヴ」 『戦いの場だ、安否の保障は一切できん。なので覚悟だけは決めて、待っていろ。貴様らの『戦い』はその先にある』 不器用にレオブレイヴは背を向け、そのまま空を仰ぎ見る。その不器用なエールに対し、オフィウクス・ゾディアーツはお手上げポーズ。 『……八神恭文、悪いんだけどあずささんをお願いできるかな。僕、明日までは戻らないと思うから』 「え、でも」 『まぁまぁ、それで絶対離れないようにね? お願いね、ほんと』 なにやら気遣われているらしい。めちゃくちゃ押しが強い……! なのでとりあえず納得し、了承する。 「わ、分かりましたー!」 『それじゃああずささん、悪いんですけど僕』 「いえ、ありがとうございますー。えっと、ライオンちゃんもまたねー」 『……レオブレイヴだ。裏十三宮、月の番人』 「レオブレイヴちゃんね、覚えたわ。またねー」 そしてレオブレイヴは釈然としないものを感じながら、そのままオフィウクス・ゾディアーツについていき。 『……最後に二つ。一つ……僕は罪も、痛みもない世界ってやつを一つ知っている』 ようやく終わりかと思ったら、オフィウクス・ゾディアーツが足を止めて振り返る。 『僕の友達がね、事故に遭った時……そういう夢を見たそうなんだよ。その子の周囲は血なまぐさい、悲しい事件が起きていてさ。 そのせいで今みたいに、どうしようもない事ばかりが積み重なっていった。でも夢の中ではそんなものがない。 でも幸せであるはずの世界は、どこかイビツで……弱さや虚しさを感じさせるものだった』 「イチカの作る世界も同じだって、そう言いたいのかな」 『ちょっと違う。その子は夢を見た時、織斑一夏やみんなのように迷った。でも最終的に結論も同じだった。 問題は……織斑一夏もそうなるかって事だ。天上人になる事も叶わないと知った時、奴はどうするか』 「おい、まさか貴様……!」 「あの馬鹿は自分の存在消滅を望むし、そのために自殺する……いや、もっとエグい事をやらかす可能性もある?」 『正解』 エグい事……その意味はみんな分かってくれると思う。つまりよ、自分がいなければとか、そう考えて根っこから……あり得るね。 暗黒の種、生体改造、ブレイヴピオーズとフラグが揃いまくってるもの。もし引き戻すのであれば、そこも踏まえた上で止めるべき、か。 『知っての通り、スーパー大ショッカーの存在は抹消なんてできない。つまり織斑夫妻への襲撃も止められない。 仮に織斑一夏がブレイヴサジタリアスを内包しなくても、ブレイヴピオーズがいる。きっと今回みたいな事件は起きていた』 ≪だから消滅を望む、ですか。それならばブレイヴサジタリアスを内包せず、自らが死ぬ道を選ぶ……とか≫ ≪……過去を変えてなんとかするって予測できる時点で、一夏くんの底は知れてるのー≫ 『でも同時に、絶望を呼ぶ出来事は希望でもある。だってブレイヴサジタリアスがいるからこそ、織斑一夏は生きている。 両親が生きてほしいと、ブレイヴサジタリアスに願いを託したからこそ……今、やり直す道も開かれているんだから』 それが誰に向けての言葉か、考えるまでもなかった。だから箒はまた大きく、目を見開く。 人ではない、人である事から捨てて、変わり果ててしまった織斑一夏。でもそれでも命を繋げ、やり直す道が僅かに開かれている。 それは希望だった。もしその道に進む事ができるなら……確かに箒の戦いは、奴らを止めた後に始まるものだった。 そんな箒が今この場で戦おうとする事そのもの、それがそもそもの間違いだったのかもしれない。 「希望と絶望は表裏一体、ですか」 【ならボク達の戦い方は自然と決まっちゃうのかな。……託し、託された希望も含め、彼に罪を突きつける。 彼が一番に謝らなきゃいけないのは、きっと希望を託したご両親だ。それを踏みにじっているんだから】 『そうなっちゃうね。……あ、追加でもう一つ。僕はこれ以上戦ったりできないから、あとは任せた』 「それは分かっていますよ。あなたのスイッチはオフィウクス――へびつかい座だ。 このままその変身を使い続けるのは、ブレイヴピオーズに取り込まれる危険だってある」 『さすがは錬金術師だ。なので頑張ってねー』 『ノリ軽!』 『腹をくくっているだけだよ。僕もおのれらに賭けた事、それだけは変わらないんだから』 そして二人は空めがけて跳躍……揃って姿を消した。そうして僕に集まる視線は気にせず、軽く伸び。 「さて、ホテルに戻ろうか。凛にも事情説明が必要だし」 「そうしてくれると助かるわ。ていうかほんと……私達の気遣いが無駄になるくらい、個性的なお友達が多いのね」 「まぁ、否定はしない」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ そして現在……恭文さんに引っ張られ、観光などもなく旅館へ戻った。そして、京都には雨が降る。 戦いの熱を冷ますような、春先の雨。それを部屋で見ながら、ついため息を吐いてしまいます。 「セシリア、それやめなさいよ。幸せが逃げるわよー」 「今だけは許してください。わたくし、ちゃんと恭文さんやみなさんの力になれているかと……反省しまして」 「ならば少しずつでも、またぶつかっていくしかあるまい。だからこそ兄さんも、希望を込めてああ願い出たんだ」 ボーデヴィッヒさんはもう前を向いていて、その力強さに励まされる。でも恭文さんのお願いには驚かされました。 できればその願いを叶えて差し上げたい……いいえ、一緒に叶えていきたい。そういう気持ちは、少しずつ湧き上がってもいて。 「そう、ですわね。えぇ……その通りです。では、こうしてはいられませんわね」 「あぁ。姉さん、すまないが私とセシリア達は予定を早め、デジタルワールドに行ってくる」 「デジタルワールド……あ、紋章か」 「ゲートは恭文さんに開いてもらいますので、帰りは……また本宮さん達に頼りましょう。ガオモン」 「はい」 ガオモンとファンビーモン、それにロップモンもきてくれる。そのまま三人を伴って、部屋の外へ。 ……そこで隅っこで膝を抱えているギラモン、そんなギラモンに寄り添う箒さんをチェック。 ギラモンは放心状態で、目に光が宿っていない。ですが……鈴さんとシャルロットさんに、『お願いします』とアイサイン。 それをOKしてもらってから、安心して部屋のふすまを開く。 「でもラウラ、セシリアもそれだと」 「紋章は自分達でなんとかして見つける。今兄さんはこっちを離れられないからな」 「すぐに戻ってきますので、ご安心を。ではまた、東京で」 「いってくるぶ〜ん!」 「るごるごー!」 「「いってらっしゃい」」 みんなに見送られ、そのまま部屋を出た。さて、まずは恭文さんの部屋ですわね。急ぎましょう。 ……恭文さんではありませんが、わたくしも感じているんです。いろんな意味で終わりが近づいていると。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「駅長のクソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 ターミナルへなんとか戻ってきたら、ダーグが荒れ果てていた。具体的になにをしているか? やけ食いだよ。 ケンタッキーフライドチキンを二十人分くらいガツガツ食べ、ジュースを飲み漁っている。タイミング悪かったかなー。 「お帰りなさいませ、恭文様」 そこでこっちにきて、出迎えてくれたのは飛燕さん。変わらない様子についほっこり。 「ただいまです。……荒れてるねー」 「Jud.駅長からドイツ襲撃の件、及び織斑一夏の犯罪者化が『歴史上正しい事』と説明され、先ほどからあの有様です。恭文様は」 「実は駅長の指示で」 「……やすっちぃぃぃぃぃぃぃぃ! 騙したぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! よくも騙してくれたなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 とか言ってダーグが迫ってくるので、右ビンタ。とりあえず突撃だけはキャンセルしておく。 「あべし! な、なぜ殴ったぁ……おやじにもぶたれた事がないのに」 「嘘をつくなボケが! 戦ってる中でどつかれまくってるでしょうが! ……星鎧や犯罪者化については聞いてなかったよ。 駅長も線路が消えていたから、細かい流れはさっぱり。唯一分かっていたのが、犯罪者化とドイツ襲撃だけなんだって」 「それ以上の調査も無理だったと? まぁそれなら……駅長めぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! 返せぇ! 若い奴らと歴史修正のために寝る間も惜しんで準備してたら、これで正しい結果だとぉ! 有り得ねぇだろうがぁ!」 「うわぁ……!」 「やすっち、なんで言ってくれなかったんだよ! それで何徹する勢いだったと」 「ダーグ様、そもそも恭文様にはその話をしていません」 「……へ?」 「して、いません」 なお僕は知らなかった。なので申し訳なく思いながら何度も頷くと、ダーグは元の席へ戻り、泣きながらケンタッキーにかぶりつく。 「いや、ごめん。ほんとそこはごめん……僕もどのタイミングで言っていいか分からなくて。口止めされてたし、思考から封じていたし」 「恭文様、仕返しはきっちりしていきますので」 「はい、覚悟してます。……ダーグ、そのケンタッキーも……というか、追加も含めて全部僕がおごるよ。それで紹介したい人がいるんだけど」 「それでコイツはまたナンパしてやがるよ! 今度はどこのメイドだよ!」 『メイドじゃなくてライオンだ、恐竜もどきが』 そこで登場したのは、みなさまご存じレオブレイヴ。白銀に輝く装甲を見て、ダーグのテンションが一気にMAX。しっぽを逆立ててあんぐり。 「レオブレイヴゥ!? おぉそうだそうだ、事前連絡くれたよな! だがホントどうしたんだよ!」 「連絡した通りだよ」 「それでも信じられないって事だよ! えっとタウラスは……解析作業中だったな」 「Jud.しかし起動状態ですので、まずは通信越しになりますが……しかし、よく来てくれました。感謝します」 『構わん。宇宙の眼などという、馬鹿げたものを作られたのではな。……だが、これだけは言っておく』 「分かってる。俺達はあくまで共同戦線を張るだけだ。解決後、これからどうするかはお前達で決めてくれていい。サポートが必要なら協力もする」 『……一応、感謝する』 僕が言った通りの流れなので、さすがのレオブレイヴも面食らう。しかも当然って顔で認めたものだから、余計に驚きは強くなる。 レオブレイヴはこちらを見上げてくるけど、『こういう男だ』とお手上げポーズで返しておく。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ セシリア達も行動開始か。あたしは……アルティメット・ハシビロウとソードブレイヴを取り出し、どうしたものかと考えてしまう。 託された願い、伝えられた正義の意味――それを貫くには、もうひと押し必要っぽいのよね。 「……はぁ」 そしてシャルロットは大金星なのに、ため息を吐いて机に突っ伏していた。さっきの勢いとは別人よ。 「アンタ、どうしたのよ。大金星だったじゃない」 「全然。英雄王が本気を出していたら、間違いなく負けていた。……わたしはあくまで、今の自分を見せつけただけ。もっと強くならないと」 「……そうね。ホント、そう思うわ」 「ただいまー」 「ただいまー!」 あ、簪とモノドラモンが戻ってきた。二人は静かに入ってきて、部屋をキョロキョロ……一番に気にするの、やっぱり箒達かぁ。 「お帰り。セシリア達なんだけど」 「恭文君の部屋にきて、本人達から聞いた。光子郎さんのパソコン経由で、もうデジタルワールドに向かってる」 「やるんだーって気合い十分だったぞー!」 「そっか。さて、あとはこれからどうするかだね。リンはやっぱりアレ? アルティメットを使って、光の緑とバトルとか」 「そうね……なんかそういう流れになったっぽいし」 いろいろ考えていると、そこで甲龍経由で通信がかかる。あれ、これってあたしの担当官だ。 というか同じタイミングでシャルロットの方にも通信……あたし達は顔を見合わせながら、それぞれ通信を繋ぐ。 「はい、こちら凰鈴音です」 『凰、テレビは見ているか! 今すぐつけろ!』 「は? いえ、見てませんけど……ちょっと待ってください」 なにがあったかはさっぱりだけど、ちょびひげおっちゃんな担当官は大慌て。聞き返すのは後にして、手元のリモコンでスイッチオン。 備え付けのテレビに光が灯り、がく然とした。適当なチャンネルなのに、映ったのは……一夏だった。 「イチカ!?」 「織斑君……!」 「いち、か」 あたし達はテレビへ詰め寄り、一夏に注目。場所はどこ、妙に薄暗い場所っぽいけど。 えっと、今は十チャンネルか。試しに他のチャンネルもチェックしてみるけど、その全てが同じ映像――いいえ、同じ放送を映していた。 「一夏ぁ!」 「父さん、これって!」 『五分前からこの状態だ。どうも全世界同時にやられているらしい……社もそうだが、ネットや各放送局も大騒ぎだ』 どうやらシャルロットの方はセドリック社長からだったみたい。しかし五分前からこれ? 完全に放送事故じゃないのよ。 「か、簪ー!」 「……凰さん、どうやらソードアイズ探訪は後みたいだよ。始まっちゃったみたい」 「始まった?」 「こういう展開、アニメや漫画ではよくあるパターン。いわゆる一つの……宣戦布告」 「……担当官、逆探知とかは。放送、五分以上このままなのよね」 『無理だ! 放送局とも緊急連絡を取っているが、さすがに時間が!』 『……みなさん、初めまして。織斑一夏です。IS学園一年一組所属――ISを動かせる男の一人。 そしてこの時点からこの世界を統べる、天上人――神と言って差し支えない存在となります』 あの馬鹿、本当にやらかしたし! てーかブレイヴピオーズの出現でまだ懲りてないって事!? 『俺の目的はただ一つ、恒久平和です。世界から全ての痛みと争い、悲しみと絶望をなくす事。 今まで俺は各国から犯罪者として追い回されてきました。しかしそれは違う、それは各国の陰謀にすぎません。 俺が天上人となり、世界が永遠の平和に包まれる事を彼らは嫌った。それはなぜか……争いが利益になるからですよ。ご覧ください』 一夏は右手を挙げ、モニター展開。そこに移るのは……戦場の写真? 賞も受けた、わりと有名なものばかりだけど。 『世界に渦巻く悲劇、それを利益としている奴らがいます。武器や物資、場合によっては人そのものを売りさばき、適当に使い捨てる。 争いは消耗を呼び、消耗はその補填を呼ぶ。それは金だったり、各国同士の下らない利権争いだったりと様々です。 ただ一つ言える事は……我が今まで燃やしてきた奴らは、そんな奴らの一角にすぎないという事だ』 「我? か、かんざしー!」 「うん、これは、織斑君じゃない」 あたしも気づいた。コイツの目、雰囲気……一夏だけど、一夏じゃない。アンタなのね、ブレイヴピオーズ……! 『そう、燃やした……俺は燃やした。だがまだ足りない、この混沌とした世界をより肥えさせるのなら、贄が必要だ』 そしてアイツが取り出したのは、ククルカーンのカード。すると、どういう事だろう。カードが輝いた瞬間、惨劇が起こる。 多数のモニターが奴の背後に展開し、そこで次々と人が燃えていく様子を映し出していく。 『ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! やだ、やだぁ……やめてくれぇ!』 『死にたく、ない……助けて、あなたぁ! 助けてぇ!』 泣き叫ぶ人達の声が何十にも折り重なり、絶望のオーケストラを奏でる。簪が思わず嗚咽を漏らすほど、その様はひどかった。 髪や皮膚、爪……顔や体の造形、まとっている服が焼けただれ、醜く一つになって溶けていく。 そんな人達は次々と消失していく。炎と一緒に、まるで燃え尽きるが如く。そして、【一夏】は笑っていた。 それが当然とばかりに、とても楽しげに。笑って、笑って……世界の全てを見下していく。 『ぐ……!』 「え……父さん!」 父さん……背後で起こっている惨劇、その一つにセドリック社長の姿が映った。それで一気に血の気が引く。 笑顔が殺し屋みたいな人だけど、とても穏やかで優しい人が、燃えて……燃えて……あれ? そう、炎はセドリック社長を包んだ。そのはずなのに、その社長本人から光が放たれ、炎が一瞬で散らされた。 「父さん……無事なの! ねぇ、父さん!」 『あ、あぁ……どうやら、ヴァネッサが守ってくれたようだ』 そこでシャルロットの懐から光が漏れる。慌ててその光を取り出し、シャルロットは安どの涙をこぼした。 ……光の根源はもちろん、シャイニング・ペンタン・オーバーレイ。シャルロットだけじゃなくて、家族も守ってくれたってわけね。 でもアイツ……ちょっと待って、セドリック社長までこれって事は……聖夜市とかは大丈夫なの!? あむ達とか! 『驚いたでしょう、だがこれが俺の得た力……バトスピの力だ。過去、バトスピに登場するスピリット達は、実在していたそうです。 しかし彼らは自分達を生み出した神に反逆し、全てがカードとして封印された。 そして人が生み出されたが、人は同じように神へ反逆し、神を倒し……人の歴史が紡がれた。 そして亡国機業、ISに連なる様々な汚職や悲劇……俺はそれをかいま見て、一つの決断に至りました。 ……今この世界には神が必要だ。人々を統制し、導き、全ての争いと不幸を払う天上人が』 「一夏……いや、アンタの仕業か! ブレイヴピオーズ!」 『これからは俺が全ての国を、人々を見守ります。そうして争いが生まれた時、俺は天上人としてそれを止める……今のように。 人が神を倒した事は間違いだった。そんな過ちを犯したからこそ、亡国機業や身勝手な侵略者達によって、世界は壊される。 だからこそ俺は世界を浄化します。そう……今から実演しましょう、みなさんが辿るべき正しき道を」 証拠……!? それで凄まじく嫌な予感が走った。一夏が右手を挙げ、モニターに表示したのは……聖夜市だった。 「……やめなさい」 『俺には世界を制覇する力が、全人類を導く力が備わっている。この街には今、俺の友達たちが暮らしています。……だからこの街を破壊します』 「一夏、なに言ってるの!」 『俺は何度も、何度も頼んだんです。神が必要だ、そのために力を貸してくれと。間違っているのはこんな世界を守ろうとするお前達だと。 誠心誠意、みんなにも分かる言葉で伝えた。なのに断られた……友は世界を救う事ではなく、守る事に捕らわれている』 そして聖夜市上空に無数の……それこそ、空を埋め尽くされんばかりの、無数のゴーレムIIIが登場する。 なに、あの数……百? ううん、数千ってレベルじゃない! あんな数を用意していたなんて! 『死を恐れるその臆病さが、世界を歪めていると理解しない。だからこの街の人間で実演しましょう。 世界の人間は誰もが一度死ぬ……しかし恐れる事はない、そこからまた汚れない命として再生する。そう』 そこで脇に登場したのは、赤コートに帽子を着た女。てーか……アルケニモンじゃないのよ! アルケニモンは右手に持ったシミターで一夏の首を跳ね落とす。鮮血が迸る中、首は昨日と同じように、あっという間に再生する。 そして一夏は変わらない表情で笑い、両手を挙げて大仰に示す。これが世界の新しい形だと、受け入れるべきだと……おぞましく笑う。 『このように。理解しないなら、実演するしかない。聖夜市の皆さん、喜んでほしい。 みんなは新しい世界のテストケースとなれるのだから。さぁ』 「やめろ……やめろぉ! 一夏ぁ!」 『浄化の始まりだ』 奴らは侵略者の如く飛び込み、聖夜市を――あたし達の、教官の暮らす街へと飛び込んだ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ そして聖夜市上空に無数の……それこそ、空を埋め尽くされんばかりの、無数のゴーレムIIIが登場する。 奴らは侵略者の如く飛び込み、聖夜市を――みんなの街を襲う。なので。 ≪GUN MODE――DARK KABUTO POWER!≫ 右手に持ったパーフェクトゼクターをガンモードへ変更し、構えた上で鍔元の四色スイッチを赤・金・青・紫の順に押していく。 ……八神の僕が攻撃範囲に飛び込まないよう、予め連絡はしておいた。周辺に飛行機などの機影もなし。これなら全開でもOKだ。 ≪THEBEE POWER!・DRAKE POWER!・SASWORD POWER! ――ALL ZECTER COMBINE!≫ ダブタロス、パーフェクトゼクターにセットされたザビーゼクター、ドレイクゼクター、サソードゼクターからもパワー供給。 砲口の如く向いた、パーフェクトゼクターの切っ先、そしてザビーゼクターの針にタキオン粒子が収束。 単体では決して放出できないエネルギーが生まれ、それが空間すらも歪めてしまう。 しっかり狙いを定め、安全も確保した上でトリガーを引く。 ≪MAXIMUM HYPER CYCLONE!≫ 放出されるのは、放射状に広がる巨大な竜巻。人や建造物に被害を出さない超高硬度で、虹色の風が吹き荒れる。 そうして街へ突撃していくゴーレムIII……数にして約三〇〇〇機を一瞬で飲み込む。 当然バリアも発生するけど、そんなのは意味を成さない。この平和な街を飲み込む悪は、一つ残らず原子の塵となる。 その威力と射程、弾速はISと言えどどうにもできるレベルじゃない。吹き抜ける旋風によって、空は虹の爆炎で染め上げられた。 ≪……敵機反応、ありません。さて、これで奴らの戦力を見事に削れると嬉しいんですけどねぇ≫ 「だね。でもこれで」 パーフェクトゼクターにくっついたままのみんなを撫でて、ありがとうとお礼。それから空を見上げ、左手で天を指差す。 「一宿一飯の恩義は返せそうだわ」 宇宙の眼破壊もそうだけど、大事なのは一宿一飯の恩義。それを返すため、全てが終わった後でまたこの世界にやってきた。 でも出発してから半月も経っていないはずなのに、これとは……カオスと言うべきか、戦い甲斐があると言うべきか、迷うところだよ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 止められないまま殺りくが繰り広げられる。そう思っていた……でも、突然とんでもない爆発でゴーレムIII達が一機残らず消え去った。 爆炎が止むと、空は元通りの青色を取り戻す。あたし達が呆ける中、画面内の一夏も不愉快そうに眉を動かす。 『……なんだと。おい、どうなっている』 『は……おいマミーモン! どうなっているんだい! 他の海鳴やイギリス、香港は!』 『だ、駄目だ! そっちに向かわせた奴らも全滅してるー! それも一瞬で……俺達の全戦力がー!』 『ふざけんじゃないよ! 二万機以上のゴーレムIIIが一瞬だって!? あり得ないだろうが!』 『騒ぐな』 二人は一夏の声で、恐れるように停止。でも……馬鹿な奴らー! 今全戦力って言い切ったし! つまりゴーレムIIIの大半は、原因不明だけどぶっ潰れたと! これはめちゃくちゃ大きな隙じゃない! 『……みなさん、大変申し訳ありません。俺の作る世界を実際に見て、その素晴らしさを理解してほしかったのですが。 どうも天上人の必要性を理解しない、どうしようもない愚か者がいるようです。俺の友達だけでなかった事、実に恥ずかしく思います。 ですが、そんなのはとても愚かな間違いです。人々が救われるためには、天上人の再臨が絶対に必要。 だからこそ天上人として、世界に初めての命令を送る。全てのISコアを三日後、俺に譲渡してくれ』 「恥知らずもいいところだね。全戦力が削られたばっかりだって言うのに……うん、わたしにも分かるようになった。コイツは、イチカじゃない」 『場所はその時指定する。そしてIS学園一年一組と二組、四組の生徒全員と篠ノ之箒をこちらへ引き渡す事。 それが成されない場合、何度でも……何千人でも殺し、新しい世界へ連れていくしかない。 その時、みんなは苦しむだろう。だが俺はそれを本意としない。楽に殺し、幸せのまま汚れを払いたいからだ。 ……世界のみんな、俺を信じてくれ。俺は織斑一夏。世界を守り、導く天上人となる男だ。俺は今、この世界の誰よりも正しい』 「いいや、アンタは間違ってるわよ。ブレイヴピオーズ……上等よ! その喧嘩、あたし達全員で買ってあげる!」 そして放送は切れて、地元ニュースのスタジオが映し出される。……遠慮なく名指ししてくれたわけだから、もう心配ないわね。 『凰、お前』 「ごめん担当官、実は」 『あぁもういい。で、我々はなにをすればいい』 「信じてくれるの?」 『IS学園への転校処置、脅迫気味にやらされた時から覚悟している。だがそれは……天地神明に誓って、正義だと言えるな』 「えぇ」 『ならいい、好きにやれ。後の事は責任を持ってやる』 その言葉には深く感謝し、ある物を一日で用意してほしいとしっかりお願いする。 ……どうやって介入しようか、どうやって言い訳しようかって頭を悩ませていたところだもの。 名指ししてくれたのならちょうどいいわ。どこの誰かは知らないけど、街をきっちり守ってくれる人もいる。 だったらこっちから乗り込んで、全部の決着をつけてやる。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ うわぁ、リンは方針を決めちゃったよ。それも一日って……なら、わたしもちょっとわがままを言うしかないかなー。 「あの、父さん」 『行くのだろう』 「……うん。多分、すっごく心配をかける。父さんにも今までの比じゃないくらい」 『大丈夫だ、お前だけでなくお前の友達も、父さん達が全力で守ってやる。だからお前達が正しいと思う事をやれ』 「ありがとう……なら、今から送るデータを見てほしいの」 それはホンネやカンザシを見て、ちょっといいなーって思って……ラファールに手伝ってもらって、自分で考えた装備。 まだ設計から覚えたばっかりで、実はかなり恥ずかしいんだけど……それでも父さんは送ったデータを見て、声を漏らす。 『ほう……これは面白いな。これを作ればいいんだな』 「うん。やっぱり無茶かな」 『いや、素材の切り出しさえできれば、一日でなんとかなるだろう。電子部品はラファールのパーツを使えば』 「ほんとに? なら……素材の切り出しは任せて。それですぐに送るよ」 『大丈夫なのか』 「頼れるご主人様がいるから」 今の調子だとバトルキャンセルシステムのキャンセルも、すぐでき上がるかどうか分からない。なら……正直肩の荷は重い。 リアリスト滅すべしが一番なのに。だけど今動かなかったら、本当に世界は壊される。 じゃあ、もうこの『バトル』も楽しむしかないよね。せめて……せめて、戦う気持ちだけは。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 坊やの姿をしたブレイヴピオーズ様は……いいや、改めて取り付いたと言うべきか。 ブレイヴピオーズ様は馬鹿な坊やから分離。坊やの体は血を吐きながら床に倒れ、そして口からうめき声が漏れる。 そんな奴の脇に再出現したブレイヴピオーズ様……その左拳が飛び、忌々しげにマミーモンを裏拳で殴りつける。 マミーモンは吹き飛び、壁へと叩きつけられて呻く。あぁそうだ……やられたーって報告だけをして、役立たずだからだよ。 「貴様、死にたいらしいなぁ」 「ひぃ! ご、ごめんなさい……ごめんなさいー!」 「ほんとだよ、この馬鹿が! ……ブレイヴピオーズ様、どうかお怒りをお鎮めください。この馬鹿にはアタシからよく言い聞かせておきますので」 「ふん、まぁいい。アルケニモン、貴様の献身に免じて、今日は見逃してやる」 「ありがとうございます」 跪いてしっかり敬意を表する。……ち、忌々しいガラクタの分際で、小うるさいったらありゃあしない。 これなら及川の方がまだマシだったよ。マスターデータを握られちまってる以上、言う事を聞くしかないけどさぁ。 ……まぁいい、これであのガキどもも四面そ歌だ。人間達だってこっちの戦力がとんでもないのは理解しただろ。 なんたってISの制限数より多い、独自戦力を用意してるんだから。早々にしっぽを振って、こっちに引き渡されるだろうさ。 なにしろ人間ってのは、自分達が安全なら大丈夫って生きものだしねぇ。さすがは新しいご主人様ってところかね。 「ところでスコールは」 「疲れている、休ませておけ」 はいはい、昨夜はお楽しみだったわけかい。ロボットもどきのくせに……気色悪い変態だねぇ、コイツは。 「やめ……ろぉ」 そして足元でうごめく、歩く事もできなくなったガキ。うっとおしく、アタシ達を見下してやがる。 「俺を、信じろ……俺なら、俺なら神に、なれ」 「うるさいんだよ、ガキが!」 頭を踏みつけ、ぐりぐりといら立ちをぶつける。あぁ、最高だねぇ……弱い奴らをいたぶるってのは、どうしてこんなに楽しいのか。 そんなガキに唾を吐き捨て、ブレイヴピオーズと一緒に部屋から出る。しっかりロックした上でやってきたのは、ある殺風景な場所。 アタシにはよく分かんないけど、これですっごく強い幽霊が召喚できるとかなんとか。 そのために一日足らずで遺物を集めろ、なんてさ。だが一つ疑問はある。描かれた魔法陣や、既に置かれたガラクタにも冷たい視線しか送れない。 「しかしブレイヴピオーズ様、これから呼び出す存在はそこまで強力なのですか。我々や裏十三宮がいれば万全なのでは」 「残念ながら、あの英雄王を名乗る男には束になっても勝ち目がないだろう。だからこそこれを呼び出す」 また弱気なものだ。こりゃあくら替えも近いかなと思っていると、ブレイヴピオーズ様が魔法陣の前に立った。 「この地には、闇の白きソードブレイヴが存在する。それゆえに極北の地は、他とは違う『マナ』で満たされている。 本来ならば奇跡に等しい英霊召喚……しかしそのマナを用い、活動をこの地に限定すればやれる。お前達も静かにしておけ」 「……は」 「は、ははー!」 「――素に銀と鉄、礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を」 ソラでするする、呪文らしきものを呟く。すると適当な奴らの血で描いた魔法陣が、僅かに輝いた。 「四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。 閉じよ閉じよ閉じよ閉じよ閉じよ――繰り返す都度に五度」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 大事になったな。八神達の立場もこれでまた微妙なラインに立たされる……が、これは好機でもある。 全ての問題に決着をつける時だ。だがそんな中で彼女は――山田真耶は、まだ止まっていた。 PSAの施設内、白い寝間着を着た彼女は、部屋の前に立つ私へ必死に訴えかけていた。 「止めて、ください。あの子達を……止めて、ください。もう無理なんです、もう受け入れるしかないんです」 織斑一夏の宣戦布告を、世界に突きつけられた要求を飲むべきだと、流れに身を任せるしかないと、傍観者という罪をまだ続けていた。 「山田真耶、あなたはまだ分からないのか。受け入れても世界は滅びる」 「だったら、どうすればいいんですか……! 私達にはどうしようもない相手じゃないですか!」 「だが彼らは諦めていない。……あなたは教師だろうが」 「そうです! だから言い聞かせなくてはならないんです! 諦めていい、変わらなくてもいい……受け入れれば先に繋がると期待するだけで」 「そうした結果、あなたは全てを失った。違うか」 だからその罪を突きつけると、彼女は悔しげに顔を上げる。分かっている……そんな事は分かっている。 それでももうどうしようもないと、悔しさにあふれた表情だった。 「なにが、いけなかったんですか。私のなにが……どうして、そんなに駄目だったんですか」 「私には分かりかねる。ただ一つ言えるのは……あなたは最初から、盤上で戦う駒ではなかった。 だからこそ運命を変える力も持てず、ただひたすらにぜい弱……それだけだろう」 そう結論づけ、彼女の部屋から離れていく。すると彼女は部屋の中から、必死にドアを叩き、私にすがりついた。 「お願いします、出してください……こんなのは無意味で無謀です! それを止めるのが大人じゃないんですか! そうして正しい道を教えるのが大人じゃないんですか! お願い……出して、出してぇ!」 残念ながらそれはまた無理な相談だ。言ったはずだ、あなたは盤上の存在ではないと。 そして私もまた同じ……できる事があるとすれば、これから行われる『ゲーム』の邪魔を徹底排除する事のみだ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 詠唱が続くたび、光はより強くなる。空気が震え、アタシ達の肌を叩く。そうして手繰り寄せたものは。 「汝三大の言霊を纏う七天――抑止の輪より来たれ、天びんの守り手よ」 そうして極光が走る。光は一瞬のうちで白煙となり、そんな中漂う存在が一人……だが、なんだいありゃ。 「登場だ、最強の奴隷(サーヴァント)……よくきたな、我がしもべよ」 金髪翠眼で、薄い装甲を纏った……小柄な女。そう、女だ。長い髪を後ろで編みこみ、ひとまとめにしている。 おい、ふざけんじゃないよ。こんなちびっこい女が、アタシ達より役に立つ? あははは……馬鹿にしてんじゃないよ! 「問おう……あなた達が、私のマスターか」 柔らかくも凛々しい声が発せられたところで、ムカついて全速力で飛び込む。いや、飛び込もうとした。 だがそれに気づいた女が、こちらをひと睨み。……それだけでアタシの体が震え、足が動かなくなる。 なんだい、どうしたんだい。このアタシが……死なないアタシが、気押されている? 認めるもんか……! そうして虚勢を張っても、一歩たりとも動けなかった。アタシはこの瞬間、『騎士王』とやらに決して超えられない壁を突き立てられた。 (Battle122へ続く) あとがき 恭文「明かされたフォーゼドライバーの意味、そして宣戦布告をかましてくれた織斑一夏……に取り付いたブレイヴピオーズ。 バトルキャンセルのキャンセルは間に合うのか。はらはらしつつもこんばんみー、蒼凪恭文と」 春香「いつもあなたの心にアマミー……こと、天海春香です!」 恭文「……ストーカー?」 春香「違いますよ! それくらい天海春香は身近な庶民派アイドルなんですー!」 (そうは聞こえない罠) 春香「それはそうとプロデューサーさん……もうすぐガンダムレオパルド・ダ・ヴィンチが発売ですよ!」 恭文「だねー! 同日発売のフリーダムももうレビューしているお店さんがあるけど、かなりいいできっぽいし……そちらも楽しみだよ!」 (そして紅武者アメイジングもです。……え、バイクにならない? プラモ魂で改造だ!) 恭文「でも春香の口からガンダムレオパルド・ダ・ヴィンチ押しがくるとは……え、火力で蹂躙したいの? 分かるなー、その気持ち」 春香「私が分かりませんよ! あれですか、最近よく出てる、ハイマットフルバーストができない系の話ですか!」 恭文「そうそう。作者が多弾生成とかはパワーバランス的に必要ないと……作者ー!」 (疾風古鉄でできているのだから、いいじゃないのさ。あとはガンプラバトル) 春香「あぁ、だからプロデューサーさん、射撃武器中心な機体が多いんですね。魔導師としては近接型なのに」 恭文「だってふだんはできない事をやりたいじゃないのさ」 春香「ふだんの中身が違いすぎますからね! とにかく、レオパルドなんですけど」 恭文「うん」 春香「ガンダムはあまり詳しくないんですけど、たまたまテレビで見たロアビィ・ロイはカッコいいなーと。ある意味初恋です」 恭文「あれ、何年前の話だっけ」 春香「私をおばさんみたいに言わないでくださいよ!」 恭文「違う違う。今年でガンダムWが二十周年で、ガンダムXはその次回作だから……十九年か。もしかして再放送とか」 春香「あー、そうですそうです。放映当時はさすがに赤ん坊とかだったので」 (ガンダムWが二十周年……だと。え、でもごひとかはこう、今なお語り継がれているし……え? トレーズ様とか、ほら) 春香「プロデューサーさん、作者さんが混乱しています」 恭文「作者はリアルタイムで見ていた人だから」 春香「ただあれなんです、最初はほんとビジュアルから入って」 恭文「ロアビィは声も後のケイネス・エルメロイ・アーチボルトだし」 春香「そのチョイスだけは変えてもらっていいですか!?」 恭文「イケメンだったから、それも納得だよ。……あぁ、そこがアレに繋がっているのか」 春香「アレってなんですか!」 恭文「あ、ごめん。春香は未成年だから……ね? 駄目だったね、ごめん」 春香「ちょ、やめてくださいよ! アイドルにとって多分それは致命的ー! あとそんな事はしてませんよ! そ、それに今はですね。ロアビィ的というか、もうちょっとこう……年下っぽい、可愛い感じの人がいいかなーと」 恭文「……春香、さすがにコウタは……ほら、シャルロットが狙ってるし」 春香「違いますよ! というかシャルロットちゃんー! ほんとなにしてるの!」 (『ペンタン王国を作るためだよ!』 本日のED:Aimer『holLow wORlD』) ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ これからのあらすじ――聖夜市が映った途端、転送魔法で向こうに行こうとした。でもそこから突然届いたメール……そうしたら、アレだよ。 あはははは……一宿一飯の恩義とか言ってたけど、なんか一万倍くらいで返されたような。通常放送に戻ってテレビを見ながら、頬を引きつらせる。 「……八神さん、彼」 「後ろは守ってくれるっぽいですね。まぁ、安心して馬鹿どもを潰しに行きましょう」 ≪あむさん達も、大輔さん達も無事っぽいです。でもうかうかもしていられません≫ 「あぁ。準備もちゃんとできてない中、だしな。だが……オレ達にも逆転の目はある」 【ぷぷぷぷぷ……彼らはボク達が本拠地すら分からないとナメてるのかな。まぁ罠の可能性もあるけど】 「押し通すしかないわけか……んぐ」 ヘイアグモンも八つ橋を食べて、気合い十分。うんうん、みんな暴れたいんだよね。その気持ちはよーく分かるよ。 ……でも、これだけに留まるとも思えないんだよねぇ。準備が終わるまでは慎重にいかないと。 「ですが私、一つ気になる事が……織斑さん、傷を再生したんですよね。首チョンパーってやられてもすぐに」 「考えられるコースは二つ。一つはガチに再生したか。もう一つはトリック……僕達に対してのプレッシャー。 というか、今の織斑一夏なら『頭ひとつだけでも生きていける』でしょ。つまりその後のコースは」 「……宇宙の眼に搭載、ですか」 「うん」 そこでシオン達が苦々しげに……ううん、明らかな怒りを顔に出す。それはあずささん、凛も同じくだった。 「や、恭文くん……それ、どういう事なの。一夏くんは一体」 「今の織斑一夏は人間じゃありません、ぶっちゃけ不死の化け物ですよ。傷が再生しないとしても、簡単に死ぬ体でもない」 「じゃああれかしら。さっきの首チョンパは、切ったところまでは事実。頭は幻影かなにかで、後はそのまま悪趣味な樹木に載せられると」 「正解。その場合、織斑一夏は奴らにとって完全な用済み。計画も最終段階ってわけだ」 「うぅ……!」 あずささんは気持ち悪そうに、部屋のトイレへ駆け込み嘔吐。まぁしょうがない、こういう耐性はない一般人だから。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 再生はしないだけで、首を切られてもしなない……頭だけになって、血を流し続ける。 まるでゴミのように捨てられ、冷たい床を舐める。そして流した血は俺を飲み込む底なし沼が如く、俺の左頬――床に大きく広がる。 死にたいのに、死ねない。俺が神になれば……それが正しい道だとすがりついても、誰にも声は届かない。 今、俺は間違いなく惨めだった。そうしてもうすぐ、俺はあの忌まわしき樹木に取り込まれる。 俺はやっぱり、間違っていたんだ。俺がいなければ……俺が、中途半端な器だから。IS学園にいた時と同じだ。 力がない……力がない。どうしてなんだ、どうして俺はいつもこんなに無力なんだ。 誰も救えない、世界を変える事もできない。IS達の未来を作る事もできない……俺が弱いから。 俺さえ、いなければ。そんな世界なら……諦めるか。取り込まれるなら、逆に『眼』を取り込んでやる。 例え心がどれだけ疲弊しようと、俺は、俺は……諦めるか。俺は神になる、この世界は俺のいちゃいけない場所だったかもしれない。 だが神となれば、俺は天上人になれる。そこが俺の居場所に……力を振るう、夢の場所になる。 ずっと描いていた、心の奥底で求めていた強い男になれる。そうだ、これはチャンスだ。見ていろよ、愚者ども。 お前達が見くびり、ガキと罵った男の力を――! お前達には必ず、報いを受けてもらう。 何度も、何度も強く念じる。俺は織斑一夏――天上人となり、世界を救うただ一人の男。この世界の救世主になる男だ。 (おしまい) [*前へ][次へ#] [戻る] |