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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory41 『静岡戦線』

会場の島――その中にはショッピングモールってのがあった。店がたくさん並ぶ場所で、これもまた新鮮。

そこにあるうなぎ屋でうな重ってのを食べたが、これがまた美味いのなんのって。やっぱオレにはこういう飯が合うらしい。


「ありがとうございましたー」


店員に見送られ、店からモールの廊下へと出る。それで軽く伸び……はぁ。


「すげぇぜ、うな重――! うなぎってのがあれば作れるんだよな。よし、戻ったら考えてみるか」


そのまま次の店を目指し、のんびり歩きつつメモを取り出す。


「ママさんからもらった軍資金はまだまだあるし……あとはラルのおっさん直伝、静岡名物メモがあれば楽勝だ」


うな重屋から左に歩き、エスカレーターで上階へ。えっと……あったあった。焼きかりんとうってのが美味しいんだよな。なので店の親父に。


「えっと、かりんとうってのを一つ頼む」

「あぁごめん、ついさっき売り切れちゃったんだよ」

「あ……そうか。悪かったな」

「こっちこそごめんねー。またよろしくー」

「あぁ、またくるよ」


売り切れかぁ。寂しく感じながらも、しょうがないさと割りきって次の店に。

……ラルのおっさんがくれたメモには、こう書いてもいた。それがなかったらふてくされていただろう。


――世界大会は君達ファイターだけでなく、観戦のために訪れる旅行者も多く存在する。その商業的効果は絶大なものだ。
が……それゆえに各店舗は多数の客を相手にしなければならず、売り切れとなる場合もある。
その場合でも決して腐らず、また忙しい店員の皆様に当たる事なく、マナーよく食べ歩きを楽しむように――


まぁこんな感じだな。それに世界大会は二週間以上続くから、そういう忙しさもある程度波があるそうだ。

波が引いた時を狙っていけばいい。『しょうがないさ、またくるよ』――そういう気持ちを胸に、次の店へ。……が。


「亀まんじゅうってのを頼む!」

「ごめんねー。今日は売り切れちゃったのよー」

「あ……そうか。じゃあまたくるよ、ありがとな」

「待ってるねー」


亀まんじゅう、静岡おでん……いろんな店を歩くが、全く引っかからない。一体どうなっている、うな重は売り切れていなかったぞ。

一つ二つならともかく、こうも連続してだとさすがに焦りも募る。どうしたもんかと思っていると。


「どうなっている……! 焼きかりんとうが売り切れだと!」


聞き覚えのある声が右側から飛んできた。三時方向を見ると、銀髪ウェーブ髪とポニテ栗(くり)髪の女が二人。

その脇には見覚えのある、やたらと食うしゅごキャラがいた。


「富士宮焼きそば、恭文くんへの差し入れに確保しておきたかったのにー!」

「おかしいですね。来客の増加を見越し、各店も準備は整えていたというのに……というか、去年はこのような事」

「ヒカリ! お前なにしてんだ!」


さすがに驚き声をかけると、女達とヒカリがオレを見る。……あー、そっか。しゅごキャラは普通の奴には見えないんだっけか。


「ヒカリ、彼はあなたの知り合いですか?」

「あぁ……というかレイジ、お前なにしてるんだ! レセプションはどうした!」

「レイジ……あ、思い出した! 第三ブロック代表の、イオリ・セイ君と組んでいるファイター!」


だが余計な心配だったらしい、普通に見えてるんだな、アイツらは。それに安心して、三人に近づく。


「パーティーなんて堅苦しいもんは嫌いでな。お前は」

「なに、友人と食べ歩きだ。……銀髪は四条貴音。千早のアイドル仲間と言えば分かるだろう。
こっちはその後輩で佐竹美奈子。二人ともお前も知っている、フェリーニの密着取材絡みで静岡にきている」

「密着取材、チハヤ……あー、生すかってやつか! セイと一緒に見てたぞ!」

「「ありがとうございます」」

「いやいや、気にすんなって」


チハヤの仲間がフェリーニとバトルして、結構いい線までいって……そこで思い出したのはセイの事。

なんでか分からないけど、ボロボロなベアッガイとセイの下手な操縦が被ったんだよ。こりゃ、一体どういう事だ?


「あなたがレイジですね、お噂はかねがね……四条貴音と申します」

「初めまして、佐竹美奈子です」

「レイジだ、よろしくな。……でよ、ちょっと聞いたんだが、お前達も売り切れで困ってる感じか」

「という事はあなたも……えぇ、そうなのです。取材は会場近くのぐるめすぽっと調査も兼ねているのですが」

「私達、その下見をしてたんだ。でも全然で……せっかくヒカリちゃんもきてくれたのにー」


あぁ、テレビの取材ってやつか。仕事が進まないで、だから余計に……そう考えると腹が立ってくるな。

とにかく次の店……えっと、みしまコロッケだっけか。クリーミーで相当美味しいらしい。


「貴音さん、これが駄目なら今日はもう切り上げましょうか」

「ですが、やはり締めは……そうです、駄目なら志太系らぁめんを食べて終わりましょう」

「志太系? なんだそりゃ」

「藤枝(ふじえだ)朝らぁめんとも呼ばれる――静岡県志太(しだ)地区という土地で生まれたのですが、つるりとしたのどごし麺とさっぱりすぅぷで構築されています。
……それゆれに朝から食べても胃にもたれず、土地の習慣も相まっていわゆる『朝ラー』として食べられるようになりました」

「朝に食べるラーメンだね。これ自体は他の地方でも見られるものなんだけど、志太系ラーメンは冷やしラーメンも存在しているの」

「なに! ラーメンが冷たいのか!」

「魚介ベースで、動物系の油分をほとんど使わないからできるものだ。冷たい麺にキンと冷えたスープが朝はもちろん、夏にもピッタリでな。
今ではその二種類の味を楽しもうと、温と冷をセットで食べるのが藤枝流だ」


すげぇ……冷たいラーメンと、温かいラーメンを一緒に、だと。いや、そもそも冷たいラーメンが想像できない。

それはメモにもなかったので、あとで行こうと決意しつつ、オレ達は足早に上階へ上がる。


「でもタカネ……だったか。随分詳しいんだな」

「え……! ヒ、ヒカリちゃん」

「レイジは元々諸外国の王族でな、日本文化には詳しくない」

「あぁそれで……王族!?」

「あぁ。別世界にあるアリアン第一王子だ」

「そうでしたか。これは失礼を、レイジ王子」

「レイジでいい。言っただろ? 堅苦しいのは苦手だってよ」


……あれ、コイツら極々普通に王族だって信じたぞ! セイやママさん達は大体大笑いなのに! すげー、初めてのケースだ!


「ねぇヒカリちゃん、もしかして」

「まぁそんなところだ。恭文も知らない世界だがな」

「なんの話だ?」

「ううん、なんでもない。……とにかく貴音さん、『らぁめん探訪』ってミニ番組を持っていて、ラーメン雑誌でもコラムを書いてるんだ」

「いえ。わたくしはただ食べる事が好きなだけです。レイジも同じのようですが」

「あぁ。食は文化の極みだからな……お、あれか!」


みしまコロッケ……間違いない! また売り切れかと思ったが、棚にはコロッケがひとつだけあった。

一つ……まぁ、しょうがないさ。これでいいんだよな、ラルのおっさん。


「なんという行幸……! 天はわたくし達を見放してはいませんでした!」

「アンタ達、取材なんだよな! だったらあれはゲットするぞ!」

「え、でも」

「いいのか、レイジ」

「いいから! オレに任せとけ!」


というわけで全力疾走――店先へと飛び込み。


「みしまコロッケをくれ!」

「みしまコロッケをください」


取られないよう最速のスピードで注文。が……ほぼ同じタイミングで、店に飛び込んできた女がいた。

白帽子に白ワンピースを着た、ウェーブストレートの女。その左腕には買い物袋がぶら下げられていた。

……焼きかりんとうに、亀まんじゅう!? そうか、タカネが不思議がっていた原因はコイツか!


だったら負けられねぇ……! 今オレは、世界大会を前に決して負けられない戦いを、この店先で始めようとしていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


僕はちゃんと警告した……僕はちゃんと警告した。大事な事だから二度言いました。なんのにあのアホ(リカルド)は。


「ヤスフミ、あの馬鹿」

「やってしまいましたね。警告したのに」

「うん」

「ハハハハハハハー♪」


顔を真っ赤にして、とても上機嫌に笑い、引きっぱなしなみなさんをガン無視でガンプラアイドルに絡んでいた。


「キララさぁぁぁぁぁぁん! 見ましたぁ!? 第08小隊の特典映像!
動画枚数が何枚かかってるか分かんないぐらい、ぐりぐり動いてましたよねぇ!」


……BDボックスの特典映像だね。完全新作ショートフィルム『三次元との戦い』……いや、分かるよ。

現代の技術で陸戦型ガンダムが、Ez8が動いていてさ。グフ・フライトタイプと激戦を繰り広げてさ。

でもリカルド、その前におのれの頭をなんとかしようよ。そのぐりぐり動きまくって、学習しようとしない脳細胞を。


「え……!」

「ね……ね!?」

「ええ、そう……ですね」

「そうでしょうそうでしょう! あは♪ あはははははははー♪ そうなんですよね、最高ですよねー!」

「……おー」


あおもとっても残念そうに……あれだけ憧れていたセイとマオでさえ、とても残念そうにリカルドを見ていた。


「……なによ、あれ」

「仮にも世界レベルのファイターが、なんと見苦しい」


なぜか怒り荒ぶっていた歌唄やセシリア達も、あの様子にはただただドン引きである。


「酒乱だったんだ……!」


ともみは今更だけど正解です。はい、リカルドは酒癖が悪いです。というか絡み酒……みんな、こっちを見ないでよ。

僕だってせっかくのレセプションパーティー、全力で楽しみたいのよ。関わりたくないのよ、今は。


「だから恭文、この間の打ち上げでリカルドが飲もうとするの、何回も止めていたんだな」

「せめて、あの場だけは奇麗に収めたかったから」

「納得だぞ。でも」

「……幻滅や」

「……うん」


幻滅した少年二人は、それでも笑い続けるアホな大人を見続けていた。どうかあの姿を目に焼き付けて、将来の役に立ててほしい。

あと……キララとの縁はブチ切れただろうけど、まぁ頑張れ。全部おのれの自業自得だ。僕は忠告した――大事な事なので三回言った。



魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory41 『静岡戦線』



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「みしまコロッケをくれ!」

「みしまコロッケをください」


取られないよう最速のスピードで注文。が……ほぼ同じタイミングで、店に飛び込んできた女がいた。

白帽子に白ワンピースを着た、ウェーブストレートの女。その左腕には買い物袋がぶら下げられていた。

……焼きかりんとうに、亀まんじゅう!? そうか、タカネが不思議がっていた原因はコイツか!


だったら負けられねぇ……! 今オレは、世界大会を前に決して負けられない戦いを、この店先で始めようとしていた。


「お前か……!ここらへんのメシを買い占めたのは!」

「なによ、人聞きの悪い」

「あのぉ、すいません。大会で大勢お客さんがいらっしゃって、あと一個しか残ってないんですが」


ち、やっぱりか……!


「じゃあオレに!」

「じゃあわたしに!」


そこでかみ付いてきやがる女にも、『やっぱりか』という感情を持った。


「オレに譲れ」

「あなたこそ譲りなさいよ」

「てめぇはさんざん食ってんだろうがぁ!」

「レディーファーストって言葉を知らないの? 男性は女性を敬うものよ」

「だから敬ってんだよ。あっちは取材の下調べで、店を回ってるからなぁ。まぁ誰かさんのおかげで全く進んでいないそうだが」


左親指でタカネ達を指差すと、奴は変わらぬ様子。OKOK……もっといかなきゃ駄目なわけか。


「てーかアイツら以外に女性なんて見当たらねぇだろ、今この場では」

「なにそれ、ケンカ売ってんの……!」

「売るどころかただで配ってんだよ……!」

「口が減らないわねぇ――!」

「生意気――!」

「まぁまぁ! そこまでにしておいて!」


ミナコが取り直そうと、オレ達に近づいてくる。一瞬そっちへ目をやったのが悪かった。

隙を突いて女は、小銭を置いてコロッケ奪取。そのまま店先から走り去った。


「おつりはいいから!」

「ま、まいどありー」

「あぁ!」

「私のコロッケがぁ! レイジ、追うぞ!」

「私達の、だろうが!」


ヒカリを左肩に捕まらせ、女を全力疾走で追いかけていく。すると振り返った女は、エレベーター横の手すりへジャンプ。

丸い手すりを足場に再度跳躍し、通行人達の目を引きつけながら、近くのオブジェを足場に、吹き抜けの中突き立っている円柱を掴む。

そのまま円柱を軸にくるくると回転しつつ、勢いを殺しながら滑り降り、一気に一回へと着地した。


「……まるで恭文だな」

「オレ達も行くぞ!」

「できるのか」

「やるんだよ!」


というわけでオレも見習ってジャンプ……あのコロッケはタカネ達に譲ると決めた。

手にできなきゃ、一族のこ券に関わる! てーかラルのおっさんだって言ってたぞ!

人様の迷惑になるまで、買い占めるのは駄目だってよ! 出店はみんなで楽しむもんだ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


この馬鹿馬鹿しい大会を祝うように、どこかで花火が上がる。夜空を彩る美しい色達。

でもそんなのには構わず、あのモールから遠く離れ……海岸沿いのテラスへやってきた。

あのうざったい男と、取材だっていう女性二人……妙なフェアリーっぽいのは追いかけてこない。


それに安どし、同時にあざ笑いながら停止。


「フン、このわたしに追いつこうなんて」


手提げかばんに入れておいた、みしまコロッケを取り出す。……クリーミーだと言うちょっと特殊なコロッケ。

でもいわゆるクリームコロッケとは違うらしく、その味わいに期待を寄せながら破顔し、一気にかぶりつく。

いや、つこうとした。でもその前に、わたしの手を掴む男……あの、赤髪がなぜか右脇に立っていた。


「あ……!?」

「オレから逃げられると思ってんのかよ」

「え、なんで!」

「いいからコイツをよこ」


とか言うので顔面に左掌底。なんとか遠のけようとするけど、男はまるで痴漢の如くわたしに擦り寄ってくる。というか、しつこい……!


「なにすんのよ! 痴漢ー! この人痴漢ですー!」

「誰が痴漢だぁ! てめぇみたいな可愛げのない女、こっちから願い下げだっつーの! てーかそいつはタカネ達の!」

「わたしのよ!」

「人様の迷惑になるまで食ってんじゃねぇよ! 乞食(こじき)か!」


……その言葉でよぎるのは、寒く厳しい生活。今よりもずっと小さい頃から、路上そのものが家であり、生活の場だった日々。

身なりを整える事もできず、哀れみの視線を受け続け、でも助けてもらえず、いつもひもじい思いをしていた頃。

どうすれば生活から抜け出せるのか、どうすれば助けてもらえるか。その知恵すらもなかった弱い自分。


路上をさ迷い、温かいところを探す日々。残飯がないかとゴミ箱などを漁る屈辱。

それが屈辱だと感じる心すら、ただ生きていくという本能の前には疲弊し続け……だから男の足を踏みつける。


「あがぁ!」

「……うるさい!」


そのまま男を振り払い、コロッケを……でも勢い余って、手からコロッケが飛んでしまう。

それは放物線を描き、海の方へ。掴みなおそうと手を伸ばしても、勢い良く飛んだものをキャッチなどできない。

手に入れた食べ物が、命そのものが……心が引き裂かれるほどの絶望を感じながら、私は見送る事しかできなかった。


「――はむ!」


フェアリーにキャッチされ、食べられるみしまコロッケを。わたしの命そのものを。

そう、あのフェアリーはいつの間にか回りこんで、コロッケを小さな体でキャッチ。

そしてサクサクの衣を、中の柔らかな具をかみ締め、実に幸せそうな顔をする。


「うん……噂通りの美味しさだ。というか、残り物なのにサクサク感が失われていないのが凄い。衣に歯ごたえとなるものを仕込んでいるようだな」

「あ、ヒカリ……いや、今回はよくやった! その感想はちゃんとタカネ達にも伝えろよ!」

「任せろ、人気ブロガーの力を見せつけてやる」


そして男はわたしから離れ、フェアリーに近づきながらサムズアップ。フェアリーもそれに返しながらあっという間にコロッケを食べきった。

止める間もなく、あっさりと……わたしの命が。そんなわたしに対し、アイツらは勝ち誇った様子で笑う。


「なに、やってるのよ」

「見て分からないか、コロッケを食べてる」

「そんな事は聞いてないわよ! なんて事を……この馬鹿どもぉ!」

「馬鹿、ども? お前、私の事が見えてるのか」

「見えてるわよ! フェアリーでしょ!? 時折いるじゃない! というか弁償しなさいよ!」

「おごってくれてありがとう」


さらっとわたしの奢りって話にしたぁ!? コイツら……っていうか、このフェアリーはどんだけ図々しいのよ!

しかも丁寧にお辞儀すんじゃないわよ! ああ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

……そこでクラクションが鳴り響く。ハッとして後ろを振り向くと、黒塗りの車が止まっていた。


「なんだ?」

「怪しい奴らの登場か。あれから邪な気配がする」


しょうがないのでこの屈辱はいずれ……奴らを一度睨みつけてから、全力で駆け出し車へ乗り込む。


「あ、おい!」


開いた後部座席のドア、そこへ滑り込むと、車は走りだした。そしてバックミラー越しに男の……ナイン・バルトの視線が突き刺さる。


「さっきの少年は誰だ」

「……ただの痴漢よ」

「痴漢!?」

「冗談よ」

「まぁいい……大会期間中は勝手な行動を慎め。お前には金がかかっているというのに。あとその口調はやめろと何度も」


とか言うので両腕を男の首へ回し、一気に絞め上げる。そう、首をへし折らんばかりに。


「やめろ、運転ちゅ……死ぬ気かぁ!」

「じゃあ手本を示してアンタが死ね……! ああもうムカつく! 死ね! 死ね! 死ね……アイツらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「それは、八つ当たりだ……あ、刻が、見える」


今度会ったら、絶対許さないんだから! こんな馬鹿なお遊びに付き合っていて、ストレスはマッハだっつーのに!

そうよ、絶対ぶっ飛ばしてやる! それで弁償させてやる……奢りじゃないんだからね、絶対!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――なにやってるのさ、レイジィィィィィィィィ!――


どこからかセイの怒号が選手村で響いたのと同時刻、ヒカリが部屋に帰ってきた。というか、貴音までやってきた。

レセプションパーティーも終わり、楽しかったねーと戻ってきた直後だったよ。それでヒカリ曰く、レイジは頑張ったとか。

おかげで貴音と美奈子はほんの少しだけ助かったとか。後でセイにも言い含めておこう、レイジは言わないだろうから。


「それはまた……大変だったねー。あたし達はレセプションパーティーで美味しいもの、めっちゃ食べたけど」

「うん、りんはその、凄く……りん、今すぐ私も含めた全ての女性達に謝って」

「なんでぇ!」

「だって、太らない体質なんてチートだし……うぅ、恭文さん」


ともみが涙目で僕の肩に顔を埋めてくる。おー、よしよし。おのれはプロポーション維持、頑張ってるものねー。

そう、ともみのプロポーションが完璧とかよく言われているのは、ともみ本人の努力があればこそ。

運動量や食事内容もしっかり鑑み、でも緩めるべきところは緩めやり過ぎないよう配慮。


ただ……そんな体を押し付けるのは、やめてほしい。あの、辛い……というかリインと千早がまたメドゥーサみたいに。


「ともみ、食べたいものを食べたい時に食べるのが、一番のダイエット方よ」

「その通りなのです! そうして歌唄ちゃんは完璧なプロポーションを維持しているのですよ! まさにパーフェクトビューティーなのです!」

「……アタシが言うのもあれだけど、歌唄の食生活は十分おかしいと思うぞ。なぁ恭文」

「とりあえず、ともみとは比べられないと思うな。でも貴音、それだと取材は」

「大丈夫です。志太系らぁめんもいただけましたので……しかしあなた様」


貴音は僕が出したお茶を飲みながら、歌唄やりん、ともみ……千早を一べつ。


「響の事も大切にしてあげてくださいね。よければ同きんを」

「おのれはいきなりなにを言い出してるの!?」

「そうですね……我那覇さん、凝ってるみたいですから。大きくて凝って……プロデューサーが、解してあげてください。……くっ」

「貴音さん、リインの事を忘れているのです。リインはもう義理の兄妹だって言ったので……ともみさんも離れるのですー!」

「ほら、また千早とリインがおかしくなったし! あと千早、もうそろそろ自分の立ち位置を思い出そうか!」

「私だって、私だって……くっ」


駄目だ、聞いてない! とにかくともみを優しく離し……その寂しげな顔はほんと、やめてください。


「如月さん、リインちゃんも……大丈夫だよ。私とりんはメイドさんで、お嫁さんとは別枠だし」

「そうだよー」

「あ、なるほどなのです。なら許すのです」

「せめて僕に断ってから話を進めろぉ! ……そういや貴音、美奈子は」

「レイジと一緒に……取材を手伝ってもらったので、その説明を」


あぁ、レイジが抜けだしたのを聞いて、フォローと。だから叫び声も響かなくなっているわけか。美奈子、できるな。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


レイジが戻ってきた……レセプションパーティーをすっぽかすなんてあり得なくて、叱ろうと思ったら知らない女性がいた。

まさかナンパ!? 不純異性交遊!? ……とか思ったけどそんなわけもなく。女性の名前は佐竹美奈子さん。

765プロ所属のアイドル候補生……ようするに千早さんや響さんの後輩なんだよ、この人。


それがまたどうしてと思ったら、かくかくしかじか……あははは、嘘だと言ってよバーニィ。


「というわけで……レイジくん、私達の下見を手伝ってくれたの。コロッケのレポートが書けたのもレイジくんのおかげだし」

「は、はぁ」

「いや、あれはヒカリがいなかったらどうにも……てーかあの女、いずれ決着はつけてやる」


というかレイジ、別の事に燃えてるんですけど。あの女って、あれだよね。買い占めなんていうはた迷惑な事をした人。

レイジは『乞食(こじき)がむさぼるようだった』と称していたけど、実際はどうなんだろう。レイジのハチャメチャぶりを考えると、どうにも嫌な予感が……!


「なので余り怒らないであげてね。レセプションパーティーの方は特にフォローできないから、説得力もないんだけど」

「いえ、その……不都合などもなかったので」

「ほれ、問題ないだろ?」


そんな事を言うレイジには飛び蹴り。遠慮なく床とキスしてもらう。


「いてぇぇぇぇぇぇぇ! おいセイ! なにしてん」

「あ?」

「……オレが悪かったです、ごめんなさい」

「よろしい」


そう、具体的な不都合などはなかった。でもね……ハラハラしっぱなしだったよ! 先が思いやられるっていうか、もうさぁ!


「とにかく佐竹さん」

「美奈子で大丈夫だよ」

「……美奈子さん、わざわざありがとうございました。それで本当にすみません」

「ううん。あ、それで生すか絡みで取材する事もあるかもだし、その時はよろしくね」

「はい、こちらこそ」


ここはミホシさんと同じ感じかぁ。取材と聞いて沸き立ちながらも、美奈子さんを廊下までお見送り。

その後部屋に戻ると、レイジは寝間着に着替えていた。す、素早すぎる……!


「よし、寝るか」

「早すぎだよ! 着替えるのも、寝る時間も!」

「馬鹿野郎!」

「レセプションパーティーをすっ飛ばしたレイジに言われたくないかなぁ!」

「お前……セシリアの再特訓がどんだけ恐ろしかったか、もう忘れたのかよ」

「……それは、確かに」


恐ろしかった……しかもセシリアさん、理論肌でスパルタだからまた厳しいのなんのって。

ガチな軍隊式だよ、あれは。しかもセシリアさん、細かいからもう……!


「でもレセプションパーティーに出て、いろいろ情報は入ってきたのに。打ち合わせとかしたかったのに」

「寝ながらでいいだろ。でも情報ってなんだよ、美味いもん食べただけじゃ」

「基本はそうだけど、出場者全員による顔合わせだからね。自然と大会にまつわるうわさ話とかが聞けたんだよ。
例えば二代目メイジンが倒れて、三代目メイジンが明日発表されるかもーとか」

「二代目……ユウキ・タツヤやセシリアが通ってた、ガンプラ塾の校長か。
……あれ? セイ、確か二代目は強すぎるかなんかで、殿堂入りしたって」

「そうだよ。だからこそ後進育成のためにガンプラ塾……だったんだけど、それだけじゃなかった。
セシリアさんやマオ君曰く、元々体調が芳しくなかったそうだよ。でもメイジンはPPSE社の顔みたいなもの。
レイジに話した通り問題も多いけど……ねぇレイジ、これはあくまでも僕の勝手な……本当に勝手な考えなんだけど」

「なんだ」


……いや、やめておこう。レイジには首を振って、なんでもないと笑っておく。


「聞くまでもない質問だったね。……三代目メイジンは強敵だけど、大丈夫かーなんて」

「大丈夫かどうかはともかく、勝ちには行くぜ。その先が俺達の目標だろ」

「うん」


というわけで明日に備え、早めに床へ入る。そうして浮かんだ疑問は一旦置いて、明日に集中していく。

……恭文さんはこう言っていた。ガンプラ塾は次期メイジンを生み出す場……ただしそれは、二代目メイジンのコピーとして。

徹底した実力・対立主義は、今なお孤高の存在として語り継がれるメイジンそのままだった。


そしてガンプラ塾は塾内バトルトーナメントによって機能停止。敗北者はガンプラ塾を去るという、とても厳しいものだ。

最初はなんでそんな事を……って、意味が分からなかった。でもついさっき、三代目メイジンの話を聞いてようやく理解できた。

恭文さんはそのトーナメントについて語った時、こうも言った。ユウキ先輩はその中で答えを出し、それが大会辞退に繋がった。


それはほぼ、答えを言っていたんだ。僕やレイジがあんまりに動揺していたから、自分も危なくなるのに……ほんと、感謝しないと。

つまりこういう事だよ。ガンプラ塾は機能停止したんじゃなくて、役割を終えたんだ。

トーナメントの敗北者がガンプラ塾を去るのは、もうそこに留まる理由がなくなってしまうから。


つまり……決まっているんだよ、トーナメントがあった時点で三代目メイジン候補が。

トーナメントはガンプラ塾の総仕上げであり、けじめ。トーナメントの優勝者が三代目メイジン候補となれる。

そしてユウキ先輩が答えを出したなら……いろいろな事を考えながら、その日は結局なかなか寝付けなかった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


僕の同室はリインと歌唄……なお千早とりん、ともみは隣の部屋です。じゃないと、いろいろ神経が持たない……!

なので貴音を送った後、二人とお風呂で汗を流す。やっぱり夏だしねー、こういうのはきっちりしないと。

そして僕はリインを抱え、僕は歌唄に抱えられ……浴槽で温まりながら打ち合わせ。


でも二人の触れ合いが過剰。特に歌唄は胸が……また、大きくなったような。とにかくそんな感じでしっかりコミュニケーション。

それはベッドに入ってからも続き、そうして深夜……僕に抱きつきぐっすりな二人の腕から、静かに抜け出す。


服を着直し外へ。夏の蒸し暑い空気も、日付変更線を回るとすっかり涼しくなる。

丸々と浮かぶ月、数時間後に始まる戦いの予感に胸を沸き立たせながら。


「僕にだけ気配を向けて起こすなんて、器用な真似をするねぇ」

「というか、私達もだな」

「もう出てきても構いませんよ、人払いも済ませています」


振り返り、いつの間にか背後にいたベレー帽の男と、その脇にいる人懐っこそうな男に目を向ける。

てーか人懐っこそうな男はこう……なに、異質な気配が懐に隠れてる。二人の気配とはまた別の、とても純粋なプレッシャーだ。


「……お前らだよな。レセプションパーティーの時、オレ達に妙な視線をぶつけてきたのは」

「そうッスよ。初めまして、スペイン代表のスガ・トウリ……またの名をフェンリルッス」

「オレはダーグ先輩の後輩でイビツ。初めまして、『蒼凪恭文』君……DCDレポートの発見・解読者さん」

「僕が発見したわけじゃないよ。あれは渡さん達の手柄だ」


ていうか解読って……そんな大した事もしてないので、お手上げポーズを取る。あれは、シオン達が生まれる前。

鬼退治をやった後だよ。スーパー大ショッカー絡みで、ギンガさんルートななのは達がデンライナーに乗り込んできた。

結果まだ体の小さかった僕とフェイトも、改めてディケイドの謎やスーパー大ショッカーに立ち向かう羽目となる。


DCDレポートはその時、紅渡さん達仮面ライダーが見つけてきたものだ。簡単に言えば『ディケイドとはなんぞや』という告白書。

なので発見も、ましてや解読なんてしていない。ただ瞬間詠唱・処理能力で、データが消されないようロックを解除しただけだし。


「御謙遜を。君とウラタロスがその時提唱した『宇宙の眼』と『世界樹』の理論、それはスーパー大ショッカーの目的を的確に捉えていた。
俺達やダーグ先輩的にも、君があの時関わり、真実に近づいてくれた事はとても大きな力になった。その後の事も含めてね」

「その後……あぁ、アレか」

「そう、アレ」


なんでもスーパー大ショッカーの事が終わった後、別の世界で宇宙の眼が作られそうになったらしい。

怪人の代わりにその世界特有の存在を使い……結果不完全と思われたそれは、効力を発揮。

危うくその世界のみならず、ギンガさんルートな僕の世界とかも変革しかけた。はた迷惑な奴がいるものだよ。


「だから会えるのを楽しみにしてたッスよー。よろしくッス」

「えっと、よろしく」

「しゅごキャラ達も、デバイスさん達もよろしくッスよー」

『よろしくー』

≪どうも、私です≫

≪なのなのー♪≫


首を傾げながらも、笑顔のスガ・トウリさんとしっかり握手。あとはイビツとも……その後はひと目には気をつけつつ、のんびりお散歩。


「ダーグ先輩からも聞いてるだろうけど、トウリさんも電子戦のエキスパートでね。君に負けず劣らずの魔導師(ウィザード)だ。
PPSE社の内情については調べていたんだけど、やはりセキュリティの壁は大きく……というか、異常なほどだった」

「それで結果的に、ダーグ達と同じ方向で調査と」

「ガンプラ作りを通し、プラフスキー粒子の本質を掴むってのもあったッスけどね」

「それもダーグ達と同じだね。プラフスキー粒子の特性に触れるなら、ガンプラバトルが一番だとも言ってたし」

「実際めちゃくちゃ楽しかったッスから、それは正解だったッスよ。
……そうして掴んだのがこれッスよ。PPSE社の会長とその秘書なんッスけど」


トウリさんが展開したモニターをチェック。紫髪で人の悪そうなおっちゃんと、金髪眼鏡な秘書さんが写し出される。


「こっちのおっちゃんがマシタ会長、その秘書のベイカー女史……二人がPPSE社の創設メンバーッスよ。
同時に二代目メイジンを担ぎ上げ、PPSE社とガンプラバトルの地位確立に尽力させた主犯」

「よく掴めたね。僕もさっぱりだったのに」

「苦労したッスよー」

「ウィザード級なトウリさんが苦労して、写真二枚って辺りでまた察するべきだね。粒子の精製方法だけじゃないよ。
PPSE社……特に創設メンバーへの情報規制は、それこそ国家機密レベルだ。トウリさん的には会長で当たりらしい」

「というと」

「プラフスキー粒子は研究されているなどの前段階もなく、バトル装置などがあらかた完成した完成した上で発表ッスよね。
粒子のみならず、バトルベースに使われている技術もオーパーツッスよ。……そういう技術も含め、誰かがこの世界に持ち込んだ。
更に十年前までさかのぼって調べたんッスけど、『マシタ』なんて人間がいた形跡……ないんッスよ」


ほう……だとするとダーグやキリエ達の予測は当たっていたわけか。あの時の僕達と同じだよ。


「ベイカーは足取りらしきものも多少見えてるんッスけど、マシタの方は全くなしッス」

「もぐ……なるほどな」


ヒカリ、今何時だと思ってるのよ。なに平然とまんじゅうを取り出しかぶりつけるの?


「誰かしらが時間跳躍の影響を受け、この世界に吹き飛ばされた。
それがこの不健康そうな男で、持っていた技術から粒子とガンプラバトルを構築」

「秘書のベイカーも同じく『保護』されているという事は、彼女はそこに協力した……でしょうか。
それならば創設メンバーについての情報がここまで徹底規制されている理由も分かりますが」

「別世界の技術で、人間がいるからと。……ヤスフミ、これは」

「奏子さんと一之宮の偽装結婚と同じだね」


え、関係ない? 実はあるんだよ、それが。奏子さんは一之宮との婚姻届提出を妨害し、その身を守った。

それを数年に渡って一之宮本人はもちろん、歌唄や猫男……イースターの社員達ですら気づかなかった。

それはなぜか。戸籍はなにかしらの事情がなければ、いちいち確認するものじゃないから。


もちろん一之宮が独裁者同然で、他者が口を挟む余裕すら作らなかったせいもある。でも一番の理由はそこなんだよ。

公式的に結婚式までやった二人が、実は偽装結婚で仮面夫婦だなんて……普通は考えないよ。

それと同じようにマシタとやらも、戸籍などはない可能性が高い。でも誰も気づかない……それも当然だ。


仮にも大会社の会長が、実は『存在しないはずの幽霊(ゴースト)』だなんて想像するわけもない。

つまり会長と言っても、実質的トップはこの……ベイカーかな。さて、これはどうするかなぁ。


「二人とも、ターミナルの方針は」

「ん……そこが難しいところッス。まずマシタ会長が当たりとして、どの世界からどう跳んできたのかもさっぱり。
少なくとも次元世界はない。プラフスキー粒子というか、反粒子の生成と安全な制御は確立できてないわけで」

「仮に原因を取り除くとしよう。それも十年に亘っての歴史修正になるし、影響だって半端ない。
駅長達もまずは原因をしっかり把握し、余り大仰にならないよう対処するって言ってる。
ガンプラバトルが根っこからなくなるような心配は、今のところないよ」

「……そっか。それを聞いて安心した。つまり」

「明日からの大会、全力で戦って楽しめって事ッスよ!」

「「ですよねー!」」


そう、今僕達はそれだけでいいのだろう。だって初日くらいは……ねぇ。ワクワクしていると、イビツが目を輝かせながら詰め寄ってきた。


「ところで恭文君、明日はなんの機体を使うのかな! AGE-1かな、それともAGE系列のカテドラルかな!」

「Hi-νガンダムだけど。あとカテドラルはAGE-1系列じゃない」

「……え」

「あれま、クロスボーンでもないんッスか。ていうか出場者な自分達に機体宣言って」

「そっちの方が楽しいでしょ? 逆に驚かせていけるし」


不敵に笑うと、トウリさんも遠慮なく乗ってくる。いやー、ノリが近い人は貴重だから嬉しいねー。

そう……AGE-1、クロスボーン、ブルーウィザード、カテドラルだけじゃなかった。あのね、こっちはリインが持ってきたのよ。

リインはセコンド専任だけど、バトルもちょこちょこ練習しててさ。その練習機の一つなんだ。


ただしこのHi-νガンダムは僕やタツヤ、アランにとっても思い出深い機体。

そしてリインと寝る前、明日はどの機体でーって話してた時に……決定しまして。

なお予定外の機体を持ち出す理由、実はあるんだよ。これも一つの布石ってやつ?


「本当はメインを出そうかとも考えたんだけど、第一ピリオドの次はあれだしねー」

「あぁなるほど、手札は温存しておくべきと」

「……やだ」

『はい?』

「やだやだやだー! AGE-1が見たいー! AGE-1が見たいよー! というかカテドラル、AGE-1系列じゃないの!? 嫌だ嫌だー!」

『子どもか!』


てーかどんだけ好きなの!? めちゃくちゃ目を輝かせながら言ってきたし! というか声が大きい!

……そして深夜のテンションで、身をふりふりするイビツ……僕達はそれを必死に止めて、無駄な時間を使っていく。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


翌日――キララも登場した開会式を経て、ついに……ついに!


『みなさま、大変長らくお待たせいたしました。これより第七回ガンプラバトル選手権、世界大会を開会します』


始まりました、世界大会! 僕達は選手控えのロビーで、今か今かとワクワクしっぱなし。

リインも、歌唄も、そしてりんとともみ、千早もテンションMAX。更に千早は満面の笑みでした。


「いろいろすっ飛ばした感じですけど、プロデューサーと世界大会へ行く……その夢が叶ってよかったです」

「そ、そっかぁ。でも千早、あの……抱きつくのは、ちょっと」

「……そうですよね。朝比奈さん達の方が、ボリュームもあって抱き心地がいいですしね。昨日だって」

「違う、そうじゃない!」

『第一ピリオドは四人のファイターによる勝抜戦で、勝者には四ポイントの特点が与えられます』


ガラス張りで採光度も全快、でも涼しいロビーには、大型モニターもしっかり設置。

まずは第一ピリオド……勝抜戦とは言うけど、実質四人でのバトルロイヤルで『前しょう戦』だ。

だから緊迫感が凄い凄い。これが第二ピリオドの結果にも繋がると考えれば、それも当然だけど。


……その原因は前にいるリカルドのせいもあるけど。そして僕達の横にいるマオは、焦り気味にキョロキョロ。


「セイはんとレイジはん、まだ来てへんのかなぁ」

「……アイツら、また遅刻かい」

「チナさんの時もやらかしてたですよね。またセシリアさんに説教してもらうべきなのです」

「当然やりますわよ」


さらっと背後に登場したセシリア……でもその視線は僕や千早達ではなく、前方のリカルドに向けられていた。

そして残念そうな表情でテーブルに座り、リカルドを見つめ続けているあおにも。


「ヤス、フミ……お前は、まずヒビキとアズサに、責任を……ぐぇぇぇぇぇ」

「……その前におのれは体調管理に責任を持とうよ。だから言ったでしょうが……飲むなって!
世界大会初日だよ!? 大事な試合前に二日酔いってなに!」

「そ、それを言うな。というか大声はやめてくれ、頭に響く……!」

「あ、それは気づかなかったや! ごっめーん!」

「お前は鬼かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「……幻滅や」

「おー♪」


リカルドが苦しんでいる間にも、試合は進む……まずは第一試合。スモースカートを装備した青赤なゲルググが、その勇姿を砂煙に刻む。

対するベルガ・ギロスのヘビーマシンガンを回避しつつ、ビームライフルで反撃。

しかしベルガ・ギロスもスラロームからの接近で難なく回避……さすが世界大会、動きの質も半端ない。


突き出されたショットランサー……しかしベルガ・ギロスの一撃は、ゲルググではなく虚空を貫く。

そのお返しと言わんばかりに、腹部にビームを暗いベルガ・ギロスが爆散する。今のはゲルググの攻撃じゃない。

ベルガ・ギロスから見て十二時方向――砂の崖上で、その景色の一部が取り払われる。あれは光学迷彩シートか。


そこから現れたのは、ガンダムSEEDに登場する量産型MS【ゲイツ】。色は白……隊長機カラーですか。

ゲイツは斜面を滑り下りながら、上方へと退避したゲルググへけん制射撃。しかし、その背中をまた別のビームが貫く。

それを成したのは砂中から飛び出し、笛型ビームライフルを持つコブラガンダム。機動武闘伝Gガンダムのモビルファイターだね。


名前の通りコブラの如き形態を持ち、それで砂煙に潜んでいたらしい。まさにやってやられ……バトルロイヤルのだいご味だ。

コブラガンダムは砂を滑るように這(は)い、既存のMSやホバリングとは別次元の機動性を発揮。

獲物を狙う大蛇に対し、振り返ったゲルググはライフルを捨て、背部のビームナギナタを取り出し、ツインセイバーを発振。


手首ごと回転する刃……それを振りかぶりながら突撃し、スモースカートをパージ。

そのままコブラガンダムへ叩きつけるも、しっぽで振り払われてしまう。でもそれでいい。

突撃の勢いを一瞬殺すだけで十分だった。コブラガンダムは身をくねらせながら、すぐに向き直りビーム乱射。


一発を左腕に直撃させるも、それに構わずゲルググは唐竹一閃――勢いをつけた一撃は、コブラガンダムのボディを真っ二つに断ち切り、爆散させる。


『第一試合、勝者――ドイツ代表、ライナー・チョマー。四ポイントを獲得しました』

「お兄様、あの方も世界大会常連でしたね」

「そうだよ。ドイツのライナー・チョマー……強敵だ」


そして第二、第三試合と続き……山岳地帯で肉弾戦に飛び込む、アビゴルの改造ガンプラが吠える。

アビゴルは機動戦士Vガンダムに登場する大型MS。しかし凄い……ギラ・ドーガのビームマシンガンを物ともしない装甲。

世界大会レベルのガンプラを、徒手空拳で貫く豪腕。丸みを帯びた、筋肉を思わせるふとましいボディにふさわしい力強さだ。


さすがはタイ代表、実力派で知られるルワン・ダラーラだね。武器はほとんど使わず、肉弾戦のみでぶっ潰したよ。


『第三試合、勝者――タイ代表、ルワン・ダラーラ』


ルワン・ダラーラはガンプラを回収し、勝利の喜びをその体で表す。まばゆいライトにかざされたアビゴルバインは、誇らしげに輝いてた。

その単純だけど確かなパフォーマンスに、会場中が歓声に包まれる。いいねいいね……僕も早くあそこへ飛び出したい!

それで新作のAGE-1を見せつけるんだ! 明日からだけどね! 今日はやっぱり予定通りだけど!


……なお、リカルドもこんな感じで勝利しました。二日酔いなのに? そりゃあリカルドだもの。

二日酔いでもその実力派折り紙つき。むしろふらふらしてたからか、フェニーチェの機動もいつも以上に軽快だった。

まぁ、『危なっかしい』とも言うけどさ。それより問題は第七試合、出場するある選手が原因で、緊迫感が二乗する。


この試合はもっと近くで見たかったので、リイン達を連れてアリーナへ移動。観客席上の、VIPっぽいフロアというか。

他の選手達も……ニルスも同じくで、先にきていたニルスはこちらにお辞儀してきた。


『ただ今より、第七試合を始めます』

「ニルス、昨日はどうも」

「いえ、こちらこそありがとうございました。……やはり、気になりますよね」

「そりゃあもう」

「……昨日もお聞きしましたけど、本当に親しいのですね」

「ボクというよりは、父がですけどね。その縁でよくしてもらっているだけです。それよりも始まりますよ」


そう、ついに出てくる。カルロス・カイザーを倒したファイター……深呼吸し、改めて感覚を研ぎ澄ます。

遠くではあるけど、五百メートル圏内は僕の知覚範囲内。十分にフィールドの様子は捉えられる。


≪BATTLE START≫


バトルの舞台は、遮蔽物のない宇宙空間。その中をジ・O、ガンダムスローネツヴァイ、ガンダムヴァサーゴが突き進む。

狙いは当然、アイラ・ユルキアイネン――キュベレイパピヨン。


『ここは一時休戦だ!』

『あぁ、まずはアイツだ!』

『カイザーを倒した実力、見せてもらおうか!』


やっぱりかー。全員協力し、ダークホースであるアイラ・ユルキアイネンを潰しにかかった。


「……恭文、あれって負けフラグ」

「りんの言いたい事も分かるけど、僕でもああするよ。先を見越すと、アイラ・ユルキアイネンとキュベレイパピヨンの能力解明は必要だ」

「この場だけの話じゃないと」

「まだ負けが許される状況だからこそ、だね」


それでも決して低くはないリスクがある。勝ち残らないと……だから、二位や三位なんて当然ない。

一つのピリオドを落とすって事は、その分次に勝利する必要性が倍増しになるのよ。八十人以上のところを、十六人に絞るしね。

でも、それでもと捨て石を覚悟した。それを知ってか知らずか、パピヨンはりん粉を吐き出す。


きた、見えないファンネル……さすがは世界大会出場者というべきか、すぐに回避行動を取った。

更にジ・Oが、右肩に搭載した小型ランチャーから砲弾発射。それはさほど進まずに破裂し、宇宙空間に煙幕を作る。

一気に百メートル範囲へ広がる、塗料も含んだ煙幕だ。なるほど、あれでファンネルを見つけようって事か。


しかし、そこで嫌な予感が突き刺さる。しかもそれは既視感のあるものだった。カイザー戦……いや、違う。

あの時生で見ていたけど、カイザーは回避すら許されず潰された。これはもっと前……最近また、感じたもの。

そう、感じたものだ。そこで思い出したのはオーギュスト・クロエ……なぜか知らないけど、パピヨンとオーギュストがかぶって見える。


そして回避先に回りこまれたのか、次々と見えないファンネルに撃ち抜かれていくガンプラ達。


「はぁ!?」

「なんですって!」

「馬鹿な……!」


千早とセシリア、ニルスが驚くのも無理はない。グレネードでの煙幕に触れる事もなく、それぞれの回避先へ的確に回り込んだんだから。

カイザー戦での相対距離、及び着弾ラグを考えると、見えないファンネルはファンネルミサイルの類だと思う。

UC世界ではミノフスキー粒子のせいで、いわゆる誘導ミサイルが使いにくいのよ。


でもパイロットの意思に応じて動く、ファンネル兵器なら違う。それは初代から証明されている。

それを応用し、オールレンジミサイルとしたのがファンネルミサイル。でもファンネルミサイルである以上、それは物質だ。

物質が動く法則には逆らえないし、計算通りの速度ならば煙には大半がツッコむはず。


それを避けたって事は……爆散していくガンプラ達、その姿にりん達も圧倒され、千早も身震い。ただ違うのは、僕とリインだった。


「……恭文、さん」

「気づいた?」

「はいです。あの、『動きを読まれて先回りされ続ける感覚』……とても、覚えがあるのです」

「僕もだよ。だとしたらアイツは」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


今年は幸運な事に……本当に、幸運な事に夏休みが得られた。エイミィやカレル達と一緒に、ガンプラバトル選手権を観戦。

こういうものは余り興味を持たなかったんだが、恭文が出るとなれば話は別だ。

最近世界レベルのファイターとして、テレビ出演もしたからなぁ。すっかり立身出世したというか。


……だがそんな中、突如現れた蝶(パピヨン)に顔をしかめる。ガンプラの事は、正直よく分からない。

だがあれを空中戦とするならば、少し引っかかるところがあった。恭文の試合はまだだと言うのに、妙に緊張してしまう。


「クロノ君、どうしたの」

「パパ、まだかなー」

「まだかなー」

「二十試合もあるんだ、気長に待とうか」


カレルとリエラをなだめつつ、改めて画面を……今流れているダイジェスト映像を見やる。


「確か今勝った青緑の機体、世界大会優勝者を瞬殺したはずだな」

「そう言ってたね。でもあれ、なに? 身じろぎ一つしてないし」

「恐らくは不可視の誘導攻撃だろう。あるだろ、自分の姿や弾丸を消したりする魔法が。
だがそれより恐ろしいのは、あの機体……使っている少女の反応速度だ。相手方も不可視の武器なのは見抜いて、対策を整えていた。
だがそれが発動し、効力を発揮する前に範囲外からう回し、攻撃を当てたんだ。むしろ速すぎると言ってもいい」

「恭文くん張りに勘の鋭い子って事?」

「かもしれん。あと……もしもの話、だが」


相手の攻撃やその範囲が『予め分かっていた』としたらどうだろう。僕は……いや、会場にいるであろう恭文とリインも感じているはず。

そういう反応速度を持つ相手、僕達は知っているじゃないか。こんなとんでも選手がいる中、二人は本当に勝てるのか?


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


イオリくんの家に上がらせてもらい、お母さんとリビングで試合中継を観戦。

まぁお母さんはほぼ流し見状態だったんだけど。イオリくん達の試合以外は興味がないみたい。

でもわたしはちょっと違う。セシリアさんにいろいろ教わったからか、どの選手も凄いんだって分かるの。


わたしなんて遠く及ばないほどで、一つ一つの挙動に見入っていた。ガンプラにも、バトルの動きにも、本気が感じられて。


『ふ……甘いですわ!』

「あぁ! あの子!」


第九試合――セシリアさんがストライク劉備ガンダムで出たら、お母さんのテンションが上がった。やっぱりいろいろ思うところはあるみたい。

ストライク劉備はジグザグ機動なアッシマーと対じ。ビルの合間を三角跳びで一気に突き抜け、放たれたビームライフルを全て避ける。

そうして不用意に飛び込んだアッシマーに接近し、右の鋼龍刀で唐竹一閃。円盤型のボディをたやすく両断し、そのまま斬り抜ける。


「ああもう、なにやってるのよ! ほら、他二人もその子をやっちゃ」

「……こほん」

「……あ」


セシリアさんに恨みはあるらしく、アグレッシブになったお母さんへ軽くせき払い。するとお母さんの勢いは見る見るうちに停滞する。


「お母さん、セシリアさんはわたしの尊敬する先生だと言う事、お忘れなく」

「……はい、ごめんなさい」


そんな他二人はえっと……ゼダスと、クランシェだよね。ガンダムAGEに出てきた。

というか、セシリアさんと修行してガンダムの機体、ざっとでも勉強したから。一応トランザムも大会の後に教わった。

再修行……大変だったから。その、本当に。レイジくんですら真っ白になるほど激烈だった。


しかもあれがガンプラ塾では普通だと言うから……イオリくんとレイジくんは感謝していたけど。

再修行によるパワーアップだけじゃないの。セシリアさんは、二人に示してくれたんだと思う。

ユウキ会長はあんな事をガンプラ塾でずっと……ずっとやって、強くなっていったんだって。


それで、わたしもそれに気づいてよく分かった。確かに頑張っているのも、一生懸命なのもイオリくんだけじゃない。

みんなガンプラが好きで、バトルが好きで……わたしが出た大会の出場者さんだってそう。

それも自分でバトルして気づいた事。やっぱりわたしはなにも分かってなかったわけで。


それは今、あの場所で懸命に戦っている人達も同じ。そうじゃなかったら、あの場所にいるはずがない。

……ゼダスは黒いボディを夜闇に紛らわせながら、ビルの陰に隠れてストライク劉備の背後へ。

右のゼダスソードを袈裟に振るうも、斬撃は空振り、地面に剣閃を残すだけ。……ストライク劉備は宙返りして、斬撃を回避していた。


更に両刃を逆手に持ち、その切っ先をゼダスの両肩――胴体部へと突き立てる。そこに飛ぶクランシェの射撃。

クランシェは飛行形態に変形して、頭上から強襲。先端部のドッズライフルから何発もビームを放つ。

でもストライク劉備は剣を抜きながらまた宙返り。斬撃を避けつつ錐揉み回転し、鋼龍刀二本を投てきする。


クランシェのビームを食らい、ゼダスが爆散する中、クランシェは刃を胴体部、更に先端部近くに食らい、バランスを崩しながら変形解除。

人型に戻りつつ墜落する。それでも起き上がり戦おうとすると、その目の前には……あの鎧でできたドラゴン。

ストライク劉備は滑るように着地し、鎧を装着解除。そのまま突撃させていたの。そして龍は赤い眼光をたぎらせながら、砲弾連続発射。


中破状態のクランシェは避ける事もできず全弾食らい、そのまま派手に爆発する。


「やった!」

『BATTLE END』


勝利が確定した瞬間、会場は沸き上がり拍手喝采。数十メートルはあるベースから粒子フィールドが消えて、全員がセシリアさんに注目する。

まるでセシリアさんは……ううん、あの場に立っている誰もがヒーロー扱い。この拍手は勝利者だけでなく、参加者全ての健闘を称えるものだった。


『第九試合――勝者、イギリス第二ブロック代表セシリア・オルコット』


やっぱりセシリアさん、凄い人なんだ。今更そんな人にいろいろ教わった事とか、幸運だったと感動する。

また改めてお礼をしないと。そうだ、静岡に行く時、差し入れにピクルスを持っていこうっと。

この間パパが作ったのを食べて、とても気に入ってくれたから。うん、そうしよう。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


こちら翠屋……今日は定休日。なので家でのんびりしている中見るのは、夏の風物詩となったガンプラバトル選手権。

でも今回はいつもと一味違う。お兄ちゃんや忍さんも雫と帰郷し、みんな一緒に中に映る恭文に注目。


「恭ちゃん恭ちゃん! ほら、雫も!」

「落ち着け。しかしアイツ、世界大会に出場とは……いや、本当に良かった」

「魔導師の武術大会、トラブル解決でことごとく駄目だったものねぇ。というか恭文君、どうして誕生日間近になると必ず最悪ゾーンなのか」

「まぁ、お兄ちゃんだし」


雫はちょっと膨れながらも、足をぱたぱた……とっても楽しそうなのは、恭文がいろいろやらかしているせいだと思う。というか、そろそろ私も頑張ろう。


『さて、日本第二ブロック優勝者がさっ爽登場! 先日の生すかゲスト出演も印象深い、蒼凪恭文・蒼凪リイン組です!
この組は地区予選にて一回戦から三回戦まで、世界レベルの初出場者達を相手取り大奮戦!
決勝戦ではあの如月千早さんを破った事で、更に知名度を上げる事となりました!』

『ついた二つ名は蒼い幽霊――キララも地区予選の試合はチェックしましたけど、幼い外見に騙されたら間違いなくアウト!
確かでありながら狡猾(こうかつ)な戦闘センスと戦術は、ニュータイプにふさわしい動きです! 果たして幽霊の猛攻は世界に通じるのか!』

「……通じるに決まってるよ、お兄ちゃんだもん」


それで雫は軽く膨れて、足を止める。そんな様子が可愛らしくほほ笑んでいると、恭ちゃんや忍さんも同じらしく頭を撫で始めた。

ん、そうだね。戦う舞台は予定と違うけど、強いって証明するのは同じだもの。だから恭文は……ほんと、とても楽しげだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……間に合ったー! うぅ、直前でお仕事が入らなかったら……でも久々な場所でうたえたし、それはそれでOKかなー。

とにかく会場へ飛び込み……これは立ち見だね。観客席の最後方で、ゆうひと一緒に手すりを掴む。


「ゆうひ、ほら! 恭文くんとリインちゃんだよー!」

「分かっとるって。でも二人とも、また立派になって……出会った頃は想像できんかったなー」

「うんー。でも嬉しいな……うん、嬉しい」


やっぱり恭文くんは私にとってとても大事な子で、I LOVE YOUをいっぱい言いたい子で……それは、変わらなかった。

もう自分でも驚くくらいに首ったけ。だからお休みも調整して、こっちへきたんだけど……二人とも、頑張ってね。

ガッツポーズで応援すると、恭文くんがこっちへ振り向く。距離はかなり離れてるのに、気づいたのかな。


嬉しくなって手を振ると、とても驚いた顔。うんうん、その顔をしてくれただけで急いだ甲斐があったよー。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


世の中平和だ……平和すぎて出番が少ないと嘆く事も忘れてしまう。とにかく特殊車両開発部は本日も通常運行。

そう、そのはずだった。しかし今日は我らが弟弟子が世界に喧嘩を売る大事な日、なので仕事の手は一旦止めて試合を観戦していた。

いや、ほんとよかった。IMCSが狙ったようなトラブル続きで、結局出場できなかったからなぁ。


≪主、涙は拭いた方がいいかと≫

「すまん……まぁ、許してくれ。いや、ほんと頼む」

≪ボーイ、よかったな。ただあれだ、リトルガールの事はそろそろなんとかするべきだと思うぜ≫

「だねぇ。リインちゃん、義理の兄妹ってカミングアウトしちゃったしさー。さて、使う機体はなにかなー」

「……これが終わったら仕事だからな。分かってるな、お前ら」

「分かってるってー。局長は今年定年なのに、気が短いなぁ」

「お前らに後を任せると思うと、いても立ってもいられないせいだろうなぁ!」


あぁ、それは分かる。その場合主任なヒロが昇進する可能性もあるわけで……おぉ、恐ろしい恐ろしい。


『――Plaese set your GP-Base』


ベースから音声が流れたので、やっさんや他出場者は手前のスロットにGPベースを設置。

ベースにPPSEのロゴが入り、更にパイロットネームと機体名が表示される。


『Beginning【Plavesky particle】dispersal. Field――Ocean』


ベースとやっさん達の足元から粒子が立ち上り、フィールドとコクピットを形成。今回は海のど真ん中か。

遮蔽物もないし、真正面からどれだけやれるか……ガンプラの地力が試されるな。


『Please set your GUNPLA』


選手達は指示通りガンプラを置いていく。プラフスキー粒子がガンプラに浸透――スキャンされているが如く、下から上へと光が走る。

カメラアイが光り、首が僅かに上がった。粒子がやっさん達の前に収束。メインコンソールと操縦用のスフィアとなった。

モニターやコンソール、計器類は淡く青色に輝き、アームレイカー型操縦スフィアは月のような黄色。


コンソールにはガンプラ内部の粒子量も逐一表示され、両側に配置された円系ゲージが忙しなく動く。

だがやっさんが置いたガンプラは……あのブラックを基調としたカラー、それに銃火器の数々は。


「サリ」

「あぁ、Hi-νガンダムだ。クロスボーンやAGE-1じゃない」

「まさかフェイトちゃんがドジで壊したとか」

「いや、第二ピリオドを考慮したんだろう。実際ほれ、さっき出てきたアイラ・ユルキアイネンが」

≪あの見えないファンネル使いですね。……ちょっと待ってください、主……それでは、その≫

≪ボーイ達の事だ、間違いなくやらかすつもりだぜ。そのために本命は第二ピリオドまで取っておくわけか≫


そのつもり、らしいなぁ。つまりだ、やっさん達は第二ピリオドで潰すつもりなんだよ、アイラ・ユルキアイネンを。

実際そういう……戦力を温存しているようなファイターは、ちらほらと見受けられる。だがわりとリスキーでもある。

基本は勝者のみがポイントを得られる前半戦、敗北は即決勝トーナメント脱落へ直結しかねないわけで。


まぁそれを踏まえても戦いたいんだろうなぁ。功名か、純粋な好奇心かどうかはともかく。


「サリエル、第二ピリオドとはなんだ」

「世界大会は今日だけで全部決着するものじゃありません。今やっているのはあくまでも予選。
多種多様な競技で勝利ポイントを稼ぎ、その合計から上位十六名を選出。そこで決勝トーナメントが行われます。
……今日は四名ずつのバトルロイヤルですが、明日の第二ピリオドは全員参加でやります」

「全員、参加? この人数でか」

「世界大会の目玉ですね。選手の性格もかいま見えて、カオスで楽しいんですよ。
ただそんな状況なので、強力な機体は必ずマークされ、潰される危険も孕んでいます」

「さっき局長もあ然とした、アイラ・ユルキアイネンみたいにね。だからやり合うまでは温存するつもりなんでしょ」


ヒロの言葉で局長が冷や汗を流す。局長も付き合いはやっさんという人間を、それはもうよく知っている。だからこそ納得するが、呆れもしていた。


「おい、まさか蒼凪の奴は」

「第二ピリオドでアイラ・ユルキアイネンを潰すつもりだね」

「馬鹿じゃないのか、アイツ!」

「局長、やっさんが馬鹿じゃなかった時なんてありましたか? 俺の知る限り一度もない。それに」


アイラ・ユルキアイネンに挑むって辺りで馬鹿げている。俺もそうだし、ヒロや局長達もさっきの試合であ然としたんだぞ。

だが……やっさんとリインちゃんは、余計に感じ取ったんだろうな。パピヨンから発せられた異様な気配とデジャヴを。でもそれだけじゃない。


「自分が世界一強いって証明する戦いですよ、これは。……だったら現時点で一番強い奴に挑まなくて、どうするんですか」

「決勝トーナメントで当たるとも限らないしねぇ。つまりはそういう事よ」

「……確かにお前が言う通りだな、アイツらは馬鹿だ」

「えぇ」


でもこれも遊びだ。多少の狡猾(こうかつ)さは必要かもしれないが、それだって……やっさん、リインちゃん、気張れよ。ここが踏ん張りどころだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


両手でスフィアを掴むと、ベース周囲で粒子が物質化。機械的なカタパルトへと変化。

同時に前・左右のメインモニターにカタパルト内の様子が映し出される。


≪BATTLE START≫

「蒼凪恭文」

「蒼凪リイン!」

「Hi-νガンダムインフラックスアメイジング――目標を駆逐する!」


アームレイカー型スフィアを押し込み、カタパルトを滑りながら空へと飛び出す。うーん、さすがはインフラックス。

アランに譲ってもらってから、ちょこちょこ調整しているけど実にいい感じ。そして背部にセットした【アメイジングレヴ】も稼働好調。

なにより……タツヤ達が驚いているかなーって思うと、実に楽しいよねー! あとはトオル、おのれもちゃんと見てるよね!


インフラックスとアメイジングレヴを持ちだしたの、サインでもあるんだから! ていうかリインと歌唄に気遣われたわ!

それじゃあ派手に暴れてやる……そう、派手に暴れて、世界大会に僕達の名前を刻んでやる! おっしゃー!


◆◆◆◆◆


RX-93ν-2I Hi-νガンダムインフラックス

アラン・アダムスがガンプラ塾機能停止後に製作した、『HGUC Hi-νガンダム』の改造機。

アランの(その時点での)最高傑作であり、パートナーであるユウキ・タツヤが使用する事を前提とした機体。

機体仕様はタツヤが使用していた、Hi-νガンダムの改造機『Hi-νガンダムヴレイブ』を参考にしている。


頭部の一部及びバックパックの形状、カラーリングが変更されている以外はHi-νヴレイブとほぼ同型仕様。

バックパックにはファンネルの代わりに、外付けのビームキャノン二基を搭載。

更に独自装備として【インフラックスウェポンバインダー】をニ基装備。


これは火器の収納ケースとしての機能に加え、Hi-νヴレイブ以上の機動性を生み出す強化ブースターにもなる。

前述の通りタツヤ使用が前提だが、複数火器の同時運用に長けた恭文、あと一人の友人(コシナ・カイラ)もその性能を百パーセント引き出せる。

三人が【マーキュリーレヴ】の扱いに成熟した結果であり、アラン自身も認識している事実である。


そのためインフラックスは恭文の手で運用され、タツヤ&Hi-νガンダムヴレイブと戦うために作られた。

これはアランが『自分(ビルダー)はメイジン候補のビルドファイター(タツヤ)にとって必要か』という疑問に、答えを出すためであった。

だからこそタツヤの最高傑作であるヴレイブを模し、タツヤのビルダー能力にも真っ向から挑戦状を叩きつけたのである。



(Memory42へ続く)





あとがき


恭文「というわけでバトルダイジェストから、HP版ではインフラックスが初出撃。というところで次回です。
みんな、おまたせー。いろいろまとめてたら新型AGE-1の出番は第二ピリオドからになったよ」

フェイト「あとはセイ君の新しいガンプラも……と、とりあえずインフラックスだよね」

恭文「練習機とするにはぜい沢すぎる仕様だよ。というわけでお相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。……というか、予選でどうして使わなかったの!?」

恭文「自分の技術レベルを上げるためじゃないのさ。インフラックスの完成度でまた衝撃を受けてたし」


(インフラックスも凄い子です)


恭文「ちなみに練習機はもう一つあって……そっちはガンダムレオパルドの改造機体なんだけど」

フェイト「それは、もしや」

恭文「大丈夫、上手くアレンジするから」


(大事ですよね、アレンジ)


恭文「それはそれとして、みんな……お誕生日メッセージありがとうございます」

フェイト「ありがとうございます。あおとかもガードしてくれて、平和に終わったよね」

恭文「……でもまだまだ後夜祭だー! みんな、僕の誕生日をダシに楽しく遊んでいいよー! でも後片付けはしっかりねー!」

庭先のみんな『おー!』

フェイト「ダシっていいの!?」


(るろうに剣心リスペクトですね、分かります)


フェイト「それでえっと、今回は尺の都合上削られたレイジ君とアイラちゃんの出会いが」

恭文「先に連なる描写もちょいちょい交えつつ、だね。あとセシリアも僕と同じ調子で、まだまだストライク劉備ガンダムは出番が」


(とりあえずエールやランチャーなどの形態、一つくらいは出したいです)


恭文「ビルドファイターズはトライと違って、世界大会本戦でのSD枠はなかったからなぁ。そういう意味でもセシリアは頑張ります」

フェイト「それで能ある鷹は爪を隠す?」

恭文「そうそう。フェイト、よく分かったね、おまんじゅうをあげよう」

フェイト「ありがと。……って、子ども扱いしないでー! うぅ、私だって勉強してるのー!」


(そしておまんじゅうを受け取った上でぽかぽか……閃光の女神、今年も相変わらずです。
本日のED:ROMANTIC MODE『DREAMS』)


恭文「なぜ本日のEDがガンダムXOPだったか。それは最初インフラックスではなく、ガンダムレオパルドが出る予定だったから」

リイン「でもタツヤさんや本編に関係ある方がいいと思って、変更したのです。ちなみにリインももうバリバリに動かせるですよー」(インフラックスを抱きながら)

アラン「なんと……! 君も多数の火器を同時に扱えるのかい!」

恭文「リイン、僕と違って多弾生成とかもバッチリだしね。僕も……多弾生成できれば、ハイマットフルバーストを再現するのに」(涙目)

タツヤ「……再現しようと、したんですか」

フェイト「じ、実は。でもヤスフミはほら、連射もできるし」

恭文「一斉発射がよかったのー! ちくしょお……作者ー!」

フェイト「こうなるの……!」

タツヤ「納得しました! というか落ち着きましょうよ! 涙目っていうか血涙じゃないですか!」


(おしまい)










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あきゅろす。
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