小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
幕間そのいち 『男の子には、くだらないと思えても譲れない意地がある』:1
≪みなさん、いつもマスターの起こすトンデモ珍騒動を見捨てることなく、ご覧頂いて本当にありがとうございます。
私は、この物語『とある魔導師と機動六課の日常』の主人公である、蒼凪恭文のパートナーデバイス。古き鉄・アルトアイゼンです≫
「アルト、脈絡なくいきなり自己紹介するな。そしてなんだよトンデモ珍騒動ってっ!? 僕は特に何もしてないぞっ!!
・・・どうも。今ご紹介に預かりました、機動六課所属の嘱託魔導師。そして奇跡を呼ぶナイスガイ。蒼凪恭文です。
ちなみに、特技は電話越しでいきなり『くけけけけけけけっ!』と息継ぎ無しで1分ほど笑えることです・・・って、なんだこの紹介文っ!?
ちょっと作者、なに考えてるのさっ!? というか、このネタ痛い。猛烈に痛いからっ! なんでイメージCVでボケなきゃいけないのさっ!!」
≪気にしてはいけませんマスター。ファンは、こういう所で親近感を持って食いついてくれるんですから。
少なくともそんな奇跡を呼ぶナイスガイなんていう、マイトガイ○みたいな二つ名よりはマシです≫
「ほっといて。つか、こんなホラーチックな上に痛い事間違いなしなネタで親近感もたれても嫌だしっ!!
・・・まぁいいや、とりあえず説明はじめちゃおうか」
≪はい。・・・このお話は、いわゆる一つのサイドストーリーです≫
「今回は、時間を遡りまして僕が11歳の時の話。
僕とアルトが、局の嘱託魔導師認定試験を受けたときの話です。いや、あの時は大変だったね」
≪そうですね。本当に大変でした。マスターがあんなことするから。つーか、エロいですよあれ≫
「いや、僕は何もしてないからっ! エロ・・・かったかな?」
≪エロを想像したのはあなたでしょ? なお、この幕間と名づけたサイドストーリーに関して、一つ捕捉です。
マスター以上にヘタレで弱気で引きこもり思考な作者が、適当に思いついて適当に書くために、時系列などはバラバラだったりします。
ですが、ご安心ください。その辺りは私とマスターがこうやって、冒頭に説明を入れていくことで補完していきたいと思います≫
「・・・ということは、この手の話は今後も続けていくってこと? つーか作者ってそこまでなのっ!?」
≪本人はそう思っているそうです≫
「あとは・・・本編はあんな感じで平和に続きますけど、こっちはバトルありシリアスありでやっていくと思います。
なので、本編より先に色んなものが出ちゃいます。というか、出ていますので、その辺りを注意してお読みください」
≪それでは、話はここまでにいたしまして、幕間そのいちをお楽しみくださいっ!≫
「どうぞー!」
魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝
とある魔導師と機動六課の日常
幕間そのいち 『男の子には、くだらないと思えても譲れない意地がある』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・さて、嘱託魔導師というものについて、一応の説明をしておく。
簡単に言ってしまえば・・・非常勤。つまり、管理局からの要請があった場合のみお仕事をする魔導師である。
で、完全に管理局の中に入って仕事をするのは、職業魔導師と呼ばれている。
嘱託魔導師は、要請がなければ、基本的に犯罪行為以外の行動は自由って思ってくれればいいと思う。
ちなみに僕の友達の、高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやての三人も、局に正式に入局する前は、嘱託魔導師だったのだ。
そして、学校に通いながら、熱血魔法バトルアクションが似合う魔法少女をやっていたのだ。(細かいツッコミはスルーします)
なお、写真を見せてもらうと、この頃の三人はすっごく可愛いです。フェイトもそうだけど、はやてもなかなか。
それがどうして、あのお姉さんだけは魔王に・・・。
まぁ、そんな時の流れの残酷さはさておき、僕、蒼凪恭文も、一応非常勤の嘱託魔導師である。
・・・そうは思えないほど、クロノさんやはやてやゲンヤさんやカリムさんにこき使われてるけど。
当然、なりますって言って即なれるものじゃないので、試験なんていうのがある。
僕も、それをクリアしたからこど、脳天気で自由きわまりない平和な魔導師ライフが送れるわけで・・・。
今回は、その試験を僕と、パートナーデバイスであるアルトがどのようにクリアしたかを話そうと思う。
あれは、僕が11歳のときに時間を遡る。時期としては、夏。地球では、とても熱い日だったなぁ・・・。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『では、受験番号49番の方。氏名と出身世界をどうぞ』
通信から聞こえたのは、僕の良く知る年上の女性の声。・・・まぁ、今日はお仕事モードなので、真面目にやることにする。
「蒼凪恭文。出身世界は地球です」
≪マスターのパートナーデバイスのアルトアイゼンです。よろしくお願いします≫
・・・周囲には、生い茂る木々や、壮大な山々が聳え立つ。地球にも、自然いっぱいな所ならどこにでもある風景。でも、ここは地球じゃない。
時空管理局が所有する、某管理世界にある屋外演習場だ。と言っても、半径数キロっていう半端じゃない広さだけど。
師団クラスでの模擬戦用に使うって言ってたな。規模が大きすぎて想像出来ないよ。
『さて・・・ぼちぼち始めるよ。 心の準備はOK?』
もち、おーけーで・・・。
『神様へのお祈りは? 部屋の隅でガタガタ震える準備は? おもらしした時のためのパン○ースは?』
・・・よし。
「エイミィさん、あんたアホかぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
『ちょっ! いきなり試験関係者にその口の聞き方はないんじゃないのっ!?』
「そう思うならちゃんと仕事してっ! そんなこと他の受験者には言わないでしょっ!?」
『うん♪』
うわぁ、なんてにこやかな表情で言い切るんだよこの人。凄い笑顔だったさ。
・・・帰ったら殴ってやりたい。いや、クロノさんに怒られそうだけど。
『とにかく、儀式魔法の実戦から行くよっ!』
「はいっ!」
・・・あの事件が解決して、早くも数ヶ月。魔法と出会ってから・・・あとほんの少しで1年が経とうとしていた。
今、僕はここに居る。
戦いの中で手にしたのは、とても簡単なもの。自分の中の力と、大事に思える人たちと、今という時間。
だから・・・僕はここに居る。
その友達と一緒に居たいから。自分と、大事な人の『今』を守れるように。
そして、そんな時間を壊そうとする理不尽を、完膚なきまでに破壊できるように・・・。
もっと、強くなる。幸せな時間は、夢じゃなくて現実に変わったのだから。それを、また夢に戻さないために。僕のありったけで、守る。
というか・・・大好きで、一緒に居るだけで、話すだけで、幸せを感じる人が出来まして。というか、恋しまして・・・。
その人も魔導師なので、こう、追いかけたいというか負けたくないというか・・・とにかく、強くなって守りたいなと。
・・・まだ僕もその人も子どもだけど、これから一緒に大人になっていくんだし、きっと出来る。だから・・・魔導師を続けたいと、考えるようになった。
とにかく、今日この局所有の演習場に僕達は居る。
そう、僕・・・蒼凪恭文と、パートナーデバイスのアルトアイゼンである。目的は、時空管理局の嘱託魔導師の認定試験を受けるため。
今、その試験が開始されたばかり。
さて、気合いれていくよ。アルトっ!!
≪はい、マスターッ!≫
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「蒼凪恭文君。・・・推定ランク、空戦A+。使用魔法形式:近代ベルカ式」
「えぇそうよ」
「エイミィに対する反応を見る限り、なかなかにからかい甲斐のありそうな子ね。
・・・あら。彼、あの事件の重要参考人・・・というか、解決の貢献者だったのね」
私の隣りに居るのは、昔からの親友であるレティ・ロウラン。
彼女は今、手元の書類を見ながらそう口にする。私と同じ提督という立場で、今回の試験の責任者。
先日から私達の家に居候・・・実質的な家族になったあの子の資料を見ながら、感心な顔をしている。
「えぇそうよ。あの事件の黒幕を逮捕できたのは、彼の働きが大きいわ」
「それが縁で彼の保護責任者になったというわけ?」
「まぁ、そんなところね」
「・・・養子にしようとは考えていないの? フェイトちゃんの時みたいに」
「それも、考えたんだけどね。やめにしたの」
本当は、実質的じゃなくて『法律的に』うちの末っ子になってほしかったのになぁ。ちゃんと手続きを踏む準備までしてたのに〜。
「なら、どうしてそうしなかったの」
「あの子、うちのフェイトに夢中なのよ。それもすごい一途に」
「・・・あぁ、そういうことなの」
「そ。見ていて微笑ましくなるくらいなのよ? 姉弟になって、もし両思いにでもなったら・・・大変でしょうから」
今はまだ、フェイトも恭文君も子どもだけど・・・これから先、どうなるかなんてわからないしね。
そんなわけで、泣く泣く法律的に息子にするのは諦めたというわけ。
一応、法律的にも家の子になってみないかと、話もしたんだけど、感触がよろしくなかった。やっぱり、フェイトのことが気になったみたいで。
というより・・・フェイトを守れるくらいに強くなりたいみたいなのよね。もちろん、リインちゃんやヴィータさん達もなんだけど。
一途というかなんというか・・・。凄まじく一直線な子だわ。
「なるほどね。・・・あら、あの先生のお弟子さんなのね。ということは、結構やる子?」
「結構ね。でも、通常時の魔力量は平均レベルなのよ? ランクで言えば、Aもないわね。CとかBかしら」
怒ると、異常にポテンシャルが上がるけど。でも、それは魔力じゃない。主に思考力が。そして攻撃精度が上がる。常時クリティカルになる。
なお、私達の中ではそれは『修羅モード』と呼ばれているわ。その前段階が本気モードで、いつもが普通モードね。周りの空気の重さで変わるの。
「・・・そうみたいね。この計測数値から言って・・・なのはちゃんやフェイトちゃんの半分以下ってところかしら。クロノ君よりも低いのね」
本当に平均的。それが、魔力量だけを見た場合の恭文君の評価。これは、くつがえらないわ。
それで、無茶をしたとは言え単体では一度。リインちゃんとのコンビでは、危なげもなく二度オーバーSランクの魔導師を墜としたりしてるんだから。
あの人が認めた戦闘センスに関しては、たいしたものよ。本当に。
でも、一度目みたいな真似は絶対に許しませんからね? あなたがまた死にかけたりすると、フェイトやリインちゃんが泣くんですから。
「まぁ、あなたの推薦だから大丈夫とは思うけど・・・アレはなに?」
「・・・これは見なかったことにしてほしいわ」
儀式魔法、いちおうできるようになったけど・・・これはさすがにないわよね?
1・周辺に対しての強力な氷結魔法。・・・なんであそこだけ氷河期が来てるの?
クロノ、あなた一体何を教えたの。まんまエターナルコフィンの縮小版じゃないのよ。
2・フィールド形成魔法・・・ただし、範囲が狭すぎて、実質相手を閉じ込めることしか出来ない一種の拘束魔法になってしまっている。
今回は・・・巨木をまるごと一本囲んでしまった。あれ、どうする気かしら?
3・地面に対して魔力エネルギーを送り込み、周囲を隆起・爆発させる。爆発力がすごすぎて、偉い事になってるけど。
あ、これは成功例ね。もともと、使っている術のバージョン違いだから。
4・範囲型のヒーリング魔法。効果は非常に高い。ただし、入った人間を癒し尽くしてしまう、別の意味でのヒーリング効果を持ってしまった。
物は試しと仕事がたてこんでイライラしていたヴィータさんをあの中に入れた途端、どこかのおばあちゃんみたいな口調になったもの。
そして、私が飲もうと思っていたお砂糖ミルク入り緑茶を美味しそうにすすりだしたし。・・・今度クロノを入れようかしら。
なんだか・・・微妙だわ。いや、試験対策用にクロノが教えてたんだけどね。
でも、あれでも練習の時の数倍は上手くいってるはずよ? ・・・えぇ、本当に。
だからレティ、お願い。そんな微妙そうな顔で私や画面の中の恭文君を見比べないで欲しいわ。
「・・・だからこその近代ベルカ式なのね。使い手もまだまだ少ないというのに。というよりこの子・・・誘導弾撃てないのっ!?」
「そうなの、酷かったわよ? 完全に近接オンリーな資質なんですもの」
レティに言った通り、誘導弾みたいに、常に遠隔操作する必要のある術は使えなかった。
そんなわけで、教導していたあの人やヴィータさんは苦労したらしいわ。まぁ、楽しかったと口を揃えていたけどね。
「リンディ、もう一度聞くけど・・・大丈夫よね?」
「大丈夫よ。私の目を信じなさい」
・・・多分ね。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・・・泣いていいですか?
≪・・・大丈夫です。練習よりは上手く出来ましたから≫
「だって、これはひどいよ。酷すぎるよ」
今、僕の周囲は偉いことになっていた。
あちらこちらが凍り付いてたり。
木がまるまる一本妙な空間で閉じ込められてたり。
地面が隕石衝突の跡みたいに抉れてたり
一向に消える気配のないゆるーい気持ちになれる青いドーム状の空間があったり・・・。
・・・儀式魔性。相性悪いとは思ってたけど・・・ここまでなんて。一つ目と三つ目だけだよ、成功したの。
『・・・うん、儀式魔法四種確認できた・・・よ?』
「ハテナマークをつけないでぇぇぇっ! 泣くからっ! すっごい泣きたくなるからっ!!」
『あぁ、ごめんごめん。それじゃあ・・・一時間休憩に入るから、その後、戦闘技能を見るね』
「了解です」
≪マスター、午後こそはがんばりましょう≫
「・・・うん」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・あの後始末、どうしましょうか」
「自然に消えるわよ。というか、あれを全部直そうと思ったら、一時間じゃ足りないもの」
「それもそうね。しかし、あれだけ歪な才能の持ち主も珍しいわね」
「そうよ。教えていたヴィータさんがあまりのことに最初は頭を抱えていたくらいなの。ちなみに、あの人は大笑いしてたわ」
「でしょうね、あの人を見てるみたいよ・・・。
でも、儀式魔法はアレだけど、筆記試験は合格点。魔法知識も、戦闘以外の部分でもかなりのレベルね」
「えぇ、必死に勉強してたから」
もともと、魔法には興味があったから、そういうのも大きかったわね。それはもうすごい吸収力だった。
それに、クロノとヴィータさんにシャマルさんっていう優秀な家庭教師がつきっきりだったんですもの。
こうならないほうがおかしいわ。本人も、やる気満々だったしね。
ミッド文字とベルカ文字を丸々間違えて書いていて、0点を取ったこととかを考えると、成長したわ。
「・・・でも」
「レティ、そこは見てはだめ」
「ごめん、もう見てしまったから。・・・戦闘に関する対処方のレポート・・・ぶっ飛んでるわね」
・・・気のせいよ。そうよそうに決まってるわ。
「Q;『建物に立てこもっている犯人を確保するための戦略プランを上げてみよ』
A:『安全圏に逃げた上で、魔王お得意の長距離砲撃魔法で犯人が立てこもっている建物をじわじわと破壊。
これにより、建物ごと殲滅するか怯えさせて降伏させる。もしくはいぶりだされたところを潰す』
・・・あの子、どこの過激派? しかも、これじゃあ確保じゃないわよ」
「いやだわ、気のせいよそんなの。そんなこと書く人間が居るわけないじゃないの」
「いや、いるじゃないのあそこに。しかもあなたの被保護者よ?」
あぁ、三人がかりでも恭文君の過激な戦術思考は修正できなかったのよね。しかも、実際問題としてこれが意外と有効だったりして・・・。
とは言え、あのオーバーキル気味で博打みたいな戦い方は何とかして直したいわ。見ているこっちはヒヤヒヤしてるもの。
・・・どこからか『それは無理ですよ。というか、無理でした』っていう電波が届いたけど、気のせいよ。そうよ、間違いなく気のせいだわ。
「まぁ、午後の戦闘技能に期待しましょ。というか・・・これで決まるわね」
「そうね」
儀式魔法がアレな出来だったんですもの。筆記試験が優秀でも、やっぱりそうなるわよね。
・・・恭文君、アルトアイゼン、頑張ってね。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・さて、アルト。
≪なんですかマスター≫
「お昼・・・どうしよう?」
≪コンビニ・・・無さそうですしね≫
「いや、そうじゃなくてっ! なんといいますか・・・まだなの? お昼届けるとか言っておきながらまだこないし」
≪マスターに愛想を尽かして、他の男と浅瀬を繰り返しているんですよ≫
「あぁ、やっぱりか。ユーノ先生かな?」
≪いえいえ、三股くらいかけてますよ≫
「ホントにっ!? ・・・悪魔や魔王じゃなくて『悪女』と来たか。恐ろしいね」
「・・・ひどいよ二人とも。私が居ないと思って好き勝手に言いたい事言って」
「いやだなぁ。なのは用の召喚魔法だよ?」
「どんな召喚魔法っ!?」
「よく言うでしょ? 『噂をすれば影あり』って」
「だったらもうちょっといい噂してほしいよ」
「嫌だ」
「どうしてー!?」
・・・・僕の後ろに、バスケットを持って突然現れた栗色の髪をサイドポニーに纏めている、僕より若干身長が高いこの女の子は、高町なのは。
僕が魔導師になってから知り合った友達である。
なのはとは、魔法少女でリリカルなのにも関わらず、ジャン○システム的な友情の育み方をすることになったのは、今となってはほろ苦い青春の1ページである。
≪・・・ジャ○プシステムの話をするのはやめたほうがいいかと。マスター、ヤム○ャやピッコ○の位置付けですよ?≫
「あー、そうだね。うん、細かくコメントするとすっごい怒られそうだからやらないけど、やめとくよ」
「恭文君もアルトアイゼンも、何の話してるの? といいますか・・・あの遠くに見えるカオス絵図は一体・・・」
そこには触れないで欲しい。うん、心からそう思う。
僕の表情からそれを読み取ったのか、なのはは合点がいったように『わかった』と言うと、手提げ袋を差し出して、ニッコリと笑顔を浮かべた。
「恭文君、待たせちゃってごめんね。お昼、とびっきり美味しいの持ってきたから、一緒に食べよう」
「・・・一緒に?」
「うんっ! 一緒に食べたほうが楽しいよっ!!」
・・・・・教導隊の仕事はいいんかい教導官。
「大丈夫だよ、ちゃんとお休み取って来たし。といいますか・・・取らされた」
≪取らされた? またどうして≫
「なんかね・・・有休貯まってたんだって」
「・・・なのは、ワーカーホリックって言葉知ってる?」
もし知らないなら、なのはの将来だからちゃんと覚えておいた方がいいと思うよ。うん、というか・・・覚えろ。
「わ、私そこまで働いてないよっ!」
「じゃあどうして有休貯まってるのよ?」
「それはその・・・えへへ」
「・・・笑うな。頭痛くなってくるから」
まったく、この横馬は。なんで中学通ってるのに有休貯まるなんていう意味不明な状況になるんだか。
・・・まて。フェイトもマズイんじゃないのっ!?
「あ、そうだね。フェイトちゃんもお休み貯まってるって言ってた」
「・・・よし、絶対に休み取らせよう。そしてデートだ。ラブラブデートだ。いいや、訂正。ラブデートだ」
「なんで言い直すの?」
≪片思いだからに決まっているでしょ≫
「なるほど、恭文君だけラブなんだね。納得・・・」
ピシっ!
「痛っ! なにするのっ!?」
「なにするって、見て分からなかった? デコピンしたの」
「・・・恭文君、女の子には優しくなくちゃいけないんだよ? 優しくなかったら、フェイトちゃんも嫌いになると思うな」
なんか、不満顔でそんなことを言ってくるのは、高町なのは教導官。だけど、それは間違っている。
そう、僕は優しくないというのは間違っている。僕は・・・優しいのだっ! そう、優しいっ!!
「フェイトとリインに対しては優しいよ?」
「・・・私には?」
「いや、なのはに回す優しさないから」
「ヒドイよっ!」
≪高町教導官、仕方有りませんよ。恋の力は偉大なんです≫
そうそう、偉大なのよ? 色々とさ。
「好きな人だけに優しくしててもダメなんだよ? 女の子は、そういうとこちゃんと見てるんだから」
「なに言ってるのなのは。・・・冷たさの中にも、優しさはあるんだよ? ただ暖めるだけが、優しさじゃないんだよ?
優しさって・・・そんな簡単なものなのかな」
「なに遠い目であらぬ方向を見つめてかっこよく語っちゃってるのっ!? アレかなっ! 主人公気取りなのかなっ!!
私が元々の主人公だってこと忘れてるでしょっ!? ・・・とにかくっ! 恭文君はもっと私に優しくすべきだよっ!!」
「魔王に優しくする義理立てなんてない」
僕が微笑みながらそう言うと、なのはが『うー! 悔しいー!!』などとわけのわからないことを言って唸りだした。・・・どうしたんだろうね、アルト。
≪繊細なお年頃なんですよ。高町教導官でも≫
「あぁ、なのはでもか。納得」
「そんな微妙な言い方で納得しないでよっ! ・・・それより、早くご飯食べよ? このまま漫才続けてたら、お昼の時間なくなっちゃうよ」
「だね」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・僕達二人はその場になのはが持ってきたシートを敷き、そこに腰を下ろした。なんというか・・・ピクニックですかこれ?
とにかく、お弁当を広げて食べることになった。
お弁当は・・・・お、サンドイッチにから揚げ。ポテトサラダに、デザートにフルーツ。盛り付け・・・○だね。
とても綺麗だ。なにかのサンプル持ってきたんじゃないかって疑ってしまうくらいに。
とりあえず・・・玉子サンドを手に取って一口パクリ。
・・・お、美味しい。もうちょっと戦闘スタイルと同じで破天荒なのを想像してたのに、意外とちゃんとしてる。
さすがに喫茶店の娘だけあって、料理の腕はそこそこなレベルなんだ。
「えへへへ・・・見直したでしょ?」
「まぁ、少しね」
「えー、少しってなに? もうちょっと誉めてほしいよ」
「いや、なのはだからいいかなって」
「どういう意味っ!?」
冗談だからそんなに漫画みたいにプンスカしないで欲しいよ。
「・・・真面目に話すと、かなり美味しいと思う。なのは、ありがとうね」
「うんっ!」
「これだけ美味しかったら、午後の試験も頑張れそうだわ」
≪そうですね、味は大事です。それによって、食後の活力も変わってきますから≫
「そうだね。・・・うん、心からそう思う」
・・・以前食べたシャマルさんの料理は・・・すごかったからなぁ。
食べた瞬間にこれはって思ったけど、シャマルさんがシグナムさんや師匠からアレコレ言われて泣きそうになってたから・・・ついついやってしまった。
『そんな事無いです。美味しいですよ?』と言いながら師匠達の分まで完食して・・・。
そのまま笑顔で八神家を離れて、ハラオウン家に帰り着いたらもう限界だったらしく、しばらく動けなかったし。
≪しかし、そのおかげというべきか。シャマルさんからとても信頼されるようになったのは、いいことだと思います≫
「そうだね。シャマルさん、『作ってくれて嬉しいって言ってもらえた時、すごく嬉しかった』って言ってたよ」
「・・・過剰にコミュニケーションされることが多くなったけど」
・・・こう、なにかの拍子にくっつかれたりとかされるのが多くなった。
それで・・・シャマルさん、すっごくスタイルいいから、こう・・・柔らかいのが当たったり、いい匂いがしたり・・・結構毒だって。アレ。
「それで、恭文君がドキドキしてるのが楽しいって言ってたよ?」
「・・・あの人は。清らかな少年をたぶらかすなよ」
青い空に包まれ、なのは特製のお弁当のから揚げを食べながら、僕は心から祈った。
シャマルさんが、ショタコ○なんていう言葉で形容されるような、危ない人じゃないようにって。・・・結構本気で。
・・・さて、そうこうしている間にお弁当は完食。お昼休み終了の時間となった。
午後は実戦訓練。ようするに・・・暴れればいいのである。
「・・・恭文君。ちょっと違うからそれ。というか、暴れる必要ないよ?」
「えっ!?」
≪そうなのですかっ!?≫
「なんで二人してそんなに当たり前のことを否定されたみたいにビックリしてるの?
というか恭文君っ! そのあからさまにビックリしたって表情はなにっ!? 私がビックリだよっ!!」
そう、僕は驚愕と戸惑いが混じった表情でなのはを見ていた。
だって、今なのはが口にした言葉が、本当になのはから飛び出したものとは思えなかったから。
「だって、『砲撃の鬼』と呼ばれてあれこれぶち壊しまくっていると噂のなのはから、そんな言葉が出てくるなんて・・・」
「そんなことないからっ! といいますか、その噂どこで聞いたの?」
≪私とマスターの心の中から沸きあがりました≫
「それは『噂』っていうんじゃなくて、『嘘』って言うんだよ!」
「『嘘』は『真実』の始まりって言うでしょうが」
「始まらないからっ! そこから何も始まらないからぁぁぁぁっ!!」
ようするに、戦闘技能が基準に達しているかを見るそうなのだけど、不安だ。
僕はなのはやその他の猛者の方々のようには中々出来ない。・・・どこまでやれる? 儀式魔法がアレだったし、ここでがんばらないと。
「・・・大丈夫だよ」
「なのは・・・?」
「恭文君とアルトアイゼンは、あの人とヴィータちゃんが鍛えた古き鉄なんだよ?
最初に会った時とは比べ物にならないくらいに強くなってるんだから。楽勝だよっ!」
「・・・らしくなかったかな」
「そうだね。いつもみたいに、軽く行けばいいんだよ。大胆不敵に笑いながら、楽しそうにね」
いつも通り・・・か。うん、そうかも。
「よし、目指すは完全破壊だね。さぁちあんどぉぉぉぉっ! ですとろいっ!!」
「だから違うよぉぉぉぉぉっ! どうしてそうなるのっ!?」
≪おぉらいと〜♪ まいますたぁ〜♪≫
「アルトアイゼンもどうしてそんなに楽しそうに返事するのっ!? というか、止めてよっ!!」
『・・・さて、休憩の方は大丈夫かな? というより、大丈夫そうだね。もうすぐそっちに試験官が来るから、来たら早速開始だよっ!』
エイミィさんからの通信が来た。・・・もうすぐか。なお、若干表情に呆れたような感情の色が見えるのは、気にしないこととします。
『なのはちゃんは・・・試験官の使った転送ポートで、こっちに来ちゃっていいよ』
「いいんですか?」
『試験の結果、気になるでしょ?』
「・・・実は」
なんて言ってると、僕達の後ろに魔法陣が現れる。
そこから現れたのが試験官になる。さて、どんなごついのが・・・え?
出てきたのは・・・予想してたゴツイ筋肉隆々なおっさんではなく、一人の女の子。
まず目についたのは、長い金色の髪。普段はストレートのロングヘアーなそれを、ツインテールに纏めている。
その煌びやかな髪が、ルビー色の瞳とあいまって、なんとも言えない美しさを放つ。
ミニスカートの制服っぽい形状のスーツ。その上に羽織るのは白い清潔感に満ちたケープ。
そして・・・手に持つのは、闇を斬り裂く閃光の戦斧。
「・・・フェイト」
「ふぇ、フェイトちゃんっ!?」
そう、試験官として転送ポートから現れたのは・・・フェイト。フェイト・テスタロッサ・ハラオウンだった。
僕がお世話になっているハラオウン家の娘で・・・僕が・・・その・・・好きな人。ちなみに、もうすぐ片思いは2年目突入です。
まさかフェイトが試験官だったとは。というか、執務官ってそんなことまで出来るのっ!?
「・・・今回は特別にね。私が直に実力を見たいって思って」
≪またどうして? ・・・いや、理由は察しがつきますけど≫
「さて恭文君、こういうことになったけど・・・どうする?」
「そんなの決まってるじゃない」
眼前に立ちはだかるなら誰であろうと、ただ・・・斬り伏せるのみっ! さぁちあんどっ! ですとろいっ!!
「それはやめてあげてっ! でも、これなら大丈夫だね。それじゃあ・・・がんばってねっ!!」
そう言って、なのはは転送ポートに向かう。その時に少しだけフェイトと話して、そのまま・・・って、ちょっとまったっ!
「なに?」
「・・・ありがと」
「え?」
「ありがとって言ったの。お弁当、本当に美味しかった。作って持ってきてくれて・・・ありがと、なのは」
「・・・うんっ!」
そうして、なのははフェイトが使った転送ポートの魔法陣の上にのり・・・そのまま跳んだ。
残されたのは、僕とフェイトの二人だけ。そして、空気が変わった。
さっきまでのお気楽な空気は一瞬で消し去り・・・戦いの空気に。
「・・・それじゃあ、始めようかヤスフミ」
「だね。・・・アルト、いくよっ!」
≪はい、マスターっ!≫
そうして、古き鉄と、金色の閃光の女神との戦いが・・・始まった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「始まったわね・・・」
「でも、あの子大丈夫なの? フェイトちゃんに憧れてるんじゃ」
「あぁ、それなら大丈夫。戦闘思考がそれなんですもの。そして、あの人の弟子で、男の子なのよ?」
男の子の意地として、好きな女の子には簡単に負けたくないというのがあるらしいから。
最初に話すようになってからは、頭が回り過ぎて、達観し過ぎてる部分があるって危惧してたんだけど、そんな心配は要らなかった。
だって、あの子にもちゃんと、そういう人間らしい部分があるんだから。心許せる人に対してした見せないみたいだけどね。
「・・・納得したわ」
とは言え、実力差があるもの。瞬殺にはされないでしょうけど・・・なかなか難易度の高い試験になってしまったわ。
だからフェイトが試験官をやりたいって言った時には一度断ったのに。
まぁ、あの子が魔導師として仕事をしていけるかどうか、ちゃんと見極めたいって言われちゃったし、止めようが無かったのよね。
なんというか、恭文君に対してはやっぱり感情移入してるところがあるもの。
「恭文くんとフェイトちゃん、似てるとこありますしね」
「そうね」
二人の戦闘の様子を計測しながら、エイミィがそう言ってきた。私もそう思うわ。
二人とも、元の家族関係が複雑だった。だから、恭文君が保護されていた時から、どこか互いに通じ合うものがあって、よく話していたわね。
それで恭文君もフェイトに好意を持つようになったし、フェイトも恭文君をまるで弟のように思って・・・。
今、なんとも言えず悲しいすれ違いを感じさせる発言があったのは、気にしないで欲しいわ。
「・・・すみませーん。失礼します」
後ろから、声がした。私のよく知る声。
振り返ると、ジーンズ生地の薄手のジャケットに白いワンピースを着た私服のなのはさんが居た。
「恭文君とフェイトちゃん、どうですか?」
「なかなかに苦戦してるわ。まぁ、フェイトちゃん相手なんだから仕方ないけど」
恭文君もかなり強くなったとは思う。でも、経験差や魔力の資質の差がどうしても壁として立ちはだかる。
それを埋めるのは、決して簡単ではないわ。フェイトは、恭文君ともよく訓練していて、やり口も知っているわけだし。
でも・・・フェイトも、簡単には行かないはず。事件後は執務官の試験に集中していたから。
そのせいで、クロノが試験対策に何を教えてたかは知らないはず。というより、私や皆も儀式魔法以外は知らない。
フェイト、今までと同じと思っていると・・・痛い目見るわよ?
「・・・恭文君、大丈夫ですよね?」
「今のところギリギリかしら」
「そうですか。・・・なら、よかった」
「あら、やっぱり心配だったの?」
「はい」
なのはさんは、恭文君とは最初は仲が悪かったから、その分どうしても感情移入しちゃうのよね。
『せっかく仲良くなれたんだから・・・』と言わんばかりに。
「でも、さっきは随分と意地悪されていたみたいだけど?」
「恭文君、ひねくれている所がありますから。だけど・・・」
「だけど?」
「最近、私のことを『好きな友達の一人』って言ってくれるようになったんです。
私、それがすっごく嬉しくて・・・」
本当にうれしそうな表情でなのはさんが呟く。・・・そうね、いい事だと思うわ
今までだったら、そんなこと思わなかったでしょうし、口になんて絶対にしなかったはずだもの。
「あら、あの子結構プレイボーイ? エース・オブ・エースのあなたにそんな表情をさせるなんて・・・」
「あの、別に恭文君とはそういうのじゃないですっ! ただの友達ですからっ!!」
こんな会話をしながらも、画面の中のあの子達の戦いは、終幕へと向かい始めている。
・・・さて、今までのところフェイトの優勢は変わらないけど、どうなるかしら?
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