小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説) ティアナ脱走・六課崩壊ルート 同人パイロット版 第1話 『信じていいか、分からないのよ』 新暦七十五年――地球暦なら二〇〇八年。去年、世界中の人々が行動不能になるという大事件が発生したけど、世の中は一応平穏。 でもみんなは知らない。誰もが崩れ落ち、明日を諦めてしまう中、懸命に戦い続けた守護者達がいた事を。 未来、笑顔、空、意味、覚悟、希望――それぞれが描いた夢と未来の形、そして『なりたい自分』と一緒に世界を救った、小さな守護者達。 私は最初、そんなみんなの戦いを最初は信じられず、止めようともした。管理局に預けてくれれば問題ないとも言った。 でもそれは間違いだった。あの子達がやっていたのは、どこまでいっても助け守るための戦い。 夢のたまごが見えて、手を伸ばせて……なにより、失われかけている夢を助けたい、本気でそう思えるあの子達でなければいけなかった。 しかもみんなはただ救っただけではなく、繋がる事で可能性も示した。人が分かり合うのはとても簡単で、誰もこころを通して繋がっていると。 だから世界は少しずつ、変わり続けていた。……人々は知らない、そんな小さな英雄達がいる事を。 その子達の原動力が義務感でもなければ、責務でもなく……とてもシンプルな正義であるという事を。 だけど感じてはいた。だけど、変わらない事もあって……それは私達一人一人の課題。 感じているなら、時間はかかるかもしれないけどきっと育てていける。たまごを温めるように、未来へ続く夢の種を。 ……あれから半年。守護者達は思い出深い学びやから旅立ち、それぞれの道を進む。 ある子達は、先輩達からその称号を受け取る。ある子達はそんな後輩を心配しながらも、穏やかに学園生活を過ごす。 ある子は見失いかけていた夢をもう一度追いかけるため、広い外国へ旅立ち……そしてある子は、再び戦いの中へと飛び込む。 というか、私達が巻き込んでしまったのかもしれない。……それを申し訳なく思いながらも、ここから物語は始まる。 とても情けなくて、悲劇というには同情の余地がなく、喜劇というには笑えない……そんな、崩壊の物語が。 魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝 とある魔導師と彼女達の崩壊の非日常・同人パイロット版 第1話 『信じていいか、分からないのよ』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 機動六課……本局内でも選(え)りすぐりのエリート、いわゆるハラオウン一派が中心となってできた部隊。 そんな部隊に友人のスバル・ナカジマと入って、二か月やそこらが経過した。……正直、いろいろと威圧されているところがある。 それでも日々の仕事はこなさなくちゃいけなくて……今日は六課所有のヘリへ乗り込み、前線メンバー総出で出撃。 目的地は郊外にあるホテル・アグスタ。そこで行われる、古美術品を扱ったオークションの警備に当たる。 そんなヘリの中、副隊長なフェイトさんが私達に軽く状況説明。 「先日のガジェット襲撃、そこに出てきたIII型から、ジェイル・スカリエッティのネームプレートが出てきた……んだけど」 「本人が入れたものかどうかは確定じゃあ、ないんですよね。指紋などの証拠もでなかった」 「そうなの。スカリエッティ自体は有名な重犯罪者だし、更に言えば本人は度重なる局の追撃をかわし逃亡中。 そもそもこの状況で名乗りを上げる理由……まぁ、なくはないんだけど、ほとんどないから」 「と言いますと」 「ティアナ、少し静かにしろ。テスタロッサが話しにくい」 そこでシグナム副隊長が、ぶ然と制してくる。……しまった、ついつい気になっちゃって。 「すみません」 「いいんですよ、シグナム。ティアナは執務官志望ですし、捜査員の観点からも気になるのは当然ですから。 ……理由は私。スカリエッティは生態研究に異常な執着があるけど、ロストロギアの違法所持や使用についても容疑がかかっている。 一応そういうのは私の担当だから、年単位で行方を追っていたんだ。まぁ、梨のつぶてだったけど」 「じゃあ六課にそのフェイトさんがいると知った上で、挑戦状を叩きつけている。そういう考えもあるんですね」 「本人の逃亡が完璧だし、そこを崩してでもやるのかって疑問はあるんやけどな。 ……でもガジェットのエネルギー源に使われたジュエルシードは、フェイトちゃんが入局前にやんちゃした際、キーとなったアイテムや」 「は、はやて?!」 やんちゃ? なんだろう、反抗期でもあったんだろうか。エリオとキャロを見やるけど、二人も分からない様子で小首を傾げていた。 「なので……そうやなー。ティアナ、こういう場合どんな見方ができると思う?」 「前提によりますけど……スカリエッティが犯人だった場合、やっぱり目の上のたんこぶ的なフェイトさんへの挑発。 そうでなかった場合、ジュエルシードやフェイトさんのやんちゃも知った上で、こちらをかく乱する……ようは嫌がらせかと。 あとは……逆恨み。フェイトさんのやんちゃ絡みで、フェイトさんに恨みを抱いた人物が……とか」 「ん、うちらもそういう見方よ。ただ三つ目の逆恨みはないよ、そこはちゃんと確認が取れてるから。 とすれば残る二つ……でもはっきり言えば、『確定的な事はなんも分かっていない』って事やな」 そうなっちゃう、わよねぇ。しかもスカリエッティって、釣り針としてはかなり大きいものよ。 でもガジェットの性能とかも考えると、決してホラとも捉えられない。つまりよ、今言った二つの方向性、同時に探る必要があるわけよ。 当然その分、捜査スピードの遅延にも繋がるだろうし、決していい流れじゃない。 「そうやな、フェイトちゃん」 「残念ながら。だからね、みんなにも頭に入れておいてほしかったんだ。……それともう一つ重要なところがある。 これまでガジェットは何度も出ているけど、その操縦者や開発者らしい人物は一人も確認されていない。 それについての情報が入ったのも、このネームプレートなんだ。もしこれが挑発の類なら」 「犯人が堂々と、私達の前に姿を現すかもしれないんですね」 「えぇ! ティ、ティアー!」 「ひっつくな、馬鹿!」 隣のスバルが狭いカーゴ内でくっついてくるので、優しく剥がす。 その上でフェイトさんに、視線で『どうすれば』と聞いてみる。まぁ、分かってはいるけど。 「そういう場合、もちろん確保してお話だよ。もちろん素直に従わなくて、戦闘に入る事も考えられる。 でも接触し、相手について観察できる状況そのものがとても貴重なんだ。 なので情報を引き出せるようなら引き出してほしい。自分の安全も守りつつね」 『はい!』 「みんなにお願いするんは、うちらがいないタイミングでそういう事があるかもしれないからや。 そこは忘れんといてな。……あ、でも過度な無茶はアカンよ? まずは安全第一や」 『はい!』 そこで元気よく返事……関係者との、かぁ。ガジェットだけでもかなり手いっぱいで、そこまで上手く戦えている感じもない。 だから、正直不安はある。やれる事をやるしかないってのに、私は……駄目だなぁ。 「まぁ事件概要についてはこんな感じかな。なにか質問、あるかな」 「はい」 「なにかな、エリオ」 「中での警備が必要なのは分かるんですけど、どうしてそこに部隊長や隊長達が……あ、オークションの来場客に見えないですよね」 エリオは苦笑しながら自分の背丈を見た。それに倣うように、隣のキャロも自分の頭頂部に左手をチョコンと乗せる。 まぁ、アンタ達はねぇ。ただ疑問に関しては妥当だった。ほら、普通強い人を外に置くだろうし。 「そういや説明してなかったな。あんな、それもあるけど理由はまだあるんよ。 ……犯人が中に入る言う事は、当然外で警備する関係者の目をくぐるか、打破するかせんとアカン。 でも外には副隊長達、医務官やけど指揮官技能持ちなシャマル、管制役のリインとアンタ達がいる。その場合」 「……中に侵入できるとしたら、スキル内容はともかくそれなりの実力者になる? 本当にそういう相手が来た時のため、隊長達が中なんですね」 「正解や。……まぁアイアンサイズみたいなんがきたら、さすがになー」 「安心してください、主はやて。この私がいる限りそのような輩だろうと」 「アホか! アンタは外の警備やろうが! 中の話や、中の!」 「いえ、これは決意を現すものでして……はい」 駄目だ、この人は話を聞いていない。ヴィータ副隊長やシャマル先生も呆れてため息。でも、それで多少空気が緩くなった。 「ねぇはやてちゃん、恭文君は呼べないの? 室内戦もそうだし、アイアンサイズとかが相手でも恭文君なら」 「呼ぼうとしたよ。そうしたらアイツ、絶対外せん用事があるからって……給料三倍って言ったんに」 「……ゆかなさんのライブ、やってたっけ」 「ないはずやけどなー」 やすふみ? 誰だろう……スバルもそうだし、エリキャロも知らない様子。隊長達の知り合いかしら。 でも普通の局員じゃないわよね。こんなところでヘルプに入れるくらいだから……嘱託魔導師とかかしら。 「とにかく、うちらはオーバーSで機動六課の隊長って肩書きや。 そういう立場であそこにいて、オークション関係者を安心させるのも仕事なんよ」 「肩書きと、立場? えっと……隊長達みたいな、強い人達がいるから大丈夫と思わせるんでしょうか」 「そういう感じだね。正直なのはやはやてちゃんは、スキル状屋内戦は専門じゃないし、シグナムさんやヴィータちゃんに変わりたいんだけど」 「ホテルのスタッフ、去年の騒動絡みで管理局そのものを嫌ってるようなんだよ。 だからアタシ達がそれくらい力を入れてるーってアピールしておかないと、警備に差し支えるってわけだ。 ……まぁ傍から見るとオークションに参加して、遊んでいるように見えるかもしれねぇが」 「ヴィータちゃん!?」 「隊長達は隊長達で、ハリボテかぶってサンドウィッチマンをやってるようなもんだ。そこは察してやれ」 「うぅ、フォローしてくれたのは嬉しいけど、言葉のチョイスがひどいよ!」 サンドウィッチマン……あぁ、あの看板を体の前後にかけて、街とかに立っている人か。 そうイメージすると、隊長ってすごく大変な仕事だと思えてきた。普通そういうの、下っ端な私達がやるだろうに……偉いゆえなんて。 「とにかく外の事、ついでにお前らの事もアタシ達でしっかりフォローする。 なにかあっても必ず助けていくから、エリオとキャロもあんまフェイト隊長ーって言うなよ」 「「えぇ! い、言ってますか!? 僕(私)達!」」 「どうだろうなぁ。あ、もちろんスバルとティアナもだからな。みんな一緒だって事、忘れんな。 最悪の場合、隊長達も外に出てくる手はずだ。……ここまで言うとなにか起こるフラグっぽいが、頼むぞ」 「はい!」 「……はい!」 それから少しして、ヘリはホテル・アグスタに到着。隊長達は用意した礼服やドレスに着替えた上で、中に入る。 私達は外の警備へ回り……ほんと、なんでだろう。さっきからこう、大丈夫かなって妙に不安が強くなってる。ちょっとは落ち着きなさいよ、私。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ミッドに戻ってから早くも二か月――あむ達とずーっと一緒だったのも、小学生生活を送っていたのも夢のよう。 でも夢じゃないのは、僕の隣にいる二人が証明してくれている。今日もシオンは不敵に笑い、ヒカリはせんべいをモグモグする。 事件解決時には全ロストしていた魔力と魔法能力、その全てもようやく全開し、僕は毎日元気です。 先日機動六課初出動があったりしたけど、世界はおもいっきり平和。 ちょくちょく向こうへ戻ってガンプラバトルをしたり、ひかるの様子を見たりもしてる。 少なくともなぎひこよりは距離が近い。週末にはみんなで遊んだりして、実に平和です。 ……あとは嘆願書を集めたりとか。うん、管理局の中で電王好きは本当にたくさんいたよ。 だけど、今日はそういう事もなく思いっきり暇。なので……遊びに来ちゃいましたー! 「やってきましたホテル・アグスタ!」 ≪思いっきり飛びましたね。もうテレビの時間軸で第七話に到達って、どういう事ですか≫ 「仕方ないでしょ。こういう時系列なんだから。あとメタ発言するな」 ≪なのなの? ……なのなーの♪ なのなのなのー♪≫ 「ジガン、なにを言っているかよく分かりませんよ」 ここはミッド郊外にあるホテル・アグスタ。辺りを山々と緑に囲まれた、結構規模の大きいホテル。 僕がここに来た目的は二つ。一つはこのホテルで現在開催されている、時間無制限・豪華バイキングでの食事。 各世界での名物料理が多数出るそうだから、楽しみだったりする。……アレ使ってから来ればよかったかな? そうしたら常時腹ペコ状態で、かなり暴飲暴食できるのにー。なお、楽しみにしているのは僕だけでなく。 「恭文、バイキングという事はあれだよな。……私が全てを制していいんだよな!」 すかさずシオンは髪をかき上げ、ヒカリに右回し蹴り。 「ふごぉ!」 「お姉様はそろそろ見境をつけるべきだと思います。というか、メインはバイキングだけでなくて」 「オークションだよねー! どんなのが出るんだろうねー!」 ≪ユーノ先生の話では、面白いものばかりが目白押しという事ですが≫ 「楽しみだねー」 今日ここでオークションが開かれるの。だから僕も歩きながらもワクワク顔なんだよ。 ユーノ先生からその話を聞いて、やってきたんだ。僕の目的はそのオークションに出品されるロストロギア。 実はロストロギアの中には、管理局印で市場取り引きが許されているものもも結構ある。 今回オークションに出品されるのはそういうもの。あくまでも希少価値のある、骨とう品レベルのものって事だね。 例えば今六課が追っているレリックみたいに、危険性もなく不正利用しようがないようなものが許可をもらえる。 僕は元々そういうの大好き。なのでコッソリ会場に紛れ込んで、拝ませてもらおうという魂胆である。 いや、楽しみだなぁ。そういうのって四次元ポケットもどきとか、スライムもどきとか、面白いの多いしねー。 「いいのがあれば……ゲットだぜ?」 ≪でもでも、金銭的なスーパーボールが必要なの≫ 「大丈夫、ハイパーボールまでなら用意できる。そうだな、どんなのが良いかなぁ。 やっぱり四次元ポケット? それで装備関係詰め込んで、常時フルバーストで」 ≪……平和なアイテムも持つ人次第ですね。あなたみたいな悪知恵が働く悪魔は手を出しちゃ駄目ですよ≫ 「それはどういう意味だよ。てーか僕は清廉潔白な天使だと何度言ったら分かるのさ」 なんて話しながらも歩きつつ、曲がり角に差し掛かった瞬間人影が飛び出してきた。 気配で気づいていたので直前で足を止めたけど、相手はビックリした顔で息を飲む。 「あ、ごめんなさい」 「いえ、こちらこそ」 一応でもそう言うのは礼儀。だから相手の顔を見て……僕と相手硬直。その人は肩出しの黒ドレス・半透明なストールを纏った女性。 金色になびくのは、腰より下まで伸びる艶やかな髪。ルビー色の瞳がとっても奇麗……というか、知り合いだった 「……フェイト?」 「……ヤスフミ?」 ≪なにしてるんですか。あなた≫ アルトの言葉も無視で、僕達は呆けたようにお互いを見つめ合ってしまっていた。 でも……フェイトは奇麗だなぁ。こ、こうハグしてお持ち帰りしたいくらいに奇麗。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 隊長達が会場内に入り、少々の時間が過ぎる。現在午後十二時――オークション開始まであと一時間。 私達は奇麗なホテルを見上げ、外壁近くをうろちょろしつつ……こういう言い方をするとサボってるみたい。 でも仕事はしている。ホテルというのは外から出入りできる場所が多いから、チェックのため常に動き回ってる。 例えば資材搬入口や地下駐車場、非常口――正直中で迎え打った方が楽なんじゃないかって思うくらいに多い。 特にホテル・アグスタは建物もそれこそキロ単位な大きさだから、私だけでカバーは無理。 ここはホテルに常駐している警備員の人達と、連携を取って補っているから、一応は大丈夫。でもこれ、厳しいなぁ。 周囲は森林や山々に囲まれてるから、どこからでも攻められるのよね。普通に見るなら、風光明美なのに。 ……あー、駄目だー。備えは必要とはいえ、こうやって考える事そのものがフラグっぽい。 それに……さっきから引っかかっていた事があって、スバルに軽く念話を。 ”ティアー、こっちは変わらず異常なしだよー。……でも今日は八神部隊長や守護騎士団、全員集合かぁ” 送る前に送られてきた……! 時々あの子の行動が凄まじく怖いって思う時がある。こう、なんだろう。この言い表せない恐怖は。 ”……アンタは部隊長や守護騎士団の事、詳しいのね” ”父さんやギン姉から聞いた事くらいだけどね。部隊長の使うデバイスが魔導書型で、その名前が夜天の書。 副隊長達とシャマル先生、ザフィーラは部隊長個人が保有している特別戦力でもある事。 あと……それにリイン曹長合わせて六人揃えば、無敵の戦力って感じかな。ただ能力の詳細や出自は特秘事項らしいけど” ”レアスキル持ちの人は、みんなそうよね” ”なにか気になるの?” ”別に。じゃあ、また後でね” ”うん” ……六課の戦力は万端とか潤沢、無敵を通り越して明らかに異常。 部隊保有制限をリミッターって裏ワザでかいくぐってまで、集められた一派の筆頭戦力達。 いや、部隊長が他にも裏ワザや、表向きにできない取り引きをかましている可能性だってある。 隊長達……ううん、魔力ランクどうこうだけじゃないのよ、優秀なのは。 バックヤードのシャーリーさんやアルトさん、ルキノさん達だって普通に見えてかなりの腕利き。 前線から管制官に至るまで、未来のエリート候補で固められてる。あの年でBランクまで取っている、エリオとキャロだってそう。 エリオはフェイトさんと同じく、電撃変換と高速戦闘に特化したガードウイング。キャロはレアな龍召喚能力持ち。 二人揃ってフェイトさんの……ハラオウン一派の秘蔵っこ。それに危なっかしいスバルも、潜在能力と可能性の塊。 優しい家族のバックアップもある。やっぱり、うちの部隊で凡人は私だけ……でも、なぁ。 凡人どうこうの前に、振り返って怖くなった。この戦力の固めよう、更にハラオウン一派って辺りで、どうも。 去年、古き鉄とGPOから手柄を奪い取ろうとした、主要メンバーが集まっちゃってるのよ。 しかも後見人には、その主犯扱いで批判も止まらないリンディ・ハラオウン提督。……早まったかな。 うちの隊長達、一体どこまで信用できるんだろう。キャリアアップになればって考えたけど、今更ながら怖くなった。 ”……あ、そうだ! 大事な事忘れてた!” そこでいきなり頭にでかい声が響き、ついつんのめってしまう。 ”あのねティア” ”……念話でも大声出してんじゃないわよ、この馬鹿! びっくりするじゃない!” ”ご、ごめんー!” ”で……なによ。大事な事って” ”あのね、八神部隊長達はそんな感じなんだけど……父さんやギン姉、古き鉄とも知り合いなんだって” ……それは確かに大事な事だ。え、でもギンガさん達……そういう事は早く言ってほしい! アングラ情報だとまるでこう、魔物みたいな扱いで全然実態がつかめないのよ! ものすごく気になるし! ”相当荒っぽい人なのは確かっぽいけど、それに比例してかなりの腕利き。あと魔法戦より、魔法に頼らない実戦戦闘術が得意らしくて” ”うんうん! でも実戦戦闘術……あぁなるほど。だからアイアンサイズもGPOと協力して仕留められたんだ” ”そうみたい。でも……なぁ” ”なに、アンタは疑問なの?” ”そういうわけじゃないけど……普通じゃない事をする必要、あるのかなって。 その人、術式詠唱と処理が抜群に上手な以外は、魔力資質も普通らしいの。 GPOだってそうだよ。どうして普通の魔法じゃあ駄目なのかな、それが一番いいのに” ”……そう” 自分の体や能力について、思うところがある。だから古き鉄にも……って感じかしら。ただ、理由ならあると思う。 ……世の中にはいるのよ、その普通じゃあ止められない奴らが。だからGPOも、古き鉄も必要なんだと思う。 なら、八神部隊長達はどうなのか。正直、疑問が残る。それも……相当強い疑問が。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 今回のミッションはここ――ホテル・アグスタの警備。あ、もちろん六課が動くのにも理由があるんだ。 私達が対策を採っているガジェットには、レリックのみならずロストロギアを追跡する機能がある。 今回のオークションで出品される、数々のロストロギアを狙って出現するかもしれない。 その可能性を考えた本局の捜査部から、六課にここの警備依頼が来た。だからここに来たんだ。 それでその、ちょっと恥ずかしいけどドレスアップしてる。会場は一応でもフォーマルというか社交的な場。 明らかに『警備関係者です』っていう格好ははばかられたの。もちろんそういう格好をして、あえて周囲に警戒を促す。 そうして事件発生率を下げるという方法もあった。監視カメラとかをわざと分かりやすい位置に設置して、アピールするのと同じだね。 てゆうか私は最初に話を聞いた時、そっちの方が良いんじゃないかって提案したんだ。 でも、オークション主催者からそれは止められた。それもかなりKYだと言わんばかりにだよ。 そこはティアナ達に言った通りなんだけど、どうしよう。ヤスフミ、例のオークションに潜り込むつもりだったの。 どうしよう、泣きそう……! それだとまた巻き込まれてたんだよ!? なんで狙ったように事件現場へ飛び込めるのかな! いや、なにも起きてないけど! 「……ねぇフェイト、話は分かったけど、やっぱり経費の無駄遣いじゃ」 「そ、それは思う。だってこれを着る機会なんて一回限りだろうし」 むしろ六課の仕事で幾つもあったら大問題じゃないかな。だからつい苦笑気味になっちゃう。 「もういっそこういう仕事のために、自分でドレスを用意したら? 僕だって一応それっぽいのをプライベート用も込み持ってるし」 そんな事を言うヤスフミが自分の服を指差す。ノーネクタイのスーツ姿……オークション用にフォーマルな格好で揃えたらしい。 「その方がいいのかな。てゆうか、ヤスフミはいつ用意したの?」 「去年ヴェートルに行った時。ほら、パーティー会場の警備する必要があったからさ。レンタルもめんどくさいんで買っちゃったんだよ」 「まぁ自分のプライベート用も込みだったら、自費にはなっちゃうか」 ヤスフミは迷わないのが凄いと思う。私は今回迷って、結局経費で買ってもらったのに。 紺色スーツを身に纏って、堂々と歩くヤスフミは大人っぽく見える。……アレ、ちょっと待って。 「ヤスフミ、その時って確か」 「……当然クリーニングしたよ? 襲撃が起きたせいで、カルパッチョとマリネまみれになったし」 「そ、そうだったよね。あの……泣かないでほしいな。うん、大丈夫だから」 歩きながら左手でヤスフミの頭を撫でる。うぅ、この感触も久しぶりだなぁ。 基本的にほぼ毎日メールや通信関係はしてるけど、それでもこうやって会えるのは嬉しい。 ≪でもここで遭遇って……なんのフラグでしょ≫ ≪主様ぁ、これはいつものパターンなの。今のうちに気持ちを整えるべきなの≫ 「フェイト、僕は今日絶対仕事なんてしないから。だから死ぬ気でオークション守ってね、僕のために」 「わ、分かってるよ! ただヤスフミのためというより、ホテルの人達みんな」 「フェイト、僕は今日絶対仕事なんてしないから。だから死ぬ気でオークション守ってね、僕のために」 「話を丸々スルーしないでー! それにほら、みんながいるから大丈夫だよ」 これだけ戦力があるわけだし、大変な事にはならないはず。少なくともヤスフミに迷惑かけたりはないよ。 だから自信を持って笑い、ガッツポーズ。するとどういう事だろう、ヤスフミがすっごく嫌そうな顔をした。 「というか守れ! 私のために守れ! いいなフェイト、世界よりなにより私のためだぁ! うぅ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」 「あのヤスフミ、疑問があるのは分かるけど……ヒカリが」 「お姉様はバイキングを心から楽しみにしていたので、今絶望しているんです。そう、フェイトさんはまるで疫病神のよう」 「それはひどくないかな! わ、私だって仕事なの! 頑張りにきたのー!」 なのでもう一度ガッツポーズ。するとヤスフミがまた、すっごく嫌そうな顔をした。 「……フェイト、バカじゃないの? それフラグだよ。発生フラグだよ。油断してる時点で事件フラグだよ」 「そうなの!? で、でも……さすがにそれはないんじゃないかな。こういう話をしただけで事件が起こるわけ」 そう思っていた時期が私にもあった。というか、言いかけた直後に全体通信が届く。 ……それも緊急レベルを知らせる着信音。それを聞いて完全に固まる。 「さてフェイト、言う事は?」 ジト目でヤスフミが私を見ているのがとても辛い。というか私、ちょっと泣きそうかも。 「……ごめんなさいで、いいでしょうか」 「そうだね、お仕置きでキスとバストタッチもしてあげるよ。骨折られた恨みも込みで」 「そ、それは駄目! うぅ……ヤスフミ、変態さんだよ!」 た、確かに今なら……とも思うけど、お仕置きなんて駄目ー! なのでエッチなヤスフミには、ぽかぽかとお仕置きする。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 噂をすれば影が差すと言う。でも私達が噂をしていない場合、奴らはなぜ現れたのか。 ”――来たわよ” シャマルさんの一声で、一気に緊張感が高まる。やっぱりすんなりとは終わらせてくれないか、全く……! ”南東二キロ、それに北西三キロの位置からI型とIII型の混合編成。数は……百以上。 ロングアーチ1からの指示を元に、現時点からこの私、医務官シャマルが八神部隊長に代わり指揮を担当します。 スターズ03・04、ライトニング03・04は合流後、ホテル正面を中心に陣形を。これは広域防衛戦――繰り返します、これは広域防衛戦です” ”シャマル先生、こっちにも広域データを送ってください! 状況を確認したいので! それと副隊長達は!” 移動しながらも指示されたポイントへと走る。クロスミラージュもセットアップし……ちょうど裏手だからなぁ。 しっかり安全確認をした上で、魔力アンカーを打ち出す。五階の縁にくっつけ、アンカーを巻き上げ飛しょう。 空も飛べないから、こういうので機動力を確保していくのよ。そのまま数十キロという速度を出しつつ、一気に上階へと上がる。 ”南東の方にはヴィータちゃんを向かわせて、北西はザフィーラを行かせるわ。それより移動を” 「今やってます!」 そのまま駆け出し一声かけると、ちょうど進行方向上のシャマルさんが振り返り、驚いた様子。 「えぇ! ……あ、ちょうど裏手だったのね」 「そういうわけで横、失礼します!」 「気をつけてね! データはクロスミラージュと直結しておくから!」 「はい!」 シャマルさんの脇を抜け、そのまま正面へとジャンプ。軽い浮遊魔法も用い、安全確実に着地する。 そこでクロスミラージュからデータが送られてきたので、ささっと確認。ふむ……まずは軽くジャブって感じかしら。 今近づいているガジェット、これは囮よ。ここで敵を引きつけて、その隙にこっちが対処しにくい方向から突撃って寸法。 ううん、もう気づかれないように突撃していて、瞬間的な波状攻撃を仕掛けるつもりかも。 ”シャマル先生、確認なんですけど、もし陣形が突破され、最接近された場合の対応策は。隊長達が出てくるんでしょうか” なので念のため確認。とっさに慌てて行動ってのもアレだし、最悪の事態には備えておかないと。スバル達への指示出しもあるもの。 ”心配いらないわ。ヴィータちゃんとシグナム、ザフィーラがいるなら、この程度の数は相手にならない” ”いえ、そうではなくて” ”あなた達のところまでは通さないって、ヴィータちゃんも気合いを入れてるから。任せてちょうだい” ……それ以上、深く聞けなかった。ついさっき、『隊長達は信用できるのか』と考えたのがマズかったのだろうか。 その自負が、その根拠が、とても怖く感じて、これ以上この人に触れたいと思えなかった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 外でドンパチが始まったと聞いて、僕とフェイトは人気のない廊下の一角でその様子を観戦開始。 ただお遊び気分は一切なく、いつでも出られるように状況を見ているわけだよ。それで現在の状況は……優勢。 「さて、フェイトがフラグを遠慮なく踏み抜いてくれたおかげで、マジでガジェットが出てきたね。なお実況は僕、蒼凪恭文と」 ≪解説は……どうも、私です≫ 「どうしてスポーツ中継風!? ほ、本当に働くつもりがないんだ!」 「「働きたくないでござるー。働きたくないでござるー」」 「シオン達までー!」 そう、僕達は今働きたくない。……なのに外の戦闘映像を見ている時点で、僕は駄目なんだと思う。 「さて、現在シグナムさんと師匠、狼形態なザフィーラさんが大暴れ。次々とやってくるガジェットをバッタバッタとなぎ倒しています」 師匠が鉄球を打ち出し、遠距離からガジェットを迎撃。その全てを鉄くずに変えていく。 空の青を切り裂く、幾つもの赤いせん光。それは打ち出された鉄球が描く軌跡。 ……あれは魔力を鉄球にコーティングしている。流星のように鉄球は、何発も……何発も撃ち出され着弾する。 ザフィーラさんも白い障壁を張りながら、鋼の軛を撃ちまくって、ガジェットを連続串刺し。 ザフィーラさんの守りはかなり堅いから、ガジェットが撃つ熱線程度じゃ貫けない。正しく即席要塞になってる。 シグナムさんは前に出て、レヴァンティンに炎をまとわせながら唐竹一閃。どうやらシグナムさんは大型中心に叩くらしい。 ……ただ、これは。 ≪斬って叩いて、鋼の軛で串刺して……素晴らしい蹂躙ですね。リリカルなのはで無双ゲームが出せますよ。 そしてフラグを踏み抜いた、相変わらず天然ドジっ子なフェイトさん、感想をどうぞ≫ 「わ、私はドジじゃないよ! うぅ、悪かったと思うからもう許してー!」 「だが断る。僕はフェイトが困ったり、慌てたりするのが楽しくてしょうがないんだ」 「ヤスフミは絶対変態だよね! うん、ヤスフミは間違いなく変態さんだよ!」 反論する権利があるんだろうか。ついジト目で見ると、フェイトが正座で萎縮する。 「と、とにかくごめんなさい。もっとそういうの勉強しますので、今は許してもらえると嬉しいです」 「だが許さない。前に僕の事を全力で殴ったり、骨を折ったりしたのに。 それでキスとバストタッチもしないようなフェイトは許さない」 「今その話をするの、ズルくないかな! というかそういうのは駄目だよ!」 「フェイト、もうそれもフラグなんだよ? ツンデレって分かるかな。つまり……そうだな。 そう言うたびにフェイトは、『私はヤスフミが男の子として大好き』ってフラグを立ててるんだよ」 なお嘘っぱちです。でもフェイトが騙せればいいので問題なし。フェイトは……僕を見ながらタジタジしてる。 「そ、そんな……あ、画面見ようよ! 今はお仕事なんだし、集中しないと!」 「は? 僕は仕事しないって言ったでしょうが」 「私は仕事中だよ! とにかく現状を」 「まずいよ、この動き」 「シリアスに戻った!? ……まずいって」 「師匠達、前に出すぎてる。ほらここ」 広域マップを出し、今師匠達がいるポイント、ホテル……そしてその間にある中間空域を右人差し指でポイント。 更に僕が知る限りの射程範囲を書き込むと……あら不思議。師匠達のリーチ、ホテル近辺には全く届いてないのよ。 「三人とも近距離タイプなのに、こんなに出ちゃったらフォローできないでしょ」 「あ、ホントだ。でも、入り口近辺にはフォワードとシャマルさん達がいるし、ヴィータ達も空戦魔導師だから戻るのもそう」 「僕ならここに戦力を送り込む」 そうして空白状態のポイントを突くと、フェイトが顔を真っ青にする。 「戦力を、送り込む……それも、たくさん。フォワードとか、戻る時間とかすっ飛ばすレベルで……転送魔法とかを使って」 「……シャマルさん、聴こえます!? 今マップを確認してますけど、シグナム達は前に出すぎじゃ!」 『大丈夫、撃墜は問題なく進んでいるわ。フェイトちゃん達は中に集中して』 「ヤスフミの意見なんです! 戦力や射程で空白のポイントができてて、自分ならここに送り込むって! 転送魔法とかを使われたら!」 『……だったら気にする必要はないわね。フェイトちゃん、恭文くんは部外者よ? 協力を依頼したわけでもなんでもないんだから、その意見で部隊を動かしちゃ駄目よ。 というか……絶対巻き込んじゃ駄目! 恭文くん、実は密かに探偵(しにがみ)って名称を気にしてるんだから!』 「シャマルさんー!?」 「こらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 なんかすっごい腹立つ言い方なんですけど! よし、今度仕返ししてやろう! 「お兄様、仕事はどうしましたか」 「おっといけない、今日は働かないんだった」 「そうだぞ、今日はバイキングの日だからな。……もぐ」 「……お姉様は毎日バイキングじゃありませんか」 ”……隊長達とおまけ一名、聴こえるか” 突然はやてから届いた。え、ちょっと待ってよ。僕は働かないって言ってるじゃないのさ。お願いだから。 ”ホテルの方に襲撃を伝えて、中のお客さんとかを避難させるよう勧めたんやけど……駄目やった” ”えぇ!” 巻き込んできやがったかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! てーかなにそれ、止めなきゃマジでバイキングやオークションがアウト!? ふざけんなー! ここのスタッフ、最悪だわ! 僕の安全を……がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ”駄目って、どうして!? まだ距離は遠いとはいえ、明らかにホテルを目指してるのに!” ”なのは隊長の言いたい事は分かる。うちもそう言うた。でもオークションや営業を中止されると困るって言って聞かんのよ。 ……うちらがしっかりすれば問題ないんやからとも言われたわ。なんとかマジでヤバい時の避難は譲歩させたけど” 「お兄様?」 「はやてから素晴らしい連絡だ。ホテルは客を避難させないつもりらしい」 「……最低ですね」 「どうする、バイキングがこのままではピンチだぞ!」 「分かってる……!」 オークションだってピンチだ! 平和な休日を守るため、そんな事は決して許さない! ……まずは深呼吸し、現状をまとめる。 「こうなると隊長達は余計に外へ出られない。最後の最後って状況の避難は認められているけど、その誘導や護衛という仕事ができた」 「う、うん。どうしよう……これ、どうしよう!」 ”なので” ”……そうだ、結界だ! フェイトちゃん、今すぐホテルに広域結界を張って!” フェイト、慌てる事はないよ。僕達には結界魔法という、業界屈指の便利魔法があるじゃないのさ。 そう提案しようと思ったら、横馬に先を越された。あはははは……あははははははははぁ! ”横馬ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 人のセリフを取るんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!” ”な、なにー! なのはがなにをー!” ”頑張ってなー。……でも結界、それや! ドンパチは実際起きとるし、安全のためってだけなら納得させられる!” ”……それだけじゃないよ。営業は中止しないし、最悪結界で守ったまま営業すればいい。 不安になっているであろうお客さんにも、対策していますってアピールができる。 中での混乱も最小限に収められるから、一石二鳥……そう言いたかったんだけどなぁ! 横馬ぁ!” ”だから理不尽だよー! と、とにかくフェイトちゃん!” ”今詠唱中! ちょっと待って!” 言った通り、フェイトは必死にバルディッシュを持ち、魔法陣も展開。……それにもし結界に侵入されたり、万が一壊れさても大丈夫。 逆に相手の動きをすぐ察知できる。まさしく一石二鳥……いや、三鳥。 まぁなのはが邪魔してくれたおかげで、僕の凄いアピールがすっ飛んだってのは問題かな。 ”よし、ほなまた話を通してくる!” ”はやて、ゴネるようなら『安全確保を怠って、今後の業務がどうなるか』って脅しなよ。 あと……古き鉄が怒り心頭で、じか談判しようと向かっているとも付け加えて” ”えぇんか! アンタ、働かんって言ったのに!” ”嫌だなぁ、働いてないよ。踏みつけてるんだよ” ”どんな日本語の湾曲!? ……でも助かるわ! ありがとうな!” よし、これで準備はOK。まぁ脅しなんてよろしくないけど……でも脅しじゃないのよ、これは。あくまでも大人の取り引き。 結界を張れば、今のままだと出てくる諸問題の緩和が可能で、ホテル的にもメリットはある。 そこもきちんと説明すれば、向こうが譲らない理由もない。てーか譲らなかったら本格的に問題だよ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ――隊長達、やっぱ凄いのかも。ちゃんと中の守りについても、考えていたんだもの。 それでホテル側には譲歩させて、隊長達とホテルの人達は全員結界の中で隔離。 私達の前からホテルそのものが消えて、あとには大きな穴だけが残った。 多分これ、地下駐車場とかそっち方向よね。建物そのものを隔離するとこうなるんだ。ちょっと驚きかも。 内心結界の中がどうなっているのかとかが気になりつつも、私はスバル達と一緒に、モニターで前線観察は継続中。 副隊長とザフィーラはガジェットを潰しまくっていて、こっちはぶっちゃけ暇。 ただ少し気になる事もあるから緊張感は半端ない。エリキャロもそういうの感じてるせいか、少し表情が強ばってる。 「わぁ……やっぱり隊長達、凄いよ! これならアイアンサイズを止められたんじゃないかな! うん、最強無敵ーって感じ!」 「そりゃ無理でしょ。デバイスが使えないんだから。……でも、ちょっと気になるわね」 ガジェット、さっきから同じ攻め方しかしていないのよ。 来る方向もちょっと違うだけで、副隊長達なら余裕で手が届く程度の距離。 ……ううん、これはもしかして、誘導されているのかもしれない。 「ティアさん、なにかおかしくないですか?」 おかしいと思っているのは私だけじゃなく、エリオとキャロも同じ。てゆうか、キャロの隣でフリードまで頷いてる。 「確かに第二陣は来ましたけど、攻め方が単調です。僕、もっとかき回す感じで来ると思ってたんですけど」 「エリオ、やっぱアンタも……そこはキャロもか」 「はい。これじゃあまるで倒してくださいと言ってるみたいです」 「んー、そうかなぁ。副隊長達の守りが凄いから、手出ししにくいとか」 「それはないわよ。最前線に出ているのは三人だけ……機動力も瞬間移動レベルじゃないし、穴を突こうと思えばツツける」 さて、これはどう読む? 単調にするって事は、ガジェット達は捨て駒同然。つまり……あ。 「もしかして、『倒してほしいから』あえてこうしてる?」 「だとすると副隊長達の消耗が狙いなんでしょうか」 「若しくはルーチンワークに陥れて、咄嗟の反応を鈍らせようとしてる……あり得る。とにかくこの攻め方は単純過ぎるわ」 若しくはスバルの言うようにこっちを恐れて……もとい、こっちがホテルを結界で閉じ込めたから、攻めあぐねてる? だからまずは様子見とけん制も兼ね、単調な攻めをしてるとかかしら。もしそうだとしたら向こうは……まだ油断できないか。 いや、それ以前にこれだけの数を、様子見のために使い捨てているという事は……! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ さて、敵も去るもの引っかくもの。奴のガジェット達を蹴散らしつつ、ホテルを決壊で包み保護するとは。 『――結界でホテルごと閉じ込めたのか。なかなか大胆な作戦を取るな』 「そうだな、俺が現役だった頃には考えられない方法だ。中にいる隊長達の指示だろうか」 『いや、恐らくは……サンプルH-1だな』 目の前の空間モニター内、そこに映る男は躊躇いもなくそう言い切り、嬉しそうに口元を歪める。 『彼は優秀な戦闘魔導師であると同時に、戦術にも長けたトリックスターとも聞く。 彼が欠陥品とも言うべき資質でオーバーSを数十人屠(ほふ)り、アイアンサイズを倒せたのもそこに起因している』 「欠陥品か。俺からすれば魔力資質に乏しくとも、あの能力があるだけで十分脅威なのだがな」 『それは言い訳ではないのかね、騎士ゼスト』 そこで男は、俺がおかしい事を言ったかのように笑う。 「事実なのだがな。あの能力者相手ではバインドなども通用しないし、瞬間転送も可能。普通の魔導師では相手になるまい」 『管理局や彼の家族も君のように、彼の才能を一切認めない方向だと聞く……悲しいなぁ。 彼には確かな才能があるのに、誰もそれを認めない。これは一種の悲劇ではないかね』 「認められる才能と認められぬ才能がある。認めてしまえば、ある種のラインを破壊しかねない劇薬。 あの能力はそういうものだ。残念だが彼には、持って生まれた事を不幸と呪ってもらうしかあるまい」 家族も……その気持ちも正直分からなくはない。あの能力は魔法社会において、一つの脅威にも成り得る。 というか、現時点で成り得ているか。彼には申し訳ないが、あの能力を脅威と思い、怯える人間の気持ちは正常だ。 現時点で一人、彼と同じ能力を持って、その力であらゆる悪事を働いている男がいるから。表には出ていない話だがな。 俺もここ数年アングラを拠点に置いてなければ、知る事はなかったと思う。 だからこそ、あの青年に恐怖しか感じない。ヘイハチ・トウゴウの弟子である事を含めても、それは決して変わらん。 だが画面内の男は違うらしく、悲しげな顔で首を横に振る。 『本当に愚かだ。彼らが作る世界の価値観とその基準は、余りに一辺倒過ぎて美しさに欠ける。君もどうやらその毒に侵されているらしい』 「犯罪者である貴様が言っても、説得力がない」 『分かっていないね、騎士ゼスト。私が世間一般で言うところの悪であるからこそ、見える真実もあるのだよ。 ……なんとも皮肉じゃないか。日の光を浴びて、神の如く我が物顔で世界をかっ歩する彼らでは見えない、そんなものが存在しているのだから』 「そうか」 確かに視点や立場が違うからこそ見えるものもあるが、コイツが言うと頷けないのはなぜだろうか。 今はホテルの事だと思い直し、瞳を閉じて深呼吸。気持ちから入れ替えた。 「とにかく現状だが……これではガリューも潜入できまい。いや、仮に結界を壊さずに潜入できたとしても、気づかれる」 『確かにね』 結界の中は当然ながら術者のテリトリーだ。その中に存在する違和感や異物はダイレクトに伝わる。 異物が外から侵入すれば当然……中にはオーバーSの騎士達がいるというし、ガリュー一人には荷が重過ぎる。 『では、今日のところはこちらの負けとしよう』 「それでいいのか」 『あぁ。今はまだそこまでの危険を冒す段階ではないと考えている。 ルーテシア、騎士ゼスト、それにアギトもご苦労だった。もう引き上げて』 「や」 俺の足元で紫髪を揺らしながら、彼女は首を横に振る。 「結界なら壊せばいい。それでガリューを中に入れる」 「駄目だ、危険過ぎる。ルーテシア、お前は自覚がないかもしれんが、我らは犯罪者だぞ」 『今君達の顔を晒すような事は私も避けたいのでね。納得してくれると嬉しいが』 「大丈夫……ねぇドクター、それは『気づけば』の話だよね。それで気づいても対処できれば」 『まぁそうだね。つまり、なにか考えがあると』 「うん……嫌がらせ、するの」 『「嫌がらせ?」』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ……百単位の戦闘兵器を、マジで捨て駒扱いだとする。そうなると……ちょっと背筋が寒くなってしまう。 状況がひっくり返る可能性はある。それでも今は優勢なのに、ガジェットが爆発するたびにそれが強くなる。 「……怖いな」 「ティアさん、なにが怖いんでしょうか」 「このガジェット達作るのだって、それなりの金額だと思うのよ。とりあえず私達の給料くらいは飛んでるはず」 ちなみに私は保険とかの、福利厚生関係の費用を抜く前だったら三十万前後。 ただ魔導師として前線に出る分、危険手当ての額が大きいから……そこを抜いたら二十万いかない感じかな。 それは基本寮暮らしで、生活費もほとんどかかってないし、全額貯金したりで……いや、大事でしょ? 最悪魔導師ができなくなっても食べていけるよう、頑張らないといけないんだから。 「そんなのを百単位で捨て駒にしてるのよ? ガジェットの制作者には間違いなく大きなバックがついてるわ。 生産プラント、作るための資金――それなりのハードルをクリアしていなきゃ、こんな真似できない」 「確かに……僕も同感です。もしガジェット一体を作るのが大変なら、もっと大切にしようとします。 仮に大量生産でコストがある程度抑えられているとしても、この使い方は」 エリオはそこで言葉を止めて、副隊長達がいる方を見ながら険しい表情。 「まるで軍隊……あぁそうだ。僕、ガジェットを見てて、ずっと兵隊みたいだなって思ってたんです」 レリックを欲する王様のために働き、それを手に入れるために動く兵隊って意味合いなのはすぐ分かった。 でもエリオはそこにガジェットの行動パターンだけじゃなくて、数という要素も含めた。それにより意味合いはまた違うものになる。 「制作者はやっぱり誰かしらの支援を受けて、ガジェットの軍隊を作ってるんでしょうか。 それでロストロギアを悪い事に使おうとしている人達が、その交換条件として制作者を動かしている」 「じゃあ仮にその人を捕まえてもそういう……支援者を止められなかったら」 「同じ事が起き続ける可能性があるわね。しかもガジェットの製作技術そのものが、犯罪者にとっては価値のあるもの。そこも止めないと」 こうなると――改めて画面内で戦う、そんな三人に目を向ける。軍隊相手だからこその、過剰戦力なんだろうか。 でもなにか、なにかが引っかかっている。単なる能力への嫉妬? それだけじゃ、ない。 信用しきれないの、隊長達を。本当に信じていいのかどうか不安で、迷いがあって。 ≪Sir、前方に魔力反応あり≫ そこでハッとし、前に目を向ける。……そんな反射的な行動を、少し後悔してしまった。 「……ちょっと遅いわね、それ」 百メートルほど前方に、大量の紫色をした四角形の魔法陣が出現。そこからまるで……地面から生えるようにして、ガジェットが現れた。 その数は二十数体ほどだけど、その中にはIII型も三体ほど混じってる。てーかこれって……! 「あれは……転送魔法!?」 「全員散開!」 私はキャロと、スバルはエリオと一緒に、左右に分かれて走る。 次の瞬間、ガジェットから放たれた熱線の雨。それを必死に避けつつ、木陰に入ってなんとか安全確保。 「ティア、これどういう事!? なんでガジェットがー!」 「転送魔法って」 下手に影から出ると危ないので、木を背にしつつ魔力弾を六発生成。それを熱線の合間をくぐるように放つ。 「言ってるでしょ!」 その弾丸は鋭くガジェットを射抜くはずだった。AMF対策も整えてるから、フィールドありでも問題はない。 でもガジェット達は左右に分かれて避け、私の弾丸は虚空を突き抜けた。 「な……!」 咄嗟に放った弾丸――誘導弾の軌道を変更。弾丸はUターンした上で放物線の軌道を描き、上からガジェット達を襲う。 でもガジェット達が素早く反転し、熱戦を連射。私の弾丸を全て撃ち抜き、派手に爆発する。 「迎撃された!? てーかなによ、今の反応は!」 「僕達が戦ってたのと明らかに違いますよね! 動きがとても機敏でしたし!」 奴らはまたこちらに攻撃しながら、大きく扇状に広がって……くそ、囲むつもりか。 「全員後退! 囲まれるわよ!」 号令でみんな揃って、ガジェットから距離を離し……前方に魔法陣が展開した。その数は四つ。 「スバル、背中守って! エリオ、突撃!」 足を止め、両手のクロスミラージュを構える。そうしてまた地面から生えてくるガジェット達へ、狙いを定めて弾丸乱射。 でも弾丸は本体には当たらず、奴らの足元へ命中。派手に土が弾け、その注意を一旦そちらへ向ける。 ≪Sonic Move≫ その隙にエリオは背後に回り込み、槍に金色の電撃を迸らせながら素早く乱撃。 ガジェット達は背後から打ち込まれた、合計四回の薙ぎ払いを食らって両断……その場で爆発する。 ≪Protection≫ 背後から変わらず熱線が打ち込まれるけど、こっちに来てくれたスバルがプロテクションを展開。そうしてガードしてくれるので。 「撤退再開!」 再度号令をかけ、撃退したガジェット達の横を通り過ぎる。 エリオとも合流した上で必死に距離を……くそ、マジどうなってんのよこれ! 走りながら右のクロスミラージュでけん制射撃。でも全てがあっさり撃ち抜かれて爆散する。 あれはただ偶然当たったんじゃない。明らかに私の射撃に対し、狙いを定めて撃ってきた。狙いまで正確過ぎて怖いわ。 これはマズいと思いつつ、またキャロとフリードを連れて木陰に隠れる。あぁもう、マジこれどうしよう。 ここは攻めて……ううん、駄目だ。失敗した時のリカバリーが利くかどうか分からない。 まずは隊長達……くそ、だから最接近したらどうするかって聞いたのに! 「ティアさん」 「なに!?」 「あれ、有人操作を受けています」 あぁそれなら納得できるわ。CPU相手じゃなくて人間相手になったから、反応速度も高くなったと。てーことはやっぱバックに。 「しかも……召喚系の能力です」 「……へ?」 その言葉は余りに予想外で、慌ててキャロを見やる。キャロは私ではなく、やっぱりガジェット達を見続けていた。 「間違いありません。まず四角形の魔法陣は、ベルカ式ベースの召喚魔法としてはベーシックなものの一つ。 多分触媒となる召喚獣を呼び出して、ガジェットに入れたんだと思います」 「マジでラジコンってわけか。でも転送魔法だけで分かるの?」 「召喚魔法というものはそもそも、『ここにはいない契約獣を呼び出す魔法』ですから。 だから転送魔法の技能は必要なんです。そしてそれは、使用する召喚術式に準拠している」 実に分かりやすい説明のおかげで納得できた。とにかく今はガジェットへの対処と考えて、気持ちを入れ替える。 少しだけ顔を出す。相変わらず撃ち込まれ続ける、赤い熱線達……その発生源を見た。 ガジェット達は弾幕張って余裕ぶっこいてるのか、動きを止めていた。でもそれすらもなにかの作戦じゃないかと疑ってしまう。 ここは有人操作だと、キャロのおかげで確信が持てたせいかもしれない。でも、どうすればいいの。 このまま打ち続けても、副隊長達が戻ってきてお陀仏(だぶつ)。それが分かっていながらこうするって事は……あれ、待って。 副隊長達が戻ってきて、お陀仏(だぶつ)? 結界が張られて、ホテルそのものがないのに……あ! 「……キャロ、召喚魔導師としてのアンタに聞くわ! 対処法は!」 「ガジェットを倒すしかありません。召喚師を押さえるという方法もありますけど、どこにいるのかも分からないんじゃ」 「操作範囲、そんなにデカいの!?」 「術者の腕前次第ですけど、少なくとも十キロ単位はあると思ってください」 「じゅ……!」 「触媒が『目』の役割も果たすから、この手の術は範囲も大きくなりがちなんです」 じゃあ術者を押さえるのは却下! てーかこの状況はヤバい……! 慌ててもう一度、シャマルさんに通信。 「シャマル先生、副隊長達は!」 展開した画面に映るのは、焦った表情のシャマル先生。ほら、この人が今回の指揮官だし一応ね。 『今こっちに戻ってるわ! それまで持ちこたえて!』 「できれば助けてくれません!? あなたすっごい近くじゃないですか!」 『そうしたいんだけど……無理なの!』 画面の中をよく見ると、シャマル先生の周囲に……ちょっとちょっと、やっぱりガジェットがいるじゃないのよ! シャマル先生は前面に張った緑色の障壁で、ガジェットの熱線を防ぎつつ左手もかざす。 すると地面から白い刃が飛び出し……ザフィーラも使ってた鋼の軛って呪文か。 ただしその色は薄いグリーンで、シャマル先生が身に着けてるあのスカートやジャケット一式と同色。 突然地面から飛び出した刃……それを避けるように、ガジェットは上昇し攻撃継続。 シャマル先生はそれに耐えつつ、表情をしかめていた。その間に隣のリイン曹長が動く。 障壁に守られながら、自分の周囲に蒼い短剣八本を生成・射出して、それでガジェットを撃ち抜き爆散させた。 でもガジェットはまだまだ来ていて……画面の中もピンチって感じだった。 『相手は戦力を分断しに来てるわ!』 『リイン達も余裕ないのですよ!』 「それだけじゃありません! ガジェットはAMFがありますよね! それが結界発生箇所に大量生成されたら……どうなりますか!」 『え、それは当然結界の構築魔力が』 言いかけて、シャマル先生の顔に青いものが追加さうる。あぁやっぱり……そういう事だったんだ! 『シャ、シャマル!』 『まずい……これが狙いだったの!?』 そこで空間の軋む音が響く。ヤバい、予測通りだ。ガジェットが大量にこの場で出現し、結界魔法の構築魔力に干渉してきてる。 もし、もしも今の状態で結界魔法が全解除されたら……それは、ホテルにガジェットが取りつかれたのと同じ。 いつ侵入されてもおかしくない状況って事になる。速攻で、なにがなんでも……このガジェット達を排除しないと。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ≪さぁ、実況と天然ドジっ子がサボっている間に、状況は劣勢となっています≫ 「「え!?」」 慌てて画面を見ると……確かに状況は変わっていた。シグナムさんがレヴァンティンを唐竹に振るうと、お団子なIII型はアームで防御。 師匠が放つ鉄球をI型達はすり抜け、密集しつつAMFを強め鋼の軛もかき消してしまう。これは……! 「動きが変わってる。いや、有人操作に切り替わってる?」 更にホテル近辺――師匠達が張っている防衛戦を超えて、紫色のベルカ式魔法陣が次々展開。 そこからたけのこの如く、ガジェット達が出現。ホテルは一気に数十のガジェットに取り囲まれた。 「くそ、だから言ったのに! フェイト、これ使って!」 手持ちの回復用マジックカード十数枚を全て取り出し、床に投げ置く。フェイトが驚いている間に、空間そのものが強く軋んだ。 ≪Sir、ガジェット達のAMFで結界の構築魔力が!≫ 「分かってる……! というか、どうして! なんでいきなりガジェット達が!」 「転送魔法だね。しかもあのパターンは、確か」 フェイトはバルディッシュをセットアップし、両手で握り必死に結界維持。更にモニターを操作し、ホテルの周辺映像も多数展開。 ……やっぱり零距離で取り囲まれてるし! しかも師匠達、思いっきり前に出ちゃってるから、戻ってくるのに数分はかかる! でもこの魔法陣、僕やシグナムさんが使っているのとパターンが違う。いや、確か無限書庫で見たぞ。 「……ベルカ式ベースの召喚魔法!」 ≪類似パターン検索……ありました。シャーリーさん、聴こえていますね≫ 『バッチリだよー。……でも仕事しないんじゃなかったの?」 「オークション参加がかかってる。これ、無限書庫で見た事がある。今言った通り召喚魔導師がいるよ」 『こっちも強い召喚魔法を確認したよ。でも凄い数……! フェイトさん、持ちこたえてください! 副隊長達もすぐ戻ってきますから!』 「できるだけ、早く……お願い。でも召喚魔導師……そうか、転送魔法のエキスパート、だった」 召喚魔法はレアスキル寸前な魔法だけど、その原則はここにいない物を呼び出す事にある。 だから転送魔法とは親戚みたいなものなんだよ。とにかくガジェット達には触媒かなにかを埋め込んだんだろうね。 それでラジコンみたいに操作しているわけだよ。それが召喚獣の類か、元々持っていた機能かは分からないけど。 でも一つ言える事がある。召喚魔導師――そしてガジェットの操者はこの近辺にいる。 さすがに映像だけで、あそこまで的確な操作はできないでしょ。空気も感じられる程度には近い。 更に言えばリアルタイムであれだけの数を操作し、師匠達の攻撃や足止めも的確に行っている。 相当な腕利きと見ていいね。しかし厄介な……僕もショートジャンパーだから、転送魔法の厄介さはよく知っている。 「じゃあアルト、行きますか」 ≪働かないんじゃ≫ 「オークション参加のためだ。シオン、ヒカリ、不可思議空間へ入っていて」 「……しょうがあるまい。だが気をつけろよ」 「お兄様、頑張ってください」 エールをもらい、消えていく二人を見送ってから立ち上がる。それから伸び……すたすたと歩き出す。 「ヤスフミ?」 「ちょっとホテル内部、調べてくる。誰かしら侵入してるかもだし……オークション会場と結界は任せたから」 「わ、分かった! 気をつけて……あと、カードもありがと!」 「代金は後で払ってね」 「お金取るの!?」 フェイトには軽く手を振って、一気に走りだす。――今回の目的を忘れてはいけない。 六課はロストロギアを狙って出てくる、ガジェットの掃討が目的じゃない。 あくまでもそれは副次的なもので、主目的はオークション終了までホテルを警備する事。 そこには当然人員や、ここにある物の保護も含まれる。だからこそ……後ろを見逃すわけにはいかない。 ……現時点で結界は弱まっているし、いつ破られてもおかしくないはず。でも向こうだって分かっている。 ホテルへガジェット達を取りつかせていけるのは、今のうちだけだってさ。師匠達が戻れば、この攻勢は一気に崩れる。 ならどうする? この間に火事場泥棒をかますしかないでしょ。目的のものがここにあるなら……間違いなく動いてくる。 フェイトには言えないけど、二年前の警備も穴を突かれたからなぁ。一応薄い部分は埋めておきたいのよ。 なお、ホテルの経路関係は既にチェック済み……さて、無駄足であってほしいな。そうしてくれると僕が非常にらくちん。 そういうフラグを踏みつつも、ホテルの廊下を全力疾走。裏手に出るため、そこに繋がってる駐車場を目指す。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ヤバいヤバいヤバい……! 奴ら、前進を始めた! こっちが反撃しにくいもんだからって! 「キャロ、フリードのフルスペックでせん滅は!」 「無理です! 敵性火力が多すぎます!」 「……副隊長、まだですか! もうこっちは手いっぱいです!」 『もうちょっとだけ待て! この……邪魔すんなぁ!』 通信モニターからまだまだ距離はあると判断。シャマルさんとリイン曹長も無理。 『その通りだ、ティアナ。我々を信じろ、すぐに助ける……えぇい、どけ!』 『シグナム、ヴィータ、ここは我に任せろ! お前達はティアナ達のところへ!』 すぐって様子じゃないんですけど……! どうする、どうする。エリオとスバルでかく乱しつつ攻撃……却下。 副隊長達でさえ、操作されたガジェットには手を焼いている。二人だけを突撃させて、普通のコンビネーションで対処しきれない。 なら副隊長達を待つ……やっぱり却下。ガジェット達の数もまた十、二十と増えている。なら残る手は。 「ロングアーチ1、こちらスターズ04! 部隊長達への救援を要請します!」 『こちらロングアーチ1……駄目、駄目なの! 今隊長達が結界を飛び出たら、間違いなくホテルが丸裸になる!』 それは死亡宣告に等しかった。この状況で、隊長達を出す事もできない? じゃあ……もう、やるしかない。 このままじゃスバルも、エリオも、キャロも……もちろんシャマルさん達だって危ない。 かなりの無茶になる。きっと後で怒られる……でも、その無茶で道が切り開けるなら……! 『辛いかもしれないけど、現状維持! 迎撃しつつ、副隊長達の救援を待って!』 「……待てません! すみません、ティアナ・ランスター……今から独断行動に出ます!」 『ティアナ!? 待って、なにをするつもりなの!』 「大丈夫、無茶は」 射線の中、スバルと目を合わせる。スバルはそれだけで全てを察し、真剣な顔でしっかり頷いてくれた。 「一瞬で終わらせます! エリオ、キャロ、センターに下がって! 私とスバルのツートップでいく! あとキャロは合図したら、転送魔法で私をそっちに引っ張って!」 「「……はい!」」 「スバル、クロスシフトA! ただし二十……ううん、カウント開始後五秒で全速離脱! 合図はクロスミラージュがやる!」 「え……わ、分かった!」 スバルはシールドを展開し、熱戦を防ぎつつ前に出る。ただし蜂の巣にならないよう、大きくう回しつつの動き。 ウイングロードも絡め、空を走り始めたスバルにガジェット達の三分の一が引きつけられる。……大きく深呼吸し。 「――クロスミラージュ、カートリッジフルロード!」 スバルのおかげで攻撃の手が緩まったので、木陰から出て反時計回りに一回転。銃口を向け、魔力弾丸を大量生成。 十、二十、三十……どんどん数を増やすヴァリアブルシュート達。これなら、AMFでもちゃんと届いてくれる。 その代わり限界を軽く超えたカートリッジロードに、体の奥で熱にも似た痛みが生まれる。 それでも必死に耐える。十秒……十秒だけでいい。謙虚に予定より減らした、ほんの一瞬でいい。 『ティアナ、やめて! 今のティアナじゃ四発ロードなんて……それじゃあ制御しきれるわけがない!』 「だから、十秒だけ……十秒だけの、背伸びだから」 副隊長達もこない、隊長達も出られない。私達だけじゃコイツらを足止めすらできない。 それで諦めて、このままなぶり殺しにされていろと? そんなの、ごめんよ……! 「狙い撃つのなんて、今は無理。だから」 クロスミラージュを振り上げ、バツの字に交差させながら一気にトリガーを引く。 「圧倒させてもらうわ!」 荒ぶる制御魔力とプログラム、限界を超えた演算処理――その全てに苦しみながらも、弾丸を次々と射出。 一世一代というには、余りに無謀な賭け。それでも……それでも仲間を守りたいから、中にいる人達を守りたいから、全力で打って出た。 (同人版第2話へ続く) あとがき 恭文「はい、今回はサンプル版。改定したミッション話第二話、更にStS・Remixでやった辺りを絡ませ再編集。 ……え、なんでここからだって? 崩壊ルートなら雨からスタートじゃないかって? いや、回想的にシーンを作っていたら、時系列毎にやった方が面白いと判断を」 ティアナ「相変わらず適当……! あ、ティアナ・ランスターです」 恭文「蒼凪恭文です」 (ただし他から持ってきて、リ・イマジネーションできるのはここまで。 恭文とガリューの戦闘などは省略しても問題ないところですし……あとは、雨が振るまでアニメもチェックしつつ描き下ろしです) ティアナ「あー、そっか。第八話のあれって、StS・Remixの方でもなのはさんが砲撃を撃って……って辺りからスタートだし」 恭文「当然ヘリポートで逆ギレ同然に殴った馬鹿なシグナムさん、シャーリーとシャマルさんも交えた布教活動なども書いてない。 ……ただそのあたり、原作通りになるか分からないんだよねぇ。見ての通り、突き詰めた結果フルバーストまでの流れも変わったし」 ティアナ「私も元々、六課の編成やらで不信感があるって流れだしね。下手したら殴られた辺りで、逆ギレして殴りキャットファイトの可能性も」 (『おぉ、キャットファイトですかい。そりゃあ楽しみだ。俺は土方さんを亡き者にする以外だと、女同士の醜い争いを見るのた三度の飯より好きなんでさぁ』) ティアナ「うっさいわよ! ドS王子はとっとと近藤さんを救出してなさい!」 恭文「あぁ、でも分かる分かる。愉悦だよね、加減とかしないから」 ティアナ「通じちゃったし、ドS同士で! そ、それはそうとよ」 恭文「うん?」 ティアナ「実はその、同人版の感想で……アンタと触れ合いたいって気持ちを押さえるなと、アドバイスしてもらって」 恭文「……うん」 ティアナ「だ、だからその……触れていいから! というか、私もアンタに触りたいの!」 恭文「ティアナ、それは痴女」 (げし!) 恭文「なぜ蹴った!?」 ティアナ「うっさい馬鹿! ようするにその……アンタが好きだから、触り合いたいって言ってるの! おとなしく受け止めなさいよ!」 古鉄≪……答えは同人版で≫ 恭文・ティアナ「「なにWebでーって流れにしてるの!?」」 (宣伝目的のパイロット版ですから。 本日のED:GRANRODEO『Once&Forever』) あむ「……一応とまかの準拠な感じだから、フェイトさんもしゅごキャラについては知っているんだよね」 ギンガ「それで私がこう……全力アタックしてるの。……私も、触れ合いたいよ? なぎ君にだったら、いっぱい触ってほしいし」 恭文「う、うん……それはそうとあむ、Vividのアニメ第八話で本格登場したね」 あむ「あたしっていうかミウラがね。あとはあれだ、アスティオンの声がランだった」 ラン(CV:阿澄佳奈)「えへへー、同じ声だったんだねー。私達ー」 アスティオン(CV:Kana Asumi)「にゃー♪」 ユキノ・カナメ(恭文役)「……カナさん、これで兼役が四つ……でもいいの! だって結婚したけど、私との絆はより深くなるから!」 カナ・アスミス(ランのCV)「ならねぇよ! てーか両手を伸ばすな! あたしのオパーイをさわろうとするな!」 恭文「……おのれらは、元の世界へ帰れ」 (おしまい) [*前へ][次へ#] [戻る] |