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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Battle111 『照らせL/もろ刃の希望』

それでは説明しよう。へびつかい座にまつわるギリシャ神話の一角を。

オリンポス十二神の一人であり、ゼウスの息子でもある男神(おかみ)アポローン。彼はたて琴を手に取る音楽と詩歌文化の神。

同時にヘーリオスという神と同一化され、太陽神としても崇められていた。


そんな彼はある時、カラスの告げ口に騙され、自らの恋人コロニースを射殺した。この時、コロニースはアポローンの子どもを身ごもっていた。

その子はなんとか無事で、取り上げられた後賢者ケイローンに預けられ、立派な医師アスクレーピオスとなる。

紆余曲折(うよきょくせつ)あって死者すら蘇らせる力を得られる。が……その行動は世界の秩序、生老病死を乱すもの。


冥界の王ハーデースはアスクレーピオスの行動に憤慨し、ゼウスに強く抗議した。

ゼウスはこれを聞き入れ、雷撃を持ってアスクレーピオスを撃ち殺した。その魂は死後天に挙げられ、へびつかい座となった。

なぜヘビかというと、古代ギリシャでは医術の象徴だったから……なのだが、この辺りも諸説がある。


例えばヘビによって薬草の効能を知ったアスクレーピオスが、自らのシンボルとしたから。又は蛇毒を薬に使ったから……などなど。

ちなみに賢者ケイローンはケンタウロス族の賢者で、死後ゼウスの姿を星に型取り、射手座にしたという。

ここまで言えば分かるだろう。アスクレーピオスに取って太陽神、及び射手座は父であり、師でもあるのだ。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


堕天龍と話し終えた後はまた地尾さん、それにゲンナイさんとお話。あははは、大会に参加しているはずなのになー。

……なおセシリアとヒメラモン達には先に戻ってもらってる。箒は変わらず夜天の書スペアの中へ収納。

さすがに僕の魔力は使えないので、シャマルさんを呼び出してそのまま……だよ。


「シャマルさん、ありがとうございます」

「それはいいんだけど……箒ちゃんとギラモン、一体どうしたのよ。完全にへし折れてて」

「さっき言った通りですよ。箒じゃなければ、あそこまでダメージを受けなかったんでしょうけどね」

「どういう……いえ、さすがに分かるわ。箒ちゃんは幼少期の一夏くんを知っている。恭文くんやシャルロットちゃん達と違って」

「それです」


仮に織斑一夏が正真正銘『ライアー・サマンワ』だとしたら、僕達はライアーしか知らないわけよ。

それはリンも同じく……でも箒は違う。記憶を失う前の一夏も知っているからこそ迷い、戸惑う。

皮肉だよねぇ、僕達は『知ったこっちゃないわ』で一蹴できるのにさ。これもFirst幼なじみゆえか。


「それとゲンナイ、箒とギラモンの事……待ってくれてありがと」

「元々そのつもりだったからね、……彼女に織斑一夏を止めるなというのは、とても酷な話だ」

「篠ノ之さん自身、亡国機業の洗脳を知らず知らずに受けていました。本当はあなたの言いたい事くらいは全部分かっていたでしょう。
でも彼女はそれを認められなかった。その原因はやっぱり、織斑さんに対する英雄視」

「彼女は愚かな間違いを犯した。もちろんそれは省みたが、同時に自分自身に対しての信頼をなくしかけていた」

「……ゲンナイ、そりゃどういう事だ? 箒が自分を信じてないって」

「引け目とでも言うのかな。間違えた自分より、自分を助け支えてくれた人の判断が正しい。
実際そういう要素はあったんじゃないのかな。例えば自分より恭文や、織斑一夏君の判断を重要視する」


それで質問したショウタロスが息を飲み、僕をガン見。まぁ、その通りだと思うので頷く。

クリスマスの時とか、スーパー大ショッカー絡みのアレとかでちょろちょろ出てたしね。

もちろん謙虚なところも長所だろうけど、それとて行き過ぎれば他者への依存。


自分ってものがないなら、紋章の力を上手く使えるわけもなく……って感じなんでしょ。


「だからゲンナイは二つの選択肢を突きつけた。一つは言われた通り、ギラモンを捨てて逃げる道。
もう一つは織斑一夏を否定し、恋心も捨て、ただの偽者として排除する道。どっちも箒にとっては地獄だ」

「……ゲンナイさん、あなたはどうして箒ちゃんにそんな質問を。
それに暗黒進化の件があるなら、一時的な預かりという話でもいいじゃないですか」

「いや、これは一時的では困るんだよ。デジモンと人間との共存――彼女はその脅威になり得るからね」

「だとしても、これは」


そりゃあシャマルさんも納得しきれない。というか気づいているんだね、この問題は実に意地が悪いと。

……僕達が知る織斑一夏は、本当に織斑一夏なのか。僕はナウマンモンやリインフォース絡みの事がある。

実際に悩んだ事もあるから、冷静に受け止められた。だからこそ気づけた、底意地の悪さにさ。


「てーか自信を砕くような問題なのに、そういう事言える神経が信じられないわ。シャマルさんも同意見ですよね」

「えぇ」

「おいヤスフミ、そりゃどういう事だよ。これってあれだろ? 箒が今の一夏を本物だと認めるなにかがあれば」

「ショウタロスは馬鹿だねぇ。……それじゃあ不正解、ギラモンは強制送還されるよ」

「はぁ!? なんでだよ! アイツは偽者じゃない、本物だって認めれば」

「そう、本物だと認めるわけだ。一度死んだ人間を」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


箒さん……だけじゃなく、ギラモンまでへし折れた。余りに重い話だけど、あとは箒さんに任せる。

そう結論づけ、わたくしも会場へ戻る。でも棚志さんが負けた……どうしますの!?

アマテラス絡みの話は! ここまで頑張ってきたのに! 個人的にバトルですか、そうですかー!


「しかしゲンナイって奴……いや、デジタルワールドは箒を相当危険視しているな」


そう言いつつ隣でもぐもぐとドーナツを食べるのは、ハルトでした。どういうわけかこちらについてきて……また幸せそうです。


「えぇ。あれは箒さんにとって答えようがない質問ですし」

「実際ギラモンも気づかせないよう、悟らせないよう焦っていましたしね。私も同じ事を聞かれたら、さすがに」

「なんだ、ガオモンも気づいていなかったのか。この問題は一夏のアホを忘れる以外、どう答えても不正解だ」

「「……はぁ!?」」


つい足を止め絶叫すると、ラウラさん達が何事かと振り返る。……あぁそうか、みなさんはまだ見えていませんのね。


「どうした、二人とも」

「ラ、ラウラ……ハルトが! ハルトがあの質問は一夏を忘れないと、どう答えても不正解って言ったぶ〜ん!」

「るごるご!」

「ちょ、それどういう事! ハルト……ああもう、わたしも早く見えるようになりたいー! すっごく不便だし!」

「それなら私から説明しよう、ちょうど同じ事を考えていたからな。……あの馬鹿嫁は一度死んだ人間で、今世界を作り変えようとしている。
それは大量虐殺にも繋がる愚行――そして人もまた、奴と同じように死から再生する」

「そういう事だ」


ハルトはのんきにドーナツを食べ、エグい事を言い放つ。……その意味を悟り、血の気が軽く引いた。

まさか、ギラモンがこの事を隠そうとした理由は……!


「……もし今の織斑君を本物だと認めれば、それは彼の行動を正当化するのと同じ。
協力するかどうかは別として、彼に対して感情を寄せている証明になる」

「また、極端な理論ですわね」

「だが一つの事実だ。仮に偽者だと認めた上で……その上で箒が嫁を好きと言い切れたとしよう。
その場合、恋愛感情から織斑一夏の味方をしかねない。偽者や本物――今ある時間の破壊に意味はない、そう考えているとしてな」

「かんざし、おれでも分かるぞ。これって……言いがかりだ!」

「普通なら、それで止められると思う。でも篠ノ之さんの場合、スーパー大ショッカーの件を知ってからなんて言ってた?
実際に織斑君は正しくて、私達は間違っていた。織斑君の話を聞く事もなくそう言い切って、私達にも従わせようとした」

「そこも踏まえると、余り極端とも言えないんだよなぁ。なにせ馬鹿がつくほど一途で、思い込みの激しい女だ……もぐ」


考えてみれば箒さんは暴走しやすい性格とも言える。最近はかなり落ち着いたとも思いましたけど、織斑さんと戦ってからはぶり返した。

そんな箒さんの存在自体を危惧している? ならこれは……そうか、デジタルワールド側が欲しいのは証ですわ。


「つまりデジタルワールド側は、証が欲しいのですね。いえ、踏み絵でしょうか」

「……そういう事なら分かるよ。篠ノ之箒という女の子は、決して織斑一夏に与しない。
今ある時間と人々を守りたい――心からそう思っていると。それが証明されない限り、ホウキにギラモンを預けたくない」

「つまり正解は二番――箒に一夏への恋愛感情も、思い入れも、全て捨てろという話だ。
安易に第三の選択などを求めてしまえば、その時点で回収決行、箒は全てを失うというわけだ」

「でも、そんなの篠ノ之さんには……酷すぎる。私だったら、耐え切れない」


そう言って簪さんが両手を握る。誰の事を考えているかなど、想像するまでもない。……わたくしだって、嫌ですもの。




バトルスピリッツ――通称バトスピ。それは世界中を熱狂させているカードホビー。

バトスピは今、新時代を迎えようとしていた。世界中のカードバトラーが目指すのは、最強の称号『覇王(ヒーロー)』。

その称号を夢見たカードバトラー達が、今日もまたバトルフィールドで激闘を繰り広げる。


聴こえてこないか? 君を呼ぶスピリット達の叫びが。見えてこないか? 君を待つ夢の輝きが。

これは世界の歪みを断ち切る、新しい伝説を記した一大叙事詩である。――今、夢のゲートを開く時!



『とまとシリーズ』×『バトルスピリッツ覇王』 クロス小説

とある魔導師と閃光の女神のえ〜すな日常/ひーろーずV

Battle111 『照らせL/もろ刃の希望』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ここまでのあらすじ――箒にぶつけた質問が無茶ぶりなのが判明しました。それでシャマルさんとかもう、あ然。


「お兄様」

「おい、そんなのアリなのかよ! 箒がなにしたってんだよ!」

「馬鹿だねぇ、これからなにかするから、こういう無理難題を押し付けているんじゃないのさ。
仮にギラモンが暴走しなくても、箒が向こうについてしまえば同じ事だしね。……箒のデジモンが暴れて、死人が出るかもしれないんだ。
それは当然デジモンとの共存にも邪魔。まぁ……正直気に食わないのは事実だけどね」


でもそんな個人的事情に配慮できる状況じゃあない、それもまた事実だ。流されて一番傷つくのは当人達。

だからこの無理難題を押し付けた。救いに見える第三の道も、第四の道も罠に等しいわけだし。

でも……その先をもし見つけられるのなら。今僕が言った想定以上の答えを箒が導き出せるのなら、もしかしたら。


この問題が無理難題なのは、箒と織斑一夏『だけ』で考えるからだ。まぁ、僕がなにかしたりは無理なんだけど。

もうここまで言えば分かるでしょ。ゲンナイはこれが『ラストチャンス』だと、箒に試練を与えたのよ。

これを乗り越えればギラモンも預けられるし、オファニモン達だって納得するって言わんばかりの……特大級の試練だ。


もちろん一番安易なのは、織斑一夏を徹底否定するという道だ。というか、普通はそれくらいしないと納得しない。

僕達の動きが鈍くなっている現状で、なにがなんでも説得して止めるーとか言い出してんだよ? 甘すぎでしょ。


「ゲンナイさん、一つだけ質問を。あなた個人としては篠ノ之さんをどうしたいんですか」

「……彼女は確かに間違え、失敗も多い。しかし一つ一つと向き合い、知り、傷だらけだが成長している子だと思っている」

【ぷぷぷ、ストーカーの如く見てるんだねー】

「おいおい、それはひどいなぁ。……確かに私の質問は無茶だ。だが……恭文ももう気づいているだろう。
そうなってしまうのは、彼女の『世界』が狭いからだ。彼女がその事実に気づけば、もっと違う答えを出せるはず」

「なら、あなたはその答えを期待しているの? でもノーヒントでそんなの」

「出せなければこの先の戦い、彼女はどちらにしても生き残れない。彼に対しての未練は、必ず彼女自身を貫く刃となる。
……我々が今まで戦ってきたのは、デジモンカイザーの量産型と言っていい。そして、オリジナルの彼は」


ワームモンを殺した。あの時届かなかった手を、声すらなく消えたあの子の姿を思い出し、胸が痛む。

記憶も保持した上で生き返ったけど……まぁあれだよ、そういうのもあったからさ。だから余計に分かるんだ。

ようは箒にしっかり考えて、自分なりの割り切りをつけろって話だよ。シャマルさんもそれは分かったらしく、表情を緩めた。


「そうですね。ここは篠ノ之さんに任せましょう。きっと答えは今までの中にある。でも八神さん」

「これで煮詰まって、暗黒進化してもアレですから……フォローはしますよ。紅椿にもお願いしておかないと」

「なにするつもりですか、あなた!」


あれ、地尾さんがぎょっとしてる。でもそれはすっ飛ばして、話題を変えようか。箒の事ばっかりには構っていられないし。


「あ、そうだ。八神さん……あなたが疾風古鉄から聞いた通り、裁きの神剣は」

「壊れていた事なら気にしなくてもいいよ。それに言ったでしょ? せめて心だけは守るって」

「えぇ」

「僕も一人の人間として信じたいんだ。ソードアイズ達だけじゃない、そうして踏ん張っていった人達がこの世界にはたくさんいる。
過去にも、今にも……もちろん未来にもさ。そんな人達の選択が無駄だったなんて、決めつけるのは嫌だから」

「えぇ、それもまたお兄様の夢であり『なりたい自分』……だから私達は生まれた」


それで満足するのはきっとアイツだけだ。世界はアイツの箱庭となる。でもそれにすら気づいてないんだろうね。

気づくわけがない……気づけるわけもない。でも向こうに残っても、改心して戻ってもピエロって、どんだけ流されるのが好きなんだろ。


「というかごめん。また変な負担をかけちゃって」

「いえ。まぁあれです、そこも『隠していた事』に絡む話で……私個人としても裁きの神剣は修復したいと考えているんです。
裁きの神剣を修復し、確保すれば向こうの目的を邪魔する事にも繋がる……そう考えていたんですけど、この流れはなぁ」

「そっか。……まずペインメーカーがリローヴっていうのは確定。だけど本人かどうかはさっぱり」

「というか、私達が感じた霊魂やらなんやらも」


そこで地尾さんが取り出したのは、こぎつね座の星鎧『地星鎧フォックスター』。僕でも見分けがつかないほどの変化能力を持つ、脅威の星鎧だよ。


「フォックスターやそれに類似するような、偽装・変身に特化した星鎧の力があったせいかもしれません」

「馬鹿だよねー。そういうのは絡め手として使えるのに、わざわざ放り出すなんてさ」

「まぁ、フォックスターはこちらで有効活用して、後悔させるとしましょう。あとは暗黒の種、ですか。お二人とも、本当に説得などは」

「種の問題だけでなく、彼は向こうにとって重要な手駒。こっちの心情は抜きとして、簡単に帰してくれるわけがないよ」

「ですよねー」

「……だがよぉヤスフミ、星鎧はどうしてバトルキャンセル機能なんて持ってるんだ?」


そもそもの質問をショウタロスが飛ばしてくる。またいきなり……というわけでもなく、そこも前々から引っかかっていたところだった。


「私も気になってました。八神さんは」

「同じくだよ。被害を及ぼさない点で言っても、バトスピは便利だし。しかも侵略を受けた地球側がそれってのは。
その流れだと……アルティメット達がカードバトルで侵略して、対抗しきれないからリアルファイトへ移行って感じじゃないと」

「成り立ちませんよね。実は会長にもその辺りを聞いてみたんですけど、今ひとつ要領を得なくて。
もちろんペインメーカーが追加した可能性もありますが……なので視点を変えてみました」

「というと、どういう事かな」

「星鎧は人が作った器に、星の力が注(そそ)ぎ込まれた真なる神のカード。
絶晶神達とほぼ同質の存在なんです。なら、その弱点も同じではないかと」


ゲンナイが息を飲み、僕とショウタロス達を見てくる。まぁ、そういう結論になるよねぇ。

それなら当時に追加された機能でも、ペインメーカーが追加した機能でも話は成り立つ。……でもそれは。


「同時に理由はどうあれ、当時の人類が選んだ道はクロノ提督や高木元社長やらと同じ。
……ちゃんと最初から提示されていたんですよ。ペインメーカー達は魂の闘争から逃げた上で、世界を好き勝手しようと企んでいる。
このままいけば仮に世界が残ったとしても、石器時代からやり直す事になります」

「また……だね。でも僕達はそんな事を許しちゃいけない。僕達がやるのは、ただの遊びで、みんなが楽しんでくれるバトスピだ」

「えぇ。ただ試すためには、現状のデータでは足りません。せめてレオブレイヴがこちらについてくれればなぁ」

「こぎつね座だけじゃ無理っぽい?」

「同種の機能はありましたけど、星鎧トップの裏十三宮相手ですから。とにかくそこも考えてみましょう」

「うん」


一つ突破口が見えた。上手くいけば織斑一夏も、星鎧も同時にキャッチできる計画だ。なお細かい中身は……やっぱりフラグなので内緒。


「じゃあシャマルさん、もう一つお願いが……僕をイギリスまで跳ばしてください」

「イギリス? え、ちょっと待って。どうしていきなり」

「クリステラ・ソング・スクール、それにグレアムさん達が危険です」

「――!」


あとは、箒にも見せておくか。予想通りなら……答えを出すにも、今のアレを知っておかなきゃ駄目でしょ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


目覚めの時は意外にも早くやってきた。まず狙うは早朝のイギリス――クリステラ・ソング・スクール。

夜も明けたばかりの空で佇み、余りに大きすぎる敷地を見つめる。世界の歌姫が経営する、歌手養成学校だったか。

慈善活動もしているが、結局は無意味な行動だ。世界は元から歪んでいる、全てを正す事など不可能。


だが存在価値ならある。……八神の目を覚ますため、生けにえとなってもらう。ここを破壊し、人々が死ねば一つ気づくだろう。

俺の気持ちを理解し、取り戻したいと願い、そうして天上人となる。同時にこれが使命から逃げた罰とも知る。

大丈夫だ、世界を再構築する時に復活させればいい。俺だってそうして今、『織斑一夏』になれた。


人は死によってその罪を浄化し、生まれ変わる事で痛みと罪もない完璧な存在となる。

俺は身を持ってその意味が理解できた。だから……父さん達も間違っている。そう、間違っている。

父さん達は、千冬姉はこのままじゃ幸せになれない。その戒めを解くなら死と再生が絶対に必要。


赤い射手座の装甲で日の光を受け、左手の弓を構え……炎の矢を合わせ引く。


『人々は俺を殺人者と罵るだろう。だがそれこそ間違い――死を恐れていては、世界は変わらない。大丈夫だ』


力を――眠ったまま使役しているブレイヴサジタリアスの力を限界ギリギリまで込め、放つ。


『その死は、八神の目を覚ます福音となる。だから必ず報われる――世界を救う礎になるから』


炎の矢は一気に無数の雨となり、次々と愚かな歌姫達を貫き燃やす……そのはずだった。

だが横合いから突然幾重もの蒼いせん光が走り、矢の全てを断ち切り爆散させる。そうして爆発の帯が生まれ、俺の目の前で広がっていく。

……二時方向を見ると、見た事もないISを……いや、鎧をまとった八神が突撃してくる。


右腰のビームサーベルを抜き放ちながらの斬り抜け。それを弓で防御し、慌てて振り返る。

だがそこに八神はいない……瞬間的にハイパーセンサーが空間の歪みを、八神の出現を捉える。

背後に現れた歪みに対し、振り返りながら弓で右薙一閃。空中をケンタウロスの如き四足で踏み締め、八神の袈裟一閃と衝突し合う。


思わずマスクの装着解除――それで忌々しげに視線を送る。軽べつと憎しみの視線だ。


「八神……!」

「よく出てきたねぇ、ライアー・サマンワ。とりあえず……死ねよ」


そこで腹部に衝撃――サイドスカートの装甲が展開し、レールガンとして砲弾発射。

それでシールドを、装甲を叩かれ、爆炎を伴いながら吹き飛ばされる。それでも身を翻し、数十メートル下の芝生へ着地。

……ならちょうどいい。ここでアイツを倒し、天上人としての自覚を持たせる。


それこそがお前の使命で生まれた意味だと……そうして作り上げるんだ、誰も悲しんだりしない世界を。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


赤い、炎にも似た装甲。その姿はケンタウロスの如きもので、左手には刃にもなる弓。

背後から聴こえてくる喧騒は気にせず、地尾さんが持たせてくれた特別製な不死山を取り出し、オーラ注入――そして効果発動。


「ネクサス不死山を配置!」


地面へ降り立ちながらクリステラ・ソング・スクールに投てき――カードは粒子化し、ゆっくりとこの場へ注ぎ浸透する。

よし、これでこの場は破壊されない。よくは分からないけど、このカードも錬金術によるものらしい。


「八神、俺とこい。お前だって分かっているだろう、自分が天上人となる運命(さだめ)だと」

「そうして世界を再構築ってか?」

「そうだ。悲しみも、絶望もない――そんな世界を作り上げ、維持していく。そのためにはお前の力が絶対に必要だ」

「ならどうしてここを襲った」

「お前に拭えない痛みもあるのだと教えるためだ。だが問題はない、ここの人達はお前が勇気を出せばすぐに生まれ変わる」


馬鹿な会話は適当に聞き流し、最初の斬り抜けで繋いでおいたオーラのラインで、織斑一夏の状態をチェック。

……やっぱり。織斑一夏以外にも二つ、レオブレイヴ達と似たような気配がある。しかもその一つはとても禍々しい。

なのでラインは表面化させないまま切断。白式の件も考えると、オーラのラインは取り込まれる危険が出てくる。


でも魔法も直接接触タイプは効力を発揮しない。さて、なかなかに厳しい状況だねぇ。

右手で持ったビームサーベル――古風刃・零を一回転させながら考える。


「お前も、ガーディアンも、選ばれし子ども達もその使命から逃げている。だがもう逃げるな……正義は、真実は俺達の方にある」


そうして織斑一夏は左手をニギニギ――弓を持っているから小さな動きだけど、それだけで十分。


「人と命というくだらない概念を捨て去るんだ。そうして全てを守る天上人として、俺の力になってくれ」

「なるほど、じゃあ」


……加速しながら左手でCCBを抜き出し刺突。織斑一夏は身構え弓を構えるけど、そこで術式を発動する。

目の前に展開した歪み――織斑一夏の背中を映すそれへ、CCBを突き立てた。

電撃を纏う刃はシールドを、そして赤い装甲を貫き、織斑一夏の肉体を捉える。


「が……!」

「やっぱお前が手本を示して死ねよ」


更に電撃を走らせ、内部で凝縮――全方位のクレイモアとして打ち出す。肉体が、心臓が、内臓が爆ぜ、赤い装甲はきしんで膨れ上がる。

首は内部から弾け、頭も破裂……すぐさまCCBを抜き、汚い血を払いながらコネクト解除。

織斑一夏は首なしのイビツな死体となった上で、その場で倒れた。……汚ねぇ花火だ。


なお今日の『魔法組んでみた』はコネクト――星鎧の魔法対策、実は完璧ではない。

今のところ直接触れられるものを無効化しているだけ。AMFみたいな空間に及ぶものでもない。

恐らくここはアルケニモン達のデータを元に、機能追加したせいでしょ。


まぁそれだけで一般的な攻撃魔法では倒せない状態だけど……直接触れないサポートならいける。


”お、おいヤスフミ……なにやってんだよ! これじゃあ”

”ショウタロスはやっぱり馬鹿だねぇ。……この程度で死ぬと思ってんの?”

”思うだろ! 体の中からミンチ状態だろ、今の!”

”普通ならね。でも”

「どうしたの? とっとと再生させろよ、ブレイヴピオーズ。……じゃなきゃお前の手駒が死んだままだぞ」


軽く挑発してあげると、赤い装甲の継ぎ目から紫の触手が十数本展開。それは自らへ突き刺し、脈動とともに生まれた光を注(そそ)ぎ込む。

……そうして壊れたはずの肉体は瞬間再生。織斑一夏はまた死を迎え、そして再生する。やっぱり、こうなるか。


”やはり、ですか。ショウタロスも実は気づいていたでしょう”

”まさか、ブレイヴサジタリアスの”

”死んだ人間をそ生させるほどの超回復能力、それにレオブレイヴにやられた傷も完治してるんだ。予測はできるが……危険すぎないか?”

”そうでもない。……神話のへびつかい座、アスクレーピオスはね、あらゆる傷や病気を治す名医だった。
そうして最終的にとある神様から、死者を復活させる能力までもらってるんだよ”

”つまり、そんな治癒に優れたブレイヴ二つと合体してると。これじゃあ死なない体ではなく、死ねない体だな”

”マジかよ……!”


そうじゃなかったら、ブレイヴピオーズが直接付く意味がないでしょ。

暗黒の種絡みでパワーアップしているかもだけど、左手ニギニギが飛び出すくらいだし。

……織斑先生が言ってたクセだよ、アレ。調子に乗って、簡単なミスをするってさ。


まぁ僕としてはここで死んでくれても全く問題なかったけど。だって……僕達はもう、殺し合う関係だもの。加減する理由がない。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


恭文が、一夏を殺した。突然見せられたリアル映像に驚がくしへたり込むと、更に恐ろしい事が起きた。

壊れた肉体は……死ぬほどの怪我は一瞬で回復。一夏はそれを誇るように立ち上がっていた。


「ど、どういう事だ……! 一夏は、さっき確かに」

『無駄だ。ブレイヴサジタリアスが俺を守ってくれている、お前がなにをしようと俺は死なない。
……お前に俺は止められない。だから理解しろ、全てを守るためには天上人となるしかないと』

「死んだ一夏をそ生させるくらいのもんやから、これくらいは当然なんか! なんやそれ!」

「そう、か」


そこでほっとしてしまった。これなら一夏は……なら、恭文は? 一夏は、死なないかもしれない。

だがどうすれば止められる。どうすれば……そこでなぜ恭文が、この映像を見せているか理解する。

アイツもゲンナイ殿と同じく、答えを迫っている。そうしなければ結局、私は大切なものを全て失うと。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「馬鹿な奴……今お前についているのはブレイヴサジタリアスじゃない、ブレイヴピオーズだ。
お前、そいつに操られてるんだよ? なのに自覚もなく好き勝手な事を……愚か過ぎるわ」

「いいや、俺は俺の意思で戦い、世界を救おうとしている。八神、もう逃げるな」


そこで織斑一夏が右手をかざし、光を放ちながら【初嵐】を取り出す。……白式の装備だけを限定展開したのか。

てーかなに、ブレイヴ条件はどうなってるのよ。もしかしてアレ? ブレイヴはブレイヴでも亜種だからトリプルOKとか。

そうして展開される緑のビーム刃――織斑一夏はこちらへ駆け出し、一瞬で肉薄しながら左薙一閃。


古風刃・零で払い交差すると、数メートルのところで奴は停止。振り返りながら弓を向け、弾丸乱射。

弓というか、そういう形の自動小銃となっていた。右へスライド移動しつつ疾風無限刃弐式を展開。

奴も翼を広げ、そこから炎のビットを射出――それらが縦横無尽に走り、空間のあちらこちらで衝突する中突き抜け、右切上の斬撃。


白式の逆袈裟一閃を払い、交差しながらも向けられた弓に限定転送発動。あらぬところへ跳ばして消し去る。

織斑一夏はそれに構わず袈裟・逆袈裟・刺突・左切上と連撃。全てを後ろに跳び、スウェーも織り交ぜながら避けていく。

動きが鋭い……やっぱり種の効果か。これまでとはレベルが違うし、左手ニギニギでも油断はできない。


「俺達は同じ夢を見ているはずだ。俺とお前ならきっとできる――全てを幸せにできるんだ」

「幸せになるのは」


CCBで振り上げられた右腕に刺突――中から抉り両断。白式を落としてもらう。


「てめぇだけだろうが!」

「違う……!」


でも腕はすぐに再生し、白式も粒子化から再構築。再び元に戻ったそれで唐竹一閃。

左に跳んで斬撃を避けると、刃から生まれたエネルギー刃は地面を穿ちスクール校舎へと進む。

でもその波動は不死山の効果により弾かれ、霧散した。織斑一夏は驚きながらも左手で再び弓を取り出す。


ち、武装も奪えないか。殴りつけるような斬撃を防ぐと、力で強引に吹き飛ばされる。

それでも身を反転させ、二刀を一度上へ放り投げ無限長銃を両手で取り出し、レールガンも含めてのフルバースト。

しかし織斑一夏は体から獄炎を発生させ、攻撃の全てを受け止める。その上で加速し体当たり。


それは飛び越え、もう一度足止めのためフルバースト。直撃を食らっても効いてないけど、その隙に無限長銃を仕舞い、二刀をキャッチ。

そして織斑一夏は振り返りつつ弓と白式を重ねあわせ、融合――より巨大な、炎の両刃剣とした。

それだけじゃなくて四足の装甲が変形。溶けるように形状を変更し、人のような二本足となる。


その足で地面を蹴り、こちらへ迫りながら右薙一閃。伏せて避けると刃が返り袈裟の斬撃。

時計回りに回転しながら下がって避け、踏み込みなつつ古風刃・零で唐竹の斬撃。

刃で防御……いや、刃を受け止め、更に体から獄炎を発する。それに焼かれ、吹き飛ぶと織斑一夏が追撃。


なに、この炎。防御をすり抜けてきた……いや、零落白夜の炎か! く、これは厄介な!

大剣での乱撃をなんとか捌くと、トドメに刺突。CCBで断ち切ろうとするも、電撃をまとわせたはずの刃がたやすくひび割れる。

うん、ひび割れだよ。零落白夜によるエネルギー無効化によって、CCBへの電撃ブーストが無効化された。


二千万が……! 咄嗟に身を伏せ刃を避け、すぐさま転送魔法発動。奴の九時方向・五十メートルの位置に再出現。

織斑一夏はすぐ振り返り、飛び込みながら刺突。星鎧のハイパーセンサーもかなりのもんだね、すぐ気づけるとは。

バク転で回避すると地面に突き立てられた切っ先から爆発が生まれ、炎が周囲に広がっていく。


芝生を焼き、僕の体も煽られまた転がる。そんな僕へ対し、織斑一夏は左手をかざし炎の矢を連射。

CCBはためらいなく放り投げ、アルトを逆手で抜き放ち右薙・袈裟・逆袈裟と連続斬り払い。

魔剣Xの刃は矢を払いのけるも、周囲にはじけ飛んだそれは零落白夜の爆炎となり、僕に少なからずのダメージを与える。


くそ……やっぱ出力が伊達じゃない。てーか零落白夜ってこういうもんだったかな。

しかも問題となるエネルギー量も、ダブルブレイヴしている裏十三宮がいれば解決可能とは。

爆炎によろめくもふんばり、ある程度距離を保ちつつお互い右に走る。二十メートルほど進んだところで再び突撃。


突き出された刃を飛び越え、奴の頭上を取りつつアルトで後頭部めがけて斬撃。

頭を真っ二つにするも、噴き出す血は糸を紡ぐように絡み合い、新たな肉体として再生する。


「俺とお前は、行きとし生ける全ての存在を進化させるんだ」


振り返り放たれる右薙の斬撃。こちらも身を翻し、逆さ状態のまま両の刃で真一文字に払い。


「死を持って人は、より崇高で穢れなき存在となれる」


新たに生まれた炎のビット、それが全方位から迫ってくるので、すぐさま疾風無限刃弐式で真横から一刀両断。

着地した上で走り込み、返す刃での唐竹一閃を脇にやり過ごし、CCBで両足を膝から断ち切る。

でもそれすらすぐに再生し、織斑一夏は振り返り左手をかざす。……魔法を発動すると、そこから荷電粒子砲が発射。


これは、雪羅の技……! 二刀で逆袈裟一閃。爆炎と衝撃すらも斬り裂き防ぐと、そんな中織斑一夏が肉薄。

そのまま炎に刃を染めながら右切上一閃――当然エネルギーでの防御は意味を成さない。

なので身を翻し、後ろに飛びながら回避。それでも刃にまとわれた炎の勢いに押され、焼かれながら吹き飛ぶ。


そうして二十メートルほど転がり、それでもすぐに起き上がる。……でも、OK……大体の性能は把握した。


「これで分かっただろう。お前は俺には絶対勝てない――俺は手に入れたんだよ、お前を天上人へ導くための、正しい力を」


アホな事を言いながら織斑一夏は立ち上がり、自慢げに笑う。その笑いはとてもイビツで、箒が見たら発狂ものだった。

……発狂してるかもしれないけど。でも映像を見せているの、実は箒だけじゃあない。


「八神、お前は死ぬ事が終わりと思っていないか? 違う……俺達は世界を生まれ変わらせるんだ。
人が死ぬ事なんて必然なんだよ。だがその先に始まりがある。お前はそれを信じ、人としての自らを終わらせるんだ。
それが俺の夢――『なりたい自分』だ。だがその夢にはお前の存在が必要……分からないなら何度だって言う、力を貸してくれ」

「ふざ、けるなよ……!」


ち、ショウタロス……危ないってのに出てきた。慌ててシオンとハルトも登場し、ショウタロスを押さえこむ。


「違う! そんなのは夢じゃない! 『なりたい自分』でもねぇ! 一夏、お前はどうしちまったんだ!」

「聞いてくれないなら、何度だって同じ事をするしかない。お前の大事なものを一つ一つ壊し、取り戻せないものを作っていく。
……頼むからそんな事を俺にさせないでくれ。だってもう、お前は俺に勝てないじゃないか」

「無駄ですよ、ショウタロス。……彼に、私達の姿は見えない」

「お前の声も届かない。奴に夢なんてないからな。……それより恭文、ブレイヴピオーズの件はツツいてよかったのか」

「問題ないよ、もうバレてるだろうし」


ブレイヴリブラが呟いちゃってるしねぇ、会議の内容に触れなければ問題ない。

……もしかしたらそれもバレてるかもだけど。でも、だからこその戦い方はある。

そっちは地尾さんと進めている詩姫計画も絡んでいる。でも計画、進めていてよかったよ。


もしかしたらそれでコイツを、エクストリーム・ゾーンへ引き込めるかもだし。だからここで決着をつけるつもりはない。

あくまでも盛大な時間稼ぎ。計画が発動できれば、コイツのたわ言は尽く封殺される。だからこそ。


「だったらここで、お姉さんの意見を聞いてみようか」


CCBを逆手に持ち直し納刀。その上で笑って指を鳴らし、空間モニター展開。するとひどい表情の千冬さんが出現。

はい、見せていたのはPSAやら警防の方。これでコイツの罪状はまた増えるわけだよ、楽しいねー。


「……千冬姉、久しぶり」

『一夏……お前はなにをやっている! 今すぐ武装を解除し、投降しろ!』

「それはできないよ。俺は八神に自分の使命を分からせ、一緒に夢を叶えなきゃいけない」

『投降しろと言っている! お前がやっている事は立派な犯罪だぞ!』

「それも大丈夫だ。世界を再構築すれば、山田先生や更識会長の罪も帳消しになる。
千冬姉、見ていたなら分かるだろう? 俺は八神より強くなったんだよ。これならもう千冬姉に恥はかかせない」

『言う事を聞け……お前はそんな奴ではなかったはずだ!』

「……じゃあ、千冬姉が取り戻せるのかよ」


ち、これも駄目か。織斑一夏はとても冷たい目をしながら、織斑先生の叫びを止める。


「殺されたんだぞ……記憶も奪われたんだぞ! アイツらのせいで俺達は憎む事しか、目を背ける事しかできなかったんだぞ!
その間も父さん達は苦しんでいたのに! 人の死に方とはほど遠い陵辱を受け続けていたのに!」

『一、夏』

「俺にやめろと言うなら、千冬が取り戻してくれよ! そうすれば俺はすぐに投降でもなんでもする!
……どうしたんだよ、答えてくれよ! ブリュンヒルデだろ!? 俺達の担任だろ!? だったら答えろよ!」

『無理だ……だが、それでもやめろ。お前は、間違っている』

「……千冬姉も命に縛られているんだな。なら千冬姉の罪も、罰も、全て俺が洗い流すよ。今の俺ならそれができるから」

『一夏……!』


通信を切り、大きくため息。さて……コイツはどうやって止めるかねぇ。ショウタロスも涙ながらに引っ込んでいったけど。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


千冬さんの言葉すら、通じない。一夏は完全に捕らわれていた。一週間しか経っていないのに、より醜悪に……より悪魔的に。

頭を抱え、涙をこぼしながら打ち震える。壊れていく、今まで過ごした日々が、愛おしいと思った時の気持ちが。


「違う」


だからこう言うしかない。そうだ、これは違う……これは、これは一夏じゃない!

私が好きになった、私が共にいたいと思った……あんなに会いたかった一夏じゃない!

そうか、やっぱりゲンナイ殿の言う通りだったんだ。一夏は本当に、死んでしまった。


今まで私が心を寄せていたのは、ただの人形――一夏を模した模造品。そうでなければ、納得できない。

本当の一夏があんな事を言うはずがない。一夏は死んで、あれは偽者だからそうなる……そうなるだけなんだ。


「なんだ、簡単な事だった」

「箒ちゃん?」

「こんなの、一夏じゃない。一夏は、やはりあの時死んだ。あれは偽者……死んでもかまわない、ただの」

「箒ちゃん!」


だがギラモンは私の肩を掴んで、現実へ引き戻そうとする。私の考えなどただの逃避。

だが逃げなければいけない。目を背けなければならない……やはり私は、一夏と戦う事などできなかった。

ゲンナイ殿の言う通りだった。もしあの場にいたのが恭文ではなく私なら、間違いなく説得などできなかった。


「よく見るんや! これは一夏や……紛れもない一夏なんや!」

「嘘だぁ! 違う、こんなのは一夏じゃない! 私の知る一夏は」

「それも一夏や! でもアイツは負けてしまったんや! 箒ちゃんがデジモンを憎むしかなかった時みたいに!」


……だがギラモンの言葉で、逃げそうだった気持ちが一気に吹き飛ぶ。私と、同じ?

視線で聞き返すと、ギラモンは力強く頷いた。そうだ、理解していた……していたつもりだった。

だから一年前、IS学園で再会した直後……一夏が私に対し、手を伸ばしてくれたようにできればと。


福音戦の時、私に声をかけてくれたようにできればと……思っていたのに。


「……ワイにはアレが本物かどうか、判別できん。そやかてアレしか知らんもん。でもひとつだけ言える。
アイツは悲しい事に、苦しい事に負けて、立ち向かう気持ちを……それでも踏ん張る気持ちを捨ててもうた!
そやからあんなくだらん奴らに利用されて、人間である事すら捨ててもうた! 本物かどうかは関係ない!
アイツが弱いから、アイツがそんな自分を省みようとしないから……あんなに、醜いんや」

「ギラ、モン」

「そやから、箒ちゃんも逃げるな……逃げたらあかん! アイツは織斑一夏や!
道を踏み外して、戻れなくなっているだけの……そんな、馬鹿な奴なんや!」


そうして静かに、また映像に目を向ける。一夏は道を踏み外した、戻れなくなった。でも私はずっとそれを認められなかった。

一夏が愛おしいから、私を救ってくれたから……何度も、何度もそれでは駄目だと突きつけられたのに、縛られ続けていた。

確かに私の感情は恋心などではないのかもしれない。ただの依存であり執着……一歩も、先へ進んでいない。


ならどうすれば進める? どうすれば私は……まだ見えない闇の中、確かな希望を感じて、まずは気持ちから一歩踏み出していた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……恭文、キャラなりしてくれ」


でもハルトは前に出て、左手のドーナツを食べ切りつつとんでもない提案をする。いや、この状況でそれって。


「そうしたらすぐ、ドラゴンの指輪を使う」

「あれを? でも」

「指輪が言っている。この時間稼ぎを一つ、成立させるための希望になるってな」


ハルトは左手の指輪を見せ、自慢げに笑う。……確かに接触型の魔法が使えない以上、オーラかキャラなりになる。

普通はオーラなんだろうけど……でも、僕の勘も言っている。これは確かに希望だってさ。


「……分かった。僕のこころ、アン」


『解錠(アンロック)』


「ロック!」


素早く指を動かして、心の鍵を開ける。なんだかんだでみんなにキャラなりを初お披露目(ひろめ)だ! やるぞー!

ハルトがたまごに包まれ胸元へ。水面のように揺らめく胸元は、そのままハルトを受け入れた。

その瞬間、予想して然るべき事態……体の感覚全てが乗っ取られ、髪や瞳の色がハルトへ変化。


ハルトは左手の指輪を右人差し指で軽く弄り、バイザー型パーツを下ろす。そのルビーの指輪を、腹部に現れたバックルへかざす。


≪シャバドゥビタッチ♪ ヘンシ〜ン♪ シャバドゥビタッチ♪ ヘンシ〜ン♪
フレイム――プリーズ! ヒー! ヒーヒーヒィィィィィィィィィ!≫


得している間に黒コート装着。その袖口に赤のラインが走り、ラインから炎が現出。そして光を払い、反時計回りに一回転。


【「キャラなり――ホープウィザード!」】


ハルトが左腰のチェーンを掴み、すぐにドラゴンの指輪を取り出す。……でも当然好き勝手になんてさせてくれない。

織斑一夏は踏み込みつつ、炎の矢を乱射。右に走りながら全て回避すると、回りこんで刺突。

ハルトは跳躍し錐揉み回転――刃を飛び越え、織斑一夏の顔面を蹴飛ばし吹き飛ばす。


着地してからバク転し、足払いを飛び越えながら指輪を装着。それからすぐに巻き戻るように跳躍・前転。

織斑一夏の眼前を右かかと落としで掠め、着地してすぐに一回転。コートを翻しながら胴体を蹴り飛ばす。


「キャラなり……無駄だ」


吹き飛びながらも織斑一夏はすぐに着地し、大剣を逆袈裟に振るってから構え直す。


「そんなまがい物の夢に俺が負けるとでも?」

「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ」

「……ヒーローなんて泣きもしなければ笑いもしない。だが俺は人間だ……人間だから泣きもすれば笑いもする。
そして夢を見て、叶えようとする。だが八神は……お前達のせいだ。俺は八神を救いたいんだよ、人に戻ってほしいんだよ」


まがい物……そこで湧き上がるのは、今まで感じた事がないレベルの怒り。やっぱり、コイツとは相入れないらしい。

あんまりに身勝手な言い草、自らの事しか省みない言葉。確かにその姿は……ほんと、今までなんで気付かなかったのか。

この姿はデジモンカイザーそのものじゃないのさ。答えは本当に、最初から提示されていた。


「そうすれば一緒の夢を見て、叶えていける。八神、俺がお前を人に戻し、救いだしてやる」

【ざけるなよ、それはお前だけの欲望だろうが。僕はそんな事、もう夢見ていない。だから】


ハルトは呆れながらもドライバーを操作。そうしてドラゴンの指輪を見せつけ、その輝きを誇る。


【ショウタロス達と出会えたんだ。……ハルト!】

「変身!」

≪シャバドゥビタッチ♪ ヘンシ〜ン♪ シャバドゥビタッチ♪ ヘンシ〜ン♪≫


そして指輪をドライバーに当て、スキャン。今度はエラーにならず、スキャン成功。

指輪から、そしてドライバーから炎の龍が現れ、同時に疾風古鉄も再展開。

炎に煽られ赤く染まり上げられ、その形状も多少変えながら再装着されていく。


≪フレイム――ドラゴン! ボー! ボー! ボーボーボォォォォォォォォォォ!≫


また派手な歌が響くと、体の感覚が一気に戻ってくる。驚きながらも生まれた熱、脈動の全てを受け入れる。

……するどどうしてだろう。いきなり真っ暗闇な空間に放り出された。キャラなりも解除された状態で、アルトやジガンもいない。

一人っきりの闇――でも怖くない。その奥に一つの影を見つけたから。今より、ずっと小さい頃の僕だ。


きっと今の織斑一夏と同じように、悲しい事に負けて……ただ嘆く事しかしなかった時の僕。

……かと思ったらちょっと違う。そこにいた僕の周囲には、ボヤけているけど誰かがいる。

金色の鎧……かな。それに大戦略のシャツ……あとは銀色の騎士甲ちゅう? なに、この個性的な一団。


――……はっきり言うけど……それをやられると非常に迷惑――

――それはお前やお前の……が叶えられないという事か――

「なに、これ。僕は、こんなの」

『いいや、お前は知っている……知っていたはずだ』


そこで突然現れたのは、カード状態のルード・ルドナだった。そうか、これは……というかドラゴンの指輪って、もしかして。


「全部お前の仕込みなの、これ」

『ここだけは、な。これはお前が忘れている最初の――Zeroの戦い。お前は確かに選んでいた、だがそれはより前にある』

――そう、じゃあまず確認……を救うって言うけど、具体的にはどうするの――

――聖杯の力で過去へ遡り、今度こそ正しき治世で安寧を築く――

――……まるで正しさの奴隷だ――

――それのなにがいけない。王になるのなら、人の幸せなど望めない――

――だからそんな、恥知らずな事ができるんだね――


小さい僕はそうはっきり言い切り、騎士甲ちゅうの女性……かな。声がやや低めだけど、男にしては奇麗すぎる。

でも音声が途切れ途切れなのはどうして。僕がこの事をちゃんと覚えてないから? しかも、この話は。


――間違いは――過去はやり直せないよ。ううん、やり直しちゃいけない。どんなに後悔しようと、変えられるのは今だけだ――

――黙れ! ヤスフミ、お前はまだ子どもだから分からないだけだ!――

――それでもやり直したい事はある。例えば……僕に家族なんていないって知った時とかさ――

――嘘をつけ! 貴様には姉がいるだろうが!――

――いないよ。僕は養子だから――


いなかった。だから織斑一夏と同じ事を確かに考えていた。でも……違う、それは違うんだ。

取り戻せるかもしれない、変えられるかもしれない。そう知っても揺らぐ事なんてなかった。

この情景に覚えはない。でもその気持ちには、決意には覚えがあった。だってこの時の僕もまた。


――実の親は事故死してる。八神の両親は、実の親の友達だった人達。その人達も同じく事故死。
……家族がいないって知った時、お姉ちゃんが家族じゃないって知った時、たくさん泣いた。
僕が八神の家に来たから、八神の両親も事故死したんじゃないかって考えた事もあった――


選んでいた。そう思っていても、選んで、貫いて……今を誇っていたから。


――やり直したい? あぁ、やり直したいよ。なにも知らないままだったら良かったのにって、何度思ったか分からない。
聖杯に願って僕の両親も、八神の両親も生き返らせるってのも考えたよ。でも……それは駄目なんだ――

――恭文、もうよい――


そこで大戦略の人が手を伸ばすけど、僕はそれを払い立ち上がる。


――もうよいと言っている――


そうしたらその人も立ち上がり、両肩を掴んで強引に座らせてきた。


――……お前の覚悟、誇り……胸に深く伝わったぞ。だから――

――……様――

――そろそろ、その涙を拭け――


その人に言われて、ようやく気づいた。いつの間にか……泣いてた。なので恥ずかしくなりながら、慌てて涙を拭く。

……確かに僕は選んでいた。これが本当に過去の記憶なら、僕は……そりゃあ、アイツと友達になれなかったのも当然か。


『思い出したか』

「ううん、全然。でも……この時の気持ちだけは、確かに」

『一応言っておくが、ドラゴンの指輪に我は関与していない。もちろんミトラ・ゴレムやミオガルド・ランゲツもだ。
あれはお前が魔法も夢だと思いだした事により、新しく生まれた可能性――しかしもろ刃の希望』

「だろうね。……力に夢を持つって点は、僕も、織斑一夏も同じだ」


夢は甘美……しかしだからこそ、人は夢に食われる。今の織斑一夏はそれとも言える。

夢とはもろ刃の希望。諦めが道を閉ざす事もあれば、『絶対諦めない』が駄目な時もある。

世の中、長く続ければ必ずなんて保証はない。悲しいけど……そういう事もあり得るのが世の常だ。


それでも僕達ガーディアンは、まず育てる事、夢に対し本気である道を守ってきた。

どんな花が咲くかは分からなくても、水を上げていく事だけは――芽を見つめていく事だけは諦めないように。


『下手をすればお前はそれに飲まれ、正真正銘しゅごキャラ達をまがい物とする。それでも使うか、その指輪を』

「使うよ。だってこの時からずっと」


左手にはいつの間にか再装着されていた、ドラゴンの指輪。それに笑いかけてから、ルード・ルドナに見せつける。


「これ(魔法)は僕達の希望と信じているもの」

『……お前を同志とした事、正しかったようだな。なら使うがいい。
夢に食われぬよう……夢と戦い、叶えていくために。来るべき時のために』

「ありがと」


お礼を言って、しっかり目を閉じる。それから深呼吸して開くと、僕は再び現実の中にいた。

残酷で、思い通りになんてならなくて……でも楽しい、戦い甲斐のある世界に。

まとっていた炎は弾け、コートも疾風古鉄と同じく赤色に染まる。肩アーマーは盾のような形状となり、その中心には丸いルビーの宝石。


ショウタロス達とも、ミキ達のキャラなりとも違う感覚――その脈動を感じながら、両手を挙げて改めて状況確認。


「これは……エクストリームじゃないのに、感覚がある! それに疾風古鉄も!」

≪う、うん! キャラなりの影響は受けてるけど、ISとしての機能は殺されてない! フルスペックでいけるよ!≫

【当然だ。ドラゴンはお前の魔力――魔法使いという夢そのもの。それと戦い叶えるのは俺じゃなくて、お前自身だ】

「……そっか。織斑一夏、お前は正しいんだろうね」

「……! 八神、分かってくれたのか! だったら一緒にきてくれ! そうして俺達で世界を守り抜く……夢を叶えるんだ!」

「とか言うとでも思ってんの? ばーか」


期待を持たせた上で突き落とす――織斑一夏は顔を真っ赤にして怒り、裏切られたと言わんばかりに憎む。ホント、小さな奴。


「なにが世界を守り抜くだ。箒を、シャルロットを、ラウラを、織斑先生を――今お前を信じている、全ての人を踏みにじっておいて。
……お前をこの世界の誰よりも、本気で思ってくれていた人達から逃げて。話し合って、向き合う事からも逃げて」

「お前は……まだそんなつまらない事に捕らわれるのか。なら俺は」

「箒達の痛みを『つまらない』と言い切るお前の世界も、放つ言葉も、なに一つ信用できない――! できるわけがない!」

「やはりお前の大事なものを壊していくしかない」


そうして織斑一夏はまたイノシシみたいに突撃し、唐竹一閃――それに対しソードガンアルトを取り出し。


≪どうも、私です≫


右薙の斬撃。それだけで大剣は真っ二つとなり、刃の先は空へ跳ね上がる。驚く織斑一夏の腹へ刺突を打ち込み、貫きながらも吹き飛ばす。

当然その傷もすぐに修復……されない。傷口は焼けたような跡が残り、織斑一夏は痛みに呻き膝をつく。


「ぐ……! なんだ、これは! ブレイヴサジタリアス、しっかりしろ!」

「させると思ってんの? まがい物(ライアー・サマンワ)。……さぁ」


ドラゴンの指輪を、僕の夢であり希望を見せつけ。


「ショータイムだ」

≪The song today is ”just the beginning”≫


一歩ずつ歩き出す。アルトを軽く上へ放り投げ、右の指輪を別のものに交換。

すぐさま反時計回りに回転し、右に移動しつつ唐竹の斬撃を避ける。

返す刃を左スタンプキックで踏みつけ止め、零落白夜の獄炎も右エルボーの一撃で撃ち抜き払う。


胸元を叩き、炎を散らされた織斑一夏はさすがに驚がく。動きが止まったところで跳躍し、身を翻しながら左回し蹴り。

横っ面を蹴り飛ばし、更に回転しながら右後ろ回し蹴り。かかとで口元を叩き、前歯を全て粉砕しつつ吹き飛ばす。

織斑一夏は血を吐き出しながら数度バク転し、そのまま地面へと叩きつけられた。


ドライバーのスライドスイッチを動かし、右手状態とする。その上で落ちてきたアルトを左手で素早くキャッチし。


≪ルパッチマジック♪ タッチゴー! コピー――プリーズ!≫


ドライバーに新しくセットした指輪をスキャン。すると体から炎が生まれ、それが右隣に移動し分身となる。

コピーとはその名の通り、対象をコピーする魔法。なのでもういっちょ。


≪コピー――プリーズ!≫


二人は四人に。


≪コピー――プリーズ!≫


四人は八人に。


≪コピー――プリーズ!≫


八人は十六人となる。増えた僕を見て、起き上がった織斑一夏は戸惑うばかり。そして左手から炎の弾丸を吐き出す。

なので今度はアルトのハンドソーサーを展開し、そこにコピーの指輪をスキャン。


≪キャモナスラッシュ! シェイクハーンズ♪ コピー――プリーズ!≫


アルトが赤い魔法陣に包まれ、同じものが右手に現れる。今回はアルトをコピーし、十五人の分身と一緒に袈裟・逆袈裟の連撃。

さっきよりも力強く炎を斬り払い、爆発を起こす事もなく全て霧散する。……まさか人格まではコピーしてないだろう。


≪≪どうも、私です……なに真似してるんですか。やめてくださいよ≫≫

≪あなた達こそ私の真似をしないでくださいよ。一体なに考えてるんですか、訴えますよ≫

≪ちょっとちょっと、この人達うるさいんですけど。私とキャラがかぶっているって時点で万死に値するんですけど≫

≪あ、主様! コピーされてるの! お姉様がー!≫

「……無視!」


両のアルトをガンモードに変形させ、奴へと歩きながら弾丸乱射。当然コピーなので、分身達も僕と全く同じ動きをしながら攻撃する。

織斑一夏は零落白夜の炎でかき消そうとするけど、それはちょっと無茶ってもんでしょ。

……弾丸は炎をもろともせず、織斑一夏に次々命中。蜂の巣にされた織斑一夏は身を無駄に震わせ、よろめきながら膝を突いた。


「な、なんでだ……こんな、まがい物の夢なんかに、今の俺が!」


当然でしょうが。零落白夜は確かにエネルギーを消滅させるかもしれない。

キャラなりの攻撃や能力は、魔法などの別の異能力で防ぐ事もできる。でもね、今は実弾を打ち出しているのよ。

織斑一夏はそれでも諦め悪く踏み込み、弾丸を大剣で受け止めつつ強引に接近してくる。


しょうがないのでコピーを打ち消し、別の指輪を右中指にセット。アルトをソードモードに変形させた上で僕も飛び込む。

唐竹一閃を二刀で受け止め、弾いて胸元へ連続刺突。怯んだ織斑一夏の左薙一閃を左のアルトで払い、懐へ入りバツの字斬り。

続けて二刀での左薙斬り抜けで交差し、振り返りながら右足を挙げ、奴の足払いを回避……からのスタンプキック。


更に回転し、右のアルトを背に当てる。続けて返す右薙の斬撃を防御し、今度は時計回りに回転。

向こうの刃を弾きつつ左のアルトで右薙一閃。胴体を斬られ、怯んだところでセットしておいた指輪をスキャン。


≪ルパッチマジック♪ タッチゴー! ビッグ――プリーズ!≫


前面に展開する魔法陣、そこに向かってアルトソードガンで刺突――すると突き入れた分、刃は十倍以上に巨大化。

はい、ビッグは巨大化の魔法です。でもこれ、現実化できたら楽しいなー! ちょっと勉強しておこうっと!

とにかく巨大化した刃はシールドと装甲をたやすく貫き、胴体部を穿つ。


その衝撃で織斑一夏も吹き飛び、呻きながらみっともなく地面を転がる。


「再生しな……なん、で。俺は、もうお前より……強い、のに」

「どっちがまがい物か、まだ分からないの?」

「違う、まがい物は」


そこで奴が立ち上がり、こちらへ粒子砲撃発射――雪羅の能力か。素早く指輪を入れ替え、魔法発動。


「お前の夢だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

≪ルパッチマジック♪ タッチゴー! コネクト――プリーズ!≫


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


八神は雪羅の砲撃を斬り裂ける……しかしその間に俺は後ろへ回り込み、左手を振りかぶる。

力を凝縮し、八神の胴体を瞬時に引き裂く。半死半生でも構わない、大事なのは連れて帰る事。

ブレイヴサジタリアスの力で死なない程度に修復し、神剣へアクセスさせればいい。


そうして俺の夢を叶える。そうだ、確かにお前の夢じゃないかもしれない。だがそんなのはどうだっていいんだよ。

俺の夢はきっと、みんなの幸せに繋がる。お前みたいな助けっぱなしの奴とは違う……俺は未来永ごう、世界を見守り続ける。

どうして、お前なんだ。どうして俺じゃなくて、お前が完全な器なんだ。俺ならお前のような真似はしない。


人間として、天上人として世界を……悲しくなりながらも雪羅のクローを八神に叩きつけた。

だがその瞬間、目の前に赤い魔法陣が展開。無駄だ、防御しようと雪羅なら……そう思っていたら魔法陣からエネルギーが吹き出す。

しかもそれは、俺が先ほど打ち込んだ零落白夜の砲撃。爪を突き立てる前に、驚いたほんの一瞬を突いて飲み込んでくる。


膨大なエネルギー、更に零落白夜の力によってブレイヴサジタリアス達のシールドは意味を成さず、俺の意識も一瞬で奪われた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


馬鹿な奴……こっちの攻撃が決め手になりにくいなら、おのれらの攻撃を利用すればいいだけの話でしょ。

コネクトってのはそういう魔法でもあるのよ? 砲撃をコネクトへ飲み込み、奴の移動先に出口を設定。そのまま吐き出したのよ。

結果織斑一夏は砲撃に飲まれ、吹き飛びながら燃え尽きる。紫の炎によって、一瞬でだ。

そんな中、砲撃もあらぬところへ通気抜けて全て消え去る。辺りに残ったのは炎の残滓と、見るも無残な中庭だけ。


「……ヤスフミ」


ショウタロスはボロボロ泣きながら、シオンと一緒にまた出てくる。それで悲しげに、戦闘後を見やった。


「アイツ、なんで……こんな事に」

「は? ショウタロス、おのれなにアイツが死んだって顔してるのよ。ちゃんと生きてるから」

「馬鹿言うなよ! 零落白夜の砲撃をまともに食らったんだぞ! なんかめちゃくちゃ燃え尽き……燃え、あれ?」

「消滅するか否かという刹那、織斑さんの体を紫の炎が包みました」

【ペインメーカーが助けたんだろうな。いや、ブレイヴピオーズが離脱したのか】

「そういう事かよぉォォォォォォォォ!」


その通りなのでシオンと、右肩に半透明で出てきたハルトも一緒に頷くと、ショウタロスは顎が外れんばかりにあんぐり。

……どうやら、フィナーレはまだまだ遠いらしいね。今日戦ってよく分かったよ。

あれを倒すなら、細胞の一片も燃やし尽くすしかない。でもそれは助ける戦い方では決してない。


覚悟は必要だけど。


「……僕も、変わらなきゃいけないって事か」

「なにがだよ、ヤスフミ」

「殺すのではなく、排除するのでもなく、まず引き戻して罪を数えさせるなら、僕の力だけじゃやっぱ無理だ。
……箒達の力が必要になる。総力戦じゃなきゃ、選択する権利すら得られそうもない」

「それもまたお兄様の限界。情勢の問題は……采配でクリアですか?」

【だがどうするつもりだ】

「それについては大丈夫。……偶然巻き込まれてもらうのよ」


意地悪く笑うと、ショウタロスとシオンが大きくため息。というかハルトからもため息が聴こえる。

ねぇ、それやめてよ。他に思いつかなかったんだから。偶然関わってしまって、自衛のためにも頑張ったって話にするしかないでしょ。

大丈夫大丈夫、僕はそういうのってよくあるから。……とにかくその采配、みんなと相談して考えてみよう。


え、身内は関わっちゃ駄目? うん、そうだね。でも……どうだっていいよ、今はそんなの。

本当はいけないって分かってるけど、そこを超えないと突きつけられないから。連れ戻したく、なったんだ。

でもそれは助けるためじゃない。まがい物の夢に捕らわれた奴へ、自分が壊そうとした世界を突きつける。


そうして苦しんで苦しんで苦しみ抜いて、死にたくなっても死ぬ事すら許されない、そんな自由すらない中……罪を数えさせる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


砲撃に飲まれ、体全てが消し去られたと思った。しかし気が付くと、元々寝ていたベッドの上……ここ、は。


「一夏ぁ!」


リローヴが涙目で俺の顔をのぞき込み、脇に顔を埋めて泣き声を上げる。


「良かった……良かったぁ! 目が覚めたのですね! ……どうして一人で飛び出したのですか!
病み上がりで戦うなど危険過ぎる! 死にたいのですか、あなたは!」

「……そうか、お前が助けて……くれた、のか」

「いえ……あなたは自力で戻ってきたんです。ボロボロのまま、アジトの玄関に倒れこんでいた」


俺が、倒れ込んで? ぎょっとしながらリローヴを見ると、顔を上げてその通りだと頷いてくる。

待って、くれ。俺は砲撃に飲み込まれて、死にかけて……ブレイヴサジタリアスなのか?


「だが、どうしてあなたは」

「……八神の目を、覚ましたかった。奴の大事なものを無残に殺せば、必ず気づいてくれる……そう信じていたのに」

「あなたの誠意は届かなかったのですね」

「それどころか、無様に負けた。あんなまがい物の夢に……俺達の夢が否定された!」


腹立たしく、ベッドに右拳を叩きつける。それで体がきしみ、強い痛みが走る。なぜだ……なぜ、なんだ。

どうして俺はアイツに勝てない。あんな、都合のいい神様にしかなれない、あんな弱い奴に。

本当の夢から、世界の真実から逃げ続けている奴に……まだ足りないのか。俺に、俺にもっと強さがあれば分かってもらえるのか。


だったら強くなる、お前が間違っていると突きつけてやる。そうしなきゃ俺の夢を叶えられない……お前には、生けにえになってもらわなきゃならないんだよ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……織斑一夏、情けない男だ。意識がないとはいえブレイヴサジタリアスと白式、それにこの私がついていながら負けるとは。

いや、八神恭文の強さと言うべきか。幾ら暗黒の種でブーストしようと、戦士としての格が違うのだろう。

肉体再生の事も読み切り、贄を殺してもかまわないと攻撃していた。普通はためらうだろうに。


これではバトルによる鎮圧・洗脳は無理か。我の事も既に感づいているとくれば、そこは避けるしかあるまい。

この男の手で戦いの場に立つなど、力を失えと言っているようなものだ。だが……目的は果たせた。

実のところ、八神恭文に出てもらわなければ困っていたところだ。奴ならば、今の織斑一夏だろうと殺し尽くせると踏んでいた。


ブレイヴサジタリアスの意識は既に我が掌握し、我の能力と合わせればそれくらいの事は造作もない。

だからこそ……織斑一夏は既に人ではない。これだけの短時間で、超高速の肉体再生を繰り返したのだ。

それも自然の摂理、痛みや修復に伴うショックなども一切消し去った上で。気づいていないだろう、贄よ。


奴が貴様の命を奪うたび、体を壊すたび、我らの力と相まって体そのものが作り替えられていった事に。

ここからは第二段階――貴様には幾千の死と敗北を味わってもらう。そうしなければ最後の希望が作れないのだよ。

世界全てを飲み込むための【眼】が。決して死ねない肉体、更に裏十三宮を取り込んだ特異性。


貴様の全てが、事柄をより盤石にする鍵となっている。死ぬたびに、傷つくたびに苦しむだろう。

だがそれがいい。そうでなければ、ここまで耐え忍んできた我の慰めにならぬからなぁ。


(第112話へ続く)








あとがき


恭文「みんな、無性に戦闘シーンが書きたくなる時ってないかな。うん、つまり今なんだ」

フェイト「どういう事!?」

恭文「というわけでお相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。で、でも一夏君がフェニックスみたいに……!」


(一応太陽にたたき込むというのも考えたけど、星鎧もあるし意味がなさそうだった)


恭文「まぁメタルクウラみたいに大量出現されても困るしねー。とにかくいよいよ覚醒したドラゴンの指輪。
まぁウィザードのアレ準拠ですけど、やっぱり使い方がエグくなっている罠」

フェイト「コネクトって、あんな魔法だったっけ」


(多分)


恭文「でも大丈夫。ディアーチェの技にもああいうのあったでしょ。吸い込んで吐き出すーみたいなのあったでしょ。あれ、はやてだったっけ」

フェイト「ゲーム!? ゲームの話かな!」

恭文「リリカルなのは的にも問題ない攻撃なんだよ、あやふやだけど」

フェイト「あやふやすぎるよ! ……でも一夏君の、体が」

恭文「宇宙の眼、どれだけ傷ついても【死ねない体】……素晴らしい2ペアだね」

フェイト「そ、そうなのかなぁ」


(どう転んでもピエロ――そして絶望、こんにちは)


恭文「まぁそんな話はさておき……フェイト、誕生日おめでとうー!」

フェイト「あの、ありがとう。うぅ、アブソル達からもいっぱいお祝いされてる最中です」


(注:とまと設定です)


フェイト「ただその、心配事が」

恭文「分かってる。遠洋漁業に出た馬鹿どもでしょ? なんだかんだで毎回遅れてくるからなー」

フェイト「釣果は毎回ちゃんと出してるけどね。でも今回って時期間近だけど、やっぱり外れてるし」

恭文「まぁなんとかなるでしょ。そうそう、実はこんな拍手が」


(フェイトと伊織の誕生日、そしてすでに火野の恭文君とあおが遠洋漁業に出てる。ふ、──


トウリ「負けじとこっちもマグロの一本釣りじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!火野の恭文君達より先に釣るッスよぉぉぉぉぉぉ!」

リードラ「ボク、ウニとか確保してみる!あと伊勢海老!」

らぐなるむ「きゃうきゅうー!」


(はい、いつものノリでバカども出動──!やっはー!勝負と行こうじゃないッスかー!) by 通りすがりの暇人)


フェイト「えっと、ありがとうございます……って、この人達もまた!?」

恭文「……僕も行ってきていいかな。楽しそう」

フェイト「そ、それはその……今日はずーっと一緒にいてほしいな。それで、いっぱいラブラブだよ?」


(そして閃光の女神はもじもじ……なにかを期待しているようだ。
本日のED:GRANRODEO『メモリーズ』)


※一方その頃

恭文(OOO)「負けるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! カジキを最初に釣り上げるのは僕達だ!」

あお「あおあおー!」


◆◆◆◆◆


伊織(アイマス)「勝負に乗っちゃってるし、あの馬鹿ども!」

千早「なんだか誕生日をダシに二人で遊んでいるようにも見えるわね」

伊織(アイマス)「ようにもっていうか完全に遊んでるでしょ! 楽しんでるし、全力で竿振ってるし!」

恭文「でも伊織、愛されてるって。一応僕も朝狩りに出かけて、キングターキーを用意したんだけど」

伊織(アイマス)「アンタもやってるじゃないのよ! 楽しそうじゃなくて楽しんでるでしょ!」


(おしまい)







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あきゅろす。
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