小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第39話 『Jの世界/剣崎一真』
火野の恭文が言う通りだ。俺は、恐れていた。ライジングとやらの力もきっと、使う機会がなかっただけじゃない。
ただ使わなかっただけだ。恭文が真剣に話してくれた分、そうなった時の恐れが……恭文、お前も気づいてたのか?
だから余計に負担をかけてた。俺、ほんと情けないなぁ。年上で、一応兄貴分のつもりでもあってさ。
なのに心配かけっぱなしで、一人でいなくなるくらいに追い込んで。なのに俺は……もうワケ分からない。
守りたいものはある。俺の世界じゃなくても、旅で出会った人達みんなを守りたい。
そんな人達を守れるなら、俺は……さっきだってそう思って飛び込んだ。アイツは俺よりずっと強い。
俺が戦うためには、もっと先へ――人を捨てなきゃいけない。でも怖いんだ、それが。
そうして悪魔になってどうする。悪魔になっても、結局俺が究極の闇として暴れるだけ。
そんな覚悟じゃきっと飲まれる。でもなんだよ、俺が持つ心の力ってなんだよ。どうすれば……俺は、なにやってんだ!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ユウスケ、さん」
ユウスケさんの慟哭に、やよいが近づこうとする。でもなにも言えなくて、困り顔で私達を見た。
「プロデューサー、どこまで……念入りなんですか」
千早ちゃんだけは違った。千早ちゃんは険しい表情で、悲しげなプロデューサーさんを見る。
「そういうのも気づいた上で、バックルを奪い取ったんですよね」
「そうでもない。……確信を持ったのは、昨日実際にやり合ってからだ。幾らなんでもなめすぎでしょ。
僕の実力は知っているのに、捕まえようとするだけなんて」
「……確かに」
「だから置いていったんだよ、あのヘタレな僕もね」
……そうだ、蒼凪さん! ハッとしながらプロデューサーさんを見ると、プロデューサーさんは軽くお手上げポーズ。
「プロデューサーさん、蒼凪さんの行方を知ってるんですか!」
「どっか行っちゃったんでしょ? この場にいたら、大和鉄騎の前に出ないはずがない。
……よく分かるよ、二人は相思相愛。だから求め殺し合う」
「なによ、それ……! それって仲良しって事!? だったらそんなのする必要ないじゃない!」
「ありますよ。例え命を奪うとしても、奪われるとしても、自分が強いって証明したいんです」
「鬼と修羅……人を逸脱する二人だからこそ、殺し合う理由もまた単純明快ですか」
「羨ましいよねぇ。そこまで本気になって、ぶつかっていける相手ができたんだもの。
……だからみんな、二人の間は邪魔しない方がいいよ。『殺されても』文句は言えない」
そんなの必要ない……って言おうとする私達を、真に迫る言葉で止めてくる。
私達では理解できなくても当然だし、干渉できなくても当然。もちろん……そうする事こそが傲慢だと。
「ではあなた様、蒼凪殿がいなくなっているのは心当たりが」
「スーパー大ショッカーの本拠地にでも乗り込んだんでしょ」
「一人で!? まさか、ユウスケさん達を戦わせないために……でも無茶ですよ! あんな人にも狙われているのに!」
「それでもやるつもりなんでしょ」
「どうやらそっちの少年君は、問題なさそうだね」
みんなでどう言っていいか分からなくなっていると、左側からすたすたと人が近づいてくる。ていうか……海東さん!?
「まぁオノD君には頑張れと言うしかないけど」
「海東! お前なにしにきたんだ!」
「馬鹿だねぇ、しじみちゃん」
「自分は響だぞ!」
「もちろん」
海東さんは私達を指差し、銃を撃つ仕草。
「お宝探しさ。ところで少年君、ちょっといいかな」
「なによ」
「海東純一という男、知らないかい」
そこでプロデューサーさんの目が細くなる。どうやら知っているっぽいけど、なに……この険悪な空気。
「僕が知っているのは志村純一だね。なに、偽名?」
「かもしれない」
「……事情がありそうだね、乗って」
プロデューサーさんは近くに止めてあったウィザードサイクロンへまたがり、その後ろに海東さんが乗っかる。
「……ちょ、恭文君待って! その前にバックル! バックルはどこよ!」
律子さんと一緒に止めようと駆け出すけど、その前にバイクは疾走――素早くこの場から去っていく。
「ちょ、恭文君ー!」
「プロデューサー、どこへ行くんですかぁ!」
でもこれ、どうしよう。ユウスケさんは崩れちゃったし、蒼凪さんは現在行方不明。士さんも寝込んで……もうめちゃくちゃだよ。
世界の破壊者・ディケイド――幾つもの世界を巡り、その先になにを見る。
『とまとシリーズ』×『仮面ライダーディケイド』 クロス小説
とある魔導師と古き鉄と破壊者の旅路
第39話 『Jの世界/剣崎一真』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『時や場所、登場人物さえも大きく切り替わり――今は二〇〇九年の五月。
そう、本編軸な蒼凪恭文とフェイト・T・ハラオウンはこの時、小さくなりながらもある問題に対処していた。
その原因はスーパー大ショッカー――奴らの基地に残されていた文書から、DCD計画の詳細が判明』
「……おい青坊主、この声なんだ」
「ナレーターでしょ」
「だからそりゃなんだよ!」
はいどうも、蒼凪恭文です。なんだかんだで日常とか言っていた本編だけど、全然そんな事はない裏話ばかりが展開されています。
てーか機動六課やら管理局、ハラオウン家の提唱する平和が、どんだけ薄氷だったかって思い知ってるところだよ。
その一番の原因は……DCD計画。大体の流れは、ディケイドクロス第38話を見てください。
その文書は七つまであったんだけど、データファイルを調べた結果……隠されたレポートを見つけた。
それは、あんまりに衝撃な文頭だった。『レポート8――栄次郎氏は無事に逃亡した。だがそれは罠だった』。
それだけを読んだ結果、モモタロスさんや城戸真司さん、紅渡さんは絶句。隣のナオミさんも、めちゃくちゃ嫌そうな顔をした。
「恭文、続きは」
「……かなり短いですけど」
「頼む」
「――だがそれは罠だった。我々が逃した士は、士ではなかった。我々は大首領が神となる、最後の手助けをしたにすぎなかった」
「士は、士じゃない?」
「私と光栄次郎氏に協力してくれた、織斑博士達も捕まった。私ももうすぐ……要点だけを書きつづろう。
まずディケイドライバーは未完成――ブレイドの能力、いわばアンデットの能力を再現できなかったからだ。
奴らが我々の計画をあえて見過ごしたのは、そこを埋めるため。それは」
そこで文章は途切れていた。多分見つかりそうになって、慌ててディスクを隠して……そのままって感じかな。だからこう言うしかなかった。
「以上です」
「なんだよ、いいところで終わりやがって! つーか……なんだよ、そのおにぎりってのは」
「織斑……名字ですね。察するに門矢博士と栄次郎さんの動きに乗っかった……って感じでしょうけど、これじゃあ」
≪……問題は私達の知る士さんが、本当の門矢士じゃないって事ですよ。更にブレイドのカードだけがなかったのは、ある種の不具合。
それをなんとかするために外へ出されたというのなら、士さんやギンガさんルートのあなたがしてきた旅は≫
「それを埋めるためだけの、データ収集……まずい」
今すぐ士さんや向こうの僕と合流しないと……もしブレイドのカードができたら、足りなかったものが埋まったらどうなる。
その時の事を想像し、僕達は恐怖する。それは、『士さん』にとって残酷な真実を引き出す事にもなるから。
……ただそれはこの後すぐ、一旦中断される事になる。突如車両内に飛び込んできた、意外なお客様のせいで。
≪HYPER CLOCK OVER≫
そのサインは聞き慣れた電子音。突如食堂車車内に緑の歪みが生まれ、そこから一つの影が飛び出した。
黒い……ハイパーカブト!? それは慌てて床に着地し、キョロキョロと周囲を見渡す。当然僕達とも目が合った。
「な、なんだなんだぁ!」
「あれ……デンライナー!? しかもモモタロスさんと、もう一人の僕!」
でもハイパーカブトから発せられた声で、驚いたモモタロスさんも警戒ストップ。
ぎょっとして壁際に引いていた渡さん質も、僕の背に隠れたナオミさんも、目をぱちくりさせる。
その間にダークカブトゼクターとハイパーゼクターが腰から離れ、姿を現したのは。
「嘘……僕ぅ!?」
≪……これはまた、凄い再会ですね≫
今度は一体どこの世界からだろう。ハイパーゼクターを使えるなら……軽く頭が痛くなりつつ、敵意もないようなので事情聴取。その結果。
「おのれ、ギンガさんルートの僕だったの!? え、なにそれ! なんでダークカブトゼクターが!」
「あー、うん。驚くよね。あの、あれからカブトの世界へ行って、ダブタロスに装着者として認められて」
「ベルトに関しては、天道さんが送ったんです。そうしたら、これで」
渡さんが困り気味に、『その通り〜』と誇らしげなダブタロスとハイパーゼクターを見やる。
二人はギンガさんルートな僕の周囲を飛び回り、その両肩にちょこんと乗った。完全に、懐いてる……!
「でもなんて羨ましい! いいないいな、いいなー!」
「でしょー? ……あ、そうだ」
そこでギンガさんルートな僕改め、ダブトな僕は笑顔で渡さんと真司さんを手招き。軽く脇にズレつつ、二人を廊下に立たせた上で。
「この馬鹿どもがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
二人を容赦なく蹴り飛ばし、床に這いつくばらせた。見事な不意打ちに止める間もなかったし。
「ちょ、恭文ちゃんー! ……あ、カブトムシな恭文ちゃんー! いきなりなにしてるんですかー!」
「ナオミ、ほっとけ。てーかあれだろ? その天丼みたいな奴からベルトを渡された時、大方の事は聞いてんだろ」
「えぇ」
「それでかー。だったら止められないかもー」
ようはあれだよ。渡さん達がディケイドの排除を前提で、旅に出るよう促した辺りとかさ。
完全にスーパー大ショッカーに踊らされていた事とか……あははは、これだけで済ます心の広さに感謝するべきだよ。
「す、すみませんでした。このお詫びは必ず……!」
「本当にすまん!」
「へぇ、謝ってお詫びをしたら済む問題なんですか。もやしもアレで大変なのに……へぇ、そうなんですかー。軽いんだなー、人の命って」
「「すみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」
なんという正論、なんという正義……やはり正義と歴史は勝者が作っていくものらしい。
そして渡さん達のずさんな計画に正義はあるか。それは正座して平謝りな二人を見れば、おのずと分かる事だろう。
「それでダブトな僕、おのれはなにしてたのよ。ハイパークロックアップだったのは分かるけど」
「……ちょっと、一人旅にね」
「一人旅ぃ!? おいおい、もやしやあっちの姉ちゃん達はどうしたんだ!」
「知りません」
「いやいや、知りませんじゃねぇだろ!」
「もやしはともかく、フェイト達は本当に知らないんですよ。写真館ごとどっかの世界に跳ばされて」
≪フェイトさん達は現在絶賛行方不明中。この人もこの人でいろいろ限界を感じて、再修行してるんです≫
『はぁ!?』
困ったような表情でそう言われて、面食らうしかなかった。……そこでナオミさんが空気を読み、新しくコーヒーを入れ直す。
でき上がったコーヒーを一緒に飲みつつ、ダブトな僕からまたまた事情説明開始。それでもう、呆れるしかなかった。
説明しても『できる事があるんじゃ』と勝手ばかりするフェイト、そんなフェイトに引っ張られ肩を持ってしまうギンガさん。
究極の闇絡みで、どうにも本調子じゃなくなっているユウスケ……更に士さんはまともだけど、どんどん重い話が積み重なっていく。
更にブレイバックル絡みの事……というか、話の全てが突き刺さる。僕にも言える事だからなー、これは。
「……で、お前は水戸納豆に行って、自分でカタをつけようとしてたのか」
「モモタロスさん、ミッドチルダです。まぁ、そこまで自惚(うぬぼ)れてはいませんよ。ただ……ユウスケともやしはこれ以上戦わせたくない。
もしかしたら仮面ライダーの誰かしらがきてるかもだし、渡りがつけられればなーと思ってて。今までは受け取る側オンリーでしたし」
「又は捕まっているであろう機動六課メンバーを助ける?」
「ハイパークロックアップが使いこなせれば……だけどねー。でも無理で、失敗しまくりなんだよー。
あっちこっちの世界をさ迷っててさー。もうみんなと別れてから二か月くらい経ってるし」
『二か月ぅ!?』
≪笑うでしょ? でも本当の事なんですよ。まぁいい気分転換にはなってますけど≫
いやぁ、それはガチ漂流じゃないのさ。ていうかそこまでやって使いこなせないって……やっぱミッドに嫌気が差してるのかな。
なんとなくだけどそういう印象を受けてしまった。……あ、そうだ。あの事について話さないと。
というかハイパーダークカブトで察するべきだった。渡さん達もそう言えばと、起こっていた事態全てを理解する。
「大変だったね。でも救出なら必要ないよ」
「……まさか」
「死んではいない。まず機動六課メンバーはちゃんと救出されて、今デンライナーに匿われてる。……ハイパーダークカブトによってね」
「はぁ!?」
「ただ噂のリンディ・ハラオウン提督や、地球にいるあなたの関係者……フィアッセ・クリステラさん達なども行方が分からなくなってるんです。
まぁ知り合い関係が全員失踪状態なので、これ以上事がひどくなりようもないって感じですけど」
「そっちはもうさらわれているとか」
「かもしれませんけど、幾らなんでも徹底的すぎて違和感が。あなたじゃないんですね」
「知りませんよ! 今聞いたばっかりで……あ」
そこでダブトな僕が察した。その上で僕を見てくるので、間違いなしと頷いておく。
……みんなを助けたハイパーダークカブトは、間違いなくダブトな僕だよ。ただしそれは今じゃない。
ハイパークロックアップを使いこなした上で、誰も巻き込まれないよう徹底して助けていった。
だからそんな話は知らないって言い切ったのよ。でもここで問題がある。
「じゃあよ、こっちに連れてきてない奴らはどこいっちまったんだよ! こっちの青坊主でもないってんだろ!?」
「そう、リンディさん達の行方が問題です。でも……それもダブトな僕に任せましょ」
「はぁ!? どういう事だよ、青坊主!」
「モモタロス、気づいてないのか? 未来のハイパーダークカブトな恭文が、みんなを助けるんだよ。
つまり行方を知っている……というかこれから思いつくのは」
真司さんが、渡さんが、そして僕が左手でダブトな僕を差す。当然モモタロスさんは理解できず、頭をもしゃもしゃとかきむしり始めた。
「だぁぁぁぁぁぁぁぁ! マジでどういう事だ! ごちゃごちゃしすぎだろ!」
「あとで図解しますので。でもそれなら……ダブトな僕、そのウィザードの世界ってのにはすぐ戻った方がいい」
「……あ、そうですよ! そんな状態の士さん達を放っておくのは危険です!」
「どういう事ですか」
一目瞭然――早速閉じていた端末を開いて、DCDレポートの中身を見せる。
一つ一つその瞳で文章を追っていく毎に、表情は強い怒りへと染まっていく。
それは僕達が……そして一緒にレポート内容を聞いた、フェイト達と全く同じ表情。
唯一違うのはシグナムさんか。シグナムさんは完全に功名を立てる事しか見えてなかったから。
ある意味では立派な奴隷だ。そう、奴隷なんだよ。ギンガさんルートの世界は、スーパー大ショッカーの支配世界。
管理局も自覚があるかどうかは別として、その下部組織として動いていた状況だもの。だから、これは選択だ。
スーパー大ショッカーを潰すって事は、やっぱり下部組織化していた管理局も潰すという事。
そのままになんて絶対できない。仮にこの戦いで勝利して、奴らの残党狩りを始めたとしよう。
その時、間違いなく管理局の存在は邪魔であり、残党どもの隠れみのとなってしまう。
そもそも下部組織化していたのに、組織だけ残しておくとは一体どういう事か。あえて言おう、もう管理局に正義はない。
その偽りを当然とするなら……それは奴らの奴隷である証明。その存在を許すなら、それは奴らの隷属を認めている証拠。
シグナムさんはそういう意味では、もう騎士なんかじゃなかった。ただの奴隷……首輪を付けられた豚だ。
でもシグナムさんを責める事はできない。奴らは徹底した弾圧ではなく、聞き心地のよい融和政策を取っていたのだから。
奴らが愚王ならば、シグナムさんは騎士として戦っただろう。しかし奴らは善き王だった。
そうして組織には夢がある、正義がある――どんな矛盾と困難も、信頼の輪で乗り越えられると嘯いた。
そんな嘘に騙された人達が、数百万単位であの世界にいる。もちろん、ダブトな僕も同じくだ。
局員ではないけど、嘱託として仕事をしていたなら……それは奴らの活動に従事していたのと同じわけで。
あとはその嘘から抜け出せるかどうかだ。シグナムさんは抜け出さず、壊れていく妄執にしがみつく事を選んだ。
あっちのフェイトとギンガさんがどうするかは分からない。なら、ダブトな僕は。
「……もやしは、大首領のまがい物って事ですか」
読み終えた上で、ダブトの僕が出した結論は……これだった。管理局より、自分達の世界より、士さんの事で怒っていた。
それはきっと今まで旅をして、近くで士さんを見てきたから。だからまず、一番に士さんの事で怒りを燃やす。
「そうなるね」
「記憶なんて、元からなかったと……!?」
「そうなるね」
「ふざけるなぁ!」
感情をむき出しに、両拳を握ってテーブルに叩きつける。そうして荒く息を吐き出し、一気に立ち上がった。
それでダブタロスとハイパーゼクターが近づき、そっとその両肩に乗ってすりすり……やっぱり懐いていた。
「ちょい待った」
「デンライナーでは行けないでしょ、チケットもないんだから。……ナオミさん、コーヒーありがとうございました」
「恭文ちゃん……気をつけて、くださいね」
「はい」
「だからちょい待ったって。……このレポート、コピーを渡すから。必要でしょ?」
「……ありがと」
そしてダブトな僕はさっさとダブタロスを腰に装着。その間に端末のネットワークを繋いで、データをあっちのアルト宛てに送って……と。
なおデータ送信にアドレスは必要ない。いわゆる赤外線的というか……便利だよねー、科学技術って。
「変身」
≪HENSIN――CAST OFF≫
ヘックス型の光が密集しながら、ダブトな僕を包み込む。そうして一瞬でキャストオフ状態となる。
さすがに車内でアーマーパージは危ないらしく、ストレート変身だ。レアだねー。
≪CHANGE――DARK BEETLE!≫
続けてハイパーゼクターをベルトの左サイドにセットして、コッキングレバーを下ろす。
「ハイパーキャストオフ」
≪HYPER CAST OFF≫
そしてハイパーダブトへと変身。黒光りする装甲、巨大化する角……その全てがカッコよくて、ドキドキしてしまう。
でも悲壮感もあった。それでも止まれないなにかを背負い、ダブトな僕は突き進もうとしている。
≪CHANGE――HYPER DARK BEETLE!≫
≪そっちな私、DCDレポートは確かに受け取りました。感謝します≫
≪いえいえ。……オーナーに説明しなくていいんですか? もしかしたら即行で行ける可能性も≫
≪駄目ですよ、この人……止まりませんから≫
「蒼凪さん」
「渡さん、ミッドの事はちょっとお願いします。……僕もすぐ追いつきますから」
「……はい」
そして左手でスラップスイッチを叩き、ハイパーキャストオフ――黒いカブトは、また時の中へと飛び込む。
その行く先がどこかは予測できないけど、それでも……道はまた交わると確信していた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ダブトな僕を見送った翌日――朝一番でデンライナー食堂車に、全員集合。しかしみんな、やつれ切ってるねぇ。
シグナムさんとスバルは拘束状態だけど、事態を理解させるためしっかり引っ張ってきた。
それで昨日見つけたレポート8について報告。もちろんダブトな僕がまた旅立った事もだよ。
「え……じゃあアンタ、アイツが出ていくのを止めなかったの!? なにやってるのよ!」
「止められるわけないでしょ。問題の世界、やっぱりオーナーでもすぐ分からなかったからさ。ターミナルに連絡中だよ」
「ふざけるなぁ! 蒼凪……貴様は分かっているのか! 私ではできないというクロックアップをできるのだぞ、こちらの蒼凪は!
奴がいれば全て元に戻る! そうだ、スーパー大ショッカーを駆逐し元通りの日常が」
「アンタは馬鹿か。もう管理局はぶっ壊すしかない……機動六課も、アンタ達の嘘っぱちな日常もおしまいだ」
「嘘をつくな! そうだ、私は信じない……! この鎖を外せぇ! 主はやて、魔力封印を解除してください!
我々で奴らを倒すのです! きっとできる……信じてください、私の言葉を!」
シグナムさんの叫びは通用しない。だって意気消沈してるの、はやてだもの。
同時に自分達の事よりなにより、士さんのために動いた……そんな行動にショックを受けてる。
顔を見せる事もせず、即行で行動だもの。それにショックを受けているのは、当然ちびっ子達も同じで。
「……なぎさん、まただ。また私達を振りきって」
「どうして、こんな時に。そんなに僕達の事が嫌いなのか。せっかく戻ってきてくれたのに」
「それも当たり前と言うしかないね。元はと言えばおのれらやフェイトが、馬鹿な企みに踊らされたのが原因なんだから」
「それで僕達になにができたって言うんだ! ただの部隊員なんだよ、僕達は……僕達に、どうしろと言うんだ」
「どうもしなくていいよ。坊主憎けりゃ袈裟まで憎い――お前達はどこまで言っても平行線だ、交わる事はない」
どうしようもない事、どうしようもない溝……そういうのもあるのだと、少し優しく教える。
エリオとキャロは泣き崩れ、寄り添いながら頭を抱える。まぁあっちのフェイトが行方不明状態なのもあるからなぁ。
なので僕の隣にいるフェイトが慰めようとするけど、肩を掴んで軽く止める。それは意味がないと、首を振った。
「嘘、ギン姉……どこに行っちゃったの。嘘、だよね。ギン姉」
そしてスバルはギンガさんが……今度こそ、正真正銘の消息不明だと聞いてぼう然自失。
更に管理局もぶっ潰すしかない現状も突きつけられ、完全に壊れていた。
「……それで恭文、これからどないするつもりや」
「そうだよー。シグナムお姉ちゃんじゃないけど、もう乗り込んでドンパチするしかないと思うなー」
「まぁまぁリュウタ、金ちゃんも落ち着いて。焦る竿には魚がかからない――僕達がやる事は、やっぱり戦力じゃないかなぁ」
ウラタロスさんは腰をくねくねさせながら、近くのテーブルに腰掛ける。更に右指も掲げイジイジ。
「魔法はAMFっていう分かりやすい対策があるし、そこを考えると魔導師組なみなさんは前に出せない。
それなら噂のGPO……となるけど、それも失踪状態だから頼れない。となれば、僕達はその仕掛けを準備していかなきゃ」
「へ、ようは頭数揃えてぶつかれって事だろ? いつも通りじゃねぇか。
しかもそんな状況で頼れる奴らって言ったら……それくらいは俺でも分かるぜ」
「あらま、先輩が珍しく頭を使ってるよ。今日は大雪……いや、砂嵐かな」
「なんだとぉ! うるせぇんだよ、てーかうっとおしいんだよ! いつも腰をくねくねさせやがってよぉ! 気色悪い!」
「もしかして嫉妬? 先輩は年だから腰も動かないしねー」
「ふざけんなぁ! 俺が本気を出しゃあくねくね……くねくねー!」
「うっさい!」
そしてハナさんの鉄拳制裁。腰を動かし対抗していたモモタロスさん達は、呻きながらも床に崩れ落ちた。
「……やっぱり頼れるのは、仮面ライダーってわけね」
「えぇ。そっちは剣崎一真さんの事も含めて、渡さん達で調整しています」
「でもヤスフミ、協力してくれる人達がいるのかな。ほら、ヤスフミは前に言ってたよね。
ライダーでも目的は様々ーだって。実際スーパー大ショッカーに味方をしている人もいるみたいだし」
フェイトの疑問も当然だった。大和鉄騎とかがそれだし……でも大丈夫、確実に協力してくれるアテが少なくとも『六人』いるから。
「だから奴らを見習って、馬車馬の如く働いてもらってるんだよ」
「……馬車馬? え、ヤスフミはなにを」
「その成果の一つがこれだよ」
そこで取り出すのは、スマートブレイン印のアタッシュケース。中に入っていたのはデルタギアだった。
「あれ、これって……そうだそうだ! ヤスフミのディスクで見た、仮面ライダーデルタのベルト!」
「なんかノーリスクで使えるものらしくてね。魔法NGな状況に備えて、修理完了したものを貸してもらったんだ」
「……修理完了?」
「僕もよく分からないんだけど、ダブトな僕が一度使って壊したとか」
「大丈夫なのかな、それ!」
ある意味いわくつきだよねぇ。それでもやるしかないでしょ……カイザのベルトよりはずっとマシだし!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
蒼凪さんに『お詫びじゃ足りないんだから、実行動で示さないと』と発破をかけられた。
それには反論なんてできず……でもあの笑顔は、鬼の目は怖かった。本当に、ダブトな蒼凪さんにももう一回謝ろう。
とにかく世界移動でやってきたのは、僕にとっては理想もあった『キバの世界』。そこで彼は、小さな王として頑張っていた。
部下達の声に、市民の声に耳を傾け、時に法を破ったファンガイアとも戦う。でもそれは倒すためではない。
間違いを正し、再び歩き出すため。自らの中にもある本能……その限界を打ち破るため。
不器用で失敗も多い王だけど、そんな懸命さが人を引きつけてもいた。見回りと称して街を歩く、そんな彼の前にひょいっと出てきてみる。
人気もちょうど途切れた公園の中、彼は笑顔の僕に怪訝な表情。
「初めまして、ワタル王」
「あなたは……いえ、あなたもファンガイア」
「えぇ」
さすがに一発で分かるのか。小さな王だけど、その目は確かだ。なので右手で軽く手招き。
ただしそれは王に対してではなく、左横に隠れていた小さな存在に対して。
「ただ僕はあなたと同じで、人間のハーフなんです。そしてこの世界の住人ではない……キバット」
「おう!」
そこでキバットが勢いよく飛び出してきた。ワタル王のキバットも驚き、彼の脇から登場する。
「な、ななななななな! ワタル、アイツ……俺だぞ!」
「おう、別世界の俺! ……ウェイクアァァァァァァァァァァァァップ!」
「むむ、負けていられるか! ウェイクアァァァァァァァァァァァァップ!」
「なんの勝負!? でも、それを持つという事は……いや、あなたはさっき答えを言っている」
「えぇ。僕の名前は紅渡――別世界の仮面ライダーキバであり、ディケイドを旅に誘った重罪人です」
自重気味にそう答え、キバーラを伴って王に跪く。でも王はそれを右手で止めてから、優しく手を差し出してきた。
王としてではなく、まず一人の人間として……その気持ちに答えるべく、両手で王と握手をかわす。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
どらぐれっだーとこっそり街を歩きつつ、目的の奴を探す。いや、会社にはいなかったんだよ。
それでどこだどこだと探していたら……その二人は笑顔で街を歩いていた。それでさ、ああでもないこうでもないって議論してるんだ。
このアングルがいいとか、それならこういう書き方はどうだとか……仕事帰りらしく、空気も緩んでいた。
なんかいいなぁ、夢を語り合っているみたいでさ。そんな空気を邪魔するのも引けたが、真正面から声をかける。
場所を人気のない川辺に移し、その上でかくかくしかじか――懐のどらぐれっだーも見せたら、揃って納得してくれたよ。
「――というわけで、わりとやばい状況だ。どうしても戦力が必要になる。手伝ってくれるか?」
「手伝います」
「シンジ、お前……即答か」
「俺にとって蒼凪さんは恩人ですから。もちろん門矢さん達も……それが真実を守る戦いであるのなら、逃げる理由なんてない」
「……確かにな」
どうやらレンも問題はないらしい。呆れながらも納得し、左平手に右拳を叩きつける。
……これもアイツらが繋いだ絆だ。旅には思わくこそあれど、嘘はなかった。だから仲間のためならと踏ん張ってくれる。
よし、やっぱ奴らには必死に謝ろう! マジで全員揃って土下座とかしないと、許してくれなさそうだわ!
「それなら安心してくれていい。これは真実を守る戦いであり、取り戻すための戦いだ。
……あの世界からいつの間にか消えていた、自由を取り戻す。もちろん真実を告げるという自由もな」
「かうかうー♪」
どらぐれっだーが『一緒に頑張ろうねー♪』と、懐から飛び出し二人にスリスリ。
少々驚いていたものの、これも真実の一つと捉え……二人はどらぐれっだーを受け入れた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
俺の速度は光よりも速い――それはつまり、全次元世界の誰よりも先を読めるという事だ。
またまたやってきたカブトの世界。そこのおでん屋へ入ると。
「「いらっしゃい!」」
「いらっしゃい」
笑顔の看板娘と、仲の良い兄弟がいた。……兄は少し前まで失踪状態だった。
クロックアップの世界に捕らわれ、誰にも追いつけない次元をさ迷っていた。
しかし元ZECTのスタッフ、そして加賀美によく似た男は救出に尽力。無事に家へ帰る事ができた。
この辺り、クロックダウンシステムが関係している。だがそれはまぁ、どうでもいい事だろう。
「おでんを一つ」
「あいよ」
おばあちゃんはやや無愛想にも見えるが、店全体をよく見ている。表面には現れない温かさを感じ、胸が熱くなった。
そして運ばれる熱々のおでん。箸をすかさず取り、大根を切り分け一口。……うん。
「美味い――!」
「ありがとうございます! でもおばあちゃんのおでんが美味しいのは当然!」
「おばあちゃんのおでんは世界一……いや、宇宙一だからな」
「おやおや。フラついていたソウジが言うと説得力もあるねぇ」
「ちょ、おばあちゃん」
「ははははははは!」
まさかこの俺が驚かせられるとは……このおでんは確かに宇宙一だろう。そしてこの家族もまた、絆で繋がっている。
これならば大丈夫だろう。おばあちゃんは言っていた――離れている時は、もっと近くにいると。
さて……お前は今どうしている。俺はお前に太陽となれ……そう言ったな。そしてお前は迷い、あがき続けている。
だがそれはしょうがない。全次元世界において至高の存在である俺と比べれば、その歩みも見劣りして当然だ。
大事なのはその上で自分のやり方を、太陽として輝く道を見つける事だ。お前はもう答えを知っているはずだ。
お前が照らさなければならないのは、お前が救わなければならないのは、誰よりなにより……自分なのだと。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
自分の中にある恐怖心、弱さを思い知った僕は旅に出た。というか、あり得ない僕の言う通りだった。
一人になって、静かに考える時間を得られて……よく分かった。彼女がたくさんなんてと思っていたけど、どうして駄目なんだろう。
まぁ日本だと完全にアレだけど、世界的にハーレムは珍しくない。というか、日本だって昔は側室という形で認めていた。
ミッドでも一応OKだし……やっぱりそこも恐怖心なんだと思う。あははは、そりゃ勝てるはずないわ。
もう情けなくて情けなくて。それでもまずは僕の知るミッドを目指した。いや、目指していたはずだった。
なのにどういうわけか恐竜時代へ遡ったり、江戸時代でおそば食べたり、明治時代で牛鍋を食べたりした。
挙げ句昨日は……またフェイトさんルートな僕と鉢合わせだよ。ていうかあっちのデンライナーへ飛び込んじゃった。
その結果事情説明したら、向こうの僕はなにも言わずあるデータを持たせてくれた。それを確認し、焦りながらも再移動。
それがいけなかったんだと思う。ミッドに戻るか、はたまたもやし達のところへ戻るかで迷っていたから。
僕はやっぱり中途半端。大きくため息を吐いて、両膝を抱えてしまう。
「ねぇアルト、ここ……どこ」
≪どう見ても海鳴、ですね≫
僕はアルトと一緒に、ビル屋上でただぼう然と……海を見ていた。それも懐かしくも温かい、あの海を。
もう泣くに泣けない状況で、ついてきてくれているダブタロスも『大丈夫〜?』と僕へすりすりして慰めてくる。
「時間軸は」
≪二〇〇七年の三月です≫
「また遡っちゃってる……!」
≪戻ってきてるでしょ。デンライナーの前はあなた、聖徳太子の楽しい木造建築にツッコんでいたんですから。
でもおかしいんですよ。どういうわけかこの世界、バトスピが凄まじく広まっています。
強い方のあなたが言っていた、バトルフィールドもあるんですよ≫
「じゃあここはあの世界の過去」
≪いえ、もっと別世界です。……ISまであるんですよ≫
「へぇ、そりゃ凄い。ISが」
もうなんでもありだからISくらいは……って思ってたけど、さすがにそれはない! ぎょっとしてアルトをガン見。
「IS!? え、ラノベのだよね!」
≪えぇ。でもそのIS、どうも世界的にハブられつつあるっぽいですよ?
最近IS学園が炎上したり、教師・生徒陣がデジモンや他生徒を襲ったとか≫
「デジモン!?」
お、落ち着け……OKOK、冷静になろうか。え、マジでどういう事? ISがあって、デジモンがあって……カオスすぎるわボケ!
あれ、世界ってここまでおかしかったかな! 僕の周囲だけがおかしいと言われたら否定できないけど、ここまではないよね!
いや、逆に考えろ! こういう時は逆に……IS乗ったり、デジモンと遊んだりできるかも! おっしゃー!
≪前向きですねぇ、久しぶりに≫
「でも、元の世界には戻らないと駄目なんだよなぁ。一体なにが原因なんだろう」
≪腹が決まってないんでしょ。足引っ張るなと言う気持ちが≫
「やっぱり、太陽はほど遠いのかぁ。……うし」
それでも膝を抱えるのはもうやめ。こういう時は気分を変えて、旅を楽しもう。
ていうか……今の精神状態で続けてやったら、絶対エラい事になる。なので立ち上がり、ダブタロスを撫でて屋上入り口へ歩き出す。
「なにか腹に入れようか。それで情報収集」
≪そうですね。でもISがある世界――もしかすると、フェイトさんルートなあなたからもらった、例の文章に書かれた『織斑』って≫
「……もしそうだったら、凄まじく嫌なものを預かってるよね」
どうにも嫌な予感がしている。だけどこういう時は必ず当たってしまう……それが僕の悲しい性。
……やっぱり、急いであり得ない僕の世界へ戻ろう。フェイト達よりもやしの方がやばいもの。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
織斑……DCDレポート(仮称)の中にある、隠しレポート内に出てきた名前。まさかこの世界に絡んでは、いないよなぁ。
ご飯を食べつつあれこれ考察した結果、幾つかの推論が生まれた。もちろんフェイト達の行方不明にも絡む。
とにかく今までの移動先が、もやしによる無意識選定だとしたら……僕はその外側で活動している。
だからこそ合流にも慎重さが求められるわけで。でも急がないと……そもそも狙った時間に合流できるかも危うい。
ハイパークロックアップの事だけじゃない。本郷さん達の世界で、海東の世界移動がタイムスリップになってたでしょ。
ああいう事が僕に起こるとも限らないし……あぁ焦れったい。別世界だけど、海鳴の海浜公園で大きくため息。
なお変装として頭にバンダナをかぶり、物質変換でさっと作った伊達眼鏡も装着。じゃないと、ほんと危ないから。
”でもアルト、ISって……よく考えたらウィザードの世界にもあったけど”
”あれとは違い、ラノベそのままですよ。しかも主役である織斑一夏、どうも失踪してるっぽいですね”
”……みたいだね”
携帯でこっちのネットに繋いで、軽くチェック……IS絡みでほんとゴタゴタしてるっぽい。
ていうかこの、生徒会長がデジモン襲撃ってなに。これじゃあIS学園、犯罪者の巣窟じゃないのさ。
ちなみにチェックしながら、ネット配信もしている覇王チャンピオンシップもチェックしています。楽しいねー。
”そして亡国機業という、ショッカーっぽい秘密結社……ECHELONがキーアイテムって、怖すぎでしょ”
”正真正銘の支配・統制ですね”
”どこも、同じか”
僕達の世界も、管理局も……まぁそこはとりあえずいい。今気にするべきは、胸の中で渦巻く引っかかりだ。
なにかが気になっている。やっぱりこの世界について、もうちょっと調べた方がいいかもしれない。
……そう思っていたからだろうか。やっぱり僕は学習能力がないらしい、またまたハイパークロックアップに失敗し。
≪――HYPER CLOCK OVER≫
広い大部屋の中へ着地する。……またやらかしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
「くそ……! またこれか! アルト!」
≪無事ですよ。さて、今度はいつのどこに飛ばされ……あれ?≫
人の気配がする。しかもたくさん……あははは、不法侵入じゃないですよー。失敗しただけだからその、逃げよう。
「嘘……ダークカブト!? で、でも違う! それ、ハイパーゼクター!」
≪というか今、あなたの声がしましたけど≫
でもその時、『僕の声』が響いて驚いてしまう。しかもアルトの声もだ。
慌てて周囲を確認すると、なのはやユーノ先生……それに見た事がない奴らもいる!
しかもその中心には驚いた僕がいた。まさか、コイツって……!
「まさか、八神恭文……! やば!」
立ち上がり逃げようとした瞬間、体に嫌な予感が走る。まるで縄かなにかに捕まったみたいな、そんな感触だった。
結果体がいきなりあお向けに倒れ、床をガリガリ削りながら八神恭文の足元へ移動。移動というか……引きずられた!?
ちょ、なに! この体にまとわりついているエネルギー! 魔力じゃない……なんか凄い異能使ってる!?
「え、な……なにこれ!」
更に僕の胸元を踏みつけ、八神恭文はドSのほほ笑み。あぁ、なんという僕! 間違いない、やっぱり別世界の僕だ!
「仮面ライダー、しかもハイパーダークカブト……なるほど。ちょっと変身解除しようか」
「恭文さん、何を察しましたの!? あの、まず説明を」
「待て、恭文!」
そこでチンクさんそっくりな女の子が、険しい表情で近づいてくる。いや、眼帯が逆だ。
というか前髪を横切るアホ毛は見覚えが。あれ、これってISキャラのラウラ・ボーデヴィッヒじゃ!
というかいるよね! ISやIS学園もあるんだから! あ、よく見ると他の専用機持ちもいる!
でも遭遇するとは思わなかったから、驚くのも許してー! 想定外すぎるわ、こんなの! どうしよう、ISでいきなり撃たれるのかな!
「サインをください! 仮面ライダーはテレビで見てすっかり大ファンです!」
かと思ったらサイン色紙を取り出し、倒れたままの僕に差し出してきた。結果全員がズッコけた。
「な、なのは……!」
「いや、なのはに聞かれても! でもあれ……間違いないよ! 仮面ライダーカブトに出てきた、ダークカブトだよ!」
「そういや教官が日曜朝は毎回……! そうよそうよ、形は違うけどテレビで見たわよ!」
「……ジャスティスさん、どういう事!? これもあなたや堕天龍の仕込みかな!」
「いや、私も知らないぞ! なんなんだ、これは!」
そして僕達に視線が集まる。……しょうがないので、とりあえずサインだけは書いてあげる事にした。
あぁ、感動だなぁ。サインを求める側からする側に……そうか、これが太陽になるという事なんだね、天道!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ここまでのあらすじ――765プロに、ヘタレな僕目当てで襲撃者がやってきました。相思相愛でなによりだと思います。
でも、だからこそ二人はすれ違う定め。……どこかの恋愛小説かと、伊織はため息混じりにツッコんだ。
そんなツッコミに『しょうがないね』で返した結果、肘打ちを食らいました。相変わらず伊織はツンデレです。
その日の夜――事態は動かぬまま、一日は終わる。そして海東は八神家のリビングで、平然と鯖のみそ煮を食べていた。
はやての手料理を……まぁ、いいけどさ。家主が許可しているわけだし。でもまた奇麗に食べるなぁ。
「悪くない味だ。盗めないのが残念だよ、どうしても隠し味の一つが分からない」
「お、そこに気づくとはやはり天才か! 恭文、コイツ舌が凄いで! ……あ、でもアンタも凄いか。毎回すぐ高ぶってまうし」
「意味が変わってるよね! それで海東……こっそり撮った写真の感想は」
「僕の探している『純一』と同じ顔だ。素性は」
「調べたけど不明。でも……多分スーパー大ショッカーの関係者だ」
海東の脇に腰掛け、率直な感想を漏らす。すると顔が真っ赤になりっぱなしな伊織が立ち上がり、どういう事かとこちらを見る。
うん、詰め寄ったりはしないのよ。こう、腰砕け状態だからすぐ座っちゃったし。
「ちょっと、どういう事よ! 不明だけどそう言うって事は根拠が」
「ある。伊織、気付かなかった? アイツ……僕が第一種忍者で、火野恭文だって知ってたでしょ」
「それなら不思議はないんじゃ。ほら、橘もいたし」
「でも橘さん、こう言ってたでしょ。『そういえば名字、変わったそうだな。なにがあった』って。
更にこうも言った。『報告になかったが、顔見知りだったのか』と。
橘さんこっそりに確認したら、僕の名字変更はバトスピ絡みで知っただけみたい。志村純一達には存在から話していない」
「……ちょっと、それ」
「少なくともその志村純一某、アンタについて前々から知っていた……調べていた。
でも第一種忍者って、情報保護の関係からその辺りのガードは厳しいよな」
「一人一人に対応する専門エージェントがついてるくらいだしね。普通なら自然と耳に入るんだよ。
ついでに僕の知り合いってわけでもないなら……海東、どういう事よ。それにおのれ、海東純一とも言ってた」
「つまらない話さ」
海東はしっかり手を合わせ。
「ごちそうさまでした」
ごちそうさまでした。なおみそ煮やご飯にみそ汁、付け合わせのおひたしなどは奇麗に食べられていた。
海東は立ち上がり、僕の脇を抜けながらリビングの窓へ。そうして空を見上げる。
「……とある世界はね、14と呼ばれる特殊アンデッドに支配されていた。ローチ達が兵隊とされ、人々はそれに従っていた。
でも単なる弾圧じゃないんだ。奴らは人に脳手術を施し、実に合理的かつ平和な支配を維持していた。
誰もが礼儀正しく、優しく、理知的。戦争など起こる余地もなく、ちょっとした悪意も根絶やしになった『理想的な世界』だ」
「……ディストピア小説によくあるパターンやな。統率するため、精神や脳を弄くるって」
「そう、ディストピアだ。ややみぎひゃひゃて君の考えるように」
「変な噛み方するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「そんな世界を壊そうとあがいていた、三人のライダーがいた。彼らを中心にレジスタンスも組まれていてね。
……そんなライダーの一人には、弟がいた。自由の意味も、大切なものの意味も忘れ、14の統率に協力していた愚か者だ。
兄弟は戦っていた。弟は弾圧者として、兄は人間の自由を守る戦士――仮面ライダーとして」
仮面ライダーは都市伝説。でも同時に真実でもあり、人類の自由を守る戦士だ。
少なくとも一文字さんと、僕も会った事がない本郷さんはそう考え戦っていた。
ショッカーという支配者、それによって自由と尊厳を奪われ、利用される人達。
そんな人達の自由を取り戻すため、二人は世界的な組織と孤独に戦い続けて勝利した。それこそが仮面ライダーの始まり。
ならばそのシステムや姿が変わろうと、例え変身できなくても、自由を守る戦いができるなら……それは仮面ライダー。
だから海東は自分の兄をそう評した。その表情には今まで見えなかった憧れと、失ったものへの思慕があった。
「だがそんな戦いに横入りし、世界を消し去った存在がいる。……スーパー大ショッカーだよ。
奴らはアンデッドを戦力登用するため……いや、アンデッドのデータを集めるため、君達も知っているブレイド系ライダーの世界を襲っていた。
結果支配者も、ローチ達も掴まって実験材料だよ。ライダー達も世界を守るため戦ったけど結局」
「理由は。それだと襲われた世界は一つじゃないよね」
「……そして弟も統率者を守ろうとし、粛清された。そうして弟は死んで、大事なお宝を失ったんだ。
生まれ育った世界を、歪んでいたとしても信じた正義と統率者を……兄弟の絆も」
「でも弟は生きていたのね。いや、生まれ変わったと言うべきか。弟は統率者のやっていた事も歪みと言えるようになり、旅に出た。
スーパー大ショッカーから特殊なライダーシステムを奪って、失ったお宝を探している。きっと……お兄さんも、生きてると信じて」
海東は伊織の言葉を軽く笑い、振り返る。でもそうして見せた笑顔は作られた無機質なものだった。これもまた仮面をかぶっている。
「さぁ、僕には分からないよ。……そうそう、少年君の質問には答えていなかったね。
世界が幾つも襲われた理由、それはある特殊個体に原因がある」
「特殊個体?」
「人でありながらジョーカーとなった、最強の【ブレイド】。奴らがこの世界のアンデッドを奪取し、解放したのはそのせいさ。
今まで滅ぼした世界から得たデータで、本能の塊というアンデッドを傀儡化してね。もう分かるだろう」
「剣崎、一真……そうか、キングフォーム!」
「アイツのキングフォーム、そう言えばイレギュラーなのよね。そっかぁ、だからこの世界なんだ」
「恭文さん、どういう事なのですか」
あー、リイン達は細かく聞いてないのか。アンデッド化するって辺りは知っていても……リインを手招きし、そのまま抱きかかえひざ上に座らせる。
「剣崎さんがジョーカー化する原因となったキングフォームはね、本来ならそこまで危ない強化形態じゃないの。ジョーカー化は想定外」
「え、でも恭文さんはバックルを」
「剣崎さんの融合係数は並外れて高かった。結果カテゴリーKだけじゃなくて、スペードスートのアンデッド全てと融合したのよ」
「それを連続使用した結果がジョーカー化よ。……どうやらこの件、剣崎や地下活動していた橘達を引き寄せる罠っぽいわね。
でもバックルはアンタが……って、意味ないかー! ジョーカーは専用バックルがあるもの!」
ジョーカーとしての姿で戦う事もできるけど、それだけがジョーカーの特性じゃない。
ラウズカードを用い、他のアンデッドから姿と力を借りて変身もできるんだ。
始さんも人の始祖――ヒューマンアンデッドのカードを用い、今の姿となっている。
だからそのカードがあるなら剣崎さんは無力化されない。というか、始さんと同じ方式でブレイドにもなれるはず。
それならブレイバックルに意味はあるのかという話になるけど、問題はそこじゃなくて……あの人なら飛び込んでくるってところだよ!
始さんやら人類のため、アンデッド化とかしちゃうような人だもの! 間違いなく止められない!
出てくる時点でアウトだってのに! 出てくる時点で計画通りだってのに! どうしよ……どうしよー!
「そうそう……少年君に一つ質問が。志村純一と一緒にいる二人の素性、分かるかな」
「そっちはバッチリだよ。三輪夏美は元OLで、上司を殴り飛ばしてクビになったらしい。理由はえっと」
手帳を取り出し、パラパラ……あー、これだこれだ。改めて確認して、つい呆れてしまう。
「いわゆるアパレル系だったんだけど、上司から仕事を与えられずカチン……だって。禍木慎も横暴な客を殴って、ウェイター業をクビ。
二人ともそのタイミングから消息がよく分からなくなっているし、ここで橘さんにスカウトされたっぽいね。まだひと月も経ってないよ」
「……とんでもないDQNじゃない。なるほど、元から喧嘩っぱやかったと」
「みたいだね。海東、気になる事でも?」
「なに、偶然はあるものだと思ってね。……新世代ライダーだったか。それはレジスタンスの三人と同じなんだよ。あとは二人も」
なるほど、海東純一の仲間……のIFバージョンと。だから海東は振り返り、テーブル上に置かれた端末を、そこの映像を懐かしげに見る。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
翌朝――伊織ともしっかりラブラブして、気持ちよく目覚めてから十数分後。僕はウィザードサイクロンを走らせていた。
……朝っぱらから反応が出たんだよ! 現場となっていたのは新宿御苑内部。
緑もいい感じで生い茂る中、三体のアンデッドが跳りょう跋扈していた。一体は金色の二本角と体を持ち、二股の剣を振るう……コイツもかー。
「ギラファアンデッド――金居!」
あれはダイヤスートのカテゴリーKだ。もう一体は青白いイカっぽい怪人、ケープのように広がる両肩から触手を何本も生やしていた。
こっちはクラブスートの九番【スキッドアンデッド】。あともう一体は薄紫もマダラに混じったクモ怪人。
こっちはもう考えるまでもない。スパイダーアンデッド……クラブスートの一番!
うっし、これでレンゲルは変身できる! 危険があるからするかどうかは微妙だけど!
でも三体相手でカテゴリーAとKがいる状況、生身で調子こいているわけにもいかないので、ライダーデッキを取り出す。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
朝っぱらから出動……正義の味方に福利厚生は存在しないらしい。まぁ、そういうものだとは知っていたけど。
純一に引き連れられ、三人揃って現場に到着。早朝、しかも庭園の開演三十分前という事もあり、人的被害は今のところ出ていないっぽい。
でも新宿は時間を問わず人通りも多いし、既に出勤ラッシュも始まっている。ちょっとでも飛び出せばすぐに地獄絵図なはず。
だからこそ純一はバイクを降りる前から変身状態。私達もそれに合わせ、即座に降りる。
「早めに勝負をつけるぞ」
「あぁ! ……おい」
慎に言われるまでもなく気づいた。あのチビ……また首を突っ込んできてる。一昨日の事を思い出して、朝っぱらから気分が悪い事この上ない。
私が女だからって舐めてるクソガキ。なにが第一種忍者よ、ライダーでもなんでもないくせに。
……仕事を邪魔されても面倒なので、ラルクラウザーの矛先をクソガキに向ける。
すると慎も笑って、ランスラウザーを手元で一回転。そうよね、腹立つわよね、アイツ……!
「純一、お前は先に行け。すぐ追いつく」
「どうした」
「気にしなくていいわよ。ちょっとしつけのなってない子どもに、現実ってやつを教えてあげるだけだから」
「そういうこった……! ションベン漏らしながら謝るまで、驚かせてやろうぜ!」
第一種忍者だかなんだか知らないけど、変身もできないくせにしゃしゃり出てくるんじゃないわよ。
感謝しなさいよ、クソガキ。橘さんには上手く言っておいてあげるから……消えなさい!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
自然と腰に装着されるベルト……そこで殺気を感じる。しかもそれはアンデッド達じゃないのがまた。
舌打ちしながらもデッキを持ったまま左へ側転。錐揉み回転もしつつ、四時方向から放たれた光弾を回避。
そのまま着地しつつ発射元を見ると、三台のバイク……そして既に変身している、禍木慎と三輪夏美がいた。
更に志村純一が僕とは逆方向からアンデッドへ飛び込む。二人もそれに続くけど、迫っているのは僕だった。
「……どういうつもり」
まぁ分かってはいるので、デッキをさっと懐へ仕舞う。そうして迫るのは人外の力で放たれる逆袈裟の一撃。
それを右に避けると刃が返るので、バク転して距離を取る。
「忍者なら忍者の里にでもこもって」
でも着地してすぐ十時方向へ走り、援護射撃を避けつつ禍木慎の右サイドへ。
「手裏剣投げてなさいよ!」
「そういうこった!」
またも乱暴に、幾度ともなく振るわれるランス……乱撃をすれすれで避けつつ下がり、立ち位置を考慮。
三輪夏美と僕の間に、このチンピラを置くようにして援護射撃は封じておく。……僕を足止めして、自分達できっちり手柄確保か。
しかも志村純一がなにも言わないってのがまた、ねぇ。こっちの実力を見ていると取るべきか……さて。
「女だからって馬鹿にしてんじゃないわよ! しかもアンタみたいなガキにまで……腕の一本でも落とされて自覚しなさい!」
「オレ達はな、お前達みたいな一般人はとっくに超えてんだよ! バーカ!」
反撃しないから調子に乗って奴は刺突。超振動しているせいか、刃は僅かに空気を震わせていた。
なので白刃取りなどは無理……まぁ取る必要もないけど。大きくため息を吐きながら右に動き、刺突を避けた上で柄を左手で掴む。
無駄だと思い振り払おうとした奴がそこで驚く。槍は一ミリ足りとも動かないんだから。
今度は両足を踏ん張って引こうとする。でも百キロ近い重量も、何トンという豪腕も、僕の素には勝てない。
しかも蹴るなり武器を捨てて殴るなりしないのが……おかしくて笑いながら、右フック。無駄な抵抗もろとも奴の脳内を粉砕した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
始と一緒に新宿御苑へやってきたら、あの二人が恭文君を襲っていた。しかも暴言を吐きながら……思わずムンクの叫びを取ってしまう。
始も舌打ちしながら首をかぶる。スパイダーアンデッドとかがいるのをすっ飛ばし……てーか志村さん、苦戦してるぞ。
さすがにあの二人相手だしなぁ……って、ぼーっとしてる場合じゃない!
「おい、なにやってんだ! その子は味方だぞ!」
「アンタ達にとってはね……ち、慎! 邪魔よ、どいて!」
そして彼はどかされた……それも強制的に。頭を素手でぶん殴られ、そのまま体が回転。
更に強固なはずのアーマーに亀裂まで入れた。まるで爆発でも起きたような音に、アンデッドや志村さんも停止する。
鬼はそんな状況でも笑って拳を振り上げ、更に亀裂の入ったところへ右ストレート。
その一撃が命中すると地面が爆ぜ、数十メートル離れている俺達の肌も衝撃波として叩く。
そりゃそうだ。あの子のパンチ力、幾つか知ってるか? ……三十トンは軽く超えている。
普通のライダーじゃあ変身しようと、パワーじゃあ対抗できない。鬼の修行ってのは、そういうのが普通になるくらい過酷なわけだ。
そうして亀裂はより深くなり、また拳が振り上げられる。彼女はそれに対しボウガンを乱射し止めようとするが……無駄だ。
あの一撃で完全に動揺して、弾丸は全て狙いが逸れている。光弾は俺でも分かるほど見当外れな方へ飛び、あの子には掠りもしない。
その間に同じ拳が一撃、もう一撃、更に一撃――合計十発入れられ、ようやく顔面のアーマーが砕けた。
彼女は射撃もできず、構えるだけしかできない。……一撃で仲間が全く動かなくなり、更にアーマーにも亀裂が入れられた。
しかも……そんな一撃を放ってなお、恭文の手は奇麗なままだった。汚れていないとかじゃない、傷ついていないんだ。
骨が折れた様子も、腫れている様子も、破片が突き刺さった様子もない。ただ無慈悲な鉄ついとしてそこに存在していた。
「ひ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
彼が悲鳴を上げながら、槍を乱暴に叩きつけようとする。斬るためではなく、ただの殴りつけ……恐怖から生まれた児戯に等しい抵抗。
「ナメるなよ、チンピラども」
でも恭文君はそれをあっさり左手で止め、亀裂の間から拳を打ち込む。また、同じだけの衝撃が走った。
次に拳を振り上げると、そこには血……でもすぐに気づく。あれは、彼の血じゃない。
恭文君は左手を伸ばし、オープンした状態のバックルを閉じた。
ゆっくり彼から離れると、彼を緑色のエネルギーカードが包んで変身解除。彼は耳から血を流し、失禁しながら気絶していた。
気絶寸前まで追い込まれながら、抵抗も許されず徐々に鎧が壊されていたんだ。
しかも怪人でもなんでもない、生身の相手に。……怖いに決まってるよなー。てーか俺もやられたよ、アレ。
そのまま彼はランスバックルを回収し、無造作に彼を蹴飛ばす。そう、それだけだった。
でも彼の体はサッカーボールみたいに軽くカーブし、そのまま三輪夏美の脇を突き抜けバイク達へ衝突。
派手な破砕音を響かせ、美しく磨かれたボディやパーツ達を歪ませ砕きながら、揃ってなぎ倒した。
「さすがは気に食わない上司や客を殴り飛ばして、クビになったチンピラどもだ。
お前ら、いつもそうやって自分を鍛える事もせず逃げてたんだろ」
「その目……その目をやめなさいよ!」
「ライダーの力も、アンデッド退治もそのうっぷん晴らしにしか使っていない。だから」
「許さない! アンタ達みたいなガキに、このあたし達がぁ!」
怒り混じりの射撃が飛ぶ。でも次の瞬間地面が爆ぜて、恭文君の姿が消えた。
「……どこ!?」
とか言うから目の前に恭文君が現れた。彼女はとっさにボウガンの弓部分――刃となっている箇所で斬り付けるも、また姿がかき消える。
「死んで詫びろ」
そして背後から右ミドルキック――吹き飛んだ彼女はそのままアンデッド達に叩きつけられ、もみくちゃになりながら揃って倒れる。
「……恭文の奴、また鍛えていたようだな」
「え、えぇ。俺の時はもうちょっと苦戦してくれたような」
「あ、そうだ。睦月さん、連絡が遅くなってアレでしたけど、後で765プロへ行ってみてください」
いきなり話しかけられついぎょっとする。しかもテンションが普通だからアレすぎるぞ!
「765プロ!? いや、まだ就職は」
「嶋さんがいます」
「「……なんでだぁ!」」
「さぁ? あの人は自由ですからねー。じゃあちょっと待っててください」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
さて、五対一だけど……アンデッド達には逃げる様子もない。状況に戸惑っているというよりは、逃げる必要がないと言うべきか。
やっぱりコイツら、ブレイドや関連ライダーを引きつける事が役割っぽい。……だったら早めに鎮圧しないと。
海東も遠くから見ているだろうし……そこで志村純一が、仮面ライダーグレイブが前に出てくる。
「犬のしつけはちゃんとしてほしいねぇ」
「すみません。ですがあなたの実力について、口で言っても納得しなかったので」
そう言った上で反転し、改めてアンデッド達に剣の切っ先を向ける。……上手く逃げたね。
僕なら大丈夫と踏んで、あえて二人の好きにやらせた。それはどうして? これから連携するためだよ。
実力で納得させるため、仕方なくってさ。事故ったらどうするんだとは言いたいけど、確かに効果的ではあった。
「それにあなたが噂通りの人なら、二人が傷を付けられるわけもないと踏んでいました」
「タヌキだね」
「否定はしません」
また違う意味でも言っているけど……二人揃って左へ走って散開。スキッドアンデッドから伸びた触手を、僕は左に転がって回避し。
「変身」
膝立ち状態になりながら、装着したままのベルトにデッキ装填。……生まれたのは黒の幻影。
並ぶ鏡に幾つもの自分が映るように、複数生まれたそれを一つ一つ受け止めながら変身完了。
「さぁ」
右手をスナップさせ、そのまま志村純一と一緒に飛び出す。
「ショータイムだ」
志村純一は改めてギラファアンデッドへ袈裟に斬りかかる。なので僕は残り二体……とっとと片付けるか。
(第40話へ続く)
あとがき
恭文「というわけでかなり久々ですがディケイドクロス第39話です。最終決戦の準備も進めつつーという感じで、お相手は蒼凪恭文と」
リューネ・マト「リューネ・マトです。……あの、A's・Remixの恭文さん達が」
恭文「こちらの方、どうなったかはヒーローズIIの九十話以降を見ていただければ」
(本筋とは関係ないところで、本筋に絡むようなでかい話になっています)
恭文「そして東宝怪獣コラボブースターも出て、楽しくなってきたバトスピ界隈……リューネ、ディーバ総選挙第四位おめでとう!」
リューネ・マト「ありがとうございます!」
(というわけで今日はお祝いです)
恭文「いやー、ディアナ・フルールは強敵でしたね」
リューネ・マト「……投票数、二位のトリックスターさんと三千票近く開いてましたしね」
(ディアナ・フルールは公式HPによると一万四百九十七表。
二位な[トップアイドル]トリックスターは七千七百三十九表。三位なフォンニーナは五千九百六表。
そして我らがリューネ・マトは、四千二百三表となっています)」
恭文「こうしてみると票差が……わりとぶっちぎってるな、みんな大好きなんだなぁ。ダークヴルム・ノヴァ」
リューネ・マト「そ、それは違うようなー」
(『……公式HPで『私のライバルはやっぱりトリスタちゃんかしら?』とか言ったのに、番外って』
『うぅ、ボクもだよー。アルティメットになったのにー』)
恭文「よしよし。ヴィエルジェ、アヴリエルも頑張ってたもんね。お疲れ様ー」
リューネ・マト「そ、それでですね……恭文さん、今日は一緒に」
(ぴと)
恭文「ちょ、リューネ!」
リューネ・マト「こうして、寄り添うだけでも……とっても幸せです」
(慌てる蒼い古き鉄、でも嬉しそうな詩姫……そんな二人を、ジーク・ヤマト・フリードのカードは微笑ましそうに見ていたっとか。
本日のED:鎧武乃風『YOUR SONG』)
恭文「ソウルコアでリアルタイム検索していると、『ソウルコアはシステムに絡んだものだから、長期的に続いていく』というご意見が」
あむ「……あ、そっか。新しいカテゴリーのカードとか、効果とかは根本的に違うんだよね。根幹システムのバージョンアップだし」
恭文「こうして禁断の果実を食べる方々が」
あむ「だからそれは駄目ー!」
(おしまい)
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