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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第60話 『目覚めよヴレイブ』

二〇〇三年・軽井沢――きたくもなかったんだが、父さんの言いつけとなれば仕方あるまい。参考書片手に山道を歩いていると。


「お坊ちゃまー! こちらですー!」


眼鏡をかけたうちのメイドが、とんでもない格好で手を降ってくる。浮き輪に虫取り網とカゴ、飯盒に水筒……張り切りすぎだ。

やや呆れながらもセミの声を背に、彼女の後を追っていく。


「全く……休暇を過ごすためにきたのに、なんで急がなくちゃいけないんだ」

「ダラダラしちゃ駄目ですよ! 遊ぶときも全力――それが私のモットーです!」

「なんでお前のモットーに、僕が付き合わなくちゃいけないんだ」

「お母様がお亡くなりになって、寂しい思いをされたでしょう。そんな時は私の胸で泣いてください」


彼女はそう言って、両手をバッと広げる。


「さぁ!」


……大きなものが揺れたように感じるが、気のせいだと思っておこう。しょうがないので彼女を追い越し、先を急ぐ。


「我慢、しなくていいのに」

「してないな」


彼女の大きさにはいつも圧倒される。確か身長、百七十八センチだっけか? メイドじゃなくてモデルをやればいいのに。


「とにかく私、全力でやらせていただきます!」

「分かったよ」

「この先のお屋敷で、夏休みの間過ごします。お父様はお忙しいですが、屋敷にはお坊ちゃまと同年代の男の子もいるそうですよ」


同年代……どういう縁なのだろうと訝しんでいると、彼女は笑顔を浮かべる。いろいろ大きい彼女だが、笑顔の深さも圧倒的だ。


「友達、作るチャンスですよ! この夏を忘れられない思い出で、いっぱいにしましょうね!」


……正直興味がなかった。僕は特別な事なんて望んでいない。ただ勉強し、父の後を継いで立派な大人になる。

それが僕のやるべき事で、全てだった。忘れられない夏なんていらない、忘れられる――置いていける軽いものばかりでいい。

目標へ進む邪魔なんてされたくない。彼女の笑顔はともかく、ずっとそう考えていた。


だが彼女がこの時言ったように、その夏は忘れられないものとなった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


少しして、白い二階建ての別荘に到着。やや乱れた髪の彼は、箱を抱え玄関で待っていた。そんな彼としっかりと握手。

僕がなんの箱だろうと思っていると、彼は嬉しそうに笑ってついてこいと言う。

そうして地下へ案内されると、六角形型の巨大ベースが七つ、部屋の中央で接合されていた。


上部表面はクリアガラスっぽくて、中央にスピーカーのようなくぼみが見える。

一体なんだと思っていると、彼はその一角に経つ。箱からロボットのおもちゃを取り出す。

その間に煌めく粒子が彼の周囲から立ち昇り、半透明な壁を形成。だが粒子が形成したのはそれだけじゃなかった。


巨大ベース上に海や港、町並みが生まれていく。その遠くには並ぶ山々も見えた。小さな世界がその中で形成された。


≪プラフスキー粒子、散布開始――あなたのガンプラをセットしてください≫


電子音声に従い、ロボットを前に置く。すると粒子がスクリーンのように、ロボットを透過。

その瞬間、ロボットの目がきらりと輝く。いや、目だけじゃない。ロボットの関節や、背負っている赤い翼にエンジン部も、力強くなったような。

信じられなくて軽く目をこする。更に粒子は機械的なカタパルトを構築。


≪バトル、開始≫

『サツキ・トオル――エールストライクガンダム! 出る!』


ロボットは両膝を折り曲げ、カタパルトを滑る。そうしてあの小さな世界へ飛び出した。嘘、みたいだ。

おもちゃのロボットが、まるで本物みたいに動いている。空を飛んでいる。

その前から、彼のロボットに似たものが出てきた。口にへの字な線がなくて、両肩がせり上がっているものだ。


そのロボットは右肩に担いでいるバズーカで、彼のロボットを狙う。


『デュエル! ストライクの兄弟機か、相手にとって不足はない!』


彼のロボットは急停止し、右へ大きく回る。そうして二体のロボットは空を飛び交い、砲弾やビームを撃ち交わす。


「お坊ちゃま……!」

「あ、ぁ」


声が掠れていた。なんだ、この熱さは。夏のせいなのか? 飛び交うロボットを見て、今まで感じた事のない感情が生まれている。

おもちゃが……おもちゃの、はずだ。それが動いている。幾度も空を交差し、街をすり抜け、火線を交わす。

その光景にすっかり見入っていた。そうしている間に、彼のロボットが背中の突起部分を右手で引き抜く。


ビームが刃となり、突撃してきたロボットの腹を両断。そのまま二機は交差。

別のロボットが爆発し、残ったのは彼のロボットだけ。ロボットは自慢するようにスラロームしつつ、近くの港に着地した。

すると世界が粒子へ戻り、ゆっくりと分解されていく。彼の周囲に存在した部屋も消えてしまった。


彼はロボットを回収してから、こっちに笑顔で近づいてくる。


「どうだい」

「え、いや……どうだいと言われても」

「すっごいですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」


……うちのメイドが目をキラキラさせているので、優しく背中を叩く。ただ僕の身長だとお尻の近くになるが。


「落ち着け」

「アニメさながらに、ストライクとデュエルがバトル! もう興奮ですー!」

「だから落ち着け。……しかし、これは一体。おもちゃがリアルに動くなんて。ラジコンなのか」

「まぁ似たようなもんかな。これはガンプラバトルさ」


ガンプラ……彼は戸惑う僕へ近づき、胸元を軽く叩いてくる。


「あとおもちゃじゃなくて、ガンプラだ。……最近発見された粒子を使っているらしい。
難しい事はオレにもよく分かんないけど、このシステムを使うと作ったガンプラが動くんだ。
君はガンプラ作った事……って、なさそうだなぁ」


え、なんで苦笑するんだ。もしかしてガンプラというのは一般常識なのか。


「そうなんですー。お坊ちゃま、アニメも見ないんですよー。勉強ばっかりですし」


うちのメイド曰く、常識らしい。プリプリしながら僕を指差してくる。


「トオル様からもなにか言ってあげてください」

「世間ではいい子って言うぞ、それは」

「アニメの一つも知らず、世間を語るのは百万年早いですよ」

「お前だって百万年は生きてないだろ。大体、勉強しているのは父さんの後を継いで、立派な人になるため」

「あははははははははは!」


言い争う僕達を見て、彼は大笑い。なにが楽しかったのだろう……つい彼女をジト目で見てしまう。


「オレは親父にもっと勉強しろって怒られるよ。どうやらオレに、タツヤを見習わせたいらしい」


そう言えば彼の父親は、不動産業界では知らぬ人がいない大社長だったそうだな。

だが彼は、僕とタイプが違う。それが不愉快というのではなく、不思議な印象を受けていた。


「どうやらお二人にはそれぞれ見習うべき――補い合える部分があるようですね」


彼女は鼻息荒く僕達の前へ周り、左人差し指をピンと立てる。


「それを見越してお父様方は、お二人を引きあわせたのではないでしょうか」

「へへ……オレの方は、むしろタツヤを堕落させそうだけどなぁ」

「違いない」


彼は僕と違う。勉強を熱心にしているわけでもなさそうで、僕のように後を継ぐつもりもないらしい。けど。


「けど……ガンプラバトルとやらは面白そうだ」


左手で彼とガンプラ、更に背後のユニットを指差す。


「僕もやっていいかな」

「……もちろん」


これが僕達のファーストコンタクト。忘れられない夏の始まりであり、僕の道を決定づけた出来事。


「けど、下手くそは勘弁な」

「大丈夫です! 全力で当たって砕けろですから!」

「オイ!?」


そんな事になるとは、この時は知らなかったけど。僕の名前は悠木達也(ユウキ・タツヤ)――これは僕達の物語。




『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説

とある魔導師と彼女の機動六課の日常

第60話 『目覚めよヴレイブ』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


二〇〇八年――ミッドへ戻ってきた僕は、人の気配などに気をつけつつ自宅へ。久々の自宅へ入り、早速荷物を準備。

作っていたガンプラ、工具、修理資材を手早くまとめ……とても大事な武器もしっかり持っておく。

それはソード・ガンユニット二つで構成された武器セット。百四十四分の一で言えばサークルシールドサイズ。


その中に十徳ナイフの如く仕込まれていて、三ミリ軸や専用グリップなどを用い、どんなガンプラにも装備できる。

ソードユニットは表面にビームサーベル、レイピアが、側面にアーミーナイフ、ノコ、レイピア、ソードが畳まれている。

ガンユニットはガトリング、ショットガン、ロケットランチャーに折りたたみ式のレールガン。


あの暑かった夏の日……タツヤも持っている、友情の証。うん、一緒に行こうね。


≪マーキュリーレヴ……今の状況では必要な武器ですね≫

「もちろんだよ」


マーキュリーレヴとその予備パーツもしっかり持って、家を足早に出た。……自分の家なのに落ち着けないって、ほんとどういう事なの。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


二〇〇三年――山ごもりでもしようと軽井沢へ行った結果、山へ逃げ込んだ強盗団と派手にやり合った。

更に嵐までやってきて……そんな大変な状況で山を降りて、たどり着いたのがトオルの家だった。

結果僕はトオルとタツヤのガードという形で、滞在を許されて……なおここは、お付きのヤナさん以外には人がいなかったせいもある。


そうして四人で楽しく夏休みを過ごし、タツヤも自分のガンプラを完成させてより楽しくなった。

そんな直後、僕はトオルからある武器ユニットをもらった。それがマーキュリーレヴ……友情の証。


「そう言えば二人とも、この間やったマーキュリーレヴ、あれはどうだ」

「あぁ、あれは」

「あれなら実は」

「凄すぎですぅ!」


僕達の声を遮り、ヤナさんが前に出る。目をキラキラさせながら、遠慮なく言葉を遮ってきた。


「ガンユニットとソードユニットは自在に分離・合体可能!
しかも合計十種の武器が使えるなんて! まさに武器の宝石箱!」

「宝石箱っていうか、十徳ナイフからヒントを得たんだけどなー」

「あぁ、それで。でもタツヤ、あの武器は一体どこから」

「金型から作った」

「「「えぇ!」」」


金型って……マジっすか! あぁ、だから手作り感全くなかったんだ! 単色成形だったけど、工業的だったもの!


「と言っても、十個作っただけで金型割れちゃったんだけどさー。だから十個限定のオレ達用パーツ」

「いや、割れちゃったって……金型ぁ!? あの、職人さんが一つずつ手作りで作るっていう! 凄いですよぉ、トオル様!」

「あー、ならちょうどよかったかな。いや、実はあんまりに凄いから使うのもったいなくてさ。しかも友情の証だし」

「いいっていいって。むしろ活躍させてくれた方が、オレも嬉しいし」

「なので現在、パーツ単位で大量複製中」


そこで手を振っていたトオルがズッコケ、タツヤ達と一緒に詰め寄ってくる。


「「「複製!?」」」

「それがこちらになります」


どこからともなくパーツボックスを取り出し開くと……全パーツがしっかり区分け。更に一つにつき三十個以上が詰め込まれていた。


「マジかよ……! 一体いつこんなに作ったんだ!」

「そこはほれ、鶴が機織りするが如く」


両手をバッサバッサ――するとトオルは腹を抱えて大笑い。


「あはは、それ面白いなー! 恩返しにガンプラ作ってくれる鶴かー!」

「なのでトオル、恩返しにおすそ分けを」

「ありがと!」

「まるでわらしべ長者だな。いや、それがガンプラというのも聞いた事はないが」

「現代おとぎ話ですねー」


というわけでタツヤとトオルにも十五セットずつプレゼント。……え、僕の分?

大丈夫、これはブレイクハウトで物質変換したものだから。もちろん秘密だけどね、うん。


「でもトオル、複製されたからあれだが……こんな貴重なものを僕達にくれたのか」

「いいっていいって。前にも一個あげてるから」


なんという気前……もしかしてあれかな、以前話していた『バトルが上手い奴』にとか。

まぁその辺りの話はいいでしょ。トオルは別の事が気になっているようだし。

……タツヤは右手に取り出したマーキュリーレヴを見て、考えこむような顔をしていた。


タツヤなりに自分の型、そしてマーキュリーレヴへの向き合い方を迷っていたらしい。

結果この翌日、タツヤはいきなりスケールモデルを作り始めた。それがどう繋がるかは……まぁ察して。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――果てしなく広がる宇宙空間、無限に等しい数交わされる火線。幾つものガンプラ達の中で、デフォな初代ガンダムがいた。

それはどんなガンプラよりも軽快に飛び、どんなガンプラよりも正確に攻撃を繰り出す。

何度挑んでも、絶対に勝てない高き壁。くすぶっている熱を叩きつけるように、左腕のマーキュリーレヴを稼働。


ガトリングを展開し、上方から襲撃。こちらとは別方向にいるガンプラを、あのガンダムは右手で持ったライフルで撃ち抜く。

その隙に迫るガトリング弾――本来なら対応も難しいタイミング。だが彼は反時計回りに大きくローリングしながら、あっさり回避する。

軌道を先読みし、発射する弾丸を進行方向に置いてもそれすらすり抜ける。それは普通なら信じ難い光景。


外見だけならただのHGUCの初代ガンダム。このνガンダムヴレイブより前に出ているキットだから、可動範囲やパーツ分割も少々見劣りする。

それだけであのガンプラの完成度、及びファイターの腕前が分かる。ガンダムはリアスカートにビームライフルを設置し、右手をランドセルへ伸ばす。

そこに装備されるビームサーベルを抜き、流星が如き右薙一閃。咄嗟に右腕のソードユニットをかざし、ビームサーベル展開。


ビームの刃が正面衝突し、激しい火花を暗い宇宙空間でまき散らす。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


イメージの中でνガンダムヴレイブが破壊され、ハッとしながら目を開く。そこは見慣れた教室……ただし日本ではない。

髪どころか肌の色さえ違うが、同じ学びやで学ぶ同級生達。左側の窓から見えるのは、こんこんと降る雪達。

ここはロンドン郊外にある私立学校。僕は……ユウキ・タツヤは、ここでくすぶっていた。


「どうしたタツヤ、またMEISOUか?」


右側から同級生が話しかけてくる。金髪を短めに刈り上げた、とても気持ちのいい男だ。転校当初からお世話になりっぱなしだ。


「そうだ、頭の中で戦っていた」

「おぉ! しかし……日本人は変わってるつーか、凄いな。しかしそれで成績優秀なんだから、オレも日本に生まれればよかった」

「やめとけって。個人の資質と努力さ。な、タツヤ」


別の同級生にもあやふやな笑いを送っていると、休憩時間は終了。僕達はまた静かに授業へ入る。

――あの忘れられない夏から、幾ばくかの時間が経った。トオルと、恭文さんと、ヤナと僕……四人で過ごした夏。

マーキュリーレヴという友情の証、そしてガンプラとガンプラバトル……トオルからもらったたくさんのものを持って、僕は中学生になった。


ガンプラを、バトルを続けていれば……そう信じて。でも今、僕はガンプラを一旦止めている。

父の言いつけ……は恭文さんによって砕かれたので、自分なりに留学へ集中するためというか。

それでもこうして脳内バトルを繰り返してはいる。一応、いつでも再開していいんだ。


だけど迷っていた。僕はユウキの家を継ぐ者……小さい頃からそうするものだと思っていた。

まぁ端的にいうと……将来に悩んでいる。ガンプラを続けて、それを将来とどう結びつけるか。

一旦、ガンプラから離れて考えているところだ。でも、その答えは未だに出ない。雪を散らすこの空の如く、僕の未来はまだ見えなかった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


聖夜市へ戻ってから、近くの模型店へ。念のためバトル練習しておかないと……なおCPU戦です。

それもなんとか終わり、ほっと一息……うん、勘は取り戻せた。なのでデンライナーへ戻り、自分の部屋で愛機をイジイジ。

カルノ達も興味深そうに見ては、しっぽをふりふり。でも僕がナイフとかを使っている関係で、手元を邪魔するような事はなかった。


「恭文君のガンプラ……小さいね」

「カルー」

「カスカスー」

「小型MSだしね。でも出力はあるよー。そして速いよー」

≪F91ナハトも随分久しぶりなの。楽しいのー≫


だねー。HGUCでF91が出て、即行で作ったんだよなぁ。やっぱこっちへ戻るにしても、しばらくは聖夜市拠点だよなぁ。余裕もできるし。

なお龍可とシルビィも部屋の準備ができるまではこっちに……いや、ほら。維持はしてるけど、お掃除とかね?

更にフレミングアクアが光とともに現れ、背中にくっついてくる。いや、そんな事されても……その、辛いので許して。


あれかな、なんだかんだでモトキングとデュエルしてから、デュエルでの出番がないから? あの、次……次頑張ろう。


「でもその、ミッドチルダってとこではバトルできないの? わざわざ聖夜市に戻ってって言ってたし」

「そもそもプラフスキー粒子は、PPSE(プラフスキー・パーティクル・システム・エンジニア)社の独占技術。
その精製方法や生産工場の所在まで秘密にされているんだ。従ってガンプラバトルの工業、ベース稼働なども独占されているんだ。
でね、PPSE社は次元世界の会社とかでもないから、向こうでガンプラバトルはできないんだよ」

「だから私も、ヤスフミと知り合うまでは知らなかったのよ。最初に見た時はびっくりしちゃったなー」

「なるほど……でもそうしていると、遊星を思い出すなぁ。遊星もメカは得意だし」

「いやいや、遊星さんには負けるって」


というか遊星さんは凄すぎるって。D・ホイールやボードもそうだし、新エネルギーも開発しちゃってるんでしょ?

凄まじいネタバレをいろいろ食らったけど、尊敬に値する人なのは変わらず。ああいう人になりたいなぁ。


「……でもメカいじりかぁ、楽しそうだなー。こっちにいる間にデバイスマイスターの資格、取っちゃおうかな」

「あ、それはいいんじゃないかしら。ヤスフミは元々物質構造に詳しいし、手先も器用だし」

「デバイスマイスター?」

≪私達みたいなデバイスを作ったり、整備したりする人の資格ですよ。まぁ次元世界で通用するメカニックと言えば≫

「なるほど……もしかしなくても自分で自分のD・ホイールを作りたいーとか?」

「なぜ分かったの!」


振り向いてぎょっとすると、龍可とシルビィ……カルノ達も当然と言いたげに笑う。


「「カルカスー♪」」

「ほら、カルノ君達も気づいてた。顔を見れば分かるよね」

「そうそう」

「でもお兄様が楽しそうでなによりです」

「だなぁ。向こうにいるとガンプラバトルもお手軽とはいかなかった……もぐ」

「楽しいよー。……そういや今年の世界大会、奴らのせいで見逃したんだよなぁ。よし、ちょっとスカリエッティぶっ潰してくるわ」

「ヤスフミ、そこは……録画で、ね?」


シルビィが真剣になだめてくるのは、ヴェートルの件で去年も見逃したから。録画は……もう飽きたんだぁ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


翌日も雪はこんこんと降り注いでいた。そんな中僕は、家にも戻らずとある公園のベンチに座る。

そうしてまた思いついた手で、イメージの中であの人と戦う。だが……目を見開くと、目の前でハト達が飛び立つ。

それも二十羽ほどが一斉にだ。……それだけ集中していたのかと、呆れながらベンチにもたれかかった。


「この方法でも、駄目か」


……本当に、なにをやっているんだか。父も『やるならとことんやれ』と、ガンプラを認めてくれた。

ここはまぁ、あれだ。恭文さんの説得があってこそだが。どうしてそこまでとも思ったら、あるおとぎ話を教えてくれた。

夢を見て、『なりたい自分』を追いかけて、育てていく。難しい事があっても、諦めず……少しずつ。


それがおとぎ話じゃなかったのは、恭文さんのしゅごキャラを見てすぐに理解したが。

とにかくそういう気持ちをなくしてしまったら、自分以外の痛みを省みなくなる。そうして他者をたやすく傷つけ、踏みつける。

あの人の本職は戦う事だ。戦って、脅威を払い、人を守るのが仕事。だからその言葉にはとても重みがあった。


だからまぁ、現状が申し訳なくもなるわけで。僕はきっと自分に嘘をついている。

やりたい事なら見えているはずなのに、踏ん切りがつかない。胸の中でくすぶって、ずっと足を止めている。

どうしてだろうか。父が言っていた事も分かるから……だろうか。僕は会社の跡取りで、それが目標でもあり当然だった。


ガンプラはそのために邪魔なものなんだろうか。邪魔なものは、全て捨てなくてはいけないんだろうか。

いや、それだけじゃない。やっぱり僕は、自信がないんだろう。ようはヘタレだよ、ヘタレ。

こういう時、恭文さんならどうするだろうか。それでトオルなら……そこで胸元に振動。


更に着信音も響いたので、携帯を取り出す。それはヤナからのメールだった。えっと、シチュー製造ミッション?

肉を買い忘れたらしく、僕に買ってきてほしいとの事だった。肉の種類、量なども細かく書かれていた。

いつもヤナが買っている店も分かるので、呆れながらも立ち上がる。曇り空から降る雪を見上げながら、ゆっくり歩き出した。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


外国ともなると、市場というのも割りと身近なものだ。いや、この街だからこそ……だろうか。

露天シチュー用の肉を買い、早足で歩いていると右側から歓声が聴こえた。随分騒がしく、人だかりもできていた。

なんとなく気になって、人だかりの中を縫って進む。すると……そこは大型のホビーショップ。


こっちへきてから、自然と足を避けていた場所だ。だがどういう事だ、安売りかなにかか?

この近辺はちょくちょく通りがかるものの、ここまでの大騒ぎは。


「すげぇぞ、あの日本人!」

「あのアーロンが手も足も出ない!」


……自然と足が動いていた。店内へ入り、お客さんの一人とぶつかって謝りつつも中心部へ。

店内は中よりも人が多く、そしてずっと熱く燃えていた。そんな中心部には……見慣れた粒子が舞っている。

そうして構築された宇宙の中を、二体のガンプラが戦っていた。……そこで息を飲んだ。


右側はこっちの人らしく、逆立った金髪にモノクルをつけていた。恐らく彼が操っているのは、アドバンスド・ヘイズルの改造機。

あれは電撃ホビーマガジンにて展開された、『ADOVANCE OF Z』という外伝作品に登場するモビルスーツ。

Zガンダムの外伝作品で、本編では敵役だったティターンズから物語を進める模型・小説によるフォトストーリーだ。


その中で登場するヘイズルは、『ガンダム』という機体の影響力、及び新技術のテストを目的として作られた機体。

ベースはティターンズの量産型MS『ジム・クゥエル』となっている。ようは頭だけがガンダムとなっているんだ。

ただ劇中での戦闘で中破し、一号機は最新技術もフィードバックされた上で全くの別機体となった。


アドバンスド・ヘイズルはその改良型をベースとしながら、また別の技術をつぎ込んだ二号機。

本来のアンテナは折りたたまれ、頭部全面を覆うようにバイザー型複合センサーユニットを配置。

バックパックには追加装備を装着可能な、マルチ・コネクター・ポッド。


本来はシールドにブースターを仕込んだものが装着されるが、あのガンプラは後方へせり出すシュツルムブースターを装備している。

脚部は熱核ロケット・エンジンを内蔵した強化パーツで、プロペラントも内蔵された大型のもの。こちらはヘイズル一号機と同様の装備。

更に足底へはスリッパのような、脚底部補助スラスター・ユニットを履いていた。両サイドにはブースターを増設しているな。


左肩にはレドーム、右肩には長砲身のビームキャノン、更に右手にはロング・ブレード・ライフルを装備している。

あれは銃身下部にヒートブレードを装備している、格射両用武装だ。まぁ基本ロングライフルなので、取り回しは悪いが。

そんな重武装ながら、軽快に動くMSがいん石群へ突入し抜けて、いん石群を目くらましにブレード・ライフルを発射。


長射程のビームがデブリを飲み込み、その向こうにいる相手ガンプラを狙う。日本人の男性が操るそれは……初代ガンダムだ。

目くらましも兼ねたビームは、初代ガンダムの頭上から襲う。だがそれを先日のイメージ通り……いや、それより早く回避。

間違いない。あの超クオリティHGUCガンダムと、それを操る黒髪短髪男性は。


「伊織猛(イオリ・タケシ)……!?」


馬鹿な、日本人の憧れでもあるファイターがどうして……どうしてロンドンにいる!


◆◆◆◆◆

RX-78-2 ガンダム

イオリ・タケシが第ニ回ガンプラバトル選手権で使用していたガンプラ。

丁寧な基本工作とウェザリング塗装を施している以外はほぼノーマルの【HGUC ガンダム】。


だがタケシ自身の高い操縦技術により、フル改造のガンプラを圧倒するほどの強さを発揮する。



◆◆◆◆◆


ガンダムヘイズルチーフテン

アーロン・アッカーソンの使用する【HGUC ガンダムTR-1[アドバンスド・ヘイズル]】の改造機。

スコットランド国旗をイメージした白と赤のカラーリングが特徴で、【チーフテン】は【族長】を意味する。

【HGUC ギャプランTR-5[フライルー]】のパーツを主体に組み込み、機動性を重点的に強化している。


武装はフライルーのロングライフル銃身を切り詰めたビームライフル。

同じくロングライフルの一部を組み込んだ右肩の【キャノンブースター】。

取り外して手持ちの打突武器となる左肩の【スパイクブースター】。


ヘイズルのシールドブースターと、フライルーの腰アーマーを組み合わせた背部の【スーパーシールドブースター】となる。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


坊ちゃま……じゃなかった。もうタツヤさんも中学生なんだし、坊ちゃまは禁止と決めたのに。

とにかくタツヤさんは今ごろ、ハトが豆鉄砲を食ったような顔だろうなとほくそ笑む。

うーん、シチューはいい感じで煮込めてきてる。買ってきてくれるお肉は、明日の朝食に使えばいいから問題ナッシングと。


はい、ちょっとだまくらかしちゃいました。でも私は直接教えてないし、タツヤさんの戒めには接触していません。

まぁ別なものには接触して、お預けしちゃいましたけど。でも急な頼みなのに、引き受けてもらえてよかったー。

向こうでのお仕事が忙しいから、ちょっと無理かとも思ったんだけど……とても快く返事がきたので、かなりホッとしている。


えぇ、そこは本当に。あの子も今は疲れているだろうから、たまにはきっちり遊びませんと。

確かに世の中は難しい事ばっかりで、ガンプラをやっている要領で解決できる事ばかりとは限らない。

でも難しい顔をして、大人だと分かったような顔をしているだけでも無理。タツヤさんに必要だったのは踏ん切り。


きっと空けた道に戸惑っていたから、それを向き合い踏み込む覚悟が必要だった。もう、大丈夫ですよね。今ならきっと。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


きっちりF91ナハトを整備した翌日――僕はロンドンにいた。いやー、飛行機のチケットまで取ってくれているとは。

ヤナさんには感謝しないと。そんなヤナさんから大事な預かりものをした上で、雪の中大型ホビーショップへ。

中へ入ると……おー、やってるやってる。途中からってのが残念だけど……ふむ、相手はヘイズルの改造機体か。


「……あれは確か、お兄様が塗装でパーツを割ったヘイズルでは」

「言わないで……!」


関節などに使われているABSパーツ、その扱いを分かってなかった頃だから! 今はあれだよ、アクリル系でなんとかしてるよ!?

確かにあれのせいで、未だにABSパーツは苦手だけど! 主に使っているガンプラは苦手だけど!

とにかくヘイズルの改造機体は推力を生かし、機動・砲撃戦を挑んでいた。デブリを突っ切る姿は、まるで流星のよう。


わりとごつい装備だけど、それもシールドブースターの改造で機動性は補っている。キャノンとかにもつけてるっぽいね。

うむぅ、丁寧な工作だなぁ。……あ、シールドブースターについて説明しておこうか。

シールドブースターはヘイズルが登場する、外伝作品にて開発された装備。ようは機動力強化の装備だよ。


ただ普通の外付けブースターと違うところは、使い終わってもデッドウェイトにならないところ。

シールドとして利用できるので、全損でもしない限りは再利用も楽なんだよ。なお燃料は低可燃性のものが使われているので安心。

ヘイズルはそう言ったテスト装備を実際に使い、データを取るための機体でもあった。


だから様々なオプション装備で、どんどんゴツくなっていき……実際はシンプルなガンダムなんだけど。


『この!』


そんなヘイズルはビームキャノンで狙いを定め、初代ガンダムへ砲撃……ピンク色の粒子、それが奔流となって突き抜けていく。

初代ガンダムは上昇して回避しつつ、大きく時計回りに移動。続くロング・ライフルの連射を、右手のサーベルで斬り払いつつ飛んでいく。

な、なんつう……ヘイズルの推力だって相当なものなんだよ? それでなんで追いつけないのさ。


「恭文、あのヘイズルは」

「弱くなんてないよ。むしろ強い……もちろんファイターも。でも、それ以上に」

「あの初代ガンダムが強いと。しかし超絶クオリティとは聞いていますが、見たところは普通の」

「普通だよ……拍子抜けするくらい、普通だ。なのに」


背筋から寒気が消えない。決してこれは冬の寒さだけじゃない。……基本工作が本当に丁寧なんだ。

それに的確なウェザリングを施しているだけで、特別な装備があるわけでもない。なんか、頭をハンマーで殴られたような衝撃だ。

でも一番受けているのは、きっとヘイズルのファイター……確かアーロンって言ったね。


下手な射撃は通用しないと思ったのか、レドームとビームキャノン、更にライフルをパージした。

右手でバックパックのビームサーベルを引き抜きながら、初代ガンダムへ加速。身軽になった分、その速度はもはや殺人レベル。

背部のシールドブースターはパージしてないから、集中した推力によって初代ガンダムとの差をどんどん縮めていく。


当然初代ガンダムは後退しつつ、ライフルにてけん制射撃。でもさすがに、あの推力には敵わない。

射撃をすり抜けながら、まるで弾丸の如く飛ぶヘイズル。その距離は一気にクロスレンジへと突入。

そうしてヘイズルがサーベルで、逆袈裟・刺突・右薙・袈裟と乱撃。加速力もある、勢いにも乗っている。


誰もが当たると思っていた。実際僕も防御くらいはするのかと。……でもそんな加速に対応してきた。

初代ガンダムは素早く下がりながら、ライフルをリアスカートへセット。自身もサーベルを抜きながらスウェーしている。

そんな……そんな片手間の回避により、ピンク色のビーム刃は虚空を切る。完全に動きを読まれてる。


武術で言う見切り……いや、ちょっと違う。……ガンプラの構造で読んでいるんだ!

相手のガンプラをチェックして、その構造や可動範囲を見切る! その上で攻撃を予測している!

そういやあの人、模型店店主だっけ!? 模型のプロだからこそできる荒業ってか! いや、神業か!


第二回世界大会でのバトルは何度も見ていたはずなのに、実際を目にするとこうも違うなんて!

いや、当然だ! あれから何年経っている! 成長しているにきまっている……あの人も! 初代ガンダムも!

シオン達と興奮していると、ヘイズルから嫌な予感が走る。……機体後部から巨大なパーツが飛び出す。


それはハサミのように展開し、ビームも走らせた。隠し武器(ビームシザー)……! 左脇を抜けながら初代ガンダムへ接近するも。


「決まったか!」

「いや」


でも初代ガンダムは逆袈裟一閃……刃はシザーと衝突するも、そのビームごと基部を両断・破壊する。

スタビライザーに偽装していた、完全な不意打ち……それを見切っていたんだよ、あの人。


「あれじゃあ止められない――!」

「マジ、か」

「なんという底知れないバトルですか」


……っと、あんまり興奮し続けてもあれだね。呼吸を整え、タツヤの姿を探す。そうしたらほんと、すぐ近くにいた。

十時方向・六メートルほど先。コート姿のタツヤは右手に、マーキュリーレヴを持っていた。驚いた様子だったので。


「それだけじゃ、戦えないよね」


一声かけながら近づくと、タツヤがこっちへ振り向きハッとした顔をする。更に僕の右手を見て、指差ししながら口をパクパク。

これはタツヤがガンプラを運ぶ時などに使う専用ケース。もちろん工具と修理資材もバッチリ入っているよ。


「あぁこれ? ヤナさんがおのれの部屋からちょろまかしたのを預かった」

「……ヤナァァァァァァァァァァァァァァ!」

「それよりほれ」

「なにがそれよりですか!」


僕も左手でフィールドを指差し。タツヤはそれを見て、息を飲んだ。……勝負は決していた。

初代ガンダムは無傷のまま、ヘイズルに右薙一閃。胴体を両断し……その体を宇宙の塵とした。

ヘイズルが爆散したのを合図に、バトル終了。粒子も、構築された宇宙も少しずつ消えていく。


≪――BATTLE END≫

「う、嘘だ」


ヘイズルのファイターはガンプラを素早く回収し、半泣きでイオリ・タケシさんに背を向けダッシュ。


「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


そのまま会場から立ち去り……あー、鼻っ柱が折れた感じかね。まぁあれだけやって、傷ひとつなかったらそりゃきついわ。

するとイオリ・タケシさんは――黒髪短髪に赤シャツジーンズという出で立ちのおじさんは、困り気味に右手で頬をかく。


「ありゃ……やりすぎちまったか。いいバトルになると、熱がこもっていかんなぁ。バトルは楽しくやるのが一番なんだが」


それから気を取り直し、会場中にいる全員を見る。


「誰か他に対戦したい人は」


そこまで言いかけ、あの人はこちらを見て指差ししてくる。そこでゾクッとしてしまうのは、ほんとどうしてだろうか。


「君達、どうだい」


……まず目をつけてくれた事に感謝する。これなら……タツヤは燃えていた。というか、僕も燃えている。

本当はタツヤに目標と話でもさせて、後押しすればーって話だった。実際にバトルできるかどうかは僕達にも分からなかったから。

でも、これなら正真正銘の予定通りだ。あんなバトルを見せつけられて、燃えない奴なんていないよ。


タツヤ、もうくすぶってなんていないよね。体の奥から熱が溢れて、我慢できないって顔だもの。


「恭文さん、どちらからやりますか」

「もちろんタツヤからで。てーか僕がセコンドやるよ」

「分かりました。では……僕達二人でお願いします」


僕の方は見ず、握ったままのマーキュリーレヴを預けてくる。それを受け取るとタツヤは、両手をコートとマフラーにかけた。

それから一気に脱ぎ去り、同時に流れていた汗も払う。うん、もう大丈夫だ。タツヤにケースを渡し、その中からガンプラを取り出す。

それはタツヤがあの夏、初めて作ってから改良し続けていたもの。その名は【νガンダムヴレイブ】。


Hi-νガンダムカラーのそれは、νガンダムとHi-νガンダムの過渡期に生まれたという設定から。

タツヤの想像力から作り上げたオリジナルガンプラ。それにタケシさんが目を見張る。


「ほう、いいガンプラだな。技術は未熟だが、楽しさに溢れている」


他意もなくストレートに褒められ、タツヤの頬が緩んだ。


「君達の合作かい?」

「いえ、これはタツヤが作ったものです」


左手でタツヤを差し、僕は一歩下がる。ほら、勘違いされても駄目だしさ。


「……僕が七歳の時、友たちと一緒にバトルするため作ったガンプラです。あの日々がなければ、僕はここにいなかった」

「君達にはレクチャーは必要ないようだな」


タケシさん、それにタツヤと一緒に、ベース前へ。それからタツヤはユニットへ、自分のGPベースをセット。なおこれもケースに入ってました。


≪Beginning【Plavesky particle】dispersal. Field――Forest≫


粒子がベースから散布され、コクピットとフィールドが形成。緑豊かな平原……真正面からのぶつかり合いしかないみたいだね。

まぁタツヤもそのつもりだし、不都合はないか。タツヤはνガンダムヴレイブに、マーキュリーレヴをセット。

なおセット方法は実に簡単。グリップを両手に持たせ、三ミリ軸にユニットを差し込むだけでいい。


三ミリ軸は基本どんなガンプラでも使われているサイズでね。例えばシールドの接続穴とか、ポリキャップとか。

そういうわけでマーキュリーレヴ、どんなガンプラとも合体できるオリジナル武装なのよ。

だからこそトオルもタツヤや僕達に渡してくれたわけで。……一緒に行こうね、トオル。


≪Please set your GUNPLA≫


タツヤがνガンダムヴレイブをユニットへ置く。すると粒子によってカタパルトが構築。

ガンプラ本体にも粒子が浸透し、カメラアイが輝く。こちらもコンソールにデータが表示……ん、これは!


「これは凄い。タツヤ、また腕を上げてるじゃない」


νガンダムヴレイブを見て悟るだけじゃあ足りなかった。完成度が以前見た時とは比較にならない。相当ハマっていたようだなぁ。


「まだまだですよ、知っての通りふ抜けていましたので」

「ふ抜けていたんだ」

「えぇ」


タツヤの前に、アームレイカーとコンソールが構築された。それを見ながら、タツヤは手首を軽く振り回してストレッチ。

それから両手をアームレイカーに載せ、前方モニターを見やる。


≪BATTLE START≫

「ユウキ・タツヤ」

「蒼凪恭文」

「リアルタイプνガンダムヴレイブ+――出る!」


アームレイカーを押し込むと、νガンダムヴレイブはカタパルト上を加速――一気に青空の中へと飛び出す。

高度三十メートルの中、迷いなく真正面へ。既に飛び出していた初代ガンダムが、こちらへ接近してくる。


『まずはお手並みを見せてもらおうか!』

「その胸、お借りします!」


左腕に装備した、ガンユニットのガトリング展開。まずは基本通り弾幕を展開し、突撃速度を殺しにかかる。


『元気があっていいねぇ!』


そこで急加速――ガトリングによるけん制を、初代ガンダムが左に回避……上昇しかけたところで。


『だが元気だけで……げ!』


νガンダムヴレイブは回避先をしっかり押さえ、右飛び蹴り。ガンダムの胴体を蹴り飛ばし、まずは一撃。

……おぉおぉ、会場から歓声が上がったよ。さっきは一撃も入れられなかったしねー。でも油断せず。


「タツヤ、上昇してロケラン!」


タツヤに指示出し。初代ガンダムは踏ん張り、数メートル先から頭部バルカン発射。νガンダムヴレイブは上昇してバルカンを回避し、宙返りする。

それからガンユニットに装備した、ソード付きレールガン基部が回転。タツヤはレールガン砲身に、実体剣を装備している。

ただ……レールガンを展開状態だと、ロケランが出せないんだよ。なので基部だけは収納状態に。


普通は砲身を畳んでいるんだけど、ソード装備状態なので無理です。……ロケラン二発を連射し、もう一度けん制射撃といく。

反応もかなりいいね。しばらく遠ざかっていたとは思えない。やっぱノリって大事なんだね、分かります。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


いやぁ、驚いた驚いた。蹴りからの急加速、更に惰性での回避マニューバ……まるで赤い彗星じゃないか。

撃ち込まれたロケラン二発をシールドで防ぐと、煙幕発生。……嫌な予感がしたので急速後退。

するとHi-νカラーなνガンダム――νガンダムヴレイブが、煙幕を斬り裂きなら接近。展開しているソードで逆袈裟の斬撃を放つ。


機体の回転も乗せた、重い一撃。シールド表面を削られ、衝撃で吹き飛んでしまう。


「次はエクシアだと!」


体勢を立て直し、ビームライフル連射――すると右の武器ユニット持ち手と本体が分離。

そこから鎖が伸び、鋭く回転。それでビーム粒子の弾丸を弾きつつ接近し、腕を逆袈裟に振るいながら投てき。

左に避けると、武器ユニットからハサミのような刃二つが広がり、ガンダムの胸元を軽く掠る。


今のは∀ガンダムのハイパーハンマーに、クロスボーン・ガンダムのチェーンフック?

これは、歴代ガンダム作品のパイロットと戦っているような。


『お気づきですか!』


回避のため、距離を取ったところでまたガトリング。今度はアレックスのガトリングがかぶって見えた。

後退しながらのスラローム軌道で、射線を微妙にずらしながら回避&退避完了。


『僕はあなたに憧れ、何年も頭の中であなたと戦ってきた! けれどそれはあなただけではない!』


追撃のガトリングやロケランをすり抜けるように、とにかく今は回避。


『多くの強豪ビルダー、そして作品パイロット! 僕は彼らとずっと戦い、学び続けてきたんだ! 今日……この日のために!』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……なぁ恭文」

「言わないで……!」


一瞬お父さんがガンプラを止めたの、そこを心配してとか思っちゃったよ! でもね、やるよ!?

僕だってアリー・アル・サーシェスと戦ってたし! なかなか勝てないんだわ、あの野原ひろしに!

とにかく初代ガンダムはこちらの射撃を抜け、地表すれすれへ下降。タツヤはそれを狙い、もう一発ロケラン発射。


弾幕の中から飛んだそれを、初代ガンダムはシールド防御……砲弾が爆発し、衝撃で奴の動きが止まった。

その間にガンダムヴレイブは急加速。そのまま初代ガンダムの背後へ……そこで猛烈に嫌な予感が走る。


「……ストップ!」


初代ガンダムは反時計回りに、上半身だけを振り返らせていた。そうして右手のライフルで……タツヤは瞬時に急停止。

でも僅かに、ほんの僅かに焼鉄色の銃口が角度調整。その上で発射されたビームは、左肩アーマーに直撃。

タツヤは驚きで表情を染め、僕は慌ててダメージ計測……よかった、アーマーに亀裂が入っただけだ。でも、胴体部にこれを食らっていたら。


「これは……お兄様!」

『「アムロの背面(ニュータイプ)撃ち!?」』


今の撃ち方、ガンダムのパイロット【アムロ・レイ】がやっているんだよ。まぁ、ただの振り返り射撃と思う人もいるだろう。

でも全然違う。生身ならともかく、モビルスーツという巨大兵器を操作した上でだよ。

アムロ・レイの類まれなるニュータイプ能力、そして操縦技術があってこその神業だ。


くそ、さすがにこのまま押し込まれてはくれないか。今ので流れが一気に変わった。


『いい感覚だ、君のセコンドはニュータイプらしいね』

「どうも。てーかそれはこっちのセリフだよ。アンタ、咄嗟に銃口を逸らしただろ」

『それでも仕留め切れなかったがね』


わーお、あっさり認めてくれやがったよ。うん、急停止しなかったら、最初の角度でよかった。

でも僕の指示出しに対応し、ほんの僅かなアドリブ……恐ろしく精密な操縦技術だ。


『名のあるパイロットとの脳内バトル、そんなのはこっちも経験済みだ』

「なんだって!」

『誰もが通る道なのだよ!』


え、そうなの!? そ、そっかー。よかったー。安ども込みで、納得しつつ何度も頷いてしまう。


「やるやる。僕も昨日、刹那&ダブルオーガンダムとバトルしたし」

≪常識ですよね≫

「それでお前、負けたんだよな」

「うるさいよ! ダブルオーは強いんだからしょうがないじゃない!」

『僕を倒したかったらそれ以上の』


……っと、余裕をかましている場合じゃなかったか。こちらへ向き直ったガンダムは、突撃しながらビームライフルを三連射。

タイミングと狙いを絶妙にずらした連撃――上空へ退避すると、ガンダムは身を翻しながら急停止。


『君達自身の力を見せたまえ!』


そこでまた嫌な予感が走る。タツヤも同じくらしく、νガンダムヴレイブをローリング。

次の瞬間、初代ガンダムは頭上に――こちらへ銃口を向け、ビーム発射。

粒子弾丸はνガンダムヴレイブの左側頭部と肩上をかすめ、空へ突き抜けていった。


「今度はラスト・シューティングかい!」


これは初代ガンダムの最終回でやった……まぁ頭部と左腕は吹き飛んでいたけど。でもそれを即興でやると、素晴らしい不意打ちになる。

これがイオリ・タケシ……! 半端ない強さの裏打ちは、ガンプラとガンダムへの愛。正真正銘、筋金いりのガンダム好きだよ、この人。


「でも直撃はない……タツヤ、飛び込め!」

「はい!」

『やるね、アレを避けるなんて!』


νガンダムヴレイブは右腕のソードユニットから、アーマーナイフを展開。そのまま肉薄し、ガンダムが左腕で抜いたサーベルとつばぜり合い。

お互い刃を振り切り、乱撃をぶつけあう。取り回しではビームサーベルに軍配が上がるものの、それを持っている左腕はシールド装備中。

お互い大物を腕に持った状態だけど……それでもこの身のこなしって! 嫌な予感が走りまくってるし!


でも楽しい! マスター・ジミーの言う通り、こっちに戻ってきて正解だった!


「タツヤ、バルカン!」


唐竹の斬撃を、ソードユニットのビームサーベルで受け止め防御。そこでバルカンの弾丸がガンダムの頭部や胴体、カメラアイを叩く。

ビーム出力を一気に上げると、二刀が交じり合いパンと弾ける。そこで距離を取ると、すかさずライフルでの一撃が飛ぶ。


『素晴らしい……!』


急停止しレールガンソードで左薙一閃。ビーム粒子を斬り裂くと、今度はあちらからのバルカン。

機体各部が削られるのも構わず前進し、ソードユニットのアーミーナイフで刺突。サーベルでいなされ、僕達は交差。


『ロンドンまできた甲斐があった!』


だが急停止し、ガンユニットを一回転。ショットガンでガンダムの背後を狙い撃つと、いともたやすくシールドで防がれ、そこから体当たり。

体勢を崩され、またライフルからビームが走る。すかさずソードユニットを盾にし、ビームサーベル展開。

サーベルの切っ先とビーム弾が命中し、派手な花火となる。それでも地面を踏ん張り、再加速。


『君達のようなファイターに出会えるとは!』


νガンダムヴレイブを一回転させ、レールガンソードで袈裟一閃。ガンダムの右薙一閃と衝突――そのまま斬り抜け。

お互いに振り返りながら、地面を踏みしめ滑るように停止。……そこでタツヤは左手で髪をかき上げた。


「お言葉ですがタケシ氏、僕はファイターではありません」

『なに?』


そこで目配せ。……なるほど、あれか! 頷いてコンソール操作し。


「僕はファイターであると同時に」

「キャストオフ!」

「ビルダーなのです!」


コールしつつプログラムドライブ――するとνガンダムヴレイブの各部装甲がパージ。

作り込んだフレーム部が露出し、各部アポジモーターが不格好に飛び出す。

白色は頭部と両腕、両足にしか残らず、フレームの黒が際立って光り輝く。


更にソードユニットを、ガンユニット上に重ねて合体。重量を増した上で加速。

その速度は光の如く――今までの比ではないスピードによって、下がるあの人へ肉薄していく。


「リアルタイプνガンダムヴレイブ+――フレームまで作り込んだからこそできる、捨て身の軽量化!」


そう、軽量化だ。タツヤが進化していたのはここだよ。HGUCだから、サイズ的にフレームと言っても簡易的。

それを作り込んで、可動のバランスも取った上で……タツヤの気持ちに、νガンダムヴレイブが応えている。

加速力は初代ガンダムをやすやすと飛び越え、その距離を縮める。それに対しタケシさんは。


『速い……!』

「これが僕のとっておきだ!」

『だが受け切ろう!』


シールドを構えて、防御……マジですか! 真正面からこれに対抗!? 驚きながらも僕はタツヤと笑って。


「ガンプラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」


初代ガンダムへ肉薄――ソードユニットから展開した、刺突用のレイピアがシールドを捉え、派手に粉砕。

衝撃でガンダムは力なく吹き飛び、空へと大きく投げ出される。更に余波でライフルもへし折れ、左腕も肘から下はひび割れる。

通じた、世界第二位に……そんな感激の声を出す前に、また感覚が走る。なに、これ……!


今まで感じた事がないような、そんなレベルの悪寒。嫌な予感でできた、針のむしろに放り込まれたみたい。

そんな中でもひときわ大きい脅威……感覚を研ぎ澄まし、それを捉えて指示出し。


「……タツヤ、左に回避!」


タツヤはすぐに応えてくれる。でも、遅かった……次の瞬間、右腕を中程から両断される。

それを成したのは当然、初代ガンダムだった。奴はいつの間にか体勢を立て直し、左薙の斬り抜けを放っていた。

嘘でしょ、あれからすぐ復帰して……瞬間移動でもしてるんかい! スケール距離は百メートル以上離れてたってのに!


でも悪態をつく余裕すらない。また走った感覚に従い、タツヤの動揺をかき消すように叫ぶ。


『いい……本当にいいガンプラだ』

「上!」


上昇すると、今度は右膝から下が断ち切られた。そこから嵐の如き連撃が走る。トリコロールカラーの初代ガンダムが巻き起こす、文字通りの嵐だ。

必死に感覚を研ぎ澄まし、タツヤに声をかけていく。でも、足りない……反応が追いつかない!

反撃に移る事もできず、νガンダムヴレイブは斬撃によって傷だらけとなっていく。


『ガンプラは遊び、だからこそ本気になれる! 君達のように!』

「くそ、嘘でしょ……!」

『だから見せてあげよう! 今度は』

「僕の感覚でも、動きが読み切れない! なんなの」

『僕の本気を!』

「この強さは!」


そして真正面に、奴の姿が現れる。傷だらけの頭部とツインアイを輝かせ、右のサーベルで袈裟抜き打ち。

ガード体勢のままだったのに、マーキュリーレヴごと斬り裂かれ――ガンダムは大地に立つ。

νガンダムヴレイブはその背後で爆炎に包まれ、僕達の戦いは終了した。


≪BATTLE END≫


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


消えていく粒子、響く周囲の大歓声。それを受けて僕達は、二人揃って汗だらけになっていた。

取り戻し始めた現実感で、止まっていた呼吸が再開される。でも、あの強さはなんなの。

超加速を始めた途端、周囲に取り囲まれているような感覚だった。どう回避しても避けられない……そう答えが出てしまって。


これが世界大会レベルか。どうやら僕はまだまだ修行が足りないらしい。

でも勉強は必要……という事で、今度は僕が勝負を挑んだ。奥の手なMEPEも出した結果。


「負けたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 悔しいー!」

「お兄様……!」

「奮闘はしていたんだがなぁ。……もぐもぐ」


シオン達に慰められたけど、やっぱり悔しいー! ああしてこうして……あとちょっとだったかもなのにー!


「いやいや、まさか本気のスピードについてこられるとは思わなかったよ。関節部の素材にもこだわっているようだね」

「まだまだ実験段階ですけど」

「その子もいいガンプラだ、もっと鍛え上げればきっと君に応えてくれるだろう。期待しているよ」

「はい! ありがとうございました!」

「こっちこそありがとう」


タケシさんとお辞儀し合い、またバトルしようと握手――ロンドンへきて、本当によかったー。

気晴らしもできたし、タツヤも大丈夫そうだし……僕達は一旦ベースから離れて、今はフリーバトルを眺めている。

みんな楽しそうにガンプラバトル、してるんだよねぇ。やっぱいいよねー、ガンプラバトルってさ。


楽しくて、ドキドキして、熱くなれてさ。そうだね、こういうのも守りたい世界なんだ。


「まさかこの異国の地で、君達のようなガンプラビルダーに出会えるとは思わなかったよ。
君達なら将来……いいや、数年後には大会で優勝する器だと思う」

「ありがとうございます! タツヤ、よかったねー!」

「えぇ。……ですが、僕はその前に父と話さないと」

「お父さん? よければ詳しく教えてくれないか」


そこでかくかくしかじか――タケシさんは腕組みしながらも、疑問の視線をタツヤにぶつける。


「なるほどねぇ。しかし話通りであれば、既に問題は解決しているのでは。
君がガンプラから遠ざかっていたのも、留学に集中するためだったわけだし」

「確かに。でもそれだけではないんです。……僕自身、信じられなかったんだと思います。
ガンプラを続けて、なにができるか。それが将来の事とどう結び付けられるか。
それだけの力が自分にあるのか――だから、改めて父と話さなくてはいけないんです。僕の本気を伝えて、道を開く」

「僕、余計な事したかな」

「そんな事はありません。父が聞く耳を持ってくれるようになったのは……まぁその、恭文さんがボコボコにしたおかげですし」


あれ、どうして顔を背けるの? 僕は大した事してないのに。いや、ホントだって。ただ世の中の広さをたたき込んだだけで。


「なら君は、ここからお父上が反対されてもガンプラを作りたいんだね」

「切実に!」

「分かった。なら僕もできる限りの事をしよう」

「はい!?」

「え、どういう事ですか。できる限りって……タツヤ、今問題のほとんどは解決しているし」

「そこもちょっと目的があってね。ただし」


そこでタケシさんは、厳しい表情でタツヤを指差し。


「選ぶのは君だ」


――この時の言葉がどういう意味を持つか。それを悟るには二年以上の時間が必要となった。まぁそれはともかく。


「お兄ちゃん達!」


後ろから声をかけられ振り向くと、黒髪ショートの子と金髪眼鏡な子が近づいてきていた。

ショートの子はHGUC νガンダムの箱を持っていて、金髪眼鏡な子はF91だった。

しかも金髪眼鏡な子には、髪が逆立ったしゅごキャラもいた。服装は……ビーチャっぽい。


「ガンプラ教えてよ!」

「おぉ、しゅごキャラだ!」

「ほんとだ、珍しいね」


え、今タケシさん……普通に見えてるんかいー! なんか笑顔でサムズアップしてくるし!


「え、お兄ちゃん達しゅごキャラが見えるの? ……あー! というかしゅごキャラがいるー!」

「うん、二人は僕のしゅごキャラなんだ。お名前は」

「ハロー! オレはマイケルさー!」

「僕、リッキー」

「蒼凪恭文、日本人だよ。こっちはユウキ・タツヤに、イオリ・タケシさん」

「「よろしく」」


みんなとしっかり握手し、改めて……僕は自分を指差し。いや、だってさっき、ガンプラ教えてって。


「初めまして、シオンと言います。世界を照らす太陽――それが私です」

「ヒカリだ。ところでお前達、ガンプラを教えてほしいと言っていたが……恭文達にか」

『うん!』

「教わるならこの人がいいよ」


タツヤが左手で、自信満々なタケシさんを指す。


「世界大会に出た凄い人だから」

「ううん、お兄ちゃん達がいい!」

「えぇ!? や、恭文さん!」

「いや、聞かれても! ていうか僕達なにかしたっけ!」

「あははははははは! 教えてあげたまえ!」


しかもタケシさん、後押ししてきたし! 僕達の戸惑いとかすっ飛ばしてる!?


「君達にはその義務がある。君達も誰かに教わったんだろう? ガンプラ」


……そこで僕達が思い出すのは、当然ここにはいない友達。決して消えない、楽しい夏の思い出。

タツヤはあれが初めてのガンプラ体験で、僕も更にハマり込むきっかけだった。そう、確かに僕達は教わっていた。

行方も分からなくなっているトオルから、キラキラに輝く種を。ガンプラという、光を。


「誰かに楽しさを教わったものは、それを誰かに伝えるべきだ! そうして僕達は繋がっていく!
いつまでも、どこまでも! 僕は今――そういう仕事をしている!」


なるほど、だからロンドンにと。そう言われては納得するしかなく、タツヤと一緒に背筋を伸ばした。


「分かりました。ではご一緒に」

「すまない、僕はそろそろ次の約束なんだ」

「あらま、そうなんですか」

「というか」


まぁお仕事できてるならと納得したけど、そこでタケシさんは顔を背けた。


「僕の教え方はスパルタすぎるらしくてねぇ。リン子ちゃんにもよく叱られてるんだよ」

「「……あぁ、なるほど」」

「リン子ちゃん? お前の彼女か」

「いやいや、奥さんだよ。息子と一緒に店を任せているんだが……めちゃくちゃ美人なんだよー! 今度君達にも紹介しよう! 家庭はいいものだよ!」

「テンションが急に高くなりましたね。どれだけ愛してるんですか、奥さん」


どうやらお仕事ばっかが理由じゃないらしい。てーか戦い方からそれは察せたわ。下手したら……スパルタで泣くのね、この子達。


「また連絡するよ」

「は……はい!」

「お気をつけて。あの、途中までお送りしましょうか? 雪も降ってますし」

「大丈夫だよ。それよりほれ、彼らがお待ちかねだぞー」


タツヤさんに肩を叩かれ、結局笑って見送るしかなかった。……僕とタツヤは苦笑し、みんなを連れて作業用ブースへ。

ここでガンプラを作って、すぐバトルできるように用意されている場所。工具なんかも貸し出してもらえるのが有り難い。

工具を貸してもらい、早速ガンプラ作り開始。なお僕はF91の子に……でもこれ、組み立て前なんだよね。


もしかしてさっきのバトルを見て? だったら、なんか……めちゃくちゃ嬉しいかも。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


凄い人だった、イオリ・タケシ。でも僕は本当に……νガンダムを組み立て始めた、黒髪の子を見ながら考える。

いや、今更許されるかなんて考えているわけじゃない。ただその、こそばゆいというかなんというか。

タケシ氏の言った事は納得しているんだが、人に教えられる腕かと言われたら自信がなくて。


嬉しさとほんの少しあふれた戸惑い――それに苛まれいると、男の子がニッパーを差し出す。


「お兄ちゃん、分かんない。やってみせてよ」


……いや、迷う必要はない。誰かに楽しさを教わった者は、それを誰かに伝えるべきだ――そこに見つけたんだ。

僕はきっと迷っていたんだと思う。遊びのガンプラをどう将来へ、生活へ結びつけるべきか。

そんな必要はどこにもなかったのに。『なりたい自分』なら、ちゃんとここにあるじゃないか。


彼からランナーとニッパーを受け取り、優しく二度切りを教授。それから物を返すと、周囲の子達が集まってきた。

恭文さんの方も同じくで、僕達はその子達と一緒に笑っていた。あぁ、そうだ。今なら言い切れる。

僕の夢は、将来はここにある。僕は……誰かにこの楽しさを、伝えられる人になりたいんだ。


(第61話へ続く)






あとがき


恭文「というわけで……同人版でもやった話だから、ちょこちょこ構築に手間取りましたがとまかの第61話です。
二〇一五年二月一日、午後十五時五十三分頃、八百万Hit達成……みなさん、ありがとうー!」


(ありがとうございます)


恭文「なお今回、どの辺りが大きく違うかと言うと……バトルの視点が変わっています。ほぼタツヤ視点だったけど、今回は僕視点で」

あむ「……そういえば」

恭文「流れは同じだけど、セコンドってところは意識して手直しを。というわけでお相手は蒼凪恭文と」

あむ「日奈森あむです。……姿ないけど!」

恭文「全部自分のせいでしょうが、映す価値なし」

あむ「がはぁ!」


(今年の格付けチェックで、映す価値なしとなったためです)


恭文「というわけでとまかのでビルドファイターズA陣営が登場。アニメだとザクやらケンプファーやら、ジオン系中心なタツヤですが」

あむ「漫画版も含めて総合的に見ていくと、むしろガンダム系が多いんだよね。νガンダムヴレイブに、Hi-νガンダムヴレイブに」

恭文「レッドウォーリアも含めてギリギリ越している感じだけどね」


(ガンプラ塾編では途中、武装なしのホビー・ハイザックを使っていました)


恭文「そしてνガンダムヴレイブ、主人公機としては負け越しという珍しい立ち位置に」

あむ「そういえば……ここでも負けてるし、最初のトオルさんとやったあれこれでも負けてるし」

恭文「買ったのってこの後のバトル……まぁ次回やる予定のアレと、ガンプラ塾入塾くらいだしね」


(単行本の合間でネタにされていました。ただあの軽井沢での一件から、中学生編まで数年あるので……あくまでも描写されている分だけになります)


恭文「というわけでそんな流れで今日のビルドファイターズ……ちょっと、ダイチが凄い卑怯な手を使ってきてるんだけど」

あむ「アレなしじゃん! ていうか犯罪じゃん!」

恭文「そしてビルドバーニングガンダムが、やっぱりアイツのために用意されていたものだと……そしてチナが数万円のとんぼ返り!」

あむ「だ、だよね。あれは郵送じゃ駄目だったのかな」


(『マイルがたまっているから大丈夫ですよー』)


恭文「まぁダイチの奴にはいずれ地獄を見せるからよしとして」

あむ「ちょっと空海にも説教しないとね」


(『待てー! アレは俺じゃねぇ! お前らあっさり疑いすぎだろ!』)


恭文「どうしよう、話したいけどアレについては話せない。ぜひバンダイチャンネルなりで見てほしい」

あむ「……だね。じゃあ話せる事話そうよ。ほら、二月十三日の金曜日から、プレバンで」

恭文「あー、それがあった。その日からプレミアムバンダイさんで、クロスボーン・ガンダムX1改が予約開始だそうです」


(マントがつくらしいですよ。なおスクリュー・ウェッブはまだ情報が出ていません)


恭文「フルクロスもGBFT枠で出るし、楽しくなってきたねー。あとはX2とX3、ゴーストがどうなるか」

あむ「……プレミアムバンダイって、そういう意味では怖い存在だよね」


(ぜひゴーストだけでも一般販売をお願いしたい。
本日のED:ガンダムビルドファイターズトライのBGM『ガンダバダガンダバダ』)


白ぱんにゃ「うりゅ……うりゅぅ」(すやすや)

恭文「……ぐっすりだなぁ。というか、全然離れない」

古鉄≪あなたの側がいいんでしょ。頑張ってくださいね≫

ジガン≪なのなの≫

恭文「なにを!?」

白ぱんにゃ「うりゅ……♪」(にこにこ)


(おしまい)






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