小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory27 『運命、かしら』
古鉄≪ではあらすじです。前回は≫
イビツ「うおおおおおおおおおおおお! AGE-1かっこいいぞおおおおおおお! 頑張れ頑張れ、恭文君ー! 頑張れ頑張れAGE-1!」
(ベレー帽を着た後輩、会場で横断幕を振りながら応援中)
イビツ「うっしゃああああああああ! いっけええええええええ!」
警備員「また君か……!」
イビツ「あ、どうも! どうですか、警備員さんも一緒に応援!」
警備員「えいやちょ」
イビツ「さぁご一緒にー! うおおおおおおおおおおおお! 最高だぜ恭文君ー!」
古鉄≪――という感じでした。ダーグさん、一言どうぞ≫
ダーグ「……俺は見てない、なんにも見てない」
古鉄≪以上、後輩へのコメントでした。セイさん達も無事に勝ち抜けたようですし、今回から三回戦。
うちのマスターはダーグさん――ユニコーンガンダム・フリーデンと対戦決定≫
ダーグ「やすっちにはいろいろ世話かけてるが、勝負に手は抜かないと約束してるもんな。全力でやらせてもらうぜ」
古鉄≪しかし強豪は他にもいます。それぞれのブロックで激しい戦いは続きます≫
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
その機体【エールストライクガンダム】は、エールストライカーのスラスターを忙しなく噴射。
砂漠の中、広げられたライトグリーン翼がジグザグに移動。自機の九時方向から放たれるミサイル八基を、機動で巻き上げた砂じんで防御。
もちろん砂は壁にならない……普通なら。巻き上げた衝撃も交え、一瞬だけ硬度に等しい衝撃をミサイルに与える。
それを通常機動も交えながらだから、本当に半端ない。結果次々と襲ってきたミサイルが撃墜されてしまった。
そんな美希の前方にオレンジの獣が回り込む。その砂漠をオレンジの獣が走る。モノアイの瞳、角に等しいブレードアンテナ三本。
口に咥えるのは二連装ビームサーベル。背部はスラスターも備えた翼に、長大な二連装ビームキャノン。
黒い二本爪、そして四足後方に携える無限軌道(キャタピラ)。無限軌道で不安定な足場を噛み、獣は軽快に走る。
あれはガンダムSEEDに出てきた、地上用MS【ラゴゥ】だ。
奇しくも原作通りなシチュで対決。違う点はこれがガンプラであり、パイロットも別人だという事のみ。
『なるほど、君はスペシャルというわけか! ならば』
ラゴゥがビームサーベルを展開。口元から両横にビーム粒子が走り、そのままストライクと交差。
でもストライクは咄嗟に自身のサーベルを展開しており、右薙の斬撃で突撃しながらの切りつけを払っていた。
交差したラゴゥはビームキャノン基部を回転させ、後方に連射。鋭くも的確な射撃が砂を払い、ストライクの足元から迫る。
『脅威となる前に撃たせてもらおうか!』
『んー、それは無理かな』
でもストライクは上下移動に右へのローリングで、合計六発の射撃をたやすく回避。その上で逆さ状態となり、後退しながらビームを三発連射。
合計一発目はラゴゥの行く手を遮る。進行方向に砂が着弾し、右へ回るラゴゥの眼前で砂が吹き上げる。
更に二発がラゴゥの背へ飛ぶ。……二発目は僅かに上を掠めるものの、三発目はビームキャノン基部を見事に貫通。
ラゴゥは慌ててビームキャノンをパージし、至近距離で起こる爆発に身構え停止。
その間にストライクは身を翻し、砂地を滑りながら着地する。
『だって美希は、もうとっくにその脅威ってやつだもの。それ以上ガンプラを壊すのも嫌だし、ここはギブアップでどうかな。おじさんのカッコいいし』
『ふ……君はどうやら、ケバブではヨーグルトソースが好きなようだ』
『え、どうして分かったの!?』
『甘いと言っているんだ!』
ラゴゥの口元は本来、ジェット機のように尖り気味な形状となっている。でもその口元が、開いた。
そこからビームの牙が生まれ、ブレードアンテナ前部からも光が走る。ラゴゥは正真正銘、一匹の獣として吠え――疾駆。
ストライクのビームライフルが構えられ、マズルフラッシュが生まれる。そのたびに走るビームを、牙やアンテナで受け止め斬り裂いていた。
『なの!?』
『ガンプラバトルには、明確な終わりのルールなどない――ならどこで終わりにすればいい』
『熱くならないで、負けるわ!』
ストライクは咄嗟に十一時方向へ跳び上がるも、ラゴゥも先回りして跳躍。そのまま走る無数の刃で一気に斬りつけた。
交差した瞬間、ストライクのライフルが斬り裂かれ、ラゴゥはその爆発に構わず着地。一気にUターンする。
『戦うしかなかろう! 互いに敵である限り!』
そうしてもう一度跳躍。ストライクの体勢は崩れたまま、その背後から……粒子の牙が突き立てられる。
でもその牙は虚空を貫く。一瞬……ほんの一瞬、ストライクがスラスターを吹かせただけで、蜃気楼のように獲物は消えてしまう。
『なに……!』
『なら、これでも』
あれは見えてなかっただろうね。僕達第三者視点だからギリギリって感じだよ。
ストライクはあの一瞬で宙返りし、空を舞うラゴゥの上に――それから右サイドアーマーからアーマーシュナイダーを取り出し、背に投てき。
『終わらないのか……試してみようか』
刃が突き刺さったところで、柄尻へ飛び蹴りを放った。そのままラゴゥを地面へたたき落とし、動きを完全に封じる。
更に首の接続部を狙いつつ、右手でもう一度サーベルを取り出す。そして右薙に刃が走り――ラゴゥはその首を落とされた。
『あなた!』
『君にふさわしいのは、チリソースのようだな』
火を上げ始めるラゴゥから跳び上がり、ストライクは後方へ退避……そのまま爆炎となる、ラゴゥの姿を見つめた。
でもラゴゥのファイター、声がマジで置鮎さんボイスなんだけど。地獄先生もやってそうなんだけど。
「――以上が星井美希のバトルだ。やすっち、どうだ」
「美希なら当然とも言える」
「マジかー。ところで……コイツらってどう見てもマジモンだよな! 俺、砂漠の虎大好きなんだが!」
「デザート・ティーガーって喫茶店のマスターと奥さんだよ。大尉がちょくちょく通ってるらしくて」
「やっぱそっくりさんかよ!」
ここは家のリビング――第二試合も終わったので、第三試合に向けて勉強中。
それで各試合を見ていったんだけど、一際際立っていたのは……やっぱり美希の試合で。
なお千早は海辺のステージだったんだけど、敵方のズゴックが焦れて出てきたらズドン……でした。
「とにかく美希はやる気にムラのあるタイプだけど、逆に集中したら凄いしね。だからこそアイドル時代も、一度覚醒したらそれはもう」
「じゃあヤスフミ、あの毛虫みたいな子、壁の子に勝っちゃうかな」
「それは分かんない。ていうか……レヴィ、壁の子って言うのはやめようね」
「え、だってあの子、おっぱい」
「それ以上いけない」
ほんとやめて……! 千早はそこが絡むとマジで怖いから! 僕達も容易には触れないし、触れちゃいけないのよ!
いや、僕はまだいいか! 男だから最初から自制状態だもの! でも女同士はやっぱ怖いー!
「その千早本人がスナイパーに徹していて、ほとんど戦い方を見せてないもの。
分かった事と言えば、使用ガンプラがガンダムデュナメスリペアってだけ」
「そう考えるとあの子……ううん、あの子の試合は不気味よね。牙を隠しているとも取れるし、相手が弱かったとも取れる」
「我らは牙を隠すどころか、最初からむき出しておるからな。ある意味真逆……しかしそれも」
ディアーチェの視線は、既になにも映していなモニターへ向けられる。そこに描くのは当然、種割れまくりなエールストライクだよ。
さっきの動きを思い出しているのか、ディアーチェが軽く身震いを始める。
「あの毛虫女とのバトルになれば、いやが応でも引き出されるであろう。ユーリ、お前はどう思う」
「えっと、お二人は元々同じ事務所の……アイドルさんだったんですよね。今は引退なされているけど、基本はお友達」
「そうだよ」
「しかも如月さんは前回、世界大会にも出場しています。使っているガンプラも同じとなれば、星井さんも対策くらいするのでは。
私もディアーチェと同じ考えです。そうして隠している牙を、引き出さざるをえない状況になる」
――もしかしたら僕達がやり合うのは、必要な事だったのかもしれない。うちのブロック、くせ者多すぎ。
厳しい戦いを経て、勝利者はガンプラを進化させる。そうしなければ決勝戦で待ち受ける壁は……砕けない。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
第二ブロックを勝ち進む我らが女神――その前に立ちはだかる難敵は二人だろう。我らは白衣をまとい、秋葉原の地下で静かに会議を進める。
プロジェクターで映し出されているのは、本日行われたバトルの一つ。
一方は赤くまるっこいボディが特徴の、ティターンズ所属量産型MS【マラサイ】。
黒い長砲身のメガ・ビームライフルを携え、空からの強襲にホバリングでなんとか対応。
着弾で吹き上がる砂をすり抜けるように、メガ・ビームライフルを両腕で構えた。
「第二ブロックの難敵――一人は世界大会出場経験もある、ユウキ・タツヤ。使用ガンプラはザクアメイジング。
当然ながら一年の時を経て、その完成度は飛躍的に高まっている。決して油断していい相手ではありません」
「しかし我らの女神ならば」
「如何に紅の彗星であろうと……ですな」
そこから放たれるのは赤き破壊の奔流。プラフスキー粒子の空気を焦がし、突撃してくる白いガンプラを狙い撃つ。
白いガンプラ――ビルドストライクは、左腕のハーフシールドを構え、その奔流を受け止める。
そして爆発――砂ぼこりも舞い散り、誰もが勝利を確信した。もちろんマラサイを操縦していた、歴戦ファイターもだ。
「そしてもう一人……いや、二人がこちら。イオリ・セイ&レイジ組が運用する、ビルドストライク・フルパッケージ」
しかし青い翼を翻し、ビルドストライクは突き抜ける。しかも目立った損傷はなく、シールドには小さなくぼみができただけだった。
マラサイは慌てて後退し、再びメガ・ビームライフルをチャージ――蓄えた力をそのまま吐き出すと、今度はビルドストライクも反撃。
オリジナル造形のライフルで、奔流に向かってビーム射撃。本来ならば押し負けて当然の、余りに無謀な反撃。
しかし翡翠色のビーム粒子は、メガ・ビームライフルの放った力を貫通。更に霧散させながら突き抜け、マラサイの胴体を撃ち抜いた。
メガ・ビームライフル砲身も破壊され、反撃手段も砕かれ……機体は派手に爆散する。
「今のは、一体どういう事なんだ。確かに直撃を」
「前提があります。まずセコンドのイオリ・セイは、第二回世界大会準優勝者である、イオリ・タケシの息子」
「超絶クオリティの初代ガンダムを作った、伝説のビルドファイターじゃないか! ……なるほど、虎の子は虎というわけか」
「えぇ。その彼が持ちうる技術をつぎ込み作った、オリジナルガンプラ――ベースは言うまでもなくHGCEストライクガンダム。
素の状態でも高水準の完成度ですが、彼の手によって更なる進化を果たしている」
「イーゲルシュテルンを四門に増設し、両肩とサイドアーマーは新造。
両肩アーマーはサイドスラスターも仕込み、機動性アップ……というところか。
サーベルの仕込みはあれだな、フリーダムを参考にしているんだろう。しかし」
「そう、それでは防御力の説明がつかない。ですがそれも見方次第ですよ」
映像を再生し、ビルドストライクが爆炎から飛び出したシーンまでスキップ。
そこで一時停止し、シールド部分を操作でアップ。そこで同志が目を見開き、前のめりになる。
……着弾部には焦げ跡が目立つが、よく見るとその後には、積層らしきものが見受けられる。これこそが答えだ。
「このシールドは恐らく、薄く細かいプラ板を何層にも重ねて作り上げられている。もちろんビーム・実弾対策を整えた上で」
「なんという手間だ……!」
「更にこちらの中型ビームライフル、恐らくヴェスバーなどと同じ出力調整機能があると思われる。
銃口には金属パーツを使う事で、高出力時はメガ・ビームライフル……いや、ハイパーメガランチャーのそれに匹敵。
もちろんこれだけの高性能機体だ。それを扱うファイターにも相応の技量が求められるが、レイジという少年にはそれがある」
「虎どころか、これでは龍だな。まさに血筋……いや、因果。どう攻略する」
「だとしても我々の勝利は揺るぎません」
プロジェクターの電源を落とし、眼鏡を正しながら部屋の外へ。同志もそれについてきてくれる。
「戦いとは戦場へ赴く前から、既に始まっているのですから」
「ふ、そうだったな。しょせんは子ども、我が女神の慈愛には逆らえまい。なぜなら我ら自身」
「その女神に全てを捧げた者――!」
リバーシブルとなっている白衣を脱ぎ、裏返しにした上で再度着用。ピンクのハッピへ早変わりさせる。
更にポケットからサイリウムを数本取り出し、廊下を早足で歩きながらホールへ出る。
秋葉原の地下には、数々のアイドル達がうたい踊る聖地がある。いわゆる地下アイドルと呼ばれるものだ。
その中に一人、一際強い輝きを生み出す女神がいる。我らはその女神の使徒……彼女は既にステージで輝いていた。
ピンク色のツインテール、目を引かれるほどに大きな胸とくびれた腰、艷やかな太ももがステージライトで煌めく。
白いグローブにお腹の出たステージ衣装を翻し、彼女はうたう――うたい、踊り、我らに愛を届けてくれる。
『――キララン☆』
「「キララちゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」」
もう言葉などいらなかった。サイリウムをへし折り、我らも他の同志に混じって踊る、踊る――踊る踊る踊る!
ここは桃源郷か! はたまた天国か! ならば我らは死んでいるのか!? いや、いい!
これが死後の世界というのならば、受け入れない理由がない! やっぱりリアルはクソゲーだったんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
魔法少女リリカルなのはVivid・Remix
とある魔導師と彼女の鮮烈な日常
Memory27 『運命、かしら』
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翌日――学校が終わってから、ちょっと待ち合わせ場所――臨海公園へ。そこの一角でレイジとリカルド、あおと海を見ながらお話。
一応修行相手になった関係で、いわゆる報告会です。でもリカルド、余裕だなぁ。ベスパに跨ったまま、笑ってるし。
「そうか、二回戦まで進んだか。レイジ、一応おめでとうと言っておこうか」
「へへ、楽勝だっての」
まぁ世界大会に一抜けしてる身だし、それはなぁ。ただそんな余裕も……僕を見た瞬間に消え去る。
「……ヤスフミ、頑張れ」
「ねぇ、おめでとうじゃないの? なんで頑張れなのかな」
「当たり前だろ! お前、いきなりあんな連戦って……見ていて泣きそうになったからな!」
「あおー」
「なぁ、お前達……しゅごキャラだったな。宿主であるコイツは、もしかしなくても運が悪いのか?」
『よく分かったな(分かりましたね)』
「おのれらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
なにこれ! なんで誰一人お祝いとかしてくれないの!? まぁ三回戦もあるけどね! 今のところ一番デカい山場があるんだけどね!
「まぁオレは運もいいし、セイのガンプラもいるなら」
「甘ぇな」
「あ?」
「長い歴史を持つガンプラには、お前の知らない事がまだまだたくさんある。……ザクの種類とかな」
「げ……!」
レイジはザクの種類だけでもめまいがしていたので、こういう話をされると身が引き締まるようです。
でもねリカルド、ボルジャーノンと見分けつけろってのは……残酷だって。アニメならともかく、ガンプラではさすがに。
「まぁ、言いたい事は分かったよ。順調だからこそ、身を引き締めろと」
「勝って兜の緒を締めよ――日本のことわざにあったな、ヤスフミ」
「うん。意味は今レイジが理解した通りだよ」
「勝ち上がってこい、ヤスフミ、レイジ。……世界大会で待ってるぞ」
「あおー♪」
そしてリカルドはヘルメットをかぶり直し、あおは左側にあるサイドカーへ乗り込む。
そのまま軽快なエンジン音とともに、二人は走り去っていく。
「世界大会……また一つ、負けられない理由ができちまったな。だがヤスフミ、お前は大丈夫なのかよ」
「なにを仰るうさぎさん、おのれより経験はあるのよ?」
「なら楽しみだな。……ところでなんか、甘い匂いがしてきてるんだが」
「近くにクレープ屋さんがあるね」
「クレープ?」
「小麦粉で作った皮に、甘いクリームや果物を巻いて食べる食べ物だよ」
どうやらレイジ、本当にこっちの一般常識がないらしい。でもアリアン……聞いた事のない世界だ。
なんか凄い事が密かに始まっているんじゃないかと、ワクワクしながらも左側――リカルド達が去った方とは逆に歩き出す。
「よし、二回戦突破のお祝いだ。僕がおごってあげるよ」
「マジか! ありがとな! この礼は必ずさせてもらう!」
「期待せずに待ってるよ。なおヒカリは一つだけね」
「それでは餓死してしまうぞ!」
「おのれしゅごキャラだって自覚ないよね!」
穏やかな午後、新しくできた友達とクレープを楽しむ――うーん、学生生活っぽくて素敵だねー。
しっかり英気を養って、三回戦――ダーグとユニコーン・ガンダムフリーデンに挑みますか。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
二回戦も無事に突破。チョバムシールドの有用性も証明できたし、いい感じだよー。でも油断せず、きっちり整備と調整。
「セイー」
……と思っていると、店番中な母さんに呼ばれる。一旦手を止め、やすりやデザインナイフなどはさっと仕舞う。
その上でお店に出ると、母さんが棚の一部――そこで佇む、薄紫コートの女性を手で指す。
髪より濃いめなロングヘアーを揺らし、ベレー帽を被ったその人は……真剣な顔でガンプラを見ていた。
「お客さんがお探しのガンプラなんだけど、ちょっと見てくれないかな。母さん、よく分からなくて」
「……母さん、毎度毎度の事だけど、それは模型店経営者として致命的すぎじゃ。もうちょっと勉強を」
「無理よ。だって前に教えてくれた、ポルチーニとザッケローニって同じじゃないの」
「同じじゃないよ! というか名前が違うよ! ボルジャーノンとザクだからね!? ……もう、全く」
少しは頑張ってほしいのに……というか母さん、よくこれで父さんに引かなかったよなぁ。
父さん、僕以上のガノタだし。カウンターから出て、二十代前半っぽい女性へ近づく。女性は僕に気付き、満面の笑み。
「よろしくね」
……奇麗な人だなぁ。ちょっとそばかすが見えるけど、それもまたよし。ドキドキしながらも、まずは質問。
「あ、はい。どのようなキットをお探しでしょうか」
「ジムのキットが欲しいんだけど……0080の寒冷地仕様」
「ありますあります!」
ただこっちの列にはないので、一旦左の棚へ。でもあれを女性が……OVAとか見たせいかな。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
それではセイ君に代わり、ナレーターが説明しよう。いや、彼に語らせると脱線するから。
ジム寒冷地仕様はOVA『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』に登場する、地球連邦軍が開発した量産型MS。
ジムとしては後期生産型で、胴体部などのアウトラインは発展型であるジム・コマンドシリーズに共通する部分が多い。
ボディは白黒彩色で、機体各所に既存車両・航空機の運用ノウハウに基づいた、氷結・防寒処理が施されている。
武装はビームサーベル、60mmバルカン、イギリスのステン短機関銃に似たマシンガン。
なおこちらのマシンガン、円筒形の本体にフォアグリップ兼用マガシンを差し込んだものとなっている。
こちらは第一話冒頭で、北極吉の警備に当たっていた……が、ジオン軍サイクロプス隊の攻撃を受け、多数の機体が応戦した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
寒冷地仕様のキットは見つけたので、丁寧に取り出し……女性の前へ戻って優しく差し出す。
「こちらです」
「ありがとうございます!」
女性は笑顔で受け取り、大事そうに箱を抱き締める。それが嬉しいやらなんやら……つい僕も笑みがこぼれた。
「いえ。ガンプラ好きなんですね」
「ポケットの中の戦争に出てくるジム、大好きなんです。ジム・コマンド、ジム・コマンド宇宙仕様――ジムスナイパーU!」
「へぇ!」
「HGUCジムスナイパーUについていた、ドラケンEも可愛かったです!」
「リーア軍のミドルモビルスーツですね!」
「そう、そうなの!」
どうしよう、めちゃくちゃ嬉しい! 女性でガンプラに詳しい人って実は少なくてさ! あぁ、これが運命の出会いというやつかも!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
それはイオリくんが一回戦を突破した、翌日の事……弟を連れてイオリ模型を訪れた。
イオリくんや他の人達は、どうしてロボットで戦うんだろう。確かに、その答えはユウキ会長からもらった。
でも……自分でも踏み込んで、知りたくなった。どうして昨日のあの人達は、作品を壊してでも楽しそうに戦ったのか。
どうしてイオリくんは勝てた時、あんなに嬉しそうだったのか。最初はロボットが壊れなかったせいと思ってた。
でも違う。もっと違うなにかを得られたから、あんなに嬉しそうだった。一晩考えて、そう気づいた。
もしかしたら、それが強さの証明かもしれない。……もっと知りたい。イオリくんが見ているもの――ガンプラの事を。
「それならAGEシリーズがいいと思うぞ!」
「「……うわぁ!?」」
突然、ベレー帽をかぶった男の人が出てきた。わたし達の間に入り込まれて、思わずイオリくんと一緒に後ずさる。
「おっと、驚かしちゃったかな?」
「い、いらっしゃいませ。えっと、今日はどんなガンプラをお探しで」
「弟君は今までプラモ関係を作った事は」
「ちょ、それ僕の仕事ー!」
ガン無視ですか! イオリくん戸惑ってるんですけど! でも、悪い人じゃなさそう。
もしかしてあれなのかな。知っている人はこういう風に、初めての人をサポートするものなんじゃ。……凄い、ガンプラって優しい世界なんだ。
「い、いえ……ないです」
「うむ! ならばガンプラでも最高レベルの完成度を誇り、なおかつ価格もお手頃なAGEシリーズがおすすめだよ!」
「エイジ?」
「機動戦士ガンダムAGE――ちょうど今年度放映されている、ガンダムシリーズの最新作だよ」
そこでイオリくんがやや困り気味に補足。新しいガンダムだから、最高レベルになるのかな。なんとなくだけどそう受け止めた。
「最高レベルって、作るのが難しいとかは」
「全然! パーツ数も抑えられていて、シンプルながらしっかりとした作り! 素組みでバトルしても高性能が発揮できるんだ!
AGEシリーズのプラモはね、僕もおすすめだよ! うちもかなり値引きしてるから、価格面もばっちり!」
「え、それで安いの? いい事尽くめなのに」
「まぁそこは、あれだよ! いいものを知ってもらって、ガンプラ及びガンダム普及に役立てようというバンダイの懐が」
「やっぱ人気ないんだな」
あれ、ベレー帽の人がヘコみだした!? え、どうして……イオリくん、基本褒めてるのに! ヘコむ要素がないのに!
「値引きって、売れないからだろ? 作品の人気がないからだろ? 知ってるんだ、みんなそう言ってるのは知ってるんだ」
「そ、そんな事ないです! ……よ?」
イオリくん、最後言い切らなきゃ駄目だよ! 疑問形つけちゃ駄目だよ! それだと。
「くそがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そしてベレー帽の人は頭を抱え、店中に聴こえる声で絶叫……あなたは好き、なんですね。
でも人気がないのに、プラモは凄いの? どういう事なんだろう、逆に興味が出てきたかも。
「え、えっと……AGEのプラモって、女の子でも作ったりは」
「もちろんだよ!」
さすがに見てられなくてフォローすると、この人はすぐに復活。
立ち上がって全力で胸を張った。どうしよう、逆に心配なんだけど、情緒不安定すぎて。
「AGEシリーズなら……あ、ちょうどあった」
イオリくんは近くの棚から、白い箱を二つ取り出す。えっと、角があってへの口……一つはガンダム? うん、ガンダムだ。というかこれって。
「ガンダムAGE-1」
「そう、第一部の主役機で基本! 初代ガンダムをモチーフとした……って、委員長もしかして」
「ううん、アニメは知らないけど、ユウキ先輩がこのガンプラが出る試合を見せてくれて」
「ユウキ先輩が? しかもAGE-1」
「お友達が出場するって言ってたの。第二ブロックで、塗装とかで汚れを表現している」
「「……あ」」
イオリくんとベレー帽の人が急に顔を背け、涙ぐみ始めた。まるで真実を知っているのに、口に出せないと言わんばかりに。ちょっと、疎外感。
「じゃあこっちの、赤いヘルメットをかぶってるガンプラは」
「連邦軍量産型MS【ジェノアス】だよ。これは特に作りやすくて、慣れている人なら一時間もかからず作れちゃう」
「可動範囲も凄いんだよなぁ。足はあんまり上がらないけど、改造素体としても完璧だ」
「そ、そんなにすぐ作れるものなの?」
「手を加える事前提ならもっとだけど、ただ組み立てるだけならね。ちなみにAGE-1は税込み五百円で、ジェノアスは三百円」
「「すっごく安い!」」
しかも税込み……この丸っこい頭がなんだか可愛くて、自然と箱を手に取っていた。
「じゃあ、これで」
「ならばお嬢さんと弟君のガンプラ、俺がおごろう!」
「「えぇ!」」
またおかしな事言い出したよ! いや、失礼だけど! でもそんな張り切らなくても……さすがにそれはないので、首を必死に振って遠慮する。
「そ、そんな悪いです! 知り合ったばかりの人におごってもらうなんて……イオリくんの知り合いでもないんだよね!」
「う、うん!」
「そうか! では紙やすりとニッパー、ピンセットもセットしちゃおう!」
「通販番組みたいにプラスしてる!?」
「余計に受け取れませんー!」
「もちろんただでってわけじゃないさ。君達姉弟にはお願いがあるんだ」
そこでベレー帽の人は、涙ぐみながら……わたしの両肩を優しく叩いてきた。本当に優しくだから、あんまり嫌な感じはしなかった。
「ガンダムAGEを視聴――いや、そんなぜい沢は言わん! ただ、AGEを……貶さないでほしい」
「は、はぁ。あの、見てないので貶めるもなにも……イオリくん」
「……うちにBlu-rayあるから、あとで貸すよ。その、見ればいろんな事が分かると思う」
あれ、イオリくんも涙ぐんでる!? ねぇ、なにがあるの! ガンダムAGEってお話にはなにがあるのかな!
「え、あの」
「あ、ごめん……その、母さんが新作だからって大量入荷しちゃって、ちょっと問題が」
え、入荷で問題? でもガンダムって人気のアニメらしいし、ガンプラ大会もあるなら……そこで全てを察してしまう。
大量入荷で問題、価格が破格……売れてない!? 話を聞く限り完璧な要素しかないのに、売れてないのかな!
じゃあこの価格は在庫処分特価!? それで貶めないでって事はもしかしなくても……答えに気づいたのがまずかったのだろうか。
「畜生めぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
ベレー帽の人がまた叫び、床に伏せた。そして号泣……大人なのに、泣き始める。
「……あ、それならガンダムAGE-1、2、3を五個ずつください」
「「愛が深すぎ! ていうかテンション変わりすぎぃ!」」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
結果、プラモを購入……あとおごってもらうのはもう、本当に申し訳ないけど遠慮させてもらった。
ただ『ガンプラデビューの、せめてものお祝い』として、紙やすりのセットは頂いた。
それも駄目だと思ったんだけど、価格が二百円前後で……なによりあの人が余りに必死だったから。
なので家に帰ってから、イオリくんが資料用として持っていたディスクを借り、それも見つつネットで調べてみた。
ガンダムAGEという作品を……あの人、本当に大好きなんだね。それだけはよく、よく理解できた。
今度会ったら必ずお礼をしよう。そう決意してガンプラを作り……一週間。
美術部の活動もあるので、なかなか進まない。ただ基本は分かってきたんだけど、それでも箱を持ってイオリ模型へ。
その、イオリくんに教えてもらえたら……とか考えてしまって。あのキラキラした瞳をもっと近くで感じられたらと。
あとは第二回戦も突破したし、おめでとうも言いたくて。そうしたら、どういう事だろう。
イオリくんが……とても、仲よさげに女性と話している。しかもすっごく奇麗で、胸もかなり大きい。
やや季節外れなコートの下から、形のいい盛り上がりが押し上げてるの。つい自分の胸を見て、絶望する。
「お……確か学校にいた。お前どうしたんだ」
今日はもう、やめよう。なんだか自信……イオリくん、大きい方が好きなのかな。そう、だよね。男の人ってみんなそうだし。
「誰だ、あの女……おい、どこ行くんだー。セイに用事じゃなかったのかー」
中学生より、大人の女性なんだよね。ふらふらしながらもなんとか、なんとか意識だけは保って……静かに帰路へつく。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
家に戻ってフェイトと、おかえりとただいまのキス。それを交わしてからアイリ達のお世話をしていると。
「は……!」
鋭い電撃が走り、周囲をキョロキョロ……そんな僕の動きに合わせ、アイリ達もキョロキョロし始める。
「ヤスフミ、どうしたの?」
「ラブコメの波動を感じる」
「なにそれ!」
「「あうー?」」
いや、なんとなく……おー、よしよし。抱いているアイリに笑いかけ、大丈夫だとあやす。
「と、とにかくヤスフミ……レイジ君、勝ったんだよね。えっと、ビルドストライクも完成して」
「うん。ただ、次の対戦相手がちょっとね。レイジにはクレープ食べながら、注意するよう言っておいたけど」
「あの、タツヤ君とか」
「違う。当たるとしたら準決勝だから……その相手ね、二戦とも不戦勝なんだよ」
恭介を抱いているフェイトが、隣で怪訝そうな顔をする。フェイトは基本天然でドジだけど、一応それなりに頭は働く。
……はいそこ、嘘とか言わない。僕も嘘じゃないかって思う時があるけど、本人も一応頑張ってるから。
「二戦とも?」
「なお原因は不明だった」
「もし偶然じゃなかったとしたら」
「相手による妨害工作」
そうまで言い切れる要因は、この大会の形式。一戦ごとに一週間ごとのインターバルが入るのよ?
基本準備した上で望むものだし、体調不良の類も注意すればある程度は避けられる。まぁ突発的事故ってのはあるけどさ。
でもそういう、相手にとっての不都合が連続で起きるってのは……ちょっとね。もちろん確証がないから、滅多な事は言えないけど。
ただそれは、『この大会に限り』の話。相手の名前がバレてるなら、過去の大会記録を調べる事も可能。なので調べてみたところ。
「というか、その対戦相手ってそういう勝利が多いんだよ。公式的な大会だとほぼ百パーセント」
「ちなみに、その相手ってどんな」
「アキバ系アイドル――キララ」
「アキバ系? えっと」
「アキバの地下ライブ会場を中心に活動しているっぽい。ちょっと検索したら、事務所のHPも見つけたよ。
……美希が言ってたんだけどね、千早の二番煎じをどこの事務所も狙ってるっぽいから」
「あ、それでアイドルなのにガンプラを……ヤスフミ」
そこでフェイトがまた困り顔を……アイドルで手段を選ばない類がいるって、僕達はよーく知っている。
歌唄もそうだったしねぇ。もちろん試合や人柄も知らないから、あんま好き勝手な事は言えないんだけど。
ただね、仮に偶然だったとしても注意は必要なんだよ。今大会での対戦記録がないって事は、対策が立てられないって事だから。
「まぁき憂なのを祈るよ」
「そうだね。でも二戦勝って調子に乗るところだから、気を引き締める意味ではいいんじゃないかな。
単純に運良く不戦勝だったとしても、その分相手のこう……戦い方とかもさっぱりでしょ?」
「同感。リカルドもそれで釘刺ししてたし……僕も作業進めないとなぁ。フェイトはもうすぐだし」
「うん。……これでお手伝いは大丈夫だね」
「大丈夫じゃないよ!?」
ただ人の事ばっかりも気にしていられない。僕も作業を進めないと……先日のバトルを受け、早速作っている新装備がある。
完成形はやっぱり世界大会になるだろうけど、もうどんどん投入していこう。じゃないと勝ち残れないような気がしてきた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
三回戦まであと四日――形になったよ、新装備! リインと二人、作業室でそれを見てニコニコ。
四肢はAGE-1のものを改造しつつ一から作り直し、ジェネレーターを設置……あ、これも設定なんだ。
AGE-1は胴体部だけでなく、四肢にもそれぞれジェネレーターが設置してあるの。実験機であるが故の意欲的試みだね。
これにより機体出力は前回から四割増し。その分各部スラスターの再調整もしっかり行った。
今のところこの子、トランザムみたいな事はできないしね。スーパーモードに対抗する意味でも、しっかり『計算』した。
もちろん武装関係の出力も上がっている。そうそう、頭部両横には76.5mmバルカン砲二門を増設した。
バックパックはジョイントをくっつけ、多関節アームを搭載。この多関節アームは、以前ストライクでも実験した物の発展形。
ほれ、ガンプラバーでレイジの無謀を助けたでしょ。あの時背負っていたパックが元になってる。
ビーム発振器も兼ねたアームで、遠近両用……ってのが予定だったんだけどね。改修するので切り替えました。
アームに搭載しているのは、大型のビームガトリングユニット二基。これはAMBAC(アンバック)も兼ねているんだ。
Active Mass Balance Auto Control――能動的質量移動による、自動制御の略称。いわゆる空想科学技術だね。
稼動肢の一部を高速で動かし。発生する反作用をMSやMAの姿勢制御に利用するの。
これの利点は推進剤消費もなく、デッドウェイトと考えられがちの稼動肢が姿勢制御のシステムとして利用できる事。
まぁ実際のテレビシリーズでは作画が複雑化するから、ほとんど描写はされてないけどね。
ようするにアームや搭載しているユニットの移動で、旋回や方向転換ができると考えればいいよ、超科学で。
超科学で――大事な事なので二回言いました。そしてガトリング本体は、特殊効果の弾丸をまき散らす【ドッズガトリング】。
その特殊効果とはガンダムAGE小説版で登場している、DODS――【Drill-Orbital Discharge System(機械穿孔電子軌道放出システム)】。
ドリル状に回転させたビームがこの効果を発揮し、対象を共振粒子の渦に巻き込んで原子崩壊させる。
まぁプラフスキー粒子だから、なんちゃってだけどね。でもなんちゃってだからこそ、原作以上の応用ができる。
なのでその本質は……まだ内緒。両足はクレイモアミサイルから、小型ガトリングを搭載したボックスユニットに変更。
カバーが展開し、砲塔が露出する形になってる。そこから放つのは、やっぱりDODS効果による小型弾丸達。
怖いよー、痛いよー。ただ露出しなくても、これもまた本質によって面白効果が生まれるんだけど。
ちなみにこれらのユニットは合わせて、MERCURY DODS――MDユニットと仮称している。
目指すところは新世代のマーキュリーレヴ。今は離れている大事な友達にこれを見せつけて、びっくりさせてやるのよ。
でもどっちも完成形じゃない。あくまでもアーリータイプとも言うべきもので、完成度は六十パーセントってところかな。
なおシールドはHGUCEz8のものをベースに、ちょこちょこいじったハーフシールドに変更してある。
ここは取り回しの関係で……そうして生まれ変わったAGE-1の名は。
「できたよ……ガンダムAGE-1FW(フルウェポン)リペア!」
「背負い物が増えたので、ボリュームアップなのですよ。でもビーム無効化は」
「大丈夫、そこも対策を考えてるから。てーか夜天一家戦で見せたのは、完成度『二割』よ?」
あれ、こっちのビーム兵器も使えなくなるからなぁ。その対策自体はわりと簡単なので、トーナメント戦では致命的。
派手ではあるけどね。なので武装追加・変更により、その辺りのシステムも更に昇華している。
「それでもダーグのユニコーンは機動性もあり、火力もかなりのものなのです」
≪ビーム・マグナムやカレトヴルッフもありますしね。でも一番の脅威は……スーパーモード≫
「早く完成させた分、シミュを詰めなきゃね。でも……明日が問題だなぁ」
「放課後は765プロですよね」
「うん。嫌な予感がしてるんだけど」
実はいきなり律子さん――765プロのプロデューサーさんに呼び出されました。
みんなとはそこそこ付き合いも続いているから、普通ではあるんだけど……妙な胸騒ぎが。
でも今は完成のお祝いだね。久々にリインと究極のアイスを作って、幸せに浸ろうっと。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
僕が二回戦でミスしたお詫びもあるので、アイスを作り……それでリインも許してくれました。
そして翌日の放課後、僕は都内某所にある765プロへ。 765プロは元々大田区にあったんだけど、アイドル増員などに伴い移転。
今は昔と違い四階建てのビル全てを管理し、少し広くなった事務所でしっかり営業を続けている。
レンガ色なビルはどこか古ぼけてもいて、温かさも感じさせる。更にビル街の中でもとりわけ目立っているのがまた不思議。
更に最近では事務所独自のライブシアターを設立し、そこでステージイベントなども行っている。
これも僕が知る頃より、アイドルの人数が増えた関係から。若手育成の場でもあり、更にファンとの交流もできる素晴らしい場。
AKBなどもやっているから、その効果は折り紙つき。まぁ二番煎じとも言うけどね。
そんな事務所へ入り、まずはオフィスへ……すると緑髪ショートの女性が立ち上がり、笑顔で迎えてくれた。
「いらっしゃい……あぁ、待ってたわ! 恭文くん!」
「小鳥さん、お久しぶり……ってほどじゃないですよねー」
「ふふ、そうね。美希ちゃんとチーフプロデューサーさんの結婚式、最近だったもの」
この人は事務員の音無小鳥さん。元々アイドルだったので、そのルックスは折り紙つき。相変わらず奇麗だなー。
「そう言えばアイリちゃんと恭介くんは」
「大きくなってますよ。実ははいはいするようになってて、そろそろよちよち歩きもかなーと」
「そう言えば一歳くらいだったわよね。大変でしょ」
「同居人達も協力してくれるので、なんとか。あ、これおみやげです」
ちょっと大きめな箱二つをどこからともなく取り出し、近くのテーブルへ置く。
「カロリー抑えめに作ったケーキなので、よければ」
「ありがとう! みんな喜ぶわ! ……あ、律子さんはもうすぐ戻ってくるから、応接室で待っててね」
「それなんですけど……僕、なんの用で呼ばれたんですか。嫌な予感がしてるんですけど」
「……ちょっと、当たってるかも。とにかくそこも律子さんから」
当たってるの!? 戦々恐々としながらも、応接室に入る。小鳥さんがお茶を味わい、ソファーに座ってのんびりしていると。
「ごめん、おまたせ!」
くり色髪をパイナップルヘアーにした、黒スーツの女性が入ってきた。眼鏡の奥で瞳を輝かせる女性は、深く深呼吸。まずは立ち上がってお辞儀。
「律子さん、お邪魔してます」
「ううん、遅れちゃってごめんね。……あ、それとケーキありがと。みんなレッスンがもうすぐ終わりだから、きっと喜ぶわ」
「いえいえ」
この人は秋月律子さん――先日言った通り、765プロのプロデューサーさん。
元々はアイドル兼事務員だったんだけど、志望もあって今はプロデューサー専任。
僕にとっても、赤羽根さんにとっても先輩という765プロの古株。……そんな律子さんと改めてソファーへ座り。
「それでいきなりなんだけど……恭文君、765プロでまたお仕事する気ないかな。
アイドル達にガンプラバトルを教えてほしいの……できれば今すぐに」
「お断りします」
律子さんは前のめりに倒れるも、すぐに起き上がる。そうして苦しげにこめかみをグリグリ。
「理由は……聞く必要ないかー。あなた、大会出場してるんだものね。
でもあなた、例の『ゴーストボーイ』でもあるでしょ? だったら余裕じゃ」
「……そこまで知ってるなら、僕の現状は理解してますよね。子育てもあるし無理です」
「……ごめん、今のは私が悪かったわ。というか、なにげにプレッシャー感じてたの? 身内の方が凄いガンプラ作るから」
「かなり。ただ刺激を受けて、こっちもいいものが作れそうですけど」
実を言うとね、みんなのガンプラやその完成度を見て……軽くヘコんでいたのよ。みんな初心者なのにアレだもの。
僕の十年は一体なんだったのかとさ。……でも刺激を受けたからこそ、AGE-1は進化し続けているわけで。そこはとても感謝してる。
「じゃあ今すぐじゃなければどうかしら。こう、ちょくちょく顔を出す顧問的な感じで」
「まぁそれならまだ。やっぱあれですか、アイドル業界にガンプラバトルの波が……律子さん、それは二番煎じですって」
「分かってる。でもね、それは遅れた思考よ」
「と言いますと」
「確かに千早の世界大会進出で、あの子の芸能活動は恐ろしくなるほどに弾みがついた。まぁあの子自身はそれからすぐ引退したけど」
そう付け加え、律子さんは小鳥さんが持ってきてくれたお茶を受け取り、静かに飲む。小鳥さんはそのまま笑顔で退室。
「問題はその余波にあるわ。各事務所がガンプラアイドルという新しいジャンルを見つけた事で、その開拓に乗り出した。
それは同時にアイドル達の誰もが、ビルダー技術を身に付ける土壌の完成を意味する。程度の差はあれどね」
「つまり、律子さんの予測ではくると。アイドル達がパフォーマンスの一つとしてバトルしていく日常――その舞台が」
「アイドル対抗大運動会みたいなノリでね。そこまで大きくなくても、番組企画で対戦というのもあり得る。
だからね、その流れが本格化する前に体制を整えたいの。今のままだと自主性が大きいし、スタッフも慣れてないから」
「律子さん自身がガンプラはさっぱりだし」
「そうなのよー。新しいプロデューサー二人も、男の人だけどさっぱりで……もちろんチーフ殿も頑張ってくれてる。
だけど基本素人からだから、どうも効率が……やっぱり外部から、優秀なビルダーを先生役に呼んだ方がと考えたの」
「それでヤスフミに声かけしたってのか。信頼されてるねぇ」
さて、どうしたものかねぇ。子育てや学校もあるし、そこまでガッツリっていうのもなぁ。でも。
――君達にはその義務がある。君達も誰かに教わったんだろう? ガンプラ――
二〇〇八年――機動六課にいた時、実はこっそりイギリスへ行った事がある。当時は中学生で、留学中のタツヤへ会いにさ。
そこで出会ったある人――イオリ・タケシさんとバトルして、二人揃ってこてんぱんに負けてさ。
超絶クオリティに嘘偽りはなかった。でもその後、僕達のバトルを見たらしい子ども達にこう言われた。
ガンプラ作りを教えてほしいと。それもタケシさん――世界大会第二位の実力者がいるのにだ。
戸惑う僕達を見て、豪快に笑いながらタケシさんはこう言ってくれた。そうだ、僕達も楽しさを教わった。
タツヤはあれが初めてのガンプラ体験で、僕も更にハマり込むきっかけだった。
行方も分からなくなっている友達から、キラキラに輝く種を。ガンプラという、光を。
――誰かに楽しさを教わったものは、それを誰かに伝えるべきだ! そうして僕達は繋がっていく!
いつまでも、どこまでも! 僕は今――そういう仕事をしている!――
力強く言いながら笑うあの人が、本当に羨ましかったなぁ。僕はその時、家を乗っ取られるやらなんやらで大変だったから。
誰かに伝えるべき……うん、そうだよね。フェイトの面倒を見ているのもその関係からだもの。
きっと今、ガンプラバトル選手権に出ているのはきっかけだったんだ。僕にも伝えるべきものが、もうある。
それでタツヤもあの人を目指して、必死に走っている。よし、さすがに今は無理だけど……これから先なら。
あの笑顔に、あの笑顔に背中を押され、横のシオン達と笑いながら気持ちを決める。
「あなたが無理なら、誰か信頼できる人を紹介してくれるだけでもいいの。相応のお礼もさせてもらうし」
「いいですよ、僕がやりましょ」
「……えぇ! ほ、本当にいいの!?」
「フェイト達と相談はした上で本決定しますし、遊びとしてのガンプラしか教えられませんけど。もちろん大会期間中も無理です」
「それで構わないわ! 門戸を開くところからだとも思うし……じゃあ恭文君、みんなの前にお願い!」
え、みんなの前に……律子さんが両手を叩き、全力で頭を下げてくる。
「私にもガンプラ作り、教えて!」
「……はぁぁぁぁぁぁぁぁ!? いや、なんでですか! 外部から先生呼んで、教えてもらうってのが律子さんの方針ですよね!」
「そうなんだけど、先生がいなくちゃ全てさっぱりってのは避けたいのよ。
新しいスタッフも入ってきてるから、教わる余裕なら……駄目かしら」
「うちに通ってもらう形が多くなるかもしれませんけど」
「覚悟の上よ! なんなら子育ても手伝うわ! 一応ベビーシッターの資格は取ってるから!」
「マジですか!」
そうだった、この人資格取得魔だった! これは頼れる援軍……! 結果僕達はお互いに、『よろしくお願いします』と頭を下げる。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
やすっちとの対戦はもうすぐ。始まる前は頭の痛かった山だが、終わりとなると多少寂しいものがある。
まぁ、勝たせてもらうがな。ユニコーンも考えうる限りのチューンを施し、万全の状態だ。
作業机の上で輝く愛機を見つめ……やっぱいいもんだなぁ、なにかを作るってのも。しかも一緒に戦ってきた分、愛着ってやつも沸く。
しかしやすっち、技術がないとか言いながら、きっちり対策立ててきてるんだよなぁ。ビーム無効化・制御技術とでも言うべきか。
一回戦と二回戦の変わりようを見るに、三回戦も……だが食らい尽くすのみだ。
『――ダーグ様、ガンプラバトルでもバトルマニアとは』
空間モニター内の飛燕が呆れ気味に、ユニコーンと俺を見てくる。だがそのジト目はほんとやめろ、俺は悪くねぇ。
「いいだろ? 楽しいもんなんだよ、お前もやってみればいい」
『では今度』
「おう……そうだ、あとイビツの奴はちょっと止めといてくれないか!? アイツ、またやすっちの応援に来てたんだよ!」
『確かイビツ様がハマっている、機動戦士ガンダムAGEの主役機目当て……でしたね』
「それだ! 二回戦なんて凄かったぞ! 旗を振ってたんだよ! 室内で邪魔なのに!」
気づかない振りで通そうと思ったけど、無理だったわ! 試合中ならともかく、終わってたしなー!
てーか警備員のおっちゃん達まで巻き込んでたぞ! ただのテロじゃねぇか、アレ!
『Jud.そちらは多少抑えるように警告しておきます。邪魔はいけません』
「頼むわ。この調子だと……三回戦はあれだ、どっかから応援団とか連れてきそうでかなわん」
『では定例報告を。ターミナルの方、特に問題はありません。
ランボス、ゲネボス、イーオス、ギアノスヤミー達もよく手伝ってくれるので』
「それはなによりだ。で、PPSE社や粒子の工場所在地は」
『工場所在地の方は目をつけていますが』
おぉそうか! それはなにより……じゃねぇな。表情の変化に乏しい飛燕だが、そんな中でも若干の厳しさが見える。
『やはり警備は厳重。ダーグ様もそちらで活動していますし、下手な潜入は恭文様達の危険に繋がります』
「やってる事、産業スパイと同じだもんなぁ。よし、やっぱ予定通り大会を勝ち抜いて」
『世界大会で目立ち、PPSE社上層部と接触と。……そう言えば恭文様は知らないのですか?
記録によると恭文様は……名前こそ伏せられておりますが、ガンプラ塾のエキシビションマッチに出場したと』
「……それは聞いてないな。どういう事だ」
『ガンプラバトルについて調べていた時、出てきた情報です。二〇一一年二月十三日、ガンプラ塾においてエキシビションマッチが開かれました。
塾はそれを塾内のみならず、公式サイトを通じ生動画配信。しかしガンプラ塾側はこの試合において、数々の不正。
講師であるエレオノーラ・マクガバンも、動画内部で不正を認め……当時は相当荒れたようですね。
ガンプラ塾は『勝つ事が全て』と公言し、元々内外から批判に晒されていましたから』
そこにやすっちが絡んで……と。そんなバトルに絡むなんざ、やっぱ運悪いだろ。どういう経緯でそうなったのか。
でもなんで内緒……するよなー。だって俺、そんな話聞いてないし。てーか反省だわ、チェックが甘かった。
「その結果は」
『不正を行った元塾生コシナ・カイラ、及びエレオノーラ・マクガバンは惨敗。
勝利したのは……Hi-νガンダムの改造機体と、クロスボーン・ガンダムです』
「勝利者側だけ名前が出てないのか」
『どうも音声情報はハッキングにより、リアルタイムで流されたもののようです。
つまり自分達に不利な情報は基本シャットアウト。こんな真似をするとなれば』
「やすっちとアルトアイゼン達くらいかー。……とにかく言いたい事は分かった。
ガンプラ塾とも関わりがあるなら……と。まぁちょっと聞いてみるわ、動画見たとか言ってさ」
『よろしくお願いします。ではダーグ様、次回の試合はみんなと一緒に応援へ行きますので』
「やめろよ! イビツだけじゃないってか! お前も応援団ってなんだよ!」
ほんとやめてくれと、必死にお願いする。ほら、これじゃあまるで最後の試合みたいだしさ……フリじゃないからやめてくれぇぇぇぇぇ!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
学校の帰り道――たまたまあの女性【ミホシさん】と遭遇。明日はいよいよ三回戦という時に、ミホシさんと会えたのはちょっと嬉しかった。
それで近くの公園へ向かい、ベンチに座る。すると、どういう事だろう。ミホシさん……すっごい距離が近い。
「えっとミホシさん、なにか御用で」
「なにかなくちゃ……いけない?」
「い、いえ! そういうわけじゃ!」
急にぐっと近づき、胸とかが当たりそうな距離。ドギマギする中、少し気づいた。
「でもよく帰り道、分かりましたね。学校が聖鳳だって言ってなかったような」
「私もたまたま近くにきて……偶然ってあるのね。ううん」
ミホシさんは目を細め、僕に顔を近づけ。
「運命、かしら」
思いっきりささやいてきた。心臓は一気に高鳴り、距離を……取れない! これ以上取ったらベンチから落ちる!
これ、これが乙女の魔力――大人の力か! 落ち着け、こういう時こそ冷静に! 焦ってしまっては男がすたる!
「そうだ、お茶飲む?」
「ありがとうございます、頂きます」
突然取り出したペットボトルを差し出されたので、お礼を言った上で受け取り一口……うーん、冷たい!
でも気温も徐々に上がってきているし、この冷たさがなんと心地いい事か! これがクールか!
「それで、えっと」
「実はね、セイ君が選手権用に作ったガンプラ……見せてくれないかなーって」
「いいですよ、ちょうどありますし」
学生鞄からケースを取り出し、フルパッケージを取り出し見せる。するとミホシさんの目が輝き、奇麗な顔がほほ笑みで美しさを増す。
やっぱりガンプラ、好きなんだなぁ。そうじゃなかったら、あんな目の輝きは放てないよ。
「わぁ、やっぱり素敵! 触らせてもらっても」
「どうぞ」
ミホシさんが丁寧に受け取ってくれるので、安心してビルドストライクを渡せた。するとそこでミホシさんの目つきが変わる。
オリジナルガンプラになるし、やっぱり注目しちゃうんだなぁ。なんだか嬉しくてついにこにこ。
「へぇ、ストライクベースなのね。肩アーマーとサイドアーマー……頭部も形状変更して、イーゲルシュテルンを増設?」
「そうですそうです! やっぱり詳しいんですね!」
「凄いわ、ライフル・シールドも完全にオリジナル。バックパックも可変式……フリーダム?」
「発想の一つはそこから得ています! それと内緒ですけど、このバックパックにはあるギミックを施しています!」
「えぇ! 知りたい……教えてセイくんー!」
「それは」
そこでお腹に痛みが走る。その上ゴロゴロと……これはニュータイプ的な直感? いや、違う……!
「す、すみません……ちょっと、トイレに」
「うん、ここで待ってるわねー」
「ほんとすみませんー!」
そして僕は公園のトイレへ駆け込む。じょ、女性を前に腹を下すなんて……最低だぁぁぁぁぁぁ!
これが若さ!? でも暴飲暴食なんてしてないのに、どうして!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
イオリくん、あの女の人と歩いていた。どうしても気になって……ストーカーみたいだけど後を追いかける。
そうして公園に女性の姿を見つけた。しかもその両手には、イオリくんが作ったガンプラ。
イオリくんのものらしき学生カバンもあったので、慌ててベンチに座る女性へ近づく。
「あ、あの」
女性に声をかけてから、軽くお辞儀。右手で軽く、ガンプラを指差す。
「それ、イオリくんの作った」
「えぇ、そうよ。セイ君に頼んで見せてもらってたの。ところで、あなた……誰?」
一瞬女性の目が鋭くなった。でもそれはいい……問題は、何げない問いかけに詰まってしまった事。
そうだ、わたしはなに? イオリくんの彼女、でもない。友達……なのかな。でもあんまり話した事はないし。
同級生……違う、なにかが違う。そこで気づく。わたし達の関係はまるで、薄氷のように脆い。
わたしはガンプラも、ガンダムの事も詳しくない。イオリくんはわたしより、この人の方が好きに……決まってるよね。
あんまり社交的でもないわたし、ガンプラもさっぱりなわたし、ガンダムもAGEしか見た事がないわたし。
そんなわたしと話すより、詳しい人と……その人が奇麗で、胸も大きい人なら余計に気に入る。
ここに、わたしの居場所はない。わたしはなにをしているんだろう、本当に。イオリくんの世界を知ったって、意味なかったのに。
「おまたせしましたー。ほんとすみま……あれ、委員長? どうしてここに」
「うふふ、ごめんなさいー。なんだか誤解させるような真似しちゃって。
セイ君にはガンプラを見せてもらっていただけなの。……ありがとう、セイ君」
女性は笑顔で優しく、イオリくんのガンプラを返す。とても自然に、とても近い距離で……イオリくんいはきっと吐息もかかっている。
甘く優しい大人の香り、それにイオリくんは魅了されている。やっぱりここに。
「またお店にも寄らせてもらうわね」
「はい、お待ちしており」
わたしの居場所なんて、ない……! 二人に背を向け、一気に走り出す。
「あれ、委員長?」
どうして涙が出るんだろう、どうしてこんなに惨めなんだろう。わたしは、ただのクラスメイトなのに。
ただイオリくんの――ガンプラの事を知りたいと思っただけ。たったそれだけなんだから、傷つく必要もないのに。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ミホシさん、いい人だなぁ。話も合うし……でも委員長、どうしたんだろう。急に帰っちゃったし。
疑問に思いながらも部屋で、明日の試合に備えてビルドストライクを点検……していたら。
「あれ……あれれ!?」
いきなり左肘、及び右しつ関節が砕けた。変に力は入れてなかったのに……かなり慌ててしまう。
一体どうして……塗装でパーツが脆くなっていた? いやいや、そこも気をつけて組んでいたし、今までだって大丈夫だった。
一体どういう事かと破損部を見てヘコんでいると、漫画を読んでいたはずのレイジがのぞき込んできた。
「セイ、どうした……んお!? お前なに壊してんだ!」
「違うよ! 軽く動かしたらこうなっちゃって!」
「おいおい、しっかりしろよ! 試合前で大丈夫なのか!?」
「あ、そこは大丈夫。関節部は最新の共通フォーマットタイプを使ってるし、入れ替えるだけですぐ直るよ」
「そっか。しっかしお前でもこういう事……ん?」
レイジが脇から手を伸ばし、丁寧にビルドストライクを取る。それから無事な関節部を見て、一気に険しい表情となった。
「おい、この傷なんだ」
「傷?」
改めて確認……すると無事な関節部に、亀裂らしきものがあった。
今すぐに壊れるようなものじゃないけど、もしバトル中激しく動かしたら……でもどうして。
組み合わさったパーツの奥から走っているし、バトル終了後もちゃんとメンテはしている。
こんな傷、あるはずがないんだ。得体のしれないなにかが近づいている――そう感じて、軽く身震いしてしまう。
「覚え、ないんだな」
「うん。おかしいなぁ、見過ごしてたとか?」
レイジは次に、関節パーツの破片を幾つか拾い上げる。それを注意深く見て……なぜか、歯をかみ締めた。
「……おい、これ傷つけられてんぞ」
「いや、それは分かるって。前のバトルで」
「いや、バトルの時じゃない。かなり真新しい傷……それこそ今日ついたような」
「はぁ!?」
慌ててレイジから破片を受け取り、ルーペでチェック。確かに……ヤスリなりナイフで削られたというか、抉られたというか。
それもぱっと見分からないような形でだ。ちゃんと関節部のチェックをしていなかったら、間違いなく見落としていた。
「これ、一体」
「セイ、お前……誰かにガンプラを触らせたりしたか? 自分がミスってって事はないよな」
「いや、ビルドストライクは大事なガンプラだし」
「じゃあ落としたとかは。お前学校にも持っていくしなぁ、ありそうだぞ」
「それもないよ。ちゃんとケースに入れて……入れ、て」
ケースに、入れて……帰りにミホシさんと会って、ガンプラを見せた。そうしたらお腹の具合が悪くなって、ちょっと離席。
具合が悪くなったのは、ミホシさんがくれた飲み物を飲んだ直後。いや、まさかそんな……そんなわけない。
なんて失礼な事を考えるんだ、僕は。ガンプラが……ガンダムが好きな人なんだぞ、こんな事するわけない。
次々と湧き上がる疑念。そのプレッシャーから逃げるため、何度も頭を振る。でも払えない、逃してくれない……疑えと僕の感覚が告げる。
「セイ?」
「そんなわけ、ない。ミホシさんは……ガンプラが好きで、だから」
「あの女かよ!」
「でも違う! ミホシさんはそんな事をする人じゃない! そうだよ、これはやっぱり前のバトルで……真新しいのはほら、勘違いだよ!」
レイジはきっと怒ると思った。でも、僕は認められない。こんなプレッシャー、認めたくない。それを察したのかレイジは大きくため息。
「分かった」
「レイジ、本当に違うんだ! ミホシさんはガンプラが好きで、だからそのガンプラにこんな事は」
「落ち着け」
固い声で静かに一喝され、ようやく落ち着きを取り戻す。駄目だ、僕……冷静じゃなかった。
レイジはおかしいところがあるって、パートナーとして言ってくれてたんだ。
ガンプラがさっぱりでも、気づいた事を自分なりに……なのに、僕は否定した。
これじゃあ、レイジよりミホシさんを信用してるみたいじゃないか……! 僕はパートナー失格だ。
「……ごめん」
「怒ってねぇよ。惚れた女を疑いたくない、信じたい――むしろ男の本能ってやるだろ。やるじゃないか、セイ」
「へ? いや、惚れたってあの」
「隠すな隠すな、全部分かってるからよ」
レイジは有無を言わさぬように、僕の左肩を叩いて励ましてくる。
あれ、なんか勘違いしているような……どうしよう、すっごくおかしい事になってる!
「だが明日の試合まで、誰にもガンプラを触らせるな。他のとこも壊れてないか、徹底的にチェックしろ。いいな、それだけ約束だ」
「分かった。あのレイジ、ミホシさんの事は」
「だから分かってるって。ま、あの女には義理もなにもないが」
レイジは僕に背を向け、そそくさと部屋のドアを開ける。そうして振り返り、なぜかドヤ顔を向けてきた。
「お前が本気で信じたいっていうなら、信じてやるよ。ガンプラ馬鹿のお前が惚れた女だからな」
「レイジー!?」
「また明日なー」
レイジはそのまま出ていき、僕は混乱のまま置いていかれた。ど、どうしてああいう事を言い出したんだろう。
わけが分からないよ。……気持ちを入れ替えよう。なんにせよ、今のビルドストライクはコンディション最悪。
徹底的にチェックしていかなきゃいけない。よし……早速作業開始だ! 時間がないから急がないと!
(Memory28へ続く)
あとがき
恭文「というわけでビルドファイターズ第四話が元――今回はサブタイトルが、劇中セリフからとなっております。
そして幕間第二十六巻、ついに平成二十六年十月二十二日販売開始です。みなさん、よろしくお願いします」
(よろしくお願いします)
恭文「お相手は蒼凪恭文と」
フェイト「フェイト・T・蒼凪です。えっと、ガンダムXのオマージュだっけ。サブタイトルが劇中セリフなのは」
恭文「そうそう。ついに登場したミホシさん――CVは悠木碧さん。某まどマギやホライゾンにも出ているあの人ですね」
(そしてダーグが大ファン)
恭文「そして今回は他のやりたい話もあったので、バトルは冒頭の美希だけという罠」
フェイト「でもヤスフミ、劇中と違ってアレが」
恭文「セイは幸運スキルがEXなんだよ」
フェイト「英霊じゃないよ!?」
(もしもビルダーが英霊として呼ばれたら)
恭文「そしてAGE-1の進化はまだまだ止まらない。FWリペアも登場です」
フェイト「えっと、実際のガンプラはあれだよね、パワードアームズパワーダーのアームとガトリングユニットを」
恭文「更に前回軽く触れた頭部バルカンも……なお経口はコンマさえなければ、【765】となっております」
フェイト「765プロ!?」
(イーゲルシュテルンよりちょっぴし大きいです。ちなみに初代ガンダムのバルカンが六十ミリ。
これは既存の戦車砲で言うなら半分程度のサイズとなっております」
フェイト「え、半分って事は百二十ミリ」
恭文「ザク・マシンガンと同サイズだね。以前は弾道を回転・安定させるライフル砲が主流だったそうだよ。
でも回転で威力が落ちる特殊弾丸も増えてきて、現在の戦車はライフリングのない滑空砲が採用されている。
ちなみにこれより上な、百四十ミリの戦車砲も開発されているそうだよ。まだ本採用レベルじゃないけど」
フェイト「じゃあザク・マシンガンは現実にあるの!?」
恭文「口径だけ同じだからね? マシンガンじゃないからね」
(人力での装填は百二十ミリが限界らしく、自動装填装置導入に踏み切る戦車も増えているそうです。ソースはWiki)
恭文「ちなみにガールズ&パンツァーなどでも主役機だったW号戦車、この主砲が七十五ミリだそうだよ」
フェイト「戦車砲がバルカン……ううん、もう現実になってるんだよね」
恭文「……フェイト、話聞いてた? さすがにバルカンみたいな連射は無理な」
(反動などで精度は論外となるようです。以上、意外と強くて馬鹿にできないバルカンのお話でした。
本日のED:藍井エイル『Brain Wash』)
恭文「次回――ついに始まる三回戦。不気味な存在アキバ系キララ、更に運命への疑いを強いられるセイの選択は」
???『オレ達にも、負けられない理由があるんだよ!』
恭文「……という感じで、ここからは劇中台詞をサブタイにしていこう」
あむ「なにエンジンかかってるの!?」
恭文「まぁまぁ。話は変わるけど……Gのレコンギスタ、バンダイチャンネルで見てるんだけどセリフ回しがいいよねー。作者も頑張ろう」
あむ「バンダイチャンネルだと、今は三話だっけ」
恭文「うん。そしてビームワイヤーだよ、ビームワイヤー……は!」
あむ「またろくでもない事思いついたし! あ、そうそう……美希さんの対戦相手だけど」
恭文「実はたまたま書き終わったところで、フロストライナー様の拍手でそっくりさんが……なのでちょこっと関連性を。
そしてジェノアス絡みのお話は以前いただいた拍手から……拍手、ありがとうございました」
(おしまい)
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