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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory26 『ノワールのきょう持』

前回のあらすじ――ディアーチェとのバトルに勝ちました。次の相手はフローリアン姉妹です。

そしてダーグが『部屋埋めちまった……!』とか言って、頭抱えてました。一体なにがあったんだろうか。

なんか知り合いが訪ねてきて、ターミナルや友人からの激励品を届けてくれたってのは聞いてるんだけど。


それで僕はというと、またまたAGE-1でのバトルに向けて準備中。そんな中。


「旦那様、お願い……手伝って!」


キリエが作業室に乗り込んできた。それで両手を合わせ、いきなりお願い……この状況をどう受け止めればいいか、少し迷っていた。


「ねぇキリエ、僕は週末おのれらとバトルするんだけど」

「あー、ガンプラ本体をどうこうじゃないのよ。デカールを作りたくて」

「デカール?」

「そう。この髪飾りをね」


そう言ってキリエは、左側頭部の髪飾りを軽く撫でる。あー、なるほど。これをデカールに落としこんで、機体に貼り付けたいと。


「でもダーグやシュテル達も、デカールの作り方はちょっと分からないらしくて。ていうか自作できるの?」

「できるよ。まぁそういう事ならしょうがない」


端末のペイントソフトをさっと立ち上げ、作業机の引き出しに入れていたデカール用紙を取り出す。


「作り方自体は簡単なんだ。デカール用の用紙ってのが市販されててね。それにデザインしたものを印刷すればいい」

「え、それだけでいいの!?」

「用紙や環境によって、また手間は違うけどね。じゃあ早速デカールのデザインから」

「ん、お願い」


――デザイン自体も元があるのですぐにでき、デカールはほどなく完成。

キリエは大変な喜びようで……またキスしようと近づいてきたので、アイアンクローで止めました。



魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory26 『ノワールのきょう持』



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


学校、家事と子育て、空海とりまの訓練――更にガンプラ作成。やる事は満載だけど、時間を上手く使ってこなしている。

ただそこにフェイトのガンプラ作成を手伝うというのも……放置できないんだよ! 早速パーツ壊したし!

現在は作業室で、ニッパーの使い方から教えているところ。それで間違えて、パーツ切り刻んじゃうしなぁ。


なおその隣で僕も自分の作業を進めている。じゃないと、どうやっても間に合わない。


「えっと……二度、切り」

「そうそう。基本は二度切りだよ。説明書もよく読んで、パーツ形状も確認する。
決してはめ込むためのダボやパーツ本体を傷つけないよう、慎重に」


ランナーとパーツの接続部――ゲートに、フェイトはニッパーの刃を通す。ただしパーツ本体からはやや離す。

それでまず一度目……パーツが切り離されたら、残っているゲートの端を全て切り落とす。

一度手間を増やすのは、接続状態だと刃とパーツを上手く合わせられないから。こうすると奇麗に切り離しやすい。


それでも白く変色しているところは、ヤスリをかけ奇麗にする。僕は棒ヤスリでやる事が多い。

ただフェイトはそれで力加減を間違えたので、危険性の少ない紙やすりを使わせているけど。


「あとは紙やすりで丁寧にゲート跡を磨く。そうすれば白く変色したところも消えるから」

「う、うん」


あぁよかった。ようやくフェイトが素直に……ここへくるまで、大変だったからなぁ。

あー、でもそろそろ切り上げて、アイリ達のとこ行かないと。いくら王様乳母がいると言っても、任せっきりもなぁ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


アイツ、過労死するんじゃないだろうか。最近、そんな予感ばかりが強まっていく。

あとフェイトさんもあれだ、アイツがつきっきりだと作業進まないし、なんとかしないと。

ていうか早速パーツ壊してるからなぁ。まぁ作業を手伝おうとしなくなった時点で、成長しているというか。なおディアーチェは。


「いあーえー」

「あーえー」

「ふふ、相変わらずお前達は元気だなぁ。そんなに我の乳が気に入ったのか」


……また授乳してるし! アイツ戻ってきたらどうするの!? なんか丸見えじゃないのよ!


「……ディアーチェは恭文さんが好きなのですか?」

『はぁ!?』


いきなりユーリがとんでもない事を言い出し、揃って腰を抜かしかける。なお一番驚いているのはディアーチェ本人……言うまでもないか。


「だって恭文さんにもその、そういう事をしてもいいと言いますし」

「違うわ馬鹿者! 褒美だ褒美! むしろあの小僧が我に入れ込んでおるのだ!」

「……知らないよー、なぎ君がそれを聞いたらまた荒ぶるよ。ティアと同じでツンデレだから」

「シャーリーさん、それ違う! あと私もツンデレじゃありませんから!」


なんか誤解が広まってるしー! ほんとこれ、どうなってるのよ! アイツにはちょっと詰問しないと! 絶対アイツが原因だし!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


恭文やディアーチェ達が頑張っている頃、あたし達はあたし達でIMCSに向けて準備中。ただ……自分の武器というのが見えなくて。

でも改めて考えたら、必要な事だとも納得。ほら、イースターとやり合ってた時、歌唄戦後にバージョンアップの修行したじゃん?

あれだってあたし達がキャラなりして、一番強い武器を強くするためだったしさ。でもなにがあるんだろう。


恭文なら瞬間詠唱・処理と超直感、更にテクニカルな戦術。フェイトさんなら速さで、なのはさんなら砲撃。

そういう分かりやすい武器……あんまり思いつかなくて、テレビを見ながらラン達と唸っていた。


「あむちゃんあむちゃんー、あむちゃんの武器はやっぱり速さだよー。ほら、私とキャラなりしてさー」

「芸術性――テクニックじゃないかな。ボクとのキャラなりで」

「やっぱりお料理ですよぉ」

「いいえ、輝きよ。今日もおでこ出してるし」

「それ魔法関係ないじゃん! ていうか、途中からキャラなりでもなくなったし!
……でも武器かぁ。なんだか『なりたい自分』を探す感じかも」


なりたい自分……そっか、そうだよね。こんなところでじっとしてても、分かるわけがない。

動いて、なんでもやってみて、そうして考えていけばいいんだ。よし、だったら……立ち上がって、隣にいたなのはさんへ頭を下げる。


「なのはさん!」

「い、いきなりどうしたのかな」

「あたしに砲撃や高速機動、教えて!」

「はぁ!?」

「武器を見つけたいの!」


顔を上げて詰め寄ると、なのはさんあたしの目をまじまじと見る。それで納得してくれたのか、拍手を軽く打つ。


「なるほど、なんでもやってみようと」

「うん!」

「うん、大丈夫だよ。じゃあ実験的に頑張ってみようか」

「ありがと! ……それとその」

「あー、ヴィヴィオも詰まってるよね」


なのはさんは苦笑いしながら、庭先を見る。そこにはずっとシャドーを続ける、ヴィヴィオちゃんの姿があった。


「ただヴィヴィオの場合は大丈夫だよ。今は弱点の方が見えちゃってるから……これはノーヴェ先生に言っておかないとなぁ」

「弱点?」

「そう、ヴィヴィオの弱点」


ヴィヴィオちゃんの弱点……今のところはそれらしいもの、出てないけど。なんだかんだでアインハルトにも勝ったし、あたしより強いし。

ラン達と一緒に首を傾げるけど、そういうのがあるのは間違いないみたい。なのはさん、やたら目が真剣だし。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


試合まであと三日――ガンダムAGEに出てくる量産型MS『アデル』のパーツを用い、AGE-1は新しい姿となる。

リインを呼んで、二回戦に備え作戦会議です。リインは完成した機体を見て、首を傾げる。


「恭文さん、これ」

「うん。前回のバトルで破損した右肩と左足を、アデルのパーツで補った……ガンダムAGE-1リペアだよ」


アデルは元々ガンダムAGE-1が元となった量産機で、劇中後半ではアデルの進化系によってAGE-1も改修されている。

皮だけガンダムで中身はアデルという、テセウスの船状態となっていた。だからこそアデルのパーツを使ったわけで。

肩パーツはいわゆるガンダム肩から、横幅の薄い盛り上がった形状。脚部も単色装甲に覆われたシンプルなものとなっている。


もちろん独自システムも搭載している。参考資料のおかげで、完成度は二割から三割ほどに進みました。

今回マーキュリーレヴは使わず、ドッズライフルとシールド、サーベル二基にナタ二本というシンプル仕様です。

ドッズライフルは幅を詰め、銃口を市販パーツに変更し大型化。バレルの役割も果たす大型ソードを銃身下部にセット。


銃本体の長さは三割程度短くなってるんだけど、追加武装のソードで貧弱な印象は持たない。名称は【ドッズソードライフル】。

あとフロントスカートを、最近アニメで出たガンダムAGE-1フルグランサのものにしている。

フルグランサはいわゆるフルアーマー形態なんだけど、スカート部にはスラスターも増設されてさ。これで機動力アップを狙ってる。


その関係でバックパックのメインスラスターも一つ増設し、二連装とした。更に股間部に試作型ドライブを搭載。

00に出てくるGNドライブが元なんだけど、あれとはまた違う機能構造になる予定。あくまでも試作型だよ。

そして胸元――Aマークが出ている部分には、市販パーツのキャノン砲口を設置。


これにはいろいろな意味を持たせる予定だったりする。


「壊れたところ以外はそのまま……あ、違うですね。バックパックとお尻のところにパーツくっついてるです」

「うん。『応急処置的に修復された機体』というコンセプトなの。パーツ供給もままならなくて、ありあわせで修復した感じ」

「おぉ、なるほどなのです。でもマーキュリーレヴは」

「戦闘の中で破壊されてしまい」

「こだわりすぎなのですよ!」

「そういう設定だからいいの。それに今回は射撃勝負にならないだろうしね。取り回しの悪いマーキュリーレヴは」

「キリエさんですか」


すぐ見抜いてくれるリインには感謝。そう、間違いなくキリエが出てくると踏んでいる。

そしてリイン……その怖い笑顔はやめて。それで僕にもたれかかって、抱っこを要求するのやめて。

しょうがないのでリインを抱え、頬ずりなどもして軽くラブラブ。リインはごきげんに喉を鳴らし、僕にもっと甘えてきた。


「それにね、僕の理想とするバトルは……イオリ・タケシさんなんだ」

「あー、言ってたですね。皮や武装はノーマルHGUCなのに、超絶機動で潰してくるって」

「それ。ちょうどガンプラバトルの恐竜化が始まっていた頃だから、余計衝撃的でさ。
僕も……ううん、僕とタツヤもセイと同じだよ。あの人のバトルを理想の一つに捉えてる」


だからこそタツヤはセイ達にもああ言ったわけで。でもわがまままで、個人的なこだわりだしね。

だから細かい所には触れなかったんでしょ。なので僕もなにも言わない事にする。


「これで準備はできたですね。……でも恭文さん、フェイトさんに構い過ぎですよ。準備期間あんまり取れないんじゃ」

「そこは計算してるから大丈夫。それに」


脇に置いてあったボックスから、あるパーツを取り出す。フレームにスラスターを付けた飛行装置。

それには四肢が取り付けられていた。ふとましくも赤い両肩アーマーや脚部が、鮮やかで力強い四肢が。

その隣にはアデルと似た肩パーツに、スラスター付きの両腕。円筒形の太ももと極端に細いスネを持つ足も存在。


「万が一に備えて、準備はしているから」

「これは……!」

「リイン、これからはこの子――AMEMBO(アメンボ)の管理も任せるから」

「分かったのです! やるですよー!」


もう一度リインを受け止め、しっかり後ろから抱きかかえる。さて、日曜日が楽しみだねぇ。

AGE-1リペアを見て、軽く撫でてみる。また辛い戦いになるだろうけど、一緒に頑張ろうね。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


試合も三日後……というわけで、旦那様とディアーチェ達のバトルも見つつ予習中。

もちろん、主にわたしが。お姉ちゃんのノワールは修理完了したけど、やっぱり旦那様相手なら……わたししかいない。

でも目立ったところがない機体で、よくもまぁ。それだけ旦那様の技量が高いって事だけど。


「うーん、やっぱりあのマーキュリーレヴが厄介ですね。あらゆるレンジに対応できる射撃武器なんて」

「当たらなければどうという事はないわ。知っているでしょ? わたしのノワールがどれだけ速いか」


こちらと同じくらいの速度を出せるであろう、レヴィのデスサイズヘルには後れを取っている。

機動性勝負ならこちらが上よ。問題はそういう状況にも備えて……銀色になる機能があるって辺り。


「それより厄介なのは、ビームを無効化する粒子と……それをまとったこの形態よ」


ほら、ちょうど……変質粒子で場が硬直したシーンだわ。まさかAMFみたいな事をしてくるのは、ちょっと予想外だったかも。


「でもキリエのスラッシャーなら、この状態もなんとかなる!」

「お姉ちゃんは無理だけどね」

「それひどくないですか!?」


お姉ちゃんをからかいながらも夜は更ける。それでわたしは、あのデカールを貼ったノワールにお願い。

左肩に輝くそれは、旦那様に作ってもらったから……自然と気持ちが温かくなって、ニコニコしちゃう。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


恭文のバトルも気になるけど、今日は聖王教会の本部へ。イクスのお見舞いも兼ねてるんだ。

目覚める日じゃないんだけど、騎士カリムにご用事があったから。そしてヴィヴィオで宿題を……うーん、うーん。


「駄目だー!」


クリスが隣でビクッとするのも構わず、軽く頭をかきむしる。さすがにベルトの能力ってだけじゃあなぁ。

そもそもヴィヴィオは……悩みながらも聖王教会本部内をゆっくり歩く。むしろ武器よりもこう、弱点が見えてしまって。

ちょうど中庭に差し掛かったところで、ボブヘアーでオレンジ髪なシスターを発見。


宝石みたいにキラキラ輝く草木に、水をやっているあの子は。


「シャンテー」


声をかけると、シャンテはじょうろを一旦離し、こっちに思いっきり手を振ってくる。


「陛下、いらっしゃーい。お久しぶりー」

「久しぶりー。……あ、そうだ。聞いたよー、支部で武者修行してる最中に、IMCSへの出場手続き決めたって」

「うん、出るよー!」

「それでシスター・シャッハに説教を食らいまくって」

「そこは言わないで! お、思い出すだけでも……!」


頭を抱え、ガタガタ震えるこの子はシャンテ・アピニオン。聖王教会の修道騎士団に所属するシスターで、シスター・シャッハの弟子。

年はルー達と同じで、ヴィヴィオ達とも仲良し。ただ最近まで『修行』と称して、聖王教会の支部を渡り歩いてたんだけど。

四月の頭から行ってたから、ほぼひと月とか二月くらい? まぁ、一番仲良しなのは。


「あ……そうだ! ヤスフミ、ガンプラで暴れてるんだよね! 試合見たかな!」


いきなり復活し、目をキラキラさせながらヴィヴィオに詰め寄る。そしてりまさんとかよりも大きい胸を思いっきり寄せ始めた。


「うん。明日には第二試合だよー。一回戦目から最終決戦みたいなノリだったけど」

「三対一だもんねー。でもおもちゃのバトルだなんて馬鹿にできないね、迫力があったもの。
いいなー、こっちでもできたらなー。ヤスフミとはもう、IMCSとかで戦えないけど」

「模擬戦すればいいのにー」

「それはそうなんだけど、大会で真正面からーって言うのがさ。大人用のIMCS、やらないかなぁ。そうしたら」

「今度はシャンテが出られないよー」

「そうだったー!」


……はい、一番仲良しなのは恭文です。なんでもJS事件中、偶然から仲良くなったとか。

そして間違いなくフラグを立てられています。シャンテはそういう事、ヴィヴィオ達の前では言わないけど……それだけはよく分かる。


「でもシャンテもIMCS……ね、それなら予定合わせて一本やろうよ」

「んー、ライバル相手に技見せサービスってのもなぁ」

「その上で勝ったら、シャンテの強さがよりよい形で証明されるよ?」

「ぐ、それは魅力的な……でもそっか」


シャンテは人気がないのを確認してから、ヴィヴィオから数十メートル距離を取る。

そしてシスター・シャッハと同型のトンファー型デバイスを取り出した。違うのは刃の形状のみ。

シスター・シャッハのヴィンデルシャフトは平たい板みたいだったけど、こちらは切っ先もある両刃剣。


刃の根本に十字が刻まれ、神に仕える身である事を示している。まぁ服装もそうなんだけど。


「予定変更。やっぱやろう、陛下」

「えっと、それってもしかしなくても」

「そう今から。それに気づいたんだ、これに関しては見せてもいい……だって、出しても見えないからね」


とりあえず持っていたかばんを花達の近くにおいて、左へスライド移動。花壇から十分に距離を取り、ヴィヴィオも周囲を確認。

よし、人気はゼロ。あくまでも周辺被害を及ばさない、組手の領域なら……変身はせず、魔力を身体に纏わせ構える。

左半身をやや前へ出し、軽く呼吸。シャンテは両手で持っている、ミッド式アームドデバイス【ファンタズマ】を回転。


「じゃあ陛下の右側から攻めちゃおうかなぁ」

「嘘だね」

「躊躇いなく疑ったし! ほんとだって! シスター・シャンテは素直ないい子! 嘘なんて」


そこで一瞬、シャンテの身体が沈み込む。その瞬間足元が弾け、シャンテの姿が消えた。

伏せた上で左後ろ蹴り。その足は踏み込んでいたシャンテを――左のファンタズマを捉え、大きく吹き飛ばす。

シャンテは身を翻し、数メートル距離を取って着地。ヴィヴィオも素早く振り返り、深呼吸。


「今のを、初見で……なんつう」

「分かってないなぁ。もっと速い人達を知ってるんだよ? シャンテだってそうだよね」

「はは、確かに。……ちなみに今更な確認なんだけど、魔力フィールドは」

「姿は変わってないけど、しっかりしてるから大丈夫だよ」

「ならよかった。じゃあ遠慮なく」


シャンテがまた疾駆。


「どーん!」


そうして左右にジグザグ……でもその速度が速くて、まるで分裂したように見える。


「アクセル――」


小さく呟きながら、見えている『残像』は気にせず振り返る。そうして右ストレート。


「スマッシュ!」


拳はいつの間にか背後へ回ったシャンテ――回転しながら唐竹に打ち込まれた、右ファンタズマの刃を捉える。

鈍い衝撃が響き、ヴィヴィオの拳が刃と一緒に弾かれる。至近距離は危ないと判断し、さっと後ろに跳んだ。

シャンテと組み手は初めてじゃないけど、ここまで強かったかな。修業の成果とか?


又は……ある程度遠慮されてたとか。ヴィヴィオ、基本的には文学少女だしねー。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


陛下と組み手するのは初めてじゃない。まぁ実力差もあるし、安全・年齢面も考えてそこまで本気ではやってなかったけど。

ていうか、あたしの『アレ』をそのままやっちゃうと、陛下以外が相手でも師匠(シスター・シャッハ)が鬼に……!

しっかしなにかな、あれは。見えないだろうに撃ってきた? ていうか、素手で思いっきり刃を殴るってまともじゃない。


幾ら強化魔法と不可視型ジャケットがあるとはいえ……ちょい乱打戦に持ち込むか。今度は背後は取らず、真正面目掛けて疾駆。

左右のファンタズマを回転させながら交互に振るうと、陛下は左右の連打。拳で的確に斬撃を止めてくる。

袈裟・逆袈裟・右切上――ほぼ勢い任せの斬撃に対し、逃げる事もせず真正面から。


手応えは決して軽くない。でもわきでぷかぷか浮いてるうさぎ、かなりのものだね。あれは陛下のデバイスだ。

うさぎ――うさ吉は、防衛特化の補助制御型。武器というよりは、陛下に頑丈な防護服を着せるのが役目って感じかな。

全リソースをそっちに集中し、結果……右の刃を唐竹に回転させると、陛下は左ハイキックでファンタズマを蹴り上げる。


その隙に懐へ入り、左右のボディブロー。瞬間的に右サイドを取って回避し、左のファンタズマで刺突。

陛下は伏せて回避した上で両手を地面につき、身を翻しながら手の力でジャンプ。同時に右足も突き出してくる。

これ、ヤスフミが見せた漫画の技……! 身を後ろに下げて回避すると、顎先すれすれを右足が掠める。


危ない危ない、見ていたら……慌てて倒れ込みながら宙返り。続けて跳んだ左足もなんとか避け、地面を転がり陛下から離れる。

数メートルの距離を取り、膝立ちで起き上がりながら警戒。飛び上がった陛下は身を翻し、難なく着地。

……右足は囮に近い。回避したと安どしたところで、追加の左足が伸びるわけだ。あたしじゃなかったら避けきれなかったね。


しっかし陛下……また大胆な。


「陛下、陛下のお年で赤パンツはさすがに」

「え……うぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


陛下はしゃがみ込み、制服のスカートを押さえる。あ、あれは今の流行りなのかな。

まさかヤスフミを誘惑……ないかー。さすがに十歳の子へそんな事しないだろうしなー。


「そ、そういうシャンテだって見えたよ! 黒いレースの振り振り!」

「あたしはいいの! ほら、大人だから! 大きくなってるから! でも……え、マジで見えてた?」

「ちらっと」


いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! そ、それは忘れてほしい! これは……予行演習なんだから!

……そう、予行演習だった。だからこそ大体の情報は掴めてくるわけで……あのうさ吉、陛下にピッタリな優しいデバイスだ。

制作にはお母さんや知り合いの技官も関わっていたはずだから、そんなみんなは知っているって事だよ。


陛下の弱点――陛下が格闘選手として、致命的な脆さを抱えているってさ。なら、あとは陛下がそれを知っているか。

左半身を向け、ギアを一段階上げる。陛下はあたしの空気が変わった事を感じたのか、立ち上がってまた構え出した。


「陛下、もう一段階ギア……上げていくよ」

「やっぱり今まで、本気出してなかったんだ」

「そこは、察して。……試しに打ち込むから、反撃しないで防御してみせて」

「分かった」

「――双剣、乱舞」


魔力をファンタズマに纏わせ、強き刃とする。肉体の力もブーストさせ、光よりも速く駆ける足とする。

なお足は希望的観測――それでもイメージは強く、高く、どこまでも速く。そのまま地面を踏み砕きながら疾駆。

「――!?」


でも加速するコンマ何秒か前で、陛下が険しい表情で飛び下がる。……そして陛下は困り顔で両手を挙げた。


「さすがは陛下、撃つまでもなく見切るとは」

「これでも鉄火場はそれなりにくぐってるからー。今のを受けたら、防御の上から崩されちゃう」

「じゃあ今日はこの辺に」

「でも、反撃していいなら止められるよ」


陛下は不敵に笑って、また構え直す。……陛下もギアを一段階上げてきた。空気が、覇気が、さっきまでとは全然違う。


「本気?」

「当然」

「怪我するよ」

「ここで踏み込めなきゃ、ヴィヴィオはずっと止まったままだよ。受ける事はヴィヴィオにはできない……でも」

「……OK」


確かにそうだ。踏み込んで、そうして勝っていった人をあたし達は知っている。だからまぁ、あたしは四年前から惚れっぱなしなわけで。

だからまぁ、大会で真正面から戦えたらーとか、考えていたわけで。だから陛下の気持ちが分かる。

あのハ王だけじゃない。陛下の周りには、そういう強さを持った人がたくさんいる。理想としているお母さんだってその一人。


だから陛下は知っている。怖くても、なにを失っても、踏み込む覚悟がなきゃ……戦いには勝てないって。

そんな陛下に、こんな真似は無粋だったか。ならあたしも……そこで殺気が左側から走る。

あ、やばい。これは……と思った瞬間、あたしの身体はなぜか翡翠色の光で亀甲縛り。


「ふぎゃー!?」

「シャンテー!? ……やっぱり大きいね。こう、胸の形が張り出されて」

「ちょ、見るなー!」

「「……シャンテ」」


そして殺気がした方から、怖い顔の師匠とオットーが登場……! あははは、やっぱりですかー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


説教、されました。というか今もされています。師匠が……師匠が三発連続でげんこつをー!

陛下も『こんなところで模擬戦なんて』と注意され、その上でオットーとイクスヴェリア陛下の元へ。

そしてあたしはまだ、オットーのレイストームで亀甲縛り……! もうヤスフミのお嫁になれないー!


「あなたは本当に、なにを考えているんですか! こんなところで模擬戦のみならず、本気を出そうとしたでしょ!
あなたの本気は荒っぽいからやめろと、一体何度言ったら分かるんですか!」

「し、師匠を見習った結果で」

「どういう意味ですか、それは! ……で、実際の理由はなんですか」


師匠は矛を収め、ため息混じりにあたしを見下ろす。そこが分かっているなら、この恥辱の縛りを解除してほしい。

ジト目でお願いするけど、まずはこっちから話さない限りどうしようもないっぽい。見抜かれているのが辛くて、つい顔を背けた。


「師匠だって、気づいてるよね。だからあたしに『本気を出すな』って厳命していた。……陛下の身体と魔力資質は、格闘型に向いていない」

「やはりそれが理由ですか。あなた、ヴィヴィオさんに出場を考えなおしてほしかったんですね」

「そこまでは言わないけど、もうちょっと対策をさ……陛下の魔力資質は、高速並列運用型。
複数の術式を同時に運用するのに適している。それを最大活用するなら、ヤスフミの瞬間詠唱・処理能力にだって勝るとも劣らない」

「その通りです。複数の術式での同時処理ならば、恭文さんの能力にも迫れる。実際無限書庫の検索でそれを立証しています」

「……でも攻防の絶対値は決して高くない」


師匠をちら見すると、否定する事なく静かに頷いた。


「先天資質というのは、やはり残酷なものですね。……ヴィヴィオさんは防御も、攻撃も絶対値は決して高くない」

「しかもJS事件で【聖王の鎧】もなくしちゃってる。タイプとしては学者型なんだよ。戦闘魔導師になるとしても中後衛型」

「ですがそのような事、ヴィヴィオさん本人やなのはさん達も理解しています。あなたがおせっかいを焼く必要は」

「そのうさ吉――クリスって補助デバイスが、ちゃんと機能していないとしたらどうかな」


今度は師匠が驚く番。師匠はあの状態の陛下と戦ってないから、余計驚きみたい。

……まぁあたしもこっちは、戦って気づいたくらいだしなぁ。そりゃ分からないよ。


「シャンテ、それは」

「ほんとだよ。クリスもよくやってるみたいだけど、ヴィヴィオの資質に対応しきれていない。
もちろん生まれたばっかとか、仲良くなっていくところだからーってのはあるんだろうけど。
……資質の差だけじゃなく、武器への練度もアレなんて……下手したら大けがするよ」

「ですね。実際あなたの本気で怪我をしかけたわけですし」

「がはぁ!」

「というわけでこれからまたみっちり……再訓練です。いいですね」

「こ、この辱めの縛りを解除してもらえるのなら……!」


そしてあたしは地獄へ突入する。セインに亀甲縛り状態を撮影されるわで散々……そして決めた、もう勝手に模擬戦はやらないでおこうと。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そしてその日はやってきた。レイジの特訓にも付き合い、日々は瞬きする間にすぎる。

先週と同じ会場へ入り、幾つものバトルに胸躍らせ、ついに僕達の番がくる。キリエとアミタ――この二人と対じ。


≪――Plaese set your GP-Base≫


ベースから音声が流れたので、手前のスロットにGPベースを設置。ベースにPPSEのロゴが入り、更に僕の名前が表示される。


≪Beginning【Plavesky particle】dispersal. Field――Dessert≫


ベースと僕達の足元から粒子が立ち上り、フィールドとコクピットを形成。今回は荒れ果てた大地と岩山……地形を活用するのが吉と見た。


≪Please set your GUNPLA≫


指示通りガンプラを置くと、プラフスキー粒子がガンプラに浸透――スキャンされているが如く、下から上へと光が走る。

カメラアイが光り、首が僅かに上がった。粒子が僕の前に収束。メインコンソールと操縦用のスフィアとなる。

モニターやコンソール、計器類は淡く青色に輝き、アームレイカー型操縦スフィアは月のような黄色。


コンソールにはガンプラ内部の粒子量も逐一表示され、両側に配置された円系ゲージが忙しなく動く。

両手でスフィアを掴むと、ベース周囲で粒子が物質化。機械的なカタパルトへと変化。

同時に前・左右のメインモニターにカタパルト内の様子が映し出される。


≪BATTLE START≫

「蒼凪恭文」

「蒼凪リイン」

「ガンダムAGE-1リペア――目標を駆逐する!」


AGE-1リペアはカタパルトを滑り、乾いた空の下へ飛び出す。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


立ち昇る粒子、作られていく世界――ほんと、奇麗ねー。でも未だに夢みたいよ、旦那様。

この世界へきた時はエグザミアが目的で、それがなんとかなったらおもちゃのバトルへ参戦だもの。

でもなんだかんだで楽しかったなぁ。こういう戦いは、元の世界にはなかったから。滅びる寸前だもの、アルトリアは。


……それじゃあいきますか。深呼吸して、構築されたアームレイカーを。


「キリエ・フローリアン」

「アミティエ・フローリアン」

「ノワール・スラッシャー、舞い踊るわよ!」


押し込むと、ストライカー部が展開・稼働。カタパルトで加速しながら広げた翼が、風を掴んで空に導いてくれる。

一体どうくるかと思ったら、旦那様は真正面から加速。えっと……壊れた箇所は別パーツで補修?

大型シールドに、改造したっぽいドッズライフル……でもあの武器は持っていなかった。


「あのてんこ盛り武器はなし? これは」

「さすがは旦那様。わたしの気持ちなんてお見通しって事かぁ」

「キリエ?」

「突っ込むわよ!」

「いきなりですか!」


最大加速――迎撃に放たれる光を右に避けると、渦巻くビームがごう音と一緒に脇を掠める。

二発目は左、三発目は右上に上昇して回避。そこから一気に頭上を取って、ストライカー上部にセットした武器を取り出す。

二つ折りの刀身を伸ばし、刃部分にピンクのビームが走る。これはデスティニーガンダムというのが装備している【アロンダイト】。


えっと、艦船を斬る武器だっけ。わたしの得意戦法には合っているから、持ってきちゃいました。

ついでに峰部分はスラスターを幾つか増設し……それもブースト。加速力を付けた上で。


「もらった!」


唐竹一閃。ビーム刃を振り抜き、腕の一つは……と思っていたら、AGE-1はライフルをかざす。

それで防げるわけがと思っていたら、ライフル下部の『刃』でビーム刃が断ち切られる。

アロンダイト本体とライフルの刃が衝突し、鈍い音が走った。これは……!


「なんですって!」

「あのナタと同じ!」

『速いだけじゃあねぇ!』


反射的に離れた瞬間、AGE-1の左手が突き出される。その手には腰から抜き出したサーベル基部。

慌てて身を反らし、展開したビーム刃をすり抜け後退。迫るAGE-1に対し、下がりつつも頭部バルカン連射。

シールドで防ぎながら突撃するAGE-1は、先週見た時よりも動きも速い。あれからまた性能が上がった?


ならばこちらもけん制。左手でストライカー左翼に設置した、ビームブーメランを取り出し投てき。

シールドにぶつけた上で大きく上昇。数百メートル距離を取り、太陽を背にして急降下。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


逆光からの攻撃……ゆえに対処もしやすい。サーベルを逆手に持ち替え、右薙一閃。ノワールと交差し、今度はこちらが上を取る。

すかさず振り返り、ドッズライフル連射。左へ逃げるノワールは重力すらも超越し、泳ぐようにスラローム。

こちらの射撃をすれすれで回避し、突き抜けた弾丸が地面や周辺の山々に穴を開ける。


崩落音が響く中、またノワールがすくい上げるように突撃。更に右翼のビームブーメランも投げてくる。

本来ストライカーの翼上部にセットされているのは、レールガンなんだよ。それを細身のブーメランに変えてる。

完全な近接仕様さね。やっぱこのセッティングで正解だった。……唸りながら回転するブーメランに、ドッズライフルで一撃。


回転するビーム粒子は改造前より力強く、そして鋭く突き抜ける。それはビーム刃を打ち払い、ブーメラン本体を爆散。

そのままノワールへ迫るものの、ノワールは上昇し視界から消える。


「く、早すぎ」


リインが呻いている間に、ノワールが眼前に現れる。


「です!?」


シールドを左薙に打ち込み、斬撃を横に払いのける。ブーストされてタイミングこそ難しいけど、それでもおおぶりな武器。

できる攻撃というのは限られていたりする。そうして隙だらけな右脇腹へライフルを突き立てた。

ボディをライフルのソードが捉えた瞬間、またノワールの姿がかき消える。……姿が視認できる前に反転・急降下。


そのまま背後を取り追いかけてきたノワールへ、ソードライフルでの右薙一閃。再びアロンダイトとソードが衝突し、火花を走らせる。

更に至近距離で向こうは、頭部バルカン連射。こちらのメインカメラや頭部を叩き、その衝撃で映像が乱れる。

くぅ……AGE-1にはバルカンないからなー! よし、決めた! バルカン搭載するわ!


『随分ビームが嫌いみたいね、旦那様!』

「馬鹿だねぇ! 相手の選択肢を奪うのは、常とう手段でしょうが!」

『セコいわよ!』

「誰が五円玉の穴もくぐれるくらいに小さいだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

『そして耳もおかしいわよ!』


本来はもっと秘蔵しておきたかったんだけど、致し方ない。ブーストで押し込みながら、ソードの隠し機能発動。

ソードが赤熱化し、アロンダイト本体に食い込み始める。はい、ヒートソードとしての機能も持たせてあります。

でもそれに気づかれた瞬間、ノワールの右足に蹴飛ばされ吹き飛ぶ。激しく機体が揺れる中、警告音が響く。


「恭文さん、後ろ」

「分かってる!」


急停止しつつ、反時計回りに身を捻り……先ほど弾いた、一発目のブーメランをチェック。

弾かれた後も誘導されて、こっちを狙っていた。距離は既に十メートルを切っている段階。

それでも狙いを定め、ドッズライフル発射。回転ビーム粒子は通常とは違う、また別の特性を生み出し直進。


すぐそこまで迫っていたブーメランを撃ち抜き、派手に爆散させる。更に前方からキリエが再突撃。

なので右足のクレイモアミサイルを五発発射。至近距離で発射されたそれらでキリエは急停止し、右へ退避。

でもその前に弾頭がさく裂させ……こちらの操作で、二発だけタイミングを遅らせる。


「あれ……えぇい、さく裂なのです!」


リインが怪訝に思いながら、残り三発を即さく裂。その上で退避コースも含め、お手製ベアリング弾をまき散らす。

結果ノワールの左下腕や足、ストライカーの翼に散弾が直撃。損傷箇所は半壊状態となって軽く爆発を起こす。


『きゃあ!』

『このぉ!』


でもノワールは左手の平から、内蔵していたワイヤーを射出。こちらの左腕を絡み取り、強引に振り回してくる。

ち、下腕はかすめただけか。装甲はともかく、内部フレームとなっている関節パーツは無事だ。

そのままノワールを支点に周囲を数度回転し。


「ぐるぐるなのですー! 恭文さんがタイミング遅らせるから!」

「後でアイスおごるから許して!」

「究極のアイスじゃなきゃ許さないのですー!」


そのまま下の岩山へと放り投げられた。そして衝撃が走り、各部モニターが激しく揺れる。

ついでに衝突によるダメージも……ただではやらせてくれないってか。

それより気になっているのは、モニターに映る山の状態。AGE-1が衝突した事で、数十メートルの山は崩落寸前だった。


「装甲、破損軽微……でも背部ブロードアンテナが破損! 頭部センサーの性能も低下! 索敵範囲、縮小するです!」


背部ブロードアンテナとは、AGE-1バックパック上のアレだよ。アンテナは飾りなどではなく、頭部センサーと連動。

戦闘中でも情報収集と分析、ある程度のデータ送信も行える。これを利用して指揮官的な運用もできるんだ。

前回だとこっちもまだまだって感じだったけど、今回はこっちも作り込んだのに……結果レーダーにノイズが入る。


まぁ運がいいとしたら、相手が近接戦闘寄りのキリエだって事だ。遠距離砲撃とかされる心配はないし、そこはよかった。

まず残りのクレイモアミサイルを全て発射し、散弾による弾幕展開。数十メートル先でさく裂したそれを、ノワールは下降して回避。

すかさずミサイルユニットはパージし、ドッズライフルを左右に発射。それぞれの弾丸は十数メートル進み、岩肌へ着弾・爆発。


おまけに背部メインスラスターを全力噴射。ただし飛ぶ事はせず、あくまでも噴射するだけ。

生み出される膨大な熱量が岩山を揺らし、既に入っているヒビから走って爆発。

そして小さな山は一気に崩壊し、AGE-1は発生する土煙の中にその身を隠す。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


突撃していたノワールは、突如発生した土煙に飲み込まれ……く、視界が。でもレーダーは生きてるから、あんまり意味ないのよねー。


「目くらましでしょうか」

「かもね。さて」


早速前方から反応。一気に突撃してくれるなら有り難い……と思ったら、土煙を切って現れたのは、シールドの切っ先だった。

不意を突かれたものの、回避は余裕。右に逃げると、また警告音が響く。今度はやや上の角度から渦巻くビーム。


「だから見え見えよ!」


でも問題ない。シールドのみならず、ビームの射線上からは退避完了している。左脇を掠めるそれらは気にせず、前に加速。

旦那様、さすがにそれはないわ。シールドを投げつけ当てて、命中したところを……なんて。

なので妻候補としてちょっとお仕置き……しようとした瞬間、またも警告音が響く。今度は背後?


「キリエ!」


振り返りモニターでチェックした瞬間、どういうわけかビームがこちらに迫っていた。

レーダーに映る旦那様とは逆の方向から、あの渦巻くビームが。だからとても幸運だった。

意識が一瞬止まったのに、それでも手は回避のため動いていたから。ノワールは咄嗟に右へ動き、身体を捻る。


そして渦巻くビームはストライカーの両翼と本体部を穿ち、消滅させながら土煙の中を突き抜ける。

そこで止まっていた意識が回復し、慌ててストライカーをパージ。


「――嘘、でしょ」


しようとした瞬間、やっぱり弾丸の発射方角とは逆側からAGE-1強襲。こちらの胴体を左足で蹴飛ばしてくる。

結果パージはうまくいかず、背部で爆発。その衝撃に煽られ、跳ね返るように別方向へ吹き飛ぶ。

ノワールは地面を数十メートル滑るものの、跳ね上がるようにジャンプ。各部スラスターを吹かせ、なんとか着地する。


でもやばい……手の、震えが止まらない。


「キリエ、まずいです! 背部メインスラスター損傷甚大! 機動力が著しく落ちています!」


知ってるわよ。ダメージ表示用のウィンドウ、展開しまくりだもの。破損原因なら分かってる。

さっきの蹴りでパージがうまくいかなかったから、至近距離で爆発を食らったのよ。


「なんなの、今の……!」

「超高速移動、でしょうか。又はファンネルという武器」

「違うわ! AGE-1の反応は確かに」


レーダーを見て、接近する光点をチェック。考えるのは後……追撃してきたAGE-1へ肉薄。

振るわれる左のサーベルと、こちらのアロンダイトをたたき合わせた瞬間、走る火花と衝撃で周囲の土煙が一気にかき消える。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


観客席は騒然となっていた。まぁヤスフミのコンボに注目していた人限定、ですが。しかし軽く寒気が走る。

土煙を発生させたのは、別に姿を隠すためではない。あの攻撃を成立させるためのものです。実に惜しかったですが。


「い、今のなにー! キリエさん、恭文がいない方から撃たれたよー!」

「……唯世、海里、見えたわね」

「ギリギリだけど」

「俺とムサシもなんとか。一之宮君は」

「同じくだ」

「え、先輩達どうしたんですかー! 恭文先輩、今なにをー!」

「そうだよ! だってヤスフミはあそこにいて、それで……えぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


フェイト・T・蒼凪――奥様はなんというか……のんきですねぇ。戦闘者ではないタダセ達も気づいているというのに。

まぁ過去でゴタゴタしたあなたより、そちらの方がまだほほ笑ましいですが。


「ねぇシュテるん、ヤスフミはあのぐるぐるビーム、シールドに当てたよね」

『シールド!?』

「えぇ。最初に投てきしたシールドです。……最初にシールドを投てきしたのは、当てるためではありません。ビームの反射板とするためです」

「小僧のビームは曲がったわけでも、もちろん高速移動で回り込んだわけでもない。ただシールドに当たり、跳ね返っただけだ」

「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」」


奥様とリッカ、ヤヤが驚きながらタダセ達の顔を見る。全員に頷かれたので、三人は大きくため息。


「あれ、でもあの戦術って確か……そうです! ディアーチェ達と勉強で見た、ガンダムSEED DESTINYというお話で!」

「よく覚えていましたね、ユーリ。そう、そのお話で主人公だったはずのシン・アスカは」

「おい、はずとかつけるな! シンは立派な主人公なんだよ! ただセンター取られただけなんだよ!」

「……ねぇ空海、私が思うにセンター取られるって主人公の流れじゃ」

「ティアナさんまでなんっすか! マジですよ、マジでアイツは主人公なんです!」


空海がなにを言っているのかよく分かりません。というか、分かってしまうと面倒なので止めておきましょう。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


第三ブロックも本日は二回戦――ただ僕やイオリ君達の試合は無事に終わり、先週と同じように携帯で第二ブロックを観戦中。

やっぱり気になるからねぇ、恭文さんの試合は。そうしたら今回はマーキュリーレヴがなしで、通常装備ときた。

一体なにがくるかと思っていたら、シン・アスカ戦法だよ。やはり積み重ねているんだな、脳内バトルを。


自分の作ったガンプラをイメージで操縦し、数ある名パイロット達と戦うんだ。そうして彼らの戦術、彼らの経験を自分のものとする。

もちろん今まで戦ったガンプラでも応用可能だ。それはガンプラを愛する者ならば、誰しも通る道だ。

その積み重ねがあったからこそ、あの一撃も決まったのだろう。ちなみに僕もできる……そう、できるんだ。


できていいんだ。これは決して妄想などではない、あのイオリ・タケシ氏だってやってるんだから問題ない。

というか僕達、イギリスでそう断言されたんだから。おかしくない……これはおかしい事じゃないんだ。


「ユ、ユウキ先輩……シールドって、攻撃を防ぐためのものじゃ。あんな事」

「できるよ。さっき言ったアニメの主人公は、それで格上機体に損傷を与えている。もちろん高難易度だけどね」


視界がないのは恭文さんも同じ。命中させられるかってところも問題だけど、当たってうまく弾けるかというのが……なぁ。

下手をすれば自分に反射し、自滅していた可能性だってあるんだ。もちろんリスク相応の威力はあるんだけどさ。


「ちなみにAGE-1が山を崩したのも、このコンボを成立させる……いいや。隠すための布石だ。
彼女達は攻撃を避けた事で、ビームとシールドを意識の外に置いてしまった。
更に反射板となったシールドはそのまま土煙内に消えたから、命中した瞬間を見なかったらさすがに分からないよ」

「じゃあ土煙は、その瞬間を覆い隠すため」

「でも一番隠したかったのは、AGE-1の自機そのものだよ」

「自分のガンプラを? あの、一つ気になったんですけど……レーダーとかで位置は分かるんじゃ」

「だからこの攻撃、当たらなくてもよかったんだよ。……彼女達に心理戦を仕掛けるのが目的だからね」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「あの状況で二人が意識していたのは、レーダーに映る恭文――AGE-1の反応と、土煙ばっかなモニター映像のみっす。
背後で反射するビームなんざ、予想外すぎる。俺達は第三者視点だったから気づけただけで」

「というか、ぎりぎりでも気づけた彼女達は十分凄いぞ。僕も一瞬、目を疑った」

「ひかるがそう言うって事は……あたしとかが気づかなくても、無理ない感じかなー」

「距離がある分、その結論は間違っていないな」


もちろん驚異的ではあるんだけど。そう、作品知識というのはガンプラ作りだけではない。

こういう、戦術にも生かされるわけで。……やっぱり私は付け焼き刃。こういう戦い方はまだまだ未熟なので、少し膨れてしまう。


「でも恭文的にはこの一発限りの攻撃、命中しなくても良かったんだろうな」

「空海君、それってどうして……だってほら、ヤスフミの攻撃が当たらなかったら倒せないのに」

「ハッタリを利かせらればよかったんっす。AGE-1が視認できない状態でこんな攻撃されたら、キリエさん達は当然疑うっす。
ファンネルみたいな超兵器があるかもしれない。姿を見せる事なく、『自分達を超える超機動』ができるかもしれない」

「あ……!」

「実際ストライカーがその餌食になってるんだ。精神的動揺はかなりのもんだと思うっすよ」


……奥様、あなたは本当にオーバーSクラスの魔導師ですか。まぁいいんですけど。

まぁいいんですけど……大事な事は二回言うそうなので、頑張ってみました。


「更に言えば最悪の可能性として、キリエ達はジャミングなどの妨害工作。又は機体の機能不全を考えるはずです。
それは結果的に自身と、心血を注いで作り上げたノワールへの疑いになります。だから、ほら」

「キリエ達、動きが鈍ってるでちね」

「あ、ほんとだー!」


得物のリーチもありますから、クロスレンジだとやはりヤスフミが強いです。そんなAGE-1の乱撃を、ノワールはなんとか捌いていく。

ただストライカーが奪われたので、空中戦に持ち込むのも辛い。動揺もありますし、今は打開策を模索しているところですか。


「じゃあヤスフミ、そういう精神攻撃も狙って? ……それってアリなのかな! ゲームだよね、これ!」

「ゲームで心理戦、仕掛けちゃ駄目なんて話はありませんよ。でも相変わらずエグい男ね、ほんと」

「ティア、今更だよ。これがなぎ君の持ち味なんだから」


シャーリー、そう言いながら疲れ果てた顔をしないでください。……しかもキリエに仕掛けたというのが、また悪質。

これがアミタであれば単細……もとい、持ち前の前向きさで飛び込んでいくでしょう。

あの子の明るさと熱血具合は、こういう手を吹き飛ばすパワーに溢れています。それはレヴィにも通ずる所でしょう。


しかしキリエは違う。彼女はそんなアミタとは正反対で、戦闘のタイプ的にはヤスフミとよく似ている。

仮にトリックを見破ったとしても、『そう思わせて』という万が一を引きずり続ける。

ここはヤスフミがAGE-1の外見を、多少変えている事も意味を持ちます。その中に装備が……という話です。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


サーベルを連続で振るい、ひたすらに押し込む。ストライカーの武装は奪った、機動力も半減している。

それでもノワールはアロンダイトでこちらの斬撃を受け止め、捌いていく。

全身に設置されているサブスラスターが絶え間なく火を噴き、その防戦に硬さを与えていた。


至近距離でビームを放ってもすれすれで避けられ、命中してもボディを掠めるのみ。

窮そ猫を噛む――追い詰められると人は生存本能を働かせる。それはガンプラバトルでも変わらない。


「恭文さん、駄目です! やっぱり変質粒子濃度、上がりません!」

「屋外のステージだと霧散しちゃうか」

「ですです! でも」


サブウィンドウが展開。機体表面を変質粒子が多い、AGE-1は銀色のボディとなる。


「アイゼンウェアは装着完了なのです!」

「十分!」


サーベルを逆袈裟に振るうと、ノワールは全力で下がる。追撃のため加速すると、その左手の平からワイヤー射出。

それを払おうと、ビームサーベルで左薙一閃――でもサーベルとワイヤーが接触する瞬間、展開したワイヤー全てがピンク色の粒子に包まれた。

そして斬撃を受けながらもワイヤーは断ち切れず、そのままあらぬ方向へ弾かれる。


ビームを纏わせ強度強化? という事は……まずい! 慌ててジャンプすると。


『……なーんちゃって!』


ビームウィップと化したワイヤーは、一瞬で空間を薙ぐ。そうして周囲にある岩山や地面を真っすぐ斬り裂き、更にうねってこちらの右足に絡みつく。


「なに!」

『いつまでもやられっぱなしなわけ』


ワイヤーが引き寄せられると同時に、AGE-1がノワールへ急接近。そしてビームによって締めあげられ、右足が中程から両断。


『ないでしょうが!』


そうして体勢が崩れたところを狙い、ノワールは加速。アロンダイトの切っ先を向け、全力で。

……左手首を反時計回りに回転させ、こちらも殴りつけるように突撃。そしてAGE-1はノワールと交差。

ローターと化したサーベルは、アロンダイトを峰側から連続両断。バラバラにされていく刃を離し、ノワールが左に大きく退避。


そしてまたワイヤーを展開し、そこにビームを纏わせ振るう。ビームローターをかざし、後退しながら右に大きく回避。

流れるワイヤーをなんとか弾きながら、目標ポイントまで移動していく。さて……あとは。


『花のように咲き誇れ、この愛! 受け取りなさい、旦那様!』


ノワールはワイヤーを振り上げ、周囲の粒子をその先端部二つへ更に収束。光が先端部を飲み込み、更に大きさを増す。

それはこちらが移動している間に、五十メートルほどの球体になる。プラフスキー粒子で構築した、ビームハンマー……!?

突如生まれた粒子から放たれる圧力が、世界をエンブレムの花と同じ色に染め上げる。更に大地を揺らし、周囲の岩肌をも溶かしていく。


いや、これは……フィールドの構築粒子も分解して取り込んでる!?


『ノワールS.R.I――!』

「まずいですよ! これ……時間を置けばどんどん大きさが増すのです!」

「ほんとに初心者かい、おのれら……!」

『まずは一撃』


これじゃあナタで斬り裂くのも無理。ワイヤーを狙うしかないけど、それでどこまで通用するか。ならば……やっぱ布石は撃つものだね。


『食らいなさい、わたしの愛を!』


それは神の如き鉄つい。人の愛は時として、そんな超常をも超える強さとなるらしい。

更に大きさを増す球体は、その巨体とは正反対な速度で加速。反射的に後ろへ飛んで、その圧力をギリギリでかわす。

その時防御のためかざした左腕がどういうわけか燃え上がり、派手に粉砕。着弾の衝撃で空高く吹き飛んでしまう。


「なんなのですか、これは……!」

『予想通り、あの無茶苦茶なビーム無効化はできないみたいね! 密閉フィールド限定の能力かしら!』

「粒子の高圧縮により、熱量が発生してる!? まずい、アレは……小型の太陽と同じだ!」

「無茶苦茶なのです! こっちのウェアを抜いてくるなんて!」

『それなら遠慮なくいくわよ、愛の第二撃!』


高密度に圧縮された粒子――それ自体が巨大な質量を持っており、更に圧縮によって熱量に等しいエネルギーも持っている。

ギリギリでかわすなんていうのも無理だ。言うならあれはプラフスキー粒子でできた太陽。

それが愛でできているというのなら、その根っこを撃ち抜くしかない。なので太陽が振り上げられる前に、狙いを定める。


更に大きさを増すそれと、広がっていく熱量。生まれる嵐が機体を揺らし、その動きをも封じ始める。

AGE-1は真下を向いた状態で、ただ風に煽られ続ける。……むしろ好都合だ。呼吸を止め、揺れ続けるターゲットサイトを見つめる。

捉えるのは欠片ほどに存在している、勝利の可能性。目に見えているそれは、ほんの少しでも狂えば豚となる。


その緊張感がたまらなくて、ドキドキして……既に狙いは定まった。ライフルの出力は最大。

回転力もそれに伴い上昇して、キャノンタイプの砲口から蒼い火花が走る。そこでトリガーを一気に引き絞った。

ライフルから渦巻く弾丸が放たれ、AGE-1の二時方向――あらぬ方向の地面目指して直進。


回転力による補正で、この嵐の中でも弾道は揺らぐ事なく真っすぐ進む。


『最後の一撃も外れた……これで、私達の』

「終わりだ」


そしてビームはかぶさった土や岩を消し去り、その下に隠れていたシールドを捉える。そう、僕があの時投てきしたシールドを。


『な……! キリエ、避けて!』


落ちた位置はちゃんと掴んでいたし、角度も確認している。それは予想通り直角に近い形で跳ね返り、射線上にあるものを撃ち貫く。

渦巻く風、舞い上がる土、そして……空中で静止し、腕を振るいかけたノワールを。

左わき腹を後ろから貫き、胴体部を粉砕。渦巻く粒子は原子崩壊に近い威力を発揮し、容易に装甲を砕いた。


『……なによこれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』

「地形と状況は利用するもんだよ、キリエ」


そしてノワールは爆発。その瞬間荒れ狂う太陽もゆっくりと霧散し、更地となったフィールドに静けさが戻った。

桜色の粒子が世界を染め上げる中、地面になんとか着地。それからほっと息を吐く。


≪BATTLE END≫


そして作られた世界は解除され、コクピットベースも消えていく。そんな中、リインとハイタッチ。


「もうキリエー! 私、避けてって言ったじゃないですかー!」

「できるわけないでしょ!? 制御中だったもの! というかなによあれ! 旦那様ー! 妻としてちょっとお話があるんだけどー!」

「誰が妻じゃボケ! 認めてないからね、僕は!」


馬鹿なキリエは気にせず、AGE-1と破損パーツを全て回収。


「……AGE-1、作りやすくてよかったよ。修理頑張らないと」

「今度はそっちもリペアパーツなのですね」

「だねー。でも見えてきたよ」


笑ってAGE-1を撫で、ありがとうとごめんを送る。大丈夫、すぐに生まれ変わるから。


「僕なりの、AGE-1の姿。ちょっとずつだけど……バトルを繰り返す毎に、見えてきてる」

「お兄様」


黙って見ていてくれたシオン達が、ケースに入ってAGE-1を撫でてくれる。その様子がまたほほ笑ましくて、リインと一緒にまた笑った。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


むぅ……認めてないってなにー! 旦那様、ひどーい! わたしだって……そういう事言われたら、傷つくんだから。

はぁ、やっぱり見込みないのかなぁ。まぁ結婚してるし、ハーレムしてると言っても相手は考えてるみたいだしなぁ。

叶わぬ恋は振り払うべきかと思いながら、壊れたスラッシャーをしっかり回収。それでごめんと……ありがとうを伝える。


「どうやらあの攻撃も、シールドで反射したみたいですね」

「すっかり騙されたわ。というか、あの粒子ビームを反射って」

「無茶苦茶ですよねぇ」


軽く膨れながら、損傷箇所を確認。ボロボロだなぁ、胴体部は作り直しだし、ストライカーも……でも左肩のエンブレムは奇麗。

ほんと、あの激戦で傷つかなかったのが嘘みたい。……そう、嘘みたいに奇麗だった。

それは幸運なんだろうか。どうしてかそう思えない、一体どうしてだろうと考え一つ気づく。


左肩が傷つきそうな場面……クレイモアミサイルが発射された時、二発だけクレイモア射出のタイミングが遅かった。

本当に僅かな差だけど、そのおかげで腕も無事。S.R.Iも発動できた。あれは、偶然なのかな。

もしあれが、他のと同じタイミングで散弾をまき散らしていたらどうなっていただろう。


きっと肩にも命中して……なーんだ、そういう事だったんだ。


「……もう」


きっと旦那様は聞いても否定する。でもね、わたしは分かるの。だって……初めて、恋だって言えるくらい思い入れた人だから。

ほんと、完敗よ完敗。やっぱりわたし、旦那様に首ったけみたい。なので回収したパーツをケースに入れて、旦那様へ近づく。


「旦那様〜♪」


そのまま思いっきり飛び込んでハグ。回避など許さず、その温もりを独り占めにしちゃう。


「こらー! リインを差し置いてなにしてるですかー! 離れるですー!」

「ほんとだよ! 人目もあるからやめてー!」

「だーめ。……やっぱりわたし、諦められそうもないみたい」

「なんの話!?」

「なんの話かはあとで説明してあげる。それじゃあ旦那様」


愛しい人の温もりと香りを目いっぱいに吸い込んでから、耳元で。


――わたしに勝ったんだから、負けちゃ嫌よ――


と呟く。旦那様はわたしの言葉に頷いて、ハグを返してくれた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そのままいると邪魔になるので、出入り口の脇へ移動。そこにはダーグもいた、もう試合は終わったらしい。


「おうやすっち。アミタ、キリエもいいバトルだったぞ」

「ありがとうございます! でも……盾で反射は驚きすぎますー!」

「アニメで主役……そう、主役キャラがやっていた戦術だ。後でDVD貸してやるから見てみろ」

「そうするわ。でもそっか、作品知識ってこういうところからも生かせるのね」


その通りと胸を張りつつも、気になる事が一つ。ダーグは僕達じゃなくて、二時方向にあるバトルへ集中している。

こっちは一切見ないのよ。一体なんだろうと思って目をやると、そのフィールドから粒子が消失していく。更に気になる案内が流れた。


『二回戦、第八試合――勝者、赤羽根美希』

「……ダーグ」

「すげぇぞ……下手したらやすっち、お前より強いかもしれん」

「だろうね。先週も凄かったから」

「だったら来週のお楽しみだな。直に見るとまた恐ろしいぞ」


ダーグが見ていたのは、今勝った子のバトルだよ。金髪ロングなその子は、軽く伸びをしてから相手にお辞儀。

ガンプラをさっと回収し、こちらへやってくる。そのガンプラは……エールストライクガンダムだった。

しかも外観はほぼHGUCそのままで、色はボディがライトグリーンなだけ。あとは軽いディテールアップ程度の事しかしていない。


つまり基本武装と操縦技能だけで、ダーグにここまで言わせる戦いをやってるのよ。

とにかくこちらへ来る時僕の存在に気づいたので、ぱぁっと笑って右手を振ってきた。


「プロデューサー、久しぶりなのー。……シオン達も久しぶりー! 相変わらず可愛らしくて安心したのー!」

『いぇい!』

「おのれら、僕の時とテンション違わない!?」


この子は星井……じゃなくて、赤羽根美希。765プロの元アイドルで、現在は専業主婦。

千早の同期とも言える。でも凄い子だよ、アイドルとして表彰されまくりな中、高校卒業後に赤羽根さんと結婚。

アイドル業も引退した。なお結婚も今年の三月だから、本当につい最近だよ。


なお先週もあったのに、久しぶりになった理由は簡単。……僕がシュテル達とやり合ってた時に勝って、そのまま帰ったからだよ。


「それで……いや、見ての通り大会出場してるのは知ってたけど、理由は」

「あれ、知らないの? 千早さんが大活躍してから、765プロだけじゃなくて他の事務所もガンプラアイドル、狙ってるとこ多いの。美希はもう関係ないけど」

「そこは真美達からも電話で聞いてるけど。律子さんが二匹目のどじょうを狙って荒ぶってるとか」

「張り切りすぎは律子……さんの悪いくせだと思うの。なので」

「俺も勉強のため、みんなとガンプラを作る事が多くてな」


そう言いながら廊下入り口から、黒髪眼鏡なスーツ姿の男性が登場。高身長で穏やかそうなその人を見て、美希は笑顔で飛び込む。


「ハニー!」

「美希、お疲れ様。凄いバトルだったぞ」


美希を受け止め、頭を撫でるこの人が赤羽根志郎さん。765プロのプロデューサーで、千早や春香の面倒を見ていた人。

そして……美希の猛プッシュに押し切られ、結婚した被害者とも言える。もちろんいい意味で。


「久しぶりだな、蒼凪君。あ、そちらのみなさんは初めまして。美希の……夫で、赤羽根志郎と申します」

「……あ、美希挨拶してなかったの。赤羽根美希なの」

「今更だな! だが初めまして、ダーグだ」

「初めましてー。キリエ・フローリアンよ、こっちはアミタ」

「私だけ雑じゃありませんか!?」


やっぱりアミタは不びん……苦笑していると、美希が赤羽根さんから離れ改めて僕達へ向き直る。


「でね、話の続きだけど……ハニーも勉強のため、自分でも作ってたの。だからお手伝いしてたら、美希も自然とハマった感じ?」

「なんだよなぁ。今では俺より上手なんだよ、相変わらず器用というか」

「……おのれ、いろんな意味で天才だったね。でも赤羽根さん、お仕事は。シアターとか作って大変なんじゃ」

「あー、実は今月からチーフプロデューサーという肩書きでさ。いわゆる管理職になってるんだよ」

「チーフプロデューサー!? あの零細体勢で!」

「社長が二人ほど、プロデューサーをスカウトしてきたんだ。それに俺はほら、アイドルに手を出しちゃったプロデューサーだしさ」


なるほど、そういう意味でも一線を引いてると。少し寂しげではあるけど、その対価が美希なのだから……安いものだとは思う。

とにかく管理職だから、ある程度は時間的余裕も生まれたみたい。これなら新婚早々不和になる事もなさそうで、安心している。


「でも蒼凪君はその、頑張ってくれ」

「いきなりなんですか! なんで同情してるっぽいセリフを吐くんですか!」

「当たり前じゃないか! 一回戦目は三人がかりで、今度は凄まじいチート能力で追い詰められて……ちょっと泣きそうだったぞ!」

「というか美希もだよ! ネットで試合映像確認して、ほんとびっくりしたんだから!
プロデューサー、やっぱりお祓いをしておくべきなの! 美希達の気持ち的に! ね、ハニー!」

「あぁ!」

「言い切ったし!」

「うふふ、ありがとー。やっぱりアレで正解だったのねー」


チート能力使用者なキリエが嬉しそうだけど、ここはスルーします。それよりコイツら……コイツらはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

まぁいいけどさ。美希もなんだかんだ言って、ほぼ部外者となった僕を未だにプロデューサー呼びしてくれてるし。

赤羽根さんも似たような感じで……それがまぁ、変わらないってのは嬉しくもあるわけで。


「そういえば千早も二人のバトルを見て、嬉しそうだったぞ。用事があるとかでもう帰ったが」

「あ、そうなの。千早さんはプロデューサーと、決勝戦でバトルできるーって。……でも美希とのバトルがあるの、忘れてるの」

「千早と当たるんだ」

「順当に勝ち上がったら、準決勝かな。もっと言えば、プロデューサーの前にある高い壁もすっ飛ばしてるの」


そこで美希がダーグを見上げる。文字通りの高い壁なので、上手い事を言ったと思ったらしい。めっちゃドヤ顔で笑ってきた。


「……信頼と受け取るべきか、期待と受け取るべきか、難しいところだねぇ」

「むしろ愛情じゃないかな。でも美希はあれなの、千早さんがいつヤンデレになるかって怖くてしょうがないの」

「実は、俺も少し。千早はその、蒼凪君絡みだとかなり壊れるから」

「……ほんと、ごめんなさい。あずささん達共々、ちゃんとお話はしたんですが」

「それは俺や社長も分かってるから、安心してくれていいよ。どういう選択を取るにせよ、不誠実でなければ認める覚悟はできてる」

「そう言いながらプレッシャーかけるの、やめてもらえます!?」

「ははは、まぁいいじゃないか。いつもはわりと主導権握られてるしさ」


こうして懐かしい顔との歓談もそこそこに、僕達は会場を後にする。楽しみだねぇ……来週までにAGE-1、作り込んでおかないと!


(Memory27へ続く)






あとがき


恭文「というわけでゴーカイジャ編『とある魔導師と古き鉄と豪快な奴ら』、第一巻が販売開始です。
今回は同人版オリジナルという事で全て書き下ろし。海賊軍として戦う僕達の金策を描いています」

フェイト「そこメインじゃないよ!?」


(なにとぞよろしくお願いします)


恭文「お相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。えっと、今回出てきたノワール・スラッシャーは」

恭文「前回と同じく、読者様からのアイディアとなっております。アイディア、ありがとうございました」


(ありがとうございました)


恭文「そしてガンダムAGE-1リペアの本仕様は、とある魔導師と古き鉄のお話・支部にて写真アップしております。
……ある意味このために、Vivid編がスロー掲載になっていると言ってもいい」

フェイト「実際にプラモいじって、主人公機だけは……って感じだね」


(そして弄られていくAGE-1)


フェイト「でも方向性は定まったよね。重武装とかではなく、シンプルな感じで動きやすく」

恭文「そうそう。ちょうどGのレコンギスタも始まるし、それ見てもっと勉強していこう。
……そして美希もさらっと登場。こちらでは赤羽根さんと見事ゴールインしてたりします。つまり春香は……いや、言うまい」


(『なんですかいきなりー!』)


フェイト「でも美希ちゃん、シンプルにエールストライクガンダムなんだね」

恭文「カバーソング繋がりだね。そのシンプルさゆえの扱いやすさと技量で圧倒するという」


(『というか、初心者でも作りやすいからおすすめプラモなの』)


恭文「確かにあれは凄い。何度も言ってるけど、ストライカーもついてアマゾンならえっと」

フェイト「あれ……千七百円になってる。確か作者さんが買った時は千円前後」

恭文「……フェイト、それRG」

フェイト「……あ、ほんとだ!」


(それでも定価が二七〇〇円なのでお得です)


恭文「HGは九百三十六円だね。……でもね、一つ不満があるの」

フェイト「不満?」

恭文「HGのオオトリが出ない! ソードやランチャーはパーフェクトストライクで新規造形されてるからアレとしても!」

フェイト「そういえば……いつ頃出るんだろう」


(バンダイさん、待ってます。ずっと、ずっと待っています。
本日のED:GARNiDELiA『BLAZING』)


恭文「あむ、誕生日おめでとう! 後夜祭はまだまだ続くよー! いぇーい!」

あむ「アンタ達、マジでひと月後夜祭続けるつもり!? それただ馬鹿騒ぎしたいだけじゃん!」

恭文「Gのレコンギスタ、もうすぐ放映開始おめでとう! いぇーい!」

あむ「なんか別のお祝いも混じってるし! ……でも千早さん、なんのプラモ出すんだろ。ガンダムデュナメスじゃないっぽいし」

千早「G-セルフよ」(フライドチキンもぐもぐ)

あむ「……え?」

千早「G-セルフよ」

あむ「それまだ時系列的に出てないやつじゃん! AGEでギリギリじゃん!」

恭文「あ、だったら僕はグリモア」

あむ「アンタは聞いてないから!」

千早「ならジェノアスを改造?」

あむ「あ、それならまだ」


(おしまい)




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あきゅろす。
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