[携帯モード] [URL送信]

小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory25 『フルパッケージ』


ダーグ先輩がガンプラバトルをやると聞きつけ、ちょっと激励にきた。まぁあれだ、いろいろ迷惑かけまくってるし?

たまには後輩らしく、先輩を応援するくらいの事はしたいなと。まぁそれだけじゃないんだけど。

ダーグ先輩は人気者。ターミナルのみんなから荷物を預かってる。あとは……あの外道な連中とか。


もちろん俺も持ってきてるよ? うちの店で人気な料理を盛り合わせだ。

大荷物でこの時間へ降り立ったが、タイミングが悪かった。ダーグ先輩やお仲間達、試合開始直前なんだよ。

さすがに今顔を出しても邪魔なので、夜ご自宅へ伺おうと思う。しょうがないのでのんびり試合を見ていたら、奇跡が起きた。


こっちの恭文君、ガンプラバトルでAGE-1を使ってるんだよ。見た事のない武器はともかく、AGE-1だよAGE-1。


「ふ……AGE-1に目をつけるとは、さすが恭文君だな。しかし相手のガンプラもなかなかのものだ。
……しかぁし! AGE-1は伊達じゃなあああああい! AGEはいいものなんだぁ!」


あのAGE-1、どうやらウェザリングを施して完成度を高めているようだな。そして恭文君の腕も相まって、最高の勝負だ。

ていうかこの大会、AGE系の機体少なすぎなんだよ。ていうか恭文君しかいないんだけど。

なんでだよこら、AGEにもいい機体あるだろ。特に二世代目とかさ。全く、この大会にスーパーパイロットはいないのか。


全く、こうなったら俺がスーパーパイロットになるしかねぇな。よっしゃやってやるぜ。

そして世界中に、AGEの機体がどれだけ素晴らしいかを認めさせてやるんだ

待ってろよ世界中のファイターどもよ。俺がAGEの良さを見せてやるぞ。……こうしちゃいられない


早く帰ってガンプラの調整しなくちゃ。でもこの勝負やばい、最後まできちんと見たい。

くそ、AGE-1かっこよすぎんだろ。あぁ……俺もまた買おうAGE-! これで十二個目だけどさ!

でもやっぱかっけえよ! つまるところ俺が言いたいのは、AGE最高って事だよひゃっほおおおおおおおお!


「ちょっと君」


そこで声をかけてきたのは、困り気味な警備員のおじさん。


「静かにしようか。その、十二個目とかさ」

「あ……すいません」


やべ……なに、口から出てたの!? 俺の愛が口から飛び出してたの!? やだ、恥ずかしい! なんかもう……消えてしまいたい!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


前回のあらすじ――三体一とかトーナメントでやりたくない。楽しかったけど、よく勝てたもんだと今更震えがきている。

とにかくずっと陣取っていても邪魔なので、早々に二階客席へ移動。するとみんなが手を振って出迎えてくれた。


「蒼凪君、お疲れ様。ディアーチェさん達も……すごかったです」

「うんうん! やや達とってもドキドキしたよー!」

「ふん、当然だ。それより」


ディアーチェ達が訝しげに距離を取るのも無理はない。フェイトは目を輝かせながら、ガッツポーズしまくってるの。

そんなフェイトに抱かれているアイリ達は、不安げな顔をしていた。うん、気持ちはよく分かる。

「そこのポンコツはなにガッツポーズを繰り返している」

「あぁ、フェイトさんは恭文達のバトルを見て、火がついちゃったんだよー」

「ヤスフミ、やっぱり私もガンプラ作りたい!」

「……こんな感じね」


キリエの呆れ気味なため息など気にせず、フェイトは興奮気味に……とりあえず全員で着席。

フェイトから恭介を預かり、アイリはディアーチェ……え、おかしい? 大丈夫、もうツッコまない事にしたから。


「いや、作るのはいいけど、お手伝いはしなくていいから。というか、まず独力で一つ作れるようになってからだって」

「その通りですよ、フェイト。我々もまず作り、そこから改造を施したわけですから」

「自分のを作ろうともしないで、ヤスフミのを弄ってOKなんて……へいとは駄目だなー」

「あれ、違うのに! お手伝いは一旦置いて、作りたくなっただけなのに! なんでー!
どうしてみんなお手伝いするの目的だって勘違いしてるのー!?」

「シュテルとレヴィの言う通りだな。フェイトよ、まずはフォークだ。それからプラモだ」


またダーグがおかしい事言い出したし! フォークってほんとなに! フォークにプラモは関係ないからね、マジで!


「まぁまず作ってみてってのはいい事だ。帰りに模型店寄ろうか」

「うん。えへへ……アイリ、恭介、ママもモデラーデビューだよ」

「「……うー」」

「どうしてそんなに不安そうなの!? ふぇー!」


あー、よしよし。気持ちは分かるけど、やってみようという気持ちをへし折るのはいけないって。

とりあえず僕のお手伝いは高難度だって、分かっただけでも前進してるもの。

そこは大丈夫そうなので、スマホを取り出しポチポチ操作。第三ブロックの試合……お、まだやってないっぽいな。


「蒼凪さん、お電話ですか」

「ううん。ほら、海里達には話したよね。イオリ・セイも大会に出るって」

「あ、先輩達がガーディアンだった時、模型部にきた人ですよねー。うぅ、でもあたし知らないー」

「しょうがないわよりっかちゃん。まだりっかちゃんや私が、恭文君達と会う前だもの」

「確かあのイオリ・タケシの息子だったな。……ちょっと興味が出てきた」


ひかるも携帯を取り出し、さっと第三ブロックの様子をチェック。会場が満杯でも、ネットでのアーカイブ放送もしてくれる。

仮にそれが見られなくても、後々公式HPから各試合の動画がアップされる。ほんと便利な世の中になったよねー。


「ねぇ蒼凪君、そのイオリ・タケシさんってそんなに凄い人なの? 優勝者ではなくて準優勝だし、優勝者なら他にも」

「いるんだけど、その中でもイオリ・タケシさんは別格なんだよ。
あの人ほどガンダムとガンプラを楽しみ、愛しているビルドファイターもそういない。
……もちろん実力も半端ないよ。実は一度対戦した事があるんだけど、歯が立たなかった」

「な……! 小僧が相手にならないだと!」

「そんな凄い奴の息子となったら、恭文だけじゃなくひかるも注目するってわけか。……てーか俺も興味が出てきたぞ!」


空海がテンション高くなっている中、映像でセイの姿を見つけた。でも……シオン達と一緒に首を傾げてしまう。


「なぁ、イオリ・セイはコンビで出るんだよな」

「うん……レイジってのがファイターなんだよ」

「単独での操縦スキルは」

「こう言ったらあれだけど、ド下手極まりない」

「なら、これはどういう事だ」


現在、会場に現れたセイは一人っきり。しかも表情は決して明るくない。レイジの奴……まさか遅刻!?

なにやってるのよ! 僕と千早も加わって、みっちり修行してたってのに!






魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory25 『フルパッケージ』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ここまでのあらすじ――レイジがきません。もうタイムリミットはとっくに切れているのに。でも、そりゃそうだよな。

レイジはユウキ先輩にリベンジしたいだけで、僕みたいに選手権で勝ちたいわけじゃないんだし。

そもそも僕がキミをガンプラに巻き込んで、勝手に期待して……やっぱりそれは、僕のエゴってやつで。


大体アイツ常識ないし、わがままだし、異世界から来たらしいし。けど……それでも、約束したじゃないか。

一緒に戦うって。なんで……なんでだよ、レイジ。


「馬鹿野郎……!」

「誰が馬鹿だ」


後ろから声がかかって、慌てて操縦ベースから出る。すると両膝に手を当て、息を切らしたレイジがそこにいた。


「悪い……遅れた」

「レイジ……!」


一言文句でもと思ったら、レイジが挙げた右手に目を奪われる。指先に包帯が巻かれて、とても痛々しい。


「どうしたの、それ」

「いいからさっさとやろうぜ」


有無を言わせない物言いに呆れてしまう。遅刻しておいて謝り……あ、謝ったか。

だけどやる気はあるようなので、同時に安心もしていた。エゴじゃあ、なかった。

レイジも気持ちを一つにしてくれていた。この手ももしかしたらと思いながら、ガンプラ用のケースを取り出す。


「ぶっつけ本番だけどできるの? アニメじゃないんだから」

「任せとけ」

「なら任せるよ、僕が作った機体」


ケースを開くと、予備パーツなども入ったスロットが展開。その下には、壊れないようクッションも込みで収められているガンプラ。


「レイジ専用のビルドストライク・フルパッケージを!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


このままイオリ君は負ける……そう思っていたところで、レイジ少年が登場。そうして彼が取り出したのはビルドストライク。

ただしそのバックパックには、青色のストライカー。アニメなどには出ていないタイプで、可変翼と可動式キャノン?

あれはガンダムSEED DESTINYに出てきた、オオワシストライカーだろうか。構造としては似ているようだが。


それよりなにより気になるのは、この薄暗い空間でも分かるほどの。


「なんという完成度なんだ……!」


作品世界、そしてビルドストライクというガンプラにすりあわせ、調和したデザイン。

それをあの少年が作ったというのは、驚く他ない。これも愛の成せる技か。あぁ……彼のガンプラ愛は重いからなぁ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


レイジと一緒にベースへ入り、ビルドストライクもセット。その瞬間、プラフスキー粒子がビルドストライクに命を吹き込んでくれる。

展開するコンソール、アームレイカー型操縦スフィアの輝き、その全てが胸を躍らせてくれる。

今までならなかった、僕だけでは得られなかった瞬間――それが待ち遠しくて、バトルの前なのに笑っていた。


あぁそっか。僕、ずっとバトルする時は笑えなかったんだ。負ける事が、変われない自分を突きつけられるのが怖くて。

今もそうなのかな。怖いから、レイジに道を託している? そういう部分はあるかもしれない。でも……それだけじゃない。


「行こう、レイジ!」

「おうよ!」

「ビルドストライク・フルパッケージ!」

「行くぜ!」


カタパルトを鋭く滑り、可変翼を広げた上でビルドストライクが飛しょう。広がる青い空針葉森林に挟まれ、軽快に空を飛ぶ。

機体は完璧。あとはピーキーなコイツを、レイジがどれだけ扱えるか……練習時間もなかったから、それは不安だ。

レーダーに反応。二時方向・二百メートル――雲を斬り裂き、青いエイ型MAが飛び出す。


それは両肩のビームキャノンと、飛び出した両手保持したフェダーインライフルを構え連射。

鋭く飛び交うビーム達に対し、ビルドストライクは左右のスウェーから急上昇するだけで回避してしまう。


「可変型MS、ハンブラビだ! クローや海ヘビに気をつけて!」

「海ヘビ!?」

「ワイヤー型の電撃武器! 捕まったらスタンさせられる!」


と言っている間にMA形態のハンブラビが接近。上昇するこちらと交差し、反転しながら変形。

と言っても折り畳まれた両足を、さっと伸ばしたように見えるけど。あれもハンブラビの良さだ。

MA形態になると、大体が格闘戦能力を失ってしまう。でもハンブラビはそれも両立しながら、高機動戦を行えるから凄い。


さすがは天才パプテマス・シロッコと言うべきか。とにかくハンブラビは右手でまたライフルを構え直し、追撃の連射。

背後から迫るビームに対し、スラロームと急加速を交え一気に反転。

ビルドストライクは背部ビームキャノンを股下から展開し、左側から赤い粒子砲撃を発射。


ビームキャノンは射角が取りにくいけど、その分威力もバッチリ。ハンブラビはライフルから手放し、左へ回避行動。

すかさず右のビームキャノンによる追撃を、上昇して避けてしまう。……でも最初の一撃でフェダーインライフルは撃ち抜かれ爆発。


「すげぇ……コイツはすげぇガンプラだぜ、セイ!」


凄いのはレイジだ。前より何倍も性能が上がっているのに、手足のように扱って……! 一体どうやって!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


スマホで試合映像をチェック中――愛車のベスパに跨りながら、妙に心地いい疲れを振り払う。

手についた包帯がまた、泣かせるねぇ。これじゃあイタリアのだて男が台なしじゃないか。


「全く、二百回もバトルに付き合わせやがって」

「あおー」


肩に乗っかったあおが、呆れ気味にため息。なおヤスフミやチハヤは、その半分くらい相手していた。

二人とも、自分の試合があるってのになぁ。……そう、合計で四百回だ。

ストライカーパックも全種使い、代表的なやつだけだがMS・MAの機体概要も勉強した。


まぁザクだけはよく分かっていないようだが、それは無理ないだろ。MSVやボルジャーノンも含めたら、百種類はくだらない。

しかしあのビルドストライクとやらもいいガンプラだ。イオリ・セイ……イオリ・タケシの息子。

バトルは相当ド下手らしいが、ビルダーとしての才能はきっちり受け継いでいるようだ。性能だけなら世界大会へ十分いける。


……今年は熱くなりそうだ。チハヤとヤスフミはどちらかとしかやり合えないだろうが、この二人もいる。

笑いながら第三ブロックの予選会場を見上げ、右手をもう一度さっと振った。


「見せてやれ。イタリアチャンプの俺、そしてチハヤやヤスフミと渡り合える、お前の実力をな」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


変形し、追撃してくるハンブラビを軽く引き離す。追撃の射撃も難なくすり抜け、ビルドストライクはその性能を見せつけていた。

僕が描いた、僕の理想――迫っている感触に胸が震えながら、レイジに指示。


「目標捕捉――ビームライフル!」


その瞬間、ビルドストライクは急速反転。それを待っていたと言わんばかりに、ハンブラビは急加速――左手で持った海蛇を射出。

ワイヤー付きの弾頭、及びその向こうにいるハンブラビ本体へ目がけて。


「「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


ビルドストライクは右手のライフルで、全力射撃。空間を一気にビームが突き抜け、電撃付きのワイヤーもろともハンブラビを撃ち抜く。

ハンブラビは左半身を削られ、モノアイをギョロギョロしながらも爆散。想定通りの威力で、ついガッツポーズ。


≪BATTLE END≫

「はは、完勝だぜ! やったなセイ!」


勝てた……消えていくフィールド、操縦ベース、無傷で立っている僕のガンプラ。その全てが勝利を伝えてくれる。

それが嬉しくて、でも信じられなくて……やっぱり嬉しくて、瞳から涙が零れ続ける。


「あ?」

「勝てた。一回戦、僕の作ったガンプラで」


ずっと夢見ていた瞬間。どんなにやっても届かなかった、勝利という結果。どんなに好きでも得られなかった、勝利という実感。

その全てが胸に伝わって、涙が止まらない。そんな背中を、レイジは笑って叩いてくる。


「なにしんみりしてんだよ。もっともっと勝つんだろ?」


……その言葉で衝撃が走る。そうだ、これはまだ始まり。僕は……もっと先へ行くんだった。

涙を払い、レイジに笑いを返す。まぁ、なにも言わないけど一応感謝。


「ああ! 来週やる二回戦まで、もっと練習しよう!」

「特訓だろ、特訓! ……実はよ、ヤスフミとチハヤってのに相手してもらっててよ。
あと……あれ、あのナンパ男なんだっけ。名前忘れちまった。とにかくだ、今度はお前もやろうぜ」

「恭文さんと!? ていうかチハヤって、去年世界大会に出たアイドルの如月千早さんじゃ! なにしてるのさ、レイジ!」

「いや、ラルのおっさんに偶然紹介してもらってよ。いいからやろうぜ、あの二人めちゃくちゃ強ぇんだよ!」

「話を聞いてー!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


燃え上がる……胸が燃え上がる。あの圧倒的性能と実力を見て、なによりあのコンビが続いてく事が嬉しくなっていた。

これはじっとしていられない。なにか掴んだ様子のコウサカ君へ挨拶してから、会場を後にした。

見せてもらったよイオリ君、君の作った新型……その真の性能を。だが僕も決して負けない。


ザクアメイジングには更なる改良が必要だ。このままでは、本当にあっさりリベンジされそうだからね。

楽しみだよ、世界大会が。それと恭文さん、僕は必ず勝ち残ります。だから約束を果たしましょう。

僕とトオル、ヤナにあなたも加えて、四人で交わした約束を。僕はずっと、この時を待っていたから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


レイジがきて、ビルドストライクは大勝利。しかし、なんつう性能だよ。映像越しだったけどそれはよく分かる。

機動性に火力、その全てが高次元だ。恐らくあのハーフシールドもかなりのもんでしょ。


「これは凄い。可変出力型のライフル……ヴェスバーと同じ発想かな」

「相手のハンブラビもなかなかだが、全てにおいて相手にならなかったな。
これだけ作り込めるイオリ・セイも凄いが、このレイジというファイターも」

「恭文先輩達より強いのかなー」

「一応勝ち越してるよ、僕はね。でも吸収力は半端ないよ。……あのライフル、高出力に耐えられるよう金属パーツを使ってるね。
ビルドストライク本体もオリジナルストライカーに合わせて、また強化してるっぽいし」

「強敵現るってか? うっし、じゃあ俺らもいくか」


そこでダーグがのっそりと立ち上がり、キリエ達もそれに続く。


「あー、そっか。次はダーグと」

「わたし達の出番よー。旦那様、応援しててね」

「が、頑張りましょうキリエ!」

「旦那様の応援が、わたしの力になるの。だってわたし、もう全てを旦那様に捧げたくて」

「無視しないでくださいー!」

「てーか公共の場でなに発情してんの、おのれ!」


でもまぁあれだ、応援はするから頑張れと……甘いかな。でも初試合だし、それくらいはしてもいいでしょ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


やすっちや唯世達に背中を押され、まずは俺が出る。相手の……ジャージ姿なおっちゃんはビビってるが、とりあえず笑ってやった。

……更に涙目となるのは、もう気にしない。おかしい、友好的なほほ笑みを送ったはずなんだが。


≪Beginning【Plavesky particle】dispersal. Field2――Space≫


プラフスキー粒子によって、操縦ベースとフィールドが構築。障害物もない宇宙空間……肩慣らしにはちょうどいいな。


≪Please set your GUNPLA≫


セットするのは、大会用に作成したユニコーンガンダム。なおデストロイモード固定となっている。

装甲の一部を赤くし、バックパックは兄弟機でありシナンジュのものへ変更。翼のような推力偏向スラスターだ。

両足すね側面には、これまたシナンジュから流用したキックブースター。更に機体各所へブースターを増設し、機動力を大幅強化。


追加武装として背面二基のスラスター間に、万能合体工具『カレトヴルッフ』を装備している。

これはビルドカッター、ビルドナイフ、更に溶接用トーチ砲身・グリップ部と分割できる多目的ツール。

あぁ、工具なんだよ。SEED ASTRAYの外伝で出てきた装備なんだが、ジャンク屋の主人公が作ったものだからな。


武器としての正式登録はされていない。『そう使う』事は可能だが。とにかくあれだ、合体するとウィザーソードガンみたいになる。

Gモード、Sモードの両方を使い分けるだけでなく、これ自体にミラージュコロイド散布装置も内蔵。

劇中では粒子による惰性力制御が可能で、姿勢制御や同種装備の機能妨害も行える。


まぁ改造箇所自体は少ないが……頼むぜ、相棒。言い出しっぺだからな、ここはビシッと決めたいんだよ。


≪BATTLE START≫


お、始まったか。スナップさせ続けていた両手をアームレイカーに添え。


「ダーグ、ユニコーンガンダム・フリーデン――さぁ、ランチタイムだ!」


発信させる。推力偏向スラスター、及び各所から青い炎が、更にGモードで搭載中なカレトヴルッフから粒子も走る。

それら全てに押されて、フリーデンは風のようにカタパルトを抜ける。

さて、敵の機体は……前方四百メートルから小さな光が走る。前進しながら斜め上へ上昇し、一気に走るビーム粒子を回避。


めっちゃ高出力じゃないか! つー事はかなりの大型……第二射がきたので右へ回避。

この金色のビームはなんだ。めっちゃ禍々しい予感が……発射地点を光学カメラでズーム。

そこにいたのは金ぴかボディなカブトガニだった。……なんだありゃ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ダーグの相手が誰かと思ったら、唯世達と一緒に驚かされてしまう。もちろんあの金ぴかMAにも……改めて見ると凄いデザイン。


「あれれ……ひかる! ダーグさんがバトルしてるのって、吉富先生だよねー!」

「あぁ、聖夜小の模型部顧問だ。確かあの……ユニコーンより二回りほど大きいのは」

「ガンダム00に出てきたアルヴァトーレだね」


あれはファーストシーズンに出てきた、ラスボスだよ。お願い、見ている人もいるだろうけどそういう事にしておいて。

その出力とスペックだけなら、セカンドシーズンを含めてもトップクラスの強さ。

吉富先生、MA系が好きだとは知ってたけど……あれ作るの、苦労しただろうなぁ。


「ねぇヤスフミ、あれ強いの? その、金ぴかだけど大柄だし、懐へ入れば」


そう、大型機械兵器はMAに限らず、格闘戦が弱いという共通弱点を持つ。

フェイトも魔導師の仕事でそういうのと戦った事はあるから、その辺りすぐ分かったっぽい。

実際ユニコーンも接近。アルヴァトーレの前部ビーム砲による、けん制弾幕をなんとかすり抜けていく。


弾幕として放たれる金色の光は、大柄と言えどデストロイモードなユニコーンを捉える事ができない。

更に開始早々連射されていた、機首部に装備された巨大ビーム主砲も、あの機動性では簡単には当たらない。

吉富先生の判断は実に的確だった。そうして数百メートルを泳ぐように抜け、ダーグは真正面から突撃。


両腕外側に装備した、ビームトンファーを展開。それを振り上げ、一気に機首へ突き出す。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


射撃で下手に足を止めると、一気にやられる。そう踏んでマグナムも撃たず、相手の真正面へ肉薄。


「やすっち、みんなも喜べ! 今日の夕飯は」


トンファーを突き出し、まずは一撃。


「カニ鍋だぁ!」


……と思っていると、奴の周囲に金色のビーム障壁が展開。それがトンファーから展開されたサーベルを防ぎ、はじき返す。


「なにぃ!」

『甘いわぁ!』


更に甲羅の裏から隠し両腕が伸び、こちらをつかみ取ろうと鋭く迫る。右足で爪を蹴り飛ばし、そのまま宙返りして下へ加速。

正面に固まっていたら、副砲と主砲の餌食だ。予想通りに俺が退避してすぐ、副砲による連射が始まっていた。

だが下に回り込めばがら空き……機体を反転させつつビームマグナムを構え、土手っ腹を狙う。


ビームマグナムは本来複数回使えるライフル用Eパックを、一度に使い切る高出力ライフル。

継戦能力に欠けるのが欠点だが……トリガーを引くと、大砲をぶっ放したみたいなごう音が響く。

そうして放たれるのは赤い奔流。その周囲にバチバチと火花が走り、奔流は一気に十メートルほどへ広がる。


あの火花一本一本が、ビームサーベル級の威力。その辺りからマグナムの力は察してほしい。

だが再び展開したバリアによって、マグナムの一撃が受け止められる。金ぴかボディは僅かに揺れるものの、赤い奔流はすぐに消失。

くそ、ビームマグナムでも駄目ってのか! ……と思っていた俺が甘かった。


機体後部から光が走り、金色のビットみたいなのが六基出てくる。


「ちぃ!」


慌てて距離を取るが、ビットの一機がこちらへ射撃。それがマグナムの中程を貫き、派手にぶっ壊してくれる。

爆発するマグナムを破棄し、更に後退。こちらへ向き直り、加速する金ぴかから光が……主砲による砲撃を左へ回避。

続いてビット達がビームラムを展開し、こちらへ突撃してくる。更にそのビームが弾丸として次々連射。


ラムは消えたりしないのがまた……まずはあれからさ。シールドの先をビット達へ向け、ウェポンチェンジ。

シールド内側にはカレトヴルッフ用に新造した、ロングバレルを搭載している。

コイツは必要に応じて、単体でビームライフルとしても使えてな。念のため、手で持ってなくても撃てるようにしておいた。


なのでビームを細かく撃ち込み、渦巻きながら迫るビットへ弾幕展開。もちろん頭部の60 mmバルカンもフル連射。

ピンクと青の弾丸達がビットの行く手を阻み、更にその機動を大きく乱しつつ撃ち抜く。

よかった、動き方が単純で……とはいかないか。撃墜できたのは半分だけだ。


左側から突撃したビットを、右のトンファーで貫きつつ交差。そのまま大きく左へ飛んで、急速上昇。

前部ビーム砲によるけん制射撃を避け、奴の右側へ……すると今度はサイドから幾つも砲門が展開。

そこから赤く細いビームが大量連射……くそ、至れりつくせりってか!


後退しつつシールドを構え、避けられないビームを数発受け止める。だが大丈夫……これはIフィールド付きだ。

シールドに触れた瞬間、ビームはかき消され霧散してくれる。威力がさほどでもないから、かなりあっさりとだ。

更に上からビット五機目が強襲。また金ぴかカニが反転し襲ってくる中、更に上昇して


ビットと交差する瞬間、時計回りに一回転。展開したままな右トンファーで中ほどを両断。

更に三時方向・下二十度の角度から襲ってきた、ビットビームを斬り払いつつ突撃。

そうして金ぴかカニのアイアンクローを回避しつつ、最後のビットへ右薙切り抜け……これでよしっと。


くそー! アニメみたいにサイコミュジャックできればいいんだが、さすがに無理だしなー!

しかしどうする。マグナムは損失、接近してもあのバリアで攻撃は防がれる。破る手段が……一つあったなぁ。

背後に背負っていた、Gモードのカレトヴルッフを右手で引き抜き、一気にSモードへ変更。


斬馬刀のようになったカレトヴルッフを両手で持ち、反転し再突撃してくる奴を迎え撃つ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


うわぁ、やっぱ凶悪だわ。ビームマグナムの出力でも駄目って……やっぱ粒子無効化技術、煮詰めといた方がいいな。

詰め手を奪われ、しかも逃げ場もない。そんな状況へ立たされたダーグに、フェイトがわたわたし始める。


「ヤ、ヤスフミー! あれなに!? あのバリアみたいなのズルじゃないのかな!」

「ズルじゃないよ。あれはGNフィールド――原作に出てくる、GN粒子を防御に転用したものだ」

「というか、我とユーリのラファエルも使っていたぞ。あれを破る一番の方法は」

「実体剣だね。てーかそれしかないでしょ」


両腕のトンファーが通用しないのは決定。もちろんバルカンや、シールド内側に装備したライフルも駄目。

下手に接近すると大型GNクローアームで捕縛されるから、……そうなるとあの武器ハリネズミ相手に接近戦だけどね。


「でもアンタ、ダーグに実体剣なんてないじゃない」

「あ……そうだ、じゃあヤスフミがあのナタを貸せばいいんじゃないかな。
一旦中断してもらって……ん、そうだ。ヤスフミ、私もお願いするからナタを」

「駄目に決まってるでしょうが。そんな事したらダーグは反則負けだよ」

「そんなー! じゃあもうどうしようもないよね!」

「手ならあるよ」


とか言っている間に、ユニコーンが背部のカレトヴルッフを取り出した。それは即座に片刃の大剣へ変形する。

……あれが工具ってのは無茶があるって。あれですか、エンジニアは工具を使うと最強になれるジンクスゆえですか。


「え、あれ変形武器だったの!?」

「正確には工具なんだよ。カッターや溶接用トーチが合体している状態」

「無茶あるでしょ、設定にしても! ……で、アンタはなんでそれを知ってるの?」

「当然だよ。あれ、SEED ASTRAYっていう公式外伝に出てくる武器だから」

「なるほど」


更に言うと、ホビージャパンって模型雑誌で付録にもなっている。でもダーグ、一体どこで手に入れたんだろ。

その号は三月頃に出たもので、もう通常の市場では……オークションでもかなりの希少品だし。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


デストロイモードなので、合間から見える赤いサイコフレームが宇宙空間に奇跡を描く。

最大加速で飛び込み、放たれる弾幕をすり抜けカニへ再接近。気合いを入れて、突き出されるクローへ。


「おりゃあ!」


袈裟の斬り抜け。カレトヴルッフによる斬撃は、向こうのクローを両断。更に展開していた障壁を遠慮なく粉砕してくれる。


『なにぃ!』

「狙い通りだったな!」


そこで急停止すると、右サイドにある砲門からビームを連続発射。……抜かりねぇ。斬り抜けた瞬間を狙って射撃かよ。

すれすれではあるが回避成功なので、刃を返し左薙一閃――更に加速。カニの右サイドを砲門ごとぶった斬りながら、一気に抜ける。

爆発によってバランスが崩れたカニは、そこで最大速度で前進。こちらへ反転しながら、左サイドの砲門からビーム連続発射。


左へ加速し回避しながら、再び突っ込んでくるカニと対面。カニは主砲を展開し、まずはこちらに一発。

でかい奔流の脇を抜けると、副砲を連射。だが攻撃パターンと狙いは既に読みきっている。

難なく攻撃を回避し、再びカニへ肉薄。……今度は。


「逃さねぇ!」


カレトヴルッフで刺突――突き出された左爪、更にバリアを突き抜けカニの胴体へ体当たり。

その衝撃でカレトヴルッフが主砲基部や胴体を深く抉り、そこから袈裟に抉り斬る事でカニが爆発を起こす。


『ちぃ……!』


そこで副砲基部となっている台座がオープン。甲羅っぽい羽を二枚生やした、金色のジムが飛び出す。

……ミーティアやデンドロビウムと同じ構造だったのかよ! それは副砲をライフルみたいに持って、至近距離でこちらに連射。

慌ててシールドをかざし、Iフィールド展開。だが副砲の威力はかなり高く、相殺しきれず直撃を食らう。


衝撃で吹き飛び、シールドは派手に粉砕。慌ててパージした搭載ライフルを左手でキャッチ。

その間にデカブツは爆発。金ジムはそれを乗り捨て、こちらに向かって更にビーム連射。

左右へのスライド移動を絡めつつ、太めなビームを斬り払っていく。そうしつつライフルで奴を狙い撃つ。


だが金ジムは翼を広げ、またもバリア展開……本体も使えるのかよ!


『アルヴァトーレを破ったのはさすがだ! だがこのアルヴァアロンは特別なのだよ! ――トランザム!』


金ジムは赤ジムへ変わり、右のライフルを背部マウントへセットし、どこからともなくビームサーベルを取り出す。

そうして超加速――カレトヴルッフをかざし、袈裟の斬り抜けを受け止める。

しかし勢いが強く、右へ弾かれてしまう。そんなユニコーンと俺に対し、重力や慣性無視で奴は追撃。


幾度となく、あらゆる方向から襲うサーベルをなんとか防いでいく。くそ、ユニコーンが機動力で上をいかれただと!?

シュテル達が太陽炉搭載機作ってなかったら、マジでさっぱり……あ、あれGNフィールドか! すっかり忘れてたぞ!

……そこで左側から突撃。しかもGNフィールドを展開しながらのV-MAX状態だったので、カレトヴルッフでも防ぎきれず大きく吹き飛ばされた。


くそ、トランザム化した事でフィールド出力まで上がってやがる! あれじゃあカレトヴルッフで斬れねぇ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


デカブツを始末したと思ったら、本体が出てきたでござる。本体がトランザムしたでござる……アニメだとできないのにね。


「確か、シュテル達も使ってたわよね。具体的にはどういうシステムなのよ」

「機体内部に蓄積された、高濃度の圧縮粒子を解放。そうして機体スペックを三倍にまで上昇させるんだ。
ただし大量の粒子を消費するため、制限時間あり。更にそれを過ぎると機体性能も低下しちゃうの」

「もっと言えば、アニメに出てきたアルヴァアロンはトランザムを使用できない。そこはガンプラだからで納得するしかないが」

「まさにもろ刃の剣、なのですね。あれではダーグさんのユニコーンは……ん?」

「ディ、ディードちゃんー!」


ディードがベルと一緒に目を見張る。……吹き飛ばされたユニコーンが、緑色の輝きに包まれ始めた。

そうして機体を反転し、急加速。トランザムアルヴァアロンの右薙斬り抜けを、上昇して難なく回避する。

更に反転し、その背後へ飛び蹴り。GNフィールドに阻まれるものの、衝撃はしっかり伝える。


アルヴァアロンは大きく吹き飛ばされ、驚いた様子でユニコーンへと振り返る。

ユニコーンはカレトヴルッフを背部にセットし直し、両腕を腰だめに構える。


「蒼凪さん、あれは……! サイコフレームの共振です!」

「人の心、その輝きが力になっているというの!?」

「アンタ達いきなりなに言い出してるの! もしかしなくても劇中の話!? でもあれガンプラよね、関係ないわよね!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


吹き飛ばされながら、あっちこっちから警告音が響く。こりゃ……いきなり使うとは思わなかった。

武器スロットを展開し、『SP』と書かれたところを選んでクリック。するとコンソール中央にでかいスイッチが現れる。

だがそれを押す前に強襲……既に発動状態となっていたので、斬撃は飛び越え一気に追撃。


トランザムの速度へ難なく追いつき、右飛び蹴り。一旦吹き飛んでもらってから。


「フェイス」


右拳を握り、粒子で構築されたスイッチをたたき割る。


「オープン!」


するとユニコーンのフェイスカバーが展開……しているはずだ。こっちからは見えないが。

とにかくカバーが開き、サイコフレームの発光がより激しくなる。


『馬鹿な、心の光だと! なんというニュータイプ能力なんだ!』


あー、違う違う。てーかノリのいいおっさんだなぁ、めっちゃ楽しそうじゃないか。

とにかくコイツはシャイニング・システム――シャイニングガンダムとかのスーパーモードだ。

あんまり長い時間見せても対策されそうだし、ささっと片付けるか。ユニコーンの右手をかざし、溢れ続ける光をそこへ収束させる。


……そうして再突撃。金ジムはユニコーンから逃げつつ、遠慮なくビーム弾丸連射。

だがそれもすり抜け、奴との距離をさほど経たずに縮める。


『くそぉ!』


すると金ジムはサーベルを仕舞い、仕舞っていたライフルを再度取り出す。それを左手のライフルと接続。

ツインバスターライフルみたいにして、更に翼を展開。並んだ砲口に粒子が集まり。


『消し飛べ!』


半径五十メートルにも及ぶ、巨大な粒子砲撃が発射された。……望むところだ。


「シャイニング……!」


それに対し真正面から突撃しながら、右アームレイカーを振りかぶり。


「フィンガァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」


そのまま前へ突き出す。ユニコーンもそれに倣い、緑色に輝く右手を砲撃へ叩きつけた。

本来ならユニコーンが飲まれて終わる。だが極限まで高めた粒子、それを凝縮した右手は――砲撃すらも霧散させる!

ユニコーンは超加速を続け、砲撃を四方に散らしながら一気に突き抜ける。そうして出元であるライフルを触れるだけで破壊し。


『ひ……!』


金ジムの胴体部をその手で掴んだ。周囲に金色と緑の残滓が振りまかれる中。


「これが、メインディッシュだ!」


金ジムの胴体前面を握り潰す。そこから発生した緑の粒子圧力が金ジム全体へ広がり、機体をひしゃげさせながら大爆発。

その爆発を払い、ユニコーンは頭上へ輝く拳を突き出した。……おっしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!


「全ての命に今一度」


ガッツポーズしていた両手を払い、静かに合掌。


≪BATTLE END≫

「絶対なる感謝を」


粒子によって構築された世界が消える中、対戦相手にも感謝――するとおっちゃんはすっきりした顔でこっちへ近づいてくる。

怯えられている感じもないので、合掌を解除し対面。そうして強く、強く握手を交わした。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


なんという暑苦しい展開かしら。軽く呆れながらも、次はわたし達の番。さくっと勝って、旦那様とのバトルに繋げましょ。

なお相手は黒髪ポニテの女の子。しかも……めちゃくちゃ大きい。あれ、奥様くらいあるんじゃ。


「箒、頑張れよー! 修業の成果を見せてやれ!」

「馬鹿、やめろ! 恥ずかしいではないか! というか他の方々へ迷惑だから静かに! 静かにー!」


あらあら、彼氏かしら。客席を見ると、黒髪短髪な男の子がいた。高校生くらいの子で、ちょっと好みかも。

それで女の子はわたし達へ静かにお辞儀。しかもやたら姿勢がいいので、軽く驚いてしまう。

そのせいか、キャラじゃないけどわたし達も礼。なんだか武術の試合でもしている気分。


旦那様、ちゃんと見ていてくれてるかしら。これでスルーしていたらさすがに傷つく。

……わたしだって、わりと本気なんだから。余裕ぶってるけど、余裕なんてない。

わたしは好みじゃないのかなとか、ギアーズだから駄目なのかなとか、いっぱい考えちゃうもの。


なのに……旦那様のにぶちん、意地悪。


「キリエ、どうしました?」

「ううん、なんでもない。じゃあ」

「私達も二機出しましょう!」

「却下よ。あんな練習してないじゃない」


今回のメインファイターはお姉ちゃん。なのでそれは駄目と背中をつついているところで。


≪Beginning【Plavesky particle】dispersal. Field10――Desert≫


構築されたのは荒れ果てた山脈地帯。荒野のガンマンって感じかしらー。

今回私はセコンドへ周り、お姉ちゃんは自分のガンプラを取り出す。


≪Please set your GUNPLA≫


それをベースにセット――粒子がカタパルトとして構築。ガンプラ本体にも粒子が浸透し、カメラアイが輝く。

お姉ちゃんのガンプラはHGCEのストライク、及びHGストライクノワールをベースに作り上げた改造機体。

いやいや、初めてだったけどなんとかなるもんねー。基本色は黒から青へと変更され、破損した肩パーツは結局修復せず。


その代わり武装を取り付ける、万能アタッチメントを装着したの。両肩を同じ使用にし、ビームショットガンを二丁搭載。

ノワールストライカーのブレードは外し、ビームサーベル二基搭載。ブレードがあった位置には可変式ビームガンを装備している。

そのため名前は変わり、ANGストライカー――アミタ・ノワール・ガンナー・ストライカーの略よ。


そして両腰にはピストル型のビームライフルショーティーを二丁搭載。お姉ちゃんが得意な銃撃戦を重視した機体となった。


≪BATTLE START≫

「アミティエ・フローリアン!」

「キリエ・フローリアン」

「ノワール・ガンナー、熱く飛びますよ!」


もうちょっと言う事あるだろうに……とにかくお姉ちゃんは、アームレイカーを押し出し全力飛行。

乾いた風が吹き荒れる、乾燥地帯へと機体を飛ばす。ノワールは翼を広げ、鋭く滑空飛行。

そんなノワールに対し、前方からけん制射撃。お姉ちゃんは機体を上昇させ、攻撃を回避しつつ速度上昇。


あれ、ちょっと待って。今のって炎じゃ……ビームとかじゃないの? こう、びしゅびしゅーって。

とにかくノワールはビームライフルショーティーを取り出し、両手をクロスさせながら構える。

更に両翼の可変式ビームガンも展開し、四つの砲門から絶え間なくビームを放つ。


「アミタ、敵の姿も見えてないのに」

「先手必勝です! さぁて、どんなのが」


レーダーにも反応は……嘘、真っすぐ突っ込んでくる? ビームも構わずなら、またデカブツかしら。

光学カメラで反応のあった方をチェック。するとそこにいたのは……なに、あの三等身ガンダム。

ツインアイの中に、アニメキャラみたいな瞳が描かれていた。しかも格好がおかしい。


陣羽織みたいな白赤のアーマーに、胸元には緑の宝玉。頭はカブト? なんか角飾りがキラキラしてる。

両手には日本刀二振りを持っていて、ソイツは平然と空を飛んでいた。

アミタが放つビームも、陣羽織に受け止められあっさり打ち消される。あ、あれは……あれは。


「「なにあれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


アミタ達が驚いている間に、號斗丸は肉薄。両の刃から炎を放ち袈裟一閃。

ノワールは慌ててビームライフルショーティーを盾にし、その斬撃を防ぐ。

それじゃあ無理だと思っていたら、銃身下部に設置されていたジュッテが発動。


十手型のビームサーベルが展開し、それが炎の剣を受け止める。より一層、激しく炎が噴き出すものの銃身は断ち切れない。

ジュッテというのは、小型のビームサーベル発信機。0083のGP01などのビームライフルが搭載している。

ああやってビームを展開し、防御手段にするんだよ。なるほど、銃器中心だから用意したのか。


それに構わず號斗丸は刃を振り抜き、ノワールを地面へとたたき落とす。ノワールはスラスターを吹かせ、墜落前に急停止。

追撃してくる號斗丸に対し、けん制射撃を行いながら急速後退。まずいね、気持ちから負けてる。

でも放たれるビームは陣羽織――闘覇の羽織表面に着弾すると、あっさりとかき消えてしまう。


そうして再び距離は縮む。袈裟・逆袈裟・刺突と二刀での連撃が走り、ノワールは身を逸らしながらなんとか回避する。

引き離そうとあがくものの、號斗丸の踏み込みが鋭く上手くいかない。てーかどうやって飛ばしてるの、あれ。


「わー、かわいいー♪ ねね、あれもガンダムなのかなー」

「今までのとは毛色が違うでちね」

「やや先輩、あれは」

「SDガンダムですね」


海里の説明をキャンセルしたのは、当然シュテル。海里が頬を引きつらせたのを、僕は見逃さなかった。


「SD――スーパーデフォルメ化した、ガンダムのキャラです。確かあれは、武者號斗丸でしたか」

「キャラ? あれはロボットではないのか」

「そういう生命体がいる、架空世界・物語の登場人物なんだよ。
ガンダム本編に出てきたキャラやロボットをモチーフに、ちょくちょく展開してるんだ。
あれは號斗丸(ごっどまる)――機動武闘伝Gガンダムに出てきた、ゴッドガンダムモチーフな武芸者キャラ」

「なるほど、だから二刀流か。しかしビームが効かないのは……Iフィールドか! 世界大会の映像でやっていた!」

「多分ね。LEGEND BB版とはいえ、いい動きしてるなぁ。あれ、相当作りこまれてるよ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


なにこれ……! 全然引きはがせない! てーか斬撃が鋭すぎる!

あっちこっちが炎に焼かれ、切っ先で削られ、ノワールはさほど経たずに傷だらけ。

炎の乱舞からまた右刃での刺突が飛び、右肩上が一気に吹き飛ぶ。そこから刃が返り、首に向かって左薙一閃。


ノワールは伏せて回避するものの、そこを狙って左刃での刺突。ビームライフルショーティーで刃を弾き、ノワールは……頭突き!?

お姉ちゃんは武者ガンダムの胴体へ飛び込み頭突きし、小さなボディを思いっきり吹き飛ばす。


「お姉ちゃんナイス!」

「その羽織」


ビームライフルショーティーを一旦仕舞い、両肩のショットガンをパージ。そのまま両手で持って、銃口を武者ガンダムに向ける。


「邪魔なので脱いでもらいます!」


そうしてショットガンは一気に三連射……そこで落下していた武者ガンダムが身を捻り、二刀を振りかぶりながら。


『猛ろ、爆裂刃! 熱破刀!』


刃から炎を噴射。それを左薙に振るい、炎の衝撃波をこちらへ放つ。当然散弾はあっさり飲まれ……ノワールは急速上昇で退避。

いや、ぎりぎりで間に合わない。ガードするも、衝撃波に焼かれながら吹き飛ばされる。


「く……! なんですかあの子は! 幾らなんでも熱すぎます!」

「言ってる場合じゃない! 来るわよ!」


そして周囲へ広がった炎を突き破り、武者ガンダムが再突撃。ショットガンを構えると、二刀での刺突が走る。

銃口を塞ぎ、更に銃身を溶かしながらこちらへ……お姉ちゃんは慌ててショットガンパージ。

刺突を伏せて避け、宝玉のある胴体部へ左エルボー。……その瞬間、ノワールの頭上でショットガン爆発。


その勢いも加味されてか、武者ガンダムはわりとあっさり吹き飛ばされた。

……リーチの差と、HGCEストライクガンダムの稼働に助けられた。じゃなかったらこうはうまくいかないでしょ。

でもどうするの。わたしならともかく、お姉ちゃんじゃああれに対応は。


「キリエ、ノワールE・O・Dスタンバイ!」

「それしかないかぁ……!」


急ぎコンソールを叩き、粒子出力と制御開始。その間にノワールは真正面から突撃……マジですかー!

ビームライフルショーティーを取り出しジュッテ展開。そうして武者ガンダムと肉薄し、乱打戦へ突入。

猛る炎の刃をジュッテで捌きつつ、ショーティーで頭を中心に狙う。まぁ、胴体部は羽織のせいで駄目だものねぇ。


「ちょっとお姉ちゃん、無茶しないでよ! 本来はこんな使い方、想定してないんだから!」

「そこは熱血でカバーします!」

「こらー!?」

「それにキリエもいてくれる! ならば」


お姉ちゃんはアームレイカーで素早く何度も殴りつけ、細かい腕の制御に集中。

防御用のジュッテすらも斬撃武器として利用しつつ、武者ガンダムと対等に渡り合う。


「私に恐れるものなんてありません! 熱血&根性&お姉ちゃんパワーが、私の源!」

「……もう」


サイズ差なんてガン無視で、お互い攻撃を捌きながらひたすら蹴り、斬り、突き、殴る。知恵なんて感じさせない、本能的なせめぎ合い。

その間に放たれる数百発にも及ぶ弾丸は外れるけど、それでいい。こっちは……制御完了っと。

やっぱり顔面付近は守りが入ってないらしく、武者ガンダムの頬などに傷が入り始めた。


でもこちらもちょっとやばい。傷が更に多く……ううん、深くなっていく。炎だから、プラスチックも軽く溶けてるみたい。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


そこでお互いに頭突き……駄目だ、相手の子も揃って馬鹿だ。でも頭部質量は当然向こうが上。

衝撃でよろめいたところを狙い、また両の刃で刺突。それがノワールの胴体部に深々と突き刺さった。

お姉ちゃんはノワールを後退させ、刃をボディから抜く……抜ける直前で刃から熱波発生。


それが胴体部前面を軽く吹き飛ばし、更に炎で機体全体が派手に焼かれる。やば……! 関節部が持たないかも!

それでもノワールは攻撃直後、隙だらけな武者ガンダムへ弾丸連射。

武者ガンダムが急上昇した事で回避されるけど、問題はそこじゃない。……あの陣羽織が外された。


ううん、後ろへと展開し、翼に変わった。その先に輝くのは、エメラルド色のダイヤ型クリスタル。

同じような翼が他に四枚広がり、兜頭頂部に折り畳まれていた飾りも展開。

鳥を模しているっぽいそれにも、同じ色の宝石が埋め込まれていた。そして隠されていた両肩部には文字が描かれている。


右肩が『爆』で、左肩が『熱』……あの子、とことんお姉ちゃんにピッタリな対戦相手みたい。


『スーパーモード――爆熱の陣!』

「爆熱……ならば私は熱血です!」

「意地張ってる場合じゃないわよ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


出た……! 號斗丸の全力形態! あの展開した翼は爆熱心眼翼と言って、プラモだとクリスタル部分は一つ一つクリアパーツ。

そして頭頂部でとさかみたいに伸びているあれは、鳳来鶴。両肩に浮かんだ文字は爆熱の紋章。

両腕手っ甲から金色の爪――爆熱甲も伸び、號斗丸は刃から更に激しい炎を噴き出す。


あれから必殺技が繰り出されるわけだよ。でも感動だなぁ、シリーズ展開当時のプラモはあそこまで動かなかったし。


「ヤ、ヤスフミー! あれなに!」

「必殺技だよ。言ったでしょ、架空世界のキャラだって」

「メカとしての機能じゃなく、ボク達のリミットブレイクみたいなもの?」

「それ。普通ならこのまま決まるんだろうけど」


炎のダメージで、ノワール・ガンナーは関節部もやばい。下手に動けば崩れてそのままだ。

でも一体何人が気づいているだろうか。ノワールが放ったビーム弾丸、そのほとんどが地面すれすれで静止しているってのを。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『唸れ爆裂! 轟け熱波!』

「……それを待っていました!」


武者ガンダムはたぎる炎を振り上げ、バツの字斬り。そこでお姉ちゃんはノワールストライカーを分離・射出。

こちらへ迫る炎の斬撃波へと叩きつける。更にもろくなっている両腕を横に広げ。



『熱火爆輪斬!』

「ノワールE・O・D――イグニッション!」


その瞬間、炎の斬撃波……いいえ、奔流とも言うべき巨大な爆炎がこちらへ放たれる。でもこちらも奥の手起動。

静止状態にあった粒子弾丸数百発が再始動――空中で静止状態にある、武者ガンダムへ鋭く射出される。

ストライカーは炎にあっさり飲まれるものの、火気も積んでいる関係で大爆発。それが炎の勢いをせき止める。


『……なにぃ!』


これが最後のネタ振り。攻撃を防がれたと驚いている間に、弾丸達は次々と着弾。

姿は爆炎で見えないけど、こっちのレーダーには捉えられている。あの厄介な羽織も脱いじゃっているから、防ぐ手段はないって感じ?

足や関節部、脇腹などが撃ち抜かれ、ボディ部は見事に破損。しかも攻撃直後だから大した防御もできず。


そう、これがノワールE・O・Dよ。発射したビーム粒子を誘導弾が如く制御し、相手の四方八方に展開。

一気に撃ち込み穴だらけにするという……今回は変則系だったけどねー。

ガン=カタもどきやりながら、発射粒子全てを制御下に置くなんて、もう嫌だー。


『馬鹿な、私の號斗丸が……くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』


號斗丸とやらは派手に爆散。その爆風に煽られ、こちらに警告音が鳴り響く。右膝が衝撃で崩れ、慌ててノワールは膝をつく。

……それでお姉ちゃんとほっと一息。相打ちにならず済みそうなので安心していると。


≪BATTLE END≫


試合終了の声。そうして粒子による世界が消えていく中、わたし達は……響く勝利宣言に歓喜する。

それで壊れたガンプラを回収し、それでも堂々と礼をしてきたあの子へお辞儀。それから近づき、握手してお互いの健闘を称える。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


なんというか、あれだね。第二ブロック、何気に強敵がたくさんかもしれない。あの號斗丸も相当だったし。

それとメールしたら、タツヤがめっちゃ楽しそうだった。うん、なによりです。

とにかくその日の試合は全て終了。キリエとアミタ、ダーグもご覧の通り無事に勝ち抜いた。


陽が傾き始めた中、唯世達とは現地で解散。応援のお礼として、みんなにケーキでもおごろうと決めた。

それで僕達は最寄りの模型店へ入り、フェイトのプラモ購入……だけじゃないけどねー。

壊れたパーツも少なからずあるし、僕やダーグ達の資材調達もある。……僕達、資金は潤沢だからなぁ。


なお双子は……やっぱりディアーチェにべったり。うちのベビーシッター、実は王様です。


「でもアンタ、ガンプラってなにがいいの? 初心者向きとかは……なんかMGとか、PGとかってあるけど」

「そうだなぁ。作るのが簡単となると……例えばこれとか」


僕が取り出したのは、HGUCジム。ファーストに出てきた、ガンダムをベースとした量産型MSだね。


「ジム? なんか弱そうな」

「まぁ否定はしない。量産型だし、性能的にはガンダムとかに譲るからなぁ。
このプラモが出たのはかなり前だし、可動域とかもそこまで広くないんだ。
でもパーツ数が少なくて、とにかく組みやすいの。シンプルなデザインだからってのもあるけどさ」

「なるほど、パーツ数が多いとその分って感じなのね。……でもこれ、HGっていうのよね。MGとかって」

「一応メガサイズ以外ならその辺り、規定はかなり緩めだよ。でも……HG以外をバトルで使う人は少ないかな」


ティアナと一緒に、棚に陳列されているMGZガンダム、そしてνガンダムをのぞき込む。おー、やっぱでかいなー。


「HGは劇中サイズの百四十四分の一、MGは百分の一、PGは六十分の一に設定されているんだ。
でもサイズが上がれば上がるほどパーツ数も多いし、作る難易度も上がる。更に価格もやっぱり上がる」

「その分強いとか」

「ところがそこの辺り、バランスがあるんだよ。サイズ差って機動力や取り回しにも影響するところだからさ。
だからガンプラバトルの中心となっているのは、手軽に入手しやすいHGなんだ。火力・機動力のバランスもいいから」

「じゃああの金ぴかは」

「……吉富先生のアルヴァトーレだよね。あれ、プラモ出てないんだよ。プラ板とかを組み合わせて、フルスクラッチで作ってる」

「マジか! え、それであの完成度と強さなのかよ!」

「吉富先生、学生時代はプロモデラー目指してたような人だしね。
だからダーグ、マジで勝てたのは凄いよ。聖夜市近辺だと名の知られた人だから」


そんな人だとは当然知らないダーグ。今更でも歓喜に震え、握手した手を握ったり開いたりしてる。


「とにかく一番いいのは、自分が作りたいものを作る……かなぁ。ガンプラに限らず模型って趣味だからさ、モチベーションが大事なのよ」

「あ、それは分かるわ。ディアーチェ達も好きなものを作って、それでよね」

「えぇ。作品知識に乏しいのが難点でしたけど、フォルムでピンときたものを」

「ヤスフミ、これこれ!」


どうやらフェイトもピンときたらしい。まぁ例えPGでも覚悟を決めて……でもフェイトはいつでも予想を飛び越える。


「これかわいいよ!」


フェイトが持ってきたのは、ピンクロングヘアーなメイドさんが描かれた箱。女の子は刀を持ち、ややぶっきらぼうな顔を向けていた。

ティアナが、そしてシュテルまでもがあ然とし、信じられない様子でフェイトを見る。


「あ、ホイホイさんか。確かに可愛いね」

「うんうん!」

「フェイト、一応確認させてもらうけど……これガンプラじゃないよ?」

「え、そうなの!?」


分かってなかったかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! どう見てもガンダムじゃないのに!

違うの分かった上で、『可愛いから持ってきた』って感じだと思ってたのに!


「あのね、これはホイホイさんっていう漫画の登場ロボットなのよ」

「……それでもロボットなんだ。でもなによ、この美少女ロボットはなんのために武器を」

「ゴキブリを物理的に駆除するため」

「「はぁ!?」」

「ヤスフミ、それはどういう……重い設定などは」

「ないない。劇中の世界ではね、害虫が完璧な薬剤耐性を持ってしまったの。だからゴキブリホイホイやコンバットとかも使えない。
そこで狭いところに逃げても対応できる、駆除用ロボットが開発されたんだ。だからほら、スケールも一分の一って」


箱の下を指差すと、四人がそこに注目。商品名の上部には、確かにスケールが表記されている。

なおこのプラモはあのコトブキヤが作ったもの。プラモっていうのは、ガンプラだけじゃないんだよね。

いろんなところが自社の得意技術を結集し、売り出しているわけだよ。だからここには夢の箱がたくさん。


「……すげぇなおい。これはマジで駆除は」

「さすがにプラモだからできないよ。まぁガンプラではないけど、これにしてみる?
コトブキヤのプラモとしては、パーツ数も少なめでかなり作りやすいらしいし」

「うん……よし、じゃあこれも買って。ガンプラも作ろうっと」

「それがいいか。素組みだったら二時間もあれば作れるだろうし……ならあとは」

「あれ、これって」


フェイトが取り出したのは、黒いガンダムが描かれたプラモ。ブロック状の大型スラスターを持つ両足に、頭頂部の白いバイザーに目を引かれる。

この白いバイザーは高性能光学センサー・ユニット。明暗・熱・速度・形状・相対距離など様々な情報を得られる目。

フロントスカートにはアームユニットが設置され、右手に持つライフルはサブマシンガンのように銃身が短い。


更に弾倉となるEパックも二個連結され、装着されていた。あとフェイトが一番注目しているのは、背中のシールドブースター。

左右非対称となっているそれから炎を放ち、黒いガンダムは鋭く飛んでいる。これは、確か。


「アドバンスド・ヘイズル……おぉ、再販されてたんだ!」

「アンタ、それって」

「電撃ホビーマガジンで連載されていた、Zガンダムの外伝作品に登場するMSですね」

「そうそう」

「黒い、ガンダム」


フェイトはまじまじとアドバンスド・ヘイズルに見入る。パーツ構成を思い出し、これならさほど難易度は高くないと踏む。


「作りたくなった?」

「うん」

「じゃあこれも追加だね。ヘイズルなら僕も前に作った事があるし、お勧めだよー。名作キットなんだから」

「これで私も……よし!」


こうしてフェイトもまた一歩前進。アイリ達がやっぱり不安げだけど……大丈夫、それは当たると思う。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そして夜――帰宅してから……リビングで唸る。目の前にあるのは、半壊状態なAGE-1フルウェポン。

クレイモアミサイルも新しいのを作っておかないと。意外と大変なんだよなー、弾を詰めるのとかさ。


「早速AGE-1がぶっ壊れました」

≪今更な情報ですね≫

≪なのなの≫


なのでまぁ、早速手を動かしているわけで……吹き飛んだ右肩や足は、新しく作りなおした方がいいなぁ。

そういうわけで複製しておいた予備パーツを使い、内部構造も含めて組み込んでいるわけで。


「あの、修理するなら直すの手伝うよ。こう、修理魔法を使えば」

「それはつまらないから駄目」

「どうしてー!?」


バルディッシュを取り出したフェイトが、涙目でまた唸り出す。あぁ、でもよかった。

魔法を使おうとするだけ成長している。FSガンダムみたいに力技をやられたら、ほんとなぁ。

なお隣ではシュテル達が、自分のガンプラをせっせと直していた。なおディアーチェとユーリはべったり。


どうもあのラファエルガンダム、ユーリと一緒に作ったみたい。ダーグとキリエ達は隣の部屋で作業に集中している。

ほら、少なくともキリエ達は僕とやり合うの決定だからさ。いろいろ気を使ってるのよ。


「ヤスフミ、二ミリのピンパイスはまだ使いますか」

「あ、もう大丈夫だよ。他に必要なものは」

「では三百番の紙やすりを。レヴィにはデザインナイフの代え刃をお願いします」

「了解」


工具も共用なのでまぁ、忙しいわけで。とにかく指定されたものをすかさず二人へ渡す。


「ヤスフミ、ありがとー。スプライト、すぐ元気にしてあげるからねー」

「ルシフェリオンも、大義でした。ヤスフミの方もAGE-1は大丈夫そうですね」

「まぁね。ただちょい再調整しとかないと」


今日の経験から考案した新武器もあるし、それも早急に作っておかないと。あとはまぁ、あれだよね。

また二体で大暴れとか、そういうお話じゃない事を祈るばかりだよ。そこだけはかなりマジで……あ、そうだ。


「ねぇシャーリー、千早の試合はどうだったの?」

「千早ちゃん? ……そっか、なぎ君はシュテル達とバトル中だったものね。ネットには」

「まだ上がってない」


そこでシャーリーが困り顔で、ティアナと顔を見合わせ始めた。なおフェイトはやっぱりついていけないようで、オロオロするばかり。


「どうしたの、なんで黙るの」

「ネットに上がっているのを見ても、意味ないと思うわよ。りまと一緒に試合チェックしてたんだけどね」

「うん」

「ガンダム00に出てくる、ガンダムデュナメス……でしたよね、シャーリーさん」

「カラーリングは青色に変更されてたけどね。それの狙撃で、相手方のクシャトリヤをワンショットキルだよ。なおシチュは市街地戦」


つまり隠れながらの狙撃戦で……あー、だからか。全然参考にならないから、二人も困り顔と。


「武装も私が見る限り、テレビで使われていたようなもの。ていうか、スナイパーライフルしか使ってないんだけど」

「……確かに千早、去年の試合はそれで出てたのよ。狙撃系は肌に合うらしくて。でも幾らなんでも」

「そのまま出してくるの、やっぱりおかしいよね。新作ガンプラはあるけど、世界大会まで取っている……とかかな」

「可能性はあると思う。でも断言できないのがなぁ。ほら、話したでしょ? ユウキ・タツヤの事。
タツヤは去年使ったザクアメイジング、改良した上で出るつもりらしいから」

「あー、ガンプラへのこだわりがあるなら、か。そこは失念してたなぁ。ちなみにその子はまたどうして」

「ザクってやられ役だけど、モビルスーツ開発史からすれば始まりであり名機。
それが改良されて、高機能機体が多く出たから……だって」

「そりゃ納得だ」


なんにしても千早との対戦、半端なくなるのは間違いないね。それはシャーリーとティアナも感じているらしく、妙に苦い顔。

こちらもできる限り手札を隠していきたいけど、最大なもんは出しちゃってるし……どうしてこうなったんだろう。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


大会初勝利の翌日――眠い。母さんがもう、夜通しお祝いとかするから。それでも放課後、店番に勤しんでいると。


「……いらっしゃーい」


お客様です。商品棚の間から出て、レジへ戻る。すると店の玄関から入ってきたのは、ピンクのワンピースを着た……女の子?

いや、女の子っていうかめっちゃ見覚えがある。そうだよ、髪型変わってないのになぜ気づかなかったのか。

脇には蒼髪ショートカット・眼鏡な……小学校一年生くらいかな。元気そうな男の子が声を上げ、ショーウィンドウへ走ってく。


「あ」


女の子は男の子を諌めようとするけど、あの子がすぐに速度を落としたので安心して手を引いた。


「もしかして、委員長」

「あれ……分からない?」

「いや、私服見るの初めてだから、ちょっとイメージ違うなって。ところで今日は」

「弟がガンプラ作りたいって。初心者用とか」

「あるよ」


棚の間へ戻って、なにがいいかなと……うーん、ガンプラスターターセットかなぁ。

これはHGUCガンダムとザクUが同こんされていて、更に制作How to本も完備。プラモ自体も元商品と違いアニメカラーなんだ。

あとね、これの特徴は武器が多い事。まぁザクが中心なんだけど、素組みで遊ぶとかならこれかなぁ。


ちなみにスターターセットには第二弾もあって、こっちは墨入れペンと塗装中心のHow to本がセット。

まぁ二体分入ってるから、価格は少々お高めなんだけど……あ、あの子の希望も聞いておかないと。


「イオリ君」

「うん」

「女の子でも作れそうなの、あるかな」


……その言葉がとても嬉しくて、胸が震えて。だから僕は笑顔で。


「もちろん!」


いいんちょに問題なしと答える。いいんちょがガンプラ……きっかけはなにか分からないけど、ほんと嬉しいなー!

こうして仲間が増えていく! こんなに嬉しい事はないよ! あぁ、昨日今日といい僕にも運が向いてきたのかー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


イオリくんや他の人達は、どうしてロボットで戦うんだろう。確かに、その答えはユウキ会長からもらった。

でも……自分でも踏み込んで、知りたくなった。どうして昨日のあの人達は、作品を壊してでも楽しそうに戦ったのか。

どうしてイオリくんは勝てた時、あんなに嬉しそうだったのか。最初はロボットが壊れなかったせいと思ってた。


でも違う。もっと違うなにかを得られたから、あんなに嬉しそうだった。一晩考えて、そう気づいた。

もしかしたら、それが強さの証明かもしれない。……もっと知りたい。イオリくんが見ているもの――ガンプラの事を。


(Memory26へ続く)







あとがき


恭文「というわけで……冒頭やら登場オリジナルガンプラは、読者様から頂いた拍手を元にしております」


(みなさん、ありがとうございました)


恭文「というわけで登場したビルドストライク・フルパッケージ。更にダーグとキリエ達も」

フェイト「ま、待ってー! あの、キリエの対戦相手が」

恭文「フェイト、ビルドファイターズではいろんな人が幸せに暮らしているの。あとは分かるね」

フェイト「ふぇー!」


(サプライズです)


恭文「というわけでお相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。えっと、吉富先生って」

恭文「初登場キャラだね。同人板のビルドファイターズ話では出てくるけど」


(名前は初公開です)


恭文「そして強かった號斗丸……いきなり半壊って」

フェイト「あ、それと頂いた機体アイディアはこちらになります」


(※●ユニコーンガンダム・フリーデン

ダーグが大会用に作成したユニコーンガンダム。なおデストロイモード固定である。
装甲の一部を赤くし、バックパックをシナンジュの物に変え、更に両足のスネ
側面にキックブースター、他にも機体各所にブースターが追加され機動力を大幅に強化した。

元々ユニコーンガンダムのポテンシャルが高いため改造箇所は少なく、武装もほぼ素(バックパックを変更したため寧ろビーム・サーベルが二本減っている)だが、追加武装にカレトヴルッフを装備。背面二機の推力偏向スラスターの間(背中の真ん中)にカレトヴルッフの接続アームがある。
更にシールド裏側にカレトヴルッフ用のロングバレルを装着し、用途に応じてガンモードのカレトヴルッフをロングライフルにできる。また、このロングバレルには独自の持ち手があるため単体でビーム・ライフルとして使用もできる。

上記のように改造箇所こそ少ないが、このガンプラの特徴は『シャイニング・システム』。分かりやすく言えばシャイニングガンダム、ゴッドガンダムのスーパー・ハイパーモードのユニコーンVer。
サイコフレームが緑色に発光し、能力が大幅にアップする。シャイニングモード発動時はクロスボーン・ガンダムと同じ形でフェイスカバーが開き、全ての武器のビームが緑色に変わる。
シャイニング、と銘打っているため『シャイニングフィンガー』、カレトヴルッフ銃口から巨大なビームの刃を形成し『シャイニングフィンガー・ソード』が使える。

上記の通り装甲の一部を赤くして赤と白の二色になっており、シナンジュのバックパックも同様のカラーになっている。


武装
60ミリバルカン砲×2
ビーム・マグナム×1
カレトヴルッフ×1
ビーム・サーベル(ビーム・トンファー)×2
シールド×1

特殊装備
シャイニングシステム

必殺技
シャイニングフィンガー
シャイニングフィンガー・ソード


※◇ノワール・ガンナー
アミタのガンプラ。ストライクノワールをアミタがより使いやすい中距離での射撃仕様に改造した。
アミタのイメージカラーの青を各部位に塗装。角パーツは紅く塗装。一度破損した肩パーツには、逆転の発想(開き直ったとも言う)と言うことで射撃武器を取り付けるアタッチメントを装着。
反対側にも同じ改造を施し、両方に接近専用のビームショットガンを装着。

武装はストライクEの装備に加え、ストライカーにはブレードは外され、エール同様のビームサーベルを装備し、もとのブレードの位置には可変式ビームガンを装着した『ANGストライカー』を装備。
ちなみにアミタ・ノワール・ガンナー・ストライカーの略。更にビームライフルショーティにはサーベル防御用のジュッテを装備。

ビームサーベルはAGE-1同様にダガーモードとサーベルモードを使い分けることが可能。
戦法としては、中近距離からの絶え間ない射撃攻撃を取り、近づかれたらジュッテで防御。肩のショットガンで掃射、更に一斉射撃となる。

奥の手として発車したビームを停止させ、それを対象の四方八方の周囲に展開。一気に対象に向けて放つ『ノワールE・O・D』を発動できる。

「これが私のガンプラですっ!熱血&根性&おねえちゃんパワーからなるNKOパワーでがんばります!」

◇ノワール・スラッシャー
キリエのガンプラ。アミタのガンナーとは逆に近接使用。
射撃武器はビームライフルショーティのみ。しかし、各部位にスラスターを装着し、自力の機動力を底上げしている。
色は全体的にストライクルージュ見たいな配色で桃色基準に塗装。肩にはキリエの髪飾りの花を模したデカールを装着(ちなみに恭文に頼んだ。引き受けた恭文にたいして花のような笑顔を浮かべたのは……まぁ、言うまでもない)

ストライカーはレールガンを外し、ジャスティスなどのビームブーメランを装備。更にデスティニーのアロンダイトをストライカー上部中央に装備。
このアロンダイトには更にブースターを埋め込み、斬撃の威力と機動力の増強をしたものを装備した『KNSストライカー』(キリエ・ノワール・スラッシュ・ストライカー)を装着。

戦法としては、機動力で翻弄しつつ、ブレードを次々に切り替えて挑む接近戦が主体。

奥の手は仕込んだワイヤーを掌から放出。先端にプラフスキー粒子を蓄積させ、巨大なビームハンマーを構築する『ノワールS・R・I』。
「さ、それじゃ可憐な花のように。わたしもガンプラバトルで咲き誇るわよ♪」



さすがに、連続投稿は申し訳ないですし、体力的にも、ちょっとキツかったッス……

byバタンキューと倒れる通りすがりの暇人)


恭文「アイディア、ありがとうございます」


(ありがとうございます)


フェイト「あれ、スラッシャーは」

恭文「……次回、かぁ」

フェイト「まぁ、三体一じゃないし……ね?」

恭文「なおAGE-1はまだまだ続投予定。作者が作ったAGE-1も更に改造していくよー」


(ちょうどジャンクパーツと化したグランサやらがあるので。そのためにまず、Amazonでアデルをぽちり)


フェイト「え、そうなの? クロスボーンは」

恭文「……HGで原作版がまだ出ないから」

フェイト「そ、そっか」


(リアルで作ったものを出せるよう、できる限り頑張ります。
本日のED:あおい(CV:井口裕香) ひなた(CV:阿澄佳奈)かえで(CV:日笠陽子)ここな(CV:小倉唯)『夏色プレゼント』)



アブソル「明日、八月一日はお父さんの誕生日。だからプレゼントに、パーティーの準備」

白ぱんにゃ「うりゅりゅー♪」

サーナイト「あとはご主人様へお誕生日記念ご奉仕……うふふー」

キルリア「ま、まぁアイツにはいつも世話になってるし、そのお礼としてプレゼントを用意しないわけにも……ふん!」

黒ぱんにゃ「うりゅ……♪」

どらぐぶらっかー「くぅくぅー!」

ガブリエレン(お誕生日、楽しいなー♪)

ちびアイルー(……でも同時に注意が必要にゃ。本編中の旦那さんは誕生日、ロクな目に遭ってないにゃ)

ナインボール=セラフ(分かっている。我々でフォローしていくぞ)

アポリア(希望ある誕生日にしたいからな、全力を尽くそう)

ミュウツー(全く、世話が焼ける家主だ)

ミュウ「ミュウミュウー♪」


(おしまい)




[*前へ][次へ#]

25/26ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!