小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
ケース05 『ギンガ・ナカジマとの場合 その5』
そして、夜。僕とアルトとエリスさんはお話です。
いよいよ・・・明日だしね。
「・・・してエリスさん、明日は如何様に」
「あぁ、フィアッセやゆうひさん、コンサート関係者には私達が付く。仮に爆弾等の不審物があったとしても、それも任せてくれ」
≪では、私達の仕事は・・・≫
いつぞや恭也さん達とやったのと同じだよ。不審者の発見と排除に全力を注ぐ。
装備はオーケー。技能もオーケー。こっちの準備は完了だ。後は・・・どんな札が出てくるかによる。
「そういう事だ。・・・そして、これが会場の見取り図だ」
机の上に広げられる図面は、今回のコンサートが行われる会場。・・・結構デカイな。
3階建ての建物に地下1階の駐車場。進入しようと思えば、きっとどうにでも進入できる。
≪さて、あとは賊がどういう手で来るか・・・ですね。例えば爆発物等などを使ったテロ。例えば武装隆起による会場の徹底的な蹂躙。例えば出演者をピンポイントで狙った暗殺≫
「出来れば二番目はやめて欲しいがな。そうなると嫌でも来場している観客を巻き込む事になる」
≪それに、向こうにとってはリスクも高いでしょう。そうなれば、こちらとガチでやることになりますから。そうすると・・・≫
「1番目か3番目・・・だね」
出来れば、最後が一番ありがたい。それなら敵は少数。僕が出て相手すればいいんだから。
・・・いや、そうすると出てくるのは相当腕の立つ奴なのが決定だけどさ。だって、ピンポイントで侵入して暗殺して脱出だよ? 並大抵の腕じゃだめだって。
「とにかくアルト、明日は結構働いてもらうよ? 会場内を常時サーチ、フィアッセさんや出演者の人達の状態も常時把握。不審な反応を発見次第、エリスさんに連絡」
≪まぁ、仕方ありませんね。苦手項目ではありますが、頑張っておきましょう≫
アルト、基本的にそういうの最低限の機能しか積んでないしね。でも、今回はいつもとは違う。それでも頑張ってもらわないと・・・。使えるもんは、ばしばし使っていきましょ。
「あぁ、それと・・・渡すものがある」
「え?」
「君ももう大人だ。さすがにジーンズ上下はまずい。確か、バリアジャケットと言うのは使うわけにはいかなかったな」
僕はエリスさんの言葉にうなづく。さすがに今回は・・・ね。着れるなら着れるに越した事は無いけど、魔法を使うと、局にこれがバレた時に色々マズイ。使わない方向で行く。
・・・僕があんまルール違反の項目が多くならないように動けば、ギンガさんへの被害も少なくなるだろうしね。まぁ、最悪フィールド魔法で最低限の防御強化は可能だし、なんとかなるでしょ。
「と言うわけで・・・そろそろのはずなんだが」
そうエリスさんが自分の左手首に巻いている、銀色の腕時計を見ながらつぶやくと・・・部屋のドアが開いた。
入ってきたのは・・・フィアッセさんだった。四角くて白い箱を二つ、両手で大事そうに抱えながら、少し急ぎ足で僕達の方へ近づく。
「ごめん、待たせちゃった?」
「・・・あれ、フィアッセさん。どうしたんですか」
「いや、大丈夫だ。今話し始めたところだしな」
いや、だから・・・・なにが?
「あのね、恭文くん。これ・・・」
そう言って、エリスさんが僕にその箱の一つを僕に差し出す。
「あの、これは?」
「君の仕事着だ」
「急いで作ったんだ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ?
魔法少女リリカルなのはStrikreS 外伝
とある魔導師と彼女のありえる繋がりとその先のこと
ケース05 『ギンガ・ナカジマとの場合 その5』
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ま、まさかあんなのを用意していたとは・・・。まぁいいか。
とにかく、僕はフィアッセさんから渡されたもう一つの箱を持って・・・ある部屋の前に来ていた。
そして、ドアをノックする。
「・・・はい」
「入っていい?」
「うん、いいよ」
聞こえたのは女の子の声。僕の良く知る子。
なので、ドアを開ける。
「・・・なぎ君、どうしたの?」
「うん、ちょっとね」
そう、ギンガさん。なので、ここはギンガさんの部屋。ギンガさんはベッドの腰掛けて、結構楽な体勢にしてる。
「ギンガさん、これ」
とりあえず、箱を渡す。
「・・・これは?」
「えっと・・・かくかくしかじか・・・なの」
「い、いいのかな。私にまでそんな・・・」
「一応フィアッセさんの側に付いててもらうことになるし、そのためには・・・ってことらしいよ?」
「なら、もらっておく。・・・その、デザインもすごく好みだし」
嬉しそうに笑うギンガさんを見て、なんか・・・あれ、なんか・・・ドキドキする。
「・・・ギンガさんも女の子なんだね」
ギンガさんの表情が膨れたような顔になる。普段の仕事の時には見せない、年相応な女の子の顔。
「なにそれ。失礼しちゃうなぁ。私だってオシャレにも興味あるよ?」
「だって、普段は結構シックな服じゃない。陸士服とか陸士服とか陸士服とか」
「陸士服だけあげるのはやめてくれないかなっ!? あれは仕事着だからっ!! ・・・それはなぎ君とプライベートで会う事があんまり無いからだよ」
まぁ、そうか。大体仕事の時がほとんど。そうするとギンガさんは大体陸士服で・・・。
「私だって、オシャレする時はするよ? 今だって、一応・・・してる」
そう言ってギンガさんの服を改めて見る。ジーンズの上着に白の清潔感のあるシャツ。それに紺のロングスカート。
なんと言うか、改めて見ると私服のギンガさんはちょっと新鮮。
「・・・ね、なぎ君」
「うん?」
「ちょっと話したいな。隣、来て?」
そう言って、ポフポフとベッドを叩く。なので・・・そのまま、ギンガさんの隣に座った。
「これから・・・どうするつもり? 無事にここを超えて、ミッドに帰りついたら」
これからか・・・。うーん、やんなきゃいけないことは色々あるけどね。
「まず、六課に行って・・・謝り倒す。あぁ、師匠とシグナムさんとガチでやるのかぁ。怖いなぁ」
「そうだね、そこは必要かも。というか、本当に怖いとか思ってる?」
「・・・さすがに今回はぶっちぎりで僕が悪いもの。怖いって」
絶対に怒ってるだろうしなぁ。あぁ、死なない程度で済ませてくれると嬉しいけど。
「それから・・・」
「それから?」
「少し・・・考える。なにやりたいとか、どこいきたいとか。それで、自分の夢・・・見つける」
僕がそう言うと、ギンガさんが驚いたような表情を浮かべた。それで・・・なぜにちょっと涙目になる。
「だって・・・今まではそんなこと、一度も・・・」
「あくまで、考えるだけだから。それに、全然なにやりたいかとかも・・・さっぱりだし」
そっぽを向いて、ギンガさんから視線を外す。なんかこういうの気恥ずかしい。まぁ、方向性は・・・なんとなく見えてるけどね。こういうこと、仕事にしたいなと。
出世なんてしなくていい。ただ・・・戦って、何かを守る仕事を、ずっとしていたい。壊れそうになってる誰かを守って、先に繋げられたらなぁ・・・と。うーん、どんなのがいいのかなぁ。
「なら、これから考えていかなきゃいけないね。・・・あのね、なぎ君」
「うん?」
「こっち見て。目・・・逸らさないで欲しいな」
そう優しく言われて、ギンガさんをもう一度見る。顔・・・近い。
「私も、手伝うから」
ギンガさんが、真っ直ぐに僕を見つめる。どこか顔を赤くして・・・嬉しそうに微笑みながら。
「なぎ君の夢、探すの手伝う。これから・・・時間かかってもいいよ。探していこう?」
「・・・うん」
「でも、いきなりどうしてそう思ったの?」
・・・色々、考えたから。これから先の事とか、色んな・・・事。
「きっと・・・ね、忘れる事も、下ろす事も出来ない。飛び込むことは・・・やめられないと思う。それでも、変わっていきたいなと。忘れずに、下ろさずに、らしく変わって前に進めたら・・・いいなと。
実はね、スクールの人達の今の様子とか見てたら・・・ね。なんと言うか、かっこいい言い方すると・・・夢を追いかけたくなって」
「・・・そっか。うん、そうだったんだ。そうだよ、きっと・・・なぎ君だって、探していいんだよ。追いかけたって、いいはずだから」
そうだと・・・嬉しいな。本当に、そうなら凄く嬉しい。
「あと・・・ね」
「うん?」
「フェイトに・・・言われたんだ」
「え・・・?」
うん、言われた・・・ね。ずっと心配だったことや、不安だった気持ち、話してくれた。それで、約束した。
「何があっても、夢とか、居場所とか、探していくって言った時の気持ち・・・忘れないって」
「・・・そっか。やっぱり、フェイトさんなんだね。大好きな人だから・・・当たり前か」
どこか寂しげにギンガさんがそう言った。でも、その言葉を聞きながら・・・少し思った。
そう・・・なのかな? 思い出すのは、さっきの会話。僕、フェイトの事・・・別に嫌いになったとかじゃない。むしろ、その逆。なのに・・・家族としてのフェイトとの関係、受け入れ始めてる。今までは、変えたくて変えたくてたまらなかったのに。
なのに・・・なんでこんな・・・。
あぁもう、ダメダメっ! こんな気持ちで勝てるわけないでしょうがっ!!
「・・・とにかく、ギンガさん。明日・・・本当に居るんだね? 僕は知っての通りバカだけど、ギンガさんは帰る選択も出来るよ? それでも、残るんだね」
「うん」
だったら・・・一応必要だね。なんか偉そうだけど。
「わかった。なら、ちょこっとここからは真剣な話。・・・このスクールがどういう活動をしてるかっていうのは、もう分かってるよね? 狙われる要因も」
「それはそうだよ。なぎ君もそうだし、フィアッセさんからも話は聞いてるから。今回だけの話じゃなくて、こっちの世界中を回るチャリティー・コンサート・ツアーも行ったりしてるからだよね」
そう、それが大きな要因の一つ。腹立たしいことに、そういうのを疎ましく思う連中も居るのだ。全く、器量の狭い。
「そうだよ。それで・・・」
「コンサート自体を潰す・・・という方向だけじゃなくて、個人・・・フィアッセさんが狙われる可能性もかなり高い」
ギンガさんが真剣な顔で僕の言葉を引き継ぐように言った。・・・分かってたんだ。まぁ、当然だよね。ギンガさんは捜査官の仕事もしてるわけだし。
「フィアッセさんはこのスクールの校長でもあるけど、それ以上にスクールの活動やその理念のシンボルとしての意味合いが強いの。今回はフィアッセさんは出演しないけど、関係者として出席はする。
エリスさんもその辺り、相当気にしてる。万が一にも何か来た場合、エリスさん達が対処するだろうけど、もしそれでもダメな場合・・・」
「・・・私がやらなきゃだめだね」
引き算で行くとそうなる。なお、僕はどうしたのかと言うことなかれ。今の話は、僕が既に交戦中なのを前提としている。
現に、これと同じ状況が7年前に有った。僕と恭也さんが侵入した雑魚を片している間に、フィアッセさんを腕利きが襲撃。そいつには美由希さんが対処。そうして、エリスさんとガードの人たちを蹴散らして、そこそこ腕利きなおっさんストーカーがフィアッセさんを・・・である。
あぁもう、恭也さんと美由希さんが呼べれば問題無かったのに。いや、二人とも緊急で入った護衛の仕事に付いてるから今は動けないんだけど。僕の知る限りこういう戦闘が出来るのは・・・士郎さんとかヒロさんやサリさんか。でも、三人ともだめ。
士郎さんは本格戦闘出来る身体じゃないし、ヒロさんサリさんは六課から離れられない。つーか、動かせるわけがない。
あと、これは最初にも考えたけど、さざなみ寮メンバー・・・美沙斗さんや警防・・・。これもだめ。イギリスに呼ぶにはもう時間が無いし、リスティさんとかはともかく、美沙斗さん達は現在手が放せないとか。なんにしても今回の事、僕達だけで対処するしかないのだ。
「そうならないようにはする。僕も出来る限り頑張る。でも、フィアッセさんの側に居る以上、その可能性があることは覚えておいて?」
「うん、分かってるよ。でも・・・そういう時は出来れば助けに来てくれると助かる。私ね、ダメみたいなの」
ギンガさんが左手を見る。自分の・・・利き腕を。信じる拳を。
「正直に言うと、なんとか出来るかなとか考えてた。でも、さっきなぎ君が訓練してるの少し見せてもらって・・・ダメなのかなって。怖いの、凄く・・・怖いの。魔法無しで人を傷つけるのが。
なぎ君も知ってると思うけど、私の身体・・・すごく強いから。もしかしたら、魔法無しだと殺しちゃうんじゃないかって、考えちゃったの。私・・・なぎ君やエリスさん達みたいに背負う覚悟、出来そうにない。ダメなの、考えると怖いのが・・・止まらないの」
・・・そのまま、右手を左手に添え、ギュッと握る。
「なら、帰るのも選択だよ? ここで帰っても、誰もギンガさんを責めない」
「それは・・・無理。怖いけど、帰りたくない。絶対・・・帰りたくないの」
怖くて・・・怖くて、きっとそんな感情が支配している。だから、ギンガさんの身体が震える。
僕より背の高い身体が震えて・・・小さく見える。
「・・・僕も怖いよ」
「え?」
まぁ・・・何かあっても困るし、フォローはしとくか。
「ギンガさんも知ってるでしょ? JS事件の最後に・・・またやらかしてるしね」
思い出すのは、あの死神。銀色の髪と端正な顔立ち。そしてその中に・・・どうしようもない獣を飼っていた男。
その獣のために、何人も死んだ。局員もそうだし・・・ゼスト・グランガイツとレジアス・ゲイズ中将も。
その獣を止めるためには、もう殺すという手しかなくて。それを更正出来る可能性なんて、一欠けらも信じられなくて・・・。だから、殺した。アルトを手に、リインとユニゾンして・・・三人で命を奪ったという事実を背負った。
いや、フェイトやなのはにはやて、師匠達はともかく・・・他・・・というより、アルフさんがお冠だったなぁ。僕だけならともかく、リインまで巻き込むのは何様だーって。
そうしたら、話を聞いたリインが通信で首突っ込んできて、それでアルフさんと大喧嘩になって、それを同じく通信越しでリンディさんやクロノさん達が見かねて止めて・・・なんですか、あの通信混戦スマッシュブラザーズは。
まぁ、それでもなんとかなったけど。アルフさんも最終的には納得してくれたし。つーか、最後に乱入してきたフェイトに怒られて止まった。どうしようもなかったのも事実なんだからと。なにより・・・僕やリインの気持ちを考えて欲しいと。
でもさ、結局あれは負け戦だったなぁ。無茶してバカやって、それでも守れたもの・・・そんなに無いもの。無くして、壊されてばっか。
まぁ、そこはともかく・・・結構悩んだ。同じ事を繰り返すのかと、何度も・・・何度も・・・。
「リインも言ってたよ。怖くて・・・重いってさ。僕だって同じだよ。こういう戦い方する時は、やっぱり怖い。身を持って知ってるしね。こんな戦い方しても、全部はやっぱり守れなくて・・・ダメだって。
つーか、怖くて当たり前だよ。本当の意味で慣れるのもまた違うと思う」
なお、昔の戦国時代がどうとか・・・なんて話はスルーします。現代社会に照らし合わせて考えて欲しいね、いや本当に。
「なら、どうして・・・って、聞くまでもないよね。なぎ君はずっと言ってるもの」
「うん。・・・やっぱ、僕はバカだから」
今が壊されて、未来が消えるなんて認められないから。だから・・・戦って守るの。今を守り、望んだ未来へ繋げる。結果は、全部忘れず、下ろさず、持っていく。それが古き鉄だから。
先生がそうしてきたように、僕もきっと同じ道を行く。僕が行きたいから。あとは・・・その道をどう自分の居場所と繋げるか・・・だよね。そこ、しっかり考えていかないと。
「錆びだらけで時代遅れの鉄でしか生きられないんだと思う。・・・シティー派なんて僕の趣味じゃないしね」
「もう、またそういうふざけた言い方するんだから・・・。あの・・・ね、なぎ君」
「うん?」
「少し・・・借りるね」
え?
・・・そのまま、ギンガさんが飛び込んできた。僕の・・・腕の中に。
「・・・少しの間、肩・・・貸して欲しい。ここで全部吐き出させてくれないかな?」
「・・・うん、いいよ」
そのまま、僕はギンガさんをやさしく抱きしめる。そして、頭を撫でる。
ギンガさんはそのまま・・・僕に腕を回して、ギュッと・・・抱きついてきた。まるで子どもみたいに。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・そのまま、私・・・なぎ君の腕の中で寝ちゃった。
なんだか、いつかと同じような感じで恥ずかしかった。あの、特に変な事は無いのっ! なぎ君、私が寝ちゃったら、すぐに布団をかけて部屋を出て行って・・・あの、本当だからっ!!
目を覚ますと、もう日付が変わってた。午前0時に成り立てな時間。・・・な、なんかダメだな。なぎ君にギュってされたら、すごく安心して・・・本当にダメだ。
あと、書置きがあった。『・・・風邪引かないようにね』と。
なんというか、少し落ち込んだ。私の中でのなぎ君の認識が色々おかしいんじゃないかと思った。その、こういう時は寝顔が可愛いとかそういうことを言って欲しいなとか、ちょっと思ったり・・・あぁもう、なんだかダメだ。
でも、不思議。怖いの・・・少し消えた。抑えていただけで、あんなに怖かったのに。
・・・・・・とにかく、明日・・・というか、今日だよね。
そのまま私は服を着替えて・・・パジャマは持ってきてるからそれに着替える。それから、改めて布団に入って眼を閉じる。
でも、思い出した。なぎ君にギュってされた時の感触。優しく・・・だけど、力強く。私より小さい身体なのに、そんな事を感じさせないくらいに暖かくて、頼りがいがあって・・・。
もっと・・・触って欲しい。私、ただギュってされただけで、胸が震えて・・・嬉しくて、幸せで・・・。なんだろう、これ。私、こんなこと考えるような女の子だったのかな?
身体、熱い。呼吸がどんどん苦しくなって・・・あぁ、もうダメ。早く寝よう。なんにしても今はダメだから。
その、死亡フラグは怖いから。その、そうなるにしても今日を無事に越えないとだめなの。そこは、絶対に絶対っ!!
そうだ、今日を越えられれば・・・なんだ。頑張ろう、私はなぎ君を奪うって決めたから。明日を越えたら・・・思いっきり、なぎ君にアタックしよう。やっぱり、死亡フラグは怖いから。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・いや、そうなると俺はハラオウン家の親戚ってことになるのかね」
「そうなりますね。今後とも長い付き合いをよろしくお願いします」
「おう、こちらこそ頼むな。・・・ほら、もう一杯」
「あ、どうも」
・・・なぁ、アンタらマジか? いや、今のアンタらの会話はさすがにありえねぇだろ。もう笑えねぇ領域来てるから。永久封印したくなるから。
なお、それがどういう会話かと言うと・・・。
「ところで、挙式はいつにしましょうか」
「まぁ、ギンガ次第だけどな。でも、上手く行けば再来年の初頭くらいにはいけるんじゃねぇか?」
とか。
「でもよ、結婚式で誓いのキスって連続でしてもいいのか?」
「問題はないでしょう。一夫多妻制ですし」
とか。
「あとよ、夜の生活だけど・・・アイツは大丈夫なのかね。なんせ曹長さんは年齢的にアウトだけど、それでも二人だろ? 線も細いし、なんか押していくタイプってわけでもねぇだろうしよ。女一人満足させるのだって大変だってのに・・・」
「確かにそうですね。やはり若い時分、色々ありますから。実は、僕も妻とは色々と・・・」
「へぇ、そうなのかい。こりゃまた意外だな」
「自分でも意外でした。・・・それも有って、婚約こそしていましたけどいわゆる出来ちゃった結婚でしたから」
「おいおい、マジか? ・・・あ、でもそうだな。結婚した時期とお前んとこの双子が生まれた時期を考えると確かにそうなるな。
よし、俺もあんま得意って言える方じゃねぇが、少し教えておくか。あ、もちろん言葉でな。実地はマズイだろ」
「そうですね、実地はマズイでしょう。教えた瞬間にナックルとザンバーが飛んでくるでしょうし。なら、僕と妻からも教えていくことにします。特に妻は恭文とは本当の姉弟のようになっていますし、きっと協力してくれると思います」
・・・とか、そんなバカな話してるんだよっ! うん、俺も酔っ払ってたけど、それが醒めるくらいにちょっと引いてるよっ!? つーか、落ち着けよ提督と三佐っ! お前ら何にしてもやっさんとギンガちゃんとフェイトちゃんの気持ち完全無視じゃねぇかよっ!!
「まぁ、恭文とギンガとハラオウンの嬢ちゃんの説得にはサリエルに頑張ってもらうとして」
「え、俺もそのバカ計画に参戦決定っ!?」
「当然でしょう。アナタ、前回どういう締め方をしたか忘れたのですか?」
そ、そう言えば・・・やっさんに『ギンガちゃん×フェイトちゃん+リインちゃん×やっさん』の図式についてしっかりと説明するとかなんとか言ったような・・・。
え、あのノリだけで言ったのマジで実行するのっ!? 待て待て、これギンガちゃんルートの話だよなっ! それルートじゃねしっ!!
「問題ねぇよ。ギンガが一番に来るんだからな」
「そうですね。それになにより・・・どっちにしてもリインはプラスされます。一人増えようが同じことですよ」
「アンタがそんなこと言うなっ! そして忘れてるかも知れないけど、増えるのはお前の可愛い妹なんだよっ!!」
「忘れてるわけないでしょうっ! むしろ増やして欲しいからこういう話をしてるんですよっ!!」
凄まじくバカな発言を即答で言い切ったっ!?
「・・・あー、もしもし母さんですか?」
『クロノ・・・アナタ飲んでるの? 顔が真っ赤よ』
俺達の目の前に開いたのは空間モニター。そして、その画面に映ったのは・・・翡翠色の髪をした女性。あ、俺この人知ってる。
≪なお、もう仲直り自体は済んでいるという設定です。蒼凪氏がギンガ女史と108で仕事をしている間に・・・ですね。本編よりも早い段階で自宅は開放となりました≫
「でも、開放になってもすぐにイギリスに飛んだから意味ないんだけどな・・・って、なんで俺達こんな説明を?」
ヤバイ、今回カオス過ぎるって。マジでありえないから。
『あら、ナカジマ三佐まで』
「あ、リンディ提督。いや、こんな格好ですみません」
とにかく、クロノ提督が通信をつなげたのはリンディていと・・・えっ! なんか母親に連絡取り出したっ!?
「実は・・・かくかくしかじか・・・というわけで、母さんも協力をお願い出来ませんでしょうか」
するわけないだろうがボケっ! いくらなんでもアンタ酔っ払いすぎだっつーのっ!!
でも・・・あぁ、よかった。神はやっぱり居たんだ。この状況で自らまともな人間を持ち出すとは・・・クロノ提督、愚かなり。きっとリンディ提督は怒るだろう。本人達の意思を無視してバカなことを言い出す息子を。ついでにそこの父親も。
うし、これでまた美味しく酒が飲めるな。いや、よかったよかった。
『分かりました、私も全力で協力しましょう』
酔っ払ってない人が思いっきり肯定しやがったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
「あー、リンディ提督? マジですかそれ。つーか、いいんですか」
『構いませんよ、ナカジマ三佐。・・・実は、私もそうですし、家族全員心配していたんです。フェイトは少し事情が複雑な子ですし、そういうのも受け入れてくれる人が相手でないと、やっぱり・・・ですから。
なにより、あの子自身もそれに怯えている節があります。今まで浮いた話の一つも無いのも、本人は否定するでしょうけど多分それ・・・ですね。だったら・・・第三夫人でも恭文君がいいかなと。それに、一夫多妻制自体はミッドでは違法でもなんでもありませんから』
「まぁ、そりゃそうですがね。さすがに俺も大丈夫かなと思ってたんで・・・」
「実を言うと、僕も少し・・・」
思ってたんならこんな話するんじゃねぇよっ!!
『まぁ、色々と問題はあるのかも知れないですけど、一つの愛の形ではあると思うんです。恭文君なら、子どもの頃からどういう子かは知っていますし、私も家族のものも安心して預けられますから。
なにより、あの子自身もフェイトのそういう部分と向き合い、付き合っていこうとしているはずです。例えそれが恋愛関係じゃなかったとしても・・・ですね』
た、確かにやっさんは受け入れてるよ。つーか、それに付き合う気満々だよ。
『あの子は、不可能を超え、今を守り、未来へと繋げる古き鉄ですもの。ヘイハチさんと同じく。だからきっと・・・大丈夫です。フェイトの怯えも、きっと取り除いていけると思います。
今だって、はやてさん達の話を聞くに、少しずつ変わっているようですし。それに・・・』
「それに?」
『あの子自身も、自分だけの家族というものを作る事に怯えている節が見えてるんです。普段は分かりませんし、あの子自身が9割方吹っ切っているから気になりませんけど、あの子も家族というものに深い傷をつけられています。きっと・・・一生消えない傷』
・・・そういやアイツ、いわゆる育児放棄受けてたんだっけな。それも10歳くらいの頃までずっと。親は互いに相手が居て、やっさんに興味が無かったらしい。
でも、それで死なせたら世間体が悪い。なにより犯罪だ。だから、やっさんに金をあるだけ送金して、後は顔も見せようとしなかったらしい。俺とヒロはさ、アイツが自分の親の顔覚えてないって言った時、衝撃だったわ。
それで、アイツもケロっとしてるんだよ。心底両親が好きじゃないらしくて、会いたくないのかって聞いたら、自分の家族はハラオウン家だから、会うつもりはないって言い切りやがった。
それ見た後で二人で酒飲みながら・・・話したっけ。家族って、本当になんなんだろうってさ。実の家族でもダメなもんはダメ。でも、ハラオウン家みたいに養子やら居候やらが居るとこでも幸せなとこは幸せ。どこでそういうの決まるんだろうな。
もちろん、今のやっさんが不幸だとかそんなことは感じてない。だって、こんなバカな話になるくらいにアイツの事考えてくれる家族が居るんだから。フェイトちゃんも同じだな。
ずっと一人で・・・同じ景色と同じ時間の灰色の世界・・・か。もしかしたら、ハラオウン家への養子入りの話を断ったのは、ただ単にフェイトちゃんの事だけが理由じゃなかったんじゃ・・・。
「・・・それ、ハラオウンの嬢ちゃんも言ってましたよ」
『やっぱり・・・ですか。私、思うんです。あの子が刹那的過ぎるのは、そういう部分もあるからじゃないかと。だったら・・・この際一夫多妻制でも、いいんです。私にとって、あの子はもう息子なんです。息子が幸せになれないのは、認められません。
そして、フェイトとあの子に知って欲しいんです。自分の家族を持つというのは、確かに責任も重い事で、大変ではあるけど・・・幸せにも繋がると。まぁ、ようするに・・・恭文君とフェイトにとってカンフル剤になるなら、この話をしてもいいのではないかと思うんです』
なるほ・・・え、ちょっとまって俺っ! なに今流されかけたっ!? 常識的に考えてっ! 常識的に考えて、俺っ!!
「なら、せっかくですし・・・大家族になってもらいましょうか。俺もスバルも居ますし、八神んとこの連中にそちらさんも合わせりゃ、親戚含めて10人以上にはなるでしょ」
『そうですね。あ、でも一夫多妻制にならなくても・・・お付き合いすることになれば、これからはナカジマ三佐とは親戚同士になりますね』
「あ、そういやそうですね。いや、これからなにとぞよろしくお願いします」
『えぇ、こちらこそ。・・・ふふ、きっと賑やかで楽しい家系になりますね』
そう言ってリンディ提督とナカジマ三佐は顔を見合わせて笑う。ここだけ聞くと非常にいい話だろう。でも、忘れてはいけない。これは・・・『一夫多妻』を家族で支援するという無茶苦茶ありえない話をしているということを。
そうだな、具体的にどの辺りがありえないかって言うと・・・『本人達の意向を全く無視』・・・なところか? なぁ、ありえないだろ、これ。
つーか、お前ら落ち着けっ! 俺もちょっと今流されかけたけど、これはな・・・『ギンガちゃんルート』なんだぞっ!? なんでそこでハーレム行くんだよっ!! どう考えたっておかしいだろうがっ! 常識的に考えてっ!! 常識的に考えてっ!?
特に作者っ! お前だよ、お前っ!! なにこんなアウトコース走りかけてるんだよっ!!
『もちろん、本人達の気持ち次第ですよ? なにより恭文君の。ギンガさんとフェイト、それにリインちゃんの三人を受け入れ、愛し続けるだけの器量を持つことが絶対条件ですから』
「そうですね。まぁ・・・そこはこのサリエルが面倒見てくれるそうだから、心配はいらないと思いますよ」
あぁ、そりゃ安心だ・・・って、んなわけあるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
「つーか待ってっ! マジで待ってっ!! 俺はハラオウン家の縁者でも無ければ、ナカジマ家の縁者でもないからっ! ついでにリインちゃん・・・八神部隊長の家ともなんの関係もないよっ!! 俺こういう言い方するとあれだけど、アンタらとはブッチギリの他人よっ!?」
『あら、そんなことはありませんよ。フェイトから聞きましたけど、サリエルさんはヘイハチさんのお弟子さんで、恭文君の面倒をここ2年ほど見てくれたとか』
ま、まぁ・・・一応。いや、ダチなわけだし、状況が状況だったから、ついって感じで・・・。
『なら、あなたはハラオウン家の・・・私の息子の恩人です。他人ではありませんよ。・・・それになにより、一緒に美味しいお酒を飲んで、食べ、語る。それだけで人は家族のように親しくなれるのですから』
「そうだぞサリエル、男・・・いや、女もか。上手い酒を飲んで気持ちを通じ合わせりゃ、そりゃ家族も同然だ」
「そうですよ、我々はもう家族なんです。そんな他人などと・・・悲しい事を言わないでください」
「やかましいわボケがっ! そもそも通じ合ってすらいないって事実に気づけよマジでっ!! つーか、そんな人生の広辞苑を持ち出すなっ! よし、その広辞苑どこだっ!? 俺が今すぐ燃やしてやるからすぐに出せぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
でも、俺の叫びは届かなかった。そのまま通信モニター越しにリンディ提督も交えて話が始まった。
あ、あはは・・・・。なぁ、これなんだ? なぁ、誰か教えてくれよ。どこで道を間違えばこうなるんだよ。
≪・・・主、仮にも海と陸の高官がこの調子で、時空管理局は大丈夫なのでしょうか≫
「ダメだろうな、間違いなくダメだろうな。もうJS事件どころの騒ぎじゃねぇってこれ」
やっさん、ギンガちゃん、フェイトちゃん、ゴメン。マジゴメン。俺はこのバカ三人は止められないわ。
なお、他のハラオウン家の関係者にもこのバカ計画が話されたが、リンディ提督と全く同じ反応だったというのは、付け加えておく。この事から、フェイトちゃんの将来への不安はハラオウン家の内部では相当なものだったと言うのは、想像に難くないだろう。
で、この少しだけ後、この話で非常にゴタゴタしたのも想像に難くないだろう。
とにかく、俺は少し思った。普通とは違う。それは本人のみならず・・・家族にも関係してくるらしい。まぁ、俺は親父もお袋もガキの頃に死んでるし、兄弟や親戚も居ないからよくわかんなかったけど、もしかしたらこのバカ三人の反応は、無理が無いのかも知れない。
考えたら、フェイトちゃんはプロジェクトF関連。ギンガちゃんは戦闘機人計画。で、やっさんは生まれこそは普通だけどその後が普通じゃない。やっぱり、家族としては心配で心配で・・・たまんないんだろうな。
三人とも、話の内容はともかく、一応感謝しとくべきだと思うぞ? つーか、俺はちょっとうらやましいよ。こんな風に心配してくれる家族が居るなんてさ。
でもさ、それを含めても俺が巻き込まれるのはありえないって。あぁ、どうなんだろう、これ・・・。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そうして、決戦の朝が来た。僕達は朝一番でフィアッセさんやスクールの人達と一緒に会場入り。
あと、その前に・・・本当に朝早くに、フェイトに通信から通信がかかった。真剣な表情で、話が始まった。
『あのね、ヤスフミ』
「うん?」
『私の事は・・・気にしなくていいんだよ?』
・・・・・・よく言ってる意味が分からなかった。でも、すぐに分かった。
『前に言ってくれたよね。一番の味方で居るからって。でも、ヤスフミがしたい事があったら、その通りにしていいから。私の事、気にしないで進んで欲しい』
先の話をしてるんだ。
「・・・迷惑だった?」
『あの違うっ! そういうことじゃないのっ!!
えっと・・・私、弱いよね。JS事件の時なんて、特に。ダメで、ダメで・・・ヤスフミが声をかけてくれたのに、それでも・・・ダメで。バルディッシュが助けてくれなかったら、私、きっと壊されてた』
・・・らしいね。前にも言ったけど、話聞いてビビって呆れたから。
で、その空気を変えたキッカケがヒロさんだとアメイジアから聞いて、さらにビビって呆れた。つーか、スラッグフォルムでパニッシャーぶっ放したって聞いてまたビビった。アレはだめでしょアレは。ぶっちぎりの質量攻撃だってのに。
『だから・・・強くなる。力じゃない、心を強くしたいの。本当の意味で、折れない、鋭く切れる刃になりたいの。それで・・・その・・・』
「ね、フェイト。言いたい事分かるからそんなに申し訳ない顔しないで。・・・ようするに、やりたいことが出来たら、そっちに進んで欲しいってことでしょ? 僕が心配とかしたりしないように、自分も強くなるからーって」
『・・・うん。あの、ごめん。きっと私・・・今、ヤスフミのこと傷つけてる』
なんでそう思うのさ。フェイトはただ・・・僕の事応援しようとしてくれてるだけじゃない。
『それでも、きっと傷つけてる。・・・ううん、今までだって傷つけてたと思う。私、バカだよね。ヤスフミに大事な人を見捨てろって言ったり、分からないくせになんて言ったり。なのに、また同じ事してる。ごめん、本当に・・・ごめん』
僕はその言葉にため息を吐く。なんというか、心配性なお姉さんだと思った。
それから、通信越しにフェイトの顔を見る。真っ直ぐに。・・・やっぱり、おかしい。気持ち、変わってる。昨日と同じ・・・僕、家族でいいのかも知れないって思ってる。なんでだろ、なんで・・・こんな。
「ね、フェイト」
『うん・・・』
でも、言葉は続く。目の前の・・・お姉さんに対して。
「例えば、僕がフェイトの側に居て、フェイトの事守りたい、力になりたいって言うのがやりたい事だって言ったら・・・側に居させてくれる?」
僕がそう聞くと、フェイトがビックリしたような顔になる。それから、フェイトも僕を見る。通信越しに・・・真剣な顔で。
「心配するな・・・なんて、無理だよ。僕はフェイトとは、友達で・・・仲間で、家族だよ? で、大好きで特別。心配するに決まってるじゃん。しないなんて、絶対無理」
『ヤスフミ・・・』
「ね、どうかな? あ、でも・・・やっぱりダメだよね。前に一回断られてるわけだし」
『だめじゃ・・・ないよ』
少し冗談っぽくそう切り返して、これで話を納めるつもりだった。もともと・・・そのつもりだった。でも、フェイトから出てきた答えは・・・え?
『あの、もしそれが本当にヤスフミのやりたいことだったら・・・いいよ。そうじゃなくても、今はまだ、見つからなくて、どうすればいいのか分からない感じなんだよね?』
「そう・・・だね。局員になる道もあるかも知れないけど、やっぱりちょっと躊躇うとこはあるから。あと・・・僕、すっごくわがままだし」
冗談っぽく笑うと、フェイトもつられたように笑った。でも、表情はすぐに変わる。
『だったら・・・私も覚悟決めるよ。六課が解散したらになっちゃうけど、私の・・・補佐官になってみる? 資格はあるし、ヤスフミの実力なら問題ないもの』
「・・・いいの?」
『うん、いいよ。でも、それでも約束は変わらないよ? 自分の夢を探すと言った時の気持ちを忘れないこと。・・・あ、それに一つ追加だね』
画面の中のフェイトが、右の人差し指をピンとあげる。そのまま、話を続ける。
『そして・・・それが見つかって、ヤスフミの行きたい場所が私の側じゃなかったら・・・その時は、私の事は気にしないでそこに真っ直ぐ進んで。それが約束出来ないなら、私はヤスフミを側には置けない。私だって、ヤスフミの事大好きで・・・特別だよ? 友達で、仲間で、家族だと思ってる。
そんなヤスフミが私のために夢を諦めるなんて、絶対嫌だし、認められない。それで、私はヤスフミが真っ直ぐにそこに向かえるように、私のために夢を諦めないために、もっともっと強くなる。・・・とまぁ、こんな感じでどうかな?』
「・・・うん、約束する。フェイト・・・ありがと。それで・・・ごめん」
一杯傷つけて・・・迷惑かけてるはずなのに、僕・・・本当にごめん。
『謝らないで欲しいな。それを言ったら私だって・・・さっき言った通りだし』
「・・・なんか、二人ともどっちもどっちで悪いって事にしておかない? そうしないと、延々謝り続けることになるよ」
『あはは・・・。それもそうだね。じゃあ・・・私達二人とも、子どもで、未熟者で・・・ダメダメだったということで』
「うん。そういうことにしておきますか」
そう言って、二人で笑い合う。・・・うん、大丈夫だ。気持ち・・・消えたりなんてしてない。僕は・・・この人が好きだ。大切で・・・特別で。
でも、それでも家族でいいかなと思ってて・・・なんだろう、これ。
とにかく、またねと声をかけて通信を切る。・・・絶対に、無事に終わらせよう。そうじゃなきゃ・・・夢も、居場所も探せない。
それで・・・その、戻ったら告白しよう。なんか・・・嫌だ。急がないと、きっと何かマズイ事になる。
例えダメでも、結果は出そう。そうじゃなきゃ、きっとダメだ。
・・・・・・で、そこはさておき早速僕は警戒開始・・・なんだけど、その前に一つやることが出来た。
いや、その・・・ありがたいけど、や、やっぱりこれ・・・恥ずかしい。
「そんなことないよ。よく似合ってる。小さい恭也や士郎だね」
「ま、まぁそう言ってもらえるのは嬉しいですけど・・・って、小さいって言うなー!!」
ここは関係者用にあてがわれた部屋の一室。その中で僕は、お仕事着に着替えていた。
現在僕が着ているのは、僕のサイズに合わせた一着のスーツ。紺色で上下の無地。そして、下はノーネクタイで黒のインナー。これが昨日フィアッセさんとエリスさんがプレゼントしてくれた仕事着。
ただし、これはただのスーツじゃない。・・・特別仕様の戦闘用スーツなのだ。
「最新式の対刃・対弾素材で編み上げているから普通の服よりすっごく丈夫で、その上動きやすいんだよ。それに恭文くんに合わせて小刀や飛針のポケットも作ってあるから・・・」
「えぇ、おかげで暗器も使いやすいです」
なんて言いながら、袖に仕込んだ飛針を出したり入れたり。それを見てフィアッセさんとエリスさんが笑ってる。
≪しかし、よくあの短時間でこれだけのものを用意できましたね≫
「私の会社で開発しているものを流用しただけだ。対した手間はかかってない。・・・まぁ、君のサイズが無いので少し苦労したがな」
「お、お世話おかけしました・・・。というかごめんなさい、小さくてごめんなさい」
なんて言ってると・・・ドアが開いた。そちらを見ると・・・。
「おまたせー。ギンガちゃんも準備万端よー」
ゆうひさんが入ってきた。なお、出演者と言うわけじゃないので当然私服。
で、そこに連れられるようにして入ってきたのは・・・。
「あ、あの・・・ありがとうございます。私の分まで・・・」
そう、ギンガさんも僕と同じ戦闘服を作ってもらってたのだ。で、そのお着替え終了。
白のスカートにギンガさんの髪より少しだけ明るい色の薄手の上着。そして、その下は黒のインナーで、胸元には紫の花をあしらったアクセサリーがあしらわれている。
「ううん、ギンガちゃんも側に付いててくれるんだし、これくらいは当然だよ。それで、サイズはどう?」
「はい、バッチリです。だた・・・その・・・」
・・・あれ、なんでギンガさんは赤くなってるの? というか、どうして僕をチラチラ見る。
「ギンガちゃん、胸のサイズがキツイらしいんよ。なんか苦しいんやて」
「し、椎名さんっ!!」
「あぁ、あかんよ。うちのことはゆうひって呼ぶようにと言うたやんか。
しかし、うちも着替え手伝ったんやけど・・・すごかったでー♪ もうはちきれんばかりのダイナマイトボディっ! うちやフィアッセ、めっちゃ負けてるもんっ!!」
僕は聞こえない。うん、まったく聞こえない。何も聞こえない何も聞こえない・・・。
「あの、でも少しだけなので、大丈夫です。動く分には全く問題ないので」
「そっか。ならよかった。でも・・・ギンガちゃんやっぱり大きいんだ。ね、どれくらいあるの?」
「え、えっと・・・の・・・くらい・・・です」
「あ、私負けてる。それも2サイズくらい」
だから聞こえない。何にも聞こえない・・・。
「フィアッセ、ゆうひさんもその辺りで。・・・彼が居心地悪げに耳を塞いでいる」
「大丈夫だよ、聞かせてるんだから」
「そうやそうや」
「聞かせないでくださいっ! というか、この話はもう終わりですっ!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・そうして、なぎ君は会場を周りながら警戒を開始した。私はフィアッセさんとゆうひさんの側に。今は3階の通路を歩いている。
でも・・・結構大きい。吹き抜けになっていて、天井に大きなシャンデリアが吊るされていて・・・。
コンサート前で、みんなとてもはしゃいで・・・楽しそう。でも、どうしてもその気持ちに乗っかっていけない。
大丈夫、きっと大丈夫だから。
「・・・うちのコンサートってね」
会場を回って、関係者の方々に改めて挨拶をしているフィアッセさんの隣を、私は歩く。
すると・・・フィアッセさんが不意に話しかけてきた。
私の方に視線を向けながら・・・そうして、微笑みながら。
「こういうこと、結構多いんだ」
「あぁ、多いなぁ。どういうわけかようあるんよ」
「そうなんですか?」
「まぁ、多いと言っても毎回あるわけじゃないんだけどね。・・・前校長・・・私のママが初めてチャリティー・ツアー・コンサートを行った時もそうだし、恭文くんと初めて会った時も」
それでも、歌い続けているんだ。なにがあっても、絶対に歌う事をやめないで・・・。
「バカだって思うでしょ? たかだか歌を歌うためにここまでするんだから」
「え? あの、そんなことないです。バカだなんて、そんな・・・」
「本当にそう思ってくれる?」
「・・・・・・その、実は・・・バカなんて思わないです。でも、どうしてかなとは」
今回の事のために、なぎ君は居場所を賭けた。その、少しだけ前向きになってくれて嬉しいけど、それでも・・・。
「そっか、そうだよね。ギンガちゃんから見たら、それは仕方の無い事なのかも」
「恭文君にラブラブやもんなぁ。あぁ、若いってえぇわぁ」
「ら、ラブラブとかじゃないですっ! そ、その・・・えっと・・・」
好きではあるし、もっと近くに居たいとは思うけど、それで・・・その・・・。
「でも、あの・・・これ、なぎ君が言ってたんです。フィアッセさんやゆうひさんの歌がすごいって。その時のなぎ君見たら、すごく嬉しそうで、本当にフィアッセさん達の歌が好きなんだなって思って・・・」
「うん、そう言ってくれてる。もういっつもボロボロに泣いて、私やゆうひが申し訳なくなるくらい」
「それで、うちやフィアッセだけやのうて、他のみんなも思うんよ。あぁ、この子がきっと一番コンサートを楽しんでくれたんやろうなぁ・・・と」
・・・うん、そう言ってた。思いっきり言ってたよ。
でも、凄いなぁ。そんな風になぎ君に思わせるなんて・・・。うぅ、恥ずかしいよ。弾みとは言えなぎ君にその・・・歌うなんて約束しちゃったこと。きっと、フィアッセさんやゆうひさんには勝てないだろうし。
「ん? ギンガちゃん、どないしたん」
「あの、えっと・・・なんでもないです」
「なんでもないことないやろ。ほら、お姉さんに言うてみ?」
にこにこと非常に強い威圧感を持って迫ってくる。フィアッセさんは何も言わないけど・・・同じ。とてもじゃないけど、黙っているという選択はなさそうだった。
だから・・・その、私は観念して話した。
「なるほどなぁ・・・。確かにあの子も歌に関してはえぇセンス持ってるんよ。というか、フィアッセが先生なんよ?」
「そうなんですかっ!?」
「先生って言うか、護衛してくれた時にちょっと教えた程度だよ。それを言うなら、ゆうひだってそうでしょ?」
「いや、あの子可愛いからついついなぁ」
や、やっぱり負けてる。私・・・嫌だ、歌いたくなんてないよー! このメンバーに勝てる歌なんて、私は歌えないからー!!
「ふむ・・・。なんやギンガちゃんは勘違いしとるなぁ」
「え?」
「まぁ、これはありきたりなように聞こえるかも知れんけど・・・歌は勝つとか負けるとか、技量とかやない。心や」
心・・・?
ゆうひさんから出てきた言葉は、そんなありきたりな言葉だった。でも・・・なんでだろう、凄く心に響いた。
「歌ってね、不思議なんだ。自分の気持ち・・・大切なもの、全部が声に、音になって流れてくるの。ゆうひもそうだし、私も。恭文くんもそうだよ? 恭文くんの歌は・・・強くて、優しくて、真っ直ぐなの。あの子の想いが全部詰まってる。
だから、ギンガちゃんもギンガちゃんの歌を歌えばいいんだよ。ギンガちゃんの大切なものが詰まった歌を。でも、きっと・・・」
「きっと?」
「今、ギンガちゃんが、恭文くんの前でうたをうたったら、恭文くんへの『好き』って気持ちでいっぱいになるんじゃないかな」
今ひとつ・・・言ってる事がわからなかった。でも、それを否定する気にはどうしてもなれなかった。
だって・・・きっとその言葉はすごく大事で、とっても強くて・・・。
「・・・そうや、それならギンガちゃん。うちの十八番教えてあげようか?」
「え?」
「愛の告白にはうってつけの歌や。きっと、今のギンガちゃんにぴったりやと思うんよ」
そう、ゆうひさんが私の目を優しく見ながら言ってきた。そして、その瞬間・・・耳に音が入った。
なにか・・・細いものがひゅんと音を立てて飛んでくる音。私の身体、人より感覚が鋭いから。だから聞き取れた音。そしてその音の発生源が・・・こちらに向かってくる。
だから私は、右腕を伸ばした。・・・掴んだのは、細くて長い針のようなもの。そしてその先は・・・フィアッセさんに向かって。
でも、これなにっ!? この速度でこんなものが飛んだら・・・人の頭なんて、きっと簡単に貫ける。
「・・・止められるとは思わなかった」
声は前から。そして、風が・・・殺気が迫ってきた。
「でも、遅い」
それが私達の目の前で大きく跳ぶと、銀の煌きが頭上から何本も飛んできた。私はそれをフィアッセさんとゆうひさんを引っ張る形で後ろに下がり、なんとか回避する。
尻餅をつくようにして回避。私達の居た位置に針の雨が降り注ぐ。そして見る。目の前の・・・女の人?
赤いチャイナ・・・ドレスだよね? その上からブラウンのコートを羽織った女の人。そして、コートを脱ぎ捨てた。
手首にはホルスター。そこには先ほど投げられた針が大量に付けられている。
「これも避けるか。なかなかいいボディーガードを雇っている。やれやれ、暗器で一気に暗殺・・・というのは、無理な話か」
なに・・・この人の言葉。分からない。日本語とは違うから・・・こっちの世界の別の国の言語?
「・・・フィアッセさん、ゆうひさん、下がってください」
足音が聞こえる。それは後ろの方から。そっちを見ると、エリスさんと、数人のボディーガードの人が走ってくる。それは女の人の後ろ・・・私から見ると前の方からも。私は、二人を守るように立ち上がり・・・
「邪魔だ」
女性がその場でその身を回転させた。その瞬間、私はしゃがむ。・・・しゃがんで跳ね上がった後ろの髪に、何かをかすめる感触がした。
すると・・・後ろと前で人が倒れる音。後ろはともかく、前は見えた。あれは・・・さっきと同じ針。
「さて、フィアッセ・クリステラ。死んでもらおう」
その人は・・・ゆっくりとにじりよる。だから私は立ち上がり・・・構える。
「どけ、無駄な殺しはしたくない」
なに言ってるのかは分からない。でも・・・一つ分かる。ここで引いたら、フィアッセさんやゆうひさんに危害が及ぶ。そんなの、見過ごせない。
せめて、なぎ君が来るまでは・・・。
「残念だが、増援は期待しない方がいい。・・・相方が居るしな」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『・・・ということだ、私は無事だったから、今フィアッセ達についているが・・・そっちは大丈夫かっ!?』
あー、すんません。ダメかも知れないですっ!!
耳につけたイヤホンマイクでお話中。でも、正直頭抱えたいよ。つーか、そんな物騒な奴相手にギンガさん一人って・・・いや、言ってもしかたないか。ギンガさんは人より感覚が鋭いから、そういうの避けたり出来るんだ。ここは一時的でも任せるしか・・・。
なお、エリスさんには見切るのは無理だったとか。ここはしゃあない。暗器の飛んでくるのを見切るなんて、やっぱ難しいもの。
「はぁぁぁぁっ!!」
僕の右から飛んできたのは分銅。つーか・・・鎖鎌の鎖の先? しかも、その先に刃まで付いている。良く研がれているのか、照明の光を受けて輝いている銀色の刃。
あぁもう、なんつう前時代的なもん使ってるんだよっ! つーか、どうやって持ち込んだっ!?
≪あの背負ってたバックでしょ≫
うん、知ってたっ! それ知ってたよっ!!
そんな念話に相槌をうちつつ後ろに飛び、間合いから外れる。だけど、そこから僕と同じくらいの身長の男の手がくんと動くと、分銅が回転しながら上に上がり・・・また振り落とされる。
「エリスさん、ギンガさんお願いしますっ! 僕は・・・今はダメっぽいですっ!!」
イヤホンマイクに話しかけながら、また後ろに飛ぶ。すると、刃が地面に突き刺さる。
・・・鎖鎌の亜種というか変化形。分銅の先の刃は実に厄介。なぜなら、刀なんかで鎖を受け止めても、そこから分銅が勢い良く回転・・・というか、受け止めたものに巻きつこうとする。すると、それに付いた刃が斬るのだ。普通に受け止めたら多分、身体がずたずただ。
つまり、宮元武蔵がやったみたいに受け止めて、他ので攻撃・・・なんてのは無理。まぁ、良く考えた武器だよ。
「ほらほらぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 逃げ回ってんじゃ」
僕と同じくらいの身長のやつの右手が動く。分銅が地面から上がり、男の頭上に引き上げられるようにして移動。そこで回転する。
・・・警戒中、こいつを見つけた。短髪で細身で、黒のスーツを見につけた男。身長は僕と同じくらいで、やたらと猫背。年のころだと・・・老けてるように見えるし40?
「ねぇよっ!!」
分銅がまた飛んでくる。それを僕は左に避ける。でも、そこから追いかけるように分銅がこっちに迫ってくる。それをしゃがみつつ、後ろに飛んで回避。・・・くそ、厄介な獲物使いやがって。
「エリスさん、アルトにメールで座標は送ってもらいました。対処お願いします」
『あぁ、もう確認して向かわせている。君が見たものも回収済みだ』
会場一階にある吹き抜けの大ホール。アルトが妙な反応を見つけた。それはコイツが置いて行った袋。それを見たら・・・爆弾でしたよ。
とにかく、一個は氷結魔法で凍らせて止めた。でも、会場内に複数個存在している。エリスさんには連絡済みだからまだなんとかなると思う。
で、僕はコイツを尾行しようとしたら・・・勘がいい奴なのか、いきなり鎖鎌持ち出して暴れ始めやがった。いや、違う・・・ここを戦場に選んだんだ。あの獲物は、通路や狭いところじゃ生かせないから。
でも、まさかマジでフィアッセさんも狙ってくるとは・・・。とりあえず僕はこの鎖鎌持ちを何とかしないとダメだな。
『フィアッセとゆうひさんは心配するな。ガードをしっかり固めたら、私はすぐに彼女の所に戻る。・・・君は君の仕事をしろ』
「了解ですっ!!」
そこまで言って、通信が終わる。・・・さて、ちょっとお話かな?
「お前・・・なんでスクールを狙うの」
「はぁ? お前馬鹿か」
男があざ笑う。まるで正真正銘の愚か者を見るような目で・・・僕を見る。
でも、その間にも鎖鎌の刃付き分銅が襲ってくる。飛び、薙ぎ、空間を支配する。それを僕は回避。でも・・・その度に床や柱がズタズタになる。
ちょうどその場に居た関係者の方はなんとか退避してくれてる。エリスさん達のおかげで、僕は戦う事に集中できる。
つーか・・・居ても助けられんわぼけっ! マジで余裕ないっちゅうのっ!!
「金になるんだよっ! このスクールの事を疎ましく思っている連中にとっては、大金を出してもここを潰したいらしいからなっ!!」
そう言って、少し場が静まり返る。男が頭上で刃付き分銅を回転させて、それを投げるタイミングを計る。僕は・・・アルトを正眼に構える。
支配するのは程よい緊張感。心の中から頭をもたげてくるのは、それを楽しむ心。・・・やっぱ、こういうのは直せないみたいだよ。
ギンガさんやフェイトがどう言おうと、戦うのは、命のやり取りは、やっぱ・・・楽しい。
そして、分銅がまた飛んできた。だから右に避ける。・・・髪、少し持ってかれた。ほんの少しだけ。
「おかげ俺は大もうけだっ!!」
分銅が動く。僕の側頭部を狙うように、刃が迫る。
「・・・そっか」
だから僕は、後ろに大きく下がって回避。そうして、また1回転して左からこちらに飛んできた分銅に向かって・・・。
「だったら話は早い」
右手に持ったアルトを水平に構える。・・・集中しろ。斬ろうと思って斬れないものなんて、なんにもない。
アレは防御もダメ、回避も限界がある。だから・・・斬るんだ。
集中する。すると・・・体の中から力が溢れてくる。あれ、なんだろ。今までよりもずっと・・・強い。本当になんでも斬れる感じがする。ううん、これなら・・・斬れる。鉄だろうがなんだろうが、絶対に。
その力をアルトに乗せる。魔力じゃない、心・・・想いの力を。形なんて無くて、レアスキルとか魔力みたいに直接的にはなにか出来るわけじゃない。
でも、この力は強い。だって・・・今を覆すために、絶対に必要な力だから。
つーわけで・・・いくよっ!!
「・・・・・・チェストォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
そのまま・・・右から分銅に向かって打ち込むっ!!
一瞬火花が上がる。でも、アルトの刃はそのまま金属の錘も刃も断ち切る。僕は・・・アルトを振り切った。
分銅は、その斬撃により真っ二つになり、そのままホールの隅の方に飛んでいった。なお、鎖も斬った分は一緒に。隅の方で、それっぽいのが複数個落ちる音が聴こえた。
「な・・・!?」
男が驚く。当然だ。アレを一気に真っ二つにしたんだから。
「・・・なんか複雑な事情があるのなら、力になるとか必要なのかと思ったけど・・・それならよかった。うん、潰すね?」
一歩ずつ前へ歩く。男がたじろぐ。でも、遅い。
左手が動く。すると・・・何かが複数個飛んできた。僕は一閃でそれらを両断する。そして前に進む。両断したのは・・・小刀のようなもの。
「ね、お前心臓はどこ?」
「は?」
「どこかって聞いてんだよ、とっと答えろ」
・・・あれ、なんで目が震えるんだろ。おかしいなぁ、変な質問はしてないんだけど。
「み、右だ・・・」
「そっか、なら・・・攻撃は左にしておこう」
僕は・・・走る。
こんな奴に手間取ってたら、コンサートの開始に関わる。なにより、ギンガさんが危ないかも知れない。だから、ここで一気に潰す。
男の右手が動く。今度は・・・鎌を投げるつもりらしい。だから、僕の左手が動く。まず、飛針を数本投擲。それが男のほうへと飛んでいく。
でも、それは男が左に飛んで避ける。そこを狙って・・・鋼糸を投げる。鋼糸は男の胴と腕に巻きつき、縛る。そのまま引き縛ると、男の身体に食い込み、服を切り・・・肉を斬る。男がうめき、血が吹き出る。
使ってるのは0番。僕の技量・・・というか、こんな縛り方で殺すのは無理。やるなら首だよ首。
そのまま走り込み・・・構える。切っ先を先に向け、左手の鋼糸をしっかりと持ちながら・・・左手を後ろに力いっぱい引く。
男の身体にさらに鋼糸が食い込み、血が更に深く出る。でも、それは特に意味が無い。重要なのは、それにより男の体勢が前のめりに崩れたこと。
そこを狙って・・・!!
「はぁぁぁぁぁぁっ!!」
そのまま、男の左胸にアルトの切っ先を突き入れるっ!!
「ぐは・・・!!」
刃は中ほどまで身体に食い込み、身体を完全に貫通する。男の身体が震える。刺し込んだ部分から血が噴出す。赤く・・・鉄の匂いを放つ血が。
男の右腕がそれでも動く。鎌はあるし、僕が急所も外したからそうするのは当然。だから僕は・・・左手で鞘を逆手に持ち打ち込む。
「・・・往生際が悪い」
アルトを男の体から引き抜きながら、身体を捻って鞘を叩き込む。男の右腕がひしゃげる。
でも、それに構わずに僕は鞘を引いてすぐに順手に持ち変える。アルトも刃を返して峰打ち状態にする。そして・・・男の両側の鎖骨めがけて、上段からそれらを叩き込むっ!!
「抵抗せずに倒れてろっ!!」
単純な打撃。だけどそれゆえに・・・鞘とアルトの峰は男の身体に食い込み、骨を砕き、肉体を破壊する。
そのまま僕は、アルトと鞘を振り抜き、男を地面に叩きつける。
・・・響くのは砲弾が着弾したかのような衝撃。それにより空気も震え、誰も居ないホールに広まる。男はそのまま動かない。ゆっくりと血が床に広がっていく。
「・・・そのままジッとしてろ。そうしてくれると非常に助かる」
足音が聞こえる。そちらは・・・見るまでも無い。ガードの人達だ。
「ご無事ですかっ!?」
「なんとか。・・・コイツお願いします。で、遠慮しないでください」
速攻で潰したからアレだけど、もしかしたら切り札かなんか持ってる可能性もあるし。
「わかりました」
とにかく、僕はそのままガードの人達にソイツを任せて、走り出した。・・・爆弾は大丈夫。あとは、ギンガさんっ!!
≪・・・マスター≫
うん、分かってる。どうやら・・・簡単には通してくれそうにないみたいだね。
ホールの階段を走る。そうして一気に3階まで階段を上がり、そのまま広い廊下を走り出すと・・・ナイフやら拳銃やらなんやら持った奴らが10数人立ちはだかる。どうやって紛れ込んできたんだよ、あれ。
まぁいいや。んじゃ、一気に行くか。
僕はそのまま走り出した。
「行かせるかぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「やっちまえぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
まずこちらに走ってきたのは、ナイフを持った二人。僕はそれを・・・鞘からアルトを抜き放ち、一人の胴を斬る。
そしてそのまま踏み込み、もう一人の襟首を狙ってアルトを打ち込む。
そうして二人はそのまま倒れる。そして、左手を動かす。取り出すのは飛針。銃を持って狙ってきている連中三人に向かって、それを投げ放つ。
狙うのは銃口。寸分たがわずそこに飛針は入る。そして、連中が引き金を引く。・・・暴発した。当然痛いことになっている。もう書けないくらいに。
そこへ突撃。左に居た奴のわき腹を薙ぎ、真ん中の奴を左からの袈裟。そして右に居た奴はそのまま返す刀で右からの袈裟。
そうして、三人は身体から血を流しながら倒れた。
示現流の基本は左右の袈裟。というかそれだけで勝てるほどの打ち込みが基本。なので、僕も先生からたんまり教えられてるし、練習も継続している。
とにかく、これで五人。・・・時間にして数秒。それで五人がもう川の見える距離まで行ってる。その様子に他の連中が怯える。
・・・結局1と2と3の全部かい。まぁ準備のいいことで。
「・・・悪いけど、僕は優しくないよ? 背負う覚悟はするから、お前らも・・・死ぬ覚悟、決めろ」
そして、僕はまた飛び込んだ。コイツらを片して、ギンガさん助けるために。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
右の拳が飛ぶ。それを左の手を掌底にして側面を叩き、軌道を逸らして交わす。次の左拳も同じ。
そんなやり取りを何度も・・・何度も、繰り返す。その度に身体が悲鳴を上げる。あぁ、まずい・・・やっぱ無理かも。
そう考えていると、女性の右膝が飛んできた。狙いは私の懐。それを私は下がって回避・・・出来なかった。そこから足が飛んで、回し蹴り。
左の腕でそれを受ける。伝わるのは・・・本当に女の人とは思えないような力。それに何とか私は耐える。
足が下がった。・・・いや、左足に来た。それを私はモロに食らい、体制が崩れる。
そのまま足を曲げながら持ち上げ、こちらに向かって正面から蹴りが飛んできた。それを私は両腕を交差させて、ガード。だけど・・・そのまま吹き飛ばされる。
地面を数回転がる。だけど、それで終わるわけがない。女性が高く飛び・・・私に蹴りを仕掛ける。跳躍からの踏み下ろし。
それを今度は自分の意思で転がって、なんとか回避。そうしながら耳に凄い音が響く。距離を取って、そちらを見ると・・・硬いはずの床が・・・砕けていた。
「・・・つまらんな」
女性はなにか言ったと思うと、また飛び込んできた。そして、また拳のやり取り。
拳を避け、弾き、後ろに下がる。でも、身体が軋む。段々・・・痛みが走るようになってきた。うぅ、やっぱりリハビリ中だからだね。もうあんまり動けそうにない。
フィアッセさん達は・・・なんとか逃げた。エリスさんが連れてくれたから。でも、でも・・・この人をなんとかしないと、終わらない。
私は顔面めがけて飛んできた左手を身を捻って避ける。左の頬が切れる感触。というか・・・これ、貫手っ!?
「お前、なぜここに居る?」
私が左拳を固め、空いている胴に打ち込もうとする。だけど、次の瞬間左頬に衝撃が襲ってきた。
女性が肘を叩き込んできた。それでまた・・・左のめりに体勢が崩れる。
横目で見える。左足が・・・迫って・・・。
私はそのまま、左からの回し蹴りを食らって、吹き飛ばされた。勢い良く壁に叩きつけられ・・・身体が床に沈む。
「お前の拳は、つまらない。何の覚悟もない拳だ」
迫って・・・くる。だめ、身体・・・動かない。
「奪う事どころか、救う覚悟もない、空っぽの拳だ。ただ傷つけたくないと子どものように泣き続けてる」
痛くて・・・怖い。
「恨むなら、そんな身でここに出てきた自分を恨め。大丈夫だ、私はお前とは違う。死人の恨みを引き受けることなら、もう慣れている」
立ち上がらなきゃ・・・。でも、身体が・・・動かないよ。
「それでは」
女性が左手で私の襟首を掴み、引き上げる。そして・・・とても冷淡な目で私を見る。
右手を貫手に。ゆっくりと引く。よく見ると・・・爪に細工がしてあった。銀色のマニキュアと思ったら、あれは違う。鉄だ。鉄の爪を仕込んでるんだ。
「死ね」
私の胸元に向かって突き出された右手。そして・・・この人が何を言っているか分からなかったけど、その言葉だけは、意味が分かった。
私が・・・死ぬ? こんなところで・・・死ぬ・・・?
なにも出来ないまま。スバルや父さん達が居るのに。それに・・・あの子に、まだなにも言ってないのに。
その事実に気づいた瞬間、私は打ち込まれた貫手を止めていた。左手で手首を掴み、ぎりぎり胸元の手前で。
そしてそのまま・・・その手首を握りつぶす。
右拳を握り締める。女性が何か叫んでるけど、よく聞こえない。
その拳を、女性の胴に叩き込んだ。全力で、ありったけの力で。
「ごはぁ・・・」
端正な顔立ちが歪む。冷淡な瞳が驚きに染まる。右手から骨をへし折り、肉を圧迫する破壊の感触が伝わる。普段は感じない・・・とても怖い感触が。でも、私は手首を離さないから、距離はそのまま。だから、もう一発・・・。
いや、無理だった。女性の左手が貫手にされ、左から打ち込まれた。私はそれを手首を離して、身を右に捻って、ちょうど女性の身体の外側に向かって回避。
貫手が服を切り・・・私の胸元の花を散らす。それによって胸元が露わになるけど、気にならない。
私はそのまま今度は左拳を握り締めて・・・女性の左わき腹に向かって、拳を叩き込む。
女性の身体が歪み、私が拳を振り抜くと・・・私と同じくらいの身長の身体が簡単に吹き飛んだ。
そして、その身体が吹き飛び先ほどの私と同じように床を転がる。10メートルほどの距離が出来た。
女性は右手首を押さえながら立ち上がろうとする。・・・お願い、立ち上がらないで。私・・・こんなの、嫌なの。
でも、立ち上がった。そして、左手で暗器を取り出す。どうやら近づくのは無理と判断したらしい。
私は仕方なく、追撃のために走ろうとする。でも・・・その場で崩れ落ちた。
身体中が痛い。悲鳴を上げに上げまくってる。どうやら、私・・・もう限界みたい。
女性がそれを見て笑う。そしてそのまま暗器を・・・。
「はーい、そこまでだよ?」
投げ込もうとした瞬間、聞こえてきたのはそんな間の抜けた声。そして、女性の身体を銀色の細い光が縛る。そして、糸が女性の身体に食い込み、肉切り裂き、血を噴出させる
それから銃声が聞こえた。そして、女性が前のめりで倒れた。
それをやったのは・・・紺色のスーツを着た男の子。手には私も良く知っている刀。そして・・・ちょっとだけ服がボロボロ。というより、血が・・・沢山。
もう一人は金色の髪をポニーテールにして、白いスーツを着た女性。さっき、フィアッセさんとゆうひさんを連れてここから離脱したのに、そこにいた。
「なぎ・・・くん、エリス・・・さん」
「そうだよ。ギンガさん、ごめん。遅く・・・なっちゃったね」
「フィアッセとゆうひさんも無事だ。・・・安心して欲しい、もう終わりだ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・結局、襲撃はこの二人と、僕がぶっ潰した連中だけだった。まぁ、そこそこ腕利きだったけど・・・なんとかなってよかった。
爆弾の方も問題なかった。完全な時限式でスイッチでドガンということも無かったので、無事に処理は完了。
で、今回の襲撃事件の余波はとても大きかった。年が変わったすぐ後、スクールを疎ましく思っていた政財界の大物達が人生が終わるまでの間、ずっと臭い飯を食うハメになるのだけど・・・今回の話と関係ないと思うので、割愛する。
この辺りにはエリスさんのみならず、警防の方々やフィアッセさんを昔から良く知る月村家の方々の協力があったというのは、付け加えておく。
なお、美沙斗さんはこの一件について『まぁ、いい感じで大掃除出来たからよかったんじゃないの? ほら、年末だからちょうどよかったのよ』などと言ってたらしい。・・・なんかムカつくけど、自分で首を突っ込んだからここは気にしない事にする。
とにかく、僕は・・・ギンガさんと一緒に舞台袖で無事に始まったコンサートを聴いていた。生徒の方々が歌い、輝いている。それをなんか嬉しい気持ちで一杯になりながら見ている。
ギンガさんには僕が回復魔法をかけてなんとか動けるようにはなった。顔とかもそんなに酷い傷じゃないから、もうバッチリ。で、上着を貸してもらってそれを着ている。
いや、さすがに・・・ね。ギンガさん胸元しっかり見えてたんだもん。もう白い下着がバッチリ。
・・・あ、一つ訂正。僕とギンガさんだけじゃない。実は・・・もう一人居る。なお、フィアッセさんとゆうひさんにエリスさんとかじゃない。三人は現在、関係各所の挨拶も含めて関係者席に居る。
では、誰かと言うと・・・。
「・・・どうしてあぁいう無茶するのかなっ! ギンガ、自分がリハビリ中だって忘れてたでしょっ!?」
「わ、忘れてはなかったんです。ただ・・・その・・・」
「あー、マリエルさん。その辺りで。ほら、聞こえちゃいますから」
僕がそう言うと、ようやく矛を収めてくれた。・・・目の前に居るのは、今日は紺のワンピース姿で緑色のショートカットの髪にメガネをかけている女性。そう、本局の技術開発局に居て、デバイマスター兼ギンガさんとスバルの主治医のマリエルさんだ。
ゲンヤさんからギンガさんが帰らないというのを聞いて、休みを申請してこっちに来たらしい。で、あのすぐ後に到着して・・・お冠だ。
「・・・あの、マリエルさん。それでギンガさんはどんな具合ですか?」
「・・・今回は魔法どうこうじゃないから、身体に受けた傷はそんなでもないよ? 顔のほうも、恭文くんの回復魔法でなんとか大丈夫だし。でも、問題は中の方。
まだ身体が治りきってないのに、本当にフルで動いちゃうから、相当負担かかってる。完治は当分先になったよ。・・・ギンガ、戻ったら定期健診だよ? これは、絶対に絶対」
「はい、すみません・・・」
・・・な、なんというか居心地が悪い。うぅ、本当に申し訳ないよ。僕ギンガさんに迷惑かけたわけだし。
「あぁ、恭文くんが気に病む事無いよ。・・・六課を飛び出す選択をしたのは私もちょっとどうかなとは思うよ? でも、ギンガの説得、相当頑張ってくれたってナカジマ三佐やはやてちゃんからも聞いてるから。
・・・・・・ギンガ、気持ちはわかるけど、今回のはミスジャッジだよ。恭文くんやあのエリスさんが自分の仕事を早々に片付けてこっちに来れなかったら、本当にどうなるか分からなかったんだよ?」
「はい、すみません」
「まぁ、本当に分かってるみたいだから、この辺りにしておくね。とりあえず・・・歌、聴こうか」
そのマリエルさんの言葉に、僕とギンガさんは頷く。そして・・・三人で静かに歌に耳を傾ける。
あんな事があっても、スクールの面々は動揺せずに立派にステージに立っている。そして、歌う。想いと夢と、未来への希望を込めて。
そんな歌に、僕達も、観客も耳を傾ける。そして・・・嬉しく思う。だって・・・ね、ちゃんと守れたんだなと思うから。
ただ、何人か・・・死なせた。ううん、殺した。ギンガさんの所に行くのを邪魔してきた連中に対しては、加減出来なかった。・・・・・・やっぱり重いわ、命を奪うってさ。
でも、やっぱり僕はこういう道かな。忘れず、下ろさず、背負って・・・それでも護る。これが・・・僕のやりたい事なんだ。今が壊されるなんて、認められないから。僕は、やっぱり死ぬまで鉄でありたいんだ。
でも、どうしていこうか。どうやって・・・。
・・・・・・・・・あ、そうだ。せっかくフェイトから補佐官やってみないかって誘われたんだし・・・チャレンジ、してみようかな。嘱託のままでも試験って受けられるし、資格も取れるらしいから。
茨の道・・・だろうなぁ。でも、もし出来たら・・・あれ、なんで僕・・・おかしい。やっぱ僕、おかしいや。
なんで僕、それが出来たら・・・ギンガさん喜んでくれるかなとか、考えたんだろ。それで・・・あれ?
”・・・なぎ君”
胸が高鳴る。だ、だってその・・・ちょうどギンガさんのこと考えてたから。
”なに?”
”私ね、本当に・・・本当に少しだけかも知れないけど、分かった。なぎ君が背負う覚悟までして、六課を振り切ってまで何を守りたかったのか”
ギンガさんが、貸りた上着をぎゅっとつかみながらそう言った。
”この歌声は、消しちゃいけないよね。知ってれば、消したくないって思うよね。だって、私・・・胸の中が、暖かいものでいっぱいになってるの。歌を聴いてこんな気持ちになったの、初めて”
”・・・そっか”
というか・・・あの、どうして寄りかかってくるの?
”ちょっと、疲れちゃったから。だめ・・・かな”
”別に、いいよ”
触れてる部分が、熱い。服越しなのに・・・なんだか、ドキドキする。
・・・あれ? なんか変だ。僕・・・どうしてギンガさんにこんなこと。
”あのね、なぎ君”
”うん?”
”あとで・・・時間くれないかな。本当に少しだけでいいから、時間・・・欲しい”
僕はその言葉に頷く。そうして、また静かに歌に耳を傾ける。
とても素敵で・・・静かで、優しい歌に。この手で守れたはずの、時間に身を委ねていた。
重いものは背負った。無くしたものもきっとある。でも、それでも守れたものはあったんだと、その歌が教えてくれていた。
(その6へ続く)
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