小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説) 第55話 『神と魔導師の激突』 ※TURN08→09 恭文 墓地×9 □□□□□14 手札×4→5 デッキ総数×28→27(セットカード×0) □□□□□ □ LP:600(セットモンスター×0) f □□T□□ LP:1800(セットモンスター×0) 14□□■□□ 手札×1(うち一枚はグランモール) デッキ総数×19(セットカード×1) 墓地×16 T:シャイニング・フレア・ウィングマン ATK/3700 DEF/2100(攻撃表示 効果により攻撃力+1200) f:ネオスペース 十代 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 前回のあらすじ――遊城十代とデュエルする事になりました。しかしこれ、どうしようか。 あの伏せカードから嫌な予感しかしない。まぁ僕のターンだし、ある程度は合わせていけるでしょ。 それと一応誕生日のイベントだから、もうちょい派手にやらないといけない。でも手が足りない。 オネストもこないし……まぁ、そこもドローしてからか。 「僕のターン、ドロー!」 ドローし、きたカードをチェック。……なるほど、こうきたか。うし、まずは予定通りに展開だ。 「メインフェイズ1へ入り、通常魔法ミラクル・レボリューションを使用!」 あむとキャンディーズが息を飲むのは気にせず、ディスク板にミラクル・レボリューションを置いて発動。 「このカードを発動する場合、僕は他のモンスターを召喚・特殊召喚できない! そして自分のエクストラデッキから融合召喚でしか特殊召喚できない!」 「随分縛るなぁ。つー事はそれだけ強力なもんが出てくると」 「その通り! ネオスと名のついた融合モンスター一体を選択して発動する! 自分フィールド上、又は墓地から選択した融合モンスターに記されている素材一組をゲームから除外! 僕はE・HEROネオスと、レベル7以上の魔法使い族モンスター――レンゲル・コマンドを除外! そして選択した融合モンスターを、自分フィールド上に特殊召喚する!」 墓地から飛び出した二枚を見せ、除外スロットへ。その上でエクストラデッキからあるカードを取り出す。 これもみんなからもらったうちの一枚。ライトニング・セイバーも出せるけど、この状況ならこっちだ。 「自由な煌きその身に重ね、進化の壁を打ち破る!」 まずは反時計回りに回転。カードから生まれる黒い光を払いながら、そのまま頭上にかざす。それから右薙に振るってディスクへ置いた。 「守護の闇、果てなき願いを掴む導となれっ! 融合召喚!」 僕の背後で銀と金の光が生まれ、螺旋を描きながら空高く舞い上がる。そして光は融合。 それは僕の前に降り立ち、体長三メートルほどのニューネオスが現れる。 ブラック・マジシャンを思わせる黒いコートを翻し、右手にはシミター、左手には黒いサークルシールドを持つそれは。 「限界突破――ネオス・エルリック・ブレイカァァァァァァァァァ!」 「すげぇぇぇぇぇぇぇぇ! オレも知らないネオスだって!」 「えぇ、あむとキャンディーズがくれた切り札その二です。……そしてネオスペースの効果!」 ネオスペースの効果はネオスと、それを融合素材としている融合モンスターが対象。 だからネオス・エルリック・ブレイカーも問題なく効果対象。いいねー、やっぱ楽しいねー。 「ネオス・エルリック・ブレイカーの攻撃力は500アップ! よって攻撃力3500!」 「あ……へへ、やっぱ面白ぇ! だがそれじゃあシャイニング・フレア・ウィングマンは倒せないぜ!」 「もちろんもう一手打ちます。自分のメインフェイズ時、墓地にある魔法カード『コマンドチェンジ』二枚をゲームから除外し」 宣言により、墓地スロットから飛び出たカードをキャッチ。コマンドチェンジ二枚を見せた上で、これも除外スロットへ。 「エルリック・ブレイカーの効果発動します。一ターンに一度、フィールド上に表側表示で存在するカード一枚を選択し破壊。 その後、破壊したカードのコントローラーに800ダメージを受けてもらいます」 「……つまり」 「シャイニング・フレア・ウィングマン、墓地へレッツゴー!」 エルリック・ブレイカーは刃を振り上げ、唐竹一閃。そうして黒い斬撃波を放つ。 それが地面を斬り裂きながらシャイニング・フレア・ウィングマンへ迫り、直撃――発生した爆炎が十代さんを飲み込む。 これで十代さんのライフは……よし、もうなにも言わない。これはフラグだ、絶対にフラグだ。 「マジかー!」 「マジです。僕は勝利にリスペクトしていますから」 「ヘルカイザーかよ!」 「えっと、千だから……ヤスフミー! これならその人に勝」 「黙れ」 バンザイしかけたフェイトを睨みつけると、僕の殺気で空気が震える。 フェイトがなぜか身を竦ませ後ずさるけど、目で『逃げるな』と伝えた結果動きが止まった。 「お、お前どうした! なにいきなりキレてんだよ!」 「やべぇ……野菜君、やべぇぞ! 具体的に顔が! ヌンチャクバンキみたいになってるじゃねぇか!」 「フェイト、おのれはフラグをまだ理解していないの?」 「ふ、ふら……ふぇぇ!?」 「デュエルが決着する時、『こうしてこうなるから、このアタックが決まれば勝ちだ!』とか解説したら失敗フラグなんだよ!」 『なんじゃそりゃ!』 あれ、どうしてみんな驚くの? これ常識だよ、世界レベルの。だからさっきも僕はなにも言わなかったのに……なのにおのれはぁ! ただでさえ押されっぱなしなんだから、フラグ踏むとか嫌なのよ! 絶対嫌なのよ! 「なつめちゃん、これが僕からの誕生日プレゼントだよ。フラグを踏まないように生きていこうね」 「どういう事なの!? ママー!」 「私に聞かれても困るわよ! ていうかそれプレゼント!? むしろ教訓じゃ!」 「というわけでバトルフェイズ!」 「なにがというわけだ! というかお前……顔! 顔が般若のままだぞ!」 十代さんのツッコミは無視。とにかく右手で十代さんを指差し。 「ネオス・エルリック・ブレイカー、十代さんへダイレクトアタック!」 「無視かよ!」 エルリック・ブレイカーは地面すれすれを飛び、黒い鉄輝一閃を構築。 「鉄輝繚乱!」 そのまま十代さんへ乱撃を打ち込み、大爆発を引き起こす。が……僕は知っている。既にフラグが踏まれている事を。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ フラグとかわけ分からん事を言っていたわりに、十代さんへ攻撃は命中。派手な爆発が起きて、その中に飲み込まれた。 「あ……ほら、やっぱりー! ヤスフミ、私の言った事間違ってないよね! フラグとかわけ分からないよー!」 「恭文君、かなりゲン担ぐ方だったんっすね」 「なんというか、ごめん。アイツって、もう」 「恭文、自分の強さはフラグ管理にあるって言って憚らないからー」 「ガーディアン時代もフラグを踏んだ人間には、とても厳しかったよね」 「しかも実際にそうなっちゃうから、みんな納得するしかないんですぅ」 「でも女の子のフラグはぽんぽん立てちゃうのよね。ね、あむちゃん」 ダイヤの笑いは無視だ。でもほんと、ちょくちょく言ってるんだよなー。敗北やら死亡フラグとか、めっちゃ気にしてるの。 それ踏んだら鬼の如く……でもその、アイツの言うフラグってマジで成立するからなぁ。実は嫌な予感がしてる。 「……ん、あれ? なぁレツ、ラン」 「気づいてるよ」 「師匠、どうしたんですか」 「勝負は、終わったのよね。なのに……どうして恭文くんのモンスターとフィールド魔法、消えないの?」 「あ……そ、そうだよ! あのエルリックっていうの、まだいるよー!」 「と、という事は……!」 早輝さんと軍平さん、それに残りのメンバーもぎょっとしながら爆煙を見る。 すると爆煙が虹色の輝きで一気に散らされる。その中から笑って十代さんが出てきた。 で、でもなんで……あぁぁぁぁぁぁぁ! 伏せてあったカードがオープンされてるー! 「ど、どうなってるのー!? 今の勝負、君が勝ったんだよねー!」 「そんなわけないでしょ。十代さんは僕の攻撃宣言時」 範人さんの方は見ず、答えながら恭文が伏せてあったカードを指差す。えっと、あの絵柄はなんだろう。 デュエルディスクを装備した、黄色い服の人がモンスター二体を相手取ってる。というか、攻撃を受ける直前? 「通常罠『レインボー・ライフ』の効果を、手札一枚を捨てる事で発動していたんです」 「その通りだ。このターンのエンドフェイズ時まで、戦闘及びカードの効果によってダメージを受ける代わりに、その数値分だけライフポイントを回復する」 「兄ぃ、それだとアイツのライフは」 「4500だな」 『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』 あぁそっかー。攻撃力3500がそのままプラスされ……納得できるかぁぁぁぁぁぁぁぁ! てーか発動していたってなに!? そういうのってちゃんと宣言しないといけないんじゃないのかな! でも問題ないの!? アイツもなんか手札三枚取り出して、次に進もうとしてるし! 「なつめちゃん、分かったね? 大事なところでフラグを踏むとこうなるの。 場合によっては人の足も引っ張るから気をつけようね、フェイトみたいに」 「ひ、ひどいよヤスフミー! 私が邪魔したみたいに言わないでー!」 「は……はい」 「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 ちょ、なつめちゃん納得しちゃったよ! アイツがまだ般若の顔だから!? 勢いに押されちゃったのかな、ねぇ! 「な、なんという……容赦なくフェイトさんを攻撃してるっすよ! 鬼っすか、君!」 「違います、僕はドSなだけです」 「そういう事誰も聞いてないよ!? ていうかアンタ馬鹿じゃん!」 「それじゃあメインフェイズ2、まず速攻魔法サイクロン発動!」 無視するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! でもあのカードって、確か。 「フィールド魔法、ネオスペースを破壊!」 「おいおいいいのか、お前にもメリットのあるカードだぞ」 「まぁそこは気にせずに」 渦巻く風がフィールドを斬り裂き、この場は元の色を取り戻した。えっと……今のは一体どういう意味が。 「カードを二枚伏せてターンエンド」 とにかく恭文はカードを伏せて、般若の顔も解除。そしてギャラリーなあたし達はざわざわしてしまう。 「おい、やっぱ野菜君やべぇんじゃないのか!? 元に戻るどころかおまけがついたぞ!」 「でもシャイニング・フレア・ウィングマンが排除できたし、遊城十代は手札ゼロっす。 それにレインボー・ライフも効果が消えるっすから、流れは恭文君に傾いてるっすよ。凶悪もぐらも墓地っすから」 「あ……そうじゃんそうじゃん。手札ないし」 さっき使用条件に『手札一枚を捨てる』ってあったよね。それで凶悪もぐら、墓地へ落ちてるんだ。 しかも恭文の場には伏せカードも三枚。だったらこのまま押しきれるんじゃ。 「な、なぁ。それもフラグというのになるんじゃ」 「軍平さんまで気にしてる!? あの、アイツの言う事はほんと流し気味でいいから! そこまで怯えなくていいから!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ○ネオス・エルリック・ブレイカー 【戦士族・融合/効果】 ATR/3000 DEF/2500 闇属性/10 「E・HERO ネオス」+レベル7以上の魔法使い族モンスター このモンスターの融合召喚は、上記のカードでしか行えず、融合召喚でしか特殊召喚できない。 このカードは同じ攻撃力を持つモンスターとの戦闘では破壊されない。 1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に自分の墓地から魔法カード2枚をゲームから 除外することで、以下の効果から1つを選択してエンドフェイズ時まで得る。 ●このカードは相手フィールド上のモンスター全てに1回ずつ攻撃できる。 ●1ターンに1度、フィールド上に表側表示で存在するカード1枚を選択して破壊する。 その後、破壊したカードのコントローラーに800ポイントダメージを与える。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ レインボー・ライフ 通常罠 手札を1枚捨てて発動できる。 このターンのエンドフェイズ時まで、自分は戦闘及びカードの効果によってダメージを受ける代わりに、その数値分だけライフポイントを回復する。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ※TURN09→10 恭文 墓地×6 1:ネオス・ライトニング・セイバー ATK/3000 DEF/2500(攻撃表示) □■■□□13 手札×1 デッキ総数×27(セットカード×2) □□1□□ □ LP:600(セットモンスター×0) □ □□□□□ LP:4500(セットモンスター×0) 14□□□□□ 手札×0→1 デッキ総数×18(セットカード×0) 墓地×19 十代 『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説 とある魔導師と彼女の機動六課の日常 第55話 『神と魔導師の激突』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ここまでのあらすじ――フェイトがフラグを踏みました。もうあれだね、やっぱりもっと厳しくやっていこう。 着物の襟を正してから、十代さんのターンを見守る。ドローフェイズ……十代さんは笑いながらドロー。 「やっぱやるなぁ。ライフはともかく、場のアドはきっちり確保してきやがる」 「十代さんにそう言ってもらえると嬉しいです」 「だが簡単に負けられないよな」 十代さんは左手で軽く鼻をかいて、更に笑いを深くした。 「これはあの子のお祝いデュエルだ。……だからオレも出し惜しみなしでいくぜ!」 「あれ、この展開はもしかして」 「オレは手札からE・HEROバブルマンを守備表示で特殊召喚!」 やっぱきたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 今十代さんが出したのは、球体状の空色アーマーを着込んだE・HERO。 かなりゴツイ体格で、身長は百八十前後。ハーフヘルメットに白マント、背部にボンベを装備している。 右肩アーマーから伸びたパイプは、右腕外側に装着されたカノンに繋がっている。 バブルマンは膝立ち態勢になり、両腕をクロスさせ守備表示となる。でもこれがきたって事は。 「このカードは手札がこれ一枚だけの場合、手札から特殊召喚できる。 更にこのカードが通常・反転・特殊召喚のいずれかに成功し、自分のフィールドに他のカードがない場合」 こちらは特に使うカードもないので、十代さんはデッキから二枚ドロー。 「デッキからカードを二枚ドロー!」 はい、こういう効果です。ちなみにOCGだとアニメから効果が変わっていて、手札もゼロじゃないとドローできない。 でも十代さんが使っているのはアニメ効果の方。なので発動条件も格段に緩いはず。 「この状況でバブルマンを引き当てますか」 シオンは十代さんに舌を巻きながら、さっと髪をかき上げる。 「お前より運命力あるだろ……もぐ」 やかましいわ! でも事実だからツッコミもできない。そう、これこそが遊城十代の強さだよ。 十代さんはどんなに不利でも、流れをドロー一発で引き戻す事ができる。ユベルなんてつく前からそうだよ。 それは正真正銘の運命力。諦めぬ心が逆転のカードを引き寄せるというか。……だからこそ大好きだし、E・HEROも使い続けてるわけで。 そんな引きをリアルに見せられてるのよ、僕は。エンドサイクしなきゃ、バブルマンは腐ってたんだけど。 でも駄目だ、心が沸き立ってしょうがない。楽しいデュエルのナンバーワンがどんどん上書きされてる。 「通常魔法、『死者蘇生』を発動!」 その二枚から出してきたのは……ここで死者蘇生!? くそ、一体なにを出してくる。 融合召喚でしか出せない、シャイニング・フレア・ウィングマンとかはないだろうけど。 「甦れ、不滅のヒーロー! E・HEROネオス!」 出してきたのはE・HEROネオス。溢れる光の中から、ネオスが勢い良く飛び出してきた。 ネオスという事はオネスト? いや、違う。そう言えば十代さんの墓地には……まさか! 「お前ならこれからなにをするか、分かるよな」 「マジですか……マジであれ見られるんですか! それはなつめちゃんというより、僕へのプレゼントですよ!」 「オレは自分フィールド上のE・HEROネオス! そしてフィールドと墓地の『N』と名のつくモンスター六種類、一体ずつをデッキに戻す!」 十代さんはE・HEROネオスとN・フレア・スカラベ、Nグラン・モール・Nブラック・パンサー。 N・グロー・モス、N・エア・ハミングバード、N・アクアドルフィンをデッキへ戻しシャッフル。 ……え、見覚えのないものもあるって? そうだね、カード・ガンナーの効果を思い出すと幸せになれるよ。 しかもこれ、原作効果だし! やばい、ピンチだけど笑いが止まらない1 「この条件を満たした場合のみ、このモンスターを融合デッキから特殊召喚可能――究極コンタクト融合! さぁ、その輝きを見せつけよ!」 ネオスが飛び上がり、どこからともなく現れた六色の光を受け止める。そして全てが交じり合い、極光が走った。 その中から現れるのは、十二メートルほどの巨体を持つ……神だった。水色の肌に今事故の鎧と翼を装備した、アニメ版ネオス最終最強形態。 その輝きと力強さに、全員が立ち上がり魅入られる。誕生日プレゼントにしてはデカすぎる。 やっぱり僕へのプレゼントじゃないの? 凄い……やっぱ今日はラッキーデーだ! まさかコイツを見られるなんて! 「E・HEROゴッド・ネオス!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ デッキからいきなり二枚ドローってなんだろう。ぎょっとしていると、更に驚かされた。なに、あれ……! 今までのネオスよりずっと力強いそれを、恭文は笑いながら見上げていた。なつめちゃんも顔を赤くし、両拳を胸元で強く握り締めている。 みんなが興奮させられていた。あの……神の名を持つネオスに。 「な、なにあれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! 恭文、これなに! カードも使わずこんなの出していいの!?」 「問題ない。あとこれは……見ての通りゴッド・ネオスだよ!」 「それを聞いてるんだけど!?」 いや、分かる。アイツが知っているって事は、アニメ化なんかの切り札……それをここで出してきたの!? あの人本気すぎだし! 「すっげぇ……ギラギラだ。十代のネオス、ギラギラだ!」 「デッキからネオスペーシアン全てを除外する!」 デッキに戻したカード六枚が飛び出てくるので、十代さんはそれをキャッチ。デュエルディスクの除外スロットへ入れた。 するとまた六色の光が生まれ、ゴッド・ネオスへ全て吸収される。 「このターン中、除外したカードのモンスター効果を得る! 更に効果で除外したカード一枚に付き、ゴッド・ネオスの攻撃力は500ポイントアップ!」 「という、事は……!」 「攻撃力、6000ですぅ!」 「そこでN・フレア・スカラベのモンスター効果!」 え、フレア・スカラベって……あ、さっき言ってた除外モンスターか! じゃあ今は六体全ての効果が使える!? なにそれー! 「効果を得ているゴッド・ネオスの攻撃力は相手フィールド上の魔法・罠カード一枚につき400ポイントアップする! よって攻撃力6800! 更にN・エア・ハミングバードの効果! お前の手札一枚につき、オレのライフを500回復!」 ゴッド・ネオスが唸ると、十代さんの体が赤い光に包まれる。こ、これでライフ5000……どうなってるのー! 「十代さん、どうかグロー・モスの効果を使って……グラン・モールでもいいんで」 「今回は使わない!」 「やっぱりかー!」 『説明しよう、本来ならグロー・モスの効果は強制発動。 しかしアニメ版ではそういった制限もないため、フルスペックでの攻撃が可能なのである!』 それただのチート! てーかインチキ効果もいい加減にしてよ! それ以前にこの声はなに!? てーかあれか、恭文はそれを知っててああ言ってると! でもあたし達はついていけないー! 「ふぉふぉふぉ……これはまた凄いのう。さて、恭文はどうするつもりじゃろうな。わしらはただ見守るのみ」 「そ、そんなー! ……じゃ、じゃああのやり直してもらえばいいんだ」 そこでフェイトさんはガッツポーズ……やめてー! めちゃくちゃ嫌な予感しかしない! 「こんなの出てくるなんて予想してなかったし、そうすれば……あの、ヤスフミそうしよう? ほら、私もお願いするし」 「それじゃあいくか、バトルフェイズ――ゴッド・ネオスでアタック!」 「待ってー!」 待つわけないし! ていうかフェイトさん、やっぱりルールを理解してない! あたしも触りが限界だけど! ゴッド・ネオスが右拳を振り上げたところで、アイツは笑って伏せカードに右手をかざす。 「攻撃宣言時、カードオープン!」 あ、そうだ。伏せカードが……ミラーフォースーみたいなのがあるのかな。 真ん中のカードが開くと、なんかRPGみたいな光景が……剣を持った二人が谷間で決闘してて、一人の剣に雷撃が集まっている。 「決闘融合ーバトル・フュージョン! 自分フィールド上の融合モンスターが、相手モンスターと戦闘を行う時発動できる! ネオス・エルリック・ブレイカーの攻撃力はダメステ終了時まで、戦闘を行う相手モンスターの攻撃力分アップ!」 「なんだと!」 「よってエルリック・ブレイカーの攻撃力は――9800!」 「やりましたぁ! これで恭文さんの勝ちですぅ!」 圧倒的な攻撃力を逆転……! 思わず右手でガッツポーズをしてしまう。 「へへ、まさか同じ事を考えていたなんてな」 「あれ、もしかして」 「そう、オレもそれにチェーンして手札から速攻魔法」 十代さんは恭文が今出した、同じカードをディスクに置く。それでゴッド・ネオスの足元にカードが展開。 「決闘融合ーバトル・フュージョンを発動!」 「野菜君と同じカードだと!」 「え、えっと……あむちゃんー」 「攻撃力、16600……!?」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ E・HEROバブルマン(アニメVer) 手札がこのカード1枚だけの場合、このカードを手札から特殊召喚する事ができる。 このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、自分のフィールド上に他のカードがない場合、デッキからカードを2枚ドローする事ができる。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ E・HEROゴッド・ネオス(アニメVer) 星12/光属性/戦士族/攻3000/守2500 自分フィールド上の「E・HERO ネオス」+自分フィールド及び墓地の 「N」と名のつくモンスター6種類1体ずつをデッキに戻した場合のみ 融合デッキから特殊召喚が可能。(「融合」魔法カードは必要としない) デッキから「N」と名のつくモンスターを選択しゲームから除外する事で このターン中、除外したカードのモンスター効果を得る。 この効果で除外したカード1枚につき、 このカードの攻撃力は500ポイントアップする。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 決闘融合ーバトル・フュージョン 速攻魔法 「決闘融合−バトル・フュージョン」は1ターンに1枚しか発動できない。 (1):自分フィールドの融合モンスターが 相手モンスターと戦闘を行う攻撃宣言時に発動できる。 その自分のモンスターの攻撃力はダメージステップ終了時まで、 戦闘を行う相手モンスターの攻撃力分アップする。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 『バトル・フュージョンのOCG版は見ての通りだが、アニメGXだと回数制限は一切ない。 更に融合モンスターである必要もないため、制限はOCG版より緩いのだ。 そのため今回のバトルでも、十代が使っても問題ないのは留意しておいてほしい。 ちなみに……OCG版であった場合、後出し側が効果適用できなくなるので、恭文が勝っていたぞ』 「あらら、そうだったのか。……ルールそっちに合わせるか?」 「いや、大丈夫です。郷に入っては郷に従えですし」 「へぇ、潔いんだな。そういうの、嫌いじゃないぜ。……これでゴッド・ネオスは攻撃力16600だ! だがお前の魔法・罠カードが一枚減ったので、効果により攻撃力は400ダウン!」 エルリック・ブレイカーはシミターを投げ捨て、右拳を握り込む。そこでカードから雷撃が走り、拳へと伝わる。 そしてゴッド・ネオスも同じように雷撃を受け止め……ただしその力強さと大きさは、エルリック・ブレイカーの非じゃない。 その様子を見ながら僕は、笑うシオン達がこそばゆくなりながらも。 「十代さん、ありがとうございます」 十代さんに心からのお礼を送る。 「ん、どうした」 「追いかけてくれて、デュエルしてくれて……とっても嬉しかったです」 「オレもだ。ネオスと一緒に戦う事はあっても、ネオスを相手取る事なんてなかったからさ。もうドキドキしっぱなしだ」 「それなら僕から、追加のプレゼントを」 不敵に笑い、時計回りに一回転。……正直十代さんは僕なんかよりずっと強い。勝てる見込みはほとんどない。 てーかなくなった。それでも……それでもできる限りで最後まで食らいつく。 「鉄壁フラグを独占した者に、敗北はあり得ない! なお敵も鉄壁だったらこの限りではない!」 「なんだそりゃ!」 「トラップオープン!」 右側のトラップを指差すと、カードが展開。カードには巨大怪獣二体が、ビル街を壊しながらもバトル。 炎とライトに照らされる中、至近距離でにらみ合っていた。十代さんはそのカードを見て、今までで一番の驚きを顔に浮かべる。 「通常罠、決戦融合ーファイナル・フュージョン! 自分と相手の融合モンスターが戦闘を行うバトルステップに……って、こっちじゃ違いますよね」 「あぁ、融合縛りはない」 「そのモンスター二体を対象として発動できる! その攻撃を無効化し、お互いのプレイヤーは」 これが僕の抗い方。簡単には負けたくない――勝てないなら、せめて負けない。思いっきり僕らしく、意地悪く笑ってやる。 「モンスター二体の、攻撃力の合計ダメージを受ける! 26000のダメージ、受けてもらいましょ!」 「……バトル・フュージョンの辺りから気になってたんだが、もしかして」 「卒業デュエルの流れを汲んでみました」 実はこの場面、アニメでやってるのよ。サイバー使いなカイザーがプロデュエリストになる時、十代さんとバトルしてさ。 最後の局面でお互い攻撃力を上げまくって、遊戯王アニメ史上最大の効果ダメージを受けてドローに持ち込んだ。 十代さん相手だったし、なつめちゃんの誕生日イベントでもある。だからド派手にいくならと思って準備してたら……ドンピシャできたよ。 「なるほど……想像以上にとんでもないな、お前! てーかオレがやった手じゃないか!」 「僕が十代さんから学んだ事です」 「物は言いようだな!」 そこで顔を見合わせ、揃って大笑い。そして十代さんの隣に、呆れた様子のユベルが出現。 『まさか、こんな手で十代と引き分けるとは』 「いやいや、実質負けだよ」 敗北宣言すると、慌てた様子でフレミング・アクアが出てくる。心配そうなので頭を撫でてなだめつつ苦笑。 だって勝とうとして、結局負けないだけに留まっちゃったんだもの。 これだって派手な事ができたらいいなーって考えなかったら、入れなかったカードだ。 僕はなつめちゃんにも助けられてるし、今回は負けてるんだよ。それは……多分変わらない。 「このカウンターも十代さんがやったものだし、ゴッド・ネオスの攻撃も受けられないし……やっぱ凄いねー、遊城十代って」 『当然だ。……ふん、少しは認めてやる。十代が追いかけるだけの価値はあったとな』 「ありがと」 「楽しいデュエルだったぜ、恭文」 十代さんは左人差し指と中指で僕を指差し。 「またやろうな!」 「はい!」 そして僕達のネオスは拳を更に振りかぶり、懇親の一撃をぶつけ合う。 その瞬間宿っていた雷撃が相互反応を起こし、フィールド全体を包み込む大爆発となった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 前に恭文とシルビィさんがやられたみたいに、通報を受ける事もなくパーティーは再開。 フィールド魔法がなくてもなんとかなるって、マジでよかった。いや、シャレじゃなく 二人は疲れ果てながらも楽しげで、隣に座ってチキンをかじる。 「いや、デュエルの後で食べる飯は美味いなー。……でもいいのか? 突然邪魔した上に、ごちそうになっちまって」 「構わないわ。あんな凄いものを見せてもらったんですもの、ねぇなつめ」 「うん! あの、二人とも凄かった! あんな凄いモンスターやダメージ、見た事なかったし!」 「あははは、ありがとな」 「あと恭文さん……フラグは、心に刻んでおく」 「それはよかった。なつめちゃん、理不尽に感じるかもしれないけど、覚えておくと得だよ、いろいろと」 どのタイミングで!? 今アンタの言ってる事が理不尽じゃん! ていうかなつめちゃん、めっちゃ背筋正してるし! 「ところで恭文、お前なんで着物だったんだ?」 「あぁ、なつめちゃんの誕生日に落語をやろうかと思ってまして」 「できるのかよ! すげぇな!」 「あむと一緒に落語研究会のヘルプをした事が」 あー、あったねー。聖夜小の部活で……って、アレで覚えたの!? あぁそうだ、ヘルプで確かやってたよ! 「じゃあ早速」 恭文はチキンを奇麗に食べて、手もナプキンでさっと拭く。それから立ち上がり、どこからともなく座布団を取り出す。 「よ、待ってました! 野菜君、なに聞かせてくれんだ!」 「まぁ古典でもポピュラーなやつを。素人芸なので多少のお目こぼしはお願いします」 「恭文、あたしなんか手伝おうか?」 「あの、私も……というかヤスフミ、私の話をもっと聞いてほしいな。 あの、よく分からないけどさっきのも、途中でやり直してれば勝てたんだよね」 「フェイト、フェイトはただ座っていて? それが救いになるの」 「ひどいよー!」 だよねー。戻るフェイズはないとか言ってたし。とにかく恭文はステージ的になっている場所を借り、さっと座る。 でも恭文の落語……そう言えば前にやった時は、それなりに笑いが起きていたような。 「えー、世間ではよく慌て者、そそっかしい者なんて言うのがいます。いつの時代にもいるんですよ、はた迷惑なそそっかしい人が。 僕のよく知っている女性も、重要な証拠品を下水へ落としたり」 「はう!?」 「一本百万円もするビンテージワインを不用意に触り、落として割ったりとドジばかりです」 「はうはう!」 フェイトさんェ……てーかそれ昼間言ってたやつじゃん! そこで走輔さんやジャンさんが、微妙な顔でフェイトさんを見始める。 「……アンタ」 「フェイト、やっぱりドジなのか?」 「そこまで致命的じゃなくても」 フェイトさんが涙目になったところで、恭文は取り出したセンスを鉛筆みたいに持って、ずるずるとすする仕草をする。 「お店で頼んだ焼きそばを食べていたら、店員が『すみません! 紅しょうがを入れ忘れました!』と言ってきたり。 それでね、僕は言ってやったんですよ。『ちょっと待ってください、紅しょうがならテーブルの上にあるじゃありませんか』と」 そこでついくすりと笑う。つまりあれ? 紅しょうががセルフなのを忘れて……ドジだー! 「とまぁこのように人間誰しも、振り返ると自分でも信じられないようなドジをする時もあります。 ただ人よりそういう事が多い人は、昔からいるわけで……大阪のとある長屋には、そんなそそっかしい奴らばかりが集まっていました」 ――こうして恭文の落語で笑いながら、誕生日の夜は更けていく。でもなつめちゃん、絶対忘れられないだろうなぁ。 初めて会う人がたくさんで、デュエルして、その上落語も聞いて……ていうか、あたしも忘れられなさそう。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ なつめちゃんの誕生会は無事に終了。十代さんは再会を約束し、また旅立っていった。 そして翌日……朝六時半と早い時間ではあるけど、僕とあむ、それにフェイトは都内の住宅街を歩いていた。 あむが預かった荷物には地図と手紙も入っていたので、それを片手に……でも早朝の方がいいってどういう事だろう。 いや、地図にそう注訳が入っててさ。どうもこれから尋ねる日下部彦馬(くさかべひこま)さん、だっけ? その人は昼間には出かけるから、朝早い方が助かるって書いてあったのよ。 てーか時間も示し合わせてるって……あむが伝えるの忘れてたらどうなってたか。 「しっかしあたし達、今更だけど濃い時間過ごしてるよね」 「だねぇ。戻ったら龍可とちょっと話さないとなぁ」 「恭文、アンタまさか」 「なにがまさかよ。……龍可、大学生だって言ってたでしょ? まだ学校あるだろうし」 「あ、そっか」 フレミング・アクアの事があったとはいえ、いろいろ巻き込んでるもの。さすがに考えちゃうのよ。 「あのヤスフミ、走輔さん達にちゃんとお話しようよ。炎神を宇宙警察に預けるべきだって」 そしてフェイトは不満そうにそんな話を……まだ納得してないってどういう事だろう、頑固すぎる。 「それないわー。ていうか、おのれ最初は局員じゃなかったでしょうが」 「そ、それはそうだけど、私はちゃんと嘱託の資格を取った上で活動してたよ? あのね、順序があるんじゃないかな。 人を守るために動くなら、そういう組織に入って、訓練を受けて……そうじゃなかったら迷惑だよ」 「……それはあたしも、ちょっと分かるかも」 『あむちゃん!?』 キャンディーズはぎょっとするけど、あむは僕の隣を歩きながら苦笑い。あー、そういう話は前にしたからなぁ。 「ほら、二階堂先生とやり合った時とかさ。あたしや唯世くん達も、最初は戦ったりとかさっぱりだったし」 「あぁ、あれかー。確かにあむちゃん達、警察官とかじゃないもんねー」 「ていうかフェイト、それなら良太郎さんはどうなるのよ。それにジャンさん達も」 「だ、だからそれは……どうしてお話、聞いてくれないのかな。あむさん達だって同意見なのに」 「いや、同意見じゃないよ!? あたしも似たような感じで暴れてたなーって話をしただけで!」 「ほんとに大事な事を忘れてるねぇ」 呆れ気味にため息。それからフェイトへ振り返り、右人差し指で指差し。 「てーかおのれも走輔さん達と同じだって、まだ分からないの? いや、走輔さん達よりずっと弱い」 「同じじゃないよ。私はちゃんと訓練をして」 「でもバルディッシュを自分で助ける事はできなかった。走輔さん達はちゃんと、スピードル達を取り戻したのに」 前提をしっかり作らせた上で、自分がそれを破っていると通告。結果フェイトはオロオロし、首を振り始めた。 「だって、だって……それじゃあどうすればいいのかな。近いうち、絶対にしっぺ返しがくるよ。 今のうちに止めるのが優しさじゃないのかな。私、間違ってる事言ってるのかな」 「理屈は間違ってはないよ。でも、今のフェイトが言うと間違いになるだけだ」 「ちょ、恭文!」 「事実でしょ? フェイトは局員でもなければ、素人な走輔さん達よりも弱い。 なにより走輔さん達の気持ちを無視してるんだから」 「私が、なにを無視してるのかな。してないよ、私はみんなのためを思って」 「してるでしょうが。走輔さん達の、みんなを守りたいって気持ち。もう一度頭冷やしてよく考えろ」 ぐすぐす言い始めたフェイトに背を向け、早足でまた歩き出す。目的の家はもうすぐ……全く、フェイトはどうしたものか。 本当に、大事なものを忘れちゃってるんだね。でも大した事はできないわ、これは自分で考えて見つけるもの。 そうしなきゃ踏ん張れないのよ、人から与えられた意味だけじゃ先はない。今のフェイトを見ればよく分かる……っと。 地図と近くの電柱を見比べ、右側にある和風邸宅の表玄関前へ。家名は『志葉』と書かれているけど、間違いないっぽい。 「あ、ここだね。でも恭文、名前が」 「志葉さん……日下部さんじゃあありませんねぇ」 「まぁいいではないか、美味そうな匂いがするぞ」 「お姉様、朝食は食べてきたじゃありませんか。というかこの気配は」 「――あいたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 そこで中から男性の悲鳴。僕はあむと顔を見合わせ、揃って表玄関を蹴破る。その上で整えられた中庭へ突入。 「あ、ヤスフミ駄目ー!」 僕はセットアップし、あむは激気を体に纏う。そうして人の気配がする方をチェック……そこで足を止めた。 十時方向には、キャンバスらしきものが四つ立てかけられていた。その前には剣道着を着た男女四人。 なお男一人が地面に倒れていて、それを他の三人が抱え起こそうとしていた。 脇には陣羽織を着た、伊吹吾郎さんそっくりな男性。あと縁側には無愛想な男が座って……え、えっと。 「む……なんだ、お前達は!」 「あの、僕達悲鳴を聞いて」 「なにか事故か事件かなーっと思って……それで」 「……流ノ介」 縁側の男性が声をかけると、倒れていたっぽい男性がハッとして起き上がる。その人は黒髪を揺らし、やや痛がりながらぴょんぴょん。 「流ノ介、お前が騒ぐからだろ! どうすんだよ、この空気!」 「いや、流さんが悪いんとちゃうよ! うちがその、また石を流さんにぶつけたから!」 茶髪短髪の男性と、黒髪ボブロングの女性がそんな事を……石って、あの足元に落ちてる石? 漬け物石にできそうなものだけど、庭には不釣り合い。しかもそれを、あの女性がぶつけた? どう考えても殺人レベルでしょうが。事故としてもここで石を持ち出す状況にも見えないし。 首を傾げていると、黒髪ロングの女性がため息混じりにこちらへ近づいてきた。 「ごめんね、心配かけちゃったみたいで。まぁ見ての通りだから……でも揃って剛気だねぇ」 「「こ、こちらこそごめんなさい。なんか問題なさそうですね」」 「お兄様、日奈森さんとそんなに仲良く……なんて羨ましい」 「へぇ、あなた達しゅごキャラ持ちなんだ。しかもこんなにたくさん。珍しいね」 あれ、なんか見えてる!? もうこのパターン慣れてるけどさ! あ、そうだ……この空気じゃ辛いけど。 「あの、実は僕達日下部彦馬さんという人に会いたくてこちらへ」 「ジミー・ファングって人から、荷物を預かってきたんだ」 「彦馬さん?」 女性が伊吹吾郎似の人へ振り返る。すると伊吹吾郎似の人は、首を傾げながらも僕達の前へ。 あむが預かっていた荷物をその人へ差し出すと、男性は優しく荷物を受け取ってくれた。 「確かに受け取った。しかしお前達、ジミー殿とはどういう」 「一応知り合いかな。あ、コイツはマスター・ジミーの弟子」 「そうなってしまいました」 「なんだと!」 「あー……じい」 縁側の男性どころか、他の人達まで疑問顔で近づいてきた。じいと呼ばれた人は振り返り、静かに頭を下げる。 「すみません殿、彼らは私の友人……の知り合いと弟子でして」 『殿ぉ!?』 「え、お殿様……つまり将軍様!」 フェイトがまた素っ頓狂な勘違いをして、僕の両肩を掴んでガシガシ揺らしてくる。 「ヤスフミ、凄いよ! ここって将軍様がいたんだね! えっと、じゃああれは志葉じゃなくて徳川って読むのかな」 「いやいや、ここは志葉家だが」 「あの、だからそう書いて『とくがわ』と読むんですよね。将軍って言ったらそれだし……凄い。ここは江戸だったんだ」 「フェイト、お願いだからしばらく黙っててもらえる!? 話がこんがらがりそうだわ!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ しょうがないのでフェイトを落ち着かせ、縁側に座らせてもらう。……どうも朝稽古の最中だったらしい。 開いたままの表玄関は、修理した上でしっかり閉じる。それで僕達、あの四人の稽古を見学させてもらっています。 防具を着せたす巻き相手に、竹刀を打ち込むという基本的なところだね。うーん、こういうのを見ると身が引き締まるなぁ。 それはそうと……まず自己紹介からだね。殿様が首傾げっぱなしだもの、それもフェイトを見て。 フェイトは未だにここが徳川将軍のお屋敷だと勘違いしてるの。ねぇ、さっきまでの話をすっ飛ばすってなに? 「えっと、初めまして。蒼凪恭文です」 「日奈森あむです。……ほら、フェイトさん」 「あ、あの……フェイト・T・ハラオウンでござりますそうろう」 フェイトには右バックブローをかまし、ちょっともん絶してもらう。てーかなんかもう、誤解が積み重なりすぎている。 「あの、彼女は」 「いないものと思ってください」 「そ、そうか。……私は日下部彦馬、こちらは志葉家十八代目当主・志葉丈瑠様にあらせられる」 「……じい、そういう堅苦しいのはいいだろ。部外者だぞ」 「いえいえ、こういうのは大事な事ですから。あー、さっき倒れていたのが家臣で池波流ノ介(いけなみりゅうのすけ)。茶髪で今ひとつ不まじめそうなのが谷千明(たにちあき)」 コメントはわりとひどいけど、悪意のようなものは感じない。あれだね、手のかかる孫的な感じで接してるんでしょ。 「千明に続き、今竹刀を打ち込んだのが花織(はなおり)ことは。先ほどお前達としゅごキャラに話しかけたのが白石茉子(しらいしまこ)だ」 「え、ラン達の事見えてるのー!?」 「これは驚きね」 「なに、長生きしているといろいろとな」 「……じい、しゅごキャラとはなんだ」 「あ、いえいえ。こちらの話で」 どうやら将軍様ではないけど、この家はそういう……侍的な風習を守っているっぽい。旧家とでも言えばいいのか。 でもそれだけとは思えないんだよなぁ。訓練の様子がこう、やたら真剣というか。 「そういえば日下部さん」 「彦馬で構わんぞ」 「じゃあ彦馬さん、マスター・ジミーとは一体どこで」 「もう三十年も前になるか、修業時代に熊本山中で知り合ってな。それ以来ちょくちょく世話になっている。 いや、本当に届けてくれて助かった。特にジミー殿が調合してくれた塗り薬は」 そこで彦馬さんは左拳で、腰の辺りをとんとんと叩く。 「腰によく効いてなぁ。それとお前達、モヂカラを見たいとの事だったが」 『モヂカラ?』 「じい」 「……それってもしかして、屋敷を包んでいる妙な力場じゃ」 軽く吹っかけてみると、殿様と彦馬さんの表情が一気に変わる。でも僕達、そんな話は……なるほど。 マスター・ジミーのお手紙か。ここでモヂカラとやらについて触れる事も、修行のうちに入っていると。 「これは驚いた……手紙通り、鋭い感覚を持っているようだな。左様、この志葉家は守護のモヂカラによって守られている」 「あ、あの……まずそのモヂカラってのは。あたし達なんにも聞いてなくて」 「聞いていない? いや、しかし手紙には……あぁなるほど」 そこなるほどで納得しちゃうんだ。これもきっと黄臨気と同じなんだろうね、未知へのドキドキという修行だったのよ。 ていうか今も継続中? 乗せられていると分かっていても、胸が高鳴っているから。 「簡単に言えば文字を具現化させる力だ。我が志葉家は代々、その力を密かに守っている」 そこで彦馬さんは、素早く殿様へ目配せ。それを受け、殿様は呆れた様子で訓練中な四人を見た。 あー、やっぱり本来は話しちゃいけないんだ。しかも彦馬さんは見るからに、口が堅そうな人。 そんな人にあっさり喋らせるなんて……マスター・ジミー、一体なにしたのよ。なんか申し訳なくなってくるんだけど。 「え、密かに管理って、そんなのあたし達に教えても」 「口外せずというのが条件だ。まぁ簡単に言うと」 「もしかしてさっきの石、そのモヂカラで出てきたんじゃ。こう……石と書いた」 「はぁ!? いやいや、そんなのあるわけないじゃん! 文字書いただけで」 「その通りだ」 『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』 やっぱり……混乱しているあむとキャンディーズには、右手を肩まで挙げながら説明。 「あむ、『川』って文字はどうして成り立ったか知ってるよね」 「川……えっと、川が流れる様から、だったはず」 「正解。素養ある人が文字を書くと、文字の成り立ちも含めて一種のプログラムになるんじゃないかな。 そもそも文字自体が風景などを表す図形だもの。そういう事ができても不思議じゃない」 「あ、それならまだ」 今はプログラムと言ったけど、あむは魔法の事を連想したはず。ようはね、書いた文字自体が魔法陣になる技能なんだよ。 それに基き魔法が発動すると考えれば、まだ分かるんじゃないかな。もちろん力の根源なんかはまた別種だろうけど。 「ふむ……プログラムか」 「えっと、なにかまずい解釈でした?」 「いや、ちょうどうちに出入りしているすし屋が、似た解釈をしておってな。お前と話が合うかもしれん」 「「すし屋!?」」 「もういいだろ」 底の知れないすし屋に震えていると、殿様が竹刀片手に立ち上がる。どうやらみんなに稽古をつけるらしい。 うん、そういう立場だろうね。ただ休んでいたわけじゃなく、目でみんなの事を逐一追いかけてたから。 「じい」 「彼らの朝食は既に準備を」 「え、朝食!? いやいや、さすがにそれは悪いですって!」 「えっと、ありがとうございます」 フェイトー、素直に受け入れないでー! ほら、表玄関蹴破ったりしたし、さすがに悪いって! 「遠慮するな。客人になにもせず帰したんじゃ、うちの名折れだ。 それにじいも、お前達にいろいろ教えなきゃいけない理由があるらしいしなぁ」 そして殿様は振り返り、意地悪げに彦馬さんを見る。バツが悪そうにしながら、彦馬さんはせき払い。 ……やっぱりあるんだ、そういう理由。マスター・ジミーは一体なにをしたのよ。 「ぐ……と、とにかくもう準備もさせているし、食べていってくれ」 「は……はい。あの、ありがとうございます」 「ありがとうございます」 そう言われては遠慮するのも失礼。改めて二人にお辞儀し、しっかり稽古を見せてもらう。そこで気になったところが一つ。 やっぱりみんなが真剣だったってのはいいのよ。問題は……殿様の動きがただ者じゃなかったところ。 しかもあの動きはこう、実戦を経験している。そういう感じがしてならなかった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 剣術の稽古が一段落してから、改めて書の稽古。僕達が飛び込んで中断したから、一応総仕上げ的にぱぱっとやるらしい。 少し申し訳なくなりながらも、気になる事が。全員が懐から、やや不格好な携帯を取り出した。 赤い折りたたみ式携帯は、中心部が丸く盛り上がっていて……しかも展開したかと思うと、真ん中から二つ折り。 中心部からすかさず筆が飛び出し、あむと一緒に驚かされる。 「な……筆!? 携帯に筆!?」 「アレはショドウフォンだ。まぁモヂカラを上手く使うための道具ってところだな」 「あ、あのヤスフミ、文字で物が出てくるってやっぱりおかしいんじゃないかな。それってどう考えてもレアスキル」 「静かに」 気を散らされても困るので、フェイトには『静かに』とデコピン。……まず茉子さんが、あのキャンバスに『風』と書く。 いや、あれはキャンバスではなかった。習字用の台だった。だから和紙も敷かれていて……また達筆な。 字の奇麗さに感心していると、文字がピンク色に輝く。そうして淡く、優しい風が噴き出した。 「な……恭文!」 「だから静かに」 次はことはさん。なお流ノ介さんとことはさんは、より大きく離れている。それに首を傾げていると、石と文字が書かれた。 こちらも奇麗だけど、やや可愛らしい感じ。そして文字が黄色に輝くと、漬け物石が文字から出現。 それはことはさんの目の前で落下するけど、事前に離れていたため被害はなし。……なるほど、あれが流ノ介さんにぶつかったわけか。 そんな流ノ介さんは……そのまま手本として教本に載せられそうな『水』。それは青い光を放ち、水の球体を生む。 流ノ介さんが筆を逆風に振るうと、水は放物線を描いて庭の池へ着水。そのまま池の一部となった。 「うむ、見事だぞ流ノ介。最初に水をかぶった時とは大違い」 「彦馬さん、どうかそのお話は……ほら、お客様の前ですし」 「だったらあんま成長してないだろ。さっきみたいに、ことはの石で足潰してたしよ」 「千明ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」 そんな千明さんは流ノ介をなだめながら、鋭くものびのびとした筆さばき。描くのは『草』……属性かなにかですか? 字自体は奇麗さなどでは他のメンバーに一歩譲るけど、書道を芸術と捉えるなら僕はこの字かな。 千明さんの字は緑色に輝き、そこから大量の草が出現。一瞬で千明さんはその中に埋もれた。 「ぶはははははは! 千明、お前は私より成長しているようだな!」 「流ノ介、笑いすぎ。お客様の前だって言ったの誰よ」 「は……!」 いや、もう遅い。今更居住まいを正されても遅すぎる。なるほど、力関係が大体分かってきた。 とりあえずヒエラルキーの上にいるのは茉子さんらしい。納得していると、草の中から千明さんが飛び出した。 自然と立ち上がり、千明さんへ近づき手を引いて起こす。それから草をさっさと払う。 「あ、悪い」 「いえいえ。でも……凄いですね、モヂカラ」 「あー、オレは敬語じゃなくていいぞ? なんかこそばゆいしさ、てーか年近いし」 「そう? じゃあ千明」 遠慮は無用らしいので、掴んだ手を更に強く握って詰め寄る。 「僕にもやらせて!」 「はぁ!?」 ごめん、迷惑だとは思ってるの。でも止められないのー! というか、今ので大体分かった。 モヂカラをプログラム――術式として捉えるなら、書き順は呪文と詠唱に等しい。 更に流ノ介さんの様子から、発動には術者のイメージが強く左右すると思われる。 ようは書く文字の意味を強く理解し、書くという行為そのものが詠唱になる事も分かっておけば……もしかしたらできるかも! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ あ……やば! 恭文、目がめっちゃキラキラしてる! こういう時はなに言っても無駄な時だ! でも駄目だって! おじゃましてるのに! てーか訓練して……それで我慢できなくなったのかー! 「なるほど……よし、やってみろ!」 「ありがとー!」 許可しちゃったよ! 千明さんは恭文にショドウフォンを私、自分が書いた紙は回収。さっと新しい紙をそこに準備した。 「おい千明!」 「まぁまぁ。てーかじいさん、言ってたじゃないかよ。人の字を見る事もモヂカラの勉強だって」 「言ってたな。まぁあくまでも書道としてならいいんじゃないか? というか……ありゃ止められないだろ」 殿様も恭文を眩しそうに……そりゃそうだよね! 朝日すら霞むほどに瞳輝かせてるもの! 「や、恭文……一回だけだからね! 邪魔しちゃ悪いんだから!」 「分かってるって。……僕が一番知ってて、基本となる字は」 ≪やっぱあれですね≫ ≪主様、やっちゃうのー≫ 恭文が深呼吸し、ゆっくりと書いたのは……『鉄』。いや、アイツらしいというかなんというか。 「ほう、悪くはない字だな。荒削りだが勢いがある」 「なんか、千明や源さんの字に似てるかも。うち好きやわー」 「でもさすがにモヂカラは」 とか流ノ介さんとことはさん、茉子さんが言ってると……アイツの文字が蒼く輝く。 そこからどういうわけか鉄のインゴットが飛び出し、地面へ落ちた。 「「「……え」」」 場の空気が凍りついたのに気づく。いや、インゴットって言っても……めっちゃ小さいの。指先で摘めるサイズ。 あたしもギリギリ見て取れたレベルだしさ。千明さんがそれを芝生から拾い上げ、太陽にかざして驚く。 「え……おいおい! これ、マジモンの鉄だぞ!」 「なんだと!」 「や」 そこで恭文は……まず千明さんに丁寧に筆を返してから、両手を挙げてバンザイ。 「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 使えた! モヂカラ使えたー!」 『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』 なんでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? いや、マジでなんで! アンタ、モヂカラとか使うの今日が初めてじゃん! なのになんで一発で使えるの!? てーかなんで適正とかあったの! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 朝八時――朝食です。ここ、本当に武家屋敷みたい。赤い壁の部屋に通されて、緊張気味に三人で正座。 奥に一段高い場所があり、そこに殿様が陣取る。そして左右に例の四人が分かれて座る。 あとは置かれた和食お膳を、静かに頂く。ねぇ、なにこれ。いや、ごちそうになっておいて不満はないのよ。 でもその……ちょくちょく家の中でこう、黒子を見かけるのよ。それも一人二人じゃなくて、使用人が如き人数。 配膳してきたのも黒子だし、お茶を持ってきたのも黒子。あむも異様な様子を感じて、軽く頬を引きつらせていた。 でもフェイトはそれが普通であるが如く、お礼を言ったり……フェイト、ホントツッコミなってないよ。 緊張しながらもサケの塩焼きを摘む。うーん、なんて素晴らしい焼き加減なんだ。 「しっかし、一発でアレって……オレだってそんな感じじゃなかったぞ」 「いや、実は僕もできるとは……大体の仕組みは分かったから、後はそれに則っただけで」 「これは、あれかしら。彦馬さん、源太と同じく」 「かもしれんな」 「あ、源太ってのがここに出入りしてるすし屋だよ。確かじいさん、言ってたよな。 昔からモヂカラの扱いに、特殊な才能を持ってる奴が時々出てたって」 「あぁ。ちなみに恭文、先ほどはどのような事を考えながら書いたのだ」 「えっと、まず物質操作の能力が使えるんです。それで戦う時、地面や近くにあるものを武器にも変化させて」 食事の場だけど、懐からくないを六本取り出す。それに物質変換をかけ、鉄制の招き猫ズとした。 みんなが驚く中、招き猫ズは床に置いておく。まぁこういう感じだって見せるためだしね。 「その関係で分子やら元素関係の勉強もしていたんで、鉄とかの扱いは慣れてるんです」 「それで文字へのイメージが強くなったのか。なんという」 「なるほど……お前はようするに手品師なのだな。だが侍ではない」 そこで流ノ介さんがなにかかみ締めるように……なので僕は笑って、流ノ介さんを左手で指差し。 「この水をかぶっていたらしいえなりかずき、なに言ってるかよく分からないわ」 「誰がえなりだぁ! あと水の話はするな!」 「あー、気にしなくていいって。流ノ介は純粋培養の侍でよ。でもえなり……あー、テンパると声は似てるかもな!」 「千明、悪いって……ぷぷ」 「茉子までなんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 違うぞ、私は中華食堂の息子ではないぞ!」 あぁ、こっちでもそのドラマやってるんだ。しかもめっちゃ反応してるし。 「なるほど、モヂカラってのは侍とやらが使うものなんだ。だから下手に触れるなと」 「その通りだ! 侍とは気軽になれるものではない! ……まぁ、あれだ。まずは小学校で字の勉強をしてからだな」 「だが断る」 するとなぜか流ノ介さんは前のめりにズッコける。それから慌てて僕へ詰め寄ってきた。 「なんでだぁ!」 「僕がこの世で好きな事の一つ、それはね……僕を豆と言う奴を駆逐し、生き地獄を見せる事だよ」 「いや、君? それ言ってる事ほとんど悪魔」 「いえ、僕は天使のように純粋無垢で真っ白だとよく言われます」 「嘘じゃん! それ大うそじゃん! アンタ仲間や敵からも悪魔って共通認識じゃん! ていうか魔王ご謹製のボットン便所じゃん!」 「あむ……朝からそういう話は。下品だよ」 「あたしが悪いみたいな顔するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 まぁご飯もごちそうになってるし、ここは冷静になろう。なんでかあむとフェイトも両肩掴んで、押さえてくるしさ。 「……いいだろう」 『へ?』 「侍として、挑戦から逃げるわけにはいかん! その申し出、不詳池波流ノ介がしかと受けよう!」 『なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』 あれー!? どうなってるの! 僕は決闘の申し込みなんてしてないよ!? 喧嘩は売ったけど! 一体どういう事かと殿様を見ると、殿様はため息混じりにご飯をかっこむ……なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁ! だ、駄目だ! さすがにここで決闘とかは躊躇う! ……よし、ここは煙に巻こう。 「じゃあしょうがない。流ノ介さん、ゲームをしましょ」 「げ、げぇむ? 私はテレビゲームなどは」 「違います。簡単な数学ゲームですよ、僕達は交互に数字を数えていく」 そこで茉子さんや千明が顔をしかめるけど、気にせず右指を三本立てる。 「一度に数えていい数字は三つまで。そうして先に二十一を言った方が負けです。 ここでいきなり決闘になっても申し訳ないですし、これで終わらせましょう」 「なるほど……それなら私にもできそうだ。よし、やろう」 「先攻は流ノ介さんからどうぞ」 「では……一」 「なら二・三・四。流ノ介さんはここで五から七まで数えられます」 「五・六・七」 焦った様子もない事から、障害はなしと判断。なので数字を一つだけ数える。 「八」 「九・十」 「十一・十二」 「十三・十四・十五」 「十六」 「十七」 「十八・十九・二十」 これで僕のターンは終了。次に待つ数字を悟り、流ノ介さんが顔を青くする。しかしそれでも。 「二十、一……負けたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 潔く数字を言って、悔しげに崩れ落ちた。 「残念でした。さ、面倒事はこれで水に流して、ささっと食べましょ。ご飯が冷めたら駄目ですよ」 「あぁ、そうだな。すまなかった」 というわけで朝食再開。美味しいお食事を静かに頂き、素敵な体験に後ろ髪引かれつつも志葉家を出た。 また勉強させてもらう約束もしたし……楽しみだなー。いろいろやりたい事があるんだよねー。にゃははー♪ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 全員で恭文とあむ達を見送って、屋敷内に戻る。しっかし嵐のような朝だった。でもアイツ……また強烈な。 「でもありゃ、悪魔と言われるわ」 「だなぁ」 悪い奴ではないんだよ。ただ……悪党だな、ありゃ。下手すると外道衆以上だよ。 まぁさすがに決闘やられると迷惑だし、だから姐さんや殿様――丈瑠もなにも言わなかったんだが。 「茉子ちゃん、千明、それどういう事なん? 恭文くん、悪魔には見えへんけど」 「だってあの子、流ノ介が絶対負けるよう調整してたもの」 「なんだとぉ!」 歩いている横で流ノ介がぎょっとし、足を止める。うわ、マジで気づいてなかったのかよ。信じらんね。 「このゲーム、必勝法があるのよね。二十一を言えば負けるって事は、二十を言えば勝てるって話だから。 なら二十を言うためにはどうするか――それは十六を言えばいいのよ、そうしたら相手は最大で十九までしか数えられないから。 あとは同じ要領で逆算してくと、『四の倍数だけを言う』って必勝法が成立するわけ」 「しかもこの条件だと、先攻が絶対不利なんだよ。後攻はなにもしなくても、四を取れるんだからさ。 ことは、よーく思い出せ。流ノ介が幾つ数えても、アイツはそこで必ず止めてただろ」 「あ……!」 「なんだと……そんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 マジで気づいてなかったらしい流ノ介は、庭でバタバタしながら玄関先を指差す。もう遅いって、それ。 「それイカサマやんか! ズルはよくない! なんで二人ともなにも言わなかったん!?」 「いや、これは見抜けなかった流ノ介が悪い」 「えぇ! と、殿様! まさか、殿様も気づいてたんですか!」 「気づいていたというか、知っていた。ことは、このゲームはかなり有名なんだよ。俺も源太に教えてもらったし、茉子と千明も」 「同じくダチからだ。しかもかなり使い古されてるゲームだぜ? 知らないってのがそもそも驚きだよ」 それも二人……まぁしょうがないかー。流ノ介は実家だと歌舞伎や侍修行一直線だったし、ことはも似た感じだしよ。 それでもことはは納得しきれず、オロオロするだけ。まぁあれだ、それだけことはが優しいって事だよ。 「で、でもぉ」 「そう、ですね」 あ、なんか復活した。悔しげに呻きながら流ノ介は、右拳で地面を殴った。 「殿のおっしゃる通りだ、ことは。イカサマを見抜けなかったのは、私の不手際だ。ならばそれはイカサマにあらず……!」 「あら、あっさり認めるのね」 「しかし次こそは負けん!」 そして流ノ介は暑苦しく立ち上がり、玄関先へ戻って思いっきり叫ぶ。おい馬鹿やめろ! ただのはた迷惑じゃねぇか! 「今度は数えられる数字と、負けになる数字を変えれば……待っていろ、蒼凪恭文ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」 「……お前、それカモにされるフラグじゃねぇか」 「ほんとよ。あの子、この手の事が得意っぽいのに。丈瑠、どうする?」 「知らん」 「「ですよねー」」 でもまた、か。なんだかんだで馬も合うし、楽しくなりそうでつい笑っちまう。ただ一番楽しむのは流ノ介だろう。 それは間違いないと軽く伸びをし、すたすた歩いていく丈瑠や姐さんを追いかける。 ついでにことはも引っ張って……さて、今日も一日頑張りますか。 (第56話へ続く) あとがき 恭文「というわけで二〇一四年七月十一日の未明頃、750万Hit達成記念のとまかのです。……全てはデュエルのため!」 フェイト「ラストを派手にと思って、いろいろと……お相手はフェイト・T・蒼凪と」 恭文「蒼凪恭文です」 フェイト「ヤスフミ、ゴッド・ネオスだけど、本来ならグロー・モスとかの効果が出てたんだよね」 恭文「公式裁定だとそうなるけど、アニメ版も同じ感じで普通に攻撃してたのよ。 今回出てくるのはあくまで、アニメGXに登場したゴッド・ネオスなので、迷いましたけどこういう扱いにしました」 (ご了承ください) 恭文「でもデュエルの中身としては負けに等しく……ちくしょー!」 フェイト「さすがに勝てないんだね」 (地力が違います) 恭文「あとはアヤカシの事とかは内緒にされた上でだけど、シンケンジャー組が登場。本格的に絡むのはまた次回以降で」 フェイト「魔法に近い解釈で使ったから、あんな簡単に……あれアリ!?」 恭文「尺の問題です」 フェイト「どういう事ー!?」 (尺の問題です) 恭文「それはそうとフェイト、実はバンダイチャンネルの方で、期間限定だけど『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』が無料試聴可能に」 フェイト「あ、νガンダムが出てくるのだよね。……え、なんで!? 確かあれ、見放題じゃなかったよね!」 恭文「スマホ版Gジェネで逆シャアのイベントやってるせいみたい。あ、こちらがそのキャンペーンHPです」 (『http://ggame.jp/content/cp_bc_cca/index.html』) 恭文「さっきも言いましたけど、こちらのHPじゃなくてもバンダイチャンネルでは現在無料試聴可能です」 (それがこちらです『http://www.b-ch.com/ttl/index.php?ttl_c=376』) 恭文「HDクオリティ版じゃないけど、この機会に是非見てみてください。七月二十二日まで無料視聴可能だそうです。 作者は今日早速見て……HGUCのνガンダムHWS買っちゃった」 フェイト「動きが早すぎるよ! というかどうしてその、あのゴツイの?」 恭文「HWSは成型色こそ違うっぽいけど、素のνガンダムのパーツは全て入ってるのよ。 Amazonだと現在百円しか違わなくて、どっちも二千円以下だからぽちっと」 (きっとどこかのタイミングで出るだろう。……あ、でもABSパーツは無塗装で頑張ろう。 本日のED:シド『ENAMEL』) あむ「……これ、二十六年前とかなんだよね。なんか凄い」 恭文「今見ても見劣りしない作画とアクション、ガンダム映画の最高峰だね。そりゃあタツヤもνガンダムヴレイブ作りたくなるよ」 あむ「え、これあの人も見てたの!?」 恭文「コミックス第一巻で、逆シャア見てるコマがあるしね。第二話の二ページ目だよ」 古鉄≪そしてシュツルム・ガルスはなんとか合わせ目消し完了。次はヴァリュアブルポッドですよ、ヴァリュアブルポッド≫ 恭文「今回はチェーンマイン背負わないし、あとは武装だね」 あむ「そういやシュツルム・ガルスって、スラスター的なのほぼないんだっけ」 恭文「そういうのも含め、装甲の大半も取っ払って軽量化してる機体だしね。基本は突撃し、特攻しつつの殴り合いだよ」(チラリ) あむ「それ死ぬよね!」(チラリ) 恭文「いやいや、戦闘中プロペラントタンクにぶつかって漂流するんだよ」(チラリ) フェイト「え、あの……どうして私を見るのかな? 私、なにかしたかな」(おろおろ) 古鉄≪そして追記です。今回出てきたエルリック・ブレイカーも、壬黎ハルキ様からのアイディアとなっております≫ ジガン≪ハルキ様、アイディアありがとうなのー≫ (おしまい) [*前へ][次へ#] [戻る] |