小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory24 『フルウェポン』
前回のあらすじ――やっぱ一つのブロックで固まるべきじゃなかった。今更そんな後悔をしています。
その衝撃は夕飯時を越えても変わらずで、リビングのソファーへ座り、揃って顔を突き合わせる。
それはそうと、僕は携帯でAmazonにアクセス。タミヤ製のエアブラシとコンプレッサーのセットを購入。
二万円弱の比較的安いものだよ。今考えているプランを形にしようとすると、筆塗りじゃあできないところがあって。
「どうすっかなぁ。いや、身内同士の対戦は覚悟してたんだよ」
「わたしも同じく。そもそもこれ、一つしかない席を取れるようにって作戦だもの。……こう連続でくるとは」
「しかも決勝には、確実に如月千早さんが……ですよね。恭文さん」
「アミタの言いたい事は分かっている」
注文し終えたので携帯をさっと仕舞う。
「後で去年の試合映像、見せるから」
「助かります!」
「まぁ去年の、だけどね」
多分パワーアップしてるだろうしなぁ。それでも勉強は必要だろうし、問題ないか。
「ねぇ、一応聞くけどさ」
そこで食卓に座っていたティアナが、こっちへ前のめりになる。
「身内同士の試合でガンプラを修復不可能にしても、正直馬鹿らしいじゃない?」
「まぁ、そうだね」
「だから予め勝つ組を決めておいて、相手になるチームは棄権するとか。それで勝ち抜く組のサポートに回る」
「あ、いいんじゃないかな。あの、プラモ壊れるのやっぱり嫌だろうし。ヤスフミ、みんなもそれでいこうよ」
なので二人にKYだと言わんばかりの視線をぶつけてしまう。
しかも全員揃ってだから、フェイトがアイリを抱きながら軽く引く。
というか、僕が抱いている恭介もなぜか身をよじった。おかしい、そんなのはつまらないというだけなのに。
「……うん、ないわね。分かってたわ」
「そうだよー! ていうか、せっかくガンプラ作ったのに、戦わせずに棄権とか嫌だー! 全く、へいとは本当に駄目駄目だなぁ!」
「やっぱりー!? ていうか、私だけじゃないのにー!
で、でもそのせいで決勝戦を万全に迎えられなかったら……あ、そうだ」
そこでフェイトが右人差し指で天井を指して、これならと笑う。
「あの、千早ちゃんに事情を説明して、協力してもらうのはどうかな。最悪こっちが負けても問題ないように」
「あー、無理無理。そんな八百長みたいな真似、千早が乗っかるわけないでしょ。
てーか一流のファイターにそれ言ったら、殺されても文句言えないよ?」
「えぇぇぇぇぇぇぇ! じゃ、じゃあどうするの!?」
「そこはなんとかするしかないだろう。幸い一試合ごとに一週間のインターバルもある」
「では大会でぶつかっても、全力でバトルする。そういう事で問題ありませんね」
シュテルが僕達一人一人の目を見る。僕は最初からこういう、馬鹿なルートへ進むとは覚悟していた。なのではっきりと。
『異議なし!』
みんなで声を揃えた。さて、そうなると……僕はシュテル達夜天一家と向き直った。
「まずは我らと小僧か。勝負は既に見えたな」
「あぁ、そうだね。おのれの負けだよ。そして『アンチョビ!』と悲鳴を上げるよ」
「どういうシチュだぁ! 貴様、ガンプラにアンチョビでも塗りたくるつもりか!」
「あの、それじゃあ……ヤスフミ、私も手伝うよ。プラモならもう作れるし、大丈夫だよね」
そこでフェイトが、空いている手でガッツポーズ……お願いみんな、一気に顔を背けないで。
確かにフェイトがまたフラグ踏んでるけどさ。FGぶっ壊して、あんなに涙目だったのに。
魔法少女リリカルなのはVivid・Remix
とある魔導師と彼女の鮮烈な日常
Memory24 『フルウェポン』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
うちの双子も寝付いたので、作業室で今日のガンプラ制作タイム……とはいえ、なぁ。
テーブル上に置かれているのは、追加装備もバッチリなゴースト。そしてHi-νガンダムカラーなF91。
……下地にマホガニーやオリーブドラブを塗って、その上からキャラクターホワイトやスカイブルーを塗る。
下地が薄く見えるように塗り重ね、タミヤのウェザリングマスターでエッジなどを中心に汚し。
その結果ホワイトはやや青みがかった灰色となり、素組みから比べると歴戦の勇士的な雰囲気が漂っている。
こっちは『ガンダムF91ナハト』……単なる色変え機体っぽく見えるけど、早々に完成した立派な予備機体。
オリジナル装備とかはないけど、その分デフォの性能を高めてる。もちろん例の機能も使えるよー。
「あの、これを改造すればいいのかな。うん、任せて。えっと、色を塗り直せばいいんだよね」
「お兄様、フェイトさんが話を聞いていません」
「いつもの事だな……もぐ」
「シオン達がひどいよー! あの、私だってもうビルダーなんだから! ガンプラ作れるんだからー!」
「……そういうセリフは、FGを一人で作れるようになってから言おうな?」
ショウタロスがツッコんでもフェイトはガッツポーズ。
フェイトが脇から手を伸ばし、F91ナハトをさっと持ち上げ……る前に腕を掴んで止める。
「え、なんで止めるの? これの色を塗り直すんだよね、なんだかボロいし」
「そういう塗装表現なの! もう完成してるから!」
「うぅ、ヤスフミがひどいよー! 私が持ったら壊れるって思ってるー!
というか、これが表現なわけないよね! 汚いしボロいのに!」
「……おのれ、実際壊してるでしょうが。FGガンダムを何回も」
「はう!?」
「フェイト、お願いだからそろそろ自覚しよう。よく分からないのに改造の手伝いとかできないから。
バルディッシュの整備だってそうでしょ? よく分からないのに分解なんてしないよね」
≪そうですよ、分解したら保証が利かないんですから。メーカーは目ざといんですよ?≫
メーカーどこ!? おのれが言う生みの親はもう消滅してるけど! シャーリーか! それともマリエルさんか!
「うぅ……奥さんなのに役に立てないー!」
「大丈夫だよフェイト、フェイトはただ温かく見守っててくれればいいの。それだけでいいの」
「うぅー!」
限りない事実を言ってるだけなんだけど……なのに僕、フェイトにぽかぽかと叩かれる。
「だが恭文、ゴーストで本当に勝てるのか? アイツら恐らく」
「分かってる」
ゴーストとF91ナハトは戦い方が丸ばれ状態だからなぁ。最初はそれでも様子見つつ、改良プラン練って……と考えてたのよ。
でも相手は初っぱなからあの四人。しかもシュテルがいる辺りで……しょうがない、ガンプラを変えるか。
知識面でのアドを握られていると、なにやっても封殺される恐れがある。プランの試作型を使うしかない。
「できればアレは、決勝戦まで温存しておきたかったんだけど」
「それすらも厳しい状況ってなんだよ。……おい待て、アレってまさか」
ショウタロスのツッコミがキツいけど、それもしっかり受け止める。その上で保管用のボックスから一つのガンプラを取り出す。
初代ガンダムによく似たそれは、胸部装甲中央にAのマークが輝いている。これは仮組みを済ませたばっかりのガンダムAGE-1。
ガンダムAGEという話題作に登場する、ガンダムの一つ。初代ガンダムのオマージュとも言える。
本来フラットな両肩アーマーには、前後とサイドにスラスター部を増設……という段階で止まっているんだけど。
世界大会用に作り込むつもりだったんだ。ガンダムAGEのプラモ、安売りするのがおかしいほどに完成度高いから。
このAGE-1もパーツ数は絞りつつ、完璧な色分けだもの。もちろん可動域も無改造で正座や膝立ちができるほど。
価格も手頃だし、ストライクガンダムと同じく改造用素体としては完璧すぎるプラモだよ。……今回はこれを使う。
それと……更に取り出したのは、トランク型の武器ユニット。それと対になる台形ユニットも取り出す。
これも合わせて使おう。今回大会に出ると決めた時から、どこかでやりたかった事だから。
「理論構築は既にできてる」
「それでも技術的再現は二割って言ってたじゃねぇかよ! あれか、さっき注文してたエアブラシで」
「今回の実戦投入は無理だよ。元々世界大会用に、時間をかけて調整するつもりだったんだから」
「マジかよ……!」
「二割であの四人を相手にしますか」
とんでもない博打だよねぇ。でもなんというか、いつも通りすぎて笑っちゃう。
「博打はいつもの事でしょ」
「それもそうだな……もぐ」
「あ、あの……なにするのかな。私も手伝うよ。えっと、ヤスフミが教えてくれれば」
「無理! てーか試合まで一週間切ってるのよ!? フェイトに教えてる暇がない!」
「あの、大丈夫だよ。一発で覚えるから」
「そう言って覚えられた事がなかったでしょうが!」
さて、どうするかなぁ。基本武装だけじゃ足りないだろうし、そっちも準備しないと……あとはフェイトのガッツポーズはすぐ止めよう。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ヤスフミとの対戦に向けて、早速会議開始。王はすっかりアイリ達の乳母になっているけど、それでもこちらへ来てもらった。
とりあえずヤスフミが使うクロスボーン・ガンダムゴーストの資料を渡し、自室でさっと解説。
「クロスボーン・ガンダムゴーストは正式名称『X0』。その特徴は背部のX字フレキシブルスラスターです。
これは最大推力をX字の頂点へ配置し、更に重心から離す事で高い機動性を獲得した装備となります。
スラスターの位置変更により推力を集中させれば、私達のガンプラでは追いつけないかもしれません。
更に武装はサーベルと銃形態に変形可能なバタフライバスター。フロントスカートにはシザーアンカー。
両腕には攻防両用のブランドマーカー。更に両肩のビームマシンキャノンは、砲身を抜き出しサーベルにもできます。
そうそう、両足スネにはスラスターの排気熱によって熱せられる、ヒートダガーも存在します。これは足裏から射出されますのでご注意を」
「お前、詳しすぎるだろ! 一体どこからそこまでの情報を持ってきた!」
「Wikiからですが、なにか」
「ドヤ顔はやめんか、腹が立ってしょうがない! ……とにかくすばしっこく動くと。それならば」
「ですがヤスフミの事です、今回ゴーストは使わないでしょう」
そこで王達が全員揃って椅子から転げ落ちる。おや、どうしてでしょう。ヤスフミの性格を考えれば当然の事でしょうに。
「じゃあ今の説明はなんだったのー!?」
「万が一という事も考えられますので、一応頭に入れておいてほしいのです。恐らくヤスフミは私達の戦術を読んでいます」
「なぜ……とは聞く必要はないか。我らそれぞれにガンプラを作っておったしな」
「だからあの、原作そのままなガンプラを持ち出す事はないんでしょうか」
「知識・戦術アドをこちらに譲りますから、それは避けるはずです。その場合我々は『全機』揃っても苦戦を強いられます」
展開するモニターに動画再生――それはユーリ及び闇の欠片と戦っていた時のもの。
映像の中心はやっぱりヤスフミだった。これらはレヴィのバルニフィカスが撮っていた記録映像。
「ヤスフミの魔力資質は奥様やナノハ、もちろん我々よりもずっと下。ユーリとなら比べるのもおこがましいレベルです。
ですがオーバーS、及びそれすら相手にならない特異能力保持者とも対等に渡り合い、幾度も勝利を収めている。
もちろんここはヤスフミの歪な魔力資質、キャラなりなどの特異能力も大きいですが……それだけではない」
「つまるところ、なにが言いたい」
「ヤスフミの強さ、その根源は『知性』です。戦術で能力を限界以上に活用できる。
もちろん相手の隙を引き出す事も……実際ユーリも」
「そ、そうですね。あの……螺旋丸、でしたっけ。それの三連発は全く予想できなかったですし」
「ヤスフミはこちらの基本戦術を読んだ上で、それを打破できるよう念入りに準備するはずです。
それも私のような付け焼き刃ではなく、一ファンとして培ったガンダム・ガンプラ知識も活用して」
こちらの体勢も万全だとは思うけど、私達はやっぱりガンプラ・ガンダム初心者。そしてそれらには長い歴史がある。
一般的にスケールモデルと言われるものも含めれば、より深くなる。彼のガンプラ製作はそちら寄りらしいし。
もちろん物質変換・分解に特化した能力持ちなので、そこから得た粒子への知識も応用されるだろう。
確かに魔導戦とガンプラバトルは違う。しかし彼にはそのどちらにも生かせる知性がある。
だからこそ『古き鉄』は最強最悪の嘱託魔導師となっているわけで。
「うーん、難しいとこは分からないけど……とにかくすっごく楽しいバトルになるって事だよね!」
「えぇ、その通りです。では王、予定通りあなたがメインファイター」
「お前達はそれぞれセコンドとしてサポートだったな。ふん、我が力見せてくれるわ」
「わ、私も頑張ります!」
あとは連携の打ち合わせや、各員の役割を改めて確認。自然と全員が笑っていた。そう、私達は楽しんでいる。
長い時間闇の中にいて、このような遊びをやる機会すらなかった。なにかを作る事もなく、壊し殺す事だけが使命だった。
今までは知らなかった、知ろうともしなかった世界へ飛び込む。その中で本気の戦いをする。
それで沸き立たないわけがない。もしかしたら協力を申し出たのは、私達自身の欲望だったのかもしれない。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
フェイトがあんまりに『できる』と言うので、工作用に取っておいたプラ板を取り出す。
それからラッカー塗料と溶剤を取り出し、更に予備の筆と調合スティック、スポイト数本を置く。
色はマホガニーとキャラクターホワイト。筆は僕が一番使いやすいと感じている、二号の平筆。
サイズ的には人差し指の先と同じくらい。あとは万年皿も置いたら準備完了。フェイトはオロオロしながら筆と塗料を見る。
「え、えっとこれは」
「塗装の基本だよ。さ、塗ってみようか」
「あの、これができたらお手伝いもいいのかな」
「うん、いいよ。まず隅にマホガニーを塗って、色がついたら白を上から重ねるの」
「えっと、この茶色だよね。なら早速」
フェイトは慎重にフタを開け、筆を塗料瓶へ。
「はい失格」
「えぇ! まだなにもしてないのに!」
「便の塗料をそのまま塗ろうとした、それで十分失敗だよ。あのねフェイト、塗料は基本濃い状態で入ってるんだよ。
そして塗料は溶剤と顔料が分離した状態だから、そのまま塗ると塗膜が厚すぎるし上手く塗れない。なので」
スポイトと調合スティックを指差す。それからポリ容器入りのラッカー溶剤を指した。
「調合スティックでかくはんして、万年皿に移す。それからスポイトで溶剤を取り出し、適度に薄めて塗るのよ。濃度は大体二倍から三倍ね」
「う、うん」
フェイトは戸惑いながらも指示通りに調整。料理関係で似たような事はしてるから、ここは意外と上手くいった。
それから塗料を筆に含ませて、隅に線を描く。でも当然ムラムラで、色もちゃんとつかない。
だからフェイトは何度も何度も重ね塗りするも、塗料が乾いていないところに塗るものだから色ががれる。
「あ、あれ……どうしてー!?」
「色が乾くまで待たないからだよ。少し待って、乾いたら塗っていくの。
ただし一度塗ったところは、乾くまで筆を走らせないようにする。例えちゃんと塗れてなくてもね」
「え、どうしてかな。だってちゃんと塗らないと」
「フェイト、乾かず塗り重ねたらどうなるか、たった今見たでしょうが」
そこで塗料ががれまくった箇所を指差しても、フェイトは首を傾げっぱなし。
「重ね塗りすると、乾いていた箇所も溶剤によって溶けちゃうのよ。
だからそこに筆を走らせると、その動きによって一層目もがれてしまう」
≪ここは使用している溶剤が関係しています。同種の塗料だとそういう現象が起きやすいんですよ≫
「えぇー! じゃ、じゃあどうすればいいのかなー!」
「だから力を入れず、筆で薄い膜を作っていくのよ。濃度を薄めるのもそのために必要だから」
≪主様のゴーストやF91ナハトも、そうして作ったものなの。一朝一夕には出せない色なの≫
そうそう、あれもマホガニーを下地に色を重ねていったから出せる風合い……だから筆塗りって好きなんだよねぇ。
筆ムラだって塗る方向を考えれば、立派な表現に変わるしさ。
「でもあの、あれ汚いよ? 失敗作じゃないのかな。だからあの、私が奇麗に塗り直すよ、真っ白に塗ればいいんだよね」
「……は?」
「ヤスフミがなんだか怖いー! ど、どうしてー!」
「あれはプロモデラーもやっている塗装表現なの! おのれ、平田ガンスに今すぐ土下座しろ! というか今からお仕置きだから!」
「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
なのでフェイトの後ろから両手を回し、やっぱりふかふかな胸をもみ上げる。
「ふぇ……ヤスフミ」
「お仕置きだよ、フェイト。塗料や溶剤のフタを閉めて」
「こ、ここでなの?」
「そうだよ。さぁ、早く」
笑顔で念押しすると、フェイトは震えながら全てのフタを閉じる。それから立ち上がってもらい、こっちへお尻を突き出させる。
それじゃあ早速お仕置き開始……フェイトの体に、プラモへの扱いというものをしっかりたたき込む。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
イオリくんはいつもなにかを見ている。真っすぐ前を見て、なにかを追いかけている。
わたしはそんな背中を見ている事しかできなくて……イオリくんが出ていってから、教室の右隅を見る。
入学したての頃、初めて話をした時もここだった。わたしはあそこに座って、生け花をモデルに水彩画を描いていた。
そんな時、イオリくんが入ってきた。
「あの、すみません」
振り返ると、イオリくんは遠慮がちな顔をしていた。基本穏やかで優しい子なのは、そういうところからも伺えた。
「イオリ、くん」
「あ、委員長。そっか、美術部に入ったんだ。……あ、先生に許可取ってあるから」
その手にはオレンジ色の鍵。美術と言っても、刃物や薬剤などの用具を使う事もある。
扱いを間違えると危険なそれらは、わたしの左横にあるロッカーで厳重に管理されていた。あれはそのロッカーの鍵。
「彫刻刀借りるね」
鍵は先生が持っているものだから、特に問題はなさそう。なので改めてイーゼルに向かい合う。
もうすぐ仕上げ……集中して筆を動かし始めると、イオリくんがのぞき込んできた。
「……なに?」
「いや、デッサンも上手いけど、色使いが奇麗だなぁって」
とても素直に。それに真っすぐ褒められて、ついドキッとしてしまう。
だから楽しげなイオリくんから顔を背けるように、改めてキャンバスを見る。
「あ……ありがと。美術、興味あるの?」
「え、なんで」
「美術の時間、先生がイオリくんの石こうデッサン褒めてたから」
「いやぁ、興味あるのはデッサンだけなんだ。頭の中にあるイメージを、ちゃんと絵にしたくて。絵の基本を身につけたかったから」
「なんのために」
少し不思議な子だと思った。というか、デッサンだけを身につけて他に応用? 一体なにをするのかと思い、イオリくんを見上げると。
「ガンプラ」
イオリくんは瞳を星みたいに輝かせながら、そう言った。……わたしには、それがなにかはよく分からない。
だけどイオリくんがそれに夢を描いて、真っすぐに進もうとしている。それだけはよく分かった。
だから、それからあの子の瞳を追いかけてしまう。見ている先になにがあるのか、知りたいと考えてしまう。
それで、星の輝きみたいな瞳を向けられている、ガンプラというものに……ちょっとだけ、羨ましさも感じた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あれから数日後――私はここへやって来た。『第七回ガンプラバトル選手権 第三ブロック日本代表予選』。
イオリくんがあれほどまでに打ち込んでいる、ガンプラ。それを知りたいと思った。
会場は市内にある大型公民館で、毎週日曜日に開かれるらしい。それで一回戦ずつ、だっけ。
入場が基本自由なのは少し有り難い。……そう思いながら会場へ入る。すると公民館の中に幾つも戦場が生まれていた。
プラフスキー粒子、だっけ。あれを出す機械が、あの時のバトルみたいに幾つもくっつけられている。
その中でロボット達が戦っては、壊れていた。そう、壊れていった。
例えば廃虚で赤いロボットが、銃から光を発射する。それは薄紫のロボットへ迫るけど、薄紫の子は赤い盾をかざし防ぐ。
何発も何発も光は走るけど、緑の光は盾を壊す事ができない。
『説明しよう! チナちゃんはガンダムに詳しくないのであれだが、赤いロボットはガルバディα!
機動戦士Zガンダムに出てきた量産型MSだ! そして対するはギャン!』
『この盾は良い盾だぁ!』
え、今の声なんだろう。……ずかずかと進んでいた薄紫のロボットは、盾の裏側にある紐みたいなのを引く。
すると盾が回転し、そこから幾つも……幾つも弾みたいなのが飛び出した。
四方八方に散らばるそれを避けきれず、赤いロボットは次々と受けて爆発する。
粒子が消える中、壊れたロボットの事は気にせず、薄紫のロボットが勝ち誇った様子でポーズ。
そのポーズをおかっぱの子も取っていた。どうやらあの子が、薄紫のロボットを使っていた子みたい。
「僕のギャンは最高だねぇ! これであと十年は戦える!」
……相手のロボットを壊したのが、そんなに楽しいのだろうか。イオリくん達はそんな事、していた様子なかったのに。
少し不思議になりながら、隣を見てみる。雪山で緑色・タコ顔のロボットが、長い大砲を構えていた。
それから赤い光が走って、山肌を滑る赤いロボットを狙う。あれは、ユウキ先輩の……えっと、なんていうロボットだっけ。
そこであのおじさん達の事を思い出し、名前も自然と引き出せた。そうだ、ザクアメイジングだ。
あの緑色のロボットもよく似た顔だけど、お友達かなにかなのかな。
そんな事を思っている間に、ザクアメイジングが山肌を滑り降り、赤い光を避ける。
連続で放たれる光をジグザグに避けて……あれに当たっちゃうと、やられるみたい。
でもさっきの光と違う色なのに。違うから駄目なのかな。わたしには、やっぱりよく分からない。
『なかなか良くできたガナーザクウォーリアだ。ゆえに……傷つけるのは忍びない!』
数回目の光が走ると、今度は当たりそうなコースだった。でも当たる直前にザクアメイジングがジャンプ。
光が雪肌を溶かすのも構わず、曲芸師みたいに空中で回転。左手で持ったピストルを使って、緑色のロボットへ攻撃。
すると小さな弾丸三発が、同じくらい小さな大砲のスコープへ命中。
そしてザクアメイジングが着地し、振り返りながら右手で持ったナタを相手に突きつける。
壊したりはしていないけど、緑色のロボットが両手を挙げた。それで降参って事になって、勝負はついたみたい。
粒子が消えて、雪山も元のフィールドへ戻る。髪をオールバックにしていたらしい先輩は、それをさっと下ろした。
壊さなくても勝ちになるなら、どうしてさっきの人は弾をたくさん撃ったんだろう。壊さないならそっちの方がいいのに。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
確かによくできたガナーザクウォーリアだった。だが。
「とはいえ、燃え上がるまでもない」
髪を下ろし、対戦相手に一礼。その上でその場から下がる。……物足りなさと口惜しさが残る。
これが、真の戦いを求める私の傲慢だとでもいうのか。少し反省も込めながら歩いていると、見知った影を客席に見つけた。
その子は最前列で立ち見。そうしてなにかを探すようにキョロキョロしていた。
「コウサカ君」
ひと声かけながら右手を挙げると、彼女は私に気づいて振り向いてくれる。
「ユウキ会長」
そのまま廊下へ出て、観客席へ続く階段を上がる。これからは私もギャラリーなので、遠慮なく彼女の隣を取った。
「驚いたよ。君がガンプラバトルに興味があったなんて」
「いえ、そういうわけじゃ」
「なら、クラスメイトのイオリ君を応援かい」
そこで彼女は暗い中でも分かるくらい、顔を赤くする。それ以上はなにも言わず、まだ続いているバトルを見る。
「彼の出番は、あと三試合ほど後かな」
なお僕が見ている先では、青と白の兄弟機――ブルーディスティニーの1号機と3号機が正面衝突。
両腕のみをMGに変えているらしい3号機は、1号機を殴り飛ばしそのまま吹き飛ばす。
また乱暴な……だがとても面白い。温かく見守っている間に粒子は消える。
勝負とは残酷だ。頭部を殴り飛ばされた1号機は、ビルダーが悲しげにしながらも回収される。
「……会長」
そんな様子を、コウサカくんは少し険しい顔で見守っていた。
「ここにいる人達はみんな、ロボットを一生懸命作ったんですよね。そんな大切な作品で、どうして戦いを」
彼女がなにを見て、なにを疑問に思っているか、それはよく分かる。ガンプラバトルに触れた人なら誰もが思う事だ。
なぜ自分のガンプラが壊れるのに、なぜ相手のガンプラを壊すのに戦わせるのか。
ただ飾って、出来の優劣を決めるだけではいけないのか。見せ合って仲良くするだけではいけないのか。
そのために野蛮な遊びだと捉える人もいるが、私は違う。そう、前提が違うのだよ。
「一生懸命作るからだよ。自分のガンプラが一番強い。その強さを証明したいから……かな」
「強さの、証明。例え壊したり壊されても、証明しなければならないものなんでしょうか」
「それはちょっと違うね。言っただろう? 証明したいからって」
義務感ではなく、好きでやっている。これは遊びだ、僕達は結局……言いたい事はコウサカ君にも伝わったようで安心する。
……そこでふと思い出し、携帯を取り出す。更にささっと上部モニター展開。
最近出た新型で、イースター社製なんだが……実はかなり気に入っている。近代的だろう? 仕組みがさ。
「ちょっとごめん」
「お電話ですか」
「いや、第二ブロックで……十年来の友人が初出場していてね。そろそろ試合なんだ」
小さなモニターだが、第二ブロックの様子が映る。ここと似たような場所の一角に彼はいた。
黒コートを羽織り、空色髪の女の子を伴って前に出る。相手は……見た事がないファイターだな。
しかも女性四人のチーム? 中心の女性は自信満々に笑っていた。その雰囲気から、かなりの強敵と見た。
「あれ、この子」
「知り合いなのかい」
「この間、学校で会長とイオリくん達が戦った時、知らないおじさんと見に来ていて」
「……そうかい」
知らないおじさんって……あー、分かった。きっとラル大尉だ。ほんとになにをやってるんだか。
小学生……いや、今は中学生か。とにかくいきなり江戸川コナン状態だって辺りから信じられなかったけどさ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
一体、どうしてこうなった。そんな気持ちで胸がいっぱいだった。それはセコンドゾーンに立つリインも同じ。
≪Beginning【Plavesky particle】dispersal. Field5――City≫
粒子によりコロニー内部の都市群が形成される。僕達の周囲にも計器類とモニター、操縦スフィアが展開。
≪Please set your GUNPLA≫
そしてAGE-1が両腕に持つのは、トランクケースのような複合武器。
これはマーキュリーレヴ――十年前、ある子達と関わった時にもらったもの。これもどうしても使いたかったんだ。
左腕のレヴには大剣が装備してあり、それが肩アーマーの横を抜け高く突き出している。
「恭文さん」
「悪い事はするもんじゃないって事でしょ」
「ですね」
≪BATTLE START≫
「蒼凪恭文」
「蒼凪リイン」
もう言ってもしょうがないので、スフィアを前へ押し込む。
「ガンダムAGE-1フルウェポン――目標を駆逐する!」
AGE-1はカタパルトを滑り、空へ飛び出す。……そうしていきなり遠方に反応。それも、『三機』だ。やっぱりそう来るかと軽く毒づく。
「恭文さん、これ……!」
「Gビット的に全機投入してきやがった」
あくまでもファイターは一人なら、複数機体を操縦ってのもできなくはない。
まぁサポートなしだと難しいから、普通はやらないんだ。そのためルール違反でもない。
問題は無駄に学習能力が高いシュテル主導で、初心者とは思えない改造機体を作っていた事。
しかもガンダム作品知識もたっぷりあるだろうし……なんで一回戦からこんな事に。
そこで機影が映る。えっと、黒いウイングガンダムに水色のデスサイズヘル、グラデーション塗装なラファエルガンダムか。
ラファエルは夜明けを思わせるような色の変化が描かれ、軽い迷彩パターンになっているのが特徴。また面白い。
「でも予測通りなのです! 粒子吸入と変質、始めるのですよ!」
「お願い!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「な……これは!」
「ユウキ会長、どうしたんですか」
「あ、いや。なんでもないよ」
出てきたボロボロなAGE-1を見て、さすがに驚かされてしまう。正確には両手に持った装備だが……そうだったな。
あの人、予備パーツを大量生産してくれていた。まさかここであれを持ち出してくるとは。
マーキュリーレヴ……本当に、懐かしいものを持ってきてくれる。
「でもこのロボット、なんだかボロボロ。すっごく汚れてるし……物置にでも置いていたのかな」
「あははは、それはちょっと違うよ。これはそういう表現なんだよ」
「表現?」
「これだけ傷だらけになるような戦いを、この『ロボット』は超えてきた。そう考えたらどうかな」
「あ……はい、それなら私にも。でも驚きです、プラモにも美術的表現があるなんて」
「面白いだろう?」
新鮮な驚きを感じているらしく、コウサカ君の表情は明るい。そのままに頷いてくれたのでホッとさせてもらった。
しかしミサイルにマーキュリーレヴのガンユニット二つ、更にナタっぽいものとドッズライフルか。
本体にも多少手を入れているようだが、独創性には欠けている。プラモを作る上でもっとも重要な想像力がない。
……とまぁ、普通のビルダーなら評して侮るだろう。しかし僕はあの人がどういう人か、よーく知っている。
あの人ほど独創性……というか、底意地の悪い人もそういない。ただしあの人の独創性は表面ではなく、戦術に現れる。
そう思わせる武装をチョイスしているのも、恐らく作戦のうちなんだろう。なにせ一回戦目から数の暴力に晒されるわけだし。
やっぱり運、ないんだなぁ。そこも変わらずなのがもう、悲しいというか。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
フェイトさんとアイリ、恭介も含めた家の人間、更にガーディアンメンバーも会場入り。
早速あの子達の試合に注目……だけど、これなに。なんでガンプラ三体も出てるのよ。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! ど、どうしてー! あれズルじゃないのー!?」
「そうだよー! 三体一じゃ恭文に勝ち目ないよー!」
「フェイトさん、ややちゃんも落ち着いて。ファイターが全て操作するなら、レギュレーション上は問題ないから。
……まぁ、その分手が届かないところを、シュテル達がサポートしてるんだろうけど」
「あの子達が本来得意とするチーム戦ですね。あれかしら、呆れるほど有効な戦術ってやつ?」
シャーリーさんの補足でみんなの動揺は静まる。でもあんなの、一体どうやって戦えば……やっぱサポート、リインさんで正解だったかも。
「はわわわ……恭文先輩、頑張ってー!」
「りっかちゃん、あんまり大声出すと試合の邪魔よ?」
「は、そっか!」
「君は少し落ち着け。それによく見ろ、恭文の表情を」
ほたると一緒にりっかをなだめつつ、ひかるがアイツとリインさんを視線で指す。
……アイツ、落ち着いてるわね。なるほど、これくらいは予測済みだったと。
「落ち着いているところを見るに、ここは予測の範ちゅう。ならば何らかの対策を持ってきているはずだ」
「それにこういう状況を覆すのは、蒼凪さんの得意技です。既に賽が投げられている以上、やはり俺達にできるのは応援かと」
「そうね、私も海里に賛成。だからフェイトさん……ちょっと落ち着きません? アイリ達も不安がりますし」
「だ、だってだって……うぅ、やっぱり私もお手伝いちゃんとすればよかったー!」
いや、それやると確実に迷惑が……聞いてないかー。もうわたわたしまくりだし。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
まずはウイングガンダムが停止し、こちらへバスターライフルを向け――発射。赤く輝く巨大粒子砲撃がこちらへ迫る。
『行きなさい、ウイングガンダム・ルシフェリオン』
左へ加速し放射範囲外へ出ると、すかさずデスサイズが直進。すかさず両手のレヴからガトリング展開。
発射された弾幕によって突撃の勢いを殺すと、デスサイズはすかさず上昇……ちぃ、速い。
『飛べ! デスサイズヘル・スプライト!』
そうして背後へ回り込み、両手の鎌で右薙一閃。加速し、振り返りながら刃をすれすれで避ける。
同時に右のレヴからショットガンを展開。ガトリングが折りたたまれると、入れ替わるように銃身が鋭く飛び出す。
すかさず散弾発射……そこで右肩アーマーから炎が走り、スライド移動。散弾をあっさり避けてくれる。上昇し距離を取ると。
『早々に終わらせるぞ、ラファエル・ドゥーン!』
『はい、ディアーチェ!』
更に控えているドゥーンが腰部のソードユニット六基を展開、こちらへ射出してくる。
迫るスプライトの突撃を左のローリングでかわし、その場で急停止。
揺らめきながら迫るソードユニットへ、両足の五連装ミサイルを発射。合計十発のミサイルがソードユニットと正面衝突。
『無駄だぁ! そんな鉛球など!』
「ならこれでどうですか!」
リインがトリガーを引くと、ミサイルの前部が展開。そこから無数の散弾が放たれる。はい、これはクレイモアミサイルです。
ばら撒かれるミリ単位の弾丸達を避ける事もできず、ソードユニットは撃ち抜かれながら砕けて爆発。
「おっしゃあ! ヤスフミ、やったぞ!」
『なにぃ!』
「お兄様の十八番、クレイモアです」
「作るの大変だったよなぁ。……もぐ」
そこでスプライトが反転……一気に加速し唐竹一閃。左のソードユニットで刃を受け止めると、加速力により押し込まれる。
それでも各部スラスターを最大噴射させ、抵抗しながらレヴを一回転。そのまま強引に鎌へ、スプライト本体目がけて左薙一閃。
でも大剣が奴を捉える事はなかった。すれすれのところで下がり、更に大きく退避。
……そこで右側から再び赤い砲撃。コロニーの地表、近くにいるビル群を蹴散らしながら迫ってくる。
飛び越え逃げると、今度は同種の砲撃が二つ。右斜め上に加速し、前に迫ってきたスプライトへまた左薙一閃。
鎌での一撃を払いながら退避すると、僕達目がけてギロチンバースト。……右のレヴを一回転させ、折りたたみ式レールガンを展開。
三つ折りにされている砲身が伸びると、チャージ開始。とにかく空へ逃げ……コロニーの中間部で反転。
下方向へローリングしながら、ドゥーンによる砲撃をなんとか回避する。今のはドゥーンが装備しているクロー型ユニットから。
あれは元のラファエルからあった装備だね。そして砲撃が消えたところで、チャージ完了。
またまた迫ってきたスプライトの左薙一閃を、左のレヴで受け止め脇へ流す。レヴ本体の強度強化もしといて正解だった。
そうしてAGE-1を時計回りに回転させ、狙いを定めた。マニュアル照準……ほぼ直感で狙撃。
キロ単位にも及ぶ距離を突き抜け、点のように見えるドゥーンへレール弾が命中。
左側に展開していたクローユニット――GNビッグキャノンを撃ち抜き爆散させる。ち、ちょいズレた。
「リイン!」
でもそこでスプライトが逆袈裟一閃。レールガンを中ほどから両断し、こちらへ刃を返し左切上の斬撃。
爆発に押されながら下がるものの、水色のビーム粒子は胸元を僅かに掠る。更に左側からまたルシフェリオンの砲撃。
上昇し回避すると、そこでルシフェリオンは急加速。あの粒子……GNドライブ搭載してんのか!
「ウェア展開可能まで……あと二十秒持ちこたえてください!」
「分かった!」
バスターライフルを一旦バックパックへ収め、サーベルを取り出しこちらへ左薙の斬り抜け。
大きく後退し避けてると、左斜め上からスプライトが右飛び蹴り。レヴで防御するも大きく吹き飛ばされる。
すかさずルシフェリオンが頭部バルカンと肩部マシンキャノンで攻撃。
落下していくAGE-1の右目、左肩の上部、フロントスカートなどを撃ち抜き砕いてくれる。
残っていた砲身を折りたたみ、ロケットランチャーを展開。接近する二人へ連続発射する。
合計三発の砲弾は当然回避されるものの、その直後に自動で爆発。金色の粒子混じりな爆煙を生み出してくれる。
更に二体の回避コースへ、残り十発のクレイモアミサイルを全て発射。その上で両足のミサイルユニットはパージ。
今度は左斜め上に飛び、ドゥーンの砲撃を回避する。このまま距離を。
『『トランザム!』』
取ろうと思っていたら、そこでルシフェリオンが回り込む。それも赤い輝き――トランザムの光を纏って。
背後に回ったスプライトも同じくで、更にアーマーをパージ。フレーム状態へと変身した。
そうして二機はこちらの反応速度を大きく超え、それぞれの刃を振り下ろしてくる。
くそ、マジであれ一人で操縦してんの!? いろいろ分担してるにしてもやりすぎでしょうが!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
作戦は今のところ見事に的中。やはりこの配置で正解でした。……やっている事はふだんと変わりません。
王が戦い、レヴィが出力調整。私とユーリは索敵・自立誘導兵器の使用も含めた各種サポート。
それでヤスフミをここまで追い込めるのだから、実に嬉しい。まぁ、それでもこちらも誤算はありましたが。
腰部に設置したドラグーン『ドゥーム・ブレイカー』を早々に排除された事と、ロックオンすらできぬ距離からの狙撃がそれ。
おかげでドゥーンは戦力が半減。ルシフェリオンも前に出さざるを得ませんでした。ですがそれも。
「終わりだ、小僧!」
「ごめんなさい!」
あのガンプラもなかなかの性能。ヤスフミが丹誠込めて作った事が伺えます。……壊すのは少し忍びない。
それでも全力での戦い。その前提を崩さぬため、王はルシフェリオンのビームサーベルと、スプライトのバルニフィカスを振るった。
それはヤスフミのAGE-1を両断し、爆散させる……はずだった。でも刃がAGE-1へ届く瞬間、ビーム粒子が消失。
ルシフェリオンの腕は空振りし、バルニフィカスはAGE-1の右肩へぶつかるだけ。
「な……!」
「王!」
王は咄嗟に二体を下がらせようとするが、その前にあの複合ユニットから散弾が発射される。
右のユニットは背後にいるデスサイズ・スプライトを襲い、左のユニットはルシフェリオンの左腕と足を蜂の巣にする。
それでもなんとか射程外へ退避するが、スプライトは駄目だ。あれは真・ソニックと同じ奥の手。
ようは機動力を上げ、確実に相手を仕留めようとした。それが完全に裏目となり、散弾はフレーム中心部へ直撃。
結果骨から崩れ、スプライトはAGE-1の背後で爆散。
「あぁぁぁぁぁぁ! ボクのスプライトがー!」
「このぉ!」
王はドゥーンで援護射撃。更にルシフェリオンを下がらせながら、マシンキャノンでけん制しようとする。
が……ドゥーンのビッグキャノンによる砲撃は、発射され数百メートル進んだところで突然霧散。
AGE-1はそれに構わずルシフェリオンへ突撃してくる。慌ててコンソールを叩き、状態確認。
その間にもAGE-1はけん制射撃を避けつつ、両手のユニットでガトリング弾を放つ。
その弾幕によって両肩のマシンキャノンが撃ち抜かれ爆発。衝撃で揺れたところで大剣での刺突が飛ぶ。
しかし大ぶりな分回避もたやすい。王はルシフェリオンを急速上昇させ、回避しつつ距離を開く。
その上でサーベルをもう一度展開……無駄だ。やはり刃は霧散するのみで、こちらは攻め手を完全に封じられた。
「くそ、なぜだ! なぜいきなりビームが使えなくなった!」
「あ……見てください、あれ!」
周囲の計測結果から一旦目を離し、AGE-1を見る。……AGE-1のボロボロだった体は、銀色の光に包まれていた。
「あ、あれなにー!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
高性能ガンプラ三体……しかもサポートが手厚いのか、そのどれもが鋭い動きを見せていた。
一体だけなら恭文さんでも倒せる。同時に運用しているからか、ある程度鈍くなっているしね。
だが同時に運用しているから追い込まれ、もう終わり……と思ったところで形成が一気に逆転した。
しかもAGE-1が銀色に輝き、より力強い姿を見せていた。スーパーモード……いや、これは違う。
「ロボットの色が変わってく。なに、これ」
「なるほど、そういう事か。やはり底意地が悪い」
「ユウキ会長?」
「これはプラフスキー粒子の効果だよ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
自分の試合が終わったので、早々に客席へ上がる。そうしてプロデューサーの試合を早速観戦……なんて運の悪い。
いきなりオリジナル改造ガンプラ三体と相手なんて。私でも嫌になる状況だった。
特殊装備以外は基本普通なAGE-1だし、これは無理だと思っていたら形勢逆転。
武装ユニットによって、前後にいたウイングとデスサイズを散弾で撃破。更にビームが使えなくなるという状況を生み出す。
それを見て、自然と口元が歪む。そう、そうだった。こういう予想外な手を打ってくるのがプロデューサーだった。
私は実戦とかはさっぱりだけど、それ以外ならよく見ていたから。……だから、ずっと好きなんだし。
鈍く輝く銀……ううん、鉄の輝きに魅入られてしまう。まるでプロデューサーの心を写しているかのようだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
周囲の粒子状態と、変化したAGE-1の状態を見てようやく理解した。本当に、なんという人だろう。
自然と口元が歪んでしまう。ただしそれは諦めや恐怖ではなく……歓喜でだ。早速、結果を動揺する三人へ転送。
それぞれのモニターにAGE-1の肩部スラスターなどが表示される。
「やられましたね」
「シュテル、これがなんだ。ただのスラスターだろ」
「いいえ、これは粒子排出器です」
更に周囲の粒子状態を送る。まぁ細かいところはさっぱりだろうけど、通常のものと対比させてあるから……違う事だけは理解してもらえるだろう。
「プラフスキー粒子を本体へ取り込み、内部で変質させている。
それを排出し、バトルフィールド全体へまき散らしていたのです。
もちろん排出の勢いで機動補助も可能。言うならAMFです」
「馬鹿な、あの短時間でバトルフィールド全体だと!?」
「正確には現在あの周囲のみが完全キャンセル状態となっています。
ですがAGE-1が稼働し続ければ、いずれフィールド全体が変質粒子に満たされるでしょう。
……更に今のAGE-1はその粒子を纏っています。中途半端なビーム攻撃は通用しません」
「色が変わったのはそのせいか……! えぇい、やってくれるな!」
察するにあの複合ユニットは、粒子排出器を隠すための目くらまし。同時に完全キャンセル化で戦うためのメイン武装。
あれらは全て実弾武器でまとめられているから、偶然ではないだろう。さすがにこれは予想外すぎる。
フィールドそのものを有利になるよう作り変えるなんて……さて、どうしましょうか。
あの中に飛び込んでも私達は勝てないし、AGE-1が閉じこもっている限りこちらの攻撃も通用しない。
しかし変質粒子の排出は続いている。こちらの戦える『陣地』は今も奪われ続けて……そこでまた笑ってしまう。
「王、ルシフェリオンを捨て石にしてください」
その宣言で王が、レヴィとユーリが息を飲む。ここがコロニー内部のステージでよかった……もちろん心は痛む。
でも私達とて、覚悟もなしでここにはいない。もしこの粒子が私達のせいでもたらされたものなら、私達には義務がある。
真実と対じし、その上で道を決める義務だ。楽しみと同じくらい、こちらも大切にしたい。
もう一度言う、覚悟ならある。だから王にも……誰にも私の選択を止めさせはしない。
「そして私の指示通りに」
「……分かった。すまぬ、シュテル」
「いいえ。壊れたらまた直せばいいだけの事です」
ヤスフミ、あなたは確かに強い。ですが私も理のマテリアルとして、知恵で簡単に負けるわけにはいきません。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「動きが止まったですね。このまま詰められるですか?」
「それは無理だよ」
だからほら、そこでまだトランザム中なルシフェリオンが再突撃。
バックパックに設置していたバスターライフルを、ドゥーンの方へ大きく放り投げる。
結果トランザムが解除され、ルシフェリオンが元の色を取り戻す。
まさか太陽炉は……両ユニットのガトリングを展開し、あらぬ方向へ飛んでいくルシフェリオンへ弾幕展開。
ルシフェリオンが突撃しているのは、コロニー外壁――宇宙空間と内部を隔てるガラス。
ルシフェリオンへと加速しながら更に弾丸を放つものの、トランザムでついた勢いを殺さぬまま突き抜けてしまう。
弾丸が残っていた右腕、頭部、背部を撃ち抜いても決して逃げず、ガラスへ激突。そうしてルシフェリオンは大爆発。
そこで思い出すのは最近見た、ビルドストライクとスモーの戦い。コロニーの外壁が破られた事でフィールドチェンジ。
青かった空は一瞬で曇り、辺りに風が吹き荒れる。そして風はある一点へ集中していく。
ルシフェリオンの特攻によって開いた穴から、コロニー内部の空気が外へ漏れだしているのよ。
「な……! 変質粒子濃度、どんどん下がっているです!」
「やっぱそうくるよねー」
ステージのバージョン変更で、粒子を放出させたのよ。AMFと似た理屈だってすぐ分かるところが恐ろしい。その上。
『これで貴様の手品は終わりだ、小僧!』
僕達へと赤い砲撃が走る。それも先ほどよりも一回り――ううん、二回りも大きい砲撃。
右へ加速し、右のレヴを盾にしながら退避。……するとレヴがそのエネルギー量に押され、融解していく。
慌ててパージし上昇すると、右のレヴは足元で爆発。代わりに腰部へ設置したドッズライフルを取り出す。
「その手品に二体やられておいて、よく言えるね!」
『抜かせ!』
その上で砲撃の出元をズームでチェック。リインがそこに映るものを見て硬直。
……それはルシフェリオンが放り投げたバスターライフルを、右手に持って突撃してくるラファエル・ドゥーンだった。
「リイン、アイゼンウェアの状態は」
「そっちは問題ないのです!」
「ならこのままいくよ!」
もうこうなったら真正面からいくしかない。さすがにあれの直撃は防げないだろうけど。
荒れ狂う気流の中、最大加速でドゥーンへ飛び込んでいく。あとはアドリブでなんとかするだけだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そう、これでいい。ルシフェリオンのGNドライブ、実はバスターライフルの方につけていました。
なので現在のドゥーンはツインドライブ状態。上手く同調するかは分からなかったけど、我々は賭けに打ち勝った。
ただバスターライフルを所持しているだけで、ドゥーンの出力は二乗化されている。
でもその出力にガンプラ本体がどこまで耐えられるか。しかも先ほどトランザムを使ったせいで、バスターライフル側の粒子量も低下している。
あと一分……一分持ちこたえて、トランザム勝負に持ち込む。それが私達の狙いだった。
そしてヤスフミはこの風の中、まるで流星のようにこちらへ迫る。
上下左右、斜め――ありとあらゆる方向に加速し、こちらの目を眩ませてくる。王様はそれに構わず、右のGNビッグキャノンで砲撃。
やはり巨大化している砲撃を、右斜め上に加速し平然と避けてくる。こちらにガトリングが向く前に、ドゥーンはギロチンバースト。
操作機体が絞られた事で、王の動きはより冴えてきている。ヤスフミは反撃もできず、迫る粒子から逃げていく。
砲撃を放つ間もドゥーンはヤスフミへ迫り、その背後を狙う。しかしヤスフミは砲撃の周囲をぐるりと回り、反転しながらライフルで一撃。
逆さ状態のAGE-1からピンクの粒子が放たれ、それは回転しながら直進。砲撃のすれすれを進み、右のビッグキャノンを……違う。
「王、GNビッグキャノンを射出!」
王が砲撃を停止し、ビッグキャノンを射出。射撃直後のAGE-1へと迫っていく。
こちらでビッグキャノンを制御していると、回転ビームはこちらのバスターライフルを撃ち抜き爆散させた。
ラファエルのGNビッグキャノンもまた、自立誘導兵器。展開したアームでAGE-1のライフルを掴み、そのまま握り潰す。
爆発するライフルから離れたヤスフミはすかさずユニットでガトリング連射。ですがそれは無駄です。
ガトリングの弾丸を多少食らうものの、方向転換したGNビッグキャノンからビーム展開。
それは砲撃ではなく、固定化された粒子の剣――ビームソード。それが上方にいるAGE-1まで迫る。
四十メートルほどの距離を一気に突き抜け、剣の切っ先はAGE-1の右肩アーマーを貫き抉った。
あの輝きはビーム攻撃を無効化するはず。しかし一定出力以上の攻撃は無理みたいですね。
ですが右腕を断ち切れてはいない。それでも防御力は上がっているという事だろうか。
AGE-1は加速し、コロニーの空を左へ飛ぶ。ドゥーンとGNビッグキャノンは最高速度でそれを追いかける。
乱れる風なぞもろともせず、我々はコロニー内部を縦横無尽に飛ぶ。そうして右腕のGNビームライフルもようやく使用。
ビームとガトリングの弾丸が幾つも交差し、それぞれの機体を掠め傷つけていく。
そうしてドッグファイトを続けるうち、我々はやはり笑顔となっていた。楽しい……とても、楽しい。
「く……ツインドライブが早々に破られるとは! しかしあのビームライフルはなんだ! この風の中、あの直進力は!」
「ドッズライフル……ガンダムAGEに出てくる特殊ライフルです。
ビーム粒子を実弾のように回転させ、回転力を高めています」
「そ、そんな事できるんですか!?」
「ここも魔力と同じ要領ですね。こちらが粒子帯を突破する事も予見していましたか」
そこでモニターが大きく揺れ、ダメージ表示が出てくる。今度はこちらの左肩をガトリングでやられたようだ。
『楽しそうだね、おのれら!』
「……えぇ、楽しいです。こんな風に」
「純粋に遊んで、楽しむ事など今までありませんでしたから」
「ボクもボクもー!」
「震える……震えるぞ」
今度はこちらが放ったビームが、AGE-1の左足を捉える。膝から先が爆発し、それによりAGE-1の体勢が崩れていく。
『ちぃ!』
「我らの魂が、震えておるぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
……ここが狙い目だ。ヤスフミの軌道を見ていると、最初に最大加速。でもそれ以後は惰性とAMBACによって動いているっぽい。
それを繰り返し、緩急合わせたマニューバを再現している。言うならリアル赤いすい星。
しかし四肢が崩れれば軌道にも制限が出るだろう。今こそが狙い目。
「ユーリ!」
「はい!」
「「――トランザム!」」
紅蓮を纏い、ドゥーンが加速。半オートなGNビッグキャノンもこれまで以上の速度でヤスフミへと迫る。
更にビームライフルも連射。ビームは肩部や胴体に命中するものの、粒子膜に阻まれ霧散。
しかし表面を覆っている銀色の膜は、少しずつがれている。今の調子なら十分いける。
そこでAGE-1は各部スラスターを効率よく噴射。逆さ状態になりながら、大剣の刃部分をパージする。
そうして露出するのは……それに一瞬、驚かされた事がアウトだった。『レールガン』が火花を走らせながら発射。
そう、あの大剣はレールガンの砲身を基部にしていた。今まで戦っている間にチャージしていたのだろう。
避ける事もできず、胸元を直撃……でも王は左腕を咄嗟にかざし、砲弾を受け止める。
衝撃でドゥーンの腕は肘からなくなり爆散し、地上へ吹き飛ぶ。だがこれでいい……GNビッグキャノンがある。
「いっちゃってください、ディアーチェ!」
「闇に消えよ、銀色のガンプラよ!」
GNビッグキャノンの口でビームが生まれ、ヤスフミへ一撃。これで勝負が決まる、そう思っていたところでAGE-1が身を翻した。
そうして放たれるビームに対し、右手で引き抜いたナタを袈裟に打ち込む。そんなのは無駄だと思った。
ビーム粒子を実体剣で斬れるわけが……だがそこで、ヤスフミの得意技を思い出す。
それはスターライトブレイカーすら斬れると言われる、ヘイハチ・トウゴウ直伝の砲撃斬り。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
さすがにタツヤの受け売りじゃあ無理か。でもAGE-1にはもうちょっと頑張ってもらう。
ビームの余波はアイゼンウェアで防げるだろうから、あとは自分のガンプラを信じるだけ。
右手でリアスカートのナタを抜き、逆さ状態で袈裟に打ち込む。結果さほど長くはないナタによって、放たれた紫天の砲撃を両断。
衝撃でモニターが揺れ、各部に対し警告表示が出まくる。それでも二秒照射された砲撃を斬り裂き、瞬間加速。
すぐにアクセルを緩め、惰性で機体を捻る。そうしてGNビッグキャノンの脇をすり抜けながら右薙一閃。
ビッグキャノンをナタで奇麗に斬り裂き交差すると、足元でユニットが大爆発。
「アイゼンウェア、余波で消失……でもレールガンの再チャージ完了です!」
「OK!」
再度機体を反時計回りに回転させ、ライフルでの射撃をすれすれで回避。
自由落下に任せ落下中なドゥーンへ、そのままレールガン砲口を向ける。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
考えるべきだった。ヤスフミは粒子変質による、ビーム無効化技術を完成させていた。
そしてAMFもどきによる攻撃が、あっさり切り抜けられる事も予測している。
だったら当然、あれに頼らないビーム無効化の手段を用意していてもいいはず。
そう、あのナタこそが答えだ。あれは恐らく塗装などを用い、粒子を斬れるよう調整している。
それで、最後の最後詰められてしまった。落下する私達へ……全ての攻め手を失った私達へ、AGE-1が銃口を向ける。
AGE-1は粒子を斬り払った直後、元の色を取り戻していた。そうしてボロボロな体を改めて晒しながら、レールガンでの一撃を放つ。
それは雷光のような速度で突き抜け、対抗して発射したビーム弾丸を掠める。
やはり、気流の問題でこちらの射撃精度が落ちている。ビーム弾丸はAGE-1の左脇を抜け、天へ昇るだけ。
その間にレールガン砲弾はドゥーンの胸元を……王はGNフィールドを発生。
レールガンの砲弾を防ぐものの、衝撃で完全に機体バランスが崩れる。……そこでAGE-1が急降下。
一気にこちらの懐へ入り、ナタを右薙に振るう。GNフィールドをあっさり両断し、更に踏み込んできた。
ドゥーンはライフルの銃口を向けるものの、もう無理だ。胴体に複合ユニットが突きつけられる。
既に展開していたショットガンの銃口から、散弾が発射――ドゥーンは胴体を粉砕され、四散しながら爆発する。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
≪――BATTLE END≫
その電子音声に合わせて、フィールドが消失していく。ボロボロなAGE-1を着地させ、しっかり安全確保。
さほど経たずにコクピットなどもフィールドと一緒に消え、会場にアナウンスが走る。
『第六試合勝者――恭文・リイン組』
僕達の勝利が宣言され、会場から歓声が巻き起こる。それが嬉しくて、リインと思いっきりハグ。
「恭文さん、やったですよ!」
「うん……うん!」
ひとしきりハグを堪能してから、フィールドに佇むAGE-1、あとは壊れたマーキュリーレヴなども回収する。
AGE-1はもう、限界寸前だった。関節部にひび割れも見えてるし、右肩なんていつ砕けてもおかしくない状態。
塗装も相まって、もう笑っちゃうくらい傷だらけ。それでも、ちゃんと勝ち残れた。
「ありがとう、AGE-1。それで……ごめん」
「一回戦目から、最終決戦でもあったみたいにボロボロなのです」
「しょうがないよ、無茶苦茶な相手だったし」
「小僧」
そこでボロボロなガンプラ達を回収した、ディアーチェ達がやってくる。険しい顔だったディアーチェはすぐに笑い、胸を突き出してきた。
「褒美として、後で好きなだけ我の乳を味わってよいぞ。触り吸い尽くし、その欲望を満たすがよい」
その瞬間、リインと一緒に王様へ飛び蹴り……は危ないので、両サイドに回りこんでモモキックを打ち込む。
かっくんとしながらディアーチェは踏ん張り、僕達へ振り返り鬼の形相。
「なにをするぅ!」
「ほんとそれやめてよ! 僕が一体なにしたっての!?」
「ですです! ていうか場を考えるです! 卑わいなのですー!」
「そうですよディアーチェ、ちょっと下品です」
「ふぬぬ……!」
ユーリにも駄目だしされ、王様は真っ赤な顔で背を向けてくる。……ねぇ、どうすればいいのこの空気。
ていうか僕、本当にそんなつもりないんだけど。困っていると、後ろからレヴィが抱き着いてくる。
「ヤスフミー♪」
「レヴィ」
「大丈夫だよ。サポートだけど一生懸命バトルして楽しかったし」
更に頬ずりまでしてくるから、少し気恥ずかしくて笑ってしまう。
「でもでも、今度はタイマンだから! それで絶対負けないからー!」
「それは私もですよ、ヤスフミ。……敗北は悔しいですが、やってみてよかったです」
シュテルはそう言って目を閉じ、なにかを噛み締める。それから目を開き、会場中を見渡す。
「私達が壊そうとしていた世界には、こんなにも楽しく輝ける場所があったのですね」
「もっとあるよ、探せばたくさん……どこにだって」
「だと思います。だからまたやりましょう、本気の遊びを」
「うん」
改めてみんなと向き合い、一人一人と握手。まずは一勝――それも価値ある一勝だ。
いつまでも居座ってると邪魔なので、客席の方へ移動。そろそろキリエ達やダーグの試合だし、しっかり見て対策しないと。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
数の不利を覆し、最後の最後はマーキュリーレヴで決めてくれる。相変わらず面白い人だと笑ってしまった。
やはり予想通り、あの人の想像力は戦術に現れるようだ。これは世界大会へ行く楽しみが増えた。
というか、そこで気づいた。あぁ、そうだった……約束していましたよね。十年前、あの夏の日に。
今までもバトルする機会はあったけど、それはあくまでもフリーバトル。世界大会という舞台じゃない。
やはり、血がたぎる。あの人は約束を守ろうとしてくれている、だからマーキュリーレヴも持ちだしたんだ。
「ユウキ会長」
そこでハッとし、コウサカ君を見やる。いけないいけない、熱くなるのはもうちょっと後でいいだろう。
「どうだったかな。やっぱり、壊れるのに戦わせるのは疑問かな」
「それは、少し。でも」
そこでコウサカ君は改めて携帯の画面を、握手し合っている恭文さん達を見る。
「どうしてでしょう。みんな……すっごく楽しそうでした」
「うん、そうだね」
バトルは遊び――だから本気になれるし、楽しいもの。その一端は伝わったようでホッとしている。
さて、次は……会場を見やると、僕達から見て右側の通路からイオリ君が出てきた。
右手にはガンプラ用のボックスを持ち、誰かを探すようにキョロキョロとしつつ会場入り。
コウサカ君もその姿を見て、首を傾げ始める。イオリ君、一人だけだと?
「まさか、イオリ君は一人で戦う気か。しかし彼の操縦技術は」
「……イオリ君」
まさか、あの煽りだけじゃ足りなかったのか? これもしょうがない事なんだろうが、実に口惜しい。
ガンプラは遊び、だからやりたくなければやらなくてもいい。それを強制する理由などどこにもない。
やはり私は傲慢なんだろう。そうは分かっていても、あのコンビの解消がどうしても納得できずにいた。
(Memory25へ続く)
あとがき
恭文「というわけで、Vivid編第二十四話です。お相手は蒼凪恭文と」
あむ「日奈森あむです。……フェイトさん、まだやろうとするなんて」
恭文「ガンプラに興味あるんだろうけど……ここもまた手を考えないとなぁ。
それと今回僕が使ったフルウェポンですけど、以前支部にてアップしたものです」
(『http://seruka317.blog.fc2.com/blog-entry-112.html』)
恭文「これですね、これ。あといがしょう様から設定もいただきました。アイディア、ありがとうございます」
(ありがとうございます)
あむ「えっと、アイディアはこっちだよね」
(※ 一応、フルウェポンの設定みたいなの考えてみました。
変なところとか矛盾点があれば笑って見逃してください。
AGE1 フルウェポン
型式番号 AGE1−FW
AG160年、後に「レベイブ基地強襲戦」と呼ばれる戦いでフリット・アスノが使用したと言われているAGE1の強化型。
「どんな兵士でも様々な状況で戦える兵器」をコンセプトに開発された「マーキュリーレヴ」。
そのテスト中にヴェイガンの大量襲撃が起こり、そのテストに立ち会っていたフリット・アスノがAGE1にマーキュリーレヴおよび基地に収納されていた武器を装備し、戦闘を行った。
ヴェイガンの策略により、補給物資が止められ、戦況は絶望的だったが、フリット・アスノは補給のない状態で丸三日間戦い抜き、ヴェイガンは撤退を余儀なくされた。
しかし、この戦闘でマーキュリーレヴの問題点が浮かび上がった。 一つ目はあまりに用途が広すぎるため、並のパイロットでは到底扱いきれないこと、二つ目は武器の構造が複雑なため強度に問題があった。
事実その戦闘でフリット・アスノが使用したマーキュリーレヴは生産されていた50機すべて破損、または大破というものだった。
三つ目は複雑な構造上、大量生産にはあまり向いていないといった具合であった。 このことにより、マーキュリーレヴの開発は中止されるが、戦闘で破損した中で損傷が少なかった10機は修復され、特に優秀なパイロットに渡ったと言われている。
ウルフ・エニアクル、アセム・アスノの両名が生存していれば、マーキュリーレヴを使い多大なる戦果を挙げ、開発も再開したであろうと噂されている。
なお、この戦いでフリット・アスノはこのフルウェポンからAGE1グランサの発想を得たと言われてる。
・・・といった具合です。 コルタタさんが気に入ってくれれば安心です。 ちなみにガンダムの体がボロボロなのはゆっくり整備している時間がないほどの激しい戦闘だったみたいな妄想をしていました。 byいがしょう
※ フルウェポンの設定は10分くらいで決められました。
なのになぜオリカはすぐに決めれないのk(ry by悲しみのいがしょう)
あむ「これ十分で考えられるって、十分凄いと思うけど」
恭文「作者は無理だからなぁ。とにかく一回戦目は……この切り札っぽいAGE-1で出て」
あむ「あとディアーチェ達が使ったガンプラも読者アイディアなんだよね」
恭文「うん。こちらは」
(※◇ウイングガンダム・ルシフェリオン
シュテルがウイングガンダムを元に作り上げた特製ガンプラ。
黒い翼にシュテルのジャケットカラー。更に各部にも徹底的に手を加えていて基本性能を底上げしている。
最大の長所はシュテルの言う通り、GNドライブを搭載したバスターライフルだろう。もともと高威力の武装を徹底的に魔改造したうえでディテールにも拘ったそれは、もはや職人レベル。
それにより生まれたのは、なのはこと魔王のダブルエックス魔王カスタムにも匹敵する火力。
GNドライブを積んでるのでトランザムも使用可能(ただしバスターライフルを持っている時のみ)
また、バードモードへの変型も出来、高速移動からの大火力砲撃は驚異としか言えない。
シュテル「さぁ、この胸の炎が燃え続ける限り、戦いましょう」
※◇デスサイズヘル・スプライト
レヴィがシュテルのに指導してもらった技術で作り上げた魔改造ガンプラ。
青と水色、黒の塗装。
徹底的に手を加えてHGの枠を越える可動力に加えて、各部に追加されたバーニアやスラスター等により瞬間的な機動力を底上げしている。更に各アーマーをパージする事で防御を犠牲に機動力を極限まで上げた「スプライトモード」を搭載しており、得物のデスサイズと合間ってレヴィらしい機体と化している。
実は内部にGNドライブを搭載しているためトランザムも可能。更にスピードがえらいことになる。
武装のデスサイズはレヴィのバルニフィカスを模して作られており、もし破壊されたら泣くかも知れない。
手足に隠しビームサーベルを装備している。
レヴィ「これがボクのガンプラ!デスサイズヘル・スプライト!強いしカッコいいし、何よりも速い!!」
※◇ラファエル・ドゥーン
ディアーチェとユーリの(愛の)共同制作ガンプラ。
ユーリの魄翼の腕を模した武装ユニットにラファエル自体にも腰に6つほど実体剣型のドラグーンユニットを装備している。
この実体剣は段ボール戦記のあるボスキャラの装備をヒントにディアーチェが制作。剣兵召喚! ドゥーム・ブリンガー!と、ノリノリで使う。
背後の武装ユニットはクロー型特大ビームサーベルを発動できる。当然、砲撃やトランザムも完備。
武装の複雑さと多彩さから、本来はユーリと複座式で使う予定だったが、複座は既に火野恭文が使っているため、やむなく一人で出撃している(もしくはサプライズでもう1つ用意していたとか?)
なお、名前の「ドゥーン」は夜明けの意。紫天を夜明けの空と解釈した二人で決定したらしい。……もう、ご馳走さまです。
ディアーチェ「聞け!塵芥ども!我が怒りに触れたくなければ、とっとと尻尾を巻いて逃げるがよい。
それでも向かってくるなら……我が手ずから粉砕してくれるわ!」
ユーリ「ディアーチェ、あまり怖いことはメッ!ですよ?」)
恭文「こうなっております。アイディア、ありがとうございました」
(ありがとうございました)
あむ「でもアンタ、二回戦どうするの? 次は」
恭文「アミタとキリエだね。まぁなんとかするよ。それより問題はセイ」
あむ「あ、そっか。今回レイジ出てないじゃん」
恭文「果たしてフルパッケージは登場するのか。次回にこうご期待です」
(なおセイはレイジの特訓とか、そういうのは一切知りません。
本日のED:ONE OK ROCK『完全感覚Dreamer 』)
フェイト「でもヤスフミ、あの銀色のって」
恭文「小説版に出てきた、ゴールドアローの強化系だよ。まだ試作段階なんだけど」
リイン「デバイスマイスターの本領発揮なのです。……普通に戦ってたら確実に負けてたですね」
恭文「だねぇ。さて、次はどうするか」
フェイト「そ、それなら私に任せてほしいな。あれを奇麗に塗れば」
恭文「そう、またお仕置きしてほしいんだ」
フェイト「はう!?」
(おしまい)
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