15
紗恵が待っている体育館前に着くと、先輩の彼女―――伊部が小さく手を振って、先輩のところに駆け寄ってきた。
学年で、いや、たぶん学校でも指折りな感じの美人サンだ。
入学する前から付き合ってたらしいから、ガッカリしたヤツも多いだろう。
勇敢にも告白して、玉砕したって話を未だに小耳にはさむ。
伊部は、嫌な感じのするベタベタした態度じゃなく。
サラリと自然な感じにサトシ先輩の腕に触れて。
そのまま腕を組んだ。
なんかこう。
そういう二人の雰囲気が羨ましいな…って思った。
伊部の後を追うように、少し早足で俺の側に来た紗恵は。
俺から少し離れたところに立ち止まる。
あと、一歩。
側に来て欲しい。
少しでも近くに居たい、という気持ちのこもった一歩を進めて、紗恵に近づいた。
「お待たせ」
「おつかれさま」
紗恵がフワリと笑った。
体育館前の外灯から少し離れているせいで、表情がハッキリとは見えないけど。
俺が見たいと思っていた笑顔になってるのは、ちゃんと分かる。
嬉しくて。
かわいくて。
思わず右手を伸ばして、頭に触れた。
ぽふっと髪に触れると、紗恵が小さく首をすくめた。
やべェ。
抱きしめたいかも……
左手も持ち上げかけた時
「じゃぁ、お先! また明日ね!」
伊部がこちらに向かって手を振った。
紗恵も俺から伊部へと体の向きを変えて手を振る。
スルリと紗恵の髪を滑りおちた右手と、中途半端な左手に、ものすごく複雑な気分になりながら。
「おつかれっス」
サトシ先輩に挨拶すると、軽く手を上げて返してくれた。
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