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練習前のランニング中に、二階スタンドの隅に目を遣る。
いつもの習慣、というより、もう癖に近い。
紗恵と付き合い始めるよりももっと前。
入部してしばらく経った頃、紗恵が練習を見に来ているって気づいてから、ずっとだ。
別に、キョロキョロしたり、じっと見つめたりしてるわけじゃない。
練習中に余所見してたら、マジで殴られそうだし。
極力、不自然な感じにならないようにしてきた。
いつもの場所に紗恵の姿を確認して、小さく安心して視線を戻した。
いつものとおり、自然に…
と思ったら、隣を走っていたヤツに軽く小突かれた。
「何だよ…」
「アレ?」
小さく、紗恵の方を指差している。
目ざといな…
途端に、周りのヤツらがそっちを見た。
「どこ?」
「どれ?」
「どっち?」
「ちっちゃい方」
「何見てんだよ!」
思わず、また紗恵の方を見上げたら、ちょうど友達の後ろに隠れるところだった。
「あ、隠れた」
そりゃ、隠れたくもなるだろ!!
見てんじゃねェよ!!
なんとなくムカついてきたところへ、先頭を走っていたキャプテンがペースを落として近づいてきた。
「何やってんだ!」
ヤベっ!
俺も周りのヤツらも、慌てて前を向いた。
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