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恋話の棚ニャ!
1
『じゃあさぁ、来年も一緒にこれ見にこようよ』
『うん、約束だ』
『小指出して。指切りげんまん嘘ついたら針千本の〜ます。指切った。絶対だからね』
『ああ、絶対だ』

〈ドサッ〉
「痛い…」
オレはベットから転げ落ちて目が覚めた。
夢…佳奈と交わした約束。今となっては何の意味も持たない。
そう、彼女とは昨日喧嘩して別れたのだ。
ほんの些細な言い争いが、大喧嘩になって、売り言葉に買い言葉…。
「博文なんか大嫌い、別れてやる〜」
「あ〜あ、いいとも。佳奈こそ後悔すんなよな」
「しないもん」
二人は背中を向けて分かれた。
「ん〜」
ちょっと…かなり…後悔している。
しかし、二人とも素直に謝れない性格。
「う〜ん、はぁ〜」
気が重い。学校に行けば嫌でも…嫌じゃないけど…佳奈に顔を合わせる。同じクラスの隣の席。
「はぁ〜」
何度目かのため息の後、しぶしぶ立ち上がり制服に着替え部屋をでた。
キッチンテーブルの上には、いつもの朝食は無かった。
両親は忙しくめったに会うことはない。そのため、佳奈が毎朝朝食を作りに来てくれていたのだ。
「はぁ〜そうだよなぁ〜」
オレはがっくりと肩を落として、玄関に向かった。

〈ぐ〜〉
教室に着くなり、机にぐったりと伏せたオレの腹は、朝食を求めて鳴り止まない。
横目で佳奈を見るが、昨日までとは全く違う、オレには興味ないように、本を広げて読んでいた。
『何だよ〜少しくらい気にしてくれたっていいだろ』
オレは心の中で呟いて、我慢しきれずに立ち上がり授業が始まろうとする教室を出た。

「はぁ〜」
オレは売店を目指し、フラフラと歩いた。
「おい、どこに行くんだ」
廊下の向こうから歩いてきた教師と鉢合わせした。
「腹が減っては戦は出来ぬ。武士の情け、見逃してくれ」
オレはフラフラと教師の脇をすり抜けようとした。
「何を言ってる、早く教室に戻らんか」
教師は僕の襟を掴むと、ズルズルと引きずるように歩きだした。
「鬼〜悪魔〜、餓死したら恨んでやる」
オレは引きずられながら叫んだ。
そしてオレはあえなく教室に連れ戻された。
「腹ぺこ大将、席について、教科書出せ」
教師がそう言うと、教室に笑いがおきた。
オレは渋々席に着くと、机に手を入れて教科書を出そうとした。
「ん?」
机の中で指先が袋状の物に触れた。
そーっと引き出すと、袋に入ったカレーパンだった。
「ぬぉー」
オレは思わず声を上げてしまった。
「こらー、授業の邪魔になる奇声をあげるな」
教師はあまり気にするでもなく、形式的に注意した。
「す、すみません」
オレはそう言いながら、まじまじとカレーパンを見た。
ふと、視線に気づき横を見る。さっと視線をそらす佳奈。
「誰か知らないけど、親切な人もいたもんだ。ありがたくいただこうかな」
オレは佳奈にだけ聞こえるように言った。
佳奈は目をそらしたまま顔を赤くした。
「誰かさんの気持ちが詰まってるみたいだ」
オレは更に追い打ちをかけるように言った。
佳奈は更に顔を赤くして俯いた。
そして、瞬く間に授業は終わった。
「誰かさん、ありがとう」
オレは佳奈の方に向いて言った。
「な、何、あたしは知らないわよ」
佳奈は焦って視線をそらした。
「あれー、オレは、親切な誰かさんにお礼を言っただけなんだけどなぁ」
オレはとぼけたように言った。
「あっそう、明日も誰かさんが、パンくれればいいわね」
佳奈はベーっと舌を出して言った。
「あ、あのー」
オレはいきなり大きな声でそう言われて振り向いた。
そこには、クラスでもあまり目立たない、石川由那が立っていた。
「何?」
「ほ、放課後時間空いてますか?」
由那は顔を赤くして言った。
「あ、ああ、空いてるけど」
「ほ、放課後、屋上に来てください」
由那はそれだけ言うと、佳奈をちらっと見てお辞儀をして席に戻った。
「あーあ、やだやだ、鼻の下伸ばしちゃって」
佳奈は怒ったように言った。
「モテる男は辛いよ」
オレがニヤっと笑って言うと、佳奈は思い切り筆箱をオレの顔面に投げつけた。
「ぐぉー、何しやがる」
オレは顔を押さえて叫んだ。
「あーらごめんなさい。手が滑っちゃった」佳奈はあからさまに首をぷいっと横に向けた。
そして、一足飛びに放課後。
「さぁーてと、屋上に行くかな」
オレはわざと佳奈に聞こえるように言うと、立ち上がった。
「あっ」
佳奈は何か言いたそうな顔をしたが、直ぐに顔をそらした。
オレは少し胸が痛くなるのを覚えながら、教室を出た。

屋上に行くと、既に由那がいた。
「やあ」
オレは明るく声をかけた。
「こ、こんにちは…」由那は改まったように挨拶した。
「で、話があるんでしょ」
オレは予想がつくが、一応聞いてみた。
「あ、ああああのー…」
由那はそう言ったまま沈黙した。
オレは由那が話し出すのを待った。
「す、すすす好きです」
由那は目を閉じて思い切ったように言った。
しばらくの沈黙。予想はしていたが、なんてストレートな…。
由那はオレの様子を伺うように上目遣いに目を開けた。
「ありがとう…でも、ごめん…」
オレはそう言った。
「佳奈ちゃん…」
由那が呟くように言う言葉に、オレは頷いた。
「別れたって聞いたよ…」
由那は目の端に涙を浮かべて言った。
「約束をしたんだ。来年も同じ場所で会おうって。もし、佳奈がその約束を忘れていたら、本当の別れだと思う」
オレは静かにそう言った。
「じゃあ、もしダメなら、あたしと付き合ってくれる?」
由那はじーっとオレの顔を見ながら言った。
「ごめん」
オレはそう言うのが精一杯だった。
気まずい空気だけを残して、オレは由那に背中を向けた。

部屋に戻ってから、佳奈のことを思い出していた。
わがままで、短気で、強がりで…でも、可愛くて、愛しくて、ほっておけない大切な娘。
…………………………
約束の日まで、後2日。
佳奈は、一年前のあの約束を覚えているんだろうか?
『じゃあさぁ、来年も一緒にこれ見にこようよ』
オレはベットにうつ伏せになったまま眠りについた。

「う〜ん」
朝目が覚めると、体がだるかった。
布団の上にうつ伏せに寝たせいか、風邪をひいたみたいだ。
「はぁ〜」
ベットからヨロヨロと立ち上がり、ドアまで歩いた所で力尽き、意識を失った。
…………………………
『博文…大好き』
佳奈は恥ずかしそうに、抱きついてくる。
『オレも、佳奈が好きだ』
オレも佳奈を抱きしめた。
温かい温もりが…温もり?徐々に意識が覚醒していく。
…目の前に真っ赤な顔の佳奈がいた。
「な、ななな何やってんのよ、エッチー」
佳奈はオレの腕を逃れて飛び退いた。
「ま、まったくー、連絡もしないで、学校休むから、元彼女として心配して来てあげたのに、い、いきなり抱きつかないでよ」
佳奈は離れた所から大声で言った。
「はぁー、って言うか、元彼氏の家に、どうどうと入って来るのもどうかと思うぞ」
オレはため息をつきながら言った。
「ムカー、せっかく心配して来てあげたのに、あーもういい、帰る」
佳奈はぷくーっとふくれたまま、勢いよくドアを開けた。
「佳奈」
「何よー」
「ありがとう」
オレがそう言うと、佳奈は背中を向けたまま、「おかゆ作ってあるから…」と赤い顔で言ってドアを閉めた。
「はぁー」
ため息をついた。もっと他に言いたかったことがあったのに、肝心なとき出てこない。
佳奈の作ったおかゆはおいしかった。
ちょっぴり涙の味がした。

次の日体調も回復し、学校に行くと、佳奈の姿を探した。
しかし、教室で見つけることが出来なかった。
『風邪染ったかなぁ?』
そんなことを考えながら、1時間目の終了の鐘を聞いた。
「ゲホゲホゲホ」
教室の入り口から、咳をしながら入ってくる佳奈を見つけた。
「大丈夫か?」
佳奈が席につくのを待って話しかけた。
「博文ほどじゃないから大丈夫」
佳奈は次の授業の準備を始めた。
佳奈は熱があるのか、少し頬の当たりが赤い。
気にはなるが、言っても聞かないことは知っている。
とりあえず、気にしない振りをしながら、様子をみることにする。
佳奈は昼休みになる頃には、かなり怪しい感じになってきた。
「これ何本だ」
佳奈の前にVサインを出した。
「そ、そんなろ、4本に決まってるじゃなひ」
…かなり来てます来てます。
「はりゃ、6本かなぁ」
佳奈はヘナヘナと机にうつ伏せた。
「ったく、素直じゃないんだから」
オレはそう言いながら佳奈の額に手を当てた。
熱い…これじゃあ、まともに授業は受けられない。
「ほら、保健室行くぞ」
佳奈の肩を揺すってみるが既に反応はない。
「はぁー」
ため息をつくと、佳奈をおんぶした。
既にオレと佳奈が付き合っていたことは、クラス全員が知っている。
別れ話のことも知っているだろうが、元さやとでも思っているのか、誰も何も言わない。
オレはそのまま保健室に向かった。
「はれ〜あたし浮いてるぅ〜」
「夢だ」
「ゆめぇ…そうなんだぁ」
途中目を覚ましたが、夢だと言うと再び眠った。
保健室に着くと、理由を話しベットに寝かせた。
「後で引き取りにきます」
それだけ言って、保健室を後にした。
午後からの授業は全く集中できなかった。

「ふぅー」
ホームルームが終わり佳奈を引き取りに保健室に向かった。


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