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恋話の棚ニャ!
2
「うるさい、フェンスを離せ!」
オレはそう叫びながら目を閉じ、巨大なクジラを頭に思い浮かべた。
「もうダメ〜」
由奈美はそう叫びながら、目を閉じて頭を手で押さえた。
「行け〜」
オレが叫ぶと、巨大なクジラのぬいぐるみが、地面に向けて落下した。
「キャ〜〜〜〜」
[ボフッ]
[ボフッ]
まあ、何と言うか、オレの能力が役にたった瞬間って言うヤツを体験した(汗)
「…」
「よう、大丈夫か?」
オレは体を起こすと、放心状態の由奈美に言った。
「うぇ…助かったの?」
「ああ…てか、その格好…ウサギが見えてるぞ」
オレは由奈美の捲り上がったスカートを見ながら言った。
「えっ?…た、助けてくれたから、さ、サービスよ」
そう言いながらも、由奈美は慌ててスカートを押さえた。

「でも、どうやってあんな大きなぬいぐるみ用意したのよ?」
「ん?…ん〜まあ、 とりあえず逃げた方がよくないか?」
中庭に突然降ってきたぬいぐるみに、生徒と教師が近づいてきた。
「うわ、まずいわよ。さっさと逃げるわよ」
由奈美はいきなりオレの手を掴むと、ぬいぐるみを滑り降りた。
「うわ、わわわ」
オレは引っ張られたまま滑り落ちた。
[ゴン]
「グッハ」
目の前に星が飛んで思わず声を上げた。
「も〜、何やってんのよ〜。ほら行くわよ」
オレは由奈美に引きずられる様に走り出した。

「はぁ、はぁ、どうでもいいけど、これ以上走っても、意味ないだろ」
「えっ…はぁ、はぁ、そうね」
勢いで走って体育館裏までやってきたが、誰も追いかけてくる感じでもなかった。
[キーンコーンカーンコーン]
「うわ、チャイム鳴ったし」
「今から教室行くと、怪しまれるから、あたしはここにいるから」
由奈美はそう言うと、裏口の段差に腰掛けた。
「はぁー、 仕方ない付き合ってやるよ」
オレは由奈美の隣に腰掛けた。

「そう言えば、さっきさー、名前で呼んだよね〜」
「なっ、よ、呼んでねーよ」
オレは由奈美から視線を逸らしながら言った。
「ふ〜ん、そ〜」
由奈美はオレがわざと空けて座った隙間を、ギュッと詰めてピッタリとくっついてきた。
「な、何やってんだよ…」
「ほら、寒いし〜くっついた方が温かいでしょ?」
肩に置かれた頭に、オレは一瞬にして固まった。
「べ、べべべべ別にオレはその…」
オレは言い訳しようとチラッと由奈美を見た瞬間、上目遣いの由奈美と視線がぶつかり、顔を赤くして目を逸らした。
「その、なあに?」
由奈美の呟く様な吐息が耳にかかり、鼓動が急激に早くなった。
「そ、そうだ、と、トナカイがいるんだろ?」
オレは耐えきれなくなって言った。
「あっ、そうだよ!早く出してよ」
由奈美がパッと離れると、触れていた部分だけが、急激に寒く感じた。
「お、おう…」
物寂しさを感じながら頷いた。
両手を前に出して、目を閉じ意識を集中した。
「えい!」
いきなり両手を掴まれ、オレは驚いて思わず違うモノを思い浮かべてしまった。
「あ…(汗)」
「これって手作り?」
オレの手から由奈美の姿をしたぬいぐるみを取ると、上目遣いでオレを見ながら由奈美が言った。
「…そ、そうだぞ。夜なべをしてだなぁ」
「ウソでしょ?ねぇ、どうやったの?」
由奈美はオレの手を掴むと、手の平を撫でながら言った。
「そ、それは…」
近づいた由奈美の顔に、ドキドキしながら目を逸らした。
「ん〜ピタッ」
由奈美はいきなりオレの腕を掴むと、胸元に引き寄せた。
「な、ななな…」
オレは一気に顔が熱くなるのを感じた。
「ねぇ〜え、ど・う・やっ・た・の?」
由奈美はオレの耳元で囁いた。
「ど、どうって、さ、サーバリメントだけど…」
オレは思わず本当のことを言ってしまった。
「なにその鯖トリートメントって(汗)」
由奈美はオレから離れると、目を細めて言った。
「いや、鯖ちゃうし(汗)サーバリメント…思念を物理的固体に変換する能力ってやつだ。ただし、ぬいぐるみ限定だけどな」
「え〜…ずるい〜」
由奈美はほっぺたを膨らませながら言った。
「いや、寝て起きたら巨大なたい焼きに潰されそうになったり、部屋の中にぬいぐるみが溢れたりするんだぞ」
「行く!」
由奈美はいきなり立ち上がった。
「行くってどこに…」
「あんたの家に決まってるでしょ」
由奈美は腰に手を当てて言った。
「はぁ?何言ってんだお前(汗)」
「いいから、早く立ちなさいよ!」
由奈美はオレの腕を引っ張って、強引に立たせた。

「エスケープして、男の家に行くってのはどうかと思うぞ」
「べ、別にいいじゃない…それより、家まで行って、ぬいぐるみが無かったら、またカバン投げるからね」
由奈美は頬を染めて言った。

「おじゃましま〜す」
家に着くと、待ちきれないように、由奈美は家の中に入って行った。
「きゃっ」
「あっ」
廊下の曲がり角で、キッチンから出てきた母親と由奈美がぶつかりそうになって声を上げた。
「な…」
「ほ〜、学校サボって、女の子を家に連れ込むなんて、あんたいい度胸してるじゃない」
母親は斜め45°に仁王立ちすると、オレを睨みながら言った。
「いや、こ、これは…」
「問答無用のスーパーケツバット〜」
説明しよう、斜め45°の角度から繰り出される蹴りは、ヒグマですら泣いて逃げ出すほどの威力が…。
「な〜に、ごちゃごちゃ言ってんの?もう一発いくわよ!」
「グハッ、ごめんなさい、ごめんなさい、戻ってちゃんと勉強します」
「あ、あはは(汗)あたし失礼しま…」
由奈美は体の向きを変えて家から出ようとした。
「ちょっとお待ち、女の子には女の子の罰を与えなきゃね〜」
母親は由奈美のスカートを盛大にめくった。
「きゃっ…」
「はぁ〜、あんたのイチゴバニラ好きにはあきれるわね」
母親は溜のこもった溜息を吐きながら言った。
「いや、オレの…あっ…いえ、大好きです…」
言い掛けたオレを睨む母親に否定できずに頷いた(汗)
「で、いつから付き合ってんの?」
「は?付き合ってねーし」
「…」
オレの言葉に、母親の眉がピクッと動いた。
「ほー…で、いつから付き合ってるのかな!」
「グハッ」
痛さ頂点っす(汗)
オレはあまりの痛さに廊下を転げ回った。
「あんた、付き合ってもない娘を連れ込んで、くんずほぐれつしようとしてたの!」
「ち、ちげーって、ぬ、ぬいぐるみを見に来ただけだって」
オレは次弾装填済みの足から逃げる様に後ずさりながら言った。
「ふ〜ん、あんたの趣味を理解してくれる人がいるなんて信じれない…」
「あたしがいます」
母親の振りかぶった足とオレの間に立ち、由奈美は両手を広げて言った。
「はぁ、そう言うことね。覚悟して付いてきたのね」
母親は足を降ろすと、溜息混じりに肩を上げた。
「は?」
「へ?」
思わずオレと由奈美は顔を見合わせた。
「あたしは女の子の味方だから…でも、避妊はするのよ〜」
母親は手をひらひらさせながらキッチンへ戻って行った。
「いや、違うから〜」
廊下に虚しくオレの声が響いた。

「…きゃ〜可愛い〜」
由奈美は部屋に入るなり、巨大たい焼きにダイビングした。
「それは妹の予約品なんだ」
「え〜、じゃああたしのだっきーも出してよ」
由奈美は振り返ると、ほっぺたを膨らませながら言った。
「だっきーって(汗)何が良いんだよ?」
「えっと…ゆた君人形…かな」
由奈美は頬を染めて目を逸らした。
「ネコとクマの合いの子か?それはけっこう難しいぞ」
「は?…はぁ、ボケはいいから…あんたの人形よ…」
由奈美は顔を赤くしてオレに由奈美人形を押しつけて言った。
「え?…それって…」
「だから!…そう言うことよ…鈍感…何とも思ってない男の子に付いて行く訳ないでしょ…」
由奈美は真っ赤な顔で言った。
「…」
オレは無言で目を閉じると手の平に意識を集中した。
しばらくすると、もこもこっとした感触が手の平に感じて目を開けた。
「えへへ、ありがと」
由奈美はオレの人形を胸元に抱くと、上目遣いで微笑みながら言った。
いつもはただ元気な女の子としてしか見ていなかった由奈美が、今日は凄く可愛く見えた。
[ギュッ]
オレは無言で由奈美…人形を抱き締めた(汗)
「あ…」
由奈美はオレを見て小さく声を上げた。
しばらく、二人とも無言でぬいぐるみを抱き締めた。

「えっと…」
「あのさぁ…」
オレが由奈美を見ると、由奈美もオレを見ていた。
「な、何?」
「う、うんん、先にどうぞ」
由奈美は小さく首を振りながら言った。
「あ、うん…そのさぁ…ぬいぐるみより抱き心地が良さそうなのがある気がするんだけど…」
「へ、へ〜、偶然ね、あたしもある気がしてたのよ」
二人ともマックスまで顔を赤くしながら言った。
「そ、そんじゃさぁ、いっせいので抱き締めてみるか?」
「う、うん」
二つのトマトはお互いに頷き合った。
「いっせーの」
「いっせーの」
[ギュッ]
オレの腕の中に、オレとは違う温もりが触れ、甘い香りが鼻をくすぐった。
「えへへ、抱き心地いいね」
「あ、あぁ、今までで最高だな」
オレはゆっくりと由奈美の髪を撫でながら言った。
「そう、そこで一気に押し倒しちゃえ」
「…」
「…ごめんな、雰囲気ぶち壊しで(汗)」
オレがそう言うと、由奈美は苦笑しながら首を振った。
オレは惜しみながら由奈美から離れると、ドアを思いっきり開いた。
「あれ…あはは(汗)続きをどうぞ」
母親が引きつった笑顔で言った。
「はぁ…今彼女になった飯塚由奈美さんです」
「飯塚由奈美です。よろしくお願いします」
「由奈美ちゃんね、よろしくね〜。じゃあ、そう言うことで」
母親は全速後進で姿を消した。


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