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恋話の棚ニャ!
1
オレには、憧れの先輩がいる。
髪が長くて、笑顔が可愛いい。
入学してから今日まで、ずっと先輩のことだけ見てきた。
それも今日終わってしまう…。

「よ、後輩君、今日で君ともお別れだね〜」
ずっと一緒にいられるという幻想を抱いていたオレに、いたずらっぽい笑顔で言う。
「あ〜あ、顔が見れなくなって清々するぜ」
「あ〜、またまた〜、淋しいくせに。お姉さんが胸を貸してあげようか?」
両手を広げて見せる先輩に、思わず引き寄せられそうになった。
「ばっ、誰が貧乳なんかに抱きつくかよ」
「うわ、そう言うこと言うんだ。せっかくモテなさそうな後輩君に、愛の手をさしのべてあげてるのに」
小さく肩を上げながら舌を出して見せる仕草にさえ、胸が高鳴ってくる。
「うっさいよ、さっさと体育館行けよ」
「はいはい、式の間に鼻水たらして泣くんじゃないよ〜」
小さく手を振りながら、オレから離れて行く。
オレはただ、背中を見送ることしか出来なかった。
「ばっかじゃねぇの…」
そう呟くと、オレは体育館ではなく、中庭を目指して歩き出した。

シーンと静まりかえった中庭には誰もいない。
「よっこらせっと」
芝生に寝転がると目を閉じた。

『ふむ、ふむ、後輩君、ケンカはダメだぞ』
ったく、いきなり猫のカットバンなんか口元に貼りやがって、かっこわりーだろうが…。
『こ〜はいく〜ん、あたし、オレンジジュースね〜』
ったく、いきなり図書室の窓から叫んでんじゃねーよ、恥ずかしいだろうが…。
『あのね〜後輩君、みんな水着がきつくなるって言うんだけど、あたしだけきつくならないんだけど、なんでかなぁ?』
ったく、男のオレにそんなこと聞くなよ。牛乳でも飲んでろよ…。
ったく、さっさといなくなっちまえばせーせーするぜ…。

「こちょこちょこちょ」
「ぶえっくしょん…って、何やってんだよ」
目を開けると、髪の毛の先でオレの鼻をくすぐるあんちくしょうがいやがりましたよ(汗)
「後輩君がいなかったから、あたしも卒業式ボイコットしちゃいました」
「って、笑ってる場合じゃねーだろうが、さっさと行けよ」
オレは立ち上がると、手を掴んで歩きだそうとした。
「イヤだ」
「わがまま言ってんじゃねぇよ。最後の日くらい、ビシッと決めろや」
踏ん張るあんちくしょうを無理矢理引っ張りながら言った。
「イ・ヤ・だ。まだ、何も聞いてない」
「は?…卒業おめで…ぐはっ」
いきなり力を抜いたあんちくしょうは、オレの脇腹にグーでパンチした。
「違〜う、卒業なんだよ、最後なんだよ」
「って〜な、だからなんなんだよ」
ほっぺたを膨らますあんちくしょうと、脇腹を押さえるオレの睨み合いがしばらく続いた。
「もう…いいよ…でも、これは貰うから」
いきなりあんちくしょうは、オレの第2ボタンをちぎって走り出した。
「ってか、オレは卒業しねーから…どうすんだよ…ボタン(汗)」
溜息混じりに呟いて、小さくなる背中を見つめた。

1年後オレは卒業式を迎えた。
「かったり〜、ボイコットすっか」
オレの足は自然と中庭に向かった。
芝生に寝転がり、目を閉じる。
「こら〜、そんなことまで真似しなくていいの」
1年前から付き合っている彼女がやってくる。
「ったく、由恵はいつまでたっても口うるさいな」
「当たり前でしょ、けい君がちゃ〜んと卒業式に出るか、監視に来たんだから」

あの日…
「ったく、待てよ」
離れていく背中を必死に追った。
「待たない、もうお終いなんだから」
「じゃあ、改めて始めればいいんだろ…好きだ…」
オレは背中から遠慮なく抱きしめた。
「バカ…言うんなら早く言いなさいよぉ。卒業式になったじゃない…」
由恵は口を尖らせて言った。
「いつもふざけてばっかだったから、相手にされないと思ってた…」
「好きじゃなかったら、側にいるわけないよ」
近くて遠い距離が、この後0cmになりました(汗)

「ほ〜ら、もう、始まっちゃうよ。あっ、これ、貰っちゃうね」
「ってか、去年もやったろ」
オレの第2ボタンを取る由恵に苦笑して言った。
「ダ〜メ、けい君の第2ボタンは、ぜ〜んぶあたしのなの。ほら、しゃきしゃき歩いて、ビシッと決めなきゃダメなんでしょ」
「へいへい、ビシッと決めてきますよ」

冷たい風の中、繋いだ手の温もりが、オレを包み込む。
あの時、違う選択をしていたら、こんな日は来なかったと思う。

《おしまい》


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