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恋話の棚ニャ!
1
「はぁ〜」
授業が終わると、オレは机に伏せながら、斜め前の席で、次の授業の準備をしている、薬枝香美鈴(やしかみすず)を見つめて、溜め息を吐いた。
片思いをすること3ヶ月…つまり2年の同じクラスになってからずっとだが、未だまともに話をしたことがない。
「畑畝功士(はたせこうじ)君〜、薬枝香の背中に穴があくぞ〜」
1年の時からの悪友、滝原裕二が、オレの首を締めながら言った。
「ぐっ、いいだろ…」
「ったく、薬枝香狙いなんて、怖い物知らずだな」
裕二は手を離すと、呆れた様に言った。
「はぁ〜」
レイジンカンパニー社長令嬢と言う訳で、狙っている奴は多いが、直接話し掛ける勇気のある奴は未だにいない。
「かなわない夢を追いかけずに、有里くらいで手を打っとけって」
「へ〜、美鈴の代りなんだ、あたし」
白水有里(しらみずゆうり)も、1年からの付き合いで、オレ達3人はよくつるんで遊びに行ったりする。
「げっ、有里聞いてたのかよ…」
「聞かれちゃダメな話はしないことね」
有里は裕二の耳を引っ張った。
「イタタタ、悪かったって〜」
「ちょっとこっちにきなさい」
有里は裕二の耳を引っ張ったまま歩き出した。
「耳がでっかくなっちゃうだろ〜」
裕二は耳を引っ張られながら叫んだ。
「は〜」
二人がなんとなく怪しいのは気付いている。
オレに遠慮して、二人共言い出せないみたいだが…。

薬枝香美鈴…丁寧に伸された髪は黒く長く、たまに見せる笑顔は、オレの心をドキドキさせる。

[キーンコーンカーンコーン]
「…である。続きを薬枝香読んでくれ」
「はい」
美鈴の小さいがしっかりとした声が教室に響いた。
「二人の気持ちは、時間も距離も越え、再び一つになる…」
オレは目を閉じ、美鈴の声に集中した。
「畑畝君…」
「は、はい〜」
突然呼ばれて、オレは目を開けて立ち上がった。
「87ページの7行目からだよ」
美鈴が振り返って教科書を指差していた。
「え、あ、うん…」
オレは美鈴に名前を呼ばれて、教科書どころではなくなっていた。
「か、か、彼女のの記憶喪失、そ、そそそれでもオレは諦めにゃい…はう」
オレは緊張のあまり、舌を噛んでしまった(汗)
「畑畝〜寝るなよ〜」
教師が腕組みしてオレを見ていた。
〔ちっ、美鈴の前で恥かかせやがって、後で藁人形に5寸釘を打つ計画を立ててやる〕
「はい…」
美鈴の方を見ると、こっちを見て笑いを堪えている顔をしていた。

「は〜」
オレは授業の終わりと共に盛大に溜め息を吐いた。
「ご愁傷様」
裕二がニヤニヤしながらやって来た。
「白水さんちょっといい?」
声の方に視線を向けると、美鈴と有里が教室を出て行く所だった。
「薬枝香が有里に用って珍しいなぁ」
「あぁ…」
[キーンコーンカーンコーン]
チャイムが鳴ると同時に、美鈴と有里が帰って来た。
有里はオレを見ながら、ニヤニヤしていた。

「は〜」
美鈴の綺麗な髪を見ながら溜め息を吐いた。
「ほー畑畝、オレの授業はそんなにつまらんか?」
現国の鬼の桐原が、教科書を片手に近付いて来た。
「と、とんでもありません」
「まぁ、薬枝香のことが気になるのは分からんでもないが、授業中に溜め息吐くな」
桐原がそう言うと、美鈴がオレの方を赤い顔で振り返った。
「…」
「(おい、罰として、告って華々しく散れ)」
桐原は教科書で口元を隠す様に、オレの耳元で囁いた。
…この先生は、やっぱり鬼だ(汗)
「よーし、授業再開だ」
オレは授業どころではなかった(汗)

[キーンコーンカーンコーン]
「う〜」
本日の授業も全て終わり、オレは机に伏せた。
「功士、起きなさいよ」
有里の声がして、肩を揺すられた。
「そっとしておいてくれ」
「(何言ってんの、功士のお姫様が待ってるわよ)」
有里の声に体を起こし、目の前で微笑む美鈴に、オレは思わず顔を赤くした。
「な、ななな何」
「あっ、えっと、みなさんのお仲間に加えて欲しくて、有里さんにお願いしたの」
「まっ、今日からは仲良し4人組になるってことよ」
有里はニヤニヤしながら言った。
「意義はないよな」
裕二がオレの肩に手を置いて言った。
オレは無言で首をブンブン縦に振った。
「やれやれ」
「そうだね」
有里と裕二はいきなり腕を組んで頷いた。
「何となく分かってたけど、いきなりかよ(汗)」
オレは呆れた様に言った。
「へー、白水さん…」
美鈴が言い掛けた瞬間、有里が手を上げた。
「有里、裕二、功士、OK?」
有里が自分とオレ達を指差しながら言った。
「あ、お、オッケーです。あたしのことも、美鈴って呼んで下さい」
美鈴はそう言いながら、ぺこりと頭を下げた。
「オッケー!そんじゃ、帰ろっか?」
「だな」
裕二は頷きながら言った。
「あ、ちょっと待って下さい。瀬場珠(せばす)…あ、執事に電話しますから」
美鈴は携帯を取り出して電話し始めた。
「(おい、執事だってよ)」
「(あ、あぁ…)」
ドラマでしか聞いたこともないことが、現実にあることに唖然とした。
「あ、瀬場珠、今日はお友達と一緒に帰るから、迎えはいいわ。大丈夫よ。ええ、分かったわ…お待たせしました…何か?」
オレ達が唖然と見ているのを、不思議そうな顔で言った。
「う、うんん、何でもないよ。さっ、帰ろ」
有里は、笑顔で応えると、裕二の腕を引いて教室を出た。
「行きましょ」
「あ、あぁ…」
美鈴の笑顔に、オレの心臓は、バクバク言いっ放しだった(汗)

「あ、そうだ、ゲーセンに新しくロックンポップが入ったらしいよ」
有里は振り返りながら言った。
ロックンポップとは、最近若者を中心に人気が出ている、音楽に合せて体を動かすと、センサーが反応して、得点が出る体感ゲームだ。
「マジ!あれ、オレもやってみたかったんだ」
「美鈴はダンスならってるから、高得点出せそうだよね」
「あたし…ゲームしたことないから…」
美鈴は顔を赤くして照れながら言った。
「そうなんだ、功士に教えてもらいなよ。楽しいよ!」
有里はオレを見ながらニヤッと笑って言った。
「あ、あの…教えてもらえますか?」
「う、あ、あぁ…いいけど…」
胸の前で指を組んで、神様お願いのポーズをしてオレを見上げる美鈴に、理性が吹っ飛びそうになった(汗)
「よ〜し、じゃあ、ゲーセンにレッツゴー!」
有里はイタズラっぽく笑うと、ウインクして見せた。

「あ、ロックンポップ3Dもあるよ」
ゲームセンターに入るなり、有里は興奮して、走って行った。
ロックンポップ3Dとは、大きなスクリーンが付いていて、体を動かすと、キャラクター達が動く様になっているゲームだ。
「それじゃ、あたし達が先にするから見てて」
「うん」
有里と裕二が台に立つと、美鈴は真剣な顔で頷いた。
【レディ〜ゴ〜】
ゲームが始まると、有里と裕二は、激しい動きでレーザー光を追う。
すごいスピードで点数が上がって行く。
【ジャジャ〜ン、ジャン】
「あっ、有里最後…」
「失敗しちゃった。前のと同じだったのに」
ゲームが終わると、有里は小さく舌を出して言った。
「よし」
美鈴は気合いを入れる様に拳を握った。
「美鈴〜そんなに力入れたら、体動かないわよ。ほらほら、功士もさっさと準備する」
有里は台から降りると、オレと美鈴の背中を押した。
「よし、いっちょやるか」
「うん」
オレは台の上に立って言うと、美鈴が固い表情で頷いた。
【レディ〜ゴ〜】
音楽が始まると、オレは必死でレーザー光を追った。
ちらっと横を見ると、しなやかに体を動かしながら、レーザー光を追っていた。
ぐっと体を反らす度に、胸元が強調され、オレは完全に調子が狂って、点数が上がらない。
「美鈴〜最後は高くジャンプだよ〜」
「うん」
美鈴は膝をぐっと曲げ、台を蹴って飛んだ。
ちらっと見た有里がニヤッと笑っていて、オレは瞬間的に気付いて、美鈴の方に振り向いた。
「え…キャッ」
当然と言えば当然の結果で、豪快にスカートが捲れ、白いレースがオレの目に飛び込んで来た。
美鈴は赤い顔のまま台に座り込んでしまった。
「なっ…」
オレも顔を赤くして顔を背けた。
「美鈴…」
有里は美鈴に近付くとしゃがみ込んで小さな声で何かを話した。
「そう言うことは、先に…」
美鈴はチラッとオレを見て声をひそめた。

「(どうよ、お姫様の下着は?)」
ゲームセンターを出ると、有里はオレの耳元で言った。
「(どうもこうも、チラッとだし…)」
「美鈴〜功士がもっと見たいって言ってるよ〜」
有里はいきなり大声を上げた。
「ゆ、有里〜」
美鈴は真っ赤な顔で言った。
「まっ、オレ達は、堂々と見せ合う仲…はう」
「んな訳ないでしょ。じゃ、じゃあね〜。裕二〜」
有里は逃げ出した裕二を追いかけて走り出した。
「も〜、有里たら〜」
美鈴は呆れた様に言った。
「帰るかな」
「ちょっと〜、タダじゃないよ」
美鈴はイタズラっぽく言った。
「おい、おい、金取るのかよ(汗)」
「じゃなくて、一緒に行きたい所があるの」
美鈴は上目遣いに言った。
「は〜、で、どこ?」
「恋火浜(こいがはま)」
恋火浜は…夜になると恋人達が集まってくる浜だ。
「…って、あそこは…」
「拒否権はありません」
美鈴はいきなり、オレの腕に腕を絡めて歩き出した。
「お、おい(汗)」
ぴったりと引っ付く美鈴に、オレの心臓は飛び出しそうなほど高鳴った。

「結構いるね」
「…あ、あぁ」
見渡すと、7、8組のカップルが石段に腰掛けていた。
「行こ」


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