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恋話の棚ニャ!
2
「来たねー、ちょっと待っててね」
保健の先生は、閉められたカーテンの隙間から中に入った。
「ああ、いいですよ。そのままおんぶして帰りますから」
オレは後に着いて中に入った。
「ちょ、ちょっと、待ってって言ったでしょ」
保健の先生は焦ったように、佳奈の服の胸元を布団で隠した。
しかし…
「うっ、外で待ってます」
オレは一瞬だけ佳奈の胸元に見えたピンク色から直ぐに目をそらしてカーテンの外に出た。
「迎え来たから、起きよう」
「ふえ?迎え?おかあさん?」
「違うわよ」
〈シャッ〉
音を立ててカーテンが開かれた。
佳奈の顔は一瞬にして驚きに変わった。
「ど、どうして?」
佳奈は口をパクパクさせた。
「あなたを、おんぶして連れてきてくれたのよ。お礼は?」
保健の先生はニヤッと笑いながら言った。
「お、おんぶ!?…あ、ありがとう」
佳奈は真っ赤になって頭を下げた。
「お隣さんだからな。それより、歩いて帰れるかい?」
おれはいたって落ち着いた口調で言った。
「う、うん」
頷いてベットから抜け出した。
「そうね、大丈夫でしょ。優しい背中もあるしね」
保健の先生は、微笑みながら言った。
「よし、帰るか」
オレは出入り口に向かって歩きだした。
佳奈も顔を赤くしながら俯き加減に後に続いた。
保健室の入り口から僅か500mも行かない内に、佳奈はヘナヘナと座り込んだ。
「やっぱり、ダメじゃん」
オレは佳奈に背中を向けてしゃがみ込んだ。
「だ、大丈夫だよ。直ぐ立つから…」
佳奈は言葉ではそう言いながら、体は言うことを聞かなかった。
「早くしないと、置いていくぞ」
オレはしびれを切らしたように立ち上がろうとした。
「絶対…絶対エッチなこと考えないでよ」
佳奈の体重が背中に乗ってくる。
肩胛骨の当たりに押しつけられた山は、意識するなと言うのは酷だろう。
「…」
無言で佳奈をおんぶして立ち上がった。
首筋に佳奈の熱い息がかかる。熱はたぶん下がっていない。
ぐったりとしがみつく佳奈も無口のままだった。
佳奈の家に着くと、ドアの横にある呼び鈴をおでこで押した。
「はーい」
〈ガチャ〉
明るい声と一緒に佳奈の母親が出て来た。
「あら?博文君…あらあら、やっぱり倒れちゃったのね。休みなさいって言ったんだけどね。悪いんだけど、ついでに部屋まで運んでくれる?」
「はい」
かってしったると言うか、オレは何度も佳奈の部屋には遊びに来ている。
先導する佳奈の母親が、部屋のドアを開けた。オレはゆっくりと部屋に入ると、眠っている佳奈をベットに寝かせた。
「それじゃぁ、帰ります」
オレはそのまま帰ろうとした。
「ちょっと、ちょっと、佳奈の看病は博文君の係りでしょ」
佳奈の母親に手を引っ張られて立ち止まった。
「あ、あの…」
オレは言い迷った。
「博文…」
いつの間にか目を覚ました佳奈が、オレを見ていた。
「あらら〜見つめ合っちゃって〜。氷枕持ってくるからよろしく〜」
佳奈の母親は部屋を出て行った。
「お母さんには、言ってないの…」
佳奈は熱で火照った顔で言った。
「そっか」
オレは話している方がまずかっただろうと思いながら呟いた。
「…」
「…」
しばらく沈黙が続いた。
「はいは〜い、氷枕よ〜。って、離れ過ぎじゃない?」
オレがドアの側に座っているのを見て佳奈の母親は言った。
「そ、そんなことないですよ」
オレは慌てて佳奈のベットに近づいた。
「あら、そう?はい、氷枕。後は任せたわよ」
氷枕をオレに渡すと、さっさと部屋を出て行った。
オレは佳奈に近づくと、「頭上げて」と言った。
「あ…う、うん」
佳奈は素直に頭を上げた。
オレは佳奈の髪を優しく撫でるように氷枕を頭の下に置いた。
「ゆっくり寝なよ」
オレは改めて頭を撫でて言った。
「う、うん」
佳奈は頷いて目を閉じた。
しばらくすると、寝息が微かに聞こえてくる。
オレはそれを確認すると部屋を出た。
「あら〜、帰っちゃうの?」
佳奈の母親は残念そうに言った。
「はい、お邪魔しました」
オレは頭を下げて玄関を出た。

オレは帰りながら、明日の約束のことを考えていた。
「別れてるし、風邪ひいてるし、覚えていないよな」
独り言を呟きながら、肩を落とし家路についた。
「はぁ〜」
軽く晩ご飯を食べ、風呂に入り、ベットに潜り込むと、何も考えないように眠りについた。

「はぁ〜」
オレはため息と共に目を覚ました。
学制服に着替えると、のそのそと部屋を出た。
もちろん、キッチンテーブルには何も…
「えっ…」
テーブルの上には朝ご飯があった。直ぐ側にメモがあり、『勘違いしないでね。あくまで昨日のお礼だから。佳奈』と書かれていた。
「元気になったんだ…」
オレはにやけた顔で朝食を食べ始めた。

今日はクラス全体が落ち着かない。
年に一度の光夜祭。高校生活の最大のイベント。恋人同士はそれなりに、恋人のいない人は目の色を変える日だ。
隣の席を見ると、佳奈が沈んだ表情をしている。
その表情の意味はよく分かる。
オレ達は別れた。だから、恋人のいないグループに入らなければいけない。
憂鬱だ。
ホームルームが終わり、クラスの連中はどやどやと体育館に移動を始める。
チラッと佳奈と目が合って、何か言いたそうにしていたが、敢えて気づかない振りをした。
そして、もう一つの寂しい視線も敢えて無視した。
教室を出ると、流れから離れ、屋上に向かった。

「はぁー」
ため息をついて、空を見上げた。
今にも雪が降ってきそうな空だった。
「体育館に行くと修羅場になりそうだ」
光夜際のメインは、最後のダンスだ。
佳奈を選べば、由那の悲しい視線にさらされる。
由那を選べば、佳奈の刺すような視線にさらされる。
「はぁー」
冷たいベンチに寝ころぶと目を閉じた。
いろいろと考えている内に眠気に襲われた。
…………………………
風に乗って聞こえてくる音楽で目を覚ました。
どれくらい寝ていたのか、空は黒く染まっていた。
「帰るか…」
オレは立ち上がると、屋上を後にした。

オレの足は、自然と約束の場所に向かっていた。
無駄かも知れない。刹那の期待と多大な不安を抱えたまま、とうとう降り出した雪の中オレは歩き続けた。

駅前の巨大なツリー。幻想的な光の中にその姿を見つけた。
「誰か待ってるのか?」
頭に雪を乗せた佳奈に声をかけた。
「…したから…」
佳奈は小さな声で呟いた。
「誰と?」
オレは意地悪く言った。
「博文と約束したから」
佳奈は真っ赤になって俯いた。
「別れたんじゃなかったっけ」
オレは更に意地悪く言った。
「クリスマスイウ゛だから、いいんだもん」
佳奈は口を尖らせて言った。その目は今にも涙が溢れそうだった。
「ああ、クリスマスイウ゛だからな」
オレは冷えきった佳奈の体を優しく抱き寄せた。
「あっ…」
すっぽりと収まった、佳奈の体は小刻みに震えていた。
「また、風邪ひいたらどうするんだよ」
オレは佳奈の頭に積もった雪を優しくはらった。
「ごめんなさい」
佳奈の目から涙がこぼれた。
「オレの方こそごめんな」
オレはありったけの想いを込めて、佳奈の唇を塞いだ。
「うっ…」
佳奈は赤い顔で吐息を漏らした。
「家来る?」
「うん」
「帰さないよ」
「いいよ」
オレは再び佳奈にキスすると手を繋いで歩きだした。
「博文…」
「ん?」
「大好き!」
「オレの方が佳奈のこと好きだぞ」
「あたしの方が博文のこと…」
「アハハ」
「何よー」
「お互い大好きってことで」
「うん、ずっと一緒にいようね」
「もちろん」
肩を寄せ合い歩く二人の上に雪が舞い降りる。
空を見上げ、この雪の数ほど佳奈を愛せたらいいなぁと思う。

(おしまい)


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