黒に包まれて《連載中》
疑念(魔王side)
「魔王陛下・・あの人間、今までと違い大人しく従順ですね」
執務室で仕事をしていると、宰相であるマキールが紅茶をカップに注ぎながら話しかけてきた。
あの人間を王妃として迎えて1ヶ月たつ。
「今後変わるかも知れんがな・・」
戦中に王族の人間をこの城に入れたことはある。
こちらも無駄な犠牲は出したくなかったので、いろいろと交渉するためにも人質として置いていたのだが・・・。
今までのやつらは豪華ではない部屋や食事に文句をつけ、王族にこの様な扱いは無礼だと喚いていた。自分が捕虜ということを自覚せず、人間の国にいた頃と同じような地位であるかのように。
愚かな者たちばかりであった。
傲慢な態度をとっていなければ殺されることもなかったのに―――
「ですがこちらの不当な扱いにたいしてもなにもいってこないところを見ると今までの王族とは異なりかなり忍耐強い者ですね・・我等魔族の脅威に抵抗する気力もないのでしょうか」
ふっと笑いながら眼鏡をくいっとあげるマキール。
それもそうだが、こちらの嫌がらせにも負けず耐える忍耐力が王族にあるだろうか。
王族とはプライド高い人間だ。
あそこまでされて何も抵抗をしないなど・・・普通であったら王妃として迎えられてる身、あんな侮辱を受けていたら黙っていないと思うが。
「本当に王家の血を継ぐ人間なのか疑問だな」
マキールの右眉がピクリと動く。
「陛下は王族の人間ではないとお考えなのですか?」
「人間は愚かな生き物だからな・・こちらを欺こうと謀る可能性はある」
条約を締結させた際の書類にはなんの不備も無かった。
しかし、書類の改竄もあり得ない話ではない。
「もう一度あの者のことを調べてくれ」
ふと窓の外へと視線を向けると、今まさに話していた人間が泥まみれになって歩いていた。
あんなに泥まみれになって仕事をする王族がいただろうか。
今までの王族にはいないタイプで思わず口許が緩む。
「なかなか骨があるやつのようだな・・・どこまで耐えられるか見物だな」
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