[携帯モード] [URL送信]

黒に包まれて《連載中》
友好条約
「シュライン・・・」

母親が泣き崩れながらこちらを見やる。
こんなにも泣きじゃくる母の姿を見たことなどあっただろうか。
優しく母を抱き締め、決して涙を流さぬよう我慢した。


「母上行ってきます、私は母上の幸せをずっと願ってます」

そう言って頬にキスを落とす。
もうこの温かい温もりを感じることはないだろう。ゆっくりと体を離し、母の顔をきっちりと脳裏に焼き付ける。

「どうして・・どうしてシュラインなの!!!」
顔を手で覆いながら泣きじゃくる母は、涙を流しすぎて、衰弱してしまったのではないかと思うほど弱々しかった。


長い長い人間と魔族の争いが終わった。
しかし、終結の際に締結した友好条約は人間側にとってとても酷なものだった。
それは、友好の証に王位継承権を持つ人間を魔族側に1人引き渡し、王妃として迎えるということであった。
その代わりに魔族側は人間側に戦争を持ちかけない、それがこの友好条約の内容。
しかし、この戦で何百といた王位継承権を持つ者が亡くなった。

王でさえも亡くなっていたのだ。

また、戦中に魔族側に捕らえられそのまま帰って来ない者もいた。
城の評議会の者たちは焦った。もし王家の血を継ぐ者が居なかったら、条約を結べないと。これは王国存続の危機であると。
そして、王家の血を継ぐ者が1人だけ存在することを確認した。
それは喜びと同時に悲しみに突き落とされることとなる。


なぜなら、この最後の1人を魔族側に受け渡すことは、正統な血筋を持つ者が王になることはないということであった。


王家が滅びることを示していたのだ。
魔族側の狙い、それは今まで自分達にたてついてきた血を持つものを絶やすことにあったのだ。

[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!