大切な負傷者をおんぶ(日英)
冷たい風が吹く中、背中が温かい。首の後ろに日本の吐く息が当たる。
少しくすぐったい。
「ううう…イギリスさんすみません…」
背中で日本が項垂れる。言葉に合わせて日本は頭を下げたようだった。
前髪が首筋をくすぐる。
それから逃げるように首を振って、俺は後ろを振り返った。
頭のてっぺんが見えた。
「気にすんなよ、まだ腰痛いだろ。あんまり体曲げるな」
「で、ですが」
「いいから!もっと悪化する!」
「は、はい…」
一喝に日本は少しばかり背筋を伸ばしたようだ。それでも小さく口の中でブツブツと何やら呟いている。
謝罪や過去の自分への恨み。そういった言葉の数々だろう。
それにしても。
「それにしてもぎっくり腰って…」
「あああああすみませんすみません!!こんな爺をイギリスさんに背負わせてしまって…!!!」
「いや、そんなに謝るなよ…」
「ちょっと書類の束を!持っただけなのですが!まさかその程度の重さに腰が負けると思わず…!!」
「まあ思わないよな」
会議の資料を配るドイツに言われて床に積まれた紙束を持ち上げようとして、ちょっと力んだらバキッと腰がダメージを負うなんて。
まあ思わないよな…。
イタリアの悲鳴が響いたことを思い出す。
「なんとか会議はクリアしましたが、さすがに帰りは…。本当にイギリスさん、ありがとうございます」
「俺ん家に泊まるだけだけどな」
「むしろ泊めていただけるのはありがたいです」
ドイツの家から日本の家に送るより、俺ん家運んだ方が早いし治療を受けさせてやれる。
…面倒だったとかじゃないぞ。
あとドイツの家に泊まるのを阻止した訳じゃないぞ。
すまないと頭を下げまくってたドイツに、同じく頭を下げまくった日本を引き剥がして車、飛行機、車と家に着いておぶって歩くこと数分。
ようやく日本用の客室に辿り着いた。
「いいか日本、そおっと降ろすからゆっくり座れよ?」
「はい…」
固まった日本に大丈夫かと心配になったが、ゆっくりと背中から降ろせば案外簡単に座れたようだ。
日本の安堵の溜め息が聞こえた。
振り返れば、眉を寄せる日本が腰を擦っていた。
…そんなに痛いのか。
「…腰…擦ろうか?」
「あ、いえ、大丈夫です、多分」
「大丈夫じゃないだろう…。とりあえず冷やそう、保冷剤取ってくる」
「すみません…」
謝る日本に背を向けてキッチンへ。保冷剤をしこたま抱えて、自分の部屋からタオルを何枚か持って日本の元へ。
大量の保冷剤をタオルで巻いて、うつ伏せで寝転がる日本の腰に置く。その上からバスタオルで腰をきつめに巻いてしっかりと留め、下腹部に残りのタオルを重ねて置いた。
即席だがしばらく動かなければかなり痛みも取れるはずだ。
処置している間中、ぐう、だのあぐっ、だの呻いていた日本もかなり楽になったようで、深い溜め息を吐いた。
「…ありがとうございます…」
「ん。痛みがある程度引いたらマッサージしてやるからな」
「何から何まですみません…」
「いいって。あとあんまり謝んな」
「?」
首を傾げた日本がこちらを振り返る。
俺は日本の視線から逃れるようにそっぽを向いた。
「…日本に色々できるのがちょっと、いやすごく…嬉しいし」
「…」
「最初ドイツん家泊まるって言ってて、本当はこのあと俺とで、デートの予定だったし…悔しくて」
「はい」
「だからちょっと強引に俺ん家運んだけど…でも日本がドイツん家がいいって言うなら俺…」
何言いたいかわからなくなってるし、いつものひねくれた言葉しか出なくて、もっとちゃんと言いたいのに。
ぐずぐずになった言葉にじっと耳を傾けてくれた日本がイギリスさん、と俺の名前を呼んだ。こちらに、手招かれて近付けば、手を伸ばして頭を撫でてくれた。
優しく、指先が髪を梳く。
「…デートの埋め合わせは必ず。今は自分ではどうしようもできませんので、治ったら出掛けましょう」
「そんなの、いつでもいいんだ。だけど」
「代わりと言ってはなんですが、しばらくこのままイギリスさんのお家に泊まらせて下さい。自分で動くこともままなりませんしね。なのでイギリスさんが良ければお願いしたいのですが。
そして、その間は2人でたくさんお話しましょう。大して面白いお話は提供できませんが…ぜひ、私は貴方とお話したいのです」
にっこりと笑った日本に引き寄せられる。柔らかな唇が触れ、離れていく。
「…俺も、あんまり面白い話がなくて」
「構いません」
「飯とか、日本あんまり食べられないと思うし」
「そこは努力しましょう」
「…俺で、いいのか」
「貴方が良いのです」
言い切って、日本は俺の髪を梳く。安心しろ、と言われている気がして、小さく頷いた。
「日本、もう1回…」
ねだったキスは甘かった。
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