小説
1(立波、R-18)
グロと鬱?注意
よろしければ下へ
『2人の内どちらかの腕を1本、切り落とさないと出られません』
そう書かれた紙が1枚、ペラリと置かれたテーブル。紙の隣にはよく切れそうな鉈が1本。他は何もない白い部屋で俺達2人は呆然と顔を見合わせる。
出られないだけなら扉を壊そうとするが、この部屋には扉が存在しなかった。ぴったりと1mmも隙間のない白い壁。
「…」
昨日はポーランドと一緒にベッドに入っておやすみと囁き合った。そして目が覚めたら見たこともない白い部屋にいた。誰かが部屋に入ってくればさすがにわかる、どうして俺達にバレずに運べたのか。疑問や不安が次々と浮かんでは消えて、思わず隣に立つ彼の腕を掴む。
腕。
ここから出るには俺達のどちらかの片腕を切り落とす。
切り落とさないといけない。
「…りーと」
間延びした声でポーランドが俺の顔を覗き込む。多分青ざめた顔をしているであろう俺とは対照的に、ポーランドはいつも通りの顔をしていた。
によによ。
「どうするん?」
「どうするって…」
腕を切り落とさないと出られないのだ。なら、切り落とすしかないではないか。
俺か、お前の腕を。
「リトはどっちがいい?」
「どっちって」
「俺と、お前。どっちがいい?」
「…そんなの」
俺に決まってるだろ。
お前を傷付けられる訳ないだろう。お前のためなら腕の1本や2本あげるから。
だから。
「ポ」
「いーや、俺やし」
いつの間にやら彼は俺の首に腕を巻き付けて。至近距離で見つめられる。
いつも強い意志を見せるエメラルドが俺を見ていて。彼の瞳に映った俺は酷い顔をしていて。
「右と左、どっちがいい?」
いたずらっ子のように笑った。
「…やめて。俺が」
「リトじゃあダメだし。だって」
唇が触れる。
柔らかくて、温かくて、ほんのり甘くて。
抱き締めた体は細くて、少し頼りない。
離れた唇が弧を描く。
「腕ちゃんとなきゃ、俺のこと守れないっしょ?」
「…片腕じゃ、ダメ?」
「ダメやし。リト下手っぴだからちゃんと愛してくれなさそうだし」
いくらでも愛すから。俺にお前を傷付けさせないでよ。
するり、ポーランドの腕が滑り落ちる。なあ、彼は俺に鉈を握らせながら縋り付く。
「肩からかなぁ、切り落とすの」
「…多分」
「切ったらちゃんと止血してくれん?放っとくとそのまま死んじゃうし」
「わかってる」
壁を背に座って、ポーランドを膝の上に乗せて。
「…俺の肩、噛んでもいいから」
「遠慮なく」
袖をまくって露出した白い肌。ポーランドがしばらく悩んで差し出した左腕の根元に鉈を当てて。
振りかぶる。
赤、赤、赤。
白い部屋や床が赤く染まっている。
むわりと広がる血の臭い。ゴトリと落ちた腕は、何度も鉈を振り下ろしたせいか傷口はギザギザで。ぴゅるぴゅると噴き出す血液は止まることを知らない。
「…っは」
息を吐き出したポーランドは痛みか失血により虚ろで。止血をするために傷口に触れると嫌がって体を捩る。それでも逃げ出すほど体力は残っていなかったようで。
「…少し我慢してね」
服を裂いて作った紐で傷口を覆った布を固定する。小さく呟かれた痛い、の言葉に手を止めそうになって、でも無理矢理動かして。
どうにか血は止まったようだ。
「…リト」
「…何」
俺に寄りかかるポーランドを覗き込むと、顔に飛んだ血液を見つけて、舐め取る。苦くて甘くてしょっぱい味は、口に広がる鉄の味に紛れてしまった。
「ん…」
「…いつ出られるかな」
まだここから出るための出口は現れない。早くにポーランドを病院に連れて行かないと、傷口が壊死する。
だから、早く。
「…リト」
俺に擦り寄る彼の顔は青ざめて。残った右腕で縋ってくる。きゅうと服の裾を掴む指は力がこもって白くなっている。
「…ごめん」
唇から溢れた言葉にポーランドは顔を上げて。震える唇が弧を描いて。
「リトのせいじゃねーから。だからそんな顔すんな」
「…うん」
引き寄せられて唇を重ねる。
まだ口の中に残る血の味に一瞬顔をしかめたポーランド。不味い、と呟かれた。自分のでしょ、そう言葉を返せば不機嫌そうに睨み付けられた。
噎せ返るような血の臭い、クラクラする視界でいつもと変わらないやりとり。彼の片腕が転がっていなければ、お互いが赤く染まっていなければ、何も変わらない毎日の一部だったのに。
ギィィ―…ぴったり合わさっていた壁が開く。明るい外はガヤガヤと煩くて、話し声が聞こえて、何事かとポーランドを守るように抱き締めて。
「リト」
囁かれた声に返事をする前に、誰かに腕を引かれた。
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