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小説
天使と悪魔 襲撃

「…で、怒られた」

「バカじゃね?」

「バカだねぇ」

「っ、君達酷いよ!!」

大きなたんこぶをリリーに治してもらいながら、アルフレッドは昨日の喧嘩を事細かに説明する。それにバカだと一刀両断され、膨れた。

「いやー、自分で喋ったのが悪いんじゃん?」

「ねぇ?ボクだったら自分の不利になること喋ったりしないよ」

「ぐぬぬ…」

「フランシスどんだけ怖かった?」

フェリクスの言葉にアルフレッドが跳ねる。アルフレッドの頭上ではリリーがあらあら、とはにかんだ。

「もうっ!ほんっっとうに怖かった!!!あんなに怒るフランシス初めて見たんだぞ!!」

「まあそうだね〜。でも戦場のフランシス君も怖いよ〜?」

「元々は剣振り回すタイプだったしな」

「うん?フランシスはヒーラーだぞ?」

「アルフレッド知らなさすぎ。元々フランシスは攻撃職だしー。そのあと色々あって現在ヒーラーやってるだけで、フランシスは1人で戦場駆け回れる」

「フランシス君、アントーニョ君、あと…ギルベルト君の3人で【3振りの剣】と呼ばれてたんだよ?」

「ギル…?」

「ああ、ごめん、これ内緒なんだ」

アルフレッドの問いにイヴァンは曖昧に笑った。隣ではフェリクスも不機嫌そうにしている。なんとなく、聞いてはいけない気がして、アルフレッドは口をつぐむ。
一瞬訪れた静寂を破ったのはリリーだった。治りましたよ、とアルフレッドに声をかける。

「もう喧嘩しちゃダメですよ」

「それはフランシスに言ってくれよ!!殴ったのはフランシスなんだぞ!?」

「暴力はいけませんね。今度お説教しましょうか」

「よく言っておいてくれ!!可愛い弟と思うならもう少し―」

アルフレッドが言い終わる前に、突然甲高い警報が鳴り響く。ビクリ、と体を竦めたリリーを庇うように座らしたイヴァンが、ロッドを召喚して構える。
警報には侵入者3人の言葉があった。少数精鋭か、と呟いたフェリクスに頷いて、イヴァンはロッドを振る。すぐに足元にゲートが開き、イヴァンが消えた。
残った者はじっと警報に耳を傾ける。聞こえてくる警報は、熟練した天使達を集める内容だった。

『侵入者3人、熟練者は直ぐ様外部ゲートに集まって下さい―』

「リリー、行くのか?」

フェリクスの問いにリリーは首を振る。

「私は後方支援としてここで待機します。それに、動けない貴方を守らなければ」

「気にすんなし、自分の身くらい守れる」

「オレは」

「ここにいろ。またフランシスに怒られるしー」

さっさと寝間着から着替えたフェリクスが剣を掴む。1度抜いて刃を確認したフェリクスは、通信用の小さな魔方陣を作り出す。

「―今どんな感じ?」

「まだなんともわからんわぁ。侵入はされたんやけど、どこにいるかわからないんや」

「こっちに来る可能性があるってことか。面倒だし」

「まあお前は寝ててええで。こっちでさっさと始末するから」

「こっちはお子様のお守り付きなんやけどー」

フェリクスの言葉に一瞬静かになると、魔方陣からアントーニョの笑い声が響く。

「あは、あははははは!!アルフレッドいるんやっけ?フランに昨日大層怒られたって聞いとるで!
―なあフラン?アルフレッドどうする?」

魔方陣のかなり遠くの場所にいるのか、フランシスの声は僅かしか聞こえない。それでもアルフレッドの耳ははきちんとその声を拾っていた。

『え?アル?どこにいるの?』

『フェリクスのとこやって!こっち呼ぶ?』

『いいよ。オレも出ちゃうから結果的にアル1人にさせちゃうし』

「はあん。やって!」

「やってちゃうし!聞こえてないって!」
「そこおってって!
―アルフレッド、ちゃんとそこで大人しくしとるんよ!!返事は?」

「…はぁい」

アルフレッドの気のない返事にアントーニョはまた爆笑する。あまりの煩さにフェリクスは片手を振って魔方陣を消す。
クスクス、とリリーが笑った。

「お元気ですね」

「マジうるさいんやけど。
…アルフレッド?脱走するなんて思わん方がいいし」

そろり、とドアへと足を向けたアルフレッドに、によついたフェリクスが言葉をかける。ギクリとしたアルフレッドに座るように言った。
渋々と座ったアルフレッドに組んだ足先を向ける。

「一応お前より強いからな、オレ」

「病人なのに?」

「銃しか使えない奴がそんな口きくんじゃないし」

なあ?と僅かに挑発を含んだフェリクスの言葉にアルフレッドは膨れるが、すぐに瞳を輝かせてリリーを見る。

「リリーは」

「ダメですよ、アルフレッドさん。私、力はありませんが、拘束魔法くらいなら使えますから」

「ぐぬぬ…」

熟練者2人に敵わないとわかると、アルフレッドは足を組んで膨れていた。


「エリザ、1人でいいのか?」

「ええ。むしろギルはライヴィス君と一緒にいてね」

「なんだよ、人を1人じゃ何も出来ないみたいな言い方しやがって」

「攻撃しか出来ない頭堅い奴には、ライヴィス君みたいななんでも出来る子が1番ね」

「…あの」

「それじゃ!またあとで!」

茶色がかった金髪を翻し、鎧に身を包んだエリザベータが走り出す。それを見送って、ギルベルトはライヴィスに問う。

「…そんなに頭堅そうに見えるか?」

「あの、えっと、…むしろ気が付かなかったのがおかしいくらい、いたっ」

正直に喋ったライヴィスの頭を叩いて、ギルベルトは無言で走り出す。それを涙目でライヴィスが追う。
途中、進路を塞いだ天使を斬る。それが二桁になると、ギルベルトの前を大きな体が塞いだ。
にこりと笑った彼に、ライヴィスは体を震わせた。

「やあギルベルト君、久し振りだね」

「ああ、イヴァンか。そこどけよ」

「だぁめ。何人斬った?」

「さあ?天使なんて数えてねぇよ。…どかねぇなら斬っちまうぜ?」

「斬れるならね!」

イヴァンがロッドを一振りすると、床から人形達が溢れ出す。それが一斉にギルベルト達に襲いかかった。
それを斬り捨てながら、ギルベルトがライヴィスの名を呼ぶ。

「支援しろ!」

「は、はい!"暗闇に棲みし魔物よ、我に従え"!」

ライヴィスはロッドを振り回し、床に叩き付ける。そこから"影の狼"が出現し、イヴァンの操る人形を咬み砕いていく。

「ほら来いよ、イヴァン!!」

ギルベルトはイヴァンに斬りかかる。それを避けて、イヴァンはロッドを振る。すぐにロッドは剣に変わり、にこにこと笑うイヴァンはギルベルトの刃を捕らえる。

「ボクごときに捕まるなんて、弱ったんじゃないの?」

「ほざけ!!」

一閃。ギルベルトの刃がイヴァンのコートを切り裂くが、その大きな体には届かない。舌打ちしたギルベルトは口の中で何か呟くと、イヴァンを押した隙に剣先で床に描く。

「よぉく見とけよ!
"汝に命ずる、我にその力を与えたまえ"!!」

キラリと剣先が光り、それが剣全体に広がる。でもそれは一瞬で、すぐに弾けて禍々しいオーラへと変わった。それにイヴァンは顔をしかめ、自分で出来るんだ、と呟いた。

「そこにいる小さい子、いらなかったんじゃない?」

「この人形邪魔なんだよ!!
でもそんな長くはもたねぇだろ、オレの相手しながらバンバン魔力吸われてるだろうからな!」

「どうかな?君は倒すの面倒でも、あの子はあれだけ長時間上位魔獣操ってたらキツくない?」

イヴァンはにこりと笑った。
後方で狼に魔力を捧げるライヴィスは、聞こえてきた会話に体を震わす。自分に近付く人形を自らのバリアで防ぎ、ギルベルトへ襲い掛かる人形は狼が咬み砕く。ライヴィスは自分の中の魔力がかなり早いスピードで抜けていくのを感じていた。それでもロッドを支えにしゃんと立ち続ける。

「僕のことはお構い無く。さっさと始末しましょう」

「大口叩けるなら平気だな。…もたせろよ」

ギルベルトの言葉にライヴィスは頷く。それを面白くなさそうにイヴァンは切っ先を一振りし、新しく魔方陣を描く。それを見てギルベルトの顔色が変わった。

「な」

「ボク1人じゃあ不利だよねぇ。2対1は卑怯だよ」

イヴァンの周りが白く輝く。そして。

「交代したいな。あとよろしく」

「おう。任せとけ」

「ちゃんと休んでね」

イヴァンが発動させたのは強制転移魔法。入れ替わる一瞬の会話でギルベルトの顔が歪む。光りが弾けたあとに残ったのは、ハルバードを抱えたアントーニョ、レイピアを構えたフランシス。
旧友との最悪の再開だった。



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