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小説
天使と悪魔 ちょっとしたこと

僅かな光に照らされた部屋に、急用だからとギルベルトとエリザベータは、アーサーに呼び出された。
アーサーの話に居心地悪そうに座るエリザベータとは違い、ギルベルトは自分の勝手が通ったことに嬉しそうにしていた。

「よし、アーサーそれはいつだ?」

「まあ待てよ、今こっちで調整してる」

「早くしてくれよ、な、エリザ?」

「え、ああ、うん…」

相方の歯切れの悪い頷きに、ギルベルトは首を傾げるも、すぐに興味を逸らした。
一方アーサーの周りには、たくさんの書類が浮いている。各方面から集めた今回の襲撃のメンバーを決めるためのデータを比較し、擦り合わせていた。

「ううん、攻撃に特化し過ぎている。こっちじゃダメだな。
こっちは…」

「そんなクソ面倒なことしないで、オレとこいつと…あと、ライヴィスで十分だろ」

ギルベルトの発言にエリザベータは目を丸くし、アーサーは呆れたように目を細める。

「あ゛?3人で何するんだよ」

「攻撃攻撃補助!
ほら!バランスいいだろ!!」

「脱出に時間がかかり過ぎる。せめてもう1人…」

「だ、大丈夫だと思います!僕行きます!」

「!」

突然現れた小さな影に、アーサーは溜め息が溢れる。警戒が薄まったせいか、簡単に侵入を許してしまった。ボケたか。
その思いに気が付かないライヴィスは、アーサーの溜め息を否定と取り、震える声を抑えながらも続ける。

「ほ、補助も攻撃も出来ますし、脱出用のゲートをあらかじめ開けておきます。これならすぐ逃げ出せますよね?ねぇ?」

「いや…まあ、お前がいいならそれでいいが。
でもいいのか?お前はトーリスと組んでたはずだが?」

「トーリスさんとはもう話して許可を取ってあります。ギルベルトさんから連絡が来てからきちんと…」

連絡。いつの間に、とギルベルトを横目で見れば、先程までいなかった小鳥がピヨ、と一鳴きした。それをギルベルトが指先で撫でる。

(あの小鳥か。連絡も出来たんだったな)

「…あの。僕は行ってもいいですか?」

陰から出てきた小さな彼は、体に似合わぬ大きなロッドを両手に抱え、アーサーを見上げる。それに答えたのは、今まで黙っていたエリザベータだった。

「いいわ。行きましょう。私とギルとライヴィスくん。この3人で」

いいでしょう。
問い掛けより確認に近いその言葉に、アーサーは無言で頷いた。
アーサーから許可が降りた。ライヴィスははぁとようやっと体から力を抜いて、長椅子の端に座る。その頭をギルベルトが掻き回した。

「よくやった!」

「やめて下さいよぉ!」

「…明日の朝、襲撃をかける。行きはオレが送ってやるから、必ず帰ってこい」

いいな、と強く念を押すアーサーにギルベルトは笑顔で頷く。残り2人は神妙に頷いて、3人はゆらりと消えた。
はあ、とアーサーは疲れからか、ぐったりとソファにもたれかかる。
小さくもうやだ、と呟いた。


「…はい、やってみて」

アルフレッドは、銀髪の少年にカードを裏返して渡される。ゆっくりと表面を撫でて、頭に浮かんだマークを口に出す。

「ハート!」

少年はアルフレッドからカードを受け取ると、そっとひっくり返した。

「…残念。円でした」

白いカードに描かれた円。丸い形に、アルフレッドはぶぅと膨れた。

「また外したんだぞ!!」

「アルフレッドは魔術の素質ないね。"アルフレッド以外"は全員素質あるのにね」

「嫌味かい!」

「おごんでね。お前は武術があるべよ」

後ろからノアがアルフレッドの頭を叩く。ううん、とアルフレッドが頭を振ると、僅かに眉根を下げた。

「…アイス、お前のせいでアルフレッドしょげたぞ」

「アレンは悪くないよ!オレが…弱いから」

「そんなことないでしょ?なんでもすぐには強くなれないよ。僕もまだまだ見習いだから、一緒に強くなっていこう」

カード以外も試す?
少年…アレンに誘われ、アルフレッドの瞳が輝く。頷く姿に子供のようだ、とアレンは思った。


「いつもすみませんー」

「…保護者のセリフだべ、それ」

「フランシス!オレを子供扱いしないでくれよ!」

「いや、十分子供だって。アレンの方が年下なのにクールで落ち着いてて、大人に見えるよ」

「ぐぬぬ…」

年下と比べられ、アルフレッドは黙る。褒められたアレンは満更でもなさそうだ。

(そごは子供っぽいべ)

だが思った言葉は飲み込んでおく。
ノアはアルフレッドに魔術の素質はほぼなし、とフランシスに伝えた。あらら、とフランシスは困った顔をする。
それにアルフレッドが1番反応した。

「…やっぱり、困る?」

「いや、使えるならオレが全部育てられるけど、使えないなら他を探さないと…」

「フランシスと別れるのは嫌だぞ!!」

青い瞳を潤ませたアルフレッドに、泣かないで、とフランシスは頭を撫でる。

「武術の先生が必要だねって、言いたかっただけ。とりあえずアントーニョに剣の扱いを習って…」

「あ、アルフレッド銃器使えるよ」

2人の世界に入る前に、とアレンの発言に、今度はフランシスが反応した。
ぐいんっとものすごい勢いでアレンへ振り向くと、今度は確認のためノアへと視線を移す。頷いた同僚に深い溜め息で答え、フランシスはアルフレッドへ振り返った。

「…教えてないよね?」

「あ、えーと、これは」

「危ないから1人でやるなって言ったよね?」

「…うん、だけど」

「誰に教わった?」

「…」

黙ったアルフレッドに、ヤバイ、とアレンとノアの視線が交差する。銃器を扱えることを自慢気に語ったアルフレッドが1番不味いが、それを知らなかったフランシスにバラしたのは自分達だ。過保護なフランシスに、独学で、なんて言ったら盛大に怒るだろうし、万一誰かから習っていても報告がない!と相手に乗り込むだろう。
巻き込まれた、とどちらとも付かない呟きが静かな部屋に消えた。

「…ノア」

「なんだ」

「今日はありがとう、アレンよく褒めといて。じゃあ帰るから」

「おう、気をづげでな」

黙りこくったアルフレッドを引きずるようにしてフランシスは歩いていく。パタンと扉が閉まってから、ああ、とアレンの口から言葉が溢れた。

「アルフレッド大丈夫かなぁ」

「大丈夫な訳ねぇべ、帰ったら親子げんか決定だ」

「ひぃ怖い」

アレンの悲鳴にノアは無言で頷いた。


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