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小説
天使と悪魔 神様の存在

「…本当にどうしましょう」

白い部屋の中で男は呟く。ぐったりとベッドに転がり、ぼんやりとしている。
真っ白いシーツにくるまり、ベッドの周りに何十にも布を垂れ下がらせ、できる限り光を遮断している。

「…私では解決できません。どうにかなりませんかね…」

引きこもりたいです。
男は小さく呟き、ゴロゴロと転がる。

「あぁぁ…無理です、私にはできません、なんであの子達は互いを憎み合うのでしょう。私達は殺し合うためにあの子達を産み出した訳ではありませんのに」

理不尽です、引きこもりたいです、遺憾の意。
男は思い付くだけの不満の言葉を並べ、突然むくりと起き上がる。

「…時間ですね。やりたくはないですが、仕事はやらなくては」

ごそごそと布を掻き分け、男は床に立つ。
さらさらとした柔らかい黒髪、それをやや直線気味に切り揃え、黒い瞳で前を見つめる。体は細身だが、彼の雰囲気からは軟弱さを感じさせない。
男は少々作り物めいた顔を僅かに歪め、服を解きながら毒づく。

「…また我が子が…。生まれたばかりの子に無理をさせるから…」

カチッ

男は最後のボタンをはめ、自分を映す鏡を見つめる。

「…これで良いでしょう。私は我が子達が望むような"神"には成れませんから」

完璧など、世界には存在しないのですから。
男はそう言って鏡に触れる。

「…我が子達、聞こえていますか…?」


「みんなおはよー」

「おはようだぞー!」

フランシスとアルフレッドの挨拶にすれ違う人全員が柔らかに挨拶をする。嬉しそうに笑うアルフレッドを愛しそうに見やり、フランシスは微笑む。

「…アル、今日はトーニョの家でご飯ね」

「オッケイ!」

くるんと振り返ったアルフレッドに笑いかけると彼はあ、と小さく声を上げた。
フランシスはアルフレッドの視線を追いかける。

「…おやおや、セーラちゃんだね」

「うん、今日も笑ってる」

こくりと頷いたアルフレッドを連れ、フランシスは人々に囲まれ笑っている一人の少女の前へと進み出た。
優雅に頭を下げる。

「おはようございます、聖職者様」

「フランシスさんまでやめて下さいよぉ、私なんにもしてないんですからぁ!」

「セーラおはようなんだぞ」

「アルフレッドさんおはようございます。今日もお元気ですね!」

ふわり、とアルフレッドに笑いかけた少女はフランシスへと視線を移し、少しばかり膨れる。

「いじわるするとモテませんよ」

「お兄さんは既にモテモテだから問題なし」

「もう!」

「…今日のお言葉は?」

フランシスの突然の問いに少女は目を丸くするが、すぐに困った顔をして答える。

「…我が主は今日も優しいお言葉をかけて下さいました。ただ…」

「また怒られたかな?」

「…はい。なぜ互いに傷付け合うのかと…」

「…こっちからはどうして違う姿に作ったか聞きたいねぇ」

「…分かりません。主は互いを愛し合うように、慈しむようにしなさいと」

セーラと呼ばれた少女は微笑む。

「私は何もできない、力を持たないただの娘に過ぎませんが、主が私を選んだ以上、お小言を聞くのは私の役目ですから」

彼女はそう言うと、珍しい黒髪を揺らして頭を下げた。

「私、部屋に戻りますね」

「うん、お勤め頑張ってね」

「はい」

セーラは笑って歩いていく。笑顔で手を振るフランシスの隣で、アルフレッドは渋い顔をしていた。
フランシスは隣を見上げる。

「なぁに、不機嫌さん」

「…なんで彼女だけ怒られなきゃならないんだい?」

「神様が伝令係にセーラちゃんを選んだからでしょ。人には適材適所があってね」

「オレは何をしたらいいんだい」

フランシスは隣の青年を見やる。

「…自分で見つけなさい。それは自分で見つけるものだからね」

「…フランシスは何を選んだの」

「アルを育てることかな?オレはアーサーから奪ってでも、お前をオレの手元に置きたかったんだよ」

「…」

「あいつは頭が固い割りに頭は良い。お前が連れてかれるのは我慢ならなかった」

怒る?
フランシスは笑って言う。アルフレッドはしばらく黙っていたが、困ったように眉を下げる。

「…フランシスを怒れないよ」

「あらなんで」

「オレに優しくしてくれたアーサーや大切な兄弟のマシューと別れるのは辛かったけど、オレはフランシスとたくさん一緒にいたんだ、怒れないよ」

「…そう?」

「うん。育ててくれてありがとう、フランシス。大好き」

「!」

えへへと照れくさそうに笑ったアルフレッドはばたばた駆け出して行く。

「先に行ってるんだぞー!」

少しばかり頬を赤く染めて、アルフレッドは走って行った。ぽつんと残されたフランシスは呆気に取られていたが、彼も頬を赤く染めて嬉しそうに笑った。

「…やぁだアルったら、お兄さんも大好きだよ」

うふふと笑う。

「…坊っちゃんには返してやーらない。アルはお兄さんのだからねー」

今はいないかつての友人にフランシスはもう一度うふふと笑った。


「イヴァンイヴァン聞いてくれー!」

医療室に駆け込んだアルフレッドはそこにいたイヴァンに抱き付く。突然のハグにイヴァンは驚いた。

「わあ何アルフレッドくん」

「オレフランシスに大好きって言っちゃったー!」

「いいなー、ボクも言いたーい」

「フランシスはオレのだからだーめ!」

にこにこと笑うイヴァンにアルフレッドは即座にガードに入る。離れていった温かい体温を少し残念に思いながらイヴァンは口を尖らせた。

「アルフレッドくんのけちー」

「けちじゃないんだぞ、すぐきみはそのかわいいオーラで周りをノックアウトしちゃうじゃないか!」

「あーれ、フランシスくんの浮気疑ってるの?」

「ううう疑ってなんかないんだぞ!そ、そもそもきみがゆーわくするからっ」

「…なんの話ですの?」

突然少女の声が聞こえた。アルフレッドが振り返ると、医療室の扉を開けてリリーがこちらを覗いていた。
彼女は大声を出していたアルフレッドに静かにするよう促す。

「ここは病室ですので、静かにして下さいませ」

「あうう…ごめん」

ぺこりと頭を下げるアルフレッドに分かって下されば良いのですと返したリリーは、ゆっくりとベッドに歩み寄った。

「…でも、まだ起きないでしょうけれど」

彼女はベッドの主の髪を梳く。そこにはフェリクスが眠っていた。

「フェリクスくん、今日はまだ起きてないよ」

「ええ…心に負ったダメージは、簡単には癒せませんから…」

リリーは悲しそうな瞳で彼を見降ろし、口の中で呪文を呟く。

ポポポポン

気の抜けた音がして彼女の周りに白い光の玉が現れる。
それはフェリクスの周りを漂い始める。

「…彼は身も心も傷付き疲れていましたから。"眠り"は彼を辛い現実から救ってくれます」

「…現実から目を背けても、何も解決しないんだぞ」

「…」

リリーはアルフレッドを振り返る。

「…貴方はお強いですから。大切な人を失うのは」

「オレだって兄弟と別れっムグッ」

「はいはいアルフレッドくん、きみはまだ"家族"がいるでしょ。フェリクスくんはいないの」

「だってそれは」

「…無い物ねだりだって分かってるよ。でも、彼にとっては"彼"は存在が大きすぎた。だからショックが大きいの」

分かるでしょ。
イヴァンが少しきつめに言えば、アルフレッドは小さく頷いた。ただし、少し不満そうだが。

「…大切な人は、自分で守るものだってフランシスが言ってたんだぞ」

「彼も強いね。彼だって友達が離れていってるのに」

「フランシスはオレの自慢!とっても優しくてとっても強いんだぞ!」

ニカッと笑ったアルフレッドに、諦めたようにリリーは笑った。
優しくフェリクスの髪を梳きながら少しばかり暗い瞳で呟く。

「神はなぜ私達の争いを止めて下さらないのでしょう。無益な争いは互いを憎しみに染まらすだけですのに」

「神が変な性癖を持っていないことを願うよ。ボクだって、フェリクスくんの友達なんか傷付けたくない。ボクも彼も、お互いを知らないけどね」

イヴァンは寂しそうに笑ってアルフレッドの手を引く。

「アルフレッドくん、ボクとデートしようか」

「?いいんだぞ」

「あらあら、フランシスさんにヤキモチ焼かれちゃいますよ?」

「フランシスが焼く餅ならとっても美味しそうなんだぞ!」

「あらあら…」

「リリー、あとよろしくね。フェリクスくんにあとで来るねって言っといて」

「はい、かしこまりました」

リリーは頭を下げ、笑顔で二人を送り出す。イヴァンは笑顔で、アルフレッドは上機嫌に手を繋いで部屋を出ていった。




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あきゅろす。
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