小説
天使と悪魔 嵐の前
コンコン
小さなノック音が暗闇に響く。その暗い中で何かがのそりと起き上がった。衣擦れの音を響かせて、ドアへと向かう。
カチャリ
「…」
「あっ、悪ィ、寝てたか?」
「…別に。…入れよ」
「ああ…」
アーサーは暗い中からこちらを睨み付ける青年を見返し、青年がどいて出来た隙間から中へと入る。
よく見れば、青年は体にシーツを巻き、その間から素肌が見えていた。多分、寝ていたのだろう。茶色い髪がところどころ跳ねている。
アーサーは再度青年に深夜の訪問を詫びた。
「…やっぱり寝てたか。夜中にごめんな」
「別に構わねーぞちくしょー。夜中に来なきゃならないぐらい、危ねぇ話を持ってきた訳だろ、さっさと話せ」
先程の自分と似たようなことを言いながら、青年はベッドへと潜り込む。アーサーはその動きを目で追って、ベッドに1番近い椅子へと座った。
青年がこちらをジトリと睨み付け、早くしろと訴える。アーサーはやや前のめりになり、先程のギルベルトの話を青年に話した。
「…って感じでこんな夜中にやって来て言うわけだ、人の睡眠減らしやがってあいつは…」
「…。確かにしばらく行かせてなかったな…」
「お前の中で特に予定がなければ、あいつを行かせてやってくれ。このままだと毎晩来そうだ」
「…」
「おいロヴィーノ、聞いてんのか?」
アーサーは僅かに眉間にしわを寄せる。そんなアーサーの様子を気にすることなく、ロヴィーノと呼ばれた青年はくわりと1つ、欠伸をした。そのまま涙で濡れた妙に輝く緑の瞳でアーサーを見やった。
眠そうな声で口を開く。
「あれの好きにさせていいぞ。どうせ止めても止まらねーし」
「好きにさせていいのか?誰か監視でも付けた方が…」
「あいつといつも一緒にいるベッラ(イタリア語。美人)がいるだろ。確か、エ…エリ…」
「エリザベータ?」
「そう!彼女で十分だ、2人で行かせればいい。
…そういえば、お前はどうするんだ?」
「オレ?」
突然自分に振られ、アーサーは怪訝そうに首を傾げる。そうお前だとロヴィーノは頷いた。
「"弟"に会いたくはないのか?」
「…っ」
「オレとあいつはお互いに"分かってる"。だから会わなくても何も心配ない。でもお前は…」
「黙れ」
アーサーの声にロヴィーノは口を閉ざす。
暗い部屋で輝くアーサーの緑の瞳がゆっくりと細められた。そのまま低い声でゆっくりと話す。
「お前に心配されることじゃない。まだオレはアルを連れ戻せる準備が出来ていない、ただそれだけだ」
アーサーはじっとりとロヴィーノを見つめる。ロヴィーノもアーサーを見返した。
「…ギルベルトを行かせていいんだな?」
「…ああ」
「それが聞ければ問題ない、オレは帰る」
ロヴィーノのダルそうな頷きにアーサーは立ち上がった。シーツに転がったままアーサーの影を目で追い、ロヴィーノは感情の籠らない声でボソリと言葉を溢した。
「なんで離れなきゃならなかったんだろうな…」
「…」
「バカ弟やアントーニョや…なんで…オレ達は…」
言葉の最後は聞き取れない。
アーサーはロヴィーノの呟きに聞こえないフリをして部屋を出ていった。
一方、悪魔勢が天使勢への奇襲作戦を練っている間の天使達はと言うと。
「んー、やっぱ好きとか嫌いとかより大切かどうかって感じじゃね?」
「一緒にいるとドキドキするかって言うのも必要じゃない?」
「傍にいたい、触れ合いたいと言うのもあると思いますの」
「やっぱり、キスしたりとか!?キャーッ!」
女子会(男子二名含む)をしていた。
キス、の件で側で見ていたアルフレッドが半眼で隣を見やる。
「そーゆーのは、もっと親密になってからやるものだと思うんだぞ」
「だから親密になったからするんでしょ?」
「もーっ!ただ仲良くなるんじゃなくて、もっとこう…なんて言うか…」
「ベッドでイチャイチャ?」
「ばっ…!」
「はぁ?むしろそれする前の段階じゃねぇの?」
「やっぱりフェリクスさんもそう思いますよね!手を繋いで、抱き締めて…からの展開が1番かなって!」
「あ…頭を撫でてもらうのも途中にお入れ下さいませ!」
「頭ナデナデは必須だとボクは思うけどなぁ」
「あ…あのねぇ君達!」
アルフレッドの大声に全員黙りそちらを見る。顔を真っ赤にしたアルフレッドがプルプルと震えていた。
「どうしたの、アルフレッドくん」
「どっどうしたのじゃないんだぞ!おっ女の子の前でえっちな話はあんまりっ」
「あっ、大丈夫っす、そのために来てるんで」
「えっ」
「情報を仕入れに来たのですわ」
「ええっ」
「むしろアルフレッドくん以外はそのつもりでここいるつもりなんだけど」
「…えっ、待って」
「てかフランに好きとも言えないヘタレは感謝すべきだと思うんやけど」
「ちょっまっ声大きい…!」
アルフレッドは周りをキョロキョロと見回しながら、口元に指を当てる。それを全員でニヤニヤと見上げた。
「でも私もお兄様に好き、と言えませんわ」
はぁ、と嘆息したリリーに、セーラは顔の前で手を振る。
「私は恋すらしてないっす」
「これからでしょ、初恋はいいよぉ」
うふふ、とイヴァンが笑えば、誰に、とフェリクスが食い付く。
「トーだったら許さんけど、イヴァン誰に恋したん?」
「内緒ー」
「お前の趣味からして…ううむ」
腕を組み悩むフェリクスに、アルフレッドは首を傾げる。はて、トー、と愛称の付いた人は誰だったか…。
アルフレッドが熟考に入る前に、昼を告げる鐘が鳴る。常に明るい外の時間を知る唯一の鐘だ。
「あー!お祈りしないと!!
皆さん、また今度お話しましょう!」
それでは!と立ち上がったセーラに全員が手を振る。
私も、とリリーが立ち上がった。
「フェリクスさんのお昼持って来ますね。今日はアントーニョさんのお料理ですよ」
「やった!」
「オレもフランシス待ってるんだった。また今度来るぞー」
「ボクはエドァルドと食べようかな」
皆がそれぞれ食事のために部屋を出ていく。また、と繰り返して出ていった。
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