小説
ごちそうさまいただきます(日英)
「イギリスさん、遅くなりました。お茶を…」
そう紡いだ私の言葉は途切れる。
少しずつ暑くなってきた私の家は、襖を開け放して風通しを良くすると、過ごしやすい。だからか、目の前のイギリスさんは、すやすやと眠ってしまっていた。
「あらあら…お疲れですね」
手に持つお盆を机に置いて、何か掛ける物を探す。厚手のタオルケットを掛けてお茶を置き、向かいに座ってイギリスさんを観察する。
くすんだ金髪は風に揺れていて、長い睫毛も一緒に揺れる。時たまぴくりと瞼が動くのは、夢を見ているからか。彼は何の夢を見ているのだろう?
「イギリスさん」
小さな声で呼び掛けてみる。ん、と小さく返された。
「…う」
「う?」
「…う…さぎ…うさぎさん…」
うさぎさんですか。またファンタジックな夢を…。
少し微笑ましくて笑ってしまう。
「うさぎさん…かわいい…」
「…貴方の方が可愛らしいですよ」
「うぅん…」
多分うさぎと戯れる夢でも見ているのだろう。彼の趣味的にそれが1番有り得る。
「ふふふ…ふふ…」
「笑いながら寝ている人を見ていると、少々面白いですね…」
「アメリカぁ…それ、すこーんじゃなくてタイヤだぞぅ」
「なにそれ怖い」
アメリカさんとうとうタイヤまで…!いや、イギリスさんの夢ですよね、でも夢は記憶から精製されるものですし…!
寝ているイギリスさんの言葉に混乱する。確かに彼の作るスコーンは黒いが、さすがに間違えてタイヤは食べないだろう。
多分。
「…うん。うんうん」
「何を頷いて…」
「そうかぁ、妖精さんありがとなー」
「…寝ながら聞いてるのでしょうか。それとも夢?」
何度も頷く彼はにこにこと笑っている。彼にしか見えない"友人"はとても優しく、可愛らしい存在らしい。なら、自分も会ってみたい。
自分も彼の特別だと思いたいから。
(私達恋人ですよね?まだ貴方の友人を紹介されていませんよ)
それが少し悔しい。腐れ縁のフランスさんも、彼のかつての弟であるアメリカさんも、何かしらによって会っているのだ。
(私はまだなのですか。…少し、寂しいです)
暗い感情が浮かんできてどうしようもない。仕方がないので、イギリスさんに近寄る。
まず頭を撫でて優越感に浸る。次に笑顔の彼の頬をつつく。ふに、と柔らかい感触がした。
「うふふ…やめろよ〜」
「善処します」
僅かに顔が動いて指が離れる。それが不満で、次は柔らかそうな唇をつついた。
ふに、と指を押し返す弾力に惹かれる。空いている片手で彼の顔を起こして支え、顔を近付ける。
…えーと、こう言う時は。
「…いただきます?でしょうか?」
小さく呟いてイギリスさんの唇を食む。ちゅ、ちゅ、と小さなリップ音を響かせ、心行くまで味わう。
「う、ん、ふっ」
バードキスでは足りなくて、少しだけ開いている唇の間に舌を差し込む。無防備な舌を吸えば、ぴくりと瞼が動いた。
「あっ、んっ、ん」
びくりと肩を震わせたイギリスさんの瞼がゆっくりと開く。まだ寝惚け眼のエメラルドに笑いかけ、無意識に逃げた舌を絡めた。
「あっ?にっ…んっ」
ぱっちりと驚いて開いた瞳は、すぐに細められる。ちゅう、と強く吸えば顔を支える手を掴まれた。
「んっんっ」
最初はどうにか離そうとしていた手も、最終的には私の首に絡められた。諦めて身を委ねるイギリスさんに小さく笑う。
「んっ…ふ、はぁっ」
存分に味わって解放すれば、ギロリ、と睨まれた。口元を拭う彼ににっこり微笑む。
「日本、なにし」
「ごちそうさまでした」
「はっ?」
言葉の意味を捉えかねた顔をしたイギリスさんは、すぐに頬を赤く染める。理解が早いとこう言う時困りますね。
「あっ、なっ、おい、なん、…ばかぁ!!」
ふむ、良いものが見れました。またやりましょう。
変態に常識は通用しません
「stardust」様より
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