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小説
天使と悪魔 天使だけになった

「あー!!またフランシス、オレのケーキ食べてるんだぞ!」

元気な声にフランシスは振り返る。バタバタと駆けてくる青年を見付けると、にへらと笑う。

「アル元気だねぇ」

「元気だねぇ、じゃないんだぞ!オレのケーキ!!」

「子供じゃないんだから。ほら、あーん」

「あーん」

フランシスはフォークの先に真っ白なクリームがたっぷりと乗ったケーキを刺し、頬の膨れた青年に差し出す。青年はそれを躊躇せず口へと運んだ。

「美味しい?」

「美味しいんだぞ」

「なら良かった。また作ってあげるからそれで許して」

「Booo…分かったんだぞ」

青年は未だ頬を膨らませ少し半眼だったが、頷いた。
フランシスはふふふ、と笑う。

「ありがと。
それで…アルは何してたの?」

「ダニエルに斧の使い方を教えてもらってたんだぞ」

「あらあら…ちゃんとお礼言った?」

「当たり前だぞ!オレを育てたのは君じゃないか!」

"ホントに君は厳しかったんだから!"と青年は文句を言う。そうだねぇ、とフランシスは返して
ふ、と青年を見上げる。

「そう言えば、エドとイヴァンが帰って来たよ?」

「ちょっ、な、ばっ」

「チョコバナナ?食べたいの?」

「なんでもっと早く言わないんだい!?オレ会って来るんだぞ!!」

フランシスの報告に青年は来た時と同じようにバタバタと駆けていく。それを後ろから眺めながらフランシスは指を鳴らす。

「"加速"」

「うわっ、なんか速くなったんだぞ!?」

フランシスが指を差せば青年の驚く声が響いた。フランシスはくすくすと肩を揺らす。

「お兄さんたらやーさしい♪」


「エドァルド!イヴァン!」

廊下に響く足音。それに混じって発せられた名前に、二人は振り向いた。走ってくる青年に目を留めると、あっ、とイヴァンの目が見開かれる。

「アルフレッドくん、どうしたの?」

「二人が帰ってるって聞いたから走ってきたんだぞ!」

「? そうなんですか?」

「そうなんだぞ!」

きょとんと二人はアルフレッドを見る。はて、自分達は何かしただろうか…。
呆けた顔で自分を見る二人にアルフレッドはにっこりと笑いかける。

「お帰りなさい!」

「「…ただいま」」

二人も笑った。


「ノア?そっちどうなっとる?」

「どうもこうもねぇべな…」

「だめ、こっちも繋がらない!」

「こっちも繋がんねぇっぺよ!」

「一体何が起こっているのだ!」

ここは会議室。なんの規則性もなく並ぶたくさんの机、その上にぶちまけられた資料、疲れきった面々。その中でも自身の周りに大量の魔方陣を浮かばせる一人の青年は、半眼で魔方陣を操作する。
やがて、ピタリと動かす手を止めた。

「…反応は、ねぇべ」

「っ、くそ!!」

ガンッ

長身の青年が拳を机に叩き付ける。それを目で追いながら、ノアと呼ばれた青年は口を開く。

「あんこうるさい」

「でもノル!」

「オレ達は最善を尽くした。…今は、それでいいべ?」

「っ」

ノアの確認に青年は悔しそうにしながらも頷く。立つ気力もないまま、ノアは片手を振った。ずらりと名前が宙に浮かぶ。

「総勢8名は…悪魔によって返り討ちに合い…全員、"氷漬け"になった…以上」

「…全員、黙して敬礼!」

その場にいた全員が右手をこめかみに当て、敬礼する。
だがそれも数秒、へたり、とその場に座り込んだ少年は自分の肩を抱いて震え出す。

「み…みんないなくなっちゃった…」

「アイス?アイスしっかりするべ!…うわっ」

少年の元に行こうとしたノアは立とうとして椅子から転げ落ちる。

「ノル!」

青年はノアに駆け寄る。それを押し退け、ノアは少年の元に行こうとする。が、それよりも先に男が少年の頭を撫でた。

「ほれ、息ぃ吸って、吐いてー」

「あ、僕…」

「かめへんから、ゆっくりしぃや、な?」

にこにこと笑う男を見上げ、少年はこくこくと頷く。目を閉じてゆっくりと深呼吸を始めた。
落ち着いた少年を見てノアは自分を抱える青年を見遣る。

「降ろせ」

「でもノル」

「椅子に座らせてくれればいいべ。ベタベタ触んな」

「…そーけ」

青年は若干不服そうだが、言われた通りに椅子へと降ろした。
椅子に腰を降ろしたノアはえい、と青年の腹を指でつついた。

「なにするっぺ!」

「拗ねるあんこうざい」

「っそーけ!」

キャインキャインとノアに噛み付く青年をうるさげにあしらい、ノアは少年に声をかける。

「アイス、大丈夫け?」

「ん…大丈夫…」

ゆっくりと頷いた少年にノアは息を吐き出す。
そこへするりとフランシスが入ってきた。

「みんなお疲れー」
「フランシス!来るの遅いで!」

「はいはい、お兄さんは怪我人がいるって聞いてここに来たんだけど」

ぐるりと部屋を見回したフランシスは、顔色の悪いノアに目を止め、お前か、とノアに近付く。

「どうした?」

「別になんもねぇべ」

「…この惨状を見る限り、作戦は失敗したのかな?」

「…したべ」

「…そう」

フランシスはノアの頬に触れながら、そう、ともう一度言う。それからポンポンと頭を撫でた。

「…彼等に、我等が愛しき神より愛が届きますように」

「…大丈夫です、神は私達を等しく愛して下さいます」

ポッ、ポウ、とノアの周りに柔らかい光がいくつも浮かぶ。
ふわふわと浮かび、時たまノアの頬に触れ、また離れる。その光の発生源へ視線を滑らし、フランシスは微笑む。

「リリアちゃん」

「お手数おかけして申し訳ありません。私の力だけでは足りず…」

「ノア、少しは楽?」

「…少しな」

ぐったりとしていたノアは少女にぎこちない笑みを見せた。
その笑みに少女は安心したように息を吐き出す。

「良かった…」

「バッシュ、お前はいい妹を持ったな」

「当たり前だ、我輩の自慢の妹だからな」

フランシスの笑みに得意気に妹を見つめる青年。彼はリリアの頭を撫でる。

「リリア、ノアの治療を頼む。フランシスもな」

「オッケイ。ダン、ノアを治療室まで運んで」

「了解したっぺ!」

「ちょっと待て、運ぶってどういうことだべ…っあんこ!」

ノアが文句を言う前に青年はノアを俵抱えにする。暴れるノアを無視して青年は部屋を出ていった。続いてリリアも頭を下げ部屋を出ていく。
フランシスは未だ不安そうな少年にウィンクした。

「大丈夫だよ、アレン。お兄さんが絶対治すから」

「…うん」

こくりと頷いたアレンはありがとう、と小さく言った。
うん、とフランシスは頷く。

「バッシュ、トーニョ、あとは頼んだ」

「おう、頼まれたで!」

「我輩はルート達にも知らせに行こう」

ガタガタと騒がしくなった会議室に笑みを向けると、フランシスは部屋を出ていった。
だが廊下に出たフランシスは表情を変え、小さく舌打ちをする。

「まだみんな若い子だったのに…。くそっ、オレが戦えればあの子達を戦場に送らなくて済んだのに…っ」

浮かぶのは後悔の念。それから自分への苛立ち。敵への悪意。
それから…。
(何があってもアルだけは守って見せる。大切な弟分でオレの家族だから!)

それから、家族への愛。

「…神よ、無力な私に慈悲をお与え下さい。私はどうなってもいいのです、ですから、どうかアルフレッドだけはお護り下さい」

フランシスは前を見つめ、ただひたすらに"神"に救いを求める。
最後にアーメン、と呟いた。





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あきゅろす。
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