小説
天使と悪魔 かなり人数増えた
「お帰りなさ…だっ大丈夫ですか!?」
帰った二人を迎えた少女は傷だらけのエドァルドの姿に仰天し、"エドァルドさんが、エドァルドさんが!"と館の中を走っていった。
少女の慌てようにイヴァンに支えられたエドァルドは苦笑する。
「そんなに大怪我じゃないのに…」
「彼女はやさしいから。さて、フェリクスくんのところに行こうか」
「はい」
イヴァンに体重をかけるようにエドァルドは歩き出す。
「…はい、包帯巻き終わったよー」
「ありがとうございます、フランシスさん」
「そんなに恐縮しないの。お兄さんこれくらいしか出来ないしね」
「そんなことないでしょ。フランシスくんは超ベテランさんなんだから」
「包帯巻きの?」
「…フランシスくん嫌い」
「怒んないの、イヴァン。冗談だよ」
へらっと笑うのはフランシスと言う男。長めの髪を1つに束ね、カチャカチャと救急箱を片していく。ベッドの上に座るエドァルドは隣に眠る友人に目を向けた。
「…起きませんね」
「ああ、一度目を覚ましたんだ。だけどしゃべり散らしたらまた寝ちゃったよ」
「フェリクスくんは元気そうで良かったよ」
「元気元気!"オレ寝てるだけじゃつまらんから相手しろしー(意訳)"みたいな感じでうるさいのなんの」
「あははは…フェリクスさんいつもどうりですね」
エドァルドがベッドから降りようとするとフランシスは押し戻し、指を鳴らしてハープを召喚する。ポロンと鳴らし、エドァルド達に笑いかけて歌いだした。
エドァルドにイヴァンが近付き、こそりと耳打ちする。
「…フランシスくん、上手だね」
「うちにいる治療師(ヒーラー)の中でもトップクラスの人ですからね。ほら」
エドァルドはイヴァンに自分の腕を見せる。小さな傷がゆっくりと塞がっていく。イヴァンは目を瞬き(しばたたき)、にこりと笑う。
「早く治るといいね」
「…フェリクスさんもね」
エドァルドは困ったように笑う。
「おいトーリス、獲物逃がしたんだって?」
トーリス達が戻って少しした時、フードを被った青年がニヤニヤと笑いながらやって来た。トーリスはあからさまに嫌そうな顔になり、眉をしかめて舌打ちをする。
「うるさい、相手の人数が多かったんだ、退いて当たり前だろ」
「人数ったってたかが召喚術師(サモナー)の人形だろうが。お前ならどうにかできたはずだが?」
「ぼっ僕が一緒だったからトーリスさんは退いたんです!僕が自分の身も護れないから…」
「お前を責めてねーよ、付与術師(エンチェンター)は攻撃に秀でてないのはオレ様だって知ってるぜ?オレが言いたいのは、それを差し引いてもこいつは手負いの天使ぐらい片付けられたはずだって言いたいんだ」
ライヴィスが怯えたのを見て、青年はフードを取る。銀の短い髪をかきむしり、ぽんとライヴィスの頭を撫でる。
「ごめんな、恐い思いさせて」
「いえ、あの」
「ライヴィス、謝ることないよ。そいつが悪いんだから」
「うるせ。お前に言われたきゃないんだよ!」
バババッと二人の間に火花が散る。あわわと二人を見比べたライヴィスは、えいやっと自分の手に持つロッドを二人の間に降り下ろした。
「けっ、けんかはやめて下さい!またエリザベータさんに怒られますよっ!」
「呼んだー?」
「わっ!!」
びくびくっとライヴィスの肩が跳ねる。うふふと女性の笑い声に半泣きになった。
「びっ、びっ、びっくりっ、したっ…」
「ごめんねライヴィスくん、驚かすつもりはなかったの。それで…」
女性は青年の方に顔を向ける。
「ギルベルト、またトーリスくんいじめてたの?」
「いじめる?なんでオレ様がこいつをいじめなきゃなんねーんだ」
「してないならいいけど。
トーリスくん、ライヴィスくん、お帰りなさい。怪我がなくて良かったわ」
「ただいま帰りました、エリザベータさん。本部はどうですか」
「…あんまり……」
「おい、こっち来いよ。まだ会議やってんだろ」
ギルベルトの促しに全員頷く。
ギルベルト達が中に入ると、全員の視線が集まる。トーリスとライヴィスは一歩前に出て頭を下げた。
「ただいま帰りました、第4部隊です。あの、状況は…」
トーリスが視線を上げると、巨大な斧を脇に置いた男が口を開く。
「…ん、おめぇ達がいねぇ間に、何人かぁ犠牲になっちょる」
その言葉を受けて隣の青年が頷いた。
「"氷漬け"です。全員回収はしましたが…再生はやはり不可能です」
「被害があったんですか!?奴等はどうやってこちらに」
「いえ、むしろこちらから攻め込んだら返り討ちに会いまして…。戦い慣れしている奴等に殺られたようで…」
「んだども…殺られたのは若ぇ奴等ばかりだったからなぁ…」
「…ベーさん、僕等も巡回しましょう。もしかしたらこちらに奴等が紛れているかも知れませんから」
「…だない」
カチャリと銃器を構える青年に男も斧を手に取る。それにトーリスは叫んだ。
「オレ達もっ」
「お前達はだめだ」
「アーサーさん」
突如闇から聞こえた声に青年は何もない空間に目を向ける。呆れたような声で名を呼べば、クククッと笑い声がした。
「引きこもりが何しに来たんだって顔に書いてあるぞ」
「もう、体は大丈夫なんですか?」
「全然平気。
…なあトーリス、お前はさっき戦闘から帰ったばっかりだ。少しは休め」
アーサーの言葉にトーリスは首を振る。
「オレは平気」
「お前は平気でも、隣にいるライヴィスはどうだ?」
「っ」
「僕はだっ大丈夫です!だからトーリスさん!」
隣で控えていたライヴィスは慌て首を振る。その姿に、アーサーは首を振る。
「…無理させんな。お前等は二人で1つだろ?」
「分かり、ました」
頷いたトーリスにアーサーは頷く。
「よし。
ベールヴァルト達は西側見てくれ。ギルベルト達は正面だ。オレもマシューと東を見る」
「動けますか?」
「ああ、大丈夫だ」
「貴方ではなく、マシューさんが」
「…問題ない」
「…分かった、行くぞエリザ」
「ええ」
ギルベルトとエリザベータが出ていくと、ベールヴァルトは隣の青年を促す。
「ティノ、オレ等も行くべ」
「はい」
ティノはアーサーへ軽く頭を下げ、ベールヴァルトと共に消えた。
アーサーは闇の中に立つ二人の女性に視線をやる。
「ナターリヤ、ラリサ、こいつ等見張っとけ」
「お前に命令されるような低い立場じゃないんだがな」
「ナタちゃん、けんかしないの。
アーサーくん、分かったわ、私達が見てる」
「…よろしく頼む」
「ふん」
「ナタちゃん!…もう…。
トーリスくん、ライヴィスくん、部屋に行きましょう」
「「はい」」
二人の返事を最後に部屋にいた者全員がいなくなる。残ったのは小さく揺れる蝋燭の炎だけだった。
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