小説
チョコより甘いキスをして(仏米)
パリッ
…さっきからオレの横でずっとアメリカが板チョコを食べている。それは日本のところのチョコレートで、アメリカは気に入って定期的にまとめて購入しているらしい。
パリッ
甘いミルクチョコレート。本人曰く、コーヒーの苦さを緩和させるミルクチョコレートが最高、なんだと。なんでも甘ければ良い訳じゃないのにねぇ。
「…?フランスもチョコレート、食べたいのかい?」
じっと見つめるオレの視線に気が付いたアメリカが、オレがチョコレート欲しさに見ていると思ったらしい。食べかけのチョコレートをこちらに向けた。
…間接キス。
「んー、いいよ、全部お前が食べな」
「食べたいんじゃないのかい?」
「食べるならアメリカがいいなー」
「あんまりアホなこと言うとぶん殴るんだぞ」
物騒なことを言うほんの少し不機嫌になったアメリカは、人の親切を、なんて溢して再びチョコレートを口に運ぶ。
パリッ
唇に付いたチョコの欠片。アメリカの舌がそれを舐め取って口の中に消える。
オレはそれをぼーっと見て、アメリカに声をかける。
「…やっぱり欲しいかな」
「…もう!最初に向けた時に食べれば良かったじゃないか!」
「ごめん」
「…はい、仕方ないからあげるんだぞ。
ほんとに君は」
やれやれ、なんて仕草でアメリカが再びオレにチョコレートを向けて文句を言おうとこちらを見る前に。
…ちゅ
「…うん、やっぱり甘過ぎるとおもうわ、これ」
「え」
甘いチョコレートが消えていった柔らかい唇を奪った。
案の定間接的とは言え十分甘いから、直接食べたら絶対甘過ぎると思う。
「あんまり食べると舌がバカになっちゃうよ?」
「ふ、フランス!」
「え、なに?」
「今!オレに何したんだい!?」
「キス」
まだ口の中甘いなーなんて思ってたら、隣でもうアメリカが真っ赤になって。スペイン風に言うならトマトみたい。
かわいい。
「なんでキスくらいでそんな赤くなってんの」
「だっ、突然しなくても!」
「突然じゃなければいいの?」
「え、あ、ちょ」
食べかけのチョコを取り上げて、少し押し倒すように体重をかけて。思いっきり顔を近付けてあげた。
狼狽して、でもオレを押し返そうとする手の力は弱い。
「…フランス、待って」
「やだ。チョコをオレと"はんぶんこ"するのとキスするの、どっちがいい?」
「っ」
「選んで、アメリカ」
「…はんぶんこ」
…意外と大胆なんだ?
チョコレートをくわえて折って、アメリカの唇の前へ。少し迷うように視線を泳がせたあと、観念してアメリカは口を開いた。
はい、はんぶんこ。
「…ん、ん…」
アメリカの口の中は熱くて、チョコレートなんてすぐに溶けてしまった。溶けたチョコレートが互いの舌に絡まって、甘い。
でもすぐにアメリカが全部飲み込んでしまった。軽くオレを押し返すアメリカから唇を離すと、口の中どころか吸う空気まで甘く感じられる。
「…甘い」
「…そりゃチョコレートだからじゃないのかい?」
「いや、チョコレートだけじゃなくて、アメリカも」
「えっ」
オレの言葉にまたアメリカが赤くなった。怒ったような、半泣きの顔でこちらを見ている。
いやもうだってすごく甘かったよ?今口の中ヤバイ。
「あーだめ、コーヒー飲む。お前は?」
「…飲む」
「わかった。入れてくるから、もうそれ全部食べちゃいなよ」
「…」
怒っているのかアメリカはぷい、とそっぽを向いて、でも残りのチョコレートは口に入れる。もぐ、と動かした口を止め、目を丸くしてこちらを見た。
「なに?」
「甘くない」
「は」
「…チョコが甘くない」
…えっ、何?味覚壊れた?
やっぱり過剰な強さの味の付いた物は食べちゃだめなんだ、イギリスとかヤバイもんね。でもどうしよう。病院連れてった方がいいかな。
オレの心配を余所にアメリカはじとっとオレを睨み付けてもぐもぐしている。ごくん、と飲み込んでアメリカは唇を尖らした。
「…フランスのせいなんだぞ」
「えっ、なんで」
「…オレにキスなんてするから!チョコレートが甘くなくなっちゃったんだぞ!」
「…え?」
「君とのキスの方が甘いに決まってるじゃないか!フランスのバカ!」
空になった銀紙をオレへと投げ捨ててアメリカはバタバタとリビングを出ていく。耳まで赤くしたアメリカを見送り、オレは捨てられた銀紙を拾った。ぽろぽろとチョコレートの欠片が落ちる。
…なんか、すごく顔が熱い。
「…甘い…」
確かに、アメリカとのキスの方が甘かったわ。
そしてまたキスをする10題(3)
「確かに恋だった」様より
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