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小説
6
国の仕事とは面倒なものだ。その忙しさに子育ても加わればそれは嵐の如く。
最初は嫌がらせかと思った。上司のまた趣向の変わった嫌がらせ。でも、たまに様子を聞かれて、違うのだとわかった。
それに、接しているとその可愛らしさがわかった。
一直線に自分に向かってくる信頼、それから尊敬。自分を大好きだと伝えてくるその小さな体に、素直に愛おしいと思った。
だからこそ、目の前の長く昔から知っている国の化身にさえ、簡単に触れさせたいとは思わなかった。

「…そう警戒すんなよ」

イヴァンの出した紅茶にギルベルトは口を付ける。その隣に座る男の子も同じように紅茶を飲んだ。
仕草がそっくりである。
自分の隣に座らしたシャールフは、珍しそうにパンをかじりながらじろじろと見ている。銀の髪に赤と青の混じった瞳の青年、隣には紺の髪に赤い瞳の少年。シャールフには珍しくて仕方がないらしい。
ちらちらっとこちらを見るシャールフは、話しかけていいか自分に尋ねているらしい。
…本当は嫌なんだけど。
気不味いし。

「ルートヴィッヒくんは?」

「ヴェストは他の仕事でこちらに来れない。だから代わりに俺が来た。
会議の全ての権限を一時的に譲渡してもらってある。気にしなくていい」

カチン、開いたカバンから書類を数枚取り出す。それをテーブルの上に滑らすようにこちらに渡した。
…上司はもう決めたらしい、と聞いた内容だった。自分に判を押せ、そう言うことらしかった。
ううむ、悩むフリをする。弱味は見せてはいけないのだから。

「…ところで」

悩むフリの自分にちら、ギルベルトは視線でシャールフを示す。思わず身を固くしてギルベルトを凝視した。

「お前も上司からもらったのか?それとも自分で?」

「…上司が拾った子をもらったの。最初は育てるようにって命令で」

「…ふぅん」

ギルベルトは自分で聞いておいてすぐに興味をなくしたように視線を逸らす。代わりに少年がそっと爪の長い手でシャールフの頭を撫でた。
こら、ギルベルトの叱責が飛ぶ。

「相手が許可してないのに勝手に触るな。怒られるのは俺だぞ」

「あの…いいよ」

遠慮がちにいいよ、と許可を出せば、嬉しそうにシャールフの隣に座った。

「お前名前は?いくつだ?あと何食ってんだ?」
「ちょっ…、この子喋れるの!?」

ポケモンが人の姿を執るにはかなりの時間とトレーナーとの信頼関係の構築がいる。それから喋るのはまたかなりの時間がかかるのだ。
例えばかなり早く人の姿を執ったフェリシアーノのシルヴィオだって、まだ喋れるまでには至っていない。
この…シャールフだって。この姿になったのは最近なのだ。
だからこそ、目の前の少年はかなり珍しい部類に入ることがわかる。

「んー、あ、名前聞くなら自分から名乗るんだったな!」

もじもじとしているシャールフの態度を否定と取った少年は、寒そうなタンクトップを着た胸を張ってドヤ顔で名乗る。

「俺はアルトってんだ、よろしくな!」

「アルト違う、多分怯えてるか恥ずかしがってるだけだ。下がれ、近い」

シャールフのすぐ目の前で行われたこの名乗りはギルベルトによって少し距離を作られる。アルト、と名乗った少年は、いたずらっ子のような猫目でわくわくと相手が喋ることを待っていた。

「かぶ…」

一言恥ずかしそうに喋ったシャールフに少年は目を丸くする。それから自身の主を振り返った。

「こいつなんだ!?」
「まだ喋れねーんだから許してやれ。おいイヴァン、名前は?」

「シャールフ…」

「マフラーはねーだろ…」

「悪かったねぇ、初めて会った時にマフラー巻いてたの」

自身とお揃いのマフラーをしていたあの日を思い出して、イヴァンは優しくシャールフの頭を撫でる。そう言えばギルベルトは色々あってロシア語できたな、とも思い出す。
しげしげとシャールフを色んな方向から見るアルトを見返すシャールフ。あまり言葉は通じなくてもそれなりに仲良くなれそうだった。

「あ、それで判を押すのか押さないのか。早く決めろ」

「ああ待って、押すから」

ぽん、と軽い音と共に判が押される。はい終了、ギルベルトはさっさと書類をしまった。

「さぁて、チビッコ、遊ぶか!」

「ええー…遊ぶの?」

「なんだよ、嫌なのかよ」

シャールフを高く抱き上げたギルベルトはうりうりと頬をつつく。シャールフは最初こそ緊張していたが今はきゃっきゃっと楽しそうだ。
まあいいか。

「ケガさせないでね」

「させねぇよ。ほらアルト、抱っこしてみろ、優しくだぞ」

「抱っこぐらいできるぞ!」

アルトはシャールフを抱き上げてよしよしと揺する。10歳くらいの少年が5歳児を抱き上げているのだ、少し不安定だが落っことすことはないだろう。
かぶ!ぎゅっと抱き付いてシャールフは笑う。
それに安心してイヴァンは息を吐く。ギルベルトはケセセ、1人楽しそうに笑っていた。


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あきゅろす。
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