[携帯モード] [URL送信]

小説
4
カツカツカツ。
ヒールの音を響かせてフランシスは歩く。傍には学生風のスーツを着たシュエットが寄り添っている。きちんとまとめ上げた髪は緩く巻かれていて、いつもなら顔を隠す長い前髪もピンで留めてあった。
扉の前で一旦止まり、ゆっくりと息を吐く。それからコンコン、ノックをした。

「どうぞ」

少々不機嫌な声が入室の許可を出す。それに小さく笑ってフランシスは扉を開けた。

「ようこそいらっしゃいました、フランシス殿?」

「やめてよアーサー、シュエットもいる」

「…ふん」

鼻を鳴らした部屋の主、アーサーは頬杖を付く。その傍らの小さな椅子には一房だけ白い、あとは薄い藍色の髪をした少年が座っていた。フランシスはにこやかに手を振る。

「クレイ、元気にしてた?」

「もし!」

元気よく片手を上げたクレイにフランシスは頷く。それからアーサーの前の椅子に座った。
カバンから書類を出す。

「じゃあちゃっちゃと仕事終わらせようか」

隣にシュエットが座ったのを確認して、フランシスは書類を捲った。


「おいフランシス」

さて帰るか、と片付けるフランシスにアーサーは不満そうに声を上げる。机に大きく脚を組んで置いて、腕を組んでいる。かなり眉が寄っていた。
それやめなよ。フランシスの言葉を無視して、シュエットへ緑の瞳を向けた。
びくり、シュエットの肩が跳ねる。

「…今日は髪、まとめてるんだな?」

「ん?うん、可愛いでしょ」

「顔を晒すのをシュエットは嫌がっていたはずだが?」

「…ん?…うん」

「…レディに何してんだお前は!」

突然キレた。
フランシスは瞳を丸くし、それからああ、と頷いた。
アーサーはフランシスがシュエットに嫌がらせをしていると思っていた。苛々と舌打つアーサーに眉を下げて、フランシスは説明する。

「今日は仕事だからとシュエットから髪をまとめてって言われたんだ。無理はしなくていいと言ったんだけど」

「む、無理はしていません!」

声を上げたシュエットに一斉に視線が集まる。
ひゅ、怯えたように息を吸うシュエットを宥めるようにフランシスは先を促した。

「…お仕事なのですから、だらしなく髪を垂らす訳にはいきません。…それに、この髪型も可愛い、です」

最後は小さく呟くように言ったシュエットの頭をフランシスは撫でた。
ね?アーサーに視線を送る。

「…いつもの格好で良かったんだがな」

「…まあ、次からはもっとカジュアルな格好にするよ。…それに、クレイだって着飾っているのにこっちだけ緩いのはね」

「?」

名前を呼ばれたクレイは首を傾げる。きゅ、と結ばれた蝶ネクタイに黒っぽい深緑のベスト。短パンから覗く白い脚には長めのソックス、ローファー。
どこから見ても何処かの坊っちゃん風だった。

「可愛いだろ?」

「十分気合い入ってるじゃん。そりゃシュエットだって仕事用の服着るって」

「うぐぐ…ま、まあ、次はちゃんと相応しい格好をさせるから」

よろしく。
フランシスは柔らかく笑って、アーサーの夕食の誘いを断り、渋い顔をする彼から逃げるように部屋を出た。もちろんシュエットの手を引いて。

「なんだよ…せっかく来たんだから夕飯くらい食ってったっていいだろうに…」

なあ、と隣に座るクレイに同意を求める。
クレイはうーんと考えて、わからないと首を振った。


カツカツカツ。行きより早足でフランシスは歩く。しかしシュエットを置いていかないように絶妙な速さで。自分より数歩後ろのシュエットを気にかける。

「アーサーんとこのご飯、食べたら天国見えるよ」

「…でも、いいんですか?会議や仕事の時の夕食は重要だと習いましたが…」

例えば根回しに。例えば念押しに。例えば友好であることの確認に。様々な理由で夕食は重要だ。
シュエットはそうフランシスから習った。だから今日はアーサーと夕食を共にすると思っていたのだ。
そう問いかけるシュエットにフランシスは緩く首を振る。

「今日は国の化身レベルでの簡単な会議だ、さして重要じゃない。アーサーが誘ってきたのだって単にもてなそうとしただけだよ。
でも朝食ならともかく、アーサーんとこの夕食食べたらシュエット死んじゃうよ」

「いえ…味覚が死ぬだけなら大丈夫では…」

「大丈夫じゃない!シュエットをそんな酷い目に合わせる訳にはいかないよ!
だから、今日は…温かいシチューでも作って食べようか」

フランシスの提案にシュエットはぎこちない笑顔で頷く。
フランシスはまだ上手く笑えないパートナーに手を伸ばし捕まえる。優しく手を繋ぎ帰路を急いだ。



[*前へ][次へ#]

7/13ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!